(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
<第一の実施形態>
以下、本発明の第一の実施形態おける鍵盤楽器を図面を参照して説明する。
図1は第一の実施形態における鍵盤楽器の機能ブロック図の一例である。
図1に示すように本実施形態の鍵盤楽器100は、演奏インターフェイス10と、操作子動作検出部20と、発音時刻解析部30と、設定受付部40と、演奏情報出力部50と、タイマ60と、記憶部70と、CPU80とを備えている。
【0016】
鍵盤楽器100は、ユーザの演奏(鍵操作)に応じて音を出力する楽器である。本実施形態では、鍵盤楽器100は、演奏情報を演奏信号として出力できるピアノ(アコースティックピアノ)とする。具体的には、鍵盤楽器100は、鍵操作により後述するハンマが弦に衝突することにより発音する。また、鍵操作に基づいて、その演奏情報を示す演奏信号を生成し、出力することもできる。演奏信号としては、たとえばMIDIがあげられる。本実施形態では、鍵盤楽器100が演奏信号を出力するタイミングが2通りある。1つ目は、ユーザの鍵操作によってハンマが弦に衝突することにより発音されるタイミングにて、演奏信号に基づく発音がなされるように演奏信号を出力する通常出力タイミングである。通常出力タイミングで演奏信号の出力が行われる動作を通常モードと呼ぶ。2つ目は、ユーザの鍵操作によってハンマが弦に衝突するよりも前の位置において、その演奏に対応した演奏信号を出力する先行出力タイミング(先行出力時刻)である。先行出力タイミングで演奏信号の出力が行われる動作を先行モードと呼ぶ。また、鍵盤楽器100は、演奏信号に基づいて鍵盤楽器100に設けられたスピーカから発音することができる。また、鍵盤楽器100は、演奏信号を外部へ出力することもできる。
【0017】
演奏インターフェイス10は、ユーザが演奏内容に応じた操作入力をするための操作子及びそれらと連動する機構を含む。操作子とは、例えば、鍵、ペダルである。また、連動する機構とは、いわゆるハンマアクション機構やベダルアクション機構のことである。
操作子動作検出部20は、鍵盤楽器100の鍵や鍵と連動する打弦機構の動作を検出するセンサである。操作子動作検出部20が検出する鍵の押鍵または離鍵の状態を演奏状態という。演奏インターフェイス10、操作子動作検出部20の詳細については
図2を用いて後に説明する。
発音時刻解析部30は、操作子動作検出部20から取得した、鍵盤楽器100の操作子の演奏状態を当該操作子が演奏操作される途中の段階において検出した検出結果に基づいて、操作子の操作に応じた発音が行われる時刻である発音時刻を算出する。例えば、発音時刻解析部30は、検出したハンマの動作から、ハンマの速度や通常出力タイミングを算出することで予測する。
【0018】
設定受付部40は、ユーザから鍵盤楽器100の動作モードを通常モードにするか先行モードにするかあるいは両方にするかの設定の操作入力を受け付ける。また、設定受付部40は、鍵盤楽器100において生成された演奏信号を機器から発音させるまでの時間に応じて定められる出力先行時間を表す出力先行時間情報の操作入力を受け付け、記憶部70に記録する。
【0019】
演奏情報出力部50は、操作子の演奏状態の検出結果が得られると、上述の発音時刻よりも前に、操作子の演奏操作に対応した演奏内容を表す演奏情報を、鍵盤楽器100に接続された機器に出力する。演奏情報とは、例えば、鍵を操作する場合には、その鍵を特定する識別子や押鍵または離鍵する際の鍵の深さ方向の位置である。また、ペダルを操作する場合には、そのペダルを特定する識別子やそのペダルの深さ方向の位置である。また、演奏情報出力部50は、演奏内容に対応する演奏信号を生成して、鍵盤楽器100に接続された機器に出力する。
【0020】
