【実施例1】
【0018】
本発明の実施例を、
図1から
図4に沿って説明する。
図1は、本発明の全体斜視図を示す。
図2は同三面図を示す。
図3(a)は、本発明の機能を説明するブロック図である。
図3(b)は、段差の計測を説明する図である。
図4は段差を登る手順を説明する図である。
【0019】
走行装置1は、段差を登る機能に特化した車両で、車両の前面に大きなアームを持つことを特徴としている。走行装置1は、車体100とシャーシ200と回転部300とから構成されている。
【0020】
(車体の構成について)
車体100は、シャーシ200の上部に設置され、外観と内装、電気部品等からなる。人が乗る場合は座席等も設置される。本発明の主要な構成は、制御部110と計測部120と段差検知部130とからなる。
制御部110は、走行装置1の全体の動きを制御する部分である。走行装置1の一般的な走行のために前輪220、後輪230の駆動、停止、駆動量の調整を行う。前輪220、後輪230とも左右とも独立して駆動量を調整出来る。左右で駆動量を変えることで、進行方向を変えることも出来る。段差を登る際は、登る段階に応じて、前輪220、後輪230の駆動量を調整する。段差を認識するために、計測部120から段差との距離、段差の高さの情報を得る。また、回転部300から、アーム310の回転角度の情報を得る。車体100に対する、アーム310の角度を把握するためである。また、計測部120から、車体100の傾き角度の情報を得る。段差を登る過程において、車体100の角度が重要であるからである。
回転部300に対して、アーム310の回転の駆動、停止、駆動量の調整を指示する。補助輪340の駆動、停止、駆動量の調整を指示する。これらを総合的に行うことに段差の乗り越えを行う。
【0021】
計測部120は、段差との距離、段差の高さ、車体の傾き度等を計測する部分である。段差との距離は、段差を乗り越えるタイミングを計るために必要である。段差の高さは、乗り越えるための動作量等を決めるために必要である。車体の傾き度は、乗り越え動作中の車体のバランス等を知るために必要である。計測された各データは、制御部110に送られる。
【0022】
段差検知部130は、計測部120に含まれる部分であり、段差との距離、段差の高さの計測する部分である。段差との距離は、例えば、超音波によるセンサで計測する。他にレーザ光線や複数のカメラによる計測等も可能である。段差の高さの計測は、例えば、複数の超音波センサを用いて行う。複数の超音波センサを所定の角度で配置し、対称物までの距離を計測し、計測値が極端に大きくなった場合は、その方向に障害物がないと判断し、角度から段差の高さを推定する(
図3(b))。他に、レーザ光線やカメラによる画像処理で段差の高さを推定することも可能である。
【0023】
(シャーシの構成について)
シャーシ200は、車台とも言われ、車の主に駆動部分であり、比較的通常の車両の構成に近いものである。主に前後輪駆動部210と前輪220、後輪230から構成されている。
前後輪駆動部210は、前輪220、後輪230を回転駆動する。駆動源は、エンジンでもいいし、電気モーターでも良い。前輪220、後輪230とも前方向、後ろ方向に左右独立して駆動することが出来る。個別に制御可能とするのは、段差を乗り越える際に前後左右で駆動量を調整する必要があるからである。また、方向転換は、左右の駆動量を変えることで行う。
前輪220、後輪230は走行装置1を通常状態で支え、通常の走行時には、走行輪として機能する。そのため、高速性能や安定性も備えたほうが望ましい。また、段差を乗り越える際は、段差に対して、クリップ力が必要であるので、接地面の摩擦抵抗値の大きい形状が好適である。また、通常の走行と異なり、車体100が大きく傾くこともあることから、1つの車輪で走行装置1全体を支えられる強度が必要である。
前輪220は、後輪230に対して、内側に配置されている。後輪230と補助輪340の位置を合わせるため、言い換えれば、後輪230と補助輪340の幅の中心線を合わせるためである。前輪220を後輪230と同じ位置に配置してしまうと、補助輪340と前輪220がぶつかってしまうからである。
【0024】
(回転部の構成について)
回転部300は、本発明で最も重要な部分である。回転部300を段差に応じて制御することで、通常乗り越え困難な段差を乗り越えることが出来る。回転部300は、走行装置1の前部分、シャーシ200の上面に配置されている。左右にそれぞれ2本のアーム310を持ち、アーム310の端部に補助輪340を持ち、補助輪340は前輪220、後輪230と同様に前後方向に回転する。段差の乗り越え動作は、大まかには、アーム310の端部の補助輪340を段差の上面g2に接地させ、そこを起点として、アーム310を回転させ、走行装置1全体を引き上げる構成である。
