特許第6401097号(P6401097)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6401097-潜熱蓄熱材 図000041
  • 特許6401097-潜熱蓄熱材 図000042
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6401097
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月3日
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20180920BHJP
   C07C 233/65 20060101ALI20180920BHJP
   C07C 233/58 20060101ALI20180920BHJP
   C07C 233/69 20060101ALI20180920BHJP
   C07C 233/78 20060101ALI20180920BHJP
   C07C 233/60 20060101ALI20180920BHJP
   C07C 233/62 20060101ALI20180920BHJP
【FI】
   C09K5/06 J
   C07C233/65
   C07C233/58
   C07C233/69
   C07C233/78
   C07C233/60
   C07C233/62
【請求項の数】8
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2015-70130(P2015-70130)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-190894(P2016-190894A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100180862
【弁理士】
【氏名又は名称】花井 秀俊
(72)【発明者】
【氏名】西田 愛
(72)【発明者】
【氏名】本間 信孝
(72)【発明者】
【氏名】中島 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】溝下 倫大
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 健一郎
【審査官】 ▲吉▼澤 英一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−272524(JP,A)
【文献】 特開2012−077195(JP,A)
【文献】 特開平10−231465(JP,A)
【文献】 再公表特許第2014/208380(JP,A1)
【文献】 特開平10−273477(JP,A)
【文献】 特開昭58−193090(JP,A)
【文献】 欧州特許第00094366(EP,B1)
【文献】 特開2012−177113(JP,A)
【文献】 国際公開第00/052111(WO,A1)
【文献】 Rodrigo Q.et.al.,Theoretical Investigation of Macrodipoles in Supramolecular Columnar Stackings,Chemistry - A European Journal,2013年,19(5),1647-1657
【文献】 Andreas Timme,et.al.,Phase Behavior and Mesophase Structures of 1,3,5-Benzene- and 1,3,5-Cyclohexanetricarboxamides:Towards an Understanding of the Losing Order at the Transition into the Isotropic Phase,Chemistry - A European Journal,2012年,18(27),8329-8339
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/06
C07C 233/00−233/92
CA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
[式中、
nは、2〜5の整数であり、
Xは、シクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基であり、
R1は、-R2-Yであり、
R2は、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキレン、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルケニレン、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキニレンであり、ここで、前記基は、1個以上の-O-、-S-、-NH-、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の5〜15員のC3〜C6ヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7〜C20アリーレン又は置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリーレンで中断されていてもよく、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキル、-OR3、-NRN1RN2、-C(=O)R3、-COOR3、及び-SR3からなる群より選択される一価基であり、
R3は、水素、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキルであり、 RN1及びRN2は、互いに独立して、水素、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキルであり、
但し、前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、C1〜C6アルコキシ、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C6アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基である。]で表される化合物と、式(II):
H2N-(CH2)m-NH2 (II)
[式中、
mは、6〜14の整数である。]
で表されるジアミノアルカンとを含有する潜熱蓄熱材。
【請求項2】
前記式(I)で表される化合物が、前記式(II)で表されるジアミノアルカンの総質量に対して1〜20質量%の範囲で含有される、請求項1に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項3】
nが3である、請求項1又は2に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項4】
R2が、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキレン、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルケニレン、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキニレンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項5】
R2が、非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキレンであり、
Yが、メチル、ヒドロキシル、又はN,N-ジエチルアミノである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項6】
式(I)で表される化合物が、
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;又は
N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド;
である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項7】
mが8〜12の整数である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材。
【請求項8】
式(II)で表されるジアミノアルカンが、ジアミノオクタン又はジアミノドデカンである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の潜熱蓄熱材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潜熱蓄熱材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車において、エンジンの熱管理は、運転性能に影響を与える重要な要素である。例えば、エンジンの始動時には、熱が不足しているため、熱の需要が生じる。これに対し、定常走行時には、高温のエンジンを冷却するため、熱の排出に伴う熱の供給が生じる。このように、自動車においては、熱の需要及び供給のタイミングが一致していない。
【0003】
このような状況から、自動車においては、定常走行時に排出される熱を蓄えておき、次回のエンジン始動時に不足する熱の供給源として利用するための蓄熱材料の開発が求められている。蓄熱材料は、一般的に、顕熱を利用する顕熱蓄熱材、潜熱を利用する潜熱蓄熱材、及び化学反応熱を利用する化学蓄熱材に分類される。その中でも、潜熱蓄熱材は、物質が液体から固体へ相変化する際に放出する潜熱を利用して、熱の蓄積及び放出を行う材料である。この潜熱蓄熱材が相変化して凝固する凝固温度、すなわち融点が、潜熱を放出する発熱温度となる。このため、熱の放出が必要となる時点まで、潜熱蓄熱材の融点を超える温度を保ち、潜熱蓄熱材の溶融状態を維持する必要がある。
【0004】
長鎖アルカン及びシクロアルカン類は、その潜熱量の大きさから、蓄熱(蓄冷)材としてよく用いられている(例えば、JX日鉱日石エネルギー社製、商品名エコジュール)。しかしながら、溶融させた潜熱蓄熱材を液体の状態に保ち、次回のエンジン始動時に潜熱を放出させるためには、潜熱蓄熱材の温度を維持する断熱材が必要となる。例えば、冬期の夜間におけるエンジン始動時を想定すると、大量の断熱材が必要となることから、このような態様は現実的とは言えない。
【0005】
前記のような問題を解決するために、潜熱蓄熱材に過冷却効果を付与する成分(以下、「過冷却付与材料」とも記載する)を添加することにより、過冷却効果を利用して潜熱蓄熱材の融点以下の温度でも溶融状態を安定的に維持する手段が開発された。
【0006】
例えば、特許文献1は、無機或いは有機水和塩のうち少なくとも1種と、固相から液相に相変化した時に通常発生する相分離現象を防止する効果を有する水溶性又は加水分解により水溶性となる増粘剤と、固相から液相へ相変化時の潜熱放出速度を制御する水不溶性で吸水効果を有する保水剤が同時に含まれており、核生成材の不在下において、相変化温度以下の周囲温度に過冷却されても所定温度までその液相状態を保持でき且つ保水剤含有量により潜熱放出速度を制御することが可能であることを特徴とし、増粘剤として天然多糖類及びその誘導体又はタンパク質又は天然及び合成有機物、保水剤として水不溶性の高分子吸水剤又は無機吸水剤を含む潜熱蓄熱材を記載する。当該文献は、水和塩が酢酸ナトリウム3水塩であってよく、増粘剤がヒドロキシエチルセルロース又はポリアクリルアミド系凝集剤等であってよいことを記載する。
【0007】
特許文献2は、凝固・融解の相変化により熱を授受する無機或いは有機の水和塩と親水性有機高分子との混合物からなることを特徴とする蓄熱装置を記載する。当該文献は、水和塩が酢酸ナトリウム3水塩であってよく、親水性有機高分子がポリアクリルアミド−アクリル酸共重合体であってよいことを記載する。
【0008】
特許文献3は、式(I)で示されるN-サリチリデンアミン化合物を含むことを特徴とする、蓄熱材を記載する。当該文献は、N-サリチリデンアミン化合物を、過冷却状態を破るトリガーとして使用することを記載する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭63-230785号公報
