【実施例】
【0030】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
[改質炭の製造]
市販のボイラ用の石炭である亜瀝青炭(インドネシア産のアダロ炭)を、乾燥器を用いて空気中で乾燥して乾燥炭を得た(乾燥工程)。乾燥工程における加熱温度は150℃、加熱時間は30分間とした。得られた乾燥炭の揮発分(VM)は50質量%であり、水分量は10質量%以下であった。得られた乾燥炭を、乾留炉を用いて乾留して乾留炭を得た(乾留工程)。乾留工程における加熱温度は430℃、加熱時間は40分間とした。乾留炭の揮発分(VM)は25質量%であった。
【0032】
続いて、電気炉を用いて得られた乾留炭の酸化処理を行って粒状の改質炭(粒径:約1〜3mm)を製造した(酸化処理工程)。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:8体積%)、加熱温度240℃、加熱時間40分間とした。
【0033】
[自然発火性の評価(
図2)]
国際連合危険物輸送勧告試験[クラス4、区分4.2(自然発火性物質・自己発熱性物質)]に準じた手法によって、得られた改質炭の自然発火性評価試験を行った。具体的には、金網で形成された、一辺が10cmの立方体形状を有する容器の中に改質炭を入れ、140℃の空気中に保管して発熱温度の経時変化を調べた。結果は、
図2の曲線A1(改質炭)に示すとおりであった。
【0034】
(実施例2)
酸化処理工程における加熱温度を210℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして改質炭を製造した。そして、実施例1と同様にして自然発火性評価試験を行った。結果は、
図2の曲線A2に示すとおりであった。
【0035】
(参考例1)
実施例1で用いた亜瀝青炭(インドネシア産のアダロ炭)の自然発火性評価試験を実施例1と同様にして行った。結果は、
図2の曲線C1に示すとおりであった。
【0036】
(参考例2)
市販のボイラ用の石炭である瀝青炭(オーストラリア産のマウントアーサ炭)の自然発火性評価試験を実施例1と同様にして行った。結果は、
図2の曲線C2に示すとおりであった。
【0037】
(比較例1)
酸化処理工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様とした。すなわち、乾留工程で得られた乾留炭の自然発火性評価試験を行った。結果は、
図2の曲線E1に示すとおりであった。
【0038】
(比較例2)
酸化処理工程における加熱温度を200℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして改質炭を製造した。そして、実施例1と同様にして自然発火性評価試験を行った。結果は、
図2の曲線B1に示すとおりであった。
【0039】
(比較例3)
酸化処理工程における加熱温度を290℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして改質炭を製造した。そして、実施例1と同様にして自然発火性評価試験を行った。結果は、
図2の曲線B2に示すとおりであった。
【0040】
(比較例4)
実施例1と同様にして乾燥炭を得た。乾燥炭の揮発分(VM)は50質量%、水分量は10質量%以下であった。得られた乾燥炭の自然発火性評価試験を行った。結果は、
図2の曲線D1に示すとおりであった。
【0041】
図2に示すとおり、酸化処理工程を行っていない比較例1の乾留炭(曲線E1)は、約1時間で250℃以上に発熱した。すなわち、改質炭は自然発火性が最も高かった。一方、比較例4の乾燥炭(曲線D1)は、比較例1の乾留炭(曲線E1)よりも自然発火性が低かった。
【0042】
200℃及び290℃の温度で酸化処理をそれぞれ行った比較例2の改質炭(曲線B1)及び比較例3の改質炭(曲線B2)は、比較例1よりも自然発火性が低くなっていた。そして、210℃及び240℃の温度で酸化処理をそれぞれ行った実施例2の改質炭(曲線A2)及び実施例1の改質炭(曲線A1)は、比較例2及び比較例3よりも自然発火性がさらに低くなっていた。
【0043】
実施例2の改質炭の自然発火性は市販の亜瀝青炭よりも低く、実施例1の改質炭の自然発火性は市販の瀝青炭よりも低かった。このように、実施例1及び実施例2の改質炭の自然発火性は、乾留されているにもかかわらず十分に抑制されていることが確認された。
【0044】
[乾留度による発熱量への影響(
図3)]
(比較例5)
市販のボイラ用の石炭である亜瀝青炭(インドネシア産のアダロ炭)を、乾燥器を用いて空気中で乾燥して粒状の乾燥炭(粒径:0.5mm以下)を得た(乾燥工程)。乾燥工程における加熱温度は150℃、加熱時間は30分間とした。乾燥炭の揮発分(VM)は50質量%、水分量は10質量%以下であった。
【0045】
市販の測定装置を用いて、調製した乾燥炭の示差走査熱量測定(DSC測定)を行った。具体的には、窒素雰囲気中、乾燥炭と基準物質をそれぞれヒーターで加熱し107℃に昇温した。その後、窒素雰囲気から空気に切り替えて、一定の温度(107℃)下において空気酸化を行った時の発熱量を測定した。結果は、
図3の曲線D2に示すとおりであった。
【0046】
(比較例6)
比較例5の乾燥炭を用いて乾留工程を行い、乾留炭を調製した。乾留工程における加熱温度は430℃、加熱時間は40分間とした。乾留炭の揮発分(VM)は25質量%であった。この乾留炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、
図3の曲線E2に示すとおりであった。
【0047】
(比較例7)
乾留工程における加熱温度を550℃としたこと以外は、比較例6と同様にして乾留炭を調製した。乾留炭の揮発分(VM)は12質量%であった。この乾留炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、
