(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フッ素が添加されたシリカガラス管を分割し、分割された各シリカガラス管内にそれぞれコアガラス母材を入れて一体化して複数の光ファイバ用ガラス母材を製造する工程と、
複数の前記光ファイバ用ガラス母材を加熱炉により順番に加熱溶融し、徐冷用保温炉により保温しながら線引きする工程と、を有する光ファイバの製造方法であって、
複数の前記光ファイバ用ガラス母材は同一のシリカガラス管から分割されたシリカガラス管を用いて製造され、複数の前記光ファイバ用ガラス母材のうち、最初の光ファイバ用ガラス母材から線引きされた光ファイバの伝送損失を測定する工程と、
前記伝送損失の測定結果に基づき、前記最初の光ファイバ用ガラス母材以降の前記複数のファイバ用ガラス母材から線引きされる光ファイバの伝送損失が目標とする値になるように、前記徐冷用保温炉の温度または前記徐冷用保温炉を通過する光ファイバの速度の少なくとも一方を調整する工程を有する、光ファイバの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、光ファイバ用ガラス母材を製造する際に、コアを純シリカ、クラッドをフッ素添加ガラスとし、コアとなるコア部と、クラッドの一部となるパイプを別々に製造し、コア部をパイプに入れてコラプスすることにより一体化する場合がある。
【0005】
上記のようにして製造された各光ファイバ用ガラス母材は、通常、同一条件で線引きを行い、線引き終了後の検査工程で伝送損失などを測定している場合が多いが、伝送損失が規格から外れていると、以降の線引きでは、線引き条件を変更して調整する必要がある。しかしながら、通常上記検査工程は、線引き後、重水素処理、分割・スクリーニングなどの工程を経て検査工程を行うので、線引きしてから検査結果が出るまで日数が掛かる。このため、上記のように、線引き終了後に検査を行う場合は、伝送損失が規格から外れた光ファイバを大量に生産してしまう可能性がある。
【0006】
上記特許文献1〜3に記載されているように、個々の光ファイバ用ガラス母材の線引き開始端で光ファイバの特性を測定し、その測定結果に応じて線引き条件を変えて個々の光ファイバ用ガラス母材の残部を線引きすれば、その残部から線引きした光ファイバの伝送損失を調整し、規格内に入るようにすることは可能である。
しかしながら、開始端の伝送損失の測定結果がでるまでの間は同一条件で線引きする必要があるため、その間に線引きした光ファイバが、規格から外れる可能性がある。また、単に伝送損失が規格内に入っているか否かを確認するだけでは、規格内の中で伝送損失値がばらついてしまうことがあった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、フッ素が添加されたクラッドを有する光ファイバを製造する際に、伝送損失が目標値からばらつくことなく、光ファイバを製造できる光ファイバの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできる本発明の光ファイバの製造方法は、フッ素が添加されたシリカガラス管を分割し、分割された各シリカガラス管内にそれぞれコアガラス母材を入れて一体化して複数の光ファイバ用ガラス母材を製造する工程と、
複数の前記光ファイバ用ガラス母材を加熱炉により順番に加熱溶融し、徐冷用保温炉により保温しながら線引きする工程と、を有する光ファイバの製造方法であって、
複数の前記光ファイバ用ガラス母材のうち、最初に光ファイバ用ガラス母材から線引きされた光ファイバの伝送損失を測定する工程と、
前記伝送損失の測定結果に基づき、以降の前記複数の光ファイバ用ガラス母材から線引きされる光ファイバの伝送損失が目標とする値になるように、前記徐冷用保温炉の温度または前記徐冷用保温炉を通過する光ファイバの速度の少なくとも一方を調整する工程を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フッ素が添加されたクラッドを有する光ファイバを製造する際に、伝送損失が目標値からばらつくことなく、光ファイバを製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本願発明の実施形態の説明]
本願発明の実施形態に係る光ファイバの製造方法は、
(1) フッ素が添加されたシリカガラス管を分割し、分割された各シリカガラス管内にそれぞれコアガラス母材を入れて一体化して複数の光ファイバ用ガラス母材を製造する工程と、
複数の前記光ファイバ用ガラス母材を加熱炉により順番に加熱溶融し、徐冷用保温炉により保温しながら線引きする工程と、を有する光ファイバの製造方法であって、
