特許第6402171号(P6402171)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6402171原子力発電所の冷却材貯蔵域の受動的冷却装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402171
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】原子力発電所の冷却材貯蔵域の受動的冷却装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 19/07 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
   G21C19/06 L
【請求項の数】10
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-500927(P2016-500927)
(86)(22)【出願日】2014年3月10日
(65)【公表番号】特表2016-511414(P2016-511414A)
(43)【公表日】2016年4月14日
(86)【国際出願番号】US2014022254
(87)【国際公開番号】WO2014159155
(87)【国際公開日】20141002
【審査請求日】2017年2月24日
(31)【優先権主張番号】61/781,274
(32)【優先日】2013年3月14日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】コンウェイ、ローレンス、イー
(72)【発明者】
【氏名】セドラシク、ゲイリー、エル
【審査官】 藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−230079(JP,A)
【文献】 特開平02−223896(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0294407(US,A1)
【文献】 特開2012−255660(JP,A)
【文献】 特表2009−542883(JP,A)
【文献】 特開2005−319932(JP,A)
【文献】 特開2010−085282(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0158371(US,A1)
【文献】 特開2009−150846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 19/07
G21C 19/02
G21C 19/08
G21C 15/18
G21C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力蒸気供給系と、
当該原子力蒸気供給系を密封して収容する格納容器(28)と、
当該格納容器(28)から離隔して実質的にそれを取り囲む遮蔽建屋(30)と、
当該格納容器(28)と当該遮蔽建屋(30)との間の環状部において、当該格納容器から離隔して垂直方向に延びる空気バッフル(34)と、
当該格納容器(28)内またはその周辺に収容された水の貯蔵域(48)と、
当該貯蔵域(48)内で冠水して水冷される使用済原子燃料と、
当該貯蔵域内から当該格納容器(28)の外側である当該格納容器(28)と当該空気バッフル(34)との間の環状部(58)内へ延び、当該貯蔵域から当該格納容器の外側の空気へ熱を移送する熱サイフォン(56)とを具備し、
当該熱サイフォン(56)が第1および第2の熱交換器(52、54)から成り、当該第2の熱交換器は当該第1の熱交換器より高い位置にあり、当該第1の熱交換器は当該貯蔵域(48)内で少なくとも一部が冠水しており、当該第1の熱交換器の第1の側にある当該貯蔵域内の水は当該第1の熱交換器の第2の側にある作動流体と熱連通関係にあり、当該第1の熱交換器の当該第2の側は当該作動流体が循環する閉ループを介して当該第2の熱交換器の第1の側と流体連通関係にあり、当該第2の熱交換器の当該第1の側にある当該作動流体は当該第2の熱交換器の第2の側にある当該格納容器の外側の周囲空気と熱連通関係にあり、
