(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の線状電極をそれらの根元側で保持されてなり、電圧が印加された場合に前記複数の線状電極が同極性に帯電することで放射状に広がるとともにイオン発生させる束状電極と、
前記複数の線状電極を取り囲み、前記複数の線状電極から距離を持って配置され、電圧が印加されることにより前記複数の線状電極との間で発生する静電気力によって前記複数の線状電極の広がり具合を調整する環状電極と、を備えたイオン発生素子。
形状記憶合金にて構成される複数の線状電極をそれらの根元側で保持されてなり、電圧が印加された場合に前記複数の線状電極が同極性に帯電することで放射状に広がるとともにイオンを発生させる束状電極と、
前記複数の線状電極の温度を調整することにより、前記複数の線状電極の広がり具合を調整する温度調整機構と、を備えたイオン発生素子。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
【0017】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態に係るイオン発生素子の概略図である。
図1を参照して、本実施の形態に係るイオン発生素子1について説明する。
【0018】
図1に示すように、イオン発生素子1は、束状電極10と、対向電極20と、環状電極40とを備える。束状電極10は、複数の線状電極10a〜10fを根元側で保持させることで形成される。複数の線状電極10a〜10fは、これらの根元12a〜12f側にてかしめ部材15をかしめることにより結束されている。
【0019】
複数の線状電極10a〜10fは、たとえば保持基板30にて保持されている。具体的には、束ねられた複数の線状電極10a〜10fの根元12a〜12f側が保持基板30に設けられた貫通孔31に挿入され、半田32により保持基板30に固定される。また、複数の線状電極10a〜10fの根元12a〜12f側には、半田32によってリード線や配線パターンを電気的に接続することが可能である。
【0020】
複数の線状電極10a〜10fは、たとえば導電性材料で構成されている。また、複数の線状電極10a〜10fは、放電電極として機能する。複数の線状電極10a〜10fの径および本数は、適宜設定することができ、好ましくは、複数の線状電極の本数は、数十本から千本程度であり、複数の線状電極の径は、1mm以下である。
【0021】
対向電極20は、束状電極10の先端、すなわち線状電極10a〜10fの先端11a〜11fに対向し、束状電極10と距離を持って配置される。対向電極20は、たとえば平板形状を有する。対向電極20は、誘導電極として機能する。対向電極20は、たとえばアースされており、グランド電位を有する。
【0022】
束状電極10に高電圧を印加して、対向電極20と束状電極10との間に電位差を発生させることにより、複数の線状電極10a〜10fの先端11a〜11fでコロナ放電が発生する。これにより、イオンが発生する。
【0023】
環状電極40は、複数の線状電極10a〜10fを取り囲み、これら線状電極10a〜10fから距離を持って配置される。環状電極40は、高電圧を印加可能に設けられている。環状電極40は、後述するように複数の線状電極10a〜10fの広がり具合を調整するための電極である。
【0024】
図2は、
図1に示すイオン発生素子を用いたイオン発生装置の機能ブロック図である。
図2を参照して、イオン発生素子1を用いたイオン発生装置90について説明する。
【0025】
図2に示すように、イオン発生装置90は、イオン発生素子1、高電圧発生回路50、電源回路60、電源入力コネクタ70、および環状電極用電圧回路41を備えている。電源入力コネクタ70は、入力電源としての直流電源や商用交流電源の供給を受ける部分である。電源入力コネクタ70は、電源回路60に電気的に接続されている。
【0026】
電源回路60は、イオン発生素子1を駆動させるための回路である。電源回路60は、後述する高圧トランス52の一次側に電気的に接続されている。高電圧発生回路50は、束状電極10および環状電極40に印加するための高電圧を発生する。
【0027】
高電圧発生回路50は、高電圧回路51および高圧トランス52を含む。高圧トランス52は、供給された駆動電圧(入力電圧)を昇圧して二次側に出力する。高圧トランス52の二次側の一方は、たとえば高電圧回路51を通じて束状電極10に接続されている。高圧トランス52の二次側の他方は、環状電極用電圧回路41を通じて環状電極40に接続されている。
【0028】
環状電極用電圧回路41は、環状電極40に印加する電圧を可変可能に構成されている。高電圧回路51は、高圧トランス52によって昇圧された駆動電圧を束状電極10に印加する。高電圧回路51によって束状電極10に高電圧が印加させると、上述のように、束状電極10と対向電極20との間に電位差が生じ、コロナ放電が発生する。これにより、イオンが発生する。
