(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
主に鉄鋼材料が用いられる機械構造部材には、高い疲労強度が求められる。このような機械構造部材は、金属材料中に存在する非金属介在物が疲労破壊の起点となり易い。そのため、機械構造部材の疲労強度を向上させるために、金属材料中の非金属介在物の低減技術及び縮小技術と共に、非金属介在物の精確な評価技術が求められている。
【0003】
一方、最近の製鋼技術の進歩により、金属材料の清浄度は大幅に改善され、疲労強度に影響を与えるような大型非金属介在物の発生確率は非常に低くなったため、金属材料中の非金属介在物の検出が非常に困難となっている。ここで、金属材料の清浄度は非金属介在物の大きさによって判断されるため、上記非金属介在物の検出が困難となっていることにより、金属材料の清浄度の評価も困難となっている。
【0004】
このように金属材料の清浄度の評価が困難になっていることに対して、大型非金属介在物の発生確率が低い場合でも金属材料の清浄度を評価できる方法として、極値統計法を用いる方法が提案されている(例えば特開2001−141704号公報、特開2000−214142号公報、特開2012−73059号公報参照)。
【0005】
上記公報で提案されている極値統計法を用いる方法は、まず、検査対象の金属材料について、それぞれ体積V
0を有するn個の検査部位を設定し、各検査部位について非金属介在物を測定し、検査部位毎の最大非金属介在物寸法を求める。次に、上記方法は、n個の検査部位で求めた各最大非金属介在物寸法に基づいて、任意の体積Vを有する上記金属材料中に存在する最大の非金属介在物寸法を予測する。具体的には、n個の検査部位での昇順に並べた各最大非金属介在物寸法a
j(j=1、2、3、…、n)及び基準化変数y
j=−ln[−ln{j/(n+1)}]から作成される一次回帰式とy
max=−ln[−ln{V/(V+V
0)}]とから、任意の体積Vを有する金属材料中に存在する最大の非金属介在物寸法を予測する。上記各検査部位における非金属介在物の測定は、超音波探傷や超音波疲労試験などにより行う。
【0006】
ここで、上記各公報でも行われているように、極値統計法で用いる二重指数分布関数では、介在物寸法分布に関する確率密度が最大値付近の裾の領域において下記式(3)の指数関数によって近似されるという仮定が行われている。ここで、μは位置パラメータである。
【0007】
【数1】
【0008】
上記式(3)の指数関数の近似により、検査対象の金属材料における非金属介在物寸法の最大値の分布関数は下記式(4)で表現される。
【0009】
【数2】
【0010】
上記分布関数の対数を二度とった−ln[−ln{F(x)}]は、最大非金属介在物寸法xの一次式である。上記各公報では、この性質を利用して、任意の体積Vを有する金属材料中に存在する最大の非金属介在物寸法の予測を行っている。
【0011】
しかし、実際に得られた非金属介在物寸法分布に関する確率密度が上記式(3)の指数関数によって必ずしも精度よく近似されるとは限らない。つまり、−ln[−ln{F(x)}]で表される非金属介在物寸法xの一次式が、必ずしも精度よく非金属介在物寸法分布に近似するとは限らない。そのため、最大非金属介在物寸法xと基準化変数yとの間の線形性が低い場合、上記一次式により金属材料中に存在する最大の非金属介在物寸法を予測する方法では、予測値が実測値と大きく乖離する可能性がある。従って、従来の極値統計法を用いる清浄度の評価方法では、金属材料中の最大の非金属介在物寸法の予測値が実測値と大きく異なる場合があるため、金属材料の清浄度を精度よく評価できるとはいえない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、高精度の金属材料の清浄度評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、金属材料中の非金属介在物寸法分布に精度よく近似させるためには、極値統計法に基づく回帰式を二次以上とすべきことを見出した。
【0015】
図2は、従来の極値統計法に基づく一次回帰式を用いて金属材料中の推定最大非金属介在物寸法を求める場合の非金属介在物寸法と基準化変数との関係の一例である。
