特許第6402134号(P6402134)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6402134水溶性プリフラックス、それを用いた表面処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402134
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】水溶性プリフラックス、それを用いた表面処理方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 22/68 20060101AFI20181001BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20181001BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C23C22/68
   C09D7/40
   C09D5/00 Z
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-96107(P2016-96107)
(22)【出願日】2016年5月12日
(65)【公開番号】特開2017-203194(P2017-203194A)
(43)【公開日】2017年11月16日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】小川 泰貴
(72)【発明者】
【氏名】中波 一貴
【審査官】 辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−048502(JP,A)
【文献】 特開2015−132009(JP,A)
【文献】 特開2014−101553(JP,A)
【文献】 特開2009−046761(JP,A)
【文献】 特開平07−054169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C22/00−22/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)イミダゾール化合物と、(B)有機酸と、(C)錯体被膜形成助剤と、(D)有機溶剤と、(E)水とを含有し、
前記(D)有機溶剤は、温度20℃における水への溶解度が10g/100g以上であり、かつ沸点が100℃以上300℃以下であり、
前記(A)イミダゾール化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であり、
前記(C)錯体被膜形成助剤が、ギ酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅、シュウ酸銅、酢酸銅、水酸化銅、炭酸銅、リン酸銅、硫酸銅、ギ酸マンガン、塩化マンガン、シュウ酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸ニッケル、酢酸バリウム、水素化亜鉛、塩化第一鉄、塩化第二鉄、酸化第一鉄、酸化第二鉄、ヨウ化銅、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛、臭化第一銅、臭化第二銅、臭化カリウム、および臭化亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする水溶性プリフラックス。
【化1】
(一般式(1)中、XおよびYは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜7の直鎖または分岐鎖のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、シアノ基、アセチル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、ホルミル基、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基およびニトロ基からなる群から選択される少なくとも一つを表し、nは0〜4の整数を表し、mは0〜10の整数を表し、pは0〜4の整数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の水溶性プリフラックスにおいて、
前記(D)有機溶剤が、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフルフリルアルコール、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種である
