(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6400306
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物
(51)【国際特許分類】
E04H 1/04 20060101AFI20180920BHJP
E04H 3/08 20060101ALI20180920BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
E04H1/04 B
E04H3/08 Z
E04B1/24 F
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-44866(P2014-44866)
(22)【出願日】2014年3月7日
(65)【公開番号】特開2015-168993(P2015-168993A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2017年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】堀園 義昭
(72)【発明者】
【氏名】川崎 純平
【審査官】
金高 敏康
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−117232(JP,A)
【文献】
特開平11−324351(JP,A)
【文献】
特開平06−057971(JP,A)
【文献】
米国特許第01468812(US,A)
【文献】
米国特許第04910929(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/04
E04B 1/24
E04H 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両方向ブレース構造を有する2階建以上の鉄骨造であり、かつ2階以上の各階部分が、中廊下の両側に居室を有する間取りの鉄骨造居住用途建物において、
前記2階以上の各階部分では、前記中廊下と居室との間にブレースが配置され、建物の外周部における前記中廊下が延伸する方向にはブレースが配置されず、
1階部分ではブレースが建物の外周部に配置されたことを特徴とする両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物。
【請求項2】
請求項1に記載の両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物において、前記中廊下に沿う鉄骨梁の1スパンの間に、前記中廊下に沿って並ぶ2部屋の居室を有し、前記両方向ブレースは、互いにハの字形に配置されてそれぞれ下端が前記1スパンの間隔を開けて並ぶ2本の各柱の床側の梁接合部付近に接合され、かつ上端が天井側の梁の中間に接合され、前記2部屋の居室の前記中廊下に対する各居室開口部を互いに並べて、前記ハの字形に配置された2本の両方向ブレースとこれら両方向ブレースの上端間の鉄骨梁部分の下方に配置した両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物において、前記2階以上の各階部分では、1方向のブレースを前記中廊下と居室との間に配置し、前記1方向と直交する方向のブレースを、前記中廊下に沿って並ぶ各居室間の壁内に配置した両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、中廊下の両側に別所帯用等の居室を有する間取りの建物、例えばサービス付き高齢者向け住宅において、両方向ブレース構造とした鉄骨造居住用途建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄骨造居住用途建物には、プランの自由度を優先するために両方向ラーメン構造もしくは片方向ラーメン・片方向ブレース構造を採用することが多かった。しかし、コスト削減の目的で鉄骨重量を下げるために、両方向ブレース構造を採用した例もあった。しかし、両方向ブレース構造を採用した鉄骨造居住用途建物においては、プランの制約等から主に建物外周部で桁方向と妻方向の両方向にブレースを配置し、両方向ブレース構造として実現させる提案が多かった。
ブレースを配置できる部分の開口部は、ブレースをかわすことの出来る配置に限られており、例えば
図9に示すように、ハの字形に配置した2本のブレース51,51間の下部中央に1箇所の開口部52を設けるという構成に限られていた。
【0003】
