特許第6402331号(P6402331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402331
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】車両用駆動装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20181001BHJP
   F16H 61/08 20060101ALI20181001BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20181001BHJP
   F16H 59/40 20060101ALI20181001BHJP
   F16H 59/42 20060101ALI20181001BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20181001BHJP
   F16H 61/682 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/08
   B60L15/20 K
   F16H59/40
   F16H59/42
   F16H63/50
   F16H61/682
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-98708(P2014-98708)
(22)【出願日】2014年5月12日
(65)【公開番号】特開2015-215055(P2015-215055A)
(43)【公開日】2015年12月3日
【審査請求日】2017年4月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】509185192
【氏名又は名称】株式会社 ACR
(74)【代理人】
【識別番号】100092347
【弁理士】
【氏名又は名称】尾仲 一宗
(72)【発明者】
【氏名】内山 嘉博
【審査官】 日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平5−168109(JP,A)
【文献】 特開2000−104815(JP,A)
【文献】 特開平11−257472(JP,A)
【文献】 特開平10−248113(JP,A)
【文献】 特開2013−52798(JP,A)
【文献】 特開2013−52802(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/065525(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00 − 61/12
F16H 61/16 − 61/24
F16H 61/66 − 61/70
F16H 63/40 − 63/50
B60L 15/00 − 15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源として回転制御可能なモータ,エネルギー源としてバッテリ,前記モータの回転を所定の変速比の変速段に噛み合い係合によって変速する変速機,前記モータの噛み合い係合時の回転数制御又は噛み合い解除時のトルク制御に切替えて制御することが可能なインバータ,及び前記変速機の前記変速段にシフトするアクチュエータから成る車両用駆動装置の制御装置において,
前記変速機の変速時に,前記変速機の入力回転数の目標回転数を設定する目標回転数設定手段,及び前記変速機の前記入力回転数が設定された前記目標回転数になるように前記インバータを付勢して前記インバータからの前記モータの前記回転数制御又は前記トルク制御の情報から前記アクチュエータを制御するコントローラを有しており,
前記コントローラは,前記噛み合い解除時は解除するためのトルクに到達で同期して,また前記噛み合い係合時は係合するための回転数に到達で同期して前記アクチュエータを動作する制御をし,
前記コントローラは,前記モータの作動領域と前記変速機の前記変速段の各々のモータ作動ポイントにおける前記インバータの効率前記モータの効率,及び前記バッテリの充放電効率から成る総合効率の情報を保有しており,
前記モータの前記回転数制御と前記トルク制御の双方を用いて,現在使用中の前記変速機の減速比から演算した現在の前記総合効率と,前記変速機の使用中以外の前記変速段を用いたときの前記総合効率を比較して高い効率の前記変速段を仮に選定し,
