【文献】
IDRUGS,CURRENT DRUGS LTD,2005年 2月 2日,Vol.8, No.2,p.144-154
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
詳細な説明
以下の本明細書、実施例、およびデータは、本発明の組成物の製造および使用の完全な説明を提供する。本発明の多くの実施形態は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく行うことができるので、本発明は、以下に添付の特許請求の範囲に帰する。上述した例は、組成物および方法の好ましい実施形態をどのように作成および使用するかについての完全な開示および説明を当業者に提供するものであり、発明者が彼らの発明とみなす範囲を限定することを意図するものではない。当業者に明らかである本発明を実施するための上記様式の改変は、以下の特許請求の範囲内にあるものとする。特に断りのない限り、以下の定義が適用される。
【0014】
定義
用語「投与する」、「投与」、「送達する」または「送達」(総称して「投与」)は、本明細書で使用する場合、錠剤、カプセル剤、ソフトゲルカプセル剤、静脈内注射、筋肉内注射および/または皮下注射、経皮パッチ、クリーム剤、ゲル剤、または当技術分野で知られているか、あるいはその後開発される他のメカニズムを介しての身体への投与を意味する。
【0015】
本明細書で用いられる用語「有効成分」とは、生物学的に活性であるか、あるいは生物学的に活性であることが意図されている任意の材料を指すことができる。
【0016】
本明細書で用いられる用語「併用形態」は、同じ媒体中での2つ以上の有効成分の存在を指すことができる。例えば、有効成分Aおよび有効成分Bが同じ生理食塩水媒体中に共に存在する場合、有効成分Aおよび有効成分Bの混合物は、併用形態であると言うことができる。
【0017】
本明細書で用いられる用語「後成的修飾因子」は、遺伝子発現および機能に影響を与える、影響を与えると考えられる、または影響を与える傾向がある物質を指すことができる。また、本明細書で使用する場合、「後成的に引き起こされた」は、遺伝子発現および機能によって影響を受けるまたは影響を受ける傾向がある任意の物質を指すことができる。
【0018】
本明細書で用いられる用語「解糖阻害剤」は、がん細胞内で解糖が発生するのを阻害する、阻害すると考えられる、または阻害する傾向がある物質を指すことができる。
【0019】
本明細書で用いられる用語「生理食塩水」は、無菌または実質的に無菌の塩化ナトリウムの水溶液を意味することができる。生理食塩水は、ヒトへの静脈内注射に好適であり得る。
【0020】
本明細書で用いられる用語「単位用量」は、患者に一度に与えることを意図した医薬製剤の質量または容量を指すことができる。
【0021】
説明
がんの治療における2つ以上の後成的修飾因子の使用は、予想外の相乗的な治療結果を生み出すことが見出された。特に、併用投与、共製剤、および/または時間的に近接した投与は、特に有効な結果をもたらす傾向がある。さらに、様々な実施形態において、高圧酸素治療は、治療効果をなお一層増強する。また、種々の抗酸化剤および解糖阻害剤を、2つ以上の後成的修飾因子に加えて使用することが有益であり得ることが見出された。後成的修飾因子、抗酸化剤、解糖阻害剤および/または高圧酸素治療のいずれかの併用投与、共製剤、および/または時間的に近接した投与は、任意の順序で起こり得るが、互いの投与前後の約24時間以内、互いの投与前後の約5分〜約90分の間、または互いの投与前後の約30分〜約3時間の間に起こり得る。
【0022】
様々な実施形態による製剤は、2つ以上の後成的修飾因子を含む。後成的修飾因子は、一緒に作用してがん細胞および前がん細胞での遺伝子発現を変化させる可能性がある。後成的修飾因子は、遺伝子発現を増加または減少させるように選択することができる。例えば、後成的修飾因子は、ラット肉腫(「ラス」)ファミリー遺伝子および/またはb−細胞リンパ腫2(「bcl−2」)遺伝子の発現を減少させるために使用することが可能である。
【0023】
様々な実施形態で見られる後成的修飾因子としては、ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤および脱メチル化剤が挙げられるが、これらに限定されない。脱メチル化剤は、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)またはヒストンメチルトランスフェラーゼなどのメチル化酵素を阻害することにより、あるいは阻害する傾向により、DNAおよび/またはヒストンのメチル化を阻害する、または阻害する傾向がある薬剤である。脱メチル化化学療法剤は、限定されるものではないが、5−アザシチジン(アザシチジン)および5−アザデオキシシチジン(デシタビン)などのシチジン類似体を含む。HDACIは、特に、ヒストン脱アセチル化酵素を阻害または阻害する傾向があることが知られている。ヒストン脱アセチル化酵素は、ヒストンからアセチル基を除去し、転写前に活性である酵素である。他の特性の中でも、いくつかの後成的修飾因子はまた、血管新生を阻害することも示されている。
【0024】
種々の実施形態では、任意の後成的修飾因子が本発明での使用に関して考えられるが、HDACIは、直接的(例えば、標的酵素への直接的な関与により作用する)または間接的(例えば、クロマチンの形状変化などの間接的な手段により作用する)であってもよい。また、HDACIは、1つ以上のフェニル酪酸ナトリウム(「SPB」)、リポ酸(「LA」)、ケルセチン、バルプロ酸、ヒドララジン、バクトリム、緑茶抽出物(例えば、没食子酸エピガロカテキン(EGCG)、クルクミン、スルフォルファンおよびアリシン/ジアリルジスルフィドを含むことができる。
【0025】
SPBは、現在、尿素サイクル障害の治療のための希少疾病用薬としてFDAによって分類されている。フェニルブチラート(「PB」)は、プロドラッグである。ヒトの体内で、PBはβ酸化により酢酸フェニルに代謝される。酢酸フェニルはグルタミンと共役し、フェニルアセチルグルタミンを形成し、最終的には尿中に排出される。フェニル酪酸(「PBA」)は、モデル系においてインビトロおよびインビボ成長阻害活性および分化誘導活性を有する。この理論に束縛されないが、PBAは、G1〜G0期における細胞周期を停止させると考えられている。PBは、効率的なHDACIであり、c−jun N末端キナーゼ(「JNK」)を介してアポトーシスを誘導すると考えられる。肺がん細胞では、PBは、MHCクラスIの発現を増加させながら、MCF−7細胞における56 p21wafl遺伝子媒介性の増殖停止、腫瘍壊死因子(TNF)−α58またはペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)λ媒介性細胞分化を誘導し、前立腺がん細胞における酢酸フェニルよりも効能がある。PBは肝臓と腎臓のミトコンドリアでのβ−酸化により活性代謝物の酢酸フェニル(「PA」)にインビボで変換される。大抵の用量制限毒性は、疲労、吐き気、および傾眠である。予備試験を再発性多形性膠芽腫の患者に実施した。SPBは、NFカッパ−Bの経路に影響を与え、炎症反応を低下させ、100を超える遺伝子をダウンレギュレーションすることによって作用すると考えられている。