建物内部にブレースを配置した例としては、I形に住戸を並べた集合住宅において、桁行方向の梁をRC構造とし、界壁に位置する妻方向の梁に鉄骨梁とブレースを配置するRC造と鉄骨造併用の建物(例えば、特許文献1)があるが、このような限られた例しかない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−207403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の建物外周部にブレースを配置した両方向ブレース構造の建物では、ブレースが配置されることによる採光面の制限がある。建物内部にブレースを配置する場合は、内部プランの検討項目が増加するため、実現が難しい。また、鉄骨造居住用途建物では、両方向ブレース構造の適用範囲が3階建・4階建に及んでおらず、コスト低下が図れていない。
【0006】
この発明は、上記課題を解消するものであり、建物外周部のブレースの配置を無くせ、または削減できて、必要採光を確保し易くし、かつ各階の用途に応じた内部プランの自由度を高めることができる両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物を提供することを目的とする。
この発明の他の目的は、建物内部にブレースを配置しながら、構造上のバランスが良く、かつ部屋数を確保し易くすることである。
この発明のさらに他の目的は、必要採光を確保し易くしながら、両方向のブレースとも、納まりを良くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物は、両方向ブレース構造を有する2階建以上の鉄骨造であり、かつ2階以上の各階部分が、中廊下の両側に居室を有する間取りの鉄骨造居住用途建物において、
前記2階以上の各階部分では、前記中廊下と居室との間にブレース
が配置
され、建物の外周部における前記中廊下が延伸する方向にはブレースが配置されず、
1階部分ではブレース
が建物の外周部に配置
されたことを特徴とす
る。
前記中廊下は、建物の内部の配置される廊下である。
【0008】
この構成によると、2階以上の各階部分では、ブレースを中廊下と居室との間に配置したため、建物外周部のブレースを削減できる。そのため、建物外周部においてブレースによって開口が制限されることがなく、建物外周部からの必要採光が得易くなる。例えば、建物の桁方向に沿う各ブレースは中廊下と居室間に全て配置し、建物の桁方向に沿う外周部にはブレースを配置しない構成とすることで、各居室に窓を自由に設けることができて、必要採光が得易くなる。
また、2階以上の各階部分では前記ブレースを前記中廊下と居室との間に配置するが、1階部分では前記両方向ブレースは建物の外周部に配置するため、次の利点が得られる。例えば、サービス付き高齢者向け住宅では、1階部分に事務所機能等を設け、2階以上の部分を居室とする構成が多い。このため、1階部分では従来どおり外周部にブレースを配置した方が、建物内部にブレースを配置するよりも内部プランの自由度が高い。2階以上の各階は複数の居室が並んで配置されるため、この発明における、建物外周部にブレースを設けることが不要化または削減できて、必要採光をし易くする効果が、効果的に発揮される。
【0009】
この発明において、前記中廊下に沿う鉄骨梁の1スパンの間に、前記中廊下に沿って並ぶ2部屋の居室を有し、前記ブレースは、互いにハの字形に配置されてそれぞれ下端が前記1スパンの間隔を開けて並ぶ2本の各柱の床側の梁接合部付近に接合され、かつ上端が天井側の梁の中間に接合され、前記2部屋の居室の前記中廊下に対する各居室開口部を互いに並べて、前記ハの字形に配置された2本のブレースとこれらブレースの上端間の鉄骨梁部分の下方に配置しても良い。
この構成の場合、鉄骨梁の1スパンの間に2本のブレースを互いにハの字形に配置したため、構造上のバランスが優れたものとなる。また、前記ハの字形に配置された2本のブレースとその間の鉄骨梁部分の下方に、2部屋の居室の前記中廊下に対する各居室開口部を互いに並べて配置したため、部屋数を確保し易い。
この場合に、前記2部屋の居室を居室ユニットとして、両方向ブレースの1セット(2本)に対して2部屋を確保し、プランを予め定義することで、プランニングがより簡単になる。
【0010】
この発明において、前記2階以上の各階部分では、1方向のブレースを前記中廊下と居室との間に配置し、前記1方向と直交する方向のブレースを、前記中廊下に沿って並ぶ各居室間の壁内に配置しても良い。
中廊下に沿う方向のブレースは中廊下と居室との間に配置し、中廊下と直交する方向のブレースは、隣合う居室間の壁内に配置することにより、必要採光を確保し易くしながら、両方向のブレースとも、納まりが良くなる。
【発明の効果】
【0011】
この発明の両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物は、両方向ブレース構造を有する2階建以上の鉄骨造であり、かつ2階以上の各階部分が、中廊下の両側に居室を有する間取りの鉄骨造居住用途建物において、前記2階以上の各階部分では、前記中廊下と居室との間にブレース