前記変速機の変速後の前記モータの必要トルク及び必要回転数の双方が合致しているか否かを判断し,車両の加速減速を判断して他の前記変速段に変速した場合の前記モータの作動領域の回転数の余裕量を勘案して前記変速段を仮に選定して変速の必要性を変速状況から判断し,前記変速機を変速する場合は,少ない動作頻度で効率が得られる前記変速段を決定して変速を行うことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,駆動源として回転制御可能なモータ,及びモータの回転を複数の変速段を有する変速機を介して車軸へ出力する車両用駆動装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,駆動源としてモータを電気自動車(EV)等の車両に用いる場合に,モータの優れた動作特性を考慮すると,モータの変速比は,一定の変速比で用いることが一般的である。従来の変速機に関しては,手動・自動変速機が知られているが,手動変速機では,シンクロ・ノンシンクロの変速機が存在し,いずれも変速時には,次段変速比に合うように,回転調整を行う機構や,動力源との回転を切断して回転調整を行えるようにクラッチ機構を必要としているため,機構が複雑になり,大型化する傾向があった。また,自動変速機の場合には,変速機の動作に油圧を用いているため,動力源において絶えず油圧を発生させるエネルギーを消費することになり,効率面で問題があると思料される。自動変速機で油圧を用いない場合でも,手動変速機と同様の動作を自動化したものが多く,変速機を作動するアクチュエータは,それに見合って大型化したものが必要とされていた。この変速機をモータと組み合わせて用いる場合には,モータに内燃機関の特性を模擬させる必要があり,モータの特性を十分に活かしきることができない。
【0003】
また,電気自動車用駆動装置として,高速型電動モータを動力源として採用するものが知られている。該電気自動車用駆動装置は,高回転型の電動モータの回転出力が減速機構により所定の減速比にて減速された後,自動変速機へ入力される。自動変速機の入力回転速度は,内燃機関を動力源とする自動車の自動変速機と同様に最大でも7000r.p.m.程度以下とされるので,従来の内燃機関搭載車両に用いられていた自動変速機を流用しても,耐久性や動力伝達効率が従来と同様に得られる(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,電気自動車用減速装置として,電気自動車のモータ出力軸から差動歯車機構に至る減速装置を径方向に小型化するものが知られている。該電気自動車用減速装置は,モータ出力軸と出力軸との間を遊星ローラ式減速機構により結合し,出力軸に形成したギヤと差動歯車機構に結合したギヤとを直接噛合させる。モータ出力軸の回転は遊星ローラ式減速機構により減速されて出力軸に至り,その後,ギヤを順次経て差動歯車機構に達する(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,電気自動車用駆動装置として,小型化と生産コストの低減を図るとともに,駆動モータの耐久性を向上させるものが知られている。該電気自動車用駆動装置は,車体に固定されたハウジング内には回転ケースが回転自在に装着され,回転ケースによってモータ収容室と減速機構室に区画されている。回転ケースの外側にはロータが固定され,ハウジングの内側にはステータが固定され,該ステータはロータとにより電動モータを構成している。回転ケースの内部には,サンギヤとリングギヤとキャリアとを備えた遊星歯車機構が組み込まれている。遊星歯車機構の入力要素は,回転ケースに連結され,出力要素はハウジングに固定されている(例えば,特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−330352号公報
【特許文献2】特開平8−2266号公報
【特許文献3】特開2006−15785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら,車両の駆動力の必要性能をモータ特性で確保する場合には,モータは,高トルクで高回転を必要とし,モータが大型化したり,駆動装置の高出力化が要求されることになる。従来,低トルクモータを用いたシステムの伝達装置として,変速機を備えたものが存在するが,該システムの伝達装置は,内燃機関用の既存の変速機を用いるのが一般的である。自動車用駆動装置では,駆動システムの効率点を有効に利用して運転するには,変速機の存在が不可欠である。通常の自動変速機では,歯車の選択や駆動伝達のための摩擦係合にも油圧を用いているので,油圧発生のためのエネルギー損失が発生する。手動変速機を自動化する手法も考えられるが,装置の複雑化や大型化等が課題となる。変速機の変速について,駆動力の切断を行うことで,歯車の接触圧力を無くし,歯車の変速を行う必要がある。
