特許第6402336号(P6402336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402336
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】アンモニア分解触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/76 20060101AFI20181001BHJP
   B01J 29/85 20060101ALI20181001BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   B01J29/76 A
   B01J29/85 M
   B01D53/86 228
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-554992(P2015-554992)
(86)(22)【出願日】2014年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2014084277
(87)【国際公開番号】WO2015099024
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2017年8月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-269464(P2013-269464)
(32)【優先日】2013年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226219
【氏名又は名称】日揮ユニバーサル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100108899
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 謙
(72)【発明者】
【氏名】生駒 知央
(72)【発明者】
【氏名】梨子田 敏也
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 孝信
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/132678(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/075311(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/006702(WO,A1)
【文献】 特開平7−328437(JP,A)
【文献】 Isabella Nova et al.,Experimental and Modelling Study of a Dual-Layer NH3 Slip Monolith Catalyst for Automotive SCR Aftertreatment Systems,Top Catal,2013年 5月,Vol.56,page.227-231
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 29/76
B01J 29/85
B01D 53/86
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含むアンモニア排ガスを処理するための触媒であって、
貴金属と、無機酸化物と、リンと、第1のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトと、を有する下層、及び
前記下層上に設けられ、第2のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライト、を有する上層、
を含む、アンモニア分解触媒。
【請求項2】
前記リンは、前記下層内において、前記上層側に偏在している、請求項1に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項3】
前記下層内に、さらに銅酸化物を含む、請求項1又は2に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項4】
前記貴金属がPt、Pd、Ir、Rhまたはその複合物であり、前記無機酸化物がチタニア、ジルコニア、セリアジルコニア、アルミナ、シリカまたはその混合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項5】
前記プロトン型ゼオライト及び/又は前記イオン交換型ゼオライトが、β型、MFI型、Y型、モルデナイト型、SAPOからなる群から選択される請求項1〜4のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項6】
前記第1及び/又は第2のイオン交換型ゼオライトがCuイオン交換βゼオライトである、請求項5に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項7】
前記第1及び/又は第2のイオン交換型ゼオライトがCuイオン交換SAPOゼオライトである、請求項5に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項8】
前記下層における前記上層とは反対側の面に設けられた支持体をさらに有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項9】
前記下層における貴金属、無機酸化物、リン、プロトン型ゼオライト又はイオン交換型ゼオライトの相対割合(重量比)は、貴金属:無機酸化物:リン:プロトン型ゼオライト又はイオン交換型ゼオライト=0.05〜5:5〜50:0.1〜10:40〜95であり、上層のゼオライトの含有量は、下層に含まれる貴金属、無機酸化物、リン及びゼオライトの重量の合計に対して20重量%以上、400重量%以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項10】