が配置
され、建物の外周部における前記中廊下が延伸する方向にはブレースが配置されず、1階部分ではブレース
が建物の外周部に配置
されたため、建物外周部のブレースの配置を無くし、または削減できて、必要採光を確保し易くできる。また、各階の用途に応じた内部プランの自由度を高めることができる
ブレースをハの字形に配置し、その下に2部屋の居室の中廊下に対する各居室開口部を互いに並べて設けた場合は、建物内部にブレースを配置しながら、構造上のバランスが良く、かつ部屋数を確保し易くできる。
前記2階以上の各階部分では、1方向のブレースを前記中廊下と居室との間に配置し、前記1方向と直交する方向のブレースを、前記中廊下に沿って並ぶ各居室間の壁内に配置した場合は、必要採光を確保し易くしながら、両方向のブレースとも、納まりを良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】この発明の一実施形態に係る両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物の2階部分の内部プラン図である。
【
図2】同鉄骨造居住用途建物の1階部分の内部プラン図である。
【
図5】同建物部分の断面位置を左右半分ずつ変えた拡大垂直断面図である。
【
図6】
図3の内部プラン図の一部をさらに拡大した部分拡大図である。
【
図7】この発明の他の実施形態に係る両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物の2階部分の内部プラン図である。
【
図8】同鉄骨造居住用途建物の1階部分の内部プラン図である。
【
図9】提案例に係る建物の居室開口部の配置例を示す垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明の第1の実施形態を
図1ないし
図6と共に説明する。
図1は、この両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物1(以下、単に「建物1」と略称する場合がある)を、サービス付き高齢者向け住宅に適用した例であり、その基準階部分である2階部分F2の内部プランを示す。建物1は3〜4階建で等の低層建物であり、3階以上の部分は基準階部分(2階部分F2)と同じプランである。
【0014】
2階部分F2は、桁方向に延びる中廊下3の両側に居室4を配列したI字型プランとされている。中廊下3の長手方向の中間の片方に隣接したエレベータシャフト5が設けられ、エレベータシャフト5の両側に、中廊下3に続くエレベータホール6および上下階への階段7が設けられている。中廊下3の1端に、非常階段となる屋外階段15への出入り口が設けられている。
【0015】
図2に示すように、建物1の1階部分F1には、玄関ホール8、食堂または多目的室となる共用室9A,9B、事務所10等が設けられている。
【0016】
図1において、各居室4は個々の居住者に割り当てられる全空間であり、隣合う2部屋の居室4,4ずつが、
図3に拡大して示すように、互いに内部配置が左右対称となった居室ユニット4Aを構成する。各居室4は、中廊下3に面して入口廊下13があり、入口廊下13の屋側に寝室15が、入口廊下13の横側に便所14が設けられている。居室ユニット4Aを構成する2つの居室4,4の入口廊下13は、互いに壁19を介して隣合っており、中廊下3に対する出入り口となる居室開口部16が設けられている。寝室14の奥側は外壁17となり、外壁17の窓18が設けられている。2つの居室4,4間の壁19は、この例では間仕切り壁であるが、各居室4を1戸の住戸とする場合は、壁19は界壁とされる。
【0017】
図6は、
図3における居室ユニット4Aにおける入口廊下13および便所14の部分を拡大して示す。便所14と中廊下3との間にパイプスペース20が設けられ、またパイプスペース20と中廊下3とを仕切る壁に、ブレース21が設けられている。
【0018】
図4は、建物1の鉄骨における、2階部分の前記居室ユニット4Aにおける居室4と中廊下3との境界部分を示す。中廊下3に沿って前記境界部分に鉄骨柱22が建てられ、隣合う鉄骨柱22の各階部分の上端が、鉄骨の梁23で接合されている。鉄骨柱22は角形鋼管等からなり、鉄骨梁23はH形鋼等からなる。鉄骨梁23の上に、上階の床スラブ24が載せられている。床スラブ24は、図示の例ではデッキプレート上にコンクリートを設けた構成である。
【0019】
柱22は、前記各居室ユニット4Aの幅の間隔で設置され、したがって鉄骨梁23の1スパンの間に、中廊下3に沿う2部屋の居室4,4が配置されることになる。鉄骨梁23の両端は、鉄骨柱22から突出させたガセットプレート等の梁接合金物25に、スプライスプレートと共にボルト接合されている。
【0020】