ことを特徴とする水溶性プリフラックス。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の水溶性プリフラックスを用いて、電子基板の電極端子上に保護被膜を形成する工程を備えることを特徴とする表面処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性プリフラックス、それを用いた表面処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板は、ソルダーレジスト被膜が形成された状態で流通する場合が多い。このような場合、プリント配線基板の大部分はソルダーレジスト被膜に覆われているが、電子部品を搭載するために電極端子(ランド)には、ソルダーレジスト被膜が存在しない。そのため、プリント配線基板を流通する際や保管する際に、電極端子の表面が酸化されやすい。そこで、プリント配線基板の電極端子には、電極端子の表面の酸化を防止するために、電極端子の表面に金メッキ処理が施される場合がある。しかしながら、金メッキ処理には貴金属を使用するためにコストが高くなるという問題がある。そこで、プリント配線基板においては、金メッキ処理に代えて、水溶性プリフラックスにより電極端子の表面に保護被膜を形成する方法が採用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−322551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のような従来の水溶性プリフラックスにおいては、低温(例えば5℃以下)で保存した場合には、水溶性プリフラックス中のイミダゾール系化合物が結晶化してしまうという問題があった。そこで、水溶性プリフラックスには、低温の環境下でも保管可能であること(低温安定性)が求められている。
水溶性プリフラックス中のイミダゾール系化合物は、水に不溶または難溶なため、通常、酢酸などの有機酸を用いて、水に溶解させている。そして、イミダゾール系化合物の種類や有機酸の種類について、低温安定性を含む諸特性の検討がされているが、十分な低温安定性を有する組み合わせは見出されていない。また、水溶性プリフラックスの低温安定性を向上させる方法としては、イミダゾール系化合物を溶解できるアルコール類などの有機溶剤を用いる方法もある。しかし、アルコール類などの有機溶剤を用いて、低温安定性の向上を試みたとしても、電極端子の表面にイミダゾール系化合物の保護被膜を形成しにくくなるという問題が発生する。このように、保護被膜の形成性を維持しつつ、低温安定性を向上させることは非常に困難であった。
【0005】
そこで、本発明は、優れた低温安定性を有する水溶性プリフラックス、並びに、それを用いた表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、次の知見を見出した。すなわち、イミダゾール系化合物、有機酸および錯体被膜形成助剤を含有する水溶性プリフラックスに対し、有機溶剤を添加した場合には、通常、低温安定性の向上とともに、保護被膜の形成性が低下する。しかし、特定の条件を満たす有機溶剤を用いた場合には、驚くべきことに、保護被膜の形成性を維持しつつ、低温安定性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明の水溶性プリフラックスは、(A)イミダゾール化合物と、(B)有機酸と、(C)錯体被膜形成助剤と、(D)有機溶剤と、(E)水とを含有し、前記(D)有機溶剤は、温度20℃における水への溶解度が10g/100g以上であり、かつ沸点が100℃以上300℃以下であり、前記(A)イミダゾール化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であり、前記(C)錯体被膜形成助剤が、ギ酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅、シュウ酸銅、酢酸銅、水酸化銅、炭酸銅、リン酸銅、硫酸銅、ギ酸マンガン、塩化マンガン、シュウ酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸ニッケル、酢酸バリウム、水素化亜鉛、塩化第一鉄、塩化第二鉄、酸化第一鉄、酸化第二鉄、ヨウ化銅、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛、臭化第一銅、臭化第二銅、臭化カリウム、および臭化亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とするものである。
【0007】
本発明の水溶性プリフラックスにおいては、前記(A)イミダゾール化合物が、下記一般式(1)で表される化合物であることが必要である
(下記一般式(1)中、XおよびYは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜7の直鎖または分岐鎖のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、シアノ基、アセチル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、ホルミル基、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基およびニトロ基からなる群から選択される少なくとも一つを表し、nは0〜4の整数を表し、mは0〜10の整数を表し、pは0〜4の整数を表す。)
【0008】
【化1】
【0009】
本発明の水溶性プリフラックスにおいては、前記(D)有機溶剤が、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(メチルプロピレントリグリコール)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルトリグリコール)、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフルフリルアルコール、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい
