特許第6401907号(P6401907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6401907
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】レーザ切断方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/38 20140101AFI20181001BHJP
   B23K 26/10 20060101ALI20181001BHJP
   B23K 26/70 20140101ALI20181001BHJP
【FI】
   B23K26/38 A
   B23K26/10
   B23K26/70
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-1084(P2014-1084)
(22)【出願日】2014年1月7日
(65)【公開番号】特開2015-128780(P2015-128780A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097434
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】脇田 英和
(72)【発明者】
【氏名】祐森 翔
(72)【発明者】
【氏名】臼井 俊
(72)【発明者】
【氏名】深田 明宏
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−230978(JP,A)
【文献】 特表2013−541424(JP,A)
【文献】 特開2009−28789(JP,A)
【文献】 特開2013−119094(JP,A)
【文献】 特開2000−117471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台の所定位置に被切断材を配置し、この被切断材を、それに設定した切断予定線を挟む両側の各部位において該基台に固定し、所定のスポット径で照射するレーザ光を前記切断予定線に沿って走査させることによって前記被切断材を該切断予定線に沿って溶融又は蒸発させて切断するレーザ切断方法において、
前記被切断材の前記基台への固定を、前記レーザ光の照射による前記被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張が許容される固定力又は接触状態で行い、前記レーザ光の照射による該被切断材の切断時に、前記切断予定線を挟む該被切断材の各部位を、切断後の対向する切断面相互がくっつかないよう該切断予定線を起点としてその反対側に向けて熱膨張させることを特徴とするレーザ切断方法。
【請求項2】
前記被切断材の前記基台への固定を、固定用部材を前記被切断材に被せることによって行うことを特徴とする請求項1に記載のレーザ切断方法。
【請求項3】
前記基台が磁気吸着力のある金属製とされ、前記固定用部材をマグネットシートとして該基台に吸着させることを特徴とする請求項2に記載のレーザ切断方法。
【請求項4】
前記レーザ光を、前記固定用部材を前記被切断材に被せる側から照射することを特徴とする請求項2又は3のいずれか1項に記載のレーザ切断方法。
【請求項5】
基台の所定位置に被切断材を配置し、この被切断材を、それに設定した切断予定線を挟む両側の各部位において該基台に固定し、所定のスポット径で照射するレーザ光を前記切断予定線に沿って走査させることによって前記被切断材を該切断予定線に沿って溶融又は蒸発させて切断するレーザ切断方法において、
前記被切断材の前記基台への固定を、前記レーザ光の照射による前記被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張が許容されるように、該基台の表面に粘着剤層を形成しておくと共に前記被切断材を該粘着剤層の粘着力で固定し、前記レーザ光の照射による該被切断材の切断時に、前記切断予定線を挟む該被切断材の各部位を、切断後の対向する切断面相互がくっつかないよう該切断予定線を起点としてその反対側に向けて熱膨張させることを特徴とするレーザ切断方法。
【請求項6】
基台の所定位置に被切断材を配置し、この被切断材を、それに設定した切断予定線を挟む両側の各部位において該基台に固定し、所定のスポット径で照射するレーザ光を前記切断予定線に沿って走査させることによって前記被切断材を該切断予定線に沿って溶融又は蒸発させて切断するレーザ切断方法において、
前記基台を、一つの直線軌道上においてスライド自在に配置された2つの基台としておき、前記被切断材を、切断予定線を挟む両側の各部位において、各基台にそれぞれ固定しておき、前記レーザ光の照射による前記被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張によって、各基台を該切断予定線と反対側に向けてスライドさせることを特徴とするレーザ切断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の線材等の被切断材をレーザ加工により切断するレーザ切断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
