特許第6402421号(P6402421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6402421電磁波シールド部材、及び電磁波シールド構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402421
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】電磁波シールド部材、及び電磁波シールド構造
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20181001BHJP
   H05K 3/46 20060101ALI20181001BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   H05K9/00 C
   H05K9/00 U
   H05K9/00 W
   H05K3/46 Q
   H05K3/46 U
   H05K7/20 F
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-61806(P2014-61806)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2015-185741(P2015-185741A)
(43)【公開日】2015年10月22日
【審査請求日】2017年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000242231
【氏名又は名称】北川工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】由見 英雄
【審査官】 白石 圭吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−241237(JP,A)
【文献】 特開2012−084599(JP,A)
【文献】 特開平09−283976(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H05K 9/00
H05K 3/46
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波シールド部材であって、
金属材料によって形成され、電子回路基板上に実装された電子部品を前記電子回路基板との間に封入することで、前記電子部品から放射される電磁波、及び前記電子部品に到来する電磁波を遮断するシールド部と、
比誘電率が6以上の誘電材料によって形成され、前記電子部品が有する導体部分と前記シールド部との間に介在することで、前記導体部分と前記シールド部とを電気的に絶縁する誘電部と
を有し、
前記電子部品の周囲では、前記シールド部、前記誘電部、及び前記電子回路基板が、当該順序で積層された構造とされ、当該積層箇所においては、前記シールド部と前記電子回路基板の有するグランド層とが容量結合するように構成され、
前記シールド部は、前記誘電部側では凹部をなすとともに、当該凹部の裏側では凸部をなす形状にあらかじめ成形されており、
前記誘電部は、前記凹部及び前記凹部の開口周縁を覆う位置に配設され、
前記電磁波シールド部材が前記電子回路基板へ取り付けられる際には、前記誘電部が前記電子部品に押し当てられると、前記誘電部が変形して前記凹部の内側へと入り込むことで、前記電子部品が収容される収容部が形成される
電磁波シールド部材。
【請求項2】
比誘電率が5以下の誘電材料によって形成され、前記シールド部を挟んで前記電子回路基板側とは反対側となる箇所に配設されるヒートシンクと前記シールド部との間に介装されて、前記シールド部から前記ヒートシンクへと熱を伝導する熱伝導部
を備える請求項1に記載の電磁波シールド部材。
【請求項3】
熱放射率が0.8以上の熱放射材料によって形成され、前記シールド部を挟んで前記電子回路基板側とは反対側となる箇所に配設されて、前記シールド部から伝導される熱を赤外線として放射する熱放射部
を備える請求項1に記載の電磁波シールド部材。
【請求項4】
前記積層箇所において、前記誘電部は、変形を伴って前記シールド部及び前記電子回路基板に密接する
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の電磁波シールド部材。
【請求項5】
グランド層を有する電子回路基板と、
前記電子回路基板上に実装された電子部品と、
前記電子回路基板上に取り付けられた電磁波シールド部材と
