特許第6400744号(P6400744)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6400744神経前駆細胞またはその分泌タンパク質を有効成分として含む虚血性疾患または神経炎症疾患の治療用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6400744
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】神経前駆細胞またはその分泌タンパク質を有効成分として含む虚血性疾患または神経炎症疾患の治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/30 20150101AFI20180920BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20180920BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20180920BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20180920BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20180920BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20180920BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20180920BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20180920BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20180920BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20180920BHJP
   A61K 35/545 20150101ALN20180920BHJP
   A61K 35/54 20150101ALN20180920BHJP
   C12N 5/0797 20100101ALN20180920BHJP
【FI】
   A61K35/30
   A61P9/10
   A61P25/00
   A61P29/00
   A61P43/00 111
   A61P9/10 103
   A61P25/28
   A61P25/16
   A61P25/14
   A61P25/08
   A61K38/00
   !A61K35/545
   !A61K35/54
   !C12N5/0797ZNA
【請求項の数】10
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-575413(P2016-575413)
(86)(22)【出願日】2015年6月26日
(65)【公表番号】特表2017-520578(P2017-520578A)
(43)【公表日】2017年7月27日
(86)【国際出願番号】KR2015006588
(87)【国際公開番号】WO2015199499
(87)【国際公開日】20151230
【審査請求日】2017年1月25日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0080009
(32)【優先日】2014年6月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517119589
【氏名又は名称】エス−バイオメディックス
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】ドンウク・キム
(72)【発明者】
【氏名】ハンス・キム
【審査官】 六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−501208(JP,A)
【文献】 特開2012−095667(JP,A)
【文献】 特表2014−503219(JP,A)
【文献】 PLoS ONE,2012年,7(7),e39715
【文献】 Stem Cell Research,2013年,10,p.133-146
【文献】 Abstract Viewer & Itinerary Planner,2011年,41,158.12/AA28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
WPI
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞を有効成分として含む虚血性疾患、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、または脊髄損傷の治療用組成物であって、
前記PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞は、全能性幹細胞から分化された神経ロゼットから分離され、前記全能性幹細胞は、胚芽幹細胞、またはiPSCsであり、
前記PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞は、初期神経外胚葉マーカーを発現する神経ロゼット段階の細胞であ治療用組成物。
【請求項2】
前記組成物は、アンジオポエチン−1の発現を増加させることを特徴とする請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項3】
前記組成物は、グリア細胞または星状細胞の活性化を抑制することを特徴とする請求項1に記載の治療用組成物。
【請求項4】
前記組成物は、CD68またはGFAPの発現を減少させることを特徴とする請求項3に記載の治療用組成物。
【請求項5】
PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞の分泌タンパク質を有効成分として含む虚血性疾患または神経炎症疾患の治療用組成物であって、
前記PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞は、全能性幹細胞から分化された神経ロゼットから分離され、前記全能性幹細胞は、胚芽幹細胞、またはiPSCsであり、
前記PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞は、初期神経外胚葉マーカーを発現する神経ロゼット段階の細胞であり、
前記PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞は、ITS(インスリン/トランスフェリン/セレン)とbFGFとが含有された無血清動物細胞培養培地で培養され、
その後、前記分泌タンパク質は、前記細胞を除去して収得したものであり、
前記分泌タンパク質は、前記PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞を前記無血清動物細胞培養培地で培養して得た細胞培養液に含有された形態である治療用組成物。
【請求項6】
前記分泌タンパク質は、下記のタンパク質を含むことを特徴とする請求項5に記載の治療用組成物:
アグリン、アネキシンA5、BSG、ビグリカン、カルポニン−3、コアクトシン−類似タンパク質、コフィリン−1、コラーゲンα−2、クリン−3、デストリン、ジストログリカン、エフリン−B2、エクスポーチン−2、エズリン、フィブロネクチン、ファイブリン−1、Frizzled−relatedタンパク質、ゼラチン−3結合タンパク質、グラニュリン、成長/分化因子11、ハプトグロビン、ヘモペキシン、High mobility group protein B2、ホルネリン、インポーチン−9、インスリン−類似成長因子結合タンパク質2、ループスLaタンパク質、大食細胞移動抑制因子、ミッドカイン、モエシン、ニューロピリン2、プレイオトロフィン、プロフィリン−1、タンパク質DJ−1、ラディキシン、Secreted frizzled−related protein−2、セプチン−11、タリン−1、テスティカン、チモポエチン、トランスゲリン−3、及びビメンチン。
【請求項7】
前記分泌タンパク質は、下記のタンパク質を含むことを特徴とする請求項5に記載の治療用組成物:
アグリン、アネキシンA2、アトラクチン、ビグリカン、セルロプラスミン、コフィリン−1、コラーゲンα−1、コロニン−1X、ダームシジン、DERP12、エフリン−B3、エクソストシン−2、エズリン、ゼラチン−3結合タンパク質、グラニュリン、成長/分化因子11、ハプトグロビン、ヘモペキシン、High mobility group protein B2、ホルネリン、インスリン−類似成長因子結合タンパク質2、ループスLaタンパク質、ミッドカイン、モエシン、マルチプル上皮成長因子−類似ドメインタンパク質8、ニドゲン−1、パラチモシン、プロフィリン−2、タンパク質DJ−1、Secreted frizzled−related protein−2、セクレトグラニン、タリン−1、チモシンβ4、TGFBI、トランスゲリン、及びビメンチン。
【請求項8】
前記虚血性疾患は、虚血性脳血管疾患、虚血性心臓疾患、心筋梗塞、狭心症、下肢動脈虚血性疾患、及び四肢末端部虚血性疾患で構成された群から選択されることを特徴とする請求項1または5に記載の治療用組成物。
【請求項9】
前記虚血性脳血管疾患は、脳卒中であることを特徴とする請求項8に記載の治療用組成物。
【請求項10】
前記神経炎症疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ルーゲーリック病、クロイツフェルトヤコブ病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、びまん性レビー小体病、白質脳炎、側頭葉てんかん、及び脊髄損傷で構成された群から選択されることを特徴とする請求項5に記載の治療用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経前駆細胞またはその分泌タンパク質(Secretome)を有効成分として含む虚血性疾患または神経炎症疾患の治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞は、その多分化能によって、多様な疾患の有望な治療候補物質として見なされる。例えば、間葉幹細胞(mesenchymal stem cells、MSCs)は、容易に収得及び分離が可能であり、血管新生を促進し、炎症を抑制する多くの栄養因子を分泌する(非特許文献1)。MSCのこのような特性は、ヒト疾病の治療に適用するための研究から考慮された。最近の研究によれば、MSCは、多くの動物モデル及びヒト臨床治療(非特許文献2〜3)で組織回復に寄与すると明かになった。いくつかの報告が、インビトロでMSCがニューロン(非特許文献4)及び星状細胞(astrocyte)(非特許文献5)を含む神経系列への分化能を言及しているが、これら分化された細胞が、インビボで如何なる機能を行うか否かの明確な証拠はない。MSCの有益な効果は、細胞代替よりは傍分泌(paracrine)機作によって誘導されると見られ、これにより、MSCの移植(transplantation)は、長期間持続する改善ではない、一時的であり、限定された効果を有すると見える(非特許文献6)。
