特許第6400966号(P6400966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6400966
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】ダンパ
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/08 20060101AFI20180920BHJP
   B60T 7/10 20060101ALI20180920BHJP
   B60T 11/18 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   F16F7/08
   B60T7/10 H
   B60T7/10 F
   B60T11/18
【請求項の数】9
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-145949(P2014-145949)
(22)【出願日】2014年7月16日
(65)【公開番号】特開2016-23653(P2016-23653A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104570
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 光弘
(72)【発明者】
【氏名】堀田 尚弘
(72)【発明者】
【氏名】小堀 陽太
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−076852(JP,A)
【文献】 特開平09−133179(JP,A)
【文献】 特開平08−105481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T1/00−7/10
10/00−11/34
F16F7/00−7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動部材を、当該移動部材の軸心を囲む複数の位置において、当該移動部材の軸心に沿って往復移動可能に支持するための複数の摺動領域が形成され、前記移動部材の軸心から遠ざかる方向および前記移動部材の軸心に近づく方向に前記複数の摺動領域が変位するように弾性変形する1つの摺動部材と、
前記摺動部材の周りを、前記移動部材の軸心周りに囲む筒状のケースと、
前記ケースの内壁面と前記摺動部材との間に介在し、前記複数の摺動領域を前記移動部材に押し当てるように、前記摺動部材を、前記移動部材の軸心に向けて付勢する弾性体と、を備え
前記摺動部材は、
それぞれに前記摺動領域が形成され、前記移動部材の軸心から遠ざかる方向および前記移動部材の軸心に近づく方向に移動する複数の摺動部と、
前記移動部材の軸心周りの方向において隣り合う2つの摺動部の間ごとに設けられ、それぞれが、当該2つの摺動部を連結し、当該2つの摺動部の相対的な移動に応じて、前記移動部材の軸心周りの方向における当該2つの摺動部の間隔が変わる方向にたわむ弾性を有する複数の連結部と、を一体的に有することを特徴とするダンパ。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパであって、
前記移動部材を備えることを特徴とするダンパ。
【請求項3】
請求項1または2に記載のダンパであって、
前記移動部材は、当該移動部材の軸心に対する傾斜面を有し、
前記複数の摺動部の摺動領域のうち、少なくとも1つの摺動部の摺動領域は、前記移動部材を前記傾斜面において支持し、前記移動部材が当該移動部材の軸心に沿って移動する場合、前記弾性体により押し当てられる前記傾斜面とすべり接触しながら、前記移動部材の軸心から遠ざかる方向および前記移動部材の軸心に近づく方向のうち、前記移動部材の移動の向きに応じた方向に変位する
ことを特徴とするダンパ。
【請求項4】
請求項に記載のダンパであって、
前記傾斜面とすべり接触する前記摺動領域は、前記移動部材の軸心に対して傾斜し、当該傾斜面と面接触することを特徴とするダンパ。
【請求項5】
請求項またはに記載のダンパであって、
前記移動部材は、前記複数の摺動領域ごとに、当該摺動領域に対向する位置に、前記移動部材の軸心との間隔が当該軸心に沿った第一の方向に向かうにしたがい狭くなる前記傾斜面を有し、
前記移動部材が前記第一の方向に移動する場合、前記複数の摺動領域のそれぞれは、当該摺動領域に対向する前記傾斜面とすべり接触しながら、前記移動部材の軸心から遠ざかる方向に変位し、前記複数の連結部のそれぞれは、当該連結部が連結する2つの摺動部の間隔が広がる方向に弾性的にたわみ、
前記移動部材が前記第一の方向への移動後に当該第一の方向とは逆向きの第二の方向に移動する場合、前記複数の摺動領域のそれぞれは、当該摺動領域に対向する前記傾斜とすべり接触しながら、前記移動部材の軸心に近づく方向に変位し、前記複数の連結部のそれぞれはたわみ前の形状に復元することを特徴とするダンパ。
【請求項6】
請求項ないしのいずれか一項に記載のダンパであって、
前記複数の連結部のそれぞれは、
当該連結部が連結する2つの摺動部に結合した2つの脚部を有し、当該2つの摺動部の間隔が開く方向にたわむ二股形状を有することを特徴とするダンパ。
【請求項7】
請求項ないしのいずれか一項に記載のダンパであって、
前記摺動部材が前記移動部材の軸心に沿って挿入される筒状のゴム部材を、前記弾性体として備え、
前記ゴム部材の内周面には、
前記摺動部の、前記摺動領域とは反対側の面に対向する位置に、当該反対側の面に倣った領域が含まれ、当該領域で、前記摺動部を、前記移動部材の軸心に向けて付勢することを特徴とするダンパ。
【請求項8】
請求項に記載のダンパであって、
前記ゴム部材は、
前記複数の摺動部と前記ケースとに挟まれる位置に、それぞれ、前記ケースの内壁面に向かって突き出し、前記ケースの内壁面に、前記移動部材の軸心に沿って接触する複数の突部を有することを特徴とするダンパ。
【請求項9】
請求項に記載のダンパであって、
前記移動部材には、
当該移動部材の軸心に沿って往復移動する制動対象部材を、当該移動部材の軸心に沿って挿入するための挿入穴が形成されていることを特徴とするダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒステリシス特性を有する直動型の摩擦機構に関し、例えばドライバのペダル踏み込みをアシストするブレーキアクチュエータのプッシュロッド等、直動しながら傾斜する直動部材の制動に好適なダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一対のカムを含むダンパのヒステリシス特性を利用して、アクセルペダルの踏み込みに適度な負荷を与えるとともに、アクセルペダルをほぼ一定の位置に保持しているときのドライバの足にかかる負担を低減するアクセルペダルユニットが記載されている。
