特許第6401067号(P6401067)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6401067トンネル換気方法とトンネル換気システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6401067
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】トンネル換気方法とトンネル換気システム
(51)【国際特許分類】
   E21F 5/00 20060101AFI20180920BHJP
   F24F 7/06 20060101ALI20180920BHJP
   F24F 9/00 20060101ALI20180920BHJP
   F24F 13/06 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   E21F5/00
   F24F7/06 F
   F24F9/00 A
   F24F13/06 B
   F24F9/00 E
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-14635(P2015-14635)
(22)【出願日】2015年1月28日
(65)【公開番号】特開2016-33325(P2016-33325A)
(43)【公開日】2016年3月10日
【審査請求日】2017年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-154030(P2014-154030)
(32)【優先日】2014年7月29日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物名:土木学会論文集F1(トンネル工学)特集号Vol.70 No.3 発行日 :平成26年12月 発行所 :土木学会トンネル工学委員会
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 潔
(72)【発明者】
【氏名】文村 賢一
(72)【発明者】
【氏名】柴田 勝実
(72)【発明者】
【氏名】古田 敦史
【審査官】 佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−183403(JP,A)
【文献】 実開昭62−017345(JP,U)
【文献】 特開昭63−265100(JP,A)
【文献】 特開2005−282169(JP,A)
【文献】 特開2009−155996(JP,A)
【文献】 特開2006−348696(JP,A)
【文献】 特開平05−149100(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102006017673(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21F 1/00−17/18
E21D 1/00− 9/14
F24F 7/04− 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの施工に当たり、
集塵機と、集塵機に連通して第一の吸気口を端部に備えた伸縮ダクトと、集塵機に連通して第二の吸気口を途中位置に備えた吸気ダクトと、集塵機に連通して排気口を備えた排気ダクトと、送気口を備えた送気ダクトを具備する送風機と、をともに配設し、
第一の吸気口を切羽に対して最も近い第一の位置に配設し、
送気口と第二の吸気口を切羽に対して次に近い第二の位置に配設し、
排気口を切羽から最も遠い第三の位置に配設し、
送気口と第二の吸気口と排気口をいずれも、トンネルの長手方向に直交する方向(直交方向)に向け、
集塵機と送風機を作動させ、
粉塵が混入した空気を第一の吸気口から吸気し、
新鮮な空気を送気口から前記直交方向に送気し、
粉塵が混入した空気を第二の吸気口から前記直交方向に吸気し、
集塵機にて除塵された除塵後空気を排気口から前記直交方向に排気してトンネル内の換気を図る、トンネル換気方法。
