(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6402225
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/44 20060101AFI20181001BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20181001BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20181001BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
H01M10/44 P
H02J7/00 A
H02J7/00 303C
H01M10/48 P
H01M10/54
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-154215(P2017-154215)
(22)【出願日】2017年8月9日
【審査請求日】2017年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】599114760
【氏名又は名称】東芝環境ソリューション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(72)【発明者】
【氏名】小上 泰司
(72)【発明者】
【氏名】近藤 均
(72)【発明者】
【氏名】野口 和彦
【審査官】
古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−230003(JP,A)
【文献】
実開平06−017114(JP,U)
【文献】
特開2008−176967(JP,A)
【文献】
特開2001−178004(JP,A)
【文献】
特開平10−126975(JP,A)
【文献】
特開2017−085876(JP,A)
【文献】
国際公開第2017/046900(WO,A1)
【文献】
国際公開第2016/063472(WO,A1)
【文献】
実開昭57−126170(JP,U)
【文献】
特開平08−242545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/24− 6/52
H01M 10/42−10/667
H02J 7/00− 7/12
H02J 7/34− 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数の廃棄単位電池の一端の正極と他端の負極の間を電気的に接続する電気抵抗器と、
前記複数の廃棄単位電池のうち、過放電による転極状態となった廃棄単位電池の負極と正極の間を電気的に接続するバイパス手段と、
直列接続された前記複数の廃棄単位電池の一端の正極と他端の負極の間を電気的に開閉する短絡用回路スイッチと、
前記複数の廃棄単位電池の各々の電圧を測定する電圧測定手段と、
この電圧測定手段により測定した前記各々の電圧の値をもとに、前記短絡用回路スイッチの開閉を操作する制御手段とを有し、
前記複数の廃棄単位電池の起電力で生じる放電電流を前記電気抵抗器に流すことにより、前記複数の廃棄単位電池の残存電気量を放電させ、放電中に前記複数の廃棄単位電池の一部が過放電による転極状態になった場合は、前記放電電流を、前記バイパス手段を介して前記電気抵抗器に流すことにより、転極状態になっていない前記廃棄単位電池を継続して放電させることを特徴とする廃棄電池の放電処理装置。
【請求項2】
前記バイパス手段は、前記複数の廃棄単位電池の各々の正極と負極の間に、逆方向バイアスとなる向きに電気的に接続されるダイオードであることを特徴とする請求項1に記載の廃棄電池の放電処理装置。
【請求項3】
更に、前記直列接続された複数の廃棄単位電池の一端の正極と他端の負極の間に電気的に接続され、前記電気抵抗器と直列接続される放電駆動用電源をさらに有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の廃棄電池の放電処理装置。
【請求項4】
前記放電駆動用電源は前記廃棄単位電池の放電電流により充電される二次電池であることを特徴とする請求項3に記載の廃棄電池の放電処理装置。
【請求項5】
