(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6400639
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法
(51)【国際特許分類】
C04B 22/14 20060101AFI20180920BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20180920BHJP
C04B 24/14 20060101ALI20180920BHJP
C04B 24/26 20060101ALI20180920BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
C04B22/14 A
E21D11/10 D
C04B24/14
C04B24/26 E
C04B24/26 H
C04B28/02
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-140094(P2016-140094)
(22)【出願日】2016年7月15日
(65)【公開番号】特開2018-8855(P2018-8855A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2017年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 崇
(72)【発明者】
【氏名】室川 貴光
(72)【発明者】
【氏名】三島 俊一
(72)【発明者】
【氏名】谷田 直哉
【審査官】
小川 武
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−168999(JP,A)
【文献】
特開2006−062956(JP,A)
【文献】
特表2002−535239(JP,A)
【文献】
特開2005−104826(JP,A)
【文献】
特開2007−055831(JP,A)
【文献】
社団法人 セメント協会,セメントの種類と用途,セメントの常識,日本,1998年11月,p.12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 22/14
C04B 24/14
C04B 24/26
C04B 28/02−28/12
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント100質量部に対して、硫酸アルミニウムを固形分換算で0.5〜5質量部と、タンパク質を0.01〜5質量部と、及びカルボン酸又はその1価塩を主要構成単量体単位とする重合体を0.1〜10質量部とを含有する、吹付け材料。
【請求項2】
カルボン酸又はその1価塩が、アクリル酸、メタクリル酸又はマレイン酸である請求項1記載の吹付け材料。
【請求項3】
請求項1又は2のうちの一項記載の吹付け材料を使用する吹付け工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路、鉄道、及び導水路等のトンネルにおいて、露出した地山面へ急結性セメントコンクリートを吹付ける際に使用するリバウンド低減剤、吹付け材料、及びそれを用いた吹付け工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル掘削等、露出した地山の崩落を防止するために、液体急結剤をコンクリートに混合した急結性コンクリートの吹付け工法が用いられている。(特許文献1、2、3)
この工法は、通常、掘削工事現場に設置した計量混合プラントで、セメント、骨材、及び水を計量混合して吹付け用のコンクリートを調製し、それをアジテータ車で運搬し、コンクリートポンプで圧送し、途中に設けた合流管で他方から圧送された急結剤と混合して急結性吹付けコンクリートとし、地山面に所定の厚みになるまで吹付ける工法である。
しかしながら、この工法では、硬化が遅く、次工程に移るまでに時間を要し、経済的に好ましくないという課題があった。
そこで、法面の吹付け工法として、ポリエチレンオキサイドとトリスフェノール系縮合物やビスフェノール系縮合物と硫酸アルミニウムやアルカリ金属珪酸塩を用いた吹付け材料が提案されている。(特許文献4、5、6)
しかしながら、硬化にかかる時間が遅く、また粉じんの発生量が高く、作業者の安全性に課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3600155号公報
【特許文献2】特許第3960590号公報
【特許文献3】特許第4037160号公報
【特許文献4】特開2001−335352号公報
【特許文献5】特開2001−335353号公報
【特許文献6】特開2001−335350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、硬化時間が速く、トンネル地山への付着が高く、粉じんの発生を抑えた吹付け材料用セメント混和剤、吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、(1)硫酸アルミニウム、タンパク質、及びカルボン酸又はその1価塩を主要構成単量体単位とする重合体を含有してなる吹付け材料用セメント混和剤、(2)カルボン酸又はその1価塩が、アクリル酸、メタクリル酸又はマレイン酸である(1)の吹吹付け材料用セメント混和剤、(3)セメントと(1)又は(2)の吹付け材料用セメント混和剤を含有してなる吹付け材料、(4)セメント100部に対して、硫酸アルミニウムを固形分換算で0.1〜5部含有してなる(3)の吹付け材料、(5)(3)又は(4)のいずれかの吹付け材料を使用する吹付け工法、である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の吹付け材料用セメント混和剤、吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、硬化時間が速く、トンネル地山への付着が高く、粉じんの発生を抑え作業者への安全性が高く、工期が短縮できるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明で云う部は特に規定のないかぎり質量基準である。