複数の前記光ファイバ用ガラス母材のうち、最初に光ファイバ用ガラス母材から線引きされた光ファイバの伝送損失を測定する工程と、
前記伝送損失の測定結果に基づき、以降の前記複数の光ファイバ用ガラス母材から線引きされる光ファイバの伝送損失が目標とする値になるように、前記徐冷用保温炉の温度または前記徐冷用保温炉を通過する光ファイバの速度の少なくとも一方を調整する工程を有する。
フッ素が添加されたシリカガラス管を分割し、分割された各シリカガラス管内にそれぞれ小型のコアガラス母材を入れて一体化して複数の光ファイバ用ガラス母材を製造する場合、コアガラス母材は小型であるため、伝送損失のばらつきの要因とはなりにくく、伝送損失のばらつきは、主にシリカガラス管に起因する。このため、複数の光ファイバ用ガラス母材が、フッ素が添加された同一のシリカガラス管から分割されたシリカガラス管を用いて製造されたものであれば、そのうち最初の光ファイバ用ガラス母材から線引きされた光ファイバの伝送損失の結果で、徐冷用保温炉の温度または徐冷用保温炉を通過する光ファイバの速度の少なくとも一方を調整する。このように調整した条件で、分割された他の各シリカガラス管を用いた光ファイバ用ガラス母材を線引きすることで、伝送損失の目標値に合わせることができる。
これにより、分割されたシリカガラス管を用いた複数の母材を線引きして光ファイバを製造する際に、伝送損失が目標値からばらつくことなく、光ファイバを製造できる。
【0012】
(2) 前記徐冷用保温炉の温度および前記徐冷用保温炉を通過する光ファイバの速度の調整は、伝送損失を大きくする調整を含む。
一般的に伝送損失は低いほど良いため、最初の光ファイバ用ガラス母材から線引きされた光ファイバの伝送損失が目標値より小さい場合は、徐冷用保温炉の条件を調整する必要は無いと考えられるが、そうすると、伝送損失のばらつきが大きくなってしまう可能性がある。このため、目標値より伝送損失が小さい場合は、伝送損失を大きくする調整を行うことにより、分割された他の各シリカガラス管を用いた光ファイバ用ガラス母材を線引きして得られる光ファイバの伝送損失のばらつきを、目標値付近に抑えることができる。
【0013】
(3) 前記最初の光ファイバ用ガラス母材の線引き開始端で線引きされた光ファイバの伝送損失の測定結果に基づき、前記最初の光ファイバ用ガラス母材の残部から線引きされる光ファイバの伝送損失が目標とする値になるように、前記徐冷用保温炉の温度または前記徐冷用保温炉を通過する光ファイバの速度の少なくとも一方を調整し、前記最初の光ファイバ用ガラス母材の残部を線引きする工程を有する。
最初の光ファイバ用ガラス母材の線引き開始端で線引きされた光ファイバの伝送損失の結果で、徐冷用保温炉の温度または徐冷用保温炉を通過する光ファイバの速度の少なくとも一方を調整する。このように条件を調整することで、複数の光ファイバ用ガラス母材のうちの最初の光ファイバ用ガラス母材の残部に対しても、伝送損失のばらつきを抑えることができる。
【0014】
本発明の実施形態に係る光ファイバの製造方法は、本願発明者が見出した知見に基づくものであり、以下説明する。
本願発明者らは、フッ素添加ガラスをパイプ化加工して、シリカガラス管を複数本作成した。そして、これら複数本のシリカガラス管を所定の長さにそれぞれ分割して、それぞれコア母材とコラプスして一体化し、複数の光ファイバ用ガラス母材を作成した。
そして、上記複数の光ファイバ用ガラス母材を同一の線引き条件(徐冷温度、線引き速度)で線引きして光ファイバを製造し、複数本の異なるシリカガラス管から製造された全ての光ファイバの伝送損失を測定した。その測定結果を
図1に示す。
【0015】
図1は、上記のようにして製造された全ての光ファイバに対し、伝送損失の目標値0からのずれ(横軸)を0.001dB/kmずつ異なるものに分け、その割合を縦軸にとったものである。
図1に示すように、上記のようにして製造された光ファイバは、伝送損失の目標値(横軸が0の箇所)からのずれのばらつきが大きく、規格(例えば、目標値0の箇所から±0.002dB/km以内)から外れる光ファイバが多かった。
【0016】
次に、本願発明者は、同一のシリカガラス管から分割したパイプのみを用いて製造された複数の光ファイバ用ガラス母材による光ファイバの伝送損失を測定した。
図2は、
図1と同様に、その伝送損失の目標値0からのずれ(横軸)を0.001dB/kmずつ異なるものに分けて、その割合を縦軸にとったものである。
図2に示すように、伝送損失のばらつきは前述の
図1と比較して小さく、かつほぼ正規分布の結果が得られた。なお、他のシリカガラス管について測定しても、同様に伝送損失のばらつきは前述の
図1と比較して小さく、かつほぼ正規分布の結果が得られた。
【0017】