アーム310を回転駆動するアーム駆動部320は、車体100の前部分に配置されている。段差を乗り越える駆動を行う部分であるので、大出力の駆動を行う部分である。また、アーム駆動部320はアーム310の角度を制御部110に送信する。アーム駆動部320から左右方向に回転軸部330が伸び、その端部にアーム310が配置される。回転軸部330の回転を支持するために軸受360が左右に配置されている。
【0025】
回転部300は、左右に2本のアーム310を持つ。2本のアーム310は、回転軸部330を軸に対称の位置に配置されている。アーム310は、走行装置1に対して、360度回転可能である。アーム310は、段差乗り越え中は、走行装置1の重量を支えることもあるので、それに耐えうる強度が必要である。アーム310の長さは、段差を乗り越えるために重要である。短すぎると、アーム310としての機能が十分発揮出来ない。長すぎると返って、段差を乗り越える際の支障となってしまう。概ね、車体100の前後方向の長さの半分程度が好適である。2つのアーム310が回転軸部330を軸として、対称位置に配置されていることで、段差
の乗り超えを次々に行うことが出来る。
【0026】
補助輪340は、アーム310の端部に補助輪駆動部350を介して配置されている。補助輪340の大きさは、概ね前輪220、後輪230と同じ大きさである。補助輪340は、段差を乗り越える際に、段差の上面g2に接地し、走行装置1引き上げの基準となる。走行装置1全体を引き上げる際、補助輪340は段差に対して、滑らないように、補助輪340の接地面に対する摩擦抵抗値は、大きくなっている。また、段差を乗り越える動作中に、補助輪340のみ走行装置1を支える場合もあるので、そのための強度も持つ。補助輪駆動部350は、補助輪340を回転駆動するための部分である。駆動源は、電気モータ等である。所謂、ホイールインモータが好適である。補助輪駆動部350は、段差を乗り越える際、補助輪340を強く制動したり、微妙な回転駆動を行う。前後輪駆動部210と異なり、高速走行に求められる高速駆動は必要としない。段差を乗り越える際、補助輪340を前進方向だけでなく後進方向にも駆動する場合がある。
【0027】
(ブロック図の説明)
次に、制御の流れを
図3(a)のブロック図、
図3(b)の例に沿って、説明する。制御部110と計測部120とアーム駆動部320と補助輪駆動部350と前後輪駆動部210から構成される。段差検知部130の内部には計測部120を含む。
制御部110は、計測部120からの計測データから段差の状態を推定する。また、通常走行時には前後輪駆動部210に対して、走行のための駆動を指示する。段差を乗り越える際は、前後輪駆動部210に加えて、アーム駆動部320、補助輪駆動部350に対して、駆動タイミング、駆動方向、駆動量の指示を行う。また、アーム駆動部320からアーム310の角度情報を取得する。
【0028】
段差検知部130は、走行装置1の正面方向に向けられたセンサであり、例えば、複数の仰角を変えた超音波センサである。反射波によって、障害物の有無、障害物までの距離がわかる。水平方向のセンサの出力をS1、5度の仰角をつけたセンサの出力をS2、10度の仰角をつけたセンサの出力をS3とする。
図3(b)の場合では、S1、S2は、段差の側面g2の反射波により、障害物あり、障害物までの距離Lと計測し、S3は障害物無しと計測する。
【0029】
段差検知部130の計測結果は、計測部120を介して、制御部110に送られる。制御部110は、段差検知部130より送られた障害物までの距離、障害物ありとされる角度から障害物である段差の高さを推定する。段差の高さに応じて、アーム310の回転位置を変化させる。
段差を乗り越える際は、制御部110から、アーム駆動部320、補助輪駆動部350、前後輪駆動部210に対して、連携した制御指示がされる。また、計測部120から走行装置1の傾き値を取得する。段差を乗り越える動作は、アーム駆動部320、補助輪駆動部350、前後輪駆動部210の一連の連携した動作が必要であるし、その際、走行装置1の傾き値も把握する必要があるからである。
【0030】
(低速乗り越え動作の説明)
低速での乗り越え動作について、
図4に沿って説明する。段差検知部130の情報によって、段差の位置、高さを把握し、アーム310の端部が段差の上面g2よりも高くなるように調整する。補助輪340を段差上面g2に接近させる(
図4(a))。
次に、アーム310を前方下げる方向に回転させ、補助輪340を段差上面g2に接地させる。さらに、そのまま、アーム310を回転させ、走行装置1の前側を浮かせる(
図4(b))。アーム310の回転を続け、走行装置1の前側をさらに浮かせる。その際、後輪230をゆっくり駆動し、段差上面g2と補助輪340との間に、ずれが生じないようにする(
図4(c)、
図4(d))。
さらに、アーム310を回転させる。後輪230は、段差側面g1を登る駆動を行う。制御部110は、走行装置1の傾き値とアーム310の回転角から、後輪230の適正な駆動量を算出し、前後輪駆動部210に指示する(
図4(e)、
