特許第6400904号(P6400904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6400904
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】硬化性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20180920BHJP
   C08G 77/12 20060101ALI20180920BHJP
   C08G 77/20 20060101ALI20180920BHJP
   C08K 5/057 20060101ALI20180920BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20180920BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20180920BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20180920BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20180920BHJP
   H01L 33/56 20100101ALI20180920BHJP
【FI】
   C08L83/07
   C08G77/12
   C08G77/20
   C08K5/057
   C08K5/098
   C08L83/05
   H01L23/30 F
   H01L23/30 R
   H01L33/56
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-554125(P2013-554125)
(86)(22)【出願日】2013年8月1日
(86)【国際出願番号】JP2013070875
(87)【国際公開番号】WO2014021419
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2016年8月1日
【審判番号】不服2017-16629(P2017-16629/J1)
【審判請求日】2017年11月8日
(31)【優先権主張番号】特願2012-173252(P2012-173252)
(32)【優先日】2012年8月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】武井 吉仁
(72)【発明者】
【氏名】齋木 丈章
(72)【発明者】
【氏名】田熊 元紀
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 奈央
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 つばさ
(72)【発明者】
【氏名】金 愛美
【合議体】
【審判長】 岡崎 美穂
【審判官】 井上 猛
【審判官】 小柳 健悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−043136(JP,A)
【文献】 特開2012−121992(JP,A)
【文献】 特開2011−178983(JP,A)
【文献】 特開2008−208160(JP,A)
【文献】 特開2010−163602(JP,A)
【文献】 特開2012−074416(JP,A)
【文献】 特開2006−002093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08G 77/00-77/62
C08K 3/00-5/59
H01L 23/00-23/56,33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に1個以上のアリール基を有し、かつ、両末端にアルケニル基およびアルコキシ基を有するシリコーン樹脂(A)と、
1分子中に1個以上のアリール基および2個以上のSi−H結合を有するポリシロキサン化合物(B)と、
有機ジルコニウム化合物(C)と、
ヒドロシリル化反応用触媒(D)と、
を含有し、
前記シリコーン樹脂(A)が、下記式(A1)で表されるシリコーン樹脂であり、
前記有機ジルコニウム化合物(C)が、ジルコニウムアルコキシドである、硬化性樹脂組成物。
【化1】
(式(A1)中、R1は置換または非置換の一価炭化水素基を示し、R2はアルキル基を示し、Xはアルケニル基を示し、rは0または1の整数を示し、nは1以上の整数を示す。複数のR1,R2およびXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよいが、1分子中、少なくとも1個のR1は、アリール基を示す。)
【請求項2】
前記有機ジルコニウム化合物(C)の含有量が、前記シリコーン樹脂(A)および前記ポリシロキサン化合物(B)の合計100質量部に対して、0.001〜10質量部である、請求項に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記ヒドロシリル化反応用触媒(D)の含有量が、前記シリコーン樹脂(A)および前記ポリシロキサン化合物(B)の合計100質量部に対して、0.00001〜0.1質量部である、請求項1又は2に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
さらに、下記平均組成式(f)で表されるシリコーンレジン(F)を含有する、請求項1〜のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
(R6SiO3/2a(R62SiO2/2b(R63SiO1/2c(SiO4/2d(X61/2e …(f)
(式(f)中、R6は同一または異なる置換または非置換の一価炭化水素基であって、一分子中、全R6の10モル%以上はアリール基であり、X6は水素原子またはアルキル基であり、aは正数であり、bは0または正数であり、cは0または正数であり、dは0または正数であり、eは0または正数であり、かつ、b/aは0〜10の数であり、c/aは0〜0.5の数であり、d/(a+b+c+d)は0〜0.3の数であり、e/(a+b+c+d)は0〜0.4の数である。)