複数の廃棄単位電池を直列接続し、その一端の正極と他端の負極の間に電気抵抗器を電気的に接続し、前記複数の廃棄単位電池の起電力で生じる放電電流を前記電気抵抗器に流すことにより、前記複数の廃棄単位電池の残存電気量を放電させる放電工程と、
この放電工程中に、前記複数の廃棄単位電池の一部が過放電による転極状態になった場合は、その廃棄単位電池の負極と正極の間を電気的に接続し、転極状態になっていない前記廃棄単位電池を継続して放電させるバイパス工程とを有し、
直列接続された前記複数の廃棄単位電池の一端の正極と他端の負極の間に短絡用回路スイッチを電気的に接続し、前記複数の廃棄単位電池の各々の電圧を測定し、これらの各々の電圧の値をもとに前記短絡用回路スイッチの開閉を操作することを特徴とする廃棄電池の放電処理方法。
【請求項6】
前記バイパス工程は、前記複数の廃棄単位電池の各々の正極と負極の間に、逆方向バイアスとなる向きに各々ダイオードを電気的に接続した状態とすることにより実施させることを特徴とする請求項5に記載の廃棄電池の放電処理方法。
【請求項7】
前記直列接続された複数の廃棄単位電池の一端の正極と他端の負極の間に放電駆動用電源を電気的に接続し、この放電駆動用電源と前記電気抵抗器は直列接続されることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の廃棄電池の放電処理方法。
【請求項8】
前記放電駆動用電源は前記廃棄単位電池の放電電流により充電する二次電池であることを特徴とする請求項7に記載の廃棄電池の放電処理方法。
【請求項9】
複数の廃棄単位電池を直列接続し、その一端の正極と他端の負極の間に電気抵抗器を電気的に接続し、前記複数の廃棄単位電池の起電力で生じる放電電流を前記電気抵抗器に流すことにより、前記複数の廃棄単位電池の残存電気量を放電させる放電工程と、
この放電工程中に、前記複数の廃棄単位電池の一部が過放電による転極状態となった場合は、その廃棄単位電池を特定する転極検知工程と、
この転極検知工程で転極状態となった廃棄単位電池を特定した場合、その転極状態となった廃棄単位電池と未放電の廃棄単位電池を順次入れ替える入替工程とを有し、
前記放電工程中に、前記複数の廃棄単位電池の一部が過放電による転極状態になった場合でも、転極状態になっていない前記廃棄単位電池を継続して放電させることを特徴とする廃棄電池の放電処理方法。
【請求項10】
前記入替工程を実施することにより、前記放電電流の値を大きくした状態で前記複数の廃棄単位電池を放電させることを特徴とする請求項9に記載の廃棄電池の放電処理方法。
【請求項11】
前記転極検知工程は、前記複数の廃棄単位電池各々の正極と負極の間に、逆方向バイアスとなる向きに各々発光ダイオードを電気的に接続し、この発光ダイオードが発光することにより実施されることを特徴とする請求項9に記載の廃棄電池の放電処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池を代表とする二次電池は、電気自動車や電力貯蔵をはじめとして多くの製品に使用されている。将来、さらに多くの商品に使用され、多量の電池が廃棄処分されると予想される。二次電池の廃棄処理方法として、廃棄する二次電池を解体処理して材料毎にリサイクルする第一の方法と、廃棄する二次電池をそのまま焙焼して金属等をリサイクルする第二の方法とに大別することができる。二次電池は充放電して使用する電池であることから廃棄する時に電気量が残存していることが多く、そのままの状態で廃棄処理を行なうと、第一の方法では、解体時の感電事故や処理工程中での短絡による発火事故が生じる恐れがあり、第二の方法では、廃棄する二次電池を焙焼炉まで運ぶ時の感電事故や意図しない短絡による発火事故が生じる恐れがある。したがって、安全性を考えると、二次電池を廃棄処理する場合、その二次電池に残存する電気量を事前に放電させる必要がある。
【0003】
