特許第6401419号(P6401419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6401419
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】風車並びにその制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   F03D 7/04 20060101AFI20181001BHJP
   F03D 80/70 20160101ALI20181001BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   F03D7/04 E
   F03D80/70
   F03D1/06 A
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2018-502872(P2018-502872)
(86)(22)【出願日】2016年2月29日
(86)【国際出願番号】JP2016056068
(87)【国際公開番号】WO2017149605
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2017年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】馬場 満也
【審査官】 井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−133554(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/001479(WO,A1)
【文献】 特開2005−155698(JP,A)
【文献】 特開2006−52771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03D 7/04
F03D 1/06
F03D 80/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の風車翼と、
前記複数の風車翼のピッチ角をそれぞれ制御するための複数の油圧アクチュエータと、
前記複数の油圧アクチュエータのための制御油が貯留された第1タンクと、
前記複数の油圧アクチュエータと前記第1タンクとの間に設けられ、前記制御油を圧送するための第1油圧ポンプと、
前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれに対応して設けられ、前記油圧アクチュエータへの前記制御油の供給状態を制御するための複数のバルブと、
前記バルブの各々を制御するための制御部と、を備え、
前記制御部は、前記複数の風車翼のピッチ油圧系統の暖機時、各々の前記風車翼について順に、該風車翼のピッチ角をフェザー側からファイン側に動かして前記フェザー側に戻す油入替え動作を該風車翼に対応する前記油圧アクチュエータに行わせるよう、該風車翼に対応する前記バルブを制御するように構成されたことを特徴とする風車。
【請求項2】
前記制御部は、i番目(但し、i=1〜N−1であり、Nは前記風車翼の総数である。)の前記風車翼についてi番目の前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせた後、(i+1)番目の前記風車翼について(i+1)番目の前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせるよう、複数の前記バルブを制御するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の風車。
【請求項3】
前記バルブは、
前記油圧アクチュエータの各々と前記第1油圧ポンプとの間に設けられた比例弁と、
前記油圧アクチュエータの各々と前記第1タンクとの間に設けられた危急電磁弁と、
を含み、
前記制御部は、各々の前記風車翼について前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせるとき、前記ピッチ角を前記フェザー側から前記ファイン側に動かすよう前記比例弁を開くように制御した後、前記ファイン側から前記フェザー側に前記ピッチ角を戻すよう前記危急電磁弁を開くように制御するように構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の風車。
【請求項4】
前記第1油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとの間に一端が接続され、前記第1油圧ポンプからの前記制御油を前記第1タンクに返送するためのバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられたバイパス弁と、をさらに備え、
前記制御部は、
前記第1タンク内の前記制御油の温度が第1閾値未満であるとき、前記バイパス弁を開いて、前記第1油圧ポンプによって前記バイパスラインを含む循環流路内にて前記第1タンク内の前記制御油を循環させて、前記油圧アクチュエータ側に前記制御油を供給しないアンロード状態とし、
前記第1タンク内の前記制御油の前記温度が前記第1閾値以上であるとき、前記バイパス弁を閉じて、前記油圧アクチュエータ側に前記制御油を供給可能なオンロード状態とする
ように構成されたことを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の風車。
【請求項5】
前記第1タンク内の前記制御油を加熱するための第1ヒータをさらに備え、
前記制御部は、前記ピッチ油圧系統の暖機開始時に前記第1油圧ポンプが停止していた場合であって、前記第1タンク内の前記制御油の前記温度が前記第1閾値よりも小さい規定温度以下であるとき、前記第1油圧ポンプを停止させたまま、前記第1タンク内の前記制御油を加熱するよう前記第1ヒータを制御するように構成されたことを特徴とする請求項4に記載の風車。
【請求項6】
前記第1油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとの間に一端が接続され、前記第1油圧ポンプからの前記制御油を前記第1タンクに返送するためのバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられたバイパス弁と、をさらに備え、
前記制御部は、
外気温が前記風車の運転可能温度域の下限値未満である期間が規定時間継続した場合、前記風車の運転を停止して前記風車翼の各々の前記ピッチ角を前記フェザー側に移行させるよう前記バルブを制御し、
前記外気温が前記風車の暖機開始温度以上である期間が規定時間継続する暖機開始条件を満たすまでの間、前記バイパス弁を開くアンロード状態のまま前記風車を待機させ、
前記暖機開始条件を満たした後、前記ピッチ油圧系統を含む前記風車の各部の暖機を行うように構成されたことを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の風車。
【請求項7】
前記複数の風車翼を含む風車ロータとともに回転するように構成された主軸と、
前記主軸を回転可能に支持する主軸受と、
前記主軸受のための潤滑油が貯留された第2タンクと、
前記第2タンク内の前記潤滑油を加熱するための第2ヒータと、
前記第2タンク内の前記潤滑油を前記主軸受に供給するための第2油圧ポンプと、をさらに備え、
前記制御部は、前記暖機開始条件を満たした後、
前記第2タンク内の前記潤滑油の温度が第2閾値未満である場合、前記第2タンク内の前記潤滑油を加熱するよう前記第2ヒータを制御し、
前記第2タンク内の前記潤滑油の温度が第2閾値に到達したら、前記第2油圧ポンプを間欠的に稼働させる
ように構成されたことを特徴とする請求項6に記載の風車。
【請求項8】
前記複数の風車翼を含む風車ロータの回転数を増速させるための増速機と、
前記増速機の内部に設けられたタンク部に貯留された潤滑油を、前記タンク部に接続される循環配管を介して循環させるための第3油圧ポンプと、