【0026】
SPBの毒性試験により、1日あたり最大36gの経口用量が、最小の毒性を示すことがわかっている。ある研究では、患者の25%は、投薬中、6ヶ月を超えて病気が安定していた。経口形態のSPBは、忍容性が良好であり、インビトロで生物学的活性を有することが示されている濃度をインビボで達成する。SPBは、細胞増殖抑制剤としての役割を有することが示唆されている。しかし、ほとんどの研究で、SPBは経口で使用され、静脈内投与では使用されていない。
【0027】
種々の実施形態では、ケルセチンがHDACIとして使用される。ケルセチンはまた、がん幹細胞分化剤としてだけでなく、多くの経路およびシグナル伝達分子のブロッカーとして、化学増感剤として、ならびにアポトーシス剤としても使用されている。ケルセチンは、リンゴから抽出したポリフェニルである。ケルセチンの抗がん効果を示すいくつかのメカニズムが示唆されている。ケルセチンは様々な細胞受容体と相互作用することが可能であり、ケルセチンはG1およびG2の細胞増殖期を阻害し、チロシンキナーゼを阻害して無制御の増殖を防止し、エストロゲン受容体に影響を与え、そして熱ショックタンパク質と相互作用して増殖を防止することが示唆されている。
【0028】
また、ケルセチンは、腫瘍増殖に関与しているRafおよびMEKのような受容体と相互作用し得ることが示されている。細胞表面受容体などの他の受容体との相互作用もまた推測される。加えて、ケルセチンは、シグナル伝達の修飾因子として作用し得ると考えられる。ケルセチンは、細胞周期の調節、細胞死、炎症反応および新しい血液供給の誘導に影響を与えることが報告されている。
【0029】
毒性試験がケルセチンについて行われている。ケルセチンのオープンラベル非対照用量設定臨床試験を実施した。試験では、増加した値の最大1700mg/m2の静脈内ケルセチンを、従来の方法によっては治療可能とみなされなくなった50人のがん患者に約3週間投与した。大腸、胃、膵臓、卵巣および黒色腫を含む様々ながんを有する患者が治療された。患者はいずれもWHOの放射線基準によって定義される抑制を達成しなかったが、2人はケルセチン療法後に特有のがんマーカーの継続した減少を示した(1人は転移性肝細胞がんであり、他の1人は、以前に化学療法に無反応であったステージ4の転移性卵巣がん患者)。また、チロシンキナーゼレベルが、11人の被験者で測定され、9人において減少が報告された。チロシンキナーゼは、細胞増殖を制御するシグナルを無効にすることにより、がんの制御不能の増殖を導く可能性があるので、腫瘍学においてしばしば研究されている。その結果、ケルセチンは、チロシンキナーゼを阻害する能力を有し得ると結論付けられ、そして、さらなる研究は、1400mg/m2以下の用量で行われるべきである。この研究結果は、ケルセチンが悪性および非悪性細胞におけるチロシンキナーゼ発現の抑制をもたらしたいくつかのインビトロ試験によって支持されている。
【0030】
この理論に束縛されるものではないが、ケルセチンは、例えば、RAS遺伝子およびbcl−2の遺伝子の遺伝子発現を減少させることを含むその遺伝的調節効果により、ほとんどすべてのがん細胞の治療に有望な結果を示すことができると仮定される。また、ケルセチンは、がんの発生における予防的役割を有することが示唆されている。ケルセチンの摂取量は、現在の喫煙者の間で膵がんと負の相関関係にあり、摂取量の最高と最低の五分位数の間で有意に減少した(0.55)相対リスクを示した。
【0031】
しかし、静脈内に使用した際、他の後成的治療法と組み合わせてケルセチンの効果を調べたヒトでの試験ではないようである。
【0032】
種々の実施形態では、リポ酸(「LA」)が、HDACIとして使用される。リポ酸は、また、解糖系の治療のためのトポイソメラーゼ阻害剤および酸化剤である。低レベルで、LAは、ミトコンドリア内のピルビン酸デヒドロゲナーゼの補因子である。LAは、ヒトでは合成されず、食事や食品で十分な量を摂取できない。天然のLAは、食糧源からすぐに入手可能ではない。低レベルのLAは、種々の疾患状態と相関している。LAは、一般に安全で非毒性であると考えられる。
【0033】
最近では、LAの主な効果は、酸化ストレス応答の誘導因子であると考えられている。その点において、LAは、がんに対する併用療法での酸化を増強することにより、高圧酸素治療で有効であり得る。α−リポ酸は、付随する遊離酸素ラジカル生成にミトコンドリア呼吸を増加させることによって、ヒト結腸がん細胞においてアポトーシスを誘導することが示されている。いくつかの研究は、α−リポ酸が、ミトコンドリア内への被酸化性基質の取り込みの増加によって開始される酸化促進メカニズムによって、ヒト結腸がん細胞においてアポトーシスを効果的に誘導することができるという証拠を提供する。
【0034】
最近の研究は、マウスがんモデル(MBT−2膀胱移行上皮がん、B16−F10黒色腫およびLL/2Lewis肺がん)における様々ながん細胞の治療に、LAの使用が有望であることを示している。なお、LAは、がん細胞の生存率を低下させ、細胞のDNA断片化を増大させると考えられている。一般に、LAの抗がん効果は、細胞内Ca2+によって媒介されるカスパーゼ非依存性およびカスパーゼ依存性経路を介してアポトーシスを誘導することによって媒介されるようである。LAは、一般的に安全かつ非毒性であると考えられている。α−リポ酸は、糖尿病やアルコール性多発性神経障害などの多発性神経障害、および肝疾患の治療薬としてドイツでは承認されている。
【0035】
没食子酸エピガロカテキン(EGCG)(エピガロカテキン−3−ガレートとしても知られている)などの緑茶抽出物もまた、本発明における使用が企図される。EGCGは、エピガロカテキンと没食子酸のエステルであり、カテキンの一種である。EGCGは、茶の中で最も豊富なカテキンであり、多くの疾患(例えばがん)の治療における治療用途を有し得る強力な抗酸化物質である。これは、一般的に緑茶で見られるが、紅茶では見られない;紅茶製造時に、カテキンは、テアフラビンやテアルビジンに変換される。EGCGは、多くのサプリメントに見ることができる。
