【実施例1】
【0021】
実施例1は、ラダー型フィルタの例である。
図1は、実施例1に係るフィルタの回路図である。
図1に示すように、実施例1に係るフィルタ40は、1または複数の直列共振器S1からS4と、1または複数の並列共振器P1からP3を備えている。直列共振器S1からS4は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に直列に接続されている。並列共振器P1からP3は入力端子Tinと出力端子Toutとの間に並列に接続されている。直列共振器および並列共振器の接続および個数は適宜設定できる。
【0022】
図2(a)は、実施例1に用いられる圧電薄膜共振器の平面図、
図2(b)は、挿入膜の平面図、
図2(c)および
図2(d)は、
図2(a)のA−A断面図である。
図2(c)は、フィルタ40の直列共振器S1からS4を、
図2(d)はフィルタ40の並列共振器P1からP3の断面図を示している。
【0023】
図2(a)および
図2(c)を参照し、直列共振器Sの構造について説明する。シリコン(Si)基板である基板10上に、下部電極12が設けられている。基板10の平坦主面と下部電極12との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成されている。ドーム状の膨らみとは、例えば空隙30の周辺では空隙30の高さが小さく、空隙30の内部ほど空隙30の高さが大きくなるような形状の膨らみである。下部電極12は下層12aと上層12bとを含んでいる。下層12aは例えばCr(クロム)膜であり、上層12bは例えばRu(ルテニウム)膜である。
【0024】
下部電極12上に、(002)方向を主軸とする窒化アルミニウム(AlN)を主成分とする圧電膜14が設けられている。圧電膜14内に挿入膜28が設けられている。圧電膜14を挟み下部電極12と対向する領域(共振領域50)を有するように圧電膜14上に上部電極16が設けられている。共振領域50は、楕円形状を有し、厚み縦振動モードの弾性波が共振する領域である。上部電極16は下層16aおよび上層16bを含んでいる。下層16aは例えばRu膜であり、上層16bは例えばCr膜である。
【0025】
上部電極16上には周波数調整膜24として酸化シリコン膜が形成されている。共振領域50内の積層膜18は、下部電極12、圧電膜14、挿入膜28、上部電極16および周波数調整膜24を含む。周波数調整膜24はパッシベーション膜として機能してもよい。
【0026】
図2(a)のように、下部電極12には犠牲層をエッチングするための導入路33が形成されている。犠牲層は空隙30を形成するための層である。導入路33の先端付近は圧電膜14で覆われておらず、下部電極12は導入路33の先端に孔部35を有する。
【0027】
図2(a)および
図2(d)を参照し、並列共振器Pの構造について説明する。並列共振器Pは直列共振器Sと比較し、上部電極16の下層16aと上層16bとの間に、Ti(チタン)層からなる質量負荷膜20が設けられている。よって、積層膜18は直列共振器Sの積層膜に加え、共振領域50内の全面に形成された質量負荷膜20を含む。その他の構成は直列共振器Sの
図2(c)と同じであり説明を省略する。
【0028】
直列共振器Sと並列共振器Pとの共振周波数の差は、質量負荷膜20の膜厚を用い調整する。直列共振器Sと並列共振器Pとの両方の共振周波数の調整は、周波数調整膜24の膜厚を調整することにより行なう。
【0029】
2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器の場合、下部電極12のCr膜からなる下層12aの膜厚は100nm、Ru膜からなる上層12bの膜厚は250nmである。AlN膜からなる圧電膜14の膜厚は1100nmである。Al(アルミニウム)膜からなる挿入膜28の膜厚は150nmである。上部電極16のRu膜からなる下層16aの膜厚は250nm、Cr膜からなる上層16bの膜厚は50nmである。酸化シリコン膜からなる周波数調整膜24の膜厚は50nmである。Ti膜からなる質量負荷膜20の膜厚は120nmである。各層の膜厚は、所望の共振特性を得るため適宜設定することができる。
【0030】
図2(b)に示すように、挿入膜28は、共振領域50内の外周領域52に設けられ中央領域54に設けられていない。外周領域52は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の外周を含み外周に沿った領域である。外周領域52は、例えば帯状およびリング状である。中央領域54は、共振領域50内の領域であって、共振領域50の中央を含む領域である。中央は幾何学的な中心でなくてもよい。挿入膜28は、外周領域52から共振領域50外まで連続して設けられている。挿入膜28には、孔部35に対応する孔部34が設けられている。