前記タンク部又は前記循環配管内の前記潤滑油を加熱するための第3ヒータと、をさらに備え、
前記制御部は、前記暖機開始条件を満たした後、
前記タンク部又は前記循環配管内の前記潤滑油を規定時間加熱するよう前記第3ヒータを制御する
ように構成されたことを特徴とする請求項6又は7に記載の風車。
【請求項9】
前記複数の風車翼を含む風車ロータとともに回転するように構成された主軸と、
前記主軸を回転可能に支持する主軸受と、
前記主軸受のための潤滑油が貯留された第2タンクと、
前記第2タンク内の前記潤滑油を前記主軸受に供給するための第2油圧ポンプと、
前記風車ロータの回転数を増速させるための増速機と、
前記増速機の内部に設けられたタンク部に貯留された潤滑油を、前記タンク部に接続される循環配管を介して循環させるための第3油圧ポンプと、をさらに備え、
前記制御部は、前記風車の各部の暖機を行うとき、前記第1油圧ポンプ、前記第2油圧ポンプおよび前記第3油圧ポンプのうち、前記暖機開始条件を満たしたときに稼働中であったポンプについて運転を継続させるように構成されたことを特徴とする請求項6乃至8の何れか一項に記載の風車。
【請求項10】
前記複数の風車翼を含む風車ロータを回転可能に支持するナセルと、
前記ナセルを旋回させるためのヨー駆動部と、をさらに備え、
前記制御部は、
前記風車の運転中、前記ナセルを風向に追従して旋回させるように前記ヨー駆動部を制御し、
前記アンロード状態のまま前記風車を待機させるとき、前記ヨー駆動部による前記ナセルの風向追従を行わない
ように構成されたことを特徴とする請求項6乃至9の何れか一項に記載の風車。
【請求項11】
請求項1乃至10の何れか一項に記載の風車のための制御装置であって、
前記風車の複数の風車翼のピッチ油圧系統の暖機時、各々の前記風車翼について順に、該風車翼のピッチ角をフェザー側からファイン側に動かして前記フェザー側に戻す油入替え動作を該風車翼に対応する前記油圧アクチュエータに行わせるよう、該風車翼に対応する前記バルブを制御するように構成されたことを特徴とする風車の制御装置。
【請求項12】
複数の風車翼と、
前記複数の風車翼のピッチ角をそれぞれ制御するための複数の油圧アクチュエータと、
前記複数の油圧アクチュエータのための制御油が貯留された第1タンクと、
前記複数の油圧アクチュエータと前記第1タンクとの間に設けられ、前記制御油を圧送するための第1油圧ポンプと、
前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれに対応して設けられ、前記油圧アクチュエータへの前記制御油の供給状態を制御するための複数のバルブと、を含む風車の制御方法であって、
前記複数の風車翼のピッチ油圧系統の暖機時、各々の前記風車翼について順に、該風車翼のピッチ角をフェザー側からファイン側に動かして前記フェザー側に戻す油入替え動作を該風車翼に対応する前記油圧アクチュエータに行わせるよう、該風車翼に対応する前記バルブを制御するステップを備えることを特徴とする風車の制御方法。
【請求項13】
前記バルブを制御するステップでは、
i番目(但し、i=1〜N−1であり、Nは前記風車翼の総数である。)の前記風車翼についてi番目の前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせた後、
(i+1)番目の前記風車翼について(i+1)番目の前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせるよう、複数の前記バルブを制御する
ことを特徴とする請求項12に記載の風車の制御方法。
【請求項14】
前記バルブは、
前記油圧アクチュエータの各々と前記第1油圧ポンプとの間に設けられた比例弁と、
前記油圧アクチュエータの各々と前記第1タンクとの間に設けられた危急電磁弁と、
を含み、
前記バルブを制御するステップでは、
各々の前記風車翼について前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせるとき、前記ピッチ角を前記フェザー側から前記ファイン側に動かすよう前記比例弁を開くように制御した後、
前記ファイン側から前記フェザー側に前記ピッチ角を戻すよう前記危急電磁弁を開くように制御する
ことを特徴とする請求項12又は13に記載の風車の制御方法。
【請求項15】
前記風車は、
前記第1油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとの間に一端が接続され、前記第1油圧ポンプからの前記制御油を前記第1タンクに返送するためのバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられたバイパス弁と、
をさらに含み、
外気温が前記風車の運転可能温度域の下限値以下である期間が規定時間継続した場合、前記風車の運転を停止して前記風車翼の各々の前記ピッチ角を前記フェザー側に移行させるよう前記バルブを制御するステップと、
前記外気温が前記風車の暖機開始温度以上である期間が規定時間継続する暖機開始条件を満たすまでの間、前記バイパス弁を開くアンロード状態のまま前記風車を待機させるステップと、
前記暖機開始条件を満たした後、前記ピッチ油圧系統を含む前記風車の各部の暖機を行うステップと、をさらに備えることを特徴とする請求項12乃至14の何れか一項に記載の風車の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、風車並びにその制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、風車翼のピッチ角を可変とするため、旋回輪軸受を介して、風車翼をハブに対して旋回可能に支持するとともに、油圧アクチュエータによって風車翼を旋回輪軸受の中心軸周りに旋回させるようにした風車が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、リンクを介して油圧シリンダによって風車翼のピッチ角を変化させるように構成された可変ピッチ翼式風車が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−226373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、油圧アクチュエータを含む風車翼のピッチ駆動装置は、外気温が低い状態で起動する際に暖機が必要となる。
特許文献1には、油圧シリンダを備えたピッチ駆動装置を暖機するための構成は開示されていない。
【0006】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態の目的は、ピッチ駆動装置の暖機を適切に行うことが可能な風車並びにその制御装置及び制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る風車は、
複数の風車翼と、
前記複数の風車翼のピッチ角をそれぞれ制御するための複数の油圧アクチュエータと、
前記複数の油圧アクチュエータのための制御油が貯留された第1タンクと、
前記複数の油圧アクチュエータと前記第1タンクとの間に設けられ、前記制御油を圧送するための第1油圧ポンプと、
前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれに対応して設けられ、前記油圧アクチュエータへの前記制御油の供給状態を制御するための複数のバルブと、
前記バルブの各々を制御するための制御部と、を備え、
前記制御部は、前記複数の風車翼のピッチ油圧系統の暖機時、各々の前記風車翼について順に、該風車翼のピッチ角をフェザー側からファイン側に動かして前記フェザー側に戻す油入替え動作を該風車翼に対応する前記油圧アクチュエータに行わせるよう、該風車翼に対応する前記バルブを制御するように構成される。
【0008】