【0036】
EGCGは、他のフラボノイドと共に、脳がん、前立腺がん、子宮頸がんおよび膀胱がんを含む特定のがんの治療に有益でありうることを示す証拠が増加している。EGCGは、がん細胞と正常細胞の両方の生存に関与している、抗アポトーシスタンパク質Bcl−xlを結合し、阻害することが示されている。また、EGCGは、他の茶のポリフェノールの中でも、いくつかの化学療法抗がん剤(例えば、エトポシドおよびドキソルビシン)と同様の強力なトポイソメラーゼ阻害剤であることが分かった。
【0037】
1つ以上のHDACIを含む種々の実施形態による製剤は、併用形態であってもよい。
【0038】
様々な実施形態による、製剤、システムおよび方法は、薬学的に許容される1つ以上の賦形剤をさらに含むことができる。製剤は、単独で、または本明細書に開示された1つ以上の他の化合物と併用して、または1つ以上の他の薬剤と併用して(または、その任意の組み合わせとして)投与することができる。一般に、本明細書に記載の製剤は、1つ以上の薬学的に許容される賦形剤と共に1つの製剤として投与されるであろう。賦形剤の選択は、特定の投与様式、溶解度および安定性に対する賦形剤の影響、ならびに剤形の性質などの要因に大きく依存するであろう。
【0039】
本発明の化合物の送達に適した医薬組成物およびその調合のための方法は、当業者には容易に明らかであろう。このような組成物およびそれらの調合方法は、例えば、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる、Remington’s Pharmaceutical Sciences,19th Edition(Mack Publishing Company,1995)に見ることができる。
【0040】
様々な実施形態による製剤は、生理食塩水などの任意の薬学的に許容される担体または希釈剤を含むことができる。通常の生理食塩水は、滅菌水および塩化ナトリウムを含むことができる。例えば、通常の生理食塩水および/またはD5生理食塩水を使用することができる。D5生理食塩水は、5%デキストロースを含む生理食塩水を含む。
【0041】
本発明の製剤はまた、血流内、筋肉内、または内臓中に直接投与することもできる。非経口投与に適した手段としては、静脈内、動脈内、腹腔内、髄腔内、脳室内、尿道内、胸骨内、頭蓋内、筋肉内および皮下への投与が挙げられる。非経口投与に適したデバイスとしては、注射器(マイクロニードルを含む)、無針注射器および注入技法が挙げられる。
【0042】
非経口製剤は、典型的には、塩、炭水化物および緩衝剤(好ましくは、約3〜約11のpH)などの賦形剤を含有してもよい水溶液であるが、いくつかの用途のために、それらは無菌の非水性溶液として、または滅菌したパイロジェンフリーの水などの適切なビヒクルと共に使用する乾燥形態として、より適切に製剤化してもよい。
【0043】
無菌条件下、例えば、凍結乾燥による非経口製剤の調合は、当業者に周知の標準的な製薬技術を用いて容易に達成することができる。
【0044】
本明細書に開示された化合物の薬学的に許容される塩は、その酸付加塩および塩基塩を含む。適切な酸付加塩は、非毒性の塩を形成する酸から形成される。例としては、これらに限定されないが、酢酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、重炭酸塩/炭酸塩、重硫酸塩/硫酸塩、ホウ酸塩、カンシル酸塩、クエン酸塩、エジシル酸塩、エシル酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプト酸塩、グルコン酸塩、グルクロン酸塩、ヘキサフルオロリン酸塩、ヒベンズ酸塩、塩酸塩/塩化物、臭化水素酸塩/臭化物、ヨウ化水素酸塩/ヨウ化物、イセチオン酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メシル酸塩、メチル硫酸塩、ナフチル酸塩、2−ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オロチン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、リン酸塩/リン酸水素塩/リン酸2水素塩、糖酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トシル酸塩およびトリフルオロ酢酸塩が挙げられる。
【0045】
適切な塩基塩は、非毒性の塩を形成する塩基から形成される。例としては、アルミニウム塩、アルギニン塩、ベンザチン塩、カルシウム塩、コリン塩、ジエチルアミン塩、ジオラミン塩、グリシン塩、リジン塩、マグネシウム塩、メグルミン塩、オラミン塩、カリウム塩、ナトリウム塩、トロメタミン塩および亜鉛塩が挙げられる。
【0046】
酸と塩基のヘミ塩(hemisalt)、例えば、ヘミ硫酸塩およびヘミカルシウム塩もまた形成され得る。
【0047】
本明細書に開示される有効成分の薬学的に許容される塩は、以下の3つの方法の1つまたは複数の方法によって調製することができる(ただし、薬学的に許容される塩を調製する任意の方法が使用可能である):
(i)所望の酸または塩基と本明細書に開示された有効成分の化合物とを反応させる;
(ii)本明細書に開示された有効成分の適切な前駆体から酸もしくは塩基に不安定な保護基を除去する、または所望の酸もしくは塩基を用いて、例えば、ラクトンもしくはラクタムの適切な環状前駆体を開環する;または
(iii)本明細書に開示された有効成分の1方の塩を別の塩に、適切な酸もしくは塩基との反応により、または適切なイオン交換カラムによって変換する。
【0048】
3つの反応はすべて、一般に溶液中で実施する。得られる塩が析出し、これを濾過により集めるか、溶媒の蒸発によって回収することができる。得られる塩のイオン化の程度は、完全イオン化からほぼ非イオン化まで様々であり得る。適切な塩に関する総説については、StahlおよびWermuthによる「Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use(Wiley−VCH,Weinheim,Germany,2002)」を参照されたい。この総説中、適用できるすべての部分が引用により本明細書に組み込まれる。
【0049】