【特許文献2】特開平01-098689号公報
【特許文献3】特開2013-216876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記の通り、過冷却付与材料を含有することによって、過冷却効果を発現させる潜熱蓄熱材が知られている。しかしながら、これら公知の潜熱蓄熱材には、潜熱を放出する温度及び潜熱量の観点から改善すべき余地が存在した。例えば、過冷却は物質固有の物性であることから、公知の過冷却付与材料で得られる過冷却効果を、任意の温度領域に制御することは困難である。
【0011】
ジアミノアルカンは、潜熱を放出する温度が中低温の温度領域であり、且つ潜熱が大きいことから、有用な潜熱蓄熱材と考えられる。しかしながら、ジアミノアルカンは、過冷却効果を発現し難いことが知られていた。このため、ジアミノアルカンを含有する潜熱蓄熱材に、過冷却効果を発現させることができる材料が必要とされた。
【0012】
それ故、本発明は、過冷却効果を発現することによって中低温の温度領域で潜熱を放出し得る、ジアミノアルカンを含有する潜熱蓄熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した。本発明者らは、ジアミノアルカンと、過冷却付与材料としてシクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基に鎖式基が結合した構造を有する化合物とを含有する潜熱蓄熱材は、過冷却効果を発現して約50℃の中低温の温度領域で安定的に潜熱を放出できることを見出した。本発明者らは、前記知見に基づき本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1) 式(I):
【化1】
[式中、
nは、2〜5の整数であり、
Xは、シクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基であり、
R1は、-R2-Yであり、
R2は、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキレン、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルケニレン、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキニレンであり、ここで、前記基は、1個以上の-O-、-S-、-NH-、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の5〜15員のC3〜C6ヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7〜C20アリーレン又は置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリーレンで中断されていてもよく、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキル、-OR3、-NRN1RN2、-C(=O)R3、-COOR3、及び-SR3からなる群より選択される一価基であり、
R3は、水素、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキルであり、
RN1及びRN2は、互いに独立して、水素、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキルであり、
但し、前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、C1〜C6アルコキシ、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C6アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基である。]
で表される化合物と、式(II):
H2N-(CH2)m-NH2 (II)
[式中、
mは、6〜14の整数である。]
で表されるジアミノアルカンとを含有する潜熱蓄熱材。
(2) 前記式(I)で表される化合物が、前記式(II)で表されるジアミノアルカンの総質量に対して1〜20質量%の範囲で含有される、前記(1)に記載の潜熱蓄熱材。
(3) nが3である、前記(1)又は(2)に記載の潜熱蓄熱材。
(4) R2が、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキレン、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルケニレン、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキニレンである、前記(1)〜(3)のいずれかに記載の潜熱蓄熱材。
(5) R2が、非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキレンであり、
Yが、メチル、ヒドロキシル、又はN,N-ジエチルアミノである、前記(1)〜(4)のいずれかに記載の潜熱蓄熱材。
(6) 式(I)で表される化合物が、
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;又は
N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド;
である、前記(1)〜(5)のいずれかに記載の潜熱蓄熱材。
(7) mが8〜12の整数である、前記(1)〜(6)のいずれかに記載の潜熱蓄熱材。
(8) 式(II)で表されるジアミノアルカンが、ジアミノオクタン又はジアミノドデカンである、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の潜熱蓄熱材。
(9) 式(I):
【化2】
[式中、
nは、2〜5の整数であり、
Xは、シクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基であり、
R1は、-R2-Yであり、
R2は、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキレン、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルケニレン、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキニレンであり、ここで、前記基は、1個以上の-O-、-S-、-NH-、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の5〜15員のC3〜C6ヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7〜C20アリーレン又は置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリーレンで中断されていてもよく、
Yは、直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキル、-OR3、-NRN1RN2、-C(=O)R3、-COOR3、及び-SR3からなる群より選択される一価基であり、
R3は、水素、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキルであり、
RN1及びRN2は、互いに独立して、水素、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキルであり、
但し、前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、C1〜C6アルコキシ、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C6アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基である。]
で表される化合物若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物。
(10) 式(I)で表される化合物が、
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;又は
N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド;
である、前記(9)に記載の化合物。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、過冷却効果を発現することによって中低温の温度領域で潜熱を放出し得る、ジアミノアルカンを含有する潜熱蓄熱材を提供することが可能となる。
【0016】
前記以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、加熱溶融直後の状態、状態(3)及び状態(4)の潜熱蓄熱材の写真である。A:加熱溶融直後の状態;B:状態(3);C:状態(4)。
図2図2は、実施例1-1〜1-6及び実施例2-1〜2-6の潜熱蓄熱材において、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差(ΔT)を示すグラフである。A:過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と5質量%の過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差;B:過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と10質量%の過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差;C:過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と20質量%の過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
【0019】
<1:潜熱蓄熱材>
本発明は、式(I):
【化3】
で表される化合物と、式(II):
H2N-(CH2)m-NH2 (II)
で表されるジアミノアルカンとを含有する潜熱蓄熱材に関する。
【0020】
ジアミノアルカンは、潜熱を放出する温度が中低温の温度領域であり、且つ潜熱が大きいことから、有用な潜熱蓄熱材と考えられる。しかしながら、ジアミノアルカンは、過冷却効果を発現し難いことが知られていた。本発明者らは、ジアミノアルカンと式(I)で表される化合物とを含有する潜熱蓄熱材は、過冷却効果を発現して約50℃の中低温の温度領域で安定的に潜熱を放出できることを見出した。式(I)で表される化合物は、本発明者らが見出した新規化合物である。また、式(I)で表される化合物は、本発明の潜熱蓄熱材において、過冷却付与材料として機能し得る。ジアミノアルカンと組み合わせることで過冷却効果を発現し得る化合物は、これまで知られていなかった。それ故、式(I)で表される化合物とジアミノアルカンとを組み合わせることによって、ジアミノアルカンに過冷却効果を付与することができる。これにより、約50℃の中低温の温度領域で安定的に潜熱を放出し得る潜熱蓄熱材を提供することができる。
【0021】
本発明の潜熱蓄熱材が、前記のような作用効果を奏する理由は、以下のように説明することができる。なお、本発明は、以下の作用・原理に限定されるものではない。本発明の潜熱蓄熱材を加熱溶融した後、放冷することにより、相溶した式(I)で表される化合物及びジアミノアルカンが凝固し、凝固熱を発する。式(I)で表される化合物の凝集温度がジアミノアルカンの凝集温度以上の場合、放冷の際、式(I)で表される化合物は、その分子間でミクロフィブリル状のネットワーク構造を形成すると考えられる。式(I)で表される化合物によるネットワーク構造の形成により、潜熱蓄熱材の粘度が増加してゲル状態となる。他方、ジアミノアルカンは、式(I)で表される化合物のネットワーク構造の内部に取り込まれると考えられる。このようなネットワーク構造に取り込まれることにより、ジアミノアルカンは、その溶融温度以下でも凝固することなく、安定な溶融状態を維持することができる。さらに温度を低下させることにより、ジアミノアルカンは、式(I)で表される化合物のネットワーク構造の内部で凝固し、凝固熱を発生すると考えられる。或いは、式(I)で表される化合物の凝集温度がジアミノアルカンの凝固温度未満の場合、本発明の潜熱蓄熱材を加熱溶融した後、放冷することにより、式(I)で表される化合物自体が凝集し、溶融状態であったジアミノアルカンが系外に排出される。この結果、ジアミノアルカンが凝固し、凝固熱を発生すると考えられる。一般に、増粘剤を含有する蓄熱材料はよく知られている(例えば、特開2014-189779号公報)。しかしながら、これら公知の蓄熱材料において、増粘剤は、通常は、該蓄熱材料の粘度を増加させることによって液漏れを防止することを主な目的として使用される。式(I)で表される化合物のように、増粘効果を有する化合物が、潜熱蓄熱材の過冷却付与材料として使用し得ることは、これまで知られていなかった新規な知見である。
