特許第6401023号(P6401023)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6401023
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】平版印刷用濃縮湿し水組成物
(51)【国際特許分類】
   B41N 3/08 20060101AFI20180920BHJP
   C11D 3/37 20060101ALI20180920BHJP
   C11D 3/22 20060101ALI20180920BHJP
   C11D 17/08 20060101ALI20180920BHJP
   C11D 1/72 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   B41N3/08 101
   C11D3/37
   C11D3/22
   C11D17/08
   C11D1/72
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-235640(P2014-235640)
(22)【出願日】2014年11月20日
(65)【公開番号】特開2016-97557(P2016-97557A)
(43)【公開日】2016年5月30日
【審査請求日】2017年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】591051139
【氏名又は名称】冨士薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠一郎
【審査官】 亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−176085(JP,A)
【文献】 特開平07−207297(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0100383(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41N 3/08
C11D 1/72
C11D 3/22
C11D 3/37
C11D 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示されるカチオン化ヒドロキシエチルセルロースを必須成分として含有し、
溶剤として3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール及び/又はメトキシブタノールを必須成分として含有し、
更に下記式(II)で示されるアセチレングリコール酸化エチレン付加物を必須成分として含有する、平版印刷用濃縮湿し水組成物。
式(I):
【化1】
[式中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、又は式(A)
【化2】
{式(A)中、mは1乃至3の整数を表し、X-はアニオン性基を表す。}で表されるカチオン性基を表し、
nは15万乃至150万の整数を表す{但し、Rの少なくとも1つは上記式(A)で表さ
れるカチオン性基を表す}。]
式(II):
【化3】
(式中、c+dは0乃至30を表し、a及びbはそれぞれ独立して0乃至2の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の平版印刷用濃縮湿し水組成物に対して質量比で3乃至200倍の水で希釈して得られる、平版印刷用湿し水。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷用濃縮湿し水組成物に関し、更に詳しくは、印刷物の汚れや各種印刷トラブルを生じない油性印刷およびUV印刷、CTP版を用いた印刷に好ましく使用できる平版印刷用濃縮湿し水組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平版印刷は、画線部に対応する箇所を感脂性面とし非画線部に対応する箇所を親水性面とした刷版を用いて印刷を行う印刷方式である。
即ち、インキを感脂性の画線部に付着させ、湿し水を親水性の非画線部に付着させ、インキと水との互いに反撥しあう性質を利用して印刷を行う方式である。この印刷方式では、印刷版上のインキは通常湿し水を含んだエマルジョン状態になっているが、このエマルジョンは含水率などが適切な状態にあり、安定している場合にのみ良好な印刷品質が得られる。
一般には、印刷版上の湿し水が不足する場合は非画線部にインキが付着し地汚れの原因となる。又、湿し水を過剰に与え過ぎると、インキの過度の乳化を招きいわゆる水負けの原因となり、画線部が薄くなったり、乾燥を遅らせて、いわゆる裏移りが発生するようになる。特に、紫外線硬化印刷インキはその組成上、乳化しやすく上記傾向が強い。