前記下層の厚さが10μm〜200μmあり、前記上層の厚さが10μm〜200μmである、請求項1〜9のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒。
【請求項11】
水分を含むアンモニア排ガスを処理するための方法であって、
請求項1〜10のいずれか1項に記載のアンモニア分解触媒とアンモニア排ガスとを接触させて、アンモニアを窒素と水に分解する工程;を含む、排ガス処理方法。
【請求項12】
アンモニア排ガスは、水分濃度が10容量%以上である、請求項11に記載の排ガス処理方法。
【請求項13】
アンモニア排ガスは、水分濃度が20〜50容量%である、請求項12に記載の排ガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンモニア分解触媒及びアンモニアを含む排ガス(アンモニア排ガス)の処理方法に関する。さらに詳細には、本発明は水分含量の高いアンモニア排ガスに使用するためのアンモニア分解触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
NHガス及びアンモニア水は産業用途として広く、大量に使用されており、下水処理におけるNH態窒素や、半導体製造におけるパーティクルの除去工程で使用するNHを含む排水等が挙げられる。
【0003】
しかしながら、NHガスは刺激臭の物質で大気への放出においては悪臭防止法、排水(廃水)としてはBOD増加物質であることから水質汚濁防止法により排出量が規制されている。
【0004】
NHを含む排水(廃水)中のNHを除去する方法としては、例えばNH態窒素にアルカリを添加し、温度を上げた状態で蒸気または空気を送り込むストリッピング法が知られている。この方法では、まず、放散塔で排水中のNHを気相中に分離させる。そして、放出されたNHをNH酸化触媒で無害のNと水に酸化分解して大気へ放出する(特許文献1参照)。ここでのアンモニア酸化触媒としては、Fe,Ni,Co,Pt,Pd,Ru,V,Cu,Cr,W,Moより選ばれた少なくとも1種の金属元素を、チタニア,ジルコニア,アルミナ,シリカ,活性炭およびこれらの複合体の少なくとも1種の担体に担持もしくは含有したものが用いられる。
【0005】
NH含有排ガスを二段触媒層で処理する方法が提案されている。前段触媒層ではTiおよびAgと、Fe、Mn、Zn、Mo、V、Wの一種以上を含むアンモニア酸化触媒でNHを処理し、NHの処理で生成した副生成物の窒素酸化物を後段のTi、MoおよびVからなる公知の触媒層で還元処理することが報告されている(特許文献2参照)。しかし、二段触媒層で処理する方法は、後段の窒素酸化物の還元処理には処理前のNHガスの一部を用いるので、処理前のNHガスの一部を抜き出して後段の触媒層に送る手段とそのガス流を制御することが必要となり装置や反応制御が複雑となる。NHガス中のNH濃度の変化にともない、NOの濃度も変化し、安定した運転を望むことが難しい。
【0006】
NH含有ガスを無害のNと水に分解して大気に放出する方法としては、例えば脱硝触媒における余剰NHを処理するNH酸化触媒が有効とされている(特許文献3を参照)。
【0007】
前段の工程でできるだけNOの生成を抑制してNH分解触媒でNHを分解し、生成した処理ガス中の亜酸化窒素(NO)を後段の工程でNO分解触媒に接触させ処理する方法が提案されている。後段に使用できるNO分解触媒として、示性式(SiO55で示されるケイ素と酸素からなるゼオライトにCuを担持した触媒、Feイオン交換βゼオライト等が例示されている(特許文献4参照)。
【0008】
一段の触媒で処理する方法として、窒素酸化物を還元処理する触媒成分1とNHを酸化してNOを生成させる活性を有する第2成分とからなる触媒が提案されている。具体的にはチタンの酸化物及びW、VもしくはMoとの酸化物と貴金属を担持したシリカ、ゼオライトまたはアルミナを含有する触媒を使用し、出口NO濃度や工程中の酸素を測定し触媒層のガス流量や工程中の酸素濃度を調整する浄化方法が提案されている(特許文献5、特許文献6を参照)。
【0009】
上記従来技術の例示における触媒は、Vが含有されており、使用温度域が410℃を上回るとVが飛散されるという事例が見られており、Vを含まないNH分解触媒が求められている。
【0010】
本発明者らは、有機化合物をNに転化して無害化し得る、銅酸化物粒子及びゼオライト粒子を混合することによって形成される有機窒素化合物含有排ガスの浄化用触媒の発明を報告した(特許文献7参照)。しかし、水蒸気濃度が2〜10容量%未満のアンモニア排ガスに比べて、例えば水蒸気濃度が10容量%以上のような高濃度の水蒸気を含む排ガス中のアンモニアを分解する場合、同じ触媒であっても、アンモニア分解率は十分でなく、しかも長時間使用すると活性が低下する場合がある。
【0011】
さらに、本発明者らは、下水処理におけるストリッピング排ガス用に高水分、高硫黄存在下で耐性が強く、長寿命である触媒として、酸化銅(成分1):ゼオライト(成分2):貴金属(成分3):およびリン(成分4):場合により、無機酸化物(成分5)を含み、(c)酸化銅の含有量が、酸化銅と前記ゼオライトの合計100重量部に対して、2〜40重量部、(d)リンの含有量が、酸化銅とゼオライトの重量和に対して、Pとして0.01重量%〜5重量%である、アンモニア分解触媒を報告した(特許文献8参照)。しかしながら、当該触媒におけるNO及びNOの副生率は1〜5%であり、環境対策の重要性がより一層増している近年の状況においては、依然として不充分である。したがって、NOの副生率が0.6%以下であり、NOの副生成もできるだけ少ない触媒が求められている。
【0012】
一方、Pt/Al層上にSCR層を有する二層構造の触媒が報告されている(非特許文献1参照)。実験室的実験で、SCR層を設けることにより、NO形成を減少させ、N選択性を改善するが、全体としてNH変換も減少したことが記載されている。
【0013】
同様に、SCR層およびPGM層からなる、二層アンモニアスリップ触媒を報告する(非特許文献2参照)。この二層触媒により、自動車用ウレア−SCR触媒変換器における、可及的に少ないアンモニアブレイクスルーで高脱NO効率の達成を期待できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平11−76761号公報