【0008】
しかしながら,変速機の入力軸の回転が制御可能な場合には,必ずしも駆動力を切断する必要がなく,変速機の入力軸の制御によって歯車の歯面にかかる接触圧力を無くすことが可能である。それ故に,駆動源の制御を的確に行えば,駆動源と変速機間に配置されたクラッチ,トルクコンバータ等の駆動力を切断する切断装置を廃止することができると考えられる。また,変速機に設けた歯車を動作させるアクチュエータに関しては,歯車にかかる接触圧力を無くすことが可能であるため,小型のものを用いることが可能になる。また,モータ特性については,一般的に,発生するトルクがモータに流す電流に依存し,回転数の範囲がモータにかける電圧に依存している。そこで,本出願人は,モータに連結する伝達装置に変速機を用いて変速比を制御すれば,伝達装置が固定変速比での駆動システムに比べて,モータには少ない電流・電圧でも同様の駆動力を得ることが可能になり,銅損・鉄損を低下させることによって,効率的な運転を行うことができると着眼した。
【0009】
この発明の目的は,上記の問題を解決することであり,モータと変速機とを1つの車両用駆動装置のシステムに構成するものであって,必要な駆動力を高効率で出力伝達し,変速機の同期を駆動源のモータで行うことによって,シンプルでコンパクトで,しかも安価に高効率の変速駆動システムを提供したものであり,駆動源としてのモータを回転制御可能なタイプを用い,有段の変速段を有する変速機により複数の変速段を達成するため,変速時に複雑な機構・油圧を用いずに変速機の入力回転数をモータの回転速度を高精度に制御し,変速機の歯車の噛み合い係合等を単純な構造で切り換えて変速を可能にし,システム効率を有効に活用し,エネルギー消費量を低減し,また,変速時に選択する変速比について有段の変速機であれば,予め各変速比での駆動システム効率をマップ化してそれを記録することが可能であり,必要駆動力から最も効率のよい変速比を算出し,効率を改善するための変速比の選択をシステム化することにより高効率の駆動システムを確保することを特徴とする車両用駆動装置の制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,駆動源として回転制御可能なモータ,エネルギー源としてバッテリ,前記モータの回転を所定の変速比の変速段に噛み合い係合によって変速する変速機,前記モータの噛み合い係合時の回転数制御又は噛み合い解除時のトルク制御に切替えて制御することが可能なインバータ,及び前記変速機の前記変速段にシフトするアクチュエータから成る車両用駆動装置の制御装置において,
前記変速機の変速時に,前記変速機の入力回転数の目標回転数を設定する目標回転数設定手段,及び前記変速機の前記入力回転数が設定された前記目標回転数になるように前記インバータを付勢して前記インバータからの前記モータの前記回転数制御又は前記トルク制御の情報から前記アクチュエータを制御するコントローラを有しており,
前記コントローラは,前記噛み合い解除時は解除するためのトルクに到達で同期して,また前記噛み合い係合時は係合するための回転数に到達で同期して前記アクチュエータを動作する制御をし,
前記コントローラは,前記モータの作動領域と前記変速機の前記変速段の各々のモータ作動ポイントにおける前記インバータの効率前記モータの効率,及び前記バッテリの充放電効率から成る総合効率の情報を保有しており,
前記モータの前記回転数制御と前記トルク制御の双方を用いて,現在使用中の前記変速機の減速比から演算した現在の前記総合効率と,前記変速機の使用中以外の前記変速段を用いたときの前記総合効率を比較して高い効率の前記変速段を仮に選定し,
前記変速機の変速後の前記モータの必要トルク及び必要回転数の双方が合致しているか否かを判断し,車両の加速減速を判断して他の前記変速段に変速した場合の前記モータの作動領域の回転数の余裕量を勘案して前記変速段を仮に選定して変速の必要性を変速状況から判断し,前記変速機を変速する場合は,少ない動作頻度で効率が得られる前記変速段を決定して変速を行うことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置に関する。
【0011】
