特許第6400906号(P6400906)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6400906
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】継電器
(51)【国際特許分類】
   H01H 50/02 20060101AFI20180920BHJP
   H01H 50/54 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   H01H50/02 B
   H01H50/54 B
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-976(P2014-976)
(22)【出願日】2014年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-130260(P2015-130260A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 伸介
(72)【発明者】
【氏名】灘浪 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】石川 聡
【審査官】 澤崎 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−199087(JP,A)
【文献】 特開2012−089492(JP,A)
【文献】 実開昭62−088337(JP,U)
【文献】 特開2012−221557(JP,A)
【文献】 実開平02−084222(JP,U)
【文献】 特開2010−090465(JP,A)
【文献】 特開昭63−292535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 1/00 − 1/66
H01H 3/00 − 7/16
H01H 33/28 − 33/59
H01H 45/00 − 45/14
H01H 50/00 − 50/92
C21D 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ固定接点を有する導電性の2つの固定端子と、各前記固定接点にそれぞれ対応する2つの可動接点を有する導電性の可動接触子と、前記可動接触子を移動させて各前記可動接点が対応する前記固定接点と接触する状態と接触しない状態とを切り換える駆動用部材と、前記2つの固定端子を支持する第1の容器と、を備える継電器において、
前記固定端子と前記可動接触子とは別体として設けられ、前記固定端子と前記可動接触子との少なくとも一方に接触した制振部材を備え、前記制振部材は、制振合金製の制振部材であることを特徴とする、継電器。
【請求項2】
請求項1記載の継電器において、
前記制振部材は、前記固定端子と前記第1の容器との間に配置されていることを特徴とする、継電器。
【請求項3】
請求項1記載の継電器において、
前記固定端子は、前記第1の容器に接合されるフランジ部と、前記フランジ部より前記固定接点側に位置する本体部と、を有し、
前記制振部材の少なくとも一部分は、前記固定端子の前記本体部に取り付けられていることを特徴とする、継電器。
【請求項4】
請求項1記載の継電器において、
前記制振部材は、前記可動接触子に取り付けられていることを特徴とする、継電器。
【請求項5】
請求項4に記載の継電器において、
前記制振部材は、磁性体であることを特徴とする、継電器。
【請求項6】
請求項5に記載の継電器において、さらに、
前記可動接触子より、前記可動接点が前記固定接点に近づく第1の方向側に配置された他の磁性体部材を備えることを特徴とする、継電器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、継電器に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばハイブリッド自動車や電気自動車に用いられる電力システムでは、直流電源(蓄電池)とモータ(および電力変換装置)との間が電気的に接続されたオン状態と接続されていないオフ状態とを切り換えるために、継電器が用いられる。このような継電器として、例えば、それぞれ固定接点を有する導電性の2つの固定端子と、各固定接点にそれぞれ対応する2つの可動接点を有する導電性の可動接触子と、可動接触子を移動させて各可動接点が対応する固定接点と接触するオン状態と接触しないオフ状態とを切り換える駆動用部材と、2つの固定端子を支持する容器とを備えた構成のものが用いられる。なお、継電器は、コンタクタやリレーとも呼ばれる。
【0003】
上記構成の継電器では、オフ状態からオン状態に切り替わる際に、固定端子(固定接点)と可動接触子(可動接点)とが衝突し、音が発生する。従来、固定端子と可動接触子との衝突時に固定端子が弾性変形する構造を設けることにより、衝突時の衝撃を抑制して音の発生を抑制する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−199087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の技術では、固定端子が弾性変形する構造を設ける必要があり、装置の構造が複雑になるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。本発明の第1の形態は、それぞれ固定接点を有する導電性の2つの固定端子と、各前記固定接点にそれぞれ対応する2つの可動接点を有する導電性の可動接触子と、前記可動接触子を移動させて各前記可動接点が対応する前記固定接点と接触する状態と接触しない状態とを切り換える駆動用部材と、前記2つの固定端子を支持する第1の容器と、を備える継電器において、前記固定端子と前記可動接触子とは別体として設けられ、前記固定端子と前記可動接触子との少なくとも一方に接触した制振部材を備え、前記制振部材は、制振合金製の制振部材であることを特徴とする、継電器として提供される。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、それぞれ固定接点を有する導電性の2つの固定端子と、各前記固定接点にそれぞれ対応する2つの可動接点を有する導電性の可動接触子と、前記可動接触子を移動させて各前記可動接点が対応する前記固定接点と接触する状態と接触しない状態とを切り換える駆動用部材と、前記2つの固定端子を支持する第1の容器と、を備える継電器が提供される。この継電器は、前記固定端子と前記可動接触子との少なくとも一方に接触した制振部材を備える。この形態の継電器によれば、固定端子(固定接点)と可動接触子(可動接点)との衝突に伴う衝撃によって発生する振動の伝達を、制振部材の減衰効果によって抑制することができる。よって、装置構成の複雑化を抑制しつつ接点衝突時の音の発生を抑制することができる。
【0008】
(2)上記形態の継電器において、前記制振部材は、制振合金製の制振部材であるとしてもよい。この形態の継電器によれば、耐熱性が高く、比較的複雑な形状への加工が可能な制振合金製の制振部材を用いることにより、制振部材の耐久性の向上、および、装置設計自由度の向上を実現しつつ、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。
【0009】
(3)上記形態の継電器において、前記制振部材は、前記固定端子と前記第1の容器との間に配置されているとしてもよい。この形態の継電器によれば、制振部材を設けることによる固定端子の導体抵抗の増加を伴うことなく、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。