発明の表面処理方法は、前記水溶性プリフラックスを用いて、電子基板の電極端子上に保護被膜を形成する工程を備えることを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば優れた低温安定性を有する水溶性プリフラックス、並びに、それを用いた表面処理方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の水溶性プリフラックスは、以下説明する(A)イミダゾール系化合物、(B)有機酸、(C)錯体被膜形成助剤、(D)有機溶剤、および(E)水を含有するものである。
【0012】
[(A)成分]
本発明に用いる(A)イミダゾール系化合物としては、公知のイミダゾール系化合物を用いることができる。この(A)成分としては、形成される保護被膜の性能の観点から、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0013】
【化2】
【0014】
前記一般式(1)において、XおよびYは、それぞれ同一でも異なっていてもよく、炭素数1〜7の直鎖または分岐鎖のアルキル基、ハロゲン原子、アミノ基、ジ低級アルキルアミノ基、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、シアノ基、アセチル基、ベンゾイル基、カルバモイル基、ホルミル基、カルボキシル基、低級アルコキシカルボニル基およびニトロ基からなる群から選択される少なくとも一つを表し、nは0〜4の整数を表し、mは0〜10の整数を表し、pは0〜4の整数を表す。
ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が挙げられる。これらの中でも、電極端子のはんだぬれ性向上の観点から、塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0015】
前記一般式(1)で表される化合物としては、2−(3−クロロ)ベンジルベンズイミダゾール、2−(3,4−ジクロロ)ベンジルベンズイミダゾール、4−クロロ−2−(3−フェニルプロピル)ベンズイミダゾール、6−クロロ−2−{(2−ニトロフェニル)エチル}ベンズイミダゾール、および6−カルボエトキシ−2−(3−ブロモベンジル)ベンズイミダゾールなどが挙げられる。これらの中でも、電極端子の表面の酸化抑制の観点から、2−(3−クロロ)ベンジルベンズイミダゾール、2−(3,4−ジクロロ)ベンジルベンズイミダゾール、4−クロロ−2−(3−フェニルプロピル)ベンズイミダゾールがより好ましい。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0016】
前記(A)成分の配合量としては、水溶性プリフラックス100質量%に対して、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。配合量を前記下限以上とすることによって、防錆膜などの塗膜を形成しやすくなる。また、配合量が前記上限を超えると、不溶解分が多くなり易くなる傾向にあり、経済的にも好ましくない。
【0017】
[(B)成分]
本発明に用いる(B)有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、グリコール酸、酒石酸、乳酸、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、ブロモ酢酸、およびメトキシ酢酸などが挙げられる。これらの中でも、ギ酸、酢酸が好ましい。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0018】
前記(B)成分の配合量としては、水溶性プリフラックス100質量%に対して、1質量%以上40質量%以下であることが好ましく、1質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上10質量%以下であることが特に好ましい。配合量が前記下限未満では、被膜形成イミダゾール系化合物を溶解させにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、保護被膜の形成性が低下し易くなる傾向にある。
【0019】
[(C)成分]
本発明に用いる(C)錯体被膜形成助剤としては、ギ酸銅、塩化第一銅、塩化第二銅、シュウ酸銅、酢酸銅、水酸化銅、炭酸銅、リン酸銅、硫酸銅、ギ酸マンガン、塩化マンガン、シュウ酸マンガン、硫酸マンガン、酢酸亜鉛、酢酸鉛、酢酸ニッケル、酢酸バリウム、水素化亜鉛、塩化第一鉄、塩化第二鉄、酸化第一鉄、酸化第二鉄、ヨウ化銅、ヨウ化カリウム、ヨウ化亜鉛、臭化第一銅、臭化第二銅、臭化カリウム、および臭化亜鉛などの金属化合物が挙げられる。これらの中でも、はんだぬれ性向上や、耐熱性向上の観点から、塩化亜鉛、臭化銅、ヨウ化カリウムが好ましい。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
前記(C)成分の配合量としては、水溶性プリフラックス100質量%に対して、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。配合量が前記下限未満では、保護被膜の形成性を向上させる効果が不足する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、保護被膜の形成性が過剰となったり、低温での液安定性が低下する傾向にある。
