【文献】
HONG Kyo-Min, et al.,"Charateristics of a Nickel Film Electroplated on a Copper Substrate in Supercritical CO2",J. Ind. Eng. Chem.,2004年 7月,Vol. 10, No. 4,pp. 683-689
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記分極抵抗が、前記超臨界流体を混合する前よりも少なくとも110%以上となる超臨界流体濃度と陰極電流密度とすることを特徴とする請求項1に記載の電気めっき方法。
前記印加する電流は、前記陰極表面の最大膜厚分布をX%としたときに、前記被めっき金属イオンの還元時の陰極電位が、絶対値で水素を発生する電位のX%よりも低い電位とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の電気めっき方法。
【背景技術】
【0002】
近年、情報処理技術の発達、普及により電子機器の小型化、薄型化、高性能化が進められており、これに伴って半導体パッケージも小型化の方向にある。特に、携帯端末等に多用される数ピン〜100ピン程度の半導体パッケージは、従来のSOP(Small Out−line Package)、QFP(Quad Flat Package)からより小型なノンリードタイプのSON(Small Out−line Non−lead Package)、QFN(Quad Flat Non−lead Package)に変化し、近年ではさらに小型なWCSP(Wafer−level Chip Scale Package)へ形態が変わりつつある。
【0003】
一般的なWCSPは、パッケージの下面にはんだボールが格子状に複数形成されており、このはんだボールで基板電極上に接続される。WCSPは、内部の半導体チップとパッケージのサイズが同一であるため、これ以上小型化できない最も小さなパッケージである。
【0004】
SOP、QFP、SON、QFNといったパッケージの製造工程は、ダイシング後の個片化した半導体チップを、リードフレームにマウントする工程、ワイヤボンディングで接続する工程、封止樹脂でモールドする工程、リードを切り離す工程、リードを外装めっきする工程からなる。一方、WCSPの製造工程は、ウェハをダイシングして半導体チップにする前段階、すなわち、半導体ウェハの表面上にはんだボールを搭載した後、ダイシングして個片化するだけであるため、他のパッケージに比べ、極めて生産性が高いことも大きな特長である。
【0005】
WCSPでは、チップの電極パッドの配置をはんだボールの配置に変換するため、Cuの電気めっきを用いたセミアディティブ法による再配線形成が必須となっている。セミアディティブ法は、電気めっき時の陰極となるシード層の形成、再配線形状をパタニングしたレジスト層形成、電気めっきによるCuめっき、レジスト層の剥離、シード層のエッチングの5工程から構成される。これらの工程は、プロセス及び寸法的に前工程のBEOL(Back−End Of Line)と後工程の中間に位置するため、中間工程と呼ばれ、ウェハプロセスを用いることから、量産装置にはBEOLに近い装置が用いられる。
【0006】
具体的には、シード層形成には例えばTiとCuの積層薄膜が用いられ、これらを形成するには、ウェハ上に金属薄膜を形成するスパッタ装置が用いられる。また、レジスト層形成にはレジスト塗布、ベーキング、現像、洗浄・乾燥を自動で行うコーター・デベロッパーとステッパ露光装置が用いられ、電気めっきには枚葉式のめっき装置が用いられる。しかしながら、これら一連の装置は、処理能力は数1000ウェハ/月以上で高いものの、いずれもワイヤボンディング装置、ダイボンディング装置等の通常の後工程装置に比較して極めて高額で設置スペースも大きいため、初期投資額が多額となり、少量多品種な製品へ適用することは難しく、生産量の変化に柔軟に対応することも困難である。
