特許第6402235号(P6402235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6402235
(24)【登録日】2018年9月14日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】改質炭の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 9/06 20060101AFI20181001BHJP
   C10L 9/08 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C10L9/06
   C10L9/08
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-235840(P2017-235840)
(22)【出願日】2017年12月8日
【審査請求日】2017年12月13日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】新日鉄住金エンジニアリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100165526
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 寛
(72)【発明者】
【氏名】今村 彰伸
(72)【発明者】
【氏名】小菅 克志
(72)【発明者】
【氏名】小水流 広行
(72)【発明者】
【氏名】谷奥 亘
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−332134(JP,A)
【文献】 特開2013−139537(JP,A)
【文献】 特開平10−279969(JP,A)
【文献】 特開2014−031462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/00
C10L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を300〜650℃で乾留して乾留炭を得る乾留工程と、
前記乾留炭を、200℃を超え且つ240℃以下の温度範囲で10〜60分間酸化処理する酸化処理工程と、を有する、改質炭の製造方法。
【請求項2】
前記乾留工程の前に、150℃以下で石炭を乾燥する乾燥工程を有し、
前記乾留工程では、前記乾燥工程で乾燥された石炭を乾留する、請求項1に記載の改質炭の製造方法。
【請求項3】
前記石炭は水分が50質量%以上である、請求項1又は2に記載の改質炭の製造方法。
【請求項4】
前記乾留工程で得られる前記乾留炭の揮発分は10〜30質量%である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の改質炭の製造方法。
【請求項5】
前記酸化処理工程で得られる改質炭の揮発分は5〜30質量%である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の改質炭の製造方法。
【請求項6】
前記石炭の乾留によって発生する揮発成分を含むガスを燃焼炉で燃焼する燃焼工程を有し、
前記酸化処理工程では、前記燃焼炉からの酸素を含む排ガスによって前記乾留炭を酸化処理する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の改質炭の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、改質炭の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
褐炭又は亜瀝青炭等の低品位炭を改質するため、このような低品位炭を乾燥及び乾留させる技術が知られている。しかしながら、このような技術によって石炭を改質すると、表面が活性化され、空気中の酸素との反応熱で自然発火することが知られている。このような自然発火を防止する技術として、酸素を含有する処理ガスを用いて、石炭を40〜95℃の温度範囲で不活性化処理する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−139537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されているような従来の不活性化処理を行えば、乾留炭をある程度不活性化できるものと考えられる。しかしながら、本発明者らの検討によれば、このような従来の不活性化処理を行っても、自然発火性が十分に低減されないことが分かった。一方で、自然発火性を低減するために過剰に不活性化処理を行うと揮発成分が減少して、燃料として有効活用できなくなってしまう。そこで、本発明は、自然発火性が十分に抑制された改質炭を高い歩留まりで製造することが可能な改質炭の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、乾燥炭及び乾留炭の少なくとも一方を含む原料炭を、200℃を超え且つ290℃未満の温度範囲で酸化処理する酸化処理工程を有する、改質炭の製造方法を提供する。この製造方法は、原料炭の酸化処理を、200℃を超え且つ290℃未満の温度範囲で行う。このような温度範囲で酸化処理を行うと、原料炭の表面成分が酸化されて表面状態が安定化されるため、自己発熱性が低減されて自然発火性が抑制されるものと考えられる。また、自己燃焼による消失が抑制され、歩留まりを高くすることができる。