図2において、黒点のプロットは、各検査部位で測定された最大非金属介在物寸法である。また、実線は、各検査部位の最大非金属介在物寸法と基準化変数とから作成される一次回帰直線である。また、破線は、予測する金属材料の体積Vに対応する基準化変数y
maxである。この一次回帰直線及びy
maxより、a
max1が体積Vの金属材料中に存在する最大の非金属介在物寸法と予測される。しかし、
図2の黒点のプロットで示す各検査部位の最大非金属介在物寸法の分布から判断すると、a
max2の方が体積Vの金属材料中に存在する最大の非金属介在物寸法の予測値として妥当と考えられる。このように、従来の一次回帰直線に基づいて金属材料中に存在する最大の非金属介在物寸法を予測する方法では、予測値と実測値とが相違し、特に比較的体積の大きい領域中の最大値を予測する場合、予測値が実測値と大きく乖離する可能性がある。本発明者らは、上記各検査部位の最大非金属介在物寸法と基準化変数とから導出する回帰式を二次以上とすることで、最大非金属介在物寸法の分布に精度よく近似できることを見出した。
【0016】
すなわち、上記課題を解決するためになされた発明は、金属材料の清浄度を評価する方法であって、上記金属材料の任意のn個の検査部位における非金属介在物を測定する工程と、上記測定工程で得られた検査部位毎かつ昇順の最大非金属介在物寸法a
j(j=1〜n)及び基準化変数y
jに基づき下記式(1)のm次回帰式を導出する工程と、上記導出工程で得られた下記式(1)のm次回帰式及び下記式(2)に基づき上記金属材料中の推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出する工程と、上記算出工程で得られた推定最大非金属介在物寸法a
maxにより上記金属材料の清浄度を評価する工程とを備えることを特徴とする清浄度評価方法である。
y
j=f
m(a
j) ・・・(1)
f
m(a
max)=y
max ・・・(2)
上記式(1)及び(2)において、y
jは、−ln[−ln{j/(n+1)}](j=1〜n)である。y
maxは、−ln[−ln{(T−1)/T}]である。Tは、検査基準体積をV
0、推定最大非金属介在物寸法a
maxの予測を行う体積をVとしたとき(V+V
0)/V
0で表される再帰期間である。mは、2以上の整数である。
【0017】
当該清浄度評価方法は、複数の検査部位毎の最大非金属介在物寸法a
j及び基準化変数y
jに基づいて導出した二次以上の回帰式を用いて金属材料中の推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出する。当該清浄度評価方法は、このように上記二次以上の回帰式を用いることで非金属介在物寸法の最大値の分布を精度よく近似し、実測値に近い推定最大非金属介在物寸法a
maxが得られる。これにより、当該清浄度評価方法は、金属材料の清浄度を高精度で評価できる。ここで、「非金属介在物」とは、金属材料の凝固過程において金属材料中に析出又は巻き込まれる非金属性の介在物を意味し、例えば硫化マンガン(MnS)等の硫化物系、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、二酸化ケイ素(SiO
2)等の酸化物系、窒化チタン(TiN)等の窒化物系などの介在物である。また、「非金属介在物寸法」とは、非金属介在物の投影面積で表される大きさを意味し、投影面積のほか、例えば投影面積と等面積の真円の直径、投影面積の1/2乗値(√area)などが含まれる。
【0018】
上記導出工程の最大非金属介在物寸法a
jとして、検査部位毎の複数の非金属介在物寸法から異常値を除去したものを用いるとよい。このように、導出工程において検査部位毎の複数の非金属介在物寸法から異常値を除去したものを最大非金属介在物寸法a
jとして用いることで、実際の非金属介在物寸法の最大値の分布に近似するm次回帰式の精度を向上できるので、より実測値に近い推定最大非金属介在物寸法a
