(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、必須成分として、熱可塑性ポリエステル樹脂と、不飽和脂肪酸エステルを含む脂肪酸化合物と、ガラス繊維とを含む。以下、各成分について詳述する。
【0008】
熱可塑性ポリエステル樹脂
熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリカルボン酸とポリアルコールとの重縮合体である熱可塑性樹脂を特に制限なく用いることができる。
熱可塑性ポリエステル樹脂の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂やポリブチレンテレフタレート樹脂等が挙げられ、ポリエチレンテレフタレート樹脂及びポリブチレンテレフタレート樹脂が好ましい。
本発明で用いる熱可塑性ポリエステル樹脂は結晶性樹脂であってもよい。
熱可塑性ポリエステル樹脂は、その粘度平均分子量が、成形性の点から15,000〜30,000であると好ましく、20,000〜25,000であるとより好ましい。粘度平均分子量はJIS K7252によって測定することができる。
本発明では、1種類の熱可塑性ポリエステル樹脂を単独で用いてもよく、複数種類の熱可塑性ポリエステル樹脂を組み合わせて用いてもよい。
熱可塑性ポリエステル樹脂は公知物質であり、市場において容易に入手することができるか、又は、調製可能である。
【0009】
不飽和脂肪酸エステルを含む脂肪酸化合物
本発明で使用する脂肪酸化合物は、熱可塑性ポリエステル樹脂の成形時の流動性を改善する流動性改良剤として作用する。
【0010】
脂肪酸化合物は、不飽和脂肪酸エステルを含む脂肪酸エステルの混合物である。
本発明で用いる脂肪酸化合物は、該脂肪酸化合物の総質量を基準として45〜100質量%、好ましくは65〜100質量%、より好ましくは70〜95質量%の不飽和脂肪酸エステルを含有する。
不飽和脂肪酸エステルとは、脂肪酸化合物を構成する脂肪酸エステルのうち、不飽和脂肪酸から得られるもの(すなわち、不飽和脂肪酸エステル)をいう。
不飽和脂肪酸エステルの含量が45質量%以上であると、ポリエステル樹脂組成物の流動性を改善しつつ、成形品の機械的強度の低下を抑制することができる。
不飽和脂肪酸エステルの含量が100質量%以下であると、熱可塑性ポリエステル樹脂と脂肪酸化合物とを混練するコンパウンド工程時の加熱により、不飽和脂肪酸エステル間での架橋度が高くなりすぎることを抑制し、コンパウンド工程後に行う成形時に脂肪酸化合物による流動性の改良効果を十分に発現させることができる。
不飽和脂肪酸エステルの含量は、油脂分析で用いられている手段を特に制限なく用いて求めることができる。例えば、脂肪酸化合物を加水分解して、三フッ化ホウ素-メタノール法によるメチルエステル化、あるいは、ビロリジド化、ジメチルジスルフィド誘導体化のいずれかの処理後に、ガスクロマトグラフ質量分析することにより測定することができる。また、脂肪酸化合物の生成に用いる反応が、生成後の脂肪酸化合物中の不飽和脂肪酸含有量を予め特定できる反応である場合には、反応生成物の不飽和脂肪酸エステルの含量を測定せずに、反応前の不飽和脂肪酸の配合比から不飽和脂肪酸エステルの含量を求めてもよい。
【0011】
脂肪酸化合物を構成する脂肪酸エステルとしては、脂肪酸とヒドロキシル基含有化合物とを縮合反応させることによって得られる化合物を特に制限なく用いることができる。
【0012】
脂肪酸は、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸とに分類される。
飽和脂肪酸としては、ミリスチン酸や、炭素数が16〜20であるパルミチン酸、ステアリン酸や、アラキジン酸が好ましく、ステアリン酸がより好ましい。