【0003】
そこで、従来、湿し水には、イソプロピルアルコール(以下IPAと略記する)特有の動的表面張力の低減作用及び増粘作用を利用するためにIPAが添加され、これによりインキと湿し水とのバランスを保ち、優れた印刷適正と印刷品質を確保してきた。しかし、IPAを湿し水に添加して使用する場合、IPAの取り扱いについては、労働安全衛生法、消防法、下水道法等により制約を受けるという問題点があった。
【0004】
一方、油性印刷と呼ばれる酸化重合硬化印刷、またUV印刷と呼ばれる紫外線硬化印刷において、網点再現性、印刷を長く続けるロングラン運転における適正乳化維持が良好に確保できるもの、いわゆる1)水棒からみ、2)ローラー剥げ、3)網点絡み、4)紙むけ、5)地汚れを解決することが不可欠である。
【0005】
また、上記印刷物の仕上がり上の問題やイソプロピルアルコールの使用による作業環境及び安全衛生面での問題のほかにも、排水規制物質であるリン化合物の問題などがあり、これらの問題を解決するために、種々の平版印刷用濃縮湿し水組成物の提案がなされている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−82593号公報
【特許文献2】特開2005−53189号公報
【特許文献3】特開2004−322524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記「地汚れ」の問題の中でも、特に印刷機停止後再稼働時に発生する「ストップ汚れ」と称される微細状点として非画線部にインキが付着し、これが紙面に対し汚れとなる問題に対し改善した平版印刷用濃縮湿し水組成物を提供することである。
本発明の別の目的は、上述の課題を解決し、更にオフセット輪転機の排ガス燃焼装置に充填されている触媒の被毒作用を有し、かつ排水規制物質であるリン化合物を全く含有し
ない、いわゆる無リンタイプの平版印刷用濃縮湿し水組成物を提供することである。
本発明の更に別の目的は、上述の課題を解決し、更に上記1)水棒からみ、2)ローラー剥げ、3)網点絡み、4)紙むけ、5)地汚れの問題を解消するための平版印刷用濃縮湿し水組成物を提供することである。
そして本発明の目的は更に上記平版印刷用濃縮湿し水組成物を水で希釈して得られる、平版印刷用湿し水を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、濃縮湿し水組成物に関し鋭意研究を重ねた結果、必須成分として特定の水溶性高分子を用いることにより、上記の問題が解消でき、且つ濃縮化しても安定性に優れた安全な平版印刷用濃縮湿し水組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の[1]乃至[3]に関する。
[1]下記式(I)で示されるカチオン化ヒドロキシエチルセルロースを必須成分として含有する平版印刷用濃縮湿し水組成物。
式(I):
【化1】
[式中、Rはそれぞれ独立して、水素原子、又は式(A)
【化2】
{式(A)中、mは1乃至3の整数を表し、X-はアニオン性基を表す。}で表されるカチオン性基を表し、
nは15万乃至150万の整数を表す{但し、Rの少なくとも1つは上記式(A)で表されるカチオン性基を表す}。]
[2]溶剤として3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール及び/又はメトキシブタノールを必須成分として含有する、[1]に記載の平版印刷用濃縮湿し水組成物。
[3]更に下記式(II)で示されるアセチレングリコール酸化エチレン付加物を必須成分として含有する、[1]又は[2]に記載の平版印刷用濃縮湿し水組成物。
式(II):
【化3】
(式中、c+dは0乃至30を表し、a及びbはそれぞれ独立して0乃至2の整数を表す。)
[4][1]乃至[3]のいずれか1つに記載の平版印刷用濃縮湿し水組成物に対して質量比で3乃至200倍の水で希釈して得られる、平版印刷用湿し水。
【発明の効果】
【0010】
本発明の平版印刷用濃縮湿し水組成物は、必須成分として上記式(I)で示されるカチオン化ヒドロキシエチルセルロースを含有することにより、地汚れの問題の中でも、特にストップ汚れの発生を防止することができる。
また、本発明の平版印刷用濃縮湿し水組成物は、溶剤として3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール及び/又はメトキシブタノールを含有することにより、上記ストップ汚れの発生を防止する効果に加えて、沈降物や浮遊物が生じ難く、液安定性が良好である。
