特許第6402458号(P6402458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402458
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】臓器固定具および臓器固定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/04 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
   A61B17/04
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-52266(P2014-52266)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2015-173817(P2015-173817A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100123009
【弁理士】
【氏名又は名称】栗田 由貴子
(72)【発明者】
【氏名】福島 寛満
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】小城 康雅
(72)【発明者】
【氏名】有川 清貴
【審査官】 中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0090670(US,A1)
【文献】 特開平04−231946(JP,A)
【文献】 特開2006−296914(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長形状をなす臓器係止部と、前記臓器係止部に対して進退可能に接続された縫合糸と、を備え、
前記縫合糸の先端部に、前記臓器係止部に対して進退可能に設けられて前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側移動することを規制するアンカー部が形成されており、
前記臓器係止部は、前記縫合糸を通過させる糸係合部を有し、
前記縫合糸は、前記臓器係止部を前記縫合糸の先端側に移動させて前記糸係合部と前記アンカー部とを係合させた状態で、前記臓器係止部の長手方向に対する交差方向に立ち上がるように接続されており、
前記縫合糸の前記先端部には前記アンカー部の基端側に隣接して直線領域が形成されており、
前記縫合糸の前記先端部には前記直線領域の基端側に隣接して屈曲部が形成されており、前記屈曲部から前記アンカー部までの前記縫合糸の長さが、前記臓器係止部における長手方向の端部から前記糸係合部までの長さと同等またはそれ以上であることを特徴とする臓器固定具。
【請求項2】
細長形状をなす臓器係止部と、前記臓器係止部に対して進退可能に接続された縫合糸と、を備え、
前記縫合糸の先端部に、前記臓器係止部に対して進退可能に設けられて前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側移動することを規制するアンカー部が形成されており、
前記臓器係止部は、前記縫合糸を通過させる糸係合部を有し、
前記縫合糸は、前記臓器係止部を前記縫合糸の先端側に移動させて前記糸係合部と前記アンカー部とを係合させた状態で、前記臓器係止部の長手方向に対する交差方向に立ち上がるように接続されており、
前記縫合糸の前記先端部には前記アンカー部の基端側に隣接して直線領域が形成されており、
前記臓器係止部は、前記糸係合部とは当該臓器係止部の長手方向の異なる位置に、前記アンカー部の少なくとも一部を収容する収容部を備え、
前記縫合糸の前記先端部には前記直線領域の基端側に隣接して屈曲部が形成されており、前記屈曲部から前記アンカー部までの前記縫合糸の長さが、前記臓器係止部における前記収容部から前記糸係合部までの長さと同等であることを特徴とする臓器固定具。
【請求項3】
細長形状をなす臓器係止部と、前記臓器係止部に対して進退可能に接続された縫合糸と、を備え、
前記縫合糸の先端部に、前記臓器係止部に対して進退可能に設けられて前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側移動することを規制するアンカー部が形成されており、
前記臓器係止部は、前記縫合糸を通過させる糸係合部を有し、
前記縫合糸は、前記臓器係止部を前記縫合糸の先端側に移動させて前記糸係合部と前記アンカー部とを係合させた状態で、前記臓器係止部の長手方向に対する交差方向に立ち上がるように接続されており、
前記糸係合部には、前記臓器係止部の長手方向に対する交差方向に穿設された通孔が開口形成されており、
前記縫合糸の前記アンカー部の外径は前記通孔の内径よりも大きく、前記縫合糸が前記通孔に挿通されて前記アンカー部により抜け留めされており、
前記通孔が、前記臓器係止部の長手方向を長径方向とする長孔であることを特徴とする臓器固定具。
【請求項4】
細長形状をなす臓器係止部と、前記臓器係止部に対して進退可能に接続された縫合糸と、を備え、
前記縫合糸の先端部に、前記臓器係止部に対して進退可能に設けられて前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側移動することを規制するアンカー部が形成されており、
前記臓器係止部は、前記縫合糸を通過させる糸係合部を有し、
前記縫合糸は、前記臓器係止部を前記縫合糸の先端側に移動させて前記糸係合部と前記アンカー部とを係合させた状態で、前記臓器係止部の長手方向に対する交差方向に立ち上がるように接続されており、
前記糸係合部には、前記臓器係止部の長手方向に対する交差方向に穿設された通孔が開口形成されており、
前記縫合糸の前記アンカー部の外径は前記通孔の内径よりも大きく、前記縫合糸が前記通孔に挿通されて前記アンカー部により抜け留めされており、
前記通孔が、深さ方向が前記臓器係止部の長手方向に直交する方向に対して傾斜する斜め孔であることを特徴とする臓器固定具。
【請求項5】
細長形状の臓器係止部と縫合糸とを含み、前記縫合糸は、前記臓器係止部に対して進退可能に接続され前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側に移動することを規制するアンカー部が先端部に形成されている、臓器固定具と、
前記臓器係止部を収容する収容部と、
前記臓器係止部を前記収容部から外部に送出する送出機構と、を備え、
前記臓器係止部が、前記縫合糸に対して前記アンカー部よりも基端側の位置に係合した状態で前記収容部に収容されており、
前記縫合糸は前記アンカー部の基端側に屈曲部を有し、前記臓器係止部は前記屈曲部に係合した状態で前記収容部に収容されており、前記収容部から外部に送出された前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側に移動して前記アンカー部と係合することにより前記屈曲部が前記臓器係止部よりも基端側に離間することを特徴とする臓器固定装置。