【0031】
基板10としては、Si基板以外に、石英基板、ガラス基板、セラミック基板またはGaAs基板等を用いることができる。下部電極12および上部電極16としては、RuおよびCr以外にもAl、Ti、Cu(銅)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Pt(白金)、Rh(ロジウム)またはIr(イリジウム)等の単層膜またはこれらの積層膜を用いることができる。上部電極16を積層膜とした場合、積層膜の界面に挿入膜28を配置してもよい。例えば、上部電極16の下層16aをRu、上層16bをMoとしてもよい。
【0032】
圧電膜14は、窒化アルミニウム以外にも、ZnO(酸化亜鉛)、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、PbTiO
3(チタン酸鉛)等を用いることができる。また、例えば、圧電膜14は、窒化アルミニウムを主成分とし、共振特性の向上または圧電性の向上のため他の元素を含んでもよい。例えば、添加元素として、Sc(スカンジウム)、2価の元素と4価の元素との2つの元素、または2価と5価との2つの元素を用いることにより、圧電膜14の圧電性が向上する。このため、圧電薄膜共振器の実効的電気機械結合係数を向上できる。2価の元素は、例えばCa(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、Sr(ストロンチウム)またはZn(亜鉛)である。4価の元素は、例えばTi、Zr(ジルコニウム)またはHf(ハフニウム)である。5価の元素は、例えばTa、Nb(ニオブ)またはV(バナジウム)である。
【0033】
周波数調整膜24としては、酸化シリコン膜以外にも窒化シリコン膜または窒化アルミニウム等を用いることができる。質量負荷膜20としては、Ti以外にも、Ru、Cr、Al、Cu、Mo、W、Ta、Pt、RhもしくはIr等の単層膜を用いることができる。また、例えば窒化シリコンまたは酸化シリコン等の窒化金属または酸化金属からなる絶縁膜を用いることもできる。質量負荷膜20は、上部電極16の層間(下層16aと上層16bとの間)以外にも、下部電極12の下、下部電極12の層間、上部電極16の上、下部電極12と圧電膜14との間または圧電膜14と上部電極16との間に形成することができる。質量負荷膜20は、共振領域50を含むように形成されていれば、共振領域50より大きくてもよい。
【0034】
図3(a)から
図3(c)は、実施例1の直列共振器の製造方法を示す断面図である。
図3(a)に示すように、平坦主面を有する基板10上に空隙を形成するための犠牲層38を形成する。犠牲層38の膜厚は、例えば10〜100nmであり、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO、Ge(ゲルマニウム)またはSiO
2(酸化シリコン)等のエッチング液またはエッチングガスに容易に溶解できる材料から選択される。その後、犠牲層38を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。犠牲層38の形状は、空隙30の平面形状に相当する形状であり、例えば共振領域50となる領域を含む。次に、犠牲層38および基板10上に下部電極12として下層12aおよび上層12bを形成する。犠牲層38および下部電極12は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用い成膜される。その後、下部電極12を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。下部電極12は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0035】
図3(b)に示すように、下部電極12および基板10上に圧電膜14aおよび挿入膜28を、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。挿入膜28を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。挿入膜28は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0036】