当該格納容器(28)が鋼製シェルから成り、当該鋼製シェルは実質的に当該原子力蒸気供給系の一次配管網(20)の周囲を延び、当該格納容器の下部から当該格納容器の上部へ延びる実質的に垂直な壁を有するものであり、
当該空気バッフル(34)は実質的に当該格納容器(28)の当該垂直な壁の周囲に離隔して延びるものであり、当該空気バッフルの低位置に空気取入口(72)があり、当該空気バッフルの高位置に空気出口があり、当該格納容器の当該垂直な壁と当該空気バッフルとの間である当該環状部(58)内に当該第2の熱交換器(54)が支持されている
ことを特徴とする原子力発電所。
【請求項2】
前記作動流体が冷媒である請求項の原子力発電所。
【請求項3】
前記冷媒が245faである請求項の原子力発電所。
【請求項4】
前記格納容器の外側にある前記閉ループの一部がフィン付き細管(70)から成る、請求項の原子力発電所。
【請求項5】
前記第2の熱交換器(54)が前記環状部(58)の下部支持されている、請求項の原子力発電所。
【請求項6】
前記第1の熱交換器(52)が複数の第1の熱交換器を含み、前記第2の熱交換器(54)が複数の第2の熱交換器を含み、前記閉ループが並行動作する複数の閉ループを含み、各々の閉ループが1つ以上の第1の熱交換器および1つ以上の第2の熱交換器を有することを特徴とする、請求項の原子力発電所。
【請求項7】
前記第2の熱交換器(54)の各々が前記格納容器(28)の外側周囲で互いに離隔している、請求項の原子力発電所。
【請求項8】
前記閉ループが前記作動流体の循環を止めるための弁(62)を有する、請求項の原子力発電所。
【請求項9】
前記貯蔵域が前記格納容器(28)内の燃料交換用水貯蔵タンク(48)であり、前記第1の熱交換器(52)が前記格納容器内にあり、前記第2の熱交換器(54)が前記格納容器の外にある、請求項1の原子力発電所。
【請求項10】
前記貯蔵域が前記格納容器の外側で近傍にある使用済燃料プール(24)である、請求項1の原子力発電所。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、ここに参照により援用されている2013年3月14日に提出された米国特許出願第61/781,274号の利益を主張する。
【0002】
本発明は概して、原子力発電所の冷却材貯蔵域用の受動的冷却システムに関し、さらに詳細には、格納容器内燃料交換用水貯蔵タンクおよび使用済燃料プールの冷却システムに関する。
【背景技術】
【0003】
原子炉発電システムの一次側は、販売可能な電力を生産するために蒸気を発生させる。加圧水型原子炉や液体金属冷却型原子炉などの炉型の一次側は、有用な蒸気を発生させるための二次回路から隔離されるものの該回路と熱交換関係にある閉回路を構成する。沸騰水型原子炉やガス冷却型原子炉などの炉型では、販売可能な電力を生産するためのガスは炉心で直接加熱される。本発明の思想を採り入れた例として加圧水型原子炉について説明するが、当然ながら、他の炉型でも本発明の思想は同様に有益でありうる。
【0004】
加圧水型原子炉システムの一次側は、核分裂性物質を含む複数の燃料集合体を支持する炉心内部構造が収容される原子炉容器、熱交換蒸気発生器内の一次回路、加圧器の内部、加圧水を循環させるポンプおよび配管類から成り、これらの配管類は蒸気発生器およびポンプをそれぞれ独立に原子炉容器に接続する。原子炉容器と接続する蒸気発生器、ポンプおよび配管系から成る一次側の各部は一次側ループを形成する。説明の目的のために、図1は炉心14を収容し、蓋体12を備えた概して円筒形の原子炉圧力容器10を含む加圧水型原子炉の一次系を簡略化して示す。水などの原子炉冷却材は、ポンプ16により容器10内に圧入され、炉心14を通過する際に熱エネルギーを吸収し、一般的に蒸気発生器と呼ばれる熱交換器18を通過する際に熱エネルギーを放出し、その熱は蒸気駆動タービン発電機のような利用回路(図示せず)へ送られる。原子炉冷却材はその後、ポンプ16へ戻り、一次側ループが完成する。一般的に、複数の上述のようなループが、原子炉冷却材配管20を介して単一の原子炉容器10に接続されている。
【0005】
