(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402188
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】熱動後退式アクチュエータを備えたポンプシール
(51)【国際特許分類】
F04D 29/14 20060101AFI20181001BHJP
F04D 29/10 20060101ALI20181001BHJP
F04D 29/02 20060101ALI20181001BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20181001BHJP
G21C 9/004 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
F04D29/14
F04D29/10 B
F04D29/02
F16J15/10 D
G21C9/004
【請求項の数】18
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-536087(P2016-536087)
(86)(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公表番号】特表2016-530442(P2016-530442A)
(43)【公表日】2016年9月29日
(86)【国際出願番号】US2014041291
(87)【国際公開番号】WO2015026422
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2017年5月29日
(31)【優先権主張番号】13/970,899
(32)【優先日】2013年8月20日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ホーキンス、フィリップ、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ホジソン、ジュディス、イー
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
特表2012−511680(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第03333800(DE,A1)
【文献】
特開平10−167035(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 29/14
F04D 29/02
F04D 29/10
F16J 15/10
G21C 9/004
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インペラがモータに、当該モータと当該インペラとの間に回転自在に支持された回転軸(34)を介して連結されたポンプ(14)であって、当該モータと当該インペラとの間の当該回転軸の周りに介在するシールハウジング(32)が当該回転軸を取り囲む運転停止シール(170)を有し、当該運転停止シールが当該回転軸の回転が減速するか停止した後、当該回転軸を取り囲む環状部(174)の流体が当該運転停止シールを介して漏洩するのを防止し、当該運転停止シールは、
対向端部を有し、内径が当該環状部(174)の一部を画定し、当該回転軸の回転中は当該内径が当該回転軸から離隔するように当該回転軸(34)を取り囲む拘束自在の割りリング(172)と、
当該回転軸(34)の通常動作時は当該割りリング(172)の当該対向端部間に位置して、当該対向端部間に環状空間を維持し、当該流体の温度が所定温度を超えて上昇すると当該対向端部間から離脱して、当該割りリングが当該環状部(174)の一部を狭窄または実質的に封止する拘束状態になるように動作可能なスペーサ(176)と、
当該流体の温度が当該所定温度を超えて上昇すると当該スペーサ(176)を当該割りリング(172)の当該対向端部間から離脱させ、当該割りリングを拘束状態にして当該環状部(174)の一部を狭窄または実質的に封止できるアクチュエータ(184)であって、
軸方向部分を有するシリンダ(200)、
当該シリンダ内で軸方向に移動可能なピストン(196)であって、当該ピストンの周りで当該シリンダの上端部と下端部とが密封されたピストン(196)、
当該ピストンの下端部から延び、一方の端部が当該スペーサ(176)に接続されたピストン棒(196)、
当該シリンダ(216)内の当該上端部と当該下端部との間の当該ピストン(186)が移動する空間を占めるキャビティであって、当該スペーサ(176)が当該割りリング(172)の当該対向端部間に位置する時、当該ピストンの直径が異なる2つ以上の軸方向部分が当該キャビティの当該空間内にあり、当該ピストンの最大直径の軸方向部分が当該ピストンの移動方向において小さい直径の軸方向部分より先にあるため、当該ピストンが移動すると当該スペーサが当該割りリングの当該対向端部から離脱することを特徴とするキャビティ、
当該キャビティ内の当該空間の少なくとも一部を占める材料(188)であって、当該材料が温度上昇に伴って膨張してその温度が当該所定温度を超えて上昇すると、当該ピストン(196)に及ぼす力により、当該ピストンが当該スペーサ(176)を当該対向端部間から離脱させる方向へ移動することを特徴とする材料(188)、および
当該材料(188)の温度が当該所定温度を下回る場合は、当該ピストン(196)が当該シリンダ(200)内において、当該スペーサ(176)を当該割りリング(172)の当該対向端部間から離脱させる方向に動くのを阻止し、当該材料の温度が当該所定温度とほぼ同じまたはそれを超えると、当該材料の膨張とは無関係に当該ピストンのロックを受動的に解除して、当該スペーサが当該割りリングの当該対向端部間から離脱できるように構成された安全ロック
から成るアクチュエータ(184)と
を具備するポンプ(14)。
【請求項2】
前記ピストン(196)の前記直径が異なる2つ以上の軸方向部分の少なくとも一部の外周領域に前記の力がかかる、請求項1のポンプ(14)。
【請求項3】
前記キャビティの下端部において前記キャビティと前記ピストン(196)との間で支持された第1のシール(204)と、前記キャビティの上端部において前記キャビティと前記ピストンとの間で支持された第2のシール(206)とを含み、当該第1および第2のシールは前記材料を前記キャビティ内に実質的に封じ込める作用をすることを特徴とする、請求項1のポンプ(14)。
【請求項4】
前記第1のシール(204)および前記第2のシール(206)のうち少なくとも一方がカップシールである、請求項3のポンプ(14)。
