(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材の少なくとも一方の面に、ポリシラザンおよび長周期型周期表の第2族〜第14族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素(ただし、ケイ素および炭素を除く)を含有する塗布液を塗布し塗膜層を得る工程と、
前記塗膜層にイオンを注入して改質処理を行うことにより第1のガスバリア層を形成する工程と、
を含み、
この際、前記長周期型周期表の第2族〜第14族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素が、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ジルコニウム(Zr)、銀(Ag)、およびインジウム(In)からなる群より選択される少なくとも1種である、ガスバリア性フィルムの製造方法。
前記第1のガスバリア層と隣接するように、真空成膜法により第2のガスバリア層を形成する工程をさらに含む、請求項1または2に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
前記第1のガスバリア層における前記長周期型周期表の第2族〜第14族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素の含有量が、ケイ素(Si)の含有量100mol%に対して5〜20mol%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリア性フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一形態によれば、基材と、前記基材の少なくとも一方の面に配置された、ポリシラザンおよび長周期型周期表の第2族〜第14族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素(ただし、ケイ素および炭素を除く)を含有する塗布液を塗布し塗膜層を得た後、前記塗膜層にイオンを注入して改質処理を行うことにより形成される第1のガスバリア層とを有する、ガスバリア性フィルムが提供される。なお、本明細書においては、上記所定の元素を「添加元素」とも称する。
【0018】
このような構成とすることにより、イオン注入によるポリシラザン改質膜をガスバリア層として含むガスバリア性フィルムにおいて、耐湿熱性を向上させることができる。
【0019】
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、上述したような効果が発現する詳細なメカニズムは不明であるが、以下のような理由によるものと考えられる。
【0020】
すなわち、ポリシラザンを含む塗布液を塗布乾燥し塗膜層を得た後に改質処理を施してガスバリア層を形成する従来の製造方法では、塗膜が改質処理すなわち高エネルギー線照射に用いられる高エネルギー線の吸収率が高く、塗膜層の表面付近でエネルギーの大部分を吸収して減衰してしまうことから、塗膜層内部や、塗膜層と基材との界面までの酸化が進みにくかった。
【0021】
さらに、上記従来の製造方法では、改質処理すなわち共有結合を切断する処理を実施中に再結合する好適な相手である酸素や金属元素がほとんど供給されず、再結合によって高いバリア性を発現しうる膜が形成されにくいという問題があった。
【0022】
このため、ポリシラザン含有塗布液を塗布乾燥して形成された塗膜層であって、本発明に係る上記所定の元素を含有していないものに対し、イオン注入法による改質処理を施すと、ダングリングボンドが増大するためか、塗膜層の内部までイオン注入がなされにくくなる等によって、塗膜層の表面しか改質されないことになるものと考えられる。
【0023】
これに対し、理由は明らかではないが、添加元素を含有させると、改質処理が進行するにつれて塗膜層の内部までイオン注入がなされやすくなり、塗膜層の表層部分だけではなく内部まで膜厚方向に改質が均一に行われ、ポリシラザン改質膜の耐湿熱性を向上させることができるものと推定している。ただし、本発明の技術的範囲は当該メカニズムによってなんら制限されるものではない。
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0025】
また、本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味し、また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
【0026】
[ガスバリア性フィルム]
本発明に係るガスバリア性フィルムは、基材と、ポリシラザンおよび長周期型周期表の第2族〜第14族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素(ただし、ケイ素および炭素を除く)を含有する塗布液を塗布し塗膜層を得た後、前記塗膜層にイオンを注入して改質処理を行うことにより形成されるガスバリア層(本明細書において、「第1のガスバリア層」とも称する)とを必須の構成要素として有する。また、本発明に係るガスバリア性フィルムは、真空成膜法により形成されるガスバリア層(本明細書において、「第2のガスバリア層」とも称する)をさらに有することが好ましく、この第2のガスバリア層は、上記第1のガスバリア層と隣接するように配置されることがより好ましい。なお、本発明に係るガスバリア性フィルムは、他の部材をさらに含むものであってもよい。本発明に係るガスバリア性フィルムは、例えば、基材といずれかのガスバリア層との間に、いずれかのガスバリア層の上に、他の部材を有していてもよい。ここで、他の部材としては、特に制限されず、従来のガスバリア性フィルムに使用される部材が同様にしてあるいは適宜修飾されて使用されうる。具体的には、平滑層、アンカーコート層、中間層、保護層、デシカント層(吸湿層)や帯電防止層の機能化層などが挙げられる。上記他の部材は、単独でもまたは2種以上組み合わせて使用してもよい。また、上記他の部材は、単層として存在してもまたは2層以上の積層構造を有していてもよい。
【0027】
さらに、本発明では、基材の少なくとも一方の面に上記第1のガスバリア層が配置されることが必須である。この規定を満足する限り、基材の他方の面に少なくとも1つのガスバリア層が配置されてもよい。
【0028】
〔基材〕
本発明に用いられる基材としては、ガスバリア層などの層を保持することができるものであれば、その材質は特に限定されない。
【0029】
例えば、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ナイロン(Ny)、芳香族ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の各樹脂フィルム、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルム(製品名Sila−DEC、チッソ株式会社製)、さらには前記樹脂を2層以上積層して成る樹脂フィルム等を挙げることができる。コストや入手の容易性の点では、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、等が好ましく用いられ、特に、低リタデーションの観点からシクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマーおよびポリカーボネート(PC)が特に好ましい。また、光学的透明性、耐熱性、ガスバリア層との密着性の点においては、有機無機ハイブリッド構造を有するシルセスキオキサンを基本骨格とした耐熱透明フィルムを好ましく用いることができる。その他にも、耐熱基材としてポリイミド等を用いることも好ましい。これは、耐熱基材(ex.Tg>200℃)を用いることにより、デバイス作製工程で200℃以上の温度での加熱が可能となり、デバイスの大面積化やデバイスの動作効率向上のために必要な透明導電層若しくは金属ナノ粒子によるパターン層の低抵抗化が達成可能となる。
【0030】
本発明において、基材の厚みは、125μm以下であることが好ましい。基材の厚みが125μm以下であれば、ガスバリア性フィルムやこれが適用される電子デバイス等の薄膜化の要請に十分に応えることが可能であるという利点が得られる。このように、基材の厚みが125μm以下であると、上述したような薄膜化の要請に応えることができることから、本発明に係るガスバリア性フィルムはフレキシブルな電子デバイスの基板等として用いられると特に有用である。なお、基材の厚みは、好ましくは10〜100μmである。
【0031】
本発明において、基材は、透明であることが好ましい。基材が透明であり、基材上に形成する層も透明であることにより、透明なガスバリア性フィルムとすることが可能となるため、有機EL素子等の透明基板とすることも可能となるからである。
【0032】
また、上記に挙げた樹脂等を用いた基材は、未延伸フィルムでもよく、延伸フィルムでもよい。さらに、本発明に用いられる基材は、市販品であってもよい。なお、市販品の中で、片面または両面に易接着加工されたものであってもよく、片面または両面にクリアハードコート層を施したものであってもよい。また、本発明に係る基材は、ガスバリア層を形成する前にコロナ処理を施されたものであってもよい。
【0033】
〔ガスバリア層〕
(第1のガスバリア層)
本発明に係るガスバリア性フィルムは、上述した基材の少なくとも一方の面に、ポリシラザンを含有する塗布液を塗布し乾燥して塗膜層を得た後、前記塗膜層に改質処理を施すことにより形成されるガスバリア層(第1のガスバリア層)を有する。そして、当該第1のガスバリア層を形成する際に用いられる上記塗布液は、添加元素を含有する点に特徴がある。
【0034】
第1のガスバリア層は上記構成を有することで、ガスバリア性を有する。ここで、第1のガスバリア層のガスバリア性は、基材上に第1のガスバリア層を形成させた積層体で算出した際に、水蒸気透過量が0.1g/(m
2・24h)以下であることが好ましく、0.01g/(m
2・24h)以下であることがより好ましい。なお、本明細書において、水蒸気透過量としては、以下の手法により測定された値を採用するものとする。
【0035】
(水蒸気透過量の測定方法)
MOCON社製AQUATRAN MODEL1を用い、40℃90%RHの条件下で数値が安定するのを待って水蒸気透過率WVTR(g/m
2/day)を測定する。
【0036】
以下、塗膜層形成に用いられる塗布液に含まれるポリシラザン、および添加元素(添加化合物)について説明する。
【0037】
(ポリシラザン)
本発明において用いられる「ポリシラザン」とは、構造内にケイ素−窒素結合を持つポリマーであり、Si−N、Si−H、N−H等からなるSiO
2、Si
3N
4および両方の中間固溶体SiO
xN
y等のセラミック前駆体無機ポリマーである。
【0038】
上述した基材を損なわないように、ポリシラザンからガスバリア層を形成するためには、特開平8−112879号公報に記載されているように、比較的低温で酸化ケイ素、窒化珪素、および/または酸窒化珪素に変性するポリシラザンが好ましい。
【0039】
かようなポリシラザンとしては、下記の構造を有するものが好ましく用いられる。
【0041】
式中、R
1、R
2、R
3は、各々水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、またはアルコキシ基を表す。
【0042】
本発明では、得られるガスバリア層の、膜としての緻密性の観点からは、R
1、R
2およびR
3のすべてが水素原子であるパーヒドロポリシラザン(PHPS)が特に好ましい。
【0043】
