(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402379
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】床材の試験方法及び試験機
(51)【国際特許分類】
G01N 3/34 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
G01N3/34 F
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-197836(P2014-197836)
(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公開番号】特開2016-70715(P2016-70715A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000108719
【氏名又は名称】タキロンシーアイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129632
【弁理士】
【氏名又は名称】仲 晃一
(74)【代理人】
【識別番号】100090608
【弁理士】
【氏名又は名称】河▲崎▼ 眞樹
(72)【発明者】
【氏名】宋 学方
(72)【発明者】
【氏名】藤戸 敬三
(72)【発明者】
【氏名】清水 栄
(72)【発明者】
【氏名】日野下 守
【審査官】
伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭53−043584(JP,A)
【文献】
特開昭53−066287(JP,A)
【文献】
実開昭58−160333(JP,U)
【文献】
特許第2831459(JP,B2)
【文献】
特公昭55−37691(JP,B2)
【文献】
実開平6−55410(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0096588(US,A1)
【文献】
工藤瑠美 ほか,歩行負荷を代表とする摩耗によるすべり抵抗の変化のを再現するための床の摩耗試験機の設計・試作 摩耗による床のすべり抵抗の変化の即時推定方法に関する研究(その2),日本建築学会構造系論文集,2008年 9月,第73巻,第631号,1483−1487頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 − 3/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
床材を試験する方法であって、支持台上に床材の試験体を載置し、当接部材を駆動軸の回転に連動してロッドを略上下方向に移動させ、当該ロッドに取り付けられた当接部材を、試験体の表面に複数回当接させた後、試験体の変化を評価することを特徴とする、床材の試験方法。
【請求項2】
請求項1に記載の床材の試験方法に用いる試験機であって、
駆動源によって回転する駆動軸と、
駆動軸の回転に連動して略上下方向に移動するロッドと、
ロッドに取付けられた当接部材と、
床材の試験体を載置する支持台と、を備え、
支持台上に載置された床材の試験体の表面に、当接部材を駆動軸の回転に連動して複数回当接させるようにしたことを特徴とする、床材の試験機。
【請求項3】
前記駆動軸の下方に、前記ロッドの移動を案内するガイド部が枢支軸を中心に前後方向に揺動自在に設けられていることを特徴とする、請求項2に記載の試験機。
【請求項4】
前記ガイド部の枢支軸が前記駆動軸より前側に位置していることを特徴とする、請求項3に記載の試験機。
【請求項5】
前記駆動軸から直交方向に一定距離をおいて設けられ、前記駆動軸の回転に伴って旋回する係止部が、前記ロッドの上端部に設けられた長孔に係合されていることを特徴とする、請求項2ないし請求項4のいずれかに記載の試験機。
【請求項6】
前記支持台が前後方向にスライド可能に設けられ、前記支持台がスライド範囲の後端までスライドしたときに前記支持台の後方へのスライドを停止させるストッパーが設けられていることを特徴とする、請求項2ないし請求項5のいずれかに記載の試験機。
【請求項7】
前記ロッドの長さ方向に沿って下端側に荷重を加える荷重付加手段が設けられていることを特徴とする、請求項2ないし請求項6のいずれかに記載の試験機。