【0007】
特に、Cuめっきを行う電気めっき装置では、シード層表面の酸化物を除去する前処理工程、Cuめっき工程、洗浄・乾燥工程の3工程が必要であり、処理間での相互汚染を防ぐために、各工程の処理槽をそれぞれ個別に有する装置が多く、槽間の自動搬送装置も必要となり、装置が大型化、高額化する傾向にある。さらに、Cuめっき工程については、一般的な硫酸銅めっき液を用いた場合には、良好な膜質と膜厚分布を維持するために、通常は5A/dm2以下の電流密度で電気めっきされるが、その場合に得られる成膜速度は電流効率を100%としても最大で1μm/min程度であり、仮に10μmの膜厚が必要な場合は約10minの時間が必要となる。
【0008】
したがって、例えば10、000ウェハ/月の処理能力を確保するためには、最も処理時間のかかるCuめっき槽を少なくとも3槽以上用意して並行してめっき処理する必要があり、装置の大型化、高コスト化を招くことになる。
【0009】
このため、生産性を高めるため、種々の技術開発が行われている。例えば、電気めっき工程において、超臨界または亜臨界二酸化炭素を用いて、めっき工程を安全で合理的かつ速やかに行なう技術が知られている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0010】
超臨界流体とは、温度と圧力で決まる物質の状態図において、固体、液体、気体のいずれにも属さない状態の流体で、その主な特徴は、高拡散性、高密度、ゼロ表面張力等であり、従来の液体を用いたプロセスに比較してナノレベルの浸透性や高速反応が期待できる。例えば、CO
2が超臨界状態となる臨界点は、31℃、7.4MPaであり、それ以上の温度、圧力では超臨界流体となる。また、本来、超臨界CO
2は電解質水溶液と混合しないが、界面活性剤を添加することで乳濁化し、電気めっきに応用できるようにした超臨界CO
2エマルジョン(SCE:Supercritical CO
2 Emulsion)電気めっき方法が知られている。
【0011】
このようなSCE電気めっき方法で形成しためっき被膜の特徴は、レベリング性が高い、ピンホールが発生しにくい、結晶粒が微細化して緻密な膜が形成できる点等である。SCE電気めっき法での反応場は、電解質溶液中に超臨界CO
2のミセルが分散して流動していると考えられ、そのミセルの陰極表面への脱着によりめっき反応の過電圧が上昇し、結晶粒が微細化するものと考えられている。また、超臨界CO
2と水素は非常によく相溶することが知られており、金属の析出と同時に発生する水素がCO
2に溶解することで気泡とならず、ピンホールの発生が抑えられる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は第1の実施の形態に係る電気めっき方法に用いる電気めっき装置10の概略構成を示す説明図、
図2は電気めっき方法の陰極における陰分極曲線を示す説明図、
図3は電気めっき方法における電流密度と分極抵抗の関係を示す説明図、
図4は電気めっき方法における電流密度とめっき膜の表面粗さRaの関係を示す説明図、
図5は電気めっき方法におけるめっき膜の膜厚分布を示す説明図、
図6は電気めっき方法における陰極面の電位分布を示す説明図である。
【0024】
なお、本実施形態では、超臨界流体としてCO
2を用い、被めっき膜としてCu膜を成膜する場合を例として示した。
【0025】
本実施形態では、超臨界流体を乳濁化しためっき液を用いた電気めっきによりCu被膜を成膜する際、陰分極曲線から得られる分極抵抗が増大し、特にめっき反応時に水素発生を伴うような高電流密度、高電位領域近傍で、めっき膜の膜厚分布が低減するとともに、被膜の表面粗さが低減し、ノジュール等の凸状の異常成長も抑制されることから、陰極電位が水素発生電位の極近傍の電位であっても、従来のめっき法のように部分的な水素発生に伴う膜質の低下を伴わない電気めっきが可能とするものである。
