特許第6401541号(P6401541)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6401541-車両のフェールセーフ制御装置 図000002
  • 特許6401541-車両のフェールセーフ制御装置 図000003
  • 特許6401541-車両のフェールセーフ制御装置 図000004
  • 特許6401541-車両のフェールセーフ制御装置 図000005
  • 特許6401541-車両のフェールセーフ制御装置 図000006
  • 特許6401541-車両のフェールセーフ制御装置 図000007
  • 特許6401541-車両のフェールセーフ制御装置 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6401541
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】車両のフェールセーフ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/035 20120101AFI20181001BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20181001BHJP
   B60T 8/1755 20060101ALI20181001BHJP
   B60W 50/04 20060101ALI20181001BHJP
   B60W 50/02 20120101ALI20181001BHJP
   B60W 30/02 20120101ALI20181001BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20181001BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20181001BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20181001BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20181001BHJP
【FI】
   B60W50/035ZYW
   B62D6/00
   B60T8/1755 Z
   B60W50/04
   B60W50/02
   B60W30/02
   B62D101:00
   B62D113:00
   B62D119:00
   B62D137:00
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-159778(P2014-159778)
(22)【出願日】2014年8月5日
(65)【公開番号】特開2016-37077(P2016-37077A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(74)【代理人】
【識別番号】100101661
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100135932
【弁理士】
【氏名又は名称】篠浦 治
(72)【発明者】
【氏名】松野 浩二
【審査官】 田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−199154(JP,A)
【文献】 特開2000−308207(JP,A)
【文献】 特開平11−334559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 − 10/30
B60W 30/00 − 50/16
B60T 7/12 − 8/1769
B60T 8/32 − 8/96
B62D 6/00 − 6/10
B62D 101/00 − 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転状態に基づいて車両に発生させる車両挙動の制御量を算出して出力する第1の制御手段と、該第1の制御手段からの制御量に基づいてアクチュエータの作動を制御する複数の第2の制御手段とを備えた車両のフェールセーフ制御装置において、
上記複数の第2の制御手段は、それぞれの制御手段が他の何れかの制御手段で発生させる車両挙動を補償可能である複数の制御手段からなり、
