特許第6402184号(P6402184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6402184多光子イオン化に基づく皮膚処置用の皮膚処置装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402184
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】多光子イオン化に基づく皮膚処置用の皮膚処置装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/067 20060101AFI20181001BHJP
   H05H 1/26 20060101ALI20181001BHJP
   A61B 18/20 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   A61N5/067
   H05H1/26
   A61B18/20
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-528868(P2016-528868)
(86)(22)【出願日】2014年10月29日
(65)【公表番号】特表2017-500078(P2017-500078A)
(43)【公表日】2017年1月5日
(86)【国際出願番号】EP2014073178
(87)【国際公開番号】WO2015071099
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2017年10月26日
(31)【優先権主張番号】13192534.9
(32)【優先日】2013年11月12日
(33)【優先権主張国】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】KONINKLIJKE PHILIPS N.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルゲーゼ,バブー
(72)【発明者】
【氏名】フェルハーヘン,リーコ
(72)【発明者】
【氏名】ユルナ,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】パレロ,ホナタン アランブラ
(72)【発明者】
【氏名】ホートン,マーガレット ルース
(72)【発明者】
【氏名】ボニート,ヴァレンティーナ
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−074081(JP,A)
【文献】 特表2008−526423(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0199540(US,A1)
【文献】 特表平11−504843(JP,A)
【文献】 特表2012−515565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/067
A61N 1/44
A61B 18/20
H05H 1/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚組織内の標的位置で多光子イオン化過程を発生させる皮膚処置装置であって、
処置レーザビームを発生するように構成及び構築されるレーザ源と、
使用時に前記処置レーザビームが前記皮膚組織内の前記標的位置のフォーカルスポットに集束されるように構成及び構築される光学系と、
プラズマを発生するように構成及び構築され、使用時に前記プラズマの少なくとも一部が前記皮膚組織に侵入して前記皮膚組織内の前記標的位置で少なくとも1つの自由電子を生成するようにするプラズマユニットと、
前記レーザ源及び前記プラズマユニットを制御するように構成及び構築される制御ユニットと
を有し、
前記レーザ源及び前記光学系は、
使用時に、それより高いパワー密度において前記処置レーザビーム内に存在する光子の吸収によって前記皮膚組織内で自由電子が生成されるというパワー密度である前記皮膚組織に関する第1のパワー密度閾値よりも、前記皮膚組織内の前記フォーカルスポットにおける前記処置レーザビームのパワー密度が低く、且つ、それより高いパワー密度において自由電子による前記処置レーザビーム内に存在する光子の逆制動放射吸収によって前記皮膚組織内でアバランシェイオン化過程が発生されるというパワー密度である前記皮膚組織に関する第2のパワー密度閾値よりも、前記フォーカルスポットにおける前記処置レーザビームの前記パワー密度が高い、
ように構成及び構築される、
ことを特徴とする皮膚処置装置。
【請求項2】
前記制御ユニットは、前記プラズマユニットによって前記プラズマが発生された後にのみ、前記レーザ源を活性化して前記処置レーザビームを発生させるように構成及び構築される、請求項1に記載の皮膚処置装置。
【請求項3】
当該皮膚処置装置は更に、前記制御ユニットによって制御される電界発生器を有し、前記電界発生器は、使用時に前記プラズマを前記標的位置に向けて案内する電界を発生するように構成及び構築される、請求項1に記載の皮膚処置装置。
【請求項4】
前記制御ユニットは、前記標的位置に向けての前記プラズマの所望の侵入深さ及び/又は所望の侵入速さを達成するために、前記電界発生器によって発生される前記電界の強さを調節するように構成及び構築される、請求項3に記載の皮膚処置装置。
【請求項5】
前記プラズマユニットは、前記プラズマが中で発生されるプラズマチャネルを有し、使用時に、流体が皮膚表面に向かって前記プラズマチャネルを通って流れ、前記流体の少なくとも一部が前記プラズマチャネル内で前記プラズマに変換される、請求項1に記載の皮膚処置装置。