また,この車両用駆動装置の制御装置については,具体的には,前記コントローラは,前記変速機の前記入力回転数の変化に応答して,前記入力回転数が設定された前記目標回転数になるように前記モータの前記回転数を制御するものであり,前記目標回転数は,前記変速機の変速前の前記入力回転数,変速後の前記変速比から決定される変速後の前記変速機の前記入力回転数,及び前記変速機の出力回転数に基づいて設定されている。また,前記コントローラは,前記モータの出力特性を記録する出力特性記録手段を有し,アクセル開度と車両走行状態から算出された必要駆動力に応答して,前記変速機の前記変速比を選択制御するように設定されており,また,前記変速機の前記各変速比と各動作条件でのシステム効率を記録しており,前記必要駆動力から前記変速機の前記各変速比での前記システム効率を算出して,前記各変速比から高効率の前記変速比を選択制御するものであり,更に,前記変速機の前記必要駆動力と前記変速機の前記出力回転数から車両負荷状態を算出して,前記車両負荷状態に応答して前記変速機の前記変速比を選択制御するものである。
【0012】
また,前記コントローラは,変速時に,前記モータの回転数を制御して前記変速機の前記各変速段の歯車の接触圧力が無いことに応答して,前記アクチュエータを作動して前記変速段の前記歯車の噛み合いを切り離し,前記変速段の入力軸がフリーになった後に,前記モータは次段の前記変速段の歯車に噛み合うため回転数を変化させ,前記変速機の前記次段の前記変速段に同期した回転数で前記次段の歯車に噛み合うように制御されるものであり,また,前記モータの出力を車速である前記回転数と駆動力であるトルクに応答して制御する。更に,前記コントローラは,前記駆動力,前記車速,又は前記システム効率を判断して前記変速機の変速が必要であることに応答して,前記変速段における次段での前記モータの前記回転数を算出して変速制御するものである。
【発明の効果】
【0013】
この車両用駆動装置の制御装置は,上記のように構成したので,簡易的な変速機であっても駆動源のモータが積極的に有段の変速段を持つ変速機の同期作用を行うことができ,スムーズな変速が可能になるものであり,モータによって変速機の回転数とトルクを制御して,変速段の歯車の噛み合い時の接触圧力をなくし,変速のアクチュエータを小型化することを可能にし,同時に変速によるショックを発生することなく瞬時に変速を可能とする。従って,動力源としてモータを用いた駆動システムであるので,モータの回転数制御が内燃機関に比べて容易であって正確に行うことができる。また,この車両用駆動装置の制御装置は,回転制御可能なモータによって変速機内の各歯車に生じる歯面接触圧力や回転速度を制御することによって,変速機内部での回転同期機構やその際に必要となる動力軸とのクラッチ機構を簡略化することが可能になる。また,モータの回転を制御する機構を有し,変速時に複雑な機構・油圧を用いずに,変速機の入力回転数を精度良く制御して歯車の噛み合い係合等の単純な構造によって変速を可能にし,システム効率を有効に活用し,エネルギー消費量を低減することができる。コントローラ即ち電子制御装置は,目標回転数設定手段と回転数制御手段を有し,変速時に,変速機の変速中の目標入力回転数を設定し,変速機の実際の入力回転数が,設定された目標入力回転数をトレースするように,モータの回転数を制御することができる。コントローラは,変速時の歯車の選定を,全体効率の演算により行い,必要な駆動力をベースに最も効率のよい減速比を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明による車両用駆動装置の制御装置を適用した車両用駆動装置の一実施例を概念的に示すブロック図である。
図2図1の車両用駆動装置に用いる変速機を概念的に示すブロック図である。
図3】この発明による車両用駆動装置の制御装置における制御工程を説明する処理フロー図である。
図4】この発明による車両用駆動装置の制御装置による効率化制御を説明する処理フロー図である。
図5】効率算出に用いたシステム効率図である。
図6】従来の車両用駆動装置の制御装置における効率算出に用いたシステム効率図である。
図7】この発明による車両用駆動装置の制御装置における効率算出に用いたシステム効率図である。
図8】この発明による車両用駆動装置の制御装置の操作性向上の制御工程を説明する処理フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,図面を参照して,この発明による車両用駆動装置の制御装置の実施例を説明する。この車両用駆動装置の制御装置は,図1に示すように,動力源としてモータ1を用いており,モータ1はその回転が変速機4を介して車両用駆動装置における変速機4の出力軸13へ伝達される。例えば,モータ1の出力軸(図示せず)は,変速機4の入力軸12に連結され,変速機4の出力軸13は,差動歯車の傘歯車19を介してタイヤ21が取り付けられる車軸20に連結されている。車両用駆動装置では,入力軸12に対して回転センサ14が設けられ,出力軸13に対して回転センサ8が設けられ,アクセルペダル18に対してアクセルセンサ7が設けられている。