【0010】
(4)上記形態の継電器において、前記固定端子は、前記第1の容器に接合されるフランジ部と、前記フランジ部より前記固定接点側に位置する本体部と、を有し、
前記制振部材の少なくとも一部分は、前記固定端子の前記本体部に取り付けられているとしてもよい。この形態の継電器によれば、制振部材が固定端子における固定接点に近い部分である本体部に取り付けられるため、制振部材の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0011】
(5)上記形態の継電器において、前記制振部材は、前記可動接触子に取り付けられているとしてもよい。この形態の継電器によれば、制振部材が可動接触子に取り付けられるため、制振部材の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0012】
(6)上記形態の継電器において、前記制振部材は、磁性体であるとしてもよい。この形態の継電器によれば、継電器のオン状態において可動接触子に流れる電流に対し可動接点が固定接点に近づく方向の吸着力を発生させることができ、可動接点と固定接点との間の接圧低下や可動接点と固定接点との開離の発生を抑制することができる。
【0013】
(7)上記形態の継電器において、さらに、前記可動接触子より、前記可動接点が前記固定接点に近づく第1の方向側に配置された他の磁性体部材を備えるとしてもよい。この形態の継電器によれば、可動接触子の重心が制振部材の重心より第1の方向側に位置する場合であっても、制振部材と他の磁性体部材とが互いに吸着する方向に磁化され、制振部材に固定された可動接触子に対して第1の方向の力が加えられ、可動接点と固定接点との間の接圧低下や可動接点と固定接点との開離の発生を抑制することができる。
【0014】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、継電器、継電器の製造方法、継電器を備えた車両や船舶等の移動体等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態における電力システム1の構成を概略的に示す説明図である。
図2】第1実施形態における継電器5の構成を示す説明図である。
図3】第1実施形態における継電器5の構成を示す説明図である。
図4】第1実施形態における継電器5の構成を示す説明図である。
図5】第1実施形態における継電器5の構成を示す説明図である。
図6】固定端子10のフランジ部13と第1の容器20の底部24との接合箇所の構成を示す説明図である。
図7】第1実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図8】第1実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図9】第1実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図10】第2実施形態における固定端子10および可動接触子50付近の構成を示す説明図である。
図11】第2実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図12】第2実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図13】第2実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図14】第2実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図15】第3実施形態における固定端子10および可動接触子50付近の構成を示す説明図である。
図16】第3実施形態における制振部材140の効果を説明するための図である。
図17】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図18】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図19】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図20】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図21】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図22】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図23】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図24】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図25】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図26】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
図27】第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
A.第1実施形態:
A−1.電力システムの構成:
図1は、本発明の第1実施形態における電力システム(電気回路)1の構成を概略的に示す説明図である。この電力システム1は、例えばハイブリッド自動車や電気自動車といった車両に搭載される。電力システム1は、直流電源としての蓄電池2と、車両の駆動輪を駆動するモータ4と、蓄電池2とモータ4との間に介在する電力変換装置3とを備える。電力変換装置3は、インバータおよびコンバータとしての機能を有する。蓄電池2からモータ4に駆動のための電力が供給されるとき(蓄電池2の放電時)には、電力変換装置3により変換された三相交流電力がモータ4に供給される。また、モータ4で回生したエネルギーによって蓄電池2を充電するときには、電力変換装置3により変換された直流電力が蓄電池2に蓄電される。
【0017】
電力システム1は、また、蓄電池2とモータ4(および電力変換装置3、以下同様)とが電気的に接続されたオン状態と接続されていないオフ状態とを切り換えるための2つの継電器5を備える。2つの継電器5の内の一方は、蓄電池2のプラス側端子とモータ4との間に配置され、他方は、蓄電池2のマイナス側端子とモータ4との間に配置されている。継電器5は、直流大電流(例えば、数十から数百アンペア)の通電のオン/オフ制御を行う。例えば、車両に異常が発生した場合には、継電器5によって蓄電池2とモータ4との電気的接続を遮断する。
【0018】
A−2.継電器5について:
A−2−1.継電器5の全体構成:
図2ないし図5は、第1実施形態における継電器5の構成を示す説明図である。図2は、継電器5の外観斜視図であり、図3は、継電器5の上面外観図であり、図4は、継電器5の断面図(図3のA−A位置断面図)であり、図5は、継電器5の断面斜視図(図3のA−A位置断面斜視図)である。各図には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸が示されている。以下では、便宜的に、Z軸正方向(後述の可動接触子50の可動接点58が固定端子10の固定接点18に近づく方向)を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶ。上方向は、請求項における第1の方向に相当する。継電器5の設置姿勢に応じて、各軸に対応する方向は変化し得る。図4及び図5において、継電器5はオフ状態である。
【0019】