【特許文献2】特開平10−309437号公報
【特許文献3】特開平05−146634号公報
【特許文献4】特開2005−95786号公報
【特許文献5】特開2002−52381号公報
【特許文献6】特開2002−66538号公報
【特許文献7】国際公開WO2006/006702号
【特許文献8】国際公開WO2009/075311号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Applied Catalysis B: Environmental 111 - 112 (2012) 445-455
【非特許文献2】Chemical Engineering Science 75 (2012) 75 - 83
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、本発明の目的は:
(1)アンモニアを分解して、NOの副生率が0.6%以下であり、NOの副生成もできるだけ少なく抑制して、アンモニアをNに転化して、無害化する触媒を提供すること、
(2)水分濃度が10〜60容量%、更には水分濃度が10〜50容量%のアンモニア排ガス中のアンモニアを高い効率で窒素に分解する触媒を提供すること、
(3)初期活性はもとより、硫黄化合物を含む排ガスを処理しても、耐久性を有する触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者等は上記目的を達成するために、鋭意研究を進め、本発明を完成した。本発明のアンモニア分解触媒およびアンモニア排ガスの処理方法は以下のとおりである。すなわち、本発明は、水分を含むアンモニア排ガスを処理するための触媒であって、
貴金属と、無機酸化物と、リンと、第1のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトと、を有する下層、及び
前記下層上に設けられ、第2のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライト、を有する上層、
を含む、アンモニア分解触媒にある。
【0018】
さらに本発明の別の態様は、水分を含むアンモニア排ガスを処理するための方法であって、
前記のアンモニア分解触媒とアンモニア排ガスとを接触させて、アンモニアを窒素と水に分解する工程;を含む、排ガス処理方法にある。
【発明の効果】
【0019】
本発明のアンモニア分解触媒は、水分含量の高いアンモニア排ガスであっても、高いNH分解率を示し、高いNOの抑制と、NOの副生が抑制できる。
【0020】
さらに、本発明のアンモニア分解触媒は、初期活性はもとより、硫黄化合物を含む排ガスを処理しても、高い耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は比較触媒(B−3)と本発明触媒(A−1)および(D−1)との性能評価の比較を示す図面である。
図2図2は、本発明触媒(A−1)の入口温度340℃における耐久性試験の結果を表す図面である。
図3図3は、本発明触媒(D−1)の入口温度250℃および340℃における耐久性試験の結果を表す図面である。
図4図4は、従来触媒(C−4)と本発明触媒(A−1)との耐久試験の比較を示す図面である。
図5図5は、従来触媒(C−4)の耐久性試験の結果を表す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(用語の定義)
本明細書で用いる用語の意味は、特に断らない限り以下のとおりである;
水分を含むアンモニア排ガス:水分濃度が10容量%以上のアンモニア排ガスをいう。
分解率: 触媒に接触する前と接触した後の排ガス中のアンモニア濃度の比率(%)を表す。
NO生成率およびNO生成率: 触媒に接触する前の排ガス中のアンモニア濃度に対する、接触後の排ガス中に生成したNOx濃度あるいはNOの比率(%)を表す。
窒素酸化物: NOとNOの両方を指し、NO等と表現することがある。
選択率: 分解率から、触媒に接触後の排ガス中NO等の生成率を差し引いた数値を表す。すなわち触媒に接触する前のアンモニアのうち、Nに転化した割合である。
新触媒: 調製直後あるいは排ガス処理に使用して間もない段階の触媒をいう。新触媒の活性を初期活性という。
使用触媒: 長期間排ガスを処理した後の触媒をいう。触媒耐久性の評価には、使用触媒の活性等を測定する。
【0023】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0024】
本発明は、水分を含むアンモニア排ガスを処理するための触媒であって、
貴金属と、無機酸化物と、リンと、第1のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトと、を有する下層、及び
前記下層上に設けられ、第2のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第2のイオン交換型ゼオライト、を有する上層、
を含む、アンモニア分解触媒にある。すなわち、アンモニア酸化触媒成分と脱硝成分を含有する下層上にさらに脱硝成分を含有する上層を設けたことを特に特徴とする。
【0025】
以下、本発明の触媒に使用する成分について具体的に説明する。
【0026】
<貴金属>
本発明で使用される貴金属には、Pt、Pd、Ir、Rhまたはその複合物等が挙げられる。これら貴金属の中でも、Ptは分解活性およびN選択率の向上効果が大きいため、特に好ましい。
【0027】
貴金属の含有量は、下層に含まれる貴金属、無機酸化物、リン及びゼオライトの重量の合計に対して0.05重量%以上、5重量%以下が好ましく、0.2重量%以上、2重量%以下がより好ましい。また、貴金属の担持量は、触媒容積に対して、0.05g/L以上、5g/L以下が好ましく、0.1g/L以上、3g/L以下がより好ましく、0.2g/L以上、1g/L以下がさらに好ましい。上記の範囲内であると、アンモニア分解率、NO生成率及びNO生成率に関してより良好な結果が得られる。
【0028】
<無機酸化物>
