(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
天然ゴム及び天然ゴムラテックスを原料に用いた手袋などの浸漬製品は従来より広く使用されている。
それらは、高強度な上、弾性率や硬度が低く、伸び率の高い、他のエストラマー材料には無い優れた物理的特性を有する。
しかしながら、天然ゴム中に含有する蛋白質が原因で、タイプI型の迅速型アレルギーを引き起こすことがあり、また、加硫天然ゴムに配合する加硫促進剤によるタイプIV型の遅延型アレルギー(過敏症)を引き起こすことが問題となっていた。
更に、第二級アミンからなる加硫促進剤と、空気中に存在する窒素酸化物やゴム内に残留する窒素酸化物が反応し、発がん性のN−ニトロソアミンが生成する問題があり、それらの加硫促進剤が原因で起こる健康被害問題を抱え、人と接触する恐れのある天然ゴム製品を他の材料と置き換える必要があった。
一方、性能面においては、高い強度と伸縮性・柔軟性を維持し、従来の天然ゴム製品に匹敵する優れた性能が要求され、それ故、加硫促進剤を使用せず、天然ゴムの代替として相応しい合成エストラマーを用いた浸漬製品を製造する方法が求められていた。
【0003】
現在、合成エストラマーを用いた材料が多く開発されている。特に、浸漬成型においては、主に、合成ポリイソプレン(IR)、ポリクロロプレン(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)が用いられ、これらを主原料として用いることによりタイプI型アレルギー問題を解消する。
その中でも天然ゴムの優れた性能(引張強度、伸長率、柔軟性、風合い)に最も近い、合成ポリイソプレンを用いることで、天然ゴムに匹敵する性能を見出すことが期待されている。
しかしながら、合成ポリイソプレンを主原料とした浸漬成型用の配合剤では、従来より用いられている加硫促進剤である、ジチオカルバメート系加硫促進剤やチアゾール系加硫促進剤を配合して強度を上げている。(特許文献1)
この場合、タイプIV型のアレルギーとN−ニトロソアミン問題を引き起こす恐れがあり、従って、加硫促進剤を用いない他の架橋方法が求められている。
【0004】
硫黄及び加硫促進剤による架橋以外に、代表的な架橋方法として、有機過酸化物を用いた過酸化物(パーオキサイド)架橋があり、エストラマー材料の架橋として一般的に確立されている。
過酸化物架橋は、硫黄及び加硫促進剤による架橋に比べ、配合工程が比較的単純ではあるが、欠点として、使用する過酸化物の半減期温度によっては、架橋反応を高温で行う必要があり、その為、物性において、硫黄及び加硫促進剤による架橋に比べ、弾性率が高いために硬く、強度や柔軟性に劣るという欠点があった。
更に、過酸化物架橋の反応時における酸素の存在は、生成したラジカルが酸素と結合し、架橋反応と同時にゴム主鎖の切断が起こり、酸素存在下による熱風乾燥(空気乾燥)での架橋工程では、表面にべたつきが生じてしまい、製品化が著しく困難であった。
従って、過酸化物架橋では、酸素量の少ない条件、若しくは無酸素状態で行うことが必須であり、ラテックスを用いずに固形ゴムを有機溶媒に溶解させることにより、酸素の影響を受けにくい条件で行われており、反応させやすいブタジエンユニットを有するゴムを添加している。(特許文献2)
この場合、多量の有機溶媒を用いることから、作業環境に悪く、大量生産には不向きである。
【0005】
一方、脱酸素状態である不活性溶媒として、溶融塩浴を用いた架橋方法がある。(特許文献3、4)
これらの場合、合成ポリイソプレンラテックスを用いた組成で行われているが、反応で用いた過酸化物は、1分間半減期温度が175℃と非常に高温であるジクミルパーオキサイドであり、溶融塩のような著しく高い温度条件で架橋反応を行わなければならない。
尚、架橋温度は一般に、使用する過酸化物の1分間半減期温度の20℃前後の範囲内で行うことが適切とされていることから、半減期温度が高い過酸化物を用いる限りは、架橋温度を高く設定する必要がある。
また、特許文献3では、強度や柔軟性を上げる為、硫黄を添加している。
従って、溶融塩で架橋を行うことにより、酸素の影響を受けず、表面のべたつきは抑えられるが、この場合、特殊な設備が必要であり、特に従来の浸漬成型を行う製造ラインの場合は、大量生産には向かず、製造工程はより簡易的方法で行わなければならない。
【0006】
合成ポリイソプレンラテックスを用いて硫黄や加硫促進剤を配合せずに過酸化物架橋を行った例では、過酸化物の1分間半減期温度が比較的低い過酸化ベンゾイル(130.0℃)やジラウロイルーオキサイド(116.4℃)を用いた例があるが、この場合、熟成工程を必要とし、熟成には数段階の工程と長時間を要する為、熟成条件によっては過酸化物の有効活性が著しく低下する恐れがあり、また、架橋度の制御が困難である為、出来上がった製品物性のバラつきが生じやすくなるという懸念がある。
後加硫においては、120℃と比較的高温で加熱する工程があり、更に酸素雰囲気下の熱風乾燥で行われている為、表面のべたつきが生じやすくなっている。
また、架橋剤を併用していないことから、出来上がったものは伸長率や強度が低く、柔軟性に乏しいものとなっている。(特許文献5、6)
【0007】
従って、硫黄及び加硫促進剤を用いない合成ポリイソプレンラテックスの過酸化物架橋では、上述した通り、特殊な設備を必要とせず、簡易的且つ低コストによる製造方法により、架橋度の安定した優れた物性である合成ポリイソプレンを得ることが求められている。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を以下に詳細に述べる。
本発明の第一の発明である合成ポリイソプレン架橋体(X)は、請求項1に記載の通り、合成ポリイソプレンラテックス(S−0)を原料として用い、
1分間半減期温度が100℃〜120℃未満である有機過酸化物を含む組成物を固形化し、
120℃未満の温度で架橋させた合成ポリイソプレン架橋体(X)であって、