前記ブレース21は、圧縮および引張荷重を負担し、または引張荷重のみを負担する鉄骨製等の梁である。ブレース21は、座屈拘束梁であっても良く、また座屈拘束機能を有しない梁であってもよい。ブレース21の下端は、鉄骨柱22の各階部分の下端にブレース接合金物26を介してボルト接合されている。ブレース接合金物26は、鉄骨柱22に溶接で固定されている。ブレース21の上端は、鉄骨梁23のスパンの中間部分で、その下面にブレース接合金物27を介してボルト接合されている。
【0021】
前記ブレース21は、鉄骨梁23の1スパンの間に2本が互いにハの字形に配置され、このハの字形に配置された2本のブレース21,21と、これらブレース21,21の上端間の鉄骨梁部分の下方に、前記居室ユニット4Aを構成する2つの居室4,4の前記中廊下3に対する前記居室開口部16,16が互いに並べて配置されている。
【0022】
鉄骨梁23は、天井材28により下方が覆われる。
図5に示すように、鉄骨梁23を設けた部分の天井材28は、寝室部分の天井材29よりも若干下方に位置している。
図5は左半分を鉄骨梁23が見える位置で、右半分は鉄骨梁23が見えないか位置で断面した図である。
【0023】
図3に示すように、廊下3と直交する方向のブレース31は、廊下3に沿って並ぶ居室4の間の壁19のうちの一部の壁19内に設けられている。例えば、居室ユニット間の壁19内に設けられている。この直交する方向のブレース31も、圧縮および引張荷重を負担する鉄骨製であっても、また引張荷重のみを負担する鉄骨製であっても良い。
【0024】
図2において、建物1における1階部分F1では、ブレース21(
図2には図示せず)は、建物1の外周部に配置している。この建物外周に設置される両方向ブレースは、例えば
図4の例と同様にハの字形に配置される。
なお、2階部分F2(
図1)おいて、桁方向のブレース21は中廊下3と居室4間に全て配置し、建物1の桁方向の外周部にはブレースを配置しない構成としているが、妻面の外壁には
図4の例と同様にブレース21が互いにハの字形に配置されている。
【0025】
この構成の両方向ブレース構造の鉄骨造居住用途建物1によると、ブレース21を中廊下3と居室4との間に配置したため、建物外周部にブレースを設けることが不要となる。そのため、建物外周部においてブレースによって開口が制限されることがなく、建物外周部からの必要採光が得易くなる。例えば、ブレース21は中廊下3と居室4間に全て配置し、建物1の桁方向に沿う外周部にはブレースを配置しない構成とすることで、各居室4に窓を自由に設けことができ、必要採光が得易くなる。
【0026】
また、
図4に示すように、鉄骨梁23の1スパンの間に2本のブレース21を互いにハの字形に配置したため、構造上のバランスが優れたものとなる。また、前記ハの字形に配置された2本のブレース21とその間の鉄骨梁23との下方に、2部屋の居室4,4の前記中廊下3に対する各居室開口部16を互いに並べて配置したため、部屋数を確保し易い。
この場合に、前記2部屋の居室4,4を居室ユニット4Aとして、ブレース21の1セット(2本)に対して2部屋を確保し、プランを予め定義することで、プランニングがより簡単になる。
【0027】
1階部分F1(
図2)では、前記ブレース21(
図1には図示せず)は建物1の内部に配置せずに外周部に配置しているが、そのため次の利点が得られる。サービス付き高齢者向け住宅では、1階部分F1に事務所機能等を設け、2階以上の部分を居室とする構成が多い。このため、1階部分F1では従来どおり外周部に両方向ブレースを配置した方が、建物1の内部にブレース21を配置するよりも内部プランの自由度が高い。
【0028】
なお、前記実施形態では、直線状の中廊下3の両側に居室を配列したI字型プランの建物1に適用した例を示したが、この発明は、
図7,
図8に示すように、L字形に折れ曲がった中廊下3の両側に居室を配列したL字型プランの建物1にも前記と同様に適用することができる。
図7は基準階である2階部分2Fの内部プランを、
図8は1階部分F1の内部プランそれぞれ示す。
両方向ブレース構造を採用し、ブレース21を中廊下3と居室4との間に配置するという構成とすることで、結果的に、従来の片方向片方向ラーメン・片方向ブレース構造の採用例と比較して、鉄骨重量を削減することができる。L字型の建物1においては、桁方向および妻方向の両方向に居室4が交差するが、制約を受けることなく外部の開口および居室開口部を設けることができる。
図7,
図8の実施形態におけるその他の構成,効果は、
図1〜
図6に示す第1の実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0029】
1…鉄骨造居住用途建物
3…中廊下
4…居室
4A…居室ユニット
14…便所
16…居室開口部
20…パイプスペース
21…ブレース
22…鉄骨柱
23…鉄骨梁
24…床スラブ
31…ブレース
F1…1階部分
F2…2階部分