特許第6402314号(P6402314)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402314
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】膨張弁
(51)【国際特許分類】
   F25B 41/06 20060101AFI20181001BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20181001BHJP
   F16K 31/68 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   F25B41/06 M
   B60H1/32 613B
   F16K31/68 S
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-243676(P2014-243676)
(22)【出願日】2014年12月2日
(65)【公開番号】特開2016-109305(P2016-109305A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133652
【氏名又は名称】株式会社テージーケー
(74)【代理人】
【識別番号】110002273
【氏名又は名称】特許業務法人インターブレイン
(74)【代理人】
【識別番号】100120536
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 良輔
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛
【審査官】 伊藤 紀史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−220925(JP,A)
【文献】 特開2013−242129(JP,A)
【文献】 特開2009−186122(JP,A)
【文献】 特開2014−173807(JP,A)
【文献】 特開2012−197989(JP,A)
【文献】 特開昭63−134128(JP,A)
【文献】 特開2012−047393(JP,A)
【文献】 特開2013−178060(JP,A)
【文献】 特開2005−008091(JP,A)
【文献】 特開昭47−001689(JP,A)
【文献】 特開2006−266663(JP,A)
【文献】 特開2007−183082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 41/06
F16K 31/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍サイクルに設けられ、熱交換器を経て流入した冷媒を弁部を通過させることにより絞り膨張させて蒸発器へ供給する膨張弁であって、
冷媒を導入する導入ポートと、冷媒を導出する導出ポートと、前記導入ポートと前記導出ポートとをつなぐ冷媒通路に設けられた弁孔と、前記冷媒通路における前記弁孔の上流側に設けられた弁室と、を有する金属製のボディと、
前記弁室に設けられ、前記弁孔に接離して前記弁部を開閉する弁体と、
前記弁体を開閉させるための駆動力を発生する駆動部と、
前記ボディに前記弁孔と同軸状に形成された挿通孔を貫通するように設けられ、一端側が前記駆動部に接続され、他端側が前記弁孔を通って前記弁体に接続され、前記駆動部による軸線方向の駆動力を前記弁体に伝達するシャフトと、
を備え、
前記挿通孔は、
切削加工により前記ボディに形成され、
前記シャフトを支持する支持部と、
前記弁孔の下流側に向けて開口し、前記支持部よりも大径の拡径部と、
を含み、
前記支持部と前記シャフトとのクリアランスが、冷媒の漏れを抑制するクリアランスシールが実現される程度の大きさに設定され、
前記挿通孔における前記拡径部の開口端から離間した深さ位置にて、前記支持部と前記拡径部との境界部に面取りがなされており、
前記拡径部は、前記支持部よりも軸線方向の長さが小さく、
前記弁孔は、前記拡径部と同等以上の径を有することを特徴とする膨張弁。
【請求項2】
前記弁室が前記弁孔と同軸状に形成され、
前記冷媒通路は、
前記弁孔の軸線に対して直角方向に延び、前記導入ポートと前記弁室とを接続する上流側通路と、
前記弁孔の軸線に対して直角方向に延び、前記弁孔と前記導出ポートとを接続する下流側通路と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の膨張弁。
【請求項3】
前記シャフトは、前記下流側通路において縮径する段差部を有し、
前記段差部には前記弁孔に対向する対向面が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の膨張弁。
【請求項4】