図2および図3に示すように、継電器5は、継電器本体6と、継電器本体6(より詳細には後述の固定接点18および可動接点58)を挟むように設置された一対の永久磁石800とを備える。継電器本体6は、樹脂製のケース(図示せず)に収容されている。
【0020】
図2ないし図5に示すように、継電器本体6は、一対の固定端子10と、可動接触子50と、駆動機構90と、第1の容器20と、接合部材30と、ベース部32と、鉄心用容器80とを備える。なお、本明細書では、接合部材30とベース部32と鉄心用容器80とをまとめて第2の容器92とも呼ぶ。
【0021】
固定端子10は、底部を有する略円筒形状の本体部14と、本体部14の上側(Z軸正方向側)に形成された本体部14より大径のフランジ部13とを有する部材であり、導電性を有する材料(例えば銅を含む金属材料)により形成されている。固定端子10は、中心軸がZ軸方向となり、底部が下側(Z軸負方向側)に位置するように配置されている。本実施例では、一対の固定端子10の中心軸間を結ぶ方向がY軸方向である。固定端子10は、電力システム1(図1)の各配線を接続するための接続口12を有する。接続口12は、フランジ部13側から本体部14にかけて形成されている。以下では、一対の固定端子10のうち、蓄電池2からモータ4に電流が供給される際に電流が流入する側をプラス固定端子10Wとも呼び、電流が流出する側をマイナス固定端子10Xとも呼ぶ。固定端子10は、本体部14の底部の下側に配置された固定接触部19を有する。固定接触部19は、固定端子10の他の部分と同じ材料により形成されていてもよいし、アークによる損傷をより効果的に抑制するために耐熱性のより高い材料(例えばタングステン)により形成されているとしてもよい。固定接触部19における可動接触子50と対向する側の端面(下側の端面)には、固定接点18が形成される。本体部14は、フランジ部13より固定接点18側に位置することとなる。
【0022】
第1の容器20は、底部を有する箱形状の部材であり、絶縁性を有する材料(例えばアルミナやジルコニア等のセラミック)により形成された耐熱性に優れた部材である。より具体的には、第1の容器20は、上側に位置する底部24と、第1の容器20の側面(Z軸方向に略平行な面)を形成する側面部22とを有する。第1の容器20における底部24と対向する側(すなわち下側)は開口している。第1の容器20の底部24には、2つの固定端子10が挿入される2つの貫通孔26が形成されている。第1の容器20の貫通孔26に固定端子10が挿入された状態で、各固定端子10のフランジ部13は、第1の容器20の底部24の外側表面(上側の表面)に気密に接合されている。固定端子10のフランジ部13と第1の容器20の底部24との接合箇所の構成については、後に詳述する。
【0023】
接合部材30は、下端部と上端部とに開口が形成された略環状の部材であり、例えば金属材料により形成されている。また、ベース部32は、略矩形状の部材であり、例えば鉄といった金属磁性材料により形成されている。ベース部32の略中央には、後述するロッド60が挿通される貫通孔32hが形成されている。接合部材30の上端部(開口の周囲の縁部)は、第1の容器20の下端部(開口の周囲の縁部)とろう付けにより気密に接合されている。この接合部分を接合部35と呼ぶ。接合部材30の上端部(開口の周囲の縁部)は、第1の容器20の下端部(開口の周囲の縁部)とろう付けにより気密に接合されている。また、接合部材30の下端部は、ベース部32とレーザー溶接等により気密に接合されている。なお、接合部材30の側面は、下側から上側に向かう方向(Z軸正方向)において、一部分がY軸方向に屈曲している。こうすることで、接合部材30が全体としてZ軸方向に沿って容易に弾性変形可能となり、接合部材30と第1の容器20との熱膨張差により発生する応力が緩和される。
【0024】
鉄心用容器80は、下端部に底部を有し上端部に開口を有する円筒形状の部材であり、非磁性体で形成されている。鉄心用容器80の上端部は、全周に亘ってベース部32の貫通孔32h周縁とレーザー溶接等により気密に接合されている。
【0025】
このように、上述した各部材(固定端子10、第1の容器20、接合部材30、ベース部32、鉄心用容器80)が互いに気密に接合されることで、継電器本体6の内部に、固定端子10の固定接触部19(固定接点18)と可動接触子50とが収容される気密空間100が形成される。気密空間100には、アーク発生による固定接触部19や可動接触子50の発熱を抑制するため、および、アークの消弧性を高めるために、例えば水素又は水素を主体とするガスが大気圧以上(例えば2気圧)で封入されている。すなわち、上述の各部材の接合後、気密空間100の内側と外側とを連通する通気パイプ69を介して気密空間100内が真空引きされ、その後、通気パイプ69を介して気密空間100内に水素等のガスが所定圧になるまで封入される。水素等のガスが所定圧封入された後、水素等のガスが気密空間100から外側に漏れ出さないように、通気パイプ69が加締められる。
【0026】
可動接触子50は、略平板形状の部材であり、導電性を有する材料(例えば銅を含む金属材料)により形成されている。可動接触子50は、ロッド60が挿通される貫通孔53が形成された中央部52と、中央部52から一対の固定端子10W,10Xが対向する対向方向(Y軸方向)に延びる可動接触部56を有する。可動接触部56における固定端子10の固定接触部19と対向する部分には、可動接点58が形成されている。より詳細には、可動接点58は、可動接触子50が上方向に移動した際に固定端子10と接触する可動接触部56の部分である。
【0027】
駆動機構90は、可動接触子50を上下方向(Z軸方向)に移動させて、継電器5の通電状態と非通電状態とを切り替える。駆動機構90は、ロッド60と、ベース部32と、固定鉄心70と、可動鉄心72と、鉄心用容器80と、コイル44と、コイルボビン42と、コイル用容器40と、第2のばね64とを有する。コイル44は、中空円筒状の樹脂製のコイルボビン42に巻き付けられている。コイル用容器40は、磁性体であり、例えば鉄等の金属磁性材料により形成されている。コイル用容器40は直方体状であり、内側にコイル44を収容する。鉄心用容器80は、上述のごとく有底筒状であり、底部にはゴム86が配置されている。
【0028】
固定鉄心70は、円柱状であり、上端から下端に亘って貫通孔70hが形成されている。固定鉄心70の一部は鉄心用容器80の内側に収容されている。固定鉄心70は、ベース部32に溶接等により固定されている。可動鉄心72は、円柱状であり、貫通孔72hが上端から下端に亘って形成されている。可動鉄心72は、鉄心用容器80の底部上にゴム86を介して収容されている。また、可動鉄心72の上端面は、固定鉄心70の下端面と対向するように配置されている。コイル44に通電することで、可動鉄心72は固定鉄心70に吸引され上方向に移動する。第2のばね64は、可動鉄心72と固定鉄心70との間に配置され、互いに離間する方向に固定鉄心70,可動鉄心72を付勢する。
【0029】
ロッド60は、非磁性体である。ロッド60は円柱状の軸部60aと、軸部60aの上端に設けられた円板状の一端部60bと、軸部60aの下端に設けられた円弧状の他端部60cとを有する。軸部60aは、上下方向(可動接触子50の移動方向)に移動自在となるように可動接触子50に挿通されている。一端部60bは、コイル44に電流を流していない状態において、中央部52における上側(固定端子10に対向する側)の面上に配置されている。他端部60cは、溶接等により可動鉄心72に取り付けられている。一端部60bは、駆動機構90が動作していない状態において、可動接触子50が固定端子10に向かって移動することを規制する。
【0030】