加圧水型原子炉は、通常18カ月のサイクルで燃料交換を行う。燃料交換プロセスの際に、炉心内の照射済燃料集合体の一部が取り出され、新しい燃料集合体が補充されて炉心の周りに再配置される。取り出された使用済原子燃料集合体は、典型的には、水中のまま原子炉格納容器22から使用済燃料プールを収容する別の建屋に運ばれる。これらの放射性燃料集合体は、図1において参照符号24で表象的に示す当該使用済燃料プールに貯蔵される。使用済燃料プールの水は、放射線を許容可能なレベルに遮蔽する十分な深さを有し、燃料集合体内の放射性燃料物質および核分裂生成物を収納し密封する燃料棒がその被覆を破損しかねない温度に到達しないようにする。燃料集合体内の崩壊熱が下がり、当該集合体の温度が少なくとも乾式貯蔵を許容するレベルになるまで、冷却は継続される。
【0006】
日本の福島第一原子力発電所の事故は、長時間の電源喪失に続いて使用済燃料プール冷却システムに起こるであろう結果に対する懸念を深めた。津波により、サイト外およびサイト内電源が失われ、全電源喪失の期間が生じた。電源喪失により、使用済燃料プール冷却システムが停止した。冠水していた高放射性使用済燃料集合体によって加熱されたプールの温度上昇により、一部の使用済燃料プールの水が気化・蒸発して放散した。補給水をプールに圧送するための電力が長期間にわたって失われると、燃料集合体が露出し、理論上、その中の燃料棒の温度が上昇して、燃料棒の被覆が破損し、環境への放射能漏れが起こるおそれがある。
【0007】
ペンシルベニア州クランベリー郡区に所在のウェスチングハウス・エレクトリック・カンパニーLLCが提供する受動的安全システムを利用したAP1000(登録商標)原子力発電所のような、ごく最近設計された受動冷却式原子力発電所は、福島で起きたような極端な事象の発生後3日以上にわたって冷却機能を継続的に維持できると評価されている。
【0008】
本発明の目的は、使用済燃料の冷却に使用する水の冷却の仕方を変更して、福島で起きたような事象の発生後少なくとも10日間にわたって使用済燃料を冷却できるようにすることである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、1,100メガワット級の商用原子力発電所において、受動的手段により炉心と使用済燃料を10日以上にわたって冷却できるように、かかる冷却を受動的に行うことである。
【発明の概要】
【0010】
上記およびその他の目的は、格納容器内に密封して収容された原子力蒸気供給系を有する原子力発電所によって達成される。当該格納容器内またはその周辺に水の貯蔵域がある。使用済原子燃料が当該貯蔵域内で冠水して水冷され、当該貯蔵域内から当該格納容器の外側へ延びる熱サイフォンが、当該貯蔵域から当該格納容器の外側の空気へ受動的に熱を移送するように設置される。一実施態様において、当該熱サイフォンは第1および第2の熱交換器から成り、当該第2の熱交換器は当該第1の熱交換器より高い位置にある。当該第1の熱交換器は、当該貯蔵域内で少なくとも一部が冠水しており、当該第1の熱交換器の第1の側にある当該貯蔵域の水は、当該熱交換器の第2の側にある作動流体と熱連通関係にある。当該第1の熱交換器の当該第2の側は、当該作動流体が循環する閉ループを介して、当該第2の熱交換器の第1の側と流体連通関係にあり、当該第2の熱交換器の当該第1の側にある当該作動流体は、当該第2の熱交換器の第2の側にある当該格納容器の外側の周囲空気と熱連通関係にある。好ましい一実施態様において、当該作動流体は冷媒であり、格納容器の外側の当該閉ループはフィン付き細管から成る。当該格納容器は鋼製シェルから成り、当該鋼製シェルは実質的に当該格納容器の周囲を延び、当該格納容器の下部から当該格納容器の上部へ延びる実質的に垂直な壁を有するのが好ましい。実質的に当該格納容器の当該垂直な壁の周囲に離隔して空気バッフルが延びており、当該空気バッフルの低位置に空気取入口があり、当該空気バッフルの高位置に空気出口があり、当該格納容器の当該垂直な壁と当該空気バッフルとの間の環状部内に当該第2の熱交換器が支持されているのが望ましい。当該第2の熱交換器は、当該環状部の下部に支持されているのが好ましい。
【0011】