【0006】
上記酸化処理工程において、原料炭を上記温度範囲で酸化処理する時間が60分間以下であることが好ましい。これによって、歩留まりを十分に高くすることができる。
【0007】
上記製造方法は、酸化処理工程の前に、650℃以下で石炭を乾留して原料炭を得る乾留工程を有することが好ましい。石炭の乾留は石炭を高品位化する手段として有効である。ここで、石炭の乾留を650℃以下で行うと、乾留時の歩留まりが高くなる一方で、自然発火性が高くなる傾向にある。上記製造方法では、酸化処理工程によって、自己発熱性を低減することができる。このため、乾留工程における乾留温度を650℃以下にしても自然発火性を抑制することができる。したがって、高品位で自然発火性が十分に抑制された改質炭を、高い歩留まりで製造することができる。
【0008】
上記製造方法は、酸化処理工程の前に、150℃以下で石炭を乾燥する乾燥工程を有していてもよい。これによって石炭の水分が低減されるため、酸化処理工程、又は乾留工程及び酸化処理工程によって、一層高品位な改質炭を得ることができる。
【0009】
上記製造方法は、石炭の乾留によって発生する揮発成分を含むガスを燃焼炉で燃焼する燃焼工程を有していてもよい。この場合、酸化処理工程では、燃焼炉からの酸素を含む排ガスによって原料炭を酸化処理することが好ましい。これによって、改質炭の製造コストを低減しつつ、酸化処理の効率性と安全性を向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、自然発火性が十分に抑制された改質炭を高い歩留まりで製造することが可能な改質炭の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、改質炭の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、実施例1,2、参考例1,2及び比較例1〜4の自然発火性評価試験の結果を示すグラフである。
図3図3は、乾留度が異なる比較例5〜8の乾留炭の発熱量の経時変化を示すグラフである。
図4図4は、酸化処理温度が異なる実施例3、参考例4及び比較例9,10の改質炭、並びに、比較例6の乾留炭の発熱量の経時変化を示すグラフである。
図5図5は、実施例5,6、参考例7及び比較例11〜13の酸化処理時における排ガス中の一酸化炭素及び二酸化炭素の濃度を示すグラフである。
図6図6は、比較例6、比較例14及び比較例15の赤外線分光分析の結果を示す図である。
図7図7は、酸化処理温度が異なる比較例16〜19、及び実施例8,9、参考例10の熱重量分析の結果を示すグラフである。
図8図8は、酸化処理温度が異なる比較例16〜19、及び実施例8,9、参考例10の示差熱分析の結果を示すグラフである。
図9図9は、酸化処理温度が異なる比較例16〜19、及び実施例8,9、参考例10の示差熱分析結果における最大ピークの高さと、酸化処理温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、場合により図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0013】
本実施形態の改質炭の製造方法は、乾燥炭及び乾留炭の少なくとも一方を含む原料炭を、200℃を超え且つ290℃未満の温度範囲で酸化処理する酸化処理工程を有する。原料炭は、乾燥炭又は乾留炭のみからなるものであってもよいし、乾燥炭及び乾留炭の両方を含んでいてもよい。通常、乾留炭の方が乾燥炭よりも自然発火し易い傾向にある。このため、原料炭が乾燥炭を含むことによって、酸化処理を短くしても自然発火性を十分に抑制することができる。
【0014】
原料炭は、低品位炭を含んでいてもよいし、高品位炭を含んでいてもよい。低品位炭を含む場合、酸化処理工程の前に、後述する乾留工程、又は乾燥工程及び乾留工程を行うことが好ましい。ただし、これらの工程を行うことは必ずしも必須ではない。原料炭の粒径は、例えば50mm以下であってもよく、30mm以下であってもよく、10mm以下であってもよい。
【0015】
原料炭の酸化処理を行う温度(酸化処理温度)を、200℃を超える範囲にすることによって、原料炭の表面を十分に改質して、自然発火性が十分に抑制された改質炭を得ることができる。酸化処理温度を、290℃未満の範囲にすることによって、酸化処理工程における揮発分の減少が抑制され、高い歩留まりで改質炭を製造することができる。