【0003】
一方、胚芽幹細胞(embryonic stem cells、ESCs)は、3個の胚芽生殖葉(embryonic germ layer)から由来するあらゆる特定細胞の形態で分化し、強力な自己再生能力を有すると知られた。注目すべきことは、ESCから由来する神経前駆細胞(neural precursor cells、NPCs)は、優先的にニューロン、星状細胞及び希少突起グリア細胞(oligodendrocyte)を含む神経系の特定形態の細胞に分化するために、脳組織の回復のための細胞源(cell source)と見なされるということである。これら細胞は、また内生神経前駆細胞の生存及び増殖を促進するいくつかの因子を分泌する(非特許文献7)。しかし、ESCから分化されたNPCsまたはNPCsの培養液が、如何に疾患モデルで移植後、機能の改善に寄与するかは依然として知られていない。
【0004】
本明細書の全般に亘って多数の論文及び特許文献が参照され、その引用が表示されている。引用された論文及び特許文献の開示内容は、その全体として本明細書に参照して挿入されて、本発明が属する技術分野のレベル及び本発明の内容がより明確に説明される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Caplan,A.I.,& Dennis,J.E.(2006).Journal of Cellular Biochemistry,98,1076−1084
【非特許文献2】Chen,J.,Li,Y.,Katakowski,M.,et al.(2003).Journal of Neuroscience Research,73,778−786
【非特許文献3】Kopen,G.C.,Prockop,D.J.,& Phinney,D.G.(1999).Proceedings of the National Academy of Sciences,96,10711−10716
【非特許文献4】Bae,K.S.,Park,J.B.,Kim,H.S.,Kim,D.S.,Park,D.J.,& Kang,S.J.(2011).Yonsei Medical Journal,52,401−412
【非特許文献5】Kopen,G.C.,Prockop,D.J.,& Phinney,D.G.(1999).Proceedings of the National Academy of Sciences,96,10711−10716
【非特許文献6】Cho,S.R.,Kim,Y.R.,Kang,H.S.,et al.(2009).Cell Transplantion,18,1359−1368
【非特許文献7】Capone,C.,Frigerio,S.,Fumagalli,S.,et al.(2007).PLoSOne,7,e373
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、虚血性疾患または神経炎症疾患の根本的な治療方法を開発するために鋭意研究した。その結果、表面で神経接着分子であるPSA−NCAMを発現する神経前駆細胞を病変部位に注入する場合、血管の新生が促進され、炎症反応が抑制されることによって、血管損傷による虚血性疾患及び炎症による神経組織の損傷を、効率的に治療可能であることを見つけて、本発明の完成に至った。同時に、幹細胞移植とは異なる処理方式として、神経前駆細胞分泌タンパク質の病変部位への投与を通じて虚血性損傷部位を減少させ、神経機能を回復させることによって、虚血性疾患と炎症による神経損傷疾患のような退行性神経系疾患を効果的に治療することができるということを確認することによって、本発明を完成した。
【0007】
したがって、本発明の目的は、虚血性疾患または神経炎症疾患の治療用組成物を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、虚血性疾患または神経炎症疾患の治療方法を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的及び利点は、下記の発明の詳細な説明、特許請求の範囲及び図面によってより明確になる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によれば、本発明は、PSA−NCAM(poly−sialylated neural cell adhesion molecule)−陽性神経前駆細胞(neural precursor cell)を有効成分として含む虚血性疾患または神経炎症疾患の治療用組成物を提供する。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、本発明は、PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞を有効成分として含む組成物を、それを必要とする個体に投与する段階を含む虚血性疾患または神経炎症疾患の治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の特徴及び利点を要約すれば、次の通りである:
(a)本発明は、虚血性疾患または神経炎症疾患の治療用組成物を提供する。
(b)本発明で用いられるPSA−NCAM−陽性神経前駆細胞は、注入された組織での血管新生を促進し、炎症反応を抑制する。前記PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞は、抗PSA−NCAM抗体を用いて簡単に分離し、間葉幹細胞(MSC)に比べても、優れた血管新生及び炎症抑制活性を示して、血管損傷による虚血性疾患及び炎症による神経損傷疾患に対する効率的な治療組成物として有用に用いられうる。
(c)本発明の神経前駆細胞の分泌タンパク質は、虚血性損傷部位を減少させるだけではなく、神経機能を回復させるので、虚血性疾患と炎症による神経損傷疾患のような退行性神経系疾患の治療剤として用いられうる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1a】NPCPSA−NCAM+及びMSCを移植したラット虚血脳での梗塞部位の縮小を示す図である。図1aは、実験計画図を示す模式図である。pMCAo以後、1日目に、実験動物にランダムにNPCPSA−NCAM+、MSCまたはPBSを処理した(それぞれn=10)。移植後、26日目に実験動物を犠牲させ、脳組織に対する免疫組織化学分析を進行した。
図1b】NPCPSA−NCAM+及びMSCを移植したラット虚血脳での梗塞部位の縮小を示す図である。図1bは、ラットpMCAoモデルでMSCs及びNPCPSA−NCAM+移植が移植26日目に梗塞サイズに及ぼす効果を示す図である。PBS群と比較時に、それぞれ*P<0.05及び**P<0.01である。
図1c】NPCPSA−NCAM+及びMSCを移植したラット虚血脳での梗塞部位の縮小を示す図である。図1cは、PBS、NPCPSA−NCAM+またはMSCを処理したラットで移植26日目の代表的イメージを示す図である。
図2a】NPCPSA−NCAM+を移植したラット脳卒中モデルで行動能力の向上を示す図である。体重変化の結果を示す。測定値は、±標準誤差で表示した。PBS群と比較して、それぞれ*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001である。
図2b】NPCPSA−NCAM+を移植したラット脳卒中モデルで行動能力の向上を示す図である。フットフォールト検査の結果を示す。測定値は、±標準誤差で表示した。PBS群と比較して、それぞれ*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001である。
図2c】NPCPSA−NCAM+を移植したラット脳卒中モデルで行動能力の向上を示す図である。非対称検査の結果を示す。測定値は、±標準誤差で表示した。PBS群と比較して、それぞれ*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001である。
図2d】NPCPSA−NCAM+を移植したラット脳卒中モデルで行動能力の向上を示す図である。ビーム均衡検査の結果を示す。測定値は、±標準誤差で表示した。PBS群と比較して、それぞれ*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001である。
図2e】NPCPSA−NCAM+を移植したラット脳卒中モデルで行動能力の向上を示す図である。捕捉可能牽引検査の結果を示す。測定値は、±標準誤差で表示した。PBS群と比較して、それぞれ*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001である。
図2f】NPCPSA−NCAM+を移植したラット脳卒中モデルで行動能力の向上を示す図である。mNSSの結果を示す。測定値は、±標準誤差で表示した。PBS群と比較して、それぞれ*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001である。
図3a】生存したNPCPSA−NCAM+のラット脳組織への編入及び分化を示す。図3aは、梗塞部位を示す。移植されたNPCPSA−NCAM+の生存及び増殖を26日目に試験した。Ki67(緑色)またはDCX(赤色)陽性細胞がラット虚血脳で観察された。スケールバー:500μm。
図3b】生存したNPCPSA−NCAM+のラット脳組織への編入及び分化を示す。図3bは、図3aの高倍率写真である。スケールバー:200μm。左側からDCX/DAPI、Ki67/DAPI、DCX/Ki67/DAPI、Tuj1/DAPI、Nestin/Ki67/DAPIに関する写真である。
図3c】生存したNPCPSA−NCAM+のラット脳組織への編入及び分化を示す。図3cは、hNu(緑色)及びDCX(赤色)を共に発現するNPCPSA−NCAM+細胞の一例を示す図であって、多くの移植されたNPCPSA−NCAM+細胞がhNu陽性を示して、優れた生存率と損傷された脳組織への生着率とを示すことが分かる。スケールバー:20μm。左側から時計回り方向にDAPI、hNu、hNU/DCX、DCXに関する写真である。
図3d】生存したNPCPSA−NCAM+のラット脳組織への編入及び分化を示す。図3dは、MSC−移植群のほとんどで針管(needle tract)周囲にいくつかの増殖したKi67hNu細胞が観察されることを示す図である。スケールバー:200μm。左側からhNU/DAPI、Ki37/DAPI、hNU/Ki67に関する写真である。
図4a】ラット脳組織でNPCPSA−NCAM+の神経組織への寄与及びグリア細胞活性化の減少効果を示す図である。図4aは、NPCPSA−NCAM+−移植されたラット脳でhMito(赤色)及びMAP2(緑色)細胞が観察されることを示す図である。スケールバー:20μm。
図4b】ラット脳組織でNPCPSA−NCAM+の神経組織への寄与及びグリア細胞活性化の減少効果を示す図である。図4bは、移植された細胞の移植26日目の共焦点イメージである。供与者由来細胞(緑色、hNu)は、NPCPSA−NCAM+移植部位でMAP2(赤色)と共に位置した。DAPI、青色。
図4c】ラット脳組織でNPCPSA−NCAM+の神経組織への寄与及びグリア細胞活性化の減少効果を示す図である。図4cは、反対側線条体の宿主ニューロンにMAP2と共に位置するhMiがないことを示す図である。線条体にMAP2細胞が顕著に存在することが分かる。スケールバー:20μm。
