特許第6402214号(P6402214)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402214
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】米飯の老化を抑制する米飯の炊飯方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/10 20160101AFI20181001BHJP
【FI】
   A23L7/10 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-39130(P2017-39130)
(22)【出願日】2017年3月2日
(65)【公開番号】特開2018-143121(P2018-143121A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2017年4月6日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592211688
【氏名又は名称】株式会社はくばく
(74)【代理人】
【識別番号】100080654
【弁理士】
【氏名又は名称】土橋 博司
(72)【発明者】
【氏名】下村友哉
(72)【発明者】
【氏名】松岡 翼
(72)【発明者】
【氏名】小林 敏樹
(72)【発明者】
【氏名】神宮寺 謙二
【審査官】 上條 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−062949(JP,A)
【文献】 特開平11−313626(JP,A)
【文献】 “滝川産もち麦人気 「安くておいしい」と評判 加工追いつかず”, 2016.10.19, 北海道新聞朝刊地方, p.26
【文献】 みそソムリエすずなのみそお知る!大百科 [online],2016年 5月14日,<http://miso-sommelier.com/category12/entry51.html> [retrieved on 2017-11-28]
【文献】 土鍋でもち麦入りご飯(無洗米)4号♪,cookpad [online],2016年10月31日,<https://cookpad.com/recipe/print/4154102?page_type=2> [retrieved on 2017-10-28]
【文献】 大麦(もち麦)はなんでカラダにいいの?,オコメンブログ [online],2017年 1月27日,<http://www.gokokumai.co.jp/kblog/?p=104> [retrieved on 2017-11-28]
【文献】 茨城女子短期大学紀要, 1993, Vol.20, pp.121-144
【文献】 日本醸造協会誌, 1992, 87(7), pp.527-532
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00 − 7/104
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
G−Search
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミロペクチンの組成が80%以上であるデンプンが含まれ、かつ切断、破砕、または胚乳部の全体がNMG染色で桃色を呈するまで搗精したもち性の大麦を、うるち性米に添加して炊飯することにより米飯の老化を抑制することを特徴とする米飯の炊飯方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯した米飯を保存する際、米飯を硬くなりにくくする老化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古来より、日本では米飯類が主食とされてきた。現代でも、日本人の最も重要なエネルギー源のひとつである。
【0003】
しかしながら、消費の大部分を占めているスーパーマーケットやコンビニエンスストアでは、炊飯後の米飯をおにぎりや弁当として調理した後、消費者が実際に喫食をするまで数時間から数日の間、常温下又は冷蔵下で保存されるケースが多く、その際に米飯が硬くなり、食味が劣化してしまう「老化」が問題となっている。
【0004】