上記(1)の構成によれば、複数の風車翼について油入替え動作を油圧アクチュエータに行わせて、各々の風車翼のピッチ油圧系統内において制御油を流すことで、制御油の油温の均一化を図り、ピッチ油圧系統の暖機を適切に行うことができる。また、複数の風車翼のための油入替え動作を順に行うようにしたので、ピッチ油圧系統の暖機中において風車ロータに生じる空力トルクを低減することができ、風車ロータの意図せぬ回転を抑制できる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記制御部は、i番目(但し、i=1〜N−1であり、Nは前記風車翼の総数である。)の前記風車翼についてi番目の前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせた後、(i+1)番目の前記風車翼について(i+1)番目の前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせるよう、複数の前記バルブを制御するように構成される。
【0010】
上記(2)の構成によれば、i番目の風車翼についての油入替え動作の完了後に、(i+1)番目の風車翼の油入替え動作を行うことで、ピッチ油圧系統の暖機中において風車ロータに生じる空力トルクを確実に低減することができる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、
前記バルブは、
前記油圧アクチュエータの各々と前記第1油圧ポンプとの間に設けられた比例弁と、
前記油圧アクチュエータの各々と前記第1タンクとの間に設けられた危急電磁弁と、
を含み、
前記制御部は、各々の前記風車翼について前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせるとき、前記ピッチ角を前記フェザー側から前記ファイン側に動かすよう前記比例弁を開くように制御した後、前記ファイン側から前記フェザー側に前記ピッチ角を戻すよう前記危急電磁弁を開くように制御するように構成される。
【0012】
上記(3)の構成によれば、各風車翼の油入替え動作を実施する際、ピッチ角をファイン側に動かすときにピッチ油圧系統のうち比例弁を含む油圧ラインに制御油が流れ、ピッチ角をフェザー側に動かすときにピッチ油圧系統のうち危急電磁弁を含む油圧ラインに制御油が流れる。こうして、ピッチ油圧系統の広範囲な油圧ラインに制御油を流すことで、ピッチ油圧系統における制御油の油温を効果的に均一化し、ピッチ油圧系統の暖機を適切に行うことができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの構成において、
前記風車は、
前記第1油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとの間に一端が接続され、前記第1油圧ポンプからの前記制御油を前記第1タンクに返送するためのバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられたバイパス弁と、をさらに備え、
前記制御部は、
前記第1タンク内の前記制御油の温度が第1閾値未満であるとき、前記バイパス弁を開いて、前記第1油圧ポンプによって前記バイパスラインを含む循環流路内にて前記第1タンク内の前記制御油を循環させて、前記油圧アクチュエータ側に前記制御油を供給しないアンロード状態とし、
前記第1タンク内の前記制御油の前記温度が前記第1閾値以上であるとき、前記バイパス弁を閉じて、前記油圧アクチュエータ側に前記制御油を供給可能なオンロード状態とする
ように構成される。
【0014】
上記(4)の構成によれば、バイパス弁の開閉制御により、第1タンク内の制御油の温度に応じてピッチ油圧系統をアンロード状態とオンロード状態とで切り替えるようにしたので、ピッチ油圧系統の暖機を効率的に行うことができる。
具体的には、第1タンク内の制御油の温度が第1閾値未満の場合、ピッチ油圧系統をアンロード状態とし、バイパスラインを含む循環流路内で制御油を循環させて第1タンク内の制御油を昇温させる。一方、第1タンク内の制御油の温度が第1閾値以上の場合、第1タンク内の比較的高温の制御油を油圧アクチュエータを含むピッチ油圧系統の大部分に供給することで、ピッチ油圧系統における制御油の油温の均一化を図ることができる。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、
前記風車は、前記第1タンク内の前記制御油を加熱するための第1ヒータをさらに備え、
前記制御部は、前記ピッチ油圧系統の暖機開始時に前記第1油圧ポンプが停止していた場合であって、前記第1タンク内の前記制御油の前記温度が前記第1閾値よりも小さい規定温度以下であるとき、前記第1油圧ポンプを停止させたまま、前記第1タンク内の前記制御油を加熱するよう前記第1ヒータを制御するように構成される。
【0016】
上記(5)の構成では、ピッチ油圧系統の暖機開始時に第1油圧ポンプが停止しており、且つ、第1タンク内の制御油の温度が規定温度以下の場合、第1油圧ポンプを停止させたまま、第1ヒータにより第1タンク内の制御油を昇温させるようになっている。これにより、例えば、温度低下により制御油の粘度又は性状が想定範囲を逸脱するような場合、いきなり第1油圧ポンプを稼働させるのではなく、第1ヒータにより制御油を昇温させることで、第1油圧ポンプの損傷を防止できる。
【0017】
(6)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(5)の何れかの構成において、
前記風車は、
前記第1油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとの間に一端が接続され、前記第1油圧ポンプからの前記制御油を前記第1タンクに返送するためのバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられたバイパス弁と、をさらに備え、
前記制御部は、
外気温が前記風車の運転可能温度域の下限値未満である期間が規定時間継続した場合、前記風車の運転を停止して前記風車翼の各々の前記ピッチ角を前記フェザー側に移行させるよう前記バルブを制御し、
前記外気温が前記風車の暖機開始温度以上である期間が規定時間継続する暖機開始条件を満たすまでの間、前記バイパス弁を開くアンロード状態のまま前記風車を待機させ、
前記暖機開始条件を満たした後、前記ピッチ油圧系統を含む前記風車の各部の暖機を行うように構成される。
【0018】
上記(6)の構成によれば、暖機開始条件を満たすまでの間、バイパス弁を開くアンロード状態において風車を待機させるようにしたので、バイパスラインを含む循環流路内で制御油を循環させて第1タンク内の制御油の温度低下を抑制できる。これにより、暖機開始条件を満たした後、ピッチ油圧系統の暖機を容易に行うことができる。
【0019】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)の構成において、
前記風車は、
前記複数の風車翼を含む風車ロータとともに回転するように構成された主軸と、
前記主軸を回転可能に支持する主軸受と、
前記主軸受のための潤滑油が貯留された第2タンクと、
前記第2タンク内の前記潤滑油を加熱するための第2ヒータと、
前記第2タンク内の前記潤滑油を前記主軸受に供給するための第2油圧ポンプと、をさらに備え、
前記制御部は、前記暖機開始条件を満たした後、
前記第2タンク内の前記潤滑油の温度が第2閾値未満である場合、前記第2タンク内の前記潤滑油を加熱するよう前記第2ヒータを制御し、
前記第2タンク内の前記潤滑油の温度が第2閾値に到達したら、前記第2油圧ポンプを間欠的に稼働させる
ように構成される。
【0020】