図4d】ラット脳組織でNPCPSA−NCAM+の神経組織への寄与及びグリア細胞活性化の減少効果を示す図である。図4dは、NPCPSA−NCAM+−移植されたラット脳にhMitoGFAP細胞が検出されないことを示す図である。スケールバー:20μm。
図4e】ラット脳組織でNPCPSA−NCAM+の神経組織への寄与及びグリア細胞活性化の減少効果を示す図である。図4eは、NPCPSA−NCAM+−移植グループで同側線条体のED−1陽性が有意に減少し、MSC−移植グループでは、その程度が低いことを示す図である。NPCPSA−NCAM+−及びMSC−移植グループいずれもPBSグループとは有意な差を示した。GFAPの発現は、MSC−またはPBS群に比べて、NPCPSA−NCAM+−移植群で目立つように減少した。スケールバー:200μm。
図4f】ラット脳組織でNPCPSA−NCAM+の神経組織への寄与及びグリア細胞活性化の減少効果を示す図である。ED1またはGFAP陽性細胞の数を少なくとも5個の別個の顕微鏡領域で測定した。測定値は、±標準誤差で表示した。各グループ間の多重比較時に、*P<0.05及び***P<0.001である。
図5a】NPCPSA−NCAM+が移植されたラット虚血脳で血管新生が促進されることを示す図である。図5aは、PBS群、NPCPSA−NCAM+−またはMSC−移植群の虚血性脳の免疫染色の結果をそれぞれ示した図である。スケールバー:200μm。
図5b】NPCPSA−NCAM+が移植されたラット虚血脳で血管新生が促進されることを示す図である。図5bは、NPCPSA−NCAM+−移植部位の宿主起源α−SMA−陽性血管上皮細胞(赤色)の代表的なイメージを示す図である。スケールバー:20μm。
図5c】NPCPSA−NCAM+が移植されたラット虚血脳で血管新生が促進されることを示す図である。図5cは、NPCPSA−NCAM+−またはMSC−移植されたラットでα−SMA−陽性微小血管の定量分析の結果を示す図である。測定値は、±標準誤差で表示した。*NPCPSA−NCAM+群をMSCまたはPBS群と比較時に、それぞれP<0.05及びP<0.01。
図5d】NPCPSA−NCAM+が移植されたラット虚血脳で血管新生が促進されることを示す図である。図5dは、虚血性脳でのラット−アンジオポエチン−1の発現量をRT−PCRでNPCPSA−NCAM+(NPC)またはMSC移植7日及び26日後に測定した結果を示す図である。アンジオポエチン−1のRT−PCR増幅(上)及びシャム対照群(基底値)に対してGAPDH−標準化したmRNAレベル(下)の定量化の結果を示す。測定値は、±標準誤差で表示した。*PBS群と比較時に、P<0.05。
図6】NPCPSA−NCAM+、MSCまたはPBSを移植した虚血脳でのラット及びヒト神経栄養因子の発現レベルをRT−PCRを用いて調査した結果を示した図である。神経栄養因子のRT−PCR増幅及びシャム対照群(基底値)(グループ当たりn=3)に対してGAPDH−標準化したmRNAレベルの定量化の結果を示す。測定値は、±標準誤差で表示した。*PBS群と比較時に、P<0.05。
図7】PBS対照群、培地対照群及び分泌タンパク質処理群の虚血性病変部位のサイズを示す。*P value<0.05、**P value<0.01。
図8】PBS対照群、培地対照群及び分泌タンパク質処理群の体重変化を示す。*P value<0.05、**P value<0.01。
図9a】PBS対照群、培地対照群及び分泌タンパク質処理群の行動分析の結果を示す。図9aは、ビーム均衡検査の結果を示す。*P value<0.05、**P value<0.01。
図9b】PBS対照群、培地対照群及び分泌タンパク質処理群の行動分析の結果を示す。図9Bは、捕捉可能牽引検査の結果を示す。*P value<0.05、**P value<0.01。
図9c】PBS対照群、培地対照群及び分泌タンパク質処理群の行動分析の結果を示す。図9Cは、フットフォールト検査の結果を示す。*P value<0.05、**P value<0.01。
図9d】PBS対照群、培地対照群及び分泌タンパク質処理群の行動分析の結果を示す。図9Dは、単位時間当たり行動の活発さを示すラインクロス(line cross)の結果を示す。*P value<0.05、**P value<0.01。
図10】PBS対照群、培地対照群及び分泌タンパク質処理群の総合的な行動神経改善効果(mNSS)の分析結果を示す。*P value<0.05、**P value<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によれば、本発明の組成物は、虚血性疾患または神経炎症疾患にかかった個体で虚血性組織の血管を復元するか、炎症反応を抑制することによって、その症状の発展を抑制するか、それを除去または軽減させる役割を果たす。したがって、本発明の組成物は、それ自体で虚血性疾患または神経炎症疾患の治療組成物にもなり、あるいは他の抗虚血/抗炎症組成物と共に投与されて、これら疾患に対する治療補助剤として適用されることもある。これにより、本明細書で、用語“治療”または“治療剤”は、“治療補助”または“治療補助剤”の意味を含む。
【0015】
本発明によれば、本発明の組成物は、血管新生誘発因子であるアンジオポエチン−1(angiopoietin−1)の発現を有意に増加させ、投与(または、移植)部位の血管数及び微小血管の濃度を大きく増加させる。したがって、本発明の組成物は、血管組織の消失、血管生成の欠乏または非正常な血管の形成などによって血流量が減少した個体で血管組織を回復するか、血管の数を増加させることによって、血流量を回復させる効率的な虚血性疾患の治療組成物として用いられうる。
【0016】
本発明によれば、本発明の組成物は、投与(または、移植)された神経組織での反応性微細グリア細胞及び星状細胞の活性化を抑制する。微細グリア細胞(microglia)は、中枢神経系で一次的な免疫機能を行う細胞であって、活性化された微細グリア細胞は、正常状態の微細グリア細胞とは異なって、捕食作用を活発にし、細胞増殖を行い、TNF−α、IL−1β及びIL−6のようなサイトカイン、ケモカイン、iNOS(inducible nitric oxide synthase)、COX−2(cyclooxygenase−2)などの遺伝子を発現させて炎症媒介物質を生成する。活性化された星状細胞も、炎症性サイトカインであるIL−6、TGF−β、LIF及びIL−1を分泌し、該分泌されたこれらサイトカインは、再び微細グリア細胞及び星状細胞を活性化させることによって、組織内の環境を悪化させる。したがって、微細グリア細胞及び星状細胞の活性化を抑制する本発明の組成物は、炎症反応による神経組織の損傷を効果的に遮断することができる。
【0017】
本発明の一具現例によれば、本発明の組成物は、アンジオポエチン−1の発現を増加させる。
【0018】
本明細書で使われた用語、“発現の増加”とは、正常人に比べて、遺伝子またはタンパク質の発現が測定可能な程度に有意に増加することを言い、より具体的には、対照群に比べて、発現量が130%以上になることを言う。
【0019】
本発明の一具現例によれば、本発明の組成物は、グリア細胞(glial cell)または星状細胞の活性化を抑制する。
【0020】
本明細書で使われた用語、“活性化の抑制”は、グリア細胞または星状細胞の数、機能及び活性化の低下を引き起こす生体内の変形を意味し、例えば、これら細胞の特異的なマーカー(例えば、CD68またはGFAP)の発現が有意に減少するか、探知不可能になるか、または無意味なレベルで存在することを意味する。
【0021】
本発明の一具現例によれば、本発明で用いられるPSA−NCAM−陽性神経前駆細胞は、全能性幹細胞から分化された神経ロゼットから分離される。
【0022】
本発明によれば、本発明で用いられるPSA−NCAM−陽性神経前駆細胞は、全能性幹細胞から神経分化刺激を通じて分化された神経ロゼットで抗PSA−NCAM抗体を用いて分離される。
【0023】
本発明のさらに他の一態様によれば、本発明は、神経前駆細胞の分泌タンパク質を有効成分として含む虚血性疾患または神経炎症疾患の治療用組成物を提供する。
【0024】
本発明のさらに他の一態様によれば、本発明は、神経前駆細胞の分泌タンパク質を有効成分として含む組成物を、それを必要とする個体に投与する段階を含む虚血性疾患または神経炎症疾患の治療方法を提供する。
【0025】
本明細書で使われた用語、“神経前駆細胞の分泌タンパク質”は、神経前駆細胞の培養時に、神経前駆細胞から外部(培養培地)に分泌されたタンパク質の集合体を意味する。
【0026】
本発明の一具現例によれば、本発明の分泌タンパク質の製造に用いられる神経前駆細胞は、全能性幹細胞から分化されたものである。
【0027】
本発明の一具現例によれば、前記神経前駆細胞は、全能性幹細胞(例えば、胚芽幹細胞または誘導万能幹細胞)を神経系列細胞に分化誘導して形成された神経ロゼット(neural rosette)段階の神経前駆細胞である。
【0028】
本発明の一具現例によれば、前記神経前駆細胞は、PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞である。
【0029】
本発明の他の一具現例によれば、前記神経前駆細胞は、PSA−NCAM−陰性神経前駆細胞である。
【0030】
前記PSA−NCAM−陽性あるいは陰性神経前駆細胞は、全能性幹細胞から神経分化刺激を通じて分化された神経ロゼットで抗PSA−NCAM抗体を用いて分離される。
【0031】
本発明の一具現例によれば、前記分泌タンパク質は、神経前駆細胞を動物細胞培養培地で培養して得た細胞培養液に含有された形態である。すなわち、本発明の組成物には、神経前駆細胞の分泌タンパク質が含有されている神経前駆細胞の培養液が含まれうるものである。
【0032】
本発明の一具現例によれば、前記神経前駆細胞の細胞培養液は、神経前駆細胞をITS(インスリン/トランスフェリン/セレン)及びbFGF(basic fibroblast growth factor)が含有された無血清動物細胞培養培地で培養した後、細胞を除去して収得することができる。前記培養には、継代培養した神経前駆細胞、例えば、N2、B−27及び/またはGem21が添加されたbFGF−含有動物細胞培養培地で継代培養(例えば、4継代以上)して得た神経前駆細胞が用いられうる。
【0033】
前記培養培地での細胞の除去は、遠心分離、濾過のような通常の細胞分離方法を使って実施することができる。
【0034】
前記動物細胞培養培地としては、神経前駆細胞の培養時に用いられる通常の培地を制限なしに使い、例えば、DMEM/F12を使うことができる。
【0035】
本発明の一具現例によれば、前記神経前駆細胞は、ヒト誘導万能幹細胞から分化されたものであり、この神経前駆細胞の分泌タンパク質は、下記のタンパク質を含む:
【0036】