【請求項5】
前記カップシール(204、206)がPEEK製である、請求項4のポンプ(14)。
【請求項6】
前記第1および第2のシール(204、206)のうちの片方または両方向けのバックアップシール(208、210)を含む、請求項3のポンプ(14)。
【請求項7】
前記バックアップシール(208、210)がOリングシールである、請求項6のポンプ(14)。
【請求項8】
前記OリングシールがEPDM製またはHNBR製である、請求項7のポンプ(14)。
【請求項9】
前記キャビティ内の圧力が所定の値を超えると圧力を解放するように、前記第2のシール(206)の支持体が構成されている、請求項3のポンプ(14)。
【請求項10】
前記材料(188)が前記流体と熱連通している、請求項1のポンプ(14)。
【請求項11】
前記シリンダ(216)内に支持されたばね(226)であって、前記材料(188)の温度が前記所定温度より低い間は前記スペーサ(176)を前記割りリング(172)の前記対向端部間に保つ方向に前記ピストン(196)を付勢するように構成されたばね(226)を含む、請求項1のポンプ(14)。
【請求項12】
前記ピストン(196)にかかる前記の力が、前記ばね(226)によって及ぼされる力より実質的に大きい、請求項11のポンプ(14)。
【請求項13】
前記キャビティの壁の少なくとも一部が薄い壁厚(T1)を有し、前記キャビティ内の圧力が設計値を超えると当該壁部分が膨らんで前記キャビティ内の圧力を安全なレベルに引き下げるように構成された、請求項1のポンプ(14)。
【請求項14】
前記安全ロックが熱作動するポンプであって、前記安全ロックは前記シリンダ(200)の一方の端部から、前記ピストンが前記スペーサ(176)を前記割りリング(172)の前記対向端部間から離脱させるように動く方向に、懸架されたピン(232)を備え、当該ピンは、前記ピストン(196)の一方の端部に設けられた凹部(236)の一部へ延入し、当該凹部の残りの実質的な部分は熱活性化材料(230)が実質的に充填され、当該熱活性化材料は、前記所定温度を下回る温度では、当該材料が当該ピンの側面(234)に沿って当該凹部から流出できない粘性を有し、当該熱活性化材料は、前記所定温度と実質的に同じまたはそれを超える温度では、当該ピンの当該側面に沿って当該凹部から流出できる低い粘性を有するため、前記ピストンが前記スペーサを前記割りリングの前記対向端部間から離脱させることができることを特徴とする、請求項1のポンプ(14)。
【請求項15】
前記熱活性化材料(230)がポリマーである、請求項14のポンプ(14)。
【請求項16】
前記ポリマーがポリエチレンである、請求項15のポンプ(14)。
【請求項17】
請求項1のポンプ(14)であって、
前記流体の流れ方向において前記割りリング(172)の上流で前記回転軸を該回転軸から離隔して取り囲み、内径が前記回転軸の回転中は前記回転軸から離隔して前記環状部(174)の一部を画定するほぼ剛性の保持リング(180)と、
前記割りリング(172)と当該保持リング(180)との間で前記回転軸(34)を取り囲み、内径が前記回転軸の回転中は前記回転軸から離隔して前記環状部(174)の一部を画定し、前記割りリングが前記回転軸の方へ移動し前記環状部内に入る拘束状態になると発生する圧力差により前記回転軸の方へ押圧される柔軟なポリマーリング(178)と
を具備するポンプ(14)。
【請求項18】
インペラがモータに、当該モータと当該インペラとの間に回転自在に支持された回転軸(34)を介して連結され、当該モータと当該インペラとの間に介在するシールハウジング(32)が当該回転軸の軸方向部分を取り囲むポンプ(14)の運転停止シール(170)であって、当該運転停止シールは当該回転軸の回転が減速するか停止した後、当該回転軸を取り囲む環状部(174)の流体が当該運転停止シールを介して漏洩するのを防止し、当該運転停止シールは、
対向端部を有し、内径が当該環状部(174)の一部を画定し、当該回転軸の回転中は当該内径が当該回転軸から離隔するように当該回転軸(34)を取り囲む拘束自在の割りリング(172)と、
当該回転軸(34)の通常動作時は当該割りリング(172)の当該対向端部間に位置して、当該対向端部間に環状空間を維持し、当該流体の温度が所定温度を超えて上昇すると当該対向端部間から離脱して、当該割りリングが当該環状部(174)の一部を狭窄または実質的に封止する拘束状態になるように動作可能なスペーサ(176)と、
当該流体の温度が当該所定温度を超えて上昇すると当該スペーサ(176)を当該割りリング(172)の当該対向端部間から離脱させ、当該割りリングを拘束状態にして当該環状部(174)の一部を狭窄または実質的に封止できるアクチュエータ(184)であって、
軸方向部分を有するシリンダ(200)、
当該シリンダ内で軸方向に移動可能なピストン(196)であって、当該ピストンの周りで当該シリンダの上端部と下端部とが密封されたピストン(196)、
当該ピストンの下端部から延び、一方の端部が当該スペーサ(176)に接続されたピストン棒(196)、
当該シリンダ(216)内の当該上端部と当該下端部との間の空間を占めるキャビティであって、当該空間内を当該ピストン(186)が移動し、当該スペーサ(176)が当該割りリング(172)の当該対向端部間に位置する時、当該ピストンの直径が異なる2つ以上の軸方向部分が当該キャビティの当該空間内にあり、当該ピストンの最大直径の軸方向部分が当該ピストンの移動方向において小さい直径の軸方向部分より先にあるため、当該ピストンが移動すると当該スペーサが当該割りリングの当該対向端部から離脱することを特徴とするキャビティ、
当該キャビティ内の当該空間の少なくとも一部を占める材料(188)であって、当該材料が温度上昇に伴って膨張してその温度が当該所定温度を超えて上昇すると、当該ピストン(196)に及ぼす力により、当該ピストンが当該スペーサ(176)を当該対向端部間から離脱させる方向へ移動することを特徴とする材料(188)、および
当該材料(188)の温度が当該所定温度を下回る場合は、当該ピストン(196)が当該シリンダ(200)内において、当該スペーサ(176)を当該割りリング(172)の当該対向端部間から離脱させる方向に動くのを阻止し、当該材料の温度が当該所定温度とほぼ同じまたはそれを超えると、当該材料の膨張とは無関係に当該ピストンのロックを受動的に解除して、当該スペーサが当該割りリングの当該対向端部間から離脱できるように構成された安全ロック
から成るアクチュエータ(184)と