軸部60aには、第1のばね62を配置するための取付部材67が配置されている。第1のばね62は、一端が取付部材67に当接し、他端が可動接触子50に当接している。第1のばね62は、可動接点58と固定接点18とが近づく方向(Z軸正方向、上方向)に可動接触子50を付勢する。
【0031】
気密空間100内には、ケース部材110と、ケース保持部材120とが設けられている。ケース部材110は、固定接点18と可動接触子50との間に発生するアークと接合部35との間を絶縁し、アークから接合部35を保護する。ケース部材110は、ナイロンやポリエチレンテレフタレート(PET)、セラミックスなどの絶縁性材料により形成されており、ベース部32の上面に配置されている。ケース保持部材120は、ケース保持部材120とベース部32との間にケース部材110を狭持して、ケース部材110を保持固定する。ケース保持部材120は、鉄、ステンレス、磁性材料、樹脂などの材料により形成されている。ケース保持部材120は、ケース部材110とともに、例えば樹脂材料を用いて、一体的に形成されてもよい。
【0032】
A−2−2.継電器5の動作:
コイル44に通電すると、可動鉄心72が固定鉄心70に吸引される。すなわち、可動鉄心72が第2のばね64の付勢力に抗して固定鉄心70に近づき、固定鉄心70に当接する。可動鉄心72が上方向に移動すると、ロッド60も上方向に移動する。これによりロッド60の一端部60bも上方向に移動する。これにより、可動接触子50の動きの規制が解除され、第1のばね62の付勢力により、可動接触子50が上方向(固定接点18に近づく方向)に移動する。これにより、各固定接点18と対応する各可動接点58とが接触し、2つの固定端子10が可動接触子50を介して導通する(継電器5の導通状態)。
【0033】
一方、コイル44への通電が遮断されると、主に第2のばね64の付勢力により可動鉄心72が固定鉄心70から離れるように下方向に移動する。これにより、ロッド60の一端部60bに押されて可動接触子50も下方向(固定接点18から離れる方向)に移動する。よって、各可動接点58が各固定接点18から引き離され、2つの固定端子10間の導通が遮断される(継電器5の非導通状態)。
【0034】
以上のように、コイル44に通電すると、可動接触子50は移動して2つの固定端子10間が導通し、コイル44の通電が遮断されると可動接触子50が元の位置に戻ることで2つの固定端子10間が非導通となる。ここで、可動接点58が固定接点18から離れる際に接点18,58間でアークが発生する場合がある。発生したアークは、ケース部材110により接合部35へ到達することが抑制される。アークは、永久磁石800(図2および図3参照)によってY軸方向(固定端子10の中心軸間を結ぶ方向)に引き伸ばされ消弧が促進される。
【0035】
A−2−3.固定端子10のフランジ部13と第1の容器20の底部24との接合箇所の構成:
図6は、固定端子10のフランジ部13と第1の容器20の底部24との接合箇所の構成を示す説明図である。図6(および以降の図面)では、本願発明の構成に関係の少ない箇所の図示を適宜省略している。図6に示すように、固定端子10のフランジ部13と第1の容器20の底部24との間には、固定端子10と第1の容器20との材質の違いによる熱膨張差によって生じる接合部分の応力を緩和して接合部分の破損を抑制するためのダイヤフラム部17が設けられている。本実施形態では、ダイヤフラム部17は、第1の容器20と熱膨張係数の比較的近い低熱膨張材(例えばコバールや42アロイといった合金)により形成されている。ダイヤフラム部17は、貫通孔26よりも内径が大きい円筒形状であり、その下端(Z軸負方向側の端)が第1の容器20の底部24の外側表面(上面)に例えばろう付けにより接合されている。
【0036】
また、固定端子10のフランジ部13と第1の容器20の底部24上に設けられたダイヤフラム部17との間には、制振合金製の制振部材140が設けられている。制振合金は、合金の内部において、振動エネルギーを熱エネルギーに変換して、振動を吸収するものである。制振合金には、主として以下の4種類がある。本実施形態の制振部材140は、以下の4種類のいずれか1つの制振合金により形成されている。
(1)強磁性型と呼ばれる、磁壁(磁区の境界)で振動を吸収する制振合金(例えば、Fe-Al、Fe-Cr-Al、Fe-Cr等)
(2)双晶型と呼ばれる、マルテンサイト的変態で生成した双晶の運動により振動を吸収する制振合金(例えば、形状記憶合金Ni-Ti、Mn-Cu-Ni-Fe等)
(3)転移型と呼ばれる、金属結晶の転移の運動により振動を吸収する制振合金(Mg-Zr、Mg-Cu等)
(4)複合型と呼ばれる、母相と第2相との界面付近の粘性流動により振動を吸収する制振合金(Fe-C-Si、Al-Zn等)
【0037】
制振部材140は、ダイヤフラム部17と略同径の円筒形状の部材である。制振部材140の上端(Z軸正方向側の端)は、固定端子10のフランジ部13の外側表面(下面)に例えばろう付けにより接合されており、制振部材140の下端(Z軸負方向側の端)は、ダイヤフラム部17の上端に例えばろう付けにより接合されている。固定端子10のフランジ部13は、制振部材140およびダイヤフラム部17を介して、第1の容器20の底部24の上面に接合されていることとなる。なお、制振部材140と固定端子10およびダイヤフラム部17との接合は、溶接や圧入といった他の接合方法により行われてもよい。また、制振合金の種類によっては、高温が与えられることによって制振特性が悪化する場合もあるため、接合をろう付けにより行う場合には低融点のろう材を用いることが好ましい。
【0038】
以上説明したように、本実施形態では、固定端子10に制振合金製の制振部材140が取り付けられているため、固定端子10(固定接点18)と可動接触子50(可動接点58)との衝突に伴う衝撃によって発生する振動の伝達を、制振部材140の減衰効果によって抑制することができ、装置構成の複雑化を抑制しつつ接点衝突時の音の発生を抑制することができる。特に、本実施形態では、制振部材140が、固定端子10(より詳細にはフランジ部13)と第1の容器20との間に配置されているため、制振部材140を設けることによる固定端子10の導体抵抗の増加を伴うことなく、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。また、本実施形態では、制振部材140を単純な形状(環状)とすることができ、部品加工の容易化を実現することができる。
【0039】
A−2−4.第1実施形態の変形例:
図7ないし図9は、第1実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。図7ないし図9には、一方の固定端子10の周囲の構成のみを示しているが、他方の固定端子10の周囲の構成も同様である。
【0040】
図7に示した第1実施形態の第1の変形例は、制振部材140が屈曲部を有し、屈曲部より上側部分(Z軸正方向側の部分)の径はダイヤフラム部17の径と略同一であるが、屈曲部より下側部分の径はダイヤフラム部17の径より小さくなっている点が、図6に示した第1実施形態と異なっており、その他の構成は第1実施形態と同様である。ダイヤフラム部17は、制振部材140の下側部分を取り囲むような状態で、制振部材140の表面に接合されている。この変形例によれば、上述した第1実施形態と同様に、制振部材140の減衰効果によって接点衝突時の音の発生を抑制することができると共に、制振部材140を設けることによる固定端子10の導体抵抗の増加を伴うことなく、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。また、この変形例によれば、ダイヤフラム部17と制振部材140との相対的な位置決めが容易となるため、部品組付けの容易化を実現することができる。また、この変形例によれば、第1実施形態と比較して、制振部材140の体積を容易に大きくすることができるため、制振部材140の減衰効果を大きくして音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0041】
