【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の効果について具体的に説明する。本実施例においては、下記の方法及び条件で延伸繊維を製造し、その性能を評価した。
【0059】
[樹脂]
(a)主原料(結晶性プロピレン重合体)
アイソタクチックポリプロピレン(MFR=60g/10分〔230℃、21.18N荷重〕、融点=161℃、再結晶化温度=110℃)
【0060】
(b)結晶核剤
A:ジメチルベンジリデンソルビトール
B:リン酸−2,2’−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブリルフェニル)アルミニウム塩
C:タルク(粒子径0.6μm)
【0061】
(c)結晶性プロピレン重合体よりも融点が高いオレフィン系重合体
ポリメチルペンテン(MFR=100g/10分〔260℃、49.0N荷重〕、融点=223℃、再結晶化温度=208℃)
【0062】
(d)可塑剤
I:アイソタクチックポリプロピレン(MFR=700g/10分、Q値=2.4)。
II:メタロセン高MFR顆粒状ポリプロプレン(MFR=1550g/10分)と、パウダー状ポリプロピレン(MFR=40g/10分)とを、質量比で、80:20の割合でブレンドし、混練して作製したマスターバッチ(計算MFR=746g/10分)。
【0063】
[評価・測定方法]
(1)単糸繊度
未延伸糸及び延伸糸の単糸繊度は、JIS L 1015に準じて測定した。
【0064】
(2)MFR
原料ペレット及び紡糸口金から吐出された繊維状物について、JIS K 7210のA法により、MFRを測定した。その際の測定条件を以下に示す。
・主原料(結晶性プロピレン重合体):試験温度230℃、試験荷重21.18N。
・紡糸口金吐出後の繊維状物(樹脂):試験温度230℃、試験荷重21.18N。
・樹脂(ブレンド物):下記数式1及び数式2から求めた。なお、下記数式1,2におけるw
iは構成成分iの質量分画、MFR
iは構成要素iのメルトフローレート、nはブレンド中の構成成分の総数である。
【0065】
【数1】
【0066】
【数2】
【0067】
(3)延伸倍率
単糸切れ、延伸切れ及びローラー巻き付きがなく、安定して延伸可能な最大延伸倍率を調べた。
【0068】
(4)単糸強伸度ヤング率
JIS L 1015に準じて測定した。
【0069】
(5)乾熱収縮率
JIS L 1015に準じて測定した。その際、熱処理温度は120℃とし、熱処理時間は10分間とした。
【0070】
(6)延伸繊維の結晶化度
延伸繊維の結晶化度は、以下に示す手順で測定した。
i:測定用試料の準備
延伸繊維をエタノール:メタノール=2:1の混合液で洗浄した後、室温で3時間以上風乾燥して、付着油剤及び水分を除去した。
【0071】
ii:吸熱量の測定
株式会社島津製作所製の示差走査熱量計(DSC−60)を用いて、iで準備した延伸繊維を8.0±0.3mgの質量範囲になるように秤量し、融解熱量測定用のアルミニウム製セル中に封入した。そして、窒素雰囲気下にて、昇温速度を30℃/分にして室温から250℃まで昇温し、延伸繊維の融解熱量ΔH
PP(J/g)を算出した。
【0072】
iii:結晶化度の算出
延伸繊維の結晶化度X
PPC(%)は、iiで算出した融解熱量ΔH
PPを用いて、下記数式3により算出した。なお、下記数式3におけるΔH
PPCは、ポリプロピレンの完全結晶の融解熱量であり、本実施例においては、文献(J.Brandrup & E.H.Immergut:Polymer Handbook (2nd.Ed.),John Wiley & Sons,New York (1975) V-24.)に基づいて、209J/gとした。
【0073】
【数3】
【0074】
(7)延伸繊維の再結晶化温度
延伸繊維の再結晶化温度は、以下に示す手順で測定した。
i:測定用試料の準備
延伸繊維をエタノール:メタノール=2:1の混合液で洗浄した後、室温で3時間以上風乾燥して、付着油剤及び水分を除去した。
【0075】
ii:再結晶化温度の測定
株式会社島津製作所製の示差走査熱量計(DSC−60)を用いて、iで準備した延伸繊維を8.0±0.3mgの質量範囲になるように秤量し、融解熱量測定用のアルミニウム製セル中に封入した。そして、窒素雰囲気下にて、昇温速度を30℃/分にして室温から250℃まで昇温した後、降温速度を10℃/分にして室温まで降温し、結晶化に伴う発熱ピークを確認した。
【0076】
(8)未延伸糸の繊度斑
未延伸糸を長さ方向に対して垂直に切断した断面を電子顕微鏡で撮影した。得られた写真から未延伸糸断面を任意に100本選択し、それらの直径を写真上で測定し平均値x(μm)を算出した。そして、未延伸糸直径の標準偏差をσとし、下記数式4より繊度斑を表す変動率CV(%)を算出した。
【0077】
【数4】
【0078】
<実施例1>
(1)未延伸糸の作製
樹脂には、主原料(結晶性プロピレン重合体)に、可塑剤Iを20.0質量%、結晶核剤Aを0.2質量%添加したものを用いた。紡糸条件は、押出機シリンダー温度を267℃、紡糸口金温度を270℃、紡糸速度を200m/分とし、樹脂の吐出量及び紡糸後の冷却条件を調整することにより、繊度が0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。紡糸後の未延伸糸は、サーキュラー(円筒)冷却装置を用いて、風速:5m/秒、風温:20℃の条件で急冷した。
【0079】
このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは98.9g/10分であった。
図2は実施例1の未延伸糸の断面を示す顕微鏡写真である。
図2に示すように、実施例1の未延伸糸は繊度が揃っており、未延伸糸の繊度斑を表す変動率も6.6%と、後述する比較例の未延伸糸に比べて低減していた。これは、樹脂に結晶核剤を添加したことにより、未延伸糸の結晶化温度が上昇して、紡糸工程の冷却が安定し、未延伸糸の繊度斑が低減したものと考えられる。
【0080】
(2)延伸繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程が実施することができるように、3台のローラー間に蒸気延伸槽(1段目、常圧蒸気100℃)及び緊張熱処理槽(2段目、常圧蒸気100℃)が連続して配置された二段延伸装置を用いた。そして、まず紡糸工程で得た未延伸糸を、紡糸工程に連続して、導入ローラー(G1ローラー)速度200m/分で導入し、延伸繊維引き出しローラー(G2ローラー)の速度を増加させ、蒸気延伸槽(1段目、常圧蒸気100℃)にて延伸を行った。連続して、緊張熱処理引き出しローラー(G3ローラー)を延伸繊維引き出しローラー(G2ローラー)と同速で引き出し、緊張熱処理槽(2段目、常圧蒸気100℃)にて緊張熱処理した。