【請求項2】
集塵機、
集塵機に連通して第一の吸気口を端部に備えた伸縮ダクト、
集塵機に連通して第二の吸気口を途中位置に備えた吸気ダクト、
集塵機に連通して排気口を備えた排気ダクト、
送気口を備えた送気ダクトを具備する送風機、から構成されるトンネル換気システムであって、
切羽に対して最も近い第一の位置に第一の吸気口が配設され、
切羽に対して次に近い第二の位置に送気口と第二の吸気口が配設され、
切羽から最も遠い第三の位置に排気口が配設され、
送気口と第二の吸気口と排気口がいずれも、トンネルの長手方向に直交する方向(直交方向)に向けられた状態で集塵設備と送風機が作動されるトンネル換気システム。
【請求項3】
第一の吸気口が、切羽に臨む開口と、前記直交方向に臨む開口を含む請求項に記載のトンネル換気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル工事において発生する粉塵を除塵して換気するトンネル換気方法とトンネル換気システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル施工において、その地盤性状やトンネルの規模などに応じてその掘削方法は多岐に亘っており、都市部を中心に多用されているシールドマシンを使用したシールド工法の他に、山岳トンネル切羽では、岩盤穿孔や削岩、コンクリートの吹付作業、発破時の粉塵、発破時の後ガス、重機車両の排気ガス及び排ガス中の粉塵など、空気質を悪化させる様々な汚染質を発生させながら施工を進めざるを得ない。したがって、坑内環境の維持のためには、粉塵の除塵やガス等の除去のために、換気による新鮮な外気の供給が常時おこなわれる必要がある。
【0003】
このような坑内環境の維持に当たっては、図9で示すような換気方法が一般に適用されている。
【0004】
送風機Sからのダクト送気管D1の端部にある送気口O1を切羽側に向ける。トンネルT内に配設された集塵機Cの集塵設備に連通する2本のダクトD2,D3のうち、一方の集塵ダクトD2の端部にある吸気口O2を切羽側に向け、他方の排気ダクトD3の端部にある排気口O3を坑口側に向ける。
【0005】
新鮮な空気は、送風機Sを作動させることで、坑口側から送気口О1を介して切羽側に供給される。
【0006】
切羽側で発生した粉塵を含む空気は集塵ダクトD2の吸込口O2から吸い込まれ、集塵設備にて除塵された後、排気ダクトD3の排気口O3から吹出される。
【0007】
集塵ダクトD2の吸込口O2から吸い込まれる風量Q2は、送風機Sによって送気される新鮮な空気の送気風量Q1よりも大きい。そのため、吸込風量Q2から送気風量Q1を差し引いた差分Q2-Q1によって坑口側から切羽側への空気流れ(図中のX方向)が生じる。この空気流れXにより、切羽面付近の領域で発生する粉塵が、当該切羽面付近の領域に封じ込められることになる。
【0008】
また、切羽面付近の領域で発生する粉塵が空気流れXによって当該切羽面付近の領域に封じ込められる境界面ACは、エアーカーテンと称される。
【0009】
図9で示すように、従来の換気方法では、送風機SのダクトD1の送気口O1を介して、空気は噴流の状態で吹出される。そのため、送気口O1が切羽面から近い場合、吹出された空気は噴流のままで切羽面付近まで到達することになり、実際にはエアーカーテンACを形成することが難しくなる。したがって、粉塵を封じ込めておくことができず、粉塵が拡散したり、坑内環境を悪化させる要因の一つとなっている。
【0010】
また、上記するように、送風機Sによって送気される新鮮な空気の送気風量Q1よりも多い吸気風量Q2で粉塵が混入した空気を吸気口O2から吸気する制御を実行するべく、集塵能力の高い集塵機を必須としており、このためにトンネル内換気に際して設備コストが高価になるといった課題もある。
【0011】