図8に示した第1実施形態の第2の変形例は、制振部材140が屈曲部を有し、屈曲部より上側部分(Z軸正方向側の部分)の径は固定端子10のフランジ部13の径より大きく、屈曲部より下側部分の径はダイヤフラム部17の径より小さくなっている点が、図6に示した第1実施形態と異なっており、その他の構成は第1実施形態と同様である。ダイヤフラム部17は、制振部材140の下側部分を取り囲むような状態で、制振部材140の表面に接合されている。また、制振部材140の上側部分は、固定端子10のフランジ部13を取り囲むような状態で、固定端子10のフランジ部13の外側表面に接合されている。この変形例によれば、上述した第1実施形態と同様に、制振部材140の減衰効果によって接点衝突時の音の発生を抑制することができると共に、制振部材140を設けることによる固定端子10の導体抵抗の増加を伴うことなく、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。また、この変形例によれば、ダイヤフラム部17と制振部材140との相対的な位置決めが容易となるため、部品組付けの容易化を実現することができる。また、この変形例によれば、第1実施形態や図7に示した第1の変形例と比較して、制振部材140の体積を容易に大きくすることができる上に、制振部材140と固定端子10との接触面積を大きくすることができるため、制振部材140の減衰効果をより大きくして音の発生を一層効果的に抑制することができる。
【0042】
図9(a)に示した第1実施形態の第3の変形例は、ダイヤフラム部17が設けられず、制振部材140がダイヤフラム部17の機能を兼ねている点が、図6に示した第1実施形態と異なっており、その他の構成は第1実施形態と同様である。この変形例では、制振部材140が、第1の容器20と熱膨張係数の比較的近い材料により形成されているため、制振部材140がダイヤフラム部17の機能を兼ねることができる。この変形例によれば、上述した第1実施形態と同様に、制振部材140の減衰効果によって接点衝突時の音の発生を抑制することができると共に、制振部材140を設けることによる固定端子10の導体抵抗の増加を伴うことなく、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。また、この変形例によれば、制振部材140と別にダイヤフラム部17を設ける必要が無いため、構造の簡素化、製造の容易化を実現することができる。また、この変形例によれば、第1実施形態と比較して、制振部材140の体積を容易に大きくすることができるため、制振部材140の減衰効果を大きくして音の発生を一層効果的に抑制することができる。
【0043】
図9(b)に示した第1実施形態の第4の変形例は、制振部材140の形状が、図9(a)に示した第1実施形態の第3の変形例と異なっており、その他の構成は第1実施形態の第3の変形例と同様である。この変形例では、制振部材140が、固定端子10のフランジ部13に接合された第1の略円筒部分141と、第1の容器20の底部24に接合され、第1の略円筒部分141よりも径の小さい第2の略円筒部分142と、2つの円筒部分141,142の端部同士を接続する1つの円盤状部分143とから構成されている。この変形例によれば、上述した第1実施形態の第3の変形例と同様に、制振部材140の減衰効果によって接点衝突時の音の発生を抑制することができると共に、制振部材140を設けることによる固定端子10の導体抵抗の増加を伴うことなく、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。また、この変形例によれば、制振部材140と別にダイヤフラム部17を設ける必要が無いため、構造の簡素化、製造の容易化を実現することができる。また、この変形例によれば、第1実施形態と比較して、制振部材140の体積を容易に大きくすることができるため、制振部材140の減衰効果を大きくして音の発生を一層効果的に抑制することができる。さらに、この変形例によれば、制振部材140が屈曲した部分を有するため、固定端子10と第1の容器20との熱膨張係数の差を制振部材140によって吸収する(緩和する)ことができる。なお、図9(b)に示した第1実施形態の第4の変形例において、第1の略円筒部分141と第2の略円筒部分142との位置関係を逆にしてもよい。また、制振部材140が、さらに、略円筒部分141,142とは径の異なる1つまたは複数の円筒部分を有する構成であってもよい。
【0044】
B.第2実施形態:
図10は、第2実施形態における固定端子10および可動接触子50付近の構成を示す説明図である。図10に示した第2実施形態は、制振部材140が設けられる位置が、図6に示した第1実施形態と異なっており、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0045】
図10に示すように、第2実施形態では、制振部材140は、固定端子10のフランジ部13と第1の容器20の底部24との間ではなく、固定端子10の本体部14に取り付けられている。具体的には、固定端子10の略円筒形状の本体部14の外周面に環状の溝15が形成されており、環状の制振部材140が溝15内に嵌合された状態で固定端子10と接合されている。接合方法は、第1実施形態と同様である。そのため、第2実施形態では、制振部材140の全体が気密空間100内に位置する。
【0046】
第2実施形態では、上述した第1実施形態と同様に、固定端子10に制振合金製の制振部材140が取り付けられているため、固定端子10(固定接点18)と可動接触子50(可動接点58)との衝突に伴う衝撃によって発生する振動の伝達を、制振部材140の減衰効果によって抑制することができ、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。また、制振部材140と固定端子10との接触面積を大きくすることができるため、制振部材140の減衰効果をより大きくして音の発生を一層効果的に抑制することができる。また、制振部材140を単純な形状(環状)とすることができ、部品加工の容易化を実現することができる。さらに、第2実施形態では、制振部材140が、固定端子10における固定接点18に近い部分である本体部14に取り付けられるため、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0047】
図11ないし図14は、第2実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。図11ないし図14には、一方の固定端子10の周囲の構成のみを示しているが、他方の固定端子10の周囲の構成も同様である。
【0048】
図11に示した第2実施形態の第1の変形例は、制振部材140が固定端子10の本体部14に取り付けられているが、本体部14に溝15が形成されておらず、制振部材140が円筒状の本体部14の外周面に接合されている点が、図10に示した第2実施形態と異なっており、その他の構成は第2実施形態と同様である。この変形例によれば、上述した第2実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることによって音の発生をより効果的に抑制することができると共に、制振部材140を単純な形状(環状)とすることができ、部品加工の容易化を実現することができる。さらに、この変形例によれば、固定端子10の本体部14に溝15を形成することなく制振部材140を取り付けられるため、制振部材140を設けることによる固定端子10の導体抵抗の増加を伴うことなく、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。