回転センサ8,14,及びアクセルセンサ7で検出された情報は,コントローラ6にそれぞれ入力される。コントローラ6は,それらの情報に応じて,モータ1の回転・トルクを制御すると共に,電動アクチュエータ即ちアクチュエータ5を作動してシフトドラム10及びシフトフォーク11によって変速機4の変速段を構成する歯車列15,16,17のドグ歯9の噛み合いを変更し,変速機4の変速段をシフト制御する。この車両用駆動装置の制御装置では,制御装置(ECU)即ちコントローラ6は,操作者によるアクセルペダル18の踏込み量を検出するアクセルセンサ7の信号を受けて必要な駆動力(トルク)と変速状態即ち結合している変速段は演算して判断し,バッテリ3から電力が供給されるインバータ2を介してモータ1を駆動制御する。変速機4は,コントローラ6からの指令によってアクチュエータ5を作動して歯車列15,16,17の所定の変速段へと変速制御される。
【0016】
変速機4は,図2に示すように,歯車伝達機構を構成する各歯車列15,16,17は,噛み合い係合のドグ歯9によって断接されるように構成されている。変速機4の変速操作は,アクチュエータ5によってシフトドラム10が回転され,シフトドラム10の回転によってシフトフォーク11が移動し,歯車列15,16,17のドグ歯9の噛み合いが変更され,変速段が変更してシフトされる。また,車両用駆動装置は,モータ1をインバータ2を介して,更に,変速機4の各噛み合い要素,例えば,ドグクラッチ又はドグミッションであるドグ歯9をシフトフォーク11,シフトドラム10,電動アクチュエータ5を介して制御するコントローラ6を主体とし,モータ1を駆動するための電力を供給すると共に,モータ1により回収即ち回生されるエネルギーを電力として蓄えるバッテリ3と,モータ1の制御手段を構成するインバータ2とから構成されている。更に,車両を作動する制御のための情報検出手段として,アクセルペダル18の踏込み量即ちアクセル開度を検出するアクセルセンサ7,変速機4の出力軸13の回転数(即ち車両速度即ち車速)を検出する回転センサ8,及び変速機4の入力軸12の回転数を検出する回転センサ14を備えている。
【0017】
この車両用駆動装置の制御装置は,モータ1の目標回転数を変速機4の出力軸13と同期させる運転を行うものである。この車両用駆動装置の制御装置は,インバータ2の能力を活用し,速度制御による回転同期,又は電流制御と回転数のフィードバックによる制御によって回転同期を行い,車両加速時即ちシフトアップ時には,モータ1の回転数が目標回転数より50〜200r.p.m.だけ速くなった時点,言い換えれば,目標回転数より50〜200r.p.m.速く,変速機4の変速段の1速から2速に変速する場合に,現在の回転数が5000r.p.m.であって,目標回転数を3000r.p.m.とすると,3200〜3050r.p.m.の範囲内でアクチュエータ5を作動させることが好ましい。また,車両減速時即ちシフトダウン時には,モータ1の回転数が目標回転数より200〜50r.p.m.遅くになった時点で,2速から1速に変速する場合,現在の回転数が3000r.p.m.であって,目標回転数を5000r.p.m.とすると,4800〜4950r.p.m.の回転数の時にアクチュエータ5を作動させることが好ましい。上記のように,コントローラ6は, 変速機4の歯車,即ちドグ歯9の係合時に,変速機4のモータ側歯車周速と車軸側歯車回転速度に, 50r.p.m.〜200r.p.m.の範囲の速度差を与えるようにモータ1の回転速度を制御し,その時に,アクチュエータ5を作動して変速機4の歯車列15,16,17の噛み合い係合要素のドグ歯9を係合させる。モータ1の回転数が車両加減速状態によって異なることについては,制御のオーバーシュートを考慮していることと,噛み合い係合の構造上,完全に回転数が一致して噛み合いが正しく行われないことを防止するためである。変速機4の噛み合い係合,即ち,ドグクラッチ又はドグミッションであるドグ歯9の係合が完了した後に,モータ1に駆動力を目標値に上昇させる。特に,変速機4では,歯車列15,16,17の歯車は噛み合い係合を行うため,変速機4のシフトフォーク11及びシフトドラム10の位置を保持する必要がないため,変速状態の保持にエネルギーを必要とせず,効率的といえる。この実施例では,アクチュエータ5の動作時間とモータ1の単独での回転同期以外に,時間を必要としないため非常に短時間で変速を完了することができる。この車両用駆動装置の制御装置では,コントローラ6が最適変速段の変速比を判断選択する場合でも,変速時間は,実質的に略0.1secである。
【0018】