を備えており、
前記電磁波シールド部材は、
金属材料によって形成され、電子回路基板上に実装された電子部品を前記電子回路基板との間に封入することで、前記電子部品から放射される電磁波、及び前記電子部品に到来する電磁波を遮断するシールド部と、
比誘電率が6以上の誘電材料によって形成され、前記電子部品が有する導体部分と前記シールド部との間に介在することで、前記導体部分と前記シールド部とを電気的に絶縁す
る誘電部と
を有し、
前記電子部品の周囲では、前記シールド部、前記誘電部、及び前記電子回路基板が、当該順序で積層された構造とされ、当該積層箇所においては、前記シールド部と前記電子回路基板の有するグランド層とが容量結合するように構成されており、
前記シールド部は、前記誘電部側では凹部をなすとともに、当該凹部の裏側では凸部をなす形状にあらかじめ成形されており、
前記誘電部は、前記凹部及び前記凹部の開口周縁を覆う位置に配設され、
前記電磁波シールド部材が前記電子回路基板へ取り付けられる際には、前記誘電部が前記電子部品に押し当てられると、前記誘電部が変形して前記凹部の内側へと入り込むことで、前記電子部品が収容される収容部が形成される
電磁波シールド構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波シールド部材、及び電磁波シールド構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子回路基板上に実装された電子部品に対して取り付けられる電磁波シールド部材として、電子回路基板上に金属部材が取り付けられて、電子部品が金属部材と電子回路基板との間に封入されるものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の技術の場合、電子部品(10)と金属部材(13)との間には、導電性のある熱伝導材(1)が介装されている。また、金属部材(13)の両端にある接続部(13a)は、プリント配線基板(10)のアース電極(図示略)に接続される。
【0004】
このような構造とすることで、熱伝導材(1)及び金属部材(13)はアース電位に安定して保持され、電子部品(11)に出入りする電磁波を極めて良好にシールドすることができる。また、電子部品(10)において発生する熱を熱伝導材(1)を介して金属部材(13)へと伝導することにより、電子部品(10)からの放熱を促すこともできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−026204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電子部品や配線のレイアウトによっては、電子部品の周囲において金属部材をグランド(アース電極)に接続することが困難な場合がある。特に、金属部材が大型になる場合には、金属部材を多箇所でグランドに接続したいことがあるが、そのような接続箇所を十分に多く確保することが難しいことがあった。
【0007】
そのため、このようにグランドとの接続箇所が不足する場合には、金属部材に高周波の電圧変動などが生じることがあり、その結果、金属部材や、金属部材に近接配置されたヒートシンクがノイズとなる電磁波の放射源となってしまうことがあった。
【0008】
以上のような事情から、金属製のシールド部を多箇所でグランドに接続することが困難な場合でも、シールド部から電磁波が放射されるのを防止ないし抑制可能な電磁波シールド部材、及び電磁波シールド構造を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下に説明する電磁波シールド部材は、金属材料によって形成され、電子回路基板上に実装された電子部品を前記電子回路基板との間に封入することで、前記電子部品から放射される電磁波、及び前記電子部品に到来する電磁波を遮断するシールド部と、比誘電率が6以上の誘電材料によって形成され、前記電子部品が有する導体部分と前記シールド部との間に介在することで、前記導体部分と前記シールド部とを電気的に絶縁する誘電部とを有し、前記電子部品の周囲では、前記シールド部、前記誘電部、及び前記電子回路基板が、当該順序で積層された構造とされ、当該積層箇所においては、前記シールド部と前記電子回路基板の有するグランド層とが容量結合する。
【0010】
この電磁波シールド部材において、シールド部を形成する金属材料としては、例えば、アルミニウムや銅などの金属、これらの金属を含む合金などを利用することができる。これらの金属材料は、金属の薄板や金属箔のような金属単体のものであってもよいし、樹脂フィルム(例えばPETフィルム)などの基材上に金属層が形成されたものなどでもよい。