上記第1の制御手段は、上記複数の第2の制御手段に対し、上記第1の制御手段がフェールしていない場合に実行する第1の制御量と上記第1の制御手段がフェールした場合に実行する第2の制御量とをそれぞれ算出して出力するとともに、上記複数の第2の制御手段の何れかがフェールした場合、上記第1の制御量を変更して上記フェールしていない第2の制御手段に出力し、上記フェールした第2の制御手段で発生させる車両挙動を補償させる
ことを特徴とする車両のフェールセーフ制御装置。
【請求項2】
上記複数の第2の制御手段は、上記第1の制御手段がフェールしていない場合は、それぞれ、上記第1の制御量に基づいて上記アクチュエータの作動を制御する一方、それぞれに記憶しておいた上記第2の制御量を新たな第2の制御量で更新することを特徴とする請求項に記載の車両のフェールセーフ制御装置。
【請求項3】
上記複数の第2の制御手段は、上記第1の制御手段がフェールした場合は、それぞれ、上記第2の制御量に基づいて上記アクチュエータの作動を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両のフェールセーフ制御装置。
【請求項4】
上記第1の制御手段フェールした場合は、上記複数の第2の制御手段のそれぞれが上記第1の制御手段からの制御量信号の受信不能状態の場合を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の車両のフェールセーフ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上位の制御部で車両挙動の制御量を算出し、該制御量に基づいて下位の制御部に対応するアクチュエータを作動制御させて所定の車両挙動を実現させる車両のフェールセーフ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両においては、様々な制御装置が搭載され、制御装置により算出される制御量に基づき、エンジン制御装置、ステアリング制御装置、ブレーキ制御装置等により、エンジン、ステアリング、ブレーキ等のアクチュエータを作動制御して所定の車両挙動を実現可能になってきている。例えば、特開2010−23787号公報(以下、特許文献1)では、車両の挙動を制御する複数の車両制御装置と該複数の車両制御装置の各々と通信線を介して接続される集中制御装置とを有し、複数の車両制御装置の各々と集中制御装置とはそれぞれ、規範ヨーレートを算出する規範ヨーレート算出部を備え、集中制御装置が正常であるときは、複数の車両制御装置の各々が集中制御装置から取得した規範ヨーレートに基づいて制御を行い、集中制御装置が異常であるときは、複数の車両制御装置の各々が自装置内で算出された規範ヨーレートに基づいて制御を行う車両運動制御システムの技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−23787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、ドライバの運転を支援する先進運転支援システム(ADAS:Advanced Driving Assistant System)が実用化されてきている。この先進運転支援システムでは、車両環境、車両の運転・走行状態に関する多くの情報を基に、車線逸脱防止制御やレーンキープ制御等の運転支援制御の制御量を上位の制御装置で算出し、ステアリング制御装置、ブレーキ制御装置等に制御量を出力してステアリング、ブレーキ等を作動制御するようになっている。このようなシステムにおいて、上位の制御装置がフェールした場合に運転支援機能等を急に中断すると、ドライバの対応が遅れ、車線逸脱等の危険を招く虞がある。また、近年では、車載の各制御装置等に組み込まれた各種センサ信号を、CAN(Controller Area Network)通信等の車載ネットワーク等で共有する制御システムが多く、組み込まれたセンサを管理する制御装置がフェールしたり、或いは、車載ネットワークがフェールしてしまうと、対応するセンサを用いて制御するのに必要な入力情報が欠落してしまう。
【0005】
そこで、上位の制御装置がフェールしても、或いは、車載ネットワーク等がフェールしても十分な制御が継続されるように、上述の特許文献1で示される規範ヨーレートのように制御量を上位の制御装置よりも下位の制御装置のそれぞれにおいても算出できるようにシステムを構築することが考えられる。しかしながら、下位の制御装置に、上位の制御装置相当の制御ロジックを組み込むことは、その開発や演算能力上難しく非効率でもある。また、下位の制御装置に、想定される全てのフェールを網羅した制御を組み込み、十分な機能を維持することは非常に困難である。