(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6400542
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】車両荷物室のヒーター構造体
(51)【国際特許分類】
B60H 1/22 20060101AFI20180920BHJP
B62D 33/04 20060101ALI20180920BHJP
F24D 13/02 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
B60H1/22 611A
B62D33/04 Z
F24D13/02 H
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-172886(P2015-172886)
(22)【出願日】2015年9月2日
(65)【公開番号】特開2017-47793(P2017-47793A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2017年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229900
【氏名又は名称】日本フルハーフ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】伊東 慎
【審査官】
田中 一正
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−239044(JP,A)
【文献】
特開平10−250454(JP,A)
【文献】
登録実用新案第3156655(JP,U)
【文献】
特開2013−216155(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0215589(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/22
B62D 33/04
F24D 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱用パネルで囲まれた車両用の箱型荷台の荷室に設置されるヒーター構造体であって、
前記ヒーター構造体は、平坦な底面、前記底面の周縁から上方に延びる周壁及び前記周壁の上端から外側に延びる鍔部を有する断面ハット状の底板と、前記底板の底面の上面に置かれた板状の断熱材と、前記断熱材の上面に置かれた面状の電気式ヒーターとを備え、
前記底板の周壁の内側には、前記断熱材及び前記電気式ヒーターを覆う合成樹脂材が充填され、前記合成樹脂材の上面は前記底板の鍔部の上面と面一となるように設定されている、ことを特徴とするヒーター構造体。
【請求項2】
前記面状の電気式ヒーターが、PTC特性を有する面状発熱体からなる請求項1に記載のヒーター構造体。
【請求項3】
前記面状の電気式ヒーターの上面にはアルミニウム製の板部材が設置され、前記板部材は前記断熱材及び前記電気式ヒーターと共に前記合成樹脂材によって覆われる、請求項1又は2に記載のヒーター構造体。
【請求項4】
前記合成樹脂材はエポキシ樹脂である、請求項1乃至3のいずれかに記載のヒーター構造体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のヒーター構造体を設置した箱型荷台の床構造であって、
前記床構造は断熱用パネルと床表面材とを備えており、
前記ヒーター構造体が前記断熱用パネルに埋め込まれ、前記合成樹脂材の上面が前記床表面材の上面と面一となるよう設定される床構造。
【請求項6】
長方形形状の複数の前記ヒーター構造体が間隔を置いて設置され、前記複数のヒーター構造体の間には前記床表面材が存在する請求項5に記載の床構造。
【請求項7】