【0022】
本明細書において、化学式中の基に使用される接頭辞「n」はノルマルを、「i」若しくは「iso」はイソを、「s」若しくは「sec」はセカンダリーを、「t」若しくは「tert」はターシャリーを、「c」はシクロを、「o」はオルトを、「m」はメタを、「p」はパラを、それぞれ意味する。
【0023】
本明細書において、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。例えば、「C1〜C6アルキル」は、少なくとも1個且つ多くても6個の炭素原子を含む、直鎖又は分枝鎖の飽和脂肪族炭化水素基を意味する。また、本明細書において、「アルキレン」は、前記アルキルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なアルキルは、限定するものではないが、例えばメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、1-メチル-n-ブチル、2-メチル-n-ブチル、3-メチル-n-ブチル、1,1-ジメチル-n-プロピル、1,2-ジメチル-n-プロピル、2,2-ジメチル-n-プロピル、1-エチル-n-プロピル、n-ヘキシル、1-メチル-n-ペンチル、2-メチル-n-ペンチル、3-メチル-n-ペンチル、4-メチル-n-ペンチル、1,1-ジメチル-n-ブチル、1,2-ジメチル-n-ブチル、1,3-ジメチル-n-ブチル、2,2-ジメチル-n-ブチル、2,3-ジメチル-n-ブチル、3,3-ジメチル-n-ブチル、1-エチル-n-ブチル、2-エチル-n-ブチル、1,1,2-トリメチル-n-プロピル、1,2,2-トリメチル-n-プロピル、1-エチル-1-メチル-n-プロピル及び1-エチル-2-メチル-n-プロピル等の直鎖又は分枝鎖のC1〜C6アルキルを挙げることができる。
【0024】
本明細書において、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。また、本明細書において、「アルケニレン」は、前記アルケニルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なアルケニルは、限定するものではないが、例えばビニル、1-プロペニル、アリル、1-メチルエテニル(イソプロペニル)、1-ブテニル、2-ブテニル、3-ブテニル、1-メチル-2-プロペニル、2-メチル-2-プロペニル、1-メチル-1-プロペニル、2-メチル-1-プロペニル、1-ペンテニル及びヘキセニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C6アルケニルを挙げることができる。
【0025】
本明細書において、「アルキニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。また、本明細書において、「アルキニレン」は、前記アルキニルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なアルキニルは、限定するものではないが、例えばエチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル、1-メチル-2-プロピニル、1-ペンチニル及びヘキシニル等の直鎖又は分枝鎖のC2〜C6アルキニルを挙げることができる。
【0026】
本明細書において、「シクロアルキル」は、特定の数の炭素原子を含む、脂環式アルキルを意味する。例えば、「C3〜C6シクロアルキル」は、少なくとも3個且つ多くても6個の炭素原子を含む、環式の炭化水素基を意味する。また、本明細書において、「シクロアルキレン」は、前記シクロアルキルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、1-メチルシクロブチル、2-メチルシクロブチル、3-メチルシクロブチル、1,2-ジメチルシクロプロピル、2,3-ジメチルシクロプロピル、1-エチルシクロプロピル、2-エチルシクロプロピル、シクロヘキシル、1-メチルシクロペンチル、2-メチルシクロペンチル、3-メチルシクロペンチル、1-エチルシクロブチル、2-エチルシクロブチル、3-エチルシクロブチル、1,2-ジメチルシクロブチル、1,3-ジメチルシクロブチル、2,2-ジメチルシクロブチル、2,3-ジメチルシクロブチル、2,4-ジメチルシクロブチル、3,3-ジメチルシクロブチル、1-n-プロピルシクロプロピル、2-n-プロピルシクロプロピル、1-イソプロピルシクロプロピル、2-イソプロピルシクロプロピル、1,2,2-トリメチルシクロプロピル、1,2,3-トリメチルシクロプロピル、2,2,3-トリメチルシクロプロピル、1-エチル-2-メチルシクロプロピル、2-エチル-1-メチルシクロプロピル、2-エチル2-メチルシクロプロピル及び2-エチル-3-メチルシクロプロピル等のC3〜C6シクロアルキルを挙げることができる。
【0027】
本明細書において、「シクロアルケニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。また、本明細書において、「シクロアルケニレン」は、前記シクロアルケニルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なシクロアルケニルは、限定するものではないが、例えばシクロブテニル、シクロペンテニル及びシクロヘキセニル等のC4〜C6シクロアルケニルを挙げることができる。
【0028】
本明細書において、「シクロアルキニル」は、前記シクロアルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。また、本明細書において、「シクロアルキニレン」は、前記シクロアルキニルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なシクロアルキニルは、限定するものではないが、例えばシクロブチニル、シクロペンチニル及びシクロヘキシニル等のC4〜C6シクロアルキニルを挙げることができる。
【0029】
本明細書において、「ヘテロシクロアルキル」は、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立して窒素(N)、硫黄(S)及び酸素(O)から選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。また、本明細書において、「ヘテロシクロアルキレン」は、前記ヘテロシクロアルキルからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロシクロアルキルは、限定するものではないが、例えばピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ジヒドロフラニル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロピラニル、ジヒドロピラニル、テトラヒドロチオピラニル、ピペリジニル、モルホリニル、チオモルホリニル及びピペラジニル等の3〜6員のヘテロシクロアルキルを挙げることができる。
【0030】
本明細書において、「アルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルに置換された基を意味する。好適なアルコキシは、限定するものではないが、例えばメトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、n-ブトキシ、イソブトキシ、sec-ブトキシ、tert-ブトキシ、n-ペントキシ、1-メチル-n-ブトキシ、2-メチル-n-ブトキシ、3-メチル-n-ブトキシ、1,1-ジメチル-n-プロポキシ、1,2-ジメチル-n-プロポキシ、2,2-ジメチル-n-プロポキシ、1-エチル-n-プロポキシ、n-ヘキシルオキシ、1-メチル-n-ペンチルオキシ、2-メチル-n-ペンチルオキシ、3-メチル-n-ペンチルオキシ、4-メチル-n-ペンチルオキシ、1,1-ジメチル-n-ブトキシ、1,2-ジメチル-n-ブトキシ、1,3-ジメチル-n-ブトキシ、2,2-ジメチル-n-ブトキシ、2,3-ジメチル-n-ブトキシ、3,3-ジメチル-n-ブトキシ、1-エチル-n-ブトキシ、2-エチル-n-ブトキシ、1,1,2-トリメチル-n-プロポキシ、1,2,2-トリメチル-n-プロポキシ、1-エチル-1-メチル-n-プロポキシ、及び1-エチル-2-メチル-n-プロポキシ等のC1〜C6アルコキシを挙げることができる。
【0031】
本明細書において、「シクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記シクロアルキル、シクロアルケニル又はシクロアルキニルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えばシクロプロポキシ、シクロブトキシ、1-メチル-シクロプロポキシ、2-メチル-シクロプロポキシ、シクロペンチルオキシ、1-メチル-シクロブトキシ、2-メチル-シクロブトキシ、3-メチル-シクロブトキシ、1,2-ジメチル-シクロプロポキシ、2,3-ジメチル-シクロプロポキシ、1-エチル-シクロプロポキシ、2-エチル-シクロプロポキシ、シクロヘキシルオキシ、1-メチル-シクロペンチルオキシ、2-メチル-シクロペンチルオキシ、3-メチル-シクロペンチルオキシ、1-エチル-シクロブトキシ、2-エチル-シクロブトキシ、3-エチル-シクロブトキシ、1,2-ジメチル-シクロブトキシ、1,3-ジメチル-シクロブトキシ、2,2-ジメチル-シクロブトキシ、2,3-ジメチル-シクロブトキシ、2,4-ジメチル-シクロブトキシ、3,3-ジメチル-シクロブトキシ、1-n-プロピル-シクロプロポキシ、2-n-プロピル-シクロプロポキシ、1-イソプロピル-シクロプロポキシ、2-イソプロピル-シクロプロポキシ、1,2,2-トリメチル-シクロプロポキシ、1,2,3-トリメチル-シクロプロポキシ、2,2,3-トリメチル-シクロプロポキシ、1-エチル-2-メチル-シクロプロポキシ、2-エチル1-メチル-シクロプロポキシ、2-エチル-2-メチル-シクロプロポキシ及び2-エチル-3-メチル-シクロプロポキシ等のC3〜C6シクロアルコキシを挙げることができる。
【0032】
本明細書において、「ヘテロシクロアルコキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロシクロアルキルに置換された基を意味する。好適なシクロアルコキシは、限定するものではないが、例えば3〜6員のヘテロシクロアルコキシを挙げることができる。
【0033】
本明細書において、「アリール」は、芳香環基を意味する。また、本明細書において、「アリーレン」は、前記アリールからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。好適なアリールは、限定するものではないが、例えばフェニル、o-ビフェニル、m-ビフェニル、p-ビフェニル、テルフェニル、α-ナフチル、β-ナフチル及びアントラセニル等のC4〜C20アリールを挙げることができる。
【0034】
本明細書において、「アリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばベンジル、1-フェネチル、2-フェネチル、ビフェニルメチル、テルフェニルメチル及びスチリル等のC7〜C20アリールアルキルを挙げることができる。
【0035】