を具備する運転停止シール(170)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、「熱動後退式アクチュエータを備えたポンプシール」と題する2013年3月13日出願の米国特許出願第13/798,632号の一部継続出願であり、米国特許法第119条(e)に基づき、「熱動安全ロックを備えた原子炉冷却材ポンプ運転停止シール熱動後退式アクチュエータ」と題する2013年8月5日出願の米国仮特許出願第61/862,304号の優先権を主張する。
本発明は概して回転軸のシールに関し、詳細には遠心ポンプの熱動シール、さらに詳細にはかかるシールの新型熱動アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
加圧水型原子力発電所では、原子炉冷却系により原子炉から蒸気発生器へ熱を移送して蒸気を発生させる。蒸気はその後、有用な仕事を発生させるためのタービン発電機の駆動に使用される。原子炉冷却系は、各々が原子炉炉心に接続された、蒸気発生器と原子炉冷却材ポンプとを有する複数の冷却ループより成る。
【0003】
原子炉冷却材ポンプは通常、例えば華氏550度(280℃)、約2,250psia(155バール)の高温高圧下で、多量の原子炉冷却材を移動させるように設計された垂直単段遠心ポンプである。このポンプの基本構造は大まかに、下から上へ向かって、液圧部、軸シール部およびモータ部の3つの部分より成る。下方の液圧部には、インペラがポンプ軸の下方端部に装着され、このインペラはポンプケーシング内で動作して原子炉冷却材をそれぞれのループに圧送し循環させる。上方のモータ部は、ポンプの回転軸を駆動するよう結合されたモータを有する。中間の軸シール部は、下方の一次シール組立体(ナンバーワン・シール)、中間の二次シール組立体および上方の三次シール組立体という3つの縦続シール組立体より成る。これらのシール組立体は、通常の運転状態時にポンプ軸に沿って格納空間へ漏洩する原子炉冷却材の量を最小限に抑えることを総合的な目的とし、ポンプ軸上端部近くで当該軸と同心的に配置される。従来技術として公知のポンプ軸シール組立体の代表例は、米国特許第3,522,948号、3,529,838号、3,632,117号、3,720,222号および4,275,891号に記載されている。
【0004】
定常ポンプ圧力境界と回転軸との界面を機械的に密封するポンプ軸シール組立体は、過大な漏洩なしに高いシステム圧力(約2,250psi(155バール))を閉じ込める能力を備える必要がある。3つのシール組立体は、その縦続構成により圧力を段階的に分圧する。これら3つの機械式ポンプシール組立体は、漏洩制御式シールであり、各段の制御漏洩量を最小限に抑えると共に、一次冷却系からそれぞれのシールリークオフポートへの原子炉冷却材の漏洩が過大にならないように動作する。
【0005】
ポンプシール組立体は通常、当該シール組立体のところに冷流体を注入するか、一次流体をシール組立体へ到達する前に冷却する熱交換器を使用することにより、一次冷却系温度より十分に低い温度に維持される。これらのシステムに理論上想定される故障が発生すると、当該シール組立体が高温に曝され、シール組立体の制御漏洩量が劇的に増加する可能性が高くなる。燃料冷却能力が全て喪われる原因が全交流電源喪失にある場合、補給用ポンプを駆動する電力がなければシールからの漏洩液は冷却系に復帰できない。漏洩を制御しても補給手段がなければ、炉心が原子炉冷却材から露出して、炉心損傷に至るという仮説的事態が発生する可能性がある。
【0006】
したがって、燃料冷却能力全ての喪失と補給用ポンプ能力の喪失とが同時に起こった場合に標準的なシール組立体をバックアップする効果的な方法が必要である。さらに、かかるバックアップシールは、電源喪失または他の原因による補給用ポンプ能力喪失が発生した際に、軸を実質的に密封して漏れが生じないように動作できるのが好ましい。
【発明の概要】
【0007】
上記目的は、ポンプ、コンプレッサなどの回転機器が減速するか停止するとき冷却材の通常の漏洩量を制限するように設計された本発明による熱動式運転停止シールにより達成される。本発明の運転停止シールは、回転軸とハウジングとの間に狭い流れ環状部を有する任意の装置の封止に有用である。
【0008】
運転停止シールは、割りリングが、(i)通常運転時に軸との間に環状部を残して当該軸を取り囲み、(ii)当該軸が所定の速度より減速するか回転を停止すると当該軸に対して拘束状態になるように設計されている点に特徴がある。この割りリングは、通常のオンライン運転時に軸が回転中、スペーサにより離隔関係に維持される対向端部を有する。軸が減速するか回転を停止してハウジング内の温度が上昇すると、スペーサが割りリングの対向端部から離脱し、割りリングの対向端部が互いに接近して軸を拘束する状態となり、環状部を介して漏洩する冷却材の実質的な部分が遮断される。
【0009】
好ましくは、運転停止シールは柔軟なポリマーシールリングをも有し、このポリマーシールリングは、割りリングが環状部を介して漏洩する冷却材の実質的な部分を遮断してハウジング内の圧力が上昇すると、回転軸に押し付けられる。
【0010】
本発明は特に、環状部の流体の温度が所定温度より上昇するとスペーサを割りリングの対向端部間から離脱させて、割りリングを環状部の当該割りリングに覆われた部分を狭窄または実質的に封止できる拘束状態にする改良型アクチュエータ付きシールを提供する。アクチュエータは、内部でピストンが軸方向に移動可能な軸方向部分を有し、上端部と下端部とが当該ピストンの周りで密封されたシリンダを有する。ピストン棒の一方の端部がピストンに接続され、もう一方の端部がスペーサに接続される。キャビティがシリンダ内の上端部と下端部との間の空間を占め、その中でピストンが移動する。ピストンの軸方向部分は、スペーサが割りリングの対向端部間に位置するとき、キャビティ内の空間を貫通する。ピストンの軸方向部分は直径が異なる2つ以上の軸方向部分より成り、そのうちの最大直径の軸方向部分はピストンの移動方向において小さい直径の軸方向部分より先にあるため、ピストンが移動するとスペーサが当該割りリングの当該対向端部から離脱する。キャビティ内の空間の少なくとも一部を或る材料が占める。この材料は、温度上昇により膨張し、その温度が所定温度を超えて上昇すると、ピストンに及ぼす力により、スペーサを対向端部間から離脱させる方向へピストンを移動させる。ピストンの直径が異なる2つ以上の軸方向部分の少なくとも一部が延びているピストンの外周領域に力がかかるのが好ましい。
【0011】
