【実施例】
【0071】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
<1:過冷却付与材料の調製>
以下の合成において、化合物の機器分析は以下の条件で行った。
1H-NMR:
分析装置:JEOL PMX60SI
周波数:60 MHz
掃引幅:0〜600 Hz
IR:
分析装置:Shimadzu FTIR-8300
HPLC:
分析装置:Shimadzu LC-10A
カラム:Mightysil RP-18 GP 250 mm×4.6 mm(5 μm)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF):アセトニトリル=1:4(化合物1、2及び5)
メタノール(化合物3、4及び6)
流速:0.5 ml/分
検出:UV(254 nm)
【0073】
〔1-1:N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物1)の調製〕
[1-1-1:アミンの合成(1)]
【化5】
200 mLの4つ口フラスコに、1-ブロモ-3,7-ジメチルオクタン(29.2 g, 0.132 mol, 1 eq)及びフタルイミドカリウム塩(25.7 g, 0.138 mol, 1.05 eq)を、DMF(126 mL)を用いて流し込んだ。この混合物を、外温60℃で2時間反応させた。放冷後、反応液を濾過した。濾液に水(500 mL)を加えた後、得られた水相をジエチルエーテル(200 mL)で2回抽出した。合わせた有機相を、水(100 mL)で2回、飽和食塩水(100 mL)で1回洗浄した。Na
2SO
4で有機相を脱水した。有機層を濾過して濃縮後、乾燥した。2-(3,7-ジメチルオクチル)イソインドリン-1,3-ジオン(36.8 g、収率97%)を、無色透明のオイルとして得た。
【0074】
[1-1-2:アミンの合成(2)]
【化6】
1 Lのナスフラスコに、2-(3,7-ジメチルオクチル)イソインドリン-1,3-ジオン(36.6 g, 0.127 mol, 1 eq)を、MeOH(384 mL)を用いて溶かし入れた。この混合物に、80% ヒドラジン水和物(7.92 g, 0.126 mol, 0.995 eq)を添加した。混合物を、4時間加熱還流した。反応液を濃縮して、析出した白色固体をアセトニトリル(200 mL)で洗浄濾過した。濾液を濃縮し、2 N HCl(300 mL)を加えた。得られた混合物を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物をアセトン(50 mL)で洗浄し、乾燥した。3,7-ジメチルオクタン-1-アミン塩酸塩(20.05 g, 収率81%)を、微黄色固体として得た。
【0075】
[1-1-3:化合物1の合成]
【化7】
100 mLの4つ口フラスコに、3,7-ジメチルオクタン-1-アミン塩酸塩(5.91 g, 30.51 mmol, 4.5 eq)を入れ、トルエン(20 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(5.48 g, 54.24 mmol, 8 eq)を加えて氷冷した。この混合物に、トルエン(10 mL)に溶かした1,3,5-ベンゼントリカルボニルクロリド(1.8 g, 6.78 mmol, 1 eq)を、内温5℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物を室温で終夜攪拌した。反応液に、水(30 mL)及び酢酸エチル(50 mL)を加えて相分離した。有機層を、1N HCl(30 mL)及び水(30 mL)で順次洗浄した。得られた水層を、酢酸エチル(30 mL)で抽出した。合わせた有機層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(40 mL)、及び飽和食塩水(30 mL)で順次洗浄し、Na
2SO
4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物(6 g)を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:120 g, 展開溶媒:3% MeOH/クロロホルム)で精製した。得られた生成物を、MeOH:水(1:3)で懸濁洗浄し、乾燥した。N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物1)(3.70 g, 収率87%、HPLC純度99%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で確認した。
【0076】
1H-NMR (60 MHz, CDCl
3+TMS) δ; 0.80-1.10 (m, 27H), 1.20-1.80 (m, 30H), 3.48 (m, 6H), 6.75 (m, 3H), 8.12 (s, 3H)。
【0077】
〔1-2:N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド(化合物2)の調製〕
[1-2-1:酸クロリドの合成]
【化8】
300 mLの2つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボン酸(1.5 g, 6.938 mmol, 1 eq)を入れ、ジクロロメタン(15 mL)で懸濁させた。この混合物に、DMFを1滴添加した。次いで、この混合物に、チオニルクロリド(7.43 g, 62.442 mmol, 9 eq)を滴下した。滴下終了後、混合物を外温40℃で3時間反応させた。反応液から、チオニルクロリドを留去した。(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリドを得た。