【請求項6】
前記プラズマチャネルは、前記皮膚表面に向けて前記プラズマを放出する出口を有し、該出口は、前記プラズマを前記標的位置の方に向けるように構成及び構築される、請求項5に記載の皮膚処置装置。
【請求項7】
前記流体は希ガスを有する、請求項5に記載の皮膚処置装置。
【請求項8】
前記プラズマユニットは、皮膚表面又はその付近に、該皮膚表面又はその付近で前記プラズマを発生するためのプラズマ発生手段を有する、請求項1に記載の皮膚処置装置。
【請求項9】
前記プラズマユニットは、直流プラズマ、非直流プラズマ、及び/又はハイブリッドプラズマを発生するように構成される、請求項1に記載の皮膚処置装置。
【請求項10】
前記プラズマユニットによって発生されるプラズマは非熱プラズマを有する、請求項1に記載の皮膚処置装置。
【請求項11】
前記光学系は、前記皮膚組織の内部の複数の標的位置に複数のフォーカルスポットを生成するように構成及び構築され、前記プラズマユニットは、皮膚表面付近に前記プラズマを発生するように構成及び構築され、使用時に前記プラズマの少なくとも一部が前記皮膚組織に侵入して前記複数の標的位置の各々で少なくとも1つの自由電子を生成するようにする、請求項1に記載の皮膚処置装置。
【請求項12】
当該皮膚処置装置は2つ以上のプラズマユニットを有する、請求項11に記載の皮膚処置装置。
【請求項13】
前記標的位置は、皮膚表面の下方0と2mmとの間にあり、又は前記標的位置は、皮膚表面の下方0.5mmと1.5mmとの間にある、請求項1に記載の皮膚処置装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、レーザ光を用いた皮膚の処置に関し、より具体的には、皮膚組織内の標的位置で多光子イオン化過程を発生させる皮膚処置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の皺(しわ)を防止あるいは減らすことによって若々しい容姿を維持したいと願うことは、人間社会における重要な関心事である。この問題を達成するために数多くの技術が考案されてきた。特許文献1(WO2008/001284A2)から知られるそれらの技術のうちの1つは、処置すべき皮膚の真皮層内にフォーカルスポットを作り出すものである。この特許文献1は、レーザ源と集束(フォーカシング)光学系とを備えた皮膚処置装置を開示しており、そこでは、皮膚組織の再成長を刺激して皺を減らすために、レーザ誘起オプティカルブレイクダウン(Laser Induced Optical Breakdown;LIOB)が皮膚に作用するようにレーザのパワーが選定される。このLIOBは、皮膚組織によるレーザ光の強い非線形吸収に基づき、これは、レーザビームのフォーカルスポットにおいて、レーザ光のパワー密度に関する特定の閾値より上で起こる。この強い吸収は、プラズマ位置の組織を損傷あるいは更に除去することができる局在化されたプラズマを生じさせる。これは、例えば生成されたプラズマの急速な膨張などの、二次的な、主として機械的な効果によって発生される。この効果は非常に局所的である。何故なら、閾値より下では、存在する線形及び非線形な吸収がゼロ又は非常に僅かである一方で、閾値より上では、プラズマが生成され、これがよりいっそう強くレーザ光を吸収するからである。換言すれば、LIOBのような効果はフォーカルスポットにおいてのみ発生し、フォーカルスポットの上でも下でも、全く又は遥かに弱い効果しか発生しない。これが意味することは、例えば、表皮は不所望の効果又は損傷から容易に守られるということである。
【0003】
例えばレーザ誘起オプティカルブレイクダウンなどの多光子イオン化過程によるレーザ皮膚アブレーションは、1013W/cmのオーダーの高い光強度を必要とする。非常に高い光子束(典型的に、>1031cm−2−1)に起因して、λの波長でhνのエネルギーを持つ複数(N)個の光子は、エネルギーNhνの光子のように振る舞い、電子と相互作用して、価電子帯から電子を自由にする。これは、吸収される光子の総エネルギーがイオン化電位よりも高いこと(Nhν>Δ)を必要とする。このイオン化による所謂シード(種)電子又は自由電子の生成は、材料のイオン化電位を上回る総エネルギー(Nhν>Δ)を有する空間的(フォーカルボリューム)且つ時間的(〜ナノ秒からフェムト秒)に閉じ込められた同じ偏光を持つ複数(N)個の光子を必要とする。皮膚の奥深くで多光子イオン化過程を達成することは難題である。
【0004】
特許文献2(US2013/0199540A1)は、大気プラズマジェットを生成するプラズマ源と、処置対象の組織を有する身体部分の支持装置と、組織の表面に対してプラズマ源を動かす移動装置と、移動装置の制御及びプラズマ源の動作の制御を行う制御装置とを備えた、生体組織のプラズマ処置用の装置を開示しており、そこでは、制御装置が、組織に対する位置の関数としてプラズマ出力を調節する手段を有している。一形態において、その装置は、プラズマジェットの出口開口の前端と処置対象物との間の距離を測定するための光学手段を有する。この光学手段は、プラズマ発生器の内部電極内に形成されたチャネルを通して処置対象物に向けられるレーザビームを生成するレーザ源を有している。対象物によって反射されたレーザビームが、上記チャネル中を反対方向に案内され、出力カップリングミラーによって光センサへと反射される。他の一形態においては、プラズマ処置の前、最中、及び後に、温熱処置、光処置、及び/又はレーザ処置が実行され得る。これらの追加処置は、プラズマ処置が機能する仕方をサポート及び拡張し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/001284号パンフレット