maxが得られる。その結果、より高精度に金属材料の清浄度が評価できる。ここで、「異常値」とは、上記測定工程で非金属介在物以外のものが非金属介在物と判断されて非金属介在物寸法として測定された値を意味し、例えば超音波探傷による測定において、非金属介在物でない空洞からの反射波や外からの飛び込み乱反射ノイズなどが非金属介在物として測定されて得られるような値である。
【0019】
上記算出工程で解がない場合、上記m次回帰式の次数を下げて上記導出工程及び算出工程を行うとよい。このように、算出工程で解がない場合に上記m次回帰式の次数を下げて導出工程及び算出工程を行うことで、算出される推定最大非金属介在物寸法a
maxにより金属材料の清浄度を評価できる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の清浄度評価方法によれば、金属材料の清浄度を高精度で評価することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る金属材料の清浄度評価方法の実施形態について説明する。
【0023】
当該清浄度評価方法は、金属材料の任意のn個の検査部位における非金属介在物を測定する工程(測定工程)と、上記測定工程で得られた検査部位毎かつ昇順の最大非金属介在物寸法a
j(j=1〜n)及び基準化変数y
jに基づき下記式(1)のm次回帰式を導出する工程(導出工程)と、上記導出工程で得られた下記式(1)のm次回帰式及び下記式(2)に基づき上記金属材料中の推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出する工程(算出工程)と、上記算出工程で得られた推定最大非金属介在物寸法a
maxにより上記金属材料の清浄度を評価する工程(評価工程)とを備える。
y
j=f
m(a
j) ・・・(1)
f
m(a
max)=y
max ・・・(2)
上記式(1)及び(2)において、y
jは、−ln[−ln{j/(n+1)}](j=1〜n)である。y
maxは、−ln[−ln{(T−1)/T}]である。Tは、検査基準体積をV
0、推定最大非金属介在物寸法a
maxの予測を行う体積をVとしたとき(V+V
0)/V
0で表される再帰期間である。mは、2以上の整数である。
【0024】
<測定工程>
測定工程では、検査対象の金属材料にn個の検査部位を設定し、各検査部位に含まれる非金属介在物の大きさを測定する。
【0025】
当該清浄度評価方法で清浄度を評価できる金属材料として、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、銀(Ag)、金(Au)、これらの合金、マグネシウム(Mg)合金、クロム(Cr)合金等が挙げられる。
【0026】
上記測定工程における測定方法としては、金属材料中の非金属介在物を測定できる方法であれば特に制限はなく、超音波探傷による測定方法、超音波疲労試験による測定方法、電子顕微鏡観察による測定方法などを用いることができる。これらの中でも、基本的に非破壊検査法であり、迅速に検査できる点において超音波探傷による測定が好ましい。
【0027】
上記測定工程では、金属材料の所定部分に、非金属介在物を測定する任意のn個の検査部位を設定する。ここで、測定工程における測定は、金属材料から検査部位を切り出して行ってもよく、金属材料から切り出しをせずに設定した検査部位の領域に対して行ってもよい。
【0028】
金属材料に設定する検査部位の個数nとしては、統計計算的に5以上100以下が好ましい。
【0029】
検査部位を切り出して測定する場合、検査部位として同じサイズの直方体形状の検査試料を切り出すことが好ましい。このように同一形状の検査試料を切り出すことで、連続検査及び自動測定がし易くなる。
【0030】
V
0としては、1mm
3以上400000mm
3以下が好ましい。V
0が上記下限に満たないと、測定する検査部位が小さすぎ、検査部位における非金属介在物の検出精度が低下するおそれがある。逆に、V
0が上記上限を超えると、検査部位が大きくなりすぎ、検査部位における非金属介在物の測定が困難となるおそれがある。
【0031】
また、二次元観察の場合は、検査基準面積としては、1mm
2以上10000mm