【0081】
その結果、単糸切れ、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる速度は620m/分であり、全延伸倍率は3.10倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.160dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例1の延伸繊維は、DSCにより昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが104.7J/gであり、結晶化度は50.1%であった。また、実施例1の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、125.9℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:125.9℃)。
【0082】
<実施例2>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを16.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更に結晶核剤Aを0.2質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは102.8g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は5.9%であった。
【0083】
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は710m/分、全延伸倍率は3.55倍であり、実施例1よりも延伸性が向上していた。この実施例2では、可塑剤Iと共に配合されている高MFR成分(MFR=1550)を含む可塑剤IIが、延伸時に分子鎖のスリップ剤としての効果を発揮し、未延伸糸が急激な変形(高速度な延伸及び/又は高倍率な延伸)にも追従できるようになったため、延伸倍率が向上したと考えられる。
【0084】
得られた延伸繊維は、繊度が0.139dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例2の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが107.6J/gであり、結晶化度は51.5%であった。また、実施例2の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.3℃)。
【0085】
<実施例3>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを20.0質量%、結晶核剤Bを0.3質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは98.4g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.7%であった。
【0086】
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は610m/分であり、全延伸倍率は3.05倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.162dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例3の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが104.0J/gであり、結晶化度は49.8%であった。また、実施例3の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、129.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:129.3℃)。
【0087】
<実施例4>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを16.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更に結晶核剤Bを0.2質量%添加した原料を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは101.3g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.0%であった。
【0088】
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は700m/分、全延伸倍率は3.50倍であり、前述した実施例3よりも延伸性が向上していた。この実施例4では、可塑剤Iと共に配合されている高MFR成分(MFR=1550)を含む可塑剤IIが、延伸時に分子鎖のスリップ剤としての効果を発揮し、未延伸糸が急激な変形(高速度な延伸及び/又は高倍率な延伸)にも追従できるようになったため、延伸倍率が向上したと考えられる。
【0089】
この実施例4で得られた延伸繊維は、繊度が0.141dTexであり、十分な繊維物性を有していた。また、実施例4の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが106.8J/gであり、結晶化度は51.1%であった。更に、実施例4の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、129.8℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:129.8℃)。
【0090】
<実施例5>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを20.0質量%添加すると共に、結晶核剤Cを0.3質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。その際、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは97.1g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.8%であった。
【0091】