【0003】
このアクセルペダルユニットにおいては、アクセルペダルアームの回転が、リンク部材等からなる伝達機構を介してダンパの回転軸に伝達され、これにより、アクセルペダルアームの双方向の回転が制動される。具体的には、リンク部材の回転によりダンパの回転軸が回転するように、リンク部材の一端がダンパの回転軸に固定される。一方、アクセルペダルアームには、アクセルペダルアームの回転軸を挟んでアクセルペダルの反対側の端部に係合部材が固定され、この係合部材がリンク部材にスライド可能に保持される。これにより、アクセルペダルアームが回転すると、リンク部材を介して、アクセルペダルアームの回転方向に応じた方向にダンパの回転軸が回転し、ダンパのヒステリシス特性により、アクセルペダルの踏み込み時には適度な負荷が与えられ、アクセルペダルの復帰時には負荷が軽減する(段落0071〜0084、図13図19等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−12052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車のブレーキ等において、ペダル踏み込み時にはドライバの足に適度な負荷が与えられる一方でペダル保持中にはドライバの足にかかる負荷が低減するというペダル操作感を実現しようとすれば、上記従来のアクセルペダルユニットのダンパと同様なダンパを組み込んだ特別なブレーキペダルユニットを自動車に搭載する必要がある。例えば、ドライバのペダル踏み込みをアシストするブレーキアクチュエータのプッシュロッド側から、要求されるペダル操作感に応じたヒステリシス特性を有する負荷をブレーキペダルアームに与えることができれば、任意に選択した汎用のブレーキペダルアームをプッシュロッドに連結するだけで、要求されるペダル操作感を安定に実現することができる。
【0006】
ところが、上記従来のアクセルペダルユニットに組み込まれたダンパは、アクセルペダルアームの双方向の回転を制動するものであるため、ブレーキアクチュエータのプッシュロッドのような直動部材の制動にそのまま適用することは困難である。また、ブレーキペダルアームにクレビスジョイントで連結されたプッシュロッドには軸振れ(ブレーキシリンダの軸心に対して傾斜する方向の振動)が発生するため、このようなプッシュロッドを制動するダンパには、プッシュロッドの軸振れを吸収しつつ、要求されたペダル操作感に応じたヒステリシス特性を安定に発揮することが求められる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、軸心に沿って往復移動する移動部材の軸振れを吸収しつつ、ヒステリシス特性を有する負荷で移動部材を制動するダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では、移動部材の軸心を囲む複数の位置に配置される摺動領域が、移動部材の軸心から遠ざかる方向および移動部材の軸心に近づく方向に変位するように弾性変形する摺動部材と、摺動部材の摺動領域を移動部材の支持面に押し当てる弾性体と、を用いることにより、摺動部材の摺動領域を、移動体の軸心に対するそれぞれの摺動領域の変位量に応じた弾性力で移動部材の支持面に押し当てる。ここで、摺動部材の摺動領域の少なくとも1つで支持される支持面として、軸心に対する傾斜面が形成された移動部材を用いることにより、移動部材の移動中、摺動部材は、移動部材の傾斜面に押し当てられた摺動領域をこの傾斜面に追従させながら弾性変形する。
【0009】
例えば、本発明に係るダンパは、
移動部材を、当該移動部材の軸心を囲む複数の位置において、当該移動部材の軸心に沿って往復移動可能に支持するための複数の摺動領域が形成され、前記移動部材の軸心から遠ざかる方向および前記移動部材の軸心に近づく方向に前記複数の摺動領域が変位するように弾性変形する1つの摺動部材と、
前記摺動部材の周りを、前記移動部材の軸心周りに囲む筒状のケースと、
前記ケースの内壁面と前記摺動部材との間に介在し、前記複数の摺動領域を前記移動部材に押し当てるように、前記摺動部材を、前記移動部材の軸心に向けて付勢する弾性体と、を備え
前記摺動部材は、
それぞれに前記摺動領域が形成され、前記移動部材の軸心から遠ざかる方向および前記移動部材の軸心に近づく方向に移動する複数の摺動部と、
前記移動部材の軸心周りの方向において隣り合う2つの摺動部の間ごとに設けられ、それぞれが、当該2つの摺動部を連結し、当該2つの摺動部の相対的な移動に応じて、前記移動部材の軸心周りの方向における当該2つの摺動部の間隔が変わる方向にたわむ弾性を有する複数の連結部と、を一体的に有する
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、摺動部材が、弾性体により移動体の軸心に向けて付勢された摺動領域で、軸心に沿って移動する移動体の、軸心に対する傾斜面を支持するとともに、この傾斜面に摺動領域を追従させながら弾性変形するため、移動部材の軸触れを吸収することができるとともに、移動部材の軸心に沿った所定の方向の力を移動部材に与える駆動源に対して、移動部材の傾斜面と摺動部材の摺動領域との間に発生する摩擦抵抗により、一ストロークの往路と復路とにおいて大きさの異なる反力(ヒステリシス特性を有する負荷)を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係るダンパ100が組み込まれた電動ブレーキアクチュエータのプッシュロッド4にブレーキペダルアーム60が取り付けられている状態を説明するための図である。
図2図2は、プッシュロッド4を含めたダンパ100の部品展開図である。
図3図3(A)は、プッシュロッド4を支持したダンパ100の、ブレーキペダル踏み込み前における軸方向断面図であり、図3(B)は、図3(A)のA−A断面図である。
図4図4(A)は、プッシュロッド4の正面図であり、図4(B)および図4(C)は、図4(A)のB−B断面図およびC−C断面図であり、図4(D)は、プッシュロッド4の右側側面図である。
図5図5(A)は、ブッシュ2の外観図であり、図5(B)、図5(C)および図5(D)は、ブッシュ2の正面図、側面図および背面図であり、図5(E)は、図5(B)のD−D断面図である。