本明細書において、「ヘテロアリール」は、前記アリールの1個以上の炭素原子が、それぞれ独立してN、S及びOから選択される1個以上のヘテロ原子に置換された基を意味する。また、本明細書において、「ヘテロアリーレン」は、前記ヘテロアリールからさらに1個の水素原子を除いた2価基を意味する。この場合において、N又はSによる置換は、それぞれN-オキシド又はSのオキシド若しくはジオキシドによる置換を包含する。好適なヘテロアリールは、限定するものではないが、例えばフラニル、チエニル(チオフェンイル)、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、イソチアゾリル、ピリジル、ピリダジニル、ピラジニル、ピリミジニル、キノリニル、イソキノリニル及びインドリル等の5〜15員のヘテロアリールを挙げることができる。
【0036】
本明細書において、「ヘテロアリールアルキル」は、前記アルキル、アルケニル又はアルキニルの水素原子の1個が前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルは、限定するものではないが、例えばピリジルメチル等の5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルを挙げることができる。
【0037】
本明細書において、「アリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールに置換された基を意味する。好適なアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフェノキシ、ビフェニルオキシ、ナフチルオキシ及びアントリルオキシ(アントラセニルオキシ)等のC6〜C15アリールオキシを挙げることができる。
【0038】
本明細書において、「アリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記アリールアルキルに置換された基を意味する。好適なアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えばベンジルオキシ、1-フェネチルオキシ、2-フェネチルオキシ及びスチリルオキシ等のC7〜C20アリールアルキルオキシを挙げることができる。
【0039】
本明細書において、「ヘテロアリールオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールオキシは、限定するものではないが、例えばフラニルオキシ、チエニルオキシ(チオフェンイルオキシ)、ピロリルオキシ、イミダゾリルオキシ、ピラゾリルオキシ、トリアゾリルオキシ、テトラゾリルオキシ、チアゾリルオキシ、オキサゾリルオキシ、イソオキサゾリルオキシ、オキサジアゾリルオキシ、チアジアゾリルオキシ、イソチアゾリルオキシ、ピリジルオキシ、ピリダジニルオキシ、ピラジニルオキシ、ピリミジニルオキシ、キノリニルオキシ、イソキノリニルオキシ及びインドリルオキシ等の5〜15員のヘテロアリールオキシを挙げることができる。
【0040】
本明細書において、「ヘテロアリールアルキルオキシ」は、ヒドロキシルの水素原子が、前記ヘテロアリールアルキルに置換された基を意味する。好適なヘテロアリールアルキルオキシは、限定するものではないが、例えば5〜15員のヘテロアリール-C1〜C9アルキルオキシを挙げることができる。
【0041】
本明細書において、「アシル」は、前記で説明した基から選択される1価基とカルボニルとが連結した基を意味する。好適なアシルは、限定するものではないが、例えばホルミル、アセチル及びプロピオニル等のC1〜C6脂肪族アシル、並びにベンゾイル等のC4〜C20芳香族アシルを挙げることができる。
【0042】
本明細書において、「エステル」は、前記で説明した基から選択される1価基を有するアルコールとカルボキシルとがエステル結合を形成した構造を有する基(すなわちアルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アリールアルキルオキシカルボニル、ヘテロアリールオキシカルボニル又はヘテロアリールアルキルオキシカルボニル)を意味する。
【0043】
前記で説明した基は、それぞれ独立して、非置換であるか、或いは1個以上の前記で説明した1価基によってさらに置換することもできる。
【0044】
本明細書において、「ハロゲン」又は「ハロ」は、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)又はヨウ素(I)を意味する。
【0045】
式(I)において、nは、2〜5の整数であることが必要である。nは、2〜3の整数であることが好ましく、3であることがより好ましい。nが前記下限値未満の場合、式(I)で表される化合物の分子間でミクロフィブリル状のネットワーク構造を形成することが困難となる可能性がある。nが前記上限値を超える場合、-C(=O)-NH-R1で表される鎖式基の密度が高くなり過ぎ、式(I)で表される化合物のネットワーク構造によって形成されるゲル状態が不安定となる可能性がある。それ故、nが前記範囲の場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成して、所望の過冷却効果を発現することができる。
【0046】
式(I)において、Xは、シクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基であることが必要である。Xは、1,3,5-位に-C(=O)-NH-R1で表される鎖式基が結合する構造を有するシクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基であることが好ましい。Xが前記構造を有する基である場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成して、所望の過冷却効果を発現することができる。
【0047】
式(I)において、R1は、-R2-Yであることが必要である。
【0048】
式(I)において、R2は、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキレン、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルケニレン、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C18アルキニレンであることが必要である。R2は、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキレン、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルケニレン、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキニレンであることが好ましい。前記基は、1個以上の-O-、-S-、-NH-、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルケニレン、置換若しくは非置換のC3〜C6シクロアルキニレン、置換若しくは非置換の5〜15員のC3〜C6ヘテロシクロアルキレン、置換若しくは非置換のC7〜C20アリーレン又は置換若しくは非置換の5〜15員のヘテロアリーレンで中断されていてもよい。R2は、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキレン、置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルケニレン、又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキニレンであることが好ましく、非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC6〜C12アルキレンであることがより好ましく、非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC8〜C12アルキレンであることがさらに好ましく、オクチル、3-メチルオクチル又はドデカノイルであることが特に好ましい。R2が前記構造を有する基である場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成して、所望の過冷却効果を発現することができる。
【0049】
式(I)において、Yは、電子供与性一価基である。本発明の一実施形態において、式(I)におけるYは、例えば、直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキル、-OR3、-NRN1RN2、アシル基(-C(=O)R3)、エステル基(-COOR3)、及びチオール基(-SR3)からなる群より選択される一価基である。Yは、直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキル、-OR3、及び-NRN1RN2からなる群より選択される一価基であることが好ましく、メチル、ヒドロキシル、又はN,N-ジエチルアミノであることがより好ましい。R2が前記特徴及び構造を有する基である場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造の内部に式(II)で表されるジアミノアルカンを安定的に取り込み、所望の過冷却効果を発現することができる。
【0050】
式(I)において、R3は、水素又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキルであることが必要である。R3は、水素、メチル、エチル、プロピル又はブチルであることが好ましく、水素であることがより好ましい。R2が前記構造を有する基である場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造の内部に式(II)で表されるジアミノアルカンを安定的に取り込み、所望の過冷却効果を発現することができる。
【0051】
式(I)において、RN1及びRN2は、互いに独立して、水素又は置換若しくは非置換の直鎖若しくは分岐鎖のC1〜C6アルキルであることが必要である。RN1及びRN2は、互いに独立して、メチル、エチル、プロピル又はブチルであることが好ましく、いずれもエチルであることがより好ましい。RN1及びRN2が前記構造を有する基である場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造の内部に式(II)で表されるジアミノアルカンを安定的に取り込み、所望の過冷却効果を発現することができる。
【0052】
式(I)において、前記基が置換されている場合、該置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン、C1〜C6アルキル、C2〜C6アルケニル、C2〜C6アルキニル、C3〜C6シクロアルキル、C3〜C6シクロアルケニル、C3〜C6シクロアルキニル、C1〜C6アルコキシ、C6〜C15アリールオキシ、C7〜C20アリールアルキルオキシ、5〜15員のヘテロアリールオキシ、5〜15員のヘテロアリール-C1〜C6アルキルオキシ、C1〜C6アルコキシカルボニル、C3〜C6シクロアルコキシカルボニル、及びC1〜C6アシルオキシからなる群より選択される1個以上の1価基である。前記基がこれらの置換基を有する場合であっても、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成して、所望の過冷却効果を発現することができる。
【0053】
特に好ましい式(I)で表される化合物は、以下:
nが、3の整数であり、
Xが、1,3,5-位に-C(=O)-NH-R1で表される鎖式基が結合する構造を有するシクロヘキサン環又はベンゼン環に由来する基であり、
R1が、-R2-Yであり、且つ
R2が、オクチル、3-メチルオクチル又はドデカノイルである。
【0054】
とりわけ特に好ましい式(I)で表される化合物は、以下:
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド;
N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド;又は
N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド;
である。
【0055】
式(I)で表される化合物は、本発明者らが見出した新規化合物である。式(I)で表される化合物は、加熱溶融した後、放冷することにより、その分子間でミクロフィブリル状のネットワーク構造を形成してゲル状態となる。ゲル状態となった式(I)で表される化合物は、そのネットワーク構造の内部に、ジアミノアルカンのような潜熱蓄熱材を取り込んで過冷却効果を発現することができる。それ故、式(I)で表される化合物は、ジアミノアルカンのような潜熱蓄熱材に対する過冷却付与材料として使用することができる。