【請求項6】
前記縫合糸の前記屈曲部が、前記臓器係止部によって弾力的に付勢された状態で前記収容部に収容されている請求項5に記載の臓器固定装置。
【請求項7】
前記臓器係止部は前記屈曲部の弾性復元力によるモーメントによって傾斜方向に付勢されて前記収容部に収容されており、
前記収容部から鉛直下向きに送出された前記臓器係止部が、前記傾斜方向に回動し、前記縫合糸の周囲を旋回しながら前記アンカー部まで落下することを特徴とする請求項6に記載の臓器固定装置。
【請求項8】
前記縫合糸には前記アンカー部と前記屈曲部との間に直線領域が形成されており、前記直線領域を前記臓器係止部に沿わせた状態で前記縫合糸および前記臓器係止部が前記収容部に収容されている請求項6または7に記載の臓器固定装置。
【請求項9】
細長形状の臓器係止部と縫合糸とをそれぞれ含み、前記縫合糸は、前記臓器係止部に対して進退可能に接続され前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側に移動することを規制するアンカー部が先端部に形成されている、複数の臓器固定具と、
複数の前記臓器係止部を収容する収容部と、
前記臓器係止部を前記収容部から外部に送出する送出機構と、を備え、
前記臓器係止部が、前記縫合糸に対して前記アンカー部よりも基端側の位置に係合した状態で前記収容部に収容されており、
一の前記臓器係止部が、隣接する他の前記臓器係止部との間に前記アンカー部を介挿して前記収容部に収容されていることを特徴とする臓器固定装置。
【請求項10】
前記収容部の内周面と前記臓器係止部との間隙幅が、前記縫合糸の線径よりも大きく前記アンカー部の外径よりも小さい請求項9に記載の臓器固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器固定具および臓器固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の体内の臓器を低侵襲の手技によって体壁の内面側に固定するのに用いられる臓器固定装置が提案されている。例えば特許文献1には、胃瘻を造成するに先だって、腹壁および胃壁に穿刺した穿刺針を通じて胃内に臓器固定具(縫合具)を送り込み、この臓器固定具の縫合糸を引っ張り上げることで胃壁を吊り上げて腹壁に固定する臓器固定装置が記載されている。胃内に送り込まれる臓器固定具は、棒状の係止部と、この係止部に直交するように先端が固定された縫合糸とからなり、略T字状をなすことからTバーなどと呼ばれている。
【0003】
特許文献1の臓器固定具(縫合具)は、棒状に形成された金属製の係止部と、この係止部の軸方向の中央部から係止部に直交して延びるナイロンからなる縫合糸と、で構成されている。縫合糸を係止部に固定する方式としては、係止部の周面にリング状の溝を設けるとともに縫合糸の先端部をリング状に形成してこの溝に係合させることや、係止部に係合穴を設けてこの係合穴に縫合糸の先端部を連結させることなどが開示されている。
【0004】
このほか、種々の臓器固定具が提案されている。特許文献2の臓器固定具は、ナイロンからなる縫合糸を束ねることにより棒状の係止部が形成され、その中央から直交方向に縫合糸を延ばすことにより略T字状に形成されている。縫合糸は係止部の周囲に巻き付けられたうえで、係止部の中央で直角に折り曲げられた状態で固定されている(特許文献2の図2参照)。
【0005】
特許文献3の臓器固定具(体内臓器吊り上げ用具)は、金属製の線材からなる棒状のロッドの軸方向の略中央部に、軸芯と直交する縦孔が貫通形成され、その縦孔に縫合糸が摺動可能に挿通されている。縦孔に挿通された縫合糸は、ロッドの反対側または内部で直角に折り曲げられたうえ、ロッドの端部に対してカシメ加工により固定されている。
縫合糸の端部は、ロッドの端部に穿設された差込み孔に差し込まれたうえでカシメ加工して固定されている。縫合糸はロッドに挿通されたうえでロッドの下部または内部で直角に折り曲げられてロッドに固定されている。
【0006】
このような略T字状の臓器固定具は、穿刺針の内部に装填された状態で臓器内に届けられたうえで、穿刺針から送出される(特許文献1の図8、特許文献2の図6、特許文献3の図4参照)。
【0007】
近年、低侵襲の要請から穿刺針の外径および内径は小径化することが求められている。特許文献1や特許文献2の臓器固定装置においては、小径の穿刺針の内部で縫合糸は棒状の係止部に沿って密着するように急峻に折り曲げられて収容されている。特許文献3の臓器固定装置においては縫合糸が穿刺針の外部を通じて体外に引き出されているが、かかる場合も低侵襲となるよう縫合糸はロッドや穿刺針に沿って密着するように先端部において直角に折り曲げられている(特許文献3の図4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−296914号公報
【特許文献2】特開2006−296796号公報
【特許文献3】特開2010−154883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の従来の臓器固定装置においては、縫合糸の先端が直角に折り曲げられた状態で穿刺針に装填されている。このため、縫合糸の先端が癖付けされて塑性変形してしまい、係止部やロッド(以下、あわせて「臓器係止部」という)を穿刺針から送出しても臓器固定具が略T字状に復元しないことが問題になる。すなわち、臓器係止部から立ち上がる最先端部で縫合糸が直角に塑性変形しているため、臓器内に送出された臓器係止部は穿刺針に収容されていたときの起立状態を維持してしまい、略T字状の横倒しに変位しないことがある(特許文献3の図5(c)参照)。この場合、臓器固定装置から取り外された縫合糸を引き上げても、起立している臓器係止部は体壁や臓器に形成された穿刺孔を空過してしまい、臓器を吊り上げることができない。