様々な実施形態において、2つ以上のHDACIなどの2つ以上の有効成分は、組み合わせた形態でなくても、共投与することができる。共投与は、患者への同時投与または近接した時間内での投与を含んでもよい。例えば、共投与は、SPBとケルセチンを同時に投与することを含んでもよい。また、例えば、共投与は、SPBとケルセチンを互いの投与の約24時間以内に投与することを含んでもよく、または互いの投与の約1分〜約60分以内に投与することを含んでもよく、または互いの投与の約5分〜約90分以内に投与することを含んでもよく、または互いの投与の約30分〜約3時間以内に投与することを含んでもよい。
【0050】
種々の実施形態では、1つ以上の酸化剤または抗酸化剤が存在してもよい。例としては、これらに限定されないが、ビタミンC、ゲルマニウム、L−カルニチン、タウリン、グルタチオン、リジン、プロリン、過酸化水素(H2O2)、およびジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。酸化剤は、がん細胞を含む細胞の損傷をもたらすフリーラジカルの放出において、放出または支援する、任意の化学物質、分子または化合物であってもよい。一般に、酸化剤(oxidant)(これは、oxidizing agent、oxidizerまたはoxidiserとも称される)は、酸化還元化学反応で別の反応物から電子を除去する。酸化剤は、それ自体に電子を獲得することによって「還元」され、反応物は、その電子が奪われたことにより、「酸化」される。抗酸化剤は、基質の酸化を遅延させるか、または防止する任意の化学物質、分子または化合物であってもよい。一般に、抗酸化剤は、1つの物質から酸化剤への電子の移動を伴う化学反応である酸化反応の速度を低下させる。抗酸化剤は、中間体と反応して直接酸化反応を停止させることによって、または酸化剤と反応して酸化反応が起こるのを防止することのいずれかによって、これらの反応を遅らせることができる。同物質が、異なる環境や条件下で、酸化剤や抗酸化剤として作用し得る。特に、物質の用量により、物質が酸化剤または抗酸化剤のどちらの作用を持つか決まることがある。一例として、25g(静注)用量のビタミンCは、酸化特性または酸化剤特性を有するが、より低用量の場合、ビタミンCは抗酸化特性を有する。
【0051】
種々の実施形態では、1つ以上の解糖阻害剤が存在することができる。例としては、限定されるものではないが、ジクロロ酢酸、オクトレオチド、および2−デオキシグルコース(2DG)が挙げられる。但し、すべての解糖阻害剤が有効であると見出されたわけではない。特に、以前の研究は、3−ブロモピルビン酸(アルキル化剤および解糖阻害剤として)を使用してがん細胞を標的としているが、本発明において、あるいは本発明の使用のために有効であることは、見出されなかった。一般的には、解糖阻害剤に関連して、がんを破壊するか、防止するための1つの戦略は、それらの細胞のエネルギー生産工場を標的とすることである。有核ヒト細胞は、2つのタイプのエネルギー生産ユニット、すなわち、ADPからの「高エネルギー」化合物のATPを作るシステムを有する。1つのタイプは、「解糖」であり、もう1つは「ミトコンドリア」である。ミトコンドリアは、非がん性細胞における主要なATP生産者(>90%)である。しかし、ヒトのがんは、両方のメカニズムに依存する傾向がある。解糖系は、酸素の存在下であってもATPのほぼ半分に寄与し得る(「ワールブルク効果」と呼ばれる)。したがって、解糖阻害剤は、種々のがんの治療に有用であり得る。
【0052】
ジクロロ酢酸(「DCA」)は、水の塩素化の副産物である。ピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性を刺激することによって、DCAは、乳酸塩の酸化を促進し、獲得性および先天性の型の乳酸アシドーシスの罹患率を減少させる。ジクロロ酢酸イオンは、酵素ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼを阻害することにより、酵素ピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性を刺激する。したがって、解糖系からミトコンドリアにおける酸化に向かうピルビン酸の代謝をシフトさせることにより、ジクロロ酢酸イオンは、乳酸産生を減少させる。
【0053】
がん細胞は、それらの生存を促進する方法で、酸素を代謝する方法を変更する傾向がある。侵襲性の原発性脳がんの多形性膠芽腫を含む固形腫瘍は、ミトコンドリアの酸化的リン酸化から細胞質の解糖系へスイッチした結果、部分的に細胞死への耐性を発現する。DCAは、インビトロおよびインビボの両方で、ミトコンドリアを脱分極し、ミトコンドリアの活性酸素種を増加させ、解糖系のがん細胞におけるアポトーシスを誘導する。
【0054】
DCA療法はまた、低酸素誘導因子−1αを阻害し、p53の活性化を促進し、そして、インビボおよびインビトロの両方の血管新生を抑制した。DCAは、ヒトのがんにおいて有益であり得るというインビボおよびインビトロのモデルでの前臨床における実質的な証拠が存在する。さらに、DCAによってミトコンドリアを活性化することは、腫瘍中の酸素の消費を増加させ、動物モデルにおける低酸素特異的化学療法の効果を劇的に増強する。組織培養で増殖した分離がん細胞の実験室での研究では、DCAは、元の代謝を復元し、それらの自己破壊を促進する。
【0055】
オクトレオチド(商標名SANDOSTATIN(登録商標))は、薬理学的に天然ソマトスタチンに似ているオクタペプチドであるが、それは天然のホルモンよりも、成長ホルモン、グルカゴン、およびインスリンのより強力な阻害剤である。オクトレオチドは、皮下適用後に迅速かつ完全に吸収される。30分後に最大血漿濃度に達する。
【0056】
発がん遺伝子は、「チロシンキナーゼ受容体経路」、すなわち、インスリンまたはIGF−成長ホルモン受容体を含む受容体ファミリーのタンパク質を発現することができる。他の発がん遺伝子は、これらのキナーゼに対してPP2Aホスファターゼブレーキを変化させる。オクトレオチドは、1979年以来、様々な病状に使用されている。それはインスリンの分泌を阻害し、また、インスリン成長因子1(IgF1)に対する抑制剤として作用するので、その使用が解糖系の種々のがんにおいて提唱されている。オクトレオチドは、動物実験によって示されるように患者に有益な治療用途を有することが見出されている。
【0057】
GHホルモンは、肝臓において、インスリン様成長因子(IGF)の合成および放出を誘導する。後者は、インスリンのように、IGF−チロシンキナーゼ受容体(IGFR)を活性化し、MAPキナーゼ−ERK細胞増殖シグナルを誘発する。通常の生理機能では、GHは、脂肪細胞におけるトリグリセリドリパーゼを刺激し、脂肪酸の放出およびそのβ酸化を増加させる。並行して、GHは、アセチルCoAの解糖源を閉じて、ミトコンドリアとのヘキソキナーゼの相互作用をおそらく阻害する。アポトーシスを可能とするこの効果は、腫瘍細胞では生じない。