この炊飯した米飯の「老化」を抑制する為に添加物を利用した種々の方法が利用されており、例えば、アミロース親和性物質を用いた方法(例えば特開2006−180806号公報、特許文献1参照)や、山芋の粉末、麦芽粉末、もち米粉末及び大根粉末を含むことを特徴とする炊飯用配合剤(例えば特開平7−274863号公報、特許文献2参照)などの多くが開示されている。
【0005】
一方、炊飯後に白米が硬くなってしまう問題に対して、添加物を用いない方法として、もち性米で対処する技術(もち性米はアミロペクチン含有量が高いため、老化を抑制することが考えられる)はあるが、大麦で解決するという報告は無い。
【0006】
大麦類は各種のミネラル成分や食物繊維が豊富に含まれているために毎日食することが推奨されている。大麦の喫食による体質改善効果についても数多くの論文が報告されており、米国や欧州連合ではコレステロール値の低下、血糖値の上昇抑制、腸内環境の改善などのヘルスクレームが認められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−180806号公報
【特許文献2】特開平7−274863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炊飯後の米飯を常温下や冷蔵下で保存する際に硬くなってしまう問題はコンビニエンスストア等の小売店をはじめ、米飯を取り扱う業界における品質向上のための課題となっている。
【0009】
本発明の目的は、各種のミネラル成分や食物繊維が豊富に含まれ、健康効果のあり、かつ、添加物を使用しない食材で米飯の老化耐性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ね、米飯炊飯の際に、精白米とともに、一定量のもち性の大麦を加え、適量の水を加えて炊飯することで、炊飯後の米飯の老化を抑制できることを確認した。もち性の大麦にはもち米と同様にアミロペクチンからなるデンプンが含まれていることから老化抑制効果が得られたものと考えられる。
【0011】
本発明者らは更に検討を重ね、もち性の大麦を切断、破砕または胚乳部が十分に露出するまで搗精することにより、その老化抑制効果がさらに高まることを発見した。また、この技術は従来用いられているもち米と比較しても高い効果であることを確認した。このようにして、本発明者らは、精白米に切断、破砕または胚乳部が十分に露出するまで搗精したもち性の大麦を加え、適量の水を加えて炊飯することで、炊飯後の米飯の老化を抑制できることを見出した。
【0012】
本発明においては、もち性大麦の品種の別は問わないものとする。すなわち大麦の二条、六条の種類は問わず、また、皮麦、裸麦の別も問わない。大麦の加工においては、圧扁の有無は問わないものとする。調理においてはお米に混ぜての炊飯、大麦のみでの炊飯の別は問わないものとする。保存においては、常温、冷蔵(好ましくは10℃以下)の別は問わないものとする。
【発明の効果】
【0013】
上述したように本発明の炊飯方法は、炊飯後の米飯を硬くなりにくくし、老化を抑制することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】原料100%で炊飯したときの硬さの経時変化(レオメーター測定結果)を示すグラフである。
図2】うるち性米と混合して炊飯したときの硬さの経時変化(レオメーター測定結果)を示すグラフである。
図3】うるち性米への切断もち性大麦の混合割合を5段階に変え炊飯をした後24時間冷蔵保存した時の硬さの比較(レオメーター測定結果)を示すグラフである。
図4】原料100%をレトルト加工し、2週間冷蔵保存したときの硬さの比較(レオメーター測定結果)を示すグラフである。
図5】官能評価結果を示し、炊飯したうるち性米を基準とし、うるち性米に胚乳部が十分に露出するまで搗精したもち性大麦を添加して炊飯した米飯との比較を示すグラフである。
図6】NMG染色を施した3つのサンプル(左からもち性大麦、切断したもち性大麦、胚乳部が十分に露出するまで搗精したもち性大麦)の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述の切断、破砕または胚乳部が十分に露出するまで搗精したもち性大麦とは、アミロペクチンの組成が80%以上であるデンプンが含まれたもち性の大麦を原料とし、加工工程の中に大麦を切断する切断加工や、破砕をする工程、または、もち性大麦の胚乳部が十分に露出する様な搗精工程を有する大麦加工品のことを指し、例えば大麦の黒条線に沿って2つに切断した後に圧扁を行う白麦、大麦を搗精によって米粒状に形を整える米粒麦などがある。