【0029】
束状電極10に印加される電圧が正の高電圧である場合には、正イオンが発生し、印加される電圧が負の高電圧である場合には、負イオンが発生する。また、束状電極10に交流電圧を印加することにより、正イオンおよび負イオンを交互に発生させることができる。この場合には、環状電極40が束状電極10と同極性となるように、環状電極40に印加される電圧も束状電極10に印加される交流電圧に対応する交流電圧が印加されることが好ましい。
【0030】
正イオンは、水素イオン(H
+)の周囲に複数の水分子が付随したクラスターイオンであり、H
+(H
2O)
m(mは自然数)として表される。負イオンは、酸素イオン(O
2−)の周囲に複数の水分子が付随したクラスターイオンであり、O
2−(H
2O)n(nは自然数)として表される。また、空気中の正イオンであるH
+(H
2O)m(mは自然数)と、負イオンであるO
2−(H
2O)n(nは自然数)とを略同等量発生させることにより、両イオンが空気中を浮遊するカビ菌やウイルスに付着してその周りを取り囲み、その際に生成される活性種の水酸基ラジカル(・OH)の作用により、浮遊カビ菌などを除去することが可能となる。
【0031】
なお、正極用の束状電極および負極用の束状電極、ならびに正の高電圧回路および負の高電圧回路を設けてもよい。この場合には、正極用の束状電極に正の高電圧を印加することにより正イオンを発生させ、負極用の束状電極に負の高電圧を印加することにより負イオンを発生させることができる。
【0032】
図3は、束状電極および環状電極に電圧を印加した状態のイオン発生素子を示す図である。
図3を参照して、束状電極10および環状電極40に電圧を印加した状態について説明する。なお、
図3においては、一例として正の高電圧を束状電極10および環状電極40に印加している。
【0033】
束状電極10に正の高電圧を印加した場合には、複数の線状電極10a〜10fが正極性に帯電する。このため、複数の線状電極10a〜10fは、静電気力(第1の静電気力)によって図中矢印Aに示すように相互に反発し、放射状に広がる。
【0034】
この際、環状電極40にも正の電圧が印加される。環状電極40に正の電圧が印加されると、環状電極40も正極性に帯電する。このため、図中矢印Bに示すように、環状電極と複数の線状電極10a〜10fとの間で静電気力(第2の静電気力)が作用する。この第2の静電気力は、複数の線状電極10a〜10f同士の反発を抑制するように作用する。
【0035】
しがたって、束状電極10に負荷される高電圧と同程度の高電圧を環状電極40に印加する場合には、第2の静電気力も強く作用し、束状電極10に負荷される高電圧よりも低い電圧を環状電極40に印加する場合には、静電気力は弱く作用する。
【0036】
第2の静電気力が強く作用する場合には、複数の線状電極10a〜10fの広がりを強く抑制でき、第2の静電気力が弱く作用する場合には、複数の線状電極10a〜10fの広がりをある程度抑制することができる。
【0037】
ここで、イオン発生素子1によって生成されたイオンは、室内等の密閉空間に拡散されることが好ましく、イオン発生素子1は、主として送風経路内にイオンを吹出し可能に設置される。
【0038】
一般的に、空気中には塵埃等の異物が含まれるため、異物が静電気によって線状電極の先端に吸着されたり、複数の線状電極間に捕捉されたりする場合がある。このように線状電極10a〜10fに異物が付着した場合には、放電の低下や停止が生じ、放電が不安定となる。
【0039】
本実施の形態においては、上述のように、環状電極40に印加する電圧を調整することにより、第2の静電気力の大きさを調整することができ、複数の線状電極10a〜10fの広がり具合を調整することができる。
【0040】
このため、複数の線状電極10a〜10fの広がりが小さい状態から広がりを大きくしたり、広がりが大きい状態から広がりを小さくしたりして、複数の線状電極10a〜10fを動かすことにより、振動によって線状電極10a〜10fに付着した異物を除去することができる。また、複数の線状電極10a〜10f間の間隔を広くすることにより、線状電極10a〜10f間に捕捉された異物を除去することができる。
【0041】
さらに、環状電極40に印加する電圧を上げ下げし、複数の線状電極10a〜10fを繰り返し閉開する場合には、より確実に異物を除去することができる。
【0042】
以上のように、本実施の形態に係るイオン発生素子1およびイオン発生装置90は、線状電極10a〜10fの広がり具合を調整可能に構成することにより、線状電極10a〜10fに付着した異物を除去し、安定してイオンを発生させることができる。