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、下位の制御装置の変更や高度化が不要で、たとえ、上位の制御装置や車載ネットワークがフェールした場合であっても、安全な走行状態を容易かつ確実に維持することができる車両のフェールセーフ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の車両のフェールセーフ制御装置の一態様は、車両の運転状態に基づいて車両に発生させる車両挙動の制御量を算出して出力する第1の制御手段と、該第1の制御手段からの制御量に基づいてアクチュエータの作動を制御する複数の第2の制御手段とを備えた車両のフェールセーフ制御装置において、上記複数の第2の制御手段は、それぞれの制御手段が他の何れかの制御手段で発生させる車両挙動を補償可能である複数の制御手段からなり、上記第1の制御手段は、上記複数の第2の制御手段に対し、上記第1の制御手段がフェールしていない場合に実行する第1の制御量と上記第1の制御手段がフェールした場合に実行する第2の制御量とをそれぞれ算出して出力するとともに、上記複数の第2の制御手段の何れかがフェールした場合、上記第1の制御量を変更して上記フェールしていない第2の制御手段に出力し、上記フェールした第2の制御手段で発生させる車両挙動を補償させる。
【発明の効果】
【0008】
本発明による車両のフェールセーフ制御装置によれば、下位の制御装置の変更や高度化が不要で、たとえ、上位の制御装置や車載ネットワークがフェールした場合であっても、安全な走行状態を容易かつ確実に維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の一形態による、車両の制御装置の全体説明図である。
図2】本発明の実施の一形態による、メイン制御部フェールセーフ制御プログラムのフローチャートである。
図3】本発明の実施の一形態による、各アクチュエータ制御部フェールセーフ制御プログラムのフローチャートである。
図4】本発明の実施の一形態による、全ての制御部が正常な場合の制御状態の一例を示す説明図である。
図5】本発明の実施の一形態による、ステアリング制御部のみがフェールした場合の制御状態の一例を示す説明図である。
図6】本発明の実施の一形態による、ブレーキ制御部のみがフェールした場合の制御状態の一例を示す説明図である。
図7】本発明の実施の一形態による、メイン制御部のみがフェールした場合の制御状態の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1において、符号1は車両の制御装置を示し、この車両の制御装置1は、複数の制御装置、すなわち、運転支援制御部20、エンジン制御部11、ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13、その他図示しないトランスミッション制御部、サスペンション制御部等の制御部がCAN通信の通信バス(CANバス)2により接続され、各制御部に接続された図示しないセンサやスイッチ類により検出された信号等を共有して構成されている。
【0012】
このように構成される車両の制御装置1において、本実施の形態においては、車両の運転状態に基づいて車両に発生させる車両挙動の制御量を算出して出力する第1の制御手段(メイン制御部)として運転支援制御部20が適用され、第1の制御手段からの制御量に基づいてアクチュエータの作動を制御する第2の制御手段(アクチュエータ制御部)としてステアリング制御部12、ブレーキ制御部13が適用される場合を、その一例として説明する。
【0013】
ステアリング制御部12は、例えば、車速、操舵トルク、ハンドル角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、車両の操舵系に設けた電動パワーステアリングモータ(図示せず)によるアシストトルクを制御する、公知の制御部である。
【0014】
また、後述の如く、本実施の形態においては、ステアリング制御部12と運転支援制御部20とは、それぞれ互いにフェール状態がCANバス2を介して検出自在に設けられている。
【0015】
更に、ステアリング制御部12は、運転支援制御部20から、運転支援制御部20がフェールしていない場合に実行する第1の制御量(第1の制御指示値)として第1の目標ハンドル角θHt1と、運転支援制御部20がフェールした場合(後)に実行する第2の制御量(第2の制御指示値)として第2の目標ハンドル角θHt2を受信する。
【0016】
そして、ステアリング制御部12は、運転支援制御部20がフェールしていない場合には、運転支援制御部20からの第1の目標ハンドル角θHt1を目標ハンドル角θHtとしてパワーステアリングモータを駆動制御する。更に、ステアリング制御部12内に記憶しておいた第2の目標ハンドル角θHt2を、受信した第2の目標ハンドル角θHt2で更新する。尚、この第2の目標ハンドル角θHt2の更新は、所定に加重平均処理等を加えて行うものであっても良い。
