特許第6402351号(P6402351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6402351調節可能な移動性を有するプローブと結合された支持型脂質二重層を含む人工細胞膜及びそれを用いて分子間の相互作用を分析する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402351
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】調節可能な移動性を有するプローブと結合された支持型脂質二重層を含む人工細胞膜及びそれを用いて分子間の相互作用を分析する方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/34 20060101AFI20181001BHJP
   G01N 33/544 20060101ALI20181001BHJP
   G01N 33/553 20060101ALI20181001BHJP
   G01N 21/41 20060101ALI20181001BHJP
   C12Q 1/6834 20180101ALI20181001BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20181001BHJP
   C07K 17/14 20060101ALN20181001BHJP
【FI】
   C12M1/34 ZZNA
   G01N33/544 Z
   G01N33/553
   G01N21/41 101
   C12Q1/6834 Z
   !C12N15/11 Z
   !C07K17/14
【請求項の数】24
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2016-544842(P2016-544842)
(86)(22)【出願日】2015年1月6日
(65)【公表番号】特表2017-503502(P2017-503502A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】KR2015000121
(87)【国際公開番号】WO2015102475
(87)【国際公開日】20150709
【審査請求日】2016年8月29日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0001466
(32)【優先日】2014年1月6日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513246872
【氏名又は名称】ソウル大学校産学協力団
【氏名又は名称原語表記】SEOUL NATIONAL UNIVERSITY R&DB FOUNDATION
(73)【特許権者】
【識別番号】517029484
【氏名又は名称】バイオナノ ヘルス ガード リサーチ センター
【氏名又は名称原語表記】BIONANO HEALTH GUARD RESEARCH CENTER
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ナム、ジャ ミン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヨン グァン
(72)【発明者】
【氏名】キム、スンギ
【審査官】 吉田 知美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/122259(WO,A1)
【文献】 特表2009−512696(JP,A)
【文献】 特表2005−538377(JP,A)
【文献】 PNAS,2007年,104 (48),p.18913-18918
【文献】 Soft Matter,2009年,5,p.2804-2814
【文献】 Soft Matter,2012年,8,p.4462-4470
【文献】 Anal. Chem.,2009年,81,p.2564-2568
【文献】 J. Phys. Chem. B,2005年,109,p.9773-9779
【文献】 Langmuir,2006年,22 (13),p.5682-5689
【文献】 Langmuir,2006年,22,p.2384-2391
【文献】 J. Am. Chem. Soc.,2014年 2月12日,136,p.4081-4088
【文献】 Nanoscale,2015年,7,p.66-76,[published on 2014.10.23]
【文献】 Chem. Phys. Chem.,2015年,16,p.77-84,[published on 2014.10.24]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/34
C12Q 1/6834
G01N 33/544
G01N 33/553
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/WPIDS/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材及び前記基材上に配置された支持型脂質二重層(supported lipid bilayer;SLB)を含む人工細胞膜(artificial cell membrane)において、
前記支持型脂質二重層は、脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能であり、第1のリガンドが結合された第1の脂質と、前記第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合された第3の脂質とを含み、
前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを100〜100,000個/μm以上の密度で含む第1の金属粒子前記第1のリガンドと前記第2のリガンドの結合を通じて2つ以上の前記第1の脂質と結合し、平均0〜0.5×10−8cm/secまで前記支持型脂質二重層での前記第1の金属粒子の移動性が減少し
前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子は、前記第3のリガンドと前記第4のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第3の脂質と結合し、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記第1の金属粒子に比べて前記第2の金属粒子は前記支持型脂質二重層での移動性が大きいことを特徴とする人工細胞膜。
【請求項2】
前記第1のリガンド及び前記第2のリガンドは、それぞれ独立して抗原、抗体、リガンド、受容体、キレート、DNA、RNA、アプタマー、互いに特異的に結合する化学分子、及びこれらの組み合わせで構成された群から選択されるものである、請求項1に記載の人工細胞膜。
【請求項3】
前記第2のリガンドは、チオール基を含み前記チオール基を通じて第1の金属粒子に共有結合されたものである、請求項1に記載の人工細胞膜。
【請求項4】
前記第1の金属粒子は、前記第1のリガンドと前記第2のリガンドとの間の抗原−抗体結合、リガンド−受容体結合、核酸混成化、キレート結合、共有結合または静電結合により脂質に結合されたものある、請求項1に記載の人工細胞膜。
【請求項5】
前記第1の金属粒子は、粒子の大きさまたは形態に応じて固有の波長でプラズモン散乱を発生するものである、請求項1に記載の人工細胞膜。
【請求項6】
前記第1のリガンドが結合された前記第1の脂質を前記支持型脂質二重層の全脂質に対して0.05〜0.5モル%で含まれるものである、請求項1に記載の人工細胞膜。
【請求項7】
前記支持型脂質二重層の全脂質に対して1〜10モル%のポリエチレングリコールが結合された第2の脂質をさらに含むものである、請求項1に記載の人工細胞膜。
【請求項8】
前記ポリエチレングリコールの平均分子量は、500〜2000である、請求項7に記載の人工細胞膜。
【請求項9】
人工細胞膜を利用してA分子とB分子の相互作用を確認するための分析装置であって、
前記第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合された第3の脂質を前記支持型脂質二重層が含む請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の人工細胞膜と、
前記人工細胞膜中の前記第1の金属粒子の表面上に結合されたA分子と、
前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子であって、前記第3のリガンドと前記第4のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第3の脂質と結合するとともに、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記支持型脂質二重層の移動性が前記第1の金属粒子に比べて大きい第2の金属粒子と、
前記人工細胞膜中の前記第2の金属粒子の表面上に結合されたB分子を含み、
移動性が大きい前記第2の金属粒子が前記第1の金属粒子に接近して、前記A分子と前記B分子の相互作用により、前記第2の金属粒子が前記第1の金属粒子に拘束されることを特徴とする分析装置。
【請求項10】
前記A分子及び前記B分子は、それぞれ独立してDNA、RNA、抗原、抗体、リガンド、キレート、受容体、アプタマー、ポリマー、有機化合物、金属イオン及びポリペプチドで構成された群から選択される、請求項9に記載の分析装置。
【請求項11】
前記A分子と前記B分子の相互作用は、抗原−抗体結合、リガンド−受容体結合、核酸混成化、キレート結合、共有結合、及び静電結合で構成された群から選択される、請求項9に記載の分析装置。
【請求項12】
前記第1の金属粒子は、前記支持型脂質二重層上に固定され、前記第2の金属粒子は、前記A分子と前記B分子の間に相互作用がない場合前記支持型脂質二重層上で2次元的自由ブラウン運動(2-dimensional brownian motion)が可能であることを特徴とする、請求項9に記載の分析装置。
【請求項13】
請求項9に記載の分析装置を用いて、前記A分子と前記B分子の相互作用を確認する、方法。
【請求項14】
前記第1の金属粒子の位置及び前記第1の金属粒子による散乱強度または波長の変化をモニタリングすることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第2の金属粒子のリアルタイム移動軌跡または速度、または前記第2の金属粒子による信号の強度または波長の変化をモニタリングすることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記モニタリングは、前記第1の金属粒子のプラズモン散乱を測定することにより達成される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記モニタリングは、前記第2の金属粒子のプラズモン散乱を測定することにより達成される、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
さらに、特定の方向に力を加えて粒子の密度を高め、粒子間の衝突頻度を増加させることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
人工細胞膜上でA分子が結合された第1の金属粒子とB分子が結合された第2の金属粒子のプラズモン散乱信号から前記第1の金属粒子と前記第2の金属粒子との間の距離を確認して前記A分子と前記B分子の結合有無を確認するための分析キットであって
基材と、支持型脂質二重層と、前記支持型脂質二重層中の一部分としての第1の脂質及び第3の脂質とを含む人工細胞膜であって、前記支持型脂質二重層は、前記基材上に配置され脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能であり、前記第1の脂質には第1のリガンドが結合され、前記第3の脂質には前記第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合されている、人工細胞膜と、
前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを含む第1の金属粒子であって、前記第1のリガンドと前記第2のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第1の脂質と結合可能な第1の金属粒子と、
前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子であって、前記第3のリガンドと前記第4のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第3の脂質と結合可能であるとともに、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記支持型脂質二重層での移動性が前記第1の金属粒子に比べて大きい第2の金属粒子
を含むことを特徴とする分析キット。
【請求項20】
A分子及びB分子と結合可能な標的物質の定性的または定量的分析のためのキットにおいて、
前記キットは、人工細胞膜上でA分子が結合された第1の金属粒子とB分子が結合された第2の金属粒子のプラズモン散乱信号から前記第1の金属粒子と前記第2の金属粒子との間の距離を確認し、前記標的物質を通じた前記A分子と前記B分子の結合の有無を確認するためのものであり、
基材と、支持型脂質二重層と、前記支持型脂質二重層中の一部分としての第1の脂質及び第3の脂質とを含む人工細胞膜であって、前記支持型脂質二重層は、前記基材上に配置され脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能であり、前記第1の脂質には第1のリガンドが結合され、前記第3の脂質には前記第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合されている、人工細胞膜と、