アグリン(Agrin)、アネキシンA5(Annexin A5)、BSG(Basigin)、ビグリカン(Biglycan)、カルポニン−3(Calponin−3)、コアクトシン−類似タンパク質(Coactosin−like protein)、コフィリン−1(Cofilin−1)、コラーゲンα−2、クリン−3(Cullin−3)、デストリン(Destrin)、ジストログリカン(Dystroglycan)、エフリン−B2(Ephrin−B2)、エクスポーチン−2(Exportin−2)、エズリン(Ezrin)、フィブロネクチン、ファイブリン−1(Fibulin−1)、Frizzled−relatedタンパク質、ゼラチン−3結合タンパク質(Galectin−3 binding protein)、グラニュリン(Granulins)、成長/分化因子11(Growh/differentiation factor 11)、ハプトグロビン(Haptoglobin)、ヘモペキシン(Hemopexin)、High mobility group protein B2、ホルネリン(Hornerin)、インポーチン−9(Importin−9)、インスリン−類似成長因子結合タンパク質2(Insulin−like grwoth factor−binding protein 2)、ループスLaタンパク質(Lupus La protein)、大食細胞移動抑制因子(Macrophage migration inhibitory factor)、ミッドカイン(Midkine)、モエシン(Moesin)、ニューロピリン2(Neuropilin 2)、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)、プロフィリン−1(Profilin−1)、タンパク質DJ−1(Protein DJ−1)、ラディキシン(Radixin)、Secreted frizzled−related protein−2、セプチン−11(Septin−11)、タリン−1(Talin−1)、テスティカン(Testican)、チモポエチン(Thymopoietin)、トランスゲリン−3(Transgelin−3)、及びビメンチン(Vimentin)。
【0037】
本発明の一具現例によれば、前記神経前駆細胞は、ヒト胚芽幹細胞から分化されたものであり、この神経前駆細胞の分泌タンパク質は、下記のタンパク質を含む:
【0038】
アグリン、アネキシンA2(Annexin A2)、アトラクチン(Attractin)、ビグリカン、セルロプラスミン(Ceruloplasmin)、コフィリン−1、コラーゲンα−1、コロニン−1X(Coronin−1X)、ダームシジン(Dermicidin)、DERP12、エフリン−B3、エクソストシン−2(Exostosin−2)、エズリン、ゼラキン−3結合タンパク質、グラニュリン、成長/分化因子11、ハプトグロビン、ヘモペキシン、High mobility group protein B2、ホルネリン、インスリン−類似成長因子結合タンパク質2、ループスLaタンパク質、ミッドカイン、モエシン、マルチプル上皮成長因子−類似ドメインタンパク質8(Multiple epidermal growth factor−like domains protein 8)、ニドゲン−1(Nidogen−1)、パラチモシン(Parathymosin)、プロフィリン−2(Profilin−2)、タンパク質DJ−1、Secreted frizzled−related protein−2、セクレトグラニン(Secretogranin)、タリン−1、チモシンβ4(Thymosin beta−4)、TGFBI(Transforming grwowth factor−beta−induced protein ig−h3)、トランスゲリン(Transgelin)、及びビメンチン。
【0039】
以下、前述した本発明の組成物及び治療方法に共通して適用される内容に関して記述する。
【0040】
本明細書で使われた用語、“幹細胞”は、組織を構成する各細胞に分化(differentiation)される前の段階の未分化細胞を総称し、特定の分化刺激(環境)によって特定細胞に分化することができる能力を有している。幹細胞は、細胞分裂が止められた分化された細胞とは異なって、細胞分裂によって自身と同一の細胞を生産(self−renewal)し、分化刺激が加えられれば、特定細胞に分化され、このような分化は、他の環境または他の分化刺激によって多様な細胞にも分化されうる、分化の柔軟性(plasticity)を有していることが特徴である。
【0041】
本発明で用いられる幹細胞は、インビトロで無制限増殖され、3種のあらゆる胚芽層(外胚葉、中胚葉と内胚葉)から由来の多様な細胞に分化されうる全能性幹細胞(pluripotent stem cell)である。より具体的に、前記全能性幹細胞は、胚芽幹細胞、iPSCs(induced pluripotent stem cells)、胚芽生殖細胞(embryonic germ cells)、または胚芽腫瘍細胞(embryonic carcinoma cells)である。
【0042】
胚芽幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊(ICM)から由来され、胚芽生殖細胞は、5〜10週齢の生殖隆起(gonadal ridge)の原始生殖細胞から由来される。
【0043】
誘導万能幹細胞(iPSCs)は、非全分化能細胞(例えば、体細胞)から全能性を付与する特定の遺伝子を挿入して人工的に由来の全分化能幹細胞の1つである。誘導万能幹細胞は、幹細胞遺伝子及びタンパク質発現、染色体メチル化、倍加時間(doubling time)、胚芽体形成、テラトーマ形成、生存性キメラ形成、交雑性及び分化性を有する面で全分化能幹細胞(例えば、胚芽幹細胞)と同一であると見なされる。
【0044】
前記用語、“神経ロゼット”は、ヒト胚芽幹細胞の神経分化過程の初期段階の神経幹細胞を言い、神経ロゼットは、円柱型の放射状の形態を有する。前記神経ロゼットは、Pax6及びSox1のような初期神経外胚葉(neuroectodermal)マーカーを発現する細胞で構成され、多様なニューロン細胞及び神経膠細胞に分化することができる。前記神経分化刺激は、当業者に通常実施される方法、例えば、無血清培地(Tropepe V et al.,Neuron.30:6578(2001))、FGFs(fibroblast growth factors)、Wnt、及びRA(retinoic acid)のようなモルフォゲン(morphogens)の処理(Ying QL et al.Nat Biotechnol.21:183186(2003))によって分化することができるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
前記抗体としては、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体を使うことができる。PSA−NCAMに対する抗体は、当業者に通常実施される方法、例えば、融合方法(Kohler and Milstein,European Journal of Immunology,6:511−519(1976))、組換えDNA方法(米国特許第4,816,56号)またはファージ抗体ライブラリー方法(Clackson et al,Nature,352:624−628(1991)、及びMarks et al,J.Mol.Biol.,222:58,1−597(1991))によって製造可能である。抗体製造に対する一般的な過程は、Harlow,E.and Lane,D.,Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Press,New York,1999;Zola,H.,Monoclonal Antibodies:A Manual of Techniques,CRC Press,Inc.,Boca Raton,Florida,1984;及びColigan,CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY,Wiley/Greene,NY,1991に詳細に記載されており、前記文献は、本明細書に参考として組み込まれる。例えば、単一クローン抗体を生産するハイブリードマ細胞の製造は、不死滅化細胞株を抗体生産リンパ球と融合させてなされ、この過程に必要な技術は、当業者によく知られており、容易に実施することができる。ポリクローナル抗体は、PSA−NCAM抗原を適した動物に注射し、この動物から抗血清を収集した後、公知の親和性(affinity)技術を用いて抗血清から抗体を分離して得られる。
【0046】
本明細書で、PSA−NCAMを言及しながら使われる用語“抗体”は、PSA−NCAMに対する特異抗体であって、PSA−NCAMタンパク質に対して特異的に結合し、完全な抗体の形態だけではなく、抗体分子の抗原結合断片を含む。完全な抗体は、2本の全体長さの軽鎖及び2本の全体長さの重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖とジスルフィド結合で連結されており、抗体分子の抗原結合断片とは、抗原結合機能を保有している断片であって、Fab、F(ab’)、F(ab’)2、及びFvを含む。
【0047】
抗体を用いたPSA−NCAM−陽性神経前駆細胞の分離のために、蛍光−活性細胞分類機(fluorescence−activating cell sorters:FACS)、磁性活性細胞分類機(magnetic activated cell sorter:MACS)、及び補体媒介性溶解(complement−mediated lysis)方法を利用できる。
【0048】
本明細書で使われた用語、“治療”は、(a)疾患、疾病または症状の発展の抑制;(b)疾患、疾病または症状の軽減;または(c)疾患、疾病または症状を除去することを意味する。本発明の組成物は、虚血性疾患または神経炎症疾患の症状の発展を抑制するか、それを除去または軽減させる役割を果たす。したがって、本発明の組成物は、それ自体で虚血性疾患または神経炎症疾患の治療用組成物にもなり、あるいは他の抗虚血/抗炎症組成物と共に投与されて、これら疾患に対する治療補助剤として適用されることもある。これにより、本明細書で、用語“治療”または“治療剤”は、“治療補助”または“治療補助剤”の意味を含む。
【0049】
本明細書で使われた用語、“虚血性疾患”は、血管損傷による血液漏水(blood leakage)、塞栓(embolism)または梗塞(infarction)などによって血流量が減少して、血液供給が遮断された組織が壊死に至る疾患を言う。
【0050】
本発明の一具現例によれば、本発明の組成物として治療可能な虚血性疾患は、虚血性心臓疾患、心筋梗塞、狭心症、下肢動脈虚血性疾患、四肢末端部虚血性疾患、及び虚血性脳血管疾患で構成された群から選択される。
【0051】
本明細書で使われた用語、“虚血性心臓疾患”は、心臓に血液を供給する冠状動脈が損傷されるか、狭小または閉塞されて、心臓筋肉への血流が減少して招かれる疾患を意味する。より具体的には、本発明の組成物として治療可能な虚血性心臓疾患は、狭心症、心筋梗塞症及び心不全症で構成された群から選択される。
【0052】
本明細書で使われた用語、“虚血性脳血管疾患”は、脳血管が損傷されるか、狭小または閉塞されて、これにより血流を供給されていない脳組織が損傷される疾患を意味する。より具体的には、前記虚血性脳血管疾患は、虚血性脳卒中である。
【0053】
本明細書で使われた用語、“神経炎症疾患”は、炎症反応による神経組織の損傷で招かれる疾患を意味する。
【0054】