ここで、特許文献1には、切削途中のトンネル坑内において切羽面の近傍位置から坑口方向に延在するように排気ダクトを配設するとともに、坑口から切羽方向に延在するように給気ダクトを配設し、給気ダクトを用いてトンネル坑外から吸入した新鮮空気を排気ダクトの切羽方向端部側よりも坑口側の所定位置からトンネル坑の内壁面に沿って横断方向のうちの一方向に吹き出して給気するとともに、排気ダクトを用いて切羽方向端部側から吸入した切羽近傍位置の空気を前記所定位置よりも坑口側へと排気するようにしたトンネル坑内の換気方法が開示されている。
【0012】
また、特許文献2には、集塵機から得られた集塵処理後のクリーンエアを利用する2つの前・後エアーカーテン装置が、集塵機本体の後方側に離間して具備されている集塵機が開示されている。
【0013】
これらの換気方法や集塵機はいずれも、エアーカーテンを形成して切羽側から発生する粉塵が混入した空気を遮蔽し、遮蔽された粉塵が混入した空気を吸引して除塵する換気方式を採用しており、いずれも良好なエアーカーテンが形成できるとしている。しかしながら、粉塵が混入した空気を吸引する吸引口や新鮮な空気をトンネル内に供給する送気口や集塵機からの排出口の位置、吹出方向、風量、吹出特性、吸込口の位置、風量によっては切羽付近の粉塵が混入した空気がかき乱されてしまい、エアーカーテンの形成が阻害され、粉塵が混入した空気がトンネル内に拡散する恐れがある。そして、特許文献1,2で開示の技術においても、エアーカーテンが良好に形成されるか否かは定かでなく、粉塵が混入した空気がトンネル内に拡散する危険性を有していると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2004−339779号公報
【特許文献2】特開2007−154502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、エアーカーテンを良好に形成することができ、粉塵が混入した空気の遮蔽性に優れ、トンネル内換気性に優れたトンネル換気方法とトンネル換気システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成すべく、本発明によるトンネル換気方法は、トンネルの施工に当たり、集塵機と、集塵機に連通して第一の吸気口を端部に備えた伸縮ダクトと、集塵機に連通して第二の吸気口を途中位置に備えた吸気ダクトと、集塵機に連通して排気口を備えた排気ダクトと、送気口を備えた送気ダクトを具備する送風機と、をともに配設し、第一の吸気口を切羽に対して最も近い第一の位置に配設し、送気口と第二の吸気口を切羽に対して次に近い第二の位置に配設し、排気口を切羽から最も遠い第三の位置に配設し、送気口と第二の吸気口と排気口をいずれも、トンネルの長手方向に直交する方向(直交方向)に向け、集塵機と送風機を作動させ、粉塵が混入した空気を第一の吸気口から吸気し、新鮮な空気を送気口から前記直交方向に送気し、粉塵が混入した空気を第二の吸気口から前記直交方向に吸気し、集塵機にて除塵された除塵後空気を排気口から前記直交方向に排気してトンネル内の換気を図るものである。
【0017】
本発明のトンネル換気方法は、トンネル内に複数のエアーカーテン(第一の吸気口のトンネル断面、第二の吸気口のトンネル断面、集塵機での除塵後の排気口のトンネル断面)を形成することにより、粉塵が混入した空気の遮蔽性に優れ、トンネル内換気性に優れたトンネル換気方法である。
【0018】
そのための構成として、集塵機に連通する伸縮ダクトの端部に第一の吸気口を備え、吸気ダクトの途中位置に第二の吸気口を備えておき、第一の吸気口を切羽に対して最も近い第一の位置に配設し、ここで粉塵が混入した空気を吸引することで切羽近傍に第一のエアーカーテンを形成する。そして、吸気ダクトの第二の吸気口と送気ダクトの送気口をトンネルの長手方向に直交する直交方向に向けておくとともに第一の位置に次いで切羽に近い第二の位置に配設し、送気ダクトの送気口から新鮮な空気を直交方向に送気し、第二の吸気口から粉塵が混入した空気を、前記直交方向で吸気することによって第二の位置にて第二のエアーカーテンを形成する。なお、送気口は第二の吸気口よりも高い位置に設置されるのがよく、送気口から吹き降ろされた新鮮な空気が相対的に下方にある第二の吸気口に流れ込み、このことによって第二のエアーカーテンが形成され易くなる。