さらに、本発明の平版印刷用濃縮湿し水組成物は、上記式(II)で示されるアセチレングリコール酸化エチレン付加物を含有することにより、上記ストップ汚れの発生を防止する効果、及び液安定性の効果に加えて、上記1)水棒からみ、2)ローラー剥げ、3)網点絡み、4)紙むけ、5)地汚れの問題を解消することができ、品質(印刷物の汚れ、濃度ムラ及び色ムラなど)が良好な印刷物を得ることができる。
斯かる効果は、平版印刷用濃縮湿し水としての適用において得られるものである。
【0011】
ここで、上述の1)水棒からみ、2)ローラー剥げ、3)網点絡み、4)紙むけ、5)地汚れ、それぞれについて更に説明する。
上記1)の水棒からみとは、水元ローラーの表面にインキが付着してそれが水棒に絡み、水供給のバランスがくずれてしまうという現象である。この原因としては、過剰乳化によるインキの流動性低下によるものと考えられている。
上記2)のローラー剥げとは、インキローラーのインキが剥がれ、インキの転移が適性に行われなくなる現象である。これはインキの水吸収能力(乳化能力)が不足するため、水がインキローラー上で余り、ローラーが親水化してしまうことでインキが剥がれるものと考えられている。
上記3)の網点絡みとは、網点間の非画線部に水が良好に行きわたらないことや、水が更新されないため、印刷物に非画線部として転写されるべき部位がインキで汚れてしまい、再現性不良となる現象である。
上記4)の紙むけ(ピッキング)とは、印刷中に紙表面が変形・剥離する現象である。基本的に紙むけは、紙のセルロースの絡み合い、長さ、塗被剤に関する製紙技術の問題であるが、水またはインキの浸透により紙が脆弱化することも原因の一つになると考えられている。
上記5)の地汚れとは、印刷時に版面で起こる現象で版面非画線部への水の供給が不充分であることや、版非画線部へのインキの付着を抑制する、いわゆる不感脂化材の効能不
足などが原因と考えられている。
本発明は印刷物において要求される品質、すなわち、印刷物の汚れ、濃度ムラ及び色ムラなどがほとんど生じないという効果をも奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
湿し水は通常商業ベースでは、濃縮化したものを商品化することが一般的であり、通常、印刷作業時にこの濃縮化したものを水道水などで所定の濃度に希釈し、使用する。本発明の平版印刷用濃縮湿し水組成物は、該組成物に対して質量比で、例えば30乃至200倍、特に50乃至200倍の水で希釈して使用される。
【0013】
本発明の濃縮湿し水組成物の必須成分である上記式(I)で示されるカチオン化ヒドロキシエチルセルロースは不感脂化剤として作用し、版非画線部を保護する性質を有し、インキによる非画線部の感脂化を防ぐ作用に非常に優れている。
上記式(I)で示されるカチオン化ヒドロキシエチルセルロースとしては、上記式(A)で表されるカチオン性基の導入率が、無水グルコース当り0.1乃至1.0のものが使用できる。また、上記式(A)中のX-が表すアニオン性基は特に限定されず、具体的には、アルキル硫酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン、アルキル炭酸イオン、及びハロゲン化物イオン等が挙げられる。
上記式(I)で示されるカチオン化ヒドロキシエチルセルロースの具体例としては、ダイセルファインケム(株)製ジェルナーQHシリーズ、東邦化学工業(株)製カチナールシリーズなどが挙げられる。
【0014】
上記式(I)で示されるカチオン化ヒドロキシエチルセルロースを好適に使用できる範囲は、濃縮湿し水組成物全質量に対して0.01乃至5質量%、より好ましくは0.1乃至1質量%の範囲である。高濃度で配合した際には、ローラー禿の発生要因や、画線部へのインキ着肉不良を生じる可能性がある。
【0015】
また、本発明の濃縮湿し水組成物は、溶剤として3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール及び/又はメトキシブタノールを必須成分として含有することができる。これらの溶剤は、IPA代替溶剤として作用し、版面洗浄性、印刷機の水上がり向上としての作用をなすものである。
これらの溶剤は単独で又は2種併用してもよく、その含有量(2種併用する場合は、その合計量)は、濃縮湿し水組成物全質量に基づいて1乃至90質量%の範囲が適切であり、より好ましくは30乃至70質量%の範囲である。
【0016】
さらに、本発明の濃縮湿し水組成物は、上記(II)で示されるアセチレングリコール酸化エチレン付加物を必須成分として含有することができる。該アセチレングリコール酸化エチレン付加物は、特に動的表面張力低下作用に優れ、瞬時の濡れ性と浸透性を付与し、適切な乳化性、版面洗浄性向上、水上がり性向上の働きをもたらす。
該アセチレングリコール酸化エチレン付加物の含有量は、濃縮湿し水組成物の全質量に基づいて0.1乃至15質量%の範囲が適切である。より好ましくは1乃至5質量%の範囲である。