その架橋体(X)を約1mmの厚さにシート化し、JIS K6251に準拠した方法により、4号ダンベルを用いて、速度500mm/minの条件により測定した値において、
破断点強度(TS)が15MPa以上であり、且つ、
下記の数式(1)〜(3)のうち少なくとも二つを満たし、
硫黄元素量が500ppm以下であることを特徴とする合成ポリイソプレン架橋体(X)
であり、
【数1】
【0016】
更に、請求項2に記載の通り、
下記の数式(4)〜(6)のうち全てを満たす請求項1に記載の合成ポリイソプレン架橋体(
X)である。
【数2】
【0017】
以上の条件を満たす合成ポリイソプレン架橋体
(X)は、驚くべきことに、高い破断点強度がある上、伸縮性に富んだ、非常に柔らかい特性を有する材料である。
従って、本発明における物性として、(1)高い破断点強度(2)高伸長率(3)低弾性率という特徴が挙げられ、本発明で得られる合成ポリイソプレン架橋体の力学特性を表す、前記の物性(1)〜(3)をパラメータ化する為、以下のような、数式(A)で示すパラメーターを作成した。
【数3】
【0018】
本発明の合成ポリイソプレン架橋体は、驚くべきことに、力学パラメーター値(Ω)において、下記条件を満たすことが判明した。
即ち、力学パラメータ値(Ω)は、
(a) M=300Mの場合、Ω値(300M)≧175
(b) M=500Mの場合、Ω値(500M)≧100
(c) M=700Mの場合、Ω値(700M)≧40
(a)〜(c)のうち少なくとも2つを満たすことが必須であり、本特許で得られる合成ポリイソプレン架橋体はそれらを満たすことが判明した。
合成ポリイソプレン架橋体の破断点強度(TS)は、15MPa以上であることは必須である。
【0019】
各弾性率におけるΩ値において、
(a)Ω値(300M)は、Ω≧175が必須であるが、より好ましくはΩ≧200、更に好ましくはΩ≧225、最も好ましくはΩ≧250であり、
(b)Ω値(500M)は、Ω≧100が必須であるが、より好ましくはΩ≧120、更に好ましくはΩ≧150であり、最も好ましくはΩ≧175であり、
(c)Ω値(700M)は、Ω≧40であるが、より好ましくはΩ≧50、更に好ましくはΩ≧75であり、最も好ましくはΩ≧100である。
(a)〜(c)のうち、少なくとも2つを満たすことが必須であるが、最も好ましくは、(a)〜(c)のうち全てを満たすことである。
尚、各弾性率におけるΩ値が上記規定値未満である場合は、破断点強度、伸長率及び弾性率のバランスが悪く、好ましくない。
【0020】
力学特性が高度にバランス化された合成ポリイソプレン架橋体において、数式(A)から得られる力学パラメータ値Ωを規定することにより、破断点強度、弾性率及び伸長率の最適なバランスが認識され、その値を導き出すことができ、高い柔軟性と強度を必要とする性能の一元化には相応しいパラメーターである。
破断点強度は15MPa以上は必須であり、好ましくは17.5MPa以上が好ましく、更に20MPa以上が好ましく、より好ましくは22MPa以上であり、更に好ましくは24MPa以上であり、最も好ましくは27MPa以上である。
破断点強度が15MPa未満の場合は、強度が不十分であり、使用時に破裂する恐れがあり、好ましくない。
【0021】
請求項1において規定する硫黄元素量は、加硫促進剤由来の硫黄化合物を含有させないという観点から、硫黄及び硫黄化合物を実質的に含有させないことが必須である為、より具体的な数値として、請求項1において硫黄元素の含量を500ppm以下と規定した。
尚、ここで規定する硫黄元素量は、蛍光エックス線装置を用いて測定した時の値である。
それらの一部はICP装置を用いて測定し、両者間で検量線化を行っている値でもある。
請求項1における硫黄含量は500ppm以下であることが必須であるが、好ましくは250ppm以下、より好ましくは100ppm以下、更に好ましくは50ppm以下であり、最も好ましくは検出限界以下である。
硫黄含量が500ppmを超える場合は、硫黄化合物系加硫促進剤を含有することで規定値を超え、IV型アレルギーの発症とN−ニトロソアミン問題を起こす可能性があり、また、加硫剤として硫黄を含有することにより、力学特性において、柔軟性に欠けた、高弾性・高硬度な傾向となる為、好ましくない。
硫黄含量の規定は、加硫促進剤が由来の硫黄化合物とは別に、市販されている合成ポリイソプレンラテックスの配合剤(界面活性剤、等)に、硫黄元素含有の化合物が含まれていることがあり、また、後述する、架橋剤として用いるチオール基含有シランカップリング剤との区別の為、上述の通り、硫黄元素量を規定した。
【0022】
上記、合成ポリイソプレン架橋体における優れた物性の特徴をより詳細に解説する。
請求項2に記載の通り、
下記の数式(4)〜(6)のうち全てを満たす請求項1に記載の合成ポリイソプレン架橋体(
X)である。
【数2】
【0023】
この場合は、
(1)高い破断点強度として、
破断点強度は20MPa以上であることが必須であり、より好ましくは22MPa以上、更に好ましくは24MPa以上、最も好ましくは27MPa以上であるポリイソプレン固形物である。
破断点強度が、20MPa未満の場合は、強度が不十分であり、使用時に破裂する恐れがあり、好ましくない。
(2)高伸長率として、
伸長率は900%以上が必須であり、更に好ましくは1000%以上、最も好ましくは1100%以上である。
900%未満の場合は、柔軟性に欠け、好ましくない。
(3)低弾性率として、
300M値において、1.1MPa以下が必須であり、より好ましくは1.05MPa以下、更に好ましくは1.0MPa以下、最も好ましくは0.9MPa以下である。
1.10MPa以下であれば、硫黄加硫天然ゴムと同程度又はそれ以下の弾性率であり、柔軟性において、硫黄加硫天然ゴムと同等な感触が得られる。1.10MPaを超えると、高弾性率となり手触り感が硬く、感覚的に好ましくない。
500M値において、1.9MPa以下が好ましく、更に好ましくは1.75MPa以下であり、最も好ましくは1.5MPa以下である。