【0017】
また、ステアリング制御部12は、運転支援制御部20がフェールした場合(後)は、第2の目標ハンドル角θHt2を目標ハンドル角θHtとしてパワーステアリングモータを駆動制御する。
【0018】
ブレーキ制御部13は、例えば、ブレーキスイッチ、4輪の車輪速、ハンドル角、ヨーレート、その他の車両情報に基づき、4輪のブレーキ装置(図示せず)をドライバのブレーキ操作とは独立して制御可能で、ABS(Antilock Brake System)や横すべり防止制御等を行う、車両に対する制動力の付加のみならずヨーモーメントの付加が可能な公知の制御部である。
【0019】
また、後述の如く、本実施の形態においては、ブレーキ制御部13と運転支援制御部20とは、それぞれ互いにフェール状態がCANバス2を介して検出自在に設けられている。
【0020】
更に、ブレーキ制御部13は、運転支援制御部20から、運転支援制御部20がフェールしていない場合に実行する第1の制御量(第1の制御指示値)として第1の目標減速度Gxt1、第1の目標ヨーモーメントMzt1と、運転支援制御部20がフェールした場合(後)に実行する第2の制御量(第2の制御指示値)として第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2を受信する。
【0021】
そして、ブレーキ制御部13は、運転支援制御部20がフェールしていない場合には、運転支援制御部20からの第1の目標減速度Gxt1、第1の目標ヨーモーメントMzt1を目標減速度Gxt、目標ヨーモーメントMztとして各輪のブレーキ力(尚、目標ヨーモーメントMztは、主に、左右輪間のブレーキ力差で実現する)を設定し、ブレーキ駆動部(図示せず)に出力する。更に、ブレーキ制御部13内に記憶しておいた第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2を、受信した第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2で更新する。尚、この第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2の更新は、所定に加重平均処理等を加えて行うものであっても良い。
【0022】
また、ブレーキ制御部13は、運転支援制御部20がフェールした場合(後)は、第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2を目標減速度Gxt、目標ヨーモーメントMztとして各輪のブレーキ力を設定し、ブレーキ駆動部に出力する。
【0023】
運転支援制御部20は、例えば、一対のカメラ21で撮影した画像情報を基に走行環境(先行車、障害物等の立体物や、車線区画線等)を認識し、先行車に追従して走行制御する追従走行制御と、操作者が設定した車速で走行する定速走行制御と、前方障害物との衝突を防止する衝突防止制御と、車線に沿って走行するレーンキープ制御と、車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御等の様々な運転支援制御機能を有して構成されている。これらの運転支援制御機能のうち、本実施の形態では、説明をわかりやすくするため、特に、運転支援制御部20が、ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13に制御指示値を送信して制御するレーンキープ制御の例に説明する。
【0024】
例えば、道路半径ρのカーブを走行するには、以下の(1)式により算出できる目標ハンドル角θHtが必要となる。
【0025】
θHt=(1+A・V)・(LW/ρ)・n ・・・(1)
ここで、Vは車速、Aは車両のスタビリティファクタ、LWはホイールベース、nはステアリングギヤ比である。
【0026】
また、同じカーブをヨーモーメント制御で走行するときの目標ヨーモーメントMztは、例えば、上述の(1)式で算出される目標ハンドル角θHtを用いて、以下の(2)式で算出される。
【0027】
Mzt=((2・LW・Kf・Kr)/(Kf+Kr))・(θHt/n)
・・・(2)
ここで、Kfは前輪の等価コーナリングパワー、Krは後輪の等価コーナリングパワーである。
【0028】
尚、ハンドル角制御とヨーモーメント制御を併用して上記のカーブを走行する場合には、例えば、上述の(1)式と(2)式で算出される各制御量を加重配分した目標ハンドル角θHt0と目標ヨーモーメントMzt0を、以下の(3)式と(4)式で算出する。