図3(c)に示すように、圧電膜14b、上部電極16の下層16aおよび上層16bを、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。圧電膜14aおよび14bから圧電膜14が形成される。上部電極16を、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。上部電極16は、リフトオフ法により形成してもよい。
【0037】
なお、
図2(d)に示す並列共振器においては、下層16aを形成した後に、質量負荷膜20を、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用い成膜する。質量負荷膜20をフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い所望の形状にパターニングする。その後、上層16bを形成する。
【0038】
周波数調整膜24を例えばスパッタリング法またはCVD法を用い形成する。フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用い周波数調整膜24を所望の形状にパターニングする。
【0039】
その後、孔部35および導入路33(
図2(a)参照)を介し、犠牲層38のエッチング液を下部電極12の下の犠牲層38に導入する。これにより、犠牲層38が除去される。犠牲層38をエッチングする媒体としては、犠牲層38以外の共振器を構成する材料をエッチングしない媒体であることが好ましい。特に、エッチング媒体は、エッチング媒体が接触する下部電極12がエッチングされない媒体であることが好ましい。積層膜18(
図2(c)、
図2(d)参照)の応力を圧縮応力となるように設定しておく。これにより、犠牲層38が除去されると、積層膜18が基板10の反対側に基板10から離れるように膨れる。下部電極12と基板10との間にドーム状の膨らみを有する空隙30が形成される。以上により、
図2(a)および
図2(c)に示した直列共振器S、および
図2(a)および
図2(d)に示した並列共振器Pが作製される。
【0040】
実施例1に用いる圧電薄膜共振器について、挿入膜28の材料を変え、反共振点のQ値について有限要素法を用いシミュレーションした。有限要素法は、
図2(c)のような断面の2次元解析により行なった。積層膜18の各膜厚および材料は
図2(a)から
図2(d)の2GHzの共振周波数を有する圧電薄膜共振器として例示したものとした。すなわち、圧電膜14をAlNとした。挿入膜28の膜厚を150nmとし、共振領域50と挿入膜28との重なる幅Wを2μmとした。挿入膜28は、圧電膜14の膜厚方向の中間位置に設けられているとした。
【0041】
図4(a)は、挿入膜28のヤング率に対する反共振点のQ値、
図4(b)は、挿入膜28のヤング率に対する実効的電気機械結合係数k
2effを示す図である。比較例1は、挿入膜28を設けない共振器に対応する。挿入膜28の材料として、Al、SiO
2、Ti、Cr,AlN、RuおよびWについて計算した。
【0042】
図4(a)に示すように、ヤング率が小さい材料を挿入膜28とすることにより反共振点のQ値が高くなる。ヤング率がAlNより小さくなると、Q値が比較例1より高くなる。これは、不要な横モードのラム波の発生が抑制されるとともに、弾性波エネルギーが共振領域50の外に漏れることが抑制されたためである。挿入膜28のヤング率は、圧電膜14のヤング率より小さいことが好ましく、圧電膜14のヤング率
の、90%以下がより好ましく、80%以下がより好ましい。
【0043】
図4(b)に示すように、実効的電気機械結合係数k
2effは、挿入膜28を金属とすると高くなる。挿入膜28を金属とすることにより共振領域50における弾性波の電界分布が揃うためと推測される。
【0044】
次に、実施例1に用いる圧電薄膜共振器について、共振領域50内における挿入膜28の幅W(
図2(b)を参照)を変えて実効的電気機械結合係数k
2effを用いシミュレーションした。圧電膜14をAlNとし、挿入膜28をAlとした。その他のシミュレーションの条件は
図4(a)および
図4(b)のシミュレーションの条件と同じであり、説明を省略する。
【0045】
図5は、幅Wに対する実効的電気機械結合係数k
2effを示す図である。
図5に示すように、幅Wが大きくなると、実効的電気機械結合係数k
2effは単調に減少する。
【0046】
次に、実効的電気機械結合係数が幅Wに依存する理由について説明する。
図6は、挿入膜を備える圧電薄膜共振器の等価回路を示す図である。