本発明の一具現例によれば、本発明の組成物として治療可能な神経炎症疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、ルーゲーリック病、クロイツフェルトヤコブ病、多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症、びまん性レビー小体病、白質脳炎、側頭葉てんかん、及び炎症性脊髄損傷で構成された群から選択される。
【0055】
本明細書で使われた用語、“投与”または“投与する”は、本発明の組成物の治療的有効量を対象体に直接に投与することによって、対象体の体内で同量を形成させることを言う。したがって、用語“投与する”は、本発明の有効成分(PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞または神経前駆細胞の分泌タンパク質)を病変部位に注入することを含むので、用語“投与する”は、“注入する”のような意味として使われる。
【0056】
組成物の“治療的有効量”は、組成物を投与しようとする個体に治療的または予防的の効果を提供するのに十分な抽出物の含量を意味し、これにより、“予防的有効量”を含む意味である。本明細書で使われた用語、“個体”は、制限なしにヒト、マウス、ラット、ギニーピッグ、犬、猫、馬、牛、豚、猿、チンパンジー、ヒヒまたは赤毛猿を含む。具体的には、本発明の個体は、ヒトである。
【0057】
本発明の組成物が、薬剤学的組成物として製造される場合、本発明の薬剤学的組成物は、薬剤学的に許容される担体を含む。本発明の薬剤学的組成物に含まれる薬剤学的に許容される担体は、製剤時に通用されるものであって、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微小結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイル、食塩水、PBS(phosphate buffered saline)、または培地などを含むが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明の薬剤学的組成物は、前記成分の以外に、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などをさらに含みうる。適した薬剤学的に許容される担体及び製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences(19th ed.,1995)に詳しく記載されている。
【0059】
本発明の薬剤学的組成物は、経口または非経口投与し、具体的には、非経口投与、より具体的には、筋肉内(intramuscular)投与、脳室内(intracerebroventricular)投与、髄腔内(Intrathecal)投与、または血管内(intravascular)投与である。
【0060】
本発明の薬剤学的組成物の適した投与量は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢、体重、性、病的状態、食べ物、投与時間、投与経路、排泄速度、及び反応感応性のような要因によって多様に処方されうる。本発明の薬剤学的組成物の一般的な投与量は、成人基準に1日当たり10〜1010細胞である。
【0061】
本発明の薬剤学的組成物は、当業者が容易に実施することができる方法によって、薬剤学的に許容される担体及び/または賦形剤を用いて製剤化することによって、単位容量の形態で製造されるか、または多容量容器内に内入させて製造可能である。この際、剤形は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤、または乳液の形態であるか、エクストラクト剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤、またはカプセル剤の形態でもあり、分散剤または安定化剤をさらに含みうる。
【0062】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。これら実施例は、単に本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨によって、本発明の範囲が、これら実施例によって制限されないということは、当業者にとって自明である。
【実施例】
【0063】
実施例
実施例1.PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞の虚血性疾患と神経炎症疾患とに対する治療効果
実験方法
ヒトMSC及びヒトESC−由来のNPCPSA−NCAM+細胞の培養及び分化
ヒト細胞の使用は、医学研究倫理審議委員会(Institutional Review Board、IRB No.4−2008−0643)の承認を受けた。ヒト骨髄は、事前同意書を提出した健康な成人志願者の後部腸骨稜線で収得した。要約すれば、骨髄單核細胞を密度勾配遠心分離(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)を用いて分離し、10% FBS(Gibco,GrandIsland,NY)が補充されたDMEMにプレーティングした後、37℃で5% COを含む加湿大気下で培養した。24時間後に、非吸着細胞を洗浄し、除去した。培養液を毎3日ごとに置き換え、90%のコンフルエンシ(confluency)に到逹した時、細胞を0.05% トリプシン/EDTA(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いて継代培養した。
【0064】
3−5継代の吸着MSCを本実験で使った。神経誘導のために、bFGFがないhESC培地(Invitrogen)上でhESCから由来の胚芽体(embryoid bodies、EBs)を5μM DM(dorsomorphin)(Sigma,St.Louis,MO)及び5〜10μM SB431542(Calbiochem,San Diego,CA)を含む懸濁液で4日間培養し、以後、20ng/ml bFGFが補充された1xN2(Invitrogen)培地でマトリゲルコーティングされたディッシュ(BD Biosciences,Bedford,MA)に5日間吸着させた(Kim,D.S.,Lee,D.R.,Kim,H.S.,et al.(2012).PLoSOne,7,e39715)。吸着されたEBコロニーの中心に表われた神経ロゼットをpulledガラスピペットを用いて周辺の平らな細胞から気をつけて分離した。小さなロゼット塊をマトリゲルコーティングされたディッシュにシーディングし、1xN2、1xB27(Invitrogen)が補充されたDMEM/F12で培養した(Kim,D.S.,Lee,J.S.,Leem,J.W.,et al.(2010).Stem Cell Reviews and Reports,6,270−281)。
【0065】
MACSによるPSA−NCAM−陽性NPCの分離
80〜90%のコンフルエンシの拡張された神経ロゼットを10μM Y27632(Sigma)に1時間露出させて、MACS段階に入る前の細胞死が起こることを防止した。Accutase(Invitrogen)を用いて分離した後に、細胞(〜1x10cells)を1% BSAが含まれたPBSでブロッキングし、マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)が接合された抗PSA−NCAM抗体と共に4℃で15分間培養した。集中的に洗浄した後、細胞懸濁液をMASC(magnetic activated cell sorting)に入れ、カラムに残っている陽性−標職された細胞をチューブに溶離させた。分離されたNPCPSA−NCAM+をN2B27培地または20ng/ml bFGFが追加されたNBG培地(1xN2、0.5xB27及び0.5xG21補充)(GeminiBio−Products,WestSacramento,CA)に4−5x10cells/cmの濃度で再びプレーティングした。培養培地は、毎日取り替え、細胞は、2〜3日ごとに継代培養した。
【0066】
脳卒中モデルの確立及びNPCPSA−NCAM+の定位注入(stereotaxic injection)
2週齢の雄Sprague−Dawleyラット(体重約250〜300g)をNO対Oの比率70%〜30%下で3% イソフルラン(Hana Pharm,Seoul,Korea)で麻酔した。左側総頚動脈及び外頚動脈を分離し、4−0手術用縫合糸で連結した。ナイロン糸を左側内頚動脈に挿入してウィリス環まで移動させ(永久的中大脳動脈閉塞:permanent middle cerebral artery occlusion、pMCAo)、ラットを犠牲させるまで糸を残しておいた。
【0067】
pMCAo以後、2日後にNPCPSA−NCAM+、MSCsまたはPBSの定位注入を行った。ラットをゾレチル(VirbacS.A.,France、25mg/kg)で麻酔し、定位外科手術ツール(David Kopf Instruments,Tujunga,CA)に位置させた。A26−ケージ針(Hamilton syringe,Hamilton,Reno,NV)を左側線条体(striatum)(ブレグマからの座標:前後側(anteroposterior)+0.7mm、内外側(mediolateral)−2mm及び背腹側(dorsoventral)−5.5mm、髄膜(meninges)から−2.5mm)に挿入した;5μlのNPCPSA−NCAM+、MSCs(それぞれ1x10cells/μl)またはPBSを5.5mm及び−2.5mm部位に注入した。あらゆる細胞を持続的な撹拌を通じて細胞凝集を防ぎながら、左側線条体に1μl/minの速度で注入した。9匹の実験動物が、pMCAo手術及び細胞移植途中で死亡した。
【0068】
あらゆる動物をAAALAC(Association for Assessment and Accreditation of Laboratry Animal Care)が承認した施設で12時間明暗サイクル下で育てた。動物実験は、医学研究倫理審議委員会(IRB No.4−2011−0087)の承認を受けた。
【0069】
行動検査
フットフォールト検査(Foot fault test):フットフォールト検査は、2分間の試験の間に、等距離格子板(equi−distant grid、60x60cm、6cm距離)上で前足を正確に位置させる程度を測定する。前記試験は、従来の研究に基づいて変形された手続きによって行った[12、13]。
【0070】
非対称行動検査(Asymmetric behavior test):従来に報告された変形されたEBST(elevated body swing test)を用いた。ラットのしっぽを実験区域表面の10cmまで持ち上げた後、側面運動を検査した。右側または左側へのスイング(swing)頻度を1分間測定した。非対称点数値は、次のように計算した;0点−胴体をねじる、左側または右側にスイング、1点−<30°に非対称的にねじる、2点−>30°に非対称的にねじる。胴体をねじる方向によって、点数は、同側にねじる(同側twist、梗塞部位と同じ側)または反対側にねじる(contralateral twist、梗塞部位と反対側)で計算した。
【0071】
