特許第6402665号(P6402665)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6402665複合型マッハ・ツェンダ干渉計及び量子鍵配送用受信装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6402665
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】複合型マッハ・ツェンダ干渉計及び量子鍵配送用受信装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 9/12 20060101AFI20181001BHJP
   G02F 1/01 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   H04L9/00 631
   G02F1/01 F
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-66651(P2015-66651)
(22)【出願日】2015年3月27日
(65)【公開番号】特開2016-187119(P2016-187119A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2017年11月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000295
【氏名又は名称】沖電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141955
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100085419
【弁理士】
【氏名又は名称】大垣 孝
(72)【発明者】
【氏名】荒平 慎
【審査官】 金木 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−249928(JP,A)
【文献】 特開2004−363873(JP,A)
【文献】 特開2006−345354(JP,A)
【文献】 特開2008−76752(JP,A)
【文献】 特開2009−17277(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 9/12
G02F 1/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力系、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計、第1出力系、及び第2出力系を備え、
前記入力系は、入力光を互いに直交する2偏波成分に分離し、分離された一方の偏波成分を第1偏波成分として出力し、分離された他方の偏波成分の偏波面を90度回転させて第2偏波成分として出力し、
前記双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計は、入力端及び出力端のいずれとしても機能する第1及び第2合分波器を備え、前記第1合分波器と前記第2合分波器とを接続する第1及び第2アームの2つの光路が形成され、
前記双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計の前記第2アームに位相変調器が挿入されており、
前記入力系から出力される前記第1偏波成分が前記第1合分波器から前記双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計に入力され、前記入力系から出力される前記第2偏波成分が前記第2合分波器から前記双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計に入力され、
前記双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計から出力される第1出力光は、前記第1出力系を介して出力され、
前記双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計から出力される第2出力光は、前記第2出力系を介して出力される
ことを特徴とする複合型マッハ・ツェンダ干渉計。
【請求項2】
前記入力系は、第1偏光ビームスプリッタ及び第1偏波面回転部を含み、
前記第1出力系は、第2偏光ビームスプリッタ及び第2偏波面回転部を含み、
前記第2出力系は、第3偏光ビームスプリッタ、第1光サーキュレータ、第2光サーキュレータ、及び第3偏波面回転部を含み、
前記第1及び第2合分波器は、第1〜第4入出力端を備え、
前記第1〜第3偏光ビームスプリッタは、第1〜第3入出力端を備え、
前記第1及び第2光サーキュレータは、入力端と入出力端と出力端を備え、
前記第1〜第3偏波面回転部は、入力端と出力端を備え、
前記第1偏光ビームスプリッタの前記第2入出力端と前記第1光サーキュレータの前記入力端が第1光路を介して接続され、
前記第1偏光ビームスプリッタの前記第3入出力端と前記第1偏波面回転部の前記入力端とが第2光路を介して接続され、
前記第1偏波面回転部の前記出力端と前記第2光サーキュレータの前記入力端とが第3光路を介して接続され、
前記第1光サーキュレータの前記入出力端と前記第1合分波器の前記第1入出力端とが第4光路を介して接続され、
前記第2光サーキュレータの前記入出力端と前記第2合分波器の前記第1入出力端とが第5光路を介して接続され、
前記第2合分波器の前記第4入出力端と前記第2偏波面回転部の前記入力端とが第6光路を介して接続され、
前記第2偏波面回転部の前記出力端と前記第2偏光ビームスプリッタの前記第3入出力端とが第7光路を介して接続され、
前記第2光サーキュレータの前記出力端と前記第3偏波面回転部の前記入力端とが第8光路を介して接続され、
前記第3偏波面回転部の前記出力端と前記第3偏光ビームスプリッタの前記第3入出力端とが第9光路を介して接続され、
前記第1光サーキュレータの前記出力端と前記第3偏光ビームスプリッタの前記第2入出力端とが第10光路を介して接続され、
前記第1合分波器の前記第4入出力端と前記第2偏光ビームスプリッタの前記第2入出力端とが第11光路を介して接続され、
前記第1合分波器の前記第2入出力端と、前記第2合分波器の前記第2入出力端とを接続する光路が前記第1アームとされ、
前記第1合分波器の前記第3入出力端と、前記第2合分波器の前記第3入出力端とを接続する光路が前記第2アームとされ、