廃棄する二次電池を放電させる際に、効率よく放電させる技術として、複数の廃棄二次電池を直列接続した状態でまとめて放電させる廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法が知られている。このタイプの従来の廃棄二次電池の放電処理装置および放電処理方法では、一部の廃棄二次電池で残存電気量が無くなり(または比較的少なくなり)過放電による転極状態になると、放電電流は減少し、残存電気量が比較的多い他の廃棄二次電池の放電が滞ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4003689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、複数の廃棄単位電池を直列接続した状態でまとめて放電させる際、一部の廃棄単位電池が過放電による転極状態になった場合でも、転極状態になっていない他の廃棄単位電池を継続して放電させることができる廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、実施形態の廃棄電池の放電処理装置は、直列接続された複数の廃棄単位電池の一端の正極と他端の負極の間を電気的に接続する電気抵抗器と、前記複数の廃棄単位電池のうち、過放電による転極状態となった廃棄単位電池の負極と正極の間を電気的に接続するバイパス手段と、
直列接続された前記複数の廃棄単位電池の一端の正極と他端の負極の間を電気的に開閉する短絡用回路スイッチと、前記複数の廃棄単位電池の各々の電圧を測定する電圧測定手段と、この電圧測定手段により測定した前記各々の電圧の値をもとに、前記短絡用回路スイッチの開閉を操作する制御手段とを有し、前記複数の廃棄単位電池の起電力で生じる放電電流を前記電気抵抗器に流すことにより、前記複数の廃棄単位電池の残存電気量を放電させ、放電中に前記複数の廃棄単位電池の一部が過放電による転極状態になった場合は、前記放電電流を、前記バイパス手段を介して前記電気抵抗器に流すことにより、転極状態になっていない前記廃棄単位電池を継続して放電させる。
【0007】
また、実施形態の廃棄電池の放電処理方法は、複数の廃棄単位電池を直列接続し、その一端の正極と他端の負極の間に電気抵抗器を電気的に接続し、前記複数の廃棄単位電池の起電力で生じる放電電流を前記電気抵抗器に流すことにより、前記複数の廃棄単位電池の残存電気量を放電させる放電工程と、この放電工程中に、前記複数の廃棄単位電池の一部が過放電による転極状態になった場合は、その廃棄単位電池の負極と正極の間を電気的に接続し、転極状態になっていない前記廃棄単位電池を継続して放電させるバイパス工程とを有し、
直列接続された前記複数の廃棄単位電池の一端の正極と他端の負極の間に短絡用回路スイッチを電気的に接続し、前記複数の廃棄単位電池の各々の電圧を測定し、これらの各々の電圧の値をもとに前記短絡用回路スイッチの開閉を操作する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置の構成図。
【
図2】第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置において、放電を開始した時の様子を示す図。
【
図3】第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置において、放電中にひとつの廃棄単位電池が転極状態となった時の様子を示す図。
【
図4】第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置における各電圧、各電流の変化を示すグラフ。
【
図5】第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置において、転極状態となった廃棄単位電池(1)のバイパス用ダイオードの温度変化を示すグラフ。
【
図6】第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置における電圧、放電電流の変化を実験的に検証した結果を示すグラフ。
【
図7】バイパス回路を設けない比較例の廃棄電池の放電処理装置の構成図。
【
図8】バイパス回路を設けない比較例の廃棄電池の放電処理装置における電圧、放電電流の変化を示すグラフ。
【
図9】第2の実施形態による廃棄電池の放電処理装置の構成図。
【
図10】第2の実施形態による廃棄電池の放電処理装置における電流切換スイッチの回路図。
【
図11】第3の実施形態による廃棄電池の放電処理装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、発明の実施形態の廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法について、図面を用いて説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法について、
図1乃至