【0056】
式(II)において、mは、6〜14の整数であることが必要である。mは、8〜12の整数であることが好ましく、8又は12の整数であることがより好ましい。
【0057】
特に好ましい式(II)で表される化合物は、ジアミノオクタン又はジアミノドデカンである。前記化合物を、式(I)で表される化合物を含有する本発明の潜熱蓄熱材に使用することにより、過冷却効果を発現して約50℃の中低温の温度領域で安定的に潜熱を放出することができる。
【0058】
本発明において、式(I)及び(II)で表される化合物、並びに以下において説明する式(III)及び(IV)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、その塩も包含する。本発明の前記各式で表される化合物の塩としては、限定するものではないが、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、炭酸若しくはリン酸のような無機酸、又はギ酸、酢酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、アスコルビン酸、コハク酸、ビスメチレンサリチル酸、メタンスルホン酸、エタンジスルホン酸、プロピオン酸、酒石酸、サリチル酸、クエン酸、グルコン酸、アスパラギン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、イタコン酸、グリコール酸、p-アミノ安息香酸、グルタミン酸、ベンゼンスルホン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、イセチオン酸、p-トルエンスルホン酸若しくはナフタレンスルホン酸のような有機酸アニオンとの塩が好ましい。式(I)及び式(II)で表される化合物が前記の塩の形態である場合であっても、本発明の潜熱蓄熱材に適用することができる。
【0059】
式(I)及び式(II)で表される化合物、並びに以下において説明する式(III)及び(IV)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、該化合物又はその塩の溶媒和物も包含する。前記化合物又はその塩と溶媒和物を形成し得る溶媒としては、限定するものではないが、例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール若しくは2-プロパノール(イソプロピルアルコール)のような1〜6の炭素原子数を有するアルコール)、高級アルコール(例えば、1-ヘプタノール若しくは1-オクタノールのような7以上の炭素原子数を有するアルコール)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、酢酸、エタノールアミン若しくは酢酸エチルのような有機溶媒、又は水が好ましい。式(I)及び式(II)で表される化合物又はその塩が前記の溶媒との溶媒和物の形態である場合であっても、本発明の潜熱蓄熱材に適用することができる。
【0060】
式(I)及び式(II)で表される化合物、並びに以下において説明する式(III)及び(IV)で表される化合物は、該化合物自体だけでなく、その保護形態も包含する。本明細書において、「保護形態」は、1個又は複数の官能基(例えばヒドロキシル基又はアミノ基)に保護基が導入された形態を意味する。本明細書において、特定の化合物の保護形態を、該特定の化合物の保護誘導体と記載する場合がある。また、本明細書において、「保護基」は、望ましくない反応の進行を防止するために、特定の官能基に導入される基であって、特定の反応条件において定量的に除去され、且つそれ以外の反応条件においては実質的に安定、即ち反応不活性である基を意味する。前記化合物の保護形態を形成し得る保護基としては、限定するものではないが、例えば、ヒドロキシル基の保護基の場合、ベンジル、トシル、シリル(例えば、t-ブチルジメチルシリル(TBS)、トリイソプロピルシリル(TIPS)若しくはtert-ブチルジフェニルシリル(TBDPS))、アルコキシ(例えば、メトキシメトキシ(MOM)若しくはメトキシ(Me))又は環状アセタール(例えば、ベンジリデンアセタール若しくはジメチルアセタール)が、アミノ基の保護基の場合、フタルイミド、tert-ブチルオキシカルボニル(Boc)又はベンジルオキシカルボニル(Z)が、それぞれ好ましい。前記保護基による保護化及び脱保護化は、公知の反応条件に基づき、当業者が適宜実施することができる。式(I)及び式(II)で表される化合物が前記の保護基による保護形態である場合であっても、本発明の潜熱蓄熱材に適用することができる。
【0061】
また、式(I)及び式(II)で表される化合物、並びに以下において説明する式(III)及び(IV)で表される化合物が1又は複数の立体中心(キラル中心)を有する場合、前記化合物は、該化合物の個々のエナンチオマー及びジアステレオマー、並びにラセミ体のようなそれらの混合物も包含する。
【0062】
本発明の潜熱蓄熱材において、式(I)で表される化合物は、式(II)で表されるジアミノアルカンの総質量に対して1〜20質量%の範囲で含有されることが好ましく、5〜20質量%の範囲で含有されることがより好ましく、5〜10質量%の範囲で含有されることがさらに好ましい。式(I)で表される化合物の含有量が前記下限値未満の場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成できず、所望の過冷却効果を発現できない可能性がある。式(I)で表される化合物の含有量が前記上限値を超える場合、式(I)で表される化合物が十分に溶融しない可能性がある。それ故、式(I)で表される化合物の含有量が前記範囲内の場合、式(I)で表される化合物のネットワーク構造を安定的に形成して、所望の過冷却効果を発現することができる。
【0063】
本発明の潜熱蓄熱材は、式(I)で表される化合物を準備する工程、式(II)で表されるジアミノアルカンを準備する工程、式(I)で表される化合物と式(II)で表されるジアミノアルカンとを混合し、所定の温度で加熱して、該化合物を溶融させる工程を含む方法によって製造することができる。
【0064】
式(I)で表される化合物を準備する工程は、式(III):
【化4】
で表される化合物と、式(IV):
R1-NH2 (IV)
で表される化合物とを反応させる工程を含む、式(I)で表される化合物を製造する方法を適用することにより、実施することが好ましい。
【0065】
式(III)及び(IV)において、n、X及びR1は、前記と同義である。
【0066】
式(III)において、Lは、カルボン酸の活性化基である。本発明において、「カルボン酸の活性化基」は、カルボン酸とアミンとの縮合反応において、カルボキシル基に導入されて、アミド結合を形成する縮合反応を促進する脱離基を意味する。Lは、ハロゲンであるか、又は1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド若しくは1-エチル-3-(3’-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドのような縮合剤とカルボン酸との反応によって形成される活性化中間体の残基であることが好ましく、ハロゲンであることがより好ましく、塩素であることがさらに好ましい。Lがハロゲンの場合、式(III)で表される化合物は、酸ハロゲン化物の形態となる。Lが前記特徴を有する基の場合、式(IV)で表される化合物の1級アミノ基と縮合反応して、目的の式(I)で表される化合物を高収率で得ることができる。
【0067】
前記製造方法において、式(III)及び(IV)で表される化合物は、予め調製された化合物を購入等して準備してもよく、当該技術分野で通常使用される合成的手段により、自ら合成して準備してもよい。前記化合物を自ら合成する実施形態の場合、式(III)及び(IV)で表される化合物、並びにそれらの原料化合物は、該化合物自体であってもよく、それらの保護誘導体であってもよい。いずれの場合も、前記製造方法の実施形態に包含される。
【0068】
式(II)で表される化合物を準備する工程において、該化合物は、予め調製された化合物を購入等して準備してもよく、当該技術分野で通常使用される合成的手段により、自ら合成して準備してもよい。前記化合物を自ら合成する実施形態の場合、式(II)で表される化合物、並びにそれらの原料化合物は、該化合物自体であってもよく、それらの保護誘導体であってもよい。いずれの場合も、本工程の実施形態に包含される。
【0069】
式(I)で表される化合物及び式(II)で表されるジアミノアルカンを溶融させる工程は、式(II)で表されるジアミノアルカンの溶融温度を超える温度でこれらの化合物を加熱することにより、実施される。前記加熱温度は、通常は50℃以上であり、50〜140℃の範囲であることが好ましく、120〜130℃の範囲であることがより好ましい。加熱温度が前記下限値未満の場合、式(II)で表されるジアミノアルカンが十分に溶融しない可能性がある。それ故、前記範囲内の温度で加熱することにより、式(II)で表されるジアミノアルカンを十分に溶融させて、式(I)で表される化合物のネットワーク構造の内部に取り込ませ、所望の過冷却効果を発現することができる。
【0070】
以上詳細に説明したように、本発明の潜熱蓄熱材は、式(I)で表される化合物による過冷却効果によって、約50℃の中低温の温度領域で安定的に潜熱を放出することができる。それ故、本発明の潜熱蓄熱材は、例えば、自動車の排熱利用システム、又は住宅等の空調システムに使用することができる。前記用途に本発明の潜熱蓄熱材を使用することにより、熱エネルギーを効率的に利用して、燃料の消費量及びそれに要する費用を削減して、燃費を向上させることができる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
<1:過冷却付与材料の調製>
以下の合成において、化合物の機器分析は以下の条件で行った。
1H-NMR:
分析装置:JEOL PMX60SI
周波数:60 MHz
掃引幅:0〜600 Hz
IR:
分析装置:Shimadzu FTIR-8300
HPLC:
分析装置:Shimadzu LC-10A
カラム:Mightysil RP-18 GP 250 mm×4.6 mm(5 μm)
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン(THF):アセトニトリル=1:4(化合物1、2及び5)
メタノール(化合物3、4及び6)
流速:0.5 ml/分
検出:UV(254 nm)
【0073】
〔1-1:N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物1)の調製〕
[1-1-1:アミンの合成(1)]
【化5】
200 mLの4つ口フラスコに、1-ブロモ-3,7-ジメチルオクタン(29.2 g, 0.132 mol, 1 eq)及びフタルイミドカリウム塩(25.7 g, 0.138 mol, 1.05 eq)を、DMF(126 mL)を用いて流し込んだ。この混合物を、外温60℃で2時間反応させた。放冷後、反応液を濾過した。濾液に水(500 mL)を加えた後、得られた水相をジエチルエーテル(200 mL)で2回抽出した。合わせた有機相を、水(100 mL)で2回、飽和食塩水(100 mL)で1回洗浄した。Na2SO4で有機相を脱水した。有機層を濾過して濃縮後、乾燥した。2-(3,7-ジメチルオクチル)イソインドリン-1,3-ジオン(36.8 g、収率97%)を、無色透明のオイルとして得た。
【0074】
[1-1-2:アミンの合成(2)]
【化6】
1 Lのナスフラスコに、2-(3,7-ジメチルオクチル)イソインドリン-1,3-ジオン(36.6 g, 0.127 mol, 1 eq)を、MeOH(384 mL)を用いて溶かし入れた。この混合物に、80% ヒドラジン水和物(7.92 g, 0.126 mol, 0.995 eq)を添加した。混合物を、4時間加熱還流した。反応液を濃縮して、析出した白色固体をアセトニトリル(200 mL)で洗浄濾過した。濾液を濃縮し、2 N HCl(300 mL)を加えた。得られた混合物を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物をアセトン(50 mL)で洗浄し、乾燥した。3,7-ジメチルオクタン-1-アミン塩酸塩(20.05 g, 収率81%)を、微黄色固体として得た。