【0011】
誘電部を形成する誘電材料としては、比誘電率が6以上のものが用いられる。ただし、容量結合を促す観点からは、比誘電率はより高い方がよく、例えば、比誘電率が8以上であるとより好ましい。このような誘電材料としては、例えば、シリコーンやアクリルゴムなどを母材として、その母材中にアルミナ、水酸化アルミニウム、窒化ホウ素、水酸化マグネシウム、五酸化タンタルなどのセラミックス材料からなる微粒子状のフィラーを充填したものを利用することができる。これらのフィラーの配合比は、比誘電率を考慮して適宜調整されていればよいが、一例を挙げれば、例えば、シリコーンに水酸化アルミニウムを配合する場合であれば、100重量部のシリコーンに対して180〜250重量部程度の水酸化アルミニウムを配合するとよい。
【0012】
以上のように構成された電磁波シールド部材によれば、誘電部は比誘電率が6以上とされ、シールド部、誘電部、及び電子回路基板は当該順序で積層され、この積層箇所においては、シールド部と電子回路基板の有するグランド層とが容量結合する。そのため、シールド部に高周波の電圧変動などが生じるような状況下でも、シールド部と容量結合しているグランド層へノイズを逃がすことができる。
【0013】
したがって、例えば、電子部品や配線のレイアウトの都合上、電子部品の周囲においてシールド部をグランドに接続することが困難な場合でも、シールド部や、シールド部に近接配置されたヒートシンクが電磁波の放射源となってしまうのを防止ないし抑制できる。また、シールド部をグランドに接続できる場合でも、シールド部とグランドとの接続箇所を少なくすることができるので、より多箇所での接続が必要なものよりも、容易に電磁波対策を施すことができる。
【0014】
以上のような電磁波シールド部材は、更に以下に挙げるような構成を備えていることが好ましい。
まず、上記電磁波シールド部材は、比誘電率が5以下の誘電材料によって形成され、前記シールド部を挟んで前記電子回路基板側とは反対側となる箇所に配設されるヒートシンクと前記シールド部との間に介装されて、前記シールド部から前記ヒートシンクへと熱を伝導する熱伝導部を備えると好ましい。
【0015】
この電磁波シールド部材において、熱伝導部を形成する誘電材料としては、比誘電率が5以下のものが用いられる。ただし、容量結合を阻む観点からは、比誘電率はより低い方がよく、例えば、比誘電率が4以下であるとより好ましい。このような誘電材料としては、例えば、上述の誘電部と同様な誘電材料に対し、更に中空フィラー、酸化ケイ素やその化合物、ポリアリルエーテル・ポリオレフィンなどの有機材料を配合することで、比誘電率を5以下まで低下させたものを利用することができる。なお、熱伝導部は、シールド部からヒートシンクへ熱を伝導する部分なので、熱伝導率は高いほど好ましい。ただし、どの程度の熱伝導率を確保すべきかは、電子部品における発熱量やヒートシンクにおける放熱量なども勘案して適宜調整されていればよく、目安としては、例えば、1W/m・K以上の熱伝導率を有するものであればよい。
【0016】
このように構成された電磁波シールド部材によれば、電子部品からシールド部へ伝わる熱を、熱伝導部を介してヒートシンクへと逃がすことができる。したがって、例えば、電子部品の発熱量が大きい場合等、シールド部のみでは十分な放熱ができない場合には、このような熱伝導部を備えると好適である。
【0017】
また、熱伝導部は、比誘電率が5以下の誘電材料によって形成されているので、熱伝導部を挟んでヒートシンクがシールド部に近接配置された場合でも、シールド部とヒートシンクが容量結合するのを防止ないし抑制する。そのため、シールド部からヒートシンク側へノイズを逃がしてしまうことなく、シールド部からグランド層側へは適切にノイズを逃がすことができ、ヒートシンクがノイズとなる電磁波の放射源になるのを防止ないし抑制することができる。
【0018】
また、上記電磁波シールド部材は、熱放射率が0.8以上の熱放射材料によって形成され、前記シールド部を挟んで前記電子回路基板側とは反対側となる箇所に配設されて、前記シールド部から伝導される熱を赤外線として放射する熱放射部を備えていても好ましい。
【0019】
この電磁波シールド部材において、熱放射部を形成する熱放射材料としては、熱放射率が0.8以上のものが用いられる。熱放射を促す観点からは、熱放射率はより高い方が好ましい。このような熱放射材料としては、例えば、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂などに、炭化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどのフィラーを充填した材料を利用することができる。