1.9MPa以下であれば、硫黄加硫天然ゴムと同程度又はそれ以下の弾性率であり、柔軟性において、硫黄加硫天然ゴムと同等な感触が得られる。
1.9MPaを超えると、高弾性となり手触り感が硬く、感覚的に好ましくない。
700M値は、請求項1を満たす限り特に問題はないが、7MPa以上であると、手触り感が硬く、好ましくない。
好ましくは5MPa以下、特に好ましくは4MPa以下であり、最も好ましくは3.5MPa以下である。
従来の合成ポリイソプレンの過酸化物架橋において、架橋温度が120℃以上の高温による合成ポリイソプレン架橋体は、力学特性パラメーター値(Ω)において、(a)(b)(c)のうち、2つ以上を満たすものは無かった。
【0024】
合成ポリイソプレン架橋体における架橋密度の測定は、膨潤度により算出する。
膨潤度は、合成ポリイソプレン架橋体をトルエンなどの非極性溶媒に24時間浸し、膨潤前後の長さのから下記計算式により膨潤度を求めた。
膨潤度={膨潤後の長さ}/{膨潤前の長さ}
合成ポリイソプレン架橋体のトルエンによる膨潤度は、1.65〜2.0が好ましく、更に好ましくは1.70〜1.95、最も好ましくは、1.73〜1.90である。
【0025】
このような特徴を有する合成ポリイソプレン架橋体を製造する為の方法として、本発明の第二の発明である以下の製造方法を見出した。
即ち、請求項3に記載の通り、
(i)合成ポリイソプレンラテックス(S−0)と、1分間半減期温度が100℃〜120℃未満である有機過酸化物を
混合し、ラテックス組成物を得る工程と、
(ii)得られたラテックス組成物
を乾燥し、又は凝固液を用いて凝固し、水分を取り除い
た未架橋の合成ポリイソプレン固形物(S−1)
を得る工程と、
(iii)得られた未架橋の合成ポリイソプレン固形物(S−1)を、120℃未満の温度で架橋を行う
工程から得られる請求項1
に記載の合成ポリイソプレン架橋体
(X)の製造方法である。
【0026】
主原料として用いる合成ポリイソプレンは、重合条件により1,4−シス付加体、1,4−トランス付加体、3,4付加体、1,2付加体の4種類に分類され、本特許で用いる合成ポリイソプレンラテックス(S−0)は、これらのどの構造のものを用いても構わないが、1,4−シス付加体からなる1,4−シスポリイソプレン構造を、主として有するポリイソプレンが好ましく、
主として1,4−シス付加体を含むものでは、リチウム触媒を用いたアニオン重合法で製造されたものやチーグラー触媒を用いた配位重合法で製造されたものがある。最近では、メタロセン系触媒を用いたものや、希土類を用いた触媒系で製造されたものがあり、工業的に入手可能なものとして、リチウム触媒とチーグラー触媒が挙げられる。
リチウム触媒を用いた重合では、1,4−シス付加体を約92%程度含有し、一方、チーグラー触媒を用いた重合では、1,4−シス付加体を約98%程度含有する。一般的に、チーグラー触媒を使用して製造したものは、リチウム触媒に比べ、反応機構などの違いにより、1,4−シス付加体を高比率で含む傾向がある。
立体規則性においては、1,4−シス付加体の比率が高い程、立体規則性が高く、且つ結晶化が高いと考えられ、本発明において、1,4−シス構造を80%当量以上含有することは必須である。
立体規則性の観点から、好ましくは90当量%以上、より好ましくは92当量%以上、最も好ましくは92当量%〜99当量%未満である。1,4−シス構造が80当量%以下であると、破断点強度の大幅な向上は見られず、破断点強度、弾性率及び伸長率のバランスが悪く、好ましくない。
【0027】
合成ポリイソプレンは、固形ゴム又はラテックスの状態での入手が可能である。
固形ゴムの場合は、JSR(株)社製の製品名IR2200や日本ゼオン(株)社製の製品名Nipol IR2200、クレイトンポリマー社製の製品名Cariflex IR0307で販売されているものが挙げられる。
これらの合成ポリイソプレンは、1,4−シス構造が90%以上含有することは既知である。
尚、固形ゴムを乳化し、エマルジョン化して合成ポリイソプレンラテックス(S−0)として使用することが可能である。
一方、ラテックスとして入手可能なものは、住友精化(株)社製のセポレックスIR−100Kやクレイトンポリマー社製のCariflex IR0401、日本ゼオン(株)社製のNipol MEシリーズ(開発品)などが挙げられる。
これらは、1,4−シス構造が90%以上含有することは既知である。
特に日本国内で入手可能な製品では、住友精化(株)製のIR−100Kとクレイトンポリマー社製のIR0401が好ましく、医療用ポリイソプレンラテックスとして使用の制約の無い住友精化(株)製のIR−100Kの使用が最も好ましい。
尚、固形状態のものより、ラテックス状態の合成ポリイソプレンを用いた方が乳化の手間がかからず、高濃度で使用を可能とする為、好ましい。
【0028】
合成ポリイソプレン架橋体における製造方法で最も特徴的なことは、合成ポリイソプレンラテックス(S−0)と比較的低い半減期温度である過酸化物を用いて得られる合成ポリイソプレン固形物(S−1)を、架橋工程において、120℃未満という比較的低温による架橋反応で合成ポリイソプレン架橋体(
X)が得られることである。
比較的低温の架橋温度で得られる合成ポリイソプレンは驚くほどの柔軟性があるが、120℃以上の架橋温度であると、硬化し過ぎ、副反応が起こり易く、得られた合成ポリイソプレン架橋体は、弾性率が高く、柔軟性に欠けた硬いものとなり、また、合成ポリイソプレンの主鎖切断が起こる恐れがあり、その為、性能が悪化し、好ましくない。
120℃未満の温度であれば特に規定されないが、好ましくは50〜120℃未満であり、より好ましくは60〜110℃であり、更に好ましくは70〜100℃であり、最も好ましくは75〜95℃である。
架橋時間は、特に制限はされないが、生産性の点から2時間以内が好ましい。
但し、半減期時間の3倍以上の時間が好ましく、より好ましくは5倍以上10倍以下の時間である。
【0029】
本発明で用いる有機過酸化物の1分間半減期温度は、100〜120℃未満のであることが必須である。
