特許第6401740号(P6401740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6401740
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】排ガス浄化触媒及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/63 20060101AFI20181001BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20181001BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20181001BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   B01J23/63 AZAB
   B01J32/00
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   F01N3/10 A
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-117099(P2016-117099)
(22)【出願日】2016年6月13日
(65)【公開番号】特開2017-221868(P2017-221868A)
(43)【公開日】2017年12月21日
【審査請求日】2017年6月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 清
(72)【発明者】
【氏名】加藤 千和
(72)【発明者】
【氏名】新名 祐介
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−226890(JP,A)
【文献】 特開2007−203160(JP,A)
【文献】 特開2013−000660(JP,A)
【文献】 特開平09−267039(JP,A)
【文献】 特開2014−200772(JP,A)
【文献】 特開平04−358539(JP,A)
【文献】 特開2007−007606(JP,A)
【文献】 特開2007−229679(JP,A)
【文献】 特開2000−325787(JP,A)
【文献】 特開昭62−149338(JP,A)
【文献】 特開昭55−064839(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/94 − 53/96
F01N 3/10 − 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体と、該担体に担持された貴金属とを備え、
前記担体におけるアルミナ、イットリア及びチタニアの合計量を基準として前記イットリアの含有量が0.7〜35質量%、前記チタニアの含有量が0.3〜24質量%、前記アルミナの含有量が50〜98質量%であり、かつ、
前記担体における前記イットリアと前記チタニアとの含有割合が各金属元素の原子比([イットリウム]:[チタニウム])を基準として90:10〜20:80の範囲にある、
ことを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
前記貴金属が白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
前記排ガス浄化触媒が排ガス中の少なくともCO及びHCを浄化するためのものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
アルミナ粒子に、イットリウムを含有する第1の化合物及びチタニウムを含有する第2の化合物を含む溶液を接触せしめてアルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体を得る工程と、
前記担体に貴金属塩の溶液を用いて貴金属を担持せしめる工程と、
前記貴金属が担持された担体を焼成せしめることにより請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の排ガス浄化触媒を得る工程と、
を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項5】
前記第1の化合物がイットリウムを含有するクエン酸錯体であり、前記第2の化合物がチタニウムを含有するクエン酸錯体であることを特徴とする請求項4に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化触媒、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディーゼルエンジン、燃料消費率の低い希薄燃焼式(リーンバーン)エンジン等の内燃機関から排出されるガス中に含まれる有害な成分(例えば、一酸化炭素(CO)、未燃炭化水素類(HC)等)を浄化するために、様々な種類の排ガス浄化触媒が研究されてきた。そして、そのような排ガス浄化触媒として、各種の金属酸化物を担体に用いた排ガス浄化触媒が提案されている。
【0003】
このような排ガス浄化触媒としては、例えば、特開平9−308829号公報(特許文献1)において、白金、ルテニウム、ロジウム及びパラジウムからなる群から選択された少なくとも一種の元素と、プラセオジムと、イットリウムとを含む触媒成分を有し、前記触媒成分をジルコニアやアルミナ等の耐火性担体に担持したディーゼルエンジン排ガス浄化触媒が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載のような従来のディーゼルエンジン排ガス浄化触媒においては、低温でのCO、HC等に対する酸化活性や、高温又は硫黄被毒に対する酸化活性の耐久性という点で必ずしも十分なものではなかった。

また、特開2011−149400号公報(特許文献2)において、ディーゼルエンジンの排気ガス中のCO、HCを浄化する酸化触媒として、酸素吸蔵材を有する酸化物と酸化物半導体とを含む触媒が開示されており、酸素吸蔵材を有する酸化物としてCeを含む酸化物を、酸化物半導体としてTiO、ZnO又はYを含有しており、酸素吸蔵材を有する酸化物に貴金属が坦持されている触媒が記載されている。しかしながら、特許文献2に記載のような従来のディーゼルエンジン排ガス浄化触媒においても、低温でのCO、HC等に対する酸化活性や、高温又は硫黄被毒に対する酸化活性の耐久性という点で必ずしも十分なものではなかった。
【0004】
更に、特開平8−266865号公報(特許文献3)において、アルミナ、シリカ、チタニア、ゼオライト、シリカ−アルミナ及びチタニア−アルミナ等の耐火性無機酸化物により形成された触媒担持層と、該触媒担持層に担持された白金族元素と、を有するディーゼルエンジン用排ガス浄化触媒において、前記触媒担持層には、更にバナジウムと、ランタン、セリウム、イットリウム及びタングステンのうちの少なくとも一種との複合酸化物が担持されているディーゼルエンジン用排ガス浄化触媒が開示されている。同公報の記載によれば、CO等の酸化・分解性能の維持・向上と、SOの生成のより十分な抑制とを同時に実現可能なディーゼルエンジン用排ガス浄化触媒を提供することが可能となっている。
【0005】
また、特開2015−120159号公報(特許文献4)並びに国際公開第2012/121085号明細書(特許文献5)において、酸化アルミニウムと、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化イットリウム、酸化ネオジム、酸化ケイ素及び酸化チタンからなる群より選択される1種以上の金属酸化物とを含む担体に、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム及びオスミウムからなる群より選択される1種以上の触媒成分を担持させてなる触媒であって、前記金属酸化物の粒子径が10nm未満である排ガス浄化用触媒が開示されている。同公報の記載によれば、ジルコニア−アルミナ複合酸化物担体、チタニア−ジルコニア−アルミナ複合酸化物担体、シリカ−ジルコニア−アルミナ複合酸化物担体といった酸化アルミニウムと酸化ジルコニウムとを含む担体に白金やパラジウム等の貴金属を担持させることにより、低温下で排ガス中のCOやHCを効果的に処理できる排ガス浄化触媒を提供することが可能となっている。
【0006】