【0020】
このように構成された電磁波シールド部材によれば、電子部品からシールド部へ伝わる熱を、更に熱放射部へと伝えて熱放射部から放射することができる。したがって、例えば、電子部品の発熱量が大きい場合等、シールド部のみでは十分な放熱ができない場合には、このような熱放射部を備えると好適である。
【0021】
また、上記電磁波シールド部材の前記積層箇所において、前記誘電部は、変形を伴って前記シールド部及び前記電子回路基板に密接すると好ましい。
このように構成された電磁波シールド部材によれば、誘電部が変形を伴ってシールド部及び電子回路基板に密接するので、誘電部が変形しない場合に比べ、誘電部とシールド部との間、及び誘電部と電子回路基板との間には空隙が生じにくくなる。したがって、そのような空隙が生じる場合に比べ、電子回路基板が有するグランド層とシールド部を容易に容量結合させることができる。
【0022】
また、上記電磁波シールド部材は、前記電子部品が収容される収容部と、前記収容部の周囲において前記積層箇所を形成する積層部とを有すると好ましい。
このように構成された電磁波シールド部材によれば、上述のような収容部及び積層部を有するので、電子回路基板上に取り付けるだけで、電子部品を収容部に収容することができ、積層部においてシールド部とグランド層を容量結合させることができる。
【0023】
また、上記電磁波シールド部材において、前記シールド部は、前記誘電部側では凹部をなすとともに、当該凹部の裏側では凸部をなす形状にあらかじめ成形されており、前記誘電部は、前記凹部及び前記凹部の開口周縁を覆う位置に配設され、前記電磁波シールド部材が前記電子回路基板へ取り付けられる際には、前記誘電部が前記電子部品に押し当てられると、前記誘電部が変形して前記凹部の内側へと入り込むことで、前記収容部が形成されると好ましい。
【0024】
このように構成された電磁波シールド部材によれば、シールド部についてはシールド部単体で成形でき、誘電部については電磁波シールド部材が電子回路基板へ取り付けられる際に収容部をなす形状に変形する。したがって、シールド部及び誘電部の双方をあらかじめ収容部をなす形状に成形しておかなくても済むので、加工コストを低減することができる。
【0025】
次に、以下に説明する電磁波シールド構造は、グランド層を有する電子回路基板と、前記電子回路基板上に実装された電子部品と、前記電子回路基板上に取り付けられた電磁波シールド部材とを備えており、前記電磁波シールド部材は、金属材料によって形成され、電子回路基板上に実装された電子部品を前記電子回路基板との間に封入することで、前記電子部品から放射される電磁波、及び前記電子部品に到来する電磁波を遮断するシールド部と、比誘電率が6以上の誘電材料によって形成され、前記電子部品が有する導体部分と前記シールド部との間に介在することで、前記導体部分と前記シールド部とを電気的に絶縁する誘電部とを有し、前記電子部品の周囲では、前記シールド部、前記誘電部、及び前記電子回路基板が、当該順序で積層された構造とされ、当該積層箇所においては、前記シールド部と前記電子回路基板の有するグランド層とが容量結合する。
【0026】
以上のように構成された電磁波シールド構造によれば、上述の電磁波シールド部材と同等な構成を備えているので、シールド部、誘電部、及び電子回路基板の積層箇所において、シールド部と電子回路基板の有するグランド層とが容量結合する。したがって、シールド部と容量結合しているグランド層へノイズを逃がすことができ、シールド部や、シールド部に近接配置されたヒートシンクが電磁波の放射源となってしまうのを防止ないし抑制できる。また、シールド部をグランドに接続できる場合でも、シールド部とグランドとの接続箇所を少なくすることができるので、より多箇所での接続が必要なものよりも、容易に電磁波対策を施すことができる。なお、以上のような電磁波シールド構造においても、上述の電磁波シールド部材が備えると好ましい旨を説明した構成を備えていてもよいことはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】(A)は電磁波シールド構造を示す斜視図、(B)は電磁波シールド構造を分解して示す斜視図。
図2】多層基板が一つのグランド層を有する場合の電磁波シールド構造を示す断面図であり、(A)は電磁波シールド部材の取り付け前の状態を示す断面図、(B)は電磁波シールド部材の取り付け後の状態を示す断面図。