CO2レーザやYAGレーザ等を用いる、例えば、金属材のレーザ切断(レーザカット)においては、集光したレーザ光を所定のスポット径(集光径)で金属材に照射し、その照射を、金属材の切断予定線に沿って所定の速度で走査(移動)させ、照射による発熱によって溶融又は蒸発し、要すれば、溶融又は蒸発する金属をアシストガスで飛散させ(吹き飛ばし)ながら、その切断が行われる。このようなレーザ切断においては、照射スポット径と略同一の幅で切断できるために精度の高い切断が得られる。また、レーザ出力を調節することにより切断速度も容易に調節することができる。一方、レーザ出力を高めて、例えば1回の走査で切断する場合には、パルスレーザで切断する場合でも、切断部は相対的に入熱過大(熱の集中)による溶融過多又は蒸発過多となり易いので、切断面に溶損が発生しやすく、平滑度(平滑性ないし面粗度)の高い切断面は得られ難い。このため、平滑度の高い切断面を得るには、レーザ出力を小さく設定して走査させることによって、被切断材(ワーク)の表面に走査方向に延びる切断溝を形成し、この切断溝上での走査を複数回、繰り返すことで、その切断を行うという方法が採られることがある(例えば、特許文献1(図4)、特許文献2(第2頁)参照)。
【0003】
このようなレーザ切断において、例えば、被切断材が貴金属材であるときは、蒸発や吹き飛ばしによる材料消失量(材料ロス)をできるだけ減らしたい。このため、レーザ出力を小さくし、かつ、照射スポット径を小さくして切断幅(切断溝幅)を小さくしたい要請がある。特に、被切断材が貴金属材の小物(例えば、φ1mm程度又はそれ以下の細い線材)であるような場合には、十μm〜十数μm程度以下といった極めて小さい切断溝幅(極小切断溝幅)で切断したいという強い要請がある。このような極小切断溝幅による切断では、1回の走査により得られる切断溝の深さも、例えば数μm単位と小さい。したがって、このような切断では、被切断材の厚み(又は、線材の太さ)が1mmとすると、走査回数は百回程度、或いは数百回となることがあり、必然的に、切断完了までに長時間を要する。
【0004】
ところで、被切断材を高寸法精度でレーザ切断するには、その位置決めを行い、これが動かないように固定する必要がある。横断面が円形の線材又は軸材(丸棒)のように、これをレーザ切断装置の切断用の基台(例えば、平テーブル)上に配置したとき、それが転動(回転)等により容易に移動してしまうものにおいては、その切断工程中の固定は必須となる。このため、従来は、基台上に配置した被切断材の切断予定線を挟むその両側の部位の適所(2箇所)においてクランプ等の固定手段(又は支持手段)で、これを押え付ける等して固定(又は保持)することが行われている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−11409号公報
【特許文献2】特開2002−103067号公報
【特許文献3】特開2004−186635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、貴金属製の細い線材を、切断予定線を挟む両側の各部位で固定し、レーザ切断する場合においては、照射スポット径を小さくし、極小切断溝幅で切断することになることから、次のような問題があった。というのは、複数の走査を繰り返すことで、本来は、その切断溝が、順次、少しずつ深くなり、所定の走査回数で切断に至るべきであるところ、極小切断溝幅で切断する場合には、走査回数を重ねるに従い、対向する切断溝壁面相互の間(空隙)が狭くなってレーザ光が溝底に到達しなくなったり、対向する切断面(溝壁面)が互いに押し合うようにくっ付いてしまったりして、所望とする切断が得られないという問題の発生である。
【0007】
この問題の発生原因は次のようである。レーザ切断においては、レーザ光の照射による走査ごと、その入熱(加熱)による溶融又は蒸発によって所定深さの切断溝が形成される。この走査において、線材(被切断材)は、その加熱により切断溝(走査開始前の切断予定線の位置。以下、「切断予定線」ともいう)を起点として、これを挟む両側の各部位が、それぞれ切断溝と反対側に向けて熱膨張しようとする。そして、この走査の終了時から次の走査までの間は冷却過程となるが、この走査の繰返しによる切断過程全体においては、切断溝を起点としてその両側の各部位は、それぞれ切断溝から離間する方に向けて熱膨張しようとする。しかし、被切断材は切断予定線を挟む両側の2箇所で固定されているため、熱膨張できないから、その固定部位相互間には大きな内部応力(熱による圧縮応力)が発生する。他方、切断溝がある程度深くなると、その対向する溝壁面(切断時に切断面となる面)相互間の空隙を小さくする方へ、切断溝を挟む両側の部位の熱膨張が許容され易い状態になる。そして、その溝底の切断残部(未切断部)が圧縮応力に抗することができる限りは、その空隙は保持されるが、切断溝が深くなり切断残部が小さくなる、ある段階では、その圧縮応力に抗することができなくなる。結果、溝壁面相互間の空隙を閉じる方に、切断溝を挟む両部位が熱膨張するから切断溝幅が狭くなり、さらには、溝壁面同士がくっついてしまう事態が発生する。また、切断溝幅が狭くなることにより、レーザ光が溝底に到達しなくなる。こうしたことが上記問題の発生原因と考えられる。