前記第1及び第2合分波器は、前記第1入出力端から入力された光を1対1に分岐して前記第2及び第3入出力端から出力し、
前記第1〜第3偏光ビームスプリッタは、前記第1入出力端から入力された光を互いに直交する偏波成分に分岐して、一方の偏波成分を前記第2入出力端から出力し、他方の偏波成分を前記第3入出力端から出力し、
前記第1及び第2光サーキュレータは、前記入力端から入力された光を前記入出力端から出力し、前記入出力端から入力された光を前記出力端から出力し、
前記第1〜第3偏波面回転部は、入力された光の偏光方向を90度回転させて出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の複合型マッハ・ツェンダ干渉計。
【請求項3】
前記第1、第4、第6、第7光路の光路長の合計と、前記第2、第3、第5、第11光路の光路長の合計とが等しく、かつ、前記第1、第8、第9光路の光路長の合計と、前記第2、第3、第10光路の光路長の合計とが等しい
ことを特徴とする請求項2に記載の複合型マッハ・ツェンダ干渉計。
【請求項4】
前記第1及び前記第2合分波器において、前記第1アームと前記第2アームとの光路長差によって、前記第1アームを伝搬する光子と前記第2アームを伝搬する光子との単一光子間干渉を回避することが可能な遅延時間差を発生させる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の複合型マッハ・ツェンダ干渉計。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合型マッハ・ツェンダ干渉計と、第1及び第2単一光子検出器と、乱数発生器とを備え、
前記乱数発生器は、前記位相変調器を制御して当該位相変調器に0又はπ/2の光位相差を発生させ、
前記第1単一光子検出器は、前記第1出力系に設置されて、当該第1出力系から出力される光子を検出し、
前記第2単一光子検出器は、前記第2出力系に設置されて、当該第2出力系から出力される光子を検出する
ことを特徴とする量子鍵配送用受信装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の複合型マッハ・ツェンダ干渉計を2台と、分波器と、第1〜第4単一光子検出器とを備え、
2台の複合型マッハ・ツェンダ干渉計のうちの、一方を第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計、他方を第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計として、
前記分波器の一方の出力端は、前記第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の入力系に接続され、他方の出力端は、前記第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の入力系に接続されており、
前記第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の前記位相変調器は、光位相差が0となるように固定されており、前記第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の前記位相変調器は、光位相差がπ/2となるように固定されており、
前記第1単一光子検出器は、前記第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の前記第1出力系に設置されて当該第1出力系から出力される光子を検出し、
前記第2単一光子検出器は、前記第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の前記第2出力系に設置されて当該第2出力系から出力される光子を検出し、
前記第3単一光子検出器は、前記第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の前記第1出力系に設置されて当該第1出力系から出力される光子を検出し、
前記第4単一光子検出器は、前記第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の前記第2出力系に設置されて当該第2出力系から出力される光子を検出する
ことを特徴とする量子鍵配送用受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、暗号通信システムを実現するための量子鍵配送システムに関し、特に、位相コーディング方式量子鍵配送システムに利用するための複合型マッハ・ツェンダ干渉計、及びこの複合型マッハ・ツェンダ干渉計を用いた量子鍵配送用受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
秘匿通信を実現する手段として暗号通信が一般的に利用されている。暗号通信の一種である共通鍵方式においては、情報の暗号化及び復号化に利用する暗号化鍵(共通鍵)を盗聴者などの第三者に知られることなく送信者と受信者のみが共有することが必須である。量子鍵配送システムは、物理法則に則って共通鍵の共有を実現する手段として注目され、将来の高セキュリティ情報通信システムへの応用を目指した研究開発が近年活発化している。
【0003】
長い距離離れた送受信者間で量子鍵配送システムを実現するには、暗号化鍵の担い手となる量子力学的粒子を長距離にわたって減衰することなく送信することが必要である。このような量子力学的粒子としては光(光子)が最も望ましい。
【0004】
量子鍵配送システムとして、偏光コーディング方式と位相コーディング方式の量子鍵配送システムが知られている(例えば、特許文献1及び非特許文献1等参照)。偏光コーディングとは、単一光子のもつ直交する2つの偏光自由度を基底として量子情報を符号化する方法である。位相コーディングとは、単一光子を時間差のついた2つのパルスに分割して、それらの間の相対位相に量子情報を符号化する方法である。
【0005】
光ファイバ伝送路は、伝送される光子の偏光状態が保存されないため、光ファイバを伝送路に用いる量子鍵配送においては、偏光に鍵ビット情報を載せることを前提とする偏光コーディング方式ではなく、位相に鍵情報を載せる位相コーディング方式が利用しやすい。そして、位相コーディング方式を実行するための位相変調器として非対称マッハ・ツェンダ干渉計を利用する量子鍵配送システムが複数開示されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−160368号公報
【特許文献2】特開2011−109302号公報