【請求項5】
前記ポリシロキサン化合物(B)の一部または全部が、下記平均組成式(b2)で表されるシリコーンレジンである、請求項1〜のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
(R5SiO3/2f(R52SiO2/2g(R53SiO1/2h(SiO4/2i(X51/2j …(b2)
(式(b2)中、R5は同一または異なるアルケニル基を除く置換または非置換の一価炭化水素基または水素原子であって、一分子中、全R5の0.1〜40モル%は水素原子であり、全R5の10モル%以上はアリール基であり、X5は水素原子またはアルキル基であり、hは正数であり、iは0または正数であり、jは0または正数であり、かつ、g/fは0〜10の数であり、h/fは0〜0.5の数であり、j/(f+g+h+i)は0〜0.3の数である。)
【請求項6】
光半導体素子封止用組成物である、請求項1〜のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、両末端に反応性官能基を有するシリコーン樹脂を含有する硬化性樹脂組成物が知られており(特許文献1等を参照)、例えば、電子材料分野で用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−270762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、シリコーン樹脂を含有する硬化性樹脂組成物について要求される性能レベルが高まっている。とりわけ、被着体に対する密着性が良好な硬化性樹脂組成物が求められている。また、このような硬化性樹脂組成物が光半導体封止用組成物である場合には、硬化後に良好な透明性され、さらに高い屈折率も要求される。これは、LEDなどの光半導体を封止する硬化物の屈折率が高いほど、光の取り出し効率が改善されて、より明るくなるためである。
【0005】
本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、密着性に優れ、かつ、硬化物が良好な透明性および高屈折率を有する、硬化性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のシリコーン樹脂と特定の有機金属化合物とを含有する組成物が、密着性に優れ、かつ、硬化後に良好な透明性および高い屈折率を示すことを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(7)を提供する。
【0007】
(1)1分子中に1個以上のアリール基を有し、かつ、両末端にアルケニル基およびアルコキシ基を有するシリコーン樹脂(A)と、1分子中に1個以上のアリール基および2個以上のSi−H結合を有するポリシロキサン化合物(B)と、有機ジルコニウム化合物(C)と、ヒドロシリル化反応用触媒(D)と、を含有する硬化性樹脂組成物。
【0008】
(2)上記シリコーン樹脂(A)が、下記式(A1)表されるシリコーン樹脂である、上記(1)に記載の硬化性樹脂組成物。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(A1)中、R1は置換または非置換の一価炭化水素基を示し、R2はアルキル基を示し、Xはアルケニル基を示し、rは0または1の整数を示し、nは1以上の整数を示す。複数のR1,R2およびXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよいが、1分子中、少なくとも1個のR1は、アリール基を示す。)
【0011】
(3)上記有機ジルコニウム化合物(C)の含有量が、上記シリコーン樹脂(A)および上記ポリシロキサン化合物(B)の合計100質量部に対して、0.001〜10質量部である、上記(1)または(2)に記載の硬化性樹脂組成物。
【0012】
(4)上記ヒドロシリル化反応用触媒(D)の含有量が、上記シリコーン樹脂(A)および上記ポリシロキサン化合物(B)の合計100質量部に対して、0.00001〜0.1質量部である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【0013】
(5)さらに、下記平均組成式(f)で表されるシリコーンレジン(F)を含有する、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
(R6SiO3/2a(R62SiO2/2b(R63SiO1/2c(SiO4/2d(X61/2e …(f)
(式(f)中、R6は同一または異なる置換または非置換の一価炭化水素基であって、一分子中、全R6の10モル%以上はアリール基であり、X6は水素原子またはアルキル基であり、aは正数であり、bは0または正数であり、cは0または正数であり、dは0または正数であり、eは0または正数であり、かつ、b/aは0〜10の数であり、c/aは0〜0.5の数であり、d/(a+b+c+d)は0〜0.3の数であり、e/(a+b+c+d)は0〜0.4の数である。)
【0014】
(6)上記ポリシロキサン化合物(B)の一部または全部が、下記平均組成式(b2)で表されるシリコーンレジンである、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
(R5SiO3/2f(R52SiO2/2g(R53SiO1/2h(SiO4/2i(X51/2j …(b2)
(式(b2)中、R5は同一または異なるアルケニル基を除く置換または非置換の一価炭化水素基または水素原子であって、一分子中、全R5の0.1〜40モル%は水素原子であり、全R5の10モル%以上はアリール基であり、X5は水素原子またはアルキル基であり、hは正数であり、iは0または正数であり、jは0または正数であり、かつ、g/fは0〜10の数であり、h/fは0〜0.5の数であり、j/(f+g+h+i)は0〜0.3の数である。)
【0015】