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0199540号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、それによって比較的低い光強度で多光子イオン化過程が作り出されるような、皮膚組織内の標的位置で多光子イオン化過程を生成する非侵襲的な皮膚処置装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記目的は、
処置レーザビームを発生するように構成及び構築されるレーザ源と、
使用時に処置レーザビームが皮膚組織内の標的位置のフォーカルスポットに集束されるように構成及び構築される光学系と、
プラズマを発生するように構成及び構築され、使用時にプラズマの少なくとも一部が皮膚組織に侵入して皮膚組織内の標的位置で少なくとも1つの自由電子を生成するようにするプラズマユニットと、
レーザ源及びプラズマユニットを制御するように構成及び構築される制御ユニットとを有する皮膚処置装置であって、
使用時に、それより高いパワー密度において処置レーザビーム内に存在する光子の吸収によって皮膚組織内で自由電子が生成されるというパワー密度である皮膚組織に関する第1のパワー密度閾値よりも、皮膚組織内のフォーカルスポットにおける処置レーザビームのパワー密度が低く、且つ、それより高いパワー密度において自由電子による処置レーザビーム内に存在する光子の逆制動放射(Inverse Bremsstrahlung)吸収によって皮膚組織内でアバランシェイオン化過程が発生されるというパワー密度である皮膚組織に関する第2のパワー密度閾値よりも、フォーカルスポットにおける処置レーザビームのパワー密度が高い、ようにレーザ源及び光学系が構成及び構築される皮膚処置装置、によって達成される。
【0008】
本発明は、以下の洞察、すなわち、皮膚組織の内部でシード電子又は自由電子を生成するのに必要な、レーザビーム強度、すなわち、フォーカルスポットにおけるレーザビームのパワー密度が、その後の多光子イオン化過程におけるアバランシェイオン化過程を発生するのに必要なレーザビーム強度よりもかなり高いという洞察に基づく。本発明者が認識したことには、皮膚表面付近にプラズマを供給することによって、多光子イオン化過程を発生するのに必要な総レーザビーム強度が低減される。皮膚表面付近に供給されたプラズマは、皮膚組織に侵入して、標的位置に少なくとも1つの自由電子を生成する。プラズマによって生成された標的位置における自由電子が、続いて、イオン化過程のためのシード電子として作用する。標的位置に集束されるものである処置レーザビームの光の少なくとも一部が、プラズマによって生成された自由電子によって吸収されて、皮膚組織内でアバランシェイオン化過程が開始されることになる。故に、多光子イオン化過程のためのシード電子を生成するプラズマの存在により、プラズマの存在なしでレーザ光のみによって発生される多光子イオン化過程と比較して、多光子イオン化過程を発生するのに必要な処置レーザビーム強度が低減される。
【0009】
皮膚組織内にリージョンを作り出す多光子イオン化過程は、例えば1013W/cmのオーダーの、高い光強度、すなわち、レーザビームの高いパワー密度を必要とする。多光子イオン化過程は実際には二段階プロセスであり、第1ステップで、同じ偏光状態を持つ複数の光子の吸収によって自由電子又はシード電子が生成される。第2ステップで、シード電子による光子の逆制動放射吸収によってアバランシェイオン化過程が発生される。シード電子を生成するのに必要なレーザビーム強度閾値は、アバランシェイオン化過程を発生するのに必要なレーザビーム強度閾値と比較して有意に高い。多光子イオン化によるシード電子の生成は、媒体特性及びビーム特性の双方の関数である。偏光された光が皮膚のような不透明媒体の内部に集束されるとき、フォーカルスポットにおいて同じ偏光を持つ光子の割合が有意に低下する。これは、高NAフォーカシング、多重散乱、及び皮膚組織の複屈折性による光子(の一部)の偏光の変化によって引き起こされる。既知の皮膚処置装置によって多光子イオン化過程を発生するのに必要な、比較的高いレーザビーム強度閾値が、皮膚組織内の標的位置における多光子イオン化に利用可能な同じ偏光を持つ光子数の低下を、少なくとも部分的に補償すべきである。この多光子イオン化過程の開始及び発生に必要な、この比較的高い強度閾値はまた、周囲組織への副次的なダメージのリスクを増大させるとともに、既知の皮膚処置装置の総パワー要件を有意に高める。皮膚表面付近で発生され且つ皮膚組織に侵入して皮膚組織内の標的位置に少なくとも1つの自由電子を生成するプラズマを用いることにより、多光子イオン化過程を発生するのに必要な処置レーザビーム強度の低減が、既知の皮膚処置装置を用いるときに必要なレーザビーム強度閾値よりも十分に低いレベルまで達成される。
【0010】
本発明に従った皮膚処置装置の一実施形態において、制御ユニットは、プラズマユニットによってプラズマが発生された後にのみ、レーザ源を活性化して処置レーザビームを発生させるように構成及び構築される。従って、プラズマユニットによって発生されるプラズマが、皮膚組織に侵入して、標的位置に少なくとも1つの自由電子を提供することができる。
【0011】