しかしながら、近年は、排ガス浄化触媒に対する要求特性が益々高まっており、150℃未満程度の低温でのCO、HC等に対する十分な酸化活性を有していると共に、750℃程度の高温に曝されても、またSO等の硫黄(S)成分を含む排ガスに曝されても、CO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持される排ガス浄化触媒が求められるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−308829号公報
【特許文献2】特開2011−149400号公報
【特許文献3】特開平8−266865号公報
【特許文献4】特開2015−120159号公報
【特許文献5】国際公開第2012/121085号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、低温でのCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を有していると共に、高温や硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持される排ガス浄化触媒、及び、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、アルミナ、特定量のイットリア及び特定量のチタニアからなる担体を用い、その担体に貴金属を担持した排ガス浄化触媒とすることにより、低温でのCO、HC等に対する酸化活性が十分に向上すると共に、高温や硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持されるようになることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の排ガス浄化触媒は、アルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体と、該担体に担持された貴金属とを備え、
前記担体におけるアルミナ、イットリア及びチタニアの合計量を基準として前記イットリアの含有量が0.7〜35質量%、前記チタニアの含有量が0.3〜24質量%、前記アルミナの含有量が50〜98質量%であり、かつ、
前記担体における前記イットリアと前記チタニアとの含有割合が各金属元素の原子比([イットリウム]:[チタニウム])を基準として90:10〜20:80の範囲にある、
ことを特徴とするものである。このような本発明の排ガス浄化触媒においては、前記貴金属が白金及びパラジウムからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。また、このような本発明の排ガス浄化触媒は、排ガス中の少なくともCO及びHCを浄化するための排ガス浄化触媒として好適に用いられる。
【0011】
本発明の排ガス浄化触媒の製造方法は、
アルミナ粒子に、イットリウムを含有する第1の化合物及びチタニウムを含有する第2の化合物を含む溶液を接触せしめてアルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体を得る工程と、
前記担体に貴金属塩の溶液を用いて貴金属を担持せしめる工程と、
前記貴金属が担持された担体を焼成せしめることにより前記本発明の排ガス浄化触媒を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。このような本発明の排ガス浄化触媒の製造方法においては、前記第1の化合物がイットリウムを含有するクエン酸錯体であり、前記第2の化合物がチタニウムを含有するクエン酸錯体であることが好ましい。
【0012】
なお、本発明の排ガス浄化触媒において、低温でのCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を有していると共に、高温や硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持されるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の排ガス浄化触媒においては、先ず、アルミナ表面にイットリアが高分散に担持される傾向にあることから、イットリアにより担体の塩基性度が高くなるため、貴金属と担体との相互作用が強くなり、高温に曝されても、貴金属の粒成長が抑制される。一方、アルミナ表面にチタニアも高分散に担持される傾向にあることから、逆に担体の酸性度が高くなるが、チタニアは貴金属と相互作用が強いことから、チタニアにより貴金属の粒成長抑制効果が低減することはない。その結果、本発明の排ガス浄化触媒においては、高温に曝されても貴金属粒子径は小さく保持され、CO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持されると本発明者らは推察する。
【0013】
また、一般的に担体の塩基性度が高くなり過ぎると担持された貴金属は酸化状態になりやすくなり、低温では触媒活性点として機能するメタル状態になりにくくなる傾向にある。それに対し、本発明の排ガス浄化触媒においては、イットリアと一緒に存在するチタニアは貴金属が過度に酸化状態になることを防止するため、貴金属がメタル状態になりやすくなり、低温でもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が発現するものと本発明者らは推察する。
【0014】
更に、一般的に担体の塩基性度が高いと、担体に排ガス中の硫黄成分が硫酸イオンとして強く付着し、更に貴金属も被毒するようになり、CO、HC等に対する酸化活性が低下する傾向にある。それに対し、本発明の排ガス浄化触媒においては、チタニアにより担体の酸性度が高くなり、担体への硫酸イオンの付着が阻止され、更に貴金属の硫黄被毒による酸化活性の低下が抑制されるため、硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持されると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低温でのCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を有していると共に、高温や硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持される排ガス浄化触媒、及び、その製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例1〜3及び比較例1〜5で得られた排ガス浄化触媒における耐熱試験後の50%CO酸化温度及び50%HC酸化温度を示すグラフである。
図2】実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた排ガス浄化触媒における耐硫黄被毒試験後の50%CO酸化温度及び50%HC酸化温度を示すグラフである。
図3】実施例1〜3及び比較例2〜3で得られた排ガス浄化触媒におけるTiの原子割合と耐熱試験後の50%CO酸化温度及び50%HC酸化温度との関係を示すグラフである。
図4】実施例1〜3及び比較例2〜3で得られた排ガス浄化触媒におけるTiの原子割合と耐硫黄被毒試験後の50%CO酸化温度及び50%HC酸化温度との関係を示すグラフである。
図5】実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた排ガス浄化触媒における耐熱試験後の貴金属粒子径を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0018】
[排ガス浄化触媒]
本発明の排ガス浄化触媒は、アルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体と、該担体に担持された貴金属とを備え、
前記担体におけるアルミナ、イットリア及びチタニアの合計量を基準として前記イットリアの含有量が0.7〜35質量%、前記チタニアの含有量が0.3〜24質量%、前記アルミナの含有量が50〜98質量%であり、かつ、
前記担体における前記イットリアと前記チタニアとの含有割合が各金属元素の原子比([イットリウム]:[チタニウム])を基準として90:10〜20:80の範囲にある、
ことを特徴とするものである。
【0019】
(担体)
本発明の排ガス浄化触媒における担体としては、アルミナ(酸化アルミニウム:Al)、イットリア(酸化イットリウム:Y)及びチタニア(酸化チタニウム:TiO)からなり、前記担体におけるアルミナ、イットリア及びチタニアの合計量を基準として前記イットリアの含有量が0.7〜35質量%、前記チタニアの含有量が0.3〜24質量%、前記アルミナの含有量が50〜98質量%であり、かつ、前記担体における前記イットリアと前記チタニアとの含有割合が各金属元素の原子比([イットリウム]:[チタニウム])を基準として90:10〜20:80の範囲にあることが必要である。