【0075】
[1-1-3:化合物1の合成]
【化7】
100 mLの4つ口フラスコに、3,7-ジメチルオクタン-1-アミン塩酸塩(5.91 g, 30.51 mmol, 4.5 eq)を入れ、トルエン(20 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(5.48 g, 54.24 mmol, 8 eq)を加えて氷冷した。この混合物に、トルエン(10 mL)に溶かした1,3,5-ベンゼントリカルボニルクロリド(1.8 g, 6.78 mmol, 1 eq)を、内温5℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物を室温で終夜攪拌した。反応液に、水(30 mL)及び酢酸エチル(50 mL)を加えて相分離した。有機層を、1N HCl(30 mL)及び水(30 mL)で順次洗浄した。得られた水層を、酢酸エチル(30 mL)で抽出した。合わせた有機層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(40 mL)、及び飽和食塩水(30 mL)で順次洗浄し、Na2SO4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物(6 g)を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:120 g, 展開溶媒:3% MeOH/クロロホルム)で精製した。得られた生成物を、MeOH:水(1:3)で懸濁洗浄し、乾燥した。N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物1)(3.70 g, 収率87%、HPLC純度99%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及び高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で確認した。
【0076】
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+TMS) δ; 0.80-1.10 (m, 27H), 1.20-1.80 (m, 30H), 3.48 (m, 6H), 6.75 (m, 3H), 8.12 (s, 3H)。
【0077】
〔1-2:N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド(化合物2)の調製〕
[1-2-1:酸クロリドの合成]
【化8】
300 mLの2つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボン酸(1.5 g, 6.938 mmol, 1 eq)を入れ、ジクロロメタン(15 mL)で懸濁させた。この混合物に、DMFを1滴添加した。次いで、この混合物に、チオニルクロリド(7.43 g, 62.442 mmol, 9 eq)を滴下した。滴下終了後、混合物を外温40℃で3時間反応させた。反応液から、チオニルクロリドを留去した。(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリドを得た。
【0078】
[1-2-2:化合物2の合成]
【化9】
100 mLの3つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、3,7-ジメチルオクタン-1-アミン塩酸塩(6.05 g, 31.221 mmol, 4.5 eq)を入れ、トルエン(20 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(5.62 g, 55.504 mmol, 8 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(10 mL)に溶かした(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリドを内温8℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を、トルエン(200 mL)で希釈した後、水(30 mL)、1 N HCl(30 mL)、及び水(50 mL)で順次洗浄した。得られた水層を、トルエン(30 mL)で抽出した。合わせた有機層を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(50 mL)、及び飽和食塩水(50 mL)で順次洗浄し、Na2SO4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物を、クロロホルム(500 mL)及びMeOH(3 mL)の混合溶液に溶かした。この混合物に、活性炭(200 mg)及びシリカゲル(1 g)を入れ、30分攪拌した。得られた混合物を濾過し、濾液を濃縮した。得られた固体を、MeOH:水(1:1)で洗浄して乾燥した。N,N',N''-トリス(3,7-ジメチルオクチル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカボキサミド(化合物2)(2.73 g, 収率62%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0079】
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+TMS) δ; 0.82 (bs, 27H), 1.10-1.60 (m, 33H), 2.15 (bs, 6H), 3.28 (bs, 6H), 5.40 (bs, 3H)。
【0080】
〔1-3:N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物3)の調製〕
[1-3-1:アミンの合成(1)]
【化10】
1 Lの4つ口フラスコに、12-ブロモ-1-ドデカノール(50.7 g, 0.191 mol, 1 eq)及びフタルイミドカリウム塩(37.1 g, 0.201 mol, 1.05 eq)を、DMF(250 mL)を用いて流し込んだ。この混合物を、外温50℃で3時間反応させた。放冷後、反応液を冷水(750 mL)に添加した。析出した固体を濾取した。濾取した固体を、水(300 mL)で洗浄した後、53℃のアセトン(110 mL)に溶かした。得られた混合物に、メタノール(30 mL)を添加し、次いで薄く濁るまで水を加えた。この混合物を、冷凍庫で2時間冷却した。析出した固体を、冷却したメタノール(100 mL)で洗浄しながら濾過した。得られた濾過物を乾燥した。2-(12-ヒドロキシドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(61.7 g, 収率97%, HPLC純度100%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0081】
[1-3-2:アミンの合成(2)]
【化11】
1 Lのナスフラスコ中で、2-(12-ヒドロキシドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(115.0 g, 0.347 mol, 1 eq)をTHF : DMF(1 : 1, 460 mL)に溶かした。この混合物に、ベンジルブロミド(74.2 g, 0.434 mol, 1.25 eq)及びヨウ化ナトリウム(5.2 g, 0.035 mol, 0.1 eq)を添加した。混合物を冷却しながら、水素化ナトリウム(16.6 g, 0.416 mol, 1.2 eq)を少量ずつ加えた。その後、混合物を室温で4日間攪拌した。反応液に、水(100 mL)を少しずつ添加し、更に氷水(200 mL)及び酢酸エチル(300 mL)を添加した。添加終了後、混合物を相分離した。有機層にヘキサン(100 mL)を加えた。この有機層を、水(100 mL)で二回洗浄した後、飽和食塩水(100 mL)で洗浄した。得られた有機層を、Na2SO4で乾燥した。この有機層を濾過し、濾液を濃縮した。粗生成物(165.5 g)を、黄色あめ状物として得た。この粗生成物を、クロロホルム(200 mL)及びメタノール(50 mL)の混合溶液に溶かした。この混合物に、活性炭(2 g)及びシリカゲル(10 g)を入れ、攪拌した。得られた混合物を濾過し、濃縮した。得られた析出物にヘキサン(300 mL)を加え、馴染ませた。この画分を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル: 1.5 kg, 展開溶媒: ヘキサン→酢酸エチル : ヘキサン= 1: 9)で精製した。得られた固体(105.2 g)を、メタノール(150 mL)で洗浄し、濾過して、乾燥した。2-(12-(ベンジルオキシ)ドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(100.4 g, 収率69%, HPLC純度100%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0082】
[1-3-3:アミンの合成(3)]
【化12】
1 Lのナスフラスコに、2-(12-(ベンジルオキシ)ドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(80.0 g, 0.189 mol, 1 eq)を、エタノール(640 mL)を用いて流し込んだ。この混合物に、80% ヒドラジン水和物(11.9 g, 0.189 mol, 1 eq)を添加した。混合物を、一晩還流した。反応液を濃縮して、湿潤な固体(94.5 g)を得た。得られた固体を、トルエン(300 mL)及びエタノール(60 mL)に加熱しながら溶かした。沈殿物を、吸引濾過で除去した。濾液を濃縮し、析出物を、クロロホルム(200 mL)及びメタノール(40 mL)に50℃で溶かした。形成された沈殿物を濾別した。濾液を、カラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル: 500 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン = 1 : 4→メタノール : 酢酸エチル = 1: 9)で精製した。得られた生成物を乾燥した。12-(ベンジルオキシ)ドデカン-1-アミン(46.2 g, 収率83%, HPLC純度65%)を、黄色のオイルとして得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0083】
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+TMS) δ; 1.23 (m, 20H), 1.58 (m, 2H), 3.35 (t, J = 6.2 Hz, 2H), 4.37 (s, 2H), 7.13 (m, 5H)。
【0084】
[1-3-4:化合物3の合成(1)]
【化13】
100 mLの3つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で12-(ベンジルオキシ)ドデカン-1-アミン(15.816 g, 9.866 mmol, 5.5 eq)を入れ、トルエン(44 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(3.993 g, 39.464 mmol, 4 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(10 mL)に溶かした1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリド(2.619g, 9.866 mmol, 1 eq)を内温10℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物にトルエン(25 mL)を添加し、該混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を水(20 mL)でクエンチした。この反応液に、酢酸エチル(250 mL)及び1 N NaOH(50 mL)を加えて相分離した。有機層を、水(100 mL)、1 N HCl(50 mL)、及び飽和食塩水(50 mL)で順次洗浄し、Na2SO4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物(11.036 g)を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:110 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン =1 : 4 → 1 : 1)で精製した。得られた生成物を、メタノール(100 mL)で洗浄して乾燥した。化合物3のベンジル保護誘導体(8.703 g, 収率86%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0085】