(7)光半導体素子封止用組成物である、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の硬化性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、密着性に優れ、かつ、硬化物が良好な透明性および高屈折率を有する、硬化性樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の硬化性樹脂組成物(以下、「本発明の組成物」ともいう)は、1分子中に1個以上のアリール基を有し、かつ、両末端にアルケニル基およびアルコキシ基を有するシリコーン樹脂(A)と、1分子中に1個以上のアリール基および2個以上のSi−H結合を有するポリシロキサン化合物(B)と、有機ジルコニウム化合物(C)と、ヒドロシリル化反応用触媒(D)と、を含有する硬化性樹脂組成物である。
以下、本発明の組成物が含有する各成分について詳細に説明する。
【0018】
<シリコーン樹脂(A)>
本発明の組成物が含有するシリコーン樹脂(A)は、1分子中に1個以上のアリール基を有し、かつ、両末端にアルケニル基およびアルコキシ基を有するシリコーン樹脂である。
本発明の組成物は、被着体に対する密着性が向上するが、これは、シリコーン樹脂(A)を含有することにより、アルケニル基による付加型反応と、アルコキシ基による縮合反応とが可能になるためと推測される。
【0019】
また、本発明の組成物は、アリール基を有するシリコーン樹脂(A)を含有することにより、硬化物が高い屈折率を示す。これは、アリール基の分極率が高く、分子間相互作用が働くためと考えられる。硬化物が高い屈折率を示すため、本発明の組成物が光半導体封止用組成物である場合には、光の取り出し効率が改善される。
さらに、アリール基はメチル基等と比べて分子間相互作用が働くため、ガス透過性も改善され、耐硫化性の向上も期待できる。
なお、本発明において、アリール基とは、置換または非置換のアリール基を意味するものとする。
【0020】
シリコーン樹脂(A)においては、ケイ素原子に結合する全有機基(以下、「ケイ素原子結合全有機基」ともいう)中のアリール基の含有量が、5モル%以上であるのが好ましく、10モル%以上であるのがより好ましい。アリール基の含有量がこの範囲であれば、本発明の組成物は、粘度が適切で、硬化物がより高屈折率となる。また、ケイ素原子結合全有機基中のアリール基の含有量は、99モル%以下であるのが好ましい。
なお、ケイ素原子に結合する「有機基」としては、特に限定されず、例えば、後述するR1が示す置換または非置換の一価炭化水素基が挙げられる(以下、同様)。
【0021】
本発明の組成物に含有されるシリコーン樹脂(A)としては、1分子中に1個以上のアリール基を有し、かつ、両末端にアルケニル基およびアルコキシ基を有するシリコーン樹脂であれば特に限定されないが、下記式(A1)で表されるシリコーン樹脂であるのが好ましい。
【0022】
【化2】
【0023】
式(A1)中、R1は置換または非置換の一価炭化水素基を示し、R2はアルキル基を示し、Xはアルケニル基を示し、rは0または1の整数を示し、nは1以上の整数を示す。複数のR1,R2およびXは、それぞれ同一であっても異なっていてもよいが、1分子中、少なくとも1個のR1は、アリール基を示す。
また、nが示す整数は、3〜1000の整数であるのが好ましく、シリコーン樹脂(A)の重量平均分子量に対応する数値にすることができる。
【0024】
1が示す置換または非置換の一価炭化水素基(アリール基を除く)としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの炭素数1〜18のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などの炭素数2〜18のアルケニル基;ベンジル基、フェネチル基などの炭素数7〜18のアラルキル基;等が挙げられる。
これらのうち、炭素数1〜18のアルキル基であるのが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基であるのがより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であるのがさらに好ましく、メチル基、エチル基であるのが特に好ましい。
【0025】
また、R1が示す置換または非置換の一価炭化水素基は、アリール基を含む。このアリール基は、置換または非置換のアリール基であり、具体的には、例えば、フェニル基、ナフチル基などの炭素数6〜18の非置換のアリール基;トリル基、キシリル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、ペンチルフェニル基、ヘキシルフェニル基、ヘプチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基、ウンデシルフェニル基、ドデシルフェニル基などの炭素数7〜18のアルキルアリール基;等が挙げられる。
これらのうち、本発明の組成物の硬化物がより高い屈折率を示すという理由から、炭素数6〜18の非置換のアリール基であるのが好ましく、フェニル基であるのがより好ましい。
【0026】
2が示すアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、各種オクチル基、各種デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
これらのうち、硬化性、密着性の観点から、炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましく、炭素数1〜6のアルキル基であるのがより好ましく、メチル基、エチル基であるのがさらに好ましい。
2がアルキル基を示すことにより、式(A1)中においては、「−OR2」がアルコキシ基を示す。
【0027】
Xが示すアルケニル基としては、例えば、ビニル基、プロペニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられ、本発明の組成物の硬化性が優れるという理由から、ビニル基、アリル基であるのが好ましい。
【0028】