【特許文献3】特開2011−77995号公報
【特許文献4】特開2008−270873号公報
【特許文献5】特開2003−249928号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Nicolas Gisin, Gregoire Ribordy, Wolfgang Tittel, and Hugo Zbinden “Quantum cryptography” Rev. Mod. Phys. 74, pp. 145-195 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
位相コーディング方式による量子鍵配送を実現する量子鍵配送システムにおいては、当該システムの受信装置を構成する非対称マッハ・ツェンダ干渉計、単一光子検出器等を偏光状態無依存で動作させることが必要不可欠である。例えば、半導体アバランシェフォトダイオードの動作は、一般的に偏光状態無依存であり、そのため半導体アバランシェフォトダイオードは、位相コーディング方式による量子鍵配送システムにおける単一光子検出器として利用できる。
【0009】
受信装置に偏光状態依存性を生じさせる原因の一つは、非対称マッハ・ツェンダ干渉計の偏光状態依存性にある。非対称マッハ・ツェンダ干渉計の偏光状態依存性は主として、非対称マッハ・ツェンダ干渉計の構成部品である半透鏡の分岐動作の偏光状態依存性と、非対称マッハ・ツェンダ干渉計を構成する長短二つのアーム間で生じる光位相差の偏光状態依存性によって発現するものである。
【0010】
半透鏡の分岐動作の偏光状態依存性は、長短二つのアーム間で生じる光位相差の偏光状態依存性より影響は小さく、偏光状態依存性を実用上問題とされない程度に低減した半透鏡が市販されている。一方、長短二つのアーム間で生じる光位相差の偏光状態依存性は、空間光学系を採用して非対称マッハ・ツェンダ干渉計を構成することによって小さくできるが、空間光学系を採用すると干渉計が大型化するという観点と動作の安定性の確保の観点から実用上採用し難い。
【0011】
空間光学系の代わりに光ファイバやガラス導波路等の導波路光学系を利用すれば、装置をコンパクトに形成すること、あるいは製造コスト上のメリットはあるが、導波路伝搬モードの偏光状態依存性が生じない、すなわち複屈折が発現しない導波路を形成するのが、現状の最先端技術を以てしても非常に難しい。
【0012】
偏光状態依存性が発現せず、もしくは無視できるほど小さい非対称マッハ・ツェンダ干渉計を実現するのは、現在の先端技術を以てしても容易でない。これは、複屈折が微小であってもそれによって生じる直交偏光間の光位相差の総量は、アーム長に比例して大きくなるためである。
【0013】
したがって、本願発明の目的は、偏光状態依存性がない非対称マッハ・ツェンダ干渉計として動作させることが可能である複合型マッハ・ツェンダ干渉計を提供し、長距離光ファイバ通信網を用いた位相コーディング方式の量子鍵配送システムに利用して好適な、複合型マッハ・ツェンダ干渉計を組み込んだ量子鍵配送用受信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願の発明者は、非対称マッハ・ツェンダ干渉計を双方向型干渉計として機能させることができるように構成し、入力光を入力させるための入力系と、出力光を出力させるための出力系を2か所に設けて偏光状態依存性がない複合型マッハ・ツェンダ干渉計が形成可能であることに思い至った。そして、この複合型マッハ・ツェンダ干渉計を組み込んだ量子鍵配送用受信装置を完成させた。
【0015】
したがって、この発明の目的は、偏光状態依存性がない複合型マッハ・ツェンダ干渉計と、この複合型マッハ・ツェンダ干渉計を組み込んだ量子鍵配送用受信装置を提供することにある。
【0016】
そこで、本願発明の要旨によれば、以下の構成の複合型マッハ・ツェンダ干渉計と、量子鍵配送用受信装置が提供される。
【0017】
本願発明の複合型マッハ・ツェンダ干渉計は、入力系、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計、第1出力系、及び第2出力系を備えている。
【0018】
入力系は、入力光を互いに直交する2偏波成分に分離し、分離された一方の偏波成分を第1偏波成分として出力し、分離された他方の偏波成分の偏波面を90度回転させて第2偏波成分として出力する。
【0019】
双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計は、入力端及び出力端のいずれとしても機能する第1及び第2合分波器及び位相変調器を備え、第1合分波器と第2合分波器とを接続する第1及び第2アームの2つの光路が形成されている。また、第2アームには位相変調器を挿入してもよい。
【0020】
そして、入力系から出力される第1偏波成分が第1合分波器から双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計に入力され、入力系から出力される第2偏波成分が第2合分波器から双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計に入力される。また、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計の第1合分波器から出力される第1出力光は第1出力系を介して出力され、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計の第2合分波器から出力される第2出力光は、第2出力系を介して出力される。
【0021】
本願発明の第1の量子鍵配送用受信装置は、上述の複合型マッハ・ツェンダ干渉計に、第1及び第2単一光子検出器と、乱数発生器とを備えて構成される、アクティブモジュレーション方式の量子鍵配送用受信装置である。双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計は、入力端及び出力端のいずれとしても機能する第1及び第2合分波器及び位相変調器を備え、第1合分波器と第2合分波器とを接続する第1及び第2アームの2つの光路が形成され、かつ第2アームには位相変調器が挿入されている。
【0022】
第1単一光子検出器は、第1出力系に設置されて、当該第1出力系から出力される光子を検出し、第2単一光子検出器は、第2出力系に設置されて、当該第2出力系から出力される光子を検出する。乱数発生器は、位相変調器を制御して当該位相変調器に0又はπ/2の光位相差を発生させる。
