特許第6402113号(P6402113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402113
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】反射率可変素子および該素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
   G02F1/15 508
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-553471(P2015-553471)
(86)(22)【出願日】2014年12月4日
(86)【国際出願番号】JP2014082085
(87)【国際公開番号】WO2015093298
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年8月8日
(31)【優先権主張番号】特願2013-263071(P2013-263071)
(32)【優先日】2013年12月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000148689
【氏名又は名称】株式会社村上開明堂
(74)【代理人】
【識別番号】100090228
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】持塚多久男
【審査官】 横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−199581(JP,A)
【文献】 特開平09−297324(JP,A)
【文献】 特開2001−059980(JP,A)
【文献】 特開2010−002573(JP,A)
【文献】 特開2009−020270(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00794453(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙を隔てて配置された電極対と、前記空隙に充填された電解液とを具備し、
前記電解液は、メタノールよりも高沸点の非水溶媒および該非水溶媒よりも含有重量が少ないメタノールを含有する、非水溶媒で構成される溶媒中に、少なくとも銀イオンおよび該銀イオンよりも含有重量が少ない銅イオンを含む組成を有し、
メタノールよりも高沸点の前記非水溶媒が、炭酸プロピレンを最も含有重量が多い成分とするものであり、
前記電極対間の電場の変化に応じて、前記電解液中の銀イオンおよび銅イオンが一方の電極の表面に移動して、該電極の表面に銀および銅を析出させて、該電極の表面部の反射率を上昇させた状態と、該電極の表面から銀および銅を離脱させて該電極の表面部の反射率を低下させた状態とに変化して、該電極の表面部の反射率を可逆的に変化させる素子。
【請求項2】
前記銀イオンが硝酸銀から生じたものである請求項1に記載の素子。
【請求項3】
前記銅イオンが塩化銅から生じたものである請求項1または2に記載の素子。
【請求項4】
前記銀および銅の析出により構成される反射面が鏡面を構成する請求項1から3のいずれか1つに記載の素子。
【請求項5】
前記電極対が、前記空隙を隔てて対向配置された2枚の透明基板の対向面にそれぞれ配置された透明導電膜を有し、該素子がカメラ用調光フィルターを構成する請求項1から3のいずれか1つに記載の素子。
【請求項6】
前記空隙の隙間距離が100μm以上、1mm以下である請求項1からのいずれか1つに記載の素子。
【請求項7】
前記電解液にポリマーを添加してなる請求項1からのいずれか1つに記載の素子。
【請求項8】
銀の金属塩を脱水メタノールに溶解して銀塩−メタノール溶液を作成する工程と、銅の金属塩を脱水メタノールに溶解して銅金属塩−メタノール溶液を作成する工程と、前記銀塩−メタノール溶液および前記銅金属塩−メタノール溶液を、メタノールよりも高沸点で該銀塩−メタノール溶液および該銅金属塩−メタノール溶液の合計量よりも重量が多い非水溶媒に混合する工程と、前記銀塩−メタノール溶液および前記銅金属塩−メタノール溶液が混合される前または後の前記非水溶媒に支持電解質を溶解する工程とを有して電解液を作成する電解液作成工程と、
前記作成された電解液を電極対の間の空隙に充填する充填工程とを具備してなり、
メタノールよりも高沸点の前記非水溶媒が、炭酸プロピレンを最も含有重量が多い成分とするものであり、
前記電極対間の電場の変化に応じて、前記電解液中の銀イオンおよび銅イオンが一方の電極の表面に移動して、該電極の表面に銀および銅を析出させて、該電極の表面部の反射率を上昇させた状態と、該電極の表面から銀および銅を離脱させて該電極の表面部の反射率を低下させた状態とに変化して、該電極の表面部の反射率を可逆的に変化させる素子を製造する方法。
【請求項9】
前記銀の金属塩が硝酸銀である請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、反射率を可逆的に変化させる素子および該素子の製造方法に関する。特に、この発明は、銀の化合物を非水溶媒に溶解して電解液を作成して、銀を含む析出層を有する反射面(鏡面または拡散反射面)を形成する、低温耐性が高い反射率可変素子を実現したものである。
【背景技術】
【0002】
電極対を対向配置した空隙に、金属イオンを分散させた電解液を充填した反射率可変素子として、特許文献1〜3および非特許文献1に記載されたものがあった。この反射率可変素子は、該電極対間に電圧を印加することにより、電解液中の金属イオンを一方の電極に移動させて、該電極に該金属を析出させ、この状態から該電極対間の電圧印加を解除しまたは逆電圧を印加することにより、該電極から該金属イオンを離脱させることを可能にしたものである。