不飽和脂肪酸としては、例えばリシノール酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ヘキサデセン酸、エイコセン酸、エルシン酸や、ドコサジエン酸等が挙げられる。不飽和脂肪酸としてはオレイン酸、リノール酸やリノレン酸がより好ましい。
ヒドロキシル基含有化合物としては、グリコール類[例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール等]、糖アルコール類[例えば、トリトール(グリセリン)、テトリトール(エリスリトール)、ペンチトール(リビトール、キシリトール等)、ヘキシトール(ソルビトール、マンニトール等)、ペプチトール、オクチトール等]、単糖類[例えば、トリオース(グリセルアルデヒド)、テトロース(エリトロース、トレオース等)、ペントース(リボース、リブロース、キシロース、キシルロース、リキソース等)、ヘキソース(グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース等)、ヘプトース等]、及び、ポリグリセリン[例えば、テトラグリセリン、ヘキサグリセリン等]、スターチ、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
ヒドロキシル基含有化合物としてはグリセリン、ソルビトール、グルコースや、ポリグリセリンが好ましく、ポリグリセリンがより好ましい。
【0013】
脂肪酸化合物は、単一種類の不飽和脂肪酸エステルを含んでいてもよく、複数種類の不飽和脂肪酸エステルを含んでいてもよい。
【0014】
脂肪酸化合物の平均分子量は800〜5000、好ましくは1000〜5000、より好ましくは1000〜4000である。
平均分子量が800〜5000であると、熱可塑性ポリエステル樹脂へ配合したときに、ポリエステル樹脂組成物の流動性を改善し、かつ、成形品の機械的強度の低下を抑制することができる。
また、平均分子量が800以上であると、熱可塑性ポリエステル樹脂と脂肪酸化合物と混練するコンパウンド工程時の加熱により、脂肪酸エステルが揮発することを抑制し、所望する流動性改良効果を得つつ、火災の危険性を抑制することができる。
平均分子量が5000以下であると、熱可塑性ポリエステル樹脂へ配合したときに、樹脂組成物の成形時の流動性を十分に改良することができる。
脂肪酸化合物の平均分子量はJIS K7252に準拠して測定することができる。
【0015】
本発明で用いる脂肪酸化合物のヨウ素価は50〜120であり、好ましくは70〜100であり、より好ましくは70〜90である。ヨウ素価は、脂肪酸化合物に含まれる炭素‐炭素間の二重結合に付加反応するヨウ素の質量を表している。したがって、ヨウ素価が高いほど、脂肪酸化合物に含まれる炭素‐炭素間の二重結合の数が多いことを示している。
脂肪酸化合物のヨウ素価が50以上であると、熱可塑性ポリエステル樹脂へ配合したときに、ポリエステル樹脂組成物の流動性を改善し、かつ、成形品の機械的強度の低下を抑制することができる。
脂肪酸化合物のヨウ素価が120以下であると、加熱時に生じる不飽和脂肪酸エステル間の酸素架橋の度合いが高くなることを抑制し、熱可塑性ポリエステル樹脂へ配合したときに樹脂組成物の成形時の流動性改良の効果を十分に得つつ、成形品の機械的強度の低下を抑制することができる。
脂肪酸化合物のヨウ素価はJIS K0070に準拠して測定することができる。
【0016】
上記の物性を有する脂肪酸化合物は公知物質であり、市場において容易に入手することできるか、又は、調製可能である。
【0017】
脂肪酸化合物の配合量(含量)は、熱可塑性ポリエステル樹脂100質量部に対して0.01〜0.5質量部、好ましくは0.01〜0.1質量部、より好ましくは0.01〜0.05質量部である。