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+TMS) δ; 1.10-1.70 (m, 60H), 3.00-3.60 (m, 12H), 4.36 (s, 6H), 6.60-7.20 (m, 18H), 8.05 (s, 3H)。
【0086】
[1-3-5:化合物3の合成(2)]
【化14】
300 mLのナスフラスコに、化合物3のベンジル保護誘導体(8.100 g, 7.860 mmol)、メタノール(69 mL)、酢酸(1 mL)、及び10% 活性炭上パラジウム(1 g)を入れた。ナスフラスコ内の脱気及び水素置換を3回繰り返した後、混合物を、水素雰囲気下で1日強攪拌した。反応液にクロロホルム(700 mL)を添加した。得られた混合物をセライト濾過し、濾液を濃縮した。粗生成物(7.9 g)を、酢酸エチル(100 mL)、THF(50 mL)、及び酢酸エチル(100 mL)で順次ほぐし洗いした後、乾燥した。N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物3)(5.625 g, 収率94%, 純度98.4 %)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0087】
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+CD3OD+D2O+TMS) δ; 1.10-1.70 (m, 60H), 3.00-3.70 (m, 15H), 8.15 (s, 3H)。
【0088】
〔1-4:N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物5)の調製〕
[1-4-1:アミンの合成(1)]
【化15】
1 Lのナスフラスコ中で、2-(12-ヒドロキシドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(61.6 g, 0.186 mol, 1 eq)をジクロロメタン(180 mL)に溶かした。この混合物に、トリエチルアミン(28.23 g, 0.279 mol, 1.5 eq)及びメチルアミン塩酸塩(1.81 g, 0.019 mol, 0.1 eq)を添加した。混合物を5℃以下に冷却しながら、ジクロロメタン(250 mL)に溶かしたp-トルエンスルホニルクロリド(42.51 g, 0.223 mol, 1.2 eq)を滴下した。滴下終了後、混合物を10分攪拌した。反応液に、水(100 mL)を添加して相分離した。有機層を、飽和食塩水(100 mL)で洗浄した。得られた有機層を、Na2SO4で乾燥した。この有機層を濾過し、濾液を濃縮した。粗生成物を無色透明オイル状物として得た。粗生成物に、メタノール(50 mL)を混合して冷凍した。この凍結物を、冷たいメタノール(300 mL)でほぐしながら、吸引濾過した。濾過物を乾燥した。12-(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)ドデシル 4-メチルベンゼンスルホナート(87.1 g, 収率96%, HPLC純度100%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0089】
[1-4-2:アミンの合成(2)]
【化16】
1 Lの4つ口フラスコに、12-(1,3-ジオキソイソインドリン-2-イル)ドデシル 4-メチルベンゼンスルホナート(87.0 g, 0.179 mol, 1 eq)を、アセトニトリル(230 mL)を用いて流し込んだ。この混合物に、ジエチルアミン(15.7 g, 0.215 mol, 1.2 eq)を加えた。この混合物に、炭酸カリウム(27.2 g, 0.197 mol, 1.1 eq)を添加した。混合物を、40℃で9時間攪拌した。反応液を濾過し、濾液を濃縮した。得られた粗生成物(78.1 g)を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル:350 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン = 1 : 6→メタノール : 酢酸エチル = 1: 4 +アンモニア水)で精製した。精製画分を、続けてカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル:280 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン = 1 : 9 →1 : 4)で精製した。得られた生成物を乾燥した。2-(12-(ジメチルアミノ)ドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(47.8 g, 収率69%, HPLC純度98.6%)を、黄色のオイルとして得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0090】
[1-4-3:アミンの合成(3)]
【化17】
1 Lの4つ口フラスコに、2-(12-(ジメチルアミノ)ドデシル)イソインドリン-1,3-ジオン(68.7 g, 0.178 mol, 1 eq)を、エタノール(545 mL)を用いて流し込んだ。この混合物に、80% ヒドラジン水和物(12.8 g, 0.204 mol, 1.15 eq)を添加した。混合物を、一晩還流した。反応液を濃縮した。得られた白色ペースト状物に、酢酸エチル : ヘキサン (2 : 1, 150 mL)の混合溶液を添加した。得られた混合物を吸引濾過した。濾過物を、アセトン : 酢酸エチル : ヘキサン(1 : 4 : 2, 200 mL)の混合溶液に溶かした。この混合物に、Na2SO4を加えてすり混ぜた。混合物を、吸引濾過した。濾過物に、メタノール(25 mL)を添加し、さらにアセトン : 酢酸エチル(1 : 1, 150 mL)の混合溶液を添加し混合した。得られた混合物を濾過し、濾過物を得た。前記混合及び濾過作業を4回繰り返した。全ての濾液を合わせて濃縮した。粗生成物(58.4 g)を、黄色ペーストとして得た。この粗生成物を、カラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル:517 g, 展開溶媒: アセトン: ヘキサン =1 : 2)で精製した。粗生成物(50.3 g, 収率110 %)を、黄色オイルとして得た。この粗生成物に、濃塩酸をpH 1になるまで冷却しながら添加した。添加終了後、混合物を濃縮した。析出物を、冷却しながらアセトン : IPA = 6 : 1(200 mL)の混合溶液で洗浄濾過した。濾過物を乾燥した。N1,N1-ジメチルドデカン-1,12-ジアミン塩酸塩(50.5 g, 収率86%)を、微黄色固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0091】
[1-4-4:化合物5の合成]
【化18】
1 Lの4つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、N1,N1-ジメチルドデカン-1,12-ジアミン塩酸塩(50.4 g, 0.253 mol, 4.5 eq)を入れ、トルエン : ジクロロメタン(1 : 1, 400 mL)の混合溶液で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(44.7 g, 0.442 mol, 13 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(100 mL)に溶かした1,3,5-ベンゼントリカルボニルトリクロリド(9.03 g, 0.034 mol, 1 eq)を内温10℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物にジクロロメタン(250 mL)を添加して、該混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を、水(100 mL)でクエンチし、1 N NaOH(50 mL)を添加して相分離した。有機層を、水(200 mL)、及び飽和食塩水(200 mL)で順次洗浄し、Na2SO4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた褐色オイルの粗生成物(50.1 g)を、カラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル:250 g, 展開溶媒: 酢酸エチル: ヘキサン =2 : 3 → 1 : 1)で精製した。精製画分を、さらにカラムクロマトグラフィー(NHシリカゲル:430 g, 展開溶媒: アセトン: ヘキサン =1 : 7 → 1 : 3)で精製した。得られた黄色ワックスに、アセトン(100 mL)を添加した。混合物を濾過し、乾燥した。N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-ベンゼントリカボキサミド(化合物5)(21.79 g, 収率69%、HPLC純度99.8%)を、微黄色ワックス状固体として得た。反応の進行は、TLC及びHPLCで確認した。
【0092】
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+TMS) δ; 0.98 (t, J = 7.0 Hz, 18H), 1.15-1.60 (m, 60H), 2.30-2.55 (m, 18H), 3.42 (m, 6H), 6.51 (m, 3H), 8.31 (s, 3H)。
【0093】
〔1-5:N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド(化合物4)の調製〕
[1-5-1:酸クロリドの合成]
【化19】
300 mLの2つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボン酸(4.0 g, 18.502 mmol, 1 eq)を入れ、ジクロロメタン(40 mL)で懸濁させた。この混合物に、DMFを1滴添加した。次いで、この混合物に、チオニルクロリド(19.810 g, 166.519 mmol, 9 eq)を滴下した。滴下終了後、混合物を外温50℃で3時間反応させた。反応液から、チオニルクロリドを留去した。(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリドを得た。
【0094】
[1-5-2:化合物4の合成(1)]
【化20】