演奏情報出力部50は、発音時刻解析部30が計算した通常出力タイミングと、設定受付部40が設定した出力先行時間情報とから、演奏信号の先行出力タイミングを計算し、そのタイミングに従って演奏信号を機器に出力するよう制御する。ここでいう機器とは、鍵盤楽器100に接続され、鍵盤楽器100において生成された演奏信号に基づいて発音されるまでの経路のうち少なくとも一部を構成する装置である。より具体的には、ワイヤレスオーディオ送受信機、ワイヤレスヘッドホン、ワイヤレスMIDI送受信機、MIDI音源、インターネットセッション装置などである。なお、本発明における機器は鍵盤楽器100の外部に接続されるものだけでなく、鍵盤楽器100の内部に接続される機器も含むものである。
【0021】
タイマ60は、操作子動作検出部20が操作子の動作を検出する時刻や、演奏情報出力部50が出力タイミングを調整する際の時間を計時する。
記憶部70は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Read Access Memory)、HDD(Hard disk drive)、フラッシュメモリなどの記憶装置である。記憶部70は、CPU(Central Processing Unit)によって実行される各アプリケーションプログラム、各種設定情報等を記憶している。記憶部70は、鍵盤楽器100に接続される機器に対応した出力先行時間を記憶する。
CPU80は、鍵盤楽器100の各部を制御する。
【0022】
図2は、本発明の第一の実施形態における鍵盤楽器の主要部内部の構成を示す説明図の一例である。
図2は、鍵盤楽器100が自動演奏ピアノである場合における主要部内部の構成を表す。
図2は、演奏インターフェイス10を含み、その近傍を図示している。
鍵盤楽器100は、鍵1の運動をハンマ2に伝達する打弦機構であるアクション機構3と、ハンマ2によって打撃される弦4と、弦4の振動を止めるダンパ6とを備えている。また、この鍵盤楽器100には、通常のピアノと同様にバックチェック7が設けられており、打弦後のハンマ2がハンマーアクション機構に戻ったときのハンマ2の暴れを防止する。他にも、この鍵盤楽器100は、通常のピアノに搭載される機構と同様のものを備えている。さらに、この鍵盤楽器100には、ハンマ2の打弦を阻止する不図示のストッパが設けられており、このストッパは、演奏者の指示あるいは操作に応じて、打弦を阻止する位置と打弦を許容する位置との間で機械的に移動可能にされている。
【0023】
また、各鍵1の下面側(演奏者から見て下方向)には、それぞれキーセンサ14が設けられ、対応する鍵1の動作を検出する。キーセンサ14は、光源と光センサを有している。光源は、光センサに向けて光を照射する。光センサは、光源から照射された光を検出する。また、鍵1は、下部に突設された不図示のシャッタを有しており、鍵1が押下されると、このシャッタが、光源から光センサに向かう光を遮ることで、光センサが検出する光量が変化する。キーセンサ14は、光センサが検出した光量を表す情報を、発音時刻解析部30に出力する。発音時刻解析部30は、この情報に基づいて、操作された鍵の位置や鍵の速度や鍵の加速度を計算することができる。
【0024】
ハンマセンサ15は、ハンマシャンク8と弦4の間に設けられる。このハンマセンサ15は、光源150と、光センサ151と、光センサ152とを有する。光源150は、ハンマシャンク8の軸方向を基準として、ハンマ2が設けられている一端側(演奏者から見て奥側)に設けられる。光源150は、光センサ151及び光センサ152に向かって光を出射する。
光センサ151と光センサ152は、ハンマシャンク8の軸方向を基準として、ハンマ2が設けられている一端側とは反対側(演奏者から見て手前側)に設けられる。また、光センサ151と光センサ152は、上下方向(弦4側と鍵1側)に並ぶように配置される。