1分間半減期温度が120℃以上であると、前述の通り、架橋温度を高く設定しなければならず、出来上がったものは硬化が進み、柔軟性が損なわれ、弾性率が必要以上に高くなる恐れがある。
また、1分間半減期温度が120℃以上の過酸化物は、架橋温度を低く設定すると、架橋時間に長時間を要し、その為、生産効率が非常に悪く、好ましくない。
更に、後述する、常圧水中での架橋を行う場合、加圧状態にする必要があり、効率が悪く、好ましくない。
一方、1分間半減期温度が100℃未満の場合は、室温付近で分解し、ラジカルが消滅してしまい、常温での取り扱いに高い危険性を伴い、安全性上好ましくない。
その中でも、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(1分間半減期92.1℃)(製品名パーロイルTCP、日油(株)社製)は、室温付近での保管が可能な固体であり、取扱いが比較的容易ではあるが、水素引き抜き能力が弱いことから、本発明では範囲外とした。
【0030】
従って、本発明で用いる有機過酸化物としては、
t−ヘキシルパーオキシネオデカノネート(1間半減期100.9℃)、t−ブチルパーオキシネオデカネート(1分間半減期103.5℃)、t−ブチルパーオキシネオヘプタネート(1分間半減期104.6℃)、t−ヘキシルパーオキシピバレート(1分間半減期109.1℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(1分間半減期110.3℃)、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノール)パーオキサイド(1分間半減期112.6℃)、ジラウロイルパーオキサイド(1分間半減期116.4℃)、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(1分間半減期124.3℃)、ジスクシニックアシッドパーオキサイド(1分間半減期131.8℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(2−エチルヘキシルパーオキシ)ヘキサン(1分間半減期118.8℃)より選択できる。
また、これらの有機過酸化物は単一または組合せて使用することができる。
その中でも、常温で保管が可能であり、安全性面や水素引き抜き能力の観点から、ジラウロイルパーオキサイドが最も好ましい。
【0031】
有機過酸化物の半減期とは、有機過酸化物の分解速度を表す指標であり、元の有機過酸化物量から活性酸素量の残存量が半分までに要する時間により示したものである。
尚、本特許で規定する1分間半減期温度や1時間半減期温度、10時間半減期温度は、一般に、日油(株)社の「有機過酸化物カタログ第10版」に記載された値を採用し、記載のない場合は、カタログに記載された方法と同様に、有機溶媒中における熱分解から求めた値を採用し、濃度は、0.05〜0.2mol/Lで行ったものとする。
【0032】
有機過酸化物の含有濃度は、合成ポリイソプレン中の二重結合当量数に対して0.1〜2.0当量%(モル%)が好ましく、より好ましくは0.4〜1.5当量%であり、更に好ましくは0.5〜1.3当量%、最も好ましくは0.6〜1.3当量%である。
0.1当量%未満の場合は、架橋反応が十分行われず、その為、強度が非常に弱く、好ましくない。
2.0当量%を超える場合は、架橋反応が過剰に進行し、硬くなり過ぎ、伸長率と強度が低下し、好ましくない。
【0033】
本発明で用いる有機過酸化物は、疎水性であり、合成ポリイソプレンラテックスと混合して用いる場合は、有機過酸化物を有機溶媒に溶解させた後、アニオン又はノニオン系界面活性剤を添加し、必要であれば水加え、高速撹拌し、スラリー(エマルジョン化)した、過酸化物スラリーとして用いることができる。その後、合成ポリイソプレンラテックス(S−0)に投入し、所定の時間撹拌した後、乾燥工程や凝固液での凝固により、未架橋の合成ポリイソプレン固形物(S−1)を得ることができる。
その他の方法では、有機過酸化物のスラリー(エマルジョン化)は、特開昭59−68303に記載の方法で行うと、有機溶媒を使用せずに過酸化物スラリーが製造できるので、好ましい。
尚、有機過酸化物と併用して、後述する架橋剤を用いる場合は、過酸化物スラリーと合成ポリイソプレンラテックスを混合し、次いで架橋剤を添加する方法や、エマルジョンの安定性が不安定になる場合は、界面活性剤を添加後に架橋剤を加える方法を用いることができる。
また、過酸化物のスラリーを製造する際に架橋剤を加えても良い。
【0034】
有機過酸化物エマルジョンや架橋剤を合成ポリイソプレンラテックス(S−0)に混合する際の撹拌時間は、1時間未満が好ましく、更に好ましくは30分未満である。
撹拌時間が1時間以上であると、ラテックスの安定性が悪くなり、増粘する恐れがあり、また、ラテックス中のラジカルが失活する恐れがあり好ましくない。
撹拌後は、熟成工程を介さずに、乾燥工程又は硝酸カルシウム液などの凝固液を用いて固形化する。
熟成工程が不要であることから、ラジカルの失活が最小限に留められ、有効ラジカルが一定であり、架橋度の安定した架橋体を得ることが可能である。
【0035】
有機過酸化物と併用して、特定の架橋剤を加えることにより、力学特性が向上するという特徴を有する。
架橋剤は、多官能のメタアクリレート類として、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート等が挙げられ、
多官能のアクリレート類としては、エチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート等を挙げることができる。
これらの化合物は、巴工業(株)や新中村化学工業(株)、日油(株)、共栄社化学(株)、三菱レイヨン(株)、等から入手することが可能である。
これらの架橋剤において、反応性の点から、メタアクリレート系の方がアクリレート系よりマイルドに反応が起こるため、好ましい。