【0010】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、臓器内に送り出された臓器係止部が臓器に対して確実に係止する臓器固定具および臓器固定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、細長形状をなす臓器係止部と、前記臓器係止部に対して進退可能に接続された縫合糸と、を備え、前記縫合糸の先端部に、前記臓器係止部に対して進退可能に設けられて前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側移動することを規制するアンカー部が形成されていることを特徴とする臓器固定具が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、細長形状の臓器係止部と、前記臓器係止部に対して進退可能に接続され前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側移動することを規制するアンカー部が先端部に形成された縫合糸と、を含む臓器固定具と、前記臓器係止部を収容する収容部と、前記臓器係止部を前記収容部から外部に送出する送出機構と、を備え、前記臓器係止部が、前記縫合糸に対して前記アンカー部よりも基端側の位置に係合した状態で前記収容部に収容されていることを特徴とする臓器固定装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の臓器固定具および臓器固定装置によれば、縫合糸の先端部に形成されたアンカー部と臓器係止部とが進退可能であるため、穿刺針などの収容部に臓器係止部を収容するにあたって、臓器係止部を縫合糸に対してアンカー部よりも後退した位置に係合させておくことができる。このため、収容部の内部で縫合糸が折り曲げられて臓器係止部に沿うように塑性変形したとしても、かかる塑性変形が縫合糸におけるアンカー部の近傍に及ぶことが防止できる。したがって本発明によれば、臓器内に送り出された係止部を縫合糸に対して所望の向きに変位させ、臓器に対して確実に係止させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第一実施形態の臓器固定具を示す模式図であり、(a)は正面図、(b)は平面図である。
図2】臓器固定装置の一例を示す図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図である。
図3】第一実施形態の臓器固定具が穿刺針に装填された状態を示す模式図である。
図4】体腔壁および胃壁に穿刺針を穿刺した初期状態を示す臓器固定装置の部分縦断面図である。
図5】(a)から(d)は穿刺針から臓器係止部が送出される状態を示す断面模式図である。
図6】第一実施形態の臓器固定具の留置状態を示す模式図である。
図7】本発明の第二実施形態の臓器固定具を示す模式図であり、(a)は収容状態を示す平面図、(b)は(a)のB−B線断面図、(c)は留置状態を示す正面図である。
図8】本発明の第一変形例の臓器固定具を示す模式図であり、(a)は収容状態を示す平面図、(b)は(a)のB−B線断面図、(c)は(a)のC−C線断面図、(d)は留置状態を示す正面図である。
図9】本発明の第二変形例の臓器固定具を示す模式図であり、(a)は収容状態を示す正面図、(b)は収容状態を示す平面図、(c)は留置状態を示す正面図である。
図10】本発明の第三変形例の臓器固定具の収容状態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様の構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。なお、以下の説明において図2における上下方向を臓器固定装置における上下方向と記載し、図2における左右方向を臓器固定装置における水平方向と記載する場合があるが、これは臓器固定装置や臓器固定具の構成要素の相対関係を便宜的に説明するものであり、これらの製造時や使用時の方向を必ずしも限定するものではない。また、臓器固定装置の上端側を基端側、下端側を先端側と呼称する場合がある。
【0016】
<第一実施形態>
図1から図6を用いて本発明の実施形態にかかる臓器固定装置100および臓器固定具10を説明する。図1は第一実施形態の臓器固定具10を示す模式図である。図1(a)はその正面図、図1(b)は平面図である。図2は臓器固定装置100の一例を示す図であり、図2(a)はその正面図、図2(b)は右側面図である。図3は、本発明の第一実施形態の臓器固定具10が穿刺針130に装填された状態を示す模式図である。図1から図3において縫合糸30の基端側は適宜の長さで図示省略している。
【0017】
はじめに、本実施形態の概要について説明する。図1に示すように、本実施形態の臓器固定具10は、細長形状をなす臓器係止部20と、この臓器係止部20に対して進退可能に接続された縫合糸30と、を備えている。縫合糸30の先端部には、臓器係止部20に対して進退可能に設けられて臓器係止部20の先端側への移動を規制するアンカー部32が形成されている。
【0018】
臓器係止部20は、縫合糸30を通過させる糸係合部22を有している。縫合糸30は、臓器係止部20を当該縫合糸30の先端側に移動させて糸係合部22とアンカー部32とを係合させた状態で、臓器係止部20の長手方向に対する交差方向に立ち上がるように接続されている。以下、図1に示すように縫合糸30が臓器係止部20の中間部で交差している状態を略T字状と呼称する。また、臓器固定具10が略T字状になっている状態を留置状態と呼称する場合がある。また、臓器係止部20が縫合糸30の先端側(遠位側)に移動することを臓器係止部20が前進すると呼称する場合がある。
【0019】
次に、本実施形態について詳細に説明する。
【0020】
図2図3に示すように、本実施形態の臓器固定装置100は、臓器固定具10、収容部(穿刺針130)および送出機構(プランジャ200)を備えている。臓器固定具10は、上述のように、細長形状の臓器係止部20と、この臓器係止部20に対して進退可能に接続され臓器係止部20の先端側への移動を規制するアンカー部32が先端部に形成された縫合糸30と、を含む。
収容部は、臓器固定具10の臓器係止部20を収容する手段であり、本実施形態では穿刺針130の内腔が収容部にあたる。このほか、本実施形態に代えて、筐体110の内部空間を臓器係止部20の収容部として用いてもよい。送出機構(プランジャ200)は、臓器係止部20を収容部(穿刺針130)から外部に送出する機構である。
図3に示すように、本実施形態の臓器固定装置100においては、臓器係止部20が縫合糸30に対してアンカー部32よりも基端側の位置に係合した状態で収容部(穿刺針130)に収容されている。
【0021】
本実施形態の臓器固定具10は、留置状態において互いに係合する糸係合部22とアンカー部32とが進退可能に構成されているため、臓器固定具10を臓器固定装置100に装填するにあたり、アンカー部32を臓器係止部20(糸係合部22)と離間させておくことが可能である。このため、小径の穿刺針130(図2参照)の内部に臓器係止部20を収容して用いる場合でも、穿刺針130の内部で癖付けされて縫合糸30に生じうる屈曲部36の位置をアンカー部32から離間させることができる。このため、臓器係止部20が縫合糸30の先端部まで前進してアンカー部32と糸係合部22とが係合し、臓器固定具10が留置状態になったときに、屈曲部36の影響を受けることなく臓器係止部20と縫合糸30とが所望の、すなわち略直角の、交差角度となる。これにより、本実施形態の臓器係止部20は臓器(胃壁320:図6参照)に確実に係止する。
【0022】