また、ハンマシャンク8の一部にはシャッタ16が設けられる。シャッタ16は、鍵1の押下に伴ってハンマ2が弦4に向かって動く際に、ハンマシャンク8が上方向へ移動することに伴い、光源150から光センサ151及び光センサ152へ向かう光を遮断する。これにより、光センサ151及び光センサ152が受光する受光量が変化する。ハンマセンサ15は、受光量の変化量と、その変化量を検出する光センサ151、152の順序を検出することにより、弦4に向かって移動するハンマ2の動きを検出することができる。発音時刻解析部30は、ハンマセンサ15が検出した検出結果に基づいて、光源150から光センサ151に照射された光がシャッタ16によって遮断された時刻と、光源150から光センサ152に照射された光がシャッタ16によって遮断された時刻との差と、光センサ151と光センサ152との距離とに基づいて、ハンマ2が打弦する速度を検出することができる。なお、光源150から光センサ151、152に照射された光がシャッタ16によって遮断された時刻とは、シャッタ16が光センサ151、152へ向かう光を遮断したことを示す検出信号を、発音時刻解析部30が、ハンマセンサ15から取得した時にタイマ60によって計時された時刻である。また、発音時刻解析部30は、シャッタ16が光センサ151を通過する位置からハンマ2が弦4に衝突するときのシャッタ16の位置との距離と、検出したハンマ2が打弦する速度とから弦打タイミングを計算する。キーセンサ14及びハンマセンサ15は、操作子動作検出部20に対応する。
【0025】
図3は、本発明の第一の実施形態におけるハンマの動作を説明する図である。
図3(a)は、鍵1の動作に基づいて鍵盤楽器100が弱音を出力する場合の、鍵1に連動したハンマ2の動作と検出タイミングを説明する図である。
図3(a)の縦軸は、ハンマ2の移動方向の位置を示し、横軸は時間を示している。ユーザが鍵1を押下する前は、ハンマ2は、H0の位置にある。この位置を基準位置H0と呼ぶ。ユーザが鍵1を押下すると、鍵1が押し下げられることに伴いハンマ2は、弦4に向かって移動し、打弦タイミング(時刻T34)において弦4と衝突する。符号36は、通常モードの場合にハンマセンサ15がハンマ2の動作を検出する位置とタイミングを示している。この検出位置を位置H36、検出タイミングを時刻T36とすると、時刻T36は、ハンマ2が弦4に衝突する寸前の位置に到達した時点に対応している。通常モードの場合、ハンマセンサ15が、位置H36においてハンマ2の通過を検出する。発音時刻解析部30は、ハンマセンサ15の検出結果に基づいて、ハンマ2が弦4に衝突する寸前の位置における速度である打弦速度と、ハンマ2が弦4に衝突する時刻である打弦タイミングを計算する。そして、演奏情報出力部50は、発音時刻解析部30の計算結果である打弦タイミング(時刻T34)が到来したときにユーザの押下した鍵1に対応する演奏信号を出力する。この打弦タイミングが通常出力タイミングである。
【0026】
しかし、このような動作とすると、鍵盤楽器100と接続された機器から音を発する場合に問題が生じることがあった。具体的には、ハンマの弦打による発音がされるまでに、機器への演奏信号の伝送や機器での演奏信号の信号処理が必要になるが、この演奏信号の伝送や演奏信号の信号処理がハンマの打弦による発音までに間に合わず、演奏信号に応じた音がスピーカから発音されるタイミングが、発音時刻解析部30が計算したタイミング(時刻T34)より遅れるという問題である。この場合、ハンマの打弦による発音の後に演奏信号に基づく発音がスピーカからなされることになる。本実施形態では、通常モードよりも早いタイミングで演奏信号の出力を行う先行モードを有することにより、演奏信号に基づく発音の遅延を低減する。
【0027】
次に先行モードについて