本発明で使用される無機酸化物としては、例えば、チタニア(TiO)、ジルコニア(ZrO)、シリカ(SiO)、アルミナおよびセリア・ジルコニアの複合酸化物または固溶体(CeO・ZrOで表され、CeO:ZrOモル比は1:3〜3:1である)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。上記した無機酸化物を含有させることは、貴金属の作用、すなわち分解活性の向上、とりわけ長期間使用中における分解活性の持続性向上に特に有効である。これらのなかでも、特にTiOおよびZrO、セリア・ジルコニアは長期間使用における分解活性の持続効果が優れている。該無機酸化物の触媒中における含有量は、下層に含まれる貴金属、無機酸化物、リン及びゼオライトの重量の合計に対して5重量%以上、50重量%以下が好ましく、10重量%以上、35重量%以下がより好ましい。また、無機酸化物の担持量は、触媒容積に対して1g/L以上、50g/L以下が好ましく、5g/L以上、20g/L以下がより好ましい。上記の範囲内であると、アンモニア分解率、NO生成率及びNO生成率に関してより良好な結果が得られる。
【0029】
該無機酸化物は、貴金属を担持させた状態で、触媒中に含有させることが、特に有効である。例えばPtをTiO粒子に予めTiOに対して0.1重量%〜5重量%担持したTiO粒子(これをPt/TiOと表現する。)を用意しておいて、該粒子を他の成分と混合することにより、貴金属と無機酸化物とを含有した触媒組成物を調製することができる。
【0030】
本発明で使用される無機酸化物の粒子のサイズは、触媒組成物中における貴金属成分の機能をより有効に発揮させるためには、平均粒径が0.1μm以上、100μm以下の粒子が好ましい。ここで粒径とは、2次粒子の大きさであり、SEMで観察したときの長径の長さである。平均粒径とは、少なくとも10個の粒子についてSEMを用いて長径を測定したときの平均値である。
【0031】
本発明において用いることができるTiOは、BET比表面積が5〜200m/gであることが好ましく、さらに好ましくは10〜150m/gである。
【0032】
本発明において用いることができるZrOとしては、単斜晶系、正方晶系、立方晶系を問わず、一般に市販されているZrO粉末、とりわけ比表面積が10m/g以上の多孔質のものが好ましい。また複合系のZrO、例えば、ZrO・nCeO、ZrO・nSiO、ZrO・nTiO(ここでnは概して0.25〜0.75)等、も用いることができる。
【0033】
本発明において用いることができるSiOには、ゼオライト構造を有する高シリカゼオライト、例えばモルデナイトを含む。
【0034】
<リン>
本発明において、アンモニア分解触媒の下層にリンを含有させるのに使用できるリン含有化合物としては、リン酸(HPO)、メタリン酸、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、第二リン酸アンモニウム((NHHPO)等の水溶性のリン酸、これらのNa塩、K塩、アンモニウム塩等の無機塩又は有機酸エステルが例示される。
【0035】
本発明のアンモニア分解触媒の下層には、貴金属、無機酸化物、プロトン型又はイオン交換型ゼオライトとともにリンが含有される。リンの含有量は、下層に含まれる貴金属、無機酸化物、リン及びゼオライトの重量の合計に対して0.1重量%以上、10重量%以下が好ましく、1重量%以上、5重量%以下がより好ましい。また、リンの担持量は、触媒容積に対して0.1g/L以上、10g/L以下が好ましく、0.5g/L以上、5g/L以下がより好ましい。
【0036】
リンの含有量は排ガスの組成、すなわちアンモニア濃度、水分濃度等、と処理条件、すなわち処理する温度や触媒の使用時間等を考慮して定められればよい。含有量又は担持量が上述の範囲より低すぎると、耐久性の向上効果が不十分であり、一方、リンの含有量又は担持量が上述の範囲より高すぎると、初期活性が低下する場合がある。
【0037】
従来のアンモニア分解触媒は、水分を大量に含むアンモニア排ガス中で、反応温度において長期間使用されると、劣化による活性低下を起こしやすい。しかし、本発明のアンモニア分解触媒では、リンを含有しているので、活性低下が起き難く、長期間の分解活性性能を持続し、高いN選択率を持続するという、格別顕著な効果をもたらす。リンの含有は、さらに硫化水素、チオフェン、スルフィド等の硫黄化合物を含むアンモニア排ガスを処理した場合の活性低下も有効に防止する。さらにリンを含む本発明のアンモニア分解触媒は、新触媒および使用触媒共に、アンモニアの分解率が高いと共に、NO等の副生を低下させるという、効果がみられる。
【0038】
(リンの施用方法)
下層にリンを含有させるには、まず、リン含有化合物の溶液と脱イオン水を混ぜ合わせ、リン溶液を調製する。そして、この溶液を予め作成した貴金属、無機酸化物及び第1のプロトン型ゼオライトまたは第1のイオン交換型ゼオライトを含有する層に塗布し、余剰液をエアブローにて吹き飛ばす。その後、乾燥、焼成を実施する。
【0039】
前記リンは、前記下層内において、前記上層側に遍在していてもよい。すなわち、リンの含量が該下層頂部から順次減少または段階的に減少するように構成されていてもよい。
【0040】
<ゼオライト>
本発明で用いることができるプロトン型ゼオライトは天然品であっても合成品であってもよい。例えば、モルデナイト、エリオナイト、フェリエライト、シャパサイト、X型ゼオライト、β型ゼオライト、MFI型ゼオライト、Y型ゼオライト、及びSAPO等が挙げられる。本発明で用いられるゼオライトはプロトン型(H型)のほか、アンモニウムイオン;Na、K等のアルカリ金属のイオン;Mg、Ca等のアルカリ土類金属のイオン;Fe等の8族金属のイオン;Co等の9族金属のイオン;Ni等の10族金属のイオン;Cu等の11族金属イオンのいずれかとイオン交換したイオン交換型ゼオライトを用いることができる。これらの1種または2種以上の混合物を使用してもよい。
【0041】
下層で使用する第1のプロトン型ゼオライトまたは第1のイオン交換型ゼオライトと上層の第2のプロトン型ゼオライトまたは第2のイオン交換型ゼオライトとは同一であっても異なっていても良い。双方とも、Cuイオン交換型ゼオライトが好ましい。
【0042】