上記(7)の構成によれば、暖機開始条件を満たした後、第2タンク内の潤滑油(主軸受用潤滑油)の温度が第2閾値に到達するまでの間、第2ヒータによる加熱を行うようにしたので、例えば、温度低下により潤滑油の粘度又は性状が想定範囲を逸脱するような場合、いきなり第2油圧ポンプを稼働させるのではなく、第2ヒータにより潤滑油を昇温させることで、第2油圧ポンプの損傷を防止したり、主軸受からの高粘度の潤滑油が戻り配管で詰まることによる潤滑油漏れを抑制したりすることができる。また、第2タンク内の潤滑油の温度が第2閾値に到達した後、第2油圧ポンプを間欠的に稼働させる(インチング運転)ので、主軸受からの高粘度の潤滑油の漏れを抑制することができる。こうして、主軸受の潤滑油系統の暖機を適切に行うことができる。
【0021】
(8)幾つかの実施形態では、上記(6)又は(7)の構成において、
前記風車は、
前記複数の風車翼を含む風車ロータの回転数を増速させるための増速機と、
前記増速機の内部に設けられたタンク部に貯留された潤滑油を、前記タンク部に接続される循環配管を介して循環させるための第3油圧ポンプと、
前記タンク部又は前記循環配管内の前記潤滑油を加熱するための第3ヒータと、をさらに備え、
前記制御部は、前記暖機開始条件を満たした後、
前記タンク部又は前記循環配管内の前記潤滑油を規定時間加熱するよう前記第3ヒータを制御する
ように構成される。
【0022】
上記(8)の構成によれば、暖機開始条件を満たした後、第3ヒータにより、タンク部又は循環配管内の潤滑油(増速機用潤滑油)を昇温させることで、増速機の潤滑油系統の暖機を適切に行うことができる。
【0023】
(9)幾つかの実施形態では、上記(6)乃至(8)の何れかの構成において、
前記風車は、
前記複数の風車翼を含む風車ロータとともに回転するように構成された主軸と、
前記主軸を回転可能に支持する主軸受と、
前記主軸受のための潤滑油が貯留された第2タンクと、
前記第2タンク内の前記潤滑油を前記主軸受に供給するための第2油圧ポンプと、
前記風車ロータの回転数を増速させるための増速機と、
前記増速機の内部に設けられたタンク部に貯留された潤滑油を、前記タンク部に接続される循環配管を介して循環させるための第3油圧ポンプと、をさらに備え、
前記制御部は、前記風車の各部の暖機を行うとき、前記第1油圧ポンプ、前記第2油圧ポンプおよび前記第3油圧ポンプのうち、前記暖機開始条件を満たしたときに稼働中であったポンプについて運転を継続させるように構成される。
【0024】
上記(9)の構成によれば、風車各部の暖機を行う際、暖機開始条件を満たした時点で稼働中であったポンプの運転をそのまま継続させるようにしたので、暖機を速やかに行うことができる。
【0025】
(10)幾つかの実施形態では、上記(6)乃至(9)の何れかの構成において、
前記風車は、
前記複数の風車翼を含む風車ロータを回転可能に支持するナセルと、
前記ナセルを旋回させるためのヨー駆動部と、をさらに備え、
前記制御部は、
前記風車の運転中、前記ナセルを風向に追従して旋回させるように前記ヨー駆動部を制御し、
前記アンロード状態のまま前記風車を待機させるとき、前記ヨー駆動部による前記ナセルの風向追従を行わない
ように構成される。
【0026】
上記(10)の構成によれば、風車の運転中はヨー駆動部によりナセルを風向に追従させることで風車の運転効率を向上させるとともに、アンロード状態での風車の待機中はヨー駆動部によるナセルの風向追従を行わないことで、省エネルギーを実現できる。
【0027】
(11)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る風車の制御装置は、
上記(1)乃至(10)の何れかの構成の風車のための制御装置であって、
前記風車の複数の風車翼のピッチ油圧系統の暖機時、各々の前記風車翼について順に、該風車翼のピッチ角をフェザー側からファイン側に動かして前記フェザー側に戻す油入替え動作を該風車翼に対応する前記油圧アクチュエータに行わせるよう、該風車翼に対応する前記バルブを制御するように構成される。
【0028】
上記(11)の構成によれば、複数の風車翼について油入替え動作を油圧アクチュエータに行わせて、各々の風車翼のピッチ油圧系統内において制御油を流すことで、制御油の油温の均一化を図り、ピッチ油圧系統の暖機を適切に行うことができる。また、複数の風車翼のための油入替え動作を順に行うようにしたので、ピッチ油圧系統の暖機中において風車ロータに生じる空力トルクを低減することができ、風車ロータの意図せぬ回転を抑制できる。
【0029】
(12)本発明の少なくとも幾つかの実施形態に係る風車の制御方法は、
複数の風車翼と、
前記複数の風車翼のピッチ角をそれぞれ制御するための複数の油圧アクチュエータと、
前記複数の油圧アクチュエータのための制御油が貯留された第1タンクと、
前記複数の油圧アクチュエータと前記第1タンクとの間に設けられ、前記制御油を圧送するための第1油圧ポンプと、
前記複数の油圧アクチュエータのそれぞれに対応して設けられ、前記油圧アクチュエータへの前記制御油の供給状態を制御するための複数のバルブと、を含む風車の制御方法であって、
前記複数の風車翼のピッチ油圧系統の暖機時、各々の前記風車翼について順に、該風車翼のピッチ角をフェザー側からファイン側に動かして前記フェザー側に戻す油入替え動作を該風車翼に対応する前記油圧アクチュエータに行わせるよう、該風車翼に対応する前記バルブを制御するステップを備えることを特徴とする。
【0030】
上記(12)の方法によれば、複数の風車翼について油入替え動作を油圧アクチュエータに行わせて、各々の風車翼のピッチ油圧系統内において制御油を流すことで、制御油の油温の均一化を図り、ピッチ油圧系統の暖機を適切に行うことができる。また、複数の風車翼のための油入替え動作を順に行うようにしたので、ピッチ油圧系統の暖機中において風車ロータに生じる空力トルクを低減することができ、風車ロータの意図せぬ回転を抑制できる。
【0031】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)の方法において、
前記バルブを制御するステップでは、
i番目(但し、i=1〜N−1であり、Nは前記風車翼の総数である。)の前記風車翼についてi番目の前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせた後、
(i+1)番目の前記風車翼について(i+1)番目の前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせるよう、複数の前記バルブを制御する。
【0032】
上記(13)の方法によれば、i番目の風車翼についての油入替え動作の完了後に、(i+1)番目の風車翼の油入替え動作を行うことで、ピッチ油圧系統の暖機中において風車ロータに生じる空力トルクを確実に低減することができる。
【0033】
(14)幾つかの実施形態では、上記(12)又は(13)の方法において、
前記バルブは、
前記油圧アクチュエータの各々と前記第1油圧ポンプとの間に設けられた比例弁と、
前記油圧アクチュエータの各々と前記第1タンクとの間に設けられた危急電磁弁と、
を含み、
前記バルブを制御するステップでは、
各々の前記風車翼について前記油圧アクチュエータに前記油入替え動作を行わせるとき、前記ピッチ角を前記フェザー側から前記ファイン側に動かすよう前記比例弁を開くように制御した後、
前記ファイン側から前記フェザー側に前記ピッチ角を戻すよう前記危急電磁弁を開くように制御する。
【0034】
上記(14)の方法によれば、各風車翼の油入替え動作を実施する際、ピッチ角をファイン側に動かすときにピッチ油圧系統のうち比例弁を含む油圧ラインに制御油が流れ、ピッチ角をフェザー側に動かすときにピッチ油圧系統のうち危急電磁弁を含む油圧ラインに制御油が流れる。こうして、ピッチ油圧系統の広範囲な油圧ラインに制御油を流すことで、ピッチ油圧系統における制御油の油温を効果的に均一化し、ピッチ油圧系統の暖機を適切に行うことができる。
【0035】
(15)幾つかの実施形態では、上記(12)乃至(14)の何れかの方法において、
前記風車は、
前記第1油圧ポンプと前記油圧アクチュエータとの間に一端が接続され、前記第1油圧ポンプからの前記制御油を前記第1タンクに返送するためのバイパスラインと、
前記バイパスラインに設けられたバイパス弁と、
をさらに含み、