【0026】
電気めっき装置10は、二酸化炭素供給部20と、温調ポンプ30と、めっき処理部40と、排出部60と、これらを連携制御する制御部100とを備えている。
【0027】
二酸化炭素供給部20は、高圧の二酸化炭素が貯留された二酸化炭素ボンベ21と、一端をこの二酸化炭素ボンベ21に接続され、他端を温調ポンプ30に接続された供給配管22と、この供給配管22の流量を制御する供給バルブ23とを備えている。
【0028】
温調ポンプ30は、供給配管22から供給された二酸化炭素ガスを加熱するヒータ31と、二酸化炭素ガスを圧縮するコンプレッサ32と、このコンプレッサ32の出口側に接続された圧力計33とを備えている。
【0029】
ヒータは、二酸化炭素をその臨界温度31.1℃以上に加熱する。コンプレッサ32は、二酸化炭素ガスを所定圧、例えば、二酸化炭素をその臨界圧7.38MPa以上に加圧する。
【0030】
めっき処理部40は、恒温槽41と、この恒温槽41内に配置され、めっき液Lを収容する反応槽42と、一端がコンプレッサ32出口に接続され、他端が反応槽42内部に接続された供給配管43と、この供給配管43の流量を制御する制御バルブ44と、一端が反応槽42に内部に接続され、他端が排出部60に接続された出口配管45と、通電用の直流定電流源46と、この直流定電流源46の正極側に接続され、反応槽42内に設けられた陽極47と、直流定電流源46の負極側に接続された、反応槽42内に設けられ、Cu被膜を形成する基材Pを支持する陰極部50とを備えている。
【0031】
反応槽42としては、内壁をテフロン(登録商標)コートしたステンレス製圧力容器を用いた。反応槽42には、めっき液と超臨界状態のCO
2を導入する。めっき液には硫酸銅5水和物と硫酸の混合溶液に、界面活性剤を添加した一般的な硫酸銅めっき液を用いた。ここで、めっき液としては、ピロリン酸銅めっき液やスルファミン酸銅めっき液等も用いることができ、ある特定のめっき液に限定されるものではない。
【0032】
陽極47には純Cu板を使用し、通電用に電源の正極に接続したリードを接続した。なお、陽極の材料としては、より好ましくはPを含有したCu板を用いる方が良い。さらに、不溶解性の貴金属等も陽極として用いることができる。
【0033】
陰極部50で支持する基材Pとしては、Siウェハ上にシード層としてTi/Ni/Pd積層膜をスパッタや蒸着法等の物理的被着法で形成したものを使用した。ここで、Ti層は基材であるSiウェハとの密着強度を高める目的で形成される。したがって、その膜厚は0.1μm程度とする。一方、Niは主に給電に寄与するために、その膜厚は0.2μm以上が好ましい。PdはNi表面の酸化を防止するための膜であり、その膜厚は0.1μm程度とする。また、パターン状にめっきを行う場合には、めっきを行う部分だけを開口したレジストパターンをシード層上に形成してあってもよい。
【0034】
続いて、前記シード層を形成したSiウェハの端部に通電用に電源の負極に接続したリードを接続し、マスキングした。
【0035】
排出部60は、一端が出口配管45に接続され、他端が後述する処理容器64に接続された排出配管61と、この排出配管61から分岐した分岐配管62と、この分岐配管62に設けられた背圧調整弁63と、処理容器64とを備えている。
【0036】
このように構成された電気めっき装置10では、次のようにして電気めっきを行う。すなわち、基材Pを、めっき前処理として10wt.%のH
2SO4水溶液に1分間浸漬した。この前処理の目的は、シード層表面のPd表面に形成された自然酸化膜を除去することである。酸化膜の成長状態により、この酸化膜を確実に除去できる前処理液の種類や組成、処理時間を適宜変更することが好ましい。