2以下が好ましい。上記検査基準面積が上記下限に満たないと、測定する検査部位が小さすぎ、検査部位における非金属介在物の検出精度が低下するおそれがある。逆に、上記検査基準面積が上記上限を超えると、検査部位が大きくなりすぎ、検査部位における非金属介在物の測定が困難となるおそれがある。
【0032】
V/V
0としては、10以上10000以下が好ましい。V/V
0が上記下限に満たないと、金属材料の体積Vにおける最大非金属介在物寸法が容易に実測できるので、上記最大非金属介在物寸法a
maxを予測するメリットが得られ難い。逆に、V/V
0が上記上限を超えると、予測する最大非金属介在物寸法a
maxの精度が低下するおそれがある。
【0033】
また、複数の検査部位は、検査対象の金属材料の外周部及び中心部のそれぞれに設定することが好ましい。これは、鋼材において、一般に中心部は最終凝固位置であり、非金属介在物の濃化溶鋼への排出及び非金属介在物の沈降量が多いため、このように中心部及び外周部を検査することによって、大型の非金属介在物の検出率を向上させることができるからである。その結果、清浄度評価の精度をより向上させることができる。
【0034】
なお、鋳造した金属材料は、一般的に微細な空洞が無数にあるため、超音波探傷法により走査する場合、上記空洞による無数の乱反射やノイズが発生し、正常に測定できないことがある。そのため、鋳造した金属材料を評価対象とし、測定工程で超音波探傷法を用いる場合、検査部位の測定前に、検査部位を含む金属材料を圧延又は鍛造することが好ましい。このように検査対象の金属材料を圧延又は鍛造することで、金属材料の圧着により上記空洞が消滅するので、超音波探傷法による上記検査部位の正常な測定ができる。
【0035】
<導出工程>
導出工程では、上記測定工程で得られた測定結果より検査部位毎の最大非金属介在物寸法を抽出し、これらの抽出した最大非金属介在物寸法を昇順に並べ、この昇順に並べた最大非金属介在物寸法a
j(j=1〜n)と、基準化変数y
j=−ln[−ln{j/(n+1)}]とから、y
jを従属変数、a
jを独立変数とする下記式(1)のm次回帰式を導出する。このm次回帰式は、一次以上の回帰式の導出ができる例えば最小二乗法や最尤法などの公知の方法を用いて導出できる。ここで、m及びnは、2以上の整数である。従って、下記式(1)は、二次以上の回帰式である。
y
j=f
m(a
j) ・・・(1)
【0036】
このように導出工程で二次以上の回帰式を導出することで、この回帰式により非金属介在物寸法の最大値の分布を精度よく近似することができる。
【0037】
検査部位毎の最大非金属介在物寸法を抽出する際、検査部位毎の複数の非金属介在物寸法から異常値を除去し、異常値を除去したものの中から上記最大非金属介在物寸法を抽出することが好ましい。これは、上記測定工程で非金属介在物以外のものが非金属介在物と判断されて非金属介在物寸法として測定される場合があるためである。例えば超音波探傷による測定において、非金属介在物でない空洞からの反射波や外からの飛び込み乱反射ノイズなどが非金属介在物として測定される場合がある。これに対し、このように導出工程で検査部位毎の複数の非金属介在物寸法から異常値を除去することで、非金属介在物でない欠陥からのデータを省くことができ、実際の非金属介在物寸法の最大値の分布にさらに精度よく近似するm次回帰式が導出できる。例えば超音波探傷では、異常値と正常値との波形が異なるので、波形によって容易に異常値を除去することができる。
【0038】
<算出工程>
算出工程では、上記導出工程で得られた上記式(1)のm次回帰式と下記式(2)との解を求め、体積Vの金属材料中の予測される最大非金属介在物寸法a
maxを算出する。
f
m(a
max)=y
max ・・・(2)
【0039】
上記式(2)において、y
maxは、−ln[−ln{(T−1)/T}]である。また、Tは、各検査部位の体積である検査基準体積をV
0、推定最大非金属介在物寸法a
maxの予測を行う体積をVとしたとき、(V+V
0)/V
0で表される再帰期間である。
【0040】
<評価工程>
評価工程では、上記算出工程で得られた上記推定最大非金属介在物寸法a
maxにより上記金属材料の清浄度を評価する。
【0041】