外気温が前記風車の運転可能温度域の下限値以下である期間が規定時間継続した場合、前記風車の運転を停止して前記風車翼の各々の前記ピッチ角を前記フェザー側に移行させるよう前記バルブを制御するステップと、
前記外気温が前記風車の暖機開始温度以上である期間が規定時間継続する暖機開始条件を満たすまでの間、前記バイパス弁を開くアンロード状態のまま前記風車を待機させるステップと、
前記暖機開始条件を満たした後、前記ピッチ油圧系統を含む前記風車の各部の暖機を行うステップと、をさらに備える。
【0036】
上記(15)の方法によれば、暖機開始条件を満たすまでの間、バイパス弁を開くアンロード状態において風車を待機させるようにしたので、バイパスラインを含む循環流路内で制御油を循環させて第1タンク内の制御油の温度低下を抑制できる。これにより、暖機開始条件を満たした後、ピッチ油圧系統の暖機を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明の少なくとも幾つかの実施形態によれば、複数の風車翼について油入替え動作を油圧アクチュエータに行わせて、各々の風車翼のピッチ油圧系統内において制御油を流すことで、制御油の油温の均一化を図り、ピッチ油圧系統の暖機を適切に行うことができる。また、複数の風車翼のための油入替え動作を順に行うようにしたので、ピッチ油圧系統の暖機中において風車ロータに生じる空力トルクを低減することができ、風車ロータの意図せぬ回転を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】一実施形態に係る風車の概略的な全体構成図である。
図2】外気温に対する風車ステートの遷移の一例を示す図である。
図3】一実施形態に係る風車のピッチ油圧系統を示す構成図である。
図4】暖機運転における風車翼のピッチ角を示す図である。
図5】一実施形態に係る風車の主軸油圧系統および増速機油圧系統を示す図である。
図6】一実施形態に係る風車の暖機運転のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0040】
最初に、図1を例示しながら、幾つかの実施形態に係る風車1について説明する。なお、図1は、一実施形態に係る風車1の概略的な全体構成図である。
【0041】
幾つかの実施形態に係る風車1は、複数の風車翼2(2A〜2C)および該風車翼2が取り付けられるハブ3を含む風車ロータ4と、風車ロータ4を回転可能に支持するナセル9と、ナセル9が上端に支持されたタワー10と、を備える。
また、風車1は、風車翼2のピッチ角を制御するための油圧アクチュエータ12を備えている。なお、風車1の暖機時、油圧アクチュエータ12は、後述する制御装置100によって制御される。
さらに、風車1は、ナセル9を旋回させるためのヨー駆動部14を備えていてもよい。さらにまた、風車1は、外気温を測定するための温度センサ15を備えていてもよい。
【0042】
例えば図1に示す一実施形態において、風車1は発電機8を備えた風力発電装置である。
この風車1は、3枚の風車翼2A〜2Cが放射状にハブ3に取り付けられた構成となっている。但し、風車翼2の枚数及び構成はこれに限定されるものではない。
ハブ3は主軸5に連結されている。
主軸5は、ナセル9に取り付けられた主軸受6に回転自在に支持されている。
複数の風車翼2が風を受けることによって、風車翼2及びハブ3を含む風車ロータ4は、主軸5と共に回転するようになっている。
【0043】
風車ロータ4は、主軸5を介して増速機7に連結されている。増速機7は、発電機8に接続されている。このため、風車ロータ4の回転は増速機7によって増速され、発電機8に入力される。なお、図1では風車ロータ4の回転エネルギーを発電機8に伝達するための動力伝達機構として増速機7(例えばギヤ式増速機)を例示したが、動力伝達機構はこれに限定されるものではない。例えば他の動力伝達機構として、主軸5を介して風車ロータ4を発電機8に直結したダイレクトドライブ、あるいは油圧ポンプ及び油圧モータを備えた油圧トランスミッションなどを用いることができる。
ナセル9は、タワー10の上端においてヨー方向に旋回可能に支持される。タワー10は、陸上に設置されてもよいし、洋上又は湖上等の水上に設置されてもよい。
【0044】
上述したような風車1においては、図2に例示するように、外気温を含む環境条件に応じて風車ステートが変化するようになっている。ここで、図2は、外気温に対する風車ステートの遷移の一例を示す図である。
なお、以下の説明において、各部位については適宜図1に示した符号を付している。
【0045】
図2に例示する実施形態では、風車1は、外気温に応じて、運転ステート、低温待機ステートおよび暖機ステートを含む複数の風車ステート間で遷移するようになっている。
【0046】
運転ステートでは、風車1は通常運転により発電を行う。
なお、運転ステートでは、ヨー駆動部14が、風向に応じて風車ロータ4の向きを調整する自動追従制御を行うように設定されてもよい。
【0047】
運転ステートにおいて、外気温が低温シャットダウン条件(A)を満たした場合、風車1は発電を停止し、低温待機ステートに移行する。例えば、低温シャットダウン条件(A)は、「外気温が低温待機開始温度−T℃未満の期間が規定時間t継続した場合」とする。なお、低温待機開始温度−T℃は、風車1の運転可能温度域の下限値であってもよい。
【0048】
低温待機ステートは、主に、低温状態におかれた風車1の各機器を保護することを目的としている。この低温待機ステートにおいて、風車1は、少なくとも一部のヒータ(例えば図5に示す主軸受6の第2ヒータ62や増速機7の第3ヒータ72)又はポンプ(例えば図3に示す制御油用の第1油圧ポンプ23)等の補機を運転しながら待機する。
なお、低温待機ステートでは、風車翼2のピッチ角をフェザー側に移行させてもよい。また、ヨー駆動部14による自動追従制御を停止してもよい。
【0049】
低温待機ステートにおいて、外気温が暖機開始条件(B)を満たした場合、風車1は発電を停止したまま暖機ステートに移行する。例えば、暖機開始条件(B)は、「外気温が暖機開始温度−T℃以上の期間が規定時間t継続した場合」とする。なお、暖機開始温度−T℃は、低温待機開始温度−T℃よりも高い温度である。
【0050】
暖機ステートは、主に、風車1の運転再開に向けて、各機器(例えば各機器の潤滑油)を温めることを目的としている。この暖機ステートでは、風車1の起動が可能なように各機器の暖機運転を行う。
なお、暖機ステートでは、必要に応じて、ヨー駆動部14が自動追従制御を行うように設定されてもよい。但し、ピッチ角を制御するための油圧アクチュエータ12の暖機運転の際には、主軸5におけるトルクの発生を回避するために、自動追従制御は行わないようにしてもよい。
【0051】
暖機ステートにおいて、外気温が暖機完了条件(C)を満たした場合、風車1の運転ステートに移行する。例えば、暖機完了条件(C)は、全ての機器の暖機が完了した場合とする。
なお、ここでいう運転ステートは、風車1を起動する前の風待ちの状態である待機ステートや起動時の状態である起動ステートを含む。
【0052】
次に、図3図6を参照して、風車1の暖機運転について具体的に説明する。風車1の暖機運転は、例えば上述した暖機ステートにおける運転である。
【0053】
図3は、一実施形態に係る風車1のピッチ油圧系統20を示す構成図である。
図3に例示するように、幾つかの実施形態に係る風車1は、複数の風車翼2A〜2C(図1参照)のピッチ角をそれぞれ制御するための複数の油圧アクチュエータ12A〜12Cを備えている。例えば、油圧アクチュエータ12A〜12Cはハブ3内に取り付けられており、油圧シリンダ121と、油圧シリンダ121内で往復動するように構成されたシリンダロッド122と、を含む。図3に示す例では、ファイン側ポートAから油圧シリンダ121のファイン側油圧室123内に制御油が供給されることによって、シリンダロッド122が図の左側に移動して風車翼2はフルファイン角となる。一方、フェザー側ポートBから油圧シリンダ121のフェザー側油圧室124内に制御油が供給されることによって、シリンダロッド122が図の右側に移動して風車翼2はフルフェザー角となる。