臓器係止部20は金属、樹脂またはセラミックなどの材料からなる細長形状の部材である。本実施形態の臓器係止部20は角棒形状であるが、これに限られない。丸棒または丸棒の一部を切り落とした棒状でもよく、または長手方向に貫通する軸孔をもつ中空管状のパイプでもよい。本実施形態の臓器係止部20は長手方向に直線的な形状をなすが、これに代えて、湾曲形状でもよく、または細長い環状でもよい。
【0023】
縫合糸30は金属または樹脂からなる細線である。材料は特に限定されないが、一例としてナイロンなどの合成樹脂を用いることができる。縫合糸30のうちアンカー部32が設けられている側を先端側と呼称する。
【0024】
アンカー部32は、縫合糸30の先端部に形成され、縫合糸30よりも大径に形成された部位である。本実施形態のアンカー部32は、縫合糸30の最先端に形成されているが、本発明はこれに限られない。アンカー部32は種々の方法で形成することができる。一例として、縫合糸30を一回または複数回結んで形成した結び目でもよく、または接着剤その他の部材を縫合糸30に装着してアンカー部32としてもよい。このほか、縫合糸30を加熱溶融させて塊状に形成した溶融部でもよい。アンカー部32と縫合糸30との間の破断強度は、縫合糸30自身の引張強度よりも高いことが好ましい。
【0025】
図3に示すように、本実施形態の臓器固定装置100は、臓器係止部20(20a・20b)および縫合糸30(30a・30b)をそれぞれ含む複数の臓器固定具10(10a・10b)を備えている。一の臓器固定具10bにおける臓器係止部20bは、隣接する他の臓器固定具10aの臓器係止部20aとの間に、当該臓器固定具10bのアンカー部32を介挿して収容部(穿刺針130)に収容されている。図3のように臓器係止部20が収容部に収容されている際の臓器固定具10の状態を収容状態と呼称する場合がある。
【0026】
臓器係止部20の糸係合部22には、臓器係止部20に対して径方向に穿設された通孔26が開口形成されている。縫合糸30のアンカー部32の外径は通孔26の内径よりも大きく、縫合糸30は通孔26に挿通されてアンカー部32により抜け留めされている。これにより、縫合糸30が臓器係止部20から外れることなく、互いに進退移動することができる。また、糸係合部22が通孔26の開口を有することで、アンカー部32をこの開口に嵌合させて臓器係止部20に安定して係止させることができる。
【0027】
本実施形態においては、臓器係止部20に対して通孔26は直交方向に形成されている。このほか第二実施形態で説明するように通孔26の深さ方向は通孔26の厚み方向に対して傾斜していてもよい(図7参照)。本実施形態の臓器係止部20は中実の棒状であり、通孔26は臓器係止部20を貫通している。このほか、軸孔をもつ中空管状のパイプを臓器係止部20に用いる場合、通孔26は、臓器係止部20を直径方向に貫通する貫通孔でもよく、または軸孔まで達するとともに直径方向に非貫通の側孔でもよい。
【0028】
留置状態の臓器固定具10において、アンカー部32は糸係合部22に係合し、縫合糸30は通孔26に挿置される。図1(a)に示すように、本実施形態の糸係合部22は通孔26の遠位側(下側)の開口端である。このほか、糸係合部22は通孔26の内部に形成されてもよい。
【0029】
縫合糸30は、糸係合部22を通じて臓器係止部20の通孔26を進退可能である。留置状態において、臓器係止部20に対する縫合糸30の交差方向は、通孔26の深さ方向と一致していてもよく、または異なってもよい。本実施形態の臓器固定具10では、留置状態において縫合糸30は臓器係止部20に対して直交し、縫合糸30の直線領域34の延在方向は通孔26の深さ方向と一致している。第二実施形態のように、通孔26の深さ方向と縫合糸30の直線領域34の延在方向とが異なってもよい(図7(c)参照)。
【0030】
臓器固定装置100は、臓器係止部20a・20bを収容する穿刺針130と、筒状をなし穿刺針130の基端部を保持する筐体110と、臓器係止部20a・20bを穿刺針130の開口132から送出するプランジャ200と、を備えている。プランジャ200は、筐体110に摺動可能に収容されるステム220と、ステム220の上端に形成された押込操作部210と、ステム220の下端に装着されて穿刺針130に挿通される押し棒230と、を備えている。押込操作部210を押し込み操作して押し棒230を臓器係止部20の略1本分の長さだけ下降させると、穿刺針130の先端側に収容されていた臓器係止部20(20a)が穿刺針130の開口132から送出される。更に押込操作部210を押し込み操作して押し棒230を臓器係止部20の略1本分の長さまたはそれ以上のストロークで下降させると、穿刺針130の基端側に収容されていた臓器係止部20(20b)が穿刺針130の開口132から送出される。
【0031】
本実施形態の臓器固定装置100は、複数のスライダ151・152を備えている。スライダ151・152は上下方向に並んで配置され、筐体110に対して個別に押し込み可能に装着されている。スライダ151・152は、筐体110から突出している非押込状態でプランジャ200のステム220と係止しており、スライダ151・152を個別に押し込むことで係止が解除されてステム220がスライダ151・152を通過可能となる。より具体的には、図2に示す初期状態においてステム220はスライダ151または152の一方と係止しており、プランジャ200は押し下げが規制されている。ステム220には太径部222および細径部224が形成されており、細径部224はスライダ151・152の状態によらずこれを通過可能であるが、太径部222は非押込状態のスライダ151・152と係止する。太径部222はステム220の複数箇所に形成されている。図2(b)においては、ステム220の基端側の太径部222を図示し、筐体110に収容された先端側の太径部222は図示省略している。スライダ151または152の一方を押し込むことで太径部222の係止が解除され、ステム220およびプランジャ200は押し下げ可能となる。これにより臓器係止部20が穿刺針130から送出される。
また、臓器係止部20の略1本分のストロークだけプランジャ200を押し下げた位置で、ステム220の太径部222はスライダ151または152の他方と係止する。これにより、1個目の臓器係止部20(20a)に続けて、2個目の臓器係止部20(20b)が過って連続して送出されてしまうことがない。そして、スライダ151または152の当該他方を押し込むことで太径部222の係止が解除され、ステム220およびプランジャ200は更に押し下げ可能となる。これにより、2個目の臓器係止部20(20b)を所望の位置およびタイミングで穿刺針130から送出することができる。
【0032】