【0016】
炊飯用途を例に、具体的な本発明の利用方法の一例を以下に記す。まず、精白したうるち性米を水で洗浄する。一般的な炊飯器に洗浄したうるち性米を1合入れ、うるち性米1合に対して210mlの水を加える。ここに、好みの量の切断、破砕または胚乳部が十分に露出するまで搗精したもち性大麦を、好ましくは20重量パーセント以上となる様に加え、適量の水を加える。軽く全体を混ぜた後、炊飯器の蓋を閉め、炊飯する。
【0017】
以上の手順で炊飯した米飯は、炊飯後時間経過による老化度が、白米と比べて緩やかである。
【実施例】
【0018】
実施例1:原料100%炊飯での老化の評価
本発明における老化抑制方法が、原料のみでの炊飯において冷蔵保存後の品質に与える影響を確認するため、以下の試験を行った。
【0019】
4種類の原料を用いて、各原料のみで炊飯し、炊飯後の経時変化を、レオメーターにて測定した。4種類の原料とは、切断もち性大麦、切断うるち性大麦、未切断もち性大麦、うるち性米とした。原料はすべて150gずつ使用した。うるち性米は1.4倍加水、その他原料は2倍加水とし、浸漬時間は全て30分で炊飯を行った。炊飯はサンヨーIHジャー(炊飯専用家庭用圧力がまECJ-LG10)、普通白米モードで炊飯した。炊飯後、水分を逃さないようタッパーに入れ、室温まで冷ましたものを<0H>とした。<0H>を冷蔵庫内にて保存し、保存時間が6時間<6H>、12時間<12H>、24時間<24H>、48時間<48H>のサンプルを測定に供試した。老化の評価は、代替指標としてFUDOHレオメーター(レオテックRT−3010D)で測定した硬さ(単位:g)を用いて評価を行った。測定方法はカップ法すなわち原料2.5gを測定用の器にのせて、測定する方法を採用した。プランジャーは丸型の1.5cmを用い、ステージの移動速度30cm/minで測定を行った。
【0020】
結果を図1に示した。切断うるち性大麦、未切断もち性大麦、うるち性米が経時変化により徐々に硬化していくのに対し、切断もち性大麦は48時間経過しても、硬さがわずかしか変化しない結果となった。
【0021】
実施例2:うるち性米に混合して炊飯した際の老化の評価
本発明における老化抑制方法が、うるち性米に混合をした際の炊飯において、冷蔵保存後の品質に与える影響を確認するため、以下の試験を行った。
【0022】
4種類の原料を用いて、各原料をうるち性米に混合して炊飯したときの、硬さの経時変化を、レオメーターにて測定した。4種類の原料とは、切断もち性大麦、圧扁した切断もち性大麦、切断うるち性大麦、未切断もち性大麦とした。炊飯方法は全て、150gのうるち性米に原料をそれぞれ60g加え(28.6重量%)、330ml加水した。この4試験区に加えてコントロールとしてうるち性米を測定した。浸漬時間は全て30分で炊飯を行った。以降の条件は実施例1の試験方法と同様に行った。
【0023】
結果を図2に示した。炊飯直後の硬さである<0H>を除く全ての時間帯において、切断もち性大麦と圧扁した切断もち性大麦が、他3試験区の硬さよりも小さい結果となった。したがって、うるち性米に配合した米飯でも切断もち性大麦の混合による老化抑制効果が認められた。
【0024】
実施例3:うるち性米に切断もち性大麦を混合して炊飯した際の、混合割合による老化の評価
本発明における老化抑制方法における、切断したもち性大麦をうるち性米に混ぜた際の、老化抑制に効果を得ることの出来る閾値を確認する為、以下の試験を行った。
【0025】
うるち性米への切断もち性大麦の混合割合を5段階に変え炊飯をしたときの、<24H>での硬さを、レオメーターにて測定した。5段階の混合割合とは、0%(うるち性米のみ)、10%、20%、28.6%、40%とした。炊飯条件は以下の表1の通りで行った。
【表1】

浸漬時間は全て30分で炊飯を行った。以降の条件は実施例1の試験方法と同様に行った。
【0026】
結果を図3に示した。図3の通り、20%以上の配合において、うるち性米よりも切断もち性大麦を配合した米飯の方が柔らかいことが示された。
【0027】
実施例4:うるち性米に混合して炊飯した米飯の官能評価
