特許第6402648号(P6402648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402648
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】ベーン型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/344 20060101AFI20181001BHJP
   F04C 29/12 20060101ALI20181001BHJP
   F04C 27/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   F04C18/344 361G
   F04C18/344 351Q
   F04C29/12 A
   F04C27/00 311
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-35401(P2015-35401)
(22)【出願日】2015年2月25日
(65)【公開番号】特開2016-156336(P2016-156336A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】堀田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】鴻村 哲志
(72)【発明者】
【氏名】宮地 智也
【審査官】 谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−245553(JP,A)
【文献】 特開昭58−202389(JP,A)
【文献】 特開2013−007304(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0170010(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/344
F04C 27/00
F04C 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロック内に収容されるとともに回転軸と一体的に回転するロータと、
前記ロータに複数形成されるとともにベーンが出没可能に収容されるベーン溝と、
前記ベーンと共に前記シリンダブロック内に複数の圧縮室を区画するサイドプレートと、
前記ロータの回転に伴い、前記圧縮室で圧縮された冷媒ガスが吐出される吐出室と、
前記ベーンの底面と前記ベーン溝とによって区画される背圧室と、
前記吐出室から前記背圧室に至る背圧供給通路と、を有するベーン型圧縮機であって、
前記背圧供給通路は、
前記回転軸の内部に形成され且つ前記冷媒ガスまたは潤滑油が一旦貯留される軸側拡張室と、
前記吐出室に連通するとともに前記回転軸の回転に伴って前記軸側拡張室と連通可能な上流路と、
前記回転軸の回転に伴って前記軸側拡張室と連通可能な下流路と、
前記下流路に連通するプレート側拡張室と、
前記プレート側拡張室を前記背圧室に順次連通可能な複数の細孔と、
前記軸側拡張室を前記上流路又は前記下流路と連通するように前記回転軸の外周面に開口する回転路と、を有し、
前記回転軸の回転に伴って前記回転路を介して前記上流路と前記軸側拡張室とが連通するとき、前記軸側拡張室と前記下流路とが非連通となるとともに、前記回転軸の回転に伴って前記回転路を介して前記軸側拡張室と前記下流路とが連通するとき、前記上流路と前記軸側拡張室とが非連通となり、
前記軸側拡張室は、その少なくとも一部が、前記回転軸における軸方向に位置する端面に形成された凹部によって区画されており、
前記サイドプレートには、前記回転軸の端部を収容し、前記回転軸の前記端面で前記凹部と連通する空間が区画されていることを特徴とするベーン型圧縮機。
【請求項2】
前記プレート側拡張室は、前記サイドプレートの前記吐出室に対向する端面に形成された凹部によって形成されていることを特徴とする請求項1に記載のベーン型圧縮機。
【請求項3】
前記サイドプレートには、油分離器が設けられており、
前記プレート側拡張室は、前記サイドプレートの端面に形成された凹部と、前記油分離器によって区画されていることを特徴とする請求項に記載のベーン型圧縮機。