本発明に従った皮膚処置装置の更なる一実施形態において、皮膚処置装置は更に、制御ユニットによって制御される電界発生器を有し、電界発生器は、使用時にプラズマを標的位置に向けて案内する電界を発生するように構成及び構築される。プラズマを標的位置に向けて案内することに加えて、この電界はまた、プラズマの少なくとも一部を、標的位置に到達して標的位置に少なくとも1つの自由電子を提供するように、皮膚組織の中に進ませるように構成及び構築され得る。この実施形態において、制御ユニットは、標的位置に向けてのプラズマの所望の侵入深さ及び/又は所望の侵入速さを達成するために、電界発生器によって発生される電界の強さを調節するように構成及び構築され得る。例えば、皮膚処置装置の処置レーザビームが、比較的大きい領域の処置のために皮膚表面上で走査されるとき、処置中にユーザによって用いられる走査速さと適合するように、電界の強さが調節又は適応され得る。
【0012】
本発明に従った皮膚処置装置の一実施形態において、プラズマユニットは、プラズマがその中で発生されるプラズマチャネルを有する。この実施形態においては、使用時に、流体が皮膚表面に向かってプラズマチャネルを通って流れ、この流体の少なくとも一部がプラズマチャネル内でプラズマに変換される。皮膚表面に向かってプラズマチャネルを通って流れる流体は、プラズマの流れ、あるいは更にプラズマジェットを生じさせることになり、それが、皮膚組織の表面に向けられ得るとともに、表面位置に向けてのプラズマの侵入深さ及び侵入速さを改善するために使用され得る。本発明に従った皮膚処置装置の更なる一実施形態において、プラズマチャネルは、皮膚表面に向けてプラズマを放出する出口を有し、該出口は、プラズマを皮膚組織内の標的位置の方に向けるように構成及び構築される。出口は例えば、プラズマジェットがそれから放出されるノズルを有することができ、該ノズルが、皮膚組織の内部の標的位置の方にプラズマジェットを向けるために使用され得る。皮膚処置装置が使用中であるとき、流体がプラズマチャネルを通って、2と20標準リットル毎分との間の流量で、又は例えば5と10標準リットル毎分との間の流量で流れ得る。好ましくは、流体は、例えばアルゴンなどの希ガスを有する。希ガスを用いることは、プラズマによる標的位置での上記少なくとも1つの自由電子又はシード電子の生成中に、不所望の化学反応が起こることを防止することになる。例えばアルゴンガスの使用は、その他の希ガスに対してアルゴンガスが比較的安価であるので、比較的コスト効率的なソリューションをもたらす。
【0013】
本発明に従った皮膚処置装置の一実施形態において、プラズマユニットは、皮膚表面又はその付近に、該皮膚表面又はその付近でプラズマを発生するためのプラズマ発生手段を有する。このようなプラズマ発生手段は、例えば、皮膚表面又はその付近に配置される電極とし得る。そのような電極は、例えば、周囲空気を電離することで、皮膚の表面又はその付近にプラズマを発生し得る。
【0014】
皮膚処置装置の一実施形態において、プラズマユニットは、直流プラズマ、非直流プラズマ、及び/又はハイブリッドプラズマを発生するように構成される。直流プラズマでは、皮膚組織が電極として機能し、電流が身体を流れる。プラズマユニットは、例えば、誘電体バリア放電装置を有し得る。このような直流プラズマで電離される流体は、例えば、誘電体バリア放電装置の近傍の周囲空気である。非直流プラズマは、例えば、それらを通って標的位置まで流体が流れる2つの電極を用いて、皮膚組織から離れた位置で発生される。この流体は、例えば空気とすることができ、好ましくは希ガスである。このような一実施形態において、プラズマユニットは例えばプラズマトーチを有し得る。ハイブリッドプラズマは、直流プラズマの発生のモードを有するとともに、非直流プラズマの特性を有する。低い電気抵抗を持つ接地された電極ネットの使用により、皮膚組織を電流が流れない。プラズマユニットは、例えば、バリアコロナ放電装置を有し得る。
【0015】
皮膚処置装置の一実施形態において、プラズマユニットによって発生されるプラズマは非熱プラズマを有する。非熱プラズマすなわち“コールド”プラズマにおいては、流体の一部のみが電離される。非熱プラズマは、安全性の理由で好ましい。何故なら、それは典型的に、しばしば室温近くである低温を有する一方で、標的位置で少なくとも1つの自由電子を生成するのに十分に電離されるからである。これに代えて、ホットプラズマが使用されてもよい。
【0016】
皮膚処置装置の一実施形態において、光学系は、皮膚組織の内部の複数の標的位置に複数のフォーカルスポットを生成するように構成及び構築され、プラズマユニットは、皮膚表面付近にプラズマを発生するように構成及び構築され、使用時にプラズマの少なくとも一部が皮膚組織に侵入して複数の標的位置の各々で少なくとも1つの自由電子を生成するようにする。この実施形態においては、皮膚組織へのプラズマの侵入が、皮膚表面の比較的大きい領域にわたって起こり得る。単一のプラズマユニットを用いて、比較的大きい処置領域にわたって分布され得る上記複数の標的位置の各々で少なくとも1つの自由電子を生成してもよい。例えば、皮膚処置装置は走査システムを有することができ、その走査システムによって、皮膚組織の内部の複数の隣接する標的位置に処置レーザビームが走査及び集束される。走査システムは、例えば、皮膚処置装置の中に配置された走査ミラー構成を有し得る。比較的大きい処置領域を提供するこのような皮膚処置装置は、処置領域全体を実質的にカバーするとともに処置領域内の複数の標的位置の各々に少なくとも1つの自由電子を提供する単一のプラズマユニットを有し得る。それに代えて、皮膚処置装置は2つ以上のプラズマユニットを有していてもよい。2つ以上のプラズマユニットの使用は、例えば、処置領域が大きくなり過ぎて単一のプラズマユニットではカバーできないときに有利であり、又は、皮膚処置装置の走査システムの走査速度が比較的高くて、プラズマが好ましくは標的位置のいっそう近くで発生されるときに有利である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】光誘起オプティカルブレイクダウン過程を示す模式図である。