【0043】
なお、上述した実施の形態1においては、環状電極40に印加する電圧が可変可能に構成される場合を例示して説明したが、これに限定されず、環状電極40に印加される電圧が一定であってもよい。この場合には、環状電極40に印加される電圧は、束状電極10に印加される電圧の大きさと同程度の大きさであることが好ましく、環状電極40への電圧のON/OFFのタイミングを調整することにより、複数の線状電極10a〜10fの広がり具合を調整することができる。
【0044】
たとえば、環状電極40へ電圧を印加した場合には、第2の静電気力が強く作用して、複数の線状電極10a〜10fの広がりを抑制できる。環状電極40への電圧の印加を停止することにより、第2の静電気力が作用しなくなるため、複数の線状電極10a〜10fが大きく広がる。
【0045】
また、上述した実施の形態1においては、環状電極40が不動である場合を例示して説明したが、これに限定されず、環状電極40がその軸方向に沿って束状電極10に相対的に移動可能に設けられていてもよい。具体的には、環状電極40がスライド機構によって支持されており、スライド機構の動作に伴って環状電極40がその軸方向に沿って移動してもよい。また、保持基板30がスライド機構によって支持されており、スライド機構の動作に伴って束状電極10が保持基板30と一体となって環状電極40に対してその軸線方向に沿って移動してもよい。
【0046】
環状電極40が線状電極10a〜10fの先端11a〜11f側に位置する場合には、環状電極40が線状電極10a〜10fの根元12a〜12f側に位置する場合と比較して、線状電極10a〜10fが広がった際における線状電極10a〜10fと環状電極40との間の距離が小さくなる。このため、第2の静電気力が強く作用させることができる。
【0047】
このように、環状電極40と束状電極10とを相対的に移動させることによっても、第2の静電気力の大きさを調整することができる。これにより、線状電極10a〜10fの広がり具合を調整することができる。なお、この場合には、環状電極40に印加される電圧の大きさは、可変可能に調整できるように構成されていなくてもよい。当該電圧の大きさを可変可能に調整できる場合にはより細かく線状電極10a〜10fの広がり具合を調整することができる。
【0048】
(実施の形態2)
図4は、本実施の形態に係るイオン発生素子を用いたイオン発生装置の機能ブロック図である。
図4を参照して、本実施の形態に係るイオン発生素子1Aを用いたイオン発生装置90Aについて説明する。
【0049】
図4に示すように、本実施の形態に係るイオン発生装置90Aは、実施の形態1に係るイオン発生装置90と比較した場合に、搭載されるイオン発生素子1Aの構成、すなわち複数の線状電極10a〜10fの広がり具合を調整するための機構が相違する。その他の構成については、ほぼ同様である。
【0050】
イオン発生素子1Aは、実施の形態1に係る環状電極40に代えて、線状電極10a〜10fが形状記憶合金から構成され、線状電極10a〜10fの温度を調整する温度調整機構80が設けられている。
【0051】
温度調整機構80は、電源回路60に接続されている。温度調整機構80は、電源回路から供給された駆動電圧によって駆動される。温度調整機構80は、たとえば熱源を備えたファン等によって構成され、束状電極10を加熱および冷却可能に設けられている。なお、温度調整機構80は、熱源のみで構成され束状電極10を加熱可能に構成されていてもよいし、ファンのみで構成され束状電極10を冷却可能に構成されていてもよい。
【0052】
形状記憶合金は、所定の温度(変態点)以上に加熱すると、元の形状に回復する性質を有する。このため、
図4に示すように複数の線状電極10a〜10fがほぼ並列に配置されている状態の形状を初期状態として形状記憶合金に記憶させる。
【0053】
たとえば、束状電極10に正の高電圧が印加された場合には、複数の線状電極10a〜10fが正極性に帯電することにより、上述(実施形態1)の第1の静電気力によって相互に反発し、放射状に広がる。この際、線状電極10a〜10fの結晶面がすべり変形を起こし、塑性変形が生じる。このような場合であっても、線状電極10a〜10fを加熱することにより、形状記憶合金の形状記憶効果によって線状電極10a〜10fが初期状態に戻る。すなわち、線状電極10a〜10fが広がっていない状態に戻る。
【0054】
線状電極10a〜10fが変態点以上の温度を維持した状態からこれを変態点温度よりも低い温度に冷却した場合には、線状電極10a〜10fが第1の静電気力によって再び放射状に広がって塑性変形を起こす。この場合においては、加熱源を停止させファンを用いて線状電極10a〜10fの温度を低下させてもよいし、加熱源を停止させ自然に線状電極10a〜10fの温度を低下させてもよい。