より好ましくは、2官能のメタアクリレートである。尚、これらの架橋剤に存在する二重結合は、等価なので、反応性は同じである。
更にこれらの架橋剤のうち、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートが好ましく、ラテックスと混合した時に安定性が良いという特徴から、エチレングリコールジメタクリレートが好ましく、合成ポリイソプレンラテックスに混合しやすいという点で、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートが好ましい。
【0036】
一方、リモネン、ピネン等の天然物や、1,6−オクタジエン、エチリデンノルボルネン、等は、非等価の反応性の異なる二重結合基(反応基)があるので、反応をコントロールできる場合があるが、反応し難い官能基が反応しないまま残留する場合があり、好ましくない。
また、反応性が等価の場合は、二つの反応基が共に反応し易いので、架橋し易く、好ましい。
3官能基以上を有する架橋剤を使用した場合は、強度の向上は大きいが、それと共に弾性率が高くなる傾向があり、柔軟性に乏しく、好ましくない。
その他、多官能ビニル基を有する化合物や多官能チオール基を有する化合物、等を用いることができるが、チオール基を有する架橋剤を用いる場合、請求項1に記載の硫黄含量の範囲内であることが必要である。
【0037】
一方、1官能であるシランカップリング剤を架橋剤として用いることも可能である。
シランカップリング剤の場合、シラノール基が縮合することで、多官能基になり得るからである。
また、別の効果として、シランカップリング剤に含まれるシランにより、表面タックを減少させるという効果を発揮するというメリットがある。
【0038】
好ましいシランカップリング剤としては、二重結合又はチオール基を有するシランカップリング剤である。
二重結合を有するシランカップリング剤としては、(1)ビニルシラン、(2)メタクリルシラン、(3)アクリルシラン、(4)スチリルシラン、等がある。
(1)ビニルシランとしては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトシキ)シランビニルメチルジメトキシシラン及びそれらの混合物、等がある。
(2)メタクリルシランとしては、3−メタクリロキシプロピルトリメトシキシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、等がある。
(3)アクリルシランとしては、3−アクリロキシプロピルトリメトシキシラン、等がある。
(4)スチリルシランとしては、p−スチリルトリメトキシシラン、等がある。
(1)〜(4)のうち、反応性などの点から(1)ビニルシランと(2)メタクリルシランが好ましい。
また、これらのうち反応性や価格面の点から、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトシキシランが好ましく、ビニルトリメトキシシランが最も好ましい。
一方、チオール基を有するシランカップリング剤としては、3−メルカプトプロピルトリメトシキシラン、3−メルカプトプロピルトリエトシキシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、等がある。
これらのうち3−メルカプトプロピルトリメトシキシランが価格面や反応性の点で最も好ましい。
【0039】
これらの架橋剤は単一または組合せて使用することができ、数種類を用いて制御することも可能である。
尚、これらの架橋剤を配合しなくても、優れた力学特性は実現できるが、架橋剤を配合した場合の方が弾性率が低い上に、破断点強度が向上し、破断点強度、伸長率、弾性率のバランスがより向上するという特徴を発揮する。
架橋剤の配合量は、架橋剤の官能基数とポリイソプレンの二重結合当量数との比率(当量%)で0〜15当量%の濃度が必須であるが、好ましくは0.5〜10当量%であり、より好ましくは1.0〜8当量%であり、更に好ましくは2.0〜7.0当量%であり、最も好ましくは3.0〜6.0当量%である。
【0040】
過酸化物スラリーと混合した合成ポリイソプレンラテックスを乾燥し、未架橋の合成ポリイソプレン固形物(S−1)を得る場合の乾燥温度は、比較的低温で行うことが好ましく、60℃以下の温度で行うことが好ましく、より好ましくは20℃〜50℃である。
60℃を超えると、表面にべたつきが生じ好ましくない。
尚、必要に応じて酸化防止剤を加えても良い。酸化防止剤としては特に限定されないが、非汚染性の酸化防止剤で、特にフェノール系酸化防止剤が好ましい。
また、乾燥工程とは別に、過酸化物スラリー混合ラテックスを凝固液に浸漬させ、凝固させる工程を選択しても良い。
凝固液は、カルシウム塩(硝酸カルシウム、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、等)を、溶媒(水、アルコール、ケトン、等の親水性溶媒)に溶解させたものである。
尚、この凝固液に浸漬させる工程を用いた場合や、後述する架橋工程が乾燥炉内で行われる場合は、乾燥工程は省略することもできる。
乾燥工程や凝固工程により得られた未架橋の合成ポリイソプレン固形物(S−1)は、後述する架橋工程により合成ポリイソプレン架橋体(
X)を得る。
【0041】
一般に、合成ポリイソプレンの過酸化物架橋において、架橋反応と並行して発生する表面層のべたつきは製品性能を著しく低下させる。即ち、酸素の存在下で架橋反応を行うと、酸化による主鎖切断が起こる為に表面にべたつきが生じ、また、主鎖切断により伸長率が低下するという傾向がある。
その為、表面のべたつきや伸長率の低下は、架橋反応時に酸素との接触を避けることで防止することが可能である。
従って、架橋反応における雰囲気下では、実質的に無酸素状態で行わなければならない。
即ち、無酸素状態又は酸素量の極力少ない雰囲気下で架橋反応を行う場合、具体的な方法としては、(A)真空架橋、(B)不活性ガス雰囲気下で行う不活性ガス架橋、(C)溶存酸素の少ない液体中(主に水中)で行う温水架橋、等がある。