ところが、各シリカガラス管による光ファイバのそれぞれの伝送損失の中央値は目標値からずれている場合があるため、各シリカガラス管から製造された光ファイバは、伝送損失が目標値から外れる場合が出てくる。上記
図2の測定結果では、伝送損失の中央値が目標値から0.002dB/kmずれているため、規格(例えば、目標値0の箇所から±0.002dB/km以内)から外れる光ファイバが生じている。
【0018】
以上のような測定及び知見に基づき、本願発明者らは、シリカガラス管毎に最初の光ファイバ用ガラス母材を線引きして得られた光ファイバの伝送損失を測定し、その値が目標とする値となるように以降の同一シリカガラス管からなる光ファイバ用ガラス母材の線引き条件(徐冷温度、線引き速度)を調整すれば、光ファイバの伝送損失を目標値からばらつくことなく製造することができることを見出した。
【0019】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態に係る光ファイバの製造方法の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。
なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0020】
図3は、本発明の実施形態に係る光ファイバの製造方法に使用される線引き装置の概略構成図である。
図3に示すように、線引き装置1は、母材供給装置2、線引き炉3、徐冷用保温炉5、温度計7、制御部8、ガイドローラ9、キャプスタン装置10、巻き取り装置11を備えている。また、線引き炉3は線引き炉ヒータ4を備え、徐冷用保温炉5は徐冷用保温炉ヒータ6を備えている。
【0021】
線引き装置1による線引き工程では、母材供給装置2によって保持された光ファイバ用ガラス母材12を線引き炉3に供給し、線引き炉ヒータ4で光ファイバ用ガラス母材12の下端を加熱し軟化させ、線引き炉3の下部から光ファイバ13を引き出している。
引き出された光ファイバ13は、徐冷用保温炉5に送られる。徐冷用保温炉5内は、徐冷用保温炉ヒータ6によって所定の温度に調整される。
そして、徐冷用保温炉5を通過した光ファイバ13は、被覆層が形成された後(構成の図示は省略する)、ガイドローラ9、キャプスタン装置10を経て巻き取り装置11に巻き取られる。このような、線引き工程により光ファイバが製造される。
【0022】
また、線引き装置1には、徐冷用保温炉5の温度を測定する温度計7が設けられており、測定された徐冷用保温炉5の温度の値は、制御部8に送信される。
制御部8は、測定された徐冷用保温炉5の温度の値に応じて、徐冷用保温炉ヒータ6を制御して徐冷用保温炉5の温度を調整すると共に、キャプスタン装置10を制御して徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度を調整する。
【0023】
本実施形態に係る光ファイバの製造方法について、以下説明する。
(工程1:母材製造工程)
フッ素が添加されたシリカガラス管を、所定の長さで複数(以下、4本の例として説明する)に分割する。分割された各シリカガラス管内にそれぞれコアガラス母材を入れてロッドインコラプスにより一体化する。これにより、4本の光ファイバ用ガラス母材12を製造する。
【0024】
(工程2:線引き工程)
上記工程1で製造された上記4本の光ファイバ用ガラス母材12を
図3で示した線引き装置1を使用して順番に加熱溶融して線引きを行う。この工程2は、以下の手順(工程2−1〜2−3)を含むものである。
(工程2−1)
上記工程1で製造された上記4本の光ファイバ用ガラス母材12のうち、最初に線引きする1本の光ファイバ用ガラス母材12から線引きされた光ファイバの伝送損失を測定する。
(工程2−2)
上記工程2−1で測定された光ファイバの伝送損失の結果に基づいて、以降2〜4本目の光ファイバ用ガラス母材12から線引きされる光ファイバ13の伝送損失が目標とする値になるように、徐冷用保温炉5の温度(徐冷温度)および徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度(線引き速度)の少なくとも一方を調整する。
【0025】
上記工程2−2における徐冷温度の調整または線引き速度の調整は、例えば次のようにして行われる。
徐冷温度の調整は、制御部8によって徐冷用保温炉ヒータ6を制御して、目標の温度となるように徐冷用保温炉5の温度を調整する。例えば、上記調整により光ファイバ13の伝送損失を小さくするには、徐冷用保温炉5の温度が高くなるように調整する。
【0026】
線引き速度の調整は、制御部8によってキャプスタン装置10を制御して徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度を調整する。例えば、上記調整により光ファイバ13の伝送損失を小さくするには、徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度を遅くするように調整する。