図3(a)を参照して説明する。符号31は、先行モードの場合にハンマセンサ15がハンマ2の動作を検出する位置とタイミングを示している。この検出位置を位置H31、検出タイミングを時刻T31とすると、ハンマセンサ15は、位置H31でハンマ2の動作を検出する。位置H31は、ハンマ2の動作をより早いタイミングで検出できるように位置H36よりも
図2における基準位置H0に近い位置に設けられている。そして、発音時刻解析部30は、ハンマセンサ15の検出結果に基づいてハンマ2の動作を解析し、打弦タイミング及び打弦速度を計算する。そして、演奏情報出力部50は、打弦タイミングより設定受付部40が記録した出力先行時間だけ早い先行出力タイミング(時刻T33)に合わせて演奏信号を出力する。
【0028】
本実施形態における先行モードでは、通常モードよりも早いタイミングでハンマ2の動作を検出する。そのため、例えば、ハンマセンサ15は、従来設置されていた位置よりも下側(ハンマシャンク8により近い位置)に設けられる。または、シャッタ16の端部を上方側(ハンマセンサ15側)に向かって、光源150と光センサ(151、152)に近い位置まで延長する。これにより、ハンマセンサ15は、ハンマ2が弦4に衝突する寸前の位置に到達する途中の段階で、ハンマ2の動作を検出する。例えば、ハンマセンサ15は、基準位置H0と位置H36との間の距離よりも短い距離である基準位置H0と位置31との間の距離L35において、ハンマ2の動作を検出する。
【0029】
次に、
図3(b)を参照し、鍵盤楽器100が強音を出力する場合について説明する。
図3(b)は、鍵盤楽器100が強音を出力する場合におけるハンマ2の動作と検出タイミングを説明する図である。強音の場合、ユーザは、鍵1を弱音と比較して勢いよく押し下げる。この場合、ハンマ2の速度は、弱音を出力する場合に比べて速い。そして、ハンマ2が、基準位置H0から位置H36に移動するまでの時間についても、弱音を出力する場合に比べて短い。そのため、ハンマ2の動作を検出してから出力先行時間が到来するまでの時間は、弱音を出力する場合に比べて短い。例えば、弱音を出力する場合、
図3(a)に示すように、時刻T31においてハンマ2の動作を検出し、出力先行時間に応じた時刻T33において、演奏信号が出力される。これに対し、強音を出力する場合、
図3(b)に示すように、時刻T32においてハンマ2の動作を検出し、出力先行時間に応じた時刻T33において、演奏信号が出力される。このため、
図3においては、強音を出力する場合、弱音を出力する場合に比べて、時刻T31から時刻T32までの時間の分だけ、出力先行時間が到来するまでの時間が短い。このため、発音時刻解析部30は、ハンマセンサ15の検出結果に基づいて得られるハンマ2の速度に応じて、ハンマ2の動作を検出してから演奏信号を出力するまでの時間を変更する。例えば、発音時刻解析部は、ハンマ2の速度が速いほど、ハンマ2の動作を検出してから演奏信号を出力するまでの時間を短く設定する。これにより、強音や弱音を発音する際、ハンマ2の速度が異なる場合であっても、ハンマ2の速度に応じたタイミングで、機器に演奏信号を到達させることができる。
【0030】
そこで、本実施形態においては、ハンマセンサ15は、基準位置H0から符号L35が示す距離に対応する位置まで上昇したときに、つまり、位置H32でハンマ2の動作を検出する。そして、発音時刻解析部30が、ハンマ2の速度から打弦タイミングを計算する。演奏情報出力部50は、打弦タイミング(時刻T34)より出力先行時間だけ早い先行出力タイミング(時刻T33)で演奏信号の出力を行う。強音の場合、ハンマの上昇は急激なため、検出タイミングである時刻T32から先行出力タイミングT33までの時間が短くなる。
【0031】