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は600m/分であり、全延伸倍率は3.00倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.165dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例5の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが102.8J/gであり、結晶化度は49.2%であった。また、実施例5の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、125.6℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:125.6℃)。
【0092】
<実施例6>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを16.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更に結晶核剤Cを0.3質量%添加した原料を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは99.6g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.2%であった。
【0093】
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は690m/分、全延伸倍率は3.45倍であり、前述した実施例5よりも延伸性が向上していた。この実施例6では、可塑剤Iと共に配合されている高MFR成分(MFR=1550)を含む可塑剤IIが、延伸時に分子鎖のスリップ剤としての効果を発揮し、未延伸糸が急激な変形(高速度な延伸及び/又は高倍率な延伸)にも追従できるようになったため、延伸倍率が向上したと考えられる。
【0094】
また、得られた延伸繊維は、繊度が0.143dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例6の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが105.8J/gであり、結晶化度は50.6%であった。また、実施例6の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、125.9℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:125.9℃)。
【0095】
<実施例7>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを11.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更に結晶核剤Aを0.2質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。このとき、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは92.6g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は9.1%であった。
【0096】
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同様の方法及び条件で延伸処理を行った。単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は640m/分、全延伸倍率は3.20倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.155dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例7の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが102.6J/gであり、結晶化度は49.1%であった。また、実施例7の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.2℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.2℃)。
【0097】
<実施例8>
(1)未延伸糸の作製
前述した実施例2と同じ樹脂を用いて、紡糸速度を150m/分にした以外は、実施例2と同様の方法及び条件で、繊度が0.60dTexの未延伸糸を紡糸した。その際、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは102.8g/10分であった。
図3は実施例8の未延伸糸の断面を示す顕微鏡写真である。
図3に示すように、実施例8の未延伸糸は繊度が揃っており、未延伸糸の繊度斑を表す変動率も5.9%と、後述する比較例の未延伸糸に比べて低減していた。
【0098】
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)の速度150m/分にした以外は、実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は540m/分、全延伸倍率は3.60倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.183dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0099】
この実施例8の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが101.8J/gであり、結晶化度は48.7%であった。また、実施例8の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.2℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.2℃)。
【0100】
<実施例9>
(1)未延伸糸の作製
前述した実施例2と同じ樹脂を用いて、実施例2と同様の方法及び条件で、繊度が0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。なお、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFR及び未延伸糸の変動率も実施例2と同様である。
【0101】
(2)延伸繊維の作製
前述した紡糸工程から連続して延伸工程が行えるように、3台のローラー間に予備延伸槽(1段目、常圧蒸気100℃)及び本延伸槽(2段目、加圧飽和水蒸気146℃)が連続して配置された2段延伸装置を用いた。そして、まず紡糸工程で得た未延伸糸を、紡糸工程に連続して、導入ローラー(G1ローラー)速度200m/分で導入し、予備延伸引き出しローラー(G2ローラー)速度680m/分の条件で、100℃の常圧蒸気で予備延伸処理した後、連続して延伸繊維引き出しローラー(G3ローラー)の速度を増加させ、146℃の加圧飽和水蒸気中で2段目の本延伸を行った。