【0042】
(A)真空架橋として、
加熱炉内を真空吸引し、酸素を脱気する方法や、未架橋の合成ポリイソプレン固形物(S−1)を覆う容器や密閉できる袋に入れ、真空吸引し、容器内を真空にした状態で、容器の外側から加熱する方法を用いることができる。
ただし、加熱炉内を真空にするには、減圧吸引する必要があり、加熱炉を耐圧仕様にする必要が生じる。
【0043】
(B)不活性ガス架橋として、
不活性ガスは、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、等から選択できるが、取扱い易さや価格面などから窒素ガスが好ましい。
不活性ガス雰囲気下における架橋方法としては、加熱炉全体を不活性ガス置換する方法や、未架橋の合成ポリイソプレン固形物(S−1)を覆う容器や密閉できる袋内に入れ、その中を不活性ガス置換し、容器の外側から加熱する方法を用いることができる。
【0044】
(C)温水架橋は、水中の溶存酸素を除去する必要があり、溶存酸素を除去する方法として、不活性ガスで加圧置換を行う方法、不活性ガスで減圧置換を行う方法、不活性ガスでバブリングを行う方法やそれらを組み合わせる方法などがあり、脱酸素化に最も効果があるのは減圧置換であるが、常圧、加圧、減圧のいずれかの置換方法が選択できる。
不活性ガス置換を行う場合は、外部の酸素を遮断する密閉系で行うことが好ましく、例えば、オートクレーブなどの装置を用いることができるが、容器を密閉系にしない場合は、不活性ガスによるバブリング等で溶存酸素を系外へ除去する方法が用いられる。
この場合、装置が耐圧仕様でなくても良い為、不活性ガスを用いたバブリング方法が安価にできる点で最も好ましい。
不活性ガス置換後の架橋工程では、この方法を用いることで、架橋反応を常圧下で行うことが可能な点で好ましい。
尚、100℃以下の加熱温度の場合は、水を所定の温度に加熱しても加圧状態にならないが、100℃超え〜120℃未満の加熱温度で行う場合は、塩化ナトリウムなどの塩を水中に溶解させ、その沸点上昇を利用することにより、常圧下で行うことが可能となる。
【0045】
水中における溶存酸素量としては、4ppm未満の水中であることが好ましい。
溶存酸素量は4ppm未満であり、より好ましくは3ppm未満であり、最も好ましくは1ppm未満である。
溶存酸素量が4ppm以上であると、表面のべたつきが生じ、好ましくない。
尚、ここで用いる水としては、特に限定されないが、蒸留水、精製水、イオン交換水、水道水等から選択できる。
【0046】
特に、温水架橋は、リーチングを兼ねて行うことが可能であり、その為、工程の短縮となり、簡易的な装置で製造できることから、(A)〜(C)における架橋方法において最も好ましい方法である。
また、リーチングを行うことにより、不要な界面活性剤などの成分が取り除かれる為、強度の大幅な向上が見込まれるという効果がある。
温水架橋後は、乾燥工程により、固形物上の水分を取り除く。
乾燥温度は、特に規定はされないが、120℃未満で行うことが行うことが好ましく、より好ましくは、室温以上80℃以下である。
上記における(A)〜(C)の架橋方法は、単独又は組み合わせた方法により選択できる。
【0047】
尚、以上において解説した合成ポリイソプレン架橋体の製造工程は、従来の成型設備を用いて製造することが可能であり、成型方法としては、浸漬(ディッピング)成型、キャスティング成型、等の方法があり、好ましくは浸漬成型により行われる。
浸漬製品化する場合は、「エマルジョンラテックスハンドブック」等に記載されている従来の公知な方法により浸漬成型品を得ることができる。
本発明により得られる合成ポリイソプレン架橋体は、高い破断点強度と優れた柔軟性、伸長率の高い材料であり、更にはアレルギー発症問題やN−ニトロソアミン問題を解決する低毒性な組成物であり、医療及び衛生用材料としては特に相応しく、主に手袋やバルーン、指サック、コンドーム、カテーテル、注射針用栓には特に適しており、高い伸長率と柔軟性という特長から、手袋とバルーン、カテーテルの用途には最も適している。
その他、人の皮膚や臓器に直接接触する製品には、低毒性・無毒性であることから、非常に有用である。
更には、産業用途、特に電子材料分野、医療用途、化粧品用途、建設分野、形状記憶ゲル、人工筋肉のようなソフトなアクチュエーターなどの高性能な材料を必要とする分野で利用可能である。
【0048】
これらは請求項4〜12に記載の方法で、簡易的且つ低コストで製造することが可能である。
尚、合成ポリイソプレンラテックスの添加剤として、酸化防止剤、UV吸収剤、などを、少量添加する場合、本発明の主旨に反しない限りにおいて使用しても良い。
また、主成分の合成ポリイソプレンラテックスに加え、少量のSBRやNBR、その他のラテックスを少量添加しても主旨や請求項に記載した内容に反しない限りにおいて、使用しても良い。
以下に、実施例、比較例を挙げて、本発明について更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
本実施例及び比較例における評価方法を以下に説明する。
(1)硫黄元素の蛍光エックス線測定
蛍光エックス線装置は日本電子(株)社製JSX−3200を使用した。
膜厚約1mmのポリイソプレン固形物のシートを作製し、蛍光エックス線の強度から 試料を構成している元素の強度を読み取り、強度と含有量の関係は、標準試料を用いるか、又は規定量の試料を加えたシートを作成し、検量線を作成して求めた。
それらの一部は、ICPでも測定し、蛍光エックス線で求めた値とICPで求めた値は、非常に良好な一致を示した。
(2)力学特性
力学特性の測定は、(株)島津製作所社製のオートグラフAGS-1kgNGを使用した。
厚さ約1mmの合成ポリイソプレン架橋体(
X)のシートを作製し、4号ダンベルを用いて試験片を得た。引張試験法により、速度500mm/minで測定し、破断点までの伸び、破断点のおける強度、及び弾性率については300%弾性率、500%弾性率、700%弾性率の値をそれぞれ採用した。