【0020】
このように本発明にかかる担体におけるイットリア(Y)の含有量が、前記担体におけるアルミナ、イットリア及びチタニアの合計の全質量100質量%に対して0.7〜35質量%であることが必要である。このようなイットリアの含有量が前記下限未満では、得られる排ガス浄化触媒が高温に曝されたときに貴金属の粒成長を十分に抑制することが困難となるため、高温に曝されたときに貴金属を高分散状態に維持することができなくなってCO、HC等に対する酸化活性が低下する。他方、イットリアの含有量が前記上限を超えると、得られる排ガス浄化触媒において貴金属をメタル状態にすることが困難となるため、低温でのCO、HC等に対する十分な酸化活性が得られなくなり、また、担体への硫酸イオンの付着が十分に阻止されず、更に貴金属の硫黄被毒による酸化活性の低下が十分に抑制されなくなるために硫黄成分を含む排ガスに曝されたときにCO、HC等に対する酸化活性が低下する。このようなイットリアの含有量は、貴金属の高分散とメタル化の両立、及び、初期活性と耐久性能の両立という観点から、2〜24質量%であることがより好ましく、3〜13質量%であることが特に好ましい。
【0021】
このようなイットリア(Y)としては、特に制限されず、酸化イットリウム(III)としても公知であり、Yの化学式を有するものを用いることができる。例えば、触媒(担体)やセラミックスの原料として一般に市販されているものを用いることができる。
【0022】
また、本発明にかかる担体におけるチタニア(TiO)の含有量が、前記担体におけるアルミナ、イットリア及びチタニアの合計の全質量100質量%に対して0.3〜24質量%であることが必要である。このようなチタニアの含有量が前記下限未満では、得られる排ガス浄化触媒において貴金属をメタル状態にすることが困難となるため、低温でのCO、HC等に対する十分な酸化活性が得られなくなり、また、担体への硫酸イオンの付着が十分に阻止されず、更に貴金属の硫黄被毒による酸化活性の低下が十分に抑制されなくなるために硫黄成分を含む排ガスに曝されたときにCO、HC等に対する酸化活性が低下する。他方、チタニアの含有量が前記上限を超えると、得られる排ガス浄化触媒が高温に曝されたときに貴金属の粒成長を十分に抑制することが困難となるため、高温に曝されたときに貴金属を高分散状態に維持することができなくなってCO、HC等に対する酸化活性が低下する。このようなチタニアの含有量は、貴金属の高分散とメタル化の両立、及び、初期活性と耐久性能の両立という観点から、0.6〜17質量%であることがより好ましく、1.2〜10質量%であることが特に好ましい。
【0023】
このような担体におけるチタニア(TiO)としては、特に制限されず、アナターゼ型(正方晶)、ルチル型(正方晶)及びブルッカイト型(斜方晶)からなる群から選択される少なくとも一種のチタニアを用いることができるが、微細な粒子になることが容易であるという観点から、アナターゼ型のチタニアを用いることが好ましい。
【0024】
更に、本発明にかかる担体におけるアルミナ(Al)の含有量が、前記担体におけるアルミナ、イットリア及びチタニアの合計の全質量100質量%に対して50〜98質量%であることが必要である。このようなアルミナの含有量が前記下限未満では、得られる排ガス浄化触媒が高温に曝されたときに担体全体の耐熱性が低く、担体が凝集しやすくなり、その結果、担持された貴金属も粒成長しやすくなるため、CO、HC等に対する酸化活性が低下する。他方、アルミナの含有量が前記上限を超えると、イットリアやチタニアによる以下の効果、すなわち、高温に曝されても担持された貴金属を高分散状態に維持するとともに、活性に必要なメタル状態を維持するという効果、並びに、硫黄を含む排ガスに曝されても硫黄被毒による活性低下を抑制するという効果、が得られなくなる。このようなアルミナの含有量は、貴金属の高分散とメタル化の両立、及び、初期活性と耐久性能の両立という観点から、60〜94質量%であることがより好ましく、70〜90質量%であることが特に好ましい。
【0025】
このようなアルミナ(Al)としては、特に制限されず、ベーマイト型、擬ベーマイト型、χ型、κ型、ρ型、η型、γ型、擬γ型、δ型、θ型及びα型からなる群から選択される少なくとも一種のアルミナを用いることができるが、耐熱性の観点から、α−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナを用いることが好ましく、活性の高いγ−アルミナやθ−アルミナを用いることが特に好ましい。
【0026】
更に、このような担体における前記イットリアと前記チタニアとの含有割合が、各金属元素の原子比([イットリウム]:[チタニウム])を基準として90:10〜20:80の範囲にあることが必要である。このようなイットリアの含有割合が前記下限未満では(すなわち、チタニアが前記上限を超えると)、得られる排ガス浄化触媒が高温に曝されたときに貴金属の粒成長を十分に抑制することが困難となるため、高温に曝されたときに貴金属を高分散状態に維持することができなくなってCO、HC等に対する酸化活性が低下する。他方、イットリアの含有割合が前記上限を超えると(すなわち、チタニアが前記下限未満では)、得られる排ガス浄化触媒において貴金属をメタル状態にすることが困難となるため、低温でのCO、HC等に対する十分な酸化活性が得られなくなり、また、担体への硫酸イオンの付着が十分に阻止されず、更に貴金属の硫黄被毒による酸化活性の低下が十分に抑制されなくなるために硫黄成分を含む排ガスに曝されたときにCO、HC等に対する酸化活性が低下する。このような担体における前記イットリアと前記チタニアとの含有割合は、貴金属の高分散とメタル化の両立、及び、初期活性と耐久性能の両立という観点から、80:20〜30:70であることがより好ましく、70:30〜40:60であることが特に好ましい。
【0027】
ここで、「アルミナ、イットリア及びチタニアからなる」とは、前記担体が「アルミナ、イットリア及びチタニア」のみから構成されるもの、或いは、主として「アルミナ、イットリア及びチタニア」からなり本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含み構成されるものであることを意味する。他の成分としては、この種の用途の担体として用いられる他の金属酸化物や添加剤等を用いることができる。後者の場合、担体におけ「アルミナ、イットリア及びチタニア」の合計の含有量は、担体の全質量100質量%に対して50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。このような担体における「アルミナ、イットリア及びチタニア」の合計の含有量が前記下限未満では、本発明の効果が十分に得られない傾向にある。
【0028】
このような本発明の効果を損なわない範囲で含有することが可能な他の成分として用いる金属酸化物としては、排ガス浄化触媒の担体に用いることが可能な金属酸化物であればよく、特に制限されず、例えば、担体の熱安定性や触媒活性の観点から、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、スカンジウム(Sc)、バナジウム(V)等の希土類、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属等の金属の酸化物、これらの金属の酸化物の混合物、これらの金属の酸化物の固溶体、これらの金属の複合酸化物を適宜用いることができる。
【0029】
更に、このような本発明の排ガス浄化触媒の担体としては、その形状は特に制限されないが、リング状、球状、円柱状、粒子状、ペレット状等、従来公知の形状のものを用いることができる。なお、貴金属を分散性の高い状態で多く含有することができるという観点から、粒子状のものを用いることが好ましい。このような担体が粒子状のものである場合には、前記担体の平均二次粒子径は0.5〜10μmであることが好ましい。
【0030】