次に,この発明による車両用駆動装置の制御装置の作動制御について,図3図5を参照して説明する。
まず,図3の処理フロー図を参照して,この発明による車両用駆動装置の制御装置についての作動ルーチンを説明する。アクセルセンサ7によってアクセル開度の情報を検出し,検出値をコントローラ6に読み込む(ステップS1)。変速機4の出力軸13に設けた回転センサ8によって車両の車速を検出し,検出値をコントローラ6に読み込む(ステップS2)。コントローラ6は,これらの情報を受けて,車両の目標駆動力を演算し算出する(ステップS3)。コントローラ6は,算出した目標駆動力を確保するため車両が変速の必要性があるか否かを判断する(ステップS4)。車速が必要でない場合には,モータ1の駆動力即ちトルク又は回転を制御し(ステップS6),車速が必要であると判断した場合には,モータ1の目標回転数を算出する(ステップS5)。次いで,変速機4の歯車列15,16,17の噛み合い係合を解除するため,歯車の噛み合い荷重を0にする必要があるが,この実施例の手順では,モータ1のトルクを無くすように制御し,噛み合い係合を小さな力で解除することを可能にする。即ち,モータ1の0トルク制御を行うか,又は低電流による変速機4の入出力軸12,13の回転同期制御により歯車噛み合い荷重を0にする制御を行う(ステップS7)。変速機4のアクチュエータ5を動作して噛み合い係合を解除し(ステップS8),コントローラ6の指令でモータ1を目標回転数へ同期運転する(ステップS9)。モータ1の回転数の制御としては,変速機4の入力軸12の回転数と変速機4の出力軸13の回転数とを比較し(ステップS10),入力軸12の回転と出力軸13の回転とが同期していない時には処理工程のステップS9を繰り返し,同期した時には,変速機4のアクチュエータ5を作動して変速機4の変速段の歯車を噛み合わせて係合させ(ステップS11),出力軸13を予め決められた所定の変速比で作動するように,モータ1の駆動力即ちトルク又は回転数を制御する(ステップS12)。
【0019】
次に,図4は,図3の処理フロー図にシステム効率算出機能を挿入した処理フロー図である。図4では,モータ1の目標駆動力を算出する際に,コントローラ6に記録されている変速比のデータから変速比でのモータ動作点即ち回転トルクを算出する。この時,過回転やトルク不足による変速比を除外し,運転可能なモータ動作点について,同じくコントローラ6に記録されている回転,トルク毎のシステム効率マップを用いて変速した際の駆動システム効率を算出する。このシステム効率が最大になる変速比を選択制御することで,駆動システム全体の効率を改善することが可能である。
まず,車両のアクセル開度の情報をアクセルセンサ7で検出し,その情報をコントローラ6に読み込む(ステップS21)。車両の車速を読み込む(ステップS22)。コントローラ6は,駆動源となるモータ1の目標駆動力を算出する(ステップS23)。コントローラ6は,蓄積されていたマップにある変速比をアップ化されたコントローラ6の記録から読み込む(ステップS24)。各変速比ごとにモータ1の動作点を算出する(ステップS25)。コントローラ6は,目標駆動力がモータ1の動作可能な回転数とトルクの範囲内であることを確認し(ステップS26),コントローラ6は,動作可能な各変速比ごとにシステム効率,即ち,マップ化してコントローラ6に記録してあるシステム効率を読み込む(ステップS27)。コントローラ6は,システム効率が最大と成る変速比を決定する(ステップS28)。コントローラ6は,変速機4の上記変速比への変速が必要であるか否かを判断する(ステップS29)。変速機4の変速が必要でない場合には,モータ1の駆動力即ちトルク又は回転数をその状態に維持する制御をする(ステップS30)。変速機4の変速比を変えるため変速が必要な場合には,モータ1の目標回転数を算出する(ステップS31)。モータ1の目標回転数を算出する時には,モータ1の0トルク制御を行うか,又は低電流による変速機4の入出力軸12,13の回転同期制御により歯車噛み合い荷重を0にする制御を行う(ステップS32)。その状態になった時に,変速機4のアクチュエータ5を動作して噛み合い係合を解除し(ステップS33),コントローラ6の指令でモータ1を目標回転数へ同期するように制御する(ステップS34)。モータ1の回転数の制御としては,変速機4における回転センサ14で検出された入力軸12の回転数と回転センサ8で検出された出力軸13の回転数とを比較し(ステップS35),入力軸12の回転数と出力軸13の回転数とが同期していない時には,処理工程のステップS34を繰り返し,同期した時には,変速機4のアクチュエータ5を作動して変速機4の変速段の歯車即ちドグ歯9を噛み合わせて係合させ(ステップS36),モータ1を予め決められた所定の変速比で作動し,モータ1の駆動力即ちトルク又は回転数を制御する(ステップS37)。