前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを含む第1の金属粒子であって、前記第1のリガンドと前記第2のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第1の脂質と結合可能な第1の金属粒子と、
前記第1の金属粒子の表面上に結合され、前記標的物質の一部に特異的に結合するA分子と、
前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子であって、前記第3のリガンドと前記第4のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第3脂質と結合可能であるとともに、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記支持型脂質二重層での移動性が前記第1の金属粒子に比べて大きい第2の金属粒子と、
前記人工細胞膜中の前記第2の金属粒子の表面上に結合され、前記標的物質の前記A分子と結合しない他の部分に特異的に結合するB分子
を含むことを特徴とするキット。
【請求項21】
前記標的物質、前記A分子、前記B分子、前記第1のリガンド及び前記第2のリガンドは、それぞれ独立して抗原、抗体、リガンド、受容体、キレート、DNA、RNA、アプタマー、互いに特異的に結合する化学分子及びこれらの組み合わせで構成された群から選択されるものである、請求項20に記載のキット。
【請求項22】
前記第1の金属粒子は、前記支持型脂質二重層上に固定され、前記第2の金属粒子は、前記標的物質を通じた前記A分子と前記B分子の結合がない場合前記支持型脂質二重層上で2次元的自由ブラウン運動(2-dimensional brownian motion)が可能であることを特徴とする、請求項20に記載のキット。
【請求項23】
前記標的物質が存在する場合、前記A分子及び前記B分子と前記標的物質の結合により移動性が大きい前記第2の金属粒子が前記第1の金属粒子に接近して発生する前記第1の金属粒子の位置でプラズモン散乱信号の強度、波長、またはその両方の変化を測定するものである、請求項22に記載のキット。
【請求項24】
プラズモン散乱測定によるimax×mmax個の標的物質の定性的または定量的分析のための多重分析キット(iは1〜imaxの整数であり、mは1〜mmaxの整数であり、max及びmmaxはそれぞれ独立して1以上の整数であり、imax=mmax=1を除く)であって
前記多重分析キットは、
基材と、支持型脂質二重層と、前記支持型脂質二重層中の一部分としての第I脂質及び第M脂質とを含む人工細胞膜であって、前記支持型脂質二重層は、前記基材上に配置され脂質の一部または全部が二重層内で位置を移動可能であり、前記第I脂質には第Iリガンドが結合され、第M脂質には第Mリガンドが結合されている、人工細胞膜(ここで、前記第Iリガンド及び前記第Mリガンドは互に同一または異なってもよい)と、
前記第Iリガンドに特異的に結合する、第I’リガンドを含む第I金属粒子であって、前記第Iリガンドと前記第I’リガンドの相互作用により1つ以上の前記第I脂質と結合する第I金属粒子と、
前記第I金属粒子の表面上に結合され、前記標的物質の一部に特異的に結合するA分子と、
前記第Mリガンドに特異的に結合する第M’リガンドを含む第Mの金属粒子であって、前記第Mリガンドと前記第M’リガンドの相互作用により1つ以上の前記第M脂質と結合するとともに、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記支持型脂質二重層での移動性が前記第I金属粒子に比べて大きい第Mの金属粒子と、
前記人工細胞膜中の前記第Mの金属粒子の表面上に結合され、前記標的物質の前記分子と結合しない他の部分に特異的に結合するB分子を含み、
前記一連の第I金属粒子らは、互いに異なるプラズモン散乱波長を有し、一連の第Mの金属粒子らも互いに異なるプラズモン散乱波長を有するものである、多重分析キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材及び前記基材上に、移動性が減少した金属粒子が結合された支持型脂質二重層(supported lipid bilayer;SLB)を含む人工細胞膜(artificial cell membrane);前記人工細胞膜を含む分子間の相互作用を確認するための分析装置またはキットにおいて、一つの分子は、前記人工細胞膜に結合された移動性が減少した金属粒子の表面に結合され、他の分子は、低い結合価で脂質に結合された移動性が大きい金属粒子の表面に結合されたことを特徴とする分析装置;前記分析装置を用いて、分子間の相互作用を確認する方法;プラズモン散乱測定による前記人工細胞膜を含む標的物質の定量的または定性的分析用キット;及び異なるプラズモン散乱波長及び/または支持型脂質二重層上での移動性を有する複数の金属粒子を利用して複数の標的物質を検出することができる多重分析キットに関する。
【背景技術】
【0002】
単一ナノ粒子解像度(single-nanoparticle-resolution)の本来の場所(in situ)の測定は、動的な、個々のナノ粒子の時間依存的スナップショットを提供し、したがって、ナノ粒子間の不均一な相互作用を明らかにし、アンサンブルから区別することができる。このような接近法は、コロイドナノ結晶成長に関する直接的かつ詳細な情報と組立機構(assembly mechanism)及び反応速度論(reaction kinetics)を究明する。しかし、電子顕微鏡を含む既存の高解像度映像化方法は、一般的に本来の場所の情報なしに構造の静的な情報を提供し、複雑な装置及び極限の条件(例えば、真空)における過程を要求する。このような理由から、分子間相互作用に対する動力学的情報の収集には、蛍光体ベースの単一分子レベルでの光学映像化(fluorophore-based single-molecule-level optical imaging)及び分析方法が主に用いられる。しかし、これらの方法は、蛍光体が点滅(blinking)であり、漂白(bleaching)するという問題がある。また、蛍光標識を有する種々の成分の短い範囲内での分子の相互作用を識別することは非常に困難である。蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer)を利用する際にも測定可能な距離は10nmに制限され、種々の成分を含むシステムに対する解釈は難解になる。これは、分子間及びナノ粒子間の相互作用のリアルタイム研究及び多くの分析物に対して再現可能であり、信頼性の高い定量データの取得において重要な問題である。これらの既存の高解像度光学分析法における他の重要な問題は、調整不可能な3次元的な動きと光学的にすべての関心物体を追跡することが不可能であるため、ダイナミックに動く物体を溶液状態で個別にかつ信頼できるように分析して研究することができないという事実である。一方、高解像度の光学分析のために、これらの物体を表面に固定した場合、これらの物体の動的挙動を研究することができないことを考慮しなければならない。このようなすべての理由により、単一粒子感受性(single-particle sensitivity)により自由に動くナノ粒子間の相互作用の本来の場所の映像化及び分析の方法を開発することは非常に有用である。相互作用する粒子の研究から、より信頼性の高い情報を得て、新たな原則を誘導するために、単一粒子レベルの定量データにより多重反応位置から相互作用を同時に追跡する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明者らは、粒子の自由な動きを確保しながら、2次元平面上で粒子間の相互作用を高解像度で観察できる方法を見出すために鋭意研究努力した結果、支持型脂質二重層(supported lipid bilayer;SLB)上にストレプトアビジン−ビオチン結合を通じて導入した金属粒子は、粒子上のビオチン結合価を調節することにより、粒子の流動性を調整することができ、前記金属粒子の表面に導入された相補的な配列のDNA鎖の相互作用による粒子間の相互作用に対する反応動力学を、単一粒子レベルの高解像度で追跡及び分析することができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様は、基材及び前記基材上に配置された支持型脂質二重層(supported lipid bilayer;SLB)を含む人工細胞膜(artificial cell membrane)において、前記支持型脂質二重層は、脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能であり、第1のリガンドが結合された第1の脂質と、前記第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合された第3の脂質とを含み、前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを100〜100,000個/μm以上の密度で含む第1の金属粒子前記第1のリガンドと前記第2のリガンドの結合を通じて2つ以上の前記第1の脂質と結合し、平均0〜0.5×10−8cm/secまで前記支持型脂質二重層での前記第1の金属粒子の移動性が減少し、前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子は、前記第3のリガンドと前記第4のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第3の脂質と結合し、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記第1の金属粒子に比べて前記第2の金属粒子は前記支持型脂質二重層内での移動性が大きいことを特徴とする人工細胞膜を提供する。
【0005】
本発明の第2の態様は、人工細胞膜を利用してA分子とB分子の相互作用を確認するための分析装置において、前記第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合された第3の脂質を前記支持型脂質二重層が含む前記第1の態様による人工細胞膜と、前記人工細胞膜中の前記第1の金属粒子の表面上に結合されたA分子と、前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子であり、前記第3のリガンドと前記第4のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第3の脂質と結合するとともに、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記支持型脂質二重層の移動性が前記第1の金属粒子に比べて大きい第2の金属粒子と、前記人工細胞膜中の前記第2の金属粒子の表面上に結合されたB分子を含み、移動性が大きい前記第2の金属粒子が前記第1の金属粒子に接近して、前記A分子と前記B分子の相互作用により、前記第2の金属粒子が前記第1の金属粒子に拘束されることを特徴とする分析装置を提供する。
【0006】
本発明の第3の態様は、前記第2の態様に応じた分析装置を用いて、前記A分子と前記B分子の相互作用を確認する方法を提供する。
本発明の第4の態様は、人工細胞膜上でA分子が結合された第1の金属粒子とB分子が結合された第2の金属粒子のプラズモン散乱信号から前記第1の金属粒子と前記第2の金属粒子との間の距離を確認して前記A分子と前記B分子の結合有無を確認するための分析キットにおいて、基材と、支持型脂質二重層と、前記支持型脂質二重層中の一部分としての第1の脂質及び第3の脂質とを含む人工細胞膜であって、前記支持型脂質二重層は、前記基材上に配置され脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能であり、前記第1の脂質には第1のリガンドが結合され、前記第3の脂質には前記第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合されている人工細胞膜と、前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを含む第1の金属粒子であって、前記第1のリガンドと前記第2のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第1の脂質と結合可能な第1の金属粒子と、前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子であって、前記第3のリガンドと前記第4のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第3の脂質と結合可能であるとともに、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記支持型脂質二重層での移動性が前記第1の金属粒子に比べて大きい第2の金属粒子を含むことを特徴とする分析キットを提供する。
【0007】
本発明の第5の態様は、A分子及びB分子と結合可能な標的物質の定性的または定量的分析のためのキットにおいて、前記キットは、人工細胞膜上でA分子が結合された第1の金属粒子とB分子が結合された第2の金属粒子のプラズモン散乱信号から前記第1の金属粒子と前記第2の金属粒子との間の距離を確認し、前記標的物質を通じた前記A分子と前記B分子の結合有無を確認するためのものであり、基材と、支持型脂質二重層と、前記支持型脂質二重層中の一部分としての第1の脂質及び第3の脂質とを含む人工細胞膜であって、前記支持型脂質二重層は、前記基材上に配置され脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能であり、前記第1の脂質には前記第1のリガンドが結合され、前記第3の脂質には前記第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合されている人工細胞膜と、前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを含む第1の金属粒子であって、前記第1のリガンドと前記第2のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第1の脂質と結合可能な第1の金属粒子と、前記第1の金属粒子の表面上に結合され、前記標的物質の一部に特異的に結合するA分子と、前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子であって、前記第3のリガンドと前記第4のリガンドの相互作用により1つ以上の前記第3の脂質と結合可能であるとともに、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記支持型脂質二重層での移動性が前記第1の金属粒子に比べて大きい第2の金属粒子と、前記人工細胞膜中の前記第2の金属粒子の表面上に結合され、前記標的物質の前記A分子と結合していない他の部分に特異的に結合するB分子を含むことを特徴とするキットを提供する。