図3に示すように、穿刺針130の先端側に臓器係止部20aが収容され、その基端側に臓器係止部20bが収容されている。穿刺針130には、開口132に連設してスリット134が設けられている。スリット134の幅寸法は、縫合糸30の直径よりも大きく、臓器係止部20の幅寸法よりも小さい。臓器係止部20aに接続された縫合糸30aは、穿刺針130のスリット134より引き出されて穿刺針130の外面に沿って基端側に延在している。臓器係止部20bに接続された縫合糸30bは、穿刺針130の内部を挿通されて穿刺針130の基端開口136を通じて筐体110(図3においては図示省略)の内部に引き込まれている。図2(a)に示すように、筐体110の下端近傍には糸道140が開口形成されている。縫合糸30bは、糸道140を通じて筐体110の外部に引き出されている。
【0033】
筐体110の周囲には保持帯160が装着されている。保持帯160は縫合糸30a・30bを筐体110に密着させて摺動可能に摩擦的に保持する。これにより、臓器係止部20a・20bが穿刺針130から自重落下することが防止されている一方で、プランジャ200の押し下げによって臓器係止部20a・20bが穿刺針130から送出されたときには縫合糸30a・30bが保持帯160を実質的に抵抗なく通過して筐体110から取り外される。
【0034】
図1および図3に示すように、縫合糸30の先端部には、アンカー部32の基端側に隣接して直線領域34が形成されている。直線領域34が存在することで、アンカー部32を臓器係止部20に係合させた状態で、臓器係止部20と縫合糸30とが略直角に交差する。
【0035】
収容状態の縫合糸30は、臓器係止部20の通孔26を通過する前後で屈曲している。すなわち、縫合糸30の先端部には、直線領域34の基端側に隣接して屈曲部36が形成されている。屈曲部36からアンカー部32までの縫合糸30の長さは、臓器係止部20における長手方向の端部(先端部24)から糸係合部22までの長さと同等またはそれ以上である。これにより、図3に示すように屈曲部36を通孔26に合わせた状態でアンカー部32を臓器係止部20の先端部24よりも先端側に位置させることができる。言い換えると、縫合糸30の屈曲部36を臓器係止部20の通孔26に合わせて穿刺針130に収容するにあたり、縫合糸30よりも大径のアンカー部32と臓器係止部20とを穿刺針130の先基端方向の異なる位置に収容することができる。これにより、小径の穿刺針130の内腔にアンカー部32と臓器係止部20を収容することができるため低侵襲の手技が可能である。
【0036】
屈曲部36は、穿刺針130に収容される以前に縫合糸30に予め曲げ形成されてもよい。または、縫合糸30を通孔26に挿通して穿刺針130に収容しておくことにより臓器固定装置100を使用する時点において縫合糸30に折り癖が付けられて屈曲部36が形成されてもよい。
【0037】
収容部(穿刺針130)の内周面と臓器係止部20との間隙幅は、縫合糸30の線径よりも大きく、かつアンカー部32の外径よりも小さい。これにより、図3に示すように縫合糸30は臓器係止部20に沿って穿刺針130に収容され、かつ臓器係止部20を下方に押し込んだときにアンカー部32が臓器係止部20と穿刺針130との間隙に潜り込むことなく臓器係止部20によって押し下げられる。なお、アンカー部32の外径とは、アンカー部32が略球形の場合はその直径であり、角柱状などの非球形の場合は縫合糸30の延在方向にアンカー部32を投影した場合の最小寸法である。また、収容部(穿刺針130)の内周面と臓器係止部20との間隙幅とは、収容部の横断面(短手断面)を仮想した場合における、収容部の内周面と臓器係止部20との間隙の収容部半径方向の最大寸法である。本実施形態の臓器固定装置100によれば、アンカー部32の向きによらず、この間隙にアンカー部32が進入することができないため、臓器係止部20とともにアンカー部32が安定して押し下げられる。
【0038】
図3に示すように、本実施形態の臓器固定装置100においては、アンカー部32と屈曲部36との間に形成された直線領域34を臓器係止部20に沿わせた状態で、縫合糸30および臓器係止部20は収容部(穿刺針130)に収容されている。このように直線領域34を臓器係止部20に沿わせて収容部(穿刺針130)に収容することで、直線領域34の直線形状が保護されるため留置状態において臓器固定具10が確実に略T字状となる。
【0039】
図4は、体腔壁310および胃壁320に穿刺針130を穿刺した初期状態を示す臓器固定装置100の部分縦断面図である。臓器固定装置100の基端側は図示省略している。本実施形態の臓器固定装置100は、例えば、胃壁320を体腔壁310に引きつけて固定する場合に使用されるが、他の臓器を体腔壁310に固定したり、または臓器同士を固定したりする手技に用いてもよい。
【0040】
プランジャ200を押し込んでおらず、かつスライダ151・152を押し込んでいない初期状態で臓器固定装置100の穿刺針130を被験者に穿刺する。穿刺針130は、体腔壁310および胃壁320を順次穿刺して、開口132を胃内に到達させる。この状態でスライダ151・152の一方を押し込み操作することで、プランジャ200の押し込み規制が解除される。その後、プランジャ200を操作して押し棒230を押し下げることにより、穿刺針130の先端側に収容されている臓器係止部20aが穿刺針130から送出される。押し棒230が臓器係止部20aの略1本分の長さだけ押し下げられて臓器係止部20aが送出された状態で、プランジャ200はスライダ151・152の他方に係止されてそれ以上の押し下げが規制される。そして、スライダ151・152の当該他方を押し込むことで、プランジャ200および押し棒230は再び押し下げ可能となる。この状態からプランジャ200を更に押し込み操作することで、穿刺針130の基端側に収容されている臓器係止部20bが穿刺針130から送出される。
【0041】
図5(a)から図5(d)は、穿刺針130から臓器係止部20(20a)が送出される状態を示す断面模式図である。
【0042】
図5(a)に示すように、縫合糸30は、アンカー部32の基端側に屈曲部36を有している。臓器係止部20は、屈曲部36に係合した状態で収容部(穿刺針130)に収容されている。そして、図5(b)、(c)に示すように、収容部(穿刺針130)から外部に送出された臓器係止部20は、縫合糸30の先端側に移動してアンカー部32と係合することにより屈曲部36が臓器係止部20よりも基端側に離間する。これにより、図5(d)に示す留置状態で臓器固定具10は略T字状をなす。
【0043】
縫合糸30の屈曲部36は、臓器係止部20によって弾力的に付勢された状態で収容部(穿刺針130)に収容されている。本実施形態の通孔26は臓器係止部20の長手方向に直交して形成されているため、通孔26に挿通された縫合糸30は、通孔26の前後で急峻に折り曲げられて臓器係止部20に沿わされている。このため、縫合糸30を塑性変形させて形成された屈曲部36は、更に弾性変形して穿刺針130に収容されている。