【0054】
また、風車1は、各々の油圧アクチュエータ12A〜12Cを作動させるためのピッチ油圧系統20を備えている。
なお、図1では、油圧アクチュエータ12Aを作動させるための油圧系統のみを抽出して記載しており、他の油圧アクチュエータ12B,12Cの油圧系統は省略しているが、他の油圧アクチュエータ12B,12Cも油圧アクチュエータ12Aと同様の構成を備えていてもよい。また、図1において、実線は制御油ラインを示し、破線はパイロット油ラインを示している。
【0055】
ピッチ油圧系統20は、制御油が貯留された第1タンク21と、油圧アクチュエータ12A〜12Cと第1タンク21との間に設けられた第1油圧ポンプ23と、油圧アクチュエータ12A〜12Cへの制御油の供給状態を制御するための複数のバルブと、を備えている。
【0056】
第1タンク21は、複数の油圧アクチュエータ12A〜12Cのための制御油が貯留される。第1タンク21の内部には、制御油を昇温するための第1ヒータ22が設けられていてもよい。
第1油圧ポンプ23は、複数の油圧アクチュエータ12A〜12Cと第1タンク21との間に設けられ、制御油を圧送するように構成される。
複数のバルブは、複数の油圧アクチュエータ12A〜12Cのそれぞれに対応して設けられ、油圧アクチュエータ12A〜12Cへの制御油の供給状態を制御するように構成される。
【0057】
ここで、一実施形態におけるピッチ油圧系統20の具体的な構成と、風車1の通常運転時(運転ステート)におけるピッチ油圧系統20の基本的な動作について説明する。
【0058】
ピッチ油圧系統20は、第1油圧ポンプ23によって第1タンク21から油圧アクチュエータ12に向けて制御油を供給するための制御油ライン(給油ライン)40と、油圧アクチュエータ12側から第1タンク21に制御油を返送するための制御油ライン(戻り油ライン)42と、油圧アクチュエータ12と第1油圧ポンプ23との間に設けられた比例弁25と、を含む。
【0059】
風車翼2のピッチ角をファイン側に制御する場合、比例弁25は、制御油ライン(給油ライン)40と、油圧シリンダ121のファイン側ポートAに連通する制御油ライン44とを接続するとともに、油圧シリンダ121のフェザー側ポートBに連通する制御油ライン43と、制御油ライン(戻り油ライン)42とを接続する。これにより、第1油圧ポンプ23によって第1タンク21から送給される制御油が、制御油ライン40,44を通ってファイン側ポートAから油圧シリンダ121のファイン側油圧室123に供給される。また、フェザー側ポートBを介してフェザー側油圧室124から排出される制御油が、制御油ライン43,42を通って第1タンク21に戻る。したがって、油圧アクチュエータ12によって風車翼2のピッチ角はファイン側に制御される。
【0060】
一方、風車翼2のピッチ角をフェザー側に制御する場合、比例弁25は、制御油ライン(給油ライン)40と、フェザー側ポートBに連通する制御油ライン43とを接続する。これにより、第1油圧ポンプ23によって第1タンク21から送給される制御油が、制御油ライン40,43を通ってフェザー側ポートBからフェザー側油圧室124に供給されるとともに、ファイン側ポートAから、制御油ライン44、43を通ってフェザー側ポートBへと制御油が流れる。
【0061】
また、上記ピッチ油圧系統20は、危急時にピッチ角をフェザー側に制御するための回路を有している。危急時とは、例えばハブ3への制御油の供給が断たれた場合や、比例弁の故障、風車1の非常停止時などである。
ピッチ油圧系統20は、油圧アクチュエータ12と第1タンク21との間に設けられた危急電磁弁31と、非常停止用のアキュムレータ30と、危急時に作動する逆止弁26,27と、を含む。
【0062】
危急電磁弁31は、危急時に消磁されることによって、ファイン側ポートAに接続されるパイロット油ライン50と、制御油ライン(戻り油ライン)42とを接続して、ファイン側油圧室123からパイロット油を排出するようになっている。なお、通常時は、危急電磁弁31は、制御油ライン(給油ライン)40とパイロット油ライン50とを接続し、逆止弁32を介してパイロット油を供給するようになっている。
逆止弁26,27は、通常、双方向の流れを遮断し、危急電磁弁31が消磁されてパイロット油が排出されると開くように構成される。これにより、危急時、アキュムレータ30とファイン側ポートAからフェザー側ポートBに制御油が流れて、ピッチ角はフェザー側へ制御される。なお、アキュムレータ30と制御油ライン(戻り油ライン)42とは制御油ライン48で接続されており、この制御油ライン48には開閉弁29が設けられている。開閉弁29は、アキュムレータ30を含む油圧アクチュエータ12側の制御油ラインが設定圧以上となったとき、制御油を制御油ライン(戻り油ライン)42に排出するようになっている。
【0063】
続いて、風車翼2のピッチ角を制御するための制御装置(制御部)100について説明する。
【0064】
図1及び図3に示すように、幾つかの実施形態において制御装置100は、主として、暖機時における風車翼2のピッチ角を制御するために、上述したようなピッチ油圧系統20における複数のバルブの各々を制御するように構成される。
また、制御装置100は、複数の風車翼2(2A〜2C)のピッチ油圧系統20の暖機時、各々の風車翼2について順に、該風車翼2のピッチ角をフェザー側からファイン側に動かしてフェザー側に戻す油入替え動作を該風車翼2に対応する油圧アクチュエータ12(12A〜12C)に行わせるよう、該風車翼2に対応するバルブを制御するように構成される。
この場合、制御装置100は、i番目(但し、i=1〜N−1であり、Nは風車翼2A〜2Cの総数である。)の風車翼2についてi番目の油圧アクチュエータ12に油入替え動作を行わせた後、(i+1)番目の風車翼2について(i+1)番目の油圧アクチュエータ12に油入替え動作を行わせるよう、複数のバルブを制御するように構成されてもよい。
【0065】
上記構成によれば、複数の風車翼2について油入替え動作を油圧アクチュエータ12に行わせて、各々の風車翼2のピッチ油圧系統20内において制御油を流すことで、制御油の油温の均一化を図り、ピッチ油圧系統20の暖機を適切に行うことができる。また、複数の風車翼2のための油入替え動作を順に行うようにしたので、ピッチ油圧系統20の暖機中において風車ロータ4に生じる空力トルクを低減することができ、風車ロータ4の意図せぬ回転を抑制できる。
また、i番目の風車翼2についての油入替え動作の完了後に、(i+1)番目の風車翼2の油入替え動作を行うことで、ピッチ油圧系統20の暖機中において風車ロータ4に生じる空力トルクを確実に低減することができる。
【0066】
前記バルブとして、図3に示したように比例弁25および危急電磁弁31を含む場合、制御装置100は、各々の風車翼2について油圧アクチュエータ12に油入替え動作を行わせるとき、ピッチ角をフェザー側からファイン側に動かすよう比例弁25を開くように制御した後、ファイン側からフェザー側にピッチ角を戻すよう危急電磁弁31を開くように制御するように構成されてもよい。
すなわち、油入替え動作では、ピッチ角をフェザー側からファイン側に動かした後、ファイン側からフェザー側に戻すようになっている。ピッチ角をファイン側へ制御するとき、対象となる風車翼2に対応した比例弁25がファイン側に開くように制御し、制御油ライン40,44を介して制御油をファイン側油圧室123に供給するとともに、制御油ライン43,42を介してフェザー側油圧室124から制御油を排出する。一方、ピッチ角をフェザー側に制御するとき、比例弁25がフェザー側に開くように制御し、制御油ライン40,43,44を介して制御油をファイン側油圧室123及びフェザー側油圧室124に供給するとともに、制御油ライン46,48,42を介してフェザー側油圧室124から制御油を排出する。
【0067】