【0016】
酸化処理温度は、自然発火性の抑制と歩留まりの向上を一層高水準で両立する観点から、好ましくは210〜280℃であり、より好ましくは210〜260℃であり、さらに好ましくは220〜260℃である。酸化処理工程は、一定の酸化処理温度で行わなくてもよく、上述の範囲内で酸化処理温度は変動してもよい。酸化処理工程の時間は、十分に高い歩留まりで改質炭を製造する観点から、好ましくは90分間以下であり、より好ましくは60分間以下である。酸化処理工程の時間は、例えば10〜90分間であってもよく、20〜60分間であってもよい。
【0017】
酸化処理工程の雰囲気は、酸素を含有する雰囲気であれば特に制限はなく、空気であってもよいし、窒素等の不活性ガスと酸素との混合雰囲気であってもよい。また、燃焼炉の排ガスであってもよい。酸素濃度は、安全性と酸化処理の効率性の観点から、例えば2〜13体積%であってもよく、3〜10体積%であってもよい。この「体積%」は、標準状態(25℃、100kPa)の条件における体積比率である。
【0018】
酸化処理工程では、原料炭の表面における官能基が酸化される。これによって、酸化による自己発熱性が低減され、自然発火性が十分に抑制された改質炭を製造することができる。改質炭の揮発分(VM)は、燃料としての有用性を高くする観点から、5質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよい。一方、改質炭の揮発分(VM)は、自然発火性を一層低減する観点から、30質量%以下であってもよく、25質量%以下であってもよい。なお、本明細書における揮発分は、JIS M 8812:2006の「角形電気炉法」に準拠して測定される無水ベースの値である。
【0019】
本実施形態の製造方法によれば、原料炭が乾留炭、乾燥炭又はその両者のいずれを含む場合であっても、自然発火性が十分に抑制された改質炭を高い歩留まりで製造することができる。このような改質炭は、ある程度の揮発分を含むことも可能であることから、燃料として有効活用することができる。このように燃料として有用性も高いうえにヤードにおける貯炭、及び、産炭地からの陸上・海上輸送等を安全に行なうことができる。
【0020】
別の実施形態に係る改質炭の製造方法は、上述の酸化処理工程の前に、150℃以下で石炭を乾燥する乾燥工程と、乾燥した石炭を650℃以下で乾留する乾留工程を有する。水分含有量が多い低品位炭(例えば、水分が50質量%以上である褐炭及び亜瀝青炭等)を用いる場合は、本実施形態のように乾燥工程及び乾留工程を有することが好ましい。
【0021】
乾燥工程では、乾燥炭及び乾留炭の少なくとも一方を含む原料炭を、例えば40〜150℃の温度範囲に加熱して乾燥させる。乾燥工程は、空気中で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また、燃焼炉の排ガス中で行ってもよい。乾燥工程では、石炭の水分量を例えば20質量%以下に低減する。このような乾燥工程を行うことによって、乾留又は酸化処理による改質効果を十分に得ることができる。
【0022】
乾燥工程は、通常の電気炉等を用いて行ってもよいし、間接加熱器又は空気流動層乾燥器を用いて行ってもよい。乾燥工程の時間は特に制限はなく、石炭の水分量及び石炭の粒径等によって調整することができる。
【0023】
乾留工程は、乾燥工程で乾燥された石炭を650℃以下で乾留して、酸化処理工程の原料炭を得る工程である。なお、乾燥工程を行わずに乾留工程から行ってもよい。この場合、乾留工程の初期において石炭の水分が低減される。乾留工程は、好ましくは300〜600℃の温度範囲において行う。これによって、石炭の乾留を十分に進行させつつ歩留まりを高く維持することができる。乾留工程は、竪型シャフト炉、コークス炉、又はトンネルキルン炉などの通常の乾留炉を用いて行うことができる。
【0024】
乾留工程で得られる乾留炭の揮発分(VM)は、好ましくは10〜30質量%である。このような乾留炭は、通常高い自然発火性を有するが、本実施形態では乾留工程の後に酸化処理工程を行って自然発火性を抑制することができる。したがって、高い歩留まりを実現することができる。
【0025】
本実施形態の製造方法によれば、低品位炭を用いた場合であっても、自然発火性が十分に抑制された改質炭を高い歩留まりで製造することができる。改質炭の粒径は、例えば50mm以下であってもよく、10mm以下であってもよい。
【0026】
上述の製造方法で得られた改質炭を分級して、粒状(例えば粒径3mm以上の粒)のものと、粉状(例えば粒径3mm未満の粉)ものとに分けてもよい。分級によって得られた粉状の改質炭(粉)はバインダーを用いて、またはバインダーを用いずに成型し、同じく分級によって得られた粒状の改質炭(粒)と混合してもよい。このようにして改質炭の平均粒径を大きくすれば、輸送及び貯炭時の粉塵発生が一層低減され、改質炭のハンドリング性をさらに向上することができる。