下層に含まれるプロトン型ゼオライト又はイオン交換型ゼオライトの含有量は、下層に含まれる貴金属、無機酸化物、リン及びゼオライトの重量の合計に対して40重量%以上、95重量%以下が好ましく、50重量%以上、90重量%以下がより好ましい。また、下層に含まれるプロトン型ゼオライト又はイオン交換型ゼオライトの担持量は、触媒容積に対して5g/L以上、95g/L以下が好ましく、10g/L以上、90g/L以下がより好ましい。上記の範囲内であると、アンモニア分解率、NO生成率及びNO生成率に関してより良好な結果が得られる。
【0043】
上層に含まれるプロトン型ゼオライト又はイオン交換型ゼオライトの担持量は、触媒容積に対して20g/L以上、150g/L以下が好ましく、30g/L以上、130g/L以下がより好ましい。上記の範囲内であると、アンモニア分解率、NO生成率及びNO生成率に関してより良好な結果が得られる。
【0044】
また、上層に含まれるプロトン型ゼオライト又はイオン交換型ゼオライトの含有量は、下層に含まれる貴金属、無機酸化物、リン及びゼオライトの重量の合計に対して20重量%以上、400重量%以下が好ましく、40重量%以上、300重量%以下がより好ましい。上記の範囲内であると、アンモニア分解率、NO生成率及びNO生成率に関してより良好な結果が得られる。
【0045】
<銅酸化物>
本発明のアンモニア分解触媒の下層に銅酸化物をさらに含有させることができる。銅酸化物は、銅を含む酸化物を指し、銅含有複合酸化物を含む。銅酸化物としては、一般式CuO(0.45≦X≦1.1)の組成式で表される銅酸化物が挙げられる。典型的にはCuO及びCuOであり、ホプカライト等の銅含有複合酸化物で存在する銅酸化物を含む。
【0046】
本発明の触媒中における銅酸化物は、分解活性とN選択率を高く維持する働きがある。その含有量は、下層に含まれる貴金属、無機酸化物、リン及びゼオライトの重量の合計に対して1重量%以上、30重量%以下が好ましく、5重量%以上、10重量%以下がより好ましい。銅酸化物の割合が1重量%未満では、NO等の生成が増加し、結果としてN選択率が低下する場合があり、一方、銅酸化物の割合が30重量%を超えると、相対的にゼオライトの割合が少なくなり、分解率が低下する。また、銅酸化物の担持量は、触媒容積に対して0.5g/L以上、20g/L以下が好ましく、5g/L以上、10g/L以下がより好ましい。上記の範囲内であると、NOの生成率、N選択率及びアンモニア分解率に関して、より良好な結果を得ることができる。
【0047】
銅酸化物は、ゼオライトおよび無機酸化物とともに、触媒中で均一に混合される。他成分の粒子との共存下で触媒作用を発揮するため、他の成分との均一分散の面から、その平均粒径は0.1μm以上、100μm以下が好ましい。ここで粒径及び平均粒経の定義については上述したとおりである。
【0048】
触媒中への銅酸化物の含有手段としては、出発原料として、前記の銅酸化物の固体粒子を使用するのが特に好ましい。別の手段としては、銅を含有する化合物、例えば硫酸銅や酢酸銅等の銅塩を含む水溶液を他の触媒成分と混合し、触媒中に含浸させておいて、空気雰囲気下で300〜600℃で焼成することにより、銅塩を銅酸化物に転換する方法が挙げられる。
【0049】
下層における貴金属、無機酸化物、リン、プロトン型ゼオライト又はイオン交換型ゼオライトの相対割合(重量比)は、貴金属:無機酸化物:リン:プロトン型ゼオライト又はイオン交換型ゼオライト=0.05〜5:5〜50:0.1〜10:40〜95が好ましい。
【0050】
<触媒の構造>
本発明のアンモニア分解触媒は、二層構造からなる。下層には、貴金属、無機酸化物、リン、第1のプロトン型ゼオライトまたは第1のイオン交換型ゼオライトを有し、上層には第2のプロトン型ゼオライトまたは第2のイオン交換型ゼオライトを有する。本発明のアンモニア分解触媒は、前記のような二層構造にしたことにより、高水分含有アンモニア排ガスに使用しても高いNH分解率を示し、高いNOの抑制と、NOの副生が抑制できる。
【0051】
前記下層の厚さは、10〜200μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。
【0052】
前記上層の厚さは、10〜200μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。
【0053】
<支持体>
本発明の二層構造触媒は、前記下層における前記上層とは反対側の面に支持体をさらに設けることができる。使用する支持体の形状に特に制限はなく、ガス流通時に発生する差圧が小さく、ガスとの接触面積が大きい形状が好ましい。好ましい形状には、ハニカム、シート、メッシュ、繊維、パイプ、フィルターが含まれる。支持体の材質に特に制限はなく、コージェライト、アルミナ等公知の触媒担体、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、チタン、アルミニウム、ステンレス等の金属が挙げられる。
【0054】
本発明の触媒を成形もしくは支持体へ担持するには、無機バインダーあるいは有機バインダーを適宜混合して用いることができる。無機バインダーの具体例として、コロイダルシリカ、シリカゾル、アルミナゾル、ケイ酸ゾル、チタニアゾル、ベーマイト、白土、カオリン、セピオライトが挙げられる。
【0055】
<触媒の製造法>
以下、本発明のアンモニア分解触媒の製造方法について、一実施形態を説明する。ただし、製造方法については以下の方法に限定されるものではない。
【0056】
<下層の製造>
まず、容器の中に貴金属含有水溶液を入れ、これに無機酸化物を加える。無機酸化物中に貴金属含有水溶液を十分含浸させた後、攪拌しながら加熱して水分を蒸発させ、乾燥させる。その後、更に乾燥機中で加熱し、得られた粉末を空気中で焼成して、貴金属(金属分として)が所定量担持された無機酸化物粒子を得る。
【0057】
この粉末と脱イオン水とを混ぜ合わせた後、ここに、所定量のシリカゾル及び第1のプロトン型ゼオライトまたは第1のイオン交換型ゼオライトを混ぜ合わせて、下層用スラリー組成を調製する。このスラリーを支持体に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばす。その後、加熱して乾燥し、更に空気流通下の高温炉にて焼成し下層用触媒を得る。