脂肪酸化合物の配合量が0.01〜0.5質量部であると、所定の配合効果(ポリエステル樹脂組成物への流動性の付与)を発揮しつつ、樹脂成形品の機械的強度の低下を抑制することができる。
【0018】
ガラス繊維
ガラス繊維は、熱可塑性ポリエステル樹脂の成形品の機械的強度を向上するために配合する。
ガラス繊維としては、熱可塑性ポリエステル樹脂へ配合可能なものを特に制限なく使用することができる。ガラス繊維の材料としては、EガラスやSガラス等が挙げられ、Eガラス及びSガラスが好ましい。
ガラス繊維のアルカリ成分含量は、該ガラス繊維の総質量に対して好ましくは0.1〜1.0質量%、より好ましくは0.1〜0.7質量%である。アルカリ成分含量が0.1〜1.0質量%であるとガラス繊維のアルカリ分による熱可塑性ポリエステル樹脂の加水分解が抑制され、長期の使用や、耐水性を必要とする用途においても、当該成形品の物性低下が生じることがない。アルカリ成分とはナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の酸化物をいう。ガラス繊維のアルカリ成分含量はJIS R3420に従って測定することができる。
上述のアルカリ成分含量を有するガラスとしては、Eガラス及びSガラスが挙げられる。
その他のガラス繊維の物性(大きさ、比重、屈折率や強度等)は、熱可塑性ポリエステル樹脂へ適用可能なものである限り特に制限はない。
例えば、ガラス繊維の平均径は特に限定されないが、11〜17μmのものが好ましく用いられる。平均径が11〜17μmであると、ガラス繊維の強度を良好なものとし、結果として成形品の強度を良好なものとすることができる。
ガラス繊維の繊維長は特に限定されないが、3〜6mmのものが好ましく用いられる。繊維長が3〜6mmであると、熱可塑性ポリエステル樹脂とのコンパウンド及び成形後の成形品中でも高いアスペクト比を保持でき、成形品の機械的強度をより向上させることができる。
ガラス繊維は表面処理されたものであってもよい。表面処理手段は熱可塑性ポリエステル樹脂へ適用可能な公知ものを特に制限なく使用することができる。具体例としては、アミノシラン及びエポキシ樹脂による表面処理が挙げられる。アミノシラン及びエポキシ樹脂で表面処理すると、ガラス繊維と熱可塑性ポリエステル樹脂の界面での接着力が向上し、得られる成形品の機械的強度が向上する。
【0019】
本発明では、単一種類のガラス繊維を用いてもよく、複数種類のガラス繊維を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
ガラス繊維は公知物質であり、市場において容易に入手することできるか、又は、製造可能である。
公知の製造方法としては、例えば、溶融炉でガラス原料を連続的にガラス化してフォアハースに導き、フォアハースの底部にブッシングを取り付けて紡糸するダイレクトメルト(DM)法や、溶融したガラスをマーブル、カレット又は棒状に加工してから再溶融して紡糸する再溶融法等が挙げられる。
【0021】
ガラス繊維の配合量(含量)は、ポリエステル樹脂組成物の総質量に対して30〜70質量%、好ましくは40〜70質量%、より好ましくは50〜65質量%である。
ガラス繊維の配合量が30〜70質量%であると、所定の配合効果(熱可塑性ポリエステル樹脂成形品の機械的強度を向上)を発揮することができる。
【0022】
更に、本発明のポリエステル樹脂組成物(以下、本発明の樹脂組成物ともいう)には、本発明の所定の効果を損なわない範囲で、周知の添加剤を任意成分として配合することができる。例えば、酸化防止剤と配合すると、樹脂組成物の製造時や成形時の熱可塑性ポリエステル樹脂の分解を抑制することができる。
【0023】