図6図6(A)は、ブレーキペダル踏み込み時におけるダンパ100の断面図であり、図6(B)は、図6(A)のF−F断面図である。
図7図7(A)は、ブレーキペダル踏み込み前におけるケース10とブッシュ2の摺動部20との位置関係を説明するための図であり、図7(B)は、ブレーキペダル踏み込み時におけるケース10とブッシュ2の摺動部20との位置関係を説明するための図である。
図8図8(A)は、弾性体3として用いられるゴム部材31の外観図であり、図8(B)は、ハウジング1の円筒室105におけるゴム部材31の配置例を示した図である。
図9図9(A)、図9(B)および図9(C)は、ブッシュ2Aの正面図、側面図および背面図であり、図9(D)は、図9(A)のG−G断面図であり、図9(E)は、ブッシュ2Aの他の例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態では、ブレーキペダルの踏み込みをアシストする電動ブレーキアクチュエータに組み込まれるダンパ100を一例に挙げる。
【0013】
図1は、本実施の形態に係るダンパ100が組み込まれた電動ブレーキアクチュエータのプッシュロッド4にブレーキペダルアーム60が取り付けられている状態の概略図であり、図2は、プッシュロッド4を含めたダンパ100の部品展開図である。また、図3(A)は、プッシュロッド4を支持したダンパ100の、ブレーキペダル踏み込み前(初期状態)における軸方向断面図であり、図3(B)は、図3(A)のA−A断面図である。
【0014】
図示するように、本実施の形態に係るダンパ100は、ブレーキペダルが受けた踏力をブレーキシリンダ内のピストンに伝達するプッシュロッド4をその軸心Oに沿って往復移動可能に支持する直動型のダンパであり、プッシュロッド4を挿入するためのロッド挿入口12、13を有するハウジング1と、ハウジング1の内部(円筒室)105に収容され、プッシュロッド4を囲むように放射状に配置される複数の摺動部20でプッシュロッド4の側面441〜446を支持する一つの摺動部材であるブッシュ2と、ハウジング1の内周面(ケース10の内壁面104)とブッシュ2の摺動部20の外側面23との間に介在し、ハウジング1の軸心(プッシュロッド4の軸心)Oに向けて、例えばハウジング1の径方向(ケース10の径方向)にブッシュ2を付勢する弾性体3と、を備えている。弾性体3は、ハウジング1の軸心Oに向けてブッシュ2を付勢できるものであればよいが、本実施の形態においては、弾性体3として1本のOリング30を備える場合を例示している。
【0015】
このような構造を有するダンパ100を電動ブレーキアクチュエータに組み込むことにより、ブレーキペダルアーム60にクレビスジョイント61で連結されたプッシュロッド4に生じる軸振れ(軸心Oに対して傾斜する方向の振動)を吸収しつつ、ブレーキペダルの踏み込みにより、軸心Oに沿って移動するプッシュロッド4を、要求されるペダル操作感に応じたヒステリシス特性を有する負荷で制動することができる。以下、プッシュロッド4と、これを支持するダンパ100の構成部品1〜3とについて詳細に説明する。
【0016】
まず、制動対象のプッシュロッド4について説明する。
【0017】
図4(A)は、プッシュロッド4の正面図であり、図4(B)および図4(C)は、図4(A)のB−B断面図およびC−C断面図であり、図4(D)は、プッシュロッド4の右側側面図である。
【0018】
図示するように、プッシュロッド4には、軸心Oに沿って一方の端面41側から順に、電動ブレーキアクチュエータのブレーキシリンダ内のピストンを駆動するピストン駆動部43、ダンパ100のブッシュ2で摺動可能に支持される側面441〜446を有するテーパ付シャフト部44、およびブレーキペダルアーム60が連結されるペダルアーム連結部45が形成されている。
【0019】
ピストン駆動部43は、ブレーキシリンダ内のピストン後端面に向けてハウジング1のロッド挿入口12からハウジング1の外部(円筒室105の外部)に突き出している。ブレーキペダルの踏み込みによってプッシュロッド4がブレーキシリンダに向かって移動(前進)すると、このピストン駆動部43の先端面(プッシュロッド4の一方の端面)41がピストンの後端面に突き当てられてブレーキシリンダ内でピストンが前進する。なお、このピストン駆動部43は、ブレーキシリンダ内のピストン後端面への突き当てに適した任意の形状(例えば円柱形状)を有していればよい。
【0020】
テーパ付きシャフト部44は、ハウジング1のロッド挿入口12、13を介してハウジング1の内部(円筒室105)に挿入され、所定長さの一部区間が、軸心O側から順に、ブッシュ2、Oリング30、ハウジング1の内周面(ケース10の内壁面104)により囲まれている。このテーパ付きシャフト部44は、プッシュロッド4の最大ストロークよりも軸心O方向に長い、いわゆる錐台形状を有している。本実施の形態では、一例として、六角形状の断面形状を有する角錐台状のテーパ付きシャフト部44が形成されたプッシュロッド4を用いている。このような錐台形状のテーパ付きシャフト部44において、それぞれの側面441〜446は、ピストン駆動部43に近づくにしたがい軸心Oとの間隔Dが狭くなるように、軸心Oに対して傾斜している。後述するように、ハウジング1の円筒室105において、ブッシュ2の各摺動部20は、Oリング30の弾性力によりこれらの側面441〜446に1つずつ押し当てられているため、プッシュロッド4がその軸心Oに沿って往復移動すると、これらの側面441〜446とすべり接触しながら、プッシュロッド4の軸心Oから離れる方向およびプッシュロッド4の軸心Oに近づく方向(例えばケース20の径方向)に往復移動する。
【0021】
ペダルアーム連結部45は、ピストン駆動部43とは反対側に向かってハウジング1のロッド挿入口13からハウジング1の外部(円筒室105の外部)に突き出している。このペダルアーム連結部45は、例えば円柱形状を有しており、その端面(プッシュロッド4の他方の端面)42には、ブレーキペダルアーム60を回転自在に保持するクレビスジョイント61を固定するためのネジ穴451が形成されている。例えば、クレビスジョイント61にナット64で固定されたボルト63をこのネジ穴451にねじ込み、さらにこのボルト63とナット65とを締結することにより、ブレーキペダルアーム60がプッシュロッド4に回転自在に連結される(図1参照)。これにより、ブレーキペダルアーム60が回転軸62周りに双方向に回転すると、ブレーキペダルアーム60に連動して、プッシュロッド4がその軸心Oに沿って往復移動する。
【0022】
つぎに、ダンパ100の構成部品1〜3の詳細についてそれぞれ説明する。
【0023】