【0078】
[1-2-2:化合物2の合成]
【化9】
100 mLの3つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、3,7-ジメチルオクタン-1-アミン塩酸塩(6.05 g, 31.221 mmol, 4.5 eq)を入れ、トルエン(20 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(5.62 g, 55.504 mmol, 8 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(10 mL)に溶かした(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリドを内温8℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を、トルエン(200 mL)で希釈した後、水(30 mL)、1 N HCl(30 mL)、及び水(50 mL)で順次洗浄した。得られた水層を、トルエン(30 mL)で抽出した。合わせた有機層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50 mL)、及び飽和食塩水(50 mL)で順次洗浄し、Na
2SO
4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物を、クロロホルム(500 mL)及びMeOH(3 mL)の混合溶液に溶かした。この混合物に、活性炭(200 mg)及びシリカゲル(1 g)を入れ、30分攪拌した。得られた混合物を濾過し、濾液を濃縮した。得られた固体を、MeOH:水(1:1)で洗浄して乾燥した。N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド(化合物2)(2.73 g, 収率62%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0079】
1H-NMR (60 MHz, CDCl
3+TMS) δ; 0.82 (bs, 27H), 1.10-1.60 (m, 33H), 2.15 (bs, 6H), 3.28 (bs, 6H), 5.40 (bs, 3H)。
【0080】
〔1-3:N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物3)の調製〕
[1-3-1:アミンの合成(1)]
【化10】
1 Lの4つ口フラスコに、12-ブロモ-1-ドデカノール(50.7 g, 0.191 mol, 1 eq)及びフタルイミドカリウム塩(37.1 g, 0.201 mol, 1.05 eq)を、DMF(250 mL)を用いて流し込んだ。この混合物を、外温50℃で3時間反応させた。放冷後、反応液を冷水(750 mL)に添加した。析出した固体を濾取した。濾取した固体を、水(300 mL)で洗浄した後、53℃のアセトン(110 mL)に溶かした。得られた混合物に、メタノール(30 mL)を添加し、次いで薄く濁るまで水を加えた。この混合物を、冷凍庫で2時間冷却した。析出した固体を、冷却したメタノール(100 mL)で洗浄しながら濾過した。得られた濾過物を乾燥した。2-(12-ヒドロキシドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(61.7 g, 収率97%, HPLC純度100%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0081】
[1-3-2:アミンの合成(2)]
【化11】
1 Lのナスフラスコ中で、2-(12-ヒドロキシドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(115.0 g, 0.347 mol, 1 eq)をTHF : DMF(1 : 1, 460 mL)に溶かした。この混合物に、ベンジルブロミド(74.2 g, 0.434 mol, 1.25 eq)及びヨウ化ナトリウム(5.2 g, 0.035 mol, 0.1 eq)を添加した。混合物を冷却しながら、水素化ナトリウム(16.6 g, 0.416 mol, 1.2 eq)を少量ずつ加えた。その後、混合物を室温で4日間攪拌した。反応液に、水(100 mL)を少しずつ添加し、更に氷水(200 mL)及び酢酸エチル(300 mL)を添加した。添加終了後、混合物を相分離した。有機層にヘキサン(100 mL)を加えた。この有機層を、水(100 mL)で二回洗浄した後、飽和食塩水(100 mL)で洗浄した。得られた有機層を、Na
2SO
4で乾燥した。この有機層を濾過し、濾液を濃縮した。粗生成物(165.5 g)を、黄色あめ状物として得た。この粗生成物を、クロロホルム(200 mL)及びメタノール(50 mL)の混合溶液に溶かした。この混合物に、活性炭(2 g)及びシリカゲル(10 g)を入れ、攪拌した。得られた混合物を濾過し、濃縮した。得られた析出物にヘキサン(300 mL)を加え、馴染ませた。この画分を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル: 1.5 kg, 展開溶媒: ヘキサン→酢酸エチル : ヘキサン= 1: 9)で精製した。得られた固体(105.2 g)を、メタノール(150 mL)で洗浄し、濾過して、乾燥した。2-(12-(ベンジルオキシ)ドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(100.4 g, 収率69%, HPLC純度100%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0082】