【0037】
この基材Pと陽極を反応槽42内に設置した後、めっき液Lを反応槽42内に入れ、反応槽42の蓋を閉じて密閉する。CO
2には4Nの液化CO
2ボンベを用い、40℃に温調したうえで高圧ポンプと背圧制御により反応槽42内を15MPaに調整した。また、反応槽42も恒温槽41に入れ、40℃に制御した。なお、めっき液とCO
2の体積比は8:2すなわちCO
2が20vol.%となるように調整した。CO
2が超臨界状態となる臨界点は、31℃、7.4MPaであるが、本実施例では、反応槽42内の全CO
2が確実に超臨界状態となるように、臨界温度+9℃、臨界圧力+7.6MPaのマージンを設けた。これらの値は、反応槽42内の温度や圧力分布等を考慮して適宜決めることができる。
【0038】
反応槽42内の圧力と温度が所定の値となり、安定したことを確認した後、直流定電流源46の電源を入れ、めっき電流を定電流で所定の時間通電した。その後、所定の時間通電後、反応槽内を常圧に戻し、Cu被膜が成膜された基材を取出し、水洗・乾燥を行った。
【0039】
ここで、上述しためっき電流の電流密度の定め方について説明する。すなわち、めっき電流は、被めっき膜の膜厚分布及びノジュール等の凸状の異常成長を抑制することを目的とし、また、水素発生に伴う膜質の低下を避けるために、
図2より、超臨界CO
2濃度が20vol.%で陰極の電位が水素過電圧1.1Vの80%すなわち0.88Vとなるように、陰極電流密度を42A/dm
2に調整した。
【0040】
この時の陰分極曲線から得られる分極抵抗は、
図3より、CO
2を導入しない場合に比べ1.1倍以上となることから、被めっき膜の膜厚分布及びノジュール等の凸状の異常成長を抑制できる。なお、本実施形態では、超臨界CO
2濃度を20vol.%、陰極電流密度を42A/dm
2としたが、陰極電流密度は、分極抵抗がCO
2を導入しない場合に比べ1.1倍以上となる電流密度で、かつ、水素過電圧の80%の電位となる電流密度未満であれば同様の効果が得られる。
【0041】
Cu被膜が成膜された基材Pに対し、ICP−AESによる被着Cu析出量測定、マイクロスコープ及びレーザ顕微鏡による表面形態観察、触針式段差計による膜厚分布測定を行った。なお、めっき反応の電流効率を、測定した被着Cu析出量の理論析出量に対する比率(%)により求めた。また、膜厚分布測定にあたっては、先ず、形成したCu被膜をサブトラクティブ法により幅200μmのライン状に加工した。ラインはサンプルの短手方向に500μmピッチで形成し、短手方向に平行に触針式段差計により膜厚を測定した。
【0042】
ICP−AESにより測定した被着Cu析出量は、ファラデーの法則から求められる理論析出量9.13mgに対し、8.90mgであり、電流効率は97%であった。この結果より、与えた電荷量の殆ど全てがめっき析出に寄与しており、水素の発生は殆ど生じていなかったことが判る。また、膜表面の外観観察の結果、ノジュール成長は確認されず、レーザ顕微鏡で測定した表面粗さRaは0.16μmであった。膜厚分布測定の結果、Cu膜厚分布は±18%であり、
図5で示された膜厚分布とほぼ同様であった。
【0043】
次に、本実施の形態に係る電気めっき方法による超臨界CO
2を乳濁化しためっき液を用いた場合(実施例1,2)と、超臨界流体を含まない一般的な硫酸銅めっき液を用いた場合(比較例)とを比較して説明する。
【0044】
図2は、陰分極曲線を示している。なお、図中の縦軸及び横軸に示される値はともに負の値となっているが、これは陰極の電流密度と電位をそれぞれ示しているためであり、以降、陰極の電流密度と電位の大小関係について述べる場合は、その絶対値で述べることとする。
【0045】
超臨界流体を含まない一般的な硫酸銅めっき液を用いた場合も超臨界CO
2を乳濁化した場合も、液温や電解液に含まれる電解質・イオン濃度は同一であり、超臨界CO