ハウジング1は、ブッシュ2およびOリング30を同心状に収容するケース10と、ケース10の開口部103をふさぐカバー11と、を備えている(図2参照)。
【0024】
ケース10は、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の一部区間を囲むように、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の軸心O方向長さLよりも短い底付き円筒形状を有しており、その開口部103の内周にはネジ部106が形成されている。一方、カバー11は円板形状を有しており、その外周面110には、ケース10の開口部103の内周に形成されたネジ部106に締結されるネジ部111が形成されている。ケース10の開口部103にカバー11を装着して、カバー11の外周面110のネジ部111とケース10の開口部103のネジ部106とを締結することにより、カバー11の裏面(ケース10側に向けられる面)113と、ケース10の底面101および内壁面104とに囲まれた室(円筒室)105が形成される。
【0025】
ケース10の底面101の中央領域には、円筒室105の軸心Oが通過する位置に、ハウジング1の一方のロッド挿入口12となる貫通穴として、プッシュロッド4のピストン駆動部43の外径R1よりも大きな内径を有する貫通穴102が形成されている。同様に、カバー11の中央領域にも、円筒室105の軸心Oが通過する位置に、ハウジング1の他方のロッド挿入口13となる貫通穴として、ペダルアーム連結部45の外径R2よりも大きな内径を有する貫通穴112が形成されている。
【0026】
図5(A)は、ブッシュ2の外観図であり、図5(B)、図5(C)および図5(D)は、ブッシュ2の正面図、側面図および背面図であり、図5(E)は、図5(B)のD−D断面図である。
【0027】
ブッシュ2は、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44を囲む例えば樹脂製の筒状一体成型品であり、プッシュロッド4をその軸心Oに沿って往復移動可能に支持する、テーパ付きシャフト部44の側面441〜446と同数(本実施の形態では6つ)の摺動部20と、プッシュロッド4の軸心O周りの方向において隣り合う摺動部20を連結し、これらの摺動部20の相対的な移動に応じて弾性変形する複数本(本実施の形態では6本)の連結部21と、を有している。
【0028】
6つの摺動部20は、プッシュロッド4の軸心O周りにほぼ等角度おきに配置され、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446の初期位置(プッシュロッド4に対する相対的なブッシュ2の移動可能範囲の一方の限界位置、例えば図3(A)におけるブッシュ2の位置)にそれぞれ1つずつ位置付けられる。それぞれの摺動部20の、プッシュロッド4側には、プッシュロッド4の軸心Oの方向に対してテーパ付きシャフト部44の対向側面441〜446とほぼ同角度傾斜した摺動面22が、プッシュロッド4を摺動可能に支持する摺動領域として形成されている。これらの摺動面22は、対向するテーパ付きシャフト部44の側面441〜446に面接触して、プッシュロッド4を軸心Oに沿って往復移動可能に支持する。
【0029】
また、それぞれの摺動部20は、摺動面22とは反対側に向けられた面として、例えば、ケース10の内壁面104の内径R4よりも曲率半径の小さな円弧に沿った柱面状の凸面(外側面)23を有している。これらの6つの摺動部20をテーパ付きシャフト部44の側面441〜446に位置付けた状態でハウジング1の円筒室105に配置した場合、それぞれの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104との間には、ケース10の内径R4と、6つの摺動部20により構成される円筒体の外径との差分に応じた隙間が形成される。後述するように、Oリング30は、この隙間に収容され、それぞれの摺動部20の摺動面22をテーパ付きシャフト部44の側面441〜446に押し当てるように、6つの摺動部20を、プッシュロッド4の軸心Oに向けて付勢するため、プッシュロッド4がその軸心O方向に沿って往復移動すると、6つの摺動部20は、それぞれの摺動面22を側面441〜446と摺接させながら、ハウジング1の円筒室105の軸心Oに近づく方向およびハウジング1の円筒室105の軸心Oから離れる方向(例えばケース10の径方向)に往復移動する。
【0030】
一方、6本の連結部21は、プッシュロッド4の軸心O周りの方向において隣接する2つの摺動部20の間に1本ずつ渡されて、隣接する2つの摺動部20のそれぞれに結合しており、それぞれの連結部21が連結している2つの摺動部20の相対的な移動に応じて弾性変形する。例えば、6本の連結部21は、それぞれが連結する2つの摺動部20に2本の脚部24のそれぞれで結合し、これら2つの摺動部20の間隔が変動する方向にたわむ二股形状(例えばアーチ形状)を有している。このような連結部21によって摺動部20を連結することにより、それぞれの摺動部20は、荷重を受けると、自身に結合した連結部21を弾性変形させながら荷重の方向に変位するが、荷重が除荷されれば、自身に結合した連結部21の復元力により初期の位置にすみやかに復帰する。
【0031】
また、6本の連結部21は、2つの脚部24をつなぐ中央部分25において、それぞれが連結する2つの摺動部20よりもプッシュロッド4の軸心Oから遠ざかる方向に突き出し、ハウジング1の円筒室105においてOリング30とカバー11の裏面113との間に挟み込まれている。これにより、ハウジング1に対するブッシュ2の相対的な回転が阻止されるとともに、隣り合う摺動部20の、プッシュロッド4の軸心Oに沿った方向への相対的な移動が防止されるため、プッシュロッド2を適正な姿勢で支持することができる。また、摺動部20の肉厚(摺動面22と外側面23との間隔)を薄くしても、ハウジング1のロッド挿入口12、13からの摺動部20の抜け出しが防止されるため、摺動部20の肉厚を、例えば、隣り合う摺動部20の間から露出するテーパ付きシャフト部44の角部447がOリング30に接触しない程度に薄くすることによって、より線径の大きなOリング30が収容可能なスペースをケース10の内壁面104と摺動部20の外側面23との間に確保してもよい。
【0032】