[1-3-3:アミンの合成(3)]
【化12】
1 Lのナスフラスコに、2-(12-(ベンジルオキシ)ドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(80.0 g, 0.189 mol, 1 eq)を、エタノール(640 mL)を用いて流し込んだ。この混合物に、80% ヒドラジン水和物(11.9 g, 0.189 mol, 1 eq)を添加した。混合物を、一晩還流した。反応液を濃縮して、湿潤な固体(94.5 g)を得た。得られた固体を、トルエン(300 mL)及びエタノール(60 mL)に加熱しながら溶かした。沈殿物を、吸引濾過で除去した。濾液を濃縮し、析出物を、クロロホルム(200 mL)及びメタノール(40 mL)に50℃で溶かした。形成された沈殿物を濾別した。濾液を、カラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル: 500 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン = 1 : 4→メタノール : 酢酸エチル = 1: 9)で精製した。得られた生成物を乾燥した。12-(ベンジルオキシ)ドデカン-1-アミン(46.2 g, 収率83%, HPLC純度65%)を、黄色のオイルとして得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0083】
1H-NMR (60 MHz, CDCl
3+TMS) δ; 1.23 (m, 20H), 1.58 (m, 2H), 3.35 (t, J = 6.2 Hz, 2H), 4.37 (s, 2H), 7.13 (m, 5H)。
【0084】
[1-3-4:化合物3の合成(1)]
【化13】
100 mLの3つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で12-(ベンジルオキシ)ドデカン-1-アミン(15.816 g, 9.866 mmol, 5.5 eq)を入れ、トルエン(44 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(3.993 g, 39.464 mmol, 4 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(10 mL)に溶かした1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリド(2.619g, 9.866 mmol, 1 eq)を内温10℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物にトルエン(25 mL)を添加し、該混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を水(20 mL)でクエンチした。この反応液に、酢酸エチル(250 mL)及び1 N NaOH(50 mL)を加えて相分離した。有機層を、水(100 mL)、1 N HCl(50 mL)、及び飽和食塩水(50 mL)で順次洗浄し、Na
2SO
4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物(11.036 g)を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:110 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン =1 : 4 → 1 : 1)で精製した。得られた生成物を、メタノール(100 mL)で洗浄して乾燥した。化合物3のベンジル保護誘導体(8.703 g, 収率86%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0085】
1H-NMR (60 MHz, CDCl
3+TMS) δ; 1.10-1.70 (m, 60H), 3.00-3.60 (m, 12H), 4.36 (s, 6H), 6.60-7.20 (m, 18H), 8.05 (s, 3H)。
【0086】
[1-3-5:化合物3の合成(2)]
【化14】
300 mLのナスフラスコに、化合物3のベンジル保護誘導体(8.100 g, 7.860 mmol)、メタノール(69 mL)、酢酸(1 mL)、及び10% 活性炭上パラジウム(1 g)を入れた。ナスフラスコ内の脱気及び水素置換を3回繰り返した後、混合物を、水素雰囲気下で1日強攪拌した。反応液にクロロホルム(700 mL)を添加した。得られた混合物をセライト濾過し、濾液を濃縮した。粗生成物(7.9 g)を、酢酸エチル(100 mL)、THF(50 mL)、及び酢酸エチル(100 mL)で順次ほぐし洗いした後、乾燥した。N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物3)(5.625 g, 収率94%, 純度98.4 %)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0087】
1H-NMR (60 MHz, CDCl
3+CD
3OD+D
2O+TMS) δ; 1.10-1.70 (m, 60H), 3.00-3.70 (m, 15H), 8.15 (s, 3H)。
【0088】
〔1-4:N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物5)の調製〕
[1-4-1:アミンの合成(1)]
【化15】