【請求項8】
前記当接部材が、連結角度が可変となるように連結された複数の部分から構成されていることを特徴とする、請求項2ないし請求項7のいずれかに記載の試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集合住宅や店舗、ビルなどの廊下やバルコニー、階段などを被覆する合成樹脂等により製造された床材を評価する床材の試験方法及び試験機に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の外壁仕上げ材、屋根板材等の屋外に暴露される各種材料の汚染、劣化、耐久性を調べるための試験機として、試験室内に水平に配備され間欠回転する回転軸上の試料ホルダーに試料を着脱可能に取付け、試料ホルダー先端の捕集器により、試験室下部の懸濁液槽からの懸濁液の捕集、捕集した懸濁液の試料上への流下及び懸濁液を付着させた試料への温風吹き付けを繰り返して、試料を汚染させ、温風吹き付けの際は、回転軸に突設され該回転軸と一体に回転する仕切板によって、懸濁液槽側の下部空間を温風吹き付け側の上部空間から一時的に仕切る汚染促進試験器が知られている(特許文献1)。
【0003】
前記汚染促進試験器は、試験室下部の懸濁液槽から懸濁液を捕集し、その捕集した懸濁液を建造物の外壁仕上げ材、屋根板材等の上から流下させ、該懸濁液が付着された外壁仕上げ材等へ温風吹き付けを繰り返し行うことにより、外壁仕上げ材等の汚染を促進して、それら各種材料の汚染、劣化、耐久性を実験するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】登録実用新案第3004344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、集合住宅等の床面を被覆する床材は、その表面を人間が歩行することにより、足裏(靴底)に付着した汚れ物質や固形物などが付着すると共に、磨耗や傷付き、或いは、ヘタリ等が生じる。特に、足裏に付着した固形物には、床材の表面を磨滅させたり傷付けたりする物質が含まれていることが多く、床材が磨滅したり傷付いた状態において汚れ物質が付着すると、床材の汚れが加速度的に進行してしまう。このように、汚れ物質の付着と、床材の摩耗や傷付きが複合的に重なり合うことにより、床材の美観が損なわれたり、防滑性や排水性など、床材に本来付与されている機能が損なわれたりすることから、実際の使用態様に近い状況を作り上げて、複合的に評価することが求められている。
【0006】
前記のように、複合的な評価が求められている床材試験において、前記特許文献1の汚染促進試験器では、床材の表面に汚れ物質を付着させることは可能であるが、摩耗や傷付き等までを再現することができないため、実際の床材試験では、人間が床材の表面を繰り返し歩行することにより、耐久性やその他の評価がなされていた。
【0007】
しかしながら、床材の評価試験を行うには、膨大な歩行データが必要となることから、試験には相当数の実験者が必要となり、時間も要するという問題があった。また、正確な歩行回数を計測する作業は煩雑であり、複数の実験者は各々体重等が異なることから、毎回同一の状況下での統一的な評価試験を行うことが困難であった。
【0008】
本発明は前記の問題に鑑みてなされたもので、その解決しようとする課題は、床材の耐汚れ性、耐摩耗性、耐傷付き性、或いは、ヘタリ等の複合的な評価を、毎回同一の状況下において、正確且つ迅速に行うことのできる床材の試験方法及び試験機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明に係る床材の試験方法は、床材を試験する方法であって、支持台上に床材の試験体を載置し、当接部材を駆動軸の回転に連動して
ロッドを略上下方向に移動させ、当該ロッドに取り付けられた当接部材を、試験体の表面に複数回当接させた後、試験体の変化を評価することを特徴とする、ものである。
【0010】
また、前記床材の試験方法に用いる本発明の試験機は、
駆動源によって回転する駆動軸と、
駆動軸の回転に連動して略上下方向に移動するロッドと、
ロッドの下端に取付けられた当接部材と、
床材の試験体を載置する支持台と、を備え、
支持台上に載置された床材の試験体の表面に、当接部材を駆動軸の回転に連動して複数回当接させるようにしたことを特徴とする。