【0019】
ここで、第一の吸気口を切羽側に臨んで集塵機に連通する伸縮ダクトの端部に形成し、送気口を前記直交方向に送気する送気ダクトに形成することにより、集塵機に連通する伸縮ダクトの端部の第一の吸気口を介して、増加した風量で粉塵が混入した空気を効果的に吸引することにより、第一のエアーカーテンを形成し易くできる。
【0020】
さらに、集塵機に連通する排気口を切羽から最も遠い第三の位置に配設し、集塵機にて除塵された除塵後空気を排気口から前記直交方向に排気することにより、第三の位置にて第三のエアーカーテンを形成する。
【0021】
ここで、「トンネルの長手方向に直交する方向(直交方向)」とは、トンネルの長手方向に対して厳密に直交する方向のみならず、たとえば直交方向に対して±30度程度の範囲もこの直交方向に含む意味である。
【0022】
また、吸気ダクトの第二の吸気口と送気ダクトの送気口が位置決めされる「第二の位置」とは、双方が厳密に同じトンネル断面位置に位置決めされることのほかに、トンネルの長手方向に多少ずれた位置(たとえば1〜5m程度ずれた位置)に配設されることも含む意味である。
【0023】
このように、トンネル内の三箇所にトンネル断面方向に広がる複数のエアーカーテンを形成しながら、切羽側から粉塵が混入した空気を吸引することから、粉塵が混入した空気の遮蔽性とトンネル内換気性に優れた換気方法となる。
【0024】
また、本発明によるトンネル換気方法の好ましい実施の形態は、トンネルの施工に当たり、集塵機と、集塵機に連通して吸気口を端部に備えた伸縮ダクトと、集塵機に連通して排気口を備えた排気ダクトと、送気口を備えた送気ダクトを具備する送風機と、をともに配設し、吸気口を切羽に対して最も近い第一の位置に配設し、送気口を切羽に対して次に近い第二の位置に配設し、排気口を切羽から最も遠い第三の位置に配設し、送気口と排気口をいずれも、トンネルの長手方向に直交する方向(直交方向)に向け、集塵機と送風機を作動させ、粉塵が混入した空気を吸気口から吸気し、新鮮な空気を送気口から前記直交方向に送気し、集塵機にて除塵された除塵後空気を排気口から前記直交方向に排気してトンネル内の換気を図るものである。
【0025】
本実施の形態のトンネル換気方法は、既述するトンネル換気方法から「集塵機に連通して第二の吸気口を途中位置に備えた吸気ダクト」を排除し、したがって、「第二の吸気口を切羽に対して次に近い第二の位置に配設し」および「粉塵が混入した空気を第二の吸気口から前記直交方向に吸気し、」なる構成を排除したものである。
【0026】
本発明者等の検証によれば、「送気口と第二の吸気口を切羽に対して次に近い第二の位置に配設し、新鮮な空気を送気口から前記直交方向に送気し、粉塵が混入した空気を第二の吸気口から前記直交方向に吸気する」構成よりも、「送気口(のみ)を切羽に対して次に近い第二の位置に配設し、新鮮な空気を送気口から前記直交方向に送気する」構成の方が、高い粉塵濃度低減効果が得られることが実証されている。
【0027】
これは、送気口を第二の吸気口よりも高い位置に設置し、送気口から吹き降ろされた新鮮な空気が相対的に下方にある第二の吸気口に流れ込み、このことによって第二のエアーカーテンが形成され易くなることを検証した際に、実際は、坑口側から切羽側への空気流れによって吹き降ろし空気が切羽側に押し流されてしまい、想定ほど第二の吸気口に流れ込まないことが理由である。尤も、既述する従来のトンネル換気方法に比して、「送気口と第二の吸気口を切羽に対して次に近い第二の位置に配設」する構成を具備する既述の本発明によるトンネル換気方法が高い粉塵濃度低減効果を有していることに変わりはない。
【0028】
また、本発明はトンネル換気システムにも及ぶものであり、このシステムは、集塵機、集塵機に連通して第一の吸気口を端部に備えた伸縮ダクト、集塵機に連通して第二の吸気口を途中位置に備えた吸気ダクト、集塵機に連通して排気口を備えた排気ダクト、送気口を備えた送気ダクトを具備する送風機、から構成されるトンネル換気システムであって、切羽に対して最も近い第一の位置に第一の吸気口が配設され、切羽に対して次に近い第二の位置に送気口と第二の吸気口が配設され、切羽から最も遠い第三の位置に排気口が配設され、送気口と第二の吸気口と排気口がいずれも、トンネルの長手方向に直交する方向(直交方向)に向けられた状態で集塵設備と送風機が作動されるものである。
