(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の遮音部材の厚みをX1、前記第2の遮音部材の厚みをX2としたとき、X1<X2であり、かつ、前記第1の遮音部材の密度をY1、前記第2の遮音部材の密度をY2としたとき、Y1>Y2であることを特徴とする請求項1記載の遮音シール付き密封装置。
前記第1の遮音部材と前記第2の遮音部材の接触面のうち、少なくともいずれか一方に、接触面積を小とする凹部又は凸部が形成されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の遮音シール付き密封装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載のように、遮音部材がシール本体の取付部とシール部との間に密接した状態で取り付けられる構造の場合、軸孔に挿通された軸(ステアリングシャフト等)の偏心が大きくなった場合でも、シール部の動きを妨げることのないように、遮音部材の密度を低く軟らかなものに設定し、シール部への追随性を維持することが要求される。
【0006】
しかしながら、一般に遮音部材の密度を低く設定すると、シール部への追随性は良好となるものの、遮音効果は低くなる。このため、本発明者は、遮音部材の軸方向の厚みを従来よりも大きく形成して遮音効果を上げることも検討したが、遮音部材の厚みを大きくすると、軸の偏心が大きくなった場合に、シール部の動きに遮音部材の弾性変形が追随し難くなるおそれがあることがわかった。したがって、シール部への追随性と遮音性とを両立する観点で、更なる改良の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、シール部への追随性を損なうことなく、遮音性の向上を図ることができる遮音シール付き密封装置を提供することを課題とする。
【0008】
本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0010】
1.ハウジングの軸孔と前記軸孔に挿通された軸との間の隙間に設けられるシール本体と、前記隙間を透過する透過音を遮断する遮音部材とを有し、
前記シール本体は、前記ハウジングに取り付けられる取付部と、前記軸に接するシール部との間にベロー部を一体に有し、
前記遮音部材は、前記取付部の内周面と前記シール部の外周面との間に保持される遮音シール付き密封装置において、
前記遮音部材は、前記ベロー部側から軸方向に第1の遮音部材と第2の遮音部材の少なくとも2つに分割され、そのうちの前記第1の遮音部材が、前記取付部の内周面と前記シール部の外周面とにそれぞれ接していることを特徴とする遮音シール付き密封装置。
【0011】
2.前記第1の遮音部材の厚みをX1、前記第2の遮音部材の厚みをX2としたとき、X1≦X2であることを特徴とする前記1記載の遮音シール付き密封装置。
【0012】
3.前記第1の遮音部材の密度をY1、前記第2の遮音部材の密度をY2としたとき、Y1<Y2であることを特徴とする前記1又は2記載の遮音シール付き密封装置。
【0013】
4.前記第1の遮音部材の厚みをX1、前記第2の遮音部材の厚みをX2としたとき、X1<X2であり、かつ、前記第1の遮音部材の密度をY1、前記第2の遮音部材の密度をY2としたとき、Y1>Y2であることを特徴とする前記1記載の遮音シール付き密封装置。
【0014】
5.前記第1の遮音部材と前記第2の遮音部材の接触面のうち、少なくともいずれか一方に、接触面積を小とする凹部又は凸部が形成されていることを特徴とする前記1〜4の何れかに記載の遮音シール付き密封装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シール部への追随性を損なうことなく、遮音性の向上を図ることができる遮音シール付き密封装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る遮音シール付き密封装置(以下、単に密封装置という。)の一例を示す要部断面図、
図2は、
図1に示す密封装置における組立前の状態の要部断面図である。なお、本実施形態に示す密封装置1は、車両用ステアリングダストシールに適用した場合を例示している。
【0019】
図1に示すように、密封装置1は、ハウジングであるフロントダッシュパネル100に設けられた軸孔の内周面101と、この軸孔に挿通された軸であるステアリングシャフト200との間の隙間300をシールする環状のシール本体2を有している。このシール本体2に対して、隙間300をエンジンルーム側Aから車室内側Bへと透過するエンジン音、走行音等の透過音を遮断する環状の遮音シール3が組み付けられている。