【0017】
上記アセチレングリコール酸化エチレン付加物は、c及びdの数がそれぞれ独立して0乃至30を表すものから選択使用できるが、c+dの数が0乃至30であるものが好ましく、より好ましくは3乃至10である。具体例としては、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ製サーフィノールシリーズ、及びダイノールシリーズ、日信化学工業(株)製オルフィンシリーズなどが挙げられる。
本発明では、上記式(II)においてa=0、b=0、c=0、及びd=0を表す3,6‐ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、同じく式(II)でa=1,b=1の
2,4,7,9,−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオールのエチレンオキサイド(EO)3.5モル付加物、並びに10モル付加物が好適に使用できる。
【0018】
上記3成分の混合使用は、印刷版の画線部及び非画線部中でも網点部を覆う薄膜状湿し水に含まれる水や溶剤が乾燥によって蒸発した場合に、その残渣が湿し水によって可及的速やかに除去されることによって、網点再現性を顕著に向上させる効果ともに、印刷機再稼働時に発生するストップ汚れ解消を特異的にもたらす。
【0019】
商業印刷用湿し水は一般的には酸性領域、すなわちpH3乃至6の範囲で使用するのが望ましい。本発明の濃縮湿し水組成物から調製される湿し水はpH値をこの範囲に安定的に維持するため、有機酸又は無機酸並びにそれらの塩からなるpH緩衝剤を添加することができる。
pH緩衝剤としては、従来から使用されている有機酸及び/又は無機酸又はそれらの塩類の使用を制限するものではない。有機酸としては、例えばクエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、グルコン酸、酢酸、ヒドロキシ酢酸、シュウ酸、マロン酸、レブリン酸、スルファニル酸、p−トルエンスルホン酸、フィチン酸、有機スルホン酸等が挙げられる。無機酸としては、例えばリン酸、硝酸、硫酸、ポリリン酸等が挙げられる。更にこれら有機酸及び/又は無機酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、或いはアンモニウム塩、有機アミン塩などが用いられる。
【0020】
一方、本発明においては、従来から使用されているpH緩衝剤の使用を制限するものではないが、排水規制を受けないpH緩衝剤並びに印刷機の排ガス処理装置に設置されている充填触媒を被毒しないpH緩衝剤、いわゆるリン化合物を含まない無リンタイプのpH緩衝剤の使用が好ましい。
即ち、pH緩衝剤として、ジカルボン酸及びトリカルボン酸及びその金属塩の混合物を使用することが、さらに好ましい。
本発明において、pH緩衝剤としてのこの混合物の含有量は濃縮湿し水組成物全質量に対して0.1乃至10質量%の範囲が好ましい。より好ましくは0.5乃至5質量%である。
【0021】
本発明の濃縮湿し水組成物には、以上の成分の他に更に(a)有機溶剤、(b)界面活性剤、(c)キレート化合物、(d)防腐剤、(e)防錆剤、(f)着色剤、(g)消泡剤、(h)印刷版の整面剤等を必要に応じて添加することができる。
【0022】
本発明では、動的表面張力の低下、不感脂化剤の可溶化、界面活性剤の曇点向上、或いはインキ乳化率を適正な範囲に調節するために、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、メトキシブタノール以外の(a)有機溶剤を補助剤として添加できる。添加できる有機溶剤は、種々あるが、安全衛生面の点からグリコール系溶剤が好ましい。
グリコール系有機溶剤のうち、好ましく使用できるプロピレングリコールエーテル系有機溶剤としては、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノターシャリブチルエーテルなどが挙げられる。
エチレングリコールエーテル系有機溶剤としては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチ
ルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノターシャリブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノターシャリブチルブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及びトリエチレングリコールモノターシャリブチルエーテルなどが挙げられる。
これらの有機溶剤は単独でも、又は2種以上併用することもでき、その添加量は濃縮湿し水組成物の全質量に基づいて1乃至80質量%の範囲が適切であり、より好ましくは30乃至70質量%の範囲である。