【0008】
一方、このような両端固定に代えて、基台上において、他端を自由端とする片端固定(一端固定)としてレーザ切断する場合には、上記の問題もなく切断されるが、別の次のような問題がある。第1には、片端固定の場合においては、他端(自由)側に向けて、自由な熱膨張が許容される結果、切断箇所の加熱、溶融により、その切断予定線が自由端側に極微量ではあるが、ずれるという事態の発生である。このことは、その「ずれ」の分、切断精度が低下し、切断溝幅が広くなってしまうことを意味するから、被切断材が貴金属材の場合には、切断面の精度の低下のみならず、材料ロスの増大ともなる。また、貴金属材でなくとも、その「ずれ」の分、切断精度が低下するし、切断できないことも生じる。第2には、被切断材が細い金属線の場合、その切断過程で自由端側が、切断溝を基点として、レーザ光の照射による入熱側に向けて、浮き上がる(持ち上がる)ように変形し、結果として、自由端側の切断面が傾斜してしまうという問題(切断面不良)の発生である。この浮き上がりは、切断溝(箇所)における入熱側と、その反対側との加熱のアンバランスによる熱歪に起因するものと考えられる。
【0009】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたもので、切断溝幅を小さくしてレーザ切断する場合においても、その溝壁面相互の間が狭くなったり、くっ付いたりして所望とする切断が得られない事態の発生を防止し、また、前記したように片端固定状態で切断する場合に発生する、切断箇所の「ずれ」や自由端側の浮き上がりによる切断面不良を発生させないレーザ切断方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本発明は、基台の所定位置に被切断材を配置し、この被切断材を、それに設定した切断予定線を挟む両側の各部位において該基台に固定し、所定のスポット径で照射するレーザ光を前記切断予定線に沿って走査させることによって前記被切断材を該切断予定線に沿って溶融又は蒸発させて切断するレーザ切断方法において、
前記被切断材の前記基台への固定を、前記レーザ光の照射による前記被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張が許容される固定力又は接触状態で行い、前記レーザ光の照射による該被切断材の切断時に、前記切断予定線を挟む該被切断材の各部位を、切断後の対向する切断面相互がくっつかないよう該切断予定線を起点としてその反対側に向けて熱膨張させることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載の本発明は、前記被切断材の前記基台への固定を、固定用部材を前記被切断材に被せることによって行うことを特徴とする請求項1に記載のレーザ切断方法である。
請求項3に記載の本発明は、前記基台が磁気吸着力のある金属製とされ、前記固定用部材をマグネットシートとして該基台に吸着させることを特徴とする請求項2に記載のレーザ切断方法である。
請求項4に記載の本発明は、前記レーザ光を、前記固定用部材を前記被切断材に被せる側から照射することを特徴とする請求項2又は3のいずれか1項に記載のレーザ切断方法法である。
【0012】
請求項5に記載の本発明は、基台の所定位置に被切断材を配置し、この被切断材を、それに設定した切断予定線を挟む両側の各部位において該基台に固定し、所定のスポット径で照射するレーザ光を前記切断予定線に沿って走査させることによって前記被切断材を該切断予定線に沿って溶融又は蒸発させて切断するレーザ切断方法において、
前記被切断材の前記基台への固定を、前記レーザ光の照射による前記被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張が許容されるように、該基台の表面に粘着剤層を形成しておくと共に前記被切断材を該粘着剤層の粘着力で固定し、前記レーザ光の照射による該被切断材の切断時に、前記切断予定線を挟む該被切断材の各部位を、切断後の対向する切断面相互がくっつかないよう該切断予定線を起点としてその反対側に向けて熱膨張させることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の本発明は、基台の所定位置に被切断材を配置し、この被切断材を、それに設定した切断予定線を挟む両側の各部位において該基台に固定し、所定のスポット径で照射するレーザ光を前記切断予定線に沿って走査させることによって前記被切断材を該切断予定線に沿って溶融又は蒸発させて切断するレーザ切断方法において、