【0044】
図5(b)に示すように、縫合糸30の屈曲部36は、屈曲角度を浅くする方向に臓器係止部20に弾性復元力を付勢する。縫合糸30の屈曲部36の屈曲角度とは、屈曲部36の中央における縫合糸30の延在方向と、屈曲部36よりも基端側における縫合糸30の延在方向との為す角である。臓器係止部20は縫合糸30の屈曲部36からモーメントM1、M2が負荷されている。一方、臓器係止部20は穿刺針130からモーメントM3、M4が負荷されている。臓器係止部20は穿刺針130の内壁面によって傾斜方向(図5(b)の紙面面内方向)の回転移動が制限されており、モーメントM1〜M4は臓器係止部20の重心周りに釣り合っている。
【0045】
プランジャ200の押し棒230に押し下げられて臓器係止部20が穿刺針130から送出されると、内壁面からのモーメントM3、M4は作用しなくなる。このため、臓器係止部20は屈曲部36の弾性復元力によるモーメントM1、M2によって傾斜方向に付勢されて回動する。図5(c)に示すように、かかる傾斜方向の回動力は、縫合糸30まわりの旋回力に換えられて臓器係止部20を旋回させる。臓器係止部20の旋回方向は、臓器係止部20に作用する微小な外力の非対称性などにより定まる。
【0046】
このため、図5(c)および(d)に示すように、収容部(穿刺針130)から鉛直下向きに送出された臓器係止部20は、縫合糸30の周囲を旋回しながらアンカー部32まで落下する。落下中の臓器係止部20を仮想線で示す。穿刺針130から送出された臓器係止部20は、臓器係止部20の自重および屈曲部36の弾性復元力により縫合糸30に沿って先端側に移動し、直線領域34に形成されたアンカー部32に至る。これにより、縫合糸30は臓器係止部20から略直交して立ち上がり、臓器固定具10は略T字状の留置状態となる。
【0047】
なお、穿刺針130の基端側に収容された臓器係止部20bを送出する場合についても同様である。臓器係止部20bは、接続されている縫合糸30bが穿刺針130の内部に挿通されている点で臓器係止部20aと異なるが、穿刺針130から送出された臓器係止部20bがアンカー部32に至って留置状態となるまでの旋回動作は臓器係止部20aと共通する。
【0048】
図6は本実施形態の臓器固定具10の留置状態を示す模式図である。臓器固定具10が胃内に送り出されると、穿刺針130は被験者から引き抜かれる。臓器係止部20は胃壁320の内面に沿い、縫合糸30は上方に伸びて、臓器係止部20と縫合糸30とが略T字状をなす。縫合糸30は筐体110(図4参照)から取り外され、縫合糸30の上端側は体腔壁310の外側に残留している。体腔壁310の上方に縫合糸30を牽引することで、胃壁320が体腔壁310に向かって吊り上げられる。体腔壁310の内面まで胃壁320が引き寄せられた状態で、縫合糸30は係止具(図示せず)により体腔壁310の外表面で固定されるか、または他の縫合糸と互いに結びつけられて固定される。これにより、胃壁320が体腔壁310に密着して固定される。
【0049】
縫合糸30を牽引して胃壁320を吊り上げることにより、縫合糸30には張力が負荷され、屈曲部36は略直線状に伸長する。このため、体腔壁310および胃壁320に形成された穿刺針130の穿刺孔330の内部を縫合糸30が通過する際に屈曲部36が支障になることはない。図6では、胃壁320が体腔壁310に密着した状態で屈曲部36が体腔壁310よりも表面に位置する状態を図示しているが、これに限らず屈曲部36の一部または全部が穿刺孔330の内部に位置してもよい。
【0050】
<第二実施形態>
図7は本発明の第二実施形態の臓器固定具10を示す模式図である。縫合糸30の基端側は図示省略している。図7(a)は臓器固定具10の収容状態を示す正面図、図7(b)は図7(a)のB−B線(正面)断面図、図7(c)は留置状態を示す正面図である。
【0051】
本実施形態の臓器固定具10は、通孔26が臓器係止部20の長手方向に延在する長孔である点で第一実施形態と相違する。また、本実施形態の臓器固定具10は、通孔26が斜め孔であり、その深さ方向が臓器係止部20の径方向に対して傾斜している点でも第一実施形態と相違する。通孔26の遠位側(図7(a)および(c)の下方)の開口が糸係合部22である。
【0052】
臓器係止部20には先端側(図7(a)の左側)および基端側(図7(a)の右側)に2つのスリット27a、27bが径方向の反対側から、臓器係止部20の厚みの半分未満の深さ寸法で削成されている点で第一実施形態と更に相違する。スリット27a、27bは長孔(通孔26)の上下の開口に対してそれぞれ滑らかに連設され、臓器係止部20の軸方向の反対側に延在している。
【0053】
スリット27a、27bの深さ寸法(図7(a)の上下寸法)は縫合糸30の線径よりも大きいことが好ましい。また、スリット27a、27bの幅寸法(図7(b)の上下寸法)は、縫合糸30の線径よりも大きく、アンカー部32の外径よりも小さいことが好ましい。
【0054】
本実施形態の臓器固定具10は、第一実施形態と同様に、臓器係止部20に対して進退可能に設けられて臓器係止部20の前進を規制するアンカー部32が縫合糸30の先端部に形成されている。また、アンカー部32の基端側に隣接して直線領域34が形成され、直線領域34の基端側に隣接して屈曲部36が形成されている。屈曲部36からアンカー部32までの縫合糸30の長さは、臓器係止部20における長手方向の端部(先端部24)から糸係合部22までの長さと同等またはそれ以上である。
【0055】
図7(c)に示すように、臓器係止部20を当該縫合糸30の先端側に移動させて糸係合部22とアンカー部32とを係合させた状態(留置状態)で、縫合糸30は臓器係止部20の長手方向に対する交差方向に立ち上がるように接続される。
【0056】
本実施形態の臓器固定具10のように通孔26が長孔であることにより、縫合糸30の屈曲部36の屈曲角度を第一実施形態に比して浅くすることができる。これにより、縫合糸30と臓器係止部20との相対移動がスムーズになり、臓器固定具10を図7(a)の収容状態から図7(c)の留置状態までより確実に遷移させることができる。また、通孔26が斜め孔であることにより、縫合糸30の屈曲部36の屈曲角度を更に浅くすることができるとともに、図7(c)に示す留置状態においてアンカー部32および縫合糸30のやや基端位置が、通孔26の遠位側の開口(糸係合部22)および近位側の開口の内縁にそれぞれ支持される。このため、留置状態の臓器固定具10を安定させることができる。
さらに、通孔26(長孔)の両端の開口にそれぞれ連設して軸方向の反対側に延在するスリット27a、27bを設けたことにより、図7(a)に示すように収容状態の臓器固定具10において縫合糸30をスリット27a、27bの内部に収容することができる。このため、穿刺針130に臓器係止部20を収容するにあたり(図3参照)、縫合糸30の線径の分だけ穿刺針130を太径化する必要がなく、言い換えると細径の穿刺針130を用いて低侵襲の手技とすることができる。