なお、ハンマ2の動作を検出して出力タイミングを早める方法を例に説明を行ったが、キーセンサ14を用いて検出した鍵1の動作に基づいて、演奏信号の出力タイミングを制御してもよい。より具体的には、キーセンサ14が検出した光量とその変化に基づいて、発音時刻解析部30が、鍵1の位置や押下速度を計算し、通常出力タイミングを予測する。そして、演奏情報出力部50が、通常出力タイミングよりも出力先行時間だけ早い先行出力タイミングにおいて、演奏信号を出力する。
また、ペダルの操作状態を検出するペダルセンサの検出結果を機器へ出力するタイミングを制御するようにしてもよい。例えばダンパ6が弦4から離れるまでの位置に到達する前の段階でペダルが踏み込まれている位置や速度を検出し、発音時刻解析部30が、踏み込まれたペダルに応じた演奏内容を示す演奏信号を出力する通常出力タイミングを予測する。そして、演奏情報出力部50が、通常出力タイミングよりも出力先行時間だけ早い先行出力タイミングにおいて、演奏信号を出力する。
【0032】
図4は、本発明の第一の実施形態における鍵盤楽器の動作を説明するフローチャートである。
図4を用いて、本実施形態に係る鍵盤楽器100からの演奏音の先行出力処理について説明する。
まず、ユーザが、設定受付部40から、動作モードを先行モードに設定する指示を入力し、また、現在の演奏環境における出力先行時間を設定する。出力先行時間は、接続する対象の機器に応じて変更することができる。例えば、ユーザは鍵盤楽器100に無線によって接続されるヘッドフォンを機器として用いる場合、「ヘッドフォン」を表すボタンを押下する。演奏情報出力部50は、設定受付部40を介して「ヘッドフォン」が指定されると、この機器に対応して記憶された「10ミリ秒」を記憶部70から読出し、出力先行時間として設定する(ステップS1)。
【0033】
次にユーザが鍵盤楽器100を用いて演奏を開始すると、鍵1が操作されるごとにハンマセンサ15がハンマ2の動作を検出する(ステップS2)。ハンマセンサ15は、光センサ151、152によってシャッタ16の通過を検出すると、それぞれの光センサが検出する度に検出信号を、発音時刻解析部30へ出力する。
発音時刻解析部30は、ハンマセンサ15の検出結果に基づいてハンマ2の打弦速度と打弦タイミングを計算する(ステップS3)。発音時刻解析部30は、計算した打弦タイミングと、ユーザが押下した鍵1の識別子と、ハンマ2の速度とを演奏情報出力部50へ出力する。
【0034】
演奏情報出力部50は、打弦タイミング(打弦予想時刻)と先行出力時間とに基づいて、打弦タイミングより出力先行時間だけ早い時刻である先行出力タイミングを計算する。そして、演奏情報出力部50は、出力タイミングを調整する(ステップS4)。具体的には、演奏情報出力部50は、タイマ60が示す時刻が計算した先行出力タイミングとなるまで演奏信号の出力を待機し、発音時刻解析部30から取得したユーザが押下した鍵1の識別子と、ハンマ2の速度とから、鍵操作に応じた演奏情報を示す演奏信号を生成する。そして、計算した先行出力タイミングが到来すると、演奏情報出力部50は、生成した演奏信号を出力する(ステップS5)。
【0035】
本実施形態によれば、光センサが検出した情報に基づいて、ハンマ2が動作した場合の打弦タイミングを計算し、その時刻よりも出力先行時間だけ早いタイミングで演奏信号を出力するように制御を行う。それによって、鍵盤楽器100に機器を接続し、その機器から演奏信号を出力するような場合でも、機器を介することに起因する遅延が、出力タイミングを早めた分の時間で相殺される。従って、機器からの演奏信号の出力の遅れが生じにくくなるという効果が得られる。また、本実施形態によれば、演奏の途中における複数段階での鍵の動作を検出することで、例えば鍵の軌道を予測するような複雑な計算を必要とせず、簡単な演算で演奏信号の出力タイミングを計算することができる。
【0036】
図5は、本発明の第一の実施形態における鍵盤楽器100と機器とが接続された演奏システムの構成を表す図である。