【0021】
[(D)成分]
本発明に用いる(D)有機溶剤は、温度20℃における水への溶解度が10g/100g以上であり、かつ沸点が100℃以上300℃以下であることが必要である。このような(D)成分を含有することにより、水溶性プリフラックスの低温安定性を向上できる。
また、水溶性プリフラックスの低温安定性の観点から、(D)成分の温度20℃における水への溶解度は、15g/100g以上であることがより好ましく、50g/100g以上であることが特に好ましい。なお、水100gに対して任意の量を混和できる有機溶剤の場合には、この有機溶剤の溶解度を任意混和と表現する。
また、水溶性プリフラックスの低温安定性の観点から、(D)成分の沸点は、120℃以上280℃以下であることがより好ましく、180℃以上260℃以下であることが特に好ましい。なお、本明細書において、沸点とは、1013hPaにおける沸点のことをいう。
【0022】
前記(D)成分としては、上記の条件を満たすものであれば、グリコールエーテル系溶剤、グリコールエステル系溶剤およびアルコール系溶剤などを用いることができる。これらの中でも、低温安定性の観点から、グリコールエーテル系溶剤が好ましい。
前記(D)成分としては、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(溶解度:任意混和、沸点:242℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(溶解度:任意混和、沸点:271℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(溶解度:任意混和、沸点:121℃)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(溶解度:任意混和、沸点:275℃)、テトラヒドロフルフリルアルコール(溶解度:任意混和、沸点:178℃)、および、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶解度:18.5g/100g、沸点:146℃)などが挙げられる。これらの中でも、低温安定性および保護被膜の形成性とのバランスの観点から、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルが好ましい。また、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、括弧内に記載の溶解度は、温度20℃における水への溶解度である。
【0023】
前記(D)成分の配合量は、水溶性プリフラックス100質量%に対して、0.2質量%以上15質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。配合量が前記下限未満では、水溶性プリフラックスの低温安定性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、保護被膜の形成性が低下する傾向にある。
【0024】
[(E)成分および他の成分]
本発明に用いる(E)水は、水溶性プリフラックスにおける前記(A)成分、前記(B)成分、前記(C)成分、前記(D)成分、および以下説明する他の成分以外の残部である。
本発明の水溶性プリフラックスに配合できる他の成分としては、前記(C)成分から分離する金属イオンに対する塩基を含有する緩衝液や、ハロゲン化合物などが挙げられる。
前記緩衝液中の塩基としては、アンモニア、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、イソプロピルエタノールアミン、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0025】
前記ハロゲン化合物としては、臭化プロピオン酸およびヨードプロピオン酸などが挙げられる。これらのハロゲン化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
前記ハロゲン化合物を用いる場合、その配合量は、水溶性プリフラックス100質量%に対して、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0026】
[表面処理方法および電子基板]
次に、本発明の表面処理方法および電子基板について説明する。
本発明の表面処理方法は、水溶性プリフラックスを用いて、電子基板の電極端子上に保護被膜を形成する工程を備える方法である。
電子基板としては、プリント配線基板および半導体用基板などが挙げられる。
保護被膜の形成方法としては、例えば、処理対象のプリント配線基板の電極端子の表面を脱脂、化学研磨(ソフトエッチング)、酸洗、水洗する前処理工程を施した後、前記水溶性プリフラックスに、10〜60℃で1秒間〜100分間(好ましくは20〜50℃で、5秒間〜60分間、より好ましくは20〜50℃で、10秒間〜10分間)プリント配線基板を浸漬する方法を採用できる。このようにして前記一般式(1)で表される化合物は電極端子の表面に付着するが、その付着量は処理温度を高く、処理時間を長くする程多くなる。このときに、超音波を利用するとより好ましい。なお、他の塗布手段、例えば噴霧法、刷毛塗り、ローラー塗りなどで保護被膜を形成してもよい。
以上のようにして、本発明の電子基板を製造することができる。すなわち、本発明の電子基板は、前記水溶性プリフラックスにより形成された保護被膜を備えるものである。