【0057】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0058】
たとえば、上記各実施形態の臓器固定具10においては、収容状態において縫合糸30が細長形状の臓器係止部20の径方向に挿通され、縫合糸30に屈曲部36が形成されている態様を例示したが、本発明はこれらに限られない。具体的には、図8各図は本発明の第一変形例の臓器固定具10を示す模式図である。縫合糸30の基端側は図示省略している。図8(a)は臓器固定具10の収容状態を示す平面図、図8(b)は図8(a)のB−B線(正面)断面図、図8(c)は図8(a)のC−C線(左側面)断面図、図8(d)は臓器固定具10の留置状態を示す正面図である。
【0059】
第一変形例の臓器固定具10は、収容状態において縫合糸30が臓器係止部20の軸方向に挿通されており、またアンカー部32の基端側に屈曲部36が形成されていない点で上記各実施形態と相違する。臓器係止部20には先端側(図8(a)の左側)および基端側(図8(a)の右側)に2つのスリット27a、27bが径方向の反対側から、臓器係止部20の厚みの半分を超える深さ寸法で削成されている。これにより、収容状態で縫合糸30を臓器係止部20の軸方向に挿通することが可能である。スリット27a、27bは、臓器係止部20の軸方向の中央に設けられた通孔26を共有するように臓器係止部20の軸方向に一部重複している。糸係合部22は通孔26の下端である。
【0060】
臓器係止部20が臓器固定装置100の穿刺針130から送出されると(図4参照)、臓器係止部20は縫合糸30に対して通孔26を中心として自重により回動する。これにより、縫合糸30は通孔26に収容されて臓器係止部20の長手方向に対する交差方向(径方向)に立ち上がるように接続される。そして、アンカー部32は糸係合部22に係合し、図8(d)に示す略T字状の臓器固定具10となる。
【0061】
また、上記各実施形態および第一変形例の臓器固定具10においては、臓器係止部20に対して径方向に穿設された通孔26が開口形成されており、縫合糸30が挿通されてアンカー部32により抜け留めされている態様を例示したが、本発明はこれらに限られず、縫合糸30は臓器係止部20の孔内部ではなく臓器係止部20の周囲に沿って臓器係止部20に対して進退可能に通過してもよい。具体的には、図9各図は本発明の第二変形例の臓器固定具10を示す模式図である。縫合糸30の基端側は図示省略している。図9(a)は臓器固定具10の収容状態を示す正面図、図9(b)は収容状態を示す平面図、図9(c)は留置状態を示す正面図である。
【0062】
第二変形例の臓器固定具10は、縫合糸30の先端にループ部50を有しており、ループ部50を臓器係止部20の周囲に装着することにより縫合糸30が臓器係止部20に接続されている点で上記各実施形態および第一変形例と相違する。臓器係止部20の軸方向の中央部には細径の縊れ部として糸係合部22が形成されている。ループ部50は長円環状の板材などで構成されて所定の剛性を有し、臓器係止部20の幅方向(図9(b)の上下方向)には実質的に拡径せず、面外に屈曲する可撓性を有する。ループ部50の材料は特に限定されないが、胃壁320への負荷を軽減する観点で、ナイロンなど縫合糸30と同種の樹脂材料を用いるとよく、または縫合糸30よりもデュロメータ硬度の低い軟質の樹脂材料を用いてもよい。ループ部50は、上記の樹脂材料を板状に成形して作成することができる。
ループ部50の短径寸法は、糸係合部22の外径よりも大きく、糸係合部22を除く臓器係止部20の太径部分の外径よりも小さい。ループ部50の長径寸法は任意である。屈曲部36からアンカー部32までの縫合糸30(ループ部50)の長さは、臓器係止部20における長手方向の端部(先端部24)から糸係合部22までの長さより短くてもよく、または同等またはそれ以上でもよい。
ループ部50は直線領域34および屈曲部36を有し、ループ部50の先端はアンカー部32にあたる。細径の糸係合部22はループ部50に挿通されており、ループ部50に沿って進退可能である。縫合糸30(ループ部50)の屈曲部36は、臓器係止部20によって弾力的に付勢された状態で収容部(穿刺針130)に収容されている。
【0063】
臓器係止部20が臓器固定装置100の穿刺針130から送出されると(図4参照)、臓器係止部20は自重および屈曲部36の弾性復元力により縫合糸30に対して回動する。これにより、糸係合部22はループ部50のアンカー部32まで前進して係合し、縫合糸30(ループ部50)は臓器係止部20の長手方向に対する交差方向(径方向)に立ち上がるように接続される。これにより、図9(c)に示すように臓器固定具10は略T字状となって留置される。
【0064】
上述の実施形態および変形例にかかる臓器固定具10では、収容状態においてアンカー部32を臓器係止部20の先端側に係合させることを例示したが、本発明はこれに限られない。
【0065】
図10は本発明の第三変形例の臓器固定具10の収容状態を模式的に示す断面図である。縫合糸30および穿刺針130の基端側(図10の右側)は図示を省略している。
【0066】
本変形例の臓器係止部20は、アンカー部32の少なくとも一部を収容する収容部28を備えている。収容部28は、当該臓器係止部20の長手方向(図10の左右方向)における糸係合部22と異なる位置に設けられている。縫合糸30の先端部には、直線領域34の基端側に隣接して屈曲部36が形成されている。屈曲部36からアンカー部32までの縫合糸30の長さは、臓器係止部20における収容部28から糸係合部22までの長さと同等である。
【0067】
本変形例によれば、臓器係止部20の収容部28にアンカー部32を収容した状態で臓器固定具10を穿刺針130に収容することができる。このため、限られた内径の穿刺針130の内部に臓器係止部20およびアンカー部32を収容することができる。本変形例の臓器固定具10によれば、アンカー部32が収容部28に収容されて臓器係止部20で保護されるため、プランジャ200および押し棒230を押し込む力がアンカー部32に実質的に負荷されない。このため、アンカー部32の近傍の縫合糸30(直線領域34)に不測の塑性変形が生じることが防止され、留置状態で臓器固定具10を確実に略T字状とすることができる。
【0068】