(3)膨潤度
力学特性測定時のシートから、特定の大きさのシートを切り出し、室温で24時間、トルエンに浸漬させ、膨潤した長さを測定し、その前後の長さから膨潤度を求めた。
(4)溶存酸素量
溶存酸素量は(株)堀場製作所社製のポータブル型溶存酸素計HORIBA DOMETER OM−70を用いて測定した。
(5)表面性状
表面性状は、ゴムシート表面のべたつき感を、人の手触り感による官能評価で行った。
5名がゴムシート表面を手で触った時の感触を評価し、
5名全員がべたつきが無いと判定したものを「◎」で表し、
5名のうち1名以上が表面タックが残ると評価したものを「〇」、
5名のうち1名以上がややべたつくと評価したものを「△」、
5名全員が明らかにべたつくと評価したものを「×」で評価した。
【0050】
以下に、実施例について説明する。
表1〜2に実施例における諸性能を記載し、表3に比較例における諸性能を記載した。
また、表3に参考例として主原料として用いた住友精化(株)社製セポレックスIR−100Kの合成ポリイソプレン固形物シートの物性値を記載した。
【0051】
<有機過酸化物のスラリー調製>
(I)各種有機過酸化物:20.2gをビーカーに採り、クロロホルム:80gに溶解させた。完全に溶解したことを確認した後、界面活性剤を添加し、その後水で希釈し、過酸化物スラリーを得た。
尚、過酸化物の固形分濃度として10.7%となるように水の添加量を調整した。
(II)日油(株)社の特許(特開昭59−68303)に準じた方法により、ジラウロイルパーオキサイドのスラリーを調製した。
【0052】
<架橋装置>
(A)真空架橋装置
東京理化器械(株)社製の真空定温乾燥器VOS−201SDを用いた。
(B)不活性ガス架橋装置
東京理化器械(株)社製の真空定温乾燥器VOS−201SDを用いて、不活性ガス置換は、窒素ガスを用いて行った。
(C)温水架橋装置
ステンレス製の密閉可能な容器であり、窒素を導入しバブリングさせる為の配管と容器内の気体を抜く為の配管を有し、容器内を加温する機能が設けられた温水架橋装置を用いた。
【0053】
(実施例1)
合成ポリイソプレンラテックス(S−0)である住友精化(株)社製セポレックスIR(100K:150gに、ジラウロイルパーオキサイド(1分間半減期温度116.4℃)である日油(株)社の製品名「パーロイルL」を用いて(I)の方法により作成した過酸化物スラリー:48.6gを添加し、次に架橋剤として1,6−ヘキサンジメタクリレート:6.5g 添加し、液温25℃に保ち、15分間撹拌した後、静置した。
得られた過酸化物含有ポリイソプレンラテックスをガラス板上に流し込み、約40℃に加熱したホットプレート上に、24時間放置し、水分を蒸発させ、厚さ約1mmの未架橋のポリイソプレン固形物(S−1)シートを得た。
この合成ポリイソプレン固形物(S−1)シートおける配合比率(合成ポリイソプレンに対する過酸化物及び架橋剤の比率)は、表1に示すように、
[過酸化物(モル数]/[二重結合数(当量数)]×100=0.91(当量%比)となり、
[架橋剤(モル数)]/[二重結合数(当量数)]×100=1.79 (当量%比)となるので、[官能基数(当量数)]/[二重結合数(当量数)]×100=3.58 (当量%比)となっている。
得られた未架橋の合成ポリイソプレン固形物(S−1)シートを、架橋装置(C)の温水架橋装置の中に入れ、水道水を投入し、固形物シートが十分浸る高さまで加えた。
次に、室温で窒素ガスによるバブリングを15分間行い、バブリングにより容器内の水中の酸素を取り除いた。
窒素をバブリングする前の水中の酸素濃度は、6ppmであった。
窒素をバブリングした後の水中の酸素濃度は、1ppm未満であった。
その後、容器内を加温し、水温を急速に上昇させ、87℃達したところで、2時間架橋反応を行った。
2時間経過後、急速冷却を行い、50℃程度に冷却後、シートをその水から取り出し、洗浄した。
シートを取り出すまでの間、窒素バブリングは継続して行った。
シート上の水分を取り除く為、乾燥機で60℃、30分間乾燥し、得られた架橋後の合成ポリイソプレン
架橋体(
X)シートから4号ダンベルと膨潤テスト用試料を切り出し、力学特性及び膨潤テストを行った。
合成ポリイソプレン
架橋体(
X)の物性値及び評価結果は、表1に示す。
表面性状の評価では、5名中全員がべたつきが無いと評価した為、「◎」と判定した。
【0054】
(実施例2)
過酸化物及び架橋剤の濃度と架橋温度及び架橋時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0055】
(実施例3)
架橋剤をエチレングリコールジメタクリレートに変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0056】
(実施例4)
架橋剤をエチレングリコールジメタクリレートに変更し、架橋温度及び時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0057】
(実施例5)
過酸化物スラリーの製造方法を(II)の方法に変更し、過酸化物及び架橋剤の濃度を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0058】
(実施例6)
架橋剤をトリメチロールプロパントリメタクリレートに変更し、過酸化物及び架橋剤の濃度を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った
【0059】
(実施例7)
架橋剤をビニルトリメトキシシランに変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0060】
(実施例8)
架橋剤を3−メルカプトプロピルトリメトキシシランに変更し、過酸化物及び架橋剤の濃度を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0061】