【0049】
図12に示した第2実施形態の第2の変形例は、固定端子10の本体部14の下端に、下側ほど径が小さくなるテーパー部16が形成されている点が、図11に示した第2実施形態の第1の変形例と異なっており、その他の構成は第2実施形態の第1の変形例と同様である。この変形例によれば、上述した第2実施形態の第1の変形例と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることによって音の発生をより効果的に抑制することができると共に、制振部材140を単純な形状(環状)とすることができ、部品加工の容易化を実現することができる。また、固定端子10の本体部14に溝15を形成することなく制振部材140を取り付けられるため、制振部材140を設けることによる固定端子10の導体抵抗の増加を伴うことなく、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。さらに、この変形例によれば、制振部材140を本体部14に圧入によって接合する場合に、テーパー部16の存在によって圧入が容易となり、部品組付けの容易化を実現することができる。
【0050】
図13に示した第2実施形態の第3の変形例は、制振部材140が、固定端子10の本体部14の内部に形成された孔11内に配置されている点が、図10に示した第2実施形態と異なっており、その他の構成は第2実施形態と同様である。この変形例によれば、上述した第2実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることによって音の発生をより効果的に抑制することができる。特に、この変形例によれば、固定接点18の直上のごく近い位置に制振部材140を配置することができるため、制振部材140によって音の発生を一層効果的に抑制することができる。
【0051】
図14に示した第2実施形態の第4の変形例は、制振部材140が、固定端子10の接続口12(接続口12の内の本体部14に位置する部分を含む)内に配置されており、制振部材140が、継電器5と他の部品との電気的接続のためのバスバー150を固定端子10に固定する部材としても機能する点が、図10に示した第2実施形態と異なっており、その他の構成は第2実施形態と同様である。この変形例では、制振部材140は、ネジ締めや圧入により固定されている。この変形例では、制振部材140の一部分(下側の部分)が本体部14に取り付けられていると言える。この変形例によれば、上述した第2実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることによって音の発生をより効果的に抑制することができる。さらに、この変形例によれば、制振部材140が、バスバー150を固定端子10に固定する部材としても機能するため、部品点数の削減、製造の容易化を実現することができる。
【0052】
C.第3実施形態:
図15は、第3実施形態における固定端子10および可動接触子50付近の構成を示す説明図である。図15に示した第3実施形態は、制振部材140が設けられる位置が、図6に示した第1実施形態と異なっており、その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0053】
図15に示すように、第3実施形態では、制振部材140が、固定端子10ではなく可動接触子50に取り付けられている。具体的には、略平板形状の制振部材140が、可動接触子50の上面に接合されている。接合方法は、第1実施形態と同様である。
【0054】
第3実施形態では、可動接触子50に制振合金製の制振部材140が取り付けられているため、固定端子10(固定接点18)と可動接触子50(可動接点58)との衝突に伴う衝撃によって発生する振動の伝達を、制振部材140の減衰効果によって抑制することができ、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。また、制振部材140と可動接触子50との接触面積を大きくすることができるため、制振部材140の減衰効果をより大きくして音の発生を一層効果的に抑制することができる。また、制振部材140および可動接触子50を単純な形状(略平板形状)とすることができ、部品加工の容易化を実現することができる。さらに、第3実施形態では、制振部材140が可動接触子50に取り付けられるため、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、音の発生をより効果的に抑制することができる。
【0055】
なお、第3実施形態では、制振部材140が可動接触子50の上面に接合されているため、制振部材140を、上述した4種類の制振合金の内、Fe-Alなどの強磁性体型の制振合金により形成すると、可動接点58と固定接点18との間の接圧低下や可動接点58と固定接点18との開離の発生を抑制することができるため、好ましい。図16は、第3実施形態における制振部材140の効果を説明するための図である。図16には、ロッド60および可動接触子50と制振部材140とを模式的に示している。図16に示すように、継電器5のオン状態では、可動接触子50に電流が流れる。この電流の方向を奥側から手前側に向かう方向(Y軸正方向)であるものとする。可動接触子50に電流が流れると、この電流を中心に反時計回りの磁束Baが発生する。ここで、可動接触子50の上面に固定された制振部材140が強磁性体型の制振合金である場合には、磁束Baが磁性体である制振部材140の側(上側)に引き寄せられる。これにより、可動接触子50を通る磁束Baのうち、左向き(X軸正方向向き)の磁束Baの磁束密度は減少し、右向き(X軸負方向向き)の磁束Baの磁束密度は増加する。右向きの磁束Baの磁束密度が増加することにより、可動接触子50を流れる電流に対し上向きのローレンツ力Fp(以下、吸着力Fpとも呼ぶ)が発生する。この吸着力Fpは、可動接触子50を上方向、すなわち固定端子10の固定接点18に近づける方向に作用するため、固定端子10と可動接触子50との接触をより安定に維持できる。特に、可動接触子50に大電流(例えば5000アンペア以上の電流)が流れて可動接触子50に大きな電磁反発力が作用する場合にも、駆動機構90の駆動力(例えば第1のばね62の付勢力)を必要以上に大きくすることなく、接点間の接圧の低下や接点開離の発生を抑制することができる。なお、上記説明から明らかなように、このような吸着力Fpは、制振部材140の全体が可動接触子50の上面に位置する場合に限らず、制振部材140の重心が可動接触子50の重心より上方向に位置する(可動接触子50の重心が制振部材140の重心より下方向に位置する)場合に発生する。
【0056】
図17ないし図27は、第3実施形態の変形例における制振部材140の構成を示す説明図である。図17に示した第3実施形態の第1の変形例は、可動接触子50の上面に溝57が形成されており、制振部材140が溝57内に勘合した状態で可動接触子50に接合されている点が、図15に示した第3実施形態と異なっており、その他の構成は第3実施形態と同様である。この変形例によれば、上述した第3実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、かつ、制振部材140と可動接触子50との接触面積を大きくすることができるため、音の発生をより効果的に抑制することができる。また、制振部材140を単純な形状(略平板形状)とすることができ、部品加工の容易化を実現することができる。また、この変形例では、制振部材140の重心が可動接触子50の重心より上方向に位置する(可動接触子50の重心が制振部材140の重心より下方向に位置する)ため、制振部材140を強磁性体型の制振合金により形成すると、可動接点58と固定接点18との間の接圧低下や可動接点58と固定接点18との開離の発生を抑制することができる。