前記蒸発器から戻ってきた冷媒の圧力と温度を感知して前記弁部の開度を制御するとともに、その冷媒を圧縮機へ向けて導出する温度式膨張弁として機能し、
前記ボディは、前記導入ポートとして前記熱交換器からの冷媒を導入する第1導入ポートと、前記導出ポートとして冷媒を前記蒸発器へ導出する第1導出ポートと、前記冷媒通路として前記第1導入ポートと第1導出ポートとをつなぐ第1の通路と、前記蒸発器から戻ってきた冷媒を導入する第2導入ポートと、冷媒を前記圧縮機へ導出する第2導出ポートと、前記第2導入ポートと第2導出ポートとをつなぐ第2の通路と、を有し、
前記駆動部として、前記ボディの前記第2の通路に対して前記第1の通路とは反対側に設けられ、前記第2の通路を流れる冷媒の温度と圧力を感知して動作するパワーエレメントが設けられ、
前記シャフトは、前記第1の通路と前記第2の通路との間の隔壁に形成された前記挿通孔を貫通するように設けられ、一端側が前記第2の通路を横断して前記パワーエレメントに接続され、他端側が前記弁体に接続され、前記パワーエレメントの駆動力を前記弁体に伝達することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の膨張弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は膨張弁に関し、特に冷凍サイクルに好適な膨張弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用空調装置の冷凍サイクルには一般に、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮後の液冷媒を絞り膨張させて霧状にして送出する膨張弁、その霧状の冷媒を蒸発させて蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器が設けられている。膨張弁としては、例えば、蒸発器から導出された冷媒が所定の過熱度を有するように、蒸発器の出口側の冷媒の温度および圧力を感知して弁部を開閉し、蒸発器へ送出する冷媒の流量を制御する温度式膨張弁が用いられる。
【0003】
このような膨張弁のボディには、凝縮器から蒸発器へ向かう冷媒を通過させる第1の通路と、蒸発器から戻ってきた冷媒を通過させて圧縮機へ導出する第2の通路とが形成される。第1の通路には弁孔が形成され、その弁孔に対向するように弁体が配設される。弁体は、弁孔に接離し、蒸発器へ向かう冷媒の流量を調整する。また、ボディの一端には、第2の通路を流れる冷媒の温度および圧力を感知して作動するパワーエレメントが設けられる。パワーエレメントの駆動力は、長尺状のシャフトを介して弁体に伝達される。シャフトは、第1の通路と第2の通路とを離隔する隔壁に設けられた挿通孔を貫通し、その挿通孔に摺動可能に支持される。シャフトの一端側はパワーエレメントに接続され、他端側は弁孔を通って弁体に接続される(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−242129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような膨張弁において、第1通路、第2通路、弁孔、挿通孔等は、ボディに孔あけ工具を用いた切削加工を施すことにより得られる。このうち挿通孔については、切削加工によって開口端に生じたバリが、シャフトの摺動性能を低下させる可能性があった。すなわち、シャフトの摺動によって開口端のバリが削り取られ、そのバリの小片がシャフトと挿通孔との間に侵入して噛み込む虞があった。それにより、シャフトの摺動抵抗が過大となり、場合によってはシャフトの作動をロックさせる可能性があった。特に、第1通路と第2通路との間に差圧があり、その差圧が挿通孔の延在方向に作用するような場合、バリの小片をその挿通孔の内部に向けて引き込む作用が発生し、上述した問題を生じさせ易い。
【0006】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、シャフト挿通孔の加工時にバリが発生したとしても、シャフトの摺動性能を安定に維持可能な膨張弁を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様は、冷凍サイクルに設けられ、熱交換器を経て流入した冷媒を弁部を通過させることにより絞り膨張させて蒸発器へ供給する膨張弁である。この膨張弁は、冷媒を導入する導入ポートと、冷媒を導出する導出ポートと、導入ポートと導出ポートとをつなぐ冷媒通路に設けられた弁孔と、冷媒通路における弁孔の上流側に設けられた弁室と、を有する金属製のボディと、弁室に設けられ、弁孔に接離して弁部を開閉する弁体と、弁体を開閉させるための駆動力を発生する駆動部と、ボディに弁孔と同軸状に設けられた挿通孔を貫通するように設けられ、一端側が駆動部に接続され、他端側が弁孔を通って弁体に接続され、駆動部による軸線方向の駆動力を弁体に伝達するシャフトと、を備える。