【0003】
特許文献1および非特許文献1に記載の素子は、DMSO(ジメチルスルホキシド)を溶媒としたものである。この素子では、この溶媒にエレクトロクロミック材料としてAgNO3、支持電解質としてTBABr、メディエータとしてCuCl2をそれぞれ溶解して電解液が作成され、この電解液にポリマーとしてPVB(ポリビニルブチラール)が添加されている。
【0004】
特許文献2に記載の素子は、DMSOと他の溶媒との混合溶媒を使用し、この混合溶媒にAgF、AgCl、AgBr、AgI、AgSCNなどの銀の金属塩を溶解して電解液が作成されている。
【0005】
特許文献3に記載の素子は、脱水メタノールにNiCl2を溶解し、この溶液をテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート−プロピレンカーボネート溶液に混合し、この混合溶液にフェロセンを添加して電解液が作成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−181389号公報
【特許文献2】特開平10−133236号公報
【特許文献3】特開2010−002573号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「Electrochemical Optical-Modulation Device with Reversible Transformation Between Transparent, Mirror, and Black」, Advanced Materials, Volume 24, Issue 23, pages OP122-OP126, June 19, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
銀を含む析出層で構成される反射面を出現させる薄型の反射率可変素子を成立させるためには、銀の化合物を非水溶媒に、該反射面を出現させるのに十分な濃度で溶解して電解液を作成する必要がある。
【0009】
特許文献1および非特許文献1に記載の素子によれば、銀を含む析出層で構成される反射面を出現させる薄型の反射率可変素子が成立可能である。しかし、この素子で溶媒として使用されているDMSOは融点が19℃と高い。このため、この素子は、使用環境が19℃を下回ると、溶質である一旦溶けた金属塩が析出してしまう。家電、自動車等の工業製品は−30℃程度の低温環境で使用されることがあり、溶媒としてDMSOを使った反射率可変素子を備えた工業製品をこのような低温環境下で使用すると、反射率の調整ができなくなってしまうといった問題があった。
【0010】
特許文献2に記載の素子は、低温耐性を改善するために、炭酸プロピレン等の低融点・高沸点溶媒をDMSOに混合した混合溶媒を使用している。しかし、この素子は依然としてDMSOを使用するため、使用環境によっては低温耐性が不十分となる可能性があった。
【0011】
特許文献3に記載の素子はDMSOを使用せずに反射率可変素子を構成している。しかし、特許文献3に具体的に開示されている反射率可変素子は、NiCl2およびフェロセンを溶質として電解液を作成したものである。フェロセンを使用すると電解液が黄色となるため、用途によってはこの素子は使用できない。特許文献3には金属イオンを形成する金属の一種として銀も挙げられているが、具体的にどのような電解液組成により、またどのような電解液作成工程により、銀を含む析出層で構成される反射面を出現させる、低温耐性が高い薄型の反射率可変素子が成立可能なのかについては開示されていない。
【0012】
この発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、銀の化合物を非水溶媒に溶解して電解液を作成して、銀を含む析出層を有する反射面を形成する、低温耐性が高い反射率可変素子を実現しようとするものである。またこの発明は、この発明の素子の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の反射率可変素子は、空隙を隔てて配置された電極対と、前記空隙に充填された電解液とを具備し、前記電解液は、メタノールよりも高沸点の非水溶媒および該非水溶媒よりも含有重量が少ないメタノールを含有する、非水溶媒で構成される溶媒中に、少なくとも銀イオンおよび該銀イオンよりも含有重量が少ない銅イオンを含む組成を有し、前記電極対間の電場の変化に応じて、前記電解液中の銀イオンおよび銅イオンが一方の電極の表面に移動して、該電極の表面に銀および銅を析出させて、該電極の表面部の反射率を上昇させた状態と、該電極の表面から銀および銅を離脱させて該電極の表面部の反射率を低下させた状態とに変化して、該電極の表面部の反射率を可逆的に変化させるものである。この素子によれば、実質的にDMSOを使用せずに、銀の化合物を非水溶媒に溶解して電解液を作成して、銀を含む析出層を有する反射面(鏡面または拡散反射面)を形成する、低温耐性が高い反射率可変素子を成立させることができる。
【0014】