本発明の樹脂組成物は、メルトフローレート(MFR)で表される流動性は、樹脂組成物中のガラス繊維含有率にもよるが、例えば、ガラス繊維含有率65質量%の場合、好ましくは25g/10分間〜40g/10分間、より好ましくは30g/10分間〜40g/10分間である。上記のMFR範囲であると、優れた成形性を得ることができる。MFRは、JIS K7210で規定される測定法(温度:280℃、荷重:5.0kgf)で測定することができる。
【0024】
本発明の樹脂組成物の製造は、ポリエステル樹脂組成物の製法として従来公知の方法を特に制限なく用いて実施することができる。好ましい製造方法としては、例えば、熱可塑性ポリエステル樹脂と、流動性改良剤(不飽和脂肪酸エステルを含む脂肪酸化合物)と、ガラス繊維と、任意成分とを混合機等で混合し、押出し機で溶融混練してペレット化する方法が挙げられる。
製造条件は適宜設定可能であり特に制限されないが、溶融混練時の加熱温度が260〜280℃の範囲であると熱可塑性ポリエステル樹脂の熱劣化させることなく、ガラス繊維が均一に熱可塑性ポリエステル樹脂中に分散できるように混練することができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物には、ポリエステル樹脂の成形法として従来公知の方法を特に制限なく適用することできる。
例えば、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形品(以下、本発明の成形品ともいう)は、ガラス繊維を含有する本発明のポリエステル樹脂組成物と、ガラス繊維不含の熱可塑性ポリエステル樹脂とを混練し、成形することにより製造することができる。この際、本発明の樹脂組成物とガラス繊維不含の熱可塑性ポリエステル樹脂との配合比を調節することで、成形品のガラス繊維含有率を調節してもよい。
成形品におけるガラス繊維の含量は、用途に応じて適宜設定することができるが、例えば、成形品の総質量に対して10〜50質量%、好ましくは10〜30質量%である。
成形法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法や、カレンダー成形法等が挙げられる。なかでも、射出成形法に対して、本発明の樹脂組成物を好適に用いることができる。
【0026】
成形条件は適宜設定可能であり特に限定されないが、成形時の樹脂温度が260〜280℃の範囲であると熱可塑性ポリエステル樹脂の熱劣化させることなく、型内に本発明の樹脂組成物を短時間で充填され、欠損のない成形品を得ることができるので好ましい。
【0027】
本発明の成形品の厚さに特に制限はなく、成形品の使用目的に応じて適宜設定することができるが、例えば1〜10mm、好ましくは2〜5mmである。成形品の厚さが1〜10mmであると、反りが生じにくく、機械強度に優れた成形品を得ることができる。
【0028】
本発明の成形品は、後述する荷重たわみ温度(高温下での機械的強度の指標)、引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率及びV付シャルピー衝撃強度といった機械的強度に優れている。
【0029】
本発明の成形品は、成形品中のガラス繊維含有率(成形品の総質量に対する質量%、以下同様)にもよるが、ガラス繊維含有率が30質量%の場合、荷重たわみ温度が70〜100℃であることが好ましく、ガラス繊維含有率が50質量%の場合、180〜220℃であることが好ましい。荷重たわみ温度が上記の範囲にあると、ガラス繊維を配合した熱可塑性ポリエステル樹脂の成形品に求められる強度を十分に満たすことができる。
荷重たわみ温度はJIS K7191(荷重:1.81MPa)に従い測定することができる。
【0030】
本発明の成形品は、成形品中のガラス繊維含有率にもよるが、ガラス繊維含有率が30質量%の場合、引張強度が90〜120MPaであることが好ましく、ガラス繊維含有率が50質量%の場合、130〜150MPaであることが好ましい。引張強度が上記の範囲であると、ガラス繊維を配合した熱可塑性ポリエステル樹脂の成形品に求められる強度を十分に満たすことができる。