前記ヒーター構造体が断面ハット状のインナーパンに収容された状態で前記断熱用パネルに埋め込まれ、前記ヒーター構造体の鍔部が前記インナーパンの鍔部に固着される請求項5又は6に記載の床構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の温度以上に保温する必要のある貨物を運搬するため、断熱用パネルにより囲まれた密閉式の箱型荷台を搭載する車両において、箱型荷台の荷室に設置して使用される電気式ヒーターを備えたヒーター構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
貨物輸送用の車両であるトラックの荷台として、屋根を備え周囲が密閉された直方体形状の箱型荷台が広く普及している。箱型荷台には、風雨等による貨物の損傷を防止でき、梱包を簡易化できるとともに荷崩れの防止も容易である、という利点がある。また、箱型荷台では、周囲を断熱用パネルで囲んで荷室内の温度を低温に保持し、生鮮食料品等の劣化を防止することも広く行われているが、輸送される貨物の中には、凍結によって品質の劣化を生じる貨物も多く存在するため、場合によっては、箱型荷台の荷室内の温度を所定の温度以上に保温する必要がある。例えば、寒冷地の厳冬期において、外気の温度が−20℃を下回るような環境においては、箱型荷台が断熱用パネルによって囲まれていても、収容された貨物の凍結による品質劣化が起こり易い。
【0003】
荷室内の温度を所定の温度以上に保温するために、荷室内を加温する装置を備えた箱型荷台が知られている。一例として、実用新案登録第3036665号公報に記載された荷台は、ビールや清涼飲料水等を輸送するための荷台であって、
図8(a)に示すとおり、荷台VBの床下には、暖房パイプHP1、HP2が設置されている。暖房パイプHP1等の下側には断熱材INが敷設されるとともに、荷台VBの内側面にも断熱材INが取り付けられている。
暖房パイプHP1等は、
図8(b)に示すとおり、車両のエンジンを冷却して高温となったエンジン冷却水が流れるよう、ラジエータRAを備えたエンジン冷却水の循環系統に接続されている。寒冷地において、運搬するビール等が凍結する恐れのあるときは、ラジエータRAに流通させる高温のエンジン冷却水を、電磁弁SVを切り換えて暖房パイプHP1等に流し、荷台VBを加熱して、ビール等の凍結による食味の低下を防止する。
【0004】
また、図示は省略するが、特許第3246866号公報に開示された箱型荷台の荷室内の加温装置は、荷室の床板を上板と下板からなる2重構造として中間の部屋に温風を供給し、その温風を、上板に設けた吹き出し口から荷室内に吹き出すものである。温風の熱源としては車両のエンジンの排気熱が用いられ、排気熱との熱交換により高温となった外気が荷室内に吹き出される構造となっている。この加温装置には、車両のエンジンが停止中であっても外気の加熱を可能とするため、車載のバッテリ等に接続される電気式ヒーターが付帯設備として装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3036665号公報
【特許文献2】特許第3246866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
貨物の凍結を防止するよう箱型荷台を加温する装置は、特許文献1又は2に記載された装置のように、車両エンジンを冷却した後の高温の冷却水など、エンジンの排熱を加熱源とするものが多い。こうした加温装置は、排熱を有効利用するもので省エネルギという観点では好ましいものの、荷台の床下に高温流体用のパイプを埋設する等、大掛かりな設備を準備する必要がある。寒冷地においては、パイプ内の冷却水が凍結する場合があり、その対策も必要となるので車両が高コストとなるという問題もある。
本発明の課題は、貨物の凍結を防止するよう箱型荷台の荷室内を加温する装置を設け、上述の問題点を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題に鑑み、本発明は、断熱パネルにより囲まれた密閉式の箱型荷台の荷室に、面状の電気式ヒーターを埋め込んだヒーター構造体を設け、荷室内を所定温度以上の温度で保温するときは、面状の電気式ヒーターに通電して加熱するようにしたものである。すなわち、本発明は、