【0011】
本発明の試験機においては、前記駆動軸の下方に、前記ロッドの移動を案内するガイド部が枢支軸を中心に前後方向に揺動自在に設けられていることが好ましく、前記ガイド部の枢支軸が前記駆動軸より前側に位置していることがより好ましい。また、前記駆動軸から直交方向に一定距離をおいて設けられ、前記駆動軸の回転に伴って旋回する係止部が、前記ロッドの上端部に設けられた長孔に係合されていることが好ましく、前記支持台が前後方向にスライド可能に設けられ、前記支持台がスライド範囲の後端までスライドしたときに前記支持台の後方へのスライドを停止させるストッパーが設けられていることがより好ましい。更に、前記ロッドの長さ方向に沿って下端側に荷重を加える荷重付加手段が設けられていることが好ましく、前記当接部材が、連結角度が可変となるように連結された複数の部分から構成されていることがより好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の床材の試験方法は、当接部材を試験体である床材の表面に複数回当接させた後、床材の変化(汚れ・摩耗・傷付き・ヘタリ等)を評価するものである。この当接部材は、駆動軸の回転に連動していることから、駆動軸が回転すると、当接部材はそれに連動して、歩行時の足の挙動に似た運動をしながら床材の表面に当接する。駆動軸は規則的に回転することから、当接部材も毎回同じように規則的に床材の表面に当接する。このように本発明は、人間の歩行を擬似的に再現することにより、実際の床材の使用態様に似た状況下で実験することができるため、床材の耐汚れ性、耐摩耗性、耐傷付き性、ヘタリ等の複合的な評価を、正確且つ同じ状況下において行うことができる。
【0013】
次に、前記床材の試験方法に用いる本発明の試験機は、駆動源によって回転する駆動軸と、駆動軸の回転に連動して略上下方向に移動するロッドと、ロッドの下端に取付けられた当接部材と、床材の試験体を載置する支持台と、を備えたものであり、このような試験機においては、駆動軸が回転すると、それに連動したロッドが略上下方向に移動する。そして、ロッドが略上下方向に移動すると、その下端に取付けられた当接部材が、支持台に載置された床材に繰り返し当接することになる。このように本発明の試験機は、人間の実歩行に近い足踏み運動を再現することができるものであり、これを用いて前記の床材の試験を行うと、床材の耐汚れ性、耐摩耗性、耐傷付き性、ヘタリ等の複合的な評価を、正確且つ迅速に行うことができる。
【0014】
また、前記駆動軸の下方に、前記ロッドの移動を案内するガイド部が枢支軸を中心に前後方向に揺動自在に設けられている試験機は、前記ロッドがガイド部に沿って前後に揺動しながら略上下に移動するため、ロッドの下端に取付けられた当接部材が歩行時の足の動きに似た動きになる。
【0015】
ここで人間の歩行は、脚を前方へ踏み出す際の角度(地面に対する脚の角度)が、脚を後方へ蹴り出す際の角度よりも大きい。これに鑑みて、試験機を、前記ガイド部の枢支軸が前記駆動軸より前側に位置する構成とすることにより、より一層実際の歩行に近い動きを再現することができるようになる。
尚、ここでいう「脚」とは、太腿又は膝よりも下の部分を指す(以下、同様)。
【0016】
また、前記駆動軸から直交方向に一定距離をおいて設けられ、前記駆動軸の回転に伴って旋回する係止部が、前記ロッドの上端部に設けられた長孔に係合されている試験機は、ロッドや当接部材の自重が試験体に付加されるようになり、より実際の歩行に近い状況を再現することができる。
【0017】
更に、前記支持台が前後方向にスライド可能に設けられ、前記支持台がスライド範囲の後端までスライドしたときに前記支持台の後方へのスライドを停止させるストッパーが設けられている試験機は、支持台が後端までスライドして停止したとき、当接部材が床材の表面を擦る運動が再現されるので、実際に人間が床材の上を歩行するのにより近い状況を作り上げることができる。
【0018】
また、前記ロッドの長さ方向に沿って下端側に荷重を加える荷重付加手段が設けられている試験機は、荷重付加手段によって試験体に自重よりも重い荷重を付加することが可能となり、これにより人間が歩行したのと略同じ状況を再現することができる。勿論、人間の体重以上の荷重を付加することによって、試験体の汚れ・摩耗・傷付き・ヘタリ等を促進させて、実験を促進することもできる。