一実施態様において、アクチュエータは、キャビティの下端部においてキャビティとピストンとの間で支持された第1のシールと、キャビティの上端部においてキャビティとピストンとの間で支持された第2のシール(206)とを含み、第1および第2のシールは材料をキャビティ内に実質的に封じ込める作用をする。当該第1および第2のシールは、PEEK製のカップシールであるのが好ましい。この実施態様では、当該第1および第2のシールのうちの片方または両方用のバックアップシールを含むこともできる。バックアップシールはOリングシールであるのが好ましく、OリングシールはEPDM製またはHNBR製であるのが望ましい。別の実施態様では、キャビティ内の圧力が所定の値を超えると圧力を解放するように、第1のシールの支持体または第2のシールの支持体が設計されており、材料は流体と熱連通している。
【0012】
別の実施態様において、アクチュエータは熱動安全ロックを含み、この安全ロックは、材料の温度が所定温度を下回る場合には、ピストンがシリンダ内で、スペーサを割りリングの対向端部間から離脱させる方向に動くのを阻止し、材料の温度が所定温度を超えて上昇すると、ピストンのロックを解除して、スペーサが割りリングの対向端部間から離脱できるようにする構成を有する。熱動安全ロックは、流体の温度が所定温度を超える場合に、受動的にピストンのロックを解除するように構成するのが好ましい。一実施態様において、熱動安全ロックはシリンダの一方の端部から懸架されたピンを備え、このピンは、スペーサを割りリングの対向端部から離脱させるように動くピストンの方向に延びている。このピンは、ピストンの一方の端部に設けられた凹部の少なくとも一部へ延入している。この凹部の残りの実質的な部分は熱活性化材料が実質的に充填され,この熱活性化材料は所定温度を下回る温度ではピンの側面に沿って凹部から流出できない粘性を有する。所定温度と実質的に同じまたはそれを超える温度になると、当該熱活性化材料の粘性は低くなり、ピンの側面に沿って凹部から流出できるようになる。その結果、熱活性化材料の排出により、ピストンはスペーサを割りリングの対向端部間から離脱させる方向に動けるようになる。この熱活性化材料は、例えばポリエチレンのようなポリマーであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明の詳細を、好ましい実施態様を例にとり、添付の図面を参照して以下に説明する。
【0014】
【
図1】従来の原子炉冷却系の1つの冷却ループを示す概略図であり、蒸気発生器と原子炉冷却材ポンプが原子炉と直列接続されて閉ループシステムを形成している。
【0015】
【
図2】原子炉冷却材ポンプの軸シール部の一部切欠き斜視図であり、シールハウジングと、シールハウジング内でポンプ軸を取り囲むように配置された下方の一次シール組立体、中間の二次シール組立体および上方の三次シール組立体とを断面図で示している。
【0016】
【
図3】
図2の原子炉冷却材ポンプのシールハウジングおよびシール組立体の一部分を示す拡大断面図である。
【0017】
【
図4】本発明を利用可能な軸シール装置の断面図であり、
図2および3に示す下方の一次シールを拡大して示す。
【0018】
【
図5】
図4に示す一次シール挿入材の拡大部分であり、ポンプ軸の一部と、熱動機械式ピストンによりスペーサを割りリングから離脱させる本発明の運転停止シールとを斜線で示す。
【0019】
【
図6】ピストンが完全延伸位置にあり、スペーサが本発明による利益が得られる運転停止シールの割りリングの対向端部間に挿入された、
図5に略示するピストン装置の拡大図である。
【0020】
【
図7】スペーサが割りリングの対向端部間から離脱する作動事象が生じる前のピストンの状態を示す、先行技術で使用される
図8のピストン装置の断面図である。
【0021】
【
図8】
図7に示す運転停止シールのスペーサを離脱させるために使用できる、本発明に基づく改良型作動機構の断面図である。
【0022】
【
図9】本発明の第2の実施態様のピストン装置を示す断面図である。
【0023】
【
図10】
図9に示す実施態様の線A‐Aに沿った断面図である。
【0024】
【
図11】
図9および10に示す実施態様の運転停止シールを組み込んだ一次シール挿入材の拡大部分である。
【
図12】本発明の第3の実施態様のピストン装置を示す断面図である。
【0025】
【
図13】運転停止機構の熱作動に先立ってピストンをロックさせる別の実施態様の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の説明において、同一参照記号はいくつかの図面を通して同一のまたは対応する部品を指すものである。また、以下の説明において、前方、後方、左、右、上方へ、下方へなどの方向を示す用語は便宜的に使用する用語であって、限定を意図するものとして解釈すべきでないことを理解されたい。
先行技術の原子炉冷却ポンプ
【0027】
本発明を理解する上で、本発明が適用される1つの環境について理解することが有用である。ただし、当然のことながら、本発明は他にも多くの用途がある。
図1は、従来の原子炉冷却系の複数の原子炉冷却材ループ10のうちの1つを示す概略図である。冷却材ループ10は、原子炉16と直列に接続されて閉ループ冷却系を形成する蒸気発生器12および原子炉冷却材ポンプ14を含む。蒸気発生器12は、その入口プレナム20および出口プレナム22と連通する一次伝熱管18を含む。蒸気発生器12の入口プレナム20は原子炉炉心16の出口と流れ連通関係を形成するように接続されており、閉ループ系統の流路24(通称はホットレグ)に沿って当該炉心から高温の冷却材を受け取る。蒸気発生器12の出口プレナム22は、閉ループ系統の流路26に沿って原子炉冷却材ポンプ14の入口吸引側と流れ連通関係に接続されている。原子炉冷却材ポンプ14の出口圧力側は、原子炉炉心16の入口と流れ連通関係を形成するよう接続され、比較的低温の冷却材を閉ループ系のコールドレグの流路28に沿って原子炉炉心へ送り込む。
【0028】
冷却材ポンプ14は冷却材を高圧で圧送して閉ループ系統を循環させる。詳細には、原子炉16から出た高温冷却材が、蒸気発生器12の入口プレナム20へ流入し、入口プレナムと連通関係の伝熱管18を通される。高温の冷却材は、伝熱管18を流れる間、従来型手段(図示せず)を介して蒸気発生器12へ供給される低温の給水と熱交換する。給水は加熱され、その一部が蒸気に変換されてタービン発電機(図示せず)の駆動に使用される。熱交換により温度が低下した冷却材はその後、冷却材ポンプ14を介して原子炉16へ再循環される。
【0029】