【0020】
シール本体2は、フロントダッシュパネル100の軸孔の内周面101に取り付けられる円筒状の取付部21と、ステアリングシャフト200の外周面に接するシール部22とを一体に有している。取付部21とシール部22との間には、これら取付部21とシール部22との間の隙間300を遮蔽するとともに、ステアリングシャフト200の軸偏心等に対応してシール部22の動きを許容するためのベロー部23が一体に成形されている。
【0021】
取付部21は、フロントダッシュパネル100の軸孔の内周面101に嵌合される金属環21aの表面にゴム状弾性体を加硫接着したものであって、このゴム状弾性体の軸方向一端部(図示上端部)に同じ材質よりなるベロー部23が一体成形され、更にベロー部23の内周端部に同じ材質よりなるシール部22が一体成形されている。
【0022】
シール部22は、軸方向に沿って図示上方から、ステアリングシャフト200の外周面に密接するダストリップ22aと、このダストリップ22aを軸偏心等に追随させるためのバンパー22bとを一体に有している。ベロー部23は、このバンパー22bの外周部22cに対してその軸方向の一方(図示上方)から一体化されている。
【0023】
取付部21の内側には、
図2に示すように、所定の軸方向幅Lを有する遮音部材保持スペース24が、ベロー部23の車室内側Bに位置して設けられている。その一端(図示上端)であって、取付部21の内周面には、遮音部材位置決め用の段差状の係合部21bが設けられている。取付部21は、この係合部21bを境にして、軸方向上方側よりも軸方向下方側の遮音部材保持スペース24の内径が僅かに大径となるように形成されている。
【0024】
また、遮音部材保持スペース24の他端(図示下端)であって、取付部21の軸方向他端部(図示下端部)には、取付部21と同じゴム状弾性体よりなるリップ状を呈する遮音部材支持部25が径方向内方へ向けて一体成形されている。このリップ状の遮音部材支持部25は、取付部21の軸方向他端部から径方向の内方かつやや下方に向けて延びる斜面部25aと、この斜面部25aの先端から径方向内方に延びる平面部25bとを一体に有して環状を呈し、遮音部材保持スペース24に装着される遮音部材3の最下面3a(
図1参照)を車室内側Bから受ける形状に形成されている。また、遮音部材保持スペース24の内周側には、バンパー22bの外周部22cが位置している。
【0025】
遮音部材3は、シール本体2に設けた遮音部材保持スペース24に組み付けられて保持されている。この遮音部材3は、弾性体によって環状に形成されている。弾性体としては、例えばスポンジ状発泡材(例えば、日本発条株式会社製スーパーシール(登録商標))が好ましく使用される。
【0026】
本実施形態に示す遮音部材3は、ベロー部23側から順に軸方向に第1の遮音部材31と第2の遮音部材32の2つに分割されて構成されている。すなわち、それぞれ環状に形成された第1の遮音部材31と第2の遮音部材32が軸方向に重ねられた状態で遮音部材保持スペース24に組み付けられている。
【0027】
分割された各遮音部材相互の間、すなわち第1の遮音部材31と第2の遮音部材32との間の接触面同士は固着していてもいなくてもよい。固着していない場合は、第1の遮音部材31と第2の遮音部材32との相互間の移動が容易となり、後述するシール部22への追随性を最も良好にすることができるために好ましい。固着している場合は、第1の遮音部材31と第2の遮音部材32とを一体に取り扱うことができるため、遮音部材3を遮音部材保持スペース24に組み付け易くすることができる。
【0028】
第1の遮音部材31と第2の遮音部材32の固着は、相互間の移動を大きく損なうことがないような、例えば凹凸による嵌合や接着剤を用いた接着によって行うことができる。凹凸による嵌合は、変形の少ない部分、例えば取付け部21側だけ部分的に嵌合(固着)することにより、追随性を損なわずに組付け性も向上することができる。接着剤による接着(固着)は、全面又は部分的に行うことができる。部分接着する場合は、変形の少ない部分、例えば取付け部21側だけ接着することにより、追随性を損なわずに組付け性も向上することができる。また、接着力が時間変化と共に弱くなる接着剤を使用する場合は組付け後に接着が剥がれ、接着力の弱い接着剤を使用する場合は第1の遮音部材31がバンパー22bに押圧されて第1の遮音部材31と第2の遮音部材32が剥がれるため、いずれも追随性と組付け性を両立することができる。
【0029】
そして、第1の遮音部材31が、係合部21bよりも図示下方の取付部21の内周面と、シール部22の外周部22cとの間に亘って取り付けられることにより、シール本体2に保持されている。