図6を用いて説明する。
【0011】
図1は、第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置の構成図である。この廃棄電池の放電処理装置を用いて、不要となり廃棄処理される電池を、複数個の廃棄単位電池を直列接続した状態でまとめて放電させる。放電処理装置に、放電対象である公称電気容量20Ahの廃棄単位電池1が5個直列接続された状態で装着される。直列接続された状態を実現する方法としては、放電処理装置の内部で5個の廃棄単位電池1を直列接続する方法と、放電処理装置の外部で5個の廃棄単位電池1を直列接続する方法の二つがあり、何れを実施してもよい。廃棄単位電池1は、二次電池であるリチウムイオン電池とした。放電処理装置は、直列接続された5個の廃棄単位電池1の一端の正極と他端の負極の間に電気的に接続される主回路電気抵抗器3および主回路開閉スイッチ10を有する主回路2と、廃棄単位電池1の各々の正極と負極の間に設けたバイパス用ダイオード5およびバイパス回路開閉スイッチ11を有するバイパス回路4と、直列接続された5個の廃棄単位電池1の一端の正極と他端の負極の間に電気的に接続される短絡用回路スイッチ6を有する短絡回路7と、廃棄単位電池1の各々の正極と負極の間の電位を測定する電圧測定手段8およびその測定した電圧値をもとに短絡用回路スイッチ6を操作する制御手段9とを有する。主回路2、バイパス回路4および短絡回路7の各詳細ついては、以下に説明する。
【0012】
主回路2では、主回路電気抵抗器3は、直列接続した全ての廃棄単位電池の残存電気量を放電する電気抵抗器であり、廃棄単位電池1の直列個数や設定する放電電流値にもとづきその抵抗値を決定する。本実施例では2.5Ωとした。また、主回路2を開閉するための主回路開閉スイッチ10を設けている。
【0013】
バイパス回路4では、廃棄単位電池1各々の正極と負極の間に、逆方向バイアスとなる向きに設けたバイパス用ダイオード5は、各廃棄単位電池1の起電力が流す放電電流とは逆向きの電流のみを流す。また、バイパス回路4にはバイパス回路開閉スイッチ11をそれぞれ設けている。
【0014】
短絡回路7では、電圧測定手段8で測定した廃棄単位電池1各々の正極と負極の間の電圧値に基づき、制御手段9により開閉制御される短絡用回路スイッチ6が設けられている。尚、本実施例では完全放電を自動で実施するために短絡回路7を設けたが、自動である必要がなければ、短絡回路7は設けなくてもよい。
【0015】
次に、第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法の作用・動作について説明する。
【0016】
一般に、二次電池では、安全に放電を行うことができる放電電圧の最低値が定められており、「放電終止電圧」と呼ばれる。放電終止電圧は、リチウムイオン電池やニッケル水素電池など電池の種類によって決まっており、放電終止電圧を下回る電圧まで放電する状態は「過放電」と呼ばれ、電池の性能を大きく劣化させる原因となる。一般的なリチウムイオン電池では、機器側や電池側に過放電を防ぐための安全回路が設けられているが、過放電を行ってしまった場合には、正極のコバルトや負極の集電体の銅が溶出してしまい、二次電池として機能しなくなる恐れがある。
【0017】
また、複数の電池を直列接続して放電させると、各電池の残存電気量のばらつきにより、比較的残存電気量が多い電池が比較的残存電気量の少ない電池に強制的に放電電流を印加することから、比較的残存電気量が少ない電池は過放電の状態となる。この過放電が進むとやがて「転極」が生じる。転極とは、本来の正極と負極の電位関係が逆転する現象であり、転極の状態となった電池電圧は0V以下(マイナス電圧)となる。転極の状態となった電池では、その内部抵抗は大きく上昇し、電流が極めて流れ難い状態となる。
【0018】
図2は、第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置において廃棄単位電池1の放電を開始した時の様子を示す図である。直列接続された5個の廃棄単位電池1を、主回路2、バイパス回路4、短絡回路7に接続した状態において、5つのバイパス回路開閉スイッチ11および主回路開閉スイッチ10を順次「閉」とすることにより、廃棄単位電池1の正極(プラス極)から負極(マイナス極)に向かい、主回路電気抵抗器3に放電電流が流ながれ、廃棄単位電池1の放電が始まる(放電工程)。各廃棄単位電池1に電気量が残留している状態では、主回路の放電電流は廃棄単位電池1の放電電流であるため、バイパス回路4のバイパス用ダイオード5にはほとんど電流が流れない。