【0008】
本発明の第6の態様は、プラズモン散乱測定によるimax×mmax個の標的物質の定性的または定量的分析のための多重分析キット(iは1〜imaxの整数であり、mは1〜mmaxの整数であり、max及びmmaxはそれぞれ独立して1以上の整数であり、imax=mmax=1を除く)であって、前記多重分析キットは、基材と、支持型脂質二重層と、前記支持型脂質二重層中の一部分としての第I脂質及び第M脂質とを含む人工細胞膜であって、前記支持型脂質二重層は、前記基材上に配置され脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能であり、前記第I脂質には第Iリガンドが結合され、第M脂質には第Mリガンドが結合されている人工細胞膜(ここで、前記第Iリガンド及び前記第Mリガンドは互に同一または異なってもよい)と、前記第Iリガンドに特異的に結合する第I’リガンドを含む第I金属粒子であって、前記第Iリガンドと前記第I’リガンドの相互作用により1つ以上の前記第I脂質と結合する第I金属粒子と、前記第I、金属粒子の表面上に結合され、前記標的物質の一部に特異的に結合するA分子と、前記第M脂質リガンドに特異的に結合する第M’ガンドを含む第Mの金属粒子であって、前記第Mリガンドと前記第M’リガンドの相互作用により1つ以上の前記第M脂質と結合するとともに、金属粒子に結合されたリガンドの数を調節することにより、前記支持型脂質二重層での移動性が前記第I金属粒子に比べて大きい第Mの金属粒子と、前記人工細胞膜中の前記第Mの金属粒子の表面上に結合され、前記標的物質の前記の分子と結合していない他の部分に特異的に結合するB分子を含み、前記一連の第I金属粒子らは、互いに異なるプラズモン散乱波長を有し、一連の第Mの金属粒子らも互いに異なるプラズモン散乱波長を有するものである、多重分析キットを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属粒子が結合された支持型脂質二重層を含む人工細胞膜は、金属粒子上に結合されたリガンドの数を調節することにより、脂質上で金属粒子の移動性を調節することができ、したがって、移動性が異なる2つの金属粒子上に相互作用を分析しようとする標的分子をそれぞれ導入して前記人工細胞膜上に導入することにより、プラズモン散乱により金属粒子の動きをモニタリングして標的分子間の相互作用を分析することができる。この時、本発明の人工細胞膜とプラズモン散乱波長または脂質上で移動性が異なる複数の粒子を使用して複数の標的物質を同時に検出及び定量する多重分析が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】PNP(plasmon nanoparticle)プローブ上のビオチン化されたDNA配列の平均数を支持型脂質二重層(supported lipid bilayer;SLB)結合配列のモル分率に対する関数で示した図である。独立して準備した3つの異なる試料に対する値を平均した。0.00125〜0.0625の範囲の実験値から線形フィット(linear fit)を計算した。
図2】SLB上でPNPプローブの拡散動力学に対するビオチン結合価の効果を示した図である。(a)は、対応するPNPの平均二乗移動(mean square displacement)を時間間隔の関数で表し、(b)は、SLB上でプラズモンプローブの平均拡散係数(average diffusion coefficient)を示す。
図3】ビオチン結合価の変化による拡散係数の分布を示した図である。(a)〜(d)でプローブ当りビオチン結合価はそれぞれ(a)1、(b)5、(c)25及び(d)128である。
図4】SLB上に導入されたPNPプローブのイメージを示した図である。(a)は、STV−コーティングされたSLB上の486のビオチン結合価を有するI−PNPの暗視野顕微鏡イメージである。(b)は、I−PNP−改質されたSLB上のCy3−改質されたSTVの蛍光顕微鏡イメージである。スケールバーは10μmである。
図5】PNPクラスタの散乱強度分布をクラスタリング程度に対する関数で示した図である。(a)は単量体、(b)は二量体、(c)は三量体及び(d)は四量体に対する結果である。
図6】SLB上に動力学的に結合されたナノ粒子間の相互作用を示した概略図である。二つの異なる形態のプローブ(移動及び固定プラズモンプローブ;左側)を含むプラズモンナノプローブ結合されたSLBと標的DNA混成化−誘導2Dクラスタの形成及びプラズモンカップリング(右側)を概略的に示した図である。
図7】SLB上に動力学的に結合されたナノ粒子の単一ナノ粒子の解像度の本来の場所の映像化及び分析方法を示した概略図である。(a)及び(b)は、単一ナノ粒子の解像度を有する暗視野顕微鏡を用いたSLB−結合されたプラズモンナノプローブの超並列本来の場所の観察(massively parallel in situ observation)及び分析方法を示した図である(スケールバー=10μm)。(c)の右側は、単一のプラズモンナノプローブの散乱強度及び色のスペクトルの暗視野顕微鏡イメージ−ベースの分析を示した図である。
図8】SLB上で相互作用するプラズモンナノ粒子の拡散動力学の調節及び光学分析の結果を示した図である。(a)は、ビオチン結合価に基づくナノ粒子の移動性の調節(増加する結合価は、より低い移動性を誘導する)を、(b)は、プラズモンナノ粒子の代表的な拡散軌跡(diffusion trajectories)を、そして(c)は、ビオチン結合価の関数としての移動割合(mobile fraction)を示した図である。
図9】粒子の非特異的相互作用を分析したものであり、(a)標的DNA配列不在時に固定されたプラズモンプローブの位置に対する散乱強度の変化の時間追跡(time trace)及び(b)、これを概略的に示した図である。
図10】(a)は、標的DNA混成化−誘導プラズモンナノ粒子クラスターの暗視野顕微鏡イメージを示した図である。固定されたプローブの位置内(白色点線円)に捕獲された移動プローブの15段階の軌跡を白色実線で強調し、灰色の矢印は、各軌跡の開始位置を示す。各軌跡段階に対する時間間隔(time interval)は0.188 sである。(b)は、プローブクラスタの暗視野顕微鏡イメージで緑色に対する赤色の比をクラスタ当りプローブ数の関数で示した図である(R=0.970)。(c)は、ナノ粒子クラスターの組み立て(assembly;上部)及び分解(disassembly;下部)過程に対する散乱強度の代表的な時間追跡を示した図である。
図11】M−PNPペアで修飾されたSLBで単量体PNP付着及びPNPクラスタ間の融合の組み合わせを通じたクラスタの成長を示した図である。(a)は、互いに接近する二つの単量体PNPを、(b)は、二つのPNP単量体の遠距離光学的重畳を、(c)は、DNA混成化−媒介されたPNP二量体の形成及びその結果としてのプラズモンカップリングを、(d)は、互いに接近するPNP二量体及びPNP三量体を、最後に(e)は、PNP二量体及びPNP三量体間の融合を示す。
図12】プラズモンナノ粒子クラスターの成長動力学に対する本来の場所の映像化及び分析の結果を示した図である。(a)は、広いSLB表面積でナノ粒子プローブのDNA混成化−誘導プラズモンカップリングの超並列の本来の場所のモニタリングを示した図である。左側のイメージは、30nmの標的DNA配列添加後、330秒で得た。標的DNA配列添加前(0s)及び後(330s)白色点線領域の拡大されたイメージを示した。(b)は、(a)の暗視野顕微鏡イメージにアルファベットで示した10個の個別のナノ粒子のクラスタリング反応に対する時間−依存的散乱強度を示したグラフである。散乱強度は、単量体プローブの平均強度(average intensity)に対して標準化した。信号は、330秒間毎1秒ごとに記録した。
図13】プラズモンナノ粒子クラスターの成長動力学及びそのイメージを示した図である。(a)は、30nMの標的DNA配列添加時(空円)、プラズモンクラスタ成長に対する反応速度を示した図である。それぞれの単一のプローブ追加の反応を成長するクラスタの散乱強度の段階的な増加をモニタリングして検出した(N=150粒子)。クラスタの形成速度は、3段階の連続反応モデル(実線)に対して最適化した。(b)は、クラスタ化されたプラズモンナノプローブの透過電子顕微鏡像を示す図である。
図14】プラズモンプローブを順次添加して二量体から三量体または三量体から四量体を形成する場合、2D立体障害因子(steric hindrance factor)の計算方法を示した図である。灰色の領域(扇形)は、次の粒子の添加のための可能な接近角を示す。四量体の形成において、立体障害因子を3番目の粒子(挿図の黒実線)の相対的な位置により決定されるθの関数で示した。平均ftriは0.375である(灰色点線)。
図15】SLB上でプラズモンカップリングに基づいた定量的なDNA検出アッセイを示した図である。(a)は、散乱強度校正標準(calibration standard)を、クラスタ内のプラズモンプローブ数の関数で示した図である(R=0.999)。(b)は、300fMの標的DNAと4時間反応させたPNP−改質されたパターン化されたSLBを示した図である。(c)は、標的DNAのアッセイ結果をDNA濃度の関数でプロットした図である(黒色ドット)。単一塩基ミスマッチDNA配列に対するアッセイ結果を灰色のドットで表示した。
図16】流体を利用したパターン化されたSLB上に導入された金属ナノ粒子の運動性の調節を通じたナノ粒子間の相互作用の調節方法を概略的に示した図である。
図17】流体の流れによるSLB上に導入されたナノ粒子の移動性を示した図である。(a)は、流体の流れの速度に基づくナノ粒子の移動軌跡を示した図であり、(b)は、前記ナノ粒子の運動速度を示した図である。
図18】流体の流れによるSLB上に導入されたナノ粒子の移動性を示した図である。(a)と(b)は、それぞれパターン化されたSLB表面にいて流体の流れにより移動濃縮される金ナノ粒子と銀ナノ粒子の暗視野顕微鏡イメージを示す。
図19】金ナノ粒子に対するパターン化されたSLBで流体の流れにより濃縮された金属ナノ粒子の散乱スペクトルの変化を示した図である。(a)は、多様な塩(NaCl)の濃度下での散乱スペクトルを、(b)は、暗視野顕微鏡イメージを、そして(c)は、プラズモン散乱ピークとゼータ電位の変化を示す。
図20】銀ナノ粒子に対するパターン化されたSLBで流体の流れにより濃縮された金属ナノ粒子の散乱スペクトルの変化を示した図である。(a)は、多様な塩(NaCl)の濃度下での散乱スペクトルを、(b)は、暗視野顕微鏡イメージを、そして(c)は、プラズモン散乱ピークとゼータ電位の変化を示す。
図21】ナノ粒子が導入された人工細胞膜ベースの細胞インタフェースのプラットフォームを利用した細胞のシグナル伝達機構解析方法を示す概略図である。
図22】それぞれ異なる色を帯びるように、異なる大きさと形状で製造されたそれぞれのナノ粒子の暗視野顕微鏡及び電子顕微鏡イメージ及びこれらの吸収/散乱スペクトルを示した図である。
図23a】支持型脂質二重層上にそれぞれ固定されるように、または自由に移動可能であるように結合価を調節して製造した3色の金属粒子の9つの可能な組み合わせを示した図である。
図23b】一実施例による9種のmiRNAの同時検出のために固定された3色の金属粒子及び自由に移動可能な3色の金属粒子から選択される、各標的分子に特異的に結合する粒子ペアを示した図である。
図23c】3色の金属粒子を用いた多重分析の例であり、それぞれ異なる時点(0分及び60分)での暗視野顕微鏡イメージを示した図である。
図23d】3色の金属粒子を用いた9種のmiRNAの同時検出を通じた時間に応じた各標的物質の累積結合の数を示す図である。
図24a】固定された赤色ナノ粒子及びこれと相互作用する移動可能な赤色ナノ粒子による暗視野顕微鏡イメージ及び前記固定された赤色ナノ粒子の位置で三色プラズモン散乱スペクトルの経時強度の変化を示した図である。
図24b】固定された緑色ナノ粒子及びこれと相互作用する1つ以上の移動可能な赤色ナノ粒子による暗視野顕微鏡イメージ及び前記固定された緑色ナノ粒子の位置で三色プラズモン散乱スペクトルの経時強度の変化を示した図である。
図24c】固定された青色ナノ粒子及びこれと相互作用する1つ以上の移動可能な赤色ナノ粒子による暗視野顕微鏡イメージ及び前記固定された青色ナノ粒子の位置で三色プラズモン散乱スペクトルの経時強度の変化を示した図である。
図25a】固定された赤色ナノ粒子及びこれと相互作用する1つ以上の移動可能な緑色ナノ粒子による暗視野顕微鏡イメージ及び前記固定された赤色ナノ粒子の位置で三色プラズモン散乱スペクトルの経時強度の変化を示した図である。
図25b】固定された緑色ナノ粒子及びこれと相互作用する1つ以上の移動可能な緑色ナノ粒子による暗視野顕微鏡イメージ及び前記固定された緑色ナノ粒子の位置で三色プラズモン散乱スペクトルの経時強度の変化を示した図である。
図26a】固定された赤色ナノ粒子及びこれと相互作用する1つ以上の移動可能な青色ナノ粒子による暗視野顕微鏡イメージ及び前記固定された赤色ナノ粒子の位置で三色プラズモン散乱スペクトルの経時強度の変化を示した図である。