【0030】
具体的には、第1の遮音部材31は、
図2に示すように、その外径寸法D1を遮音部材保持スペース24の内径寸法d1と同じか又はこれよりも少々大きく形成されるとともに、その内径寸法D2をシール部22におけるバンパー22bの外周部22cの外径寸法d2よりも小さく形成されている。これにより、第1の遮音部材31が遮音部材保持スペース24内に組み付けられたとき、その外周部31aにて取付部21の内周面に圧接するとともに、その内周部31bにてシール部22のバンパー22bの外周部22cに圧接し、取付部21とシール部22との間に密接状態で保持されている。
【0031】
すなわち、
図2に示すように、第1の遮音部材31は組立前、断面長方形状に成形されているが、
図1に示すように、第1の遮音部材31がシール本体2に組み付けられると、この第1の遮音部材31は、シール部22のバンパー22bの外周部22cに干渉し、該外周部22cに押圧されて該部が凹んだ状態にてシール部22に密接する構造とされている。
【0032】
なお、
図1に示すように、シール本体2に組み付けられた第1の遮音部材31は、係合部21bと係合することにより、図示軸方向上方への移動が規制され、ベロー部23に対しては直接接触しないように構成されている。また同様に、第1の遮音部材31は、ステアリングシャフト200の外周面に対して直接接触しないように構成されている。
【0033】
一方、第2の遮音部材32は、第1の遮音部材31と遮音部材支持部25との間に配置されている。すなわち、第2の遮音部材32の外周面は、取付部21の内周面に接するものの、第2の遮音部材32の内周面はバンパー22bの外周部22cよりも図示軸方向下方に位置しており、シール部22とは干渉していない。そして、第2の遮音部材32は、
図1に示すように、その下面3aが遮音部材支持部25と当接して支持され、第1の遮音部材31との間で挟着されることにより、遮音部材保持スペース24内に保持されている。したがって、前記ベロー部23、シール部22、及びステアリングシャフト200の外周面に対して直接接触しないように構成されている。
【0034】
この第2の遮音部材32の外径寸法は、取付部21の内周面に対して圧接できるように、第1の遮音部材31の外径寸法D1と同様に、遮音部材保持スペース24の内径寸法d1と同じか又はこれよりも少々大きく形成される。また、第2の遮音部材32の内径寸法は、ステアリングシャフト200の外周面に対して直接接触しないように構成されていれば特に問わないが、例えば第1の遮音部材31の内径寸法D2と同一とすることができる。
【0035】
このように、遮音部材3が第1の遮音部材31と第2の遮音部材32の複数に分割されていることにより、以下の顕著な作用効果を奏する。
【0036】
まず、第1の作用効果は、遮音部材保持スペース24の軸方向幅Lを大きく確保し、軸方向の厚み(第1の遮音部材31の厚み+第2の遮音部材32の厚み)を従来よりも大きく形成した遮音部材3を組み付けることによって遮音性を向上させるようにしても、シール部22への追随性を損なうことがないということである。
【0037】
すなわち、この密封装置1は、軸方向に複数に分割されたうちの第1の遮音部材31のみが取付部21の内周面とシール部22の外周面との間に接して保持される構造である。したがって、ステアリングシャフト200の偏心が大きくなってシール部22の位置が図中の左右方向に移動した場合に、この第1の遮音部材31のみがシール部22の動きに追随するだけで済む。つまり、シール部22の動きに追随させることができる最低限の厚みとすることができる第1の遮音部材31となっている。そしてシール部22の動きに対する追随を必要としない第2の遮音部材32を厚くすることができ、結果として遮音部材3全体の厚みを大きくすることができ且つ遮音性を向上させることができるものである。
【0038】
このような作用効果は、遮音部材3を軸方向に複数に分割したことによって得られるものである。したがって、第1の遮音部材31の厚みをX1、第2の遮音部材32の厚みをX2としたとき、X1とX2を異ならせるように形成してもよいし、X1=X2となるように形成してもよい。
【0039】
しかし、シール部22の動きに対する追随性をより向上させる観点からは、
図1に示すように、第1の遮音部材31の厚みを第2の遮音部材32の厚みよりも小さくする(X1<X2)ことが好ましい。追随性が問題となるシール部22の動きは、
図1中に白抜き矢印で示す径方向の動きである。このとき、第1の遮音部材31には、その内径を拡大させる方向に圧縮力が加わり、それに伴って第1の遮音部材31は弾性変形するが、厚みを小さくすることにより、圧縮力に対して軸方向にも撓み変形し易くなるため、より追随性を高めることができる。