【0023】
本発明に使用できる(b)界面活性剤は、インキ乳化率の調節や濡れ性向上の補助剤として添加してもよい。
好ましく使用できる界面活性剤の種類は非イオン型界面活性剤であり、中でもポリオキシアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー(Eo−Poブロックポリマー)類等が好ましく使用できる。
これらの界面活性剤は単独でも、又は2種以上併用することもでき、湿し水使用時の発泡(起泡)を抑制する観点から、その添加量は濃縮湿し水組成物全質量に基づいて1.0質量%以下が適当である。
【0024】
本発明には、(c)キレート化合物を添加することができる。通常、濃縮湿し水組成物は水道水、井戸水等を加えて30から200倍に希釈して使用される。この際、希釈する水道水や井戸水に含まれる炭酸カルシウムが印刷に悪影響を与え、印刷適性や印刷物品質を悪化させる原因となる場合もある。
このような場合には、キレート化合物を添加すれば上記問題は解消できる。
本発明において好ましく使用できるものとしては、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸及びこれらのカリウム塩、ナトリウム塩、アンモニウム塩;ニトリロトリ酢酸、そのナトリウム塩;1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、そのナトリウム塩、そのカリウム塩などが挙げられる。
これらの添加量は使用する水道水や井戸水の硬度によって異なるが、濃縮湿し水組成物全質量に基づいて0.001乃至1.0質量%が適当である。
【0025】
本発明には、(d)防腐剤を必要に応じて添加することができる。湿し水中にカビが増殖すると、印刷に悪影響を与え、印刷物を汚す原因となることもある。
本発明で好ましく使用できる防腐剤としては、イミダゾール誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、4−イソチアゾリン−3−オン誘導体、四級アンモニウム塩、トリアゾール誘導体、オキサゾール又はオキサジンの誘導体、ブロモニトロプロパノール、1,1−ジブロモ−1−ニトロエタノール、3−ブロモ−3−ニトロペンタン等が挙げられる。これらの防腐剤の種々の調剤液が市販されており、これらの調剤液を使用することもできる。
好ましい添加量は細菌、酵母、カビに対して安定に効力を発揮する量であって、カビの種類によっても異なるが、濃縮湿し水組成物全質量に対して0.1乃至3.0質量%の範囲が好ましい。また、種々のカビ、細菌、酵母に対して薬効のある2種以上の防腐剤を併用することもできる。
【0026】
本発明では、印刷機械装置の腐蝕を防止するために(e)防錆剤を添加することができ
る。本発明に使用できる(e)防錆剤としては、例えばベンゾトリアゾール、5−メチルベンゾトリアゾール、チオサリチル酸、ベンゾイミダゾール及びその誘導体等が挙げられる。
【0027】
本発明に使用できる(f)着色剤としては、食品用色素が好ましく使用できる。例えば、黄色色素としてはCI No.19140,15985、赤色色素としてはCI No.16185,45430,16255,45380,45100、紫色色素としてはCI No.42640、青色色素としてはCI No.42090,73015、緑色色素としてはCI No.42095等が挙げられる。
【0028】
本発明では、循環ラインを備えた湿し水調製槽内及び水舟内での発泡を抑制するため、(g)消泡剤を添加することが好ましい。本発明で使用する消泡剤としては、消泡速度の速さからシリコーン系消泡剤が好ましく、乳化分散型及び可溶化型のいずれのものも使用できる。
【0029】
本発明の濃縮湿し水組成物には必要に応じて更に(h)印刷版アルミニウム基盤の整面剤として、水溶性硝酸塩を添加してもよい。
具体例として、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、硝酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ベリリウム、硝酸アルミニウム、硝酸亜鉛、硝酸ジルコニウム、硝酸ニッケル、硝酸マンガン、硝酸クロム等が挙げられる。これらの塩は1種もしくは2種以上併用してもよい。これらの塩は濃縮湿し水組成物全質量に対して0.1乃至20質量%の範囲で使用される。
【実施例】
【0030】
次に本発明を実施例及び比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限られるものではない。
【0031】
実施例1〜6
表1に記載の組成に従って、各種濃縮湿し水組成物を調製した。単位はグラム(g)であり、純水を加えて全量を1000mLとした。