図26b】固定された緑色ナノ粒子及びこれと相互作用する1つ以上の移動可能な青色ナノ粒子による暗視野顕微鏡イメージ及び前記固定された緑色ナノ粒子の位置で三色プラズモン散乱スペクトルの経時強度の変化を示した図である。
図26c】固定された青色ナノ粒子及びこれと相互作用する1つ以上の移動可能な青色ナノ粒子による暗視野顕微鏡イメージ及び前記固定された青色ナノ粒子の位置で三色プラズモン散乱スペクトルの経時強度の変化を示した図である。
図27】暗視野顕微鏡を用いて前記それぞれのカラー(それぞれ異なるプラズモン散乱波長)を有する、及び/または移動度を有する複数の粒子の挙動及びそのモニタリング過程を概略的に示した図である。
図28】相補的配列認識によるmiRNAの検出の例(miR−21)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、基材及び前記基材上に配置された支持型脂質二重層(supported lipid bilayer;SLB)を含む人工細胞膜(artificial cell membrane)において、前記支持型脂質二重層は、脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能であり、第1のリガンドが結合された第1の脂質を含み、前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを100〜100,000個/μm以上の密度で含む第1の金属粒子が、第1のリガンドと第2のリガンドの結合を通じて2つ以上の第1の脂質と結合し、平均0〜0.5×10−8cm/secで支持型脂質二重層内の移動性が減少したことを特徴とする人工細胞膜を提供する。より好ましくは、前記人工細胞膜上に導入された第1の粒子は、支持体、脂質二重層内の移動が0〜0.1×10−8cm/secで、より好ましくは、顕微鏡下で検出不可能なレベルである0〜0.01×10−8cm/secで減少したものであってもよい。前記移動性が0である場合は、完全に停止された状態を示す。
【0013】
本発明の用語、「基材(substrate)」とは、脂質二重層を支持することができる支持体であり、一定の形態を有する固体であってもよい。好ましくは、ガラス、金、銀、白金、TiO等の透明固体基板;ポリメチルメタクリレート(poly(methyl methacrylate);PMMA)などのアクリル系ポリマー(Acrylic polymers);ポリエチレン(polyethylene;PE)、ポリプロピレン(polypropylene;PP)、ポリスチレン(polystyrene)、ポリエーテルスルホン(Polyethersulfone;PES)、ポリシクロオレフィン(Polycycloolefin;PCO)、ポリウレタン(polyiourethane)またはポリカーボネート(polycarbonate;PC)のような透明な固体であってもよい。またはコーティング膜上に導入された脂質二重層が流動性を維持することができる限り、セルロースのように水和することができるコーティング剤を基板にコーティングして使用することもできる。
【0014】
本発明の用語、「支持型脂質二重層(supported lipid bilayer)」とは、自然な細胞膜または核のような準細胞構造物を囲む二重層に対する試験管内で組み立てられた二重層であってもよく、合成または天然脂質で構成される、モデル脂質二重層の一種であり、固体基材に固定されて(anchored)増加した安定性を有し、したがって、バルク溶液では不可能な、特性化ツール(characterization tools)として使用することができる。脂質二重層が閉じたシェルで円形で結合されたビークルや細胞膜とは異なり、支持体二重層は、固体支持体上に存在する平面構造である。したがって、二重層の上面(upper face)のみが自由溶液(free solution)にさらされる。このような配置は、脂質二重層の研究に関連して長所と欠点を有する。支持型二重層の最大の長所は、信頼性である。SLBは、高速流速や振動にさらされてもそれほど損なわれずに維持され、他のモデル脂質二重層である黒脂質膜(black lipid membrane;BLM)とは異なり、ホールの存在が全体の二重層を破壊しない。このような安定性により数週間や数ヶ月間持続する実験が可能であるのに対し、BLM実験は、通常、数時間に制限される。SLBの他の長所は、平らで、硬い表面上に存在するため、自由に浮遊する試料に対しては、実行が不可能であるか、または低解像度を提供する多くの特性化のツールとして使用することができるという点である。
【0015】
このような長所の最も明確な例として、試料と直接物理的な相互作用を要求する機械的プローブ技法を使用できることが挙げられる。脂質の相分離、単一のタンパク質分子の吸着につながる膜の貫通ナノ気孔の形成及び蛋白質の組み立て(protein assembly)を染料標識がなくても、サブナノメートルの精度で映像化させるために、原子力顕微鏡(Atomic force microscopy;AFM)を使用している。最近では、単一の二重層の機械的性質を直接探知するために、個別の膜タンパク質上での力分光法の実行のためにAFMを使用することもある。細胞や小胞(vesicle)の表面は、相対的に柔らかく(soft)、経時的に移動し、変化するため、SLBを使用せずには、前記研究は、困難または不可能となり得る。
【0016】
また、様々な現代的な蛍光分光法においても、強く支持された平面表面(rigidly-supported planar surface)を必要とする。全反射蛍光顕微鏡(total internal reflection fluorescence microscopy;TIRF)及び表面プラズモン共鳴(surface plasmon resonance;SPR)のようなエバネセント場の技法(evanescent field method)は、分析物の結合及び二重層光学的性質の高感度測定が可能であるが、試料が特別に光学機能性材料上に支持されている場合にのみ機能することができる。支持された二重層にのみ適用可能な他の検出方法の例としては、光学的干渉をベースにした蛍光干渉コントラスト顕微鏡法(fluorescence interference contrast microscopy;FLIC)及び反射干渉コントラスト顕微鏡法(reflection interference contrast microscopy;RICM)などである。
【0017】
一般に、SLBは、基材の表面に直接接触せず、非常に薄い水層に分離されている。前記水層の大きさ及び性質は基材物質及び脂質の種類に依存するが、最も一般的に使用される実験システムであるシリカ上に支持された双性イオン脂質(zwitterionic lipid)に対して一般的に1nm程度である。前記水層は非常に薄いため、二重層と基材との間には、広範囲な流体力学的カップリング(hydrodynamic coupling)が存在し、同じ組成の自由二重層に比べて支持された二重層でより低い拡散係数を有する。SLB内の脂質の一部は、完全に固定されていてもよい。良質のSLB脂質上に対して、このような固定された画分が1〜5%である。
【0018】
一般に、「人工細胞膜(artificial cell membrane)」は、細胞膜タンパク質、膜貫通タンパク質及びこれらに関連する相互作用のような、体内で細胞の表面で起こる細胞膜に関連する現象を研究するために人為的に製作した、試験管内で体内の細胞膜システムを模倣するための脂質膜を含むシステムである。人工細胞膜を提供するモデルシステムとしては、黒脂質膜(black lipid membrane;BLM)、支持型脂質二重層(supported lipid bilayer;SLB)、係留された二重層脂質膜(tethered bilayer lipid membrane;tBLM)、小胞(vesicle)、ミセル(micelle)、バイセル(bicelle)及びナノディスクなどがある。特に、SLB膜は、生物物理膜的現象を究明するための有用な手段である。pH及び温度などのような環境的変数だけでなく、化学組成の変化により移動性及び活性などを調節することができる。
【0019】
前記第1のリガンド及び第2のリガンドは、それぞれ独立して抗原、抗体、リガンド、受容体、キレート、DNA、RNA、アプタマー(aptamer)、互いに特異的に結合する化学分子またはそれらの組み合わせであってもよいが、これに制限されない。例えば、第1のリガンドが抗体である場合、第2のリガンドは、これに特異的な抗原であってもよい。または第2のリガンドは、前記抗原にさらに結合された抗体をすべて含み第1のリガンドである抗体と抗体−抗原−抗体複合体を形成するサンドイッチ免疫反応により結合することができる。他の例としては、第1のリガンドと第2のリガンドが互いに相補的な配列のDNA断片であることができ、このような場合、これらのDNA断片の混成化により結合を形成することができる。
【0020】
本発明の具体的な実施例では、第1のリガンドとしてビオチンを、第2のリガンドとしてビオチン及びその受容体であるストレプトアビジンが結合されたコンジュゲートを利用して、ストレプトアビジンの空いている他の結合部位に第1のリガンドであるビオチンが結合するようにした。
【0021】
また、前記第1の金属粒子は、前記脂質上の第1のリガンドと金属粒子の表面の第2のリガンドとの間の特異的な抗原−抗体結合、リガンド−受容体結合、DNA混成化、キレート結合、共有結合、静電結合または化学反応による結合により脂質に結合することができる。この時、第1の金属粒子は、表面に複数の第2のリガンドを含むことができ、その密度に応じて一つの金属粒子が多数の脂質粒子と結合を形成することができる。このような場合、脂質膜上で、個々の脂質分子の動きは自由であるが、複数の脂質分子が一つの粒子に結合された場合、前記粒子を動かすためには、これに結合された複数の脂質分子が同時に2次元脂質平面上で、有機的に移動しなければならないため、相対的にその動きを制約されるしかない。
【0022】
本発明の具体的な実施例によると、単位粒子当りの結合価が増加するほど、粒子の動きは著しく阻害されており、結果的に結合価が486に達したときには、固定されたかのように、ほとんど動きが捕捉されなかった(図2及び図6)。
【0023】
前記第1の金属粒子の動きをモニタリングする方法は、これに制限されないが、好ましくは、プラズモン散乱を測定することにより行うことができる。
好ましくは、前記第2のリガンドは、チオール基を含み、前記チオール基を通じて第1の金属粒子に共有結合することができる。
【0024】
本発明の人工細胞膜は、プローブとして金属粒子が結合されたことを特徴とする。金属粒子は、ポリマーや脂肪二重層で構成され小胞(vesicle)などの粒子に比べて安定していて、相対的にやや低いか、高い塩濃度やpH条件でも分解されたりせず、形態及び/または物性を維持することができる。また、好ましくは、プラズモン性金属粒子を含み自体としてプラズモン散乱を示すため、別途のプローブがなくても自主的に検出可能であるだけでなく、蛍光体などを標識して蛍光シグナルを検出する場合に比べ、ちらつきや消光などを示さないため、長時間安定的にモニタリングすることができるという長所を有する。また、チオール基などの官能基と直接強固な共有結合を形成することができるため、これを利用して表面にリガンドなどを導入することができる。
【0025】
好ましくは、前記第1のリガンドが結合された第1の脂質を前記支持型脂質二重層の全脂質に対して0.05〜0.5モル%で含むことができる。前記第1のリガンドは、第2のリガンドとの結合を通じて粒子が導入される位置であり、全脂質において前記第1のリガンドが結合された第1の脂質の割合が0.05モル%未満に低くなると、脂質の表面で第1のリガンドの頻度が低いので、すなわち、第1のリガンド間の距離が遠くなって一つの粒子が複数の第1のリガンドと結合して脂質二重層上に固定されるのが困難であり、0.5モル%を超過する場合には、第1のリガンドの密度があまりにも高くなって、これと特異的に結合する第2のリガンドを含む第1の粒子の凝集が誘導され、結合価と無関係に、粒子の動きを阻害したり、分析を妨害することがある。
【0026】
好ましくは、前記支持型脂質二重層は、全脂質に対して1〜10モル%のポリエチレングリコール(PEG)が結合された第2の脂質をさらに含むことができる。この時、前記ポリエチレングリコールの平均分子量は、500〜2000であることが好ましいが、これに制限されない。例えば、2000以下の相対的に低い分子量を有するPEGを使用することにより、一般に、脂質二重層を安定化するために使用されるものよりもやや高い含有量である10モル%のレベルまでPEG結合された第2の脂質の含有量を高めても遮蔽効果などを誘発しないと共に、脂質二重層を物理的に安定させて二重層の寿命及び安定度を増加させ、ナノ粒子間、ナノ粒子と脂質二重層との間の非特異的結合を効率的に減少させて流動性を増加させる。しかし、分子量が前記範囲を超える場合、またはその含有量が前記範囲を超える場合、遮蔽効果を誘発し、脂質膜に対するナノ粒子の接近及び/または第1のリガンドと第2のリガンドの結合を妨害し得るため、使用するPEGの分子量及び全脂質で、前記PEGが結合された第2の脂質の含有量を適切に組み合わせて選択することが望ましい。
【0027】
もう一つの態様として、本発明は、人工細胞膜を利用してA分子とB分子の相互作用を確認するための分析装置において、支持型脂質二重層が、第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合された第3脂質をさらに含む、前記人工細胞膜;前記人工細胞膜中、第1の金属粒子の表面上に結合されたA分子;前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子として、第3のリガンドと第4のリガンドの結合を通じて1つ以上の第3の脂質と結合するが、第1の金属粒子より支持型脂質二重層内の移動性が大きい第2の金属粒子;及び前記人工細胞膜中、第2の金属粒子の表面上に結合されたB分子を含み、移動性が大きい第2の金属粒子が第1の金属粒子に接近してA分子とB分子の相互作用により、第2の金属粒子が第1の金属粒子に拘束されることを特徴とする分析装置を提供する。