原子炉冷却材ポンプ14は、多量の原子炉冷却材を高温高圧で移動させて閉ループ系統を循環させる能力を持つ必要がある。蒸気発生器12からポンプ14へ流れる冷却材は、熱交換により冷却されて、その温度は、原子炉16から蒸気発生器12へ流れる熱交換前の温度より実質的に低いが、通常は華氏約550度(288℃)であり、依然として比較的高い。液状の冷却材をこのような比較的高温に維持するために、当該系統は注入ポンプ(図示せず)により加圧され、その動作圧力は約2,250psia(155バール)である。
【0030】
図2、3からわかるように、先行技術の原子炉冷却材ポンプ14は一般的に、ポンプハウジング30の一端がシールハウジング32で終端する構造である。このポンプのポンプ軸34はポンプハウジング30の中心を延び、シールハウジング32内に封止され、回転自在に装着されている。図示しないが、ポンプ軸34の底部はインペラに連結される一方、その頂部は高馬力の誘導型電気モータに連結されている。モータが軸34を回転させると、加圧状態の原子炉冷却材がポンプハウジング30の内部36にあるインペラにより原子炉冷却材系を流れる。この加圧状態の冷却材は軸34に上向きの静水圧負荷を印加するが、それはシールハウジング32の外側部分が周囲大気に取り囲まれているからである。
【0031】
ポンプハウジングの内部36とシールハウジング32の外側との間に2,250psia(155バール)の圧力バウンダリを維持しながらポンプ軸34をシールハウジング32内で自由に回転させるために、シールハウジング32内のポンプ軸34の周りに、
図2および3に示す位置に、下方の一次シール組立体38、中間の二次シール組立体40および上方の三次シール組立体42が縦続配置されている。圧力封止(約2,200psi(152バール))の大部分を担う下方の一次シール組立体38は非接触式静水圧タイプであるが、中間の二次シール組立体40および上方の三次シール組立体42は接触式または擦過式の機械タイプである。
【0032】
ポンプ14のシール組立体38、40、42はそれぞれ、通常は、ポンプ軸34と共に回転するように当該軸に装着された環状ランナー44、46、48と、シールハウジング32内に固定的に装着された環状シールリング50、52、54とを含む。各ランナー44、46、48およびシールリング50、52、54はそれぞれ、対向する上方端面56、58、60および下方端面62、64、66を有する。下方の一次シール組立体38のランナー44およびシールリング50のそれぞれの対向端面56、62は常態では互いに接触せず、それらの間を常態ではフィルム状の流体が流れる。一方、中間の二次シール組立体40のランナー46およびシールリング52の対向端面58、64、ならびに上方の三次シール組立体42のランナー48およびシールリング54の対向端面60、66は、常態では互いに接触するかまたは擦れ合う。
【0033】
一次シール組立体38は常態ではフィルムに載るモードで動作するため、シールハウジング32とそれに回転自在に装着された軸34との間の環状空間においてリークオフ(漏洩)する冷却用流体を取り扱うための何らかの構成を設ける必要がある。したがって、シールハウジング32には一次リークオフポート69があり、一方、リークオフポート71は、二次シール組立体40および三次シール組立体42からの冷却材流体のリークオフを受け入れる。
【0034】
図4は、
図2および3に示すタイプのナンバーワン・シール(下方の一次シール)領域のシールハウジングの断面図であり、ナンバーワン・シールの動作および本発明との関連性の理解に資するものである。図示の構造物は、内部に圧力チェンバ35を形成する環状壁33を備えたハウジング32と、ハウジング32内に回転自在に装着された軸34と、シールランナー組立体44と、ハウジング32内に位置するシールリング組立体50とより成る。前述したように、軸34は適当なモータ(図示せず)により駆動され、加圧系内に冷却材の流れを循環させる遠心ポンプ(図示せず)のインペラを駆動するのに使用される。注入水は、ポンプが発生するよりも高い圧力でチェンバ35へ供給される。ランナー組立体44は、環状ホルダー70および環状シールプレート72より成る。同様に、シールリング組立体50は、ホルダー74および環状フェイスプレート76より成る。
【0035】
ホルダー70は軸34と共に回転するが、それはホルダーが、軸34上の肩部80と係合し、スリーブ82により当該軸に固定された環状支持体78上に装着されているからである。スリーブ82は、軸34と、L字形断面の支持体78の上方に延びる脚部84との間で当該軸34上に組み込まれている。本発明を、ポンプ軸上にスリーブを使用するポンプに利用されるものとして説明するが、本発明はスリーブを使用しないポンプ軸にも等しく利用可能であることを理解されたい。ホルダー70上の肩部86は脚部84の上端部に載っており、スリーブ82上の肩部88はホルダー70を支持体84上に保持する。ピン90はスリーブ82の凹部92に押し込まれてホルダー70の軸方向スロット94と係合する。スリーブ82および支持体78を軸34と共に回転させるナット(図示せず)により、軸方向のクランプ力がスリーブ82および支持体78にかかる。このピン90により、軸34と共に回転するスリーブ82と共に、ホルダー70が回転する。支持体78と軸34との間および支持体78とホルダー70との間に、それぞれOリングシール96、98が設けられる。ホルダー70とフェイスプレート72との界面102にもOリングシール100が設けられる。
【0036】
フェイスプレート72は、ホルダー70が作られる材料と実質的に同じ熱膨張係数を有する耐腐食性および耐侵食性材料で構成され、ホルダー70は大きい弾性係数を有する。同様に、フェイスプレート76は、弾性係数が大きいホルダー74の材料と実質的に同じ熱膨張係数を有する耐腐食性および耐侵食性材料で構成される。適当な材料の例として炭化物類およびセラミック類がある。ホルダー74とフェイスプレート76との界面106にはOリングシール104が設けられる。
【0037】
ホルダー74は、ほぼL字形断面の環状シールリング挿入材110の下方に延びる脚部108に移動自在に装着されている。挿入材110は、ハウジング32内に押えねじ112により保持される。挿入材110とハウジング32との界面にはOリング114が設けられている。同様に、ホルダー74と挿入材110の脚部108との界面120にはOリングシール118が設けられている。挿入材110に押入されるピン122は、ホルダー74の回転を阻止する。ピン122はホルダー74のウエル124内に延びるが、ウエル126の壁とピン122との間には、ホルダー74の軸方向移動を可能にしつつ回転を制限するのに十分な間隙が存在する。
【0038】