この発明の反射率可変素子は、前記銀イオンが銀の金属塩から生じたものとすることができる。この場合、銀の金属塩は例えば硝酸銀とすることができる。硝酸銀を使用することにより、銀を十分な濃度で非水溶媒に溶解することが可能になり、薄型の反射率可変素子を成立させることができる。硝酸銀を使用して鏡面を構成する場合、電解液全体に占める硝酸銀の含有量は0.5wt%以上であることが望ましい。すなわち、硝酸銀の含有量が0.5wt%未満であると、薄型の素子では鏡面を構成しにくい。硝酸銀の含有量が0.5wt%以上であれば、薄型の素子でも鏡面を構成できる。硝酸銀の含有量が0.55wt%あれば、薄型の素子でも十分な反射率を有する鏡面を構成できる。硝酸銀の含有量が0.55wt%よりも多くなると、反射率の上昇はあまり期待できず、むしろ高価な硝酸銀を無駄に使用することになる。
【0015】
この発明の反射率可変素子は、前記銅イオンが銅の金属塩から生じたものとすることができる。これによれば、銅の金属塩を使用することにより、反射率可変素子を成立させることができる。この場合、銅の金属塩は例えば塩化銅とすることができる。
【0016】
この発明の反射率可変素子は、メタノールよりも高沸点の前記非水溶媒として、例えば炭酸プロピレンまたはγ−ブチロラクトンを用いることができる。これによれば、DMSOよりも融点が低い炭酸プロピレンまたはγ−ブチロラクトンを使用することにより、低温耐性が良好な反射率可変素子を成立させることができる。
【0017】
この発明の反射率可変素子は、前記空隙の隙間距離を例えば100μm以上、1mm以下とすることができる。これによれば、薄型の反射率可変素子を成立させることができる。
【0018】
この発明の反射率可変素子は、前記電解液にポリマーを添加することができる。これによれば、電解液にポリマーを添加することにより、電解液の粘度が増加し、素子が破損した際に電解液が飛散するのを防止することができる。
【0019】
この発明の反射率可変素子の製造方法は、銀の金属塩をメタノールに溶解して銀塩−メタノール溶液を作成する工程と、銅の金属塩をメタノールに溶解して銅金属塩−メタノール溶液を作成する工程と、前記銀塩−メタノール溶液および前記銅金属塩−メタノール溶液を、メタノールよりも高沸点で該銀塩−メタノール溶液および該銅金属塩−メタノール溶液の合計量よりも重量が多い非水溶媒に混合する工程と、前記銀塩−メタノール溶液および前記銅金属塩−メタノール溶液が混合される前または後の前記非水溶媒に支持電解質を溶解する工程とを有して電解液を作成する電解液作成工程と、前記作成された電解液を電極対の間の空隙に充填する充填工程とを具備してなり、前記電極対間の電場の変化に応じて、前記電解液中の銀イオンおよび銅イオンが一方の電極の表面に移動して、該電極の表面に銀および銅を析出させて、該電極の表面部の反射率を上昇させた状態と、該電極の表面から銀および銅を離脱させて該電極の表面部の反射率を低下させた状態とに変化して、該電極の表面部の反射率を可逆的に変化させる素子を製造する方法である。この発明の方法によれば、この発明の反射率可変素子を製造することができる。
【0020】
この発明の反射率可変素子の製造方法は、前記銀の金属塩が硝酸銀であるものとすることができる。これによれば、硝酸銀を使用してこの発明の反射率可変素子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】この発明による鏡面反射(正反射)透過型反射率可変素子の実施の形態を示す模式断面図と電気回路図で、両電極間を短絡したときの状態を示す図である。
図2図1の反射率可変素子において両電極間に電圧を印加したときの状態を示す図である。
図3図1の反射率可変素子の電極対間に電圧を印加したときおよび電圧を印加した後に電極対間を短絡したときの透過率の時間変化特性を示す線図である。
図4】この発明による鏡面反射非透過型反射率可変素子の実施の形態を示す模式断面図と電気回路図で、両電極間を短絡したときの状態を示す図である。
図5図4の反射率可変素子において両電極間に電圧を印加したときの状態を示す図である。
図6】この発明による拡散反射透過型反射率可変素子の実施の形態を示す模式断面図と電気回路図で、両電極間を短絡したときの状態を示す図である。
図7図6の反射率可変素子において両電極間に電圧を印加したときの状態を示す図である。
図8図1の鏡面反射透過型素子の或る試料について測定した透過率の時間変化特性を示す線図である。
図9図1の鏡面反射透過型素子の或る試料について測定した透過率の分光特性を示す線図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
《実施の形態1(鏡面反射透過型素子)》
この発明の反射率可変素子を薄型の鏡面反射透過型反射率可変素子(反射面が鏡面を構成し、かつ反射率が低いときに厚み方向に透過性である反射率可変素子)として構成した実施の形態を以下説明する。図1において鏡面反射透過型反射率可変素子10(以下「鏡面反射透過型素子10」)は空隙12を隔てて対向配置されたガラス製または樹脂製の2枚の透明基板14,16を具えている。透明基板14,16のそれぞれの面は平滑である。透明基板14,16の対向面には電極対を構成する透明導電膜18,20がそれぞれ成膜形成されている。透明導電膜18,20は例えばITO(酸化インジウム・スズ)、酸化スズ、酸化亜鉛等で構成される。空隙12には電解液22が充填されている。空隙12の周囲はシール材24で封止されている。電解液22は炭酸プロピレンを主成分(最も含有重量が多い成分)とし、メタノールを副成分(主成分よりも含有重量が少ない成分)として含有する非水溶媒に、溶質として、AgNO3(硝酸銀)、CuCl2(塩化第二銅)、支持電解質のLiBrをそれぞれ溶解して構成されている。電解液22中の硝酸銀の含有重量は塩化第二銅の含有重量よりも多い。電解液22には増粘剤としてポリプロピレン、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート等のポリマーを添加することができる。透明導電膜18,20にはリード線32,34の一端部がそれぞれ接続されている。リード線32,34の他端部間にはスイッチ36と直流電源38による直列接続回路が接続されている。またリード線32,34間にはスイッチ40が、スイッチ36と直流電源38による直列接続回路と並列に接続されている。スイッチ36,40は相互に連動して互いに逆方向にオン、オフ切り換えされる。