【請求項4】
前記プレート側拡張室は、前記軸側拡張室の周囲に環状に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項のいずれか一項に記載のベーン型圧縮機。
【請求項5】
前記細孔は、前記サイドプレート内に形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項のいずれか一項に記載のベーン型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーン型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ベーン型圧縮機のシリンダブロック内には、回転軸と一体的に回転するロータが収容されている。ロータの外周面には、複数箇所にベーン溝が放射状に延びるようにそれぞれ形成されるとともに、各ベーン溝にはベーンが出没可能に収容されている。これらベーンによってシリンダブロック内には複数の圧縮室が区画されている。そして、ロータの回転に伴い、圧縮室で冷媒ガスが圧縮されるとともに、圧縮室で圧縮された冷媒ガスが吐出室に吐出される。
【0003】
また、各ベーンの底面と各ベーン溝とによって背圧室がそれぞれ区画されている。ベーン型圧縮機において、吐出室と各背圧室との間には、吐出室内の高圧の潤滑油を各背圧室に供給可能な背圧供給通路が設けられている。そして、吐出室内の潤滑油が背圧供給通路を介して各背圧室に供給されることで、各ベーンは、背圧室内の圧力(背圧)によりシリンダブロックの内面に押し付けられる。これにより、圧縮室からの冷媒ガスの漏れが抑制され、圧縮室内での冷媒ガスの圧縮効率が向上する。
【0004】
ところで、ベーン型圧縮機の運転が停止して、回転軸の回転が停止されると、吐出室内の冷媒ガスやこれに含まれる潤滑油が、背圧供給通路及び各背圧室を介して圧縮室に逆流し、この冷媒ガスや潤滑油の逆流によって、外部冷媒回路におけるベーン型圧縮機の上流側にある蒸発器が加熱されて、冷凍効率が低下してしまう虞がある。そこで、回転軸の回転方向の位相によって、吐出室と各背圧室とを連通又は非連通とする間欠機構を有するものが、特許文献1及び特許文献2に開示されている。これによれば、回転軸の停止後に吐出室と各背圧室とを非連通とすることができるため、回転軸の停止後において、吐出室内の冷媒ガスや潤滑油が、背圧供給通路及び各背圧室を介して圧縮室に逆流してしまうことが防止される。よって、吐出室内の冷媒ガスや潤滑油の逆流による蒸発器の加熱が防止されて、冷凍効率が低下することが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−127335号公報
【特許文献2】特開昭58−202389号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のベーン型圧縮機では、回転軸の停止後において、回転軸の回転方向の位相によっては、間欠機構によって吐出室と各背圧室とが連通する場合があり、回転軸の停止後に、吐出室内の冷媒ガスや潤滑油が、背圧供給通路及び各背圧室を介して圧縮室に逆流してしまう虞がある。
【0007】
また、特許文献2のベーン型圧縮機では、全てのベーン溝と、ベーン溝に潤滑油を供給する室(特許文献2では背圧室)とが同時に連通した構造となっているため、各ベーン溝に均等に潤滑油が送られ難く、ベーン溝への潤滑油の供給が不均等となって、ベーンをシリンダブロックの内面に適切に押し付けることができない虞がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ベーンをシリンダブロックの内面に適切に押し付けることができるとともに、回転軸の停止後に、吐出室内の冷媒ガスや潤滑油が背圧供給通路及び各背圧室を介して圧縮室に逆流してしまうことを防止することができるベーン型圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するベーン型圧縮機は、シリンダブロック内に収容されるとともに回転軸と一体的に回転するロータと、前記ロータに複数形成されるとともにベーンが出没可能に収容されるベーン溝と、前記ベーンと共に前記シリンダブロック内に複数の圧縮室を