Oリング30は、ブッシュ2の摺動部20の外側面23に軸心O周りに装着された状態で、ケース10の内壁面104に沿って円筒室105に配置される。このOリング30は、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446の初期位置に配置された6つの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104との間隔よりも大きな線径を有している。このため、Oリング30は、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44に対して6つの摺動部20が初期位置に位置付けられた状態において、それぞれの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104との間でプリロードされており、プッシュロッド4が前進するにしたがい、それぞれの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104とによってさらに圧縮される。これにより、6つの摺動部20は、プッシュロッド4の軸心Oから離れる方向への変位量に応じた弾性力でプッシュロッド4の軸心Oに向けて付勢される。
【0033】
なお、本実施の形態において、プッシュロッド4の軸心Oから遠ざかる方向にそれぞれの連結部21が突き出しているが、例えば、それぞれの連結部21を、6つの摺動部20からケース10の底面101に向かって突き出すようにプッシュロッド4の軸心Oに沿って形成し、それぞれの連結部21の中央部25をケース10の底面101に接触させてもよい。
【0034】
また、本実施の形態においては、ブッシュ2の一方の端面28A側にすべての連結部21が形成されている場合を例示しているが、必ずしもこのようにする必要はない。プッシュロッド4の軸心O周りの方向において隣り合う2つの摺動部20を相対移動可能に連結することができ、かつ、ブッシュ2の摺動部20の外側面23への弾性体3の装着を妨げなければ、それぞれの連結部21の形成位置は限定されない。
【0035】
例えば、連結部21は、ブッシュ2の他方の端面28B側に形成されていてもよい。また、すべての連結部21がプッシュロッド4の軸心O周り方向一列に配列されている必要はなく、ブッシュ2の代わりに、図9(A)〜図9(D)に示すように、一部の連結部21が一方の端面28A側に形成され、その他の連結部21が他方の端面28B側に形成されたブッシュ2Aを用いてもよい。
【0036】
このブッシュ2Aは、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446の傾斜に応じたテーパが付けられた内壁面を有する円筒体の両端面28A、28Bから交互に、軸心Oに沿ったスリット27A、28Bが形成された形状を有している。それぞれのスリット27A、28Bは、互いに他方の端面28B、28Aには到達しておらず、円筒体を、両端面28A、28B側の弧形状の湾曲領域(連結部21として機能)で交互に連結された複数の領域(摺動部20として機能)に分割している。それぞれの連結部21は、自身が連結している2つの摺動部20の変位に応じて、初期の弧形状から例えば直線状等にスムーズに弾性変形するように摺動部20の肉厚よりも薄く形成されている。
【0037】
このような形状によれば、それぞれの摺動部20は、荷重を受けると、自身の両端面28A、28B側にそれぞれ結合した弧形状の連結部21を、自身の両側のスリット27A、28Bが広狭する方向(例えば、連結部21の湾曲をさらに広げる方向、連結部21を初期の弧形状よりもさらに湾曲させる方向)に弾性変形させながら荷重の方向に変位するが、荷重が除荷されれば、自身に結合した連結部21の復元力により初期の位置にすみやかに復帰する。すなわち、このブッシュ2Aは、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446を摺動可能に支持する複数の摺動部20と、軸心O周りの方向において隣り合う摺動部20を連結し、摺動部20の相対的な移動に応じて弾性変形する複数の連結部21と、を有している。
【0038】
ここで、それぞれのスリット27A、28Bの幅が、軸心Oから離れるにしたがって(摺動部20の外側面23に近づくにしたがって)広がり、それぞれの連結部21が、より摺動部20の外側面23に近い位置において摺動部20に結合することが好ましい。図9には、それぞれのスリット27A、28Bの幅が摺動部20の外側面23において最も広くなるようにそれぞれの摺動部20の側面(摺動部20の外側面23と摺動面22との間に位置する、スリット27A、28Bによる切断面)29をほぼ平行に形成し、それぞれの連結部21が摺動部20の外側面23につながっている場合を例示している。このようにすれば、ブッシュ2A自体のサイズを変えなくても、円筒体の径方向に沿ったスリットが形成されていたり(それぞれの摺動部20の側面29が円筒体の径方向に沿っていたり)、弧形状の連結部21が軸心Oに近い側に形成されている場合よりも、弧形状の連結部21を長くすることができる。このため、連結部21をより大きく弾性変形させることができ、連結部21の弾性変形による摺動部20の可動範囲を拡大することができるため、それぞれの摺動部20が、テーパ付きシャフト部44の側面441〜446に摺動面22を追従させながらスムーズに変位可能となる。
【0039】
また、図9(A)〜図9(D)には弧形状の連結部21が形成されている場合を示しているが、例えば図9(E)に示すように、それぞれの連結部21を、軸心Oに向けて凸な湾曲部を1つ以上設けてもよい。このようにすることによって、摺動部20の可動範囲をさらに拡大することができるため、それぞれの摺動部20が、テーパ付きシャフト部44の側面441〜446に摺動面22を追従させながらさらにスムーズに変位可能となる。
【0040】
なお、このようなブッシュ2Aを用いる場合には、プッシュロッド4の移動に伴ってブッシュ2Aがハウジング1のロッド挿入口12、13から抜け出さないように、ケース10の底面101およびカバー11の裏面113にブッシュ2Aの両端面28A、28Bが接触するようにそれぞれの摺動部20の肉厚を定めることが好ましい。また、それぞれの摺動部20の外側面23には、ケース10の内壁面104との間に介在させるOリング30をはめ込むための溝(不図示)が形成されていてもよい。
【0041】