【0058】
例えば、特定の疾患または状態を治療する目的のために、有効成分の組み合わせを投与することが望ましいかもしれないので、2つ以上の医薬製剤を、組成物の共投与に適したキットの形態で好都合に組み合わせることは、本開示の範囲内である。
【0059】
したがって、本明細書に開示されるキットは、2つ以上の別個の医薬製剤(少なくともそのうちの1つは、本明細書に記載のように有効成分を含む)および前記製剤を別個に保持するための手段、例えば、容器、分割ボトル、または分割ホイルパケットを含む。このようなキットの一例は、錠剤、カプセル剤などの包装に使用されるおなじみのブリスターパックである。
【0060】
キットは、例えば、異なる投与間隔で別個の組成物を投与するため、または別個の組成物を互いに対して用量設定するための、経口および非経口の、異なる剤形を投与するのに特に適している。コンプライアンスを補助するため、キットは典型的には、投与指示を含み、また記憶を助けるものを備える場合がある。
【0061】
本発明の化合物は、非溶媒和物および溶媒和物の両方の形態で存在することができる。用語「溶媒和物」は、本発明の化合物と化学量論量の1種以上の薬学的に許容される溶媒分子、例えばエタノールを含む分子錯体を示すために本明細書で使用される。「水和物」という用語は、前記溶媒が水である場合に使用される。
【0062】
本発明の範囲内に含まれるのは、前述の溶媒和物とは対照的に、薬物およびホストが化学量論的または非化学量論的な量で存在する、包接化合物、薬物−ホスト包接錯体などの錯体である。また、化学量論的または非化学量論的な量でもよい2種以上の有機および/または無機成分を含有する薬物の錯体も含まれる。得られた錯体は、イオン化、部分的なイオン化、または非イオン化されてもよい。このような錯体の総説については、引用によりその全体が本明細書に組み込まれるHaleblianによるJ Pharm Sci,64(8),1269−1288(1975年8月)を参照されたい。
【0063】
以下、本明細書に開示された有効成分へのすべての言及は、それらの塩、溶媒和物および錯体、ならびにそれらの塩の溶媒和物および錯体への言及を含む。
【0064】
本明細書に開示される有効成分は、本明細書に開示される有効成分として以下に定義される、すべての多形およびその晶癖、プロドラッグおよびその異性体(光学異性体、幾何異性体および互変異性体を含む)を含む。例えば、本明細書に開示される全てのHDACIと解糖阻害剤は、全ての多形およびその晶癖、プロドラッグおよびその異性体(光学異性体、幾何異性体および互変異性体を含む)を含む。
【0065】
示されるように、本明細書に開示される有効成分のいわゆる「プロドラッグ」もまた、本発明の範囲内である。従って、本明細書に開示される有効成分の特定の誘導体は、それ自体はほとんどまたは全く薬理活性を有しなくてもよく、身体内または身体上に投与された場合、例えば、加水分解開裂により、所望の活性を有する本明細書に開示された有効成分に変換され得る。このような誘導体は「プロドラッグ」と呼ばれる。プロドラッグの使用についての詳細は、Prodrugs as Novel Delivery Systems,Vol.14,ACS Symposium Series(T.Higuchi and W.Stella)およびBioreversible Carriers in Drug Design,Pergamon Press,1987(E.B.Roche編,American Pharmaceutical Association)に見ることが可能であり、これらは、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0066】
本開示によるプロドラッグは、例えば、本明細書に開示された有効成分中に存在する適切な官能性を、例えば、H.BundgaardによるDesign of Prodrugs(Elsevier,1985)(これは、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載の「プロ成分」として当業者に知られている特定の成分で置き換えることにより製造することができる。
【0067】
前述の例による置換基の例、および他のプロドラッグの種類の例は、前述の参考文献に見出すことができる。
【0068】
また、本明細書に開示される有効成分の代謝産物、つまり薬物の投与の際にインビボで形成される化合物は、本発明の範囲内に含まれる。
【0069】
本明細書に開示される有効成分の化合物は、1つ以上の不斉炭素原子を含むことができ、2つ以上の立体異性体として存在することができる。本明細書に開示される有効成分が、アルケニル基またはアルケニレン基を含む場合は、幾何シス/トランス(またはZ/E)異性体が可能である。構造異性体が低エネルギー障壁を介して相互変換可能である場合、互変異性現象(「互変異性」)が起こり得る。これは本明細書に開示される有効成分におけるプロトン互変異性の形態を取ることができ、例えば、イミノ基、ケト基、もしくはオキシム基、または芳香族成分を含有する化合物におけるいわゆる原子価互変異性を含む。単一の化合物が、2種以上の異性を示し得ることになる。
【0070】
本明細書に開示される有効成分のすべての立体異性体、幾何異性体および互変異性体は、本開示の範囲内に含まれ、2種以上の異性を示す化合物およびこれらの1つ以上からなる混合物を含む。また、酸付加塩または塩基塩も含まれ、ここで、対イオンは、光学的に活性であり、例えば、d−乳酸塩もしくはl−リジンまたはラセミ体、例えばdl−酒石酸塩もしくはdl−アルギニンである。
【0071】
シス/トランス異性体は、当業者に周知の従来の技術によって、例えば、クロマトグラフィーおよび分別結晶により分離することができる。
【0072】
個々の鏡像異性体を調製/単離するための従来の技術は、適切な光学的に純粋な前駆体のキラル合成または例えば、キラル高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用する、ラセミ体(または塩もしくは誘導体のラセミ体)の分割を含む。
【0073】
別の方法として、ラセミ体(またはラセミ前駆体)は、適当な光学活性化合物、例えば、アルコールと反応させるか、または、本明細書に開示される有効成分が、酸性または塩基性成分を含んでいる場合には、1−フェニルエチルアミンまたは酒石酸などの塩基または酸と反応させてもよい。得られたジアステレオ異性混合物は、クロマトグラフィーおよび/または分別結晶によって分離することができ、ジアステレオ異性体の1つまたは両方を、当業者によく知られている手段によって対応する純粋な鏡像異性体に変換することが可能である。