また、このような担体の比表面積としては、特に制限されないが、5〜300m/gであることが好ましく、10〜200m/gであることがより好ましい。前記比表面積が、前記下限未満では、PtやPd等の貴金属の分散性が低下し触媒性能(低温でのCO及びHCに対する酸化活性)が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、担体が700℃以下の低温でも容易に粒成長するようになり、該担体の上に担持された貴金属の粒成長を促進するため、触媒性能が低下する傾向にある。なお、このような比表面積は、吸着等温線からBET等温吸着式を用いてBET比表面積として算出することができる。なお、このようなBET比表面積は、市販の装置を利用して求めることができる。
【0031】
(貴金属)
次に、本発明の排ガス浄化触媒においては、前記担体に貴金属が担持されている。このような貴金属としては、特に制限されないが、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)及びルテニウム(Ru)からなる群から選択される少なくとも1種のものを用いることが好ましい。これらの中でも、触媒性能という観点から、Pt、Rh、Pd、Ir及びRuからなる群から選択される少なくとも一種がより好ましく、Pt及びPdからなる群から選択される少なくとも一種が更に好ましい。
【0032】
このような貴金属の担持量は、特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜必要量担持させればよい。なお、貴金属の担持量としては、金属換算で、前記担体100質量部に対して0.1〜15質量部であることが好ましい。このような貴金属の担持量が、前記下限未満では低温でのCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、貴金属のシンタリングが起こりやすく、貴金属の分散度が低下して貴金属の有効利用及びコスト面で不利になる傾向にある。また、このような貴金属の担持量としては、触媒性能とコストの観点から、0.5〜10質量部であることがより好ましい。なお、このように担体に担持されている貴金属の粒子径(平均粒子径)としては、1〜100nm(より好ましくは2〜50nm)であることが好ましい。このような貴金属の粒子径が、前記下限未満では、メタル状態になりにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、活性サイトの量が著しく減少する傾向にある。
【0033】
また、本発明の排ガス浄化触媒においては、前記貴金属が白金及びパラジウムからなり、前記白金と前記パラジウムとの少なくとも一部が固溶していることが特に好ましい。白金及びパラジウムがこのような固溶状態にあることにより、CO、HC等との反応の活性サイトの特性(活性サイト数当たりの活性)がより向上する傾向にある。
【0034】
なお、貴金属活性種としての白金とパラジウムとが金属全率固溶体を形成するとCO、HC等に対する酸化活性が高くなるが、その固溶体は500℃〜700℃くらいの中程度の温度域で白金と酸化パラジウムに相分離する傾向にある。本発明の排ガス浄化触媒においては、アルミナ表面にイットリアが高分散に担持される傾向にあることから、イットリアにより貴金属と担体との相互作用が強くなるため、前記中程度の温度域でも白金とパラジウムとの金属全率固溶体の相分離が抑制され、CO、HC等に対する高い酸化活性が保持される傾向にある。
【0035】
このような固溶体は、例えば、白金とパラジウムとを担持した触媒を700℃以上で熱処理することにより生成することができる。また、このような固溶体の存在は、前記白金、前記パラジウム及び/又はその固溶体に起因するCuKα線を用いたX線回折法における81.2°〜82.1°の間の、白金、パラジウム及び/又はその固溶体の結晶の(311)面に由来するピークを測定して、格子定数を求めることにより確認することができる。更に、このように固溶体に対してX線回折測定を行った場合、前記格子定数の変化からVegard則に基づいて固溶している白金及びパラジウムの量を求めることも可能である。このようにして求められる白金とパラジウムの固溶体の量としては、CO、HC等との反応の活性サイトの特性(活性サイト数当たりの活性)を十分に向上させる観点から、白金及びパラジウムの全量を基準として10〜90質量%であることが好ましい。なお、このような固溶体の粒子径(平均粒子径)としては、前記と同様の理由で、1〜100nm(より好ましくは2〜50nm)であることが好ましい。また、このような本発明の排ガス浄化触媒においては、前記白金、前記パラジウム及び/又はその固溶体に起因するCuKα線を用いたX線回折法における81.2°〜82.1°の間の(311)面由来の回折線ピークが81.5°以上であることが好ましい。このような回折線ピークが、81.5°以上であることにより、白金とパラジウムとの固溶体が十分に形成していることを示している。なお、白金とパラジウムとの固溶体が十分に形成していない場合には、回折線ピークが81.5°未満となる傾向にある。
【0036】
(排ガス浄化触媒)
本発明の排ガス浄化触媒は、前記担体と、該担体に担持された前記貴金属とを備えるものである。その形態としては、特に制限されないが、例えば、ハニカム形状のモノリス触媒、ペレット形状のペレット触媒等の形態にすることができ、更に、粉末状のものをそのまま所望の箇所に配置する形態とすることもできる。このような形態の排ガス浄化触媒を製造する方法としては、特に制限されないが、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、触媒をペレット状に成形してペレット形状の排ガス浄化触媒を得る方法や、触媒を触媒基材にコートすることにより、触媒基材にコート(固定)した形態の排ガス浄化触媒を得る方法等を適宜採用してもよい。
【0037】
なお、このような触媒基材としては、特に制限されず、例えば、得られる排ガス浄化触媒の用途等に応じて適宜選択されるが、ハニカムモノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等が好適に採用される。また、このような触媒基材の材質も、特に制限されないが、例えば、コーディエライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材が好適に採用される。更に、本発明の排ガス浄化触媒は、他の触媒と組み合わせて利用してもよい。このような他の触媒としては、特に制限されないが、公知の触媒(例えば、粒子状物質酸化触媒(PM酸化触媒)、NOx還元触媒、NOx吸蔵還元型触媒(NSR触媒)、NOx選択還元触媒(SCR触媒)等)を適宜用いてもよい。
【0038】
[排ガス浄化触媒の製造方法]
次に、本発明のガス浄化触媒の製造方法を説明する。本発明の排ガス浄化触媒の製造方法は、アルミナ粒子に、イットリウム(Y)を含有する第1の化合物及びチタニウム(Ti)を含有する第2の化合物を含む溶液を接触せしめてアルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体を得る工程(担体準備工程)と、前記担体に貴金属塩の溶液を用いて貴金属を担持せしめる工程(貴金属担持工程)と、前記貴金属が担持された担体を焼成せしめることにより上記本発明の排ガス浄化触媒を得る工程(焼成工程)と、を含むことを特徴とする方法である。このような方法により、低温でのCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を有していると共に、高温や硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持される本発明の排ガス浄化触媒を製造することができる。
【0039】
(担体準備工程)
本発明の排ガス浄化触媒の製造方法においては、先ず、アルミナ粒子に、イットリウム(Y)を含有する第1の化合物及びチタニウム(Ti)を含有する第2の化合物を含む溶液を接触せしめてアルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体を得る(担体準備工程)。
【0040】
このような本発明の製造方法にかかる担体準備工程において用いるアルミナ粒子としては、特に制限されないが、例えば、公知のアルミナの製造方法を適宜採用して得られるアルミナや、市販のアルミナを用いることができる。このようなアルミナの製造方法としては、例えば、硝酸アルミニウム溶液にアンモニア水を添加して中和して得られる沈殿物を500〜1200℃程度で0.5〜10時間程度焼成した後、乾式粉砕してアルミナを得る方法が挙げられる。
【0041】
また、このようなアルミナ粒子の粒子径としては、平均二次粒子径が0.5〜100μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。前記アルミナ粒子の平均粒子径が、前記下限未満では、担体の粒成長が起こりやすい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、貴金属が高分散に担持されない傾向にある。