図3】電磁波シールド構造を示す断面図であり、(A)は多層基板が二つのグランド層を有する場合の断面図、(B)はシールド部が金属層を有する樹脂フィルムで構成された場合の断面図、(C)はシールド部−誘電部間が密接する構造になっている場合の断面図。
図4】電磁波シールド構造を示す断面図であり、(A)は熱伝導部及びヒートシンクを備える場合の断面図、(B)は熱放射部を備える場合の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、上述の電磁波シールド部材、及び電磁波シールド構造について、より具体的な例を挙げて説明する。
[第一の事例]
図1(A)及び図1(B)に示す電磁波シールド構造は、電子回路基板3と、電子回路基板3上に実装された電子部品5と、電子回路基板3上に取り付けられた電磁波シールド部材10を備えている。電磁波シールド部材10は、シールド部11と、誘電部13とを有する。
【0029】
シールド部11は、金属材料(本事例ではアルミニウム。)の薄板を所定形状にプレス成形したものによって構成されている。誘電部13は、比誘電率が6以上の誘電材料によって形成される。本事例の場合、比誘電率が6以上の誘電材料としては、アクリル樹脂を母材として、100重量部の母材に対し、7重量部の架橋剤と、260重量部の微粒子状フィラー(詳しくは、195重量部の水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムと、165重量部の炭化ケイ素。)が配合された高誘電組成物(比誘電率は9.3、熱伝導率は2W/m・K。)を利用した。水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムは、いずれか一方だけでもよいし、両方を任意の割合で混合したものであってもよい。なお、本明細書中に示す比誘電率は、いずれもインピーダンス・マテリアルアナライザ(アジレントテクノロジー社製、E4991A)で測定したものである。
【0030】
本事例の場合、シールド部11は、図2(A)及び図2(B)に示すように、誘電部13側では凹部11Aをなすとともに、当該凹部11Aの裏側では凸部11Bをなす形状にあらかじめプレス成形されている。一方、誘電部13は、シート状に成形されて、上述の凹部11A及び凹部11Aの開口周縁11Cを覆う位置に配設されている。
【0031】
電磁波シールド部材10が電子回路基板3へ取り付けられる際には、図2(A)に示すような状態にある誘電部13が電子部品5に押し当てられると、誘電部13が変形して凹部11Aの内側へと入り込む。これにより、図2(B)に示すように、誘電部13の一部が凹んで、電子部品5が収容される収容部15が形成されることになる。
【0032】
図2(B)に示した状態において、誘電部13は、電子部品5が有する導体部分5Aとシールド部11との間に介在することで、導体部分5Aとシールド部11とを電気的に絶縁する。また、誘電部13は、電子部品5上において、変形を伴ってシールド部11及び電子部品5に密接し、これにより、電子部品5で発生する熱が誘電部13を介してシールド部11へと伝導される。
【0033】
また、収容部15の周囲には、シールド部11の開口周縁11Cと誘電部13を積層してなる積層部17が構成される。積層部17は、更に電子回路基板3に対して積層される部分であり、当該積層箇所ではシールド部11、誘電部13、及び電子回路基板3が、当該順序で積層されることになる。この積層箇所において、誘電部13は、変形を伴ってシールド部11及び電子回路基板3に密接する。
【0034】
上記電磁波シールド部材10の場合、誘電部13の表面には粘着性(タック性)があるため、この粘着性を利用して誘電部13とシールド部11を接着してある。また、電磁波シールド部材10を電子回路基板3に対して取り付ける際にも、誘電部13の粘着性を利用して電磁波シールド部材10が電子回路基板3に接着される。電磁波シールド部材10と電子回路基板3との接着範囲は、図1(A)中に示す範囲A1となる。誘電部13が粘着性の弱い誘電材料で形成される場合は、シールド部11と誘電部13、あるいは、電磁波シールド部材10と電子回路基板3、これらを接着剤や両面粘着テープで接着してもよい。ただし、このような接着剤や両面粘着テープを利用する場合は、少なくともシールド部11や誘電部13の機能を阻害しないようなものを選定する。
【0035】