「断熱用パネルで囲まれた車両用の箱型荷台の荷室に設置されるヒーター構造体であって、
前記ヒーター構造体は、平坦な底面、前記底面の周縁から上方に延びる周壁及び前記周壁の上端から外側に延びる鍔部を有する断面ハット状の底板と、前記底板の底面の上面に置かれた板状の断熱材と、前記断熱材の上面に置かれた面状の電気式ヒーターとを備え、
前記底板の周壁の内側には、前記断熱材及び前記電気式ヒーターを覆う合成樹脂材が充填され、前記合成樹脂材の上面は前記底板の鍔部の上面と面一となるように設定されている」ことを特徴とするヒーター構造体となっている。
【0008】
請求項2に記載のように、前記面状の電気式ヒーターが、PTC特性を有する面状発熱体からなることが好ましい。また、請求項3に記載のように、前記面状の電気式ヒーターの上面にアルミニウム製の板部材を設置し、前記板部材は前記断熱材及び前記電気式ヒーターと共に前記合成樹脂材によって覆われることが好ましい。
【0009】
請求項4に記載のように、前記合成樹脂材はエポキシ樹脂であるのが好ましい。
【0010】
ところで、本発明のヒーター構造体は、箱型荷台の床に設置して使用するのが一つの好適な使用態様である。この場合には、請求項5に記載のように、箱型荷台の床構造としては、断熱用パネルと床表面材とを備え、前記ヒーター構造体が前記断熱用パネルに埋め込まれ、前記合成樹脂材の上面が前記床表面材の上面と面一となるよう設定される構造とすることができる。
【0011】
請求項5に記載の床構造においては、請求項6に記載のように、長方形形状の複数の前記ヒーター構造体が間隔を置いて設置され、前記複数のヒーター構造体の間には前記床表面材が存在している構造とするのが好ましい。さらに、請求項7に記載するように、前記ヒーター構造体が断面ハット状のインナーパンに収容された状態で前記断熱用パネルに埋め込まれ、前記ヒーター構造体の鍔部が前記インナーパンの鍔部に固着されるようにするのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のヒーター構造体は、車両に搭載される箱型荷台の荷室であって、断熱用パネルにより囲まれた荷室に設置されるもので、ヒーター構造体の内部には、面状の電気式ヒーター(フイルムヒーター)が配置されており、このヒーターに通電して加熱することにより荷室内を加温する加温装置となっている。
【0013】
本発明のヒーター構造体の加熱方式は電気的加熱であり、車載のバッテリなどから電力が供給されるので、車両のエンジンの作動状態とは関係なく、例えば、エンジンがいわゆるアイドリングストップの状態であっても加温を行うことができる。商用電源が使用可能なときは、これから電力を供給してバッテリの消耗を防ぐようにしてもよい。
ヒーター構造体の面状の電気式ヒーターから生じた熱は、上方の合成樹脂材に伝達されて合成樹脂材の温度が上昇する。このとき、面状の電気式ヒーターの下方には断熱材が配置してあるため、電気式ヒーターの熱は効率よく上方の合成樹脂材に伝達され、合成樹脂材の温度を上昇させる。そして、高温となった合成樹脂材の上面から、輻射又は自然対流によって熱が荷室内に伝達され、荷室内が効率的に加温される。また、断熱材及び電気式ヒーターは底板の周壁の内側に充填された合成樹脂材により覆われている。そのため、底板の周壁の内側には断熱層である空気が無く、これにより電気式ヒーターの発する熱は効率よく合成樹脂材に伝達される。従って、大掛かりな設備を準備することなく低コストに積載した貨物の凍結を防止することができる。
【0014】