【0042】
更に、このようなアルミナ粒子の比表面積としては、5〜300m/gであることが好ましく、10〜200m/gであることがより好ましい。前記比表面積が、前記下限未満では、貴金属の分散度が低下して十分な活性を得ることが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、担体の粒成長が起こりやすい傾向にある。
【0043】
次に、このような本発明の製造方法にかかる担体準備工程において用いるイットリウム(Y)を含有する第1の化合物としては、特に制限されないが、例えば、イットリウム(Y)の硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物(弗化物、塩化物等)、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸錯体等のイットリウムの塩及び錯体が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、担体への均一な担持の観点から、硝酸塩、酢酸塩、クエン酸錯体からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、クエン酸錯体が特に好ましい。具体的には、イットリウムクエン酸錯体、酢酸イットリウム四水和物、硝酸イットリウム六水和物等が挙げられる。
【0044】
また、このような本発明の製造方法にかかる担体準備工程において用いるチタニウム(Ti)を含有する第2の化合物としては、特に制限されないが、例えば、チタニウム(Ti)の酸化物、水酸化物、塩化物、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、アンモニウム塩、有機酸塩、クエン酸錯体等のチタニウムの塩及び錯体が挙げられ、これらのうちの1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、担体への均一な担持の観点から、塩化物、有機酸塩、クエン酸錯体からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、クエン酸錯体が特に好ましい。具体的には、チタニウムクエン酸錯体、塩化チタン、シュウ酸チタニルアンモニウム等が挙げられる。
【0045】
更に、前記第1の化合物及び前記第2の化合物を含む溶液の溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水(好ましくはイオン交換水及び蒸留水等の純水)等の溶媒が挙げられる。なお、このような溶液におけるイットリウム及びチタニウムの濃度としては、特に制限されないが、イットリウム(Y)イオンとして0.01〜1.0mol/L、及び、チタニウム(Ti)イオンとして0.01〜1.0mol/Lであることが好ましい。
【0046】
次に、前記第1の化合物及び前記第2の化合物を含む溶液を製造するための方法としては、前記第1の化合物と前記第2の化合物とを溶媒に溶解させることが可能な方法であればよく、特に制限されないが、例えば、先ず、前記第1の化合物を含む溶液(イットリウム溶液)及び前記第2の化合物を含む溶液(チタニウム溶液)をそれぞれ調製し、次いで、前記イットリウム溶液(溶液1)と前記チタニウム溶液(溶液2)とを混合して撹拌する方法が挙げられる。また、前記第1の化合物と前記第2の化合物とを同時に又は順次に溶媒に溶解させて前記第1の化合物及び前記第2の化合物を含む溶液を調製してもよい。
【0047】
また、このような前記アルミナ粒子に前記第1の化合物及び前記第2の化合物を含む溶液を接触せしめる方法としては、特に制限されないが、例えば、前記第1の化合物及び前記第2の化合物を含む溶液に前記アルミナ粒子を含浸せしめる方法、前記第1の化合物及び前記第2の化合物を含む溶液を前記アルミナ粒子に吸着担持せしめる方法等、公知の方法を適宜採用できる。また、このように前記アルミナ粒子に前記溶液を接触せしめる際においては、焼成後の担体におけるイットリアの含有量、チタニアの含有量、アルミナの含有量、及びイットリアとチタニアとの含有割合がそれぞれ前述の範囲内となるように前記第1の化合物及び前記第2の化合物を含む水溶液を前記アルミナ粒子に接触せしめる。なお、前記アルミナ粒子に対する前記イットリウム溶液(第1の化合物を含む溶液)中のイットリウム元素の担持量としては、金属換算([水溶液中のイットリウム元素のモル数]/[アルミナ粒子の質量])で0.00006〜0.005mol/gとなることが好ましく、0.0001〜0.002mol/gとなることがより好ましい。前記イットリウム元素の担持量が、前記下限未満では、高温に曝された場合の貴金属の分散性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、貴金属のメタル化が困難になる傾向にある。また、前記アルミナ粒子に対する前記チタニウム溶液(第2の化合物を含む溶液)中のチタニウム元素の担持量としては、金属換算([水溶液中のチタニウム元素のモル数]/[アルミナ粒子の質量])で0.00003〜0.005mol/gとなることが好ましく、0.0001〜0.002mol/gとなることがより好ましい。前記チタニウム元素の担持量が、前記下限未満では、得られる排ガス浄化触媒において貴金属をメタル状態にすることが困難となるため、低温でのCO、HC等に対する十分な酸化活性が得られなくなり、また、担体への硫酸イオンの付着が十分に阻止されず、更に貴金属の硫黄被毒による酸化活性の低下が十分に抑制されなくなるために硫黄成分を含む排ガスに曝されたときにCO、HC等に対する酸化活性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる排ガス浄化触媒が高温に曝されたときに貴金属の粒成長を十分に抑制することが困難となるため、高温に曝されたときに貴金属を高分散状態に維持することができなくなってCO、HC等に対する酸化活性が低下する傾向にある。
【0048】
なお、本発明の製造方法にかかる担体準備工程においては、アルミナ粒子に、イットリウム(Y)を含有する第1の化合物及びチタニウム(Ti)を含有する第2の化合物を含む溶液を接触せしめた後に焼成してアルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体を得ることが好ましい。このような焼成の条件としては、特に制限されないが、例えば、大気中において、500〜900℃の温度範囲で加熱することが好ましく、750〜850℃の温度範囲で加熱することがより好ましい。前記加熱温度が前記下限未満では、担体において熱劣化による比表面積の減少量が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には熱劣化が進行して前記イットリア及び/又はチタニアの分散性が低下し、更にアルミナも粒成長する原因となる傾向にある。また、加熱時間としては、前記加熱温度によって異なるものであるため一概には言えないが、3〜20時間であることが好ましく、4〜15時間であることがより好ましい。
【0049】
なお、本発明の製造方法にかかる担体準備工程においては、上記以外の実施形態として、先ず、イットリウム(Y)を含有する第1の化合物を含む溶液をアルミナ粒子に接触せしめた後に焼成し、次いで、チタニウム(Ti)を含有する第2の化合物を含む溶液を前記焼成後のアルミナ粒子に接触せしめた後に焼成してアルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体を得ることができる。この場合、前記化合物を含む溶液を接触させる順番は第2の化合物を含む溶液が先であってもよい。また、上記以外の他の実施形態として、先ず、イットリウム(Y)を含有する第1の化合物を含む溶液をアルミナ粒子に接触せしめた後、更にチタニウム(Ti)を含有する第2の化合物を含む溶液をアルミナ粒子に接触せしめ、その後焼成してアルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体を得ることができる。この場合、前記化合物を含む溶液を接触させる順番は第2の化合物を含む溶液が先であってもよい。
【0050】