電子回路基板3は、図2(A)及び図2(B)に示すように、グランド層19を有する多層基板であり、上述の積層箇所においては、シールド部11とグランド層19とが容量結合する。すなわち、シールド部11の開口周縁11Cと電子回路基板3との接触面積と、誘電部13の誘電率及び厚さは、シールド部11とグランド層19が容量結合するように調整される。
【0036】
電子回路基板3上に実装された電子部品5は、電磁波シールド部材10によって覆われた際に、シールド部11と電子回路基板3との間に封入され、電子部品5から放射される電磁波、及び電子部品5に到来する電磁波は、シールド部11によって遮断される。
【0037】
以上のように構成された電磁波シールド構造によれば、上述の通り、シールド部11と電子回路基板3の有するグランド層19が容量結合する。そのため、シールド部11に高周波の電圧変動などが生じるような状況下でも、シールド部11と容量結合しているグランド層19へノイズを逃がすことができる。
【0038】
したがって、例えば、電子部品5や配線のレイアウトの都合上、電子部品5の周囲においてシールド部11をグランドに接続することが困難な場合でも、シールド部11や、シールド部11に近接配置されたヒートシンクが電磁波の放射源となってしまうのを防止ないし抑制できる。また、シールド部11をグランドに接続できる場合でも、シールド部11とグランドとの接続箇所を少なくすることができるので、より多箇所での接続が必要なものよりも、容易に電磁波対策を施すことができる。
【0039】
また、上記電磁波シールド部材10の場合、誘電部13が変形を伴ってシールド部11及び電子回路基板3に密接する。そのため、誘電部13が変形しない場合に比べ、誘電部13とシールド部11との間、及び誘電部13と電子回路基板3との間には空隙が生じにくくなる。したがって、そのような空隙が生じる場合に比べ、電子回路基板3が有するグランド層19とシールド部11を容易に容量結合させることができる。
【0040】
また、上記電磁波シールド部材10の場合、上述のような収容部15及び積層部17を有するので、電子回路基板3上に取り付けるだけで、電子部品5を収容部15に収容することができ、積層部17においてシールド部11とグランド層19を容量結合させることができる。
【0041】
また、上記電磁波シールド部材10の場合、シールド部11についてはシールド部11単体で成形でき、誘電部13については電磁波シールド部材10が電子回路基板3へ取り付けられる際に収容部15をなす形状に変形する。したがって、シールド部11及び誘電部13の双方をあらかじめ収容部15をなす形状に成形しておかなくても済むので、加工コストを低減することができる。
【0042】
[第二の事例]
上述の第一の事例で例示した電子回路基板3に代えて、図3(A)に示す電子回路基板21のように、EMC対策として基板表裏面に近い位置それぞれにグランド層23,24を有するものを採用してもよい。この場合、第一の事例で例示した電子回路基板3よりも、電磁波シールド部材10のシールド部11と電子回路基板21の有するグランド層23は、より近接した位置に配置されるので、容量結合が強くなり、シールド部11によるシールド性能がより一層向上する。
【0043】
[第三の事例]
図3(B)に示す電磁波シールド部材30のように、シールド部31は、樹脂製のフィルム材33(本事例においては、PET(ポリエチレンテレフタラート)のフィルム。)に対し、金属層35(本事例においては、アルミニウムの蒸着層。)を形成したもので構成されていてもよい。
【0044】
[第四の事例]
図3(C)に示す電磁波シールド部材40のように、シールド部41と誘電部43は、両者間が隙間なく密接する構造になっていてもよい。この場合、シールド部41と誘電部43との間に空隙が存在しないので、上述の第一の事例に比べ、電子部品5で発生した熱は誘電部43を介してより一層効率良くシールド部41へと伝わるようになる。
【0045】
ただし、第一の事例とは異なり、誘電部43の形状をシールド部41に対して隙間なく密接する形状に加工しておく必要がある。したがって、第一の事例と第四の事例、いずれの構造を採用すべきかは、熱伝導効率の良さと加工の手間とを勘案して所望の構造を採用すればよい。
【0046】
[第五の事例]