1 Lのナスフラスコ中で、2-(12-ヒドロキシドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(61.6 g, 0.186 mol, 1 eq)をジクロロメタン(180 mL)に溶かした。この混合物に、トリエチルアミン(28.23 g, 0.279 mol, 1.5 eq)及びメチルアミン塩酸塩(1.81 g, 0.019 mol, 0.1 eq)を添加した。混合物を5℃以下に冷却しながら、ジクロロメタン(250 mL)に溶かしたp-トルエンスルホニルクロリド(42.51 g, 0.223 mol, 1.2 eq)を滴下した。滴下終了後、混合物を10分攪拌した。反応液に、水(100 mL)を添加して相分離した。有機層を、飽和食塩水(100 mL)で洗浄した。得られた有機層を、Na
2SO
4で乾燥した。この有機層を濾過し、濾液を濃縮した。粗生成物を無色透明オイル状物として得た。粗生成物に、メタノール(50 mL)を混合して冷凍した。この凍結物を、冷たいメタノール(300 mL)でほぐしながら、吸引濾過した。濾過物を乾燥した。12-(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)ドデシル 4-メチルベンゼンスルホナート(87.1 g, 収率96%, HPLC純度100%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0089】
[1-4-2:アミンの合成(2)]
【化16】
1 Lの4つ口フラスコに、12-(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)ドデシル 4-メチルベンゼンスルホナート(87.0 g, 0.179 mol, 1 eq)を、アセトニトリル(230 mL)を用いて流し込んだ。この混合物に、ジエチルアミン(15.7 g, 0.215 mol, 1.2 eq)を加えた。この混合物に、炭酸カリウム(27.2 g, 0.197 mol, 1.1 eq)を添加した。混合物を、40℃で9時間攪拌した。反応液を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物(78.1 g)を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:350 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン = 1 : 6→メタノール : 酢酸エチル = 1: 4 +アンモニア水)で精製した。精製画分を、続けてカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル:280 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン = 1 : 9 →1 : 4)で精製した。得られた生成物を乾燥した。2-(12-(ジメチルアミノ)ドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(47.8 g, 収率69%, HPLC純度98.6%)を、黄色のオイルとして得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0090】
[1-4-3:アミンの合成(3)]
【化17】
1 Lの4つ口フラスコに、2-(12-(ジメチルアミノ)ドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(68.7 g, 0.178 mol, 1 eq)を、エタノール(545 mL)を用いて流し込んだ。この混合物に、80% ヒドラジン水和物(12.8 g, 0.204 mol, 1.15 eq)を添加した。混合物を、一晩還流した。反応液を濃縮した。得られた白色ペースト状物に、酢酸エチル : ヘキサン (2 : 1, 150 mL)の混合溶液を添加した。得られた混合物を吸引濾過した。濾過物を、アセトン : 酢酸エチル : ヘキサン(1 : 4 : 2, 200 mL)の混合溶液に溶かした。この混合物に、Na
2SO
4を加えてすり混ぜた。混合物を、吸引濾過した。濾過物に、メタノール(25 mL)を添加し、さらにアセトン : 酢酸エチル(1 : 1, 150 mL)の混合溶液を添加し混合した。得られた混合物を濾過し、濾過物を得た。前記混合及び濾過作業を4回繰り返した。全ての濾液を合わせて濃縮した。粗生成物(58.4 g)を、黄色ペーストとして得た。この粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル:517 g, 展開溶媒: アセトン: ヘキサン =1 : 2)で精製した。粗生成物(50.3 g, 収率110 %)を、黄色オイルとして得た。この粗生成物に、濃塩酸をpH 1になるまで冷却しながら添加した。添加終了後、混合物を濃縮した。析出物を、冷却しながらアセトン : IPA = 6 : 1(200 mL)の混合溶液で洗浄濾過した。濾過物を乾燥した。N
1,N
1-ジメチルドデカン-1,12-ジアミン塩酸塩(50.5 g, 収率86%)を、微黄色固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0091】
[1-4-4:化合物5の合成]
【化18】
1 Lの4つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、N
1,N