【0019】
そして、前記当接部材が、連結角度が可変となるように連結された複数の部分から構成されている試験機は、当接部材が実際の人間の足と同じように動くようになる。即ち、実際の歩行では、先ず足の踵部分が床材に当接し、次いで、床材に足裏の全体が当接して、最後に足のつま先部分が当接した後、床材より足が離れる。この動きを連結角度が可変となるように連結された複数の部分から構成することにより、忠実に再現することができるようになって、実歩行に極めて近い状況下において実験を行うことができる。
尚、ここでいう「足」とは、人間の足首よりも下側に位置する部位を指し、この「足」は、前記の「脚」の中の一部分のことをいう(以下、同様)。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る床材の試験方法及び試験機を示す説明図であって、当接部材の後端部が試験体に当接した状態を示すものである。
【
図2】本発明の一実施形態に係る床材の試験方法及び試験機を示す説明図であって、当接部材の全体が試験体に当接した状態を示すものである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る床材の試験方法及び試験機を示す説明図であって、当接部材の前端部が試験体に当接した状態を示すものである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る床材の試験方法及び試験機を示す説明図であって、当接部材が試験体より離れた状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0022】
図1〜
図4に示す本発明の床材の試験方法は、次に説明する試験機を用いて、実際に人間が床材2の上を歩行しているのと同じ状況を再現することにより、床材2の耐汚れ性、耐摩耗性、耐傷付き性、或いは、ヘタリ等を複合的に評価するものである。
【0023】
前記床材2の試験方法に用いる試験機は、
図1等に示すように、駆動源によって回転する駆動軸4と、駆動軸4の回転に連動して略上下方向に移動するロッド5と、ロッド5の下端に取付けられた当接部材3と、試験体である床材2を載置する支持台1とを備え、支持台1上に載置された床材2の表面に、当接部材3を駆動軸4の回転に連動して床材2の表面に複数回当接させるようにしたものである。
【0024】
前記駆動軸4は、モーター等の駆動源によって回転(本実施形態では時計回り)する軸体であって、その先端には円板12が取付けられており、駆動軸4が回転すると、それに伴って円板12も同じように回転するようになっている。
【0025】
前記円板12表面の外周縁近傍には、後述する長孔9に係合する係止部8が設けられている。この係止部8は、駆動軸4の先端に取付けられた円板12の表面に設けることにより、駆動軸4から直交方向に一定の距離が保たれている。このような構成において、駆動軸4の回転と共に円板12が回転すると、その円板12に設けられた係止部8は、駆動軸4を中心にして時計回りに旋回する。係止部8は、ロッド5の上端部に設けられた長孔9と係合していることから、駆動軸4の駆動力は円板12から係止部8を介してロッド5に伝達されるようになっている。
【0026】
前記駆動軸4の駆動力が伝達されるロッド5は、金属製の丸棒又はパイプであって、駆動軸4が回転すると、それに連動して略上下方向に移動するようになっている。また、駆動軸4の下方には、ロッド5の移動を案内するガイド部6が枢支軸7を中心に前後方向に揺動自在に設けられており、これによりロッド5は、前後方向に揺動しながら略上下方向に移動するので、実際の歩行時の脚の動きと同じような動きをするようになっている。
【0027】
前記枢支軸7は、駆動軸4より前側に位置しており、これにより実際の人間の歩行により近い動きが再現されている。即ち、人間の歩行は、脚を前方に踏み出す際の角度(地面に対する脚の角度)が、脚を後方に蹴り出す際の角度よりも大きい。これに鑑みて、ガイド部6の枢支軸7を駆動軸4より前側に位置させることにより、
図1、
図3に示すように、ロッド5の下端が前方に移動した際の角度(鉛直方向に対するロッド5の角度が15°から35°の間で設定)が、ロッド5の下端が後方に移動した際の角度(5°から15°未満の間で設定)よりも大きくなっている。