また、本発明のヒーター構造体では、底板の周壁の内側に充填された合成樹脂材が硬化することにより、底板の周壁の内側において電気式ヒーターと断熱材及び底板とが相対的に動くことがないよう確実に保持される。これにより電気式ヒーターに接続される配線が断線することが回避され、ヒーター構造体の故障リスクが低減される。さらにまた、硬化した合成樹脂材によってヒーター構造体は防水防滴加工され、例えば、箱型荷台の荷室内にヒーター構造体が設置された状態で荷室内を水等で洗浄した場合であっても、電気式ヒーターが水に濡れることはなく短絡する虞がない。そして、合成樹脂材の上面が底板の鍔部の上面と面一となるように設定されているため、ヒーター構造体の加熱側の面には段差が無く、取り扱い時に引っ掛かりとなるような角部が存在しない。
【0015】
ところで、加温装置の露出された表面がアルミニウムのような金属製板である場合、面状の電気式ヒーターに流れる電流が変化すると、磁界の変化が生じてヒーター構造体の加熱側の面にいわゆる誘導電流が流れることがある。この電流はごく微弱なものではあるが、作業者がヒーター構造体の露出金属面に触れたときに軽い違和感を感じたり、金属製の貨物に通電する恐れがある。しかし、本発明のヒーター構造体にあっては、ヒーター構造体の加熱側の面は合成樹脂材により覆われているため、誘導電流の発生を防止できる。
【0016】
請求項2の発明は、面状の電気式ヒーターとして、PTC(正温度係数)特性を有する面状発熱体を採用するものである。よく知られているように、PTC特性の発熱体は、温度上昇により抵抗が増大する特性を備えていて、温度が一定となるよう自己制御される。そのため、これを採用することにより、電気式ヒーターの安全化及び制御の容易化を図ることができる。
【0017】
請求項3の発明のように、面状の電気式ヒーターの上面にアルミニウム製の板部材を設置し、板部材が断熱材及び電気式ヒーターと共に合成樹脂材によって覆われるようにすると、車両の振動等に起因する電気式ヒーターへの衝撃が緩和され、電気式ヒーターの損傷や劣化が防止される。また、アルミニウムは熱伝導性に優れるため、アルミニウム製の板部材を設置することにより電気式ヒーターで発生した熱を合成樹脂材へ効率よく均一に伝達することができる。
【0018】
請求項4の発明のように、合成樹脂材としてエポキシ樹脂を用いると、エポキシ樹脂は耐摩耗性に優れているため、合成樹脂材の上面と貨物等との間で摩擦が生じても、合成樹脂材は劣化しにくい。
【0019】
請求項5の発明は、本発明のヒーター構造体を床面に設置した箱型荷台の床構造であって、床面に露出するヒーター構造体を埋め込んだ断熱用パネルを荷台の床に敷設するとともに、断熱パネルのヒーター構造体が存在しない部分を床表面材で覆い、ヒーター構造体の合成樹脂材の上面が床表面材の上面と面一となるよう設定するものである。これによって、荷室の床面は全体的に面一になり、作業者が荷室内で作業をする際にヒーター構造体に躓くことがない。また、断熱用パネルで囲まれた、例えば、保冷車のような車両用の箱型荷台では、天井面から床面まで上下方向に延びる移動可能な仕切り壁(いわゆる中仕切り)を設け、荷室内を温度の異なる部屋に分割する荷台が多いが、こうした仕切り壁を設置する場合でも、ヒーター構造体が突出しないので、仕切り壁の移動の障害となることはなく、仕切り壁の下端と床表面との間に隙間が生じることはない。
さらに、本発明のヒーター構造体に内蔵される電気ヒーターは薄く、このヒーター構造体を箱型荷台の荷室の床構造に設置することで、床下に高温流体用のパイプを設置する従来の加温装置を荷室の床構造に設置するよりも、貨物を積載する床面の高さの上昇を抑えることが可能である。
【0020】
請求項6の発明は、請求項5の床構造において、長方形形状の複数のヒーター構造体を間隔を置いて設置し、この複数のヒーター構造体の間に床表面材が存在するようにしたものである。この構成により、間隙部分の床表面材を通路として利用することができる。例えば、空きパレットを箱型荷台の荷室内で移動させる際に、空きパレットをこの通路上にて搬送させることが可能で、空きパレットとの摩耗による合成樹脂材の上面の劣化が軽減される。