【0027】
なお、上記徐冷用保温炉5の温度および徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度を両方とも調整するようにしてもよい。
以上のようにして、2〜4本目の光ファイバ用ガラス母材12から線引きされる光ファイバ13の伝送損失が目標とする値となるような線引き条件(徐冷温度、線引き速度)が設定される。
【0028】
(工程2−3)
上記工程2−2において設定された線引き条件(徐冷温度、線引き速度)で、2〜4本目の光ファイバ用ガラス母材12に対する線引きを行う。
【0029】
以上詳述した、本実施形態に係る光ファイバの製造方法は、上記工程2−2で調整した条件で、分割された他の各シリカガラス管を用いた光ファイバ用ガラス母材12を線引きすれば、同一シリカガラス管を用いた光ファイバ用ガラス母材12を線引きした場合の伝送損失のばらつきは小さいので、2〜4本目の光ファイバ用ガラス母材12から線引きされた光ファイバ13の伝送損失を目標値近傍に合わせられる。これにより、分割されたシリカガラス管を用いた複数の光ファイバ用ガラス母材12を線引きして光ファイバ13を製造する際に、伝送損失が目標値からばらつくことなく、光ファイバ13を製造できる。
【0030】
また、上記工程2−2における、徐冷用保温炉5の温度および徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度の調整は、伝送損失を大きくする調整を含んでもよい。なお、この伝送損失を大きくする調整は、例えば徐冷用保温炉5の温度が低くなるように調整する。若しくは、例えば徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度を速くするように調整する。または、上記徐冷用保温炉5の温度および徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度を両方とも調整して伝送損失を大きくするようにしてもよい。
【0031】
上記したように、一般的に伝送損失は低いほど良いため、最初の(1本目の)光ファイバ用ガラス母材12から線引きされた光ファイバ13が目標値より小さい場合は、徐冷用保温炉5の条件(徐冷温度、線引き速度)を調整する必要は無いと考えられるが、そうすると、伝送損失のばらつきが大きくなる可能性がある。このため、目標値より伝送損失が小さい場合は、上記のように伝送損失を大きくする調整を行うことにより、分割された他の各シリカガラス管を用いた(例えば2〜4本目の)光ファイバ用ガラス母材12を線引きして得られる光ファイバ13の伝送損失のばらつきを、目標値付近に抑えることができる。
【0032】
なお、上記実施形態の手順に加えて、次の工程を行ってもよい。
最初の(1本目の)光ファイバ用ガラス母材12の線引き開始端で線引きされた光ファイバ13の伝送損失を測定する(工程2−1a)。工程2−1aの測定の結果に基づき、最初の(1本目の)光ファイバ用ガラス母材12の残部で線引きされる光ファイバ13の伝送損失が目標とする値になるように、徐冷用保温炉5の温度または徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度の少なくとも一方を調整し、最初の(1本目の)光ファイバ用ガラス母材12の残部を線引きする(工程2−1b)。
【0033】
最初の(1本目の)光ファイバ用ガラス母材12の線引き開始端で線引きされた光ファイバ13の伝送損失の結果で、徐冷用保温炉5の温度および徐冷用保温炉5を通過する光ファイバの速度の少なくとも一方を調整するので、最初の(1本目の)光ファイバ用ガラス母材12の残部に対しても、伝送損失のばらつきを抑えることができる。
【0034】
なお、上記工程1でフッ素が添加されたシリカガラス管の分割数は、上記例示した4分割に限定されるものではなく、上記工程2で線引きされる光ファイバ用ガラス母材12は4本に限定されるものではない。
【0035】
以上のような本実施形態によって製造される光ファイバの伝送損失の一例を
図4に示す(伝送損失の目標値0からのずれ(横軸)を0.001dB/kmずつ異なるものに分けてその割合を縦軸にとった)。
なお、上記
図4の測定結果は、工程2−2において、徐冷用保温炉5の温度および徐冷用保温炉5を通過する光ファイバ13の速度の両方を調整している。
図4に示す本実施形態によって製造される光ファイバの一例では、中心値が目標値に一致し、伝送損失のばらつきを表すσ(標準偏差)は、±0.001dB/km以下である。したがって、伝送損失を目標値から±0.003dB/km以内に抑えることができる。