図6に示すように、共振器42は、圧電薄膜共振器部分44とキャパシタ部分46を備えている。圧電薄膜共振器部分44は、挿入膜28が形成されていない中央領域54に等価的に形成される圧電薄膜共振器である。圧電薄膜共振器部分44においては、端子T1とT2との間に、抵抗Rs、インダクタL1、キャパシタC1および抵抗R1が直列に接続されている。インダクタL1、キャパシタC1および抵抗R1に、キャパシタC0および抵抗R0が並列に接続されている。キャパシタ部分46は、挿入膜28が形成された外周領域52に等価的に形成されるキャパシタCaに相当する。挿入膜28が形成された領域は共振振動が制限されるため、等価的にキャパシタCaとなる。キャパシタ部分46は、端子T1とT2との間に圧電薄膜共振器部分44に並列に接続される。挿入膜28の幅Wが大きくなると、キャパシタCaのキャパシタンスが増加する。これにより、反共振周波数が低下する。よって、実効的電気機械結合係数k
2effが減少する。このように、幅Wが小さくなると、実効的電気機械結合係数k
2effが減少する。
【0047】
特許文献1に記載されているように、フィルタの共振器間で実効的電気機械結合係数を異ならせることにより、フィルタのスカート特性を急峻化させることができる。スカート特性を急峻化させるためには、さらに共振器のQ値が高いことが好ましい。しかしながら、特許文献1においては、厚膜部のキャパシタCaのQ値は20から40程度である。一方、実施例1においては、キャパシタCaのQ値を70以上とすることができる。これにより、フィルタ40のスカート特性の急峻性を向上できる。
【0048】
また、実施例1では、挿入膜28の幅Wを用い共振器ごとの実効的電気機械結合係数を制御しているため、製造工程への負担も小さい。
【0049】
次に、実施例1を用いたデュプレクサのシミュレーションの例を説明する。
図7は、シミュレーションしたデュプレクサの回路図である。デュプレクサは、バンド25(送信帯域:1850−1915MHz、受信帯域:1930−1995MHz)用とした。
図7に示すように、デュプレクサ60は、送信フィルタ62および受信フィルタ64を備えている。送信フィルタ62は、共通端子Antと送信端子Txとの間に接続されている。受信フィルタ64は、共通端子Antと受信端子Rxとの間に接続されている。共通端子Antはアンテナ61に接続されている。インダクタLA1は共通端子Antとグランドとの間に接続されている。
【0050】
送信フィルタ62は、送信端子Txから入力された信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ64は、共通端子Antから入力された信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。インダクタLA1は、送信フィルタ62を通過した送信信号が受信フィルタ64に漏れず共通端子Antから出力されるようにインピーダンスを整合させる。
【0051】
送信フィルタ62において、直列共振器ST1からST5が共通端子Antと送信端子Txとの間に直列に接続されている。並列共振器PT1からPT4が共通端子Antと送信端子Txとの間に並列に接続されている、並列共振器PT1、PT2とPT3、およびPT4と、グランドとの間に、それぞれインダクタLT1、LT2およびLT3が接続されている。
【0052】
受信フィルタ64において、直列共振器SR1からSR4が共通端子Antと受信端子Rxとの間に直列に接続されている。並列共振器PR1からPR4が共通端子Antと受信端子Rxとの間に並列に接続されている、並列共振器PR1とPR2、PR3、およびPR4と、グランドとの間に、それぞれインダクタLR1、LR2およびLR3が接続されている。
【0053】
デュプレクサDUP0からDUP4についてシミュレーションを行なった。
図8から
図12は、それぞれデュプレクサDUP0からDUP4の各共振器の特性を示す図である。
【0054】
表1は、デュプレクサDUP0からDUP4の幅Wおよび実効的電気機械結合係数k
2effをまとめた表である。
【表1】
【0055】
表1において、MgHfは、圧電膜14の窒化アルミニウム内に添加したMgおよびHf(ハフニウム)の原子濃度(at%)を示す。WST、WPT、WSRおよびWPRは、それぞれ、共振器ST1からST5、PT1からPT4、SR1からSR4、および、PR1からPR4の幅Wの最大および最小値を示す。KST、KPT、KSRおよびKPRは、それぞれ、共振器ST1からST5、PT1からPT4、SR1からSR4、および、PR1からPR4の実効的電気機械結合係数k
2effの最大および最小値を示す。
【0056】
図8から
図12および表1のように、DUP0は、比較例である。DUP0においては、各共振器の幅Wは3μmであり同じである。圧電膜14にMgおよびHfを添加していない。各共振器の静電容量を最適化している。静電容量が異なるため実効的電気機械結合係数k