【0057】
図18に示した第3実施形態の第2の変形例は、可動接触子50の内部に孔59が形成されており、制振部材140が孔59内に配置されている点が、図15に示した第3実施形態と異なっており、その他の構成は第3実施形態と同様である。この変形例によれば、上述した第3実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、かつ、制振部材140と可動接触子50との接触面積を大きくすることができるため、音の発生をより効果的に抑制することができる。特に、この変形例によれば、可動接点58の直下のごく近い位置に制振部材140を配置することができるため、制振部材140によって音の発生を一層効果的に抑制することができる。また、この変形例において、制振部材140の重心が可動接触子50の重心より上方向に位置する場合(可動接触子50の重心が制振部材140の重心より下方向に位置する場合)には、制振部材140を強磁性体型の制振合金により形成すると、可動接点58と固定接点18との間の接圧低下や可動接点58と固定接点18との開離の発生を抑制することができる。
【0058】
図19に示した第3実施形態の第3の変形例は、可動接触子50の下面に溝57が形成されており、制振部材140が溝57内に嵌合した状態で可動接触子50に接合されている点が、図15に示した第3実施形態と異なっており、その他の構成は第3実施形態と同様である。この変形例によれば、上述した第3実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、かつ、制振部材140と可動接触子50との接触面積を大きくすることができるため、音の発生をより効果的に抑制することができる。特に、この変形例によれば、可動接点58の直下のごく近い位置に制振部材140を配置することができるため、制振部材140によって音の発生を一層効果的に抑制することができる。また、制振部材140を単純な形状(略平板形状)とすることができ、部品加工の容易化を実現することができる。
【0059】
なお、この変形例では、制振部材140の重心が可動接触子50の重心より下方向に位置する(可動接触子50の重心が制振部材140の重心より上方向に位置する)。この変形例において、制振部材140を強磁性体型の制振合金により形成し、さらに可動接触子50の上方に他の磁性体部材160を設置すると、以下に説明するように、可動接点58と固定接点18との間の接圧低下や可動接点58と固定接点18との開離の発生を抑制することができる。図20は、第3実施形態の第3の変形例における制振部材140および磁性体部材160の効果を説明するための図である。図20には、可動接触子50と制振部材140と他の磁性体部材160とを模式的に示している。図20に示すように、継電器5のオン状態では、可動接触子50に電流が流れる。この電流の方向を奥側から手前側に向かう方向(Y軸正方向)であるものとする。可動接触子50に電流が流れると、この電流を中心に反時計回りの磁束Baが発生する。ここで、可動接触子50の下側に固定された制振部材140が強磁性体型の制振合金であり、かつ、可動接触子50の上方に他の磁性体部材160が設置されているとすると、磁束Baのうち制振部材140および磁性体部材160を通る磁束Baによって、両部材140,160が互いに吸着する方向に磁化される。すなわち、制振部材140に対して上方向への吸引力が発生し、制振部材140に固定された可動接触子50に対して上方向の力が加えられる。これにより、固定端子10と可動接触子50との接触をより安定に維持できる。なお、この場合には、他の磁性体部材160の厚さ(上下方向に沿った大きさ)を、制振部材140の厚さよりも厚くすることが好ましい。このようにすれば、磁性体部材160の方が制振部材140よりも磁束Baをより強く受けるため、制振部材140に作用する上方向への吸引力を効率的に増大させることができる。
【0060】
図21に示した第3実施形態の第4の変形例は、可動接触子50と制振部材140とが貼り合わせ材(クラッド材)として構成されている点が、図15に示した第3実施形態と異なっており、その他の構成は第3実施形態と同様である。第3実施形態の第4の変形例では、可動接触子50の下側に制振部材140が拡散接合により接合されている。この変形例によれば、上述した第3実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、かつ、制振部材140と可動接触子50との接触面積を大きくすることができるため、音の発生をより効果的に抑制することができる。特に、この変形例によれば、可動接点58の直下のごく近い位置に制振部材140を配置することができるため、制振部材140によって音の発生を一層効果的に抑制することができる。また、制振部材140を可動接触子50に強固に接合することができる。なお、第3実施形態の第4の変形例では、制振部材140の重心が可動接触子50の重心より下方向に位置する(可動接触子50の重心が制振部材140の重心より上方向に位置する)が、制振部材140を強磁性体型の制振合金により形成し、さらに可動接触子50の上方に他の磁性体部材160を設置すると、第3実施形態の第3の変形例と同様に、可動接点58と固定接点18との間の接圧低下や可動接点58と固定接点18との開離の発生を抑制することができる。
【0061】
図22および図23に示した第3実施形態の第5の変形例は、制振部材140のY方向から見た断面がU字形であり、可動接触子50のY方向に沿った中央部分(可動接点58が形成されていない部分)に制振部材140が上方から被さるように配置されている点が、図15に示した第3実施形態と異なっており、その他の構成は第3実施形態と同様である。すなわち、可動接触子50の上記中央部分は、上面および側面が制振部材140で覆われている。この変形例によれば、上述した第3実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、かつ、制振部材140と可動接触子50との接触面積を大きくすることができるため、音の発生をより効果的に抑制することができる。また、この変形例では、制振部材140の重心が可動接触子50の重心より上方向に位置する(可動接触子50の重心が制振部材140の重心より下方向に位置する)ため、制振部材140を強磁性体型の制振合金により形成すると、可動接点58と固定接点18との間の接圧低下や可動接点58と固定接点18との開離の発生を抑制することができる。
【0062】
図24および図25に示した第3実施形態の第6の変形例は、制振部材140のY方向から見た断面がU字形であり、可動接触子50のY方向に沿った中央部分(可動接点58が形成されていない部分)に制振部材140が下方から被さるように配置されている点が、図15に示した第3実施形態と異なっており、その他の構成は第3実施形態と同様である。すなわち、可動接触子50の上記中央部分は、下面および側面が制振部材140で覆われている。この変形例によれば、上述した第3実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、かつ、制振部材140と可動接触子50との接触面積を大きくすることができるため、音の発生をより効果的に抑制することができる。特に、この変形例によれば、可動接点58の直下のごく近い位置に制振部材140を配置することができるため、制振部材140によって音の発生を一層効果的に抑制することができる。また、この変形例では、制振部材140の重心が可動接触子50の重心より下方向に位置する(可動接触子50の重心が制振部材140の重心より上方向に位置する)が、制振部材140を強磁性体型の制振合金により形成し、さらに可動接触子50の上方に他の磁性体部材160を設置すると、第3実施形態の第3の変形例と同様に、可動接点58と固定接点18との間の接圧低下や可動接点58と固定接点18との開離の発生を抑制することができる。