図4(A)に示す電磁波シールド部材50は、第一の事例と同等な構成に加え、熱伝導部51を備える。熱伝導部51は、比誘電率が5以下の誘電材料によって形成される。本事例の場合、比誘電率が5以下の誘電材料としては、シリコーンを母材として、100重量部の母材に対し、265重量部の微粒子状フィラー(詳しくは、220重量部の水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムと、45重量部の無機系フライアッシュバルーン。)が配合された低誘電組成物(比誘電率は3.8、熱伝導率は1W/m・K。)を利用した。水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムは、いずれか一方だけでもよいし、両方を任意の割合で混合したものであってもよい。
【0047】
この熱伝導部51は、シールド部11を挟んで電子回路基板3側とは反対側となる箇所に配設されるヒートシンク53とシールド部11との間に介装されて、シールド部11からヒートシンク53へと熱を伝導する。
【0048】
このように構成された電磁波シールド部材50によれば、電子部品5からシールド部11へ伝わる熱を、熱伝導部51を介してヒートシンク53へと逃がすことができる。したがって、例えば、電子部品5の発熱量が大きい場合等、シールド部11のみでは十分な放熱ができない場合には、このような熱伝導部51を備えると好適である。
【0049】
また、熱伝導部51は、比誘電率が5以下の誘電材料によって形成されているので、熱伝導部51を挟んでヒートシンク53がシールド部11に近接配置された場合でも、シールド部11とヒートシンク53が容量結合するのを防止ないし抑制する。そのため、シールド部11からヒートシンク53側へノイズを逃がしてしまうことなく、シールド部11からグランド層19側へは適切にノイズを逃がすことができ、ヒートシンク53がノイズとなる電磁波の放射源になるのを防止ないし抑制することができる。
【0050】
[第六の事例]
また、電磁波シールド部材60は、第一の事例と同等な構成に加え、熱放射部61を備える。熱放射部61は、熱放射率が0.8以上の熱放射材料によって形成される。本事例の場合、熱放射率が0.8以上の熱放射材料としては、アクリル樹脂を母材として、100重量部の母材に対し、15重量部の架橋剤と、265重量部の微粒子状フィラー(詳しくは、265重量部の水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウム。)が配合された熱放射性組成物(熱放射率は0.92。)を利用した。水酸化マグネシウム又は水酸化アルミニウムは、いずれか一方だけでもよいし、両方を任意の割合で混合したものであってもよい。この熱放射部61は、シールド部11を挟んで電子回路基板3側とは反対側となる箇所に配設されて、シールド部11から伝導される熱を赤外線として放射する。
【0051】
このように構成された電磁波シールド部材60によれば、電子部品5からシールド部11へ伝わる熱を、更に熱放射部61へと伝えて熱放射部61から放射することができる。したがって、例えば、電子部品5の発熱量が大きい場合等、シールド部11のみでは十分な放熱ができない場合には、このような熱放射部61を備えると好適である。
【0052】
[その他の事例]
以上、電磁波シールド部材、及び電磁波シールド構造について、いくつかの具体的な事例を挙げて説明したが、本発明は、上述の事例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、様々な形態で実施することができる。
【0053】
例えば、上述の事例では、シールド部11を形成する金属材料として、アルミニウム(アルミニウムの薄板やアルミニウム層蒸着フィルム)を例示したが、他の金属種でもよく、例えば、銅、アルミニウムや銅などの金属を含む合金、これら各種金属の層が形成されたフィルム材などを任意に利用することができる。
【0054】
また、誘電部を形成する誘電材料として、母材や微粒子状フィラーとして利用される物質を例示的に記載したが、本明細書において規定したような誘電率を実現できるのであれば、例示的に示した物質を配合するか否かは任意であり、他の物質を配合してもよい。例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムに代えて、アルミナ、窒化ホウ素、五酸化タンタルなどのセラミックス材料からなる微粒子状のフィラーを利用してもよい。
【符号の説明】
【0055】
3,21…電子回路基板、5…電子部品、5A…導体部分、10,30,40,50,60…電磁波シールド部材、11,31,41…シールド部、11A…凹部、11B…凸部、11C…開口周縁、13,43…誘電部、15…収容部、17…積層部、19,23,24…グランド層、33…フィルム材、35…金属層、51…熱伝導部、53…ヒートシンク、61…熱放射部。
図1
図2
図3
図4