【0029】
θHt0=C・θHt ・・・(3)
Mzt0=(1−C)・Mzt ・・・(4)
ここで、Cは加重配分の係数(0≦C≦1)である。
【0030】
更に、目標減速度Gxtは、例えば、予め設定しておいた一定値(略「0」に近い値:第1の目標減速度Gxt1)とする。尚、運転支援制御部20がフェールした場合(後)には、予め設定しておいた高い値(一定値:第2の目標減速度Gxt2>第1の目標減速度Gxt1)に設定する。
【0031】
従って、運転支援制御部20は、運転支援制御部20がフェールしていない場合に実行する第1の制御指示値として、そのときの道路半径ρを基に、上述の(1)と(3)式により算出した目標ハンドル角θHt0を第1の目標ハンドル角θHt1としてステアリング制御部12に送信する。また、上述の道路半径ρを基に、上述の(1)式と(2)式、および、(4)式で算出した目標ヨーモーメントMzt0を第1の目標ヨーモーメントMzt1として、上述の第1の目標減速度Gxt1と併せてブレーキ制御部13に送信する。
【0032】
また、運転支援制御部20は、運転支援制御部20がフェールした場合(後)に実行する第2の制御指示値として、ブレーキ制御部13に第2の目標減速度Gxt2を送信する。そして、そのときの車速Vと第2の目標減速度Gxt2とを比較して第2の目標減速度Gxt2で停止する停止距離内の平均カーブ半径ρFTを算出し、この平均カーブ半径ρFTをカーブ半径ρとして、上述の(1)式により算出した目標ハンドル角θHtを上述の(3)式で所定の加重配分した目標ハンドル角θH0を第2の目標ハンドル角θHt2としてステアリング制御部12に送信する。また、上述の平均カーブ半径ρFTをカーブ半径ρとして、上述の(1)式と(2)式で算出した目標ヨーモーメントMztを上述の(4)式で所定の加重配分したMzt0を第2の目標ヨーモーメントMzt2としてブレーキ制御部13に送信する。
【0033】
尚、運転支援制御部20は、ステアリング制御部12とブレーキ制御部13のどちらかがフェールした場合(後)には、例えば、上述の(3)式と(4)式の加重配分係数Cを、ステアリング制御部のフェール時には0、ブレーキ制御部のフェール時には1のように変更して算出した制御量θHt0、Mzt0を目標制御量θHt1、Mzt1として送信し、フェールしていない制御部のみでレーンキープ制御を継続する。
【0034】
次に、メイン制御部として運転支援制御部20で実行される、メイン制御部フェールセーフ制御プログラムを、図2のフローチャートで説明する。
【0035】
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、運転支援制御部20は、各アクチュエータ制御部(本実施の形態では、ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13)のフェール状態を判定し読み込む。
【0036】
次いで、S102に進み、全てのアクチュエータ制御部(ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13)が正常か否か判定する。
【0037】
この判定の結果、全てのアクチュエータ制御部(ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13)が正常の場合は、S103に進み、各アクチュエータ制御部の通常の制御指示値(第1の制御指示値)を算出し、送信する。
【0038】
具体的には、前述した如く、ステアリング制御部12に対して第1の目標ハンドル角θHt1を算出し送信し、ブレーキ制御部13に対して第1の目標減速度Gxt1、第1の目標ヨーモーメントMzt1を算出し送信する。
【0039】
次いで、S104に進んで、運転支援制御部20がフェールした場合(後)に実行すべき各アクチュエータ制御部の制御指示値(第2の制御指示値)を算出し、送信する。
【0040】
具体的には、前述した如く、ステアリング制御部12に対して第2の目標ハンドル角θHt2を算出し送信し、ブレーキ制御部13に対して第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2を算出し送信する。
【0041】
一方、前述のS102の判定の結果、一部のアクチュエータ制御部(ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13)が正常ではないと判定された場合は、S105に進み、運転支援制御部20は、正常なアクチュエータ制御部に対し、フェール中のアクチュエータ制御部を考慮した制御指示値(第1の制御指示値)を算出し送信する。この際、必要に応じて、フェール状態となっているアクチュエータ制御部をドライバに報知すべく警報アラーム(図示せず)等を点灯させる。