【0028】
尚、この枢支軸7を駆動軸4の真下に位置させると、ロッド5の下端が前方に移動した際の角度と、ロッド5の下端が後方に移動した際の角度が等しくなり、枢支軸7を駆動軸4より後側に位置させると、ロッド5の下端が前方に移動した際の角度が、ロッド5の下端が後方に移動した際の角度よりも小さくなって、いずれの場合も実際の歩行時の脚の動きにあまり似ていない動きとなるので好ましくない。
【0029】
また、前記ロッド5の上端部には、前述した係止部8と係合する長孔9が設けられている。この長孔9は、前記係止部8の直径と略同じ幅寸法を有するものであり、その長さ寸法は、ロッド5の上下方向の移動寸法より少し長い寸法に決められている。この長孔9と前記係止部8が係合することにより、駆動軸4の駆動力がロッド5に伝達されて、ロッド5が前後方向に揺動しながら略上下方向に移動するようになっている。
【0030】
更に、前記ロッド5の下端には、床材2の表面に当接する当接部材3が取付けられている。この当接部材3は、人間の足(足首よりも下側部分)の形状を模したものであり、連結角度が可変となるように連結された複数の部分(第一の部位3a及び第二の部位3b)から構成されている。この第一の部位3aは、人間の足でいう土踏まずから踵部分及び足首に相当し、第二の部位3bは、人間の足でいうつま先部分に相当するように形成されている。
【0031】
前記第一の部位3aと第二の部位3bは、第一の可変部3cにより連結されており、第二の部位3bは荷重が付加されると、第一の可変部3cを中心にして回動するようになっている。また、ロッド5の下端と第一の部位3aとは、第二の可変部3dにより連結されており、第一の部位3aは、第二の可変部3dを中心にして回動するようになっている。このように当接部材3を第一の部位3a及び第二の部位3bから構成し、それぞれを可変部(第一の可変部3c,第二の可変部3d)により連結することで、実際の人間の足の動きを忠実に再現することができるようになっている。
尚、第一の可変部3c及び第二の可変部3dには、当接部材3に対する荷重が抜けた際に、元の足の形状に戻るように、適度の戻り特性を付与する(スプリング等を設ける)ことが好ましい。
【0032】
前記当接部材3は、床材2との当接面に、ゴムや樹脂、或いは、皮革など、靴底に相当する材質のものを設けることが好ましく、このように、当接部材3に
実際の靴底を想定してゴム等を設けることにより、人間が歩行するのと同じ状況で床材2の評価が可能となると共に、靴底毎の床材2の評価結果を対比することもできるようになる。勿論、この当接部材3に、実際の靴を履かせて床材2の試験を行ってもよい。
【0033】
尚、前記のように、当接部材3は、実際の人間の足の形状や硬度、反発力に近い方が好ましく、硬質の骨格の表面に軟質合成樹脂やゴムを被覆して形成してもよいが、例えば単なる金属製の平板を当接部材3とすることもでき、材質も限定されるものではない。
【0034】
また、前記ロッド5の長さ方向に沿って下端側に略上方からの荷重を加える荷重付加手段11が設けられている。前述したように、ロッド5の上端部に長孔9が設けられていることから、床材2には、ロッド5や当接部材3の自重は付加される。これに加えて、荷重付加手段11を設けることにより、自重以外の荷重を床材2に付加することが可能となって、実際に人間が歩行しているのと極めて近い状況下において床材2の評価試験を行うことができるようになっている。
【0035】
前記荷重付加手段11は、所謂、圧縮スプリングであって、そのバネレートは、平均的な体重の人間が歩行する際に付加される荷重に等しくなるように設定されている。この荷重付加手段11のバネレートを、実際の人間の体重以上にすることも可能で、そのようにすると、床材2の汚れ・摩耗・傷付き・ヘタリ等の評価試験を、促進的に行うこともできるようになる。
尚、荷重付加手段11は、下端側に略上方からの荷重を加えることができるものであれば、本実施形態のような圧縮スプリングに限定されるものではなく、例えば、試験機の近傍に錘を設け、その錘をベルトによってロッド5に連結することにより、下端側に荷重を付加することもできる。
【0036】