図2】本発明に従った皮膚処置装置の第1の実施形態を図式的に示す図である。
図3A】本発明に従った皮膚処置装置の第2の実施形態を図式的に示す図である。
図3B】本発明に従った皮膚処置装置の第3の実施形態を図式的に示す図である。
図3C】本発明に従った皮膚処置装置の第4の実施形態を図式的に示す図である。
図4】アルゴンガスの複数の異なる流量について、プラズマの使用あり及びなしで、光誘起オプティカルブレイクダウン過程を発生させるのに必要なレーザパワー強度閾値を比較する測定結果を示している。 なお、異なる図中の同じ参照符号を有するアイテムは、同じ構造的特徴及び同じ機能を有し、あるいは同じ信号を表す。そのようなアイテムの機能及び/又は構造が説明済みである場合、詳細な説明におけるその繰り返し説明の必要性はない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1は、光誘起オプティカルブレイクダウン過程の模式図300を示している。皮膚組織の内部にリージョン(lesion)を作り出す多光子イオン化は、1013W/cmのオーダーの高い光強度を必要とする。先述のように、また、図1に示すように、多光子イオン化過程は実際には二段階プロセスであり、第1ステップ310で、同じ偏光状態を持つ複数の光子の吸収によってシード(種)電子が作り出される。第2ステップ320で、シード電子による光子の逆制動放射(Inverse Bremsstrahlung)吸収によって電離なだれ(アバランシェ)が発生される。皮膚組織内でシード電子を作り出すためのレーザビーム強度閾値Ith1、すなわち、皮膚組織の第1のパワー密度閾値特性は、皮膚組織内で電離なだれを発生させるためのレーザビーム強度閾値Ith2、すなわち、皮膚組織の第2のパワー密度閾値特性よりも有意に高い。多光子イオン化過程を開始するための、この比較的高いレーザビーム強度閾値Ith1は、典型的に、シード電子を作り出すために必要とされる。皮膚特性及び高NAフォーカシングが、集束されたレーザビームの一部を偏光解消しながら、シード電子を自由にするために、同じ偏光を持つ複数の光子(6光子と12光子との間)が吸収されなければならないという要件は、接近するレーザ光が標的位置110に集束されてシード電子を自由にすることをもたらす。標的位置110内でシード電子が自由にされると直ちに、シード電子が、レーザビームによって供給される光子の逆制動放射の部分を吸収して、アバランシェイオン化過程を発生させる。本発明によれば、皮膚表面又はその付近で提供あるいは発生されるプラズマを用い、且つ該プラズマが皮膚組織に侵入して標的位置で少なくとも1つの自由電子を提供することを可能にすることにより、多光子イオン化過程を発生させるためのレーザビーム強度の低減が達成される。特に、使用時に、皮膚組織内の処置レーザビームのフォーカルスポットにおける処置レーザビームのパワー密度(W/cm)が皮膚組織(102)の上記第1のパワー密度閾値(Ith1)よりも低く、且つフォーカルスポットにおける処置レーザビーム(106)のパワー密度(W/cm)が皮膚組織(102)の上記第2のパワー密度閾値(Ith2)よりも高いように、レーザ源及び光学系を設定及び構築することによって、多光子イオン化過程が達成される。
【0019】
図2は、本発明に従った皮膚処置装置200の第1の実施形態を図式的に示している。図2に示すこの第2の実施形態は、レーザ源105、レーザ走査ユニット107、ビーム整形系109、プラズマユニット117、プラズマ−レーザ集束ユニット111A、及び制御ユニット123を有している。レーザ源105は、例えば、1064nmの発光波長及び1−1000ピコ秒のパルス持続時間を有するNd:YAGレーザからの超短レーザパルスといった、レーザパルスの形態でレーザビーム106を発する。当然ながら、異なる波長を持つレーザビーム106も使用され得る。図2に示す皮膚処置装置200は更に、皮膚処置装置200にはオプションであるレーザ走査ユニット107を有している。このようなレーザ走査ユニット107はしばしば、例えば皮膚処置装置200の処置領域(指し示さず)の中で、レーザビーム106をスキャンするように構成された1つ以上の可動ミラー108を有する。この1つ以上の可動ミラー108は、回転式ホイール(図示しないが、アキシコンホイールとして示されることが多い)上に配置されてもよいし、あるいは、1次元、2次元又は3次元で動くことが可能なミラー108であってもよい。ビーム整形系109は、レーザビーム106のプロファイルを変更するように構成され、例えば、拡大レンズ109aを用いてレーザビーム106を広げ、その後、拡大されたレーザビーム106を、コリメートレンズ109bを用いて皮膚組織102内に集束させるように構成される。プラズマユニット117は、電源119、ガス源121、及びプラズマチャネル118を有している。電源119は、例えば、高電圧の電気エネルギーを供給し、この電気エネルギーが、例えば、直流(さらにDCとしても指し示す)から無線周波数(さらにRFとしても指し示す)までの周波数出力範囲内で周波数変調され得る。ガス源121は、例えば、電源119を用いて、プラズマチャネル118内でプラズマに変換されるガスといった流体を供給する。このようなガスの一例は、本実施形態においてはプラズマチャネル118へと流れ込むアルゴンとし得る。しかしながら、好ましくはその他の希ガスであるその他のガスも使用され得る。他の例では、プラズマユニット117は、皮膚表面103又はその付近の周囲空気をイオン化して、皮膚表面103又はその付近にプラズマを発生させてもよい。