【0029】
既述するように、集塵機に連通する伸縮ダクトの第一の吸気口を切羽に対して最も近い第一の位置に配設して粉塵が混入した空気を吸引することにより、切羽近傍に第一のエアーカーテンを形成し、吸気ダクトの第二の吸気口と送気ダクトの送気口をトンネルの長手方向に直交する直交方向に向けておくとともに第二の位置に配設し、送気ダクトの送気口から新鮮な空気を直交方向に送気し、第二の吸気口から粉塵が混入した空気を前記直交方向で吸気することによって第二の位置にて第二のエアーカーテンを形成し、さらに集塵機に連通する排気口を第三の位置に配設し、集塵機にて除塵された除塵後空気を排気口から前記直交方向に排気することで第三の位置にて第三のエアーカーテンを形成する。
【0030】
この構成により、粉塵が混入した空気の遮蔽性とトンネル内換気性に優れた換気システムとなる。また、三つのエアーカーテンを形成して粉塵が混入した空気の遮蔽性を担保することから、従来の換気システムよりも集塵風量の低い集塵機を使用してもエアーカーテンを切羽側に押さえつけることが可能になり、設備のイニシャルコスト及びランニングコストの削減にも繋がる。
【0031】
切羽側に近い部分の吸気用のダクトを伸縮ダクトで形成することにより、切羽面にて発破作業を行う際に、吸込口を坑口側に退避することができる。また、トンネルがある程度延伸した場合でも、集塵機を一定の場所に置いたままで、伸縮ダクトを伸長させ、吸気口を所望の位置(第一の位置)に位置決めすることが可能になる。なお、排気ダクトには非伸縮のダクトを適用し、第三の位置でトンネルの長手方向に直交する直交方向に排気口を向けて設置する。
【0032】
集塵機は、たとえば大型の平ボディートラックの荷台に搭載し、トンネル内で移動自在にするのが好ましい。また、集塵機は、たとえば、除塵をおこなうフィルターや送風ファンで構成することができる。
【0033】
また、本発明によるトンネル換気システムの好ましい実施の形態は、集塵機、集塵機に連通して吸気口を端部に備えた伸縮ダクト、集塵機に連通して排気口を備えた排気ダクト、送気口を備えた送気ダクトを具備する送風機、から構成されるトンネル換気システムであって、切羽に対して最も近い第一の位置に吸気口が配設され、切羽に対して次に近い第二の位置に送気口が配設され、切羽から最も遠い第三の位置に排気口が配設され、送気口と排気口がいずれも、トンネルの長手方向に直交する方向(直交方向)に向けられた状態で集塵設備と送風機が作動されるものである。
【0034】
「第二の吸気口から粉塵が混入した空気を前記直交方向で吸気すること」を排除し、「送気ダクトの送気口から新鮮な空気を直交方向に送気する」のみで第二の位置にて第二のエアーカーテンを形成することにより、より一層高い粉塵濃度低減効果が得られる。
【発明の効果】
【0035】
以上の説明から理解できるように、本発明のトンネル換気方法とトンネル換気システムによれば、トンネル内の三箇所にトンネル断面方向にエアーカーテンを形成しながら切羽側から粉塵が混入した空気を吸気し、新鮮な空気をトンネル内に供給することにより、粉塵が混入した空気の遮蔽性に優れ、トンネル内換気性に優れた換気方法および換気システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明のトンネル換気方法およびトンネル換気システムの実施の形態1を示した縦断面図である。
図2図1のII−II矢視図である。
図3】トンネル内における施工状況(吹付作業の場合)を説明した図である。
図4】本発明のトンネル換気方法およびトンネル換気システムの実施の形態2を示した縦断面図である。
図5図4のV−V矢視図である。
図6】数値解析のモデルを示した図であって、(a)は比較例のモデル図であり、(b)は実施例1のモデル図であり、(c)は実施例2のモデル図である。