【0027】
図1は、本実施形態の改質炭の製造方法を行うための装置構成の一例を示す図である。図1の例では、乾燥装置10において乾燥工程を、乾留装置20では乾留工程を、酸化処理装置30では酸化処理工程を行う。乾留装置20から発生する揮発成分を含むガスは、燃焼炉40にて燃料ガスとして消費される(燃焼工程)。乾燥装置10としては例えば通常の乾燥器が挙げられる。酸化処理装置30としては例えば通常の電気炉が挙げられる。
【0028】
燃焼炉40において揮発成分を含む燃料ガスを燃焼して発生した排ガスは、通常5〜10体積%程度の酸素を含む。このような排ガスを酸化処理装置30で利用することによって、酸化処理工程における酸化処理の効率性と安全性を十分に高くすることができる。また、排ガスの温度を有効に活用できるため、エネルギーの削減も図ることができる。燃焼炉40において発生した排ガスは、乾燥装置10において加熱用のガスとして用いてもよい。このように乾留工程で生じる熱を有効利用することによって、改質炭の製造コストを低減することができる。
【0029】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
実施例及び比較例を参照して本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0031】
(実施例1)
[改質炭の製造]
市販のボイラ用の石炭である亜瀝青炭(インドネシア産のアダロ炭)を、乾燥器を用いて空気中で乾燥して乾燥炭を得た(乾燥工程)。乾燥工程における加熱温度は150℃、加熱時間は30分間とした。得られた乾燥炭の揮発分(VM)は50質量%であり、水分量は10質量%以下であった。得られた乾燥炭を、乾留炉を用いて乾留して乾留炭を得た(乾留工程)。乾留工程における加熱温度は430℃、加熱時間は40分間とした。乾留炭の揮発分(VM)は25質量%であった。
【0032】
続いて、電気炉を用いて得られた乾留炭の酸化処理を行って粒状の改質炭(粒径:約1〜3mm)を製造した(酸化処理工程)。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:8体積%)、加熱温度240℃、加熱時間40分間とした。
【0033】
[自然発火性の評価(図2)]
国際連合危険物輸送勧告試験[クラス4、区分4.2(自然発火性物質・自己発熱性物質)]に準じた手法によって、得られた改質炭の自然発火性評価試験を行った。具体的には、金網で形成された、一辺が10cmの立方体形状を有する容器の中に改質炭を入れ、140℃の空気中に保管して発熱温度の経時変化を調べた。結果は、図2の曲線A1(改質炭)に示すとおりであった。
【0034】
(実施例2)
酸化処理工程における加熱温度を210℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして改質炭を製造した。そして、実施例1と同様にして自然発火性評価試験を行った。結果は、図2の曲線A2に示すとおりであった。
【0035】
(参考例1)
実施例1で用いた亜瀝青炭(インドネシア産のアダロ炭)の自然発火性評価試験を実施例1と同様にして行った。結果は、図2の曲線C1に示すとおりであった。
【0036】
(参考例2)
市販のボイラ用の石炭である瀝青炭(オーストラリア産のマウントアーサ炭)の自然発火性評価試験を実施例1と同様にして行った。結果は、図2の曲線C2に示すとおりであった。
【0037】
(比較例1)
酸化処理工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様とした。すなわち、乾留工程で得られた乾留炭の自然発火性評価試験を行った。結果は、図2の曲線E1に示すとおりであった。
【0038】
(比較例2)
酸化処理工程における加熱温度を200℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして改質炭を製造した。そして、実施例1と同様にして自然発火性評価試験を行った。結果は、図2の曲線B1に示すとおりであった。
【0039】
(比較例3)
酸化処理工程における加熱温度を290℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして改質炭を製造した。そして、実施例1と同様にして自然発火性評価試験を行った。結果は、図2の曲線B2に示すとおりであった。
【0040】
(比較例4)
実施例1と同様にして乾燥炭を得た。乾燥炭の揮発分(VM)は50質量%、水分量は10質量%以下であった。得られた乾燥炭の自然発火性評価試験を行った。結果は、図2の曲線D1に示すとおりであった。
【0041】