【0020】
本実施形態においては、アルゴンガスの少なくとも一部がプラズマ100に変換されて、皮膚表面103の上にプラズマジェットが生成される。プラズマ100はその後、皮膚組織102に侵入し、レーザ標的位置110で皮膚組織102の内部に自由電子を提供する。本発明に従った皮膚処置装置200におけるプラズマ−レーザ集束ユニット111Aは、レーザ集束系112と、プラズマ100の生成・案内系とを有している。レーザ集束系112は、例えば、皮膚表面103より下の標的位置110へとレーザビーム106を集束させる単一の高NA集束レンズで構成される。プラズマ生成系は、プラズマチャネル118の中央部分に配置される陽極113を有しており、プラズマチャネル118は続いて、接地された陰極114(例えば、プラズマチャネル118の内壁の覆い部分)によって囲まれている。最後に、プラズマ−レーザ集束ユニット111Aのこの実施形態は、使用時に皮膚表面103と接触する絶縁された処置ヘッド116を有している。
【0021】
図2に示す実施形態において、レーザ集束系112は、疎水性の凸型集束レンズ112であり、好ましくは、皮膚の屈折率に近い屈折率を有する(例えば、PMMA、CR−39)。この実施形態の使用中、凸型集束レンズ112と皮膚表面103との間に、例えば低い粘性のオイル124の薄い層(好ましくは、ミクロンオーダーの厚さであり、やはり皮膚の屈折率に近く且つ凸型集束レンズ112の屈折率に近い屈折率を持つ)などの光結合媒質124が配され得る。このような光結合媒質124は、例えば、レーザに基づく皮膚の処置が開始される前に塗布され得る。使用時、凸型集束レンズ112はその凸面で皮膚表面103と接触し、皮膚表面103を局所的に伸ばす。光結合媒質124の存在が更に、伸ばされた皮膚表面103内になおも存在する微視的な隙間を充たすことによって、皮膚表面103を平坦にして微小ラフネスを低減する。この光結合媒質124による微視的隙間の充填は、毛管効果によることができ、皮膚組織102内へのレーザビームのカップリングを向上させる。
【0022】
皮膚処置装置200は更に、レーザ源105及びプラズマユニット117を制御する制御ユニット123を有している。制御ユニット123は、例えば、レーザ源105の出力パワーを制御し、レーザ走査ユニット107の走査パラメータを制御し、また、例えば動作時にレーザビーム106が集束される標的位置110の深さを決定するために、レーザ集束系112を制御する。制御ユニット123はまた、プラズマユニット117を制御し、例えば、ガス源121からプラズマチャネル118へのガス流115と、例えば、プラズマチャネル118内に印加されるプラズマ電圧とを制御して、皮膚表面103に向けてプラズマジェットを発生するようにする。
【0023】
皮膚処置装置200は更に、プラズマ100を例えば標的位置110に向けて案内するための電界発生器(図示せず)を有し得る。このような電界発生器は更に、プラズマ100内のイオンを加速し、それによりプラズマを皮膚組織102内に押し込む又は駆動するために使用され得る。電界発生器は、皮膚組織102内へのプラズマ100の侵入速さを増加させるために使用されることができ、且つ/或いは皮膚組織102内へのプラズマ100の侵入深さを増加させるために使用され得る。
【0024】
本発明は、真皮内の非常に小さいフォーカルスポットに集束されるべき電磁放射線を皮膚が伝えるという事実を使用する。この効果を最大化するため、光の波長は800nmと1100nmとの間であり、例えば、1064nmの発光波長及び1−1000psのパルス持続時間を有するNd:YAGレーザが使用される。この範囲内において、透過率は比較的高く、散乱及び線形吸収は低い。しかしながら、その他の波長を使用することも排除されない。
【0025】
特に、所定のパルス時間は100psと10nsとの間である。この範囲内において、多光子イオン化によって発生されるプラズマは、非常に局所的であり、すなわち、小さい空間的広がりを有し、それにより、周囲組織への意図せぬ損傷のリスクが最小化される。しかしながら、例えば約100fsから100psの範囲内といった、そして更にはns域やms域であっても、その他のパルス時間も使用され得る。
【0026】
典型的に、レーザビームパルスで送達可能なエネルギーレベルは、皮膚の表面で測定して、0.1mJと10mJとの間である。このようなエネルギーレベルは、処置において有用であることが分かっており、すなわち、新たな組織成長を刺激するのに十分なダメージを生成することが分かっている。より具体的には、エネルギーレベルは、約0.5mJと5mJとの間であり、典型的に約1mJである。しかしながら、例えば、2mmに至る大きい処置深さの場合に約20mJに至るレベルといった、その他のエネルギーレベルも排除されない。以上のエネルギーレベルの指示では、エネルギーは皮膚の表面で測定されており、すなわち、実際に皮膚内に放たれるエネルギーに関係する。
【0027】
以上の全てにおいて、理解されるべきことには、単一のパルスに代えて、それらのパルスが多光子現象を生成する限りにおいて複数のパルスを供給することも可能である。
【0028】
皮膚は、異なる光学特性を持つ複数の層を有する。表皮は、最も外側の層からなり、水を通さない保護バリアを形成する。表皮の最外層は、ラフネスにおけるその微視的な揺らぎによって皮膚処置装置200と皮膚組織102との間での光の結合を妨げる角質層である。表皮の下に真皮が位置する。真皮は、この皮膚処置が典型的に狙いとするコラーゲン繊維を有する。