引張強度はJIS K7054に従い測定することができる。
【0031】
本発明の成形品は、成形品中のガラス繊維含有率にもよるが、ガラス繊維含有率が30質量%の場合、曲げ強度が140〜180MPaであることが好ましく、ガラス繊維含有率が50質量%の場合、220〜250MPaであることが好ましい。曲げ強度が上記の範囲であると、ガラス繊維を配合した熱可塑性ポリエステル樹脂の成形品に求められる強度を十分に満たすことができる。
曲げ強度はJIS K7055に従い測定することができる。
【0032】
本発明の成形品は、成形品中のガラス繊維含有率にもよるが、ガラス繊維含有率が30質量%の場合、曲げ弾性率が7〜9GPaであることが好ましく、ガラス繊維含有率が50質量%の場合、14〜16GPaであることが好ましい。曲げ弾性率が上記の範囲であると、ガラス繊維を配合した熱可塑性ポリエステル樹脂の成形品に求められる強度を十分に満たすことができる。
曲げ弾性率はJIS K7055に従い測定することができる。
【0033】
本発明の成形品は、成形品中のガラス繊維含有率にもよるが、ガラス繊維含有率が30質量%の場合、V付シャルピー衝撃強度が3.5〜7.0KJ/m
2であることが好ましく、ガラス繊維含有率が50質量%の場合、7.0〜8.0KJ/m
2であることがより好ましい。V付シャルピー衝撃強度が上記の範囲であると、ガラス繊維を配合した熱可塑性ポリエステル樹脂の成形品に求められる強度を十分に満たすことができる。
V付シャルピー衝撃強度はJIS K7061に従い測定することができる。
【0034】
本発明の成形品は、従来公知のポリエステル樹脂成形品と同様の用途に特に制限なく用いることができる。好適には、ドア取手等の自動車用部品、スイッチや、コネクター等の電気機器部品、水道やガス計量装置の保護材等の土木埋設品等に適用することができる。
【0035】
次に、実施例により本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
実施例1
(1)熱可塑性ポリエステル樹脂
粘度平均分子量が20,000(JIS K7252により測定)のポリエチレンテレフタレート樹脂を使用した。
(2)脂肪酸化合物(流動性改良剤)
ヒマシ油脂肪酸(飽和脂肪酸量8質量%(詳しくは、ミリスチン酸2質量%、ステアリン酸4質量%、アラキジン酸2質量%)、不飽和脂肪酸量92質量%(詳しくは、オレイン酸88質量%、リノール酸3質量%、リノレン酸1質量%)と、パーム油脂肪酸(飽和脂肪酸量45質量%(詳しくは、ミリスチン酸2質量%、パルミチン酸38質量%、ステアリン酸5質量%)、不飽和脂肪酸量55質量%(詳しくは、オレイン酸45質量%、リノール酸10質量%)とを1:1の質量比で含む脂肪酸混合物と、ポリグリセリンとを反応させて流動性改良剤(不飽和脂肪酸エステルを含む脂肪酸化合物)を得た。
得られた流動性改良剤は、上記不飽和脂肪酸とポリグリセリンとのエステルを不飽和脂肪酸エステルとして含んでいた。
流動性改良剤(脂肪酸化合物)は、当該流動性改良剤の総質量を基準として、不飽和脂肪酸エステルを73.5質量%含有していた。
得られた流動性改良剤は、平均分子量が4000(JIS K7252により測定)であり、ヨウ素価が72(JIS K0070により測定)であった。
(3)ガラス繊維
アミノシランとエポキシ樹脂(エポキシ当量900g/当量)で表面処理した、繊維長3mm、平均繊維径13μmのEガラス繊維を使用した。
(4)ポリエステル樹脂組成物
(1)のポリエチレンテレフタレート樹脂100質量部と(2)の脂肪酸化合物(流動性改良剤)0.02質量部とからなる予備組成物と、(3)のガラス繊維とを、予備組成物とガラス繊維の総質量に対してガラス繊維含有率が65質量%となるように混合しながら、280℃の温度で押出混練を行い、ポリエステル樹脂組成物を得た。