前記基台を、一つの直線軌道上においてスライド自在に配置された2つの基台としておき、前記被切断材を、切断予定線を挟む両側の各部位において、各基台にそれぞれ固定しておき、前記レーザ光の照射による前記被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張によって、各基台を該切断予定線と反対側に向けてスライドさせることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る本発明のレーザ切断方法では、被切断材の前記基台への固定を、前記レーザ光の照射による前記被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張(以下、単に「熱膨張」ともいう)が許容される固定力又は接触状態で行うこととしている。このため、照射するレーザ光のスポット径が微小で、切断溝幅が極小であるとしても、前記熱膨張が許容されない従来の固定手段による固定条件下での切断と異なり、その切断溝を挟む両側の各部位は、それぞれ、その切断溝(走査開始前の切断予定線の位置)を起点として切断溝と反対側に向けて熱膨張するから、対向する切断溝壁面相互の間隙が小さくなることが防止される。このように請求項1に係る本発明のレーザ切断方法による切断においては、切断溝幅が極小で切断する場合でも、従来におけるような、切断面相互のくっつきや、所望とする切断が得られないという事態の発生が防止される。また、熱膨張は、切断溝を起点として、これを挟む両側の各部位とも切断溝と反対側に向けて、それぞれ熱膨張するから、切断溝の位置ずれの発生も効果的に防止できる。このため、数ミクロンないし十数μmというような、微小なスポット径で照射するレーザ光の走査による切断においても、材料ロスも少ない、所望とする切断が得られるから、貴金属材からなる細い線材を切断する場合の効果には著しいものがある。
【0015】
請求項1の発明において、被切断材の前記基台への固定のための手段(固定手段)は、その固定時の固定力又は接触状態が、被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張を許容するように、強固ではなく、レーザ切断に必要な位置決めが得られる固定力の範囲で設定すればよい。なお、本発明において、この熱膨張が許容されるとは、レーザ切断における加熱による熱膨張、及びその加熱状態の変化に伴う収縮が許容されることを意味する。請求項2に記載の発明のように、被切断材の前記基台への固定を、固定用部材を被切断材に被せることによって行うときは、その被せによって、固定用部材のうち、被切断材に接触状態にある部位が、被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張に対応して変形又は変位するか、若しくは、被切断材が固定用部材に対してスライドするか、又はその両作用が得られるようになっていればよい。
【0016】
固定用部材は、基台に取付けられるものとしてもよいが、基台の例えば上面に、単に、載置するものとしてもよい。被切断材が、例えば直径1mm程度の金属線の小物であれば、固定用部材の自重のみでも、熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張を許容する固定はできるためである。そして、このような小物の場合には、請求項3に記載の発明のように、前記基台が磁気吸着力のある金属製とされ、前記固定用部材をマグネットシートとして、これを該基台に吸着させるようにするとよい。基台は、通常、鉄製とされるし、マグネットシートを用いる場合には、これをテープ状とするなどして被切断材に被せて、基台の表面に吸着(磁気吸着)させることで、被切断材のレーザ切断に必要な固定が容易に得られる上に、脱着も容易に行うことができるためである。マグネットシートは、柔軟性のあるフィルム(例えば塩化ビニル製フィルム)に、ゴム等のシート状の基材にマグネット層を形成してなるものが普通であり、柔軟性がある上、テープ状の適当寸法に裁断することで、被切断材の前記基台への固定力を、所望とするものに容易に設定できるので便利である。しかも、マグネットシートを被切断材に被せて被切断材の固定をする場合には、被切断材の熱膨張時においては、マグネットシート自体が、被切断材との接触面側において、それに追随するように微量、変形し、若しくは、マグネットシートに対して被切断材が熱膨張分、相対的にスライドし、又は、その変形、スライドの両方により、被切断材の熱膨張を容易に許容することができる。よって、被切断材が小物の線材である場合の固定用部材(固定手段)として好適である。
【0017】
なお、このような小物の切断において、固定用部材をそれに被せることによって固定する方法としては、接着テープによってもよい。レーザ切断に必要な位置決めが得られる固定力が得られればよいためである。すなわち、テープ状の基材に粘着剤層を形成してなる接着テープ(又は粘着テープ)を被切断材に横断するように被せて、基台の表面に該粘着剤層を介して貼り付け、その貼り付けによって、被切断材を固定してもよい。 この場合、被切断材に接する部位では、粘着剤層はなくともよい。また、このように被せることによる固定方法では、上記もしたように、固定用部材は、基台の上面に単に載置するだけでもよい。被切断材が、細い線材のような小物である場合には、適当重量の例えばゴム状弾性体を固定用部材として用いることもできるし、固定用部材を適度のバネを介して被切断材に押付けるようにしてもよい。このような場合、要すれば、基台の表面に、その固定用部材を、クランプ等の別の固定手段で固定してもよい。本発明では、 レーザ切断方法において、被切断材の前記基台への固定を、レーザ光の照射による被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張が許容される固定力又は接触状態で行うことができればよいためである。なお、固定用部材は、レーザ光の照射による加熱に耐え得るように、切断箇所との位置関係等を考慮し、その材質を選択すればよい。