図5(a)は、鍵盤楽器100とヘッドフォン53とを無線によって接続する場合を表す構成図である。ワイヤレスオーディオ送信器51は、鍵盤楽器100に接続され、鍵盤楽器100の演奏情報出力部50から出力される演奏信号を取得し、無線によってワイヤレスオーディオ受信器52へ送信する。ワイヤレスオーディオ受信器52は、ワイヤレスオーディオ送信器51から送信される演奏信号を受信する。このワイヤレスオーディオ受信器52は、ヘッドフォン53内に設けられる場合もある。ヘッドフォン53は、ワイヤレスオーディオ受信器52が受信した演奏信号に基づく音を放音する。
ここで、鍵盤楽器100が、通常モードにおいて、ハンマ2が弦4に衝突する寸前の時刻T36(
図3(a))においてハンマ2の動作を検出し、演奏信号を演奏情報出力部50から出力する。この演奏信号が時刻T34における打弦タイミングからワイヤレスオーディオ送信器51、ワイヤレスオーディオ受信器52を介してヘッドフォン53によって放音されるタイミングまでに、送受信にかかる処理を行う伝達時間(例えば、12ミリ秒)が必要となる。伝達時間が長引くと、鍵盤楽器において押鍵してからヘッドフォンで演奏信号に基づく音が放音されるまでの遅延時間が増大するため、ユーザにとって違和感が生じる場合がある。これに対し、先行モードでは、時刻T34(
図3(a))よりも出力先行時間(例えば10ミリ秒)だけ早い時刻T31において演奏信号を演奏情報出力部50から出力する。これにより、鍵盤楽器100において押鍵されてからヘッドフォン53で演奏信号に基づく音が放音されるまでの時間を2ミリ秒程度まで短縮することができるため、遅延時間を低減することができる。これにより、ユーザにとって違和感を生じにくくすることができる。
【0037】
次に、
図5(b)は、鍵盤楽器100とMIDI音源56とを無線によって接続する場合を表す構成図である。ワイヤレスMIDI送信機54は、鍵盤楽器100に接続され、鍵盤楽器100の演奏情報出力部50から出力される演奏信号であるMIDIデータを取得し、無線によってワイヤレスMIDI受信器55へMIDIデータを送信する。ワイヤレスMIDI受信器55は、ワイヤレスMIDI送信機54から送信されるMIDIデータを受信する。MIDI音源56は、ワイヤレスMIDI受信器55が受信したMIDIデータに応じてアナログのオーディオ信号を出力し、スピーカから放音する。鍵盤楽器100は、装置としてMIDI音源56が接続された場合であっても、MIDIデータを出力先行時間だけ早い時刻において演奏情報出力部50から出力することができる。これにより、MIDIデータを無線によって通信する場合であっても、鍵盤楽器100において押鍵されてからMIDI音源56を介してスピーカから放音されるまでの時間を短縮することができる。
【0038】
次に、
図5(c)は、複数の鍵盤楽器100をインターネットを介して接続する場合を表す構成図である。ここでは、鍵盤楽器100としての鍵盤楽器100Aと鍵盤楽器100Bとが、インターネットセッション装置57A、インターネットセッション装置57Bとを介して接続される。また、ヘッドフォン53Aは、インターネットセッション装置57Aに接続され、鍵盤楽器100Aの演奏者に装着される。ヘッドフォン53Bは、インターネットセッション装置57Bに接続され、鍵盤楽器100Bの演奏者に装着される。例えば、この構成によって、複数の鍵盤楽器100をインターネットを介して接続し、遠隔地にいる演奏者どうしでセッションを行うことが可能である。
【0039】
この構成において、鍵盤楽器100Aにおける演奏内容に応じた演奏信号は、インターネットセッション装置57Aからインターネットを介してインターネットセッション装置57Bへ送信される。そしてこの演奏信号は、ヘッドフォン53Bによって、鍵盤楽器100Bの演奏による音とともに放音される。鍵盤楽器100Bにおける演奏内容に応じた演奏信号は、インターネットセッション装置57Bからインターネットを介してインターネットセッション装置57Aへ送信される。そしてこの演奏信号は、ヘッドフォン53Aによって、鍵盤楽器100Aの演奏による音とともに放音される。ユーザA、ユーザBは、それぞれ、自身の演奏音と相手側の演奏音との両方をヘッドフォン53Aあるいはヘッドフォン53Bによって聞きながら演奏することができる。