【0058】
リンを下層へ含有させる方法は以下のとおりである。すなわち、まず、リン含有化合物の溶液と脱イオン水とを混ぜ合わせ、リン溶液を調製する。次いで、この溶液を予め作成した貴金属、無機酸化物及び第1のプロトン型ゼオライトまたは第1のイオン交換型ゼオライトを含有する上記下層用触媒に塗布し、余剰液をエアブローにて吹き飛ばす。その後、乾燥、焼成を実施する。
【0059】
こうして本発明のアンモニア分解触媒の下層を得ることができる。
【0060】
なお、本発明のアンモニア排ガス処理用触媒は、下層内にさらに銅酸化物を含有させることができる。
【0061】
<上層の製造>
脱イオン水と所定量のシリカゾル(例えば、日産化学工業製スノーテックスC)及び第2のプロトン型ゼオライトまたは第2のイオン交換型ゼオライトを混ぜ合わせて、上層用スラリーを調製する。このスラリーを上記で作製した下層上に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばす。その後、上記と同様に乾燥、焼成を実施する。これにより、本発明の二層からなるアンモニア分解触媒を得る。
【0062】
前記リンは、前記下層内において、前記上層側に遍在している。すなわち、リンの含量が該下層頂部から順次減少または段階的に減少するように構成されている。
【0063】
本発明は、水分を含むアンモニア排ガスを処理するための方法にも関する。この処理方法は、上記で得られた二層構造アンモニア分解触媒とアンモニア排ガスとを接触させて、アンモニアを窒素と水に分解する工程を含む。
【0064】
本発明のアンモニア分解触媒が使用されるアンモニア排ガスとしては、排ガス中にアンモニアが含まれていれば特に制限はない。例えば半導体工場等、各種工場からのアンモニアを含む排ガス、コークス炉排ガス、排煙脱硝プロセスからのリークアンモニア含有ガス、下水処理場、汚泥処理施設等のアンモニア含有排水のストリッピングにより発生する排ガスが挙げられる。
【0065】
アンモニア排ガスは、例えば、水分濃度が10容量%以上のアンモニア排ガス、特に、水分濃度が20〜50容量%のアンモニア排ガスである。
【0066】
本発明を適用できるアンモニア排ガスのアンモニア濃度は、例えば、10容量ppm〜5容量%である。本発明の触媒にアンモニア排ガスと空気を接触させて、アンモニアを無害な窒素ガスと水に変換し、酸化分解する。この酸化分解温度は、排ガス中の性状(水蒸気濃度やアンモニア濃度)、反応条件(温度、空間速度)、触媒劣化度合い等により適宜決定されるが、通常200〜500℃、好ましくは250〜450℃の温度範囲から選択するのが適当である。
【0067】
処理対象排ガスの触媒に対する空間速度(SV)は、ガスの性質(アンモニア濃度や水分濃度)やアンモニア分解率の目標値等を考慮して、100〜100000hr−1の範囲から適宜選択すればよい。
【0068】
触媒反応器に供給するガス中のアンモニアの濃度は3容量%以下、好ましくは2容量%以下となるよう調整することが好ましい。アンモニアの濃度が3容量%を超えると、反応による発熱で触媒層の温度が上がりすぎて触媒の劣化が起こりやすい。
【0069】
また分解反応に必要な酸素が十分に含まれていない排ガスを処理する場合は、触媒反応器の入口で、酸素量/理論必要酸素量比1.03〜10.0、好ましくは1.1〜5.0となるように、外部より空気あるいは酸素含有ガスを混入させればよい。ここで、理論必要酸素量は、式(1)より得られる化学量論酸素量であり、反応器の入口アンモニア濃度が1.0容量%のときは、酸素濃度は0.77〜7.5容量%、好ましくは0.83〜3.8容量%である。
4NH +3O →6HO+2N・・・(1)
【0070】
以下、下水処理場排ガスの例を紹介する。
【0071】
下水処理場の汚泥を脱水機で脱水して、発生する排水を蒸留設備で蒸留する。必要ならさらに外部よりスチームあるいはスチームと窒素ガスを吹き込んで、水分およびアンモニアの蒸発を促進するための分離装置が設けられる。蒸留により分離されたアンモニアを含む水蒸気を分離槽にて水とアンモニアに分離し、排熱を回収する。その後、高濃度水分とアンモニアとを含む蒸気(アンモニア排ガス)を触媒反応装置に導入して、別途外部から必要量の空気を導入し、触媒に接触してアンモニアを窒素と水蒸気に分解し、無害化処理する。該プロセスの概要は、例えば特許文献特開2002−28637号公報に紹介されている。
【0072】
本発明の触媒は、活性汚泥処理からの排ガスの処理に好ましく適用される。該排ガスは水分濃度が20〜70容量%、硫黄化合物をS分として10〜200重量ppm、アンモニアを100容量ppm〜3容量%、残部は窒素であるような、触媒にとって過酷な組成を有する。すなわち本発明の触媒が特に有効な作用を発揮する排ガスは、アンモニア以外は、実質的に水蒸気と窒素を主体とするガスである。さらに硫黄化合物を含む排ガス中のアンモニア処理に対して、本発明の触媒は特に好ましく使用される。上記活性汚泥処理から排出される排ガスは一例であり、これに限定されるものではないことは言うまでもなく、これら以外に、空気を主成分とする通常のアンモニア排ガス処理にも使用されることは言うまでもない。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。しかし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0074】
(触媒の調製)
<触媒A−1>