【0102】
その結果、延伸切れを起こさず、工業的に安定して延伸できる速度は840m/分、全延伸倍率は4.20倍となった。この実施例9では、加圧飽和水蒸気延伸(146℃)を用いているため、前述した実施例2よりも高倍率で延伸が可能であった。そして、得られた延伸繊維の繊度は、0.118dTexであり、十分な繊維物性を有していた。
【0103】
この実施例9の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが114.7J/gであり、結晶化度は54.9%であった。また、実施例9の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.3℃)。
【0104】
<実施例10>
(1)未延伸糸の作製
前述した実施例2と同じ樹脂を用いて、実施例2と同様の方法及び条件で、繊度が0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。なお、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFR及び未延伸糸の変動率も実施例2と同様である。
【0105】
(2)延伸繊維の作製
紡糸工程と延伸工程が別工程でそれぞれ独立しており、3台のローラー間に予備延伸槽(1段目、温水93℃)及び本延伸槽(2段目、加圧飽和水蒸気146℃)が連続して配置された2段延伸装置を用いた。本実施例では、先ず、(1)で得た未延伸糸を複数錘分合糸した後、直ちに、まとめたトウを導入ローラー(G1ローラー)速度10m/分の条件で引き出した。予備延伸引出しローラー(G2ローラー)速度23m/分の条件で、93℃の温水で予備延伸処理した後、連続して延伸繊維引出しローラー(G3ローラー)の速度を増加させ、146℃の加圧飽和水蒸気中で2段目の本延伸を行った。
【0106】
その結果、単糸切れや延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は29m/分であり、全延伸倍率は2.90倍であった。そして、得られた延伸繊維は、繊度が0.171dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例10の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが117.2J/gであり、結晶化度は56.1%であった。また、実施例10の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、126.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:126.3℃)。
【0107】
<実施例11>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを20.0質量%、可塑剤IIを4.0質量%添加し、更にポリプロピレンより高融点を有するオレフィン系重合体としてポリメチルペンテンを12.0質量%添加した樹脂を用いた以外は、実施例1と同様の方法及び条件で、繊度0.45dTexの未延伸糸を紡糸した。その際、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは114.5g/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は6.5%であった。これは、再結晶化温度が208℃であるポリメチルペンテンが、再結晶化温度が110℃である主原料のアイソタクチックポリプロピレンよりも先に高い温度で固化したため、未延伸糸の形状が安定化し、繊度斑が低減したものと考えられる。
【0108】
(2)延伸繊維の作製
実施例1と同一の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、単糸切れや延伸切れを起こさずに、工業的に安定して延伸できる速度は590m/分、全延伸倍率は2.95倍であった。また、得られた延伸繊維は、繊度が0.168dTexであり、十分な繊維物性を有していた。この実施例11の延伸繊維は、未延伸糸の繊度斑が小さいため、延伸可能な倍率を低下させる必要がなく、細繊度化が可能であった。
【0109】
また、実施例11の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で250℃まで昇温し、測定した融解熱量ΔH
PPは102.0J/gで、結晶化度は48.8%であった。更に、実施例11の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、207.8℃にポリメチルペンテンによる再結晶化に伴う発熱ピークが、110.2℃にアイソタクチックポリプロピレンによる再結晶化に伴う発熱ピークがそれぞれ観察された(再結晶化温度207℃及び110.2℃)。
【0110】
<比較例1>
(1)未延伸糸の作製
樹脂に、主原料のみを用いた以外は、実施例1と同様の方法及び条件で未延伸糸を作製した。その結果、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂の溶融張力が高いため、安定紡糸可能な未延伸糸繊度は1.50dTexと太くなった。紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは69.6g/10分であった。また未延伸糸の繊度斑を表す変動率は21.2%と高かった。
【0111】
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)速度を150m/分にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、延伸処理を行った。その結果、(1)で作製した未延伸糸は繊度斑が大きかったため、高い延伸倍率が掛けられず、延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は360m/分、全延伸倍率は2.40倍に留まった。そして、比較例1の延伸繊維は、十分な繊維物性を有していたが、繊度は0.688Texと太いものであった。
【0112】
この比較例1の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが65.2J/g、結晶化度は31.2%であり、前述した各実施例よりも小さい値であった。また、比較例1の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、110.2℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:110.2℃)。