ビーム均衡検査(Beam balance test):ビーム歩行器具は、ビーム(100x5x2cm)で構成される。運動能力は、従来の研究で使われた6点単位で評価した;1点−ビーム上で安定した姿勢及び足で均衡を成す、2点−ビームの側面を握って搖れる動作を行う、3点−1つ以上の足が滑る、4点−均衡を取ろうとする試みをするが落ちる、5点−ビームにわたっているが落ちる、点6−均衡を取ろうとする試みなしに落ちる。
【0072】
捕捉可能牽引検査(Prehensile traction test):検査のうち、捕捉可能如何は、ラットが前足で水平方向のロープにぶら下げることができる能力を通じて測定する。捕捉可能牽引検査は、ラットの筋肉強度を評価するために行われた。この検査は、従来に報告された方法で実施した。鉄棒(直径2cm、長さ100cm)を水平にスポンジゴムパッド(厚さ7.5cm)の70cm上に位置させた。ラットの前足を鉄棒に位置させた後、放した。ラットを5秒間鉄棒にぶら下げられるようにした。落ちるのにかかる時間と後足を鉄棒上に乗せるか否かを通じて、次のように点数を計算した;0点−ラットが5秒間ぶら下げられ、後足を乗せる、1点−ラットが5秒間ぶら下げられ、後足を乗せることができない;2点−ラットが3〜4秒間ぶら下げられる、3点−ラットが0〜2秒間ぶら下げられる。
【0073】
mNSS(Modified neurological severity score):神経障害点数は、運動、感覚及び反射神経の検査を複合して導出され、従来に報告された方法で実施した。客観的な定量化は、非対称行動検査、ビーム均衡検査、捕捉可能牽引検査、オープンフィールド検査(回転頻度)、及びフットフォールト検査に基づいてなされ、次のように点数を計算した;0点−欠陥がない、2点−反対側の前足を完全に伸ばすのに困難がある(3≦front foot fault<10)、4点−反対側の前足を伸ばすことができない(front foot fault≧10)、6点−反対側に多少旋回する(1≦回転または非対称にねじれる<5)、8点−激しく旋回する(回転または非対称にねじれる≧5)、10点−反対側に落ちる(捕捉可能牽引≦2)。
【0074】
免疫組織化学的分析及び定量化
脳組織を24時間4% ホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄した。パラフィン断面の製作のために、累進エタノールで組織を脱水させ、パラフィンに包埋させた。パラフィン包埋された脳をミクロトーム上で5mm厚さ層に切断し、キシレンで10分間脱パラピン化した後、累進アルコールで再水和した。断面に10mM クエン酸を1時間処理した後、PBS及び0.5% トリトンX−100を含有する5% BSA溶液を添加した。以後、脳切片をDCX(Abcam)、Tuj1(Covance)、hNu(Millipore、clone 235−1)、GFAP(Millipore)、Ki67(Leica Microsystems)、hMito(Millipore)、MAP2(Millipore)、ヒトNestin(Millipore, clone 10C2)、またはED−1(Abcam)(1:100)に対する1次抗体と共に10〜12時間4℃で培養した。1次抗体と共に一晩中培養した後に、切片をPBSで洗浄し、切片を蛍光標職された2次抗体である抗ラビットIgGと31時間培養した。切片をもう一度PBSで洗浄し、DAPI(4’,6’−diamidino−2−phenylindole)を用いてマウンティングした。蛍光顕微鏡(Olympus IX71)を用いて切片の蛍光イメージを得た。脳組織内で特定抗体と反応する神経細胞の数を正確に測定するために、ブラインドテストを用いた。実験に対してあらかじめ分からない3人の実験者にスライド内の5個の50mm四角形内でのED−1細胞及びα−SMA血管(直径50mm以下)の数を数えるようにした。以後、調査者は、3人の実験者の結果を総合して検出されたニューロンの数を正確に決定した。
【0075】
移植後、26日目に、ラット(グループ当たり10匹)をゾレチル(Virbac S.A.,France、25mg/kg)で麻酔し、PBS及びPBSに含有された4% パラホルムアルデヒド(pH7.5)で灌流した。
【0076】
梗塞部位の測定のために、脳切片をヘマトキシリンで染色し、顕微鏡(Zeiss,Oberkochen,Germany)で撮影した。反対側半球の梗塞面積で同側半球の梗塞面積を差引いた間接的な損傷部位を計算した。相対的な梗塞面積をNIH Image Jプログラム(1.47バージョン)で分析した。反対側半球と比較した間接的損傷の平均百分率を表示した14。
【0077】
逆転写重合酵素連鎖反応(RT−PCR)
Trizol試薬(Invitrogen)を用いて総RNAを分離した。標準逆転写(RT)をTranscriptase II(Invitrogen)を用いてまず行った後、次のようなプライマーセットでRT−PCRを行った:アンジオポエチン1正方向プライマー:TGTGTCCATCAGCTCCAGTTGC(配列番号1)、逆方向プライマー:CGGCTACCATGCTCGAGATAGG(配列番号2)(Bioneer,Daejeon,Korea)。PCR産物を1.2% アガロースゲルに回した後、臭化エチジウムで染色してUV光下でバンド(約400bp)を検出した。最後に、検出されたバンドをNIH Image Jプログラム(バージョン1.47)で定量化した。
【0078】
統計的分析
データは、平均±標準誤差で表わした。行動検査及び梗塞面積のデータは、SPSS(Statistical Package for Social Sciences、バージョン20.0)を用いてANOVA及び独立t検定で分析した。P−values<0.05である場合、統計的有意性があると見なした。
【0079】
実験結果
NPCPSA−NCAM+の移植は、宿主脳の梗塞部位を減少させる。
本発明の全体的な実験設計は、図1aに示した。神経組織の損傷程度は、移植26日後、ヘマトキシリンを通じて正常に染色されていない脳部位(area)を通じて評価した。梗塞部位は、大脳皮質及び線条体で主に表われた。梗塞部位は、MSCsまたはNPCPSA−NCAM+を移植した場合よりもPBSを処理した虚血性脳で明確にさらに広かった(図1b)。反対側に対する梗塞面積の百分率は、NPCPSA−NCAM+(7.1±2.5%)またはMSC(14.9±1.9%)が移植された群でPBS群(25.1±2.4%)に比べて、有意に減少した(F=13.64、P<0.01)。NPCPSA−NCAM+−及びMSC−移植群間の梗塞が統計的に異ならないが、NPCPSA−NCAM+−移植群の梗塞面積は、MSC−移植群に比べて、明白にさらに狭かった(図1c)。
【0080】
NPCPSA−NCAM+の移植は、ラット脳卒中モデルで行動能力を向上させる。
ラットの体重は、pMCAo後、初日に測定した基底値に比べて、40gが減少した。体重減少は、PBS−処理ラットで7日後、頂点に至った。MSC−移植群で、体重は、移植17日後、基底段階まで回復された。しかし、NPCPSA−NCAM+−移植群では、PBS群と比較して、移植3日後から有意な体重回復が観察された(P<0.05)(図2a)。pMCAo以後、3日(P<0.05)から13日(P<0.01)の間までフットフォールト/ラインクロス頻度は、PBS群に比べて、NPCPSA−NCAM+及びMSC移植群で有意に減少した(図2b)。それだけではなく、NPCPSA−NCAM+移植群は、13日目にフットフォールト/ラインクロスがMSC移植群と比べても、有意に減少した。しかし、このような差は、以後(移植後、17及び24日)体重増加による活動性の減少によって不十分に顕著になった。
【0081】
あらゆるラットが、pMCAo前には、EBTSで相対的に低い非対称性を示した一方、pMCAo後には、あらゆる実験動物の非対称性が明確に観察された。移植3日後、NPCPSA−NCAM+−及びMSC−移植群で同側ねじり行動を示し始めた。MSC−移植群が、移植13日後まで緩やかな向上を示した一方(P<0.05)、NPCPSA−NCAM+−移植群の非対称行動点数は、移植後、7日目に有意に減少し始めて24日目まで持続した(P<0.01)(図2c)。
【0082】
NPCPSA−NCAM+移植は、MSC−移植群及びPBS群に比べて、3日から24日の間のビーム均衡検査での機能回復も改善させた(P<0.01)(図2d)。NPCPSA−NCAM+移植は、運動調整能力を反映するビーム上で保持する時間を有意に増加させたが、MSC−及びPBS−処理群では、統計的な差異点を示していない。
【0083】
前足の筋肉強度と負の相関関係を有する捕捉可能牽引点数は、NPCPSA−NCAM+移植群で3〜24日の間に次第に減少した(P<0.01)(図2e)。MSC−移植群も、移植7〜24日後に類似した改善パターンを示した。
【0084】
神経回復効果の定量化を標準化するために、本発明者らは、最後に非対称行動点数、ビーム均衡試験、捕捉可能牽引検査、オープンフィールド検査(回転頻度、データ未公開)、及びフットフォールト検査に基づいたmNSS基準を評価した。mNSSは、漸進的な神経機能回復がPBS−処理群に比べて、NPCPSA−NCAM+−及びMSC−移植群で3日後から顕著に始めること示す(P<0.05)(図2f)。それだけではなく、NPCPSA−NCAM+−移植群は、7日以後から24日までMSC−移植群に比べても、実質的な改善を示した(P<0.01)。NPCPSA−NCAM+−移植群の効果は、特に3日から7日の間に明確になったが、それを通じて移植初期強力な傍分泌効果があるということが分かる。
【0085】
移植されたNPCPSA−NCAM+は、宿主脳で生存して神経系に分化する。
移植された細胞の密度を追跡するために、本発明者らは、26日目にhNu(ヒト−特異的核)、Ki67(増殖細胞マーカー)、DCX(神経母細胞マーカー)、ネスチン(神経幹細胞マーカー)、及びTuj1(神経マーカー)に対する抗体を用いて組織学的分析を行った。NPCPSA−NCAM+の移植後に、ほとんどの細胞は、最初移植部位(例えば、線条体)で見つけられた。移植されたNPCPSA−NCAM+の生存、増殖及び分化は、損傷された脳でのKi67、DCX、Tuj1、及びネスチンの存在を通じて確認した(図3a及び図3b)。移植されたNPCPSA−NCAM+細胞の多数は、DCXまたはTuj1を発現した一方、一部は、ネスチンに対して陽性であった。移植された細胞の擬似分裂段階は、Ki67−免疫反応性を通じて調査した。hNu細胞(9184個)の一部は、移植26日目にKi67に対しても陽性であった(432個、4.7%)。NPCPSA−NCAM+細胞でのTuj−1免疫反応性は、DCX免疫反応性と広範囲に重畳された(図3b)。これらDCX免疫反応性細胞は、ラット由来ではないヒト由来の細胞であり(図3c)、それを通じて脳梗塞部位の減少は、移植された細胞の融合に部分的に起因することが分かる。
【0086】
多くの移植されたNPCPSA−NCAM+細胞が優れた生存率を見せながら、損傷された組織に編入されたが、hNuを発現するMSCは、移植26日後にいくつかの細胞のみが検出された(図3d)。ほとんどの移植されたNPCPSA−NCAM+細胞は、未成熟神経細胞(例えば、DCX陽性であり、一部Ki67陽性細胞)である(図3b)。一方、移植されたMSCs(hNu細胞)は、損傷部位でDCX陽性を示せず、ほとんどのMSC移植群で少数の増殖中であるhNuKi67細胞が針管内及び周囲に存在した(図3d)。
【0087】