また、本実施の形態においては、六角形状の断面形状を有する角錐台状のテーパ付きシャフト部44をプッシュロッド4に設けているが、六角形状以外の多角形状の断面形状を有する角錐台状のテーパ付きシャフト部44をプッシュロッド4に設けてもよい。または、円錐台状、軸心Oの方向に対して傾斜した側面を少なくとも一面有する柱状等のテーパ付きシャフト部44をプッシュロッド4に設けてもよい。この場合、プッシュロッド4の軸心O周りにテーパ付きシャフト部44の支持位置を複数定め、テーパ付きシャフト部44の支持位置と同数の摺動部20をブッシュ2に設ければよい。そして、ブッシュ2の摺動部20のうち、軸心Oに対して傾斜した側面を支持対象とする少なくとも1つの摺動部20には、軸心Oに対して支持対象の側面とほぼ等角度傾斜した摺動面22が形成されていることが好ましい。
【0042】
このようなダンパ100は、例えば、以下の手順によりプッシュロッド4に組み付けられ、電動ブレーキアクチュエータに組み込まれる。
【0043】
プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446にそれぞれブッシュ2の摺動部20の摺動面22が1つずつ接触するように、プッシュロッド4を、ブッシュ2の6つの摺動部20で囲まれた領域(以下、挿入口26と呼ぶ)に挿入する。このとき、プッシュロッド4の軸心O周りの方向において隣り合う摺動部20の間隔が広がるようにそれぞれの連結部21が弾性変形するため、ブッシュ2の挿入口26にプッシュロッド4をスムーズに挿入することができる。そして、それぞれの摺動部20がテーパ付きシャフト部44の側面441〜446上の例えば初期位置に位置するように、プッシュロッド4に対するブッシュ2の位置を調整しておく。
【0044】
このように、テーパ付きシャフト部44を囲むようにブッシュ2が装着されたプッシュロッド4をOリング30に挿入し、Oリング30を6つの摺動部20の外側面23に装着する。そして、プッシュロッド4のピストン駆動部43がケース10の外部に突き出すように、ブッシュ2とこのブッシュ2に装着されたOリング30とがケース10の内部に収容される位置まで、プッシュロッド4のピストン駆動部43を、ケース10の内部を介してケース10の底面101の貫通穴102を通過させる。このとき、ケース10の内壁面104とブッシュ2の6つの摺動部20の外側面23との間には、ケース10の内壁面104に沿って、Oリング30の線径よりも狭い隙間が形成されるため、プッシュロッド4の軸心Oを囲むように6つの摺動部20の外側面23に装着されたOリング30は、それぞれの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104とよってわずかに圧縮(プリロード)される。
【0045】
その後、プッシュロッド4のペダルアーム連結部45がカバー11の表面114側に突き出すように、カバー11の貫通穴112にプッシュロッド4を挿入しながら、カバー11をケース10の開口部103に装着し、カバー11の裏面113がブッシュ2の各連結部21に接触するまでカバー11の外周面110のネジ部111をケース10の開口部103のネジ部106に締結する。これにより、ブッシュ2の6本の連結部21は、カバー11の裏面113とケース10の底面101との間に挟み込まれるため(図3(A)参照)、ブッシュ2の軸心Oに沿った方向への移動が制限される。
【0046】
このようにしてプッシュロッド4にダンパ100を組み付け後、このダンパ100を、プッシュロッド4のピストン駆動部43の先端面41がブレーキシリンダ内のピストンの後端面に突き当たるように、電動ブレーキアクチュエータのハウジング等に固定する。これにより、プッシュロッド4をその軸心Oに沿った往復移動可能に支持したダンパ100が電動ブレーキアクチュエータに組み込まれる。つぎに、電動ブレーキアクチュエータに組み込まれたダンパ100の動作について説明する。
【0047】
図6は、ブレーキペダルの踏み込み中のダンパ100の状態を説明するための図であり、図6(A)は、ブレーキペダル踏み込み時におけるダンパ100の断面図、図6(B)は、図6(A)のF−F断面図である。また、図7は、ブレーキペダル踏み込み前後におけるOリングの状態変化を説明するための図であり、図7(A)は、ブレーキペダル踏み込み前(初期状態)におけるケース10とブッシュ2の摺動部20との位置関係を示し、図7(B)は、ブレーキペダル踏み込み中におけるケース10とブッシュ2の摺動部20との位置関係を示す。
【0048】
ダンパ100の初期状態においては、ハウジング1の円筒室105のブッシュ2の6つの摺動部20は、それぞれ、初期位置に位置付けられ、プリロードされたOリング30によってプッシュロッド4の軸心Oに向けて例えばケース10の径方向に付勢されている(図3(A)、図3(B)参照)。
【0049】
ここで、ドライバがブレーキペダルを踏み込み、ブレーキペダルアーム60が回転軸62周りに所定の方向に回転すると、図6(A)に示すように、プッシュロッド4は、ブレーキペダルアーム60に連動して、ダンパ100の初期状態における位置から、不図示のブレーキシリンダに向かう方向αに移動する。なお、以下においては、ブレーキシリンダに向かう方向αへの移動を前進、ブレーキシリンダから遠ざかる方向(方向αの逆方向)βへの移動を後退と呼ぶ。
【0050】
このとき、図6(B)に示すように、Oリング30によってプッシュロッド4の軸心Oに向けて付勢されたブッシュ2の6つの摺動部20は、6本の連結部21を弾性変形させながら、前進中のプッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の各側面441〜446上で摺動面22をすべり接触させながら、プッシュロッド4の軸心Oから離れる方向(ケース10の内壁面104に近づく方向)に移動する。これにより、図7(B)に示すように、6つの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104との間の隙間D1は徐々に狭くなってゆき、Oリング30は、ブッシュ2のそれぞれの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104によってさらに圧縮される。このため、Oリング30の弾性力によって、それぞれのブッシュ2の摺動部20の摺動面22がプッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446に、より強く押し付けられ、摺動中の両面22、441〜446間の摩擦力が徐々に増大する。すなわち、プッシュロッド4の前進とともに、プッシュロッド4の前進を妨げる摩擦力が徐々に増大する。このような摩擦抵抗により発生する制動力でプッシュロッド4が制動されるため、ブレーキペダルを踏み込むドライバの足(駆動源)には、ブレーキペダルの踏み込み量に応じた適度な負荷が与えられる。
【0051】