シリコーン樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)としては、機械特性、粘度操作のしやすさ、および、反応操作の容易さの観点から、500〜1,000,000であるのが好ましい。
なお、本発明において、重量平均分子量とは、クロロホルムを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量であるものとする。
【0029】
また、シリコーン樹脂(A)の25℃における粘度としては、機械特性、粘度操作のしやすさ、および、反応操作の容易さの観点から、20〜1,000,000mPa・sであるのが好ましく、500〜100,000mPa・sであるのがより好ましい。
なお、本発明において、粘度とは、JIS K7117−1の4.1(ブルックフィールド形回転粘度計)に準拠し、25℃において測定されたものとする。
【0030】
(シリコーン樹脂(A)の製造方法)
このようなシリコーン樹脂(A)は、例えば、1分子中に1個以上のアリール基を有し、かつ、両末端にシラノール基を有するシリコーン樹脂と、1分子中に1個以上のアルケニル基を有するアルコキシシランと、の反応により得られるものである。
より具体的には、シリコーン樹脂(A)は、後述するシリコーン樹脂(a1)と後述するアルコキシシラン(a2)との反応により得られるものであるのが好ましい。以下、シリコーン樹脂(A)の製造方法について説明する。
【0031】
[シリコーン樹脂(a1)]
シリコーン樹脂(A)の製造方法に用いられるシリコーン樹脂(a1)は、下記式(1)で表される両末端にシラノール基を有するシリコーン樹脂である。なお、シラノール基とは、ケイ素原子(Si)にヒドロキシ基(−OH)が直接結合したものをいう。
【0032】
【化3】
【0033】
式(1)中、R1は上述したR1と同義であり、複数のR1は、それぞれ同一であっても異なっていてもよいが、1分子中、少なくとも1個のR1は、アリール基を示す。mは1以上の整数を示す。
mが示す整数としては、3〜1000の整数であるのが好ましく、シリコーン樹脂(a1)の重量平均分子量に対応する数値にすることができる。
【0034】
シリコーン樹脂(a1)の重量平均分子量(Mw)としては、機械特性、得られるシリコーン樹脂(A)の粘度操作のしやすさ、および、反応操作の容易さの観点から、500〜1,000,000であるのが好ましい。
また、シリコーン樹脂(a1)の25℃における粘度としては、同様の観点から、20〜1,000,000mPa・sであるのが好ましく、500〜100,000mPa・sであるのがより好ましい。
【0035】
[アルコキシシラン(a2)]
シリコーン樹脂(A)の製造方法に用いられるアルコキシシラン(a2)は、下記式(2)で表される1分子中に少なくとも2個のアルコキシ基を有するアルコキシシランである。
【0036】
【化4】
【0037】
式(2)中、R2,Xおよびrは、上述したR2,Xおよびrと同義である。複数のR2は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
アルコキシシラン(a2)の重量平均分子量(Mw)としては、反応性、機械特性、得られるシリコーン樹脂(A)の粘度操作のしやすさ、および、反応操作の容易さの観点から、100〜2,000であるのが好ましく、140〜1,000であるのがより好ましい。
【0039】
[カルボン酸化合物(a3)]
シリコーン樹脂(a1)とアルコキシシラン(a2)との反応は、下記式(3)で表される1分子中に少なくとも1個のカルボキシ基を有するカルボン酸化合物(a1)の存在下で行われるのが好ましい。これにより、緩やかな条件(低温かつ短時間)で、目的とするシリコーン樹脂(A)を得ることができる。
【0040】
【化5】
【0041】
式(3)中、R3は置換または非置換の一価炭化水素基または水素原子を示す。R3が示す置換または非置換の一価炭化水素基としては、R1が示す置換または非置換の一価炭化水素基として記載したものが挙げられ、なかでも、反応後における除去の容易さ、シリコーン樹脂との相溶性、および、入手のしやすさという観点から、一価の脂肪族炭化水素基であるのが好ましく、アルキル基であるのがより好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基であるのがさらに好ましい。
【0042】
[反応工程]
シリコーン樹脂(A)の製造方法は、シリコーン樹脂(a1)とアルコキシシラン(a2)とを、カルボン酸化合物(a3)の存在下で反応させて、反応生成物を得る工程(以下、「反応工程」ともいう)を備える。
反応工程において、各成分の含有量比は特に限定されないが、反応操作の容易さ、および、反応再現性の観点から、シリコーン樹脂(a1)100質量部に対して、アルコキシシラン(a2)5〜100質量部、カルボン酸化合物(a3)0.001〜10質量部であるのが好ましい。
【0043】
シリコーン樹脂(a1)とアルコキシシラン(a2)との反応は、撹拌により行われるのが好ましい。また、撹拌に際しては、より緩やかな反応条件という観点から、60〜120℃の温度範囲で加熱するのが好ましく、撹拌時間(反応時間)は、3〜12時間であるのが好ましい。
反応工程において、撹拌および加熱を行う方法は、特に限定されず、従来公知の方法によって行うことができる。
【0044】
このような反応工程によって、カルボン酸化合物(a3)が触媒として機能し、シリコーン樹脂(a1)とアルコキシシラン(a2)との反応が進行する。すなわち、シリコーン樹脂(a1)が有する「−OH」と、アルコキシシラン(a2)が有する「−OR2」とが反応し、副生成物として「R2OH」を与えて、上述したシリコーン樹脂(A)が主生成物として生成する。
この反応工程を、より具体的に説明すると、例えば、下記式(3′)で表されるカルボン酸化合物(a3)が触媒として用いられ、下記式(1′)で表されるシリコーン樹脂(a1)が有する「−OH」と、下記式(2′)で表されるアルコキシシラン(a2)が有する「−OMe」とが反応し、副生成物として「MeOH」を与えて、下記式(A1′)で表されるシリコーン樹脂(A)が主生成物として生成する。