図2に示すとおり、酸化処理工程を行っていない比較例1の乾留炭(曲線E1)は、約1時間で250℃以上に発熱した。すなわち、改質炭は自然発火性が最も高かった。一方、比較例4の乾燥炭(曲線D1)は、比較例1の乾留炭(曲線E1)よりも自然発火性が低かった。
【0042】
200℃及び290℃の温度で酸化処理をそれぞれ行った比較例2の改質炭(曲線B1)及び比較例3の改質炭(曲線B2)は、比較例1よりも自然発火性が低くなっていた。そして、210℃及び240℃の温度で酸化処理をそれぞれ行った実施例2の改質炭(曲線A2)及び実施例1の改質炭(曲線A1)は、比較例2及び比較例3よりも自然発火性がさらに低くなっていた。
【0043】
実施例2の改質炭の自然発火性は市販の亜瀝青炭よりも低く、実施例1の改質炭の自然発火性は市販の瀝青炭よりも低かった。このように、実施例1及び実施例2の改質炭の自然発火性は、乾留されているにもかかわらず十分に抑制されていることが確認された。
【0044】
[乾留度による発熱量への影響(図3)]
(比較例5)
市販のボイラ用の石炭である亜瀝青炭(インドネシア産のアダロ炭)を、乾燥器を用いて空気中で乾燥して粒状の乾燥炭(粒径:0.5mm以下)を得た(乾燥工程)。乾燥工程における加熱温度は150℃、加熱時間は30分間とした。乾燥炭の揮発分(VM)は50質量%、水分量は10質量%以下であった。
【0045】
市販の測定装置を用いて、調製した乾燥炭の示差走査熱量測定(DSC測定)を行った。具体的には、窒素雰囲気中、乾燥炭と基準物質をそれぞれヒーターで加熱し107℃に昇温した。その後、窒素雰囲気から空気に切り替えて、一定の温度(107℃)下において空気酸化を行った時の発熱量を測定した。結果は、図3の曲線D2に示すとおりであった。
【0046】
(比較例6)
比較例5の乾燥炭を用いて乾留工程を行い、乾留炭を調製した。乾留工程における加熱温度は430℃、加熱時間は40分間とした。乾留炭の揮発分(VM)は25質量%であった。この乾留炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、図3の曲線E2に示すとおりであった。
【0047】
(比較例7)
乾留工程における加熱温度を550℃としたこと以外は、比較例6と同様にして乾留炭を調製した。乾留炭の揮発分(VM)は12質量%であった。この乾留炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、図3の曲線E3に示すとおりであった。
【0048】
(比較例8)
乾留工程における加熱温度を1000℃としたこと以外は、比較例6と同様にして乾留炭を調製した。乾留炭の揮発分(VM)は0質量%であった。この乾留炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、図3の曲線E4に示すとおりであった。
【0049】
比較例6〜8の結果から、乾留温度(乾留度)が低い方が、乾留炭に残存する揮発分が多くなるため歩留まりが高かった。しかしながら、図3に示されるように、乾留温度を低くすると酸化による発熱量が大きくなることが確認された。これは、乾留温度が低くなると揮発分の残存量が多くなり、その結果、乾留炭の表面において活性の高いラジカルの生成量が増えることによるものと考えられる。乾留温度が430℃である比較例6の乾留炭の発熱量(曲線E2)は、比較例5の乾燥炭の発熱量(曲線D2)よりも大幅に高かった。この結果から、乾留炭の歩留まりと自己発熱性は互いにトレードオフの関係にあり、乾留炭のままでは高い歩留まりと自然発火性の抑制とを両立することは困難であることが確認された。
【0050】
図3に示されるように、比較例5の乾燥炭(曲線D2)は、比較例6の乾留炭(E2)よりも発熱量が低かった。図2においても、乾燥炭(曲線D1)の方が乾留炭(E1)よりも自己発火性が低いことが示されている。これらの傾向から、乾燥炭に対して酸化処理を行った場合も、乾留炭と同様に自然発火性を抑制できるといえる。すなわち、乾燥炭に対しても、乾留炭と同様に酸化処理は有効である。
【0051】
[酸化処理温度の影響(図4)]
(実施例3)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行い、改質炭を製造した。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、加熱温度240℃、加熱時間40分間とした。製造した改質炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、図4の曲線A3に示すとおりであった。
【0052】
参考例4)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行い、改質炭を製造した。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、加熱温度260℃、加熱時間40分間とした。製造した改質炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、図4の曲線A4に示すとおりであった。