区画するサイドプレートと、前記ロータの回転に伴い、前記圧縮室で圧縮された冷媒ガスが吐出される吐出室と、前記ベーンの底面と前記ベーン溝とによって区画される背圧室と、前記吐出室から前記背圧室に至る背圧供給通路と、を有するベーン型圧縮機であって、前記背圧供給通路は、前記回転軸の内部に形成される軸側拡張室と、前記吐出室に連通するとともに前記回転軸の回転に伴って前記軸側拡張室と連通可能な上流路と、前記回転軸の回転に伴って前記軸側拡張室と連通可能な下流路と、前記下流路に連通するプレート側拡張室と、前記プレート側拡張室を前記背圧室に順次連通可能な複数の細孔と、前記軸側拡張室を前記上流路又は前記下流路と連通するように前記回転軸の外周面に開口する回転路と、を有し、前記回転軸の回転に伴って前記回転路を介して前記上流路と前記軸側拡張室とが連通するとき、前記軸側拡張室と前記下流路とが非連通となるとともに、前記回転軸の回転に伴って前記回転路を介して前記軸側拡張室と前記下流路とが連通するとき、前記上流路と前記軸側拡張室とが非連通となる。
【0010】
これによれば、回転軸の回転に伴って、吐出室から上流路及び回転路を介して軸側拡張室に流入した冷媒ガスや潤滑油は、回転路を介した軸側拡張室と下流路との連通が行われると、回転路及び下流路を介してプレート側拡張室に流入する。そして、プレート側拡張室に流入した冷媒ガスや潤滑油は、複数の細孔を介して各背圧室に供給される。よって、全ての背圧室に均等に冷媒ガスや潤滑油が送られ易くなり、ベーンをシリンダブロックの内面に適切に押し付けることができる。
【0011】
そして、回転軸の回転が停止したときに、回転路を介した上流路と軸側拡張室との連通が行われていたとしても、軸側拡張室と下流路とが非連通となっている。また、回転軸の回転が停止したときに、回転路を介した軸側拡張室と下流路との連通が行われていたとしても、上流路と軸側拡張室とが非連通となっている。すなわち、回転軸の回転が停止したときに、背圧供給通路を介した吐出室と背圧室との連通が確実に遮断される。よって、回転軸の停止後に、吐出室内の冷媒ガスや潤滑油が背圧供給通路及び各背圧室を介して圧縮室に逆流してしまうことを防止することができる。
【0012】
上記ベーン型圧縮機において、前記軸側拡張室は、その少なくとも一部が、前記回転軸における軸方向に位置する端面に形成された凹部によって区画されていることが好ましい、
例えば、回転軸の外周面に凹部を形成し、凹部の内部を軸側拡張室とする場合、軸側拡張室の容積を大きくしようとすると、その分、凹部における回転軸の外周面に開口する回転路も大きくなるため、回転路から回転軸の外周面に飛び出すバリの量が増えてしまう場合がある。回転軸の外周面から飛び出すバリは、回転軸の回転に悪影響を及ぼす。そこで、回転軸における軸方向に位置する端面に凹部を形成し、凹部によって軸側拡張室の少なくとも一部を区画することにより、軸側拡張室の容積を大きくしようとして、回転軸における軸方向に位置する端面から飛び出すバリの量が増えても、このバリが回転軸の回転に影響を及ぼすことが無い。よって、ベーン型圧縮機の性能を維持しつつも、軸側拡張室の容積を大きくすることができる。
【0013】
上記ベーン型圧縮機において、前記プレート側拡張室は、前記サイドプレートの前記吐出室に対向する端面に形成された凹部によって形成されていることが好ましい。
これによれば、プレート側拡張室と背圧室との距離、すなわち、細孔の長さを極力長く確保することができる。よって細孔の絞り量に適した細孔の長さに設定し易くすることができ、設計自由度を向上させることができる。
【0014】
上記ベーン型圧縮機において、前記サイドプレートには、油分離器が設けられており、前記プレート側拡張室は、前記サイドプレートの端面に形成された凹部と、前記油分離器によって区画されていることが好ましい。これによれば、サイドプレートに油分離器を組み付けることで、容易にプレート側拡張室を形成することができる。
【0015】
上記ベーン型圧縮機において、前記プレート側拡張室は、前記軸側拡張室の周囲に環状に形成されていることが好ましい。