【0019】
その後、各廃棄単位電池1の放電が進むと、比較的残存電気量が少ない廃棄単位電池1(電池(1))は転極する。
図3は、その時の様子を示す図である。比較的残存電気量が少ない廃棄単位電池1(電池(1))は、比較的残存電気量が多い廃棄単位電池1(電池(2)(3)(4)(5))の起電力により放電電流が印加され転極に至る。転極状態になった電池(1)の内部抵抗は急激に上昇し、この電池(1)には放電電流はほとんど流れなくなる。一方、残存電気量が比較的多い電池(2)(3)(4)(5)の起電力により、主回路2には放電電流が強制的に流れようとし、転極状態となった電池(1)の両極の間に接続されたバイパス用ダイオード5にバイパス電流が流れる(バイパス工程)。その結果、主回路にある主回路電気抵抗器3には放電電流が継続して流れ、放電が継続して行われる。
【0020】
図4は、
図3に示した第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置における各電圧、各電流の変化を示すグラフである。放電時の全電圧、各廃棄単位電池(電池(1)〜(5))の各電圧、主回路2に流れる電流(放電電流)、過放電により転極状態となった廃棄単位電池(電池(1))に設けたバイパス回路4に流れるバイパス電流の経時変化をそれぞれ示している。比較的残存電気量が少ない廃棄単位電池(電池(1))の電圧が徐々に低下し、これに伴い全電圧及び放電電流(主回路電流)も徐々に低下する。放電開始5分後に電池(1)が転極状態となるが、これと同時に電池(1)に設けたバイパス回路にバイパス電流が流れ始めていることが分かる。それ以降は、電池(1)の電圧は−0.5V程度まで徐々に低下する一方、電池(1)バイパス電流は徐々に増加し、15分後には、主回路2に流れる放電電流と一致する。このことにより、主回路2に流れる放電電流は転極した電池(1)を通過せずバイパス回路2にバイパスして放電が継続していることがわかる。前記のように、電池(1)の電圧が転極した以降も主回路に放電電流は流れ続け、電池(2)〜(5)の放電を継続して行うことができた。なお、比較的残存電気量が多い電池(2)〜(5)の放電は継続しているが、この段階では各電圧は低下していない。
【0021】
図5は、
図3に示した第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置において、転極状態となった廃棄単位電池(1)のバイパス用ダイオードの温度変化を示すグラフである。過放電による転極状態となった電池(1)の両電極間に設けたバイパス回路4に流れるバイパス電流は、最初は0Aであったが、5分以降に流れ始め、15分後には4Aになっている。このバイパス電流の変化を追うような形で、電池(1)のバイパス用ダイオードの温度は、最初は15℃であったが、20分後には86℃に上昇している。一方、他の廃棄単位電池(2)〜(5)の温度上昇は2〜3℃であった。なお、ダイオードの温度は、ダイオードの仕様、放熱板の設置等により異なるので、放電条件に応じた仕様のものを選択する必要が有る。
【0022】
図6は、第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置における各電圧、各電流の変化を実験的に検証した結果を示すグラフである。放電時の全電圧(直列接続された5個の廃棄単位電池(1)〜(5)の全電圧)、各廃棄単位電池(電池(1)〜(5))の各電圧、主回路に流れる電流(放電電流)の経時変化をそれぞれ示している。放電を継続すると、残存電気量が少ない廃棄単位電池の順(ここでは電池(2)、電池(3)、電池(4)に順)に順次転極状態となり、放電がそれぞれ完了する。各廃棄単位電池が転極して行くに従い、全電圧は徐々に低下しながら0Vに近づき、主回路2に流れる放電電流(主回路電流)も徐々に減少し0Aに近づく。
【0023】
グラフから、電池(1)〜(4)は、順次転極状態(放電完了)になっていることがわかる。最も残存電気量が多い電池(5)については120分以内では電圧の低下は確認できないが、それ以降は放電が徐々に進みゼロV近傍まで低下し、全ての放電が完了した。
【0024】