【0028】
前記第4のリガンドは、第2のリガンドと同一または異なってもよい。
前記A分子及びB分子は、それぞれDNA、RNA、抗原、抗体、リガンド、キレート、受容体、アプタマー、ポリマー、有機化合物、金属イオン、またはポリペプチドであってもよい。
【0029】
したがって、前記本発明の分析装置で確認しようとするA分子とB分子の相互作用は、抗原−抗体結合、リガンド−受容体結合、タンパク質−タンパク質結合、核酸混成化、キレート結合、共有結合または静電気的結合であってもよい。前記核酸混成化は、DNA、RNA、PNA、及びこれらの組み合わせとの間の混成化を制限なく含む。
【0030】
前記第1の粒子は、複数の脂質との結合を通じて支持型脂質二重層上に固定され、第2の粒子は、相互作用不在時に支持型脂質二重層で2次元的自由ブラウン運動(2-dimensional brownian motion)が可能であることが望ましい。これにより、第1の粒子上のA分子と第2の粒子上のB粒子間に相互作用による刺激、すなわち、前記粒子間の引力または斥力が発生したとき、第1の粒子は固定されており、第2の粒子は第1の粒子の方(引力によって)、または第1の粒子と遠い方向に(斥力によって)移動することができる。したがって、固定された第1の粒子に対する第2の粒子の相対的な動きを確認し、A粒子とB粒子間の相互作用を確認することができる。
【0031】
もう一つの態様として、本発明は、前記分析装置を用いて、A分子とB分子の相互作用を確認する方法を提供する。
前述したように、前記分析装置において、第1の粒子は、支持型脂質二重層の平面上に固定されており、第2の粒子は、別途の刺激が加わえられない限り、自由ブラウン運動をする。
【0032】
したがって、第1の金属粒子の位置及び第1の金属粒子による信号の強度または波長の変化をモニタリングすることができる。
また、第2の金属粒子のリアルタイム移動軌跡または速度、または第2の金属粒子による信号の強度または波長の変化をモニタリングすることができる。
【0033】
好ましくは、前記モニタリングは、第1の金属粒子及び/または第2の金属粒子のプラズモン散乱を測定することにより行うことができる。プラズモン散乱を発生するナノ粒子は、粒子間の距離が近づくとき、プラズモンカップリングにより散乱信号を増強させることができ、一定の距離、すなわち、プラズモンカップリング距離以内に、さらに近づく場合には、散乱波長が長波長に移動する。したがって、遠距離では、粒子の軌跡から粒子間の距離を測定することができ、一定の距離未満で近づいた場合には、測定された散乱信号の強度及び波長から粒子間の距離を推定することができる。
【0034】
本発明の具体的な実施例では、相補的な配列のDNAを標識した金ナノ粒子を使用するが、粒子当り2つ以上のDNAを結合させ、複数の粒子がDNA混成化により近づくようにした。その結果、結合された粒子の数が増加して二量体、三量体から四量体へと発展するにつれて散乱強度が段階的に増加し、その信号は長時間持続した。一方、非特異的な一時的相互作用によっては、信号の増加が観察されたが、その信号は数秒間も持続されないことを確認し、非特異的相互作用による信号の増加と特異的相互作用による信号の増加が互いに区別されることを確認した(図6)。このような粒子凝集によっては信号強度が増加するだけでなく、散乱の波長が長波長に移動することが確認できた。
【0035】
また、本発明の方法は、さらに、特定の方向に力を加えて粒子の密度を高め、粒子間の衝突頻度を増加させることにより、分析感度を向上させ、検知時間が短縮できることを特徴とする。この時、加わる力は磁場、電場、流体の流れなどであってもよいが、これに制限されない。
【0036】
もう一つの態様として、本発明は、人工細胞膜上でA分子が結合された第1の金属粒子とB分子が結合された第2の金属粒子のプラズモン散乱信号から第1の金属粒子と第2の金属粒子との間の距離を確認してA分子とB分子の結合有無を確認するための分析キットにおいて、基材;前記基材上に配置され、脂質の一部または全部が二重層内で位置を移動可能な支持型脂質二重層;及び前記支持型脂質二重層の一部として、第1のリガンドが結合された第1の脂質及び第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合された第3脂質;を含む人工細胞膜;前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを含む第1の金属粒子として、第1のリガンドと第2のリガンドの結合を通じて1つ以上の第1の脂質と結合可能な第1の金属粒子;及び前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子として、第3のリガンドと第4のリガンドの結合を通じて1つ以上の第3の脂質と結合可能な第2の金属粒子;を含むことを特徴とする分析キットを提供する。
【0037】
前述したように、2つの分子の相互作用を確認するために、これらの分析しようとする分子のうち、一方の分子が結合された金属粒子は人工細胞膜上に固定され、もう一方の分子は、相対的に移動性が高い金属粒子に結合された分析装置を利用することが検出の便宜上望ましいが、現在の光学検出技術では、脂質二重層上で自由に移動する粒子のモニタリングが可能であるため、A分子とB分子の両方が移動性が高い金属粒子に結合されており、脂質二重層で自由に移動可能であるが、個々の粒子のモニタリングが可能であるため、これらのシステムもA分子とB分子の相互作用を確認するための分析キットとして利用することができる。前記分析キットは、公知のプラズモン散乱検出システムに適用することができる。
【0038】
もう一つの態様として、本発明は、人工細胞膜上でA分子が結合された第1の金属粒子とB分子が結合された第2の金属粒子のプラズモン散乱信号から第1の金属粒子と第2の金属粒子との間の距離を確認ししてA分子とB分子の結合有無を確認するための分析キットにおいて、基材;前記基材上に配置され、脂質の一部または全部が二重層内で位置を移動可能な支持型脂質二重層;及び前記支持型脂質二重層の一部として、第1のリガンドが結合された第1の脂質及び第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合された第3脂質;を含む人工細胞膜;前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを含む第1の金属粒子として、第1のリガンドと第2のリガンドの結合を通じて1つ以上の第1の脂質と結合可能な第1の金属粒子;及び前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子として、第3のリガンドと第4のリガンドの結合を通じて1つ以上の第3の脂質と結合可能な第2の金属粒子;を含むことを特徴とする分析キットを提供する。
【0039】
もう一つの態様として、本発明は、A分子及びB分子と結合可能な標的物質の定性的または定量的分析のためのキットにおいて、分析キットは、人工細胞膜上でA分子が結合された第1の金属粒子とB分子が結合された第2の金属粒子のプラズモン散乱信号から第1の金属粒子と第2の金属粒子との間の距離を確認し、前記標的物質を通じたA分子とB分子の結合有無を確認するためのものであり、基材;前記基材上に配置され、脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能な支持型脂質二重層;及び前記支持型脂質二重層の一部として、第1のリガンドが結合された第1の脂質及び第1のリガンドと同一または異なる第3のリガンドが結合された第3脂質;を含む人工細胞膜;前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを含む第1の金属粒子として、第1のリガンドと第2のリガンドの結合を通じて1つ以上の第1の脂質と結合された第1の金属粒子;前記第1の金属粒子の表面上に結合されて標的物質の一部に特異的に結合するA分子;前記第3のリガンドに特異的に結合する第4のリガンドを含む第2の金属粒子として、第3のリガンドと第4のリガンドの結合を通じて1つ以上の第3の脂質と結合する第2の金属粒子;及び前記人工細胞膜中、第2の金属粒子の表面上に結合されて標的物質中、A分子と結合していない他の部分に特異的に結合するB分子を含むことを特徴とキットを提供する。
【0040】
前述したように、前記標的物質、A分子、B分子、第1のリガンド及び第2のリガンドは、それぞれ独立して抗原、抗体、リガンド、受容体、キレート、DNA、RNA、アプタマー、互いに特異的に結合する化学分子またはそれらの組み合わせであってもよい。
【0041】
これらに限定されるものではないが、第1の金属粒子は、支持型脂質二重層上に固定され、第2の金属粒子は、標的物質を通じたA分子とB分子の連結不在時、支持型脂質二重層上で2次元的自由ブラウン運動(2-dimensional brownian motion)できるように結合価を調節すると、固定された第1の金属粒子を中心に第2の金属粒子の相対的な動きを追跡することができるため、モニタリングを容易にすることができる。
【0042】
この時、標的物質が存在する場合、A分子及びB分子と標的物質の結合により移動性が大きい第2の金属粒子が第1の金属粒子に接近して発生する第1の金属粒子の位置でプラズモン散乱信号の強度、波長、またはその両方の変化を測定することにより、A分子及びB分子と標的物質との間の相互作用を確認することができる。
【0043】
もう一つの態様として、本発明は、プラズモン散乱測定によるimax×mmax個の標的物質の定性的または定量的分析のための多重分析キットにおいて、(imax及びmmaxは、それぞれ下記に定義された変数iとmの最大値として、それぞれ独立して1以上の整数であり、imax=mmax=1を除く)、前記多重分析キットは、基材;前記基材上に配置され、脂質の一部または全部が二重層内で位置移動可能な支持型脂質二重層;及び前記支持型脂質二重層の一部として、第Iリガンドが結合された第I脂質及び第Mリガンドが結合された第M脂質;を含む人工細胞膜(ここで、第Iリガンド及び第Mリガンドは、それぞれ独立して同一または異なってもよい)。前記第Iリガンドに特異的に結合する第I’リガンドを含む第I、金属粒子として、第Iリガンドと第I’リガンドの結合を通じて1つ以上の第I脂質と結合された第i金属粒子;前記第I、金属粒子の表面上に結合されて標的物質の一部に特異的に結合するA分子;前記第M脂質にそれぞれ特異的に結合する第M’のリガンドを含む第Mの金属粒子として、第Mリガンドと第M’リガンドの結合を通じて1つ以上の第M脂質と結合する第mの金属粒子;及び前記人工細胞膜中、第Mの金属粒子の表面上に結合されて標的物質のAの分子と結合していない他の部分に特異的に結合するB分子を含み、前記一連の第I金属粒子らは、互いに異なるプラズモン散乱波長を有し、一連の第Mの金属粒子らも互いに異なるプラズモン散乱波長を有するものである、多重分析キットを提供する。
【0044】
本発明の具体的な実施例では、それぞれ異なる色、すなわち、赤、緑、青の色を帯びた金/銀ナノ粒子を製造し、これらの表面に脂質二重層上に結合された捕獲配列と相補的な配列のDNAを調整された割合で導入して脂質二重層との結合価を調節することにより、それぞれに対して脂質二重層上に固定されている粒子と脂質二重層上で自由に移動する粒子、すなわち、全6種の異なる金属粒子を準備した。また、これらの表面には、標的物質として使用された全9種のmiRNAの一部分と特異的に結合することができる相補的な配列のDNAを導入した(図23b、図28及び表3)。この時、モニタリングの便宜のために、それぞれの標的物質は、それぞれ脂質二重層上に固定された一つの金属粒子と自由に移動可能な一つの金属粒子と結合するように、各粒子に導入されるDNA配列を組み合わせた。例えば、固定された赤色金属粒子を中心に、該粒子のプラズモン散乱、これに接近する他の金属粒子の経時軌跡及び三色の波長でのプラズモン散乱強度をモニタリングし、三色プラズモン中、他の金属粒子の接近により強度が増加する波長を同定し、他の金属粒子の種類を同定し、増加した強度を確認して1つの固定された赤色金属粒子に結合された他の金属粒子の数を確認することができた。即ち、固定された赤金属粒子の位置をモニタリングすることにより、この結合可能な脂質二重層上で自由に移動可能な3種の金属粒子と、それぞれ異なるプラズモン散乱パターンを示すことを確認した(図24a、25a及び26a)。これは、固定された緑色の金属粒子と固定された青の金属粒子についても類似した方法で現れ(図24〜26、b及びc)、これらをすべて組み合わせて、9つのmiRNAによってそれぞれ異なるプラズモン散乱の変化を示すことを確認することができた(図23d)。これは、移動性、及び/またはプラズモン散乱波長が異なる複数の金属粒子を利用し、複数の標的物質を同時に定性及び定量的に分析することができることを示すものである。
【0045】
もう一つの態様として、本発明は、流体の流れを利用し、支持型脂質二重層上の特定の領域内の粒子を濃縮させる方法として、チャネル内の一面に配置された支持型脂質二重層を含み、前記支持型脂質二重層は、脂質一部または全部が二重層内で位置移動可能であり、第1のリガンドが結合された第1の脂質を含む支持型脂質二重層;及び前記第1のリガンドに特異的に結合する第2のリガンドを含む第1の粒子として、第1のリガンドと第2のリガンドの結合を通じて1つ以上の第1の脂質と結合された第1の粒子を備えた流体チャネルに流体の流れを適用する段階を含む粒子を濃縮させる方法を提供する。
【0046】
使用目的に応じて前記粒子は、さらに遺伝子、タンパク質などが結合されたものを用いることができる。
本発明に係るリガンド結合を通じて脂質上に結合された粒子を含む支持型脂質二重層を含む流体チャネルに流体の流れを適用すると、前記粒子は、脂質二重層上で自由なブラウン運動が可能であるため、流体の流れ方向に沿って移動して流体チャネル内の特定の部分に濃縮することができる。従来の脂質二重層上に位置する粒子を濃縮させるための方法としては、電場などの刺激を加える方法が使用されたが、電場を適用した場合の露出時間が長くなるにつれて粒子上に結合されたタンパク質や遺伝子などが変性したり、脂質二重層自体が破壊されることがあり、これにより、pHや温度が変化したり、空気の泡が発生するなどの実験条件の変化をもたらすことがあるが、本発明に係る流体の流れを利用する場合、このような欠点を克服することができる。