これによれば、下流路の長さを極力短くすることができ、下流路を通過する際の冷媒ガスや潤滑油の圧損を抑制することができる。また、プレート側拡張室を環状に形成することで、プレート側拡張室内を均圧化することができ、複数の細孔から背圧室に供給される冷媒ガスや潤滑油の圧力を均圧化することができるため、背圧室に適正な圧力の冷媒ガスや潤滑油を供給することができる。
【0016】
上記ベーン型圧縮機において、前記細孔は、前記サイドプレート内に形成されていることが好ましい。サイドプレートは、絞り量に適した細孔を形成する部材として最適である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、ベーンをシリンダブロックの内面に適切に押し付けることができるとともに、回転軸の停止後に、吐出室内の冷媒ガスや潤滑油が背圧供給通路及び各背圧室を介して圧縮室に逆流してしまうことを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態におけるベーン型圧縮機の側断面図。
図2図1における2−2線断面図。
図3図1における3−3線断面図。
図4図1における4−4線断面図。
図5】軸側拡張室と下流路とが連通している状態を示す断面図。
図6】別の実施形態におけるベーン型圧縮機の部分断面図。
図7】(a)は別の実施形態におけるベーン型圧縮機の部分断面図、(b)は上流路と軸側拡張室とが連通している状態を示す断面図。
図8】(a)は別の実施形態における上流路と軸側拡張室とが連通している状態を示す断面図、(b)は軸側拡張室と下流路とが連通している状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、ベーン型圧縮機を具体化した一実施形態を図1図5にしたがって説明する。なお、ベーン型圧縮機は車両空調装置に用いられる。
図1に示すように、ベーン型圧縮機10のハウジング11は、リヤハウジング12と、このリヤハウジング12の前端面(一端面)に連結されたフロントハウジング13とを備える。フロントハウジング13は、リヤハウジング12(ハウジング11)内に収容される筒状のシリンダブロック14を有する。シリンダブロック14はフロントハウジング13に一体化されている。
【0020】
シリンダブロック14の後端面には、サイドプレート15が連結されている。フロントハウジング13及びサイドプレート15には回転軸16が回転可能に支持されるとともに、回転軸16はシリンダブロック14内を貫通している。フロントハウジング13と回転軸16との間にはリップシール型の軸封装置17aが介在されている。軸封装置17aは、フロントハウジング13に形成された収容室17内に収容されている。軸封装置17aは、回転軸16の周面に沿った冷媒ガスの洩れを防止する。シリンダブロック14内において、回転軸16には円筒状をなすロータ18が回転軸16に一体回転可能に止着されている。ロータ18は、その前端面(一端面)がフロントハウジング13の端面と対向するとともに、後端面(他端面)がサイドプレート15に対向している。
【0021】
図2及び図3に示すように、シリンダブロック14の内周面は楕円状に形成されている。ロータ18の外周面には、複数箇所に放射状にベーン溝18aが形成されるとともに、各ベーン溝18aそれぞれにはベーン19が出没可能に収容されている。さらに、各ベーン19の底面19eと各ベーン溝18aとによって背圧室20が区画されている。
【0022】
そして、回転軸16の回転に伴うロータ18の回転によってベーン19の先端面がシリンダブロック14の内周面に接触すると、ロータ18の外周面と、シリンダブロック14の内壁と、隣り合うベーン19と、フロントハウジング13及びサイドプレート15との間に、複数の圧縮室21が区画されるようになっている。ベーン型圧縮機10において、ロータ18の回転方向に関して圧縮室21が容積を拡大する行程が吸入行程となり、圧縮室21が容積を減少する行程が圧縮行程となる。
【0023】
図1に示すように、リヤハウジング12の上部には、吸入ポート22が形成されている。また、シリンダブロック14の外周面には、シリンダブロック14の周方向全周に亘って凹部14aが形成されている。そして、凹部14a及びリヤハウジング12の内周面によって吸入ポート22に連通する吸入室23が区画されている。
【0024】
図2に示すように、シリンダブロック14には、吸入室23と連通する一対の吸入口24が形成されている。そして、吸入行程中の各圧縮室21と吸入室23とは、それぞれ吸入口24を介して連通される。