放電が完了後に、主回路4を開とすると、微量の残存電気量で廃棄単位電池の起電力電圧は上昇することがある。残存電気量は微量であることから安全上は大きな問題は無いが、不用意に短絡すると火花が発生する恐れがある。そこで、電圧測定手段8により測定した廃棄単位電池の電圧がすべて概ね0Vとなった後に、制御手段9により、短絡回路7を「閉」として正極負極を短絡して8時間保持した。前記の短絡操作により、短絡開放後も起電力は上昇することは無かった。
【0025】
図7は、比較例として、バイパス回路を設けない従来の廃棄電池の放電処理装置の構成図である。この比較例の放電処理装置は、直列接続された5個の廃棄単位電池1の一端の正極と他端の負極の間に電気的に直列接続される主回路電気抵抗器3および主回路開閉スイッチ10とを有し、主回路2を構成する。この比較例の放電処理装置では、バイパス回路4を設けずに、第1の実施形態による廃棄電池の放電処理と同様の放電処理を実施した。
【0026】
図8は、
図7で示した比較例の廃棄電池の放電処理装置における各電圧、各電流の変化を示すグラフである。放電時の全電圧、各廃棄単位電池の電圧、主回路2に流れる電流(放電電流)の経時変化をそれぞれ示している。放電開始後、電池(1)の電圧が徐々に低下し、やがて転極して−10V程度となった。全電圧はその影響を受け徐々に低下し0Vに近づく。これに伴い、主回路電流も徐々に減少し流れなくなった(0Aになった)。転極した電池(1)以外の電池(2)〜(3)は電池電圧が高いにも関わらず、放電電流が流れなくなり放電処理を完了することができなかった。また、転極した電池(1)の表面温度は最大40℃まで上昇した。本試験では、直列接続した電池の数が少ないため表面温度はそれ程高温とならなかったが、さらに接続数を多くすると、転極状態となった電池にも強制的に電流が流れることになり、さらに高温になることが予想される。
【0027】
上述した第1の実施形態によれば、複数の廃棄単位電池を直列接続した状態で放電させる際、過放電による転極状態の廃棄単位電池が生じても、転極状態が生じた廃棄単位電池各々にバイパス手段を設ける、またはバイパス工程を実施することにより、転極状態が生じていない廃棄単位電池の放電を継続して行うことができる。
【0028】
また、使用履歴の異なる廃棄単位電池(残存電気量のバラツキが大きい)の放電処理であっても、上述した第1実施形態は一度に放電処理するのに極めて有効である。
【0029】
また、上述した第1の実施形態によれば、複数の廃棄単位電池を直列接続した状態でまとめて放電処理させることにより、手間が少なく、且つ短時間で放電を行うことができる。
【0030】
また、上述した第1の実施形態によれば、電子制御された負荷装置のような高価な機器を使用する必要がなく、主要部品は安価な電気抵抗器およびダイオードであり、極めて低コストで廃棄電池の放電処理を行うことができる。特に、リチウムイオン電池のような資源価値が低い廃棄電池を対象として放電を行う際は、費用対効果が高く、有効に活用できる。
【0031】
(第2の実施形態)
第2の実施形態による廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法について、
図9及び
図10を用いて説明する。
【0032】
図9は、第2の実施形態による廃棄電池の放電処理装置の構成図である。
図3に示した第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置と異なる点は、放電駆動用電源12と、制御手段9で制御される主回路開閉スイッチ10とを設けた点であり、それ以外は第1の実施形態と同じであるので、同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
図6に示すように全電圧が0V近傍になると放電電流は減少して、残存電気量が多い電池の放電は遅くなる。この課題を解決するために、複数の廃棄単位電池1を直列に電気抵抗に接続した主回路2に、放電駆動用電源12を直列に接続した。放電駆動用電源12には電流切替スイッチ13を接続した。放電駆動用電源12は、リチウムイオン電池を使用し、廃棄単位電池1の放電電流により充電される。なお、放電駆動用電源12は廃棄単位電池を利用しても良い。
【0033】
図10は、