ガラス繊維の含量は、ポリエステル樹脂組成物の総質量に対して65質量%であった。
【0037】
実施例2
実施例1において、流動改良剤を下記の流動性改良剤に変更した以外は、実施例1と同様の所作を行い、ポリエステル樹脂組成物を得た。
実施例2で使用した流動性改良剤
ヒマシ油脂肪酸(飽和脂肪酸量8質量%(詳しくは、ミリスチン酸2質量%、ステアリン酸4質量%、アラキジン酸2質量%)、不飽和脂肪酸量92質量%(詳しくは、オレイン酸88質量%、リノール酸3質量%、リノレン酸1質量%)と、ポリグリセリンとを反応させて流動性改良剤を得た。
得られた流動性改良剤は、上記不飽和脂肪酸とポリグリセリンとのエステルを不飽和脂肪酸エステルとして含んでいた。
流動性改良剤(脂肪酸化合物)は、当該流動性改良剤の総質量を基準として、不飽和脂肪酸エステルを92質量%含有していた。
得られた流動性改良剤は、平均分子量が3600(JIS K7252により測定)であり、ヨウ素価が87(JIS K0070により測定)であった。
【0038】
実施例3
実施例1において、流動改良剤を下記の流動性改良剤に変更した以外は、実施例1と同様の所作を行い、ポリエステル樹脂組成物を得た。
実施例3で使用した流動性改良剤
オレイン酸とリノール酸との質量比が3:1の脂肪酸混合物とポリグリセリンとを反応させて流動性改良剤を得た。
得られた流動性改良剤は、上記不飽和脂肪酸とポリグリセリンとのエステルを不飽和脂肪酸エステルとして含んでいた。
流動性改良剤(脂肪酸化合物)は、当該流動性改良剤の総質量を基準として、不飽和脂肪酸エステルを100質量%含有していた。
得られた流動性改良剤は、平均分子量が2900(JIS K7252により測定)であり、ヨウ素価が109(JIS K0070により測定)であった。
【0039】
実施例4
実施例1において、流動改良剤を下記の流動性改良剤に変更した以外は、実施例1と同様の所作を行い、ポリエステル樹脂組成物を得た。
実施例4で使用した流動性改良剤
ヒマシ油脂肪酸(飽和脂肪酸量8質量%(詳しくは、ミリスチン酸2質量%、ステアリン酸4質量%、アラキジン酸2質量%)、不飽和脂肪酸量92質量%(詳しくは、オレイン酸88質量%、リノール酸3質量%、リノレン酸1質量%)と、ヤシ油脂肪酸(飽和脂肪酸量93質量%(詳しくは、カプリル酸8質量%、カプリン酸8質量%、ラウリン酸48質量%、ミリスチン酸18質量%、パルミチン酸7質量%、ステアリン酸4質量%)、不飽和脂肪酸量7質量%(詳しくは、オレイン酸6質量%、リノール酸1質量%)とを1:1の質量比で含む脂肪酸混合物と、ポリグリセリンとを反応させて流動性改良剤を得た。
得られた流動性改良剤は、上記不飽和脂肪酸とポリグリセリンとのエステルを不飽和脂肪酸エステルとして含んでいた。
流動性改良剤(脂肪酸化合物)は、当該流動性改良剤の総質量を基準として、不飽和脂肪酸エステルを49.5質量%含有していた。
得られた流動性改良剤は、平均分子量が900(JIS K7252により測定)であり、ヨウ素価が51(JIS K0070により測定)であった。
【0040】
比較例1
実施例1において、流動改良剤を使用しない以外は、同様の所作を行い、ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0041】
比較例2
実施例1において、流動改良剤を下記の流動性改良剤に変更した以外は、実施例1と同様の所作を行い、ポリエステル樹脂組成物を得た。
比較例2で使用した流動性改良剤