【0047】
本発明の具体的な実施例では、基板上にフローチャネルを製作し、上部スライドグラスの両側に穴を形成し、一定の方向に流体の流れを適用することができるようにした。前記フローチャネル内に、本発明に係る金または銀ナノ粒子が結合された脂質二重層を形成して流体の流れの速度を調節しながら、前記金属ナノ粒子の動きをモニタリングした。流れが加わる前の粒子は、2次元脂質二重層で自由拡散運動をしたが、流体の流れが加えながら、これらのナノ粒子は、流れと同じ方向に移動し始め、流れが速くなると、ナノ粒子の動きも共に速くなった。また、このように一方の方向に粒子が移動するにつれて、特定の区画での粒子の密度が増加し、プラズモンカップリングによる散乱波長の移動が確認された(図11及び12)。
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳しく説明する。これらの実施例は、本発明をより具体的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施に限定されるものではない。
【0049】
実施例1:物質
1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphocholine;DOPC)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−(キャップビオチニル)ナトリウム塩(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-(cap biotinyl)sodium salt;biotinylated DOPE)及び1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[メトキシ(ポリエチレングリコール)−1000]アンモニウム塩(1,2-dioleoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-[methoxy(polyethylene glycol)-1000] ammonium salt;PEG-DOPE)をAvanti Polar Lipids(Alabaster、AL、USA)から購入した。Cy3−修飾されたストレプトアビジン(streptavidin;STV)は、Molecular Probes(Eugene、OR、USA)から購入した。カルボキシメチルポリエチレングリコール(carboxymethyl polyethylene glycol;MW 5000)は、Laysan Bio Inc.(Arab、AL、USA)から購入した。ウシ血清アルブミン(bovine serum albumin;BSA)、ナトリウムドデシル硫酸ナトリウム(sodium dodecyl sulfate;SDS)及びジチオトレイトール(dithiothreitol;DTT)は、Sigma−Aldrich(St.Louis、MO、USA)から購入した。0.15MのPBS溶液は、NaHPO、NaHPOとNaCl(Sigma-Aldrich、St. Louis、MO、USA)を脱イオン水(DI water)に溶かして150mMのNaClを含む10mMリン酸緩衝溶液(pH7.4)で製造した。0.025MのPBSは、同じ試薬で25mMのNaClを含むように製造した。すべての実験に最小の抵抗(>18MΩ/cm)を有するナノピュアウォーターを使用した。小胞(vesicle)の製造(小胞押出;vesicle extrusion)のために、気孔径が100nmであるポリカーボネート(polycarbonate;PC)フィルタ(Whatman、Fisher Scientific)を使用した。クロロホルム、アセトン、及びエタノールのような有機溶媒は、Duksan Pure Chemicals Co.Ltd.(Gyeonggi-do、Korea)から購入した。硫酸及び過酸化水素は、Daejung Chemicals&Metals Co.Ltd.(Gyeonggi-do、Korea)から購入した。50nmの金ナノ粒子及びオリゴヌクレオチドは、それぞれBBI Life Sciences(Cardiff、UK)、及びIntegrated DNA Technology(Coralville、IA、USA)から購入した。I−PNP(immobile PNP)に対する標的捕獲配列は5’−HS−(CH−PEG−CTTTGAGCAC ATCCTTATCAATATT−3’(配列番号1)、I−PNPのSLB結合(tethering)配列は5’−HS−(CH−PEG−CTTTGAGCACTGTTAGCGTGTGTGGAATTTTAAT−ビオチン−3’(配列番号2)である。M−PNP(mobile PNP)の標的捕獲配列は5’−TAACAATAATCCCTC CACGAGTTTC−PEG −(CH−SH−3’(配列番号3)、M−PNPのSLB結合(tethering)配列は5’−ビオチン−TAATTTTAAGGTGTGTGCGATTGTCACGAGTTTC−PEG−(CH−SH−3’(配列番号4)である。標的配列は、5’−GAGGGATTATTGTTAAATATTGA TAAGGAT−3’(配列番号5)である。標的捕獲配列の下線部分は、標的DNA配列に混成化した(hybridize)。単一塩基対の不一致DNA配列には、標的DNA配列のAをTに置換したものを用いた。非相補的DNA配列は、5’−CTGATTACTATTGCATCTTCCGTTACAACT−3’(配列番号6)であった。
【0050】
実施例2:SUV(small unilamellar vesicle)の製造
97.4モル%のDOPC、0.1モル%のビオチン化−DOPE及び2.5モル%のPEG−DOPEを含むSUVの拡散によりカバーグラス上に支持型脂質二重層(supported lipid bilayer;SLB)を形成した。クロロホルムに適量の脂質を溶解させてSUV溶液を製造した。回転蒸発器(rotary evaporator)を利用し、50mlの丸底フラスコで、脂質溶液を蒸発させた。窒素の流れの下で脂質薄膜(lipid film)を完全に乾燥させた。乾燥した混合物は、脱イオン水に再懸濁させ、凍結−融解サイクル(freeze-thaw cycle)を3回繰り返して行った。総脂質濃度は2mg/mlであった。溶液を25℃で100nm細孔径のPC膜を通じて21回以上押出した。生成されたSUV溶液は使用するまで4℃で保管した。
【0051】
実施例3:DNAを用いた金プラズモンナノプローブ(nanoprobe)の機能化及びビオチン結合価(valency)の定量
100mMのPB(pH8.0)に溶解した100mMのDTTと2時間インキュベーションしてチオール化されたオリゴヌクレオチドを還元させてNAP−5カラム(GE health care、Buckinghamshire、UK)を用いて分離した。DNA機能化のために、新たに還元させた4μMのオリゴヌクレオチドを50pMの50nm金ナノ粒子と混合し、室温で一晩中インキュベーションした。I−PNPに対して、SLB結合配列と標的捕獲配列のモル比を200:600(SLB結合配列のモル分率=0.25)であった。M−PNPに対して、モル比は、1:799(SLB結合配列のモル分率=0.00125)であった。その後、溶液を調整し、10mMのリン酸緩衝液と0.1%(wt/vol)SDSを得た。前記調節された溶液を、30分間の軌跡攪拌機(orbital shaker)でさらにインキュベーションし、2M NaCl 6 aliquotを添加して0.05Mの段階に増加し、最終的にNaCl濃度が0.3Mになるようにした。それぞれの2MのNaCl添加後、溶液を55℃で10分間加熱し、室温で30分間インキュベーションした。DNA−金ナノ粒子混合物を一晩中放置した後、溶液を遠心分離した(4500rpm、10分)。上澄液を除去し、沈殿は、脱イオン水に再分散させた(前記の過程を3回繰り返した)。DNA−機能化された金ナノ粒子溶液は使用時まで4℃で保管した。金ナノ粒子当りSLB結合配列の数を定量するためにCy3−標識オリゴヌクレオチド−改質金ナノ粒子を30mM KCN溶液に溶解させた。そして、励起光源としてキセノンランプ(500W)を備えたActon分光光度計(Spectra Pro、MA、USA)でCy3の蛍光発光強度を測定した。
【0052】
実施例4:SLB及びこれに連結された金プラズモンナノ粒子の製造
ガラスフローチャンバーでSLBと結合された金プラズモンナノ粒子を製造した。フローチャンバーは、互いに100μmの厚さの熱可塑性スペーサ(thermoplastic spacer)で分離された上部(top)及び下部(bottom)ガラス基質(glass substrate)で構成される。入口及び出口の細孔は、上部ガラスの両端に穴を打った。上部スライドガラスは、0.15MのBPSに溶かした10mg/ml BSAで1時間前処理してSLB沈着(deposition)に不活性であるようにした。下部カバーガラスは、クロロホルム、アセトン、及びエタノールで10分間超音波処理して洗浄した。音波処理した後のカバーガラスを脱イオン水で洗浄し、窒素流により乾燥した。次に、下部カバーガラスを1時間の間、1M NaOHで前処理し、蒸留水で完全に洗浄した。ガラス基質は、サンドイッチされた熱可塑性プラスチックのスペーサと共にデジタルホットプレート上で120℃で加熱して組み立てた。製造されたSUV溶液を0.15MのPBSと1:1v/vで混合して入口を通じてガラスフローチャンバーに導入した。約70μlのSUV溶液を流れチャネルに満たした。25℃で45分間インキュベーションした後、過量の非融合(excess and unfused)SUVを200μlの脱イオン水で2回洗浄した。流れチャネル内の脱イオン水をPBSで置換した後、0.15MのPBSに溶かした1nm STVをビオチン化されたSLBと1時間反応させた。未反応STVを0.15MのPBSで洗浄し、流れチャネルを0.025MのPBSで満たした。次に、2pM I−PNPと15pM M−PNPプローブを導入し、10分間反応させた。結合していないPNPを除去し、未反応STVの結合部位を1μMの自由ビオチンを含む0.025MのPBSで洗浄して抑制した。15分後、緩衝液を0.15MのPBSに交換した。一般的には、前記のプロセスを通じて1:3の割合でSLB−結合されたI−PNP及びM−PNPを得ることができる。
【0053】
4.1.金ナノ粒子当りビオチン結合価の決定及び定量
まず、PNPのビオチン結合価を変化させることにより、脂質−結合されたPNPの拡散を調節した。これから、粒子当りリガンドの数は脂質膜上でナノ粒子の横的移動性に顕著な効果を示すことを確認した。本発明者らは標的捕獲DNA配列とSLB結合DNA配列との間のモル比を変化させることにより、DNA機能化の段階でAuNP上のビオチン分子の結合価を調節した。前記化学量論的調節方法で高い再現性のある結果を獲得した。KCN溶液にAuNPを溶解させた後、SLB結合配列に修飾されたCy3分子の蛍光発光強度を測定することにより、PNP当りSLB結合配列の数を計算した。平均ビオチン結合価はSLB結合DNAリンカーの添加量が増加するにつれて、約0.57から128まで直線的に増加した(図1及び表1)。製造したPNPプローブをビオチン−ストレプトアビジン相互作用を通じてSLB表面に結合させた。0.57のビオチン結合価を有するSLB上のPNPプローブは、ビオチンを含まないPNPは、SLBに結合することができず、表面から完全に洗浄することができるため、一つのビオチンを有するものとみなされた。
【0054】
【表1】
4.2.SLB上でPNPプローブの拡散動力学に対するビオチン結合価の影響
暗視野顕微鏡を用いて単一ナノ粒子の解像度でSLB結合PNPプローブの横的動きを観察し、イメージ解析プログラムを用いて個々の軌跡を分析した(ImageJソフトウェア;具体的な実験と解析の方法は、後述)。他のビオチン結合価を有するSLB−結合PNPプローブの事件の関数で平均二乗変異(mean square displacement;MSD)の値をそれぞれ図2aに示した。多結合価PNPは、少数結合価(paucivalent)PNPと比較し、遥かにゆっくり拡散し、より短い距離を移動する傾向を示した。486個のビオチンを含むPNPは、ほとんど移動性がなく、ほぼ同じ位置に留まることを確認した。486個のビオチンを含む場合を除き、これらの軌跡のMSDプロットは、MSDと時間間隔の間の線形関係を明確に示した。これらの結果は、これらのナノ粒子は、SLBの表面上の任意の2Dブラウン運動を表すことを意味する。PNPプローブの拡散係数を計算するために、本発明者らは、各ビオチン結合価に対して100個の粒子の軌跡を分析し、対応するMSDプロットを下記の数式に最適化した。
【0055】
【数1】
前記<r>は、MSD、Dは拡散係数であり、tは時間間隔である。1、5、28、及び128のビオチン結合価に対する拡散係数の平均値は、それぞれ1.79±0.87×10−8、0.72±0.35×10−8、0.38±0.29×10−8及び0.18±0.14×10−8cm/sで計算された(図2b)。計算されたD値の分布を図3に示した。これらの値は、脂質の動きを可視化するためにSLBを30〜50nmのAuNPに改質した他の文献的結果と一致した。PNPがより多結合価化するにつれて、移動性分画はより減少し、ほとんどの粒子はビオチン結合価が486に達したとき、実質的に固定された。さらに、多結合価PNPの暗視野顕微鏡イメージを観察して関連性を確認し、PNPの位置を証明するためにSLB上Cy3−式STVの蛍光顕微鏡イメージを局部的に集中したSTVの位置と一致した。その結果、2つのイメージは、互いによく一致しており、これも結合価PNPの下でSTVの局所蓄積が粒子の移動の消失を誘発することを示す(図4)。
【0056】
4.3.金ナノ粒子の光学的安定性テスト