【0008】
挿通孔は、切削加工によりボディに形成され、シャフトを支持する支持部と、弁孔の下流側に向けて開口し、支持部よりも大径の拡径部と、を含む。
【0009】
この態様によると、挿通孔の開口端およびその近傍が拡径されているため、仮に挿通孔の成形時にその開口端にバリが発生したとしても、シャフトを挿通させたときにそのバリが干渉する可能性は低い。そのため、シャフトと挿通孔との間隙にバリが引き込まれることを防止又は抑制することができる。その結果、シャフトの摺動性能を安定に維持することが可能となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シャフト挿通孔の加工時にバリが発生したとしても、シャフトの摺動性能を安定に維持可能な膨張弁を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係る膨張弁の断面図である。
図2】シャフト、挿通孔およびその周辺の構造を表す図である。
図3】挿通孔の加工方法の主要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。また、以下の実施形態およびその変形例について、ほぼ同一の構成要素については同一の符号を付し、その説明を適宜省略することがある。
【0013】
本実施形態は、本発明の膨張弁を自動車用空調装置の冷凍サイクルに適用される温度式膨張弁として具体化している。この冷凍サイクルには、循環する冷媒を圧縮する圧縮機、圧縮された冷媒を凝縮する凝縮器、凝縮された冷媒を気液に分離する受液器、分離された液冷媒を絞り膨張させて霧状にして送出する膨張弁、その霧状の冷媒を蒸発させてその蒸発潜熱により車室内の空気を冷却する蒸発器が設けられている。ここでは便宜上、膨張弁以外については詳細な説明を省略する。
【0014】
図1は、実施形態に係る膨張弁の断面図である。
膨張弁1は、アルミニウム合金からなる素材を押出成形して得た部材に所定の切削加工を施して得られたボディ2を有する。このボディ2は角柱状をなし、その内部には冷媒の絞り膨張を行う弁部が設けられている。ボディ2の長手方向の端部には、「駆動部」として機能するパワーエレメント3が設けられている。
【0015】
ボディ2の側部には、受液器側(凝縮器側)から高温・高圧の液冷媒を導入する導入ポート6、膨張弁1にて絞り膨張された低温・低圧の冷媒を蒸発器へ向けて導出する導出ポート7、蒸発器にて蒸発された冷媒を導入する導入ポート8、膨張弁1を通過した冷媒を圧縮機側へ導出する導出ポート9が設けられている。導入ポート6と導出ポート9との間には、図示しない配管取付用のスタッドボルトを植設可能とするためのねじ穴10が形成されている。各ポートには、配管の継手が接続される。
【0016】
膨張弁1においては、導入ポート6、導出ポート7およびこれらをつなぐ冷媒通路により第1の通路13が構成されている。第1の通路13の中間部には、弁部が設けられている。導入ポート6から導入された冷媒は、その弁部にて絞り膨張されて霧状となり、導出ポート7から蒸発器へ向けて導出される。一方、導入ポート8、導出ポート9およびこれらをつなぐ冷媒通路により第2の通路14が構成されている。第2の通路14は、ストレートに延びており、その中間部がパワーエレメント3の内部と連通している。導入ポート8から導入された冷媒の一部は、パワーエレメント3に供給されて感温される。第2の通路14を通過した冷媒は、導出ポート9から圧縮機へ向けて導出される。
【0017】
第1の通路13の中間部には弁孔16が設けられ、その弁孔16の導入ポート6側の開口端縁により弁座17が形成されている。弁座17に導入ポート6側から対向するように弁体18が配置されている。弁体18は、弁座17に着脱して弁部を開閉する球状のボール弁体41と、そのボール弁体41を下方から支持する弁体受け43とを接合して構成されている。
【0018】
ボディ2の下端部には、内外を連通させる連通孔19が形成されており、その上半部により弁体18を収容する弁室40が形成されている。弁室40は、弁孔16に連通し、弁孔16と同軸状に形成されている。弁室40は、また、側部にて上流側通路37を介して導入ポート6に連通している。上流側通路37は、弁室40に向けて開口する小孔42を含む。小孔42は、第1の通路13の通路断面が局部的に狭小化されて形成されている。
【0019】
弁孔16は、下流側通路39を介して導出ポート7に連通している。すなわち、上流側通路37、弁室40、弁孔16および下流側通路39が、第1の通路13を構成している。上流側通路37と下流側通路39とは互いに平行であり、それぞれ弁孔16の軸線に対して直角方向に延在している。なお、変形例においては、上流側通路37と下流側通路39との互いの投影が直角をなすように(互いにねじれの位置となるように)導入ポート6又は導出ポート7の位置を設定してもよい。
【0020】