200 mLの4つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で12-(ベンジルオキシ)ドデカン-1-アミン(16.178 g, 55.505 mmol, 5 eq)を入れ、トルエン(62 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(4.493 g, 44.404 mmol, 4 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(20 mL)に溶かした(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリド(11.101 mmol)を内温10℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物にジクロロメタン(30 mL)を添加し、該混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を水(20 mL)でクエンチした。この反応液に、1 N NaOH(20 mL)及び5% メタノール / クロロホルムの混合溶液(300 mL)を加えて相分離した。有機層を、飽和食塩水(50 mL)で洗浄し、Na2SO4と、シリカゲル及び活性炭(微量)とを入れ、静置した。有機層を濾過し、濾液を濃縮した。析出物にメタノール(100 mL)を加え、再び濃縮して、白色ペーストの粗生成物(12.623 g)を得た。粗生成物を、メタノール : 水(2 : 1, 200mL)の混合溶液で洗浄し濾過した。濾過物を、メタノール(100 mL)で2回洗浄し、乾燥した。化合物4のベンジル保護誘導体(9.330 g, 収率81 %, HPLC純度96.7%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0095】
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+CD3OD+TMS) δ; 1.20-2.50 (66H), 3.00-3.60 (m, 12H), 4.12 (m, 3H), 4.45 (s, 6H), 7.20 (m, 15H)。
【0096】
[1-5-3:化合物4の合成(2)]
【化21】
300 mLのナスフラスコに、化合物4のベンジル保護誘導体(9.093 g, 8.772 mmol)、メタノール(100 mL)、酢酸(2 mL)、及び10% 活性炭上パラジウム(1 g)を入れた。ナスフラスコ内の脱気及び水素置換を3回繰り返した後、混合物を、水素雰囲気下で1日強攪拌した。反応液にメタノール(200 mL)及びクロロホルム(2400 mL)を添加し、内温55℃まで加熱した。得られた混合物をセライト濾過した。濾過物を、30% メタノール / クロロホルムの混合溶液(1500 mL)に懸濁させて、内温55℃まで加熱した。得られた混合物をセライト濾過した。合わせた濾液を濃縮した。粗生成物を、メタノール(50 mL)、THF : メタノール(4 : 1, 50 mL)の混合溶液、及び酢酸エチル(100 mL)で順次ほぐし洗いした後、乾燥した。N,N',N''-トリス(12-ヒドロキシル-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド(化合物4)(6.310 g, 収率94%)を、白色固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0097】
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+TFA+TMS) δ; 1.20-2.80 (m, 69H), 3.35 (m, 6H), 4.36 (t, J = 6.2 Hz, 6H), 7.40 (m, 3H)。
【0098】
〔1-6:化合物6の調製〕
[1-6-1:N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド(化合物6)の合成]
【化22】
100 mLの4つ口フラスコに、アルゴン雰囲気下で、N1,N1-ジメチルドデカン-1,12-ジアミン(8.542 g, 33.304 mmol, 4.5 eq)を入れ、トルエン(34 mL)で懸濁させた。この混合物に、トリエチルアミン(2.995 g, 29.604 mmol, 4 eq)を添加して氷冷した。次いで、この混合物に、トルエン(11 mL)に溶かした(1α,3α,5α)-1,3,5-シクロヘキサン-トリカルボニルトリクロリド(7.401 mmol, 1 eq)を内温10℃以下で滴下した。滴下終了後、混合物にジクロロメタン(40 mL)を添加して、該混合物を室温で終夜攪拌した。反応液を、水(15 mL)でクエンチし、1 N NaOH(20 mL)及び5% メタノール / クロロホルム(200 mL)を添加して相分離した。有機層を、飽和食塩水(50 mL)で洗浄し、Na2SO4で乾燥した。得られた有機層を濾過し、濾液を濃縮した。得られた橙色ペーストの粗生成物を、アセトン(100 mL)で洗浄し、次いでアセトン : 水(2 : 1, 50 mL)の混合溶液で洗浄した。混合物を濾過し、乾燥した。N,N',N''-トリス(12-ジエチルアミノ-ドデカノイル)-1,3,5-シクロヘキシルトリカルボキサミド(化合物6)(4.138 g, 収率60 %)を、黄色ワックス状固体として得た。反応の進行は、TLCで確認した。
【0099】
1H-NMR (60 MHz, CDCl3+CD3OD+TMS) δ; 1.00 (t, J = 7.0 Hz, 18H), 1.30 (m, 60H), 2.20-3.17 (m, 30H), 3.80 (m, 3H)。
【0100】
<2:潜熱蓄熱材の調製>
サンプル瓶に、所定割合の過冷却付与材料及びジアミノアルカンを入れて、実施例の潜熱蓄熱材を調製した。過冷却付与材料としては、前記で調製した化合物1〜6を使用した。ジアミノアルカンとしては、ジアミノオクタン(DAO、H2N-(CH2)8-NH2)及びジアミノドデカン(DAD、H2N-(CH2)12-NH2)を使用した。各実施例の組成は、下記表1〜12に示した通りである。
【0101】
<3:潜熱蓄熱材の特性解析>
〔3-1:状態観察〕
調製した実施例の潜熱蓄熱材を、約130℃に加熱して溶融させた。溶融した実施例の潜熱蓄熱材を、室温下で放冷して、該潜熱蓄熱材が凝固する状態を目視で観察した。観察した状態を、下記の基準で分類した。
状態(1):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合わない。
状態(2):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合うものの、粘度が増加しない。
状態(3):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合い且つ粘度が増加して、ゲル状態のまま過冷却する。
状態(4):潜熱蓄熱材の各成分が互いに混じり合い且つ粘度が増加するが、降温時に過冷却付与材料のみが凝集して相分離する。凝集が開始するまでは過冷却状態である。
【0102】
〔3-2:熱量測定〕
前記手順で状態観察の実験を実施した実施例の潜熱蓄熱材を、それぞれ所定量(3〜5 mg)秤量した。示差走査熱量計(DSC)(DSC Q1000、テキサスインスツルメンツ社製)を用いて、秤量した実施例の潜熱蓄熱材のサンプルの溶融温度、溶融熱量、凝固温度及び凝固熱量を測定した。前記測定結果から、実施例の潜熱蓄熱材の過冷却温度を下記の式に基づき算出した。
過冷却温度=溶融温度−凝固温度
【0103】
〔3-3:結果〕
加熱溶融直後の状態、状態(3)及び状態(4)の潜熱蓄熱材の写真を図1に示す。図中、Aは加熱溶融直後の状態を、Bは状態(3)を、Cは状態(4)を、それぞれ示す。実施例の潜熱蓄熱材が、状態(3)又は(4)に分類される状態の場合、過冷却状態を発現したと判断した。なお、状態(1)又は(2)に分類される状態の潜熱蓄熱材であっても僅かに過冷却状態を示す場合があったが、本発明の潜熱蓄熱材における増粘効果に起因する過冷却状態の発現とは異なると考えられる。
【0104】
実施例の潜熱蓄熱材を、ジアミノアルカンの溶融温度を超える約130℃まで加熱した結果、過冷却付与材料及びジアミノアルカンが相溶し、均質な状態となった(図1A)。その後、この潜熱蓄熱材を室温下で放冷した結果、該潜熱蓄熱材の粘度が増加し、ジアミノアルカンの溶融温度よりも低い温度で凝固した(図1B)。この際、過冷却温度に相当する凝固熱を発生した。前記のように、実施例の潜熱蓄熱材において、増粘効果が確認された場合に過冷却効果が発現したのは、以下の原理に基づくと考えられる。実施例の潜熱蓄熱材を加熱溶融した後、放冷することにより、相溶した過冷却付与材料及びジアミノアルカンが凝固し、凝固熱を発する。過冷却付与材料の凝集温度がジアミノアルカンの凝集温度以上の場合、放冷の際、過冷却付与材料は、その分子間でミクロフィブリル状のネットワーク構造を形成すると考えられる。過冷却付与材料によるネットワーク構造の形成により、潜熱蓄熱材の粘度が増加してゲル状態となる。他方、ジアミノアルカンは、過冷却付与材料のネットワーク構造の内部に取り込まれると考えられる。このようなネットワーク構造に取り込まれることにより、ジアミノアルカンは、その溶融温度以下でも凝固することなく、安定な溶融状態を維持することができる(図1A)。さらに温度を低下させることにより、ジアミノアルカンは、過冷却付与材料のネットワーク構造の内部で凝固し、凝固熱を発生すると考えられる(状態(3)、及び図1B)。或いは、過冷却付与材料の凝集温度がジアミノアルカンの凝固温度未満の場合、実施例の潜熱蓄熱材を加熱溶融した後、放冷することにより、過冷却付与材料自体が凝集し、溶融状態であったジアミノアルカンが系外に排出される。この結果、ジアミノアルカンが凝固し、凝固熱を発生すると考えられる(状態(4)、及び図1C)。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
【表7】
【0112】
【表8】
【0113】
【表9】
【0114】
【表10】
【0115】
【表11】
【0116】
【表12】
【0117】
表1〜12に示すように、実施例1-1〜1-6及び実施例2-1〜2-6の潜熱蓄熱材は、いずれも過冷却効果を発現した。実施例1-1〜1-6及び実施例2-1〜2-6の潜熱蓄熱材において、増粘効果が示された(すなわち、状態(3)又は(4)であった)のは、過冷却付与材料として化合物3、4又は6を使用した実施例1-3、2-3、1-4、2-4、1-6及び2-6の潜熱蓄熱材のみであった。
【0118】
実施例1-1〜1-6及び実施例2-1〜2-6の潜熱蓄熱材において、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差(ΔT)を図2に示す。図中、Aは、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と5質量%の過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差を、Bは、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と10質量%の過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差を、Cは、過冷却付与材料を含有しない場合の凝固温度と20質量%の過冷却付与材料を含有する場合の凝固温度との温度差を、それぞれ示す。なお、過冷却付与材料として化合物1及び2を用いた実施例1-1及び1-2、並びに実施例2-1及び2-2において、20質量%の過冷却付与材料を含有する場合には、過冷却付与材料が溶融しなかったため、測定は実施しなかった。
【0119】
ΔTは、潜熱蓄熱材の過冷却効果を定量的に示す値であって、ΔTが大きい潜熱蓄熱材ほど、過冷却効果が高いと評価できる。図2に示すように、ジアミノアルカンとしてDAOを用いた実施例1-1〜1-6の潜熱蓄熱材の場合、ΔTの値に差はあるものの、いずれも過冷却効果を有することが明らかとなった。特に、増粘効果を示した実施例1-3、2-3、1-4、2-4、1-6及び2-6の潜熱蓄熱材は、他の実施例の潜熱蓄熱材と比較してより高い過冷却効果を発現した。前記結果より、増粘効果を示す潜熱蓄熱材は、高い過冷却効果を有すると推測される。また、前記と同様の傾向は、ジアミノアルカンとしてDADを用いた実施例2-1〜2-6の潜熱蓄熱材の場合にも確認された。
【0120】
<4:比較例の潜熱蓄熱材の特性解析>
実施例の潜熱蓄熱材の調製において、ジアミノアルカンに替えてジブロモデカン又はエリスリトールを用いた他は前記と同様の手順で、比較例の潜熱蓄熱材を調製した。
【0121】
【表13】
【0122】
【表14】
【0123】
【表15】
【0124】
【表16】
【0125】
表13〜16に示すように、比較例の潜熱蓄熱材は、いずれも状態(2)を示し、増粘効果を有しなかった。また、比較例の潜熱蓄熱材は、いずれも過冷却付与材料が潜熱蓄熱材の結晶性を大幅に損ない、潜熱量が大きく低下した。
【0126】
なお、本発明は、前記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除及び/又は置換をすることが可能である。
図1
図2