フェイスプレート76は、保持リング130、クランプリング132、ロックリング134、複数の押えねじ136、およびロックリング134とクランプリング132との間の押えねじ136上に装着された皿ばね138を含むクランプ手段128によりホルダー74に固着される。押えねじ136は、保持リング130、クランプリング132、皿ばね138を貫通し、ロックリング134に螺着される。ホルダー74の界面106には凹部140が設けられ、その界面上に、フェイスプレート76の界面の外径より小さい外径を有する環状の支点142が提供される。保持リング130はリッジ144を有する内向きのフランジを備えており、このリッジ144は支点142を越えて延びるフェイスプレート76の部分146と係合する。クランプリング132は、ホルダー74のフェイスプレート150と係合するリッジ148を備えた内向きフランジを有する。したがって、押えねじ136を締めてクランプリング132および保持リング130を互いに近付けようとすると、フェイスプレート76上に支点142を中心とする片持ちばり効果を及ぼす力が発生する。クランプ動作時、皿ばね138が部分的に圧縮され、フェイスプレート76がこのクランプ力により変形する。
【0039】
フェイスプレート72は、フェイスプレート76につき説明したのと同様な態様でクランプ手段151によりホルダー70に固着される。ただし、ホルダー70の界面102上の支点152は、ホルダー74上の支点142よりもフェイスプレート72の外径に近い所に位置する。したがって、フェイスプレート72にかかるクランプ力は、フェイスプレート76上に発生するような支点152を中心とするフェイスプレートの大きな変形を発生させない。所望であれば、支点142および152を、それぞれに対応するフェイスプレートに対して同じ場所に配置することが可能である。
【0040】
前述したように、シールリング組立体50は、軸34およびシールランナー組立体44に関して軸方向に限られた運動が可能なように装着される。また、シールリング組立体50の相対的な運動は、シールリングホルダー74のウエル124に緩く嵌合する回転阻止用ピン122により制限される。フェイスプレート76上の封止面154は、重力により、フェイスプレート72の対向する封止面156の方に付勢される。
【0041】
軸34により駆動されるポンプの動作について、シールリングホルダー174の表面158および160は、高圧の圧力チェンバ35の全圧力に曝される。高圧チェンバ35と、スリーブ82に隣接する環状低圧領域162との間に圧力障壁を設けるのが望ましい。シールリング組立体はこの圧力障壁として利用されるが、圧力チェンバ35からシールプレート76、72上のそれぞれの対向シール表面154、156の間に設けられたシールギャップ164を介して領域162へ制御量の流体が漏洩できるようにする。
【0042】
動作時に、軸方向に移動可能なシールリング組立体50の対向する表面にかかる圧力に応じて、当該シールリング組立体の平衡位置が維持される。ギャップ164内の流体の厚み、すなわちギャップ164を介する漏洩量は、ギャップ164の形状により決まる。
【0043】
シールギャップ164が変化してもシールリング組立体50とランナー組立体44の相対的位置を自己修復させるために、高圧の端縁部166からシールの対向末端間の位置まで厚さが減少する流体流路が設けられている。さらに詳細には、図示の構造において、厚さが減少する流体流路は外方端縁部166と、シール面154上の168に位置する中間同心円との間を延びる。
【0044】
この構造に示されるように、厚みが減少する流路は、同心円168とフェイスプレート76の外方端縁部166との間において、表面154をフェイスプレート72の対向表面156からわずかに離れるようにテイパーさせることにより形成する。図示上の表面154と表面156との間の角度は誇張されている。この構成または構造は、テイパー付き面シールとして知られている。このタイプのシールの動作は、1967年10月17日にErling Frischへ付与された米国特許第3,347,552号に詳しく記載されている。
【0045】
この運転停止シールは、本発明の譲受人に譲渡され、2013年1月22日に発効した米国特許第8,356,972号に詳細に説明されている。同特許に記載の運転停止シールは、
図5〜7に示すように、シール冷却能力を喪失した場合に、ポンプの軸34とシール組立体38、40、42との間の当該軸34に沿う過大な漏洩を阻止するように作動可能なバックアップ安全装置または運転停止装置として、別のシール170がポンプ14に設けられている。
図5に示すように、この運転停止シール170は、一次シール(ナンバーワン・シール)38の挿入材110の環状開口に切削した溝に配置する。この運転停止シールは、(i)割りリング172が通常運転時に軸34との間に環状部174を残して当該軸34を取り囲み、(ii)シール冷却能力喪失後に当該軸が有意に減速するか停止すると当該割りリングが当該軸34に対して拘束状態になるように設計されている、という特徴がある。割りリング172は軸方向に割れた不連続単片リング部材であり、その対向端部はポンプの通常運転時、スペーサ176により離隔関係に維持される。
図5において、割りリング172の対向端部は“さねはぎ”に切削され、割りリングの端部が重なり合うと舌部が溝内に収まる構造である。別の実施態様では、対向端部は突合せまたは半重ね斜め継ぎによって重なり合う。スペーサ176は、図示のようにギャップ内にあり、運転時に割りリング172の対向端部が軸34上で閉じないようにして、環状部174を開いた状態に保って制御量の漏洩が生じるようにする。
図5に示す実施態様に従って、運転停止シールは、シールの温度がシール冷却能喪失の結果として上昇し、さらに好ましくはポンプ軸の回転が減速または停止すると、作動する。スペーサは、温度の上昇(回転軸が有意に減速もしくは停止するか、または他の任意の理由による)に応答して割りリング172の対向端部から離脱する。このため、割りリングの対向端部が互いに接近して、対向端部が軸34に対し拘束状態となり、流れ環状部174を介する冷却材の漏洩が封じられる。割りリングおよび軸(または軸上にスリーブを使用する場合は軸スリーブ)をかじり傷に強い材料で形成するのが好ましく、そうすることにより、回転中の軸上で作動しても、封止表面間に漏洩流路を開く楔として働くことがあるかじり傷の玉が形成されない。割りリングおよび軸の両方に17−4ステンレス鋼のような材料を用いると、首尾よく動作することが判明している。軸34の周りの、割りリング172と中実な保持シールリング180との間に、割りリングに当てて柔軟なポリマー製シールリング178を配置するのが好ましい。柔軟なポリマー製シールリング178は、割りリングが環状部174を介する冷却材の漏洩を制限する時にハウジングの圧力増加により軸に押し付けられるため、封止能力の高いシールが形成される。