【0018】
請求項2又は3のいずれか1項に記載のレーザ切断方法においては、請求項4に記載の本発明のように、レーザ光を、前記固定用部材を被切断材に被せる側から照射するのがよい。被切断材は、上記したように切断溝を起点として、これを挟む各部位の側が、レーザ光の照射側(光源側)へ浮き上がるような変形(又は歪)を起こす傾向がある。特に、細い金属線の切断時にこれが生じやすいが、このようにレーザ光を照射することとすれば、固定用部材がこの変形を抑えることができるためである。例えば、基台の上面に、被切断材を載置し、基台の上面の上方から、下向きにレーザ光を照射して切断する場合には、固定用部材を上から被切断材に被せるようにすればよい。
【0019】
請求項2又は3のレーザ切断方法においては、前記固定用部材を被切断材に被せることで固定するものとしたが、請求項5に記載の本発明のように、被切断材の前記基台への固定を、レーザ光の照射による被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張が許容されるように、該基台の表面に粘着剤層を形成しておくと共に、被切断材を該粘着剤層の粘着力で固定することとしてもよい。この場合には、熱膨張は、粘着剤層の変形、変位により許容される。すなわち、被切断材の熱膨張に対しては、粘着剤層が被切断材との接触面側で、その膨張に追随するように変形するか、変形することなく相対的に滑りを生じるか、その両者によって、その熱膨張を許容することになる。なお、粘着剤層等の固定手段は、レーザ切断に必要な位置決めが得られる固定力であり、かつ、被切断材の熱膨張を妨げない固定力又は接触状態が得られればよい。粘着剤層の使用は、被切断材が細い金属線のような小物である場合に好適である。
【0020】
一方、被切断材が太い金属製丸棒のような大物である場合には、請求項6に記載の発明のように、前記基台を、一つの直線軌道上においてスライド自在に配置された2つの基台としておき、被切断材を、切断予定線を挟む両側の各部位において、各基台にそれぞれ固定しておくとよい。本発明によれば、被切断材の基台への固定自体は、上記各固定手段に比べると強固に行うことができる。一方、2つの基台は直線軌道上においてスライド自在であるから、レーザ光の照射による被切断材の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張は、この基台が直線軌道上においてスライドすることにより許容される。
【0021】
なお本発明のレーザ切断方法における被切断材の材質は、レーザ切断の対象とされるものに広く適用できるし、その形状も限定されるものではない。ただし、被切断材が、横断面が円形の軸材(又は線材)又は丸棒である場合には、基台の表面において横断面がV字形など、底側が幅挟の凹溝としておき、被切断材をこの凹溝(溝壁面)において、横断面で、2点接触の支持となるように配置するのがよい。転動を防止できるため、その位置決めが容易となるためである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のレーザ切断方法を具体化した第1実施形態例を説明する模式図であって、Aは正面図、Bは平面図、CはAの側面図。
図2図1において、レーザ切断されるまでの過程を説明する切断予定線を含む部分図であって、Aはレーザ光の照射前、B、Cはレーザ光の照射後の切断溝が深くなる過程、Dは切断終了後の説明用の各部分図。
図3】本発明のレーザ切断方法を具体化した実施形態例を説明する模式図であって、図1において被切断材の固定を回転自在のローラとした図であって、Aは正面図、Bは平面図、CはAの側面図。
図4図1において、基台の上面のうち、被切断材を位置決めする部位を凹溝とした変形例を説明する図であって、Aは正面図、Bは平面図、CはAの側面図。
図5】本発明のレーザ切断方法を具体化した別の実施形態例を説明する模式図であって、Aは正面図、Bは平面図、CはAの側面図。
図6】本発明のレーザ切断方法を具体化した別の実施形態例を説明する模式図であって、Aは正面図、Bは平面図、CはAの側面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るレーザ切断方法を具体化した実施の形態例(第1実施形態例)について、図1及び図2を参照しながら詳細に説明する。ただし、本形態で切断される被切断材10は、Pt(白金)製で、横断面円形の直線材(太さ(直径):1mm、長さ:50mm)とする。切断は、これをその長手方向の中間部位において、その軸線と直角に設定された切断予定線(図1中の線L1)上において行うものとする。本例では、レーザ切断装置のうち、被切断材10を位置決め配置する基台20は、鉄製(例えば、機械構造用炭素鋼製)のものとし、説明を簡易とするために模式図に示したように、上面22が、平面をなす直方体のブロック状のものとしている。ただし、その上面22の中間部位は、位置決め配置した被切断材(白金線)10の切断予定線L1を含む部位が位置するところであり、照射するレーザ光Laの走査用に、正面視(図1−A参照)、低位をなす凹部24が設けられている。本例では、被切断材10は、この基台20の凹部24を挟む図1−Aの左右の上面(平面22)に、その両側の各部位13、15が位置するように架橋状に配置される設定とされている。