一方、そのSiと結合する水素部分が一部アルキル基等で置換されたオルガノポリシラザンは、メチル基等のアルキル基を有することにより、下地基材との接着性が改善され、かつ硬くてもろいポリシラザンによるセラミック膜に靭性を持たせることができ、より膜厚を厚くした場合でもクラックの発生が抑えられる利点がある。
【0044】
用途に応じて適宜、これらパーヒドロポリシラザンとオルガノポリシラザンを選択してよく、混合して使用することもできる。
【0045】
なお、パーヒドロポリシラザンは、直鎖構造と6および/または8員環を中心とする環構造とが共存した構造を有していると推定されている。
【0046】
ポリシラザンの分子量は数平均分子量(Mn)で約600〜2000程度(ポリスチレン換算)であり、液体または固体の物質であり、分子量により異なる。
【0047】
これらのポリシラザン化合物は有機溶媒に溶解した溶液状態で市販されており、市販品をそのままポリシラザン化合物含有塗布液として使用することができる。
【0048】
低温でセラミック化するポリシラザンの他の例としては、上記ポリシラザンにケイ素アルコキシドを反応させて得られるケイ素アルコキシド付加ポリシラザン(特開平5−238827号公報)、グリシドールを反応させて得られるグリシドール付加ポリシラザン(特開平6−122852号公報)、アルコールを反応させて得られるアルコール付加ポリシラザン(特開平6−240208号公報)、金属カルボン酸塩を反応させて得られる金属カルボン酸塩付加ポリシラザン(特開平6−299118号公報)、金属を含むアセチルアセトナート錯体を反応させて得られるアセチルアセトナート錯体付加ポリシラザン(特開平6−306329号公報)、金属微粒子を添加して得られる金属微粒子添加ポリシラザン(特開平7−196986号公報)等が挙げられる。
【0049】
(ポリシラザンを含有する塗布液)
ポリシラザンを含有する塗布液を調製する有機溶媒としては、ポリシラザンと容易に反応してしまうようなアルコール系や水分を含有するものを用いることは避けることが好ましい。かような有機溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類が使用できる。具体的には、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレン、ソルベッソ、ターベン等の炭化水素、塩化メチレン、トリクロロエタン等のハロゲン炭化水素、ジブチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類等が挙げられる。これらの有機溶剤は、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度等、目的にあわせて選択し、複数の有機溶剤を混合してもよい。
【0050】
ポリシラザンを含有する塗布液におけるポリシラザンの濃度は、目的とする第1のガスバリア層の膜厚や塗布液のポットライフによっても異なるが、0.2〜35質量%程度であることが好ましい。
【0051】
また、ポリシラザンを含有する塗布液には、酸化ケイ素、窒化珪素、および/または酸窒化珪素への変性を促進するために、アミンや金属の触媒を添加することもできる。例えば、市販品としてのAZエレクトロニックマテリアルズ(株)製のNAX120−20、NN120−20、NN110、NN310、NN320、NL110A、NL120A、NL150A、NP110、NP140、SP140のような触媒が含まれるポリシラザン溶液を用いることができる。また、これらの市販品は単独で使用されてもよく、2種以上混合して使用されてもよい。
【0052】
なお、ポリシラザンを含有する塗布液中において、触媒の添加量は、触媒による過剰なシラノール形成、及び膜密度の低下、膜欠陥の増大のなどを避けるため、ポリシラザンに対して2質量%以下に調整することが好ましい。
【0053】
ポリシラザンを含有する塗布液には、ポリシラザン以外にも無機前駆体化合物を含有させることができる。ポリシラザン以外の無機前駆体化合物としては、塗布液の調製が可能であれば特に限定はされない。例えば、特開2011−143577号公報の段落「0110」〜「0114」に記載のポリシラザン以外の化合物が適宜採用されうる。
【0054】
(添加元素)
本発明において、第1のガスバリア層を形成するための塗布液には、添加元素(長周期型周期表の第2族〜第14族の元素からなる群より選択される少なくとも1種の元素)が含まれる。添加元素の例としては、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)、スズ(Sn)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、鉛(Pb)、マンガン(Mn)、リチウム(Li)、ゲルマニウム(Ge)、銅(Cu)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、コバルト(Co)、ホウ素(B)、ベリリウム(Be)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)、タリウム(Tl)、ゲルマニウム(Ge)が挙げられる。これらのうち、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)が好ましく、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)がより好ましく、アルミニウム(Al)が最も好ましい。これらの添加元素を含むことによって、ガスバリア性フィルムの耐湿熱性をより向上できる。なお、上記添加元素は、単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0055】
本発明に係るガスバリア性フィルムのガスバリア層における添加元素の含有量は、ガスバリア層全体の質量に対して0.001〜50質量%であることが好ましく、0.1〜40質量%であることがより好ましい。なお、本発明のガスバリア性フィルムが添加元素を含有するガスバリア層を2層以上有する場合は、それぞれの層の添加元素の含有量を合計したものをガスバリア性フィルムにおける添加元素の含有量とする。
【0056】
また、本発明に係るガスバリア性フィルムを構成する第1のガスバリア層(複数存在する場合は、各層)における上記添加元素の含有量は、ケイ素(Si)の含有量100mol%に対して5〜20mol%であることが好ましく、より好ましくは5〜10mol%である。
【0057】
(添加化合物)
第1のガスバリア層を形成する場合は、添加元素を含む化合物(添加化合物)を添加した塗膜層形成用塗布液を塗布乾燥した塗膜層を形成し、後述するイオン注入法による改質に供すればよい。添加化合物の例としては、例えば、アルミニウムイソポロポキシド、アルミニウム−sec−ブチレート、チタンイソプロポキシド、アルミニウムトリエチレート、アルミニウムトリイソプロピレート、アルミニウムトリtert−ブチレート、アルミニウムトリn−ブチレート、アルミニウムトリsec−ブチレート、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート、アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、カルシウムイソプロピレート、チタンテトライソプロポキシド(チタン(IV)イソプロピレート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、アルミニウムジイソプロピレートモノアルミニウムtブチレート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、アルミニウムオキシドイソプロポキサイドトリマー、ジルコニウム(IV)イソプロピレート、トリス(2,4−ペンタンジオナト)チタニウム(V)、テトラキス(2,4−ペンタンジオナト)ジルコニウム(IV)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)コバルト(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)鉄(III)、ビス(2,4−ペンタジオナト)パラジウム(II)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)イリジウム(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)ニッケル(II)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)銅(II)、ビス(2,4−ペンタンジオナト)亜鉛(II)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)マンガン(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)クロム(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)インジウム(III)、トリス(2,4−ペンタンジオナト)カルシウム(III)、マグネシウムエトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド、トリメチルガリウム、ジ−n−ブチルジメトキシ錫、テトラエチル鉛、マンガン(III)アセチルアセトナート、ジエチルジエトキシゲルマン、ベリリウムアセチルアセトネート、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸トリn−プロピル、ホウ酸トリイソプロピル、ホウ酸トリn−ブチル、ホウ酸トリtert−ブチル、ストロンチウムイソプロポキシド、バリウムジイソプロポキシド、バリウムtert−ブトキシド、バリウムアセチルアセトネート、タリウムエトキシド、およびタリウムアセチルアセトネートなどが挙げられる。
【0058】
添加化合物は、金属アルコキシド化合物であることが好ましく、金属アルコキシド化合物の中でも、反応性、溶解性等の観点から分岐状のアルコキシ基を有する化合物が好ましく、2−プロポキシ基、またはsec−ブトキシ基を有する化合物がより好ましい。また、ガスバリア性能、密着性等の観点から、エトキシ基を有する化合物が好ましい。
【0059】
さらに、アセチルアセトナート基を有する金属アルコキシド化合物もまた好ましい。アセチルアセトナート基は、カルボニル構造によりアルコキシド化合物の中心元素と相互作用を有するため、取り扱い性が容易になり好ましい。さらに好ましくは上記のアルコキシド基、またはアセチルアセトナート基を複数種有する化合物が反応性や膜組成の観点からより好ましい。
【0060】
金属アルコキシド化合物は、市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。市販品の具体的な例としては、例えば、AMD(アルミニウムジイソプロピレートモノsec−ブチレート)、ASBD(アルミニウムセカンダリーブチレート)、ALCH(アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、ALCH−TR(アルミニウムトリスエチルアセトアセテート)、アルミキレートM(アルミニウムアルキルアセトアセテート・ジイソプロピレート)、アルミキレートD(アルミニウムビスエチルアセトアセテート・モノアセチルアセトネート)、アルミキレートA(W)(アルミニウムトリスアセチルアセトネート)(以上、川研ファインケミカル株式会社製)、プレンアクト(登録商標)AL−M(アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレート、味の素ファインケミカル株式会社製)、オルガチックスシリーズ(マツモトファインケミカル株式会社製)等が挙げられる。