連通孔19の下半部には、その連通孔19を外部から封止するようにアジャストねじ20が螺着されている。弁体18(正確には弁体受け43)とアジャストねじ20との間には、弁体18を閉弁方向に付勢するスプリング23が介装されている。アジャストねじ20のボディ2への螺入量を調整することで、スプリング23の荷重を調整することができる。アジャストねじ20とボディ2との間には、冷媒の漏洩を防止するためのOリング24が介装されている。
【0021】
一方、ボディ2の上端部には凹部50が設けられ、凹部50の底部に内外を連通させる開口部52が設けられている。パワーエレメント3は、その下部が凹部50に螺着され、開口部52を封止するようにボディ2に組み付けられている。凹部50とパワーエレメント3との間の空間により、感温室54が形成されている。
【0022】
パワーエレメント3は、アッパーハウジング26とロアハウジング27との間にダイヤフラム28を挟むように介装し、そのロアハウジング27側にディスク29を配置して構成されている。アッパーハウジング26はステンレス材を有蓋状にプレス成形して得られる。ロアハウジング27は、ステンレス材を段付円筒状にプレス成形して得られる。ディスク29は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、両ハウジングよりも熱伝導率が大きい。ダイヤフラム28は、本実施形態では金属薄板からなるが、ポリイミドフィルム等の薄膜状の樹脂材からなるものでもよい。
【0023】
パワーエレメント3は、アッパーハウジング26とロアハウジング27との互いの開口部を突き合わせ、その外縁部にダイヤフラム28の外縁部を挟むようにして組み付け、両ハウジングの接合部に沿って外周溶接が施されることにより容器状に形成されている。パワーエレメント3の内部は、ダイヤフラム28により密閉空間S1と開放空間S2とに仕切られ、その密閉空間S1には感温用のガスが封入されている。開放空間S2は、開口部52を介して第2の通路14に連通する。パワーエレメント3とボディ2との間には、冷媒の漏洩を防止するためのOリング30が介装されている。第2の通路14を通過する冷媒の圧力および温度は、開口部52とディスク29に設けられた溝部53を通ってダイヤフラム28の下面に伝達される。また、冷媒の温度については、主に熱伝導率が大きいディスク29を介してダイヤフラム28に伝達される。
【0024】
ボディ2の中央部には、第1の通路13と第2の通路14との間の隔壁35を貫通するように挿通孔34が設けられている。この挿通孔34は、小径部44と大径部46とを有する段付孔となっており、小径部44には長尺状のシャフト33が摺動可能に挿通されている。シャフト33は、金属製(例えばステンレス製)のロッドであり、ディスク29と弁体18との間に介装されている。これにより、ダイヤフラム28の変位よる駆動力が、ディスク29およびシャフト33を介して弁体18へ伝達され、弁部が開閉される。
【0025】
シャフト33の上半部は第2の通路14を横断し、下半部は挿通孔34の小径部44に摺動可能に支持されている。大径部46(「取付孔」として機能する)には、シャフト33に軸線方向と直角な方向の付勢力、つまり横荷重(摺動荷重)を付与するための防振ばね48が収容されている。シャフト33がその防振ばね48の横荷重を受けることにより、冷媒圧力の変動によるシャフト33や弁体18の振動が抑制される。なお、防振ばね48の具体的構造については、例えば特開2013−242129号公報に記載の構成を採用することができるため、その詳細な説明については省略する。
【0026】
なお、本実施形態では、挿通孔34とシャフト33との間にOリング等のシール部材は設けられていないが、シャフト33と小径部44とのクリアランスが十分に小さいため、第1の通路13から第2の通路14への冷媒の漏れは抑制される。すなわち、いわゆるクリアランスシールが実現されている。ただし、このクリアランスシールは、冷媒の流れを確実に遮断するものではないため、特に第1の通路13と第2の通路14との間に差圧がある場合には、冷媒の漏れを許容することになる。
【0027】
以上のように構成された膨張弁1は、蒸発器から導入ポート8を介して戻ってきた冷媒の圧力及び温度をパワーエレメント3が感知してダイヤフラム28が変位する。このダイヤフラム28の変位が駆動力となり、ディスク29およびシャフト33を介して弁体18に伝達されて弁部を開閉させる。一方、受液器から供給された液冷媒は、導入ポート6から導入され、弁部を通過することにより絞り膨張されて、低温・低圧の霧状の冷媒になる。その冷媒は導出ポート7から蒸発器へ向けて導出される。
【0028】
次に、シャフト33および挿通孔34の主要部の構成および効果について説明する。
図2は、シャフト33、挿通孔34およびその周辺の構造を表す図である。(A)は図1のA部拡大図である。(B)は図1のB部拡大図である。
【0029】