さらに、請求項7の発明のように、ヒーター構造体を断面ハット状のインナーパンに収容して断熱用パネルに埋め込み、ヒーター構造体の鍔部をインナーパンの鍔部に固着すると、箱型荷台の床部材の内部に水が進入することが回避され、床部材が腐食するのを防止することができ、これにより箱型荷台の使用寿命が延びることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のヒーター構造体が床部材に設置された箱型荷台を示す図である。
【
図2】本発明のヒーター構造体の構成を示す図である。
【
図3】
図1に示す床部材に設けられた断熱パネルの構成を示す図である。
【
図4】
図3に示す状態にインナーパンを設置する図である。
【
図5】
図4に示す状態に床表面材を設置する図である。
【
図6】
図5に示す状態にヒーター構造体を設置する図である。
【
図7】本発明のヒーター構造体が荷室内の側面に設置された箱型荷台を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づいて、本発明のヒーター構造体について説明する。まず、ヒーター構造体が設置される密閉式の箱型荷台及びそれを搭載する車両の概略について、
図1を参照して説明する。以下の説明において、前後左右及び上下方向は、特に指定しない限り車両進行方向を基準とする。
【0023】
図1に示すように、本発明のヒーター構造体2が設置される車両は、箱型荷台(バンボディ)VBを搭載するトラックである。箱型荷台VBの後方には車両後方に向かって観音扉式に開く後方扉RDが設置されており、作業者はこの後方扉RDを開放することで荷室内にアクセスすることができる。箱型荷台VBは断熱用パネルにより囲まれている。図示の実施形態においては、ヒーター構造体2は箱型荷台VBの床部材FEに2個設置されている(床部材FEについては後に詳述する)。そして、寒冷地等において、凍結させたくない貨物を運搬するに際しては、本発明のヒーター構造体2の後述する電気的ヒーターに通電してこれを加熱することにより、箱型荷台VBの荷室内を加温することで貨物の凍結を防ぐ。
【0024】
次いで、ヒーター構造体2の構造について、
図2を参照して説明する。
ヒーター構造体2は、底板4と、その上面に置かれる断熱材6と、断熱材6の上面に置かれる面状の電気式ヒーター8とを備える。底板4は、平坦な長方形形状の底面10と、この底面10の周縁から上方に延びる周壁12と、この周壁12の上端から外側に延びる枠状の鍔部14とを有する断面ハット状であり、アルミニウムの如き金属製の薄板を適宜機械加工することによって形成される。
断熱材6は、発泡ポリスチレンの如き断熱性能を有する板状部材であり、底壁4の底面10の上面において周壁12とわずかな隙間を有して設置されている。
【0025】
面状の電気式ヒーター8は、この例では、半導体を利用してPTC特性を持たせた2個の面状発熱体FH(フイルムヒーター)から構成され、各々の面状発熱体FHには、ケーブルCBを経由して、車載のバッテリBTから電力が供給される。
図1の箱型荷台VBには、図示は省略するが、ケーブルCBをバッテリBTに接続するコネクタが設置してある。このコネクタには商用電源が接続可能となっており、商用電源から面状発熱体FHに通電することもできる。
【0026】
2個の面状の電気式ヒーター8の上面には夫々電気式ヒーター8と平面視において同一形状のアルミニウム製の板部材16が設置される。電気式ヒーター8の上面に板部材16を設置することで、車両の振動等による面状の電気式ヒーター8への衝撃が緩和され、面状の電気式ヒーター8の損傷や劣化が防止される。
【0027】
本発明のヒーター構造体2にあっては、底板4の周壁12の内側に、板材16と共に断熱材6及び電気式ヒーター8を覆う熱硬化性の合成樹脂材18が充填される。合成樹脂材18が硬化することで、底板4の周壁12の内側において電気式ヒーター8と断熱材6及び底板4とが相対的に動くことがないよう確実に保持される。これにより電気式ヒーター8に接続された配線が断線することが回避され、ヒーター構造体2の故障リスクが低減される。また、硬化した合成樹脂材18によってヒーター構造体2は防水防滴加工され、例えば箱型荷台VBの荷室内にヒーター構造体2が設置された状態で荷室内を水等で洗浄した場合であっても、電気式ヒーター8が水に濡れることはなく短絡する虞がない。