図9に示す電流切替スイッチ13の回路図である。放電駆動用電源12を駆動用電源とする時と、充電する時で極性を入れ替える必要があり、電流切替スイッチ13により、適宜極性を入れ替える。極性の入れ替えは、放電駆動用電源12の電圧の測定値より実施する(図には開示なし)。更に、複数の廃棄単位電池を直列に接続した廃棄電池を短絡するために短絡回路7と、廃棄単位電池の全電圧測定手段8と、前記測定手段により測定した電池電圧により、短絡回路7の開閉を操作する短絡用開閉スイッチ6および主回路2の開閉を操作する主回路開閉スイッチ10をそれぞれ制御する制御手段9を設けた。
【0034】
次に、第2の実施形態による廃棄電池の放電処理装置の作用・動作について説明する。放電駆動用電源12の残存電気量をそれぞれの廃棄単位電池1の残存電気量よりも大きくしておくことにより、全ての廃棄単位電池1の放電が終了する(転極する)まで放電電流を強制的に流すことができる。そのためには、放電駆動用電池12を充電する必要がある。外部電源により充電することも可能であるが、廃棄単位電池1の放電電流により、充電することにより、放電エネルギーを有効に使用することができる。なお、放電駆動用電源12として直流電源を使用する場合は上記の充電は必要とせず、放電電流をコントロールすることが可能となる。
【0035】
また、すべての廃棄単位電池1の放電が完了していることから、全電圧を測定して起電力が0V近傍である直列に接続した廃棄単位電池1を一括で短絡することができる。
【0036】
上述した第2の実施形態によれば、放電駆動用電源12にて、全ての廃棄単位電池1に放電電流を流すことにより、過放電による転極状態の廃棄単位電池が生じても、転極状態になっていない他の廃棄単位電池を継続して放電させることができる。
【0037】
また、上述した第2の実施形態によれば、放電駆動用電源12にて、全ての廃棄単位電池1に放電電流を強制的に流すことにより、極めて速やかに全ての廃棄単位電池1の放電を完了することができる。
【0038】
また、上述した第2の実施形態によれば、放電駆動用電源12が二次電池である場合、廃棄単位電池1の放電電流によりその充電を行うことにより、外部からの電力供給が不要となる。
【0039】
また、上述した第2の実施形態によれば、放電完了後に直列に接続した廃棄単位電池1を一括で短絡することにより、完全放電が可能となり、開回路時でも廃棄単位電池1の電圧上昇はなくなる。
【0040】
また、上述した第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、使用履歴の異なる廃棄単位電池(残存電気量のバラツキが大きい)の放電処理であっても、一度に放電処理するのに極めて有効であり、少ない手間、短時間、且つ低コストで複数の廃棄単位電池の放電を行うことができる。
【0041】
(第3の実施形態)
第3の実施形態による廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法について、
図11を用いて説明する。
【0042】
図11は、第3の実施形態による廃棄電池の放電処理装置の構成図である。
図3に示した第1の実施形態による廃棄電池の放電処理装置と異なる点は、転極状態の電池(1)を未放電の廃棄単位電池15と入れ替える点、5個の廃棄単位電池(1)〜(5)の各々のバイパス回路4に発光ダイオード14を設けた点であり、それ以外は第1の実施形態と同じであるので、同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
図6に示すように全電圧が0V近傍になると放電電流は減少して、放電速度は遅くなる。この課題を解決するために、放電が完了した廃棄単位電池1(図では電池(1))を未放電の廃棄単位電池15と順次入れ替える(入替工程)。
【0043】
入替工程を行う対象電池の特定および作業時期は、バイパス回路に接続した発光ダイオード14の点滅で確認する(転極検知工程)。廃棄単位電池が転極状態となり放電が完了すると、その廃棄単位電池の
両電極間に接続した発光ダイオード14が点滅し、対象電池が特定される。尚、発光ダイオード14を用いずに、電圧測定手段8を用いて各廃棄単位電池の電圧を測定し、0V以下(マイナス電圧)となることでも確認できる。
【0044】
また、図には記載していないが、廃棄単位電池の入れ替え時の安全確保のため、各廃棄単位電池の両端回路には主回路から電池を切り離すための開閉スイッチを備えている。放電工程において、バイパス回路4に設置した発光ダイオード14が点灯するのを確認し、未放電の廃棄単位電池15と入れ替え作業を繰り返した。