【0024】
しかして、被切断材10を、平面視(図1−B参照)、切断予定線L1の部位が、この基台20の凹部24における所定位置となるようにすると共に、凹部24を挟む、左右の上面22に、各端側の部位13、15が位置するように橋架状に配置して位置決めする。そして、その切断予定線L1を挟む両側の各部位13、15において、基台20の左右の上面22に、本例では固定用部材として、テープ状に裁断、形成した柔軟なマグネットシート30を、着磁(磁石)側が基台20の各上面22と対面するようにして被切断材10にそれぞれ被せる。そして、このマグネットシート30の端寄り部位を、同基台20の上面22にその着磁力によって貼り付ける。これにより、被切断材10は、基台20の上面22に、マグネットシート30によって、位置決め、固定される。この固定における固定力は、マグネットシート30の着磁力、及び、それが基台20の上面22及び、マグネットシート30が被切断材10になじむように変形するときの押え付け力に依存する。なお、このマグネットシート30は、レーザ光Laの照射による被切断材10の加熱に伴う熱膨張のうち、切断予定線L1を起点とする各部位13、15の該切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張(図1−B中の左右方向の矢印参照)を許容できるように、そのテープ幅を設定することで、その固定力、又は被切断材10との接触状態が調節されている。
【0025】
本例におけるレーザ切断は、被切断材10をこのように固定した状態の下、図示しないレーザ切断装置におけるレーザ光Laの照射ヘッド(図示せず)から、切断箇所において、所定のスポット径(円の直径:十μm〜十数μm程度)で、所定の出力に設定されたレーザ光La(本例では、パルスレーザ)を、上から下に向けて、そのスポット径の中心が切断予定線L1上に位置するようにして照射する。その照射は、その切断予定線L1に沿って、例えば往復動の走査(図1−B中の上下方向の矢印参照)によって行い、これを複数回(例えば100回)繰返す。1回の往復動の走査では数μmの深さの切断溝が得られるだけであるが、その走査ごと被切断材10には、レーザ光Laの照射による加熱、溶融又は蒸発によって切断予定線L1上に、切断溝17が次第に深く形成され、最終的に切断される(図2参照)。
【0026】
この切断過程において、被切断材10であるPt線は、切断溝(切断予定線L1)17を起点として、その加熱、溶融の繰返しにより、これを挟む両側の各部位13、15が各端側に向けて熱膨張しようとする(図1−B中の左右方向の矢印参照)。このとき本例では、被切断材10が、その熱膨張を許容する固定力又は接触状態にあるマグネットシート30によって固定されている。このため、Pt線10は、その切断過程で熱膨張のうち、切断予定線L1を起点とする各部位13、15の該切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張が妨げられることがないから、切断溝17の位置ずれもなく、その切断溝17を挟む両側の各部位13、15は、図示はしないが、それぞれ、その切断溝17を起点として切断溝17と反対側(各端側)に向けて微量、熱膨張する。よって、照射するレーザ光Laのスポット径が微小であり、切断溝幅が極小であるとしても、従来のように、強固な固定によるために熱膨張が妨げられる結果、対向する切断溝壁面相互の間隙を小さくしてしまう、ということが防止されるので、レーザ光Laの溝底への到達が妨げられることもなく、最終的に所望とする切断が得られる。
【0027】
なお、マグネットシート30を構成するマグネット側の基材は、通常、弾性のあるゴムであり、それと反対側の表面も柔軟性のある塩化ビニルシートである。このため、被切断材10が熱膨張するときは、マグネットシート30自体が変形若しくは変位し、又は、マグネットシート30に対し、接触状態にある被切断材10が相対的にスライドするか、これらが組み合わさることで、その各部位13、15の該切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張が許容される。本例は、被切断材10が、細い線材のような小物の場合に好適といえる。このマグネットシート30による固定においては、それが有する磁力、及び同シート自体の弾性、重量等により、レーザ光Laの走査時において、被切断材10及び切断予定線L1の位置ズレ(動き)が防止できればよい。一方で、その固定力又は接触状態は、被切断材10自体の各部位13、15の該切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張を許容できる必要がある。