NPCPSA−NCAM+が移植されたラットでhMitoMAP2及びhNuMAP2二重標識細胞が検出されたが(図4a及び図4b)、hMitoGFAP図4d)またはhMitoGalC(データ未公開)空染色細胞はほとんど検出されないことによって、NPCPSA−NCAM+細胞は、神経系に主に寄与する前駆細胞であることが分かった。反対側線条体でhMito細胞は、ほとんど観察されていない(図4c)。
【0088】
NPCPSA−NCAM+の移植は、宿主脳で反応性グリア細胞の活性を抑制する。
いくつかのGFAP(星状細胞マーカー)−陽性細胞が針と周辺で見つけられたが、GFAPの発現は、NPCPSA−NCAM+移植群で目立つように低かった(図4e)。事実、GFAP−陽性細胞の数は、NPCPSA−NCAM+移植群で大きく減少し(P<0.001)、MSC−移植群では、その減少程度がより低かった(図4e及び図4f)。これは、NPCPSA−NCAM+移植が反応性星状細胞の活性化を強く抑制し、これにより、組織再生に有利な環境を造成することを示すものである(Gonzalez,F.F.,McQuillen,P.,Mu,D.,et al.(2007).Developmental Neuroscience,29,321−330)。
【0089】
虚血性脳卒中は、組織損傷による微細グリア細胞の反対反応を誘導する。これにより、本発明者らは、移植26日目にCD68(活性微細グリア細胞マーカー)を認識するED1抗体を用いて虚血脳組織での微細グリア細胞の活性化を調査した(図4e)。注目すべきことは、ED1−陽性細胞が、NPCPSA−NCAM+群で有意に減少し(P<0.001)、MSC−移植群は、より不十分に減少したということである(P<0.05)(図4f)。たとえ、線条体内のNu+細胞が6ヶ月後に検出されたが、NPCPSA−NCAM+が移植された脳の移植部位または他の部位でテラトーマの跡は全くなかった。
【0090】
NPCPSA−NCAM+移植は、宿主脳での血管新生を促進する。
平滑筋アクチンマーカーであるα−SMAの抗体を用いて虚血性脳での内生的血管新生を調査した。その結果、NPCPSA−NCAM+−移植ラットでMSC−及びPBS−処理群に比べて、α−SMA反応性血管の数が移植部位周辺で増加したことを観察した(図5a、図5b)。微小血管の定量的分析を通じてNPCPSA−NCAM+−移植ラットのα−SMA+血管がMSC−及びPBS−処理群のそれに比べて、梗塞部位で増加したことを明確に確認した(図5c)。
【0091】
移植後、7日及び26日にRT−PCRを用いて脳組織での血管新生誘発因子であるアンジオポエチン−1の発現レベルを調査した結果、26日目のNPCPSA−NCAM+移植ラットでの発現レベルは、他の群に比べて有意に高く(P<0.05)(図5d)、それを通じて長期間生存したNPCPSA−NCAM+によって血管新生が誘導されたということが分かった。NPCPSA−NCAM+−移植されたラットは、26日目に7日目よりも増加したアンジオポエチン−1パターンを示した一方、MSCs−処理ラットのアンジオポエチン−1は、7日目のそれと比較して変化がないか、少し減少した。しかし、MSCs−処理ラットは、7日目のPBS−処理群に比べて増加したパターンを示した(P<0.05)。
【0092】
実施例2.神経前駆細胞分泌タンパク質の虚血性疾患と神経炎症疾患とに対する治療効果
実験材料及び実験方法
ヒトESC−由来のNPCPSA−NCAM+細胞の収得
ヒト細胞の使用は、医学研究倫理審議委員会(IRB No.4−2008−0643)の承認を受けた。神経誘導のために、bFGFがないhESC培地(Invitrogen)上でhESCとiPSCとから由来の各胚芽体(EBs)を5μM DM(dorsomorphin)(Sigma,St.Louis,MO)及び5〜10μM SB431542(Calbiochem,San Diego,CA)を含む懸濁液で4日間培養し、以後、20ng/ml bFGFが補充された1xN2(Invitrogen)培地でマトリゲルコーティングされたディッシュ(BD Biosciences,Bedford,MA)に5日間吸着させた(Kim,D.S.,Lee,D.R.,Kim,H.S.,et al.(2012).Highly pure and expandable PSA−NCAM−positive neural precursors from human ESC and iPSC−derived neural rosettes.PLoSOne,7,e39715)。吸着されたEBコロニーの中心に表われた神経ロゼットをガラスピペットを用いて周辺の平らな細胞から気をつけて分離した。小さなロゼット塊をマトリゲルコーティングされたディッシュにシーディングし、1xN2、1xB27(Invitrogen)が補充されたDMEM/F12で培養した(Kim,D.S.,Lee,J.S.,Leem,J.W.,et al.(2010).Robust enhancement of neural differentiation from human ES and iPS cells regardless of their innate difference in differentiation propensity.Stem Cell Reviews and Reports,6,270−281)。
【0093】
80〜90%のコンフルエンシの拡張された神経ロゼットを10μM Y27632(Sigma)に1時間露出させて、MACS段階に入る前の細胞死が起こることを防止した。Accutase(Invitrogen)を用いて分離した後に、細胞(〜1x108細胞)を1% BSAが含まれたPBSでブロッキングし、マイクロビーズ(Miltenyi Biotec)が接合された抗PSA−NCAM抗体と共に4℃で15分間培養した。集中的に洗浄した後、細胞懸濁液をMASC(magnetic activated cell sorting)に入れ、カラムに残っている陽性−標職された細胞をチューブに溶離させた。分離されたNPCPSA−NCAM+をN2B27培地または20ng/ml bFGFが追加されたNBG培地(1xN2、0.5xB27及び0.5xG21補充)(GeminiBio−Products,WestSacramento,CA)に4−5x10細胞/cmの濃度で再びプレーティングした。培養培地は、毎日取り替え、細胞は、2〜3日ごとに継代培養した。
【0094】
ヒト全分化能幹細胞由来−神経前駆細胞(NPCs)で分泌タンパク質の分離
前記で収得したヒト万能幹細胞由来の神経前駆細胞(PSA−NCAM−陽性神経前駆細胞)を基本培養液(DMEM/F−12)にN2(100X−最終濃度1X)、B−27(50X−最終濃度0.5X)及びGem21(50X−最終濃度0.5X)の血清除去補充剤を入れ、bFGF(20ng/ml)を添加してマトリゲル(Matrigel)コーティングされた60mmディッシュに4継代以上繰り返し培養して増幅した後、8〜10個のディッシュに約90%まで細胞が満ちるように培養した。培養液を除去した後、リン酸緩衝溶液で3回洗浄し、無血清基本培養液(DMEM/F12)にITS(100X−最終濃度1X)とbFGF(20ng/ml)のみを添加して24時間培養した。対照群は、細胞がないディッシュに同量の同じ組成の培養液(基本培養液にITSとbFGFとを同量で添加)を入れ、培養器で24時間培養した後、回収したものを対照群として使った。培養液をいずれも集めて遠心分離して(800gで30分)細胞の破片などを除去した後、−70℃の冷凍庫に直ちに氷らせた後、必要時に解凍して使った。
【0095】
脳卒中モデルの製作
局所脳虚血による神経細胞の損傷に対して神経細胞の保護効果を測定するために応用された血管内縫合糸挿入法(intraluminal suture method)を使った。Zia Longa(Zea Longa,et al,Stroke.,1989,20,84−91)が開発した方法である局所脳虚血モデルであって、他のモデルとは異なって、臨床的に類似しているという長所がある。このような理由で虚血再灌流(ischemia−reperfusion)に対する機転研究やさまざまな薬物の効果をスクリーニングするのに適したモデルである。
【0096】
一週間の順化後、呼吸麻酔器を使って実験動物(雄Sprague−Dawley rat、体重250〜300g)を麻酔させ、麻酔剤としてイソフルラン(isoflurane)を使った。まず、白ラットを80% NOと20% Oとが混ぜられた混合ガスに5%のイソフルランで全身麻酔を誘導した後、2〜2.5%で麻酔を保持した。脳卒中モデルの製作のために、白ラットの左側首の皮膚を切開した後、内側に総頚動脈(common carotid artery)、外頚動脈(external carotid artery)及び内頚動脈(internal carotid artery)を剥離して導出した後、それぞれの血管をブラックシルク糸で少し縛って血流を遮断した。総頚動脈を半分程度切断し、切断面を通じてナイロン縫合糸の端部を焼灼してラウンディングして、0.40mmになるように製作した25mmの4−0ナイロンプローブ(probe)を挿入した。外頚動脈を通じて挿入したナイロンプローブを内頚動脈を経て中大脳動脈部位に入れて固定して、総頚動脈盆地で約18〜20mm程度挿入した後、中大脳動脈の起始部を塞いだ後、糸で固定して中大脳動脈を永久に閉鎖した後、皮膚切開部位を再び縫合した後、麻酔から自然回復させた。
【0097】
脳卒中モデルに脳動脈を通じる分泌タンパク質の注入及び行動実験
脳卒中誘発一日後に、行動実験に対する基準点(baseline)を確立した後、脳卒中モデルの製作と同じ方式で右側外頚動脈を通じて内頚動脈部位にインスリン注射器針を挿入した後、それを通じて分泌タンパク質を0.2mg/kg(体積50μl)ほど動脈注射し、対照群には同じ体積の培養液あるいはリン酸緩衝溶液(PBS)を投与した。分泌タンパク質液を注入した後、14日間動物の状態を観察し、注入前1回、注入後4回にわたって体重を測定し、行動分析を実施した。
【0098】
(1)上体姿勢(torso twisting)検査:実験動物の大脳皮質と線条体感覚と見なされる上体姿勢を試験するために、非対称運動行動を測定した。
【0099】
(2)ビーム均衡(beam balance)検査:実験動物が狭いビーム上で安定して均衡を取ることを通じて総前庭運動機能(gross vestibulomotor function)を評価した。
【0100】
(3)フットフォールト検査:運動において、運動動き(motor movement)の調整(協同)と統合(総合)とを検査する時に使う実験方法であって、フットフォールト(Foot−fault)は、動物が前足や後足を元の場所に置かないか(misplace)、足が格子板バー(grid bar)の間に落ちる場合と定義し、フットフォールトは、正常な動物においては特に対称的である。
【0101】
(4)捕捉可能牽引検査:検査のうち、捕捉可能如何は、実験動物が前足で水平方向のロープにぶら下げることができる能力を通じて測定した。捕捉可能牽引検査は、実験動物の筋肉強度を評価するために行われた。この検査は、従来に報告された方法で実施した。鉄棒(直径2cm、長さ100cm)を水平にスポンジゴムパッド(厚さ7.5cm)の70cm上に位置させた。実験動物の前足を鉄棒に位置させた後、放した。実験動物を5秒間鉄棒にぶら下げられるようにした。落ちるのにかかる時間と後足を鉄棒上に乗せるか否かを通じて、次のように点数を計算した:0点−実験動物が5秒間ぶら下げられ、後足を乗せる、1点−実験動物が5秒間ぶら下げられ、後足を乗せることができない、2点−実験動物が3〜4秒間ぶら下げられる、3点−実験動物が0〜2秒間ぶら下げられる。