さらに、本発明のヒーター構造体2にあっては、合成樹脂材18の上面は底板4の鍔部14の上面と面一となるように設定されている。このようにすることで、ヒーター構造体2の加熱側の面には段差が無く、取り扱い時に引っ掛かりとなるような角部が存在しない。合成樹脂材18としてはエポキシ樹脂が好適である。合成樹脂材18をエポキシ樹脂とすることで、エポキシ樹脂は耐摩耗性に優れているため、合成樹脂材18の上面と貨物等との間で摩擦が生じても、合成樹脂材18は劣化しにくい。
【0028】
本発明にかかるヒーター構造体2の作用は以下のとおりである。
ヒーター構造体2を作動させる際には、電気式ヒーター8に通電する。電気式ヒーター8に通電されると、電気式ヒーター8は加熱され、電気式ヒーター8によって生じた熱が板部材16を介して合成樹脂材18に伝達される。このとき、面状の電気式ヒーター8の下方には断熱材6が配置してあるため、電気式ヒーター8の熱は下方には伝達されず、上方の合成樹脂材18に効率よく伝達される。さらに、板部材16はアルミニウム製であるため熱伝導性に優れ、面状の電気式ヒーター8で発生した熱を合成樹脂材18へ効率よく均一に伝達することができる。
さらにまた、底板4の周壁12の内側には合成樹脂材18が充填され、電気式ヒーター8と板部材16とが合成樹脂材18により覆われることにより、底板4の周壁12の内側には断熱層の役割を果たす空気を含むことがなく、これにより電気式ヒーター8が発する熱は効率よく合成樹脂材18に伝達され、合成樹脂材18が加熱される。そして、高温となった合成樹脂材18の上面から、輻射又は自然対流によって熱が荷室内に伝達され、荷室内が均等に加温される。
【0029】
次いで、本発明のヒーター構造体2が設置される箱型荷台VBの床部材FEの構造(即ち床構造)について、
図3乃至
図5を参照して説明する。床部材FEは、床面に露出するヒーター構造体2を埋め込んだ断熱用パネル20と、ヒーター構造体2が存在しない部分を覆う床表面材22とを備え(
図6を参照)、断熱用パネル20は、車両に設けられた左右幅方向に延びる図示しないクロスメンバーの上面に設置される。
【0030】
図3に示すように、断熱用パネル20は、下板24と、この下板24の上面に設置される緩衝材26と、この緩衝材26の上面に設置される床敷断熱材28と、この床敷断熱材28の上面に設置される上板30とを積層してなる、全体として長方形形状の板状部材である。この実施形態においては、下板24はアルミニウム製の薄板であり、緩衝材26はポリプロピレンを主原料とした熱可塑性樹脂から構成される薄板である。床敷断熱材28は発泡ポリスチレンの如き断熱性能を有する材料から構成され、ヒーター構造体2を埋め込むよう所定の領域32において肉厚が半分に低減されている。領域32は、床部材FEの面積の1/2よりも幾分小さい程度の前後方向に長い長方形形状であり、床部材FEの左右両側に間隔を置いて設けられている。
上板30は、領域32の内側に位置する第一の上板34と、領域32の外周縁に隣接して位置する第二の上板36と、第二の上板36の外周縁に隣接して位置する第三の上板38とを有し、いずれもベニヤの如き木製の薄板である。第一の上板34の外周縁は領域32の周縁より幾分内側に位置するようにして設置され、第一の上板34と第三の上板36の板厚は同じである。第二の上板36は長方形の枠状であって、その板厚は第一の上板34及び第三の上板38の板厚よりも後述するインナーパンの鍔部の肉厚分だけ薄い。
【0031】