【0074】
本発明のキラル化合物(およびそのキラル前駆体)は、イソプロパノールの0〜約50容量%、典型的には約2%〜約20%、およびアルキルアミンの0〜約5容量%、典型的には、ジエチルアミンの約0.1%を含む、典型的にはヘプタンまたはヘキサンなどの炭化水素からなる移動相を用いて、不斉樹脂上でのクロマトグラフィー、典型的にはHPLCを使用して鏡像異性的に富化された形で得ることができる。溶出液の濃縮により、富化された混合物が得られる。
【0075】
立体異性体の集合体は、当業者に知られている従来の技術によって分離することができる。例えば、E.L.ElielおよびS.H.Wilenによる“Stereochemistry of Organic Compounds”(Wiley,New York,1994)(これは、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0076】
本発明には、1個または複数の原子が、同じ原子番号であるが、自然に通常見いだされる原子量または質量数と異なる原子量または質量数を有する原子によって置換されている、本明細書に開示される有効成分の薬学的に許容される同位体標識化合物がすべて含まれる。
【0077】
本発明の化合物中に含めるのに適切な同位体の例としては、限定されるものではないが、
2Hおよび
3Hなどの水素の同位体、
11C、
13Cおよび
14Cなどの炭素の同位体、
36Clなどの塩素の同位体、
18Fなどのフッ素の同位体、
123Iおよび
125Iなどのヨウ素の同位体、
13Nおよび
15Nなどの窒素の同位体、
15O、
17Oおよび
18Oなどの酸素の同位体、
32Pなどのリンの同位体、および
35Sなどのイオウの同位体が挙げられる。
【0078】
本明細書に開示される特定の同位体標識有効成分、例えば、放射性同位体を組み入れたものは、薬物および/または基質の組織分布研究において有用である。放射性同位体であるトリチウム、すなわち
3H、および炭素−14、すなわち
14Cは、組み入れの容易さおよび簡単な検出手段に鑑みてこの目的に特に有用である。
【0079】
重水素、すなわち
2Hなどのより重い同位体による置換は、例えば、インビボでの半減期が長くなる、または必要な用量が少なくなるなどのより大きな代謝安定性に由来する特定の治療上の利点を与え、したがって、ある状況では好ましい場合がある。
【0080】
11C、
18F、
15Oおよび
13Nなどの陽電子放出同位体による置換は、基質受容体占有率を調べるための陽電子放出断層撮影(Positron Emission Topography)(PET)研究において有用となり得る。
【0081】
本明細書に開示される同位体標識有効成分は一般に、当業者に知られている従来技法により、または前に用いた非標識試薬の代わりに適切な同位体標識試薬を用い、添付の実施例に記載の方法に類似した方法により調製することができる。
【0082】
フリーラジカルと低酸素は、ミトコンドリアDNAの損傷を増加させ、低酸素誘発性因子−1およびVEGFを通じてがんの増殖および転移のリスクに関連するエピジェネティクスに望ましくない変化をもたらし得ると考えられる。低酸素は、低下した治療応答、もっと最近では、悪性化と関連した局所的に進行した固形腫瘍の一般的な特徴である。悪性化に対する低酸素の影響は、腫瘍細胞がその酸素欠乏環境を生き残るか、あるいはエスケープすることを可能とする血管新生、嫌気性代謝、および他のプロセスを活性化する一連の低酸素誘導プロテオミクスおよびゲノムの変化によって媒介されることを新たな証拠は示している。転写因子低酸素誘導因子1(「HIF−1」)は、低酸素ストレスに対する腫瘍細胞適応の調節因子である。低酸素条件下での生存に有利なプロテオミクスおよびゲノム変化を有する腫瘍細胞は、増殖し、それによって、さらに低酸素を増大することになる。最終的に支配的な腫瘍細胞タイプとなる新しい(そしてより攻撃的)クローンの選択および拡大は、低酸素と悪性化の悪循環の確立につながる。低酸素は、腫瘍細胞−血小板結合および血行性転移を増強する悪性細胞による組織因子の発現を増加させる傾向がある。低酸素は、その持続時間がどうであれ、HIF−1の核含有量だけでなく、エリスロポエチンおよびVEGFのmRNAレベルを増加させる。HIF−1は、固形腫瘍細胞の増殖および生存において重要な役割を果たしている。HIF−1αの過剰発現は、多くのヒト腫瘍で実証され、化学放射線療法に対する応答不良を予測する。
【0083】
その点では、高圧酸素療法(HBOT)は、特定の悪性腫瘍において有益な役割を果たし、化学療法と共に使用されるとき、患者の生活の質を高め、インビトロで特定のがん遺伝子および腫瘍増殖を阻害し、腫瘍負荷を低減することができ、大きな腫瘍細胞コロニーの成長を制限すると考えられている。この効果は、その後、腫瘍転移に関与するVEGF遺伝子の発現を変更することができるHIF−1を低下させることにより起こり得る。VEGFは、腫瘍血管新成の開始因子である。さらに、VEGF発現は、低酸素によって増強され、固形腫瘍の低酸素領域におけるVEGF産生の増強は、VEGFによる腫瘍の血管新生に寄与すると考えられる。
【0084】
細胞死を引き起こさないフリーラジカル関連の病変は、がんの発生を刺激する可能性があり、がんの成長および転移を促進する可能性があると考えられる。活性酸素種は、ミトコンドリアDNA変異を生成し、HIF−Iを上方制御するので、酸化的損傷を低減することは有益である。
【0085】
フリーラジカル産生や細胞の損傷を効果的に軽減する利用可能な治療法がある。これらの治療は、潜在的にエピジェネティクスを変更し、DCAおよび3BPなどの他の治療の有効性を高めることができる。その結果、HBOTを本明細書に開示の製剤および方法と組み合わせることは、有益であろう。
【0086】
また、本発明は、任意の後成的修飾因子の投与の前または後のいずれかに、単独または別の後成的修飾因子との併用もしくは共投与で、高圧酸素による治療の使用を意図している。一般に、高圧酸素治療または高圧酸素療法は、個体が所定時間、1気圧よりも高い周囲気圧での増加した酸素環境にさらされる治療法である。高圧酸素療法は、塞栓症、一酸化炭素中毒、挫滅損傷、減圧症、貧血、および骨感染症を含む多くの状態を治療するために承認されている。高圧酸素療法と様々な高圧治療装置(高圧チャンバーなど)は、当該技術分野において一般に知られており、引用によりその全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,865,722号などの種々の特許に記載されている。任意の適切な高圧装置または高圧チャンバーを、本発明において使用することができる。1つ以上の後成的修飾因子は、例えば、高圧チャンバーにおいてなどの高圧酸素治療の前または後に投与することができる。高圧酸素治療は、任意の後成的修飾因子の投与前後の約24時間内に、または任意の後成的修飾因子の投与前後の約5分〜約90分の間に、または任意の後成的修飾因子の投与前後の約30分〜約3時間の間に行うことが可能である。