1-ジメチルドデカン-1,12-ジアミン塩酸塩(50.4 g, 0.253 mol, 4.5 eq)を入れ、トルエン : ジクロロメタン(1 : 1, 400 mL)の混合溶液で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(44.7 g, 0.442 mol, 13 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(100 mL)に溶かした1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリド(9.03 g, 0.034 mol, 1 eq)を内温10℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物にジクロロメタン(250 mL)を添加して、該混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を、水(100 mL)でクエンチし、1 N NaOH(50 mL)を添加して相分離した。有機層を、水(200 mL)、及び飽和食塩水(200 mL)で順次洗浄し、Na
2SO
4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた褐色オイルの粗生成物(50.1 g)を、カラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル:250 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン =2 : 3 → 1 : 1)で精製した。精製画分を、さらにカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル:430 g, 展開溶媒: アセトン: ヘキサン =1 : 7 → 1 : 3)で精製した。得られた黄色ワックスに、アセトン(100 mL)を添加した。混合物を濾過し、乾燥した。N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物5)(21.79 g, 収率69%、HPLC純度99.8%)を、微黄色ワックス状固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0092】
1H-NMR (60 MHz, CDCl
3+TMS) δ; 0.98 (t, J = 7.0 Hz, 18H), 1.15-1.60 (m, 60H), 2.30-2.55 (m, 18H), 3.42 (m, 6H), 6.51 (m, 3H), 8.31 (s, 3H)。
【0093】
〔1-5:N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド(化合物4)の調製〕
[1-5-1:酸クロリドの合成]
【化19】
300 mLの2つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボン酸(4.0 g, 18.502 mmol, 1 eq)を入れ、ジクロロメタン(40 mL)で懸濁させた。この混合物に、DMFを1滴添加した。次いで、この混合物に、チオニルクロリド(19.810 g, 166.519 mmol, 9 eq)を滴下した。滴下終了後、混合物を外温50℃で3時間反応させた。反応液から、チオニルクロリドを留去した。(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリドを得た。
【0094】
[1-5-2:化合物4の合成(1)]
【化20】
200 mLの4つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で12-(ベンジルオキシ)ドデカン-1-アミン(16.178 g, 55.505 mmol, 5 eq)を入れ、トルエン(62 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(4.493 g, 44.404 mmol, 4 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(20 mL)に溶かした(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリド(11.101 mmol)を内温10℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物にジクロロメタン(30 mL)を添加し、該混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を水(20 mL)でクエンチした。この反応液に、1 N NaOH(20 mL)及び5% メタノール / クロロホルムの混合溶液(300 mL)を加えて相分離した。有機層を、飽和食塩水(50 mL)で洗浄し、Na
2SO
4と、シリカゲル及び活性炭(微量)とを入れ、静置した。有機層を濾過し、濾液を濃縮した。析出物にメタノール(100 mL)を加え、再び濃縮して、白色ペーストの粗生成物(12.623 g)を得た。粗生成物を、メタノール : 水(2 : 1, 200mL)の混合溶液で洗浄し濾過した。濾過物を、メタノール(100 mL)で2回洗浄し、乾燥した。化合物4のベンジル保護誘導体(9.330 g, 収率81 %, HPLC純度96.7%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0095】
1H-NMR (60 MHz, CDCl
3+CD
3OD+TMS) δ; 1.20-2.50 (66H), 3.00-3.60 (m, 12H), 4.12 (m, 3H), 4.45 (s, 6H), 7.20 (m, 15H)。
【0096】
[1-5-3:化合物4の合成(2)]
【化21】