【0025】
図3に示すように、回転軸16を挟んだシリンダブロック14の外周面それぞれには、シリンダブロック14の外周面から凹む凹部14bが形成されている。各凹部14bは、シリンダブロック14の外周面から回転軸16に向けて延びる延設面141bと、延設面141bに対し交差しつつシリンダブロック14の外周面に向けて延びる取付面142bとから形成されている。そして、各延設面141b、取付面142b、及びリヤハウジング12の内周面によって一対の吐出空間26が区画されている。
【0026】
シリンダブロック14には、各取付面142bに開口して圧縮行程中の圧縮室21と吐出空間26とを連通する吐出口27が形成されている。取付面142bには、吐出口27を開閉する吐出弁27vと、吐出弁27vの開度を規制するリテーナ27aとが取り付けられている。そして、圧縮室21で圧縮された冷媒ガスは、吐出弁27vを押し退けて吐出口27を介して吐出空間26へ吐出される。
【0027】
図1に示すように、リヤハウジング12の上部には吐出ポート28が形成されている。また、リヤハウジング12の後側には、サイドプレート15によって吐出室29が区画形成されている。吐出室29内には、冷媒ガス中に含まれる潤滑油を分離するための油分離器30が配設されている。油分離器30は、有底円筒状のケース31を有する。ケース31におけるサイドプレート15側の端面とサイドプレート15における吐出室29側の端面との間には、ケース31とサイドプレート15との間をシールするガスケット31sが介在されている。ケース31はガスケット31sを介してサイドプレート15に設けられている。
【0028】
ケース31の開口側には円筒状の油分離筒32が設けられている。ケース31の下部には、ケース31内と吐出室29の底部側とを連通する油通路31aが形成されている。また、サイドプレート15及びケース31には、吐出空間26とケース31内とを連通する連通部33が形成されている。
【0029】
回転軸16における軸方向に位置する後端面には、凹部16aが形成されている。そして、凹部16a、ケース31におけるサイドプレート15側の端面、及びサイドプレート15における回転軸16周りの部位によって軸側拡張室51が区画されている。よって、回転軸16は、軸側拡張室51の一部を内部に有する。また、回転軸16には、凹部16aに連通するとともに回転軸16の外周面に開口する回転路16hが形成されている。よって、軸側拡張室51は、回転路16hを介して回転軸16の外周面に臨んでいる。
【0030】
図4に示すように、サイドプレート15には、吐出室29の下部に連通するとともに回転軸16の回転に伴って回転路16hと連通可能な上流路41が形成されている。上流路41は、回転軸16の径方向に沿って延びている。また、サイドプレート15には、回転軸16の回転に伴って回転路16hと連通可能な下流路42が形成されている。下流路42は、回転軸16の径方向に沿って延びるとともに回転軸16の回転に伴って回転路16hと連通可能な第1路42aと、回転軸16の軸方向に沿って延びるとともに第1路42aにおける回転軸16とは反対側の端部に連通する第2路42bとから形成されている。
【0031】
図1及び図4に示すように、サイドプレート15における吐出室29に対向する端面には、回転軸16の周方向に沿って回転軸16を囲むように延びる円環状の凹部15aが形成されている。そして、凹部15aとケース31におけるサイドプレート15側の端面とによって、回転軸16の周方向に沿って回転軸16を囲むように延びる円環状のプレート側拡張室52が区画されている。プレート側拡張室52は、回転軸16から径方向に離間して、軸側拡張室51の周囲に環状に形成されている。プレート側拡張室52は第2路42bに連通している。サイドプレート15とケース31との間には、軸側拡張室51とプレート側拡張室52との間をシールする環状のシール部材53が配設されている。
【0032】