【実施例】
【0087】
実施例1:製剤、キット、および投与
【0088】
種々の実施形態では、SPBとケルセチンを含む製剤が提供される。製剤は、併用形態であってもよい。製剤は、生理食塩水媒体を使用し、この中に、ケルセチンを約0.5g〜約1.0g、SPBを約5.0g〜約10.0g含む。さらなる実施形態では、D5生理食塩水が、通常の生理食塩水媒体の代わりに使用される。さらなる実施形態において、製剤は、抗酸化剤をさらに含む。
【0089】
種々の実施形態では、LAとケルセチンを含む製剤が提供される。製剤は、併用形態であってもよい。製剤は、生理食塩水媒体を使用し、この中に、ケルセチンを約0.5g〜約1.5g、LAを約200mg〜約1000mg含む。さらなる実施形態では、D5生理食塩水が、通常の生理食塩水媒体の代わりに使用される。
【0090】
種々の実施形態では、LAとSPBを含む製剤が提供される。製剤は、併用形態であってもよい。製剤は、生理食塩水媒体を使用し、この中に、LAを約200mg〜約1000mg、SPBを約1.0g〜約10.0g含む。さらなる実施形態では、D5生理食塩水が、通常の生理食塩水媒体の代わりに使用される。
【0091】
種々の実施形態では、SPB、ケルセチン、および解糖阻害剤を含む製剤が提供される。種々の実施形態では、解糖阻害剤は、3−BP、DCA、およびオクトレオチドの少なくとも1つを含む。製剤は、併用形態であってもよい。製剤は、生理食塩水媒体を使用し、この中に、ケルセチンを0.5g〜約1.5g、SPBを約1.0g〜約10.0g含む。さらなる実施形態では、D5生理食塩水が、通常の生理食塩水媒体の代わりに使用される。
【0092】
種々の実施形態では、緑茶抽出物(例えば、EGCG)とSPBを含む製剤が提供される。製剤は、併用形態である。製剤は、生理食塩水媒体を使用し、この中に、緑茶抽出物が、約100mg〜約1.5g、SPBが、約1.0g〜約10.0g含まれる。
【0093】
様々な実施形態による任意の製剤は、本明細書に記載されるように、キット中に包装されてもよい。加えて、本明細書に開示される有効成分は、共投与されてもよいし、あるいは時間的に近接して上記のように投与してもよい。
【0094】
実施例2:高圧酸素療法(HBOT)
【0095】
本明細書に開示された任意の有効成分を投与または共投与した後に、HBOTを投与してよい。様々な実施形態では、患者は、本明細書に開示される任意の有効成分の投与後、約5分〜約90分の間にHBOTを施される。HBOT環境は、約0.5気圧〜約2.5気圧、より好ましくは、約1.5気圧〜約2気圧の圧力で少なくとも約95%酸素の気圧を含む。HBOTは、約30分〜約3時間行う。
【0096】
実施例3:試験
【0097】
本明細書に開示されたものと一致して、様々な試験が、HDACIや高圧酸素を使用した後成的修飾因子療法とともにがん患者のアナボリック解糖を減らすための標的療法を用いて実施された。これらの治療は、生活の質を高め、患者の生存率を向上させることができることが示された。より具体的には、統合的ながん医療/アプローチが、そのような介入について自発的に問い合わせた患者を治療するために行われた。
【0098】
試験I:40人の患者のカルテがランダムに選択され、検討された。試験対象患者基準は、がんの診断であった。患者はいずれも除外されなかった。患者は、27才から83才であった。全員が担当のがん専門医/医師により診断され、標準的な従来の手術の治療、従来の化学療法、または放射線療法を受けた。40人の患者のうち、20人は、標準治療を拒否したか、または疾患の重症度のために彼らに利用可能な従来の選択肢がなかった。40人の患者のうち、23人は、治療を開始する前、専門医の照会時に小さいまたは大きい複数の転移を伴う進行期の疾患を有していた。これらの患者のうち19人(47%)は、複数の化学療法剤で既に治療されたことがあるがうまくいかず、また腫瘍マーカーやスキャンによって明らかにされた進行性または再発性の疾患を有していた。
【0099】
患者は、特定の天然品および合成品の静注療法の使用を含意する利用可能な調査研究や臨床試験との相関関係において設計された固有の開発されたプロトコルに基づいて管理された。静注療法は、後成的レベルで標的化され、別々に、または組み合わされて、抗酸化剤、ケルセチン、DCA、フェニル酪酸ナトリウム、およびリポ酸からなる。すべての患者は、1つまたは複数のそのような治療を受けた。各治療の用量が同じであるか、各治療で近接しており、ケルセチンは、約0.5g〜約1.5g(50mg/ml)の用量で静脈内投与された。投与する際、SPBの用量は、約1.0g〜約10.0g(200mg/mlの25〜50mlであった。投与する際、DCAの用量は、約500mg〜約6g(最大100/kg)であった。投与する際、リポ酸は、約200mg〜約1000mgで投与された。高圧酸素治療は、各セッションで45〜90分(平均60分)、標準的な1.5〜2.0の大気圧で適用された。投与の際、オクトレオチドは、約50mcg〜約400mcgで皮下投与された。
【0100】
すべての患者は従来の治療法および非従来の治療法の可能な選択肢について教育され、同意を得た後に、プログラムを開始した。疾患の進行は、治療の過程で、腫瘍マーカー、画像研究およびがんの増殖マーカー、壊死、LDH、および炎症、CRP、ならびにナチュラルキラー細胞活性またはリンパ球数および循環腫瘍細胞を介して測定された。
【0101】
次の結果が治療の過程で、または治療の完了した後に得られた:
1)QOLの自覚的増加(エネルギーレベルの増加、より少ない疼痛スコアおよび気分の上昇:100%
2)免疫学的応答:ナチュラルキラー(NK)細胞活性や白血球(WBC)数の増加:患者の35%が初期には低NK/WBCであったが、すべてのこれらの患者は、治療後にNK活性が増加している。
3)LDHの測定による腫瘍活性の潜在的な減少:患者の40%は、高LDHを有していたが、すべてのこれらの患者は、治療後にLDHの減少を示している。
4)臨床応答に適する十分な、腫瘍マーカーの応答:50%
5)X線写真検査での腫瘍の縮小:35%
6)CRPの減少(改善された生存率との相関):23%