300 mLのナスフラスコに、化合物4のベンジル保護誘導体(9.093 g, 8.772 mmol)、メタノール(100 mL)、酢酸(2 mL)、及び10% 活性炭上パラジウム(1 g)を入れた。ナスフラスコ内の脱気及び水素置換を3回繰り返した後、混合物を、水素雰囲気下で1日強攪拌した。反応液にメタノール(200 mL)及びクロロホルム(2400 mL)を添加し、内温55℃まで加熱した。得られた混合物をセライト濾過した。濾過物を、30% メタノール / クロロホルムの混合溶液(1500 mL)に懸濁させて、内温55℃まで加熱した。得られた混合物をセライト濾過した。合わせた濾液を濃縮した。粗生成物を、メタノール(50 mL)、THF : メタノール(4 : 1, 50 mL)の混合溶液、及び酢酸エチル(100 mL)で順次ほぐし洗いした後、乾燥した。N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド(化合物4)(6.310 g, 収率94%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0097】
1H-NMR (60 MHz, CDCl
3+TFA+TMS) δ; 1.20-2.80 (m, 69H), 3.35 (m, 6H), 4.36 (t, J = 6.2 Hz, 6H), 7.40 (m, 3H)。
【0098】
〔1-6:化合物6の調製〕
[1-6-1:N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド(化合物6)の合成]
【化22】
100 mLの4つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、N
1,N
1-ジメチルドデカン-1,12-ジアミン(8.542 g, 33.304 mmol, 4.5 eq)を入れ、トルエン(34 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(2.995 g, 29.604 mmol, 4 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(11 mL)に溶かした(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリド(7.401 mmol, 1 eq)を内温10℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物にジクロロメタン(40 mL)を添加して、該混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を、水(15 mL)でクエンチし、1 N NaOH(20 mL)及び5% メタノール / クロロホルム(200 mL)を添加して相分離した。有機層を、飽和食塩水(50 mL)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた橙色ペーストの粗生成物を、アセトン(100 mL)で洗浄し、次いでアセトン : 水(2 : 1, 50 mL)の混合溶液で洗浄した。混合物を濾過し、乾燥した。N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド(化合物6)(4.138 g, 収率60 %)を、黄色ワックス状固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0099】
1H-NMR (60 MHz, CDCl
3+CD
3OD+TMS) δ; 1.00 (t, J = 7.0 Hz, 18H), 1.30 (m, 60H), 2.20-3.17 (m, 30H), 3.80 (m, 3H)。
【0100】
<2:潜熱蓄熱材の調製>
サンプル瓶に、所定割合の過冷却付与材料及びジアミノアルカンを入れて、実施例の潜熱蓄熱材を調製した。過冷却付与材料としては、前記で調製した化合物1〜6を使用した。ジアミノアルカンとしては、ジアミノオクタン(DAO、H
2N-(CH
2)
8-NH
2)及びジアミノドデカン(DAD、H
2N-(CH
2)
12-NH
2)を使用した。各実施例の組成は、下記表1〜12に示した通りである。
【0101】
<3:潜熱蓄熱材の特性解析>
〔3-1:状態観察〕
調製した実施例の潜熱蓄熱材を、約130℃に加熱して溶融させた。溶融した実施例の潜熱蓄熱材を、室温下で放冷して、該潜熱蓄熱材が凝固する状態を目視で観察した。観察した状態を、下記の基準で分類した。
状態(1):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合わない。
状態(2):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合うものの、粘度が増加しない。
状態(3):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合い且つ粘度が増加して、ゲル状態のまま過冷却する。
状態(4):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合い且つ粘度が増加するが、降温時に過冷却付与材料のみが凝集して相分離する。凝集が開始するまでは過冷却状態である。
【0102】
〔3-2:熱量測定〕
前記手順で状態観察の実験を実施した実施例の潜熱蓄熱材を、それぞれ所定量(3〜5 mg)秤量した。示差走査熱量計(DSC)(DSC Q1000、テキサスインスツルメンツ社製)を用いて、秤量した実施例の潜熱蓄熱材のサンプルの溶融温度、溶融熱量、凝固温度及び凝固熱量を測定した。前記測定結果から、実施例の潜熱蓄熱材の過冷却温度を下記の式に基づき算出した。
過冷却温度=溶融温度−凝固温度
【0103】
〔3-3:結果〕