図3の曲線E3に示すとおりであった。
【0048】
(比較例8)
乾留工程における加熱温度を1000℃としたこと以外は、比較例6と同様にして乾留炭を調製した。乾留炭の揮発分(VM)は0質量%であった。この乾留炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、
図3の曲線E4に示すとおりであった。
【0049】
比較例6〜8の結果から、乾留温度(乾留度)が低い方が、乾留炭に残存する揮発分が多くなるため歩留まりが高かった。しかしながら、
図3に示されるように、乾留温度を低くすると酸化による発熱量が大きくなることが確認された。これは、乾留温度が低くなると揮発分の残存量が多くなり、その結果、乾留炭の表面において活性の高いラジカルの生成量が増えることによるものと考えられる。乾留温度が430℃である比較例6の乾留炭の発熱量(曲線E2)は、比較例5の乾燥炭の発熱量(曲線D2)よりも大幅に高かった。この結果から、乾留炭の歩留まりと自己発熱性は互いにトレードオフの関係にあり、乾留炭のままでは高い歩留まりと自然発火性の抑制とを両立することは困難であることが確認された。
【0050】
図3に示されるように、比較例5の乾燥炭(曲線D2)は、比較例6の乾留炭(E2)よりも発熱量が低かった。
図2においても、乾燥炭(曲線D1)の方が乾留炭(E1)よりも自己発火性が低いことが示されている。これらの傾向から、乾燥炭に対して酸化処理を行った場合も、乾留炭と同様に自然発火性を抑制できるといえる。すなわち、乾燥炭に対しても、乾留炭と同様に酸化処理は有効である。
【0051】
[酸化処理温度の影響(
図4)]
(実施例3)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行い、改質炭を製造した。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、加熱温度240℃、加熱時間40分間とした。製造した改質炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、
図4の曲線A3に示すとおりであった。
【0052】
(
参考例4)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行い、改質炭を製造した。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、加熱温度260℃、加熱時間40分間とした。製造した改質炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、
図4の曲線A4に示すとおりであった。
【0053】
(比較例9)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行い、改質炭を製造した。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、加熱温度200℃、加熱時間40分間とした。製造した改質炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、
図4の曲線B3に示すとおりであった。
【0054】
(比較例10)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行い、改質炭を製造した。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、加熱温度300℃、加熱時間40分間とした。製造した改質炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、
図4の曲線B4に示すとおりであった。
【0055】
図4には、比較を容易にするため、比較例6の結果も併せて示した。実施例3及び
参考例4の改質炭(曲線A3及びA4)は、比較例6の乾留炭(曲線E2)に比べて発熱量を大幅に低減することができた。実施例3及び
参考例4の改質炭の発熱量は、比較例9及び比較例10の改質炭の発熱量よりも低かった。このことから、実施例3及び
参考例4の改質炭は、比較例6,9,10よりも、自己発熱性を低減できることが確認された。
【0056】
[酸化処理温度によるガス発生量の変化(
図5)]
(比較例11)
比較例6の乾留炭を、電気炉を用いて、窒素ガス雰囲気中、140℃に昇温した。昇温後、酸化処理工程を行って改質炭を製造した。酸化処理条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、酸化処理温度140℃、酸化処理時間20分間とした。酸化処理工程時の排ガスを全てサンプリングして平均化し、平均化したガス中のCO
2及びCOの濃度を、ガスクロマトグラフ法を用いて測定した。
【0057】
(比較例12)
酸化処理工程における酸化処理温度を200℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO
2及びCOの濃度を分析した。
【0058】
(実施例5)
酸化処理工程における酸化処理温度を220℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO
2及びCOの濃度を分析した。
【0059】
(実施例6)
酸化処理工程における酸化処理温度を240℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO
2及びCOの濃度を分析した。
【0060】
(
参考例7)
酸化処理工程における酸化処理温度を260℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO
2及びCOの濃度を分析した。
【0061】
(比較例13)