すなわち、マグネットシート30は、レーザ切断において必要な位置決めが得られると共に、被切断材10の熱膨張を妨げない固定力又は接触状態が得られればよく、被切断材10の形状、大きさ等に応じて、適宜のものを選択すればよい。マグネットシート30は、そのシートの平面(縦横)寸法を調節、選択することで容易に所望とする固定力が得られるし、着脱が自在であるから、被切断材10の固定、及びその解除も簡易であり便利である。なお、マグネットシート30を被せる位置は、加熱による問題が生じない位置とすればよい。また、基台20が、マグネットが磁着しない、例えば18−8ステンレス鋼製であるとしても、その上面22に、別途、スチールシート(鉄板)を積層、固着しておけば、マグネットシートの使用ができる。
【0028】
また、本例では、レーザ光Laを、固定用部材であるマグネットシート30を被切断材10に、その各部位13,15において被せている側から照射しているため、切断溝17を起点として、いずれか片側が浮き上がるように変形することを防止できる。すなわち、浮き上がりはレーザ光Laの照射側に向けて生じがちであるところ、本例ではその照射側において、切断溝17を挟む両側の各部位13,15において被切断材10を押え付ける形で、マグネットシート30で固定しているため、その変形の発生も防止できるという効果が得られる。
【0029】
上記実施の形態においては、固定用部材に、マグネットシート30に代えて、基材に粘着剤層が形成されてなる粘着テープ(又は接着テープ)を用い、これを被切断材10の上から跨ぐ形で被せ、押さえつけるようにして貼り付け、その粘着テープの両端寄り部位の粘着剤層を基台20の上面22に接着して(貼り付けて)もよい。粘着テープは、レーザ切断時において被切断材10の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張を許容できる粘着力のものを使用すればよい。粘着テープによるときは、それ自体又は粘着剤層自体の変形(歪)によって、その熱膨張を許容することができる。なお、粘着テープは、被切断材10と接触する部位に、粘着剤層のないものを用いてもよい。この場合には、被切断材10への粘着剤層の付着がないから、切断後の被切断材10の処理を容易とし得る。
【0030】
以下、本願発明のレーザ切断方法を具体化した他の各実施例について説明する。ただし、以下の各例は前記例と、レーザ切断における被切断材10の熱膨張のうち、前記切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張を許容する固定手段、ないし、その許容の仕方が異なるだけである。また、切断溝17の溝壁面相互が狭くなったり、くっ付いたりして所望とする切断が得られない、という事態の発生を防止できるという基本的な効果も共通する。このため、以下の各例では前記相違点を中心として説明し、前記例と同一部位、又は相当する部位には、同一の符号を付すに止め、適宜、その説明を省略する。
【0031】
図3は、図1におけるマグネットシート30に代えて、固定用部材を、回転自在のローラ(円形ローラ)40としたものである。すなわち、被切断材10の熱膨張のうち、切断予定線L1を起点とする各部位13、15の切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張によってそのローラ40が回転するように、基台20の上面22に配置された被切断材10の切断予定線L1を挟むその両側の各部位13、15において、それぞれ上から、ローラ40を外周面が当接状態となるようにして、軸受(図示せず)を介して配置したものである。なお、図3においては、要すればバネを介して、ローラ40が被切断材10を適度の力で押え付けるようにしてもよい。また、図3のローラ40においては、外周面が凹溝(V溝)状とされており、その当接により、被切断材10の転動防止が図られている。このようにしておけば、被切断材10の各部位13、15の切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張(又は収縮)に応じて、ローラ40が、図3−A中に示したように回転するため、それを許容することができる。なお、基台20の上面22において、別途、被切断材10の転動防止が図られている場合には、外周面が平のローラでもよい。本例は、長寸の棒材や、熱膨張が大きい被切断材10のレーザ切断に好適といえる。この例からも理解されるが、被切断材10の基台20への固定を、固定用部材を被切断材10に被せることによる場合でも、固定用部材は基台20の表面に吸着等させる必要は必ずしもない。固定用部材は、切断時における被切断材の位置決めができ、かつ被切断材の熱膨張のうち、切断予定線を起点とする前記各部位の該切断予定線と反対側に向けての熱膨張を妨げなければよいためである。
【0032】