サイドプレート15内には、プレート側拡張室52を背圧室20に順次連通可能な複数(本実施形態では二つ)の細孔43が周方向に180度離間して二つ形成されている。各細孔43は、ロータ18の回転により、圧縮行程又は吐出行程中の背圧室20と連通するようになっている。よって、上流路41、回転路16h、軸側拡張室51、下流路42、プレート側拡張室52及び各細孔43によって、吐出室29から背圧室20に至る背圧供給通路が形成されている。上流路41と軸側拡張室51との連通、及び軸側拡張室51と下流路42との連通は、常に回転路16hのみによってなされる。
【0033】
回転軸16が回転すると、ロータ18及びベーン19が回転し、ベーン型圧縮機10の外部(例えば外部冷媒回路)から吸入ポート22を介して吸入室23に冷媒ガスが吸入される。吸入室23に吸入された冷媒ガスは、各吸入口24を介して吸入行程中の各圧縮室21に吸入される。そして、各圧縮室21に吸入された冷媒ガスは、圧縮行程中の圧縮室21の容積減少により圧縮される。圧縮された冷媒ガスは、各圧縮室21から吐出口27を介して各吐出空間26に吐出される。
【0034】
各吐出空間26内の冷媒ガスは、連通部33を介してケース31内に流出して、油分離筒32の外周面に吹き付けられるとともに、油分離筒32の外周面を旋回しながらケース31内の下方へ導かれる。このとき、遠心分離によって、冷媒ガスから潤滑油が分離される。油分離器30において、潤滑油が分離された冷媒ガスは、油分離筒32の内部を上方へ移動し、吐出ポート28を介してベーン型圧縮機10の外部(例えば外部冷媒回路)へ吐出される。
【0035】
一方、油分離器30において、冷媒ガスから分離された潤滑油はケース31の底部側へ移動するとともに、油通路31aを介して吐出室29の底部に貯留される。吐出室29の底部に貯留された潤滑油は、上流路41に流入する。上流路41に流入した潤滑油は、回転軸16の回転に伴って、回転路16hを介した上流路41と軸側拡張室51との連通が行われると、上流路41から回転路16hを介して軸側拡張室51に流入する。
【0036】
図5に示すように、軸側拡張室51に流入した潤滑油は軸側拡張室51に一旦貯留されるとともに、回転軸16の回転に伴って、回転路16hを介した軸側拡張室51と下流路42との連通が行われると、回転路16h及び下流路42を介してプレート側拡張室52に流入する。そして、プレート側拡張室52に流入した潤滑油はプレート側拡張室52に一旦貯留されるとともに、ロータ18の回転に伴って、各細孔43と、圧縮行程又は吐出行程中の背圧室20との連通が行われると、各細孔43を介して各背圧室20に供給される。
【0037】
図2及び図3に示すように、サイドプレート15におけるシリンダブロック14側の端面には、扇形状をなす一対の排油溝15bが凹設されている。各排油溝15bは、ロータ18の回転により、吸入行程中の背圧室20と連通するようになっている。そして、吸入行程中の背圧室20内の潤滑油が排油溝15bに排出されることによって、ベーン19がベーン溝18a内に没入可能になっている。
【0038】
ベーン19は、背圧室20に供給された潤滑油の背圧によって外周側に押し出され、シリンダブロック14の内壁に押し付けられる。これにより、圧縮室21からの冷媒ガスの漏れが抑制され、圧縮室21内での冷媒ガスの圧縮効率が向上する。また、背圧室20に供給された潤滑油によって、ベーン19とベーン溝18aとの摺動部分が潤滑される。
【0039】
次に、本実施形態の作用について説明する。
回転軸16の回転に伴って、吐出室29から上流路41及び回転路16hを介して軸側拡張室51に流入した冷媒ガスや潤滑油は、回転路16hを介した軸側拡張室51と下流路42との連通が行われると、回転路16h及び下流路42を介してプレート側拡張室52に流入する。そして、プレート側拡張室52に流入した冷媒ガスや潤滑油は、絞りとして機能する等間隔に離間した複数の細孔43を介して各背圧室20に供給される。よって、全ての背圧室20に均等な流量及び圧力で冷媒ガスや潤滑油が送られ易くなり、ベーン19がシリンダブロック14の内面に適切に押し付けられる。
【0040】