また、本発明で云うセメントコンクリートとは、モルタルやコンクリートを総称するものである。
【0008】
本発明で使用する硫酸アルミニウムは、セメントコンクリートと混合することでスランプを低下し、吹付け直後におけるセメントコンクリートのダレやずり落ちを防止するものであり、ポリアルキレンオキサイド、及びカルボン酸またはその1価塩を主要構成単量体単位とする重合体と併用することで、これらをそれぞれ単独で用いた場合より吹付け直後におけるセメントコンクリートのダレやずり落ちを防止する効果を大きくするものである。
硫酸アルミニウムは、粉末状として無水物と含水物があり、また、水に溶解して水溶液としたものがあり、いずれも使用可能であるが、このうち、セメントコンクリートとの混合性が良好な面から水溶液として使用するのが好ましい。
硫酸アルミニウムの使用量は、セメント100部に対して、固形分換算(無水物)で0.1〜5部が好ましく、0.5〜3部がより好ましい。0.1部未満ではセメントコンクリートの付着が小さい場合があり、5部を越えるとセメントコンクリートの凝結・硬化が促進され過ぎ、リバウンド率が高くなる場合がある。
【0009】
本発明で使用するタンパク質は、カルボン酸又はその1価塩を主要構成単量体単位とする重合体との相互作用によりセメントコンクリートに粘性を与え、吹付け直後におけるセメントコンクリートのダレやずり落ちを防止するものである。
タンパク質としては、ポリペプチド鎖を持つ高分子であり、構成アミノ酸の数が50個以上すなわち分子量が5000以上のものであれば特に限定されるものではなく、プロラミン、コラーゲン、ゼラチン、グルー、カゼイン、石油人造タンパク等及びこれらの混合物からなるものが使用可能である。
タンパク質の使用量は、セメント100部に対して、0.01〜5部が好ましく、0.5〜3部がより好ましい。0.01部未満ではセメントコンクリートの粘性が小さく、吹付けたときにダレが生じ、セメントコンクリートが斜面から流れ落ちる場合があり、5部を越えるとセメントコンクリートの粘性が大きくなり、圧送性に支障が生じる場合がある。
【0010】
本発明で使用するカルボン酸又はその1価塩を主要構成単量体単位とする重合体(以下、重合体という)は、タンパク質と反応した瞬間にセメントコンクリートに可塑性を与え、吹付け直後の吹付け面からのセメントコンクリートのダレを防止し、リバウンド率を低減するものである。カルボン酸又はその1価塩(以下、「不飽和カルボン酸(塩)」という。)を主要構成単量体単位とするものであり、不飽和カルボン酸(塩)の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸及びケイヒ酸並びにその一価塩などが挙げられる。これらの不飽和カルボン酸(塩)の内、二種以上を併用してもよい。本発明においては、アクリル酸(塩)、メタクリル酸(塩)又はマレイン酸(塩)を用いることが好ましく、アクリル酸(塩)を用いることが特に好ましい。
重合体の重量平均分子量は3000以上であり25000 以下の低分子量重合体が好ましい。3000より低いと可塑が十分でない場合があり、25000を超えると圧送性が低下する場合がある。
重合体の使用量は、セメント100部に対して、0.1〜10部が好ましく、0.5〜5部がより好ましい。0.1部未満ではセメントコンクリートの粘性が小さく、吹付けたときにダレが生じ、セメントコンクリートが斜面から流れ落ちる場合があり、0.5部を越えるとセメントコンクリートの粘性が大きくなり、圧送性に支障が生じる場合がある。
【0011】
本発明で使用するセメントは、特に限定されるものではなく、普通、早強、超早強、中庸熱、及び低熱等の各種ポルトランドセメントや、これらポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石微粉末、又はシリカを混合した各種混合セメント、さらには、アルミナセメントや膨張セメントやコロイドセメントやエコセメントなどのいずれも使用可能である。
【0012】
本発明では、前記各材料や、砂や砂利などの骨材の他に、減水剤、AE剤、繊維、凝結促進剤及び微粉等を本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で併用することが可能である。
【0013】
本発明において、減水剤は、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物、及びポリカルボン酸系高分子化合物等が使用可能である。AE剤はセメントコンクリートの凍害を防止するものである。繊維は特にアンカー部のひび割れ防止に有効なものである。
本発明において、凝結促進剤は、フッ素、アルカリ金属、アルカノールアミン、グリセリン、珪酸塩、アルミン酸アルカリ、消石灰、石膏、カルシウムアルミネート類やカルシウムサルホアルミネート類などが挙げられ、これらを併用することも可能である。
また、微粉は空隙を埋めて緻密構造を形成し、高強度化を図るものであり、シリカフューム等が使用可能である。
【0014】
本発明において、セメント、骨材、及び水等を混合する装置としては、既存の撹拌装置が使用でき、例えば、傾胴ミキサ、オムニミキサ、V型ミキサ、ヘンシェルミキサ、及びナウタミキサ等が使用可能である。
【0015】