【0061】
なお、金属アルコキシド化合物を用いる場合は、ポリシラザンを含む塗布液と不活性ガス雰囲気下で混合することが好ましい。金属アルコキシド化合物が大気中の水分や酸素と反応し、激しく酸化が進むことを抑制するためである。
【0062】
また、金属アルコキシド化合物以外では、下記に示すような化合物を使用することができる。
【0063】
・アルミニウム化合物
アノーソクレース、アルミナ、アルミノケイ酸塩、アルミン酸、アルミン酸ナトリウム、アレキサンドライト、アンモニウム白榴石、イットリウム・アルミニウム・ガーネット、黄長石、尾去沢石、オンファス輝石、輝石、絹雲母、ギブス石、サニディン、サファイア、酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム、臭化アルミニウム、十二ホウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、白雲母、水酸化アルミニウム、水素化アルミニウムリチウム、杉石、スピネル、ダイアスポア、ヒ化アルミニウム、ピーコック(顔料)、微斜長石、ヒスイ輝石、氷晶石、普通角閃石、フッ化アルミニウム、沸石、ブラジル石、ベスブ石、Bアルミナ固体電解質、ペツォッタイト、方ソーダ石、有機アルミニウム化合物、リシア輝石、リチア雲母、硫酸アルミニウム、緑柱石、緑泥石、緑簾石、リン化アルミニウム、リン酸アルミニウム等;
・マグネシウム化合物
亜鉛緑礬、亜硫酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、カーナライト、過塩素酸マグネシウム、過酸化マグネシウム、滑石、頑火輝石、カンラン石、酢酸マグネシウム、酸化マグネシウム、蛇紋石、臭化マグネシウム、硝酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、スピネル、普通角閃石、普通輝石、フッ化マグネシウム、硫化マグネシウム、硫酸マグネシウム、菱苦土鉱等;
・カルシウム化合物
アラレ石、亜硫酸カルシウム、安息香酸カルシウム、エジプシャンブルー、塩化カルシウム、塩化水酸化カルシウム、塩素酸カルシウム、灰クロム柘榴石、灰重石、灰鉄輝石、灰簾石、過酸化カルシウム、過リン酸石灰、カルシウムシアナミド、次亜塩素酸カルシウム、シアン化カルシウム、臭化カルシウム、重過リン酸石灰、シュウ酸カルシウム、臭素酸カルシウム、硝酸カルシウム、水酸化カルシウム、普通角閃石、普通輝石、フッ化カルシウム、フッ素燐灰石、ヨウ化カルシウム、ヨウ素酸カルシウム 、ヨハンセン輝石、硫化カルシウム、硫酸カルシウム、緑閃石、緑簾石、緑簾石、燐灰ウラン石 、燐灰石、リン酸カルシウム等;
・ガリウム化合物
酸化ガリウム(III)、水酸化ガリウム(III)、窒化ガリウム、ヒ化ガリウム、ヨウ化ガリウム(III)、リン酸ガリウム等;
・ホウ素化合物
酸化ホウ素、三臭化ホウ素、三フッ化ホウ素、三ヨウ化ホウ素、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、ジボラン、ホウ酸、ホウ酸トリメチル、ホウ砂、ボラジン、ボラン、ボロン酸等;
・ゲルマニウム化合物
有機ゲルマニウム化合物、無機ゲルマニウム化合物、酸化ゲルマニウム等;
・インジウム化合物
酸化インジウム、塩化インジウム等。
【0064】
塗膜層形成用塗布液には、必要に応じて下記に挙げる添加剤を用いることができる。例えば、セルロースエーテル類、セルロースエステル類;例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセトブチレート等、天然樹脂;例えば、ゴム、ロジン樹脂等、合成樹脂;例えば、重合樹脂等、縮合樹脂;例えば、アミノプラスト、特に尿素樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ポリエステルもしくは変性ポリエステル、エポキシド、ポリイソシアネートもしくはブロック化ポリイソシアネート、ポリシロキサン等である。
【0065】
(塗布方法)
本発明において、上述したポリシラザンを含有する塗布液の塗布方法としては、任意の公知な適切な方法が採用されうる。例えば、スピンコート法、ロールコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、プリント法、ディップコート法、ダイコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等が挙げられる。これらのうち、生産効率が高く、安定して塗膜形成できることから、特にダイコート法が好ましい。
【0066】
塗布厚さは、特に限定されず、ガスバリア性フィルムの使用目的に応じて、乾燥膜厚を考慮して適宜調整されうる。また、乾燥膜厚としては、例えば、0.01μm以上1μm以下であることが好ましく、0.02μm以上0.6μm以下であることがより好ましく、0.04μm以上0.4μm以下であることがさらに好ましい。乾燥膜厚が0.01μm以上であれば、十分なガスバリア性を得ることができ、また1μm以下であれば、ガスバリア層形成時に安定した塗布液を得ることができるという点で好ましい。
【0067】
また、ポリシラザン化合物を含有する塗布液を塗布した後に、塗膜を乾燥させることが好ましい。塗膜を乾燥することによって、塗膜中に含有される有機溶媒を除去することができる。この際、塗膜に含有される有機溶媒は、すべてを乾燥させてもよいが、一部残存させていてもよい。一部の有機溶媒を残存させる場合であっても、好適なガスバリア膜が得られうる。なお、残存する溶媒は後に除去されうる。
【0068】
乾燥温度は、適用する基材によっても異なるが、50〜200℃であることが好ましく、50〜150℃であることがより好ましい。例えば、ガラス転移温度(Tg)が70℃のポリエチレンテレフタレート基材を基材として用いる場合には、乾燥温度は、熱による基材の変形等を考慮して150℃以下に設定することが好ましい。上記温度は、ホットプレート、オーブン、ファーネスなどを使用することによって設定されうる。乾燥時間は、短時間に設定することが好ましく、例えば、乾燥温度が150℃である場合には30分以内に設定することが好ましい。また、乾燥雰囲気は、大気雰囲気下、窒素雰囲気下、アルゴン雰囲気下、真空雰囲気下、酸素濃度をコントロールした減圧雰囲気下等のいずれの条件であってもよい。
【0069】
また、上述したポリシラザンを含有する塗布液を塗布し、形成された塗膜(以下、「改質前のガスバリア層」とも称する)は、後述する改質処理の前または改質処理中に水分を除去する工程をさらに含んでいてもよい。
【0070】
(改質処理;イオン注入)
本発明において、改質処理とは、ポリシラザンの一部または一部または全部が、酸化珪素または酸化窒化珪素へ転化する反応(セラミックス化)を指し、また本発明のガスバリア性フィルムが全体としてガスバリア性を発現するに貢献できるレベルの無機薄膜(すなわち、第1のガスバリア層)を形成する処理をいう。そして、本発明では、この改質処理を、イオンの注入(イオン注入法)により行う点に特徴がある。なお、イオン注入を行う限り、その他の従来公知の改質処理を併用してもよい。かような従来公知の改質処理としては、例えば、活性エネルギー線(例えば、真空紫外線)の照射などが挙げられる。
【0071】
以下、イオン注入について説明すると、まず、注入するイオンを生成する原料としては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等の希ガス、フルオロカーボン、水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素、硫黄等のガス;
メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン等のアルカン系ガス類;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等のアルケン系ガス類;ペンタジエ ン、ブタジエン等のアルカジエン系ガス類;アセチレン、メチルアセチレン等のアルキン系ガス類;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、 フェナントレン等の芳香族炭化水素系ガス類;シクロプロパン、シクロヘキサン等のシクロアルカン系ガス類;シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロアル ケン系ガス類;等の炭素原子と水素原子からなる炭化水素化合物のガス;
メタノール、エタノール等のアルコール系ガス類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系ガス類;アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒ ド系ガス類;ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル等のエーテル系ガス類;等の、炭素原子、水素原子及び酸素原子からなる酸素含有炭化水素化合物のガス;
銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、タンタル、タングステン、アルミニウム等の金属;等が挙げられる。
【0072】
これらは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なかでも、より簡便に注入することができ、ガスバリア性により優れる第1のガスバリア層が得られることから、水素、窒素、酸素、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、メタン、エチレン、およびアセチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種のイオンを注入することが好ましく、窒素または酸素のイオンを注入することがより好ましい。特に窒素または酸素のイオンを注入することで、共有結合の再結合が生じるというメカニズムを介して、ガスバリア性およびデバイス適性の向上が図られるものと考えられる。
【0073】
イオンの注入量は、ポリシラザン含有塗布液の改質により得られる第1のガスバリア層に要求される性能(必要なガスバリア性など)に合わせて適宜決定すればよい。
【0074】
イオンを注入する方法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、電界により加速されたイオン(イオンビーム)を照射する方法、プラズマ中のイオンを注入する方法等が挙げられる。なかでも、本発明においては、簡便にガスバリア性能が得られることから、後者の、プラズマ中のイオンを注入する方法(以下、「プラズマイオン注入法」という。)が好ましい。
【0075】
プラズマイオン注入法は、プラズマ中に曝したポリシラザン含有塗布液の塗膜層に、負の高電圧パルスを印加することにより、プラズマ中のイオンを上記塗膜層に注入する方法である。
【0076】
なかでも、プラズマイオン注入法としては、(A)外部電界を用いて発生させたプラズマ中に存在するイオンを、ポリシラザン含有塗布液の塗膜層に注入する方法、または(B)外部電界を用いることなく、ポリシラザン含有塗布液の塗膜層に印加する負の高電圧パルスによる電界のみで発生させたプラズマ中に存在するイオンを、ポリシラザン含有塗布液の塗膜層に注入する方法が好ましい。
【0077】
(A)の方法においては、イオン注入する際の圧力(プラズマイオン注入時の圧力)を1Paとすることが好ましく、0.01〜1Paとすることがより好ましい。プラズマイオン注入時の圧力がこのような範囲にあるときに、簡便にかつ効率よく均一にイオン注入することができ、ガスバリア性に優れた第1のガスバリア層を効率よく形成することができる。