2の濃度のみが異なる。超臨界CO
2の濃度は、実施例1(20vol.%)と実施例2(30vol.%)について示している。
図3から判るように、例えば、30A/dm
2の電流密度での分極抵抗は、比較例が約14mΩ・dm
2に対し、CO
2濃度20vol.%の場合は約15mΩ・dm
2、30vol.%の場合は約16mΩ・dm
2とCO
2濃度に伴い増加していることが分かる。
【0046】
比較例では、2A/dm
2の電流密度では、分極抵抗Δη/Δiは約28mΩ/dm2と大きいが、10A/dm
2以上の高電流密度領域での分極抵抗Δη/Δiは13〜15mΩ/dm
2と低電流密度での分極抵抗よりも小さい。
【0047】
図2の陰分極曲線の高電位領域で、急激に電流が増加していることが分かるが、これは、水素発生の反応が生じていることを示しており、その電位から、比較例の水素過電圧が約1.0V、実施例1,2の場合が約1.1Vであることを示している。例として、目標とするめっき膜の膜厚分布を±20%未満と規定した場合、めっき成膜速度を最大化するためには、超臨界CO
2濃度を20あるいは30vol.%として、陰極の電位を1.1Vの80%すなわち0.88Vとすれば良い。このようにすれば、ウェハ面内で最も電位が高くなる部分においても、水素発生電位には達しない。この時の陰極電流密度は、実施例1で42A/dm
2、実施例2で36A/dm
2となる。
【0048】
次に、
図3では、超臨界CO
2濃度をパラメータとした場合の陰極電流密度と分極抵抗の関係を示している。陰極電流密度が低電流密度領域では、比較例の方が実施例1,2よりも分極抵抗の高い場合もあるが、高電流密度領域では実施例2が分極抵抗も大きくなっており、その値は比較例に比べ、1.1倍以上となっている。すなわち、超臨界CO
2を混合した場合の分極抵抗の増加効果は、低電流密度領域では得られず、高電流密度領域で初めて得られる。
図13からは、実施例1の場合は10A/dm2以上、実施例2場合は5A/dm2以上が分極抵抗が、比較例より大きくなる電流密度領域となる。
【0049】
また、
図4は、CO
2濃度をパラメータとした陰極電流密度と表面粗さRaの関係を示している。比較例では、25A/dm
2の電流密度までは電流密度の増加に伴い表面粗さRaは低下するが、30A/dm
2を超えるとノジュールの発生により、Raが大幅に増加する。
【0050】
一方、実施例1,2の場合は、50A/dm
2まで電流密度の増加に伴い、Raはほぼ単調に減少する傾向が見られた。比較例では50A/dm
2で、実施例1,2は、60A/dm
2で陰極表面での水素発生が生じたため、Raが極端に悪化した。このように、超臨界CO
2を導入した場合、水素発生する直前まで電流密度を高めてもノジュールの発生は無く、品質の高いめっき膜が得られる。これは、
図3に示すように、高電流密度・高電位領域でも高い分極抵抗が保たれているためである。
【0051】
図5は、比較例と実施例1,2の場合の被めっき膜厚分布を示している。いずれも陰極電流密度は32A/dm
2の場合を示している。いずれも被めっき物の両端部である位置0cmと9cm近傍の膜厚が厚く、中心部である位置4〜5cmの近傍の膜厚が薄い分布となっている。しかしながら、その分布の大きさは、比較例よりも実施例1,2が小さくなっていることが分かる。その分布を測定すると、比較例が±36.8μmであるのに対し、実施例1は±16.8μm、実施例2は±16.9μmといずれも大幅に改善している。この結果は、前記した表面粗さの結果と同様に、超臨界CO
2を導入することで高電流密度・高電位領域でも高い分極抵抗が保たれているためと考えられる。
【0052】