上記構成によれば、各風車翼2の油入替え動作を実施する際、ピッチ角をファイン側に動かすときにピッチ油圧系統20のうち比例弁25を含む油圧ライン(制御油ライン)に制御油が流れ、ピッチ角をフェザー側に動かすときにピッチ油圧系統20のうち危急電磁弁31を含む油圧ライン(制御油ライン及びパイロット油ライン)に制御油が流れる。こうして、ピッチ油圧系統20の広範囲な油圧ラインに制御油を流すことで、ピッチ油圧系統20における制御油の油温を効果的に均一化し、ピッチ油圧系統20の暖機を適切に行うことができる。
【0068】
図3に示すように、第1タンク21内の制御油を加熱するための第1ヒータ22が設けられている場合、制御装置100は、ピッチ油圧系統20の暖機開始時に第1油圧ポンプ23が停止していた場合であって、第1タンク21内の制御油の温度が第1閾値よりも小さい規定温度以下であるとき、第1油圧ポンプ23を停止させたまま、第1タンク21内の制御油を加熱するよう第1ヒータ22を制御するように構成されてもよい。なお、第1ヒータ22を設けない構成としてもよい。その場合、アンロード運転による第1油圧ポンプ23の熱ロスと摩擦熱によって制御油を加温するようになっている。
【0069】
上記構成では、ピッチ油圧系統20の暖機開始時に第1油圧ポンプ23が停止しており、且つ、第1タンク21内の制御油の温度が規定温度以下の場合、第1油圧ポンプ23を停止させたまま、第1ヒータ22により第1タンク21内の制御油を昇温させるようになっている。これにより、例えば、温度低下により制御油の粘度又は性状が想定範囲を逸脱するような場合、いきなり第1油圧ポンプ23を稼働させるのではなく、第1ヒータ22により制御油を昇温させることで、第1油圧ポンプ23の損傷を防止できる。
【0070】
また、ピッチ油圧系統20は、第1油圧ポンプ23と油圧アクチュエータ12との間に一端が接続され、第1油圧ポンプ23からの制御油を第1タンク21に返送するためのバイパスライン41と、バイパスライン41に設けられたバイパス弁24と、をさらに備えていてもよい。
この場合、制御装置100は、第1タンク21内の制御油の温度が第1閾値未満であるとき、バイパス弁24を開いて、第1油圧ポンプ23によってバイパスライン41を含む循環流路内にて第1タンク21内の制御油を循環させて、油圧アクチュエータ12側に制御油を供給しないアンロード状態とする。なお、バイパスライン41よりも比例弁25側の制御油ライン40に設けられた逆止弁35によって、アンロード運転中、油圧アクチュエータ12側の制御油圧が保持されるようにしてもよい。以下、暖機運転において、アンロード状態で第1油圧ポンプ23を駆動し、バイパスライン41を含む循環流路内で制御油を循環させる運転をアンロード運転と言う。
一方、制御装置100は、第1タンク21内の制御油の温度が第1閾値以上であるとき、バイパス弁24を閉じて、油圧アクチュエータ12側に制御油を供給可能なオンロード状態とするように構成される。以下、暖機運転において、オンロード状態で第1油圧ポンプ23を駆動し、油圧アクチュエータ12側に制御油を供給する運転をオンロード運転と言う。
【0071】
上記構成によれば、バイパス弁24の開閉制御により、第1タンク21内の制御油の温度に応じてピッチ油圧系統20をアンロード状態とオンロード状態とで切り替えるようにしたので、ピッチ油圧系統20の暖機を効率的に行うことができる。
具体的には、第1タンク21内の制御油の温度が第1閾値未満の場合、ピッチ油圧系統20をアンロード状態とし、バイパスライン41を含む循環流路内で制御油を循環させて第1タンク21内の制御油を昇温させる。一方、第1タンク21内の制御油の温度が第1閾値以上の場合、第1タンク21内の比較的高温の制御油を、油圧アクチュエータ12を含むピッチ油圧系統20の大部分に供給することで、ピッチ油圧系統20における制御油の油温の均一化を図ることができる。
【0072】
さらに、制御装置100は、低温待機ステート(図2参照)において、風車1の運転を停止して風車翼2の各々のピッチ角をフェザー側に移行させるようバルブを制御するように構成されてもよい。すなわち、制御装置100は、外気温が風車1の運転可能温度域の下限値である低温待機開始温度−T未満である期間が規定時間t継続した場合、風車1の運転を停止して風車翼2A〜2Cの各々のピッチ角をフェザー側に移行させるようバルブ(例えば比例弁25及び危急電磁弁31)を制御するようになっている。この低温待機ステートでは、バイパス弁24を開いたアンロード状態のまま風車1を待機させてもよい。
また、制御装置100は、暖機開始条件(B)を満たした後、暖機ステートにおいて、ピッチ油圧系統20を含む風車1の各部の暖機を行うように構成されてもよい。
【0073】
上記構成によれば、暖機開始条件(B)を満たすまでの間、バイパス弁24を開くアンロード状態において風車1を待機させるようにしたので、バイパスライン41を含む循環流路内で制御油を循環させて第1タンク21内の制御油の温度低下を抑制できる。これにより、暖機開始条件(B)を満たした後、ピッチ油圧系統20の暖機を容易に行うことができる。
【0074】
図4に示すように、制御装置100は、複数の風車翼2A〜2Cを順にピッチ制御するように構成されてもよい。なお、図4は、暖機運転における風車翼2A〜2Cのピッチ角を示す図である。
同図に示すように暖機ステートでは、制御装置100によるバルブ制御によって、最初に風車翼2Aのピッチ角をフェザー側からファイン側に動かしてフェザー側に戻す油入替え動作を行う。風車翼2Aの油入替え動作が終了したら、次の風車翼2Bも同様に油入替え動作を行う。そして、風車翼2Bの油入替え動作が終了したら風車翼2Cも同様に油入替え動作を行う。全ての風車翼2A〜2Cの油入替え動作が終了したらフェザーピッチ角の状態を保持し、所定時間経過したら再度風車翼2A〜2Cの油入替え動作を順次行う。
暖機ステートにおいて、風車翼2A〜2Cの油入替え動作を行っていないとき、図3に示したバイパス弁24を開いた状態を維持し、第1ヒータ22で加熱した制御油を循環させるようにしてもよい(アンロード運転)。これにより、風車翼2A〜2Cの油入替え動作で冷却された制御油を、次の油入替え動作までに昇温させることができる。
【0075】
上述した構成を備える風車1は、図5に例示するような主軸油圧系統60および増速機油圧系統70をさらに備えていてもよい。なお、図5は、一実施形態に係る風車1の主軸油圧系統60および増速機油圧系統70を示す図である。
【0076】
図5に示す実施形態において、風車1は、風車ロータ4(図1参照)とともに回転するように構成された主軸5と、主軸5を回転可能に支持する主軸受6と、主軸受6に潤滑油を供給するための主軸油圧系統60と、を備えている。
主軸油圧系統60は、主軸受6のための潤滑油が貯留された第2タンク61と、第2タンク61内の潤滑油を主軸受6に供給するための潤滑油ライン65と、潤滑油ライン65に設けられた第2油圧ポンプ63と、を含む。また、主軸油圧系統60は、潤滑油ライン65に設けられたフィルタ64、または、第2タンク61内の潤滑油を加熱するための第2ヒータ62の少なくとも一方をさらに含んでいてもよい。さらに、主軸油圧系統60は、クーラ66を含んでも良い。
【0077】
また、風車1は、風車ロータ4(図1参照)の回転数を増速させるための増速機7と、増速機7に潤滑油を供給するための増速機油圧系統70と、を備えている。
増速機油圧系統70は、増速機7の内部に設けられたタンク部71と、タンク部71に接続される循環配管75と、循環配管75を介してタンク部71に貯留された潤滑油を循環させるための第3油圧ポンプ73と、を含む。また、増速機油圧系統70は、循環配管75に設けられたフィルタ74、または、タンク部71内の潤滑油を加熱するための第3ヒータ72の少なくとも一方をさらに含んでいてもよい。さらに、増速機油圧系統70は、クーラ76を含んでも良い。
【0078】
この場合、制御装置100は、風車1の各部の暖機ステートにおいて、第1油圧ポンプ23(図3参照)、第2油圧ポンプ63および第3油圧ポンプ73(図5参照)のうち、暖機開始条件を満たしたときに稼働中であったポンプについて運転を継続させるように構成される。