図4に示すように、回転軸16の回転が停止したときに、回転路16hを介した上流路41と軸側拡張室51との連通が行われていたとしても、軸側拡張室51と下流路42とが非連通となっている。図5に示すように、回転軸16の回転が停止したときに、回転路16hを介した軸側拡張室51と下流路42との連通が行われていたとしても、上流路41と軸側拡張室51とが非連通となっている。図4及び図5以外の状態では、回転路16hは上流路41とも下流路42とも非連通となっている。すなわち、回転軸16の回転が停止したときに、背圧供給通路を介した吐出室29と背圧室20との連通が確実に遮断される。よって、回転軸16の停止後に、吐出室29内の冷媒ガスや潤滑油が背圧供給通路及び各背圧室20を介して圧縮室21に逆流してしまうことが防止される。
【0041】
上記実施形態では以下の効果を得ることができる。
(1)回転軸16の回転に伴って、吐出室29から上流路41及び回転路16hを介して軸側拡張室51に流入した冷媒ガスや潤滑油は、回転路16hを介した軸側拡張室51と下流路42との連通が行われると、回転路16h及び下流路42を介してプレート側拡張室52に流入する。そして、プレート側拡張室52に流入した冷媒ガスや潤滑油は、絞りとして機能する複数の細孔43を介して各背圧室20に供給される。よって、全ての背圧室20に均等に冷媒ガスや潤滑油が送られ易くなり、ベーン19がシリンダブロック14の内面に適切に押し付けることができる。そして、回転軸16の回転が停止したときに、回転路16hを介した上流路41と軸側拡張室51との連通が行われていたとしても、軸側拡張室51と下流路42とが非連通となっている。また、回転軸16の回転が停止したときに、回転路16hを介した軸側拡張室51と下流路42との連通が行われていたとしても、上流路41と軸側拡張室51とが非連通となっている。すなわち、回転軸16の回転が停止したときに、背圧供給通路を介した吐出室29と背圧室20との連通が確実に遮断される。よって、回転軸16の停止後に、吐出室29内の冷媒ガスや潤滑油が背圧供給通路及び各背圧室20を介して圧縮室21に逆流してしまうことを防止することができる。
【0042】
(2)軸側拡張室51は、その一部が、回転軸16における軸方向に位置する後端面に形成された凹部16aによって区画されている。例えば、回転軸16の外周面に凹部を形成し、凹部の内部を軸側拡張室51とする場合、軸側拡張室51の容積を大きくしようとすると、その分、凹部における回転軸16の外周面に開口する開口部も大きくなるため、開口部から回転軸16の外周面に飛び出すバリの量が増えてしまう場合がある。回転軸16の外周面から飛び出すバリは、回転軸16の回転に悪影響を及ぼす。そこで、回転軸16における軸方向に位置する後端面に凹部16aを形成し、凹部16aによって軸側拡張室51の一部を区画することにより、軸側拡張室51の容積を大きくしようとして、回転軸16の後端面から飛び出すバリの量が増えても、このバリが回転軸16の回転に影響を及ぼすことが無い。よって、ベーン型圧縮機10の性能を維持しつつも、軸側拡張室51の容積を大きくすることができる。
【0043】
(3)プレート側拡張室52は、サイドプレート15の吐出室29に対向する端面に形成された凹部15aによって形成されている。これによれば、プレート側拡張室52と背圧室20との距離、すなわち、細孔43の長さを極力長く確保することができる。よって細孔43の絞り量に適した細孔43の長さに設定し易くすることができ、設計自由度を向上させることができる。
【0044】
(4)サイドプレート15には、油分離器30が設けられており、プレート側拡張室52は、サイドプレート15の端面に形成された凹部15aと、油分離器30によって区画されている。これによれば、サイドプレート15に油分離器30を組み付けることで、容易にプレート側拡張室52を形成することができる。
【0045】
(5)プレート側拡張室52は、軸側拡張室51の周囲に環状に形成されている。これによれば、下流路42の長さを極力短くすることができ、下流路42を通過する際の冷媒ガスや潤滑油の圧損を抑制することができる。また、プレート側拡張室52を環状に形成することで、プレート側拡張室52内を均圧化することができ、複数の細孔43から背圧室20に供給される冷媒ガスや潤滑油の圧力を均圧化することができるため、背圧室20に適正な圧力の冷媒ガスや潤滑油を供給することができる。
【0046】
(6)細孔43は、サイドプレート15内に形成されている。サイドプレート15は、絞り量に適した細孔43を形成する部材として最適である。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