【0046】
図5は、
図4の原子炉冷却材ポンプに取り付けられた前述したタイプの運転停止シール170を概略的に示す。
図5の運転停止シールは、シール冷却能力喪失後、ポンプ軸34の減速時または回転停止時に作動する。この運転停止シールは、ポンプハウジング内に位置して軸34を取り囲む。
図2〜4に示すタイプの原子炉冷却材ポンプの場合、運転停止シールを収容できるように、ナンバーワン・シールの挿入材を、頂部フランジの内径部分を一部切削することにより改造することが可能である。この運転停止シール170は、作動されるまでは、改造前にナンバーワン・シールの挿入材が占めていた空間内に実質的に完全に収まるため、当該シールと軸34との間の環状部174には実質的な変化がない。このようにして、環状部174を軸34に沿って流れる冷却材の流れは、回転機器の通常運転時に実質的にさえぎられることはない。
【0047】
図5に示す運転停止シール170は、割りリング172の対向端部を開いた状態に保つ後退自在のスペーサ176により構成される。後退自在のスペーサ
176は、
図6に関して後述するピストン186のような熱応答機械式装置184により作動される。スペーサ176が割りリング172の端部から後退させられると、割りリング172はぱちんと閉じて軸34の周りで拘束状態となり、改造されたナンバーワン・シール挿入材110内に保持されたままである。割りリング172は波形ばね182上にあり、当該ばねは割りリング172をシールリング178に対して押し上げ、当該シールリングは保持リング180に押圧される。環状部174を介する流れがさえぎられることにより生じる圧力降下もまた、割りリング172およびシールリング178を押し上げるため、全ての封止表面間で緊密な封止が得られる。割りリング172は波形ばね182上にあり、当該ばねは割りリング172を一次シールリング178に対して押し上げて、初期の封止接触を生じさせるため、割りリング172にかかる圧力降下が一次シールリング178にも作用する。
【0048】
図6および7は、作動前のスペーサ176およびアクチュエータ組立体184を示す。アクチュエータ184は、
図6および7に示すように、ばねにより付勢されたスペーサ176を拘束するキャンドピストン186より成る。そのキャンの中には、さらに説明するように、原子炉冷却材ポンプにとって望ましい作動温度、例えば華氏280度(138℃)で相変化を起こすワックス188が入っている。この相変化が生じると、ワックス188の体積が実質的に増加する。例えば、オクタコサンのようなワックスは体積が約17%増加する。ワックス188が相変化して膨張すると、ピストンヘッド190をポンプ軸34から離れる方向に押す。ピストンヘッド190が移動すると、ヘッド190により定位置に保持されていた玉192が外れるため、圧縮状態のばね194が伸張し、スペーサ176に連結されたプランジャ196を後退させる。ばね194の伸張につれてプランジャが押され、スペーサ176が引き寄せられて、割りリング端部間の位置から後退する。
【0049】
したがって、熱作動は以下のように起こる。温度が上昇すると、ワックス188の状態が変化して膨張する。HNBR(水素化ニトリルブタジエンゴム)製の2つのOリングシール198はワックスを封じ込めるために使用され、上部のOリングはカム190の摺動界面を提供する。ワックスの膨張によってカム190が並進すると、レース192内の玉軸受の作用でプランジャ196がハウジング200から離脱する。玉軸受の離脱後、圧縮ばね194がプランジャ196をスペーサ176と共に上方に並進させ、それにより割りリングを解放し、運転停止シールを作動させる。
改良型ポンプ運転停止シールアクチュエータ
【0050】
図8に示すのは、改良型熱動後退式アクチュエータである。前述のように、スペーサ176の並進によって割りリングが閉じ、運転停止シールが作動できるようになる。温度が上昇してワックス188の相転移点に達すると、ワックスの体積が約17%増える。体積を一定に保てば、ワックスの圧力が上昇し、10,000重量ポンド毎平方インチ(68,947.6kpa)を超える。ピストン196は、大きな直径D
1と小さな直径D
2とを有し、それぞれの断面積はA
1およびA2である。圧力(P)が上昇すると、ピストン196に対し、ワックス圧力と断面積の差との積に等しい並進力(F)がかかる。すなわち、F=Px(A
1−A
2)である。
図8に示すような構成において、スペーサ176を割りリングから離脱させるのに十分なピストン行程を実現する典型的なピストン力は、50〜100ポンド(22.7〜45.4kg)の範囲である。これは、
図7に示す圧縮ばね194によって得られる約15ポンド(6.8kg)の力より有意に大きい。カップシール204、206は、ワックス188を封じ込めるための圧力バウンダリを提供する。これらのカップシールはPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製とすることができ、高圧のワックス188を封じ込めるために十分な強度を有し、ワックスおよび周囲の原子炉冷却材のいずれとも化学的な適合性がある。Oリングシール208、210、212は、原子炉冷却材と適合性のあるEPDM(エチレンプロピレンジエンMクラスゴム)製またはHNBR製である。作動時にPEEKシールが破損しても、EPDMまたはHNBRシールが冗長な圧力バウンダリとして機能できる。EPDMシールは、ワックスに短時間曝されても耐えられる。端部キャップ214はハウジング216内で摺動自在であり、複数のせん断ピン218によって定位置に固定される。ピストン196が全行程を移動してなおワックス圧力が上昇し続ける場合、ピン218がせん断されて端部キャップ214を解放し、シール206がハウジング216から離脱して、余分なワックス体積が解放され、圧力が安全な状態にまで下がる。
【0051】
後退式組立体の全体202に大気圧より高い圧力がかかりうるので、ピストン196の上部フランジの周りには半径方向に向いた孔220が数個設けられている。半径方向の孔220がないと、ピストン196のヘッドが、係合する端部キャップ214を封止する可能性がある。半径方向の孔が存在しない場合、外圧が、ピストン196に望ましくない軸方向の力を及ぼすおそれがある。
【0052】
不要な場合もあろうが、ピストン196の露出した外径部をスリーブ222で覆い、周囲環境に存在しうる汚染物質からピストンを保護する。このスリーブは、作動温度に達したら溶けるポリプロピレン製にすることができる。あるいは、ピストンの並進時に好ましくない異物を除去するために、ハウジング216の端部に小さなワイパーを設けてもよい。
【0053】