2effは共振器ごとにやや異なるが、ほぼ7%である。
【0057】
DUP1からDUP4は、共振器の幅Wを異ならせている。DUP1からDUP4に行くにしたがい、最大の幅Wを大きくしている。幅Wが大きくなると実効的電気機械結合係数k
2effが小さくなる。DUP1からDUP4に従いMgおよびHfの添加量を多くしている。添加量が多いと、同じ静電容量と同じ幅Wを有する共振器であれば、実効的電気機械結合係数k
2effが大きくなる。ここでは、DUP1からDUP4の実効的電気機械結合係数k
2effの平均値が、約7%になるように設定している。以上により、DUP1からDUP4に行くにしたがい、実効的電気機械結合係数k
2effの最大値と最小値との差が大きくなる。
【0058】
図13(a)から
図13(d)は、デュプレクサDUP0からDUP4の遷移幅およびリターンロスを示す図である。
図13(a)は、送信フィルタ62の高周波数側の減衰量が2.5dBから45dBの遷移幅を示す。
図13(b)は、送信フィルタ62のリターンロスを示す。
図13(c)は、受信フィルタ64の低周波数側の減衰量が3.0dBから50dBの遷移幅を示す。
図13(d)は、受信フィルタ64のリターンロスを示す。
【0059】
図13(a)および
図13(c)に示すように、DUP0からDUP4に行くにしたがい遷移幅が小さくなる。すなわち、スカート特性が急峻になる。
図13(b)および
図13(d)に示すように、DUP0からDUP4に行くにしたがいリターンロスが小さくなる。すなわち、マッチング特性が向上する。
【0060】
このように、直列共振器内または並列共振器内の実効的電気機械結合係数の最大値を大きくし、かつ最大値と最小値の差を大きくすることにより、スカート特性の急峻性が向上し、マッチング特性が向上する。
【0061】
次に、実施例1を用いたデュプレクサのシミュレーションの別の例を説明する。
図14は、シミュレーションしたデュプレクサの回路図である。デュプレクサは、バンド7(送信帯域:2500−2570MHz、受信帯域:2620−2690MHz)用とした。
図14に示すように、送信フィルタ62において、共通端子Antと送信端子Txとの間に直列共振器ST1からST5が直列に接続されている。共通端子Antと送信端子Txとの間に並列共振器PT1からPT3が並列に接続されている。並列共振器PT1からPT3は共通にインダクタLT1を介し接地されている。受信フィルタ64は、バンド7用の受信フィルタである。その他の構成は、
図7と同じであり説明を省略する。
【0062】
デュプレクサDUP5およびDUP6についてシミュレーションを行なった。表2は、デュプレクサDUP5およびDUP6の各共振器の静電容量、幅Wおよび実効的電気機械結合係数k
2effを示す表である。
【表2】
【0063】
表2に示すように、デュプレクサDUP5では、各共振器で幅Wが同じである。デュプレクサDUP6では、共振器ST1およびST5の幅Wをそれぞれ6μmおよび11μmとした。その他の共振器の幅Wは3μmである。DUP5からDUP6に幅Wを大きくすることにより、共振器ST1およびST5において、実効的電気機械結合係数k
2effが、それぞれ6.7%から6.3%、6.6%から5.7%に低下する。
【0064】
図15は、デュプレクサDUP5およびDUP6の送信フィルタの通過特性を示す図である。
図15に示すように、デュプレクサDUP6はDUP5に比べ高周波数側のスカート特性が向上している。減衰量が2.0dBから30dBの遷移幅は、デュプレクサDUP5およびDUP6において、それぞれ22.1MHzおよび20.5MHzである。
【0065】
実施例1によれば、圧電薄膜共振器において、挿入膜28が圧電膜14中に挿入され、共振領域50内の外周領域52の少なくとも一部に設けられる。一方、共振領域50の中央領域54には設けられていない。これにより、不要な横モードのラム波の発生が抑制されるとともに、弾性波エネルギーが共振領域50の外に漏れることが抑制される。よって、Q値を改善できる。フィルタ40内の複数の圧電薄膜共振器のうち少なくとも2つの圧電薄膜共振器において、共振領域50内における挿入膜28の幅Wが異なる。これにより、少なくとも2つの圧電薄膜共振器において実効的電気機械結合係数を異ならせることができる。よって、フィルタ40のスカート特性の急峻性を向上できる。また、挿入膜28の幅Wを変えることにより、実効的電気機械結合係数を変えるため、製造工程の増加を招かない。
【0066】
また、デュプレクサDUP1からDUP4のように、直列共振器のうち少なくとも2つの共振器において、共振領域50内における挿入膜28の幅Wが異なり、かつ並列共振器のうち少なくとも2つの共振器において、幅Wが異なる。これにより、スカート特性を向上できる。