【実施例】
【0027】
次に、本発明を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例および比較例にて用いた材料を以下に示す。
((A)成分)
イミダゾール系化合物:4−クロロ−2−(3−フェニルプロピル)ベンズイミダゾール
((B)成分)
有機酸A:酢酸
有機酸B:酒石酸
((C)成分)
錯体被膜形成助剤A:塩化亜鉛
錯体被膜形成助剤B:臭化銅
錯体被膜形成助剤C:ヨウ化カリウム
((D)成分)
有機溶剤A:トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(溶解度:任意混和、沸点:242℃)
有機溶剤B:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(溶解度:任意混和、沸点:271℃)
有機溶剤C:プロピレングリコールモノメチルエーテル(溶解度:任意混和、沸点:121℃)
有機溶剤D:テトラエチレングリコールジメチルエーテル(溶解度:任意混和、沸点:275℃)
有機溶剤E:テトラヒドロフルフリルアルコール(溶解度:任意混和、沸点:178℃)
有機溶剤F:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(溶解度:18.5g/100g、沸点:146℃)
((E)成分)
水:純水
(他の成分)
有機溶剤G:フェニルグリコール(溶解度:2.7g/100g、沸点:245℃)
有機溶剤H:ブチルプロピレントリグリコール(溶解度:0.4g/100g、沸点:274℃)
有機溶剤I:ジエチレングリコールジブチルエーテル(溶解度:0.3g/100g、沸点:256℃)
有機溶剤J:エチルアルコール(溶解度:任意混和、沸点:78℃)
有機溶剤K:イソプロピルアルコール(溶解度:任意混和、沸点:82℃)
【0028】
[実施例1]
水96質量%に対し、イミダゾール系化合物1質量%、有機酸A2質量%、錯体被膜形成助剤A0.5質量%および有機溶剤Aを溶解させて、水溶性プリフラックスを得た。また、得られた水溶性プリフラックスは、緩衝液として25質量%アンモニア水でpH調整し、被膜を形成可能な水溶性プリフラックス処理液とした。
【0029】
[実施例2〜15]
表1に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして水溶性プリフラックスおよび処理液を得た。
[比較例1〜7]
表2に示す組成に従い各材料を配合した以外は実施例1と同様にして水溶性プリフラックスおよび処理液を得た。
【0030】
<水溶性プリフラックスの評価>
水溶性プリフラックスの性能(被膜厚、低温保管安定性、再溶解性)を以下のような方法で評価または測定した。得られた結果を表1〜表3に示す。
(1)被膜厚
両面銅張積層板(大きさ:25mm×50mm、厚み:1.6mm、基材の種類:FR−4)を脱脂、ソフトエッチングおよび水洗し表面を清浄にした後、水溶性プリフラックス処理液に40℃で2分間浸漬し被膜形成して、水洗、温風乾燥し、試験基板を得た。この試験基板について、表面積25cmの試験基板上の被膜を0.5%塩酸50mLに抽出した後、抽出液中の被膜有効成分に起因する極大吸光度を測定し、換算式から被膜厚(単位:μm)を算出した。
(2)低温保管安定性
密閉可能なガラス瓶(容積:120mL〜150mL)に、水溶性プリフラックス100mLを採取し、密栓して試料を得た。この試料を、温度5℃(誤差2℃以内)に設定された冷蔵保管庫に静置した。その後、24時間毎に試料を取り出し、結晶の有無を目視にて確認した。そして、下記の基準に従って、低温保管安定性を評価した。
◎:240時間経過しても結晶が発生しない。
○:168時間経過しても結晶が発生しないが、240時間以内に結晶が発生する。
△:48時間経過しても結晶が発生しないが、168時間以内に結晶が発生する。
×:48時間以内に結晶が発生する。
(3)再溶解性
密閉可能なガラス瓶(容積:120mL〜150mL)に、水溶性プリフラックス100mLを採取し、密栓して試料を得た。この試料を、温度−15℃(誤差2℃以内)に設定された冷凍保管庫に静置した。その後、水溶性プリフラックスが完全に凝固した後に取り出した(時間の目安は24時間以上48時間以下)。次いで、この試料を、温度40℃の恒温水槽で1時間静置加温した後、マグネチックスターラーにて室温で1時間撹拌し、試料の温度が室温に戻った後の結晶の有無を目視にて確認した。そして、下記の基準に従って、再溶解性を評価した。
○:析出物が完全に溶解する。
×:析出物が残留し、完全に溶解しない。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
表1および表2に示す結果からも明らかなように、本発明の水溶性プリフラックス(実施例1〜15)については、被膜厚、低温保管安定性および再溶解性の全てが良好であることが確認された。そのため、本発明によれば、優れた低温安定性を有する水溶性プリフラックスが得られることが確認された。
一方で、(D)成分を含有しない水溶性プリフラックス(比較例1〜6)については、再溶解性が良好なものはなく、また、被膜厚および低温保管安定性の両方が良好となるものはないことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の水溶性プリフラックスは、プリント配線基板や半導体用基板などの製造技術として有用である。