なお、下記式中「Me」はメチル基を示し、「Ph」はフェニル基を示し、「Vi」はビニル基を示す(以下、同様)。また、下記式中、kおよびlは、それぞれ、1以上の整数を示す。
【0045】
【化6】
【0046】
反応工程においては、1H−NMRによって反応追跡を行い、シリコーン樹脂(a1)が有するシラノール基に由来するピークの消滅、または、反応に用いた成分以外の成分に由来するピークの出現を確認することにより、主生成物であるシリコーン樹脂(A)と副生成物とを含む反応生成物が得られたものとして、反応終了とすることができる。
【0047】
[除去工程]
さらに、本発明におけるシリコーン樹脂(A)の製造方法は、上記反応生成物から副生成物を除去し、主生成物であるシリコーン樹脂(A)を得る工程(以下、「除去工程」ともいう)を備えていてもよい。
副生成物の除去方法は、特に限定されず、例えば、反応生成物を加熱しながら、減圧条件下で撹拌することにより行う方法が挙げられる。
このとき、加熱温度、圧力、撹拌時間等の条件は、特に限定されず、生成する副生成物に応じて、適宜設定することができるが、副生成物とともに、未反応のアルコキシシラン(a2)および触媒であるカルボン酸化合物(a3)も同時に除去できる条件であるのが好ましい。
例えば、副生成物として「MeOH」(メタノール)が生成する場合には、加熱温度は120〜160℃であるのが好ましく、圧力は1〜30mmHgであるのが好ましく、撹拌時間は2〜5時間であるのが好ましい。
除去工程においては、反応生成物の粘度を測定し、粘度が当初より上昇して不変となったところで、副生成物、未反応のアルコキシシラン(a2)およびカルボン酸化合物(a3)が除去されたものとして、終了とすることができる。
【0048】
次に、上述したシリコーン樹脂(A)の硬化に寄与する成分として、ポリシロキサン化合物(B)、有機ジルコニウム化合物(C)、ヒドロシリル化反応用触媒(D)について説明する。
【0049】
<ポリシロキサン化合物(B)>
本発明の組成物に含有されるポリシロキサン化合物(B)は、1分子中に1個以上のアリール基および2個以上のSi−H結合を有するポリシロキサン化合物である。ここで、「Si−H結合」とは、シロキサン結合(…Si−O−Si…)で形成された主骨格中のケイ素原子(Si)に水素原子(H)が結合したものいう。
【0050】
ポリシロキサン化合物(B)は、シリコーン樹脂(A)が有するアルケニル基に対して付加反応(ヒドロシリル化反応)する。このとき、ポリシロキサン化合物(B)は、1分子中に少なくとも2個のSi−H結合を有しているため、シリコーン樹脂(A)どうしの架橋剤として機能する。
【0051】
ポリシロキサン化合物(B)においては、硬化性を確保する観点から、上述したシリコーン樹脂(A)が有するアルケニル基1モルに対する上記Si−H結合の量(以下、便宜的に「Si−H/Si−Viモル比」ともいう)は、0.5〜5.0モルを満たすことが好ましく、0.5〜1.5モルであるのがより好ましい。
【0052】
また、ポリシロキサン化合物(B)は、アリール基を有するが、これにより、本発明の組成物においては、上述したアリール基を有するシリコーン樹脂(A)との相溶性に優れ、濁り等が抑えられ、硬化物の透明性に優れる。
このとき、ポリシロキサン化合物(B)において、ケイ素原子結合全有機基中のアリール基の含有量は、5モル%以上であるのが好ましく、10モル%以上であるのがより好ましい。アリール基の含有量がこの範囲であれば、本発明の組成物は、透明性がより優れ、硬化後の屈折率がより高くなる。また、ケイ素原子結合全有機基中のアリール基の含有量は、99モル%以下であるのが好ましい。
【0053】
ポリシロキサン化合物(B)としては、1分子中に1個以上のアリール基および2個以上のSi−H結合を有するポリシロキサン化合物であれば特に限定されないが、例えば、下記式(b1)で表されるものが挙げられる。
【0054】
【化7】
【0055】
式(b1)中、R4はアルケニル基を除く置換または非置換の一価炭化水素基または水素原子を示し、tは1以上の整数を示す。複数のR4は同一であっても異なっていてもよいが、1分子中、少なくとも1個のR4はアリール基を示し、少なくとも2個のR4は水素原子を示す。
4が示す置換または非置換の一価炭化水素基としては、R1が示す置換または非置換の一価炭化水素基として記載したものが挙げられる。
tが示す整数としては、ポリシロキサン化合物(B)の重量平均分子量に対応する数値にすることができる。
【0056】
ポリシロキサン化合物(B)の重量平均分子量(Mw)としては、本発明の組成物の密着性がより優れ、かつ、硬化後の物性も良好になるという理由から、100〜10,000であるのが好ましく、120〜5,000であるのがより好ましい。
また、ポリシロキサン化合物(B)の25℃における粘度としては、相溶性および作業性の観点から、0.1〜10,000mPa・sであるのが好ましく、1〜100mPa・sであるのがより好ましい。
【0057】
式(b1)で表されるポリシロキサン化合物(B)としては市販品を使用することができ、具体的には、例えば、下記式(b1′)で表される、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体(HPM−502、Gelest社製、Mw:4,300、p:q=1:1、ケイ素原子結合全有機基中のフェニル基の含有量:33モル%)が挙げられる。
【0058】
【化8】
【0059】
また、ポリシロキサン化合物(B)は、その一部または全部が、下記平均組成式(b2)で表されるシリコーンレジンであってもよい。
(R5SiO3/2f(R52SiO2/2g(R53SiO1/2h(SiO4/2i(X51/2j …(b2)
(式(b2)中、R5は同一または異なるアルケニル基を除く置換または非置換の一価炭化水素基または水素原子であって、一分子中、全R5の0.1〜40モル%は水素原子であり、全R5の10モル%以上はアリール基であり、X5は水素原子またはアルキル基であり、hは正数であり、iは0または正数であり、jは0または正数であり、かつ、g/fは0〜10の数であり、h/fは0〜0.5の数であり、j/(f+g+h+i)は0〜0.3の数である。)