7)IgF−1の減少:これらの患者の12%は、IgF−1が増えており、文献での予後と相関することが示唆された。これらの患者はすべて、治療後にIgF−1が改善した。
【0102】
がん患者は、彼らの対照群を選択する際に大きな影響を与える層別化の交絡因子を有するかもしれないので、我々は各患者の事前介入状態をコントロールアームとして用いた。他の層別化の交絡因子を有する患者は、試験期間中、変わらなかった。
【0103】
試験Iの結果分析:
1)これらのデータは、対照群と比較して患者群での優れた応答を明らかにしている。治療を受けた患者の47%で、専門医の照会の際に利用可能な従来の選択肢がなかった。この群では、従来の治療様式と比較して、はるかに良い結果である。
2)HBOTおよび静注療法の両方を受けた患者は、静注療法単独を受けたものよりも、画像検査、生活の質および腫瘍の縮小、ならびに腫瘍マーカーのコントロールに関する限りは改善した。
3)上記のプログラムを受けているステージ4の末期の疾患の患者は、治療予想の基準を超えて応答し、そして上記の標的療法と同時に化学療法を受けた患者は、生活の質と化学療法応答が大幅に向上した。
【0104】
さらなる研究では、45人の患者のカルテを選択し、遡及的に検討した。試験対象患者基準は、がんの診断であり、プロトコルにより最小限2週間の治療を受けた。患者は誰も除外されなかった。患者は、27才から83才であった。全員が担当のがん専門医/医師により診断され、標準的な従来の手術の治療、従来の化学療法、または放射線療法を受けた。45人の患者のうち、25人は、従来の化学療法を拒否したか、または疾患の重症度のために、および治療の標準に対応できないために、彼らに利用可能な従来の選択肢がなかった。
【0105】
試験II:45人の患者のうち、36人(80%)は、ステージ4であり、治療を開始する前、専門医の照会時には小さいか、または大きい複数の転移を伴う進行期の疾患を有していた。
【0106】
これらの患者のうち25人(55%)は、複数の化学療法剤を含む標準治療ですでに治療されていたがうまくいかず、腫瘍マーカーやスキャンによって明らかにされた疾患の再発、進行またはぶり返しを有していた。
【0107】
患者は、特定の天然品および合成品の静注療法の併用を含意する利用可能な調査研究や臨床試験との相関関係において設計された固有の開発されたプロトコルに基づいて管理された。静注療法は、後成的レベルで標的化された。高圧酸素治療は、各セッションで45〜90分(平均60分)、標準的な1.5〜2.0の大気圧で一部の患者にも同様に適用された。
【0108】
すべての患者は、従来の治療法および非従来の治療法の可能な選択肢について教育され、同意した後にプログラムを開始した。疾患の進行は、治療の過程で、または治療経過後に、腫瘍マーカー、画像検査およびがんの増殖マーカー、壊死、LDH、および炎症、CRP、ならびにナチュラルキラー細胞活性またはリンパ球数および循環腫瘍細胞を介して測定された。
【0109】
以下の結果が、治療過程中に、あるいは治療の完了後に得られた:
1)QOLの自覚的増加(エネルギーレベルおよび機能の増大、体重増加、改善された疼痛スコア):98%(1人の患者は、ライン感染症を抗生物質で治療し、5人の患者は、抗ヒスタミン薬を必要とする軽微な反応を有していた)。
2)免疫学的応答:ナチュラルキラー細胞活性の増加:19人(42%)の患者が測定された初期の低ナチュラルキラー細胞活性を有し、低免疫機能を示した。19人のうち12人は、治療後に改善された。1人は同じ状態のままであり、2人はより低い活性を有し、3人の患者は後治療に従わなかった。
3)LDHの測定による腫瘍活性の潜在的な減少:42人の患者のLDHを測定した。(3人の患者は、LDHが不明であった)。20人(44%)の患者は、初期の高LDH値を有し、そのうち18人(90%)は、治療後にLDHの減少を示した。
4)臨床応答を示す腫瘍マーカーの応答:14人の患者は、通常の腫瘍マーカーを有していたか、あるいは彼らの病気と相関する腫瘍マーカーが存在しなかった。高い腫瘍マーカーを有する残り(31人の患者)のうち、27人(87%)の患者は、治療経過後に腫瘍マーカーが減少していた。2人の患者では、変動し、1人は安定であった。
5)X線写真/画像検査における腫瘍の縮小:25人の患者が、彼らの状態についての画像報告を有していた。他の20人は、画像がなかったか、または適用できなかったか、あるいは関係がなかった。25人の患者のうち、19人(76%)の患者が治療後のスキャンで陽性反応を示した。7人の患者では、結果は、入り混じったものか、あるいは安定であった。2つの症例は、進行し、1つの症例は初期応答の後に進行した。
6)CRPの減少(改善された生存率との相関):22人の患者は、CRPが上昇していた。23人の患者は、彼らのCRPが正常範囲であったか、または検査されなかった。17人の患者は、C反応性蛋白が増加していた。16人の患者は、減少したCRPに応答した。1人は増加した。
7)IgF−1の減少:38人の患者は、彼らのインスリン様成長因子を検査した。10人の患者は、治療を開始する前にそのレベルが上昇していた。これらすべての患者(100%)は、治療後、減少したレベルに応答したが、これは文献の予後と相関することが示唆された。これらのすべての患者は、治療後のIgF−1が正常範囲に改善した。
8)VEGFの減少:20人の患者は、彼らの血管内皮増殖因子(VEGF)を検査した。我々は、転移の高いリスクと相関する増加したレベルの4人の患者を発見した。4人ともすべて治療後、VEGFが減少した。
【0110】
がん患者は、彼らの対照群を選択する際に大きな影響を与える層別化の交絡因子を有するかもしれないので、我々は各患者の事前介入状態をコントロールアームとして用いた。他の層別化の交絡因子を有する患者は、試験期間中、変わらなかった。
【0111】
試験IIの結果分析:
1)これらのデータは、対照群と比較して患者群での優れた応答を明らかにしている。治療を受けた患者の47%で、専門医の照会の際に利用可能な従来の選択肢がなかった。この群では、利用できる治療の選択肢がない従来の治療様式と比較して、はるかに良い結果である。
2)HBOTおよび静注療法の両方を受けた患者は、静注療法単独を受けたものよりも、画像検査、生活の質および腫瘍の縮小、ならびに腫瘍マーカーのコントロールに関する限りは改善した。
3)上記のプログラムを受けているステージ4の末期の疾患の患者は、治療予想の基準を超えて応答し、そして上記の標的療法と同時に化学療法を受けた患者は、生活の質と化学療法応答が大幅に向上した。
【0112】
示されているように、後成的修飾因子の使用は、がん患者の生存率だけでなく、多くの患者の生活の質を向上させた。治療の上記様式は、従来の治療標準よりも優れていることが判明した。