図4(f))。後輪230が段差上面g2に達したと判断した時点で、アーム310を回転しつつ、補助輪340を前方向に駆動し、後輪230も駆動する。(
図4(g))。その後、アーム310位置を調整し、前輪220、後輪230のみで走行できるようにする。
【0031】
このように、センサを含めた一連の制御によって、通常困難な段差の乗り越え動作をスムーズに行うことが出来る。さらに、乗り越え動作を行った後に、乗り越えで用いなかった方のアーム310、補助輪340が、次の段差の乗り越えに適した位置に自動的に配置されるため、連続する段差に対しても、スムーズに対応することが出来る。
【0032】
(高速乗り越え動作の説明)
高速での乗り越え動作について、
図5に沿って説明する。段差検知部130の情報によって、段差の位置、高さを把握し、アーム310の端部が段差の上面g2よりも高くなるように調整する。補助輪340を段差上面g2に接近させる。その際、走行装置1は、ある程度の速度を維持したまま、接近する(
図5(a))。
制御部110は、アーム310を高速に回転させ、補助輪340で段差上面g2を強打する(
図5(b))。すると、その反動で、走行装置1全体が跳ねあげられる(
図5(c))。その状態を維持したまま、アーム310を回転させることで、一気に、走行装置1を段差上面g2に引き上げる(
図5(d)、
図5(e)、
図5(f))。
【0033】
このように、センサを含めた一連の制御によって、通常困難な段差の乗り越え動作を高速に行うことが出来る。さらに、乗り越え動作を行った後に、乗り越えで用いなかった方のアーム310、補助輪340が、次の段差の乗り越えに適した位置に自動的に配置されるため、連続する段差に対しても、スムーズに対応することが出来る。そのため、階段状の段差についても、ジャンプを繰り返すことで、速度を落とすことなく、高速に走行することが出来る。
【0034】
本発明より、車輪の直径を超えるような段差を乗り越える際も含めて、スムーズに高速に走行可能となる。また、段差を乗り越える際も、通常の走行時と同様の速度を出すことが可能となる。
【実施例2】
【0035】
実施例1で、スムーズに高速に走行可能な走行装置について説明したが、他の形態も可能であり、
図6、
図7に沿って説明する。
実施例1では、アーム310を回転軸部330に対して対称の位置に配置する例を説明したが、2つのアーム310が独立して回転する構造でも良い。制御は複雑になるが、2つのアーム310が協調して段差を乗り越えることも出来る。
【0036】
乗り越え動作の一例を
図6に示す。段差検知部130の情報によって、段差の位置、高さを把握し、アーム310の端部が段差の上面g2よりも高くなるように調整する。補助輪340を段差上面g2に接近させる(
図6(a))。
次に、一方のアーム310を前方向に回転させ、補助輪340を段差上面g2に接地させる。さらに、そのまま、一方のアーム310を回転させ、走行装置1の前側を浮かせる(
図6(b))。アーム310の回転を続け、走行装置1の前側をさらに浮かせる。その際、後輪230をゆっくり駆動し、段差上面g2と補助輪340との間に、ずれが生じないようにする(
図4(c))。
さらに、一方のアーム310を回転させる。他方のアーム310は、段差側面g1を登る駆動を行う。制御部110は、走行装置1の傾き値とアーム310の回転角から、他方のアーム310の適正な回転角と適正な駆動量を算出し、他方の補助輪340に指示する(
図6(d))。他方の補助輪340が段差上面g2に達したと判断した時点で、前後の補助輪340を駆動し前進する(
図6(g))。その後、アーム310位置を調整し、前輪220、後輪230のみで走行できるようにする。
【0037】
このように、アーム310を独立に回転可能とすることで、より柔軟に段差を乗り越えることが出来る。アーム310の長さを固定とした例で説明したが、アーム310の長さを伸縮自在に制御しても良い。そうすることで、より柔軟に動作できる。
【0038】
また、実施例1では、アーム310が左右2本である例を説明したいが、3つのアーム310が回転する構造でも良い。制御は複雑になるが、3つのアーム310が協調して段差を乗り越えることも出来る。
【0039】
乗り越え動作の一例を
図7示す。段差検知部130の情報によって、段差の位置、高さを把握し、アーム310の端部が段差側面g1に接するように調整する。(
図7a))。
次に、補助輪340が段差側面g1に接した状態でアーム310を前方向に回転させる(
図7(b))。アーム310の回転を続け、走行装置1の前側を浮かせる。その際、後輪230をゆっくり駆動する(
図7(c))。
さらに、一方のアーム310を回転させる。もう一つのアーム310の補助輪340を段差上面g2に接地させ、そこを基準として走行装置1を引き上げる(
図7(d)、
図7(e)、
図7(f))。その後、アーム310位置を調整し、前輪220、後輪230のみで走行できるようにする。
【0040】
このように、アーム310を3つとすることで、よりスムーズに段差を乗り越えることが出来る。