【0047】
図6に示すように、凹部16aにおける回転軸16の後端面側の開口が、蓋部材16bによって閉鎖されていてもよい。蓋部材16bは、凹部16aに圧入されており、凹部16a内と、蓋部材16b、ケース31におけるサイドプレート15側の端面、及びサイドプレート15における回転軸16周りの部位によって区画される空間との間が、蓋部材16bによってシールされている。そして、凹部16a及び蓋部材16bによって軸側拡張室51が区画されている。すなわち、回転軸16の内部に軸側拡張室51が区画されている。この場合、シール部材53が設けられていてもよいし、シール部材53が設けられていなくてもよい。シール部材53が設けられていない場合、蓋部材16b、ケース31におけるサイドプレート15側の端面、及びサイドプレート15における回転軸16周りの部位によって区画される空間は、プレート側拡張室52と連通し、プレート側拡張室52として機能する。よって、シール部材53が設けられている場合に比べて、プレート側拡張室52の容積を大きくすることができる。
【0048】
図7(a)及び(b)に示すように、回転軸16の外周面に凹部16Aが形成されており、凹部16Aの内部を軸側拡張室51としてもよい。この場合、軸側拡張室51は、凹部16Aにおける回転軸16の外周面に開口する回転路16Hを介して回転軸16の外周面に臨んでいる。
【0049】
図8(a)及び(b)に示すように、回転軸16は、回転路16hを複数(図8の実施形態では二つ)有していてもよい。各回転路16hは、回転軸16の周方向において、互いに180度離れた位置に配置されている。また、サイドプレート15には、下流路42が複数(図8の実施形態では二つ)形成されている。各下流路42は、回転軸16の周方向において、互いに180度離れた位置であり、且つ上流路41に対して90度離れた位置に配置されている。
【0050】
これによれば、回転軸16における1回転内での、回転路16hを介した上流路41から軸側拡張室51への冷媒ガスや潤滑油の流入回数を増やすことができる。さらに、回転軸16における1回転内での、回転路16hを介した軸側拡張室51から下流路42への冷媒ガスや潤滑油の流入回数を増やすことができる。したがって、回転路16hの数を調整することにより、回転軸16の1回転当たりの、背圧室20への冷媒ガスや潤滑油の供給量を調整することができ、各背圧室20の圧力を調整することができる。
【0051】
○ 実施形態において、回転軸16とサイドプレート15との間にベアリングが配設されていてもよい。この場合、ベアリングに、上流路41及び下流路42を構成する貫通孔をそれぞれ形成する必要がある。
【0052】
○ 実施形態において、回転軸16におけるフロントハウジング13に支持された部位に対応する内部に軸側拡張室51が形成されており、回転軸16におけるフロントハウジング13に支持された部位の外周面に回転路16hが形成されていてもよい。そして、上流路41が、サイドプレート15、シリンダブロック14及びフロントハウジング13に亘って延びるように形成されていてもよい。さらに、シリンダブロック14に、下流路42、細孔43及びプレート側拡張室52が形成されていてもよい。
【0053】
○ 実施形態において、細孔43が三つ以上設けられていてもよい。
○ 実施形態において、シリンダブロック14が、フロントハウジング13とは別体であってもよい。
【0054】
○ 実施形態において、ベーン型圧縮機10は、車両空調装置に用いられなくてもよく、その他の空調装置に用いられてもよい。
【符号の説明】
【0055】
10…ベーン型圧縮機、14…シリンダブロック、15…サイドプレート、15a…凹部、16…回転軸、16a,16A…凹部、16h,16H…回転路、18…ロータ、18a…ベーン溝、19…ベーン、19e…底面、20…背圧室、21…圧縮室、29…吐出室、30…油分離器、41…背圧供給通路を形成する上流路、42…背圧供給通路を形成する下流路、43…背圧供給通路を形成する細孔、51…背圧供給通路を形成する軸側拡張室、52…背圧供給通路を形成するプレート側拡張室。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8