これによれば、風車各部の暖機を行う際、暖機開始条件を満たした時点で稼働中であったポンプの運転をそのまま継続させるようにしたので、暖機を速やかに行うことができる。
【0079】
また、制御装置100は、暖機開始条件(B)を満たした後、第2タンク61内の潤滑油の温度が第2閾値未満である場合、第2タンク61内の潤滑油を加熱するよう第2ヒータ62を制御し、第2タンク61内の潤滑油の温度が第2閾値に到達したら、第2油圧ポンプ63を間欠的に稼働させるように構成されてもよい。
【0080】
上記構成によれば、暖機開始条件(B)を満たした後、第2タンク61内の潤滑油(主軸受用潤滑油)の温度が第2閾値に到達するまでの間、第2ヒータ62による加熱を行うことによって、例えば、温度低下により潤滑油の粘度又は性状が想定範囲を逸脱するような場合、いきなり第2油圧ポンプ63を稼働させるのではなく、第2ヒータ62により潤滑油を昇温させることで、第2油圧ポンプ63の損傷を防止したり、主軸受6からの高粘度の潤滑油の漏れを抑制したりすることができる。また、第2タンク61内の潤滑油の温度が第2閾値に到達した後、第2油圧ポンプ63を間欠的に稼働させる(インチング運転)ので、主軸受6からの高粘度の潤滑油の漏れを抑制することができる。こうして、主軸油圧系統60の暖機を適切に行うことができる。
【0081】
制御装置100は、暖機開始条件(B)を満たした後、タンク部71又は循環配管75内の潤滑油を規定時間加熱するよう第3ヒータ72を制御するように構成されてもよい。
なお、増速機油圧系統70においても、上述した主軸油圧系統60と同様に、暖機ステートにおいて第3油圧ポンプ73を間欠的に稼働させるインチング運転を行ってもよい。
上記構成によれば、暖機開始条件を満たした後、第3ヒータ72により、タンク部71又は循環配管75内の潤滑油(増速機用潤滑油)を昇温させることで、増速機油圧系統70の暖機を適切に行うことができる。
【0082】
一実施形態においては、図1に示したように風車1がヨー駆動部14を備える場合、風車1の運転中、ナセル9を風向に追従して旋回させるようにヨー駆動部14を制御し、一方、上述したようにアンロード状態のまま風車1を待機させるとき、ヨー駆動部14によるナセル9の風向追従を行わないように構成されてもよい。
これによれば、風車1の運転中はヨー駆動部14によりナセル9を風向に追従させることで風車1の運転効率を向上させるとともに、アンロード状態での風車1の待機中はヨー駆動部14によるナセル9の風向追従を行わないことで、省エネルギーを実現できる。
【0083】
次に、図6を参照して、幾つかの実施形態に係る風車1の制御方法について説明する。なお、以下の方法が適用される風車1の構成については上述しため省略する。また、以下の説明において、風車1の各部位については図1図3及び図5に示す符号を適宜付している。
【0084】
幾つかの実施形態に係る風車1の制御方法は、複数の風車翼2(2A〜2C)のピッチ油圧系統20の暖機時、各々の風車翼2について順に、該風車翼2のピッチ角をフェザー側からファイン側に動かしてフェザー側に戻す油入替え動作を該風車翼2に対応する油圧アクチュエータ12(12A〜12C)に行わせるよう、該風車翼2に対応するバルブ(例えば比例弁25又は危急電磁弁31)を制御するステップを備える。
【0085】
また、上記バルブを制御するステップでは、i番目(但し、i=1〜N−1であり、Nは風車翼の総数である。)の風車翼2についてi番目の油圧アクチュエータ12に油入替え動作を行わせた後、(i+1)番目の風車翼2について(i+1)番目の油圧アクチュエータ12に油入替え動作を行わせるよう、複数のバルブ(例えば図3に示す比例弁25又は危急電磁弁31)を制御してもよい。
【0086】
さらに、上記バルブを制御するステップでは、各々の風車翼2について油圧アクチュエータ12に油入替え動作を行わせるとき、ピッチ角をフェザー側からファイン側に動かすよう比例弁25を開くように制御した後、ファイン側からフェザー側にピッチ角を戻すよう危急電磁弁31を開くように制御してもよい。
【0087】
また、風車1の制御方法は、外気温が風車1の運転可能温度域の下限値である低温待機開始温度T以下である期間が規定時間t継続した場合、風車1の運転を停止して風車翼2の各々のピッチ角をフェザー側に移行させるようバルブを制御するステップと、外気温が風車1の暖機開始温度T以上である期間が規定時間t継続する暖機開始条件を満たすまでの間、バイパス弁24を開くアンロード状態のまま風車1を待機させるステップと、暖機開始条件(B)を満たした後、ピッチ油圧系統20を含む風車1の各部の暖機を行うステップと、をさらに備えてもよい。
【0088】
図3を参照しながら、図6に示す具体的な風車1の制御方法について記載する。
図6に示すように、暖機開始条件(B)を満たして暖機運転が開始されたら、第1タンク21内の制御油の温度が第1閾値未満である場合には、ピッチ油圧系統20においてアンロード運転を行う。アンロード運転では、バイパス弁24を開いたアンロード状態にて、第1油圧ポンプ23によってバイパスライン41を含む循環流路内で第1タンク21内の制御油を循環させることによって、あるいは、第1ヒータ22によって制御油を昇温させる(S1)。なお、制御油の温度が第1閾値以上である場合には、このアンロード運転を省略してもよい。
制御油が昇温したら、バイパス弁24を閉じてオンロード運転を行う。オンロード運転では、バイパス弁24を閉じたオンロード状態にて第1油圧ポンプ23を駆動し、一翼ずつピッチ暖機運転を行う(S2)。全ての風車翼2においてピッチ暖機運転が終了したら、バイパス弁24を開いて再度アンロード運転を行って制御油を循環し、昇温させる(S3)。そして、制御油を循環させた状態で設定時間経過したら、再度、バイパス弁24を閉じてオンロード状態とし、ピッチ油圧系統20によって各風車翼2についてピッチ暖機運転を行う(S2)。こうして、ステップS2からステップS3までを繰り返す。他系統の暖機が終了し、且つ、外気温が暖機完了条件(C)を満たしたら、風車1は運転ステート(待機ステート、起動ステートを含む)に移行する。
【0089】
上述したように、本発明の少なくとも幾つかの実施形態によれば、複数の風車翼2(2A〜2C)について油入替え動作を油圧アクチュエータ12(12A〜12C)に行わせて、各々の風車翼2(2A〜2C)のピッチ油圧系統20内において制御油を流すことで、制御油の油温の均一化を図り、ピッチ油圧系統20の暖機を適切に行うことができる。また、複数の風車翼2(2A〜2C)のための油入替え動作を順に行うようにしたので、ピッチ油圧系統20の暖機中において風車ロータ4に生じる空力トルクを低減することができ、風車ロータ4の意図せぬ回転を抑制できる。
【0090】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0091】
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0092】
1 風車
2,2A〜2C 風車翼
3 ハブ
4 風車ロータ
5 主軸
6 主軸受
7 増速機
8 発電機
9 ナセル
10 タワー
12,12A〜12C 油圧アクチュエータ
14 ヨー駆動部
20 ピッチ油圧系統
21 第1タンク
22 第1ヒータ
23 第1油圧ポンプ
24 バイパス弁
25 比例弁
26,27,32 逆止弁
28,29 開閉弁
30 アキュムレータ
31 危急電磁弁
40,42〜44,46,48 制御油ライン
41 バイパスライン
50 パイロット油ライン
60 主軸油圧系統
61 第2タンク
62 第2ヒータ
63 第2油圧ポンプ
65 潤滑油ライン
70 増速機油圧系統
71 タンク部
72 第3ヒータ
73 第3油圧ポンプ
75 循環配管
100 制御装置
121 油圧シリンダ
122 シリンダロッド
123 ファイン側油圧室
124 フェザー側油圧室
A ファイン側ポート
B フェザー側ポート
図1
図2
図3
図4
図5
図6