図4に示すように、上板30の上面にはインナーパン40が設置される。インナーパン40は、平坦な底面42とこの底面42の周縁から上方に延びる周壁44とこの周壁44の上端から外方に延びる鍔部46とを有する断面ハット状の部材であり、金属製の薄板を適宜の機械加工することによって得られる。インナーパン40の板厚は、第三の上板38と第二の上板26の肉厚の差と同一である。さらに、底面42は領域32よりも幾分面積が小さいと共にヒーター構造体2の底板4の底面10よりも幾分面積が大きく、周壁44はヒーター構造体2の底板4の周壁12の高さと同一である(
図6も参照)。
2個のインナーパン40は各々、底面42が第一の上板34の上面に位置すると共に鍔部46が第二の上板36の上面に位置するようにして、設置される。このとき、インナーパン40とヒーター構造体2の底板4の形状は上記関係にあるため、鍔部46の上面は第三の上板38の上面と面一になる。そして、インナーパン40は、鍔部46の外周縁部の所定位置において、皿ボルトの如き固定後に頂面が鍔部32の上面及び第三の上板38と面一になるような適宜の固定具48により、断熱用パネル20に固定される。
【0032】
図5に示すように、床表面材22は、全体として長方形形状の板状部材であるが、所定領域において長方形形状の開口50が形成されており、金属製の薄板を適宜機械加工することによって得られる。開口50は、平面視におけるヒーター構造体2よりも大きく(
図6も参照)、平面視におけるインナーパン40よりも小さい。つまり、床表面材22は、断熱パネル20のヒーター構造体2が存在しない部分を覆う部材であって、第三の上板38の上面とインナーパン40の鍔部46の外周縁部の上面に渡って設置されている。
開口50の周縁は固定具48よりもインナーパン40の内側に位置し、開口50の周縁においてインナーパン40の鍔部46の上面に溶接される。このとき、上述したとおり、インナーパン40の鍔部46の上面(固定具48の頂面も含む)と第三の上板38の上面とは面一であるため、床表面材22は安定して設置される。このようにすることで、箱型荷台VBの荷室内を水等で洗浄した場合であっても、床部材FEの内部に水が進入することが回避され、床部材FEが腐食するのを防止することができ、これにより箱型荷台VBの使用寿命が延びる。床表面材22の後縁を除く外周縁には、上方に幾分延びる側片52が設けられている。側片52の外側面は箱型荷台VBの側壁の内周面(即ち断熱パネルの内側面)にシリコンの如きシール材を介して密着される。これにより、箱型荷台VBの荷室内を水等で洗浄した場合に箱型荷台VBの床部材FEと側壁との密着部位から床部材FEの内部に水が進入することが回避され、床部材FEの腐食がより確実に防止されると共に箱型荷台VBの使用寿命を延ばすことができる。
【0033】
図6に示すとおり、ヒーター構造体2は上述した床部材FEの断熱用パネル20に埋め込まれて箱型荷台VBに設置される。本実施形態においては、ヒーター構造体2は、床部材FEの断熱用パネル20に設置された2個のインナーパン40に各々収容された状態で埋め込まれ、ヒーター構造体2の底板4の底面10がインナーパン40の底面42の上面に位置する。また、ヒーター構造体2の底板4の周壁12がインナーパン40の周壁44の内周面より幾分内側に離隔して位置し、ヒーター構造体2の底板4の鍔部14がインナーパン40の鍔部46の上面に位置して、合成樹脂材18の上面が床表面材22の上面と面一となる。
これにより、ヒーター構造体2が箱型荷台VBの床部材FEの上面と面一になるため、作業者が荷室内で作業をする際に躓き転倒する恐れがない。さらに、本発明のヒーター構造体2に内蔵される電気ヒーター8は薄く、このヒーター構造体2を箱型荷台VBの荷室の床構造に設置することで、床下に高温流体用のパイプを設置する従来の加温装置を荷室の床構造に設置するよりも、貨物を積載する床面の高さの上昇を抑えることが可能である。ヒーター構造体2は、鍔部14の外周縁部の所定位置において、皿ねじの如き固定後に頂面が鍔部14の上面及び床表面材22の上面と面一になるような適宜の固定具54により、インナーパン40の鍔部46及び断熱用パネル20に固定される。
【0034】
次に、