【0020】
モータ1は,回転制御可能なタイプであり,内燃機関に比べて高効率であり,中回転で中負荷の領域が良い効率を示している。このことは,モータ1が高負荷では電流による発熱があり,モータ1の高回転では渦電流や器械損失が発生するためである。また,インバータ2では,電流を多く必要とする高負荷では損失が発生し,スイッチングによる損失が大きくなる低負荷では効率が低下するという特性がある。
【0021】
図5には駆動システムを用いて車両を運転する場合であり,システム効率とモータ出力を示す線図であり,縦軸にモータトルク(Nm)をプロットし,横軸にモータ回転数(rpm)をプロットしている。図5では,モータ1とインバータ2を合わせた効率を示しており,低回転で高負荷の領域は,効率が低下している。具体的には,モータ1の低回転の領域ではインバータ効率が悪く,また,モータ1の高負荷の領域及び低回転の領域ではモータ効率が悪いことが分る。また,モータ1の中回転で中負荷の領域では,高効率の範囲が広く存在しており,コントローラ6による制御が容易であることが分る。
【0022】
図6は固定変速を用いた場合の車両速度と駆動力・効率の関係を示す線図である。縦軸にモータ1の駆動力(kN)をプロットし,横軸に車速(km/h)をプロットしている。固定変速を用いた場合は,車速が低速で,駆動力が高負荷の領域では,効率が低下しており,また,車速が中速で駆動力が中負荷の領域でも高効率になる範囲が狭くなっている。従って,変速機4が固定変速を用いた場合にはシステム効率を期待できないことになる。
【0023】
特に,図7は3速変速機を用いた本駆動システムで運用した場合の車両速度と駆動力,効率の関係を示す線図である。図7の線図では,縦軸に駆動力(kN)をプロットし,横軸に車速(km/h)をプロットしている。この駆動システムでは,低車速の領域は,駆動力が上昇し,効率も確保されている。モータ1の中回転即ち中車速で,中駆動力の領域では,高効率の範囲が広く存在しており,コントローラ6による制御が容易であることが分る。しかも,このシステムでは,高車速でも高効率を確保することができることが分る。3速変速機を用いた本駆動システムで運用した場合は,固定変速を用いた場合に比較して,高効率の領域は広くなっていることが分る。上記のことから,本発明による車両用駆動装置の制御装置は,高効率部分を広くすることができるので,各変速段の効率の良いところを選択制御することができる。また,この車両用駆動装置の制御装置では,駆動力範囲,即ち,低速トルク増大や高速化が可能になる。また,状況に応じて,効率が良いギヤ即ち変速比を選択制御することができ,駆動,エネルギー回生を含めて変速機を備えていない従来の車両用駆動装置に比べてJCO08モードで20%のエネルギー消費を抑えることができる。
【0024】
次に,図8を参照して,車両用駆動装置の制御装置の操作性向上の制御ルーチンを説明する。
まず,モータ1の動作駆動力を,変速時にコントローラ6の備えているマップから読み込み(ステップS41)。コントローラ6に設定されている車両の重量を,コントローラ6に指定車両の重量によるマップから読み込む(ステップS42)。コントローラ6に車速の変化を読み込み(ステップS43)。コントローラ6は,駆動力と車速の変化から実際の車両負荷を算出する(ステップS44)。車両状態からトルク及び車速について演算する(ステップS45)。車両の積載量を予測し(ステップS46),その積載量における車両の傾斜状態を予測する(ステップS47)。補償した車両状態に駆動力マップを補正する(ステップS48)。車両が必要としている駆動力を補償する(ステップS49)。トルク型運転をする必要があるか否かを判断し(ステップS50),トルク型運転をする必要があれば,変速タイミングの遅延運転(即ち,低速運転)をするため変速比の大きい歯車を選択制御してシフトし(ステップS51),トルク型運転をする必要がなければ,効率型運転にする(ステップS52)。
【産業上の利用可能性】
【0025】
この発明による車両用駆動装置の制御装置は,例えば,電気自動車の駆動装置に適用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0026】
1 モータ
2 インバータ
3 バッテリ
4 変速機
5 アクチュエータ
6 コントローラ
9 ドグ歯
15,16,17 歯車列
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8