図2(A)に示すように、挿通孔34の小径部44は、シャフト33を支持する支持部60と、下流側通路39に向けて開口する拡径部62とを有する。拡径部62の径は、支持部60の径よりもやや大きく、弁孔16の径以下に設定されている。そして、支持部60と拡径部62との境界部に面取り加工(C面取り)が施され、テーパ状の境界面61が形成されている。拡径部62の開口端63には面取りがなされておらず、エッジ状とされている。なお、本実施形態では面取り加工のテーパ角を、挿通孔34の軸線に対して45度となるように設定したが、それ以外のテーパ角を採用してもよい。また、本実施形態ではその面取り加工をC面取りにより行っているが、R面取りとしてもよい。
【0030】
このような構成により、支持部60とシャフト33との間のクリアランスCL1を小さくすることによるクリアランスシール機能を確保するとともに、拡径部62とシャフト33との間のクリアランスCL2をクリアランスCL1よりも大きくしている。それにより、仮に挿通孔34の成形によって拡径部62の開口端63にバリが生じたとしても、そのバリがシャフト33と干渉し難くし、挿通孔34とシャフト33との間にバリが噛み込み難くなるようにしている。
【0031】
一方、図2(B)にも示すように、シャフト33は、下流側通路39において縮径する段差部64を有し、その段差部64に弁孔16に対向するテーパ状の対向面66が形成されている。段差部64の先端側である小径部68が弁孔16を貫通して弁体18に接続されている。ボール弁体41は、シャフト33の先端と当接している。
【0032】
以上のような構成により、図中太線矢印にて示すように、開弁時に上流側から導入された液冷媒は、弁孔16と小径部68との間隙(オリフィス通路)を通過することにより霧状の気液二相冷媒となり、下流側通路39に導出される。このとき、冷媒の少なくとも一部は小径部68に沿って流れるが、対向面66に当たって進路を変化させられる。すなわち、その冷媒が挿通孔34へは向かい難くされている。
【0033】
図3は、挿通孔34の加工方法の主要部を示す図である。(A)および(B)は、その加工過程を示す図である。挿通孔34の成形に先立ち、図示しないドリル(穴あけ工具)を用いた切削加工により、ボディ2に上流側通路37、下流側通路39、連通孔19(弁室40)、第2の通路14が成形される。
【0034】
続いて、図3(A)に示すように、ボディ2の上方からドリル70(穴あけ工具)による穴あけ加工が施され、大径部46の下穴があけられる。ドリル70の先端中央部は、大径部46と小径部44との境界にテーパ面45(図1参照)を形成するために尖頭形状とされている。
【0035】
続いて、図3(B)に示すように、ボディ2の下方からドリル72(穴あけ工具)による穴あけ加工が施され、挿通孔34の全体が成形される。ドリル72の切削刃は、拡径部62を成形するための段部74を有する。このとき、段部74にも上述した境界面61を成形するための切削機能があるため、支持部60の下端開口部にバリが残存するようなことはない。一方、拡径部62の開口端63にはバリが生じることがある。しかし、上述したクリアランスCL2が形成されることにより(図2(A)参照)、そのバリがシャフト33に干渉することはない。
【0036】
以上に説明したように、本実施形態によれば、挿通孔34の開口端およびその近傍が拡径されているため、仮にその挿通孔34の成形時にバリが発生したとしても、シャフト33を挿通させたときにそのバリが干渉する可能性は低い。そのため、シャフト33と挿通孔34との間隙にバリが引き込まれることを防止又は抑制することができる。
【0037】
特に本実施形態ではクリアランスシールを採用するため、第1の通路13と第2の通路14との間に差圧による冷媒の漏洩が発生する可能性がある。この点につき、挿通孔34の開口端がエッジ状とされることで、挿通孔34への冷媒の流入を少なくとも抑制することができる。このため、仮にバリの一部が欠損して小片となったとしても、シャフト33と挿通孔34との間隙にその小片が引き込まれることを防止又は抑制することができる。さらに、シャフト33に段差部64を設けたことで、弁孔16を介した冷媒が、テーパ状の対向面66に沿って流れ方向を変化させる。それにより、弁孔16を経た噴流は、バリが発生する箇所を避けるようになる。すなわち、その噴流がバリをシャフト33と挿通孔34との間隙に押し込むといった事態を回避又は抑制することができる。以上の作用により、シャフト33の摺動性能を安定に維持することが可能となる。
【0038】