【0078】
(B)の方法は、減圧度を高くする必要がなく、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮することができる。また、塗膜層全体にわたって均一に処理することができ、負の高電圧パルス印加時にプラズマ中のイオンを高エネルギーで層の表面部に連続的に注入することができる。さらに、radio frequency(高周波、以下、「RF」と略す。)や、マイクロ波等の高周波電力源等の特別の他の手段を要することなく、層に負の高電圧パルスを印加するだけで、層の表面部にイオン注入層を均一に形成することができる。
【0079】
(A)および(B)のいずれの方法においても、負の高電圧パルスを印加するとき、すなわちイオン注入するときのパルス幅は、1〜15μsecであるのが好ましい。パルス幅がこのような範囲にあるときに、透明で均一なイオン注入層をより簡便にかつ効率よく形成することができる。
【0080】
また、プラズマを発生させるときの印加電圧は、好ましくは−1kV〜−50kV、より好ましくは−1kV〜−30kV、特に好ましくは −5kV〜−20kVである。印加電圧が−1kVより大きい値でイオン注入を行うと、イオン注入量(ドーズ量)が不十分となり、所望の性能が得られない。 一方、−50kVより小さい値でイオン注入を行うと、イオン注入時にフィルムが帯電し、またフィルムへの着色等の不具合が生じ、好ましくない。
【0081】
塗膜層にプラズマ中のイオンを注入する際には、プラズマイオン注入装置を用いる。プラズマイオン注入装置としては、具体的には、(a)ポリシラザン含有塗膜層(以下、「イオン注入する層」ということがある。)に負の高電圧パルスを印加するフィードスルーに高周波電力を重畳してイオン注入する層の周囲を均等にプラズマで囲み、プラズマ中のイオンを誘引、注入、衝突、堆積させる装置(特開2001−26887号公報)、(b)チャンバー内にアンテナを設け、高周波電力を与えてプラズマを発生させてイオン注入する層周囲にプラズマが到達後、イオン注入する層に正と負のパルスを交互に印加することで、正のパルスでプラズマ中の電子を誘引衝突させてイオン注入する層を加熱し、パルス定数を制御して温度制御を行いつつ、負のパルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させる装置(特開2001−156013号公報)、(c)マイクロ波等の高周波電力源等の外部電界を用いてプラズマを発生させ、高電圧パルスを印加してプラズマ中のイオンを誘引、注入させるプラズマイオン注入装置、(d)外部電界を用いることなく高電圧パルスの印加により発生する電界のみで発生するプラズマ中のイオンを注入するプラズマイオン注入装置等が挙げられる。
【0082】
これらの中でも、処理操作が簡便であり、処理時間も大幅に短縮でき、連続使用に適していることから、後述する、(c)または(d)のプラズマイオン注入装置を用いるのが好ましい。
【0083】
塗膜層におけるイオン注入される部分の厚みは、印加電圧やイオンを注入する時間等の注入条件により制御することができ、ガスバリア性フィルムに求められる性能などに応じて適宜決定すればよいが、通常、0.1〜1000nmである。なお、イオンが注入されたことは、X線光電子分光分析(XPS)を用いて表面からある程度の深さの元素分析測定を行うことによって確認することができる。
【0084】
上述したように、改質処理は、イオン注入に加えて、活性エネルギー線(真空紫外線など)の照射等の公知の改質処理と併用されてもよいが、活性エネルギー線(真空紫外線など)の照射などについては、従来公知の知見が適宜参照されうるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0085】
(後処理)
改質処理して形成された第1のガスバリア層は、その前段階である塗布液を塗布した後または改質処理した後、特には改質処理した後、後処理を施すことが好ましい。ここで述べる後処理とは、温度10℃以上800℃未満の温度処理(熱処理)、あるいは相対湿度0%RH以上100%RH以下、または水浴に浸漬した湿度処理も含み、処理時間は、5秒から48日の範囲より選択される範囲と定義する。温度と湿度との両方の処理を施してもよく、どちらか一方だけでもよい。ガスバリア性向上、密着性向上等の観点から、好ましくは温度処理である。温度処理を施す際は、ホットプレート上に置く等の接触方式、オーブンにつるして放置する非接触方式等特に方式は問わず、併用でも、単式でもよい。生産性と装置上の負荷や基材の耐性も考えると、好ましい条件は、温度30〜300℃、相対湿度30〜85%RH、処理時間は30秒〜100時間である。
【0086】
(第2のガスバリア層)
第2のガスバリア層は、真空成膜法により形成されるものであり、本発明に係るガスバリア性フィルムにおける任意の層である。この第2のガスバリア層は、基材や第1のガスバリア層に対してどのような位置に配置されてもよいが、上記第1のガスバリア層と隣接するように配置されることが好ましい。なお、第2のガスバリア層は、上記第1のガスバリア層に隣接していることが好ましい。また、より優れたガスバリア性を発揮しうるという観点から、第2のガスバリア層は、上記基材と上記第1のガスバリア層との間に配置されることがさらに好ましい。
【0087】
(第2のガスバリア層の成膜方法)
第2のガスバリア層を形成するための真空成膜法としては、化学気相蒸着法(CVD法)または物理蒸着法(PVD法)が挙げられる。
【0088】
真空成膜法により形成される第2のガスバリア層は、無機化合物を含む。第2のガスバリア層に含まれる無機化合物としては、特に限定されないが、例えば、ケイ素、アルミニウムおよびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物、窒化物、酸窒化物または酸炭化物の少なくとも1種を含む。ケイ素、アルミニウムおよびチタンからなる群より選択される少なくとも1種の酸化物、窒化物、酸窒化物または酸炭化物としては、具体的には、酸化ケイ素(SiO
2)、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素(SiON)、酸炭化ケイ素(SiOC)、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、およびアルミニウムシリケートなどのこれらの複合体が挙げられる。このうち好ましくは酸窒化ケイ素(SiON)、窒化ケイ素(SiN)、酸炭化ケイ素(SiOC)、酸化ケイ素(SiO
2)、アルミニウムシリケート(SiAlO)および酸窒化炭化ケイ素(SiONC)である。これらは、副次的な成分として他の元素を含有してもよい。
【0089】
第2のガスバリア層の厚みは、5〜600nmであることが好ましい。第2のガスバリア層の膜厚が5nm以上であれば十分なガスバリア性を得ることができ、600μm以下であれば、高い光線透過性を実現できる。また、ガスバリア性により優れるという観点から、第2のガスバリア層の厚みは、より好ましくは10〜500nmであり、さらに好ましくは50〜400nmである。
【0090】
第2のガスバリア層は上記化合物を有することで、ガスバリア性を有する。ここで、第2のガスバリア層のガスバリア性は、基材上に第2のガスバリア層を形成させた積層体で算出した際に、上述の方法により測定される水蒸気透過量が0.1g/(m
2・24h)以下であることが好ましく、0.01g/(m
2・24h)以下であることがより好ましい。
【0091】
物理蒸着法(PVD法)は、気相中で物質の表面に物理的手法により、目的とする物質、例えば、炭素膜等の薄膜を堆積する方法であり、例えば、スパッタリング法(DCスパッタリング、RFスパッタリング、イオンビームスパッタリング、およびマグネトロンスパッタリング等)、真空蒸着法、イオンプレーティング法などが挙げられる。
【0092】
原料化合物としては、ケイ素化合物、チタン化合物、およびアルミニウム化合物を用いる。これらは、従来公知の化合物を用いることができ、好ましくはヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)である。
【0093】
また、金属を含む原料ガスを分解して無機化合物を得るための分解ガスとしては、水素ガス、メタンガス、アセチレンガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、窒素ガス、アンモニアガス、亜酸化窒素ガス、酸化窒素ガス、二酸化窒素ガス、酸素ガス、水蒸気などが挙げられる。また、上記分解ガスを、アルゴンガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスと混合してもよい。
【0094】
以下、CVD法のうち、好適な形態であるプラズマCVD法について具体的に説明する。
【0095】
図1は、本発明に係る第一無機層の形成に用いられる真空プラズマCVD装置の一例を示す模式図である。
【0096】
図1において、真空プラズマCVD装置101は、真空槽102を有しており、真空槽102の内部の底面側には、サセプタ105が配置されている。また、真空槽102の内部の天井側には、サセプタ105と対向する位置にカソード電極103が配置されている。真空槽102の外部には、熱媒体循環系106と、真空排気系107と、ガス導入系108と、高周波電源109が配置されている。熱媒体循環系106内には熱媒体が配置されている。熱媒体循環系106には、熱媒体を移動させるポンプと、熱媒体を加熱する加熱装置と、冷却する冷却装置と、熱媒体の温度を測定する温度センサと、熱媒体の設定温度を記憶する記憶装置とを有する加熱冷却装置160が設けられている。
図1に記載の真空プラズマCVD装置の詳細については、国際公開第2012/014653号パンフレットを参照することができる。
【0097】
(第2のガスバリア層の他の好適な形態)
また、本発明の第2のガスバリア層の他の好適な一実施形態として、構成元素に炭素、ケイ素、および酸素を含む層がある。より好適な形態は、以下の(i)〜(ii)の要件を満たす無機層である。
【0098】
(i)第2のガスバリア層の膜厚方向における第一無機層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有する、
(ii)炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値と最小値との差の絶対値が3at%以上である。
【0099】
かような組成をもつことで、ガスバリア性と屈曲性を高度に両立する観点から好ましい。
【0100】
さらに、第2のガスバリア層の全層厚の90%以上の領域において、ケイ素原子、酸素原子及び炭素原子の合計量(100at%)に対する各原子の平均原子比率が、下記式(A)または(B)で表される序列の大小関係を有することが、屈曲性に優れるという点で好ましい。
【0101】
式(A)
(炭素平均原子比率)<(ケイ素平均原子比率)<(酸素平均原子比率)
式(B)
(酸素平均原子比率)<(ケイ素平均原子比率)<(炭素平均原子比率)
以下、上記好適な実施形態について説明する。
【0102】