【0029】
典型的に、皮膚処置装置200は、少なくとも0.2、好ましくは少なくとも0.4、開口数(NA)を有する。開口数についてのこのような値は、特には表皮である上に位置する皮膚層に対する安全性に関係する。特に表皮は例えばメラニンなどの多くの発色団を含んでいるので、表皮内での剰余の線形吸収は無視できるものではない。従って、このような層内の流束量すなわちエネルギー密度を十分に低く保つことが有利である。これは、強く集束されたレーザビーム、すなわち、大きい収束角度を持つレーザビーム、故に、大きい開口数の光学系によるレーザビームを提供することによって達成され得る。レーザビームは、すると、表皮内の流束量を許容範囲内に維持するのに十分な大きい領域に及ぶ。特に、表皮内の流束量は、多くても3J/cmであるべきである。なお、望ましい開口数は、処置深さ及びパルスの実際のエネルギーに依存する。モデル計算が示すことには、0.5mmの処置深さ及びプラズマ内(焦点内)で1mJのエネルギーについて、少なくとも0.4の開口数で十分であるが、より高いエネルギーレベル及びより小さい処置深さでは、より高いNAが必要であり、その逆もまた然りである。
【0030】
なお、大きい処置深さに必要とされるNAは、損傷されるべきでない表皮層までの距離が大きいことにより、当然ながら、小さい処置深さに必要とされるものよりも小さい。しかしながら、より大きい処置深さで十分な多光子イオン化を達成するのに必要な合計の強度及びエネルギーは、上に位置する層内での剰余の吸収及び散乱に起因して大きくなる。典型的な処置深さでは、焦点に最適な強度を供給するため、及び皮膚の上層への熱的負荷を最小化するために、少なくとも0.7の開口数が有利となり得る。
【0031】
特に、レーザビームパルスの流束量は、皮膚の表面と真皮層との間の皮膚内で多くて3J/cmである。このような流束量は、これらの皮膚層に対して安全であると見なされる。これは、レーザビームパルスに関する好適なエネルギーレベルと一緒になって、特に0.5mmの処置深さ及び1mJの場合に少なくとも11°(半角)という、好ましいレーザビーム尖角につながる。当業者は、所望の処置深さ及びパルスエネルギーに応じて、好適な尖角又は関連する開口数を容易に決定することができる。
【0032】
典型的に、処置深さは、皮膚の表面下で0と2mmとの間であり、より具体的には、0.2mmと1.5mmとの間である。これは、顔において0.06mmと0.2mmとの間という、角質層を有する表皮の典型的な総厚さと、2mmという真皮層の典型的な厚さとに基づく。従って、真皮は、0.2mmと約2mmとの間の深さに見出され得る。0.5mmと1.5mmとの間の処置深さは、例えば表皮などの周囲の層に対するリスクがないまま、十分な広がりでの真皮の処置を可能にする範囲を表す。具体的なケースにおいては、表皮及び/又は真皮は、例えば手といったその他の身体部分などで、もっと薄かったり厚かったりすることがあり、あるいは僅かに異なる深さに存在することがある。その場合、当業者は容易に、真皮の深さ及び/又は厚さを決定し、それに従って装置を構成することができる。そして、真皮層の深さ及び厚さを確立した後、異なる処置深さが設定され得る。例えば、Stiefel Cutech社の“Dermal depth Detector”などの超音波診断装置、又はそれに代わるOCT(光コヒーレンストモグラフィ)装置など、真皮及び/又は表皮の厚さの自動決定のための装置を使用したり含めたりすることも可能である。
【0033】
図3A、3B及び3Cは、本発明に従った皮膚処置装置200の第2、第3及び第4の実施形態を図式的に示している。図3A、3B及び3Cには、これら異なる実施形態それぞれのプラズマ−レーザ集束ユニット111B、111C、111Dのみが示されている。例えばレーザ源、レーザ走査ユニット107、ビーム整形系109、プラズマユニット117、及び制御ユニット123などのその他全ての要素は、図2に示した実施形態と同様又は同じとし得る。
【0034】
図2に示した実施形態とは異なり、図3Aに示すプラズマ−レーザ集束ユニット111Bは、プラズマ100を生成するための誘電体バリア放電システムを有している。誘電体バリア放電は、陽極113から放電空間を介して陰極114まで延在する放電経路内の1つ以上の誘電体層104の存在によって特徴付けられる。様々な構成の陽極113、陰極114及び誘電体層104が可能である。例えば、平面構成は、誘電体層104及び放電空間によって離隔された、陽極113及び陰極114を形成する平行プレートを有する。他の例では、円筒形構成が使用されてもよく、この構成では、陽極113と陰極114とが同軸配置され(図示せず)、それらの間に、その中で放電(故に、プラズマ100)が生成される誘電体チューブ(図示せず)が配置される。図3Aにおいて、プラズマ100は、誘電体層104が取り付けられた陽極113と、接地された陰極114に電気的に結合された皮膚表面103との間に形成される。
【0035】
図3Bに示す皮膚処置装置200の第3の実施形態に係るプラズマ−レーザ集束ユニット111Cにおいて、プラズマ−レーザ集束ユニット111Cは、管状の陰極114によって少なくとも部分的に取り囲まれた、中心に置かれた陽極113を有し、プラズマ−レーザ集束ユニット111Cの中心に位置するプラズマチャネル118を形成している。本実施形態においては、レーザビーム整形系109(図3Bには示さず)が、プラズマチャネル118の周りでプラズマ−レーザ集束ユニット111Cを通り抜ける環状のレーザビーム106を生成する。環状レーザビーム106を皮膚組織102内部の標的位置110に集束させる単焦点レンズ系112が存在している。