次に、評価試験の対象となる床材2は、塩化ビニル樹脂やポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱可塑性合成樹脂を主成分にして成形された一般的な床材が評価試験の対象として好適に用いられるが、ゴムや木、石、金属、パイルを植生したカーペットなども試験体2として採用することができる。この床材2は、実際の使用態様に近づけるために、可塑剤などの各種添加剤を含有させたり、表面に凹凸を形成したり、塗膜を形成する表面処理を行うなどすることにより、防滑性や排水性、防汚性などその他の機能を付与したうえで試験することが好ましい。
【0037】
前記の床材2は、支持台1の上に載置される。この床材2が載置される支持台1は、方形の台であって、その下面にはスライド部1bが設けられている。そして、このスライド部1bがレール10aにスライド自在に係合することによって、
図1〜
図4に示すように、支持台1がレール10aの上を前後方向にスライドするようになっている。また、レール10aの近傍には、支持台1がスライド範囲の後端までスライドしたときに、支持台1の後方へのスライドを停止させるストッパー10(衝撃吸収機能を有するストッパー)が設けられており、支持台1の下面から下方に突設された突設部1aがストッパー10に当接することにより、支持台1はそれ以上後方にはスライドしないようになっている。
【0038】
更に、前記支持台1の下面には、引張スプリング1cが設けられており、支持台1が当接部材3の後方への移動に伴って後方にスライドしてストッパー10で停止され、当接部材3が浮上すると、引張スプリング1cにより前方へ引き戻されるようになっている。このように、支持台1が後方にスライドして停止しても、上方からの荷重がなくなる(当接部材3が床材2から離れる)と、支持台1は、元の位置(
図1、
図4に示す位置)に戻るようになっている。前記のように支持台1を前後方向にスライド可能として、ストッパー10によって後方へのスライドを停止させると、後方へのスライドが停止された後は当接部材3が床材2の表面を擦る摩擦運動が再現されて、実際に人間が床材2の上を歩行するのに極めて近い状況を作り上げることができる。即ち、このストッパー10を設けることにより、歩行時に脚を後方に蹴り出す際に床面を擦る運動が正確に再現できるのである。ストッパー10の設置位置は、試験機各部位の位置関係によって決定されるものであるが、足のつま先に相当する第二の部位3bが試験体から離れた直後の位置とすることが好ましい。
【0039】
本実施例では、ロッド5を駆動させるのに円板12を用いた場合を示したが、その他の実施例としては、駆動軸4にクランク(不図示)を採用したり、カム(不図示)を採用したりすることもできる。ただし、これらの実施態様は、これまで記載した本実施例と略同じであるため、詳細な説明を省略する。
【0040】
次に、前記のような構成の試験機を用いる、本発明の床材の試験方法を説明する。
【0041】
本発明の床材2の試験方法は、まず、支持台1の上に、試験体となる床材2を載置する。この際、当接部材3が前後に揺動しても、その先端と後端が床材2の表面からはみ出さないようにする。実際の使用態様では、靴底に汚れ物質や固形物が付着していることから、それに似た状況を再現するため、床材2の表面に、予め汚れ物質(不図示)を散布しておくことが好ましく、試験時間(歩行回数)が長い場合は随時汚れ物質を供給してもよい。
【0042】
前記床材2の表面に散布される汚れ物質は、特に限定されるものではないが、床材2の耐汚れ性、耐摩耗性、耐傷付き性を評価するには、ピートモス、ポルトランドセメント、はくとう土、けいそう土、カーボンブラック、フェライト用酸化鉄、ヌジョール、及び、水を、JIS L 1023に準ずる配合比に従って配合したものを用いることが好ましい。この際、適宜珪砂などの粒状物を添加して、試験体への摩耗要素を大きくしてもよい。
【0043】
前記のように、床材2を支持台1上に載置すると、駆動源によって駆動軸4を回転させる。本実施形態では、
図1に示すように、支持台1が引張スプリング1cにより前方へ引張されておらず(即ち、支持台1が後方にスライドしていない状態)、且つ、当接部材3の後端部が床材2の表面に当接している状態(脚を踏み出して床材2に踵が当接した状態)において、駆動軸4を回転させている。駆動軸4が回転すると、それに伴って駆動軸4の先端に取付けられた円板12も回転し、その円板12の外周縁に設けられた係止部8は、駆動軸4から直交方向に一定の距離を保ちながら、駆動軸4を中心にして時計回りに旋回を始める。