金属ナノ粒子の共鳴光散乱は、有機色素からの蛍光とは異なる物理的起源を有する。局部化された表面プラズモンの放射減衰(radiative damping)は、散乱された光子を形成し、これらの過程は、点滅及び光漂白の影響を受けない。PNPの光安定性を確認するために、SLB上の50nmのAuNPを30分間継続的に、暗視野顕微鏡の照射に露出させ、散乱強度を、6秒間隔で記録した(図5)。粒子は全体の実験時間にわたって強度変更せずにきらめき(shining)を維持した。これは、AuNPが単一粒子追跡するために、複数の染料を使用している場合でも、実質的に水分内に信号を失う蛍光染料に比べて、リアルタイム光学の研究において、より強い(robust)光学的標識であることを示すものである。
【0057】
4.4.SLB上に結合されたナノ粒子の単一ナノ粒子の解像度の本来の場所の映像化及びその分析法
流動性SLBにPNPを動的に連結し、粒子の結合価を調節することにより、PNPの動力学的挙動を調節した。また、単一粒子レベルの解像度で本来の場所のDNA混成化により誘導された粒子のクラスタ成長動力学と相互作用するPNPとの間のリアルタイムプラズモンカップリングを使用し、前記プラットフォーム上で定量を分析した(図6及び7)。複数の粒子の反応場所からの相互作用を同時にモニタリングして分析した。二量体、三量体、及び四量体ナノ粒子クラスターの形成に対する速度論的研究を行い、本方法の適用事例として、多重平行の単一粒子分析ベースのDNA検出アッセイを開始した。前記プラズモンナノ粒子(PNP)は、効果的に共鳴光を散乱させ、光漂白及びちらつきの影響を受けないため、このような接近に使用され、長期間に渡って優れた時空間解像度で、単一ナノ粒子を追跡することができる(〜1.5nmと〜10μs解像度で1時間以上)。個別の金または銀ナノ粒子(AuNPまたはAgNP)のプラズモンは、距離依存の方法で、互いに相互作用し、これは追加の標識なしに散乱強度または分光学的反応の変化をモニタリングすることにより、数十ナノメートル以内の分子相互作用の測定のベースとなる基本的原理を形成する。SLBは、固体基質上に2D流体表面を合成して調節し、側方流動性を有する多様な膜種を含むことができる非常に強力なプラットフォームである。SLBにナノ粒子を連結することにより、ナノ粒子を2D関心のあるすべての粒子の効率的な映像化及び追跡のために、光学顕微鏡の焦点面(focal plane)に閉じ込めることができる一方、SLBの流動的性質により、ナノ粒子の自由な動きを保存することができる。連結されたPNPは入射光を共鳴散乱させ、常に平面の脂質二重層表面上で移動することにより、単一粒子の解像度で2D拡散軌跡及び光学信号を暗視野顕微鏡(Axiovert 200M、Carl Zeiss、Gottingen、Germany)に本来の場所で記録することができる(図7)。暗視野顕微鏡観察の結果から、連結されたPNPが2D膜表面を通じて均一に分散され、膜表面にわたる自由拡散に優れた側方移動性を示すことを確認した。前記粒子の動力学的2D拘束及びPNP標識の使用は、粒子間の効率的な衝突及びナノ粒子上の分子との間のほぼすべての反応の本来の場所観察及び分析を容易にする。
【0058】
実施例5:パターン化されたSLBの製造
DNAアッセイのために、ガラス基質上にパターン化された金フィルムに120×120μm SLBを形成した。金パターンは、既存のフォトリソグラフィとリフトオフ工程(lift-off process)により製造した。金表面はSLB形成に対して不活性であるため、SUV溶液の導入により露出されたガラス表面上にSLBを選択的に沈着させることができた。SLBを形成した後、PNPと標的DNAの非特異的結合を抑制するために、金の表面をPBSに溶かした2mg/mlのBSAと10μMカルボキシポリエチレングリコールで不活性化(passivate)した。その後、DNAアッセイ実験に使用するためにPNPを結合させた。
【0059】
実施例6:暗視野顕微鏡法−ベースPNPプローブの本来の場所(in situ)観察及び光学分析
40×対物レンズ(NA 0.6)を備えた暗視野顕微鏡(Axiovert 200M、Carl Zeiss、Gottingen、Germany)によりSLB−結合されたPNPプローブの移動とプラズモンカップリングを観察した。すべてのイメージ分析プロセスは、ImageJソフトウェア(http://rsb.info.nih.gov/ij/)を用いて行った。個々のSLB−結合PNPプローブの追跡及び軌跡の分析のために、MOSAICプラグインを使用した(http://www.mosaic.ethz.ch/Downloads/ParticleTracker)。散乱強度及びRGB色のスペクトルは、それぞれImageJソフトウェアの基本的な強度測定及びRGB色強度分割機能により測定した。Cy3−改質STVを532nmレーザーで励起し、60×レンズ(NA 1.49)を備えたepifluorescence顕微鏡(TE-2000、Nikon、Tokyo、Japan)を用いて観察した。
【0060】
6.1.相互作用する粒子の高解像度映像化アッセイ
高解像度映像化アッセイの他の重要な点は、相互作用する粒子を観察することができる安定的で信頼性の高い方法であるということである。これを容易にするために、著しく異なる側方移動性を有する2つの形式のDNA修飾されたプラズモンナノ粒子(DNA−PNP)を考案し、製造してSLBの表面に連結させた(高移動性のPNP及びほぼ固定されたPNP(それぞれM−PNP及びI−PNP)プローブ;図6)。固定されたI−PNP位置からの散乱信号は、安定的にモニタリングし、分析することができ、M−PNPは、I−PNP位置で拡散してプラズモンカップリング−ベース散乱信号の変化を誘導することができる。I−PNP及びM−PNPプローブは、それぞれ5’−チオール−改質されたDNA及び3’チオール−改質されたDNAプローブで製造した。二つの異なるチオール化されたDNA配列(標的捕獲配列とSLB連結配列)を使用し、それぞれのPNPプローブを機能化した。SLB連結配列はチオールと他の末端にビオチン基を含み、ストレプトアビジン−改質されたSLBに安定結合を形成する。PNPプローブの移動性をDNA修飾過程でSLB連結配列のモル分率を異にして探針のビオチン結合価により調節した。PNPがより多結合性であるほど、拡散係数、及び移動の分率は、より減少し、0.15625モル分率のSLB連結配列で達成されるビオチン結合価が486に達したとき、すべての粒子は実質的に固定された(図8)。M−PNPプローブを製造するために、0.00125モル分率のSLB連結配列を添加して1ビオチン結合価を得た。M−PNPプローブは、少数結合価(paucivalent)であり、任意の2Dブラウン運動により遥かに自由に拡散することができる。一方、多結合価I−PNPプローブは、ほぼ完全に膜表面上に固定された。散乱強度は、ImageJソフトウェアを用いて、本発明に使用された顕微鏡装置の光学解像度、dと類似の500nmの半径のI−PNP位置(site)−中心の円形区域(nanoparticle-centered circular area)を平均して分析した(d=λ/2NA;λは、50nm AuNPの共鳴散乱波長である530nm、NAは対物レンズの開口数(numerical aperture)である0.6)。
【0061】
M−PNP及びI−PNPプローブは、SLBのSTVリンカーを介してビオチン化された脂質に結合するため、PNP−結合された脂質の局所位置及び動きは暗視野顕微鏡で共鳴光散乱信号を追跡することができる。粒子−結合された標的DNA不在時、M−PNPプローブは、固定されたI−PNP位置に接近することができ、前記プローブは、暗視野顕微鏡で一時的に重畳することができる。その結果、I−PNP位置の散乱強度は、初期には一定であるが、M−PNPが光学回折限界内に進入するのに伴い変動した(図9)。興味深いことに、信号において2つの瞬間的な鋭い上昇が観察された。より頻繁なケースで、散乱強度は初期値の約2倍に達した。これは、二つのPNPが光学的解像度以内に存在するが、プラズモンカップリングを惹起させるほど互いに十分に近くない遠い光学的重畳に起因し得る(図9b−i)。他のケースにおいて、散乱強度の約3.5倍の上昇が観察され、このような高い向上は、プラズモンカップルされた二つのPNP間の近接場相互作用に起因した(図9b−ii)。大部分のこのような信号の変化は、粒子間の特異的な相互作用の不在により、0.5秒未満の間持続した。脂質間の一時的な分子間の近接をプラズモンカップリングにより準−回折長スケールで確認した。前記したように、本発明の方法を利用して、PNPプローブ間のドッキング(docking)及びプラズモンカップリングにより引き起こされる分子間の相互作用をモニターすることができることを提示する。次に、本発明者らは、SLB上でDNA修飾PNPプローブの組み立て及び分解により誘発される本来の場所のDNA混成化及び脱混成化(dehybridization)イベントを観察し、単一ナノ粒子の解像度でリアルタイムに対応する散乱強度の変化を記録した。標的DNA配列が存在するとき、少数結合価のM−PNPは、固定されて追跡中心としてモニターすることができる多結合価のI−PNPにより捕獲され、多粒子のクラスターを形成した。暗視野顕微鏡イメージで組立過程は、単一ナノ粒子添加のイベントを観察するにおいて、成功的に分析された(resolved)。単量体から四量体に粒子−by−粒子のPNPクラスタ成長が観察され、捕獲されたM−PNPプローブの軌跡は、白実線で強調した(図10a)。クラスタの発達に伴い、I−PMP位置に対するすべての単一のM−PNP添加段階において散乱強度及び色の両方で急な変化が観察された。散乱効率及び共鳴波長での変化は、クラスタ化されたAuNPでのプラズモンカップリングにより惹起された。3nmの標的DNAの濃度での反応は、15分以内に完結され、多くの単量体M−PNPプローブが消費されながら、クラスタを形成した。M−PNPの数が限られており、単一位置で4つを超える粒子の組み立てに対する粒子上でDNA鎖間の大きな粒剤障害が存在するため、クラスタの成長は、通常、四量体以内に制限され、四量体を超える追加の成長はほぼ観察されなかった。固定されたI−PNPの使用は、不規則な2D凝集体を形成し、定量性を損なう小型クラスタ間の融合を効果的に除去することにより、単量体の付着に対するクラスタ成長経路を制限する(M−PNP対修飾SLBで観察される融合過程(coalescence process)については、図11を参照)。PNPプローブ間のプラズモンカップリングは、共鳴波長の赤方偏移(長波長に移動;red-shift)を誘発し、したがって、プラズモンカップルされた緑色のAuNPは暗視野顕微鏡イメージから赤色に変わった。RGBチャネルを分割してプラズモンの色の変化を分析した(図7)。クラスタが成長するにつれて、緑色と赤色の信号が増加する一方、青色信号は一定に維持された。これに基づいて、本発明者らは、赤色に対する緑色の割合をグラフで示し、クラスタ化された粒子の数が増加するにつれて割合の線形的増加が観察された(図10b)。色検定標準は、実質的に粒子間の相互作用の状態を正確に定義し、定量することと非特異的光学重畳から、特異的相互作用−ベースのプラズモンカップリングを区別するのに有用である。標的DNAの認識及び混成化を通じて、I−PNP位置にM−PNPプローブを一つずつ(particle-by-particle)添加することを観察し、散乱強度の時間追跡で定量した(図10cの上部のグラフ)。前記結果は、それぞれのM−PNPがI−PNPプローブに添加されることにより、順次二量体、三量体、及び四量体が形成され、散乱信号の強度が段階的に増加することを示す。高塩PBS溶液(167mM Na)を遥かに少ない塩(17mM Na)を含む低塩PB溶液に交換したとき、標的DNAは脱混成化され、M−PNPは、I−PNPプローブから解離され、自由にSLB表面に亘って拡散され、その結果、散乱強度で段階的な一連の減少が誘発された(図10cの下部のグラフ)。これは、散乱信号の強度がプローブ添加段階の毎に多段階変化を経験し、次の粒子が添加されたり脱落するまで一定に維持されることを示す。
【0062】
6.2.クラスター成長速度(cluster growth kinetics)の分析
単量体から四量体でクラスタ成長速度をI−PNPに比べてM−PNPが過量で存在することと仮定して3−段階の1次連続反応で最適化された。
【0063】
【化1】
各種の変化速度に対する微分型は、下記の通りである。
【0064】
【数2】
前記微分方程式を解いて、各種の時間依存濃度を描写する解法を得ることができる:
【0065】
【数3】
この時、初期I−PNP単量体の濃度、[M]は、ここで分析された粒子数である150である。前記方程式を利用して、速度データを最適化することにより、速度定数値k、k、及びkを確認した。
【0066】
広い表面積にわたるPNPプローブの個々のプラズモンカップリングを同時に分析することにより、多重相互作用における高度の並列の本来の場所を観察することが実現できた(一般的には〜30,000μm図12a)。本発明に係る330秒の観察時間の間(80ms露光時間及び1sの時間間隔)本来の場所の並列粒子クラスターの成長の分析結果は、連続的なparticle−by−particleクラスタの成長が、一般的に観察されるにもかかわらず(図12b−i及びiv)他の多くのクラスタリングモードも、他のクラスタリング速度で観察されることを示す。あるプローブは、かすかに形成されただけで、これ以上は成長しなかった(図12b−ii及びiii)。また、四量体を形成するさらなる成長はせずにプローブクラスタが成長し、三量体を形成する場合もある。I−PNPプローブに対する2種類のプローブの同時添加(図12b−iii及びvi)及び非常に短い時間フレーム内では、I−PNPプローブに対する2種類または3種類のプローブの相次ぐ添加を観察し、分析した(図12b−vii、ix及びx;挿図参照)。本発明では、前記本来の場所の並列単一粒子の解像度解析機能に基づいてDNA混成化誘導クラスターの形成における反応速度を研究した。このために、150個の個々のI−PNP位置の散乱強度を同時にモニターした。単量体から四量体までの成長速度(単量体、二量体、三量体、四量体)をM−PNPがI−PNP単量体に比べて過量に存在することを仮定して3段階の連続反応により最適化した。二量体、三量体、及び四量体の形成に対する速度定数は、それぞれ0.0165、0.0116及び0.0061s−と算出した。前記モデルは、ナノ粒子クラスターの成長動力学が180秒以内の時間で実行されることを説明する。前記結果は、二量体から三量体の形成が単量体から二量体の形成よりも困難で速度の遅い過程であり、DNA修飾PNPプローブ間の立体障害により、四量体の形成は最も困難で、時間消耗的な過程であるという仮定に対する直接的な証拠である。立体障害因子(f)を考慮し、三量体及び四量体の形成の速度定数は、それぞれ及びで表現することができる。立体障害因子は、最適化された速度定数から計算することができる(fdimに対して0.7040、ftriに対して0.3716)。透過電子顕微鏡の測定は、PNPクラスタが、他の幾何学的形状に形成されることを示す(図13)。このような観察に基づいて、本発明者らは2D二量体及び2D三量体に対する次のPNPの添加に対して立体因子を幾何学的に計算した(幾何学的に計算された立体障害因子;fdim=0.6667及びftri=0.3750;図14)。これらの数値は、最適化された(fitted)速度定数から取得した立体因子と一致し、このことは、3段階の連続反応モデルがDNA修飾PNPプローブの2Dクラスタの成長を説明していることを示す。