【0023】
以上の構成の鏡面反射透過型素子10の動作を説明する。図1のようにスイッチ36がオフし、スイッチ40がオンしているときは透明導電膜18,20間は短絡状態となり、透明導電膜18,20間に電場は生じない。したがって電解液22中で金属陽イオンAg+、Cu2+、陰イオンNO3-、Cl-は分散した状態にある。このとき電解液22はほぼ無色透明であり、鏡面反射透過型素子10は透明基板14から透明基板16に至るまで厚み方向全体がほぼ無色透明である(透明導電膜18,20の色が若干生じる場合がある)。
【0024】
図1の状態から図2のようにスイッチ36をオンし、スイッチ40をオフすると直流電源38の電圧が透明導電膜18,20間に印加され(透明導電膜18を正電極、透明導電膜20を負電極とする)、透明導電膜18,20間に電場が生じる。この電場により電解液22中の金属陽イオンAg+、Cu2+は負電極20の表面に移動して還元される。その結果、負電極20の表面に銀を主成分とし、副成分として少量の銅が混在する析出層(鏡面反射層)26が析出して、析出層26による反射面(鏡面)26aを出現させる。これにより鏡面反射透過型素子10は反射率(主に鏡面反射による反射率)が増大し、透過率が減少してミラーまたはハーフミラーとなる。透明導電膜18,20間に印加する電圧を段階的にまたは無段階に可変できるようにして、反射率、透過率を段階的にまたは無段階に調整可能にすることもできる。あるいは透明導電膜18,20間に印加する電圧を、直流電圧(所望の最高反射率または最低透過率を実現する大きさの直流電圧)をパルス幅変調した電圧とし、このパルス幅変調のパルスのデューティ比を段階的にまたは無段階に可変できるようにして、反射率、透過率を段階的にまたは無段階に調整可能にすることもできる。なお、鏡面反射透過型素子10は、図2の鏡面反射透過型素子10の右側(透明基板16側)から入射する光Laを、析出層26を右側から見た鏡面26aで反射する素子として利用することができる。このほか、鏡面反射透過型素子10は、鏡面反射透過型素子10の左側(透明基板14側)から入射する光Lbを、析出層26を左側から見た鏡面26bで反射する素子として利用することもできる。さらには、鏡面反射透過型素子10は、鏡面反射透過型素子10の左右両側から入射する光を左右の鏡面26a,26bで反射する素子として利用することもできる。
【0025】
図2の状態から再び図1のようにスイッチ36をオフし、スイッチ40をオンすると透明導電膜18,20間が短絡し、透明導電膜18,20間の電場が消失する。これにより、析出層26を形成していた銀および銅は酸化されて、負電極20の表面から離脱して、金属陽イオンAg+、Cu2+となって、再び電解液22中に分散する。析出層26が、主成分の銀に銅を混在して構成されているため、このような離脱が可能となる。その結果、鏡面反射透過型素子10は反射率が低下し、透過率が増大して元の透明な状態に戻る。なお両電極18,20間を短絡するのに代えて、両電極18,20間を開放することもできる。すなわち両電極18,20間を開放すると、両電極18,20間の電場が消失するので、金属陽イオンAg+、Cu2+を負電極20から離脱させて、鏡面反射透過型素子10を元の透明な状態に戻すことができる。すなわち、図2の状態からスイッチ36,40を共にオフして両電極18,20間を開放すると、鏡面反射透過型素子10は、両電極18,20間を短絡した場合に比べて緩やかな速度で反射率が低下し、透過率が増大して元の透明な状態に戻る。図8は鏡面反射透過型素子10の或る試料について、透過率をほぼ0%まで低下させることができる大きさの直流電圧を印加して測定した透過率の時間変化特性を示す。特性I,II,IIIはそれぞれ次を示す。
・特性I:初期透過率が約77%(透過率の数値は波長550nmにおける値を示す。以下同じ)の状態から両電極18,20間に直流電圧を印加して、透過率が7%まで低下したところで両電極18,20間を短絡したときの特性
・特性II:初期透過率が約77%の状態から両電極18,20間に、特性Iを測定したときと同じ直流電圧を印加して、透過率が7%まで低下したところで両電極18,20間を開放したときの特性
・特性III:初期透過率が約77%の状態から両電極18,20間に、特性I,IIを測定したときと同じ直流電圧を印加して、透過率が35%まで低下したところで両電極18,20間を開放したときの特性
図8によれば、透過率が低下した状態から透過率が増大する速度は、両電極18,20間を短絡した場合は速く、両電極18,20間を開放した場合は遅いことがわかる。
【0026】
以上のようにして、両電極18,20間に電場を印加し、また電場の印加を解除することにより、鏡面反射透過型素子10の反射率および透過率を可逆的に変化させることができる。
【0027】
鏡面反射透過型素子10は例えば建築用調光窓ガラス、自動車用調光窓ガラス等の用途に好適に用いることができる。すなわち夏は透過率を低くする(反射率を高くする)ことにより紫外線、赤外線を反射させて室内の冷房効率を高め、冬は透過率を高くする(反射率を下げる)ことにより室内の暖房効率を高めることができる。その結果、省エネルギー効果が得られる。また透過率を低くする(反射率を高くする)ことにより、室外からの視線に対して目隠し効果を得ることもできる。