【0036】
図3Cに示す皮膚処置装置200の第4の実施形態に係るプラズマ−レーザ集束ユニット111Dにおいて、プラズマ−レーザ集束ユニット111Dはやはり、図3Bの実施形態と同様に、管状の陰極114によって少なくとも部分的に取り囲まれた、中心に置かれた陽極113を有し、プラズマ−レーザ集束ユニット111Dの中心に位置するプラズマチャネル118を形成している。しかしながら、ここでは、レーザビーム整形系109(図3Cには示さず)が、プラズマチャネル118の周りに配される複数のレーザビーム106a、106bを生成する。集束系112がここでは、各々が上記複数のレーザビーム106a及び106bのうちの1つをそれぞれの標的位置110a及び110bへと集束させる複数のレンズ112a及び112bを有している。例えば、本発明に従ったプラズマ−レーザ集束ユニット111Dが2つのレーザビーム106a、106bを生成するとき、レーザビーム106a及び106bは、それらに関連付けられたレンズ112a及び112bとともに、皮膚組織102内での複数のレーザビーム106a、106bの回転走査を提供するように、例えば回転式レンズ管ホルダー130によって、プラズマ−レーザ集束ユニット111Dのプラズマチャネル118の周りを回転するように構成され得る。これは、円形パターンでのリージョン形成をもたらし得る。さらに、例えば、皮膚表面103に垂直な方向でレーザビーム106a、106bの焦点を走査するように、皮膚処置装置200を構成することにより、皮膚組織102の内部に螺旋形のリージョンを形成し得る。
【0037】
図4は、アルゴンガスの複数の異なる流量について、プラズマの使用あり及びなしで、光誘起オプティカルブレイクダウン(さらにLIOBとしても指し示す)過程の照射閾値を比較する測定結果を示している。図4のグラフの横軸に、異なるアルゴン流量が、3標準リットル毎分から、5.4標準リットル毎分を介して、7.5標準リットル毎分までの3段階で示されている。縦軸は、皮膚組織102の内部で多光子イオン化過程を作り出すのに必要なLIOB照射閾値を示している。異なるアルゴン流量の各々に対し、結果をグループにした4つの棒が、そのアルゴン流量を中心にして示されている。これらのグループ各々の最も左側の黒い棒は、標的位置110でプラズマ100が使用されないときのレーザビーム強度を示している。これらのグループ各々の左から2番目、3番目、及び4番目の棒は、異なる電圧(それぞれ、6ボルト、4ボルト、及び2ボルト)を用いて発生されるプラズマの存在下で必要な照射閾値を示している。
【0038】
図4に示す結果は、中心配置の電極113(直径1mm)がマウントされた石英キャピラリ(内径1.6mm)を有するプラズマユニット117を用いて生成されている。連続稼働モードで、高周波(HF)電圧(1.1MHz、2−6kVpp)がピン型電極113に結合される。プラズマ100が、中心に置かれた電極の頂部から発生され、ノズルの外側の周囲空気に広がる。3.5Wの最大入力DC電力で、点火されたプラズマジェットは12mmに至る長さを有し、自由電子密度は1012から1014cm−3の範囲である。このようなプラズマユニット117を用いて、皮膚組織102内部での多光子イオン化に必要なレーザパルスエネルギーが最大70%低減されることが示されている。
【0039】
まとめるに、本発明は、皮膚組織102内の標的位置110で多光子イオン化過程を発生させる非侵襲的な皮膚処置装置200を提供する。皮膚処置装置200は、処置レーザビーム106を発生するように構成及び構築されるレーザ源105と、処置レーザビーム106を皮膚表面103よりも下の標的位置110に集束させる光学系109、112と、使用時にプラズマ100の少なくとも一部が皮膚組織102に侵入して標的位置110で少なくとも1つの自由電子を生成するように、プラズマ100を発生するように構成及び構築されるプラズマユニット117とを有する。皮膚処置装置は更に、使用時に処置レーザビームの光の少なくとも一部が標的位置110で上記少なくとも1つの自由電子によって吸収され、それにより多光子イオン化過程を発生させるように、レーザ源105及びプラズマユニット117を制御するように構成及び構築される制御ユニット123を有する。多光子イオン化過程を発生させることにおけるプラズマ使用の結果は、レーザビームのみを用いて多光子イオン化過程が発生されるときと比較して、多光子イオン化過程を発生させるのに必要とされる処置レーザビームの全体強度が低減されることである。
【0040】
なお、上述の実施形態は、本発明を限定するものではなく、本発明を例示するものであり、当業者は、数多くの他の実施形態を設計することができるであろう。
【0041】
請求項において、括弧内に置かれた何れの参照符号も、請求項を限定するものとして解されるべきでない。動詞“有する”及びその活用形の使用は、請求項内に列挙されたもの以外の要素又はステップの存在を排除するものではない。要素の前の冠詞“a”又は“an”は、その要素が複数存在することを排除するものではない。本発明は、複数の区別可能な要素を有するハードウェアによって、また、好適にプログラムされたコンピュータによって実装されることができる。複数の手段を列挙するデバイスクレームにおいて、それらの手段のうちの幾つかが同一のハードウェア品目によって具現化されてもよい。特定の複数の手段が相互に異なる従属項に記載されているという単なる事実は、それらの手段の組合せが有利に使用され得ないということを指し示すものではない。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4