【0067】
最後に、本発明者らは、クラスタで反応した粒子数に対する光学的検定基準を示し、前記標準曲線に基づいて、標的DNAの検出を行い、PNP結合SLBプラットフォームの検出感度を評価した。30個の個々のクラスタを同時に分析して検定標準プロットを獲得し、粒子添加イベントをすべて分析して記録することによりクラスタ内の粒子数を確認した。単一のフレーム収集内に複数のPNPプローブを同時に添加することを防ぐために、フレーム速度を毎秒5.3フレームに上昇させた。本発明者らは、平均化された散乱強度をプロットして、クラスタされた粒子数との線形関係を確認した(R=0.999、図15a)。図5に相応する分布を示した。その結果は、狭い標準偏差を示し、本発明者らはクラスタ化された状態を明確に区別することができた。
【0068】
6.3.SLB上に連結された相補的DNAが修飾されたPNPとの相互作用を利用した標的DNA検出の限界
標的DNAとその相補的な配列との相互作用により形成された金ナノ粒子クラスターの場合、散乱信号の強度増加が明確であり、単一ナノ粒子レベルで観察が可能であるため、クラスターの形成程度を定量化する場合は、標的DNAを検知するバイオセンサーとして応用することができる。したがって、標的DNAの濃度に応じて、ナノ粒子クラスターが形成され、変化する暗視野顕微鏡イメージの信号の明度を分析し、検出可能な濃度範囲を確認した。金フィルムに挿入された(embeded)120×120μmのSLBパターンでDNAの検出を行った(図15b)。PNP−修飾されたSLBを4時間の間300aM〜300fMの範囲の異なる濃度の標的DNAと反応させた。対照試料を含む、すべての試料は、本発明に係るアッセイの選択性を検証するために、300fMの非相補的DNA配列を含む。本発明に使用された標的DNAの濃度範囲でPNPは、三量体及び四量体へのさらなる成長はせずに、二量体のみを形成した。カップルされた二量体散乱強度を示すI−PNP位置(>3.5倍−の向上;図15a)を標的DNA配列に対する光学的信号として係数した(図15b)。アッセイ結果は、最適化過程なしに30fMの検出限界を示した(図15c)。また、単一塩基対の不一致DNA配列も明確に区別された(図15c)。
【0069】
このような高い感度は、SLB上で動くM−PNPと動かないI−PNPが同じ2次元平面で移動して反応するため、衝突の確率が高くなり、迅速な反応を示すことができることを意味する。実際に、M−PNPを支持型脂質二重層に導入せずに、溶液上に分散させた後、SLB上に固定されたI−PNPと反応させる場合、非常にゆっくりと非効率的な反応を起こすことが観察された。
【0070】
6.4.外部刺激によるSLB上に連結されたナノ粒子の分布調節及びプラズモンカップリング誘導
SLB上に導入された金属ナノ粒子のビオチン結合価を適切に調節すると、ナノ粒子は、SLB上で流動性を有するようになる。流動的なナノ粒子は、自由な2次元拡散運動をするようになるが、外部からの刺激(例えば、電場あるいは流体の流れ)を利用し、SLB上でナノ粒子が所望の方向に移動するように調節することができ、この時、刺激の強度、すなわち、加えられる電場のサイズまたは流速を変化させることにより、粒子の移動速度も調節可能である。図16に示すように、パターン化されたSLBでナノ粒子の空間的分布を操作する場合、特定の部分で粒子の密度を高め、粒子間の衝突頻度を大幅に向上させることができる。したがって、SLB上でナノ粒子間の相互作用を増加させて反応速度を向上させ、バイオセンサーの感度を高め、検知時間を短縮させることができる。また、粒子間の距離を調節してプラズモンカップリングを調節するためのプラットフォームとして使用することもできる。
【0071】
具体的には、SLBのプラットフォームに導入された金属ナノ粒子の動きを制御するために、ガラス基板上にフローチャネルを作製した。上部スライドグラスの両側に穴を形成して流体の流れを作るための緩衝溶液を導入するようにした。このような方法でチャネルの内部に流体の流れを導入すれば、ナノ粒子は、2次元の自由拡散運動において少しずつ経路を変化させながら、特定の方向に移動するようになる。流速を増加させるほど、このような移動傾向がはっきりと観察された(図17a及びb)。Crを用いてSLBをパターン化する場合、ナノ粒子がCr障壁の外部に出ずに閉じ込められる(図16右下段)。この時、流体の流れでナノ粒子の運動方向を一方的に調節すると、ナノ粒子が流体の流れと同じ方向に移動して濃縮されるという現象を観察することができる(図18a及びb)。金と銀ナノ粒子は両方とも流動性ナノ粒子が一方向に蓄積されて特有の表面プラズモン共鳴(surface plasmon resnonace)の波長の色を示すことを確認した。また、流体の流れを反対方向に変える場合、濃縮されていたナノ粒子が逆方向に移動し、同様に蓄積されることが観察された。
【0072】
パターンをさらに拡張して数mmのサイズに製作する場合、より多くのナノ粒子を一箇所に集中させることができる。広い領域のナノ粒子を集めるために台形型のパターンを製作し、6ml/hの流速で約30分間ナノ粒子を密集させた。密集したナノ粒子は、パターンの終端の部分で特有のプラズモン散乱色を帯びていることを暗視野顕微鏡により確認した。この時、ナノ粒子は、流体の流れに後押しする力とDNAが修飾されたナノ粒子間のファンデルワールス(Van der Walls)の相互作用とDNA分子間の立体反発力(steric repulsion)、静電反発力(electrostatic repulsion)により平衡をなしている。ナノ粒子間の距離を狭めるために、本研究では、流体に含まれるNaCl塩の濃度を増加させた。NaCl濃度を増加させることにより、ナノ粒子間の静電反発力が減少し、粒子間の距離がより近づいてプラズモンカップリングが誘導されることを確認した。この時の散乱スペクトルを測定して分析した(図19a及びb、図20a及びb)。散乱スペクトルの最大ピークは、塩の濃度が増加するにつれて、長波長移動(red shift)を示した。ナノ粒子のゼータ電位の測定結果、塩の濃度が増加するにつれて、ナノ粒子の表面電荷が減少することを確認し、その結果、粒子間の静電反発力が減少し、距離が近づいたことを確認した(図19c及び20c)。
【0073】
6.5.生体模倣型人工細胞膜プラットフォームの開発
細胞膜は、細胞の内部と外部を区別する構造物であり、リン脂質及びタンパク質分子で構成された薄いリン脂質二重層である。細胞膜は、選択的な透過性を有し、複数のタンパク質を通じて細胞の機能及び組織を維持する機能を行う。このように、細胞膜では細胞の恒常性の維持及び必須機能のための多様な生物学的現象が行われているため、細胞膜での生物学的及び細胞生物学的な理解は非常に重要である。
【0074】
このような点に着眼し、前記実施例6.4.に開示した電気的または流体学的に調節可能な人工細胞膜の構造であるSLBプラットフォームを利用し、細胞の挙動を観察することができる。人工細胞膜であるSLBに化学的、生物学的結合方法を使用し、生体物質を含む金属ナノ粒子のような標識物質を導入し、前記標識物質の光学的特性を検出し、細胞の挙動をモニタリングすることができる。SLBに導入された生体物質は、細胞内部に信号伝達を誘導したり、外部的に表現型を調節するなどの反応を誘導することができる。このような観察は、実際の細胞膜で起こる生物学的反応と似ているという点で、これまで明らかになっていなかった新たな生物学的メカニズムを解明するのに役立てることができる。
【0075】
プラズモン共鳴のような光学的特性を有している金属ナノ粒子は、周辺の粒子との距離に依存して混成化することができる。このような特性のため、周辺の金属粒子との距離及びクラスタリングの程度に応じて、暗視野顕微鏡で観察したとき、それぞれ異なる色を帯びるようになる。また、金属ナノ粒子は、強いプラズモン散乱により長時間高い信号対雑音比(S/N ratio)で観察が可能である。プラズモン散乱信号だけでなく、いくつかのマルチ検知が可能な表面増強ラマン散乱(surface-enhanced Rman scattering)信号を発生する細胞のモニタリングプローブを細胞膜に導入することにより、細胞の反応を観察することができる。
【0076】
したがって、生体物質を含む金属ナノ粒子をSLB表面に導入して細胞を培養した後、細胞による金属ナノ粒子の動きを光学的に分析することができる。これは、細胞の挙動をリアルタイムで観察することができるというメリットだけでなく、細胞と生体物質の相互作用をナノレベルでリアルタイムでモニタリングすることができるという点で、細胞シグナル伝達機構をより精密に分析することができるようにする(図21)。
【0077】
実施例7:赤/緑/青(RGB)の三色のナノプローブを用いた多重検知
金及び銀のような貴金属ナノ粒子は、プラズモン共鳴現象を示し、ナノ粒子の形状及び/またはサイズに応じて多様な色を散乱する特性を有するため、このような特性を利用し、ナノ粒子の組成、形状、及び/またはサイズを変化させ、それぞれ赤、青、または緑色の光を散乱させるナノ粒子を提供することができ、これらのナノ粒子は、互いに異なる色を表すため、暗視野顕微鏡で区分が可能である。したがって、互いに異なる結合の区分を可能にすることにより、これらのそれぞれ異なる3色のナノ粒子を使用してmiRNAの多重検知に対する適用可能性を確認した。一方、miRNAは、生体内の機能を調節する短いRNA鎖で、がんのような疾患を有する患者から誤発現することが知られているため、がんなどの疾患を診断するバイオマーカーとして作用することができる。様々ながん疾患で確認された誤発現されるmiRNAを表2に示した。
【0078】
【表2】
7.1.RGB三色ナノ粒子の製造
赤色を散乱するナノ粒子は、15nm×15nm×45nmサイズの金ナノロッドに約5nmの厚さで銀のシェルをコーティングして製造した。緑色を散乱するナノ粒子としては、50nmの直径の球状の金ナノ粒子を使用した。一方、青色を散乱するナノ粒子は、20nmの直径の球状の金ナノ粒子に約10nmの厚さの銀のシェルを導入して製造した。前記製造されたそれぞれのナノ粒子を暗視野顕微鏡及び電子顕微鏡を用いて色相と形態を確認し、その結果を図22に示した。また、各粒子の吸収/散乱スペクトルを測定し、共に示した(図22右)。
【0079】
7.2.三色ナノプローブの結合を通じたマイクロRNAの多重検知
前記実施例7.2.から得たそれぞれのナノ粒子に、実施例3と同様の方法でDNAを導入して機能化してナノプローブを合成した。実施例4と同様の方法で、前記三色のナノプローブの移動性を調節して三色のナノ粒子のそれぞれに対して、I−PNP(以下、IR、IG、及びIBと表記)及びM−PNP(以下、MR、MG及びMBと記す)、計6種のナノプローブをSLB上に導入した。実施例6.1.で確認したように、プラズモン共鳴散乱を示す金属ナノ粒子は、これに結合された相補的な配列のDNAの混成化に応じて互いに接近して2つ以上の粒子がクラスターを形成し、これにより、プラズモン散乱強度が変わるだけではなく、プラズモン色の変化を伴うため(図5〜7)、これを互いに異なる色を表す3つの粒子に適用すると、互いの組み合わせによりプラズモンスペクトルから計9種の異なる変化が示されると予想することができ(図23a)、これを具体的な実施例を通じて確認した(図23b〜23d)。具体的には、それぞれのナノプローブを組み合わせて、9つのmiRNA(図23b)と結合することができるように相補的なDNAで改質し、各結合をリアルタイムで観察することができるだけでなく、9種のmiRNAを定量的に分析することができることを確認した。結合前(0分)、及び60分間反応させた後(60分)、同じフレームで測定した暗視野顕微鏡イメージを図23cに示し、反応時間による累積結合数の変化を図23dに示した。固定された個々の粒子(IR、IG及びIB)で経時による同種または異種粒子との結合によるプラズモン散乱スペクトルの変化をそれぞれ図24〜26に示し、暗視野顕微鏡を用いて前記それぞれのカラー(それぞれ互いに異なるプラズモン散乱波長)を有する、及び/または移動度を有する複数の粒子の挙動及びその測定方法を図27に概略的に示した。したがって、本発明の多重検知方法は、9種以上のmiRNAを同時に定性及び/または定量分析することができるため、6種以上の異なる種類のがんを区別して診断するのに使用することができる。
【0080】
相補的配列認識によるmiRNAの検出の例を図28に示し、前記多重検知の可能性を確認するために使用された9種のmiRNAの配列及びこれらを検出するために、それぞれの粒子に導入したDNA配列を下記表3に示した。
【0081】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23a
図23b
図23c
図23d
図24a
図24b
図24c
図25a
図25b
図26a
図26b
図26c
図27
図28