別の一実施態様において、前記第1の熱交換器は複数の第1の熱交換器を含み、前記第2の熱交換器は複数の第2の熱交換器を含み、前記閉ループは複数の閉ループを含む。この複数の閉ループは並行動作するように構成され、各々の閉ループは1つ以上の第1の熱交換器および1つ以上の第2の熱交換器を有する。当該第2の熱交換器の各々は、前記格納容器の外側周囲で互いに離隔しているのが好ましい。前記閉ループは、前記作動流体の循環を止めるための弁を有するのが望ましい。
【0012】
一実施態様において、前記貯蔵域は前記格納容器内の燃料交換用水貯蔵タンクである。この態様において、前記第1の熱交換器は前記格納容器内にあり、前記第2の熱交換器は前記格納容器の外側にある。さらに別の実施態様では、前記貯蔵域は前記格納容器の外側で近傍にある使用済燃料プールである。
【0013】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】従来型原子炉システムの単純化した概略図である。
【0015】
図2】受動的に冷却される格納容器内のAP1000(登録商標)原子力蒸気供給系の単純化した概略図である。
【0016】
図3図2のAP1000(登録商標)原子力蒸気供給系の構成機器の格納容器内における配置を示す等角図である。
【0017】
図4】本発明に使用される熱サイフォンで使用される第1および第2の熱交換器の構成を示す略図である。
【0018】
図5】格納容器シェルの概略図であり、格納容器内燃料交換用水貯蔵タンク内にある流体・流体間の第1の熱交換器と、格納容器シェルと空気バッフルとの間の環状部の第1の熱交換器より高い位置にあるガス・空気間の第2の熱交換器とを示している。
【0019】
図5の右上部分に示すのは、格納容器シェルと空気バッフルとの間の環状部にあるガス・空気間の第2の熱交換器に使用されるフィン付き伝熱管の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
前述のように、福島で起きたような事象が万一発生した場合に、AP1000(登録商標)プラントは、図2に示す受動冷却式格納容器22のような受動的安全システムを使用して、少なくとも3日間にわたり冷却機能を継続的に維持するように設計されている。この目的を果たすための安全系統の1つは、図2の受動的格納容器冷却装置である。この受動的格納容器冷却装置22は、いずれも配管網20によって接続されている原子炉容器10、蒸気発生器18、加圧器26および一次冷却材循環ポンプ16を含むAP1000(登録商標)原子力蒸気供給系を取り囲んでいる。当該格納容器システム22の一部分は、コンクリート遮蔽建屋30に取り囲まれた鋼製ドーム状格納容器エンクロージャ28から成り、当該コンクリート遮蔽建屋は当該鋼製ドーム状格納容器28を構造的に保護している。
【0021】
受動的格納容器冷却装置の主要構成機器は、受動的格納容器冷却水貯蔵タンク32、空気バッフル34、空気取入口36、空気排出口38および配水システム40である。受動的格納容器冷却水貯蔵タンク32は、鋼製ドーム状格納容器28の上方の遮蔽建屋構造体30に組み込まれている。鋼製ドーム状格納容器28とコンクリート遮蔽建屋30との間に位置する空気バッフル34は、鋼製ドーム状格納容器28の最上部に近い高さにある遮蔽建屋30の開口部36を入口とする冷却空気の流路を画定する。遮蔽建屋30に入った空気は、空気バッフル34の片側を流下し、鋼製ドーム状格納容器の下部に近い高さで当該空気バッフルを廻り込んで流れ方向を反転した後、当該バッフルと当該鋼製ドーム状格納容器28との間を上昇し、遮蔽建屋30最上部の排出口38から流出する。排出口38は、受動的格納容器冷却水貯蔵タンク32に取り囲まれている。
【0022】
万一事故が発生した場合、受動的格納容器冷却装置は、水を受動的格納容器冷却水貯蔵タンク32から重力によって排出し、鋼製ドーム状格納容器28の表面に水膜を形成する。当該水膜が蒸発することによって、鋼製ドーム状格納容器建屋28が除熱される。
【0023】
受動的格納容器冷却装置は、格納容器の加圧を伴う設計基準事象後72時間以上にわたって運転員による操作がなくても格納容器圧力が設計値を下回るように、引き続き発生する崩壊熱を含めた熱エネルギーを格納容器雰囲気から十分に除去することができる。
【0024】