構成が異なるものとして、本発明の別の実施態様を
図9に示す。別途の端部キャップ214が、螺旋状保持リング224により別途のハウジングに固着されている。作動前は、ばね226が、ピストン196を延伸位置に保つための小さな力を提供する。
【0054】
ハウジング216には少なくとも2つのポケット228があり、その領域にあるワックスの入ったチェンバの壁厚はT1に減少している。ピストン196が全行程を移動してなおワックス188の圧力が上昇し続ける場合、ハウジング壁がポケット228のところで膨らむことができるため、余分な体積のワックスが解放され、圧力が安全な状態にまで下がる。
図9のA−A断面を
図10に示す。これは、ポケット228におけるハウジング216の断面である。壁の薄い部分(T1)は、ワックス圧力が過大になると膨らむことができる。壁の厚い部分(T2)は、ハウジング216の構造健全性の維持に資する。
【0055】
別の構成として、ハウジング壁の薄い部分(T1)が360°にわたり連続するものがある。ワックス圧力が過大になった時にアクチュエータはすでに機能しているので、壁の厚い部分(T2)による構造健全性は必要ではない。
【0056】
図11は、一次シールの運転停止シールの挿入材に適用された、別の後退式アクチュエータの断面図である。
【0057】
前述の実施態様は、ばねを使用してピストンの偶発的な動きを阻止するものであるが、偶発的な作動が生じると発電所が運転停止して多大なコストがかかるので、より堅牢な機構を備えるのが非常に望ましい。そのような堅牢な機構を
図12に示す。
【0058】
図12は、本発明の運転停止シールで使用される後退式アクチュエータの第3の実施態様を示す。いくつかの図面の中で使用している同じ参照符号は、対応する構成要素を指している。熱作動は、前述のように、温度の上昇によりワックス188の状態が変化して膨張し、圧力を上昇させることにより達成される。ワックスの圧力が上昇すると、ピストン196に対し、ワックス圧力とピストンの断面積の差との積に等しい並進力がかかる。ピン232が設置されていないと、ピストン196はスペーサ172をハウジング200の方向へ並進させる。スペーサ176が離脱すると、ピストン割りリング172が閉じることが可能となり、原子炉冷却材ポンプ軸運転停止シールが動作できるようになる。
【0059】
スペーサ176を割りリング172から離脱させるのに十分なピストン行程を実現する典型的なピストン力は、50〜100ポンドの範囲である。Oリング204およびカップシール206は、ワックス188を封じ込めるための圧力バウンダリを提供する。Oリングシール210、212は、ワックスに対する冗長な圧力バウンダリとして機能し、周囲の流体をワックスチェンバ内に入らないように隔離する。カップシール206と併用されるワイパー208は半剛体であり、ピストン196をハウジング200内の中心に保つよう、デュアルブッシュとして機能する。ワイパー208の主要な機能は、異物をハウジング200に入らないように排除することである。ワイパーはまた、周囲の流体が新たなOリング204に入る量を最小にするためのシールでもある。
【0060】
一実施態様では、ピストン196内に封入された栓230は、熱作動に先立ってピストン196が並進しないように、金属ピン232を定位置に保持するに十分な硬さを有している。
図12でわかるように、栓230の234のところの薄い壁は、ピン232の外径とピストン196の凹部236の内径との間が軽い圧入状態となるように、柔軟な境界を提供している。圧入により、ピストン196とピン232との間の動きが最小になる。栓230の材料として好ましいのは、ポリエチレンなどのポリマーである。ポリマーには圧入に好適な柔軟性があり、しかもその融解温度はワックスの相転移温度に非常に近い。ポリエチレンは、周囲の原子炉冷却材ポンプ環境とも適合性がある。クリープの発生を防ぐ上で、栓230が封入されていることが重要である。栓230がピストン196内に封じ込められていない状態で、ピン232に対して栓230の方向に負荷がかかると、栓230にかかる力の増加によって栓の半径方向外向きのクリープおよび/または座屈が生じることになる。この構成において、栓230がそれにかかる負荷の増加により流出するようになるには狭い境界部234から押し出される必要がある。ポリマー結合の性質により,ピン232とピストン196との間の狭い隙間からの押出しは、ポリマーの温度が高くならない限り極めて困難である。熱作動が生じる前のピンと栓の組み合わせによる保持力は、容易に100ポンドを超える。
【0061】
熱作動時、通常の動作温度を超える状況で、ワックスの状態が変化し始める前に栓230は柔らかくなる。さらに温度が上昇すると、ピストンが動き始める前に、または動き始めると同時に、栓が融解温度に達する。栓230が融解すると、栓の材料が粘性を帯びてピン232の周囲を自由に流動し、ピン232がピストンの凹部236内を並進できるようになるため、ピストンのロックが解放されて運転停止シールを作動できるようになる。
【0062】
図13に示すのは、熱作動に先立ってピストン196が並進するのを阻止するための別の実施態様である。熱作動の前にピストン196が動かないように、ピン232は穴または凹部236に摺動自在に固定されている。ピン232のスロット238間のリーフ244は、(板ばねのように)弾性的に半径方向外方に付勢されているため、ピン232の外径とピストン穴196の内径とは境界面240において密着状態に保たれる。ピストン196が、ピン232から半径方向外方に延びるせん断ピン突起部242をせん断または破断させるに十分な力を及ぼしてその全行程を移動できるようになるまで、ピンは作動できない。
【0063】
かくして、この改良型アクチュエータは簡素な設計の熱動後退式アクチュエータであり、前述の従来設計よりも大きい力を及ぼし、構成部材が少ない。従来設計のアクチュエータはHNBR製Oリングを使用するが、このOリングの期待寿命は、運転年数として望まれる12年より短い可能性がある。好ましい設計のシール装置は、長寿命のEPDM製OリングおよびPEEKシールを使用して、熱動後退式アクチュエータの構成部品のために別個の冗長な圧力バウンダリを提供する。
【0064】
本発明の特定の実施態様について詳しく説明してきたが、当業者は、本開示書全体の教示するところに照らして、これら詳述した実施態様に対する種々の変更および代替への展開が可能である。したがって、ここに開示した特定の実施態様は説明目的だけのものであり、本発明の範囲を何らも制約せず、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲に記載の全範囲およびその全ての均等物である。