図7】解析結果のうち、切羽からの距離と短手断面の高さ1.5mの平均粉塵濃度に関する結果を示した図である。
図8】解析結果のうち、高さ1.5mでの粉塵濃度分布を示した図であって、(a)は比較例の結果を示した図であり、(b)は実施例1の結果を示した図であり、(c)は実施例2の結果を示した図である。
図9】従来のトンネル換気方法を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照して、本発明のトンネル換気方法とトンネル換気システムの実施の形態1,2を説明する。
【0038】
(トンネル換気方法とトンネル換気システムの実施の形態1)
図1は本発明のトンネル換気方法およびトンネル換気システムの実施の形態1を示した縦断面図であり、図2図1のII−II矢視図であり、図3はトンネル内における施工状況を説明した図である。なお、図3はトンネル工事を表す施工次第図でもあるが、吹付作業時には、コンクリート吹付け機、トラックミキサー車、掘削作業時には、削岩機、積み込み機、運搬用ダンプが配置されている。これらの機材からは削岩機の粉塵、吹付けコンクリートの粉塵、排気ガスの粉塵が発生する。
【0039】
図1,2で示すように、トンネルTの施工に供されるトンネル換気システム100は、集塵機10、送気ダクト4を具備する不図示の送風機、吸気ダクト2A、伸縮ダクト2Bおよび排気ダクト3から構成されている。
【0040】
集塵機10は、平ボディートラック1の荷台の上に設置され、トラックにて移動可能である。なお、集塵機10は、牽引車や人力で牽引されてもよい。
【0041】
集塵機10に連通する吸気経路は、側面視Tの字状の吸気ダクト2Aと蛇腹状の伸縮ダクト2Bから構成されており、伸縮ダクト2Bの端部には第一の吸気口2aが設けられ、吸気ダクト2Aには第二の吸気口2bが設けられている。なお、伸縮ダクト2Bは吊りレール5に固定され、吊りレール5がトンネルTの天井から吊られることで伸縮ダクト2Bのトンネル内設置がおこなわれる。
【0042】
図1,2で示すように、伸縮ダクト2Bの端部に設けられた第一の吸気口2aは切羽側を向いており、したがって、トンネルTの長手方向に沿う方向に第一の吸気口2aが向けられている。
【0043】
一方、図2で示すように、吸気ダクト2Aに設けられた第二の吸気口2bはトンネルTの長手方向に直交する方向(直交方向)に向けられている。
【0044】
排気ダクト3は、集塵機10の坑口側に取り付けられており、坑口方向に向かって設置する。排気ダクト3の端部近傍の側面には多数の開口があり、この多数の開口が送気口3aを形成している。
【0045】
したがって、排気ダクト3に設けられた送気口3aも、図2で示すように、第二の吸気口2bと同様にトンネルTの長手方向に直交する直交方向に向けられている。
【0046】
また、送気ダクト4の端部には送気口4aが設けられている。具体的には、排気ダクト3に設けられている排気口3aと同様に送気ダクト4の側面に多数の開口があり、この多数の開口が送気口4aを形成している。
【0047】
したがって、送気ダクト4に設けられた送気口4aも、図2で示すように、第二の吸気口2bや排気口3aと同様にトンネルTの長手方向に直交する直交方向に向けられている。
ここで、第一の吸気口2aは切羽に最も近い第一の位置L1に配設されている。
【0048】
また、送気口4aと第二の吸気口2bは第一の位置L1に次いで切羽に近い第二の位置L2に配設されている。すなわち、送気口4aと第二の吸気口2bはトンネルT内において同一断面内に配設されている。なお、ここでいう同一断面内とは、完全に同一の断面内のみならず、トンネルTの長手方向に相互に数m程度ずれた位置に配設されていることも含んでいる。
さらに、排気口3aは、切羽から最も遠い第三の位置L3に配設されている。
【0049】
図2で示すように、トンネルTの切羽側でトンネルの延伸施工を行うに当たり、集塵機10を作動させ、かつ不図示の送風機を作動させると、伸縮ダクト2Bの吸気口2aを介して粉塵が混入した空気を切羽側から吸気し(Y1方向)、第一の位置L1にて第一のエアーカーテンAC1を形成する。