(i)前記第2のガスバリア層の膜厚方向における前記第2のガスバリア層表面からの距離(L)と、ケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対するケイ素原子の量の比率(ケイ素の原子比)との関係を示すケイ素分布曲線、前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する酸素原子の量の比率(酸素の原子比)との関係を示す酸素分布曲線、ならびに前記Lとケイ素原子、酸素原子、および炭素原子の合計量に対する炭素原子の量の比率(炭素の原子比)との関係を示す炭素分布曲線において、炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することが好ましい。上記第2のガスバリア層は、前記炭素分布曲線が少なくとも3つの極値を有することが好ましく、少なくとも4つの極値を有することがより好ましいが、5つ以上有してもよい。炭素分布曲線が少なくとも2つの極値を有することで、炭素原子比率が濃度勾配を有して連続的に変化し、屈曲時のガスバリア性能が高まる。なお、炭素分布曲線の極値の上限は、特に制限されないが、例えば、好ましくは30以下、より好ましくは25以下である。極値の数は、ガスバリア層の膜厚にも起因するため、一概に規定することはできない。
【0103】
ここで、少なくとも3つの極値を有する場合においては、前記炭素分布曲線の有する1つの極値および該極値に隣接する極値における前記第2のガスバリア層の膜厚方向における前記第2のガスバリア層の表面からの距離(L)の差の絶対値(以下、単に「極値間の距離」とも称する)が、いずれも200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましく、75nm以下であることが特に好ましい。このような極値間の距離であれば、第2のガスバリア層中に炭素原子比が多い部位(極大値)が適度な周期で存在するため、第2のガスバリア層に適度な屈曲性を付与し、ガスバリア性フィルムの屈曲時のクラックの発生をより有効に抑制・防止できる。なお、本明細書において極値とは、前記第2のガスバリア層の膜厚方向における前記第2のガスバリア層の表面からの距離(L)に対する元素の原子比の極大値または極小値のことをいう。また、本明細書において極大値とは、第2のガスバリア層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が増加から減少に変わる点であって、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点から第2のガスバリア層の膜厚方向における第2のガスバリア層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上減少していればよい。これは、第2のガスバリア層の膜厚により変動する。例えば、第2のガスバリア層が300nmである場合は、第2のガスバリア層の膜厚方向における第2のガスバリア層の表面からの距離を20nm変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上減少する点が好ましい。さらに、本明細書において極小値とは、第2のガスバリア層の表面からの距離を変化させた場合に元素(酸素、ケイ素または炭素)の原子比の値が減少から増加に変わる点であり、かつその点の元素の原子比の値よりも、該点から第2のガスバリア層の膜厚方向における第2のガスバリア層の表面からの距離をさらに4〜20nmの範囲で変化させた位置の元素の原子比の値が3at%以上増加する点のことをいう。すなわち、4〜20nmの範囲で変化させた際に、いずれかの範囲で元素の原子比の値が3at%以上増加していればよい。ここで、少なくとも3つの極値を有する場合の、極値間の距離の下限は、極値間の距離が小さいほどガスバリア性フィルムの屈曲時のクラック発生抑制/防止の向上効果が高いため、特に制限されない。
【0104】
さらに、該第2のガスバリア層は、(ii)前記炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が3at%以上であることが好ましく、5at%以上であることがより好ましく、7at%以上であることがさらに好ましい。炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が3at%以上であることで、屈曲時のガスバリア性能が高まる。なお、本明細書において、「最大値」とは、各元素の分布曲線において最大となる各元素の原子比であり、極大値の中で最も高い値である。同様にして、本明細書において、「最小値」とは、各元素の分布曲線において最小となる各元素の原子比であり、極小値の中で最も低い値である。
【0105】
また、第2のガスバリア層の膜厚の90%以上(上限:100%)の領域で、(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)、(炭素の原子比)の順で多い(原子比がO>Si>C)ことが好ましい。かような条件となることで、得られるガスバリア性フィルムのガスバリア性や屈曲性が十分となる。ここで、上記炭素分布曲線において、上記(酸素の原子比)、(ケイ素の原子比)および(炭素の原子比)の関係は、ガスバリア層の膜厚の、少なくとも90%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましく、少なくとも93%以上(上限:100%)の領域で満たされることがより好ましい。ここで、ガスバリア層の膜厚の少なくとも90%以上とは、ガスバリア層中で連続していなくてもよく、単に90%以上の部分で上記した関係を満たしていればよい。
【0106】
前記ケイ素分布曲線、前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線、および前記酸素炭素分布曲線は、X線光電子分光法(XPS:Xray Photoelectron Spectroscopy)の測定とアルゴン等の希ガスイオンスパッタとを併用することにより、試料内部を露出させつつ順次表面組成分析を行う、いわゆるXPSデプスプロファイル測定により作成することができる。このようなXPSデプスプロファイル測定により得られる分布曲線は、例えば、縦軸を各元素の原子比(単位:at%)とし、横軸をエッチング時間(スパッタ時間)として作成することができる。なお、このように横軸をエッチング時間とする元素の分布曲線においては、エッチング時間は膜厚方向における前記第2のガスバリア層の膜厚方向における前記第2のガスバリア層の表面からの距離(L)に概ね相関することから、「第2のガスバリア層の膜厚方向における第2のガスバリア層の表面からの距離」として、XPSデプスプロファイル測定の際に採用したエッチング速度とエッチング時間との関係から算出される第2のガスバリア層の表面からの距離を採用することができる。なお、本発明では、ケイ素分布曲線、酸素分布曲線、炭素分布曲線および酸素炭素分布曲線は、下記測定条件にて作成した。
【0107】
(測定条件)
エッチングイオン種:アルゴン(Ar
+);
エッチング速度(SiO
2熱酸化膜換算値):0.05nm/sec;
エッチング間隔(SiO
2換算値):10nm;
X線光電子分光装置:Thermo Fisher Scientific社製、機種名”VG Theta Probe”;
照射X線:単結晶分光AlKα
X線のスポット及びそのサイズ:800×400μmの楕円形。
【0108】
膜面全体において均一でかつ優れたガスバリア性を有する第2のガスバリア層を形成するという観点から、第2のガスバリア層が膜面方向(第2のガスバリア層の表面に平行な方向)において実質的に一様であることが好ましい。ここで、第2のガスバリア層が膜面方向において実質的に一様とは、XPSデプスプロファイル測定により第2のガスバリア層の膜面の任意の2箇所の測定箇所について前記酸素分布曲線、前記炭素分布曲線および前記酸素炭素分布曲線を作成した場合に、その任意の2箇所の測定箇所において得られる炭素分布曲線が持つ極値の数が同じであり、それぞれの炭素分布曲線における炭素の原子比の最大値および最小値の差の絶対値が、互いに同じであるかもしくは5at%以内の差であることをいう。
【0109】
さらに、前記炭素分布曲線は実質的に連続であることが好ましい。ここで、炭素分布曲線が実質的に連続とは、炭素分布曲線における炭素の原子比が不連続に変化する部分を含まないことを意味し、具体的には、エッチング速度とエッチング時間とから算出される前記第2のガスバリア層のうちの少なくとも1層の膜厚方向における該第2のガスバリア層の表面からの距離(x、単位:nm)と、炭素の原子比(C、単位:at%)との関係において、下記数式(1)で表される条件を満たすことをいう。
【0111】
なお、第2のガスバリア層がサブレイヤーを有する場合、上記条件(i)〜(ii)を全て満たすサブレイヤーが複数積層されて第2のガスバリア層を形成していてもよい。サブレイヤーを2層以上備える場合には、複数のサブレイヤーの材質は、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0112】
第2のガスバリア層の好適な形態である、(i)〜(ii)の要件を満たす層は、プラズマCVD(PECVD)法により形成される層であることが好ましく、さらに対向ロール型のロール・トゥ・ロール真空成膜装置を用いたプラズマCVD法により形成されることがより好ましい。かような構成とすることで、ガスバリア層の膜厚方向に向かって炭素原子の存在比を連続的(擬周期的)に変化させることができ、ガスバリア性フィルムの屈曲耐性を向上させてたわみの発生を防止できるという利点がある。なお、前記プラズマCVD法はペニング放電プラズマ方式のプラズマCVD法であってもよい。
【0113】
プラズマCVD法においてプラズマを発生させる際には、複数の成膜ローラーの間の空間にプラズマ放電を発生させることが好ましく、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラーのそれぞれに前記基材を配置して、一対の成膜ローラー間に放電してプラズマを発生させることがより好ましい。このようにして、一対の成膜ローラーを用い、その一対の成膜ローラー上に基材を配置して、かかる一対の成膜ローラー間に放電することにより、成膜時に一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分を成膜しつつ、もう一方の成膜ローラー上に存在する基材の表面部分も同時に成膜することが可能となって効率よく薄膜を製造できるばかりか、通常のローラーを使用しないプラズマCVD法と比較して成膜レートを倍にでき、なおかつ、略同じ構造の膜を成膜できるので前記炭素分布曲線における極値を少なくとも倍増させることが可能となり、効率よく上記条件(i)〜(ii)を全て満たす層を形成することが可能となる。
【0114】
また、このようにして一対の成膜ローラー間に放電する際には、前記一対の成膜ローラーの極性を交互に反転させることが好ましい。さらに、このようなプラズマCVD法に用いる成膜ガスとしては、有機ケイ素化合物と酸素とを含むものが好ましく、その成膜ガス中の酸素の含有量は、前記成膜ガス中の前記有機ケイ素化合物の全量を完全酸化するのに必要な理論酸素量未満であることが好ましい。また、本発明のガスバリア性フィルムにおいては、前記ガスバリア層が連続的な成膜プロセスにより形成された層であることが好ましい。
【0115】
また、ロール・トゥ・ロール方式で第2のガスバリア層を形成させることは生産性の観点からも好ましい。また、このようなプラズマCVD法により第2のガスバリア層を製造する際に用いることが可能な装置としては、特に制限されないが、少なくとも一対の成膜ローラーと、プラズマ電源とを備え、かつ前記一対の成膜ローラー間において放電することが可能な構成となっている装置であることが好ましく、例えば、
図2に示す製造装置を用いた場合には、プラズマCVD法を利用しながらロール・トゥ・ロール方式で製造することも可能となる。
【0116】
以下、