本変形例の収容部28は、棒状の臓器係止部20のいずれか一以上の周面より臓器係止部20の厚み方向に削成された凹部である。収容部28にアンカー部32を嵌合させた状態で、臓器係止部20およびアンカー部32をあわせた厚み寸法(臓器係止部20の長手方向に直交する方向の寸法)の最大値は、穿刺針130の内容未満である。収容部28は、臓器係止部20の一部厚さを彫り込んで形成された有底凹部でもよく、または臓器係止部20を貫通する貫通孔でもよい。図10に示す本変形例では、収容部28は糸係合部22(通孔26)よりも先端側(同図の左側)に設けられている。これにより、通孔26を通過する屈曲部36の屈曲角度を浅くすることができる。本変形例に代えて、臓器係止部20の先端側に薄肉の段差部を収容部28として形成し、この段差部にアンカー部32を係合させて穿刺針130に収容してもよい。
【0069】
収容部28にアンカー部32が収容された状態で、直線領域34は臓器係止部20に沿って延在している。これにより、収容部28から通孔26(糸係合部22)までの長手方向の寸法は、直線領域34の長さと略等しくなっている。
【0070】
本変形例において、収容部28は、通孔26の開口が形成されている面(図10における上下面)とは異なる面に削成されている。通孔26が開口している面を主面とし、収容部28が形成されている側面としたとき、主面は側面よりも幅寸法が大きい。言い換えると、臓器係止部20の主面に対する厚み寸法(図10における上下寸法)は、側面に対する厚み寸法(図10における奥行寸法)よりも小さい。これにより、本変形例によれば、通孔26の深さ寸法を低減するとともに、収容部28の深さ寸法を十分に大きくしてアンカー部32を好適に収容することができる。
【0071】
ただし、本変形例に代えて、収容部28を臓器係止部20の主面に形成してもよく、また収容部28を糸係合部22(通孔26)よりも基端側に設けてもよい。
【0072】
上記の第一から第三変形例の臓器固定具10もまた、臓器係止部20の前進を規制するアンカー部32の基端側に隣接して直線領域34が形成されている。これにより、アンカー部32が臓器係止部20に係合して臓器固定具10が留置状態になったときに、縫合糸30の直線領域34が臓器係止部20から略直角に起立するため、臓器固定具10が確実に略T字状となって臓器に係止する。
【0073】
上記各実施形態および各変形例は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)細長形状をなす臓器係止部と、前記臓器係止部に対して進退可能に接続された縫合糸と、を備え、前記縫合糸の先端部に、前記臓器係止部に対して進退可能に設けられて前記臓器係止部の先端側への移動を規制するアンカー部が形成されていることを特徴とする臓器固定具。
(2)前記臓器係止部は、前記縫合糸を通過させる糸係合部を有し、前記縫合糸は、前記臓器係止部を前記縫合糸の先端側に移動させて前記糸係合部と前記アンカー部とを係合させた状態で、前記臓器係止部の長手方向に対する交差方向に立ち上がるように接続されている上記(1)に記載の臓器固定具。
(3)前記縫合糸の前記先端部には前記アンカー部の基端側に隣接して直線領域が形成されている上記(2)に記載の臓器固定具。
(4)前記縫合糸の前記先端部には前記直線領域の基端側に隣接して屈曲部が形成されており、前記屈曲部から前記アンカー部までの前記縫合糸の長さが、前記臓器係止部における長手方向の端部から前記糸係合部までの長さと同等またはそれ以上である上記(3)に記載の臓器固定具。
(5)前記臓器係止部は、前記糸係合部とは当該臓器係止部の長手方向の異なる位置に、前記アンカー部の少なくとも一部を収容する収容部を備え、前記縫合糸の前記先端部には前記直線領域の基端側に隣接して屈曲部が形成されており、前記屈曲部から前記アンカー部までの前記縫合糸の長さが、前記臓器係止部における前記収容部から前記糸係合部までの長さと同等である上記(3)に記載の臓器固定具。
(6)前記糸係合部には、前記臓器係止部に対して径方向に穿設された通孔が開口形成されており、前記縫合糸の前記アンカー部の外径は前記通孔の内径よりも大きく、前記縫合糸が前記通孔に挿通されて前記アンカー部により抜け留めされていることを特徴とする上記(2)から(5)のいずれか一項に記載の臓器固定具。
(7)前記通孔が、前記臓器係止部の長手方向に延在する長孔である上記(6)に記載の臓器固定具。
(8)前記通孔が、深さ方向が前記臓器係止部の径方向に対して傾斜する斜め孔である上記(6)または(7)に記載の臓器固定具。
(9)細長形状の臓器係止部と、前記臓器係止部に対して進退可能に接続され前記臓器係止部の先端側への移動を規制するアンカー部が先端部に形成された縫合糸と、を含む臓器固定具と、前記臓器係止部を収容する収容部と、前記臓器係止部を前記収容部から外部に送出する送出機構と、を備え、前記臓器係止部が、前記縫合糸に対して前記アンカー部よりも基端側の位置に係合した状態で前記収容部に収容されていることを特徴とする臓器固定装置。
(10)前記縫合糸は前記アンカー部の基端側に屈曲部を有し、前記臓器係止部は前記屈曲部に係合した状態で前記収容部に収容されており、前記収容部から外部に送出された前記臓器係止部が前記縫合糸の先端側に移動して前記アンカー部と係合することにより前記屈曲部が前記臓器係止部よりも基端側に離間する上記(9)に記載の臓器固定装置。
(11)前記縫合糸の前記屈曲部が、前記臓器係止部によって弾力的に付勢された状態で前記収容部に収容されている上記(10)に記載の臓器固定装置。
(12)前記縫合糸には前記アンカー部と前記屈曲部との間に直線領域が形成されており、前記直線領域を前記臓器係止部に沿わせた状態で前記縫合糸および前記臓器係止部が前記収容部に収容されている上記(10)または(11)に記載の臓器固定装置。
(13)前記収容部から鉛直下向きに送出された前記臓器係止部が、前記縫合糸の周囲を旋回しながら前記アンカー部まで落下することを特徴とする上記(9)から(12)のいずれか一項に記載の臓器固定装置。
(14)前記臓器係止部および前記縫合糸をそれぞれ含む複数の前記臓器固定具を備え、一の前記臓器係止部が、隣接する他の前記臓器係止部との間に前記アンカー部を介挿して前記収容部に収容されている上記(9)から(13)のいずれか一項に記載の臓器固定装置。
(15)前記収容部の内周面と前記臓器係止部との間隙幅が、前記縫合糸の線径よりも大きく前記アンカー部の外径よりも小さい上記(14)に記載の臓器固定装置。
【符号の説明】
【0074】
10、10a、10b:臓器固定具
20、20a、20b:臓器係止部
22:糸係合部
24:先端部
26:通孔
27a、27b:スリット
28:収容部
30、30a、30b:縫合糸
32:アンカー部
34:直線領域
36:屈曲部
50:ループ部
100:臓器固定装置
110:筐体
130:穿刺針
132:開口
134:スリット
136:基端開口
140:糸道
151、152:スライダ
160:保持帯
200:プランジャ
210:押込操作部
220:ステム
222:太径部
224:細径部
230:押し棒
310:体腔壁
320:胃壁
330:穿刺孔
M1〜M4:モーメント
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10