図1を参照して、ヒーター構造体2が床部材FEに設置された本実施形態の箱型荷台VBの使用形態について説明する。
貨物を箱型荷台VBの荷室内に収納する際には、箱型荷台VBの後方に設けられた後方扉RDを開放して行う。通常、食料品又は飲料品の貨物は予め複数個のパレットに格納されており、このパレットを床部材FEの上面に載置しこれに積み重ねた状態で荷室内に収納される。図示の実施形態においては、前後方向に長い2個のヒーター構造体2が床部材FEの左右両側に間隔を置いて設置されており、貨物を格納したパレットはこのヒーター構造体2の上面に載置され、2個のヒーター構造体2の間に存在する床表面材22の上面には載置されない。このとき、貨物が格納されたパレットは一般的に、配送先で搬出しやすいように後方扉RD側に寄せて載置しこれに積み重ねられる。
配送中、収容された貨物の凍結による品質劣化を防止すべく荷室内の温度を所定温度以上に保温する必要がある場合には、ヒーター構造体2を作動させる。ヒーター構造体2を作動させると、上述したとおり合成樹脂材18の上面(即ち、ヒーター構造体2の加熱側の面)より熱が輻射され、荷室内が加温される。箱型荷台VBの荷室は断熱用パネルにより囲まれており外気への放熱が遮断されているため、効率良く加温される。
配送先で貨物を搬出する際には、作業者は、箱型荷台VBの後方に設けられた後方扉RDを開放して荷室からパレットごと貨物を搬出する。一方、貨物を降ろした空きパレットを回収して箱型荷台VBの荷室内に収納する際には、作業者は、2個のヒーター構造体2の間に存在する表面部材22の上面を通路として利用して、この通路上で空きパレットを滑らせて箱型荷台VBの荷室の後方から前方へ搬送し、荷室の前方側で空きパレットを積み重ねる。このようにすることで、ヒーター構造体2の合成樹脂材18の表面の摩耗による劣化を軽減させることができる。
【0035】
上述した実施形態においては、ヒーター構造体2は箱型荷台VBの床部材FEに設置されていたが、これと共に、
図7に示すように、追加的にヒーター構造体2と同形式のヒーター構造体2´を箱型荷台VBの側壁に立て掛けるようにして床部材FEの上面に載置することもできる。この場合には、箱型荷台VBを搭載した車両の移動中にヒーター構造体2´が荷室内で移動又は転倒することを防止するために、適宜の仮固定具を用いてヒーター構造体2´を箱型荷台VBの側壁内面に仮固定するのが好ましい。このようにすることで荷室内の加温性能を高めることができる。また、本発明にかかるヒーター構造体2、2´は全体的に肉厚が薄いため、このような使い方をしても荷室内で邪魔になることはない。
【0036】
以上、本発明にかかるヒーター構造体について図面を参照して詳述したが、本発明にかかるヒーター構造体はこれに限定されるものではなく、種々の変形例が考えられる。例えば、上述した実施形態においては、ヒーター構造体は床部材の左右幅方向に間隔を置いて2個設けたが、ヒーター構造体は3個以上設けてもよいし、又は、床部材全面に渡って1個、或いは、床部材の特定の領域(例えば後方部分)にのみ1個乃至複数個、設けるようにしてもよい。ヒーター構造体を複数個設けた場合には、複数個のヒーター構造体を選択的に作動させるスイッチを設け、消費電力を節約するような機構を取り入れることもできる。ヒーター構造体が設置される箱型荷台についても、荷室の前方部分へのアクセスを容易にするためのスライドドアを箱型荷台の側壁の前方部分に設置したり、荷室内を冷却する冷凍機と組み合わせて荷室内の過冷却を防止することを目的としてヒーター構造体を使用したり、荷室内を固定式又は取り外し可能な仕切り壁で複数個の部屋に分割し、ヒーター構造体を仕切り壁により仕切られた特定の部屋にのみ存在するようにしたりすることも可能である。
【符号の説明】
【0037】
2:ヒーター構造体
4:底板
6:断熱材
8:電気式ヒーター
10:底面
12:周壁
14:鍔部
16:板部材
18:合成樹脂材
20:断熱用パネル
22:床表面材
40:インナーパン
VB:箱型荷台
FE:床部材