【0032】
【表1】
【0033】
上記の如く調製した実施例1〜6の濃縮湿し水組成物について、下記(a)のように液の濃縮化適性を評価した。更に実施例1〜6で調製した濃縮湿し水組成物を、水道水を用いて油性印刷は2%の濃度に、UV(紫外線)印刷は4%の濃度に希釈し、ハイデルベルグ社製印刷機(枚葉4色機)にて印刷を行い、(b)〜(f)の項目について評価を行った。それらの結果を表2及び3に示した。
【0034】
(a)液の濃縮化適性
上記の様に調合した濃縮湿し水組成物を100mLバイアル瓶に入れ、液の均一混合性及び貯蔵安定性を調べた。
・1ヶ月間放置しても変化無し :A
・成分の沈降物、浮遊物が微量発生する :B
・成分の沈降物、浮遊物が大量発生する :C
【0035】
(b)耐ローラー剥げ性
印刷部数5,000枚、10,000枚、20,000枚で印刷機を一時止め、インキ供給ローラー表面上のインキ膜の剥げ状態を目視観察した。
・印刷部数50,000枚以上でもローラー剥げなし :A
・印刷部数10,000以上50,000枚未満の間でローラー剥げ発生 :B
・印刷部数10,000枚未満でローラー剥げ発生 :C
【0036】
(c)耐水棒からみ性
上記のように印刷機を一時止め、湿し水を汲み上げる水棒(水元ローラ)の表面上のインキの付着状態を目視観察した。
・印刷部数50,000枚以上でもインキ絡みなし :A
・印刷部数10,000以上50,000枚未満の間でインキ絡みなし :B
・印刷部数10,000枚未満でインキ絡み発生 :C
【0037】
(d)耐ストップ汚れ性
印刷機を1時間、2時間、4時間・・・それぞれ停止した後、印刷版の非画線部を目視観察すると共に印刷を再開した後の印刷物の非画線部の点状汚れを調査した。
・3時間以上停止してもストップ汚れ発生無し :A
・2以上3時間未満停止するとストップ汚れ発生 :B
・1時間未満の時間で停止するとストップ汚れ発生 :C
【0038】
(e)耐網点からみ汚れ性
5万部印刷を行った後の印刷物網点部をルーペで観察し、網点部内非画線部の汚れを調べた。
・網点内非画線部に汚れ無し :A
・網点内非画線部の一部分に汚れ発生 :B
・網点内非画線部の50%以上に汚れ発生 :C
【0039】
(f)印刷物品質
印刷物の汚れ、濃度ムラ、色ムラなどを調べた。
・印刷品質が良好 :A
・印刷品質に問題がある :B
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
比較例1〜5
表4に記載の組成に従って比較例1〜5の濃縮湿し水組成物をそれぞれ調製した。
【表4】
【0043】
上記の様に調製した比較例1〜5の濃縮湿し水組成物を用いて、実施例1〜6と同じ印刷機にて印刷を行い、同様の評価を行った。それらの結果を表5及び表6に示した。
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
結果は次の通りであった。
比較例1の一般的に好んで使用される溶剤であるt−ブトキシエタノールを使用した組成においては、沈降物が大量に発生し、液組成の維持が困難であった。これに対し、上記t−ブトキシエタノールの替りに3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール又はメトキシブタノールを用いて、比較例1とほぼ同じ組成で調製した実施例3と実施例6では、この様な沈降は発生しなかった。
【0047】
カチオン化していないヒドロキシエチルセルロースを使用した比較例2と比較例3においては、ストップ汚れが1時間以下の時間で発生し、印刷版を洗浄しなければ高品質の印刷物は得られなかった。これに対し、本発明の濃縮湿し水組成物の必須成分であるカチオン化ヒドロキシエチルセルロースを使用した実施例1〜6においては、ストップ汚れが発生せず、高品質の印刷物が得られた。
【0048】
式(II)で示されるアセチレングリコール酸化エチレン付加物を使用せず、エチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロックポリマー系界面活性剤のみを使用した比較例4と比較例5では、網点からみ汚れが発生し、高品質な印刷部が得られなかった。また比較例5ではエチレンオキサイド−プロピレンオキサイドブロックポリマー系界面活性剤濃度を増やしたことにより、網点からみ汚れ性の良化がみられたが、弊害として、水棒からみが発生した。これに対し、式(II)で示されるアセチレングリコール酸化エチレン付加物を使用した実施例1〜6では網点からみ汚れは発生せず、高品質の印刷物が得られた。
【0049】
以上より、実施例1〜6の濃縮湿し水組成物を使用した場合には、油性印刷、UV印刷とも上述したような不具合の発生はなく、高品質の印刷物が得られた。