【0055】
このように、温度調整機構80によって線状電極10a〜10bを加熱および冷却をすることにより、線状電極10a〜10fの広がり具合を調整することで、本実施の形態に係るイオン発生素子1Aも、実施の形態1に係るイオン発生素子1と同様に、線状電極10a〜10fに付着した異物を除去し、安定してイオンを発生させることができる。
【0056】
なお、束状電極10に正の高電圧を長時間印加した場合には、線状電極10a〜10fが変態点温度以上となるように発熱する場合がある。このような場合には、温度調整機構80を冷却のみ可能に構成したとしても、線状電極10a〜10fを変態点温度に冷却することにより、発熱により初期状態に戻った線状電極10a〜10fを広げることができる。これにより、上記のように、線状電極10a〜10fの広がり具合を調整することで、線状電極10a〜10fに付着した異物を除去し、安定してイオンを発生させることができる。
【0057】
(実施の形態3)
図5は、本実施の形態に係る空気清浄機の構成を概略的に示す斜視図である。
図6は、
図5に示す空気清浄機にイオン発生素子を配置した様子を示す図である。
図5および
図6を参照して、本実施の形態に係る空気清浄機100について説明する。なお、空気清浄機100は、イオン発生装置を具備する電気機器の一例であり、イオン発生装置としては、たとえば実施の形態1に係るイオン発生素子1を具備するイオン発生装置90が用いられる。
【0058】
図5および
図6に示すように、空気清浄機100は前面パネル101と本体102と、本体102内に配置されたファンとを備える。本体102の後方上部には吹出口103が設けられており、この吹出口103からイオンを含む清浄な空気が室内に供給される。本体102の中心には空気取り入れ口104が形成されている。空気清浄機100の前面の空気取り入れ口104から取り込まれた空気が、図示しないフィルターを通過することで清浄化される。清浄化された空気は、ファン用ケーシング105を通じて、吹出口103から外部へ供給される。
【0059】
清浄化された空気の通過経路を形成するファン用ケーシング105の一部に、実施の形態1に係るイオン発生装置90が取り付けられている。イオン発生装置90は、イオンを上記の空気流に放出できるように配置されている。
【0060】
イオン発生装置90の配置の例として、空気の通過経路内であって、吹出口103に比較的近い位置P1、比較的遠い位置P2などの位置が考えられる。イオン発生装置90に含まれる束状電極10と対向電極20との間に送風を通過させることにより、吹出口103から清浄な空気とともに外部にイオンを供給するイオン発生機能を空気清浄機100に持たせることが可能になる。
【0061】
この場合には、位置P1および位置P2に位置する両方のイオン発生装置90に具備されるイオン発生素子1を正イオンおよび負イオンを発生可能に構成することが好ましい。すなわち、
図6に示すように、正極用および負極用の2つの束状電極10を備えた構成とすることが好ましい。
【0062】
これにより、イオン発生素子1で生じた正イオンおよび負イオンの双方を送風部(空気の通過経路)により気流に乗せて送ることができる。このため、機外に正イオンおよび負イオンの双方を送出し、空気清浄効果を効果的に発揮させることができる。
【0063】
また、イオン発生装置90は、上述のように異物を除去でき、安定してイオンを発生させることができるため、これを備えた空気清浄機100においても、機外に安定してイオンを送出することができる。
【0064】
なお、本実施の形態においては電気機器の一例として空気清浄機について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、電気機器は、これ以外に空気調和機(エアコンディショナー)、冷蔵機器、掃除機、加湿器、除湿機などであってもよく、イオンを気流に乗せて送るための送風部を有する電気機器であればよい。
【0065】
また、本実施の形態においては、イオン発生装置として実施の形態1に係るイオン発生装置90を用いる場合を例示して説明したが、これに限定されず、実施の形態2に係るイオン発生素子1Aを具備するイオン発生装置90Aが用いられてもよい。
【0066】
なお、上述した実施の形態1および2については、イオン発生素子1,1Aが対向電極20を備える場合を例示して説明したが、これに限定されず、対向電極20を備えない構成であってもよい。対向電極20を備えない場合であっても、束状電極10に高電圧を印加することにより、放電現象が生じさせてイオンを発生させることができる。イオン発生素子1,1Aが対向電極10を備える場合には、放電を安定させることができる。
【0067】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。