【0060】
式(b2)中の5が示す置換または非置換の一価炭化水素基としては、R1が示す置換または非置換の一価炭化水素基として記載したものであって、アルケニル基を除くものが挙げられる。
【0061】
<有機ジルコニウム化合物(C)>
本発明の組成物に含有される有機ジルコニウム化合物(C)は、シリコーン樹脂(A)が有するアルコキシ基の縮合反応を促進する縮合触媒として機能する。
本発明の組成物は、シリコーン樹脂(A)と併用させて、有機ジルコニウム化合物(C)を含有することにより、密着性に優れる。
【0062】
例えば、縮合触媒として有機チタン化合物を使用した場合においては、得られる硬化物は着色して透明性が劣るが、有機ジルコニウム化合物(C)を使用した本発明の組成物の硬化物は、着色が抑えられ、透明性に優れる。これは、ジルコニウムのd電子の遷移がチタンに比べて起こりにくいためと考えられる。
【0063】
有機ジルコニウム化合物(C)としては、特に限定されないが、例えば、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムキレート等が好適に用いられる。
【0064】
ジルコニウムアルコキシドとしては、特に限定されず、例えば、テトラエトキシジルコニウム、テトラ−n−プロポキシジルコニウム、テトラ−i−プロポキシジルコニウム、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−i−ブトキシジルコニウム、テトラ−sec−ブトキシジルコニウム、テトラ−t−ブトキシジルコニウム、テトラ−2−エチルヘキシルジルコニウム等が挙げられ、なかでも、テトラ−n−ブトキシジルコニウム、テトラ−2−エチルヘキシルジルコニウムが好ましい。
【0065】
ジルコニウムキレートとしては、特に限定されず、例えば、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム等が挙げられ、なかでも、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウムが好ましい。
【0066】
また、本発明に用いられる有機ジルコニウム化合物(C)としては、ジルコニル[(Zr=O)2+]を構成要素として含むジルコニウム金属塩であってもよい。このようなジルコニウム金属塩としては、例えば、ジオクチル酸ジルコニル、ジネオデカン酸ジルコニルなどの脂肪族カルボン酸塩;ナフテン酸ジルコニル、シクロヘキサン酸ジルコニルなどの脂環式カルボン酸塩;安息香酸ジルコニルなどの芳香族カルボン酸塩;等が挙げられる。
【0067】
有機ジルコニウム化合物(C)としては、上述したものを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
有機ジルコニウム化合物(C)の含有量は、シリコーン樹脂(A)およびポリシロキサン化合物(B)の合計100質量部に対して、0.001〜10質量部であるのが好ましく、0.01〜5質量部であるのが好ましい。
有機ジルコニウム化合物(C)の含有量がこの範囲であれば、本発明の組成物は、硬化性が優れるとともに、密着性がより優れ、硬化物の透明性もより優れる。
【0068】
<ヒドロシリル化反応用触媒(D)>
本発明の組成物に含有されるヒドロシリル化反応用触媒(D)は、ポリシロキサン化合物(B)と併用されて、シリコーン樹脂(A)のアルケニル基に対する付加反応(ヒドロシリル化反応)を促進する触媒として機能する。
ヒドロシリル化反応用触媒(D)としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒等が挙げられ、白金系触媒であることが好ましい。白金系触媒の具体例としては、塩化白金酸、塩化白金酸−オレフィン錯体、塩化白金酸−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、塩化白金酸−アルコール配位化合物、白金のジケトン錯体等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ヒドロシリル化反応用触媒(D)の含有量は、触媒量であるが、本発明の組成物の硬化性が優れるという理由から、上述したシリコーン樹脂(A)およびポリシロキサン化合物(B)の合計100質量部に対して、0.00001〜0.1質量部であるのが好ましく、0.0001〜0.01質量部であるのがより好ましい。
【0069】
<硬化遅延剤(E)>
本発明の組成物は、さらに、硬化遅延剤(E)を含有していてもよい。硬化遅延剤(E)は、本発明の組成物の硬化速度や作業可使時間を調整するための成分であり、例えば、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、フェニルブチノール、1−エチニル−1−シクロヘキサノールなどの炭素−炭素三重結合を有するアルコール誘導体;3−メチル−3−ペンテン−1−イン、3,5−ジメチル−3−ヘキセン−1−インなどのエンイン化合物;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、テトラメチルテトラヘキセニルシクロテトラシロキサンなどのアルケニル基含有低分子量シロキサン;メチル−トリス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シラン、ビニル−トリス(3−メチル−1−ブチン−3−オキシ)シランなどのアルキン含有シラン;等が挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
硬化遅延剤(E)の含有量は、本発明の組成物の使用方法等に応じて適宜選択されるが、例えば、上述したシリコーン樹脂(A)およびポリシロキサン化合物(B)の合計100質量部に対して、0.00001〜0.1質量部であるのが好ましく、0.0001〜0.01質量部であるのがより好ましい。
【0070】
<シリコーンレジン(F)>