(実施例9)
架橋剤を配合せず、過酸化物の濃度を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0062】
(実施例10)
架橋剤をエチレングリコールジメタクリレートに変更し、過酸化物及び架橋剤の濃度を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0063】
(実施例11)
架橋剤をエチレングリコールジメタクリレートに変更し、架橋温度及び架橋時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0064】
(実施例12)
架橋剤をネオペンチルグリコールジメタクリレートに変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0065】
(実施例13)
架橋剤をエチレングリコールジメタクリレートに変更し、温水架橋装置で用いる水道水の代わりに食塩水を用いて架橋温度を110℃に変更し、架橋時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0066】
(実施例14)
温水架橋装置で窒素ガスを置換する際の窒素バブリングを溶存酸素量1.5ppmになったところで停止し、その溶存酸素量の状態で架橋を行った以外は、実施例1と同様の方法で行った。
表面性状の評価では、5名中3名が表面タックが残ると評価し、2名がべたつきが無いと評価した為、「〇」と判定した。
【0067】
(実施例15)
温水架橋装置で窒素ガスを置換する際の窒素バブリングを溶存酸素量3.5ppmになったところで停止し、その溶存酸素量の状態で架橋を行った以外は、実施例1と同様の方法で行った。
表面性状の評価では、5名中4名がややべたつくと評価し、1名が表面タックが残ると評価した為、「△」と判定した。
【0068】
(実施例16)
架橋剤をエチレングリコールジメタクリレートに変更し、架橋装置(A)の真空架橋装置による真空下での架橋を行った以外は、実施例1と同様の方法で行った。
尚、装置内の酸素量を測定したところ、酸素量は1ppm未満であった。酸素量の測定は、新コスモス電機(株)社製の酸素濃度計XP−3180を用いた。
【0069】
(実施例17)
架橋剤をエチレングリコールジメタクリレートに変更し、過酸化物及び架橋剤の濃度と、架橋温度及び架橋時間を変更し、架橋装置(B)の不活性ガス架橋装置で架橋を行った以外は、実施例1と同様の方法で行った。
尚、実施例16と同じ測定方法で、装置内の酸素量を測定したところ、酸素量は1ppm未満であった。
【0070】
(実施例18)
架橋装置(B)の不活性ガス架橋装置で架橋を行った以外は、実施例1と同様の方法で行った。
尚、実施例16と同じ測定方法で、装置内の酸素量を測定し、酸素量を2.5ppmになったところで、架橋を行った。
表面性状の評価では、5名中3名が表面タックが残ると評価し、2名がべたつきが無いと評価した為、「〇」と判定した。
【0071】
(実施例19)
指サックの金型を用いた浸漬加工を行う為、過酸化物スラリーと合成ポリイソプレンラテックスを混合した液に指サックの金型を浸漬し、浸漬したものを取り出した後、硝酸カルシウムとエタノールの凝固液に浸漬させ、厚さ約0.3mmの皮膜を得た。
次に、架橋装置(C)の温水架橋装置で架橋を行い、得られた架橋皮膜を金型から取り外し、乾燥機で70℃、10分乾燥し、指サック成型品を得た。
尚、過酸化物等の配合比と配合方法、及び架橋条件は、実施例1と同様の方法で行った。
【0072】
(比較例1)
過酸化物をジベンゾイルパーオキサイド(1分間半減期温度130.0℃)である日油(株)社の製品名「ナイパーBW」に変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0073】
(比較例2)
過酸化物をジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート(1分間半減期温度92.1℃)である日油(株)社の製品名「パーロイルTCP」に変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0074】
(比較例3)
レドックス触媒として、還元剤に和光純薬工業(株)社のテトラエチレンペンタミン(TEPA)と、過酸化物はt−ブチルハイドロパーオキサイド(1分間半減期温度260.7℃)である日油(株)社の製品名「パーブチルH−69」を用いて、架橋剤を用いずに反応を行った。
尚、(I)の方法でクロロホルムを用いずに作成した過酸化物スラリーと合成ポリイソプレンラテックスを混合し、次いで、還元剤を混合し、過酸化物と合成ポリイソプレンラテックスの組成物を得た。
過酸化物の濃度と、架橋温度及び架橋時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0075】
(比較例4)
過酸化物をジクミルパーオキサイド (1分間半減期温度175.2℃)である日油(株)社の製品名「パークミルD」に変更した以外は実施例1と同様の方法で行った。
【0076】
(比較例5)
架橋温度及び架橋時間を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0077】
(比較例6)
架橋剤をエチレングリコールジメタクリレートに変更し、過酸化物及び架橋剤の濃度を変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0078】
(比較例7)
架橋剤をグリセリントリアクリレートに変更した以外は、実施例1と同様の方法で行った。
【0079】
(比較例8)
架橋装置(C)を用いて、窒素バブリングをせずに、溶存酸素量6ppmの状態で架橋を行った以外は、実施例1と同様の方法で行った。
表面性状の評価では、5名中全員が明らかにべたつくと評価した為、「×」と判定した。
【0080】
【表1】
【表2】
【表3】