【0040】
なお、
図1は、第2の遮音部材32がバンパー22bの下端面に接する程度まで第1の遮音部材31の厚みを最も小さくした状態を示している。この場合、シール部22の動きに対して、第1の遮音部材31を最も良好に追随させることができる。
【0041】
次に、第2の作用効果として、遮音部材3を軸方向に複数に分割したことにより、第1の遮音部材31と第2の遮音部材32とで、積極的に密度を異ならせることができるということである。上述した第1の作用効果を得る上では、第1の遮音部材31と第2の遮音部材32とは同一密度とすることができるが、密度を積極的に異ならせることにより、シール部22の追随性を損なうことなく、より遮音性を高めることができるようになる。
【0042】
すなわち、一般に遮音部材の密度が高くなるほど遮音効果は高くなる。しかし、密度が高くなるほど遮音部材は硬くなり、シール部22の動きに対する追随性は低下してしまう。ところが、本発明に係る密封装置1では、遮音部材3を軸方向に複数に分割することができ、第1の遮音部材31の密度をY1、第2の遮音部材32の密度をY2としたとき、Y1<Y2とすることにより、シール部22の動きに追随させる必要のない第2の遮音部材32の密度を高めて遮音性をより向上させることが容易に可能となる。
【0043】
遮音部材には、一般に密度が35〜130kg/cm
3のものを使用することができるが、例えば、第1の遮音部材31として、密度Y1が、35〜50kg/cm
3程度の比較的軟らかいものを使用してシール部22の動きに対する追随性を維持できるようにする。そして、第2の遮音部材32として、密度Y2が、例えば50〜150kg/cm
3程度の比較的硬いものを使用して遮音効果を高めるようにすることができる。
【0044】
特に、
図1に示したように、この密封装置1は、遮音部材3全体の厚みを従来よりも大きく形成しても、第1の遮音部材31を十分に薄く、反対に第2の遮音部材32を十分に厚くすることが可能であるため、シール部22の動きに追随させる必要のない第2の遮音部材32の厚みと密度を第1の遮音部材31に対して大きく形成することにより、シール部22の動きに対する追随性を何ら損なわずに、遮音効果を従来よりも大幅に向上させることができる。
【0045】
また、
図1に示したように、第1の遮音部材31の厚みX1と第2の遮音部材32の厚みX2を、X1<X2とした場合、第1の遮音部材31の密度Y1と第2の遮音部材32の密度Y2を、Y1>Y2とすることもできる。この場合、第1の遮音部材31の方が第2の遮音部材32よりも硬くなるが、厚みが薄くなることにより剛性を低く抑えることできるため、軸方向に撓み変形し易くでき、シール部22の動きに対する追随性を大きく損なうことはない。また、第1の遮音部材31は、係合部21bとシール部22の外周部22cとの間に亘って密に取り付けられ、音漏れ等の隙間が無い部位であることより、密度の高い第1の遮音部材31を使用することでより遮音効果が得やすい。
【0046】
なお、
図3(a)に示すように、第2の遮音部材32における第1の遮音部材31との接触面に環状に凹部33を形成してもよい。これにより、第1の遮音部材31と第2の遮音部材32との接触面積を小さくでき、それだけ第1の遮音部材31を径方向に動き易くすることができるとともに、第1の遮音部材31を軸方向に撓み変形し易くすることができる。したがって、シール部22の動きに対する第1の遮音部材31の追随性をより高めることができる。
【0047】
このような凹部33は、
図3(b)に示すように、第1の遮音部材31における第2の遮音部材32との接触面に形成してもよい。また、図示しないが、第1の遮音部材31と第2の遮音部材32の両方にそれぞれ凹部33を形成してもよい。
【0048】
また、図示しないが、環状の凹部33を形成することに代えて、第1の遮音部材31と第2の遮音部材32のいずれか又は両方に、両者間の接触面積を小とするための凸部を形成することによって、上記同様の効果を得るようにしてもよい。
【0049】
以上の実施形態では、遮音部材3を第1の遮音部材31と第2の遮音部材32の2つに分割したものを例示したが、3つ以上に分割して、第2の遮音部材32と遮音部材支持部25との間に、更に1以上の他の遮音部材を保持させるようにしてもよい。
【0050】
また、以上の実施形態では、密封装置1を車両用ステアリングダストシールに適用した場合を例示したが、本発明に係る密封装置は、ハウジングの軸孔と、この軸孔に挿通され、偏心を生じる可能性のある軸との間の隙間を透過する透過音を遮断する用途の密封装置として広く適用可能である。