図6は、基材Pとしてのウェハ面内で生じる電位分布を模式的に示す説明図である。陰極となるウェハ表面に形成された導電性のシード層は、電気的な抵抗成分を有している。また、通常、このようなウェハ上にめっきを行う場合は、ウェハ面積を有効に使用するために、めっき電源の負極と接続する給電点は、ウェハの端部に設ける。シード層は抵抗成分を有しているため、給電点は、ウェハ周辺部になるべく均等かつ数多く設けることで、めっき中のウェハ面内の電位分布を均一にできる。
【0053】
図6は給電点Paをウェハ周囲の4箇所に均等に設けた場合の電位分布である。給電点を増やすことで、より電位分布を均一にすることは可能であるが、給電点を設けることができないウェハ中心部の電位は、常にウェハ周辺部に比べ低下することとなる。
図6では、濃い部分が電位の高い部位、薄い部分が電位の低い部位を示している。
【0054】
ウェハ面内で電位分布が生じた場合、その分布に応じてめっき電流に分布が生じ、ひいては膜厚分布を生じる。めっき電流分布は、ウェハ面内の電位分布以外に、前記した二次電流分布によって決定される。仮に二次電流分布が完全に均一であった場合であっても、めっき膜厚のウェハ面内分布を±X%未満に抑えるためには、少なくともシード層の電位の面内分布も±X%未満に抑える必要がある。
【0055】
本実施形態に係る電気めっき装置による電気めっき方法によれば、
図2で示した陰分極曲線の特性から、めっき電流分布は必ず±X%未満となる。かくして、目標とするめっき膜の膜厚分布を±X%未満とし、めっき成膜速度を最大化するためには、被めっき金属イオンの還元時に陰極表面で水素が発生する電圧の(100−X)%の電圧を陰極に印加して電気めっきを行えば良い。
【0056】
以上の結果より、超臨界CO
2をめっき液に混合し、陰極電流密度は、分極抵抗が超臨界CO
2を導入しない場合に比べ1.1倍(110%)以上となる電流密度とすることで、電気めっきにおける陰極電流密度が高電流密度であっても、被めっき膜の膜厚分布が小さく、ノジュール等の凸状の異常成長も抑制され、水素発生に伴う膜質の低下を伴わない電気めっきが可能となり、めっきの成膜速度を従来のめっき方法に比べ大幅に高めることができる。
【0057】
また、陰極表面の最大膜厚分布をX%(例えば80%)としたときに、被めっき金属イオンの還元時の陰極電位が、絶対値で水素を発生する電位のX%よりも低い電位とすることで、膜厚分布を制御することができる。
【0058】
本実施形態に係る電気めっき装置による電気めっき方法によれば、電気めっきにおける陰極電流密度が高電流密度であっても、被めっき膜の膜厚分布が小さく、ノジュール等の凸状の異常成長も抑制され、水素発生に伴う膜質の低下を伴わない電気めっきが可能となり、めっきの成膜速度を大幅に高めることができる。
【0059】
この結果、めっき処理時間の短縮化が図れ、めっき装置のめっき槽数を削減することが可能となり、これまで問題となっていた処理能力拡大に伴うめっき装置の大型化や高額化を大幅に抑制できる。
【0060】
また、超臨界物質として、比較的低温かつ低圧の臨界点を持つ二酸化炭素を使用しているから、超臨界状態を比較的小さなエネルギ−で容易かつ速やかに得られ、その使用コストの低減を図れるとともに、反応槽42の耐圧強度の緩和を図れ、低コストで製作できる。
【0061】
図7は第2の実施形態に係る電気めっき方法に用いる電気めっき装置200の概略構成を示す説明図である。
【0062】
電気めっき装置200は、例えば超臨界CO
2などの超臨界流体を混合しためっき液を充填しワークを処理するめっき槽210を備えている。
【0063】
めっき槽210には、CO
2を供給するめっき液用CO
2貯蔵タンク(めっき液用超臨界流体供給部)220と、空間SにCO
2を供給するCO
2貯蔵タンク(ガス供給部)230と、めっき槽210にめっき液を供給するめっき液タンク240とがそれぞれバルブ221,231,241を介して接続されている。ここで、貯蔵タンク230に貯蔵されるCO