加熱溶融直後の状態、状態(3)及び状態(4)の潜熱蓄熱材の写真を
図1に示す。図中、Aは加熱溶融直後の状態を、Bは状態(3)を、Cは状態(4)を、それぞれ示す。実施例の潜熱蓄熱材が、状態(3)又は(4)に分類される状態の場合、過冷却状態を発現したと判断した。なお、状態(1)又は(2)に分類される状態の潜熱蓄熱材であっても僅かに過冷却状態を示す場合があったが、本発明の潜熱蓄熱材における増粘効果に起因する過冷却状態の発現とは異なると考えられる。
【0104】
実施例の潜熱蓄熱材を、ジアミノアルカンの溶融温度を超える約130℃まで加熱した結果、過冷却付与材料及びジアミノアルカンが相溶し、均質な状態となった(
図1A)。その後、この潜熱蓄熱材を室温下で放冷した結果、該潜熱蓄熱材の粘度が増加し、ジアミノアルカンの溶融温度よりも低い温度で凝固した(
図1B)。この際、過冷却温度に相当する凝固熱を発生した。前記のように、実施例の潜熱蓄熱材において、増粘効果が確認された場合に過冷却効果が発現したのは、以下の原理に基づくと考えられる。実施例の潜熱蓄熱材を加熱溶融した後、放冷することにより、相溶した過冷却付与材料及びジアミノアルカンが凝固し、凝固熱を発する。過冷却付与材料の凝集温度がジアミノアルカンの凝集温度以上の場合、放冷の際、過冷却付与材料は、その分子間でミクロフィブリル状のネットワーク構造を形成すると考えられる。過冷却付与材料によるネットワーク構造の形成により、潜熱蓄熱材の粘度が増加してゲル状態となる。他方、ジアミノアルカンは、過冷却付与材料のネットワーク構造の内部に取り込まれると考えられる。このようなネットワーク構造に取り込まれることにより、ジアミノアルカンは、その溶融温度以下でも凝固することなく、安定な溶融状態を維持することができる(
図1A)。さらに温度を低下させることにより、ジアミノアルカンは、過冷却付与材料のネットワーク構造の内部で凝固し、凝固熱を発生すると考えられる(状態(3)、及び
図1B)。或いは、過冷却付与材料の凝集温度がジアミノアルカンの凝固温度未満の場合、実施例の潜熱蓄熱材を加熱溶融した後、放冷することにより、過冷却付与材料自体が凝集し、溶融状態であったジアミノアルカンが系外に排出される。この結果、ジアミノアルカンが凝固し、凝固熱を発生すると考えられる(状態(4)、及び
図1C)。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
【表7】
【0112】
【表8】
【0113】
【表9】
【0114】
【表10】
【0115】
【表11】
【0116】
【表12】
【0117】
表1〜12に示すように、実施例1-1〜1-6及び実施例2-1〜2-6の潜熱蓄熱材は、いずれも過冷却効果を発現した。実施例1-1〜1-6及び実施例2-1〜2-6の潜熱蓄熱材において、増粘効果が示された(すなわち、状態(3)又は(4)であった)のは、過冷却付与材料として化合物3、4又は6を使用した実施例1-3、2-3、1-4、2-4、1-6及び2-6の潜熱蓄熱材のみであった。
【0118】
実施例1-1〜1-6及び実施例2-1〜2-6の潜熱蓄熱材において、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差(ΔT)を
図2に示す。図中、Aは、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と5質量%の過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差を、Bは、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と10質量%の過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差を、Cは、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と20質量%の過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差を、それぞれ示す。なお、過冷却付与材料として化合物1及び2を用いた実施例1-1及び1-2、並びに実施例2-1及び2-2において、20質量%の過冷却付与材料を含有する場合には、過冷却付与材料が溶融しなかったため、測定は実施しなかった。
【0119】
ΔTは、潜熱蓄熱材の過冷却効果を定量的に示す値であって、ΔTが大きい潜熱蓄熱材ほど、過冷却効果が高いと評価できる。
図2に示すように、ジアミノアルカンとしてDAOを用いた実施例1-1〜1-6の潜熱蓄熱材の場合、ΔTの値に差はあるものの、いずれも過冷却効果を有することが明らかとなった。特に、増粘効果を示した実施例1-3、2-3、1-4、2-4、1-6及び2-6の潜熱蓄熱材は、他の実施例の潜熱蓄熱材と比較してより高い過冷却効果を発現した。前記結果より、増粘効果を示す潜熱蓄熱材は、高い過冷却効果を有すると推測される。また、前記と同様の傾向は、ジアミノアルカンとしてDADを用いた実施例2-1〜2-6の潜熱蓄熱材の場合にも確認された。
【0120】
<4:比較例の潜熱蓄熱材の特性解析>
実施例の潜熱蓄熱材の調製において、ジアミノアルカンに替えてジブロモデカン又はエリスリトールを用いた他は前記と同様の手順で、比較例の潜熱蓄熱材を調製した。
【0121】
【表13】
【0122】
【表14】
【0123】
【表15】
【0124】
【表16】
【0125】
表13〜16に示すように、比較例の潜熱蓄熱材は、いずれも状態(2)を示し、増粘効果を有しなかった。また、比較例の潜熱蓄熱材は、いずれも過冷却付与材料が潜熱蓄熱材の結晶性を大幅に損ない、潜熱量が大きく低下した。
【0126】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。