【0042】
次いで、S106に進み、運転支援制御部20は、正常なアクチュエータ制御部に対し、運転支援制御部20がフェールした場合(後)に実行すべき各アクチュエータ制御部の制御指示値(第2の制御指示値)を算出し、送信する。
【0043】
具体的には、ブレーキ制御部13がフェール中の場合には、ステアリング制御部12に対して第2の目標ハンドル角θHt2を算出し送信し、一方、ステアリング制御部12がフェール中の場合には、ブレーキ制御部13に対して第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2を算出し送信する。
【0044】
次に、正常な状態にある各アクチュエータ制御部(ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13)で実行される、各アクチュエータ制御部フェールセーフ制御プログラムを、図3のフローチャートで説明する。
【0045】
まず、S201で、メイン制御部として運転支援制御部20のフェール状態を判定し読み込む。
【0046】
次いで、S202に進み、運転支援制御部20は、正常か否か判定する。
【0047】
この判定の結果、運転支援制御部20が正常の場合は、S203に進み、運転支援制御部20から通常の制御指示値(第1の制御指示値)を受信し実行する。
【0048】
具体的には、前述した如く、アクチュエータ制御部がステアリング制御部12の場合には、第1の目標ハンドル角θHt1を受信し、パワーステアリングモータを駆動制御する。また、アクチュエータ制御部がブレーキ制御部13の場合には、第1の目標減速度Gxt1、第1の目標ヨーモーメントMzt1を受信し、各輪のブレーキ力を設定し、ブレーキ駆動部(図示せず)に出力する。
【0049】
次いで、S204に進み、運転支援制御部20から運転支援制御部20がフェールした場合(後)に実行すべきアクチュエータ制御部の制御指示値(第2の制御指示値)を受信し、更新する。
【0050】
具体的には、アクチュエータ制御部がステアリング制御部12の場合には、第2の目標ハンドル角θHt2を受信し、更新する。また、アクチュエータ制御部がブレーキ制御部13の場合には、第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2を受信し、更新する。
【0051】
一方、前述のS202で、運転支援制御部20がフェールと判定された場合は、S205に進み、運転支援制御部20がフェールした場合(後)に実行すべきアクチュエータ制御部の制御指示値、すなわち、第2の制御指示値を実行する。この際、必要に応じて、運転支援制御部20がフェール状態となっていることをドライバに報知すべく警報アラーム(図示せず)等を点灯させる。また、S205で、第2の制御指示値を実行する場合には、運転支援制御部20がフェールする前に設定しておいた制御指示値との差が大きくならないように、フィルタ処理等の緩和処理を行うことが好ましい。
【0052】
具体的には、アクチュエータ制御部がステアリング制御部12の場合には、第2の目標ハンドル角θHt2に基づいてパワーステアリングモータを駆動制御する。また、アクチュエータ制御部がブレーキ制御部13の場合には、第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2に基づいて各輪のブレーキ力を設定し、ブレーキ駆動部(図示せず)に出力する。
【0053】
以上の図2のメイン制御部フェールセーフ制御プログラム、及び、図3の各アクチュエータ制御部フェールセーフ制御プログラムで実行される制御の一例を、図4図7で具体的に説明する。尚、これら図4図7で示す具体的な数値は、あくまでも理解を容易にするための一例である。
【0054】
図4は、全ての制御部が正常な場合、すなわち、図2のS102の判定で、全てのアクチュエータ制御部(ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13)が正常と判定されてS103、S104に進む場合の一例を示す。
【0055】
メイン制御部(運転支援制御部20)からは、ステアリング制御部12に対し、目標ハンドル角θHtとして、道路半径ρを基に、例えば、前述の(1)式と(3)式により算出される目標ハンドル角θHt0である第1の目標ハンドル角θHt1=30degと、平均カーブ半径ρFTを基に、例えば、前述の(1)式と(3)式により算出される目標ハンドル角θHt0である第2の目標ハンドル角θHt2=15degが送信される。