【0028】
また鏡面反射透過型素子10はカメラの調光フィルターの代替デバイスとして利用することもできる。すなわち、鏡面反射透過型素子10をカメラ内の光軸上に配置し、両電極18,20間に印加する電圧を段階的にまたは無段階に可変する。あるいは透明導電膜18,20間に印加する電圧を、直流電圧(所望の最低透過率を実現する大きさの直流電圧)をパルス幅変調した電圧とし、このパルス幅変調のパルスのデューティ比を段階的にまたは無段階に可変する。これらのようにして鏡面反射透過型素子10の透過率を段階的にまたは無段階に調整することにより、機械的動作部分を有しない調光フィルターを構成することができる。図9は鏡面反射透過型素子10の或る試料について測定した透過率の分光特性を示す。特性X,Y,Zはそれぞれ次を示す。
・特性X:両電極18,20間を短絡または開放し続けて、両電極18,20間の電場が消失して、素子10が透明(透過率は約77%)を呈している時の特性
・特性Y:両電極18,20間に透過率をほぼ0%まで低下させることができる大きさの直流電圧を印加し続けて、両電極18,20間の電場が飽和して、素子10が鏡面(透過率はほぼ0%)を呈しているとき時の特性
・特性Z:両電極18,20間に、特性Xのときと特性Yのときの中間の電場が生じて、素子10が透明と鏡面の中間状態(無彩色のハーフミラー状態)を呈している時の特性
図9によれば、中間状態の特性Zを利用してND(減光)フィルターを構成することができる。そして、この中間状態の電場の強さを段階的にまたは無段階に調整可能とすることにより可変NDフィルターを構成することができる。鏡面反射透過型素子10の透過率を鏡面状態と透明状態の中間の所望の透過率に調整し維持する方法としては例えば次の各方法が考えられる。
・方法1:両電極18,20間に印加する直流電圧の大きさを、鏡面状態と透明状態の中間の所望の透過率を実現する値に調整し、その調整した直流電圧を印加し続ける。なお、透過率を目標値に早急に到達させるために、直流電圧値を、調整開始当初は目標値を超える透過率を実現する電圧値に設定し、透過率が目標値に達したときまたはその直前に、透過率の目標値を維持する電圧値に戻すこともできる。
・方法2:両電極18,20間に印加する直流電圧の大きさを所望の最低透過率を実現する値に設定し、該直流電圧をパルス幅変調して両電極18,20間に印加する。このパルス幅変調のパルスのデューティ比を所望の透過率を維持する値に調整し、この調整したパルス幅変調電圧を印加し続ける。なお、透過率を目標値に早急に到達させるために、パルス幅変調電圧のデューティ比を、調整開始当初は目標値を超える透過率を実現する値に設定し、透過率が目標値に達したときまたはその直前に、透過率の目標値を維持する値に戻すこともできる。
なお、鏡面反射透過型素子10でNDフィルターを構成する場合は、透明状態で高い透過率が得られることが望ましいので、透明基板14,16を透過率が高い光学ガラス(白板ガラス)で構成し、かつ透明基板14,16の外表面に反射防止膜を形成するのが望ましい。
【0029】
また鏡面反射透過型素子10は透明導電膜20をセグメントに分割し各セグメントごとに電圧を印加することにより金属反射による表示体として構成することもできる。
【0030】
<<実施例>>
図1の鏡面反射透過型素子10の実施例を説明する。この実施例では次の手順で図1の鏡面反射透過型素子10を製作した。
(1) この実施例では、溶質として無水硝酸銀および無水塩化銅(塩化第二銅)、溶媒の主成分として炭酸プロピレンを使用する。無水硝酸銀の使用重量は無水塩化銅の使用重量よりも多い。無水硝酸銀および無水塩化銅は炭酸プロピレンには不溶である。そこで、無水硝酸銀および無水塩化銅をそれぞれ脱水メタノールに溶解する。無水硝酸銀の脱水メタノールに対する飽和溶解度を試験したところ、5wt%であった。結果、飽和溶解度の5wt%硝酸銀−メタノール溶液を作成した。
(2) 無水塩化銅を脱水メタノールに溶解して塩化銅−メタノール溶液を作成する。この場合、塩化銅の濃度が高いと電解液22の透明度が低くなる。そこで、負電極20の表面からの金属陽イオンAg+、Cu2+の離脱を可能にし、かつ電解液22の十分な透明度が得られる濃度の塩化銅−メタノール溶液として、1wt%塩化銅−メタノール溶液を作成した。
(3) 支持電解質となる無水LiBrを炭酸プロピレンに溶解して、0.5mol/LのLiBr−炭酸プロピレン溶液を作成した。
(4) 工程(1)で作成した5wt%硝酸銀−メタノール溶液Aと、工程(2)で作成した1wt%塩化銅−メタノール溶液Bと、工程(3)で作成した0.5mol/LのLiBr−炭酸プロピレン溶液Cを、重量比A:B:C=10:1:80で混合して、電解液22を作成した。このとき、電解液22全体に占める硝酸銀の含有量は、5wt%×{10/(10+1+80)}=0.55wt%である。
(5) それぞれ5cm四方の2枚の正方形の透明基板14,16を用意し、これら透明基板14,16を隙間距離300μmの空隙12を隔てて対向配置した。透明基板14,16の対向面には、ITO透明導電膜18,20がそれぞれ形成されている。ITO透明導電膜18,20の表面抵抗値は10Ω/□である。
(6) 工程(4)で作成された電解液22を空隙12に充填し、該充填後に空隙12の周囲をシール材24で封止して鏡面反射透過型素子10を完成した。完成した鏡面反射透過型素子10は厚み方向に透明であった。
【0031】
以上の手順で製作された鏡面反射透過型素子10について、図1のように電気回路を接続して以下のとおり各種特性を調べた。
【0032】