【0053】
(比較例9)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行い、改質炭を製造した。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、加熱温度200℃、加熱時間40分間とした。製造した改質炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、図4の曲線B3に示すとおりであった。
【0054】
(比較例10)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行い、改質炭を製造した。酸化処理の条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、加熱温度300℃、加熱時間40分間とした。製造した改質炭のDSC測定を比較例5と同様にして行った。結果は、図4の曲線B4に示すとおりであった。
【0055】
図4には、比較を容易にするため、比較例6の結果も併せて示した。実施例3及び参考例4の改質炭(曲線A3及びA4)は、比較例6の乾留炭(曲線E2)に比べて発熱量を大幅に低減することができた。実施例3及び参考例4の改質炭の発熱量は、比較例9及び比較例10の改質炭の発熱量よりも低かった。このことから、実施例3及び参考例4の改質炭は、比較例6,9,10よりも、自己発熱性を低減できることが確認された。
【0056】
[酸化処理温度によるガス発生量の変化(図5)]
(比較例11)
比較例6の乾留炭を、電気炉を用いて、窒素ガス雰囲気中、140℃に昇温した。昇温後、酸化処理工程を行って改質炭を製造した。酸化処理条件は、窒素ガスと酸素ガスの混合ガス雰囲気中(酸素濃度:10体積%)、酸化処理温度140℃、酸化処理時間20分間とした。酸化処理工程時の排ガスを全てサンプリングして平均化し、平均化したガス中のCO及びCOの濃度を、ガスクロマトグラフ法を用いて測定した。
【0057】
(比較例12)
酸化処理工程における酸化処理温度を200℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO及びCOの濃度を分析した。
【0058】
(実施例5)
酸化処理工程における酸化処理温度を220℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO及びCOの濃度を分析した。
【0059】
(実施例6)
酸化処理工程における酸化処理温度を240℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO及びCOの濃度を分析した。
【0060】
参考例7)
酸化処理工程における酸化処理温度を260℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO及びCOの濃度を分析した。
【0061】
(比較例13)
酸化処理工程における酸化処理温度を300℃にしたこと以外は、比較例11と同様にして改質炭を製造した。比較例11と同様にして酸化処理工程時の排ガス中のCO及びCOの濃度を分析した。
【0062】
図5は、実施例5,6、参考例7及び比較例11〜13において求めた排ガス中のCO及びCOの濃度をプロットしたグラフである。図5に示されるように、酸化処理温度が200℃を超えるとCO及びCOの発生量が増加することが確認された。このことから、酸化処理温度を、200℃を超える範囲内にすることによって改質炭の表面を十分に改質することができるといえる。
【0063】
[乾留炭及び改質炭の表面状態の分析(図6)]
(比較例14)
酸化処理工程における混合ガス雰囲気の酸素濃度を8体積%にしたこと以外は、比較例12と同様にして改質炭(酸化処理温度:200℃)を製造した。市販の赤外線分光分析計を用いて、製造した改質炭の赤外線分光分析(IR分析)を行った。分析結果は、図6の曲線B5に示すとおりであった。
【0064】
(比較例15)
酸化処理工程における混合ガス雰囲気の酸素濃度を8体積%にしたこと以外は、比較例13と同様にして改質炭(酸化処理温度:300℃)を製造した。そして、比較例14と同様にして製造した改質炭の赤外線分光分析を行った。分析結果は、図6の曲線B6に示すとおりであった。
【0065】
図6には、比較例14及び比較例15の赤外線分光分析の測定チャートのうち、脂肪族炭化水素基に由来するピークが観測される2800〜3000cm−1の部分を拡大して示した。また、比較のため、図6には、比較例6で調製した乾留炭の赤外線分光分析の結果も併せて示した(曲線E2)。図6に示されるように、乾留炭を酸化処理することによって、乾留炭の表面組成が変化することが確認された。また、酸化処理温度を200〜300℃の温度範囲内で変更すると、得られる改質炭の表面組成が大きく変化することが確認された。