本発明の組成物は、さらに、下記平均組成式(f)で表されるシリコーンレジン(F)を含有していてもよい。これにより、本発明の組成物は、硬度が高くなり、表面タックが抑制される。
【0071】
(R6SiO3/2a(R62SiO2/2b(R63SiO1/2c(SiO4/2d(X61/2e …(f)
(式(f)中、R6は同一または異なる置換または非置換の一価炭化水素基であって、一分子中、全R6の10モル%以上はアリール基であり、X6は水素原子またはアルキル基であり、aは正数であり、bは0または正数であり、cは0または正数であり、dは0または正数であり、eは0または正数であり、かつ、b/aは0〜10の数であり、c/aは0〜0.5の数であり、d/(a+b+c+d)は0〜0.3の数であり、e/(a+b+c+d)は0〜0.4の数である。)
【0072】
式(f)中の6が示す置換または非置換の一価炭化水素基としては、R1が示す置換または非置換の一価炭化水素基として記載したものが挙げられる。
【0073】
シリコーンレジン(F)においては、ケイ素原子結合全有機基中のアリール基の含有量が、5〜95モル%であるのが好ましく、20〜80モル%であるのがより好ましい。
【0074】
シリコーンレジン(F)の含有量は、特に限定されないが、例えば、上述したシリコーン樹脂(A)およびポリシロキサン化合物(B)の合計100質量部に対し、10〜1000質量部であるのが好ましく、50〜500質量部であるのがより好ましい。
【0075】
<密着付与剤(G)>
本発明の組成物は、さらに、密着付与剤(G)を含有していてもよい。
密着付与剤(G)としては、例えば、シランカップリング剤が挙げられ、シランカップリング剤の具体例としては、アミノシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、イソシアネートシラン、イミノシラン、これらの反応物、これらとポリイソシアネートとの反応により得られる化合物等が挙げられ、エポキシシランであるのが好ましい。
エポキシシランとしては、エポキシ基とアルコキシシリル基とを有する化合物であれば特に限定されず、例えば、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシランなどのジアルコキシエポキシシラン;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのトリアルコキシエポキシシラン;等が挙げられる。
密着付与剤(G)の含有量は、特に限定されないが、上述したシリコーン樹脂(A)、ポリシロキサン化合物(B)、および、有機ジルコニウム化合物(C)の合計100質量部に対して0.5〜10質量部であるのが好ましく、1〜5質量部であるのがより好ましい。
【0076】
本発明の組成物の製造方法は、特に限定されず、例えば、上述した必須成分および任意成分を混合することによって製造する方法が挙げられる。
また、本発明の組成物を硬化して硬化物を得る方法も特に限定されず、例えば、本発明の組成物を、80〜200℃、10分〜720分加熱する方法が挙げられる。
【0077】
本発明の組成物は、例えば、ディスプレイ材料、光記録媒体材料、光学機器材料、光部品材料、光ファイバー材料、光・電子機能有機材料、半導体集積回路周辺材料等の分野において、例えば、接着剤、プライマー、封止材等として使用できる。
【0078】
とりわけ、本発明の組成物は、密着性に優れ、その硬化物が良好な透明性および高い屈折率を示すことから、光半導体封止用組成物として好適に使用することができる。
本発明の組成物を適用できる光半導体は特に制限されず、例えば、発光ダイオード(LED)、有機電界発光素子(有機EL)、レーザーダイオード、LEDアレイ等が挙げられる。
光半導体封止用組成物としての本発明の組成物の使用方法としては、例えば、光半導体に本発明の組成物を付与し、本発明の組成物が付与された光半導体を加熱して本発明の組成物を硬化させる方法が挙げられる。
このとき、本発明の組成物を付与し硬化させる方法は特に制限されず、例えば、ディスペンサーを使用する方法、ポッティング法、スクリーン印刷、トランスファー成形、インジェクション成形等が挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
〔実施例1〜3、比較例1〜5〕
<硬化性樹脂組成物の製造>
下記第1表に示す成分を同表に示す量(単位:質量部)で用い、これらを真空攪拌機で均一に混合して硬化性樹脂組成物(以下、単に「組成物」ともいう。)を製造した。なお、同表中、「Si−H/Si−Viモル比」とは上述したとおりである。
【0081】
<透過率>
製造された組成物を、150℃で2時間加熱して硬化させて、硬化物(厚さ=2.0mm)を得た。得られた硬化物について、JIS K 0115:2004に準じ、紫外・可視(UV−Vis)吸収スペクトル測定装置(島津製作所社製)を用いて波長400nmにおける透過率(単位:%)を測定した。測定結果を下記第1表に示す。透過率の値が80%T以上であれば「透明性」に優れるものとして評価できる。
【0082】
<屈折率>
製造された組成物を、150℃で2時間加熱して硬化させて、硬化物(厚さ=2.0mm)を得た。得られた硬化物について、JIS K 7105:1981に準拠する測定法でアッベリフレクトメータ(ATAGO社製)を用いて、ナトリウムのスペクトルのD線589.6nmにおける屈折率を測定した。測定結果を下記第1表に示す。屈折率の値が1.43以上であれば高屈折率であると評価でき、1.5以上であればより高屈折率である評価できる。
【0083】
<引張せん断接着強さ、CF>
製造された組成物を、接着面積12.5mm×25mmとして、被着体(アルミニウム合金板、A1050P、パルテック社製)の間に挟み込んだ後、150℃で2時間加熱することにより硬化させ、試験体を得た。得られた試験体を用いて、JIS K6850:1999に準拠して、引張試験を行い、引張せん断接着強さ(単位:MPa)を測定した。また、接着面積に対する凝集破壊(CF)面積の割合(単位:%)も測定した。いずれも結果を下記第1表に示す。引張せん断接着強さの値が高いほど、また、CFの値が100に近いほど、密着性に優れるものとして評価できる。