図2を参照しながら、第2のガスバリア層の形成方法について、より詳細に説明する。なお、
図2は、第2のガスバリア層を製造するために好適に利用することが可能な製造装置の一例を示す模式図である。また、以下の説明および図面中、同一または相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0117】
図2に示す製造装置31は、送り出しローラー32と、搬送ローラー33、34、35、36と、成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、成膜ローラー39および40の内部に設置された磁場発生装置43、44と、巻取りローラー45とを備えている。また、このような製造装置においては、少なくとも成膜ローラー39、40と、ガス供給管41と、プラズマ発生用電源42と、磁場発生装置43、44とが図示を省略した真空チャンバ内に配置されている。さらに、このような製造装置31において前記真空チャンバは図示を省略した真空ポンプに接続されており、かかる真空ポンプにより真空チャンバ内の圧力を適宜調整することが可能となっている。装置に関する詳細は従来公知の文献、例えば、特開2011−73430号公報を参照することができる。
【0118】
上記したように、本実施形態の一つの好ましい態様としては、第2のガスバリア層を、
図2に示す対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロール・トゥ・ロール方式)を用いたプラズマCVD法によって成膜する。これは、対向ロール電極を有するプラズマCVD装置(ロールツーロール方式)を用いて量産する場合に、可撓性(屈曲性)に優れ、機械的強度、特にロールツーロールでの搬送時の耐久性と、バリア性能とが両立する第2のガスバリア層を効率よく製造することができるためである。このような製造装置は、太陽電池や電子部品などに使用される温度変化に対する耐久性が求められるガスバリア性フィルムを、安価でかつ容易に量産することができる点でも優れている。
【0119】
本発明に係るガスバリア性フィルムにおいて、ガスバリア層の層数は特に制限されない。ガスバリア性の観点から、ガスバリア層の層数は、基材の両面合わせて好ましくは2層〜10層であり、より好ましくは3層〜6層である。
【0120】
上述したガスバリア層のうち、添加元素を含有するガスバリア層(つまり、第1のガスバリア層)は、少なくとも1層あればよいが、2層以上含まれることが好ましく、特には、基材の一方の面に、第1のガスバリア層が2層〜3層含まれていることが好ましい。
【0121】
本発明において、ガスバリア層は、適度な表面の平滑性を有することが好ましい。具体的には、ガスバリア層の表面の平滑性としては、ガスバリア層の中心線平均粗さ(Ra)が、50nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。このようなガスバリア層の中心線平均粗さ(Ra)の下限は、特に制限されないが、実用上、0.01nm以上であり、0.1nm以上であることが好ましい。このようなRaを有するガスバリア層であれば、当該ガスバリア層中の凹凸に良好に対応して当該ガスバリア層上にさらに別のガスバリア層を形成することもできる。このため、ガスバリア層に生じるクラックやダングリングボンド等の欠陥を別のガスバリア層がより効率よく被覆して、密な表面を形成することができる。ゆえに、高温高湿条件下でのガスバリア性(例えば、低酸素透過性、低水蒸気透過性)の低下をより有効に抑制・防止できる。なお、本明細書において、ガスバリア層の中心線平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM)を使用し、試料の表面を測定したAFMトポグラフィー像につき傾斜自動補正処理を行い、次いで3次元粗さ解析を行うことにより求めることができる。
【0122】
〔その他の層〕
本発明に係るガスバリア性フィルムは、その他の層(中間層)をさらに有していてもよい。中間層としては、アンカーコート層、平滑層、ブリードアウト防止層およびクリアハードコート層等が挙げられる。これらのうち、基材上にクリアハードコート層を形成することが好ましい。特に、基材の両面にクリアハードコート層を有することが好ましい。
【0123】
(クリアハードコート層(CHC層))
クリアハードコート層は、基材とガスバリア層との密着性向上、高温高湿下での基材とガスバリア層との膨張・収縮の差から生じる内部応力の緩和、ガスバリア層を設ける下層の平坦化、主基材からのモノマー、オリゴマー等の低分子量成分のブリードアウト防止等の機能を有する。このような機能を有するクリアハードコート層は、感光性樹脂組成物(通常、感光性樹脂、光重合開始剤、および溶媒を含む)を基材上に塗布した後、硬化させることによって形成されうる。
【0124】
クリアハードコート層の厚さとしては、好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜7μmである。クリアハードコート層の厚さが1μm以上であると、ガスバリア性フィルムの耐熱性が向上しうることから好ましい。一方、クリアハードコート層の厚さが10μm以下であると、ガスバリア性フィルムの光学特性が好適に調整され、また、ガスバリア性フィルムのカールを抑制しうることから好ましい。
【0125】
(平滑層(下地層、プライマー層))
平滑層は、突起等が存在する基材の粗面を平坦化するために、または、基材に存在する突起に起因してガスバリア層に生じた凹凸やピンホールを埋めて平坦化するために設けられる。このような平滑層は、いずれの材料で形成されてもよいが、炭素含有ポリマーを含むことが好ましく、炭素含有ポリマーから構成されることがより好ましい。すなわち、本発明に係るガスバリア性フィルムの製造方法においては、基材とガスバリア層との間に、炭素含有ポリマーを含む平滑層をさらに設けてもよい。
【0126】
平滑層の平滑性は、JIS B 0601:2001年で規定される表面粗さで表現される値で、最大断面高さRt(p)が、10nm以上、30nm以下であることが好ましい。
【0127】
(アンカーコート層)
本発明に係る基材の表面には、接着性(密着性)の向上を目的として、アンカーコート層を易接着層として形成してもよい。このアンカーコート層に用いられるアンカーコート剤としては、ポリエステル樹脂、イソシアネート樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、変性スチレン樹脂、変性シリコン樹脂、およびアルキルチタネート等を、1種または2種以上併せて使用することができる。上記アンカーコート剤は、市販品を使用してもよい。具体的には、シロキサン系UV硬化型ポリマー溶液(信越化学工業株式会社製、「X−12−2400」の3%イソプロピルアルコール溶液)を用いることができる。なお、アンカーコート層の厚さは、特に制限されないが、0.5〜10μm程度が好ましい。
【0128】
(ブリードアウト防止層)
表面に平滑層が形成された基材は、加熱処理の際にその内部から表面に未反応のオリゴマー等が移行して、表面が汚染されうる。ブリードアウト防止層は、当該基材表面の汚染を抑制する機能を有する。当該ブリードアウト防止層は、通常、平滑層が配置された基材の当該平滑層とは反対側の面に設けられる。
【0129】
ブリードアウト防止層は、上記機能を有していれば、平滑層と同じ構成であってもよい。すなわち、ブリードアウト防止層は、感光性樹脂組成物を基材上に塗布した後、硬化させることによって形成されうる。
【0130】
基材上に、上述のクリアハードコート層、平滑層、アンカーコート層、およびブリードアウト防止層からなる群から選択される少なくとも1つの中間層が形成される場合、基材および中間層の総膜厚は、5〜500μmであることが好ましく、25〜250μmであることがより好ましい。
【0131】
上述したように、本発明に係るガスバリア性フィルムによれば、薄膜基材を備え、ポリシラザン改質膜と蒸着膜とが隣接配置されてなるガスバリア性フィルムにおいて、基材とガスバリア層との密着性を向上させるとともにガスバリア層の割れを防止することにより、経時的なガスバリア性の低下を防止することが可能となる。ガスバリア性フィルムの水蒸気透過率は低いほど好ましいが、本発明に係るガスバリア性フィルムの水蒸気透過率の値は、1×10
−2g/m
2/day以下であることが好ましく、より好ましくは3×10
−3g/m
2/day以下であり、さらに好ましくは5×10
−4g/m
2/day以下である。
【0132】
〔電子デバイス〕
上記したような本発明に係るガスバリア性フィルムは、優れたガスバリア性、透明性、耐屈曲性を有する。このため、本発明に係るガスバリア性フィルムは、電子デバイス等のパッケージ、光電変換素子(太陽電池素子)や有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、液晶表示素子等の等の電子デバイスに用いられるガスバリア性フィルムおよびこれを用いた電子デバイスなど、様々な用途に使用することができる。
【0133】
(電子素子本体)
電子素子本体は電子デバイスの本体であり、ガスバリア性フィルムのガスバリア層側に配置される。電子素子本体としては、ガスバリア性フィルムによる封止が適用されうる公知の電子デバイスの本体が使用できる。例えば、有機EL素子、太陽電池(PV)、液晶表示素子(LCD)、電子ペーパー、薄膜トランジスタ、タッチパネル等が挙げられる。本発明の効果がより効率的に得られるという観点から、該電子素子本体は、有機EL素子または太陽電池であることが好ましい。これらの電子素子本体の構成についても、特に制限はなく、従来公知の構成を有しうる。
【0134】
本発明に係るガスバリア性フィルムは、また、デバイスの膜封止に用いることができる。すなわち、デバイス自体を支持体として、その表面に本発明のガスバリア性フィルムを設ける方法である。ガスバリア性フィルムを設ける前にデバイスを保護層で覆ってもよい。
【0135】
本発明に係るガスバリア性フィルムは、デバイスの基板や固体封止法による封止のためのフィルムとしても用いることができる。固体封止法とはデバイスの上に保護層を形成した後、接着剤層、ガスバリア性フィルムを重ねて硬化する方法である。接着剤は特に制限はないが、熱硬化性エポキシ樹脂、光硬化性アクリレート樹脂等が例示される。
【0136】
(有機EL素子)
ガスバリア性フィルムを用いた有機EL素子の例は、特開2007−30387号公報に詳しく記載されている。
【0137】
(液晶表示素子)
反射型液晶表示装置は、下から順に、下基板、反射電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、透明電極、上基板、λ/4板、そして偏光膜からなる構成を有する。本発明におけるガスバリア性フィルムは、前記透明電極基板および上基板として使用することができる。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を反射電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。透過型液晶表示装置は、下から順に、バックライト、偏光板、λ/4板、下透明電極、下配向膜、液晶層、上配向膜、上透明電極、上基板、λ/4板および偏光膜からなる構成を有する。カラー表示の場合には、さらにカラーフィルター層を下透明電極と下配向膜との間、または上配向膜と透明電極との間に設けることが好ましい。液晶セルの種類は特に限定されないが、より好ましくはTN型(Twisted Nematic)、STN型(Super Twisted Nematic)またはHAN型(Hybrid Aligned Nematic)、VA型(Vertically Alignment)、ECB型(Electrically Controlled Birefringence)、OCB型(Optically Compensated Bend)、IPS型(In−Plane Switching)、CPA型(Continuous Pinwheel Alignment)であることが好ましい。