鋼製ドーム状格納容器28を取り囲む遮蔽建屋30と空気バッフル34との間に形成される空気流路によって、格納容器の外側鋼材面に沿って上昇する空気の自然循環が生じる。この空気の自然循環の駆動力は、流動する空気が格納容器鋼材表面によって加熱される時、および空気が加熱されて格納容器表面に供給された水を蒸発させる時に発生する浮力である。流動する空気も、水面での蒸発を促進させる。事故が起きた場合に、格納容器鋼材表面から空気へ対流により移動する熱量は、必要とされる全移動熱量の小さな割合でしかない。そのような全移動熱量は主として、格納容器鋼材表面の湿った領域の水の蒸発によるものであるが、この蒸発によってその表面の水が冷却され、さらに格納容器鋼材が冷却され、さらに格納容器内の雰囲気が冷却され、格納容器内で蒸気が凝縮する。
【0025】
鋼製ドーム状格納容器22からの十分な熱の移動を維持し、格納容器の圧力を制限および低減するには、想定される設計基準事象が起きてから最初の3日を経た後、AP1000(登録商標)受動的格納容器冷却装置は格納容器の外部鋼材表面に対して水が継続的に供給されることを必要条件とする。この水は当初、前記のように受動的な重力による流れによって供給される。3日経過後に水は、能動的な手段により、最初はサイト内の貯蔵水から、その後はサイト内またはサイト外の他の給水源から供給される。この格納容器冷却プロセスに関しては、2012年4月12日に出願された米国特許出願第13/444,932号(代理人整理番号NPP2009−014)に詳細な説明がある。
【0026】
AP1000(登録商標)はまた、炉心内の燃料集合体を冷却材に覆われた状態に確実に保つための受動的システムを有する。一次冷却材ループが万一漏洩した場合、そのような受動的システムが自動的に作動する。冷却材がほんの少量失われることがあるが、その際、原子炉冷却材回路を減圧することなく、比較的小さな高圧補給水供給源から冷却材を追加注入することができる。大量の冷却材が失われた場合、大量の水を収容している低圧供給源から冷却材を追加供給する必要がある。ポンプにより原子炉冷却材回路の実質的な圧力(例えば2,250psi、すなわち150バール)を克服するのは困難であることから、大量の冷却材が失われた場合、原子炉冷却材回路を自動的に減圧して、原子炉格納容器ドーム28内の周囲圧力下で格納容器内燃料交換用水貯蔵タンクから冷却水を追加供給できるようにする。したがって、図3に示すように、AP1000(登録商標)原子炉システムには冷却材喪失に対処する冷却材補給源が2つある。高圧炉心補給水タンク42の入口は、弁を介して、原子炉冷却材入口またはコールドレグ44に結合される。高圧炉心補給水タンク42はまた、電動弁および逆止弁を介して、原子炉容器注入口46に結合される。高圧炉心補給水タンク42は、比較的少量の損失を補うために、原子炉の運転圧力下で原子炉冷却材回路20に冷却材を補給するように動作できる。高圧炉心補給水タンク42は限られた量の冷却材しか備蓄していないが、図3からわかるように、当該システムには2つの炉心補給水タンクがある。
【0027】
格納容器内燃料交換用貯水タンク48から格納容器建屋28内へ通じている通気孔を開くことによって、大気圧下で当該タンク48からはるかに多量の冷却水が得られる。原子炉システムを減圧することによって、格納容器内燃料交換用貯水タンク48から原子炉容器10内へ冷却水を排出する仕組みについては、2010年12月20日に提出され、本願の譲受人に譲渡された米国特許出願第12/972,568(米国特許出願公開第2012/0155597号、2012年6月1日発行)に詳しい説明がある。
【0028】
本発明は、同時係属特許出願第14/195,890号(代理人整理番号NPP2012−002)で記述されているように、原子炉から最も最近取り出した使用済燃料を、使用済燃料プールへの移送前に1燃料サイクル全体にわたって格納容器内に貯蔵して、使用済燃料プール内の使用済燃料から生じる崩壊熱を最小限に抑えることにより当該使用済燃料プールの冷却能力を高めるようにした、AP1000(登録商標)プラントの他の安全系統に対する改良である。本発明は、使用済燃料と炉心の両方からの崩壊熱が長時間にわたって環境へ伝達されるように、使用済燃料プールおよび格納容器内燃料交換用水貯蔵タンクを空気冷却可能にすることによって、前述のプロセスを補完するものである。