2については、気体であっても超臨界流体であっても構わない。めっき槽210の内部には、めっきの対象となるSiウェハ等の円板状のワークWを保持するワーク固定治具250が配置されている。
【0064】
ワーク固定治具250は、上面が開口された円筒状の筐体251を備えている。筐体251の開口縁から中心側に向けて鍔部251aが設けられ、ワークWの表面の外縁部に沿って配置されている。
【0065】
筐体251内部には、ワークWを下面から吸着固定する吸着治具(支持部)252と、めっきの際にワークWに電極パッドを介して電流を流すための導通を取るための負極としての電極(リード)253と、吸着治具252と筐体251との空間へのめっき液の浸入を防止するためのOリング等の封止材254とを備えている。吸着治具252は、柱状の支持柱255でさらに支持され、支持柱255は筐体251に同軸的に延設されている。
【0066】
筐体251は、後述する吸着治具252に支持されたワークWの表面の周囲部分及びワークW側面と裏面を囲うように形成されめっき液からワークWを保護する機能を有している。ワークW表面を覆う領域については、最低限、電極とワークWの接点とを隠す必要がある。
【0067】
なお、
図7中Sは、筐体251と封止材254とワークWとで囲まれた空間を示しており、CO
2貯蔵タンク230に接続されている。
【0068】
陽極270と、負極としての電極253との間には、直流定電流源(めっき電源)260が配置されており、電極253には負の電位が与えられている。
【0069】
このように構成された電気めっき装置200では、次のようにして電気めっきを行う。すなわち、前処理(酸洗浄等)されたワークWを吸着治具252に吸着固定する。ワークWの端部に電極253を接続する。吸着治具252を移動させて筐体251に押し付ける等により、封止材254により、ワークWと筐体251の隙間を塞ぐ。陽極270をめっき槽210内に設置する。空間SにCO
2を満たす。
【0070】
めっき槽210にめっき液を満たす(この時、空間SのCO
2の圧力をある程度まで上げておき、めっき液が空間Sに浸入しないようにする。
【0071】
めっき槽210内の圧力が空間Sよりも小さい状態を保ちながら、めっき槽210及び空間Sに同時にそれぞれCO
2を加えていき、めっき槽210内のめっき液とCO
2の割合、圧力、温度を目的の値に調整する。状態が安定後、直流定電流源260の電源を入れ所定の時間通電する。めっき電源を切る。
【0072】
めっき槽210内の圧力が空間Sよりも小さい状態を保ちながら、圧力を常圧近くまで下げる。めっき槽210からめっき液を抜く。ワークWを取出し、水洗、乾燥する。
【0073】
このような電気めっき装置によれば、めっき液の充填〜通電〜取り出しまでの間、めっき液用CO
2貯蔵タンク220とCO
2貯蔵タンク230から送り込むCO
2の圧力を調整して「めっき槽210内の圧力」<「空間Sの圧力」の状態に保つことで、めっき液がめっき槽210から空間Sへ浸入するのを防ぎ、電極部分をめっき液から保護することができる。
【0074】
このような構成をとった理由は次の通りである。すなわち、半導体ウェハのめっき工程では、通常めっき液内に陽極板及びワーク(陰極板)を設置し、陽極板及びワークに電極(電源の負極に接続したリード)を接続し、電流を流すことでワーク表面にめっきを形成する。この際、ワークと電極の接続部分が露出していると、この部分にも電流が流れるため、めっきが析出してしまう。また、本来めっきを形成すべきウェハ表面へのイオン供給が減少し、めっき厚みにズレが生じる。これに対し、電極及びワークと電極の接続部分をテープ材でマスキングする、或いは治具を押し当てて密閉し保護する等の対策が行われている。
【0075】
しかし、超臨界流体を用いた電気めっき装置においては、めっき槽内が超臨界CO
2を溶解しためっき液で満たされており、液の圧力が大きいうえに、超臨界CO