【0050】
また、同一断面内にある吸気ダクト2Aの第二の吸気口2bと送気ダクト4の送気口4aにおいては、送気口4aから新鮮な空気が直交方向に送気され(Y3方向)、第二の吸気口2bから粉塵が混入した空気が直交方向に吸気されることにより(Y2方向)、第二の位置L2にて第二のエアーカーテンAC2を形成する。
【0051】
さらに、排気口3aからは、集塵機10にて除塵された除塵後空気が直交方向に排気されることにより(Y4方向)、第三の位置L3にて第三のエアーカーテンAC3を形成する。
【0052】
このように、図示するトンネル換気システム100やこのシステムを適用してなるトンネル換気方法によれば、トンネルT内の三箇所において、トンネル断面方向に広がる複数のエアーカーテンAC1、AC2、AC3を形成しながら、切羽側から粉塵が混入した空気を吸引することから、粉塵が混入した空気をこれら複数のエアーカーテンAC1、AC2、AC3にて遮蔽しながら、トンネル内換気をおこなうことができる。したがって、粉塵が混入した空気の拡散を防止でき、粉塵が混入した空気の遮蔽性に優れた換気システムおよび換気方法となる。
【0053】
また、三つのエアーカーテンAC1、AC2、AC3を形成して粉塵が混入した空気の遮蔽性を担保することから、従来の換気システムのように集塵風量の低い集塵機を使用してもエアーカーテンを切羽側に押さえつけることが可能になり、このことによって粉塵が混入した空気の遮蔽性を担保しながら、設備のイニシャルコスト及びランニングコストの削減を図ることもできる。
【0054】
なお、実際のトンネル内施工においては、図3で示すように、トンネル内において、吹付作業時には切羽側から順にエレクター搭載吹付機60、トラックミキサー70、掘削時には切羽側から順に、ドリルジャンボ20やブレーカ30の削孔機のほか、ホイールローダ40、ダンプトラック50が稼働もしくは待機している。
【0055】
集塵機10が搭載する伸縮ダクト2Bを切羽側まで伸長させた状態でトンネルの頂部に吊り下げておき、トンネルの延伸に応じて伸縮ダクト2Bを所望に伸長させる。なお、伸縮ダクト2Bの伸長に加えて、トンネルの施工に応じて集塵機10を切羽側へ移動させる場合もある。いずれにせよ、トンネルの施工に際し、伸縮ダクト2Bの先端の吸気口2aが切羽から所定距離以内に位置するように設置することで、切羽で生じた粉塵を精度よく除塵することが可能になる。
【0056】
(トンネル換気方法とトンネル換気システムの実施の形態2)
図4は本発明のトンネル換気方法およびトンネル換気システムの実施の形態2を示した縦断面図であり、図5図4のV−V矢視図である。
【0057】
図示するトンネル換気システム100Aは、トンネル換気システム100から、第二の吸気口2bを備えた吸気ダクト2Aを排除し、吸気口を具備しない吸気ダクト2Cを備えたシステムであり、他の構成はトンネル換気システム100と同様である。
【0058】
したがって、第二のエアーカーテンAC2は、送気口4aから直交方向に送気された(Y3方向)新鮮な空気のみによって第二の位置L2にて形成される。
【0059】
図示するトンネル換気システム100Aは、坑口側から切羽側への空気流れを勘案し、送気口4aから直交方向に送気された空気が切羽側に押し流されてしまうことが考慮されたものとなっており、トンネル換気システム100よりも一層高い粉塵濃度低減効果を得ることができるものである。
【0060】
(本発明のトンネル換気システムおよび換気方法の効果を確認する解析とその結果)
本発明者等は、本発明のトンネル換気システムおよび換気方法の効果を確認する解析をおこなった。ここで、図6は数値解析のモデルを示した図であり、図6aは比較例のモデル図を、図6bは実施例1のモデル図を、図6cは実施例2のモデル図をそれぞれ示している。
【0061】