【0084】
<リフロー試験、湿熱試験>
製造された組成物を、LEDパッケージ(エノモト社製)に塗布し、150℃で2時間加熱することにより硬化させて、試験体を作製した。なお、各例ごとに試験体を8個作製した。作製した8個の試験体を、以下2種の試験に供し、硬化物の剥離が確認されなかった試験体の個数をカウントした。この個数が多いほど、密着性に優れるものとして評価できる。
【0085】
(リフロー試験)
試験体を、280℃に熱したホットプレート上に40秒間放置した後、硬化物の剥離の有無を目視にて確認した。
(湿熱試験)
試験体を、温度85℃、湿度85%の環境下に1000時間放置した後、硬化物の剥離の有無を目視にて確認した。
【0086】
【表1】
【0087】
第1表中の各成分は、以下のものを使用した。
・シリコーン樹脂A1:後述するようにして製造した、フェニル基を有し、かつ、両末端にビニル基およびメトキシ基を有するシリコーン樹脂(Mw:2,000、粘度:250mPa・s、ビニル基の含有量:3.10質量%、ケイ素原子結合全有機基中のフェニル基の含有量:50モル%)。下記式(A1−1)で表され、式中のn′は、シリコーン樹脂A1の重量平均分子量に対応する数値である。
・シリコーン樹脂A2:後述するようにして製造した、フェニル基を有し、かつ、両末端にビニル基およびメトキシ基を有するシリコーン樹脂(Mw:1,500、粘度:100mPa・s、ビニル基の含有量:4.51質量%、ケイ素原子結合全有機基中のフェニル基の含有量:50モル%)。下記式(A2−1)で表され、式中のk′、l′は、シリコーン樹脂A2の重量平均分子量に対応する数値であり、かつ、k′:l′=1:1である。
【0088】
【化9】
【0089】
・シリコーン樹脂X1:フェニル基を有し、かつ、両末端にメチル基およびビニル基を有するメチルフェニルシリコーン樹脂(PMV−9925、Gelest社、Mw:2,500、粘度:500mPa・s、ビニル基の含有量:2.2質量%、ケイ素原子結合全有機基中のフェニル基の含有量:50モル%)
・シリコーン樹脂X2:下記式(X2)で表される、後述するようにして製造した、フェニル基を有さず、かつ、両末端にビニル基およびメトキシ基を有するシリコーン樹脂(Mw:20,000、粘度:1,000mPa・s、ビニル基の含有量:0.30質量%)
【0090】
【化10】
【0091】
・ポリシロキサン化合物B1:両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体(HPM−502、Gelest社製、Mw:4,300、ケイ素原子結合全有機基中のフェニル基の含有量:33モル%)
・ポリシロキサン化合物Z1:下記式(Z1)で表されるオルガノポリシロキサン(HMS−991、Gelest社製、Mw:1,600)
【0092】
【化11】
【0093】
・有機ジルコニウム化合物C1:テトラ−n−ブトキシジルコニウム(オルガチックスZA−65、マツモト交商社製)
・有機チタン化合物Y1:テトラ−i−プロポキシチタン(TA−10、マツモトファインケミカル社製)
【0094】
・ヒドロシリル化反応用触媒D1:塩化白金酸−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体(Gelest社製、Mw:474.68)
・硬化遅延剤E1:3−メチル−1−ブチン−3−オール(東京化成工業社製、Mw:100)
・シリコーンレジンF1:平均組成式「(PhSiO3/20.9(ViMe2SiO1/20.1」で表されるフェニルシリコーンレジン(ビニル基の含有量:5.6質量%、ケイ素原子結合全有機基中のフェニル基の含有量:75モル%)
・密着付与剤G1:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越化学工業社製)
【0095】
シリコーン樹脂A1,A2,X2については、以下のとおり製造した。
まず、2Lの3口フラスコに、ジムロート冷却管とメカニカルスターラーとを備え付け、下記第2表に示す成分(単位は質量部)を封入した。次に、このフラスコをオイルバスに漬けて100℃に加熱しながら、メカニカルスターラーを回転させて、フラスコに封入された成分を撹拌し、6時間反応させた。
このとき、後述するシリコーン樹脂a1−1,a1−2,a1−3が有するシラノール基に由来するピークの消滅、または、フラスコに封入された成分以外の成分に由来するピークの出現を、1H−NMRによって確認することにより、主生成物(シリコーン樹脂A1,A2,X2)含む反応生成物が得られたものとして、反応終了とした。
次に、真空ポンプを用いて、反応生成物を、140℃、10mmHgの条件下で3時間撹拌し、粘度が不変となったところで、副生成物、未反応のアルコキシシランa2−1およびカルボン酸化合物a3−1の除去が終了したものとして、シリコーン樹脂A1,A2,X2を得た。
【0096】
【表2】
【0097】
第2表中の各成分は、以下のものを使用した。
・シリコーン樹脂a1−1:両末端シラノール基ポリメチルフェニルシロキサン(Mw:1,500)
・シリコーン樹脂a1−2:両末端シラノール基ジフェニルシロキサン−ジメチルシロキサン共重合体(PDS−1615、Gelest社製、Mw:1,000)
・シリコーン樹脂a1−3:両末端シラノールポリジメチルシロキサン(DMS−S27、Gelest社製、Mw:18,000、粘度:800mPa・s)
・アルコキシシランa2−1:トリメトキシビニルシラン(KBM−1003、信越化学工業社製、Mw:148.2)
・カルボン酸化合物a3−1:酢酸(鹿1級、関東化学社製)
【0098】
第1表に示す結果を見ると、実施例1〜3は、いずれも、透過率の値が高く透明性に優れ、また、高屈折率であった。さらに、密着性にも優れていた。
これに対し、両末端にメチル基およびビニル基を有する(アルコキシ基を有さない)シリコーン樹脂X1を用いた比較例1〜3は、いずれも密着性に劣ることが分かった。
また、有機チタン化合物Y1を使用した比較例4は、透過率の値が低く、透明性に劣っていた。
また、フェニル基を有さないシリコーン樹脂X2を使用した比較例5は、低屈折率であった。