2は流動性が大きく表面張力が小さい等の特徴があり、マスキングの内部に液がしみこんでしまうことがある。このため、超臨界流体を用いた電気めっき装置200でのめっき処理においてワークWの電極接続部へのめっき液のしみこみを抑制する必要がある。
【0076】
なお、封止材254は、例えばゴム製のOリングなどで、わざとスリットを入れてCO
2を空間Sからめっき槽210へ少しずつ超臨界CO
2が漏れるようにしても良い。めっき液中のCO
2濃度が多少上昇してもめっき性には問題ないためである。
【0077】
また、超臨界物質として、比較的低温かつ低圧の臨界点を持つ二酸化炭素を使用しているから、超臨界状態を比較的小さなエネルギ−で容易かつ速やかに得られ、その使用コストの低減を図れるとともに、めっき槽210の耐圧強度の緩和を図れ、低コストで製作できる。
【0078】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよ
い。以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]反応槽に設けられた陽極及び陰極に対して、前記陰極の電位を負にすることで陰極表面に金属膜を生成する電気めっき法において、
前記反応槽に、少なくとも被めっき金属イオンと電解質と界面活性剤を含有するめっき液と、超臨界流体とを混合して収容し、
前記被めっき金属イオンの還元時の陰分極曲線から得られる分極抵抗が、前記超臨界流体を混合する前よりも大きくなる超臨界流体濃度と陰極電流密度で電流を印加することを特徴とする電気めっき方法。
[2]前記分極抵抗が、前記超臨界流体を混合する前よりも少なくとも110%以上となる超臨界流体濃度と陰極電流密度とする[1]に記載の電気めっき方法。
[3]前記超臨界流体は、超臨界CO2流体である[1]に記載の電気めっき方法。
[4]前記印加する電流は、前記陰極表面の最大膜厚分布をX%としたときに、前記被めっき金属イオンの還元時の陰極電位が、絶対値で水素を発生する電位のX%よりも低い電位とする[1]〜[3]のいずれかに記載の電気めっき方法。
[5]反応槽に設けられた陽極及び陰極に対して、前記陰極の電位を負にすることで陰極表面に金属膜を生成する電気めっき装置において、
少なくとも被めっき金属イオンと電解質と界面活性剤を含有するめっき液と、超臨界流体とを混合して収容する反応槽と、
この反応槽に設けられた陽極及び陰極と、
これら陽極及び陰極に電流を印加し、前記被めっき金属イオンの還元時の陰分極曲線から得られる分極抵抗が、前記超臨界流体を混合する前よりも大きくなる前記超臨界流体濃度と陰極電流密度で電流を印加する電源とを備えている電気めっき装置。
[6]板状のワーク表面に金属膜を生成する電気めっき装置において、
少なくとも被めっき金属イオンと電解質とを含有するめっき液を収容すると共に陽極が設けられためっき槽と、
前記めっき槽に収容された筒状の筐体と、
この筐体に収容され、前記筐体の一方の開口部に前記ワーク表面を向け、かつ、前記ワークを裏面側から支持する柱状の支持部と、
前記筐体の開口縁から中心側に向けて設けられ、前記ワーク表面の外縁部に沿って該外縁部を覆うように設けられた鍔部と、
この鍔部と前記ワーク表面との間に設けられた封止材と、
前記ワーク表面の前記封止材より外周側に接続される電極と、
前記支持部と前記筐体との間の空間に高圧気体あるいは超臨界流体を供給するガス供給部と、
前記めっき槽のめっき液に超臨界流体を供給するめっき液用超臨界流体供給部と、
前記陽極に対し、前記電極を負とする電位を印加する電源とを備えている電気めっき装置。
[7]前記高圧気体あるいは超臨界流体は、CO2である[6]に記載の電気めっき装置。
[8]ガス供給部と前記めっき液用超臨界流体供給部とは、前記めっき槽内の圧力を前記空間の圧力より低い状態に保つように調整されている[6]に記載の電気めっき装置。