図6aで示すモデル図は、図9で示す従来のシステムをモデル化したものであり、いわゆる送気・吸引捕集エアーカーテン方式を採用したシステムである。前述のように、送気量Q1よりも切羽からの排気量Q2を多くするものであり、このことによって、集塵機から切羽に向かう気流Q2-Q1が吸引ダクト先端付近(切羽から15mの位置)においてエアーカーテンを形成する。
【0062】
一方、図6bで示すモデル図は、本発明の換気システムの実施の形態1をモデル化したものであり、いわゆる送排気エアーカーテン方式を採用したシステムである。このシステムでは、切羽から15mの位置と、30mの位置と、110mの位置にそれぞれエアーカーテンを形成する。
【0063】
さらに、図6cで示すモデル図は、本発明の換気システムの実施の形態2をモデル化したものであり、いわゆる送排気エアーカーテン方式を採用したシステムである。このシステムでは、切羽から15mの位置と、30mの位置と、110mの位置にそれぞれエアーカーテンを形成する。
【0064】
検証には、重力沈降モデルを考慮したCFD解析(Computational Fluid Dynamics)を用いた。ここで、検証した坑内環境は、切羽面(断面積109m2)から発生する粉塵量が送気・吸引捕集方式による換気を実施した際に、切羽面から50m地点(中央)の高さ1.5mで3mg/m3となるように設定した(これを基準濃度とする)。
【0065】
図7は、解析結果のうち、切羽からの距離と短手断面の高さ1.5mの平均粉塵濃度に関する結果を示した図であり、図8は、解析結果のうち、高さ1.5mでの粉塵濃度分布を示した図であって、図8aは比較例の結果を示した図であり、図8bは実施例1の結果を示した図であり、図8cは実施例2の結果を示した図である。
【0066】
図7において、横軸は切羽からの距離を、縦軸は短手断面の高さ1.5mの平均粉塵濃度を示している。同図より、切羽から50m後方の位置において、比較例の平均粉塵濃度は2.8mg/m3であったのに対し、実施例1の粉塵濃度は0.17mg/m3と、およそ1/17程度に濃度低下が図れることが検証されている。また、実施例1に対し、実施例2の粉塵濃度は、切羽から5m後方の全域においてさらに濃度低下が図れることが検証されている。
【0067】
また、実施例1,2においては、15m付近で粉塵濃度が急激に低下し、送風ダクトの送気口付近(30m付近)で基準濃度の1/10以下に低下している。これは、15m、30m、110m付近で形成されたエアーカーテンが切羽付近で発生した粉塵の拡散を抑制した効果によるものと考えられる。
【0068】
また、図8aより、送気ダクトから切羽側へ送気された噴流が吸気ダクト先端付近のエアーカーテンをかき乱した結果、粉塵が坑内に拡散していることが伺える。
【0069】
これに対し、図8b、8cより、エアーカーテンが複数箇所で明りょうに形成されていることが分かり、粉塵拡散が抑制されていることが伺える。
【0070】
また、切羽から50m後方までの区間(650m2)において、粉塵量が基準濃度以上の領域面積を比較すると、比較例は354m2であり、実施例1は171m2となった。
【0071】
さらに、粉塵濃度が基準濃度よりも低い1mg/m3以下の領域面積を比較すると、比較例は0m2であり、実施例1は271m2となった。
【0072】
本解析により、複数のエアーカーテンを形成する換気システムを適用することにより、従来のシステムに比してより一層効果的に粉塵の拡散防止を図りながら坑内換気を実施できることが実証されている。
【0073】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1…平ボディートラック、2A,2C…吸気ダクト、2B…伸縮ダクト、2a…第一の吸気口(吸気口)、2b…第二の吸気口、3…排気ダクト、3a…排気口、4…送気ダクト、4a…送気口、5…吊りレール、10…集塵機、100,100A…トンネル換気システム、T…トンネル、L1…第一の位置、L2…第二の位置、L3…第三の位置、AC1…第一のエアーカーテン、AC2…第二のエアーカーテン、AC3…第三のエアーカーテン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9