また、本発明の製造方法にかかる担体準備工程においては、アルミナ粒子に前記溶液を接触せしめ前記溶液を担持した後においては、焼成前に乾燥工程を適宜実施してもよい。このような乾燥工程としては特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、自然乾燥、蒸発乾固法の他、ロータリエバポレーターや送風乾燥機等を用いた乾燥等の方法を採用してもよい。乾燥時間は特に制限されず、目的とする設計等に応じて適宜選択される。例えば、80〜200℃で5〜20時間程度加熱することにより乾燥させる工程を採用してもよい。
【0051】
(貴金属担持工程)
次に、本発明の排ガス浄化触媒の製造方法においては、前記担体準備工程において得られた担体に、貴金属塩の溶液を用いて貴金属を担持せしめる(貴金属担持工程)。
【0052】
このような本発明の製造方法にかかる貴金属担持工程において用いる貴金属塩の溶液としては、特に制限されないが、例えば、貴金属塩として白金塩を用いる場合は、白金(Pt)の酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩等又はそれらの錯体が挙げられ、中でも、担持されやすさと高分散性の観点から、ジニトロジアンミン塩が好ましい。また、貴金属塩としてパラジウム塩を用いる場合は、例えば、パラジウム(Pd)の酢酸塩、炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、クエン酸塩、ジニトロジアンミン塩等又はそれらの錯体の溶液が挙げられ、中でも、担持されやすさと高分散性の観点から、硝酸塩やジニトロジアンミン塩が好ましい。また、溶媒としては、特に制限されないが、例えば、水(好ましくはイオン交換水及び蒸留水等の純水)等のイオン状に溶解せしめることが可能な溶媒が挙げられる。なお、このような貴金属塩の溶液の濃度としては、特に制限されないが、貴金属塩のイオンとして0.0002〜0.1mol/Lであることが好ましい。
【0053】
また、このような前記担体に前記貴金属塩の溶液を用いて貴金属を担持せしめる方法としては、特に制限されないが、例えば、前記貴金属塩の溶液に前記担体を含浸せしめる方法、前記貴金属塩の溶液を前記担体に吸着担持せしめる方法等、公知の方法を適宜採用できる。また、このように前記担体に前記貴金属塩の溶液を担持せしめる際においては、前記貴金属塩の溶液中の貴金属元素の含有量が、金属換算で、前記担体100質量部に対して0.1〜15質量部となることが好ましく、0.5〜10質量部となることがより好ましい。前記貴金属元素の担持量が、前記下限未満では、低温でのCO及びHCに対する高い酸化活性が十分に得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、貴金属の有効利用及びコスト面で不利になる傾向にある。なお、このような担持量としては、触媒性能とコストの観点から、前記貴金属元素の担持量が、金属換算で、前記担体100質量部に対して0.1〜15質量部であることが好ましく、0.5〜10質量部であることがより好ましい。
【0054】
(焼成工程)
次いで、本発明の排ガス浄化触媒の製造方法においては、前記貴金属担持工程において得られた貴金属が担持された担体(貴金属担持担体)を焼成せしめることにより上記本発明の排ガス浄化触媒を得る(焼成工程)。
【0055】
このような本発明の排ガス浄化触媒の製造方法にかかる焼成工程においては、焼成条件としては特に制限されないが、貴金属が担持された担体(貴金属担持担体)を300〜900℃の範囲内の温度で焼成せしめることが好ましい。前記焼成温度が、前記下限未満では、貴金属塩が十分に分解せず、貴金属が活性化しない傾向にあり、低温からCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を発揮することができなくなる傾向にある。他方、前記焼成温度が前記上限を超えると、貴金属の高分散担持が難しくなりCO、HC等に対する酸化活性が低下する傾向にあり、また、熱劣化が進行してチタニア粒子等が粒成長し、担体表面における分散性が低下する傾向にある。なお、このような焼成温度は、貴金属の活性化と高分散化の両立という観点から、300〜900℃の範囲内の温度であることが好ましく、400〜700℃の範囲内の温度であることがより好ましい。また、焼成(加熱)時間としては、前記焼成温度により異なるものであるため一概には言えないが、0.5〜10時間であることが好ましく、1〜5時間であることがより好ましい。更に、このような焼成工程における雰囲気としては、特に制限されないが、大気中或いは窒素(N)等の不活性ガス中であることが好ましい。
【0056】
[排ガス浄化方法]
次に、本発明の排ガス浄化触媒を用いた排ガス浄化方法について説明する。このような排ガス浄化方法は、前記本発明の排ガス浄化触媒に内燃機関からの排ガスを接触せしめて排ガスを浄化することを特徴とする方法である。
【0057】
このような排ガス浄化方法において、前記排ガス浄化触媒に排ガスを接触させる方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができ、例えば、内燃機関から排出されるガスが流通する排ガス管内に上記本発明にかかる排ガス浄化触媒を配置することにより、排ガス浄化触媒に対して内燃機関からの排ガスを接触させる方法を採用してもよい。
【0058】
なお、このような排ガス浄化方法において用いる前記本発明の排ガス浄化触媒は、低温でのCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を有していると共に、高温や硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持されるものであるため、低温からCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を発揮することが可能であり、かつ高温や硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を発揮することが可能であり、このような前記本発明の排ガス浄化触媒に、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関からの排ガスを接触させることで、十分に排ガス中のCO、HC等を浄化することが可能となる。このような観点から、前記排ガス浄化方法は、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出されるような排ガス中のCO及びHCを浄化するための方法等として好適に採用することができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
先ず、イットリウム溶液として、クエン酸(和光純薬工業社製、特級)346g(1.8mol)をイオン交換水340gに溶解させた後、酢酸イットリウム四水和物(和光純薬工業社製)203g(0.6mol)を加え、室温(25℃)において約6時間撹拌し、少量のイオン交換水を加えてイットリウムクエン酸錯体水溶液(イットリウム濃度:0.64mol/L)を準備した。また、チタニウム溶液として、3.4mol/Lのクエン酸水溶液140mLにチタン(IV)イソプロポキシド(和光純薬工業社製)56mLを加え、80℃において5時間撹拌し、チタニウムクエン酸錯体水溶液(チタニウム濃度:0.79mol/L)を準備した。
【0061】
次に、得られたイットリウム溶液からイットリウム0.20molに相当する量を、また、得られたチタニウム溶液からチタニウム0.05molに相当する量をそれぞれ採取してそれらを混合し、イオン交換水で約500mLの水溶液に希釈した後、得られた水溶液をアルミナ粉末(WRグレース社製、MI307)150gに含浸せしめ、ロータリエバポレータで混合及び乾燥後、大気中、800℃の温度条件で5時間焼成することにより、イットリア−チタニア−アルミナ担体(担体A)を得た。なお、担体A中のイットリアの含有量は12.8質量%、チタニアの含有量は2.3質量%、アルミナの含有量は84.9質量%であり、イットリウム:チタニウムの原子比は80:20であった。
【0062】
次いで、得られたイットリア−チタニア−アルミナ担体(担体A)全体に、ジニトロジアンミン白金硝酸水溶液(0.014mol/L)及び硝酸パラジウム水溶液(0.0063mol/L)を用いて、前記アルミナ粉末150gに対して白金の担持量が5.4g及びパラジウムの担持量が1.35gとなるように含浸させて担持せしめた後、大気中、550℃において2時間焼成して触媒粉末を得た。
【0063】