【0056】
また、ブレーキ制御部13に対しては、目標減速度Gxtとして、例えば、前述の第1の目標減速度Gxt1=1.0m/s2と、第2の目標減速度Gxt2=3.0m/s2が送信される。更に、目標ヨーモーメントMztとして、上述の道路半径ρを基に、例えば、前述の(1)式と(2)式、および、(4)式により算出される目標ヨーモーメントMzt0である第1の目標ヨーモーメントMzt1=100N・mと、上述の平均カーブ半径ρFTを基に、例えば、前述の(1)式と(2)式、および、(4)式により算出される目標ヨーモーメントMzt0である第2の目標ヨーモーメントMzt2=0.0N・mが送信される。
【0057】
そして、ステアリング制御部12では、上述の第1の目標ハンドル角θHt1=30degと第2の目標ハンドル角θHt2=15degとを受信して、第1の目標ハンドル角θHt1=30degを目標ハンドル角θHtとしてパワーステアリングモータを駆動制御する。また、ステアリング制御部12内に記憶しておいた第2の目標ハンドル角θHt2を、受信した第2の目標ハンドル角θHt2=15degで更新する。
【0058】
また、ブレーキ制御部13では、上述の第1の目標減速度Gxt1=1.0m/s2と第2の目標減速度Gxt2=3.0m/s2、及び、第1の目標ヨーモーメントMzt1=100N・mと第2の目標ヨーモーメントMzt2=0.0N・mを受信して、第1の目標減速度Gxt1=1.0m/s2を目標減速度Gxtとし、第1の目標ヨーモーメントMzt1=100N・mを目標ヨーモーメントMztとして各輪のブレーキ力を設定し、ブレーキ駆動部(図示せず)に出力する。更に、ブレーキ制御部13内に記憶しておいた第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2を、受信した第2の目標減速度Gxt2=3.0m/s2、第2の目標ヨーモーメントMzt2=0.0N・mで更新する。
【0059】
次に、図5は、ステアリング制御部12のみがフェールした場合、すなわち、図2のS102の判定で、全てのアクチュエータ制御部(ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13)が正常と判定されずに、S105、S106に進む場合の一例を示す。
【0060】
まず、ステアリング制御部12に対しては、フェールしていることが検出されているため、メイン制御部(運転支援制御部20)からは、目標ハンドル角θHt(第1の目標ハンドル角θHt1、第2の目標ハンドル角θHt2)は、送信されない。
【0061】
一方、ブレーキ制御部13に対しては、目標減速度Gxtとして、ステアリング制御部12がフェール状態として、例えば、第1の目標減速度Gxt1が1.0m/s2から2.0m/s2に大きな値に変更されて設定され、送信される。また、第2の目標減速度Gxt2としては、3.0m/s2が送信される。更に、目標ヨーモーメントMztとして、ステアリング制御部12がフェール状態として、例えば、第1の目標ヨーモーメントMzt1が、上述の(4)式における加重配分係数Cの変更によって、100N・mから200N・mに大きな値に変更されて設定され、送信される。また、第2の目標ヨーモーメントMzt2としては、0.0N・mが送信される。
【0062】
そして、ステアリング制御部12は、フェールしているため目標ハンドル角θHtの出力はないが、ブレーキ制御部13では、上述の第1の目標減速度Gxt1=2.0m/s2と第2の目標減速度Gxt2=3.0m/s2、及び、第1の目標ヨーモーメントMzt1=200N・mと第2の目標ヨーモーメントMzt2=0.0N・mを受信して、第1の目標減速度Gxt1=2.0m/s2を目標減速度Gxtとし、第1の目標ヨーモーメントMzt1=200N・mを目標ヨーモーメントMztとして各輪のブレーキ力を設定し、ブレーキ駆動部(図示せず)に出力する。更に、ブレーキ制御部13内に記憶しておいた第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2を、受信した第2の目標減速度Gxt2=3.0m/s2、第2の目標ヨーモーメントMzt2=0.0N・mで更新する。
【0063】
次に、図6は、ブレーキ制御部13のみがフェールした場合、すなわち、この図6も前述の図5の場合と同様、図2のS102の判定で、全てのアクチュエータ制御部(ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13)が正常と判定されずに、S105、S106に進む場合の一例を示す。