上述したように非金属介在物寸法の最大値の分布に精度よく近似できるm次回帰式が上記導出工程で導出され、上記算出工程でこのm次回帰式に基づいて推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出するので、実測値に近似した推定最大非金属介在物寸法a
maxが得られる。評価工程では、この実測値に近似した推定最大非金属介在物寸法a
maxの大きさにより金属材料の清浄度を判断する。その結果、高精度で金属材料の清浄度が評価できる。
【0042】
<利点>
当該清浄度評価方法は、複数の検査部位毎の最大非金属介在物寸法a
j及び基準化変数y
jに基づいて導出した二次以上の回帰式を用いて金属材料中の推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出する。当該清浄度評価方法は、このように二次以上の回帰式を用いることで非金属介在物寸法の最大値の分布を精度よく近似し、実測値に近い推定最大非金属介在物寸法a
maxが得られる。これにより、当該清浄度評価方法は、金属材料の清浄度を高精度で評価できる。
【0043】
〔その他の実施形態〕
なお、本発明の清浄度評価方法は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0044】
つまり、上記実施形態の算出工程において、上記式(1)のm次回帰式と上記式(2)とから推定最大非金属介在物寸法a
maxの解が得られない場合、上記m次回帰式の次数を下げて上記導出工程及び算出工程を行ってもよい。例えば三次回帰式を用いて上記推定最大非金属介在物寸法a
maxの解が得られない場合、上記導出工程で二次回帰式を導出し直し、算出工程でこの二次回帰式を用いて推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出してもよい。このように上記式(1)のm次回帰式と上記式(2)とから解が得られない場合に、順次次数を下げた回帰式を用いて推定最大非金属介在物寸法a
maxを得ることで、金属材料の清浄度を評価できる。
【0045】
また、上記実施形態の算出工程において、上記式(1)のm次回帰式と上記式(2)とから推定最大非金属介在物寸法a
maxの解が得られない場合、上記m次回帰式のm次の係数の絶対値を小さくして上記導出工程及び算出工程を行ってもよい。例えば三次回帰式を用いて上記推定最大非金属介在物寸法a
maxの解が得られない場合、上記導出工程で三次の係数の絶対値を小さくした三次回帰式を導出し直し、算出工程でこの導出し直した三次回帰式を用いて推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出してもよい。このように、算出工程で解がない場合にm次回帰式の高次の係数の絶対値を順次小さくして導出工程及び算出工程を行って推定最大非金属介在物寸法a
maxを得ることで、金属材料の清浄度を評価できる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
<清浄度評価>
まず、検査対象の金属材料として、大きな非金属介在物を発生させるために硫黄(S)を0.03ppm含有させた軸系鍛鋼品を製鋼した。次に、この軸系鍛鋼品の軸端から切り出した調査試験片により清浄度の評価を行った。この調査試験片から検査面が114mm×14mmとなる検査材を採取し、超音波探傷により非金属介在物寸法寸法の測定を行った。この超音波探傷による測定では、超音波により検査材の表面から深さ0.49mmと深さ1.54mmとの間の領域の測定を行った。従って、全検査体積Vは、114mm×14mm×1.05mm=1675.8mm
3である。
【0048】
上記超音波探傷での非金属介在物の測定工程では、超音波を検査材に照射し、その反射波の受信タイミングで非金属介在物の存在を検出した。また、補正係数により、非金属介在物からの反射波の大きさを非金属介在物寸法に換算した。ここでは、非金属介在物の面積を1/2乗した√areaを非金属介在物寸法aとした。具体的には、検査材に照射したパルスの高さに対する非金属介在物からの反射波の高さをh
1[%]とし、下記式(5)によりこのh
1[%]を非金属介在物寸法a(√area)[μm]に変換した。下記式(5)において、h