ここで、通常モードにおいて鍵盤楽器100Aと鍵盤楽器100Bとの間において演奏信号の送受信にかかる時間が30ミリ秒かかる場合、相手側の演奏信号に基づく音がヘッドフォン53Aあるいはヘッドフォン53Bから放音されるまで、30ミリ秒の遅延時間が生じる。そうすると、セッションをしにくい場合がある。これに対し、先行モードでは、演奏信号を出力先行時間(例えば30ミリ秒)だけ早い時刻において相手側の鍵盤楽器(100Aあるいは100B)から出力する。これにより、インターネットを介したセッションを行う場合であっても、一方の演奏者による演奏音が他方の演奏者側に放音されるまでの時間を短縮することができる。また、自身の演奏音については、演奏タイミングに合わせて放音される。このため、複数の鍵盤楽器100をインターネットを介して接続してセッションを行う場合であっても、自身の演奏音と遠隔地にいる相手側の演奏者の演奏音との両方を、実際の演奏タイミングにより近いタイミングで放音することができる。
【0040】
なお、
図5(c)において、インターネットセッション装置を用いた構成の他に、次のような構成でもよい。つまり、鍵盤楽器100A、100Bが演奏信号としてMIDIデータを出力し、MIDI送信器でそのMIDIデータをセッション相手先へ送信する。セッション相手の環境では、MIDI受信機がMIDIデータを取得し、MIDI音源を介して発音する。
【0041】
このようにして、演奏内容に応じた発音をさせるタイミングが遅れてしまうことを低減することができる。演奏内容に応じた発音としては、例えば、演奏内容が鍵を押下する操作である場合、その鍵に対応した音を機器において発音するタイミングが鍵盤楽器100において、発音されるタイミングにより近づく。また、例えば、演奏内容がダンパペダルを踏み込む操作である場合、機器においてダンパペダルを踏み込む操作の効果に応じた発音がなされる。
【0042】
<第二の実施形態>
次に、
図6を用いて、第二の実施形態について説明する。
図6は、本発明の第二の実施形態におけるハンマの動作を説明する図である。
第二の実施形態では、発音時刻解析部30が、ハンマ2の動作に基づいて打弦タイミングを予測する検出点を複数にした点が第一の実施形態と異なる。
図6の例では、光センサが5つ設けられた場合に対応している。符号31a〜31dは、本実施形態におけるハンマセンサ15が、ハンマ2の動作を検出する位置とタイミングを示している。また、例えば、符号31aの示す位置をH31a、時刻をT31aとする。符号31b〜31dについても同様である。位置31a、31b、31c、31dは、光センサを設ける位置を示している。
【0043】
ハンマセンサ15は、光センサが備えられた各検出点をシャッタ16が通過する度に、発音時刻解析部30にハンマ2の通過を検出したことを通知する。発音時刻解析部30は、検出結果を取得すると、例えば、1つ前の検出点を通過してから今回の検出点を通過するまでに掛かった時間から、ハンマ2の速度と打弦タイミングを計算する。また、発音時刻解析部30は、各検出点間の距離と計算したハンマ2の速度から、次の検出点をハンマ2が通過する次ポイント通過タイミングを計算する。このように、発音時刻解析部30は、ハンマセンサ15から検出結果を取得すると、取得した検出結果に基づいて、当該検出結果が得られた時刻の次に検出結果が得られる時刻である予測時刻と、打弦タイミング(通常出力タイミング)とを算出する。