パーム油脂肪酸(飽和脂肪酸量45質量%(詳しくは、ミリスチン酸2質量%、パルミチン酸38質量%、ステアリン酸5質量%)、不飽和脂肪酸量55質量%(詳しくは、オレイン酸45質量%、リノール酸10質量%)と、ヤシ油脂肪酸(飽和脂肪酸量93質量%(詳しくは、カプリル酸8質量%、カプリン酸8質量%、ラウリン酸48質量%、ミリスチン酸18質量%、パルミチン酸7質量%、ステアリン酸4質量%)、不飽和脂肪酸量7質量%(詳しくは、オレイン酸6質量%、リノール酸1質量%)とを1:1の質量比で含む脂肪酸混合物と、ポリグリセリンとを反応させて流動性改良剤を得た。
流動性改良剤(脂肪酸化合物)は、当該流動性改良剤の総質量を基準として、不飽和脂肪酸エステルを62質量%含有していた。
得られた流動性改良剤は、平均分子量が1600(JIS K7252により測定)であり、ヨウ素価が23(JIS K0070により測定)であった。
【0042】
比較例3
実施例1において、流動改良剤を、分子量880のトリステアリン酸グリセリルからなる飽和脂肪酸エステルに変更した以外は同様の所作を行い、ポリエステル樹脂組成物を得た。
【0043】
実施例及び比較例の各ポリエステル樹脂組成物について下記の評価を行った。
(評価法1)
実施例1〜4及び比較例1〜3のポリエステル樹脂組成物のMFRを、JIS K7210に従い、温度280℃、荷重5.0kgfで測定した。測定結果を表1に示す。
(評価法2)
実施例1〜4及び比較例1〜3のポリエステル樹脂組成物を、ガラス繊維不含の同種のポリエチレンテレフタレート樹脂で希釈して、射出成形を行って成形品を得た。成形品におけるガラス繊維の含量は、成形品の総質量に対して50質量%であった。
JIS K7191に従い、各成形品の荷重たわみ温度を測定した。測定結果を表1に示す。
(評価法3)
実施例1〜4及び比較例1〜3のポリエステル樹脂組成物を、ガラス繊維不含の同種のポリエチレンテレフタレート樹脂で希釈して、射出成形を行って成形品を得た。成形品におけるガラス繊維の含量は、成形品の総質量に対して50質量%であった。
各成形品の引張強度(JIS K7054)(測定温度:23℃)、曲げ強度(JIS K7054)(測定温度:23℃)、曲げ弾性率(JIS K7055)(測定温度:23℃)及びV付きシャルピー衝撃強度(JIS K7061)(測定温度:23℃)を測定した。測定結果を表2に示す。
【0044】
表1
【0045】
表2
【0046】
比較例1は、本発明で使用する流動改良剤を含まないポリエステル樹脂組成物である。実施例1〜4と比較例1とを比較すると、実施例1〜4のMFRの値は、比較例1のMFR値よりも高い。これは、本発明で使用する脂肪酸化合物が流動性改良剤として作用し、ポリエステル樹脂組成物の流動性を改善することを示している。一方、実施例1〜4と比較例1との間では、荷重たわみ温度及び機械的強度(引張強度、曲げ強度、曲げ弾性率及びV付きシャルピー衝撃強度)に関する大きな変化が見られない。これは、本発明で流動改良剤として使用する、不飽和脂肪酸エステルを含む脂肪酸化合物が、ポリエステル樹脂組成物の機械的強度に影響を与えないことを示している。
【0047】
比較例2〜4は、本発明で規定する不飽和脂肪酸エステルの要件(不飽和脂肪酸エステル含量及び/又はヨウ素価)を満たさない流動改良剤を含むポリエステル樹脂組成物である。
実施例1〜4と比較例2及び3とを比較すると、流動性改良の指標であるMFRの値は変わりないが、比較例2及び3の荷重たわみ温度が実施例1〜4の値よりも低下している。これは、流動改良剤である脂肪酸化合物中の不飽和脂肪酸エステル量を少ないことによる機械的強度の低下、特に高温下での機械的強度の低下を示している。一方、実施例1〜4では、荷重たわみ温度の低下は観察されず、高温下でも機械的強度が保持されている。
【0048】
以上の結果は、本発明のポリエステル樹脂組成物が、成形時は良好な流動性を示しつつ、成形後は良好な機械的強度(特に高温下での良好な機械的強度)を保持することができることを示している。