2は検出深さ[mm]であり、dは検査材の表面から検査材内で超音波の焦点が合う位置までの距離[mm]である。なお、この超音波探傷での測定では、焦点型探触子として125MHzのものを使用した。また、検査範囲を14mm×27mmの領域とし、各検査部位の体積V
0を14mm×0.5mm×1.05mm=7.35mm
3として、n=54個の検査部位について上記測定を行った。
a=1.7×{h
1+62.5×|h
2−d|}+17.6 ・・・(5)
【0049】
次に、上記測定工程で得た非金属介在物寸法aを用いて導出工程を行った。具体的には、まず、検査部位毎の最大非金属介在物寸法a
jを抽出して昇順に並べた。No.1〜No.54の各検査部位での最大非金属介在物寸法a
j及び基準化変数y
jを表1に示す。なお、最大非金属介在物寸法a
jの昇順にNo.1〜No.54の検査部位としている。
【0050】
【表1】
【0051】
また、各検査部位での最大非金属介在物寸法a
jと基準化変数y
jとの関係を
図1に示す。
図1において、白丸のプロットは、各検査部位での最大非金属介在物寸法a
jを示す。次に、これらの最大非金属介在物寸法a
j及び基準化変数y
jより、最小二乗法を用いて最大非金属介在物寸法と基準化変数との関係を示す下記式(6)の二次回帰式を導出した。
図1中の破線は、この二次回帰式による最大非金属介在物寸法a
jと基準化変数y
jとの関係を示す二次回帰曲線であり、これを実施例の回帰曲線とした。
y
j=0.000143a
j2+0.005537a
j−2.219899 ・・・(6)
【0052】
また、上記最大非金属介在物寸法a
j及び基準化変数y
jより、最小二乗法を用いて最大非金属介在物寸法と基準化変数との関係を示す下記式(7)の一次回帰式を導出した。
図1中の実線は、この一次回帰式による最大非金属介在物寸法a
jと基準化変数y
jとの関係を示す一次回帰直線であり、これを比較例の回帰直線とした。
y
j=0.040207a
j−4.206282 ・・・(7)
【0053】
なお、実施例の二次回帰曲線の決定係数R
2は、0.993であり、比較例の一次回帰直線の決定係数R
2は、0.973であった。
【0054】
次に、算出工程により、検査材の全検査体積V中の推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出した。具体的には、全検査体積V及び検査部位の体積V
0より全検査体積Vに対する基準化変数y
maxが5.43と算出されるので、この基準化変数y
maxの値を上記式(6)の二次回帰式に代入して推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出した。この二次回帰式により得られた推定最大非金属介在物寸法a
maxは、212.8μmであった。一方、上記式(7)の一次回帰式に上記基準化変数y
maxの値を代入して推定最大非金属介在物寸法a
maxを算出したところ、239.7μmと算出された。
【0055】
その後、上記検査材の全検査体積領域を超音波探傷にて測定したところ、全検査体積V中の最大非金属介在物寸法a
maxは、212μmであった。
【0056】
<評価結果>
比較例の一次回帰式から算出される推定最大非金属介在物寸法a
maxが、実測値よりも約28μm大きい値となったのに対し、実施例の二次回帰式から算出される推定最大非金属介在物寸法a
maxは、実測値との差が1μm未満であり、実施例では実測値に近似した値が得られたことがわかる。これにより、二次以上の回帰式を用いることで、精度よく実測値に近い金属材料中の最大非金属介在物寸法を算出でき、金属材料の清浄度の評価が高精度にできるといえる。
【0057】
また、回帰分析における決定係数R
2は、比較例の一次回帰式よりも実施例の二次回帰式の方が大きく、この点からも、実施例の方がより実測値に近似できているといえる。
【0058】
なお、この実施例では、検査対象の金属材料として鋼材を例として用いたが、本発明は鋼材に限らず各種金属材料に広く適用できるものである。また、この実施例では、介在物寸法の最大値の分布に近似させる回帰式として二次回帰式を用いたが、三次以上の回帰式を用いてもよい。