蒸発皿の中でジニトロジアミン白金の水溶液(Pt濃度;4.5重量%)に、TiO粉末(石原産業社製、平均粒径1μm、BET比表面積;60m/g)を加え、TiO粉末中に水溶液を十分含浸させた。その後、温度80〜90℃で、攪拌しながら水分を蒸発させ、乾燥させた。その後、更に乾燥機中で150℃に加熱した。得られた粉末を空気中、500℃の温度で1時間焼成して、Pt(金属分として)が5.0重量%担持したTiO粒子(これをPt(5.0)/TiOと表示する。)を得た。この粉末と脱イオン水64.4gとを混ぜ合わせてスラリー状物とした。このスラリー状物とシリカゾル(日産化学工業製スノーテックスC)249gとCuイオン交換βゼオライト(クラリアント触媒製、以下「Cuβ」と表記することもある。)142.3gとを混ぜ合わせて、下層用スラリーを調製した。この下層用スラリーをコージライトハニカム200セル(セル数;200セル/平方インチ、たて50mm×横50mm×高さ50mm、容積;0.125リットル)の支持体に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、150℃の乾燥機にて4時間乾燥し、更に空気流通下の高温炉にて500℃にて4時間焼成し下層用触媒を得た。このときのPt量は触媒1リットル当り0.5g、Cuイオン交換βゼオライトの量は70gであった。
【0075】
次に85%リン酸溶液50gと脱イオン水500gを混ぜ合わせ、リン溶液を調製した。この溶液を前記下層用触媒に塗布し、余剰液をエアブローにて吹き飛ばした。その後、上記と同様に乾燥、焼成を実施し、下層触媒を得た。この時のリン担持量は触媒1リットル当り1.0gであった。
【0076】
次に、脱イオン水64.4gとシリカゾル(日産化学工業製スノーテックスC)249gとCuイオン交換βゼオライト(クラリアント触媒社製)142.3gとを混ぜ合わせて、上層用スラリー(Cuβスラリー)を調製した。このスラリーを下層触媒上に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、上記と同様に乾燥、焼成を実施し、二層構造の触媒A−1を得た。このときの上層のCuイオン交換βゼオライトの担持量は、触媒容積1リットル当り80gであった。
【0077】
<触媒A−2>
Pt量をPt(5.0)/TiOからPt(2.0)/TiOに変更し、それ以外は触媒A−1と同様に調製し、触媒A−2を得た。
【0078】
<触媒A−3>
上記触媒A−2のTiOをZrO(第一希元素製)に変更し、それ以外は触媒A−2と同様に調製し、触媒A−3を得た。
【0079】
<触媒A−4>
上記触媒A−2のTiOをCeZrO(第一希元素製)に変更し、それ以外は触媒A−2と同様に調製し、触媒A−4を得た。
【0080】
<触媒A−5、A−6>
上記触媒A−1の下層用スラリー中のCuイオン交換βゼオライトの含有量を減らし単位容積あたりの担持量を20g/リットル、40g/リットルとして触媒A−1と同様に調製しそれぞれ触媒A−5、A−6を得た。
【0081】
<触媒A−7、A−8>
上記触媒A−1の上層用スラリー(Cuβスラリー)の担持量を調整し、単位容積あたりの担持量を40g/リットル、120g/リットルとしてそれぞれ触媒A−7、触媒A−8を得た。
【0082】
<触媒D−1>
蒸発皿の中でジニトロジアミン白金の水溶液(Pt濃度;4.5重量%)に、TiO粉末(石原産業社製、平均粒径1μm、BET比表面積;60m/g)を加え、TiO粉末中に水溶液を十分含浸させた。その後、温度80〜90℃で、攪拌しながら水分を蒸発させ、乾燥させた。その後、更に乾燥機中で150℃に加熱した。得られた粉末を空気中、500℃の温度で1時間焼成して、Pt(金属分として)が5.0重量%担持したTiO粒子(これをPt(5.0)/TiOと表示する。)を得た。この粉末と脱イオン水64.4gとを混ぜ合わせてスラリー状物とした。このスラリー状物とシリカゾル(日産化学工業製スノーテックスC)249gとCuイオン交換SAPO−34ゼオライト(UOP社製、以下「CuSAPO」と表記することもある。)142.3gとを混ぜ合わせて、下層用スラリーを調製した。この下層用スラリーをコージライトハニカム200セル(セル数;200セル/平方インチ、たて50mm×横50mm×高さ50mm、容積;0.125リットル)の支持体に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、150℃の乾燥機にて4時間乾燥し、更に空気流通下の高温炉にて500℃にて4時間焼成し下層用触媒を得た。このときのPt量は触媒1リットル当り0.5g、Cuイオン交換SAPO−34ゼオライトの量は70gであった。
【0083】
次に85%リン酸溶液50gと脱イオン水500gを混ぜ合わせ、リン溶液を調製した。この溶液を前記下層用触媒に塗布し、余剰液をエアブローにて吹き飛ばした。その後、上記と同様に乾燥、焼成を実施し、下層触媒を得た。この時のリン担持量は触媒1リットル当り1.0gであった。
【0084】
次に、脱イオン水64.4gとシリカゾル(日産化学工業製スノーテックスC)249gとCuイオン交換SAPO−34ゼオライト(UOP社製)142.3gとを混ぜ合わせて、上層用スラリー(CuSAPOスラリー)を調製した。このスラリーを下層触媒上に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、上記と同様に乾燥、焼成を実施し、二層構造の触媒D−1を得た。このときの上層のCuイオン交換SAPO−34ゼオライトの担持量は、触媒容積1リットル当り80gであった。
【0085】
<比較触媒B−1>
Pt(5.0)/TiO粉末と脱イオン水とシリカゾルとを混ぜあわせスラリーを調製した。このスラリーをコージライトハニカム200セルの支持体に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、150℃の乾燥機にて4時間乾燥し、更に空気流通下の高温炉にて500℃にて4時間焼成し比較触媒B−1を得た。
【0086】
<比較触媒B−2>
Pt(5.0)/TiO粉末と脱イオン水とシリカゾルとCuイオン交換βゼオライトとを混ぜ合わせスラリーとした。このスラリーを、比較触媒B−1と同様にしてコージライト支持体に塗布し、乾燥焼成を行い比較触媒B−2を得た。
【0087】
<比較触媒B−3>
Pt(5.0)/TiO粉末と脱イオン水とシリカゾルとCuイオン交換βゼオライトとを混ぜ合わせスラリーとした。このスラリーを、比較触媒B−1と同様にコージライト支持体に塗布し乾燥焼成を行い、第1層触媒を得た。
【0088】
次に85%リン酸溶液50gと脱イオン水500gを混ぜ合わせ、リン溶液を調製した。この溶液を上記で作製した第1層触媒に塗布し、余剰液をエアブローにて吹き飛ばした。その後、上記と同様に乾燥、焼成し、比較触媒B−3を得た。