[実験1:透過率最終到達上下限値の確認]
初めに、電圧を印加する前の鏡面反射透過型素子10の初期透過率は約77%であった。図1のスイッチ36がオフ、スイッチ40がオンの状態から、図2のようにスイッチ36をオン、スイッチ40をオフして両電極18,20間に直流電源38から2.1Vの電圧を印加した。このときの鏡面反射透過型素子10の透過率の変化を図3に線aで示す。すなわち、透過率は、初期値である約77%から、印加を開始すると、析出層26の層厚の増加に伴い、時間とともに低下し、印加開始から30秒で約5%になり、最終的にほぼ0%になった。透過率が低下するにつれて、析出層26は銀色の鏡面26aを呈するに至った。透過率がほぼ0%になった状態からスイッチ36,40を図1の状態に戻して両電極18,20間を短絡すると、析出層26の層厚の減少に伴い、鏡面26aの銀色は薄まっていき、透過率は徐々に上昇し最終的に初期値である約77%に戻った。これとともに析出層26は消失し、鏡面反射透過型素子10は元の、厚み方向に透明な状態に戻った。
【0033】
[実験2:低温耐性の確認]
図1のスイッチ36がオフ、スイッチ40がオンの状態から、図2のようにスイッチ36をオン、スイッチ40をオフして両電極18,20間に2.1Vの電圧を印加した。次いでこの印加開始から30秒後に、スイッチ36,40を図1の状態に戻して両電極18,20間を短絡した。このときの鏡面反射透過型素子10の透過率の変化を図3に線bで示す。すなわち、透過率は、初期値である約77%から、印加を開始すると、時間とともに低下し、印加開始から30秒後に約5%となった。そこから短絡に切り換えると透過率は時間とともに上昇し、短絡開始から約2分で約76%に戻った。
【0034】
次いで、図3の特性bを測定した鏡面反射透過型素子10を−30℃の環境に24時間放置した後に、該環境から取り出したところ、鏡面反射透過型素子10に金属塩の析出は見られなかった。該低温環境から取り出した鏡面反射透過型素子10について上記同様の実験を行った。すなわち、図1のスイッチ36がオフ、スイッチ40がオンの状態から、図2のようにスイッチ36をオン、スイッチ40をオフして両電極18,20間に2.1Vの電圧を印加した。次いでこの印加開始から30秒後に、スイッチ36,40を図1の状態に戻して両電極18,20間を短絡した。このときの鏡面反射透過型素子10の透過率の変化を図3に線cで示す。すなわち、透過率は、低温環境から取り出した直後の約75%から、印加を開始すると、時間とともに低下し、印加開始から30秒後に約5%となった。そこから短絡に切り換えると透過率は時間とともに上昇し、短絡開始から約2分で約73%に戻った。したがって、この実験から、鏡面反射透過型素子10は、低温耐性が十分に得られていることがわかった。すなわち、DMSOを使用せずに、銀の化合物を非水溶媒に溶解して電解液を作成して、銀を含む析出層26で構成される鏡面26aを出現させる、低温耐性が高い薄型の反射率可変素子を成立させることができた。
【0035】
[実験3:電圧印加・短絡を繰り返したときの性能の確認]
図1のスイッチ36がオフ、スイッチ40がオンの状態から、図2のようにスイッチ36をオン、スイッチ40をオフして両電極18,20間に2.1Vの電圧を印加する。次いでこの印加開始から30秒後に、スイッチ36,40を図1の状態に戻して両電極18,20間を4分間短絡する。この一連の動作を1サイクルとして、この動作を1000サイクル連続して繰り返した。その後、図1のスイッチ36がオフ、スイッチ40がオンの状態から、図2のようにスイッチ36をオン、スイッチ40をオフして両電極18,20間に直流電源38から2.1Vの電圧を印加し続けて、鏡面反射透過型素子10の透過率最終到達下限値を測定した。さらにその後、スイッチ36,40を図1の状態に戻して両電極18,20間を短絡し続け、鏡面反射透過型素子10の透過率最終到達上限値を測定した。その結果、応答速度は1000サイクル繰り返し実験前よりも若干低下するものの、透過率最終到達下限値はほぼ0%、透過率最終到達上限値は初期値と同じ約77%となった。したがって、この結果から、電圧印加・短絡を繰り返しても可逆性能が維持されることがわかった。
【0036】
《実施の形態2(鏡面反射非透過型素子)》
この発明の反射率可変素子を薄型の鏡面反射非透過型反射率可変素子(反射面が鏡面を構成し、かつ反射率が低いときに厚み方向に非透過性である反射率可変素子)として構成した実施の形態を以下説明する。実施の形態1と共通する部分には同一の符号を用いる。図4において鏡面反射非透過型反射率可変素子42(以下「鏡面反射非透過型素子42」)は空隙12を隔てて対向配置された不透明基板44と透明基板16を具えている。不透明基板44は例えば表面が暗色(黒色等)のガラス、セラミックス、樹脂、金属等の基板で構成されたもので、表面の反射率は低い。不透明基板44の表面は平滑面に形成するほか、微細な凹凸面に形成して拡散反射性にすることもできる。不透明基板44と透明基板16の対向面には電極対を構成する透明導電膜18,20がそれぞれ形成されている。空隙12には電解液22が充填されている。空隙12の周囲はシール材24で封止されている。電解液22は実施の形態1で使用したものと同じである。電解液22には増粘剤としてポリプロピレン、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート等のポリマーを添加することができる。透明導電膜18,20にはリード線32,34の一端部がそれぞれ接続されている。リード線32,34の他端部間にはスイッチ36と直流電源38による直列接続回路が接続されている。またリード線32,34間にはスイッチ40が、スイッチ36と直流電源38による直列接続回路と並列に接続されている。スイッチ36,40は相互に連動して互いに逆方向にオン、オフ切り換えされる。