次に、得られた触媒粉末にアルミナゾル(日産化学社製、商品名「A520」、固形分濃度20質量%)66.6gを添加し、メディア撹拌型ミル(アトライター)を用いて30分間粉砕してコート用のスラリーを得た。このスラリーをテストピースサイズ(直径30mm、長さ50mm、容積35ml(35cc)、セル密度400cell/inch)のコージェライト製モノリス基材にコートした後、500℃の温度条件で3時間焼成することによりモノリス触媒からなる排ガス浄化触媒を得た。なお、前記スラリーのコート量は、モノリス基材1L当たりの白金量が5.4g/L、パラジウム量が1.35g/Lとなるように調整した。
【0064】
(実施例2)
実施例1で得られたイットリウム溶液からイットリウム0.125molに相当する量を、また、実施例1で得られたチタニウム溶液からチタニウム0.125molに相当する量をそれぞれ採取してそれらを混合し、イオン交換水で約500mLの水溶液に希釈した後、得られた水溶液をアルミナ粉末(WRグレース社製、MI307)150gに含浸せしめたこと以外は実施例1と同様にして、イットリア−チタニア−アルミナ担体(担体B)を得た。なお、担体B中のイットリアの含有量は8.1質量%、チタニアの含有量は5.7質量%、アルミナの含有量は86.2質量%であり、イットリウム:チタニウムの原子比は50:50であった。次に、得られたイットリア−チタニア−アルミナ担体(担体B)を用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、モノリス触媒からなる排ガス浄化触媒を得た。
【0065】
(実施例3)
実施例1で得られたイットリウム溶液からイットリウム0.075molに相当する量を、また、実施例1で得られたチタニウム溶液からチタニウム0.175molに相当する量をそれぞれ採取してそれらを混合し、イオン交換水で約500mLの水溶液に希釈した後、得られた水溶液をアルミナ粉末(WRグレース社製、MI307)150gに含浸せしめたこと以外は実施例1と同様にして、イットリア−チタニア−アルミナ担体(担体C)を得た。なお、担体C中のイットリアの含有量は4.9質量%、チタニアの含有量は8.1質量%、アルミナの含有量は87.0質量%であり、イットリウム:チタニウムの原子比は30:70であった。次に、得られたイットリア−チタニア−アルミナ担体(担体C)を用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、モノリス触媒からなる排ガス浄化触媒を得た。
【0066】
(比較例1)
アルミナ粉末(WRグレース社製、MI307)150gに、ジニトロジアンミン白金硝酸溶液及び硝酸パラジウム溶液を用いて前記アルミナ粉末150gに対して白金の担持量が5.4g及びパラジウムの担持量が1.35gとなるように含浸させて担持せしめた後、大気中、550℃において2時間焼成して触媒粉末を得た。
【0067】
次に、得られた触媒粉末にアルミナゾル66.6gを添加し、メディア撹拌型ミル(アトライター)を用いて30分間粉砕してコート用のスラリーを得た。このスラリーを用い、実施例1と同様にしてテストピースサイズのコージェライト製モノリス基材にコートした後、500℃の温度条件で3時間焼成することにより、比較用のモノリス触媒からなる排ガス浄化触媒を得た。なお、前記スラリーのコート量は、モノリス基材1L当たりの白金量が5.4g/L、パラジウム量が1.35g/Lとなるように調整した。
【0068】
(比較例2)
実施例1で得られたイットリウム溶液からイットリウム0.25molに相当する量を採取し、イオン交換水で約500mLの水溶液に希釈した後、得られた水溶液をアルミナ粉末(WRグレース社製、MI307)150gに含浸せしめたこと以外は実施例1と同様にして、イットリア−アルミナ担体(担体D)を得た。なお、担体D中のイットリアの含有量は15.8質量%、アルミナの含有量は84.2質量%であった。次に、得られたイットリア−アルミナ担体(担体D)を用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、比較用のモノリス触媒からなる排ガス浄化触媒を得た。
【0069】
(比較例3)
実施例1で得られたチタニウム溶液からチタニウム0.25molに相当する量を採取し、イオン交換水で約500mLの水溶液に希釈した後、得られた水溶液をアルミナ粉末(WRグレース社製、MI307)150gに含浸せしめたこと以外は実施例1と同様にして、チタニア−アルミナ担体(担体E)を得た。なお、担体E中のチタニアの含有量は11.8質量%、アルミナの含有量は88.2質量%であった。次に、得られたチタニア−アルミナ担体(担体E)を用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、比較用のモノリス触媒からなる排ガス浄化触媒を得た。
【0070】
(比較例4)
実施例1で得られたイットリウム溶液からイットリウム0.25molに相当する量を採取し、イオン交換水で約500mLの水溶液に希釈した後、得られた水溶液をチタニア粉末(日本アエロジル社製、P25)150gに含浸せしめ、ロータリエバポレータで混合及び乾燥後、大気中、500℃の温度条件で5時間焼成することにより、イットリア−チタニア担体(担体F)を得た。なお、担体F中のイットリアの含有量は15.8質量%、チタニアの含有量は84.2質量%であった。次に、得られたイットリア−チタニア担体(担体F)を用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、比較用のモノリス触媒からなる排ガス浄化触媒を得た。
【0071】
(比較例5)
先ず、ジルコニウム溶液として、クエン酸三アンモニウム(和光純薬工業社製、一級)195gとジルコニアゾル(ジルコニウム濃度:2.07mol/L、第一稀元素化学工業社製、ジルコゾールZA−20)96.4mLにイオン交換水200gを加え、80℃において5時間撹拌し、ジルコニウムクエン酸錯体水溶液(ジルコニウム濃度:0.67mol/L)を準備した。また、イットリウム溶液として、実施例1と同じイットリウムクエン酸錯体水溶液(イットリウム濃度:0.64mol/L)を準備した。次に、得られたイットリウム溶液からイットリウム0.125molに相当する量を、また、得られたジルコニウム溶液からジルコニウム0.125molに相当する量をそれぞれ採取してそれらを混合し、イオン交換水で約500mLの水溶液に希釈した後、得られた水溶液をアルミナ粉末(WRグレース社製、MI307)150gに含浸せしめ、ロータリエバポレータで混合及び乾燥後、大気中、800℃の温度条件で5時間焼成することにより、イットリア−ジルコニア−アルミナ担体(担体G)を得た。なお、担体G中のイットリアの含有量は7.9質量%、ジルコニアの含有量は8.6質量%、アルミナの含有量は83.5質量%であり、イットリウム:ジルコニウムの原子比は50:50であった。次に、得られたイットリア−ジルコニア−アルミナ担体(担体G)を用いるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、比較用のモノリス触媒からなる排ガス浄化触媒を得た。
【0072】
<耐熱試験>
実施例1〜3で得られた排ガス浄化触媒及び比較例1〜5で得られた比較用の排ガス浄化触媒触媒に対して、以下の耐熱試験を行った。すなわち、各触媒を電気炉(マッフル炉)の中に入れ、大気中において750℃の条件で37時間保持する耐熱試験を行った。
【0073】
<耐硫黄被毒試験>
実施例1〜3で得られた排ガス浄化触媒及び比較例1〜5で得られた比較用の排ガス浄化触媒に対して、以下の耐硫黄被毒試験を行った。すなわち、固定床流通式反応装置を用い、内径30mmの石英反応管に前記の耐熱試験後の各触媒を充填し、400℃で82分間、CO(800ppm)、C(400ppmC)、NO(100ppm)、O(10容量%)、CO(10容量%)、HO(5容量%)、SO(30ppm)及びN(残部)からなる硫黄(S)成分含有モデルガスを30L/分の流量で供給した。このときの触媒への硫黄(S)供給量は、重量に換算して、排ガス浄化触媒の体積当たり3.0g/Lに相当する。その後、硫黄被毒せしめた排ガス浄化触媒に対して、600℃で15分間、CO(800ppm)、C(400ppmC)、NO(100ppm)、O(10容量%)、CO(10容量%)、HO(5容量%)及びN(残部)からなる硫黄(S)成分を含有しないモデルガスを30L/分の流量で供給することにより、弱く付着している硫黄(S)成分を除去してから以下の活性評価試験に供した。
【0074】
<活性評価試験>