酸化処理工程における酸化処理温度を300℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO
2及びCOの濃度を分析した。
【0062】
図5は、実施例5
,6、参考例7及び比較例11〜13において求めた排ガス中のCO
2及びCOの濃度をプロットしたグラフである。
図5に示されるように、酸化処理温度が200℃を超えるとCO
2及びCOの発生量が増加することが確認された。このことから、酸化処理温度を、200℃を超える範囲内にすることによって改質炭の表面を十分に改質することができるといえる。
【0063】
[乾留炭及び改質炭の表面状態の分析(
図6)]
(比較例14)
酸化処理工程における混合ガス雰囲気の酸素濃度を8体積%にしたこと以外は、比較例12と同様にして改質炭(酸化処理温度:200℃)を製造した。市販の赤外線分光分析計を用いて、製造した改質炭の赤外線分光分析(IR分析)を行った。分析結果は、
図6の曲線B5に示すとおりであった。
【0064】
(比較例15)
酸化処理工程における混合ガス雰囲気の酸素濃度を8体積%にしたこと以外は、比較例13と同様にして改質炭(酸化処理温度:300℃)を製造した。そして、比較例14と同様にして製造した改質炭の赤外線分光分析を行った。分析結果は、
図6の曲線B6に示すとおりであった。
【0065】
図6には、比較例14及び比較例15の赤外線分光分析の測定チャートのうち、脂肪族炭化水素基に由来するピークが観測される2800〜3000cm
−1の部分を拡大して示した。また、比較のため、
図6には、比較例6で調製した乾留炭の赤外線分光分析の結果も併せて示した(曲線E2)。
図6に示されるように、乾留炭を酸化処理することによって、乾留炭の表面組成が変化することが確認された。また、酸化処理温度を200〜300℃の温度範囲内で変更すると、得られる改質炭の表面組成が大きく変化することが確認された。
【0066】
[酸化処理工程における熱重量・示差熱分析(
図7及び
図8)]
(比較例16)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行った。市販の熱重量・示差熱同時分析装置を用いて、酸化処理工程時における重量及び示差熱を測定した。具体的には、乾留炭を分析装置の中に設置して、窒素雰囲気中、140℃まで10℃/分の速度で昇温した。その後、雰囲気を窒素と酸素の混合雰囲気(酸素濃度:10体積%)に切り替えて、酸化処理を開始した。この切り替え時を基準として、熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は
図7の曲線B7に、示差熱分析の結果は
図8の曲線B7に示すとおりであった。
【0067】
(比較例17)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を180℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は
図7の曲線B8に、示差熱分析の結果は
図8の曲線B8に示すとおりであった。
【0068】
(比較例18)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を200℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は
図7の曲線B9に、示差熱分析の結果は
図8の曲線B9に示すとおりであった。
【0069】
(実施例8)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を220℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は
図7の曲線A5に、示差熱分析の結果は
図8の曲線A5に示すとおりであった。
【0070】
(実施例9)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を240℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は
図7の曲線A6に、示差熱分析の結果は
図8の曲線A6に示すとおりであった。
【0071】
(
参考例10)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を260℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は
図7の曲線A7に、示差熱分析の結果は
図8の曲線A7に示すとおりであった。
【0072】
(比較例19)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を300℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は
図7の曲線B10に、示差熱分析の結果は
図8の曲線B10に示すとおりであった。
【0073】
図9は、
図8に示す各実施例及び各比較例のDTA分析結果(示差熱分析結果)における最大ピーク(ピークトップ)の高さと、酸化処理温度との関係を示すグラフである。
図9に示すとおり、酸化処理温度が200℃以下の場合(比較例16,17,18)では、酸化反応(発熱反応)があまり活発に進行していない。一方、酸化処理温度が200℃を超えると酸化反応が急激に進行している。したがって、改質炭の表面の酸化をある程度進行させるためには、酸化処理温度を、200℃を超える範囲にする必要があるといえる。
【0074】
ただし、
図7〜
図9に示すとおり、熱処理温度が260℃を超えると、発熱反応が活発となり重量減少が大きくなる傾向にある。そして、熱処理温度が300℃の場合には、熱処理を開始してから3〜4時間程度で改質炭は自然発火により消失した。このことから、酸化処理工程における改質炭の歩留まりを高くするためには、熱処理温度を290℃未満にする必要があるといえる。