【0067】
デュプレクサDUP6のように、直列共振器のうち少なくとも2つの共振器において、共振領域50内における挿入膜28の幅Wが異なり、並列共振器では幅Wは同じでもよい。通過帯域の高周波数側の特性は主に直列共振器の特性に由来する。よって、高周波数側がガードバンド側となる送信フィルタにおいては、高周波数側のスカート特性を向上させるため、直列共振器の幅Wを異ならせることが好ましい。
【0068】
並列共振器のうち少なくとも2つの共振器において、共振領域50内における挿入膜28の幅Wが異なり、直列共振器では幅Wは同じでもよい。通過帯域の低周波数側の特性は主に並列共振器の特性に由来する。よって、低周波数側がガードバンド側となる受信フィルタにおいては、低周波数側のスカート特性を向上させるため、並列共振器の幅Wを異ならせることが好ましい。
【0069】
表1のDUP1からDUP4のように、直列共振器および並列共振器の少なくも一方内の実効的電気機械結合係数の最大値と最小値との差は、1%以上であることが好ましく、2%以上がより好ましく、5%以上がさらに好ましい。
【0070】
図9から
図12のように、直列共振器および並列共振器の少なくとも一方内の、共振器の共振周波数は異なることが好ましい。
【0071】
DUP1からDUP4のように、直列共振器のうち挿入膜28の幅Wが最小の共振器は、直列共振器のうち入力端子または出力端子に最も近い共振器である。さらに、直列共振器のうち挿入膜28の幅Wが2番目に小さい共振器は、直列共振器のうち入力端子または出力端子に最も近い共振器である。これにより、フィルタのスカート特性を急峻化できる。
【0072】
並列共振器のうち挿入膜28の幅Wが最小の共振器は、並列共振器のうち入力端子または出力端子に最も近い共振器である。これにより、フィルタのスカート特性を急峻化できる。
【0073】
また、直列共振器のうち挿入膜28の幅Wが最大の共振器は、直列共振器のうち入力端子または出力端子に最も近い共振器ではない。並列共振器のうち挿入膜28の幅Wが最大の共振器は、並列共振器のうち入力端子または出力端子に最も近い共振器ではない。
【0074】
DUP6のように、直列共振器のうち挿入膜28の幅Wが最大の共振器は、直列共振器のうち入力端子または出力端子に最も近い共振器である。さらに、直列共振器のうち挿入膜28の幅Wが2番目に
大きい共振器は、直列共振器のうち入力端子または出力端子に最も近い共振器である。並列共振器において同様にしてもよい。これにより、フィルタのスカート特性を急峻化できる。
【0075】
図4(a)のように、圧電薄膜共振器のQ値を向上させるため、挿入膜28のヤング率は圧電膜14より小さいことが好ましい。
【0076】
圧電膜14が窒化アルミニウムを主成分とする場合、挿入膜は、例えばAl、Au、Cu、Ti、Pt、Ta、Crおよび酸化シリコンの少なくとも一つを主成分とすることが好ましい。
【0077】
圧電膜14が窒化アルミニウムを主成分とする場合、圧電膜14は圧電膜14の圧電定数を高める元素を含むことが好ましい。
【0078】
図2(a)から
図2(d)のように、挿入膜28は、外周領域52の少なくとも一部から共振領域
50外にかけて設けられている。これにより、共振領域50の外周における圧電膜14のクラックを抑制できる。
【0079】
実施例1では、ラダー型フィルタを例に説明したが、フィルタ40はラダー型フィルタ以外でもよい。ラダー型フィルタ以外のフィルタにおいても、複数の圧電薄膜共振器の挿入膜28の幅Wを異ならせることで、実効的電気機械結合係数を簡単に異ならせることができる。これにより、例えばフィルタの急峻性を向上させることができる。
【0080】
デュプレクサ60において、送信フィルタ62および受信フィルタ64の少なくとも一方が実施例1のフィルタ40であればよい。送信フィルタ62および受信フィルタ64の一方は、多重モード型フィルタでもよい。
【0081】
圧電薄膜共振器の構成が実施例1と異なる例を説明する。
図16(a)は、実施例1の変形例1の圧電薄膜共振器の平面図、
図16(b)は、挿入膜の平面図、
図16(c)および
図16(d)は、
図16(a)のA−A断面図である。
図16(c)は、直列共振器、
図16(d)は並列共振器の断面図を示している。
図16(a)から
図16(d)に示すように、挿入膜28は、共振領域50内に設けられ共振領域50外には設けられていない。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0082】