【0089】
<比較触媒B−4>
脱イオン水64.4gとシリカゾル(日産化学工業製スノーテックスC)249gとCuイオン交換βゼオライト(クラリアント触媒社製)142.3gとを混ぜ合わせて、スラリーを調製した。このスラリーを比較触媒B−2上に塗布し、余剰をエアブローにて吹き飛ばした。その後、上記と同様に乾燥、焼成を実施し、比較触媒B−4を得た。
【0090】
<比較触媒B−5>
前記比較触媒B−1上に上層用スラリー(Cuβスラリー)を塗布し、比較触媒B−4と同様に乾燥焼成を行い比較触媒B−5を得た。このとき、上層のCuイオン交換βゼオライトの担持量が触媒容積1リットル当り70gとなるように塗布量を調整した。
【0091】
比較触媒B−1は、Ptと酸化チタンを含む触媒である。比較触媒B−2は比較触媒B−1の成分にさらにCuイオン交換βゼオライトを加えた触媒である。比較触媒B−3は、比較触媒B−2にさらにリンを加えた触媒であり、特許文献8に相当する成分を含む触媒である。比較触媒B−4は、比較触媒B−2の触媒成分を含む触媒を下層とし、上層に本発明の上層と同一の成分を含む。比較触媒B−5は比較触媒B−1の触媒成分を含む触媒を下層とし、上層に本発明の上層と同一の成分を含む。
【0092】
<従来触媒C−4>
従来触媒C−4は、WO2006/006702号公報に記載の従来技術触媒(Pt=0.03;10−TiO;CuO=10;H−モルデナイトを含む触媒(触媒組成110g/リットル)である。
【0093】
表1に、各触媒の組成を示す(支持体は含まない)。
【0094】
【表1】
【0095】
<活性評価試験>
前記で得られたハニカム型触媒から円柱状(直径21mm、長さ50mm)のハニカム型触媒を採取し、これを流通式反応装置に充填した。マスフローコントローラーにより流量を制御して所定のガス量を流通した。電気炉にて触媒を加熱することで触媒入口の温度(入口温度)を所定の温度として、アンモニア分解活性を評価した。
ガス条件:
SV=10,000h−1、NH=1%、H0=30%、Airバランス
【0096】
<ガスの分析方法>
アンモニア: ガスクロマトグラフィー(TCD検出器)またはガス検知管
NOx: ケミルミネッセンス(化学発光式)分析装置
N2O: ガスクロマトグラフィー(TCD検出器)
【0097】
<計算>
NH分解率(%):100−{(出口 NH濃度)/ (入口NH濃度) × 100}
NO生成率(%):(出口NO濃度)/(入口NH濃度)× 100
O生成率(%):{(出口NO濃度) / (入口NH濃度)}x 100
選択率(%):100−{(100−NH分解率)+NO生成率+NO生成率×2}
【0098】
性能試験条件と性能測定結果を下記の表2に示す。
【0099】
【表2】
【0100】
表2の結果から明らかなように、比較触媒B−3の成分を下層とし、脱硝成分を含む上層とする本発明の触媒(A−1〜A−8)は、高水分(30%)を含むアンモニア排ガスに対して、高NH分解率を示すのみならず、NO生成率が0.6%以下を示し、NO生成率を抑制し、N選択率も顕著に高いことが分かる。また、上層および下層のゼオライト成分としてCuSAPOを含む本発明の触媒(D−1)も同様に高水分(30%)を含むアンモニア排ガスに対して、高NH分解率を示すのみならず、NO生成率が0.6%以下を示し、NO生成率を抑制し、N選択率も顕著に高いことが分かる。
【0101】
これに対し、本発明の下層のみに相当する比較触媒B−3は、NO生成率が1.80%と非常に高くN選択率も低い(図1参照)。このように、上層に脱硝成分(Cuイオン交換βゼオライト)を含む触媒を組み合わせたことにより、NO生成率が0.6%以下となり、NO生成率も抑制し、N選択率も顕著に高くなる予期できない効果を奏したことが分かる。また、比較触媒B−4〜B−5の結果は、NO生成率は低いが、NO生成率が相対的に高く、N選択率も相対的に低い。これらの結果から分かるように、上層に本発明と同様の脱硝成分(Cuイオン交換βゼオライト)を含む触媒を組み合わせても、下層に、貴金属、無機酸化物、リン、および第1のプロトン型ゼオライトまたはCu、CoもしくはFeイオンとイオン交換された第1のイオン交換型ゼオライトを含まなければ、所望の効果を示さない。
【0102】
<耐久性試験>
触媒A−1およびD−1を使用して耐久性試験を行った。評価試験は上記の活性評価試験と同様にして行った。入口温度をA−1においては340℃として、D−1においては250℃および340℃として試験を行った。ガス条件は、A−1においてはSV=5,000h−1、D−1においては10000h−1、NH=1%(10000ppm)、H0=30%、Airバランスである。試験期間は、13,000時間である。
【0103】
結果を、表3、ならびに図2および図3に示す。
【0104】
【表3】
【0105】
上記の結果から、A−1については8500時間経過後も、触媒の劣化はみられず、高NH分解率を示すのみならず、NO生成率が0.6%以下を示し、NO生成率を抑制し、N選択率も顕著に高く維持した。D−1については、入口温度250℃の場合、このような低い入口温度でも800時間経過後も触媒の劣化はみられず、高NH分解率を示すのみならず、NO生成率が0.6%以下を示した。また、入口温度340℃の場合、1000時間経過後も、触媒の劣化はみられず、高NH分解率を示すのみならず、NO生成率が0.6%以下を示し、NO生成率を抑制し、N選択率も顕著に高く維持した。
【0106】
<耐久性比較試験>
従来技術触媒(C−4:Pt=0.03;10−TiO;CuO=10;H−モルデナイトを含む触媒(触媒組成g/リットル))の耐久試験を行い、本発明の触媒(A−1)と比較した。評価試験は上記の活性評価試験と同様にして行った。入口温度340℃で試験を行った。ガス条件は、SV=5,000h−1)、NH=1%、H0=30%、Airバランスである。
【0107】
結果を図4および図5に示す。この結果から分かるように、比較触媒は、800時間後で、NH分解率の低下が始まり、その後、急速に低下が進行し、1200時間後では95%まで低下した。すなわち、比較触媒は、本発明A−1と比較して短時間で顕著に劣化した。
図1
図2
図3
図4
図5