なお、上記各例では、被切断材10を載置する基台20の表面(上面22)が平面である場合で説明したが、本発明では、その上面(表面)22は、被切断材の形状、構造によって適宜のものを選択すればよい。例えば、被切断材が、上記例におけるような、横断面円形の線材(又は、丸棒)であり、これを切断するような場合には、図4に示したように、基台20の上面(表面)22において横断面がV字形など、底側が幅挟の凹溝26を設けておき、被切断材10をこの凹溝26内において、横断面で2点接触の支持となるようにしておいてもよい。このようにしておけば、被切断材10が転動するのを防止できるため、その分、位置決めが容易になる。図4は、固定用部材をマグネットシート30とした場合を図示しているが、粘着テープやローラを用いる場合でも同様のことが言える。なお、凹溝26は、図4に示したように、被切断材10が基台20の上面(表面)22より低位とならないようにしておくとよい。
【0033】
さて次に、別例について図5を参照しながら説明する。本例では、図5に示したように、基台20の上面(表面)22に粘着剤層60を形成しておき、被切断材10をこの粘着剤層60の粘着力で固定することとしたものである。すなわち、本例では、この基台20の上面22に形成した粘着剤層60の上に、被切断材10を位置決め配置して、その粘着剤層60の粘着性によって、被切断材10を固定し、その状態の下で、切断予定線L1に沿ってレーザ切断するようにしたものである。粘着剤層60は、レーザ光Laの照射における被切断材10の熱膨張のうち、切断予定線L1を起点とする各部位13,15の該切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張を許容することのできる粘着力となるように形成しておけばよい。このような粘着剤層60により、被切断材10を基台20へ固定した場合におけるその熱膨張は、粘着剤層60の変形、変位により許容される。すなわち、被切断材10の各部位13、15の該切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張に対しては、粘着剤層60が被切断材10との接触面側で、その膨張に追随するように変形することによって、その熱膨張を許容する。粘着剤層60の形成は、粘着剤を基台(表面の適所)20に、被切断材10の固定のための面積に対応して適宜の面積で塗布するか、粘着両面テープを基台20に貼り付けることでよい。粘着剤は、粘着性が長時間もつものから選択するのがよい。本例は、被切断材10が、細い線材のように小物である場合に好適である。
【0034】
次に、本発明のレーザ切断方法の別例について図6に基づき説明する。上記各例では、被切断材10の熱膨張を許容するための手段を、従来の強固な固定手段から、それぞれ変更したものといえるが、本例では、その固定手段の変更によることなく、各部位13、15の該切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張を許容させるようにしたものである。すなわち、本例では、基台120を、一つの直線軌道100上において、相互に離間又は近接ができるように、それぞれスライド自在に配置された2つのものからなっている。そして、被切断材10を、切断予定線L1を挟む両側の各部位13、15において、各基台120、120の上面122に、それぞれクランプ等の押さえジグ(固定手段)70、70で、固定しておくというものである。本例では、2つの基台(例えば、スライドユニット)120,120が、直線軌道(レール)100上において、それぞれスライド自在に配置されていることから、その静止状態の下でレーザ切断する場合において、被切断材10に、各部位13、15の該切断予定線L1と反対側に向けての熱膨張が生じた場合には、その熱膨張に応じて基台120、120相互が離間するように直線軌道100上をスライドする(図6中の左右方向の矢印参照)。これにより、その熱膨張が許容される。したがって、被切断材10の各基台120、120に対する固定は、クランプ等の押さえジグ(固定手段)70で、従来と同様に強固に行うことができる。このため、長い、又は太い棒(丸棒、角棒)や、熱膨張量が大きい、しかも大物の被切断材のレーザ切断に好適といえる。すなわち、マグネットシートや粘着剤層の使用では、大物の正確な位置決め固定には難があるところ、本例では、その確実な固定をしたとしても、熱膨張の許容が得られるためである。
【0035】
上記各例では、被切断材が、横断面が円形の軸材(又は線材)又は丸棒の場合で説明したが、本発明は、角棒や平板等の切断においても適用できることは前記した通りである。また、被切断材の材質はPtに限られず、レーザ切断の対象とされる被切断材に広く適用できる。特に、細い貴金属をレーザで精密切断する場合のように、切断における切断材料のロスを低減したいために、切断溝幅を小さく、しかも、高精度の切断面で切断したい場合に好適である。なお、本発明は、CO2レーザ、YAGレーザ、その他の公知の各種のレーザを用いたレーザ切断方法(レーザ切断機の使用)において広く適用できる。また、パルスレーザによる場合に限らず、連続発信レーザでも、その切断において、熱膨張を許容すべき場合に広く適用できる。
【符号の説明】
【0036】
10 被切断材
13,15 切断予定線を挟む両側の各部位
20、120 基台
30 マグネットシート(固定用部材)
50 ローラ(固定用部材)
60 粘着剤層
100 直線軌道(レール)
L1 切断予定線
La レーザ光
図1
図2
図3
図4
図5
図6