本発明において、セメントコンクリート中のセメントの使用量は、330〜500kg/m
3が好ましく、水セメント比は40〜65%が好ましい。
【0016】
本発明の吹付け工法としては、乾式吹付け工法や湿式吹付け工法が可能である。乾式吹付け工法は、例えば、セメント、骨材を混合して空気圧送し、水と液状急結剤を合流混合して吹付ける工法である。湿式吹付け工法は、例えば、予め、セメント、骨材、及び水を混合してセメントコンクリートとし、これをポンプ圧送、又は空気搬送して液状急結剤を合流混合して吹付ける工法である。このうち、乾式吹付け工法では粉塵量が多くなる場合があるため、湿式吹付け工法を用いることが好ましい。
【0017】
本発明の吹付け工法においては、従来の吹付け設備等が使用可能である。吹付け設備は吹付けが充分に行われれば特に限定されるものではなく、例えば、セメントコンクリートの圧送にはシンテック製のコンクリートポンプ等が使用可能であり、液状急結剤の圧送にはオカサン機工製のスクイズポンプ等が使用可能である。
【0018】
本発明において、セメントコンクリートの圧送速度は4〜20m
3/hが好ましく、セメントコンクリートのポンプ圧送圧力は2〜6MPaが好ましい。
【0019】
本発明の吹付け材料用セメント混和剤を圧送してセメントコンクリートに添加混合する圧縮空気量は、セメントコンクリートが混和剤の圧送管内に侵入し、圧送管内が閉塞するのを防ぐ点で、4〜10m
3/minが好ましい。
【0020】
本発明の吹付け材料用セメント混和剤とセメントコンクリートとの合流点は、混合性を良くするために、管の形状や内壁をらせん状や乱流状態になりやすい構造とすることが可能である。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実験例に基づいて説明する。
【0022】
「実験例1」
単位セメント量455kg/m
3 、W/C=45%、及びs/a=70%とした吹付けコンクリートを調製し、これをコンクリート圧送機「アリバー280」により4m
3/hrの圧送速度、0.4MPaの圧送圧力で空気圧送した。
コンクリート中のセメント100部に対して、表1に示すタンパク質をコンクリートにあらかじめ混合した。なお、コンクリートはスランプが20cm程度になるように減水剤の使用量を調整した。
また、重合体Aと硫酸アルミニウムを同時にポンプで圧送し、コンクリート中のセメント100部に対して、それぞれ1.5部、1部(固形分換算)となるようにノズル手前に取付けた分岐管に圧送空気とともに圧入してコンクリートに混合し吹付けを行った。結果を表1に併記する。
【0023】
<使用材料>
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
細骨材:標準砂、セメント協会、比重2.64
減水剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤、市販品
水:水道水
硫酸アルミニウム:粉末硫酸アルミニウム14水塩、市販品
タンパク質A:カゼイン、市販品
タンパク質B:ゼラチン、市販品
重合体A:ポリアクリル酸、平均分子量1.5万、市販品
【0024】
<測定方法>
ダレ:吹付けノズルを一定高さで保ちながら厚み3cmとなるように均一に吹き付けダレの有無を確認し、ダレた長さを測定し付着性の指標とした。
硬化時間:吹付け材料を吹付けてから、指触により凹みがなくなるまでの時間を測定し付着性の指標とした。
粉じん量:吹付け5分後に吹付け場所より5mの定位置で測定。測定装置は、柴田科学社製デジタル粉じん計P−5Lを使用した。
【0025】
【表1】
【0026】
表1より、本発明において、タンパク質を所定量混入することでより付着性がよく、粉じん量が抑えられることが判った。
【0027】
「実験例2」
コンクリート中のセメント100部に対して、タンパク質を1部混合し、表2に示す重合体を用いたこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表2に併記する。
また、比較として、重合体の代替としてトリスフェノール系縮合物やビスフェノール系縮合物を添加したものも表2に示す通り実施した。
【0028】
【表2】
【0029】
<使用材料>
重合体A:ポリアクリル酸、平均分子量1.5万、市販品
重合体B:ポリアクリル酸ナトリウム、平均分子量1.5万、市販品
重合体C:マレイン酸、平均分子量1.5万、市販品
重合体D:メタクリル酸、平均分子量1.5万、市販品
トリスフェノール系縮合物:4-アミノベンゼンスルホン酸、平均分子量2万、市販品
ビスフェノール系縮合物:ビスフェノールS、平均分子量2万、市販品
【0030】
表2より、本発明において、重合体を所定量混入することでより付着性がよく、粉じん量が抑えられることが判った。
【0031】
「実験例3」
コンクリート中のセメント100部に対して、タンパク質を1部混合し、重合体Aを1.5部と表3に示す硫酸アルミニウム(固形分換算)を使用したこと以外は実験例1と同様に行った。結果を表3に併記する。
また、比較として、硫酸アルミニウムの代替としてアルカリ金属珪酸塩を添加したものも表3に示す通り実施した。
【0032】
【表3】
【0033】
<使用材料>
アルカリ金属珪酸塩:3号水ガラス、市販品
【0034】
表3より、本発明において、硫酸アルミニウムを所定量混入することでより付着性がよく、粉じん量が抑えられることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の吹付け材料用セメント混和剤、吹付け材料及びそれを用いた吹付け工法により、トンネルの吹付けコンクリートを施工する際、硬化時間が速く、トンネル地山への付着が高く、粉じんの発生を抑え作業者への安全性が高く、さらに工期が短縮できるなどの効果を奏する。