発音時刻解析部30は、ハンマ2が検出点を通過する度に、最新の検出情報に基づいてこれらの計算を行うと、打弦タイミングと、次ポイント通過タイミングとを演奏情報出力部50へ出力する。
また、発音時刻解析部30は、ユーザが押下した鍵1の識別子と、ハンマ2の速度とを演奏情報出力部50へ出力する。
【0044】
演奏情報出力部50は、設定受付部40が記録した出力先行時間情報を読み出し、発音時刻解析部30から打弦タイミングの情報を取得する度に、取得した打弦タイミングから出力先行時間だけ早い時刻(先行出力タイミング)を計算する。そして、演奏情報出力部50は、先行出力タイミングと、発音時刻解析部30から取得した次ポイント通過タイミングとを比較し、次ポイント通過タイミングの方が遅い時刻を示していれば、今回計算した先行出力タイミングで出力を行うことを決定する。そして、演奏情報出力部50は、決定した先行出力タイミングに至ると、演奏信号の出力を行う。
【0045】
鍵1の押下に伴うハンマ2の速度は、放音する音量に応じて異なるため一定ではない。鍵1の押下の仕方によっては、ハンマ2の速度は途中から増加する場合もある。従って、より通常出力タイミングに近い時刻において検出されたハンマ2の速度に基づいて、打弦タイミングを予測した方がより正確な打弦タイミングを予測することができる。例えば、弱音の場合、位置H31dの光センサで検出した情報に基づいて、打弦タイミングを予測しても、先行出力タイミングに間に合う可能性がある。その場合、通常出力タイミングに近い時刻T31dにおいて、打弦タイミングを予測した方が、より正確な打弦タイミングを予測できると考えられる。また、より正確な打弦タイミングに基づいて計算した先行出力タイミングに演奏信号を出力できれば、機器からの演奏音の発音の遅延を低減する精度も増すと考えられる。従って、本実施形態では、各検出点を通過するごとに、次の検出点を通過するタイミングと、直前の検出点で計算した先行出力タイミングとを比較し、次の検出点の通過を待つと、先行出力タイミングにおける演奏信号の出力が間に合わなくなるかどうかを判定する。そして、先行出力タイミングに間に合うと判定される間は、先行出力タイミングの決定を保留し、先行出力タイミングにおける演奏信号の出力が間に合わなくなる一つ前である場合、その先行出力タイミングにおいて演奏信号を出力する。
【0046】
本実施形態によれば、第一の実施形態における効果に加えて、より弦打タイミング(通常出力タイミング)に近い時刻での操作子の動作を検出することにより、より正確に弦打タイミングを予測することができる。そして、その弦打タイミングに基づいて、先行出力タイミングを計算するので、より正確な先行出力タイミングで演奏信号を出力することができる。
【0047】
なお、演奏情報出力制御装置は、発音時刻解析部30と、設定受付部40と、演奏情報出力部50と、タイマ60と、記憶部70と、を有するようにして構成することができる。そして、その演奏情報出力制御装置を、鍵盤楽器100に組み合わせて用いることができる。
【0048】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。また、この発明の技術範囲は上記の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記で説明したハンマ2の動作の検出方法は、一例である。他の実施形態として、光センサが1つだけ設けられており、シャッタ16が、光源から光センサに向かう光を遮ることで変化する、光センサが検出する光量に応じて、ハンマ2の打弦速度や打弦タイミングを計算してもよい。さらに、他の実施形態として、特開2003−5754号公報に記載されているような、グレースケールを用いてハンマ2の打弦速度や打弦タイミングを計算してもよい。また、鍵盤楽器100はピアノに限らず、上述した通常出力タイミングにおいて演奏情報を出力するように構成された電子ピアノに本発明を適用してもよい。