本発明における老化抑制方法が、うるち性米に大麦を混合した際の炊飯において、冷蔵保存後の官能に与える影響を確認するため、以下の試験を行った。
【0028】
実施例3において炊飯した5試験区の米飯の<48H>品を喫食し、硬さの強弱で評価を実施した。その結果を以下の表2に記す。切断もち性大麦および圧扁切断もち性大麦は未切断もち性大麦、切断うるち性大麦、うるち性米と比較しても硬さが抑えられており、実施例3の結果は官能でも確認することができた。
【表2】
【0029】
実施例5:原料100%レトルト品の老化の評価
本発明における老化抑制方法が、加工方法に因ることなく効果があることと、加工後十分な時間が経っても効果が持続することを確認する為、以下の試験を行った。
【0030】
3種類の原料を用いて、各原料のみでレトルト処理した後、2週間冷蔵保存したものをレオメーターにて測定した。3種類の原料とは、切断もち性大麦、切断うるち性大麦、未切断もち性大麦とした。レトルト処理方法は、各原料を、原料重量の2倍量の水で一晩浸漬した後水を切り、油脂を加えてまんべんなく混ぜて100gずつレトルト殺菌機対応の包材に入れ、窒素置換してシールしたものをレトルト殺菌機にて処理をした。
硬さの測定方法は一粒法すなわち、原料1粒を圧縮率29%まで圧縮して測定する方法を採用した。プランジャーは平型の2.0cmを用い、ステージの移動速度30cm/minで測定を行った。
【0031】
結果を図4に示した。図のように、本試験においても、切断もち性大麦が、切断うるち性大麦と未切断もち性大麦と比べて柔らかい結果となった。
【0032】
実施例6:原料100%レトルト品の官能評価
本発明における老化抑制方法が、アルファ化加工後十分な時間が経ったときに官能に与える影響を確認するため、以下の試験を行った。
【0033】
実施例5においてレトルト殺菌加工した3試験区において、加工後2週間冷蔵保存したものを喫食し、硬さの強弱で評価を実施した。その結果を以下の表3に記す。切断もち性大麦は他の2試験区と比較して明らかに柔らかく、老化が抑制されていた。一方、切断うるち性大麦は3試験区中最も硬かった。以上の結果から、実施例5の結果は官能でも確認することができた。
【表3】
【0034】
実施例6:胚乳部が十分に露出するまで搗精したもち性大麦を添加した米飯の官能評価
本発明における老化抑制効果が、切断や破砕という方法でなく、搗精によって胚乳部が露出したもち性大麦にも認められるかどうかを確認するため、以下の試験を行った。
【0035】
うるち性米を基準とし、搗精によって胚乳部が露出したもち性大麦をうるち性米に添加した米飯を評価する官能評価を実施した。うるち性米は共に150gずつ使用した。うるち性米は1.4倍加水、もち性大麦は2倍加水とし、浸漬時間は全て30分で炊飯を行った。炊飯はサンヨーIHジャー(炊飯専用家庭用圧力がまECJ-LG10)、普通白米モードで炊飯した。炊飯後、水分を逃さないようタッパーに入れ、室温まで冷ました後48時間冷蔵保存した<48H>サンプルにおいて、官能評価を実施した。官能評価結果を図5に示した。搗精によって胚乳部が露出したもち性大麦をうるち性米に添加した米飯は、うるち性米のみでの炊飯品に対して、硬さの強弱という項目において顕著に弱いという結果であった。このことから、切断や破砕という方法でなく、搗精によって胚乳部が露出したもち性大麦にも、老化抑制効果があることが判った。
【0036】
図6は、NMG染色を施した3つのサンプル(左からもち性大麦、切断したもち性大麦、胚乳部が十分に露出するまで搗精したもち性大麦)の画像である。NMG染色により、胚乳部は桃色に呈色し、外皮が残存している箇所は緑色に呈色する。画像より、胚乳部が十分に露出するまで搗精したもち性大麦は表面がほぼ完全に桃色に呈色した。切断したもち性大麦に関しては、切断面は胚乳部が露出し、桃色に呈色したが、もち性大麦、切断したもち性大麦は所々緑色に呈色した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この技術を基に、一般消費者向けのチルド弁当、おにぎりや、飲食店や施設の食堂等の厨房で炊飯する米飯に切断したもち性大麦を入れることで、炊飯後の米飯が硬くなってしまう老化の問題が解決される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6