【0138】
(太陽電池)
本発明のガスバリア性フィルムは、太陽電池素子の封止フィルムとしても用いることができる。ここで、本発明のガスバリア性フィルムは、バリア層が太陽電池素子に近い側となるように封止することが好ましい。本発明のガスバリア性フィルムが好ましく用いられる太陽電池素子としては、特に制限はないが、例えば、単結晶シリコン系太陽電池素子、多結晶シリコン系太陽電池素子、シングル接合型、またはタンデム構造型等で構成されるアモルファスシリコン系太陽電池素子、ガリウムヒ素(GaAs)やインジウム燐(InP)等のIII−V族化合物半導体太陽電池素子、カドミウムテルル(CdTe)等のII−VI族化合物半導体太陽電池素子、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子、色素増感型太陽電池素子、有機太陽電池素子等が挙げられる。中でも、本発明においては、上記太陽電池素子が、銅/インジウム/セレン系(いわゆる、CIS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン系(いわゆる、CIGS系)、銅/インジウム/ガリウム/セレン/硫黄系(いわゆる、CIGSS系)等のI−III−VI族化合物半導体太陽電池素子であることが好ましい。
【0139】
(その他)
その他の適用例としては、特表平10−512104号公報に記載の薄膜トランジスタ、特開平5−127822号公報、特開2002−48913号公報等に記載のタッチパネル、特開2000−98326号公報に記載の電子ペーパー等が挙げられる。
【0140】
<光学部材>
本発明のガスバリア性フィルムは、光学部材としても用いることができる。光学部材の例としては円偏光板等が挙げられる。
【0141】
(円偏光板)
本発明におけるガスバリア性フィルムを基板としλ/4板と偏光板とを積層し、円偏光板を作製することができる。この場合、λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角が45°になるように積層する。このような偏光板は、長手方向(MD)に対し45°の方向に延伸されているものを用いることが好ましく、例えば、特開2002−86554号公報に記載のものを好適に用いることができる。
【実施例】
【0142】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合、特に断りがない限り「質量部」または「質量%」を表す。
【0143】
《ガスバリア性フィルムの作製》
<基材の作製>
基材として、両面に易接着加工された厚さ125μmのポリエステル(PET)フィルムである極低熱収PET Q83(帝人デュポンフィルム株式会社製)を準備した。
【0144】
上記基材の一方の面に、感光性樹脂であるUV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR(登録商標) Z7535(JSR株式会社製)を、乾燥後の膜厚が4.0μmとなるように塗布した。得られた塗膜に高圧水銀ランプを照射し、硬化させることでブリードアウト防止層を形成した。なお、照射は、空気雰囲気下、照射エネルギー量1.0J/cm
2で、80℃にて3分間行った。
【0145】
上記基材の前記ブリードアウト防止層を形成したのとは反対側の面に、感光性樹脂であるUV硬化型有機/無機ハイブリッドハードコート材 OPSTAR(登録商標)Z7501(JSR株式会社製)を、乾燥後の膜厚が4.0μmとなるように塗布した。得られた塗膜に高圧水銀ランプを照射し、硬化させることで平滑層を形成した。なお、照射は、空気雰囲気下、照射エネルギー量1.0J/cm
2で、80℃にて3分間行った。
【0146】
このようにして得られた中間層(ブリードアウト防止層および平滑層)を有する基材の平滑層について、10点平均表面粗さ(Rz)および中心線平均粗さ(Ra)を、JIS B 0601:2001で規定される方法に準拠して測定した。具体的には、装置としてAFM(原子間力顕微鏡)SPI3800N DFM(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用いて、1回の測定範囲を80μm×80μmと設定し、測定箇所を変えて3回測定を行った。その結果、Rzは20nmであり、Raは1nmであった。
【0147】
<ガスバリア性フィルム1の作製>
20質量%のパーヒドロポリシラザン(PHPS)を含むジブチルエーテル溶液(アクアミカ(登録商標) NN120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)と、1質量%のアミン触媒(N,N,N’,N’−テトラメチル−1,6−ジアミノヘキサン)および19質量%のパーヒドロポリシラザン(PHPS)を含むジブチルエーテル溶液(アクアミカ(登録商標) NAX120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)とを4:1の質量割合で混合し、ポリシラザン含有塗布液を調製した。
【0148】
上記作製した中間層付き基材の平滑層の表面上に、上記調製したポリシラザン含有塗布液を乾燥後の膜厚が200nmとなるようにスピンコーターを用いて塗布し、100℃にて2分間乾燥させて、塗膜層を得た。
【0149】
続いて、得られた塗膜層を窒素(N
2)をプラズマ生成ガスとして用いたプラズマイオン注入により改質することにより第1のガスバリア層を形成して、ガスバリア性フィルム1を作製した。なお、プラズマイオン注入に用いた装置および条件は以下の通りである。
【0150】
(プラズマイオン注入に用いた装置)
・RF電源:型番号「RF」56000、日本電子社製
・高電圧パルス電源:「PV−3−HSHV−0835」、栗田製作所社製
(プラズマイオン注入の条件)
・Duty比:0.5%、
・繰り返し周波数:1000Hz、
・印加電圧:−10kV、
・RF電源:周波数 13.56MHz、印加電力 1000W、
・チャンバー内圧:0.05Pa、
・パルス幅:5μsec、
・処理時間(イオン注入時間):5分間。
【0151】
<ガスバリア性フィルム2の作製>
第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液の調製を以下のようにして行ったこと以外は、ガスバリア性フィルム1の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム2を作製した。
【0152】
(ポリシラザン含有塗布液の調製)
20質量%のパーヒドロポリシラザンを含む無触媒のジブチルエーテル溶液(アクアミカ NN120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)と、1質量%のアミン触媒および19質量%パーヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液(アクアミカ NAX120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)とを4:1の質量割合で混合した。さらにAMD(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムジイソプロピレート・モノセカンダリーブチレート)を、パーヒドロポリシラザンのSi元素に対してAl元素が10mol%となる量で加え、塗布液を調製した。調液は、パーヒドロポリシラザン溶液、AMD溶液を各々ジブチルエーテルで10質量%以下に希釈した溶液を混合して行った。塗布量は、塗膜の乾燥膜厚が300nmとなるように調整した。
【0153】
<ガスバリア性フィルム3の作製>
第1のガスバリア層を形成する前に、上記作製した中間層付き基材の平滑層の表面上に、
図2に示す対向ロール型のロール・トゥ・ロール真空成膜装置を用いたプラズマCVD法により第2のガスバリア層を形成した。その後、当該第2のガスバリア層上に第
1のガスバリア層を形成したこと以外は、上述したガスバリア性フィルム2の作製と同様にして、ガスバリア性フィルム3を作製した。
【0154】
第2のガスバリア層の形成は、まず、上記作製した中間層付き基材を
図2に示すプラズマCVD成膜装置31にセットし、搬送させた。次いで、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に磁場を印加すると共に、成膜ローラー39と成膜ローラー40にそれぞれ電力を供給して、成膜ローラー39と成膜ローラー40との間に放電してプラズマを発生させた。その後、形成された放電領域に、成膜ガス(原料ガスとしてのヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と反応ガスとしての酸素ガス(放電ガスとしても機能する)との混合ガス)を供給し、成膜用基材のブリードアウト防止層上に、下記成膜条件にて膜厚150nmの第2のガスバリア層を形成した。
【0155】
(プラズマCVD条件)
・原料ガス(HMDSO)の供給量:50sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute)、
・反応ガス(O
2)の供給量:500sccm、
・真空チャンバー内の真空度:3Pa、
・プラズマ発生用電源からの印加電力:0.8kW、
・プラズマ発生用電源の周波数:70kHz、
・フィルムの搬送速度:0.8m/min。
【0156】
<ガスバリア性フィルム4の作製>
第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液の調製を以下のようにして行ったこと以外は、ガスバリア性フィルム3の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム4を作製した。
【0157】
(ポリシラザン含有塗布液の調製)
20質量%のパーヒドロポリシラザンを含む無触媒のジブチルエーテル溶液(アクアミカ NN120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)と、1質量%のアミン触媒および19質量%パーヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液(アクアミカ NAX120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)とを4:1の質量割合で混合した。さらにチタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業株式会社製)およびALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)を、パーヒドロポリシラザンのSi元素に対してTi元素およびAl元素がそれぞれ5mol%となる量で加え、塗布液を調製した。調液は、パーヒドロポリシラザン溶液、チタンテトライソプロポキシド溶液、およびALCH溶液を各々ジブチルエーテルで10質量%以下に希釈した溶液を混合して行った。塗布液は、塗膜の乾燥膜厚が150nmとなるように調整した。
【0158】
<ガスバリア性フィルム5の作製>
第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液の調製を以下のようにして行ったこと以外は、ガスバリア性フィルム3の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム5を作製した。