【0064】
まず、ブレーキ制御部13に対しては、フェールしていることが検出されているため、メイン制御部(運転支援制御部20)からは、目標減速度Gxt(第1の目標減速度Gxt1、第2の目標減速度Gxt2)、目標ヨーモーメントMzt(第1の目標ヨーモーメントMzt1、第2の目標ヨーモーメントMzt2)は、送信されない。
【0065】
一方、ステアリング制御部12に対しては、目標ハンドル角θHtとして、ブレーキ制御部13がフェール状態として、例えば、第1の目標ハンドル角θHt1が、上述の(4)式における加重配分係数Cの変更によって、30degから45degに大きな値に変更されて設定され、送信される。また、第2の目標ハンドル角θHt2として、15degが送信される。
【0066】
そして、ブレーキ制御部13は、フェールしているため目標減速度Gxt、目標ヨーモーメントMztに対応するブレーキ力の出力はないが、ステアリング制御部12では、上述の第1の目標ハンドル角θHt1=45degと第2の目標ハンドル角θHt2=15degを受信して、第1の目標ハンドル角θHt1=45degを目標ハンドル角θHtとしてパワーステアリングモータを駆動制御する。また、ステアリング制御部12内に記憶しておいた第2の目標ハンドル角θHt2を、受信した第2の目標ハンドル角θHt2=15degで更新する。
【0067】
次に、図7は、メイン制御部(運転支援制御部20)のみがフェールした場合、すなわち、図3のS202の判定で、運転支援制御部20がフェールと判定されてS205に進む場合の一例を示す。
【0068】
まず、運転支援制御部20がフェールしているため、ステアリング制御部12に対する目標ハンドル角θHt(第1の目標ハンドル角θHt1、第2の目標ハンドル角θHt2)は送信されない。同様に、ブレーキ制御部13に対する目標減速度Gxt(第1の目標減速度Gxt1、第2の目標減速度Gxt2)、目標ヨーモーメントMzt(第1の目標ヨーモーメントMzt1、第2の目標ヨーモーメントMzt2)は、送信されない。
【0069】
このため、ステアリング制御部12は、更新しつつ記憶しておいた、例えば、運転支援制御部20がフェール=15degを目標ハンドル角θHtとしてパワーステアリングモータを駆動制御する。また、ブレーキ制御部13は、更新しつつ記憶しておいた、例えば、第2の目標減速度Gxt2=3.0m/s2、第2の目標ヨーモーメントMzt2=0.0N・mを目標減速度Gxt、目標ヨーモーメントMztとして各輪のブレーキ力を設定し、ブレーキ駆動部(図示せず)に出力する。すなわち、たとえ運転支援制御部20がフェールしたとしても、また、たとえ車載ネットワーク等がフェールしたとしても、これにより、運転支援制御が急に中断されることなく、ステアリング制御部12、ブレーキ制御部13は、運転支援制御部20がフェールする前に設定された適切な、安全性を考慮し、道路形状に応じた、第2の目標ハンドル角θHt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2で旋回され、第2の目標減速度Gxt2で減速されて停止されることになる。
【0070】
このように、本実施の形態によれば、車両の運転状態に基づいて車両に発生させる車両挙動の制御量を算出して出力する運転支援制御部20と、運転支援制御部20からの制御量に基づいてアクチュエータの作動を制御するステアリング制御部12、ブレーキ制御部13を備え、運転支援制御部20が、運転支援制御部20がフェールしていない場合に実行する第1の目標ハンドル角θHt1、第1の目標減速度Gxt1、第1の目標ヨーモーメントMzt1と運転支援制御部20がフェールした場合に実行する第2の目標ハンドル角θHt2、第2の目標減速度Gxt2、第2の目標ヨーモーメントMzt2の両方の制御量を算出して出力するようにした。このため、下位のステアリング制御部12、ブレーキ制御部13等の制御装置の上位の運転支援制御部20を考慮した変更や高度化が不要で、たとえ、上位の制御装置や車載ネットワークがフェールした場合であっても、上位の運転支援制御部20が急に中断されることがなく、安全な走行状態を容易かつ確実に維持することができる
【符号の説明】
【0071】
1 制御装置
2 通信バス
11 エンジン制御部
12 ステアリング制御部(第2の制御手段)
13 ブレーキ制御部(第2の制御手段)
20 運転支援制御部(第1の制御手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7