実施例1〜3で得られた排ガス浄化触媒及び比較例1〜5で得られた比較用の排ガス浄化触媒に対して、前記の耐熱試験後の各触媒の酸化性能を以下のようにして評価した。また、実施例1〜3で得られた排ガス浄化触媒及び比較例1〜3で得られた比較用の排ガス浄化触媒に対して、前記の耐硫黄被毒試験後の各触媒の酸化性能を以下のようにして評価した。
【0075】
すなわち、固定床流通式反応装置を用い、内径30mmの石英反応管に各触媒を充填し、CO(10容量%)、O(10容量%)、CO(800ppm)、C(400ppmC)、NO(100ppm)、HO(5容量%)及びN(残部)からなるモデルガスを15L/分の流量で供給しながら、触媒への入りガス温度を10℃/分の昇温速度で100℃から400℃まで昇温した。そして、このような昇温中における触媒からの出ガス(触媒に接触した後に石英反応管から排出されるガス)中のCO濃度を連続ガス分析計を用いて測定し、上記モデルガス中のCO濃度と出ガス中のCO濃度とからCO転化(酸化)率を算出し、CO転化(酸化)率が50%に到達したときの温度を50%CO酸化温度(℃)として求めた。また、同様にしてHC(C)転化(酸化)率が50%に到達したときの温度を50%HC酸化温度(℃)として求めた。
【0076】
実施例1〜3及び比較例1〜5で得られた排ガス浄化触媒における耐熱試験後の50%CO酸化温度及び50%HC酸化温度を表1及び図1に示す。また、実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた排ガス浄化触媒における耐硫黄(S)被毒試験後の50%CO酸化温度及び50%HC酸化温度を表1及び図2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
表1及び図1〜2に示した結果から明らかなように、アルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体を用いた実施例1〜3で得られた排ガス浄化触媒においては、150℃未満程度の低温でのCO及びHCに対する十分に高い酸化活性を有しており、更に、750℃程度の高温に曝されても、また、硫黄(S)成分を含む排ガスに曝されても、CO及びHCに対する十分に高い酸化活性が維持されていることが確認された。一方、アルミナのみからなる担体を用いた比較例1で得られた排ガス浄化触媒、アルミナとイットリアからなる担体を用いた比較例2で得られた排ガス浄化触媒、アルミナとチタニアからなる担体を用いた比較例3で得られた排ガス浄化触媒においては、耐熱試験後の酸化活性及び耐硫黄被毒試験後の酸化活性のいずれもが実施例1〜3で得られた排ガス浄化触媒より劣っていることが確認された。また、イットリアとチタニアからなる担体を用いた比較例4で得られた排ガス浄化触媒においては、耐熱試験後の酸化活性が他の触媒より著しく低かったことから、耐熱性の高いアルミナを主成分とすることが耐熱試験後も酸化活性を保持するために重要であることが確認された。更に、アルミナ、イットリア及びジルコニアからなる担体を用いた比較例5で得られた排ガス浄化触媒においては、耐熱試験後の酸化活性がアルミナとイットリアからなる担体を用いた比較例2で得られた排ガス浄化触媒とほぼ同等であったことから、アルミナとイットリアに対してジルコニアを添加しても殆ど効果がないことが確認された。
【0079】
次に、触媒におけるチタニウム(Ti)の原子割合と触媒の酸化活性との関係について確認する。すなわち、実施例1〜3及び比較例2〜3で得られた排ガス浄化触媒におけるTiの原子割合と耐熱試験後の50%CO酸化温度及び50%HC酸化温度との関係を図3に示す。また、実施例1〜3及び比較例2〜3で得られた排ガス浄化触媒におけるTiの原子割合と耐硫黄被毒試験後の50%CO酸化温度及び50%HC酸化温度との関係を図4に示す。なお、チタニウム(Ti)の原子割合は、担体中のイットリウム(Y)とチタニウム(Ti)との原子数の合計を100とした場合のチタニウム(Ti)の原子数の割合(%)である。
【0080】
図3〜4に示した結果から明らかなように、アルミナに加えてイットリアとチタニアの両方を含有する担体を用いた実施例1〜3で得られた排ガス浄化触媒においては、アルミナに加えてイットリアのみを含有する担体を用いた比較例2で得られた排ガス浄化触媒や、アルミナに加えてチタニアのみを含有する担体を用いた比較例3で得られた排ガス浄化触媒に比べて、耐熱試験後の酸化活性及び耐硫黄被毒試験後の酸化活性のいずれもが優れており、担体におけるイットリアとチタニアとの含有割合が各金属元素の原子比([イットリウム]:[チタニウム])を基準として90:10〜20:80の範囲にある場合に優位性が得られることが確認された。
【0081】
<貴金属粒子の粒子径の測定>
実施例1〜3で得られた排ガス浄化触媒及び比較例1〜3で得られた比較用の排ガス浄化触媒に対して、前記の耐熱試験後の各触媒における貴金属粒子の粒子径を以下のようにして測定した。
【0082】
すなわち、固定床流通式反応装置を用い、内径30mmの石英反応管に前記の耐熱試験後の各触媒を充填し、酸化前処理として400℃で15分間、O(10容量%)及びN(残部)からなる酸化性ガスを30L/分の流量で供給し、さらに還元前処理として400℃で15分間、H(3容量%)及びN(残部)からなる還元性ガスを30L/分の流量で供給した後、Nガスを30L/分の流量で供給しながら60℃まで冷却した。その後、Nガスを30L/分の流量で供給しながら0.25mmolのCOガスをパルス状に6回供給し、CO吸着量を測定した。そして、貴金属粒子表面に露出したPt及びPdのいずれに対してもCOが1:1(モル比)で吸着すると仮定して、CO吸着量から貴金属粒子径を算出した。実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた排ガス浄化触媒における耐熱試験後の貴金属粒子径を表2及び図5に示す。
【0083】
【表2】
【0084】
表2及び図5に示した結果から明らかなように、アルミナ、イットリア及びチタニアからなる担体を用いた実施例1〜3で得られた排ガス浄化触媒においては、アルミナのみからなる担体を用いた比較例1で得られた排ガス浄化触媒やアルミナとチタニアからなる担体を用いた比較例3で得られた排ガス浄化触媒に比べて、触媒における貴金属の粒子径が小さく、アルミナとイットリアからなる担体を用いた比較例2で得られた排ガス浄化触媒と比べても貴金属の粒子径は同等以下であった。したがって、耐熱性の高いアルミナと塩基性度を高くするイットリアとを組み合わせることによって貴金属の粒成長が抑制され、更に、酸性度を高くするチタニアが含有されていてもチタニアにより貴金属の粒成長抑制効果が低減していないことが確認された。その結果、本発明の排ガス浄化触媒においては、高温に曝されても貴金属粒子径は小さく保持され、CO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持されると本発明者らは推察する。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上説明したように、本発明によれば、低温でのCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を有していると共に、高温や硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性が維持される排ガス浄化触媒を提供することが可能となる。このように、本発明の排ガス浄化触媒は、低温からCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を発揮することが可能であり、かつ、高温や硫黄成分を含む排ガスに曝されてもCO、HC等に対する十分に高い酸化活性を発揮することが可能であるため、このような本発明の排ガス浄化触媒に、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関からの排ガスを接触させることで、十分に排ガス中のCO、HC等を浄化することが可能となる。このような観点から、本発明の排ガス浄化触媒を用いた排ガス浄化方法は、例えば、ディーゼルエンジン等の内燃機関から排出されるような排ガス中のCO、HC等を浄化するための方法として好適に採用することができる。
【0086】
したがって、本発明は、ディーゼルエンジン等の内燃機関からの排ガス中に含まれるCO、HC等を浄化するための排ガス浄化触媒、及び、その製造方法として特に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5