【0037】
以上の構成の鏡面反射非透過型素子42の動作を説明する。図4のようにスイッチ36がオフし、スイッチ40がオンしているときは透明導電膜18,20間は短絡状態となり、透明導電膜18,20間に電場は生じない。したがって電解液22中で金属陽イオンAg+、Cu2+、陰イオンNO3-、Cl-は分散した状態にある。このとき電解液22は透明であり、透明基板16の表面側から入射した光は不透明基板44に当たってほとんど吸収される。したがってこのとき透明基板16の前面側から見た反射率は低い。
【0038】
図4の状態から図5のようにスイッチ36をオンし、スイッチ40をオフすると直流電源38の電圧が透明導電膜18,20間に印加され(透明導電膜18を正電極、透明導電膜20を負電極とする)、透明導電膜18,20間に電場が生じる。この電場により電解液22中の金属陽イオンAg+、Cu2+は負電極20の表面に移動して還元される。その結果、負電極20の表面に銀を主成分とし、副成分として少量の銅が混在する析出層(鏡面反射層)26が析出して、析出層26による反射面(鏡面)26aを出現させる。これにより鏡面反射非透過型素子42は透明基板16の前面側から見た反射率(主に鏡面反射による反射率)が増大する。透明導電膜18,20間に印加する電圧を段階的にまたは無段階に可変できるようにして、反射率を段階的にまたは無段階に調整可能にすることもできる。あるいは透明導電膜18,20間に印加する電圧を、直流電圧(所望の最高反射率を実現する大きさの直流電圧)をパルス幅変調した電圧とし、このパルス幅変調のパルスのデューティ比を段階的にまたは無段階に可変できるようにして、反射率を段階的にまたは無段階に調整可能にすることもできる。
【0039】
図5の状態から再び図4のようにスイッチ36をオフし、スイッチ40をオンすると透明導電膜18,20間が短絡し、透明導電膜18,20間の電場が消失する。これにより、析出層26を形成していた銀および銅は酸化されて、負電極20の表面から離脱して、金属陽イオンAg+、Cu2+となって、再び電解液22中に分散する。析出層26が、主成分の銀に銅を混在して構成されているため、このような離脱が可能となる。その結果、鏡面反射非透過型素子42は透明基板16の前面側から見た反射率が低下して元の状態に戻る。なお両電極18,20間を短絡するのに代えて、両電極18,20間を開放することもできる。すなわち両電極18,20間を開放すると、両電極18,20間の電場が消失するので、金属陽イオンAg+、Cu2+を負電極20から離脱させて、鏡面反射非透過型素子42を元の反射率が低い状態に戻すことができる。すなわち、図5の状態からスイッチ36,40を共にオフして両電極18,20間を開放すると、鏡面反射非透過型素子42は両電極18,20間を短絡した場合に比べて緩やかな速度で反射率が低下して元の反射率が低い状態に戻る。
【0040】
以上のようにして、両電極18,20間に電場を印加し、また電場の印加を解除することにより、鏡面反射非透過型素子42の透明基板16の前面側から見た反射率を可逆的に変化させることができる。
【0041】
鏡面反射非透過型素子42は、実施の形態1の実施例で説明したのと同様の手順で製作することができる。
【0042】
鏡面反射非透過型素子42は例えば車両用防眩ミラーとして利用することができる。また鏡面反射非透過型素子42は透明導電膜20をセグメントに分割し各セグメントごとに電圧を印加することにより金属反射による表示体として構成することもできる。
【0043】
《実施の形態3(拡散反射透過型素子)》
この発明の反射率可変素子を薄型の拡散反射透過型反射率可変素子(反射面が拡散反射面を構成し、かつ反射率が低いときに厚み方向に透過性である反射率可変素子)として構成した実施の形態を以下説明する。実施の形態1と共通する部分には同一の符号を用いる。図6において拡散反射透過型反射率可変素子46(以下「拡散反射透過型素子46」)は、透明基板16’の内側の面(析出層26が析出する側の面)が微細な凹凸面に形成されている。透明基板16’のこの凹凸面に倣って透明導電膜20’も凹凸状に成膜されている。他の構成は図1の鏡面反射透過型素子10と同じである。
【0044】
以上の構成の拡散反射透過型素子46の動作を説明する。図6の、透明導電膜18,20’間が短絡状態のときは、電解液22中で金属陽イオンAg+、Cu2+、陰イオンNO3-、Cl-は分散した状態にある。このとき電解液22はほぼ無色透明である。拡散反射透過型素子46に入射された光は透明基板16’および透明導電膜20’の凹凸面で拡散して透過する。したがって、拡散反射透過型素子46を透過して見た反対側の景色はぼやけて見える。
【0045】