【0066】
[酸化処理工程における熱重量・示差熱分析(図7及び図8)]
(比較例16)
比較例6の乾留炭を用いて酸化処理工程を行った。市販の熱重量・示差熱同時分析装置を用いて、酸化処理工程時における重量及び示差熱を測定した。具体的には、乾留炭を分析装置の中に設置して、窒素雰囲気中、140℃まで10℃/分の速度で昇温した。その後、雰囲気を窒素と酸素の混合雰囲気(酸素濃度:10体積%)に切り替えて、酸化処理を開始した。この切り替え時を基準として、熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は図7の曲線B7に、示差熱分析の結果は図8の曲線B7に示すとおりであった。
【0067】
(比較例17)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を180℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は図7の曲線B8に、示差熱分析の結果は図8の曲線B8に示すとおりであった。
【0068】
(比較例18)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を200℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は図7の曲線B9に、示差熱分析の結果は図8の曲線B9に示すとおりであった。
【0069】
(実施例8)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を220℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は図7の曲線A5に、示差熱分析の結果は図8の曲線A5に示すとおりであった。
【0070】
(実施例9)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を240℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は図7の曲線A6に、示差熱分析の結果は図8の曲線A6に示すとおりであった。
【0071】
参考例10)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を260℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は図7の曲線A7に、示差熱分析の結果は図8の曲線A7に示すとおりであった。
【0072】
(比較例19)
酸化処理工程における酸化処理温度(混合雰囲気への切り替え温度)を300℃にしたこと以外は、比較例16と同様にして熱重量・示差熱同時分析を行った。熱重量分析の結果は図7の曲線B10に、示差熱分析の結果は図8の曲線B10に示すとおりであった。
【0073】
図9は、図8に示す各実施例及び各比較例のDTA分析結果(示差熱分析結果)における最大ピーク(ピークトップ)の高さと、酸化処理温度との関係を示すグラフである。図9に示すとおり、酸化処理温度が200℃以下の場合(比較例16,17,18)では、酸化反応(発熱反応)があまり活発に進行していない。一方、酸化処理温度が200℃を超えると酸化反応が急激に進行している。したがって、改質炭の表面の酸化をある程度進行させるためには、酸化処理温度を、200℃を超える範囲にする必要があるといえる。
【0074】
ただし、図7図9に示すとおり、熱処理温度が260℃を超えると、発熱反応が活発となり重量減少が大きくなる傾向にある。そして、熱処理温度が300℃の場合には、熱処理を開始してから3〜4時間程度で改質炭は自然発火により消失した。このことから、酸化処理工程における改質炭の歩留まりを高くするためには、熱処理温度を290℃未満にする必要があるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本開示によれば、自然発火性が十分に抑制された改質炭を高い歩留まりで製造することが可能な改質炭の製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0076】
10…乾燥装置、20…乾留装置、30…酸化処理装置、40…燃焼炉。
【要約】      (修正有)
【課題】自然発火性が十分に抑制された改質炭を高い歩留まりで製造することが可能な改質炭の製造方法の提供。
【解決手段】150℃以下で石炭を乾燥する乾燥工程10と、650℃以下で石炭を乾留して原料炭を得る乾留工程20と、原料炭を、200℃を超え且つ290℃未満の温度範囲で酸化処理する酸化処理工程30とを有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9