【0102】
(5)オープンフィールド検査(open−field test):一般的な歩行活動レベルを調べるのに使われる検査であって、動物の行動態様と特性とを直接観察して動物の活動性、情緒性及び行動パターンなどを測定した。
【0103】
(6)mNSS:前記の多様な検査を通じて得られた運動、感覚、均衡、反応及び情緒の検査値の総合成績で、点数を下記の基準によって計算した(一個体当たり点数を合算してmNSSを測定)。
【0104】
−オープンフィールド検査(動物の情緒性、活動性、行動パターンなどを測定)
動きない:3
1〜20回:2
21〜30回:1
30回以上:0
【0105】
−捕捉可能牽引検査(筋力測定)
0〜5秒:3
6〜10秒:2
11〜20秒:1
21秒以上:0
【0106】
−ビーム均衡検査(均衡感覚測定)
0点:1=安定的姿勢
2=ビームの側面を握って多少搖れる程度
1点:3=1本以上の足がビームから脱落する場合
4=均衡を取ろうと努力するが、落ちる場合
2点:5=均衡を取ることができず、ビームに逆にぶら下げられてから落ちる場合
6=ビーム上で全く均衡を取ることができず、落ちる場合
【0107】
−フットフォールト検査(運動協応能力)
0〜5回:0
6〜10秒:1
11〜20秒:2
21秒以上:3
【0108】
−上体姿勢検査(非対称運動行動)
0回:2
1〜4回:1
5回以上:0
【0109】
脳虚血誘発14日後に、白ラットをゾレチルで麻酔した後、開胸した後、右心耳を切開して針を左心室に注入した後、ポンプを用いてリン酸緩衝溶液を心臓に灌流させて血液を除去した後、脳組織を摘出した。標本製作のための組織切片をブレグマ(bregma)を基準にパラフィンに包埋し、損傷された脳組織を確認するために、脳組織切片をヘマトキシリンに染色し、脱水し、固定し、スライドをデジタルカメラで撮影した後、コンピュータに移した。イメージ分析プログラム(image J)を使って脳梗塞の比率(%)を下記の数式1で計算した。
脳梗塞の比率(%)=(正常左半球の面積−脳梗塞部位の正常組織の面積)/正常左半球の面積×100 ・・・ 数式1
【0110】
分泌タンパク質の分析(Secretomics)
hESC由来の神経前駆細胞の分泌タンパク質とヒトiPSC由来の神経前駆細胞の分泌タンパク質は、それぞれ4〜12%の勾配ノベックスビス−トリスゲル(Invitrogen)でSDS−PAGEして分離した後、ゲルコードブルー染色試薬(Pierce)でタンパク質バンドが見えるようにゲルを染色した。該染色されたゲルは、同じサイズの10バンドで切って、リン−ゲルトリプシン分解を公知の方法で行った。
【0111】
リン−ゲル分解によって製造されたペプチドをNano Ultra Performance液体クロマトグラフィー(Eksigent Technologies)と結合したLinearTrap Quadrupole(LTQ)質量分光計(Thermo Finnigan)とを使って分析した。具体的に、トリプシン処理したペプチドをC18レギュラー5マイクロンサイズレジンがパッキングされた分析カラム(75μmx11cm)に適用した。97% 溶液A(蒸留水に0.1% ギ酸)から60% 溶液B(アセトニトリルに0.1% ギ酸)に流速0.3μl/時間の条件で分線型45分勾配を実施した。分離されたペプチドイオンをナノElectrospray Ionization(ESI)ソースで電気噴霧した。MS/MSスペクトルは、全体MSスキャンを断片で選別して最も多い5種のスペクトルを結果−依存スキャンで求めた。動的排除に対する繰り返し係数を1に、繰り返し期間を30秒に、動的排除期間を180秒に、排除質量幅を1.5Daに、動作排除リストを50に設定した。
【0112】
ペプチド及びタンパク質の確認は、ipi.HUMAN v3.76データベース(89 378エントリー)でターボ−SEQUESTアルゴリズム(Thermo Finnigan)を使って検索した。データベース検索後、スカーフフォルド2(Proteome Software)を用いて確認されたペプチド及びタンパク質を確認した。SEQUEST検索で得たペプチドのうち、0.95以上のペプチドプロフェット(PeptideProphet)蓋然性を有する1セットのペプチドを選別した。また、0.99以上のプロテインプロフェット(ProteinProphet)蓋然性及び2個以上の固有ペプチドを有するタンパク質リストを求めた。
【0113】
統計分析
グループ間の統計学的有意度は、Tukey’s correctionが適用されたone−wat analysis of variance(ANOVA)を用いて求め、p value<0.05を統計学的に有意なものと判定した。
【0114】
実験結果
脳卒中モデルで神経前駆細胞の分泌タンパク質による疾患の改善を見るために、次の3個の群で2週間実験を行った。脳卒中誘発24時間後、行動実験で疾患の誘導が確認された白ラットを3個群に任意に割り当てた後、右側外頚動脈に分泌タンパク質(0.2mg/kg、体積50μl)、培地またはPBSを同量(50μl)で注射した。各物質を注入した後、3、7、10及び14日に動物の状態と体重とを確認し、行動分析を実施した。
【0115】
【表1】
【0116】
虚血病変部位の分析結果
白ラットで永久MCAOを通じる脳卒中の誘導は、幅広い脳病変の損傷を誘導した。脳卒中誘発14日経過後、脳を摘出した後、TTC(2,3,5−triphenyltetrazolium chloride)染色で脳の損傷有無と損傷部位とを確認した。TTC染色は、細胞内の正常ミトコンドリア酸化酵素システム(mitochondrial oxidative enzyme system)と反応して染色されるが、脳虚血損傷を受けてミトコンドリアが損傷されれば、酸化システムが撹乱されて染色にならず、白色を表わすので、脳の損傷部位を区別することができる。
【0117】
図7に示されたように、中脳動脈結紮によって誘発された損傷は、主に右側脳の皮質部位と線条体部位とに発生した(図7)。また、神経前駆細胞の分泌タンパク質の注入が虚血性病変部位(infarct size)を減少させた。PBS対照群は、右脳の60%近く損傷され、培地対照群は、46%程度が損傷されたが、分泌タンパク質処理群は、損傷部位が29%程度で対照群に比べて損傷部位が著しく減少した。
【0118】
体重分析の結果
脳卒中誘発が白ラットの運動能力を減少させて、直ちに体重の減少が7日まで進行し、多様な治療剤は、運動能力の回復を通じて体重の増加を誘導する。分泌タンパク質の注入も、細胞移植と類似に体重増加を誘導した(図8)。神経損傷の回復で最も目立つ現象は、体重の回復である。分泌タンパク質処理群は、PBS対照群に比べて有意な改善を示した。
【0119】
行動分析の結果
分泌タンパク質処理群は、ビーム均衡検査で2つの対照群に比べて、統計的に有意な行動改善効果を示し、この効果は、治療3日目から表われるなど即刻な効果が表われた(図9a)。
【0120】
また、捕捉可能牽引検査(prehensile traction)でも、治療(注入)7日目に2つの対照群に比べて、統計的に有意な効果を示した(図9b)。
【0121】
さらに、分泌タンパク質の注入は、網での失足(foot fault)頻度を減少させる効果を示した(図9c)。単位時間当たり行動の活発さを測定するラインクロスも、改善される趨勢を示した(図9d)。
【0122】
総合的な行動神経改善効果(mNSS)の分析結果
mNSS(Modified Neurological Severity Score test)は、神経学的機能を測定するための構成表である。運動(筋肉状態)とmensory(時刻、触覚及び自己収容(proprioceptive))の項目で評価した。正常は、0点であり、点数が高いほど機能異常の程度が激しいと判断する。図10に示されたように、mNSSの分析で分泌タンパク質処理群は、治療序盤からPBS対照群と培地対照群よりも遥かに高い治療効果(行動改善)を示した(図10)。
【0123】
mNSS検査でPBS対照群は、脳虚血を誘発させた1日後、平均5.4点で、14日後、平均5.5点で、脳卒中による神経行動学的障害が保持されることが見られた。培地対照群の場合には、一時的な行動改善効果が治療3日に見えたが、追加的な改善効果は発揮することができなかった。一方、分泌タンパク質処理群の場合には、治療3日(mNSS 4.5点)から10日(mNSS 3点)まで持続的な行動改善効果を示した。
【0124】
分泌タンパク質の分析結果
iPSCs由来の神経前駆細胞から得た分泌タンパク質は、次のタンパク質を含んでいた:アグリン、アネキシンA5、BSG、ビグリカン、カルポニン−3、コアクトシン−類似タンパク質、コフィリン−1、コラーゲンα−2、クリン−3、デストリン、ジストログリカン、エフリン−B2、エクスポーチン−2、エズリン、フィブロネクチン、ファイブリン−1、Frizzled−relatedタンパク質、ゼラチン−3結合タンパク質、グラニュリン、成長/分化因子11、ハプトグロビン、ヘモペキシン、High mobility group protein B2、ホルネリン、インポーチン−9、インスリン−類似成長因子結合タンパク質2、ループスLaタンパク質、大食細胞移動抑制因子、ミッドカイン、モエシン、ニューロピリン2、プレイオトロフィン、プロフィリン−1、タンパク質DJ−1、ラディキシン、Secreted frizzled−related protein−2、セプチン−11、タリン−1、テスティカン、チモポエチン、トランスゲリン−3、ビメンチン。
【0125】
ヒト胚芽幹細胞の神経前駆細胞から得た分泌タンパク質は、次のタンパク質を含んでいた:アグリン、アネキシンA2、アトラクチン、ビグリカン、セルロプラスミン、コフィリン−1、コラーゲンα−1、コロニン−1X、ダームシジン、DERP12、エフリン−B3、エクソストシン−2、エズリン、ゼラキン−3結合タンパク質、グラニュリン、成長/分化因子11、ハプトグロビン、ヘモペキシン、High mobility group protein B2、ホルネリン、インスリン−類似成長因子結合タンパク質2、ループスLaタンパク質、ミッドカイン、モエシン、マルチプル上皮成長因子−類似ドメインタンパク質8、ニドゲン−1、パラチモシン、プロフィリン−2、タンパク質DJ−1、Secreted frizzled−related protein−2、セクレトグラニン、タリン−1、チモシンβ4、TGFBI、トランスゲリン、ビメンチン。
【0126】
以上、本発明の特定の部分を詳しく記述したところ、当業者にとって、このような具体的な技術は、単に望ましい具現例であり、これにより、本発明の範囲が制限されるものではないという点は明白である。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の請求項とその等価物とによって定義される。
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図4d
図4e
図4f
図5a
図5b
図5c
図5d
図6
図7
図8
図9a
図9b
図9c
図9d
図10
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]