【0159】
(ポリシラザン含有塗布液の調製)
20質量%のパーヒドロポリシラザンを含む無触媒のジブチルエーテル溶液(アクアミカ NN120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)と、1質量%のアミン触媒および19質量%パーヒドロポリシラザンを含むジブチルエーテル溶液(アクアミカ NAX120−20:AZエレクトロニックマテリアルズ株式会社製)とを4:1の質量割合で混合した。さらにALCH(川研ファインケミカル株式会社製、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート)を、パーヒドロポリシラザンのSi元素に対してAl元素が10mol%となる量で加え、塗布液を調製した。調液は、パーヒドロポリシラザン溶液、ALCH溶液を各々ジブチルエーテルで10質量%以下に希釈した溶液を混合して行った。塗布液は、塗膜の乾燥膜厚が300nmとなるように調整した。
【0160】
第1のガスバリア層の形成の際に、得られた塗膜層をプラズマイオン注入により改質する際のプラズマ生成ガスとしてアルゴン(Ar)を用いたこと以外は、ガスバリア性フィルム5の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム6を作製した。
【0161】
<ガスバリア性フィルム7の作製>
第1のガスバリア層の形成の際に、得られた塗膜層をプラズマイオン注入により改質する際のプラズマ生成ガスとしてヘリウム(He)を用いたこと以外は、ガスバリア性フィルム5の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム7を作製した。
【0162】
<ガスバリア性フィルム8の作製>
第1のガスバリア層の形成の際に、得られた塗膜層をプラズマイオン注入により改質する際のプラズマ生成ガスとして酸素(O
2)を用いたこと以外は、ガスバリア性フィルム5の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム8を作製した。
【0163】
<ガスバリア性フィルム9の作製>
第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液におけるAl元素の添加量を、Si元素に対して3mol%としたこと以外は、ガスバリア性フィルム5の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム9を作製した。
【0164】
<ガスバリア性フィルム10の作製>
第1のガスバリア層の形成の際に用いるポリシラザン含有塗布液におけるAl元素の添加量を、Si元素に対して25mol%としたこと以外は、ガスバリア性フィルム5の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム10を作製した。
【0165】
<ガスバリア性フィルム11の作製>
第1のガスバリア層の形成の際のプラズマイオン注入におけるチャンバー内圧を2Paとしたこと以外は、ガスバリア性フィルム5の作製と同様の手法により、ガスバリア性フィルム11を作製した。
【0166】
《有機EL素子の作製》
上記作製したガスバリア性フィルム1〜11を用いて、以下の方法で有機EL素子を作製した。
【0167】
(第1電極の形成)
ガスバリア性フィルムの第1のガスバリア層上に、厚さ150nmのITO(インジウムチンオキシド)をスパッタ法により成膜した。次いで、フォトリソグラフィー法によりパターニングを行い、第1電極を形成した。なお、パターニングは発光面積が50mm平方となるように行った。
【0168】
(正孔輸送層の形成)
ポリエチレンジオキシチオフェン・ポリスチレンスルホネート(PEDOT/PSS:Baytron(登録商標) P AI 4083、Bayer社製)を純水65%およびメタノール5%で希釈した溶液を正孔輸送層形成用塗布液として準備した。
【0169】
ガスバリア性フィルムの第1電極が形成された面とは反対の面を洗浄表面改質処理した。当該洗浄表面改質処理には低圧水銀ランプ(波長:184.9nm、照射強度15mW/cm
2)を使用し、ガスバリア性フィルムとの距離が10mmとなる条件で行った。なお、帯電除去処理には、微弱X線による除電器を使用した。
【0170】
上記で形成した第1電極上に、上記準備した正孔輸送層形成用塗布液を、大気中、25℃、相対湿度(RH)50%の条件で、乾燥後の厚みが50nmとなるように押出し塗布機を用いて塗布した。得られた塗膜について、吐出風速1m/s、幅手の風速分布5%、温度100℃の条件で、成膜面から高さ100mmの距離で送風することにより溶媒を除去し、次いで加熱処理装置により温度150℃で裏面伝熱方式の熱処理を行い、正孔輸送層を形成した。
【0171】
(発光層の形成)
ホスト材のH−Aを1.0gと、ドーパント材のD−Aを100mgと、ドーパント材のD−Bを0.2mgと、ドーパント材のD−Cを0.2mgと、を100gのトルエンに溶解し、白色発光層形成用塗布液として準備した。
【0172】
【化2】
【0173】
上記で形成した正孔輸送層上に、上記で準備した白色発光層形成用塗布液を窒素ガス濃度99%以上の雰囲気下、塗布温度25℃、塗布速度1m/minの条件で、乾燥後の厚みが40nmとなるように押出し塗布機を用いて塗布した。得られた塗膜について、吐出風速1m/s、幅手の風速分布5%、温度60℃の条件で、成膜面から高さ100mmの距離で送風することにより溶媒を除去し、次いで加熱処理装置により温度130℃で裏面伝熱方式の熱処理を行い、発光層を形成した。
【0174】
(電子輸送層の形成)
下記E−Aを、0.5質量%溶液となるように2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール中に溶解し、電子輸送層形成用塗布液を準備した。
【0175】
【化3】
【0176】
上記で形成した発光層上に、上記で準備した電子輸送層形成用塗布液を窒素ガス濃度99%以上の雰囲気下、塗布温度25℃、塗布速度1m/minの条件で、乾燥後の厚みが30nmとなるように押出し塗布機を用いて塗布した。得られた塗膜について、吐出風速1m/s、幅手の風速分布5%、温度60℃の条件で、成膜面から高さ100mmの距離で送風することにより溶媒を除去し、次いで加熱処理装置により温度200℃で裏面伝熱方式の熱処理を行い、電子輸送層を形成した。
【0177】
電子注入層の形成
上記で形成した電子輸送層上に、電子注入層を形成した。より詳細には、第1電極層、正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を備えるガスバリア性フィルムを減圧チャンバーに投入し、5×10
−4Paまで減圧した。減圧チャンバー内に予め準備していたタンタル製蒸着ボートのフッ化セシウムを加熱することで、厚さ3nmの電子注入層を形成した。
【0178】
(第2電極の形成)
第1電極上に取り出し電極になる部分を除き、上記で形成した電子注入層上に第2電極を形成した。より詳細には、第1電極層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、および電子注入層を備えるガスバリア性フィルムを減圧チャンバーに投入し、5×10
−4Paまで減圧した。第2電極形成材料としてアルミニウム用いて、取り出し電極を有し、かつ、発光面積が50mm×50mmとなるように蒸着法でマスクパターン成膜して、第2電極を形成した。なお、第2電極の厚さは100nmであった。
【0179】
(裁断)
第2電極まで形成したガスバリア性フィルムを、窒素雰囲気に移動させて、紫外線レーザーを用いて規定の大きさに裁断した。
【0180】
(電極リード接続)
裁断したガスバリア性フィルムに、異方性導電フィルムDP3232S9(ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製)を用いて、フレキシブルプリント基板(ベースフィルム:ポリイミド12.5μm、圧延銅箔18μm、カバーレイ:ポリイミド12.5μm、表面処理NiAuメッキ)を接続した。この際、温度170℃(別途熱電対を用いて測定したACF温度140℃)、圧力2MPaで10秒間圧着を行うことで接続を行った。
【0181】
(封止)
電極リード(フレキシブルプリント基板)を接続したガスバリア性フィルムを、市販のロールラミネート装置を用いて封止部材を接着することで、有機EL素子1を作製した。より詳細には、封止部材には、30μm厚のアルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製)に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(12μm厚)をドライラミネーション用の接着剤(2液反応型のウレタン系接着剤)を介してラミネートしたもの(接着剤層の厚み1.5μm)を用いた。封止部材を接着するための接着剤としては、エポキシ系接着剤であるビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEBA)、ジシアンジアミド(DICY)、およびエポキシアダクト系硬化促進剤を含む熱硬化性接着剤を用いた。ディスペンサを使用して、アルミニウム面にアルミ箔の接着面(つや面)に沿って厚み20μmで熱硬化性接着剤を均一に塗布した。次いで、封止部材を、取り出し電極および電極リードの接合部を覆うようにして密着・配置し、圧着ロール温度120℃、圧力0.5MPa、装置速度0.3m/minの条件で圧着ロールにより密着封止した。
【0182】
《ガスバリア性フィルムのデバイス適性の評価》
(湿熱前ダークスポット(DS)評価)
上記作製したそれぞれの有機EL素子に電圧をかけて発光させた際に、発光すべき領域内における発光しない点(ダークスポット、DS)の面積を測定し、下記基準により評価した:
◎:発光すべき領域内におけるDSの面積が0.1%未満である
○:発光すべき領域内におけるDSの面積が0.1%以上0.5%未満である
●:発光すべき領域内におけるDSの面積が0.5%以上2%未満である
△:発光すべき領域内におけるDSの面積が2%以上5%未満である
×:発光すべき領域内におけるDSの面積が5%以上である。
【0183】
(湿熱後ダークスポット(DS)評価)
85℃、85%RHに100時間曝したガスバリア性フィルムを用いたこと以外は、上記「湿熱前ダークスポット(DS)評価」と同様にして評価を行った。
【0184】
それぞれの評価結果を下記の表1に示す。
【0185】
【表1】
【0186】
表1に示す結果を見ると、まず、ガスバリア性フィルム1では、第1のガスバリア層を形成する際のポリシラザン含有塗布液が所定の添加元素を含まないことから、ポリシラザン含有塗布液の塗膜層をプラズマイオン注入によって改質すると、湿熱後のデバイス適性が著しく低下してしまうことがわかる。
【0187】
これに対し、本発明に係るガスバリア性フィルムによれば、第1のガスバリア層を形成する際のポリシラザン含有塗布液が所定の添加元素を含むことで、ポリシラザン含有塗布液の塗膜層をプラズマイオン注入によって改質したときに、湿熱後のデバイス適性が改善される。また、第2のガスバリア層をさらに含むと湿熱前・湿熱後ともにデバイス適性がより一層改善されることもわかる。また、プラズマイオン注入によるポリシラザン含有塗布液の改質の際の条件について見ると、チャンバー内圧は1Pa以下と小さいほどデバイス適性の改善効果が高いことや、プラズマ生成ガスとしてはArやHeよりもN
2やO
2がより好ましいことも示された。