図17(a)は、実施例1の変形例2に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図17(b)は、挿入膜の平面図、
図17(c)は、
図17(a)のA−A断面図である。
図17(c)は、直列共振器の断面図を示している。
図17(a)から
図17(c)に示すように、挿入膜28は、外周領域52に加え共振領域50を囲む領域56に設けられている。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0083】
実施例1のように、挿入膜28は、共振領域50外の全体に設けられていてもよい。変形例1のように、挿入膜28は、共振領域50の外に設けられていなくともよい。変形例2のように、挿入膜28は、共振領域50を囲む領域56に設けられ、領域56外に設けられていなくてもよい。いずれにおいても、圧電薄膜共振器のQ値を改善することができる。これにより、スカート特性を急峻化できる。
【0084】
図18(a)は、実施例1の変形例3に係る圧電薄膜共振器の平面図、
図18(b)は、挿入膜の平面図、
図18(c)は、
図18(a)のA−A断面図である。
図18(c)は、直列共振器の断面図を示している。
図18(a)から
図18(c)に示すように、挿入膜28は、外周領域52の一部に設けられ、外周領域52の一部55には挿入膜28が設けられていない。その他の構成は実施例1の変形例2と同じであり説明を省略する。
【0085】
実施例1の変形例3のように、挿入膜28は外周領域52の一部に設けられていればよい。挿入膜28が外周領域52の一部に設けられていても弾性波の共振領域50外への漏洩を抑制できる。挿入膜28は共振領域50の外周の少なくとも50%以上に設けられていることが好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0086】
実施例1、実施例1の変形例1および2の圧電薄膜共振器においても、外周領域52の一部55に挿入膜28が設けられていなくともよい。
【0087】
実施例1の変形例4および5は、空隙の構成を変えた例である。
図19(a)は、実施例1の変形例4の圧電薄膜共振器の断面図、
図19(b)は、実施例1の変形例5の圧電薄膜共振器の断面図である。
図19(a)に示すように、基板10の上面に窪みが形成されている。下部電極12は、基板10上に平坦に形成されている。これにより、空隙30が、基板10の窪みに形成されている。空隙30は共振領域50を含むように形成されている。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。空隙30は、基板10を貫通するように形成されていてもよい。なお、下部電極12の下面に絶縁膜が接して形成されていてもよい。すなわち、空隙30は、基板10と下部電極12に接する絶縁膜との間に形成されていてもよい。絶縁膜としては、例えば窒化アルミニウム膜を用いることができる。
【0088】
図19(b)に示すように、共振領域50の下部電極12下に音響反射膜31が形成されている。音響反射膜31は、音響インピーダンスの低い膜30aと音響インピーダンスの高い膜30bとが交互に設けられている。膜30aおよび30bの膜厚は例えばそれぞれλ/4(λは弾性波の波長)である。膜30aと膜30bの積層数は任意に設定できる。その他の構成は、実施例1と同じであり説明を省略する。
【0089】
なお、実施例1の変形例4および5において、実施例1の変形例1と同様に共振領域50内にのみ挿入膜28が設けられていてもよい。また、実施例1の変形例2と同様に、挿入膜28は、共振領域50を囲む領域56に設けられ、領域56外に設けられていなくてもよい。実施例1の変形例3のように、外周領域52の一部にのみ挿入膜28が設けられていてもよい。
【0090】
実施例1および変形例1から4のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において空隙30が基板10と下部電極12との間に形成されているFBAR(Film Bulk Acoustic Resonator)でもよい。また、実施例1の変形例5のように、圧電薄膜共振器は、共振領域50において下部電極12下に圧電膜14を伝搬する弾性波を反射する音響反射膜31を備えるSMR(Solidly Mounted Resonator)でもよい。
【0091】
実施例1およびその変形例において、共振領域50が楕円形状の例を説明したが、他の形状でもよい。例えば、共振領域50は、四角形または五角形等の多角形でもよい。
【0092】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。