電力や外部からの支援に頼らずに、水の補給が必要になるまでの期間を4週間以上に延ばすことができる。本発明が提供する改良によって以下を達成する。(i)使用済燃料プール水をサブクール状態に保つことにより、使用済燃料プール水が沸騰して環境中へ蒸発するのを防ぐ(前述の同時係属特許出願で開示したように、最も最近取り出した使用済燃料を1回の燃料サイクルにわたって格納容器内に貯蔵することによって、使用済燃料プール水の空冷に必要な伝熱面を最小にすることができる)。および(ii)格納容器内燃料交換用水貯蔵タンクの水の沸騰速度を下げ、空気への熱伝達を増進させて、受動的格納容器冷却装置との協働により、受動的格納容器冷却装置貯水タンクの水を(3日間で)排出した後の格納容器の外部表面への水の継続的供給を不要にする。
【0029】
本発明の好ましい一実施態様では、図4に略示するように使用済燃料プールおよび格納容器内燃料交換用水貯蔵タンク用として複数の別個の冷却ループがあり、各ループ50は、使用済燃料プールまたは格納容器内燃料交換用水貯蔵タンクの水に冠水させる熱交換器52(第1の熱交換器)と、受動的格納容器冷却装置の環状冷却部の下部または格納容器建屋22の外側(図2の破線54で表象的に示す)に配置された空冷式熱交換器54(第2の熱交換器)と、当該冷却ループ50内で冷却材水位を保つ小型サージタンク60とを含む。このループは実質的に熱サイフォンを形成する。ループ内の液体が第1の熱交換器(52)で加熱され、膨張して密度が低下し、当該ループ50底部の低温の作動流体に比べて浮力が増加すると、液体の対流運動が始まる。加熱された液体は対流によってシステム内を上昇し、それと同時に、第2の熱交換器(54)によって冷却された低温の液体が重力によりこの加熱された液体に置き換わる。後述するように、発電所サイトの気温が過度に低くならない限り、作動させる必要のある隔離弁や他の構成機器を冷却ループ内に設ける必要はなく、冷却ループは常に運転可能である。
【0030】
冷却材ループは、245faなどの冷媒を含むのが好ましい。この冷媒は、例えば約120psia(8.3バール)の圧力において華氏約180度(82℃)で、あるいは175psia(12.1バール)の圧力において華氏210度(98.9℃)で気化する。したがって、使用済燃料プールおよび格納容器燃料交換用水貯蔵タンク内の熱交換器52(第1の熱交換器)は、冷媒を蒸発させる蒸発器として機能し、使用済燃料プールまたは格納容器内燃料交換用水貯蔵タンク内の加熱される水の温度に応じて冷却ループを加圧する。一方、空冷式熱交換器54(第2の熱交換器)は凝縮器として機能する。これにより、冷媒流を駆動して熱を環境に排出する働きをする二相熱サイフォンシステムが構成されるが、このシステムは、使用済燃料プールまたは格納容器内燃料交換用水貯蔵タンクの水と冷却空気との間の温度差によって生じる液体冷媒と気化された冷媒との間の大きな密度差を利用する。より易しく説明すると、この熱サイフォンループ56では、使用済燃料プールおよび/または格納容器内燃料交換用水貯蔵タンク内の水温によって冷媒が加熱されて気化し、冷却ループが加圧される。気化した冷媒は上昇して凝縮用熱交換器に達すると、そこで加熱された気体が空冷されて凝縮する。液化した冷媒は重力によって蒸発用熱交換器に還流し、同じサイクルが繰り返される。
【0031】
空冷式熱交換器(凝縮器)54は、受動的格納容器冷却装置の環状冷却部58(図2に示す)の下部に設置して受動的格納容器冷却装置の空気流路を利用するのが好ましい。この流路は空気の自然循環を発生させる流路であり、AP1000(登録商標)遮蔽建屋の中に流入した空気は、受動的格納容器冷却装置の空気バッフルと遮蔽建屋30の内部表面との間の環状部を降下し、格納容器28と受動的格納容器冷却装置の空気バッフル34との間の受動的格納容器冷却装置の環状冷却部58を上昇し、遮蔽建屋30の中央最上部または格納容器建屋22の外側に位置する空気排出口構造体38から流出する。受動的格納容器冷却装置の流路を十分に大きく設計することにより、3日間の水冷の後、格納容器の圧力を格納容器設計圧力より低く保ちつつ、使用済燃料および炉心の崩壊熱を移送するのに必要な空気流が得られるようにする。
【0032】