【0044】
前記係止部8は、ロッド5の上端部に設けられた長孔9に係合されているため、長孔9の内部を移動しながら旋回することになる。駆動軸4と枢支軸7の位置は固定されているため、係止部8が旋回すると、ロッド5の移動を案内するガイド部6は、枢支軸7を中心に揺動し、それに伴いロッド5や当接部材3も揺動する。
【0045】
前記のように、係止部8が旋回すると、
図2に示すように、係止部8が略7時〜8時方向の位置まで旋回したときに、ロッド5が直立するようになる。このとき、当接部材3は、下面の略全部が床材2の表面に当接した状態であり、当接部材3が枢支軸7の真下まで後方へ移動したのに伴って、その移動距離と同じだけ支持台1も後方にスライドする。そして、荷重付加手段11(圧縮スプリング)が圧縮されて、それにより上方から床材2に荷重が付加されている。これにより、実際の人間の歩行において、脚を踏み出してから脚を蹴り出すまでの中間の動きを再現している。
【0046】
そして、
図3に示すように、係止部8が略9時〜10時方向の位置まで旋回すると、当接部材3が最も後方へ移動した状態、即ち、人間の歩行において、脚を後方へ蹴り出す際の状態となる。当接部材3が後方へ移動するのに伴って、支持台1も後方へとスライドし、このとき、支持台1の突設部1aがストッパー10に当たるので、それ以上、支持台1が後方へスライドすることはない。また、ロッド5が傾斜するのに伴い、当接部材3の第一の部位3aに対して第二の部位3bが、第一の可変部3cを中心に回動すると共に、ロッド5に対して当接部材3が、第二の可変部3dを中心に回動する。従って、係止部8が略9時〜10時方向の位置まで旋回した状態においては、当接部材3の第二の部位3bのみが、床材2の表面に当接することになる。このように当接部材3を連結角度が可変となるように連結された複数の部分(3a,3b)から構成することで、人間のつま先及び足首の動きを忠実に再現することができる。
【0047】
図4においては、当接部材3が床材2より離れた状態を示す。このとき、係止部8は略12時方向の位置まで旋回しており、ロッド5が上方に引っ張られることにより、当接部材3が床材2より離れる。当接部材3が床材2から離れると、上方からの荷重がなくなった支持台1は、引張スプリング1cにより前方に引張られて、元の位置までスライドする。そして、係止部8が略4時方向の位置まで旋回すると、当接部材3、ロッド5やガイド部6は、
図1に示す状態に戻る。
【0048】
以上のように、駆動軸4が一回転する毎に、
図1に示す人間の脚を踏み出す動き、
図2に示す人間の脚を踏ん張る動き、
図3に示す人間の脚を蹴り出す動き、及び、
図4に示す人間の脚を持ち上げた動きが忠実に再現される。従って、これを繰り返して、当接部材3を、歩行時の脚の挙動に似た動きをさせながら床材2の表面に複数回当接させた後、床材2の各種変化を評価することにより、実際の使用態様と略同じ状況下において、床材2の耐汚れ性、耐摩耗性、耐傷付き性、ヘタリ等の評価を複合的に試験することができる。
【0049】
前記床材2を評価する方法は、目視によって床材2の汚れや摩耗、傷付きの程度、厚みの変化を確認することにより行われる。これに加えて、試験前後の床材2表面の色差、光沢差や表面傷深さなどの表面特性の変化や質量変化、厚み変化、床材層間の剥離状態(試験体である床材2が複層で形成されている場合)などを比べることで評価することが好ましい。更に、床材2の裏面と支持台1の表面との貼着状態(床材2を支持台1に貼着剤によって貼着した場合)を確認することにより、床材2と貼着剤との貼着性の評価を行うこともできる。本発明は、支持台1が前後方向にスライドすることから、当接部材3(靴底)が床材2の表面を擦る摩擦運動までをも再現することができる。従って、床材2の表面性能を評価するのに優れ、特に床材2表面の汚染性を評価するのに適した試験方法である。
【符号の説明】
【0050】
1 支持台
1a 突設部
1b スライド部
1c 引張スプリング
2 試験体(床材)
3 当接部材
3a 複数の部分(第一の部位)
3b 複数の部分(第二の部位)
3c 第一の可変部
3d 第二の可変部
4 駆動軸
5 ロッド
6 ガイド部
7 枢支軸
8 係止部
9 長孔
10 ストッパー
10a レール
11 荷重付加手段
12 円板