この間、回転軸62周りに回転するブレーキペダルアーム60にクレビスジョイント61で連結されたプッシュロッド4に軸振れ(軸心Oに対して傾斜する方向の振動)が発生しても、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446を支持しているそれぞれのブッシュ2の摺動部2が、プッシュロッド4の姿勢に応じて適宜、自身に結合している連結部21およびOリング30を弾性変形させながら、ケース10の内壁面104に向かってケース10の径方向に移動する。このため、プッシュロッド4の軸振れをOリング30の弾性力およびブッシュ2の連結部21の弾性力によって吸収して、プッシュロッド4を適正な姿勢でその軸心Oに沿って案内することができる。
【0052】
ここで、ドライバがブレーキペダルの踏み込みを一旦停止すると、プッシュロッド4の前進が停止して、それぞれのブッシュ2の摺動部20とプッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446との間に、今度は、Oリング30の復元を妨げる方向(プッシュロッド4の後退を妨げる方向)の摩擦力が生じる。このため、ブレーキペダルを一定の位置で保持するドライバの足にかかる負荷が急激に減少する。
【0053】
ドライバがブレーキペダルの踏み込みを緩めることでブレーキペダルアーム60が逆方向に回転すると、プッシュロッド4が後退(初期状態の位置に戻る方向βに移動)する。このとき、ブッシュ2のそれぞれの摺動部20は、ケース10の内壁面104との間で圧縮されたOリング30によって付勢され、後退中のプッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の各側面441〜446上で摺動面22をすべり接触させながら、プッシュロッド4の軸心Oに近づく方向(ケース10の内壁面104から離れる方向)に移動する。これにより、図7(A)に示すように、ブッシュ2の6つの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104との間の隙間D1が徐々に広がり、Oリング30が初期状態に徐々に復元してゆくため、それぞれの摺動部20の摺動面22とプッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446との間の摩擦力がさらに徐々に減少する。すなわち、プッシュロッド4の後退とともに、プッシュロッド4の後退を妨げる摩擦力が徐々に減少する。このような摩擦抵抗により発生する制動力で後退中のプッシュロッド4が制動されるため、ブレーキペダルは、ドライバの足の動きにあわせてスムーズに初期位置に復帰する。
【0054】
この間、ブレーキペダルの踏み込み時と同様に、ブレーキペダルアーム60にクレビスジョイント61で連結されたプッシュロッド4には軸振れが発生する可能性があるが、Oリング30の弾性力およびブッシュ2の連結部21の弾性力によってプッシュロッド4の軸振れが吸収されるため、プッシュロッド4を適正な姿勢でその軸心Oに沿って案内することができる。
【0055】
以上説明したとおり、本実施の形態に係るダンパ100によれば、ブッシュ2が、Oリング30でプッシュロッド4の軸心Oに向けて付勢される摺動面22でテーパ付きシャフト部44の側面(プッシュロッド4の軸心Oに対する傾斜面)441〜446を支持するとともに、テーパ付きシャフト部44の側面441〜446に摺動面22を追従させながら弾性変形するため、プッシュロッド4の軸触れがOリング30およびブッシュ2の双方の弾性力により吸収されるとともに、プッシュロッド4の軸心Oに沿った所定方向の力をプッシュロッド4に与える駆動源(ドライバの足)に対して、テーパ付きシャフト部44の側面441〜446とブッシュ2の摺動面22との間の摩擦力により、一ストロークの往路と復路とにおいて大きさの異なる反力(ヒステリシス特性を有する負荷)を与えることができる。
【0056】
また、ブッシュ2は、プッシュロッド4の軸心Oに向かって変位した摺動部20を連結部21の復元力により初期の形状を復元するため、複数の摺動部20を、適正な姿勢で、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446の適正な位置に位置付けることができる。
【0057】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【0058】
例えば、上記の実施の形態においては、自動車の電動ブレーキアクチュエータに組み込まれるダンパ100を例に挙げたが、本発明に係るダンパは、軸心に沿って往復移動する移動部材の軸触れを吸収しつつ、この移動部材の往復移動を、ヒステリシス特性を有する制動力で制動することが有用な用途に適用可能である。例えば、自動車の電動ブレーキアクチュエータに限らず、楽器、ゲーム機、各種装置等、ユーザの操作を受け付ける操作部に連結される直動部材を有する様々な機器に組み込むことができる。
【0059】
また、上記の実施の形態においては、制動対象部材であるプッシュロッド4に、軸心Oに対する側面(移動方向に対する傾斜面)441〜446を設け、この側面441〜446をブッシュ2の摺動部20で直接支持しているが、移動方向に対する傾斜面を制動対象部材に設けることができない場合等には、ブッシュ2の複数の摺動部20により往復移動可能に支持される移動部材として、制動対象部材の移動方向に対する傾斜面が形成された部材を準備し、この移動部材に制動対象部材を保持させてもよい。例えば、プッシュロッドがその軸心方向に挿入される挿入口を有する筒状のカラー部材を設け、このカラー部材にプッシュロッドの軸心に対する傾斜面を形成しておき、このカラー部材が、ブッシュ2の少なくとも1つの摺動部20の摺動面22と傾斜面とをすべり接触させながら、プッシュロッドとともにプッシュロッドの軸心に沿って往復移動するように、このカラー部材をブッシュ2の複数の摺動部20で支持してもよい。
【0060】
また、上記の実施の形態においては、ブッシュ2の摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104との間に介在させる弾性体3として1本のOリング30を用いているが、必ずしも、このようにする必要はない。
【0061】
例えば、Oリング30は、その線径よりも狭い周方向の帯状領域で、ブッシュ2のそれぞれの摺動部20の外側面23に接触して、ブッシュ2のそれぞれの摺動部20をプッシュロッド4の軸心Oに向けて付勢するが、このようなOリング30の代わりに、ブッシュ2のそれぞれの摺動部20の外側面23全域に接触するゴム部材31を弾性体3として用いてもよい。図8(A)に、このようなゴム部材31の外観を示し、図8(B)に、ハウジング1の円筒室105におけるゴム部材31の配置例を示す。