【0063】
図26および図27に示した第3実施形態の第7の変形例は、制振部材140のY方向から見た断面が中空の矩形であり、可動接触子50のY方向に沿った中央部分(可動接点58が形成されていない部分)の周囲に被さるように配置されている点が、図15に示した第3実施形態と異なっており、その他の構成は第3実施形態と同様である。すなわち、可動接触子50の上記中央部分は、上下面および側面が制振部材140で覆われている。この変形例によれば、上述した第3実施形態と同様に、制振部材140の位置を接点間の衝突位置に近くすることができ、かつ、制振部材140と可動接触子50との接触面積を大きくすることができるため、音の発生をより効果的に抑制することができる。また、この変形例において、制振部材140の重心が可動接触子50の重心より上方向に位置する場合(可動接触子50の重心が制振部材140の重心より下方向に位置する場合)には、制振部材140を強磁性体型の制振合金により形成すると、可動接点58と固定接点18との間の接圧低下や可動接点58と固定接点18との開離の発生を抑制することができる。
【0064】
D.その他の変形例:
なお、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態として実現することが可能であり、例えば次のような変形例としても実現可能である。
【0065】
D1.変形例1:
上記実施形態において、継電器5が使用される電力システム1の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、電力システム1は、さらにヒューズを備えているとしてもよい。また、上記実施形態では、継電器5はハイブリッド自動車や電気自動車に搭載される電力システム1に使用されるとしているが、継電器5は他の用途(例えば太陽光発電装置用)にも使用可能である。
【0066】
D2.変形例2:
上記実施形態における継電器5の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記各実施形態において、継電器5が、固定端子10に取り付けられた制振部材140と、可動接触子50に取り付けられた制振部材140との両方を備えるとしてもよい。また、上記各実施形態では、駆動機構90として、可動鉄心72を磁力により移動させる機構を用いたが、これに限られるものではなく、可動接触子50を移動させるための他の機構を用いてもよい。例えば、可動接触子50に外部から伸縮自在に操作可能なリフト部を設置し、リフト部の伸縮により可動接触子50を移動させる機構を採用してもよい。また、ロッド60の規制部60bを可動接触子50に接合してもよい。こうすることで、第1のばね62を設けなくても可動鉄心72の移動に連動して可動接触子50も移動させることができる。また、第1のばね62の代わりに、皿ばねや板ばね等の各種ばね部材やゴムといった弾性変形可能な他の部材を採用することもできる。また、各部材の形状や、各部材間の接合位置および接合方法は、任意に設定可能である。
【0067】
また、上記各実施形態では、制振部材140と固定端子10または可動接触子50との接合方法として、ろう付け、溶接、圧入が例示されているが、他の接合方法が採用されてもよい。また、制振部材140は、必ずしも固定端子10や可動接触子50に接合されている必要はなく、制振部材140がバネ等の接圧によって固定端子10や可動接触子50に接触しているとしてもよい。
【0068】
また、第1の容器20は、必ずしも絶縁材料で形成されている必要はない。例えば、第1の容器20の底部24が絶縁材料により形成され、側面部22が金属(鉄等の磁性体やステンレス304等の非磁性体)により形成され、底部24と側面部22とが例えばろう付けにより接合されているとしてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、制振部材140は制振合金製であるとしているが、制振合金以外の制振性を有する材料(ゴムや樹脂)を用いて制振部材140を構成するとしてもよい。そのような材料としては、例えば、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、もしくは、天然ゴム等を主成分とする制振特性に優れた材料や、ポリエステル樹脂、もしくは、ポリアミド樹脂等を主成分とする制振特性に優れた材料が挙げられる。なお、制振合金は、耐熱性が高く、比較的複雑な形状への加工が可能であるため、制振合金製の制振部材140を用いることにより、制振部材140の耐久性の向上、および、装置設計自由度の向上を実現しつつ、接点衝突時の音の発生を抑制することができる。また、制振部材140によって気密性を確保する必要がある図6−9に示した形態や、制振部材140が可動接触子50や固定端子10に埋め込まれた形態では、制振合金以外の材料により形成された制振部材140を用いることは好ましくない。図10−12,15,17,19,22−27に示した形態では、制振合金以外の材料により形成された制振部材140を用いることができる。
【0070】
また、上記実施形態の継電器5の2つの固定端子10のそれぞれは、1つの固定接点18を有し、可動接触子50は、各固定接点18にそれぞれ対応する2つの可動接点58を有しているが、可動接触子50が上記2つの可動接点58に加えて3つ目あるいはそれ以上の追加の可動接点を有していてもよい。同様に、各固定端子10が上記1つの固定接点18に加えて2つ目あるいはそれ以上の追加の固定接点を有していてもよい。これらの場合に、追加の可動接点と追加の固定接点との個数や対応関係は任意に設定可能である。すなわち、「それぞれ固定接点を有する2つの固定端子と、各固定接点にそれぞれ対応する2つの可動接点を有する可動接触子とを備える継電器」との記載は、各固定端子が2つ以上の固定接点を有する場合や可動接触子が3つ以上の可動接点を有する場合を排除するものではない。
【符号の説明】
【0071】
1…電力システム
2…蓄電池
3…電力変換装置
4…モータ
5…継電器
6…継電器本体
10…固定端子
11…孔
12…接続口
13…フランジ部
14…本体部
15…溝
16…テーパー部
17…ダイヤフラム部
18…固定接点
19…固定接触部
20…第1の容器
22…側面部
24…底部
26…貫通孔
30…接合部材
32…ベース部
32h…貫通孔
35…接合部
40…コイル用容器
42…コイルボビン
44…コイル
50…可動接触子
52…中央部
53…貫通孔
56…可動接触部
57…溝
58…可動接点
59…孔
60…ロッド
60a…軸部
60b…規制部
60c…他端部
62…第1のばね
64…第2のばね
67…取付部材
69…通気パイプ
70…固定鉄心
70h…貫通孔
72…可動鉄心
72h…貫通孔
80…鉄心用容器
86…ゴム
90…駆動機構
92…第2の容器
100…気密空間
110…ケース部材
120…ケース保持部材
140…制振部材
141…第1の略円筒部分
142…第2の略円筒部分
143…円盤状部分
150…バスバー
160…磁性体部材
800…永久磁石
図1
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