【0045】
次に、第3の実施形態による廃棄電池の放電処理装置の作用・動作について説明する。放電が完了した廃棄単位電池を未放電の廃棄単位電池と入れ替えることにより全電圧は回復し、主回路2に流れる放電電流が上昇する。順次電池を入れ替えることにより大きな放電電流を維持できる。また、放電完了(転極状態)したときに、バイパス回路4に電流が流れ、発光ダイオード14は点灯する。
【0046】
上述した第3の実施形態によれば、複数の廃棄単位電池を直列接続した状態で放電させる際、過放電による転極状態の廃棄単位電池により放電電流が低下しても、前記の転極状態となった廃棄単位電池と未放電の廃棄単位電池を順次入れ替えることにより、転極状態になっていない他の廃棄単位電池を継続して放電させることができる。
【0047】
また、上述した第3の実施形態によれば、転極状態となった廃棄単位電池と未放電の廃棄単位電池を順次入れ替えることにより、電気抵抗器を流れる放電電流を高値に回復し、廃棄単位電池の放電を短時間で終了することができる。
【0048】
また、上述した第3の実施形態によれば、発光ダイオード14の点灯により、電池の入替工程を行う時期を容易に知ることができる。
【0049】
また、上述した第3の実施形態においても、第1及び第2の実施形態と同様に、使用履歴の異なる廃棄単位電池(残存電気量のバラツキが大きい)の放電処理であっても、一度に放電処理するのに極めて有効であり、少ない手間、短時間、且つ低コストで複数の廃棄単位電池の放電を行うことができる。
【0050】
以上説明した少なくとも一つの実施形態の廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法によれば、複数の廃棄単位電池を直列接続した状態でまとめて放電させる際、一部の廃棄単位電池が過放電による転極状態になった場合でも、転極状態になっていない他の廃棄単位電池を継続して放電させることができる。
【0051】
尚、廃棄単位電池は、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等の二次電池全般を対象としており、その種類は問わない。
【0052】
また、廃棄電池は1次使用で不要となった電池であり、放電処理を実施した後に他の使用目的にリユースするケースもある。本発明の放電処理により放電した電池をリユース品として使用することも可能である。
【0053】
さらに、数個の単位電池が直列に接続され、制御基板により各電池の電位を制御できるようにした電池モジュールを放電処理する場合、前記の電池モジュールを本発明の廃棄単位電池とみなし、複数の電池モジュールを放電処理することが可能である。この場合前記の電池モジュールの放電は廃棄目的に限定するもではなく、リユースを目的としてもよい。
【0054】
また、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1・・・廃棄単位電池
2・・・主回路
3・・・主回路電気抵抗器
4・・・バイパス回路
5・・・バイパス用ダイオード
6・・・短絡用回路スイッチ
7・・・短絡回路
8・・・電圧測定手段
9・・・制御手段
10・・・主回路開閉スイッチ
11・・・バイパス回路開閉スイッチ
12・・・放電駆動用電源
13・・・電流切替スイッチ
14・・・発光ダイオード
15・・・未放電の廃棄単位電池
【要約】
【課題】複数の廃棄単位電池を直列接続した状態でまとめて放電させる際、一部の廃棄単位電池が過放電による転極状態になった場合でも、転極状態になっていない他の廃棄単位電池を継続して放電させることができる廃棄電池の放電処理装置および放電処理方法を提供することである。
【解決手段】実施形態の廃棄電池の放電処理装置は、直列接続された複数の廃棄単位電池の一端の正極と他端の負極の間を電気的に接続する電気抵抗器と、前記複数の廃棄単位電池のうち、過放電による転極状態となった廃棄単位電池の負極と正極の間を電気的に接続するバイパス手段とを有し、前記複数の廃棄単位電池の起電力で生じる放電電流を前記電気抵抗器に流すことにより、前記複数の廃棄単位電池の残存電気量を放電させ、放電中に前記複数の廃棄単位電池の一部が過放電による転極状態になった場合は、前記放電電流を前記バイパス手段を介して前記電気抵抗器に流すことにより、転極状態になっていない前記廃棄単位電池を継続して放電させる。
【選択図】
図3