【0062】
図示するように、このゴム部材31は、ブッシュ2とほぼ同じ長さの円筒部32と、円筒部32の軸心O周りにほぼ等角度間隔で円筒部32の外周面35に形成された複数の突部33と、を有している。
【0063】
円筒部32にはブッシュ2が挿入される。円筒部32の内壁面34は、円筒部32に挿入されたブッシュ2のそれぞれの摺動部20の外側面23の形状に倣った柱形状を有している。また、この円筒部32には、隣り合う突起33の間の位置に、それぞれ、一方の端面37から軸心Oに沿ってスリット36が形成されている。これらのスリット36には、円筒部32に挿入されたブッシュ2の連結部21がそれぞれ収容される。このため、円筒部32に挿入されたブッシュ2のそれぞれの摺動部20の外側面23は、そのほぼ全域で円筒部32の内周面34に接触する。これにより、それぞれの摺動部20の外側面23全域をゴム部材31で一様に押圧することができる。
【0064】
一方、複数の突部33は、それぞれの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104とに挟まれる位置に、円筒部32の軸心Oに沿って、円筒部32の一方の端面37の縁部37Aから他方の端面(不図示)の縁部38Aまで形成されている。このため、これらの突部33は、ケース10の軸心Oに沿ってケース10の内壁面104に接触して、ケース10とゴム部材31との間に摩擦力を発生させることができる。
【0065】
なお、ここでは、ブッシュ2のそれぞれの摺動部20の外側面23のほぼ全域をゴム部材31の円筒部32の内周面34に接触させているが、ブッシュ2のそれぞれの摺動部20の外側面23が円筒部32の軸心Oに沿って内周面34に接触していればよい。
【0066】
また、ブッシュ2の摺動部20を、ケース10の内壁面104に対するそれぞれの摺動部20の変位量に応じた弾性力でブッシュロッド4の側面441〜446に押し当てることができれば、ブッシュ2の摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104との間に複数のOリング30を介在させてもよい。ダンパ100の組み込み対象機器によっては、例えば、ダンパの初期状態においてプリロードされている上述のOリング30と並べて、このOリング30よりも線径が小さいOリングを配置し、ケース10の内壁面104の内壁に向かってブッシュ2の摺動部20が所定の変位量変位したタイミングで、上述のOリング30に加えて、線径の小さいOリングが、ブッシュ2の摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104とによって圧縮されるようにしてもよい。このような構成によれば、操作部を操作するユーザの手足等に適度な負荷を与えつつ、操作部が所定位置まで操作されたタイミング(プッシュロッド4がその軸心O方向に所定量変位したタイミング)で、ユーザの手足等にかかる負荷を急激に増大させることができる。このため、ユーザに、操作部が所定の位置まで操作されたこと等を通知する触覚的なシグナルを与えることができる。
【0067】
また、例えば、摩擦係数の異なる材質で形成された複数のテーパ付き部材を軸心O方向に連結することによってプッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44または上述のカラー部材を作成してもよいし、摩擦係数の異なる材質で形成された複数のシート状部材をプッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446または上述のカラー部材の傾斜面に軸心O方向に並ぶように配置してもよい。これにより、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446またはカラー部材の傾斜面において、摩擦係数が異なる複数の区間が軸心O方向に連続するため、操作部が所定位置まで操作されたタイミング(プッシュロッド4がその軸心O方向に所定量変位したタイミング)で、ユーザの手足等にかかる負荷を急激に増大させることができる。あるいは、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446または上述のカラー部材の傾斜面に表面処理を施すことによって、プッシュロッド4のテーパ付きシャフト部44の側面441〜446またはカラー部材の傾斜面に、摩擦係数が異なる複数の区間が軸心O方向に連続して含まれるようにしてもよい。
【0068】
また、Oリング30の代わりに、ブッシュ2のそれぞれの摺動部20の外側面23とケース10の内壁面104との間に1つずつ、ケース10の径方向に弾性変形する他の弾性体(ゴム等)を配置してもよい。
【0069】
また、上記の実施の形態においては、1つのブッシュ2で制動対象部材を支持しているが、制動対象部材には、ハウジング1の円筒室105のスペースに応じた個数のブッシュを、制動対象部材の軸心O方向に並ぶように装着してもよい。この場合、例えばケース10の内壁面104には、軸心O方向へのブッシュ2の移動を阻止するストッパを設けてもよい。これらのブッシュ2は、制動対象部材との摩擦係数が異なるものであってもよいし、それぞれのブッシュ2に、ブッシュの摺動部の外側面とケース10の内壁面104とによる圧縮開始タイミングの異なる弾性体3(線径の異なるOリング30、円筒室105の径方向への厚さが異なるゴム部材31等)を装着してもよい。
【符号の説明】
【0070】
1:ハウジング、 2、2A:ブッシュ、 3:弾性体、 4:プッシュロッド、 10:ケース、 11:カバー、 12、13:ロッド挿入口、 20: 摺動部、 21:連結部、 22:摺動部の摺動面、 23:摺動部の外側面、 24:連結部の脚部、 25:連結部の中央部、 30:Oリング、 31:ゴム部材、 41、42:プッシュロッドの端面、 43:ピストン駆動部、 44:テーパ付きシャフト部、 45:ペダルアーム連結部、 60:ブレーキペダルアーム、 61:クレビスジョイント、 62:ブレーキペダルアームの回転軸、 63:ボルト、 64、65:ナット、 101:ケースの底面、 102:貫通穴、 103:ケースの開口部、 104:ケースの内壁面、 105:円筒室、 106:ネジ部、 110:カバーの外周面、 111:カバー外周のネジ部、 112:貫通穴、113:カバーの裏面、 114:カバーの表面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9