プラントが通常に運転され、使用済燃料プール24および格納容器内燃料交換用水貯蔵タンク48内の水が通常温度(華氏120度(48.9℃)以下)に保たれている時、冷却ループ50は低容量で運転され、冷媒245faが気化して冷媒圧力が50psia(3.4バール)以下になる。この運転モードでは、水、冷媒および空気の間の温度差が小さい上に、気体冷媒の密度が低く気体ライザー管内の流速が大きくなるため、水から空気への熱伝達が制限される。使用済燃料プールの通常の冷却ができなくなって温度が上昇する場合、気化する冷媒の量が増え、ループ内の圧力が上昇し、気体冷媒の密度と温度が上昇するので、空気への熱伝達が大きくなる。
【0033】
なお、周囲気温が低い場合、冷却ループは、使用済燃料プールおよび格納容器内燃料交換用水貯蔵タンクの水を過度に冷却する可能性がある。そのような条件が生じそうな用途では、運転員が冷却ループ50を隔離して熱伝達を止められるように、故障時に開く隔離弁62を冷却ループに追加することができる。
【0034】
使用済燃料プール24および格納容器内燃料交換用水貯蔵タンク48内で冠水する熱交換器52(蒸発器)は、受動的格納容器冷却装置の環状冷却部58または格納容器建屋22の外側にある空冷式熱交換器54(凝縮器)とは異なるのが好ましい。蒸発用熱交換器52は、垂直細管64がそれぞれ下部ヘッダーパイプ66と上部ヘッダーパイプ68とに取り付けられているものが好ましい。各細管64は、冷却材が沸騰した場合に平行流路が不安定になるのを防ぐ入口オリフィスを含むのが好ましい。格納容器内燃料交換用水貯蔵タンクの熱交換器(凝縮器およびそれに関連する蒸発器)は、十分な熱を環境に移送できる大きさのものにして、受動的格納容器冷却水貯蔵タンク32からの排水後(排水の開始から3日後)に格納容器の圧力が上昇しても格納容器設計圧力を超えないようにする。
【0035】
使用済燃料の蒸発用熱交換器52もまた、垂直細管64が下部ヘッダーパイプ66と上部ヘッダーパイプ68とに取り付けられているものにする。各細管もまた、冷却材が沸騰した場合に平行流路が不安定になるのを防ぐ入口オリフィスを有する。使用済燃料プールの蒸発用熱交換器52は、十分な熱を環境に移送できる大きさのものにして、使用済燃料プール水の温度が華氏200度(93.3℃)を超えないようにする。
【0036】
使用済燃料プールおよび格納容器内燃料交換用水貯蔵タンクの凝縮用熱交換器54は、垂直細管64がそれぞれ下部ヘッダーパイプ66と上部ヘッダーパイプ68とに取り付けられており、当該細管には有効表面積を増やすための垂直フィンが取り付けられており、それでもなお空気が管束を通って上に流れるようになっている。当該フィンは、空気の乱流が生じて細管から空気への有効熱伝達率が大きくなるように、若干波打っているのが好ましい。凝縮器54は、格納容器シェル28の外部表面に隣接して、受動的格納容器冷却装置の空気バッフル34の内側の空気バッフル入口整流板72のすぐ上に設置するか、または格納容器建屋28の外側に設置する。
【0037】
図5は熱交換器52、54の概略側面図であり、熱交換器52は格納容器内燃料交換用水貯蔵タンク48内で冠水しており、熱交換器細管の周囲には、細管64の間の流動域が汚れるのを防ぐためのスクリーン74がある。凝縮用熱交換器54の細管フィン拡大断面図を、図5の右上部分に示す。
【0038】
したがって本発明は、原子力発電所のサイト内およびサイト外電源が故障した場合に使用済燃料を受動的に冷却できる日数を増やすことによって、同時係属特許出願第14/195,890号(代理人整理番号NPP 2012−002)で出願された発明を補完する。冷却ループ内で自然循環する冷媒を使用することにより、この冷却プロセスの効率が長期にわたって高められる。さらに、現在使用されている能動的な使用済燃料プール冷却装置は、本発明の装置による一部の追加的な冷却の恩恵を受けることになる。本発明の装置は使用済燃料プールの水温を下げるので、既存の補機冷却水設備への熱負荷が小さくなる。
【0039】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何らも制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物である。
図1
図2
図3
図4
図5