【0113】
<比較例2>
(1)未延伸糸の作製
樹脂に主原料のみを用い、紡糸後に一方向(横向き)冷却装置により、風速:6m/秒、風温:20℃の条件で冷却した以外は、実施例1と同様の方法及び条件で未延伸糸を作製した。その結果、一方向(横向き)冷却によって繊度斑が発生したため、安定紡糸可能な未延伸糸の繊度は2.00dTexと太くなった。また、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは69.6g/10分であり、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は30.7%と、前述した実施例に比べて高かった。これは、一定方向から冷却風を押し出す方法では、風の吹き出し口に近い糸は急冷されるが、離れた糸は徐冷されるため、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂の冷却状態が不均一となり、未延伸糸に繊度斑が発生したためと考えられる。
【0114】
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)速度を150m/分とした以外は、実施例1と同様の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、未延伸糸の繊度斑が大きく、高い延伸倍率が掛けられなかったため、延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は345m/分であり、全延伸倍率も2.30倍に留まった。得られた延伸繊維のは、十分な繊維物性を有していたが、繊度が0.957dTexと太いものであった。
【0115】
また、比較例2の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが61.9J/g、結晶化度は29.6%となり、前述した各実施例よりも小さい値であった。更に、比較例2の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、110.3℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:110.3℃)。
【0116】
<比較例3>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤Iを10.0質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、未延伸糸を作製した。その結果、比較例3は樹脂に固化促進剤が添加されていないため、実施例1に比べて、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂の繊度斑が大きく、安定紡糸可能な未延伸糸繊度は0.60dTexに留まった。また、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは84.5g/10分であった。
図4は比較例3の未延伸糸の断面を示す顕微鏡写真である。
図4に示すように、比較例3の未延伸糸は繊度にばらつきが見られ、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は24.1%と高かった。
【0117】
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)の速度を150m/分にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は382.5m/分、全延伸倍率は2.55倍であった。得られた延伸繊維は、十分な繊維物性を有していたが、繊度は0.259dTexと太かった。比較例3では、繊度斑によって未延伸繊維に細い繊維が作られ、延伸倍率はこの一番細い未延伸糸の延伸性に基づき決定されるため、最大延伸倍率が低下し、結果として延伸繊維の繊度が太くなったものと考えられる。
【0118】
また、この比較例3の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが70.4J/g、結晶化度は33.7%となり、前述した各実施例よりも小さい値であった。更に、比較例3の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、110.9℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:110.9℃)。
【0119】
<比較例4>
(1)未延伸糸の作製
主原料に、可塑剤IIを10.0質量%添加した樹脂を用いた以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で、未延伸糸を紡糸した。その結果、比較例4は樹脂に固化促進剤が添加されていないため、実施例1に比べて紡糸口金から吐出された繊維状樹脂の繊度斑が大きく、安定紡糸可能な未延伸糸繊度は0.60dTexに留まった。その際、紡糸口金から吐出された繊維状樹脂のMFRは85.1/10分であった。また、未延伸糸の繊度斑を表す変動率は23.8%と高かった。
【0120】
(2)延伸繊維の作製
導入ローラー(G1ローラー)の速度を150m/分にした以外は、前述した実施例1と同様の方法及び条件で延伸処理を行った。その結果、延伸切れを起こさず工業的に安定して延伸できる速度は375m/分、全延伸倍率は2.50倍であった。得られた延伸繊維は、十分な繊維物性を有していたが、0.264dTexと太かった。比較例4では、繊度斑によって未延伸繊維に細い繊維が作られ、延伸倍率はこの一番細い未延伸糸の延伸性に基づき決定されるため、最大延伸倍率が低下し、結果として延伸繊維の繊度が太くなったものと考えられる。
【0121】
また、この比較例4の延伸繊維は、DSCにより、昇温速度30℃/分で測定した融解熱量ΔH
PPが71.9J/g、結晶化度は34.4%であり、前述した各実施例よりも小さい値であった。更に、比較例4の延伸繊維を、DSC測定において、250℃まで昇温した後、降温速度10℃/分で室温まで降温したところ、110.7℃に再結晶化に伴う発熱ピークが観察された(再結晶化温度:110.7℃)。
【0122】
以上の結果を下記表1及び表2にまとめて示す。
【0123】
【表1】
【0124】
【表2】
【0125】
上記表1及び表2に示すように、実施例1〜11の製造方法は、比較例1〜4の製造方法に比べて未延伸糸の繊度斑を大幅に低減することが可能であるため、1紡糸あたりのフィラメント数が多い場合でも、高強度で低熱収縮率の細繊度延伸糸を安定して製造できることが確認された。