また、本実施形態では、図2(A)に示したように、下流側通路39の壁面に対して拡径部62を掘り込む態様とすることで、テーパ面(境界面61)の精度を比較的容易に確保できるといったメリットもある。すなわち、それとは別に、下流側通路39の壁面に支持部60を開口させ、その開口端をテーパ状に面取り(C面取り等)することも考えられる。その場合には、その開口端を基準にテーパ面の高さに合わせた面取り加工が必要となり、下流側通路39や切削工具の寸法公差を考慮した設計が必要となる。このため、特に図示のようにテーパ面が小さい場合、その加工は極めて困難となる。この点、本実施形態では、下流側通路39の壁面に対して拡径部62を掘り込む態様とすることで、その寸法公差を厳密に考慮しなくともテーパ面の精度を確保することができる。言い換えれば、切削工具による加工精度がそれほど高くなくても支持部60の開口端のバリを確実に除去することが可能となる。
【0039】
さらに、本実施形態では、図3(B)に示したように、支持部60、拡径部62および弁孔16を一体刃物(ドリル72)により加工する構成としたことで、弁孔16と支持部60との同軸度を高くすることができる。これは、結果的にシャフト33に接続される弁体18と弁孔16との同軸度を高め、冷媒の流量特性を設計値どおりに維持することを容易にする。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は特定の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想の範囲内で種々の変形が可能であることはいうまでもない。
【0041】
上記実施形態では、図3に挿通孔34の製法の一例を示した。変形例においては、これと異なる製法を採用してもよい。例えば、図3(B)に示した下方からの孔あけ加工を先に施し、その後、図3(A)に示した上方からの孔あけ加工を施してもよい。また、図3(B)に示した工程を2段階に分けてもよい。すなわち、第1の工具により支持部60を穿設した後に、第2の工具により開口端63を穿設してもよい。上記実施形態では、拡径部62と弁孔16とを単一の工具により同時に成形する例を示したが、個別の工具により段階的に成形してもよい。
【0042】
また、小径部44において相対的に低圧となる側のテーパ面45の成形を省略してもよい。第1の通路13と第2の通路14との間に差圧が生じる場合、蒸発器にて圧力損失を受ける第2の通路14のほうが、第1の通路13よりも低圧となる。このため、低圧側の開口端から小径部44に向けて(つまりクリアランスシール部に向けて)バリが引き込まれる可能性は低いと考えられるからである。
【0043】
上記実施形態では、図2(A)に示したように、支持部60と拡径部62との境界部に面取りを施したが、変形例においては、それを省略してもよい。すなわち、境界面61を挿通孔34の軸線と直角となるように形成してもよい。ただし、上記実施形態のように面取りを施したほうが、シャフト33の摺動によって支持部60の開口端が変形することを防止し易く、シャフト33の摺動性能をより安定に維持することが可能となる。
【0044】
上記実施形態では、上記シャフト33および挿通孔34の構造を温度式膨張弁に適用する例を示した。変形例においては、モータ等を駆動部とする電動膨張弁に対して同様の構成を適用してもよい。その場合、感温機能が不要となるため、その電動膨張弁において第2の通路14を省略してもよい。
【0045】
上記実施形態の膨張弁は、冷媒として代替フロン(HFC−134a)など使用する冷凍サイクルに好適に適用されるが、本発明の膨張弁は、二酸化炭素のように作動圧力が高い冷媒を用いる冷凍サイクルに適用することも可能である。その場合には、冷凍サイクルに凝縮器に代わってガスクーラなどの外部熱交換器が配置される。その際、パワーエレメント3を構成するダイヤフラムの強度を補うために、例えば金属製の皿ばね等を重ねて配置してもよい。
【0046】
上記実施形態では、上記膨張弁を、外部熱交換器を経て流入した冷媒を絞り膨張させて蒸発器(室内蒸発器)へ供給するものとして構成する例を示した。変形例においては、上記膨張弁を、ヒートポンプ式の車両用冷暖房装置に適用し、内部熱交換器の下流側に設置してもよい。すなわち、上記膨張弁を、内部熱交換器を経て流入した冷媒を絞り膨張させて外部熱交換器(室外蒸発器)へ供給するものとして構成してもよい。
【0047】
なお、本発明は上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化することができる。上記実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることにより種々の発明を形成してもよい。また、上記実施形態や変形例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 膨張弁、 2 ボディ、 3 パワーエレメント、 6 導入ポート、 7 導出ポート、 8 導入ポート、 9 導出ポート、 13 第1の通路、 14 第2の通路、 16 弁孔、 18 弁体、 33 シャフト、 34 挿通孔、 35 隔壁、 37 上流側通路、 39 下流側通路、 40 弁室、 60 支持部、 62 拡径部、 64 段差部、 66 対向面、 CL1 クリアランス、 CL2 クリアランス。
図1
図2
図3