図6の状態から図7の、透明導電膜18,20’間に電圧を印加した状態に切り換えると、電解液22中の金属陽イオンAg+、Cu2+は負電極20’の表面に移動して還元される。その結果、負電極20’の表面に銀を主成分とし、副成分として少量の銅が混在する析出層(拡散反射層)26’が析出して、析出層26’による反射面(拡散反射面)26a’を出現させる。これにより拡散反射透過型素子46は反射率(主に拡散反射による反射率)が増大し、透過率が減少する。拡散反射透過型素子46に入射される光Laは反射面26a’で拡散反射する。透明導電膜18,20’間に印加する電圧を段階的にまたは無段階に可変できるようにして、反射率、透過率を段階的にまたは無段階に調整可能にすることもできる。あるいは透明導電膜18,20’間に印加する電圧を、直流電圧(所望の最高反射率または最低透過率を実現する大きさの直流電圧)をパルス幅変調した電圧とし、このパルス幅変調のパルスのデューティ比を段階的にまたは無段階に可変できるようにして、反射率、透過率を段階的にまたは無段階に調整可能にすることもできる。なお、拡散反射透過型素子46は、図7の拡散反射透過型素子46の右側(透明基板16’側)から入射する光Laを、析出層26’を右側から見た反射面26a’で拡散反射する素子として利用することができる。このほか、拡散反射透過型素子46は、拡散反射透過型素子46の左側(透明基板14側)から入射する光Lbを、析出層26’を左側から見た反射面26b’で拡散反射する素子として利用することもできる。さらには、拡散反射透過型素子46は、拡散反射透過型素子46の左右両側から入射する光を左右の反射面26a’,26b’で拡散反射する素子として利用することもできる。
【0046】
図7の状態から再び図6の透明導電膜18,20’間を短絡させた状態にすると、析出層26を形成していた銀および銅は酸化されて、負電極20の表面から離脱して、金属陽イオンAg+、Cu2+となって、再び電解液22中に分散する。その結果、拡散反射透過型素子46は反射率が低下し、透過率が増大して、拡散反射透過型素子46を透過して見た反対側の景色がぼやけて見える元の状態に戻る。なお両電極18,20’間を短絡するのに代えて、両電極18,20’間を開放することもできる。すなわち両電極18,20’間を開放すると、両電極18,20’間の電場が消失するので、金属陽イオンAg+、Cu2+を負電極20’から離脱させて、拡散反射透過型素子46を元の状態に戻すことができる。すなわち、図7の状態からスイッチ36,40を共にオフして両電極18,20’間を開放すると、拡散反射透過型素子46は両電極18,20’間を短絡した場合に比べて緩やかな速度で反射率が低下し、透過率が増大して元の状態に戻る。
【0047】
以上のようにして、両電極18,20’間に電場を印加し、また電場の印加を解除することにより、拡散反射透過型素子46の反射率および透過率を可逆的に変化させることができる。
【0048】
拡散反射透過型素子46は例えば建築用調光窓ガラス等の用途に好適に用いることができる。すなわち、室外からの視線を遮りながら、夏は透過率を低くする(反射率を高くする)ことにより紫外線、赤外線を反射させて室内の冷房効率を高め、冬は透過率を高くする(反射率を下げる)ことにより室内の暖房効率を高めることができる。その結果、省エネルギー効果が得られる。
【0049】
前記各実施の形態では硝酸銀を使用したが、硝酸銀に代えてAgI、AgCl等のハロゲン化銀を使用することも考えられる。また、前記各実施の形態では塩化第二銅を使用したが、塩化第二銅に代えて、CuF、CuCl、CuBr等の他のハロゲン化銅を使用することも考えられる。また前記各実施の形態では支持電解質としてLiBrを使用したが、LiBrに代えてアンモニウム塩等を使用することも考えられる。
【0050】
前記各実施の形態では非水溶媒の主成分として炭酸プロピレンを使用したが、炭酸プロピレンに代えてγ−ブチロラクトンを使用することもできる。γ−ブチラクトンを使用した場合は、炭酸プロピレンを使用した場合と同様に低温耐性が高い反射率可変素子が得られるものと考えられる。
【0051】
前記各実施の形態では透明導電膜18,20を形成する基材としてガラス基板、樹脂基板等を使用したが、樹脂フィルムを基材として使用してその表面に導電膜を形成することもできる。
【0052】
前記各実施の形態では両電極間を短絡または開放させることにより反射率を低下させたが、特許文献1および非特許文献1に記載の素子と同様に、両電極間に逆電圧を印加することにより、反射率を低下させることもできる。
【0053】
前記実施の形態1の実施例で説明した製作手順では、支持電解質(LiBr)を溶解した炭酸プロピレン溶液と、硝酸銀−メタノール溶液と、塩化銅−メタノール溶液を混合して電解液を作成したが、電解液の作成方法はこれに限らない。すなわちこれに代えて、支持電解質(LiBr)を溶解する前の炭酸プロピレン溶液と、硝酸銀−メタノール溶液と、塩化銅−メタノール溶液を混合し、その後に該混合液に支持電解質(LiBr)を溶解して電解液を作成することもできる。
【0054】
前記実施の形態2では導電膜18を透明導電膜で構成したが、金属膜(不透明導電膜)を使用することもできる。また前記実施の形態2では不透明基板44の表面に透明導電膜18を形成したものを使用したが、不透明基板44と透明導電膜18の組み合わせに代えて金属板単体を配置して、該金属板単体を基板兼電極として使用することもできる。
【0055】
また、前記実施の形態では、析出層26,26’を析出させた状態から、析出層26,26’を完全に消失させた状態に戻すようにしたが、析出層26,26’を完全に消失させた状態まで戻さない(析出層26,26’が薄く残っている状態で止める)ような使い方も可能である。
【符号の説明】
【0056】
10…反射率可変素子(鏡面反射透過型素子)、12…空隙、14,16,16’…透明基板、18,20,20’…透明導電膜(電極対)、22…電解液、24…シール材、26…析出層(鏡面反射層)、26a,26b…反射面(鏡面)、26’…析出層(拡散反射層),26a’,26b’…反射面(拡散反射面)、32,34…リード線、36,40…スイッチ、38…直流電源、42…反射率可変素子(鏡面反射非透過型素子)、44…不透明基板、46…反射率可変素子(拡散反射透過型素子)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9