【0023】
本願発明の第2の量子鍵配送用受信装置は、上述の複合型マッハ・ツェンダ干渉計を2台と、分波器と、第1〜第4単一光子検出器とを備えて構成されるパッシブモジュレーション方式の量子鍵配送用受信装置である。
【0024】
複合型マッハ・ツェンダ干渉計が備える双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計は、入力端及び出力端のいずれとしても機能する第1及び第2合分波器及び位相変調器を備え、第1合分波器と第2合分波器とを接続する第1及び第2アームの2つの光路が形成され、かつ第2アームには位相変調器が挿入されている。
【0025】
2台の複合型マッハ・ツェンダ干渉計のうちの、一方は第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計として利用され、他方は第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計として利用される。そして、分波器の一方の出力端は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の入力系に接続され、他方の出力端は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の入力系に接続されている。
【0026】
第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の位相変調器は、光位相差が0となるように固定されており、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の位相変調器は、光位相差がπ/2となるように固定されている。
【0027】
第1単一光子検出器は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第1出力系に設置されて当該第1出力系から出力される光子を検出し、第2単一光子検出器は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第2出力系に設置されて当該第2出力系から出力される光子を検出し、第3単一光子検出器は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第1出力系に設置されて当該第1出力系から出力される光子を検出し、第4単一光子検出器は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第2出力系に設置されて当該第2出力系から出力される光子を検出する。
【0028】
本願発明の第1及び第2の量子鍵配送用受信装置において、複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第1アームと当該第2アームとの光路長差が、第1アームを伝搬する光子と第2アームを伝搬する光子との単一光子間干渉を回避することが可能な遅延時間差を発生させるに十分である程度に設定するのが好適である。
【発明の効果】
【0029】
本願発明の複合型マッハ・ツェンダ干渉計によれば、入力系によって、入力光が互いに直交する第1偏波成分と第2偏波成分に分離され、分離された一方の第1偏波成分はそのまま出力され、分離された他方の第2偏波成分の偏波面は90度回転させて出力される。したがって、入力光の偏波面の如何に関わらず、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計の、第1合分波器と第2合分波器のいずれから入力される入力光の偏波面も第1偏波成分の偏波方向に統一される。したがって、入力光の偏波面に依存しない双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計となる。
【0030】
また、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計の第1合分波器から出力される第1出力光は第1出力系を介して出力され、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計の第2合分波器から出力される第2出力光は第2出力系を介して出力されるように構成されている。
【0031】
したがって、第1単一光子検出器を第1出力系に設置し、第2単一光子検出器を第2出力系に設置すれば、第1単一光子検出器によって第1出力系から出力される光子を検出でき、第2単一光子検出器によって第2出力系から出力される光子を検出できる。そして、位相変調器に0又はπ/2の光位相差を発生させる構成とすれば、量子鍵配送用受信装置に利用して好適なマッハ・ツェンダ干渉計とすることが可能である。
【0032】
本願発明の第1の量子鍵配送用受信装置によれば、乱数発生器を備えているので、第2アームに挿入された位相変調器をこの乱数発生器で制御してこの位相変調器に0又はπ/2の光位相差をランダムに発生させることができる。そして、第1単一光子検出器によって第1出力系から出力される光子が検出され、第2単一光子検出器によって第2出力系から出力される光子が検出される。
【0033】
したがって、第1の量子鍵配送用受信装置は、アクティブモジュレーション方式の量子鍵配送用受信装置として動作させることが可能である。
【0034】
本願発明の第2の量子鍵配送用受信装置によれば、上述の複合型マッハ・ツェンダ干渉計を2台と、第1〜第4単一光子検出器とを備えている。そして、第1単一光子検出器は第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第1出力系から出力される光子を検出し、第2単一光子検出器は第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第2出力系から出力される光子を検出し、第3単一光子検出器は第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第1出力系から出力される光子を検出し、第4単一光子検出器は第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第2出力系から出力される光子を検出する。
【0035】
したがって、第2の量子鍵配送用受信装置は、パッシブモジュレーション方式の量子鍵配送用受信装置として動作させることが可能である。
【0036】
更に、上述の第1及び第2の量子鍵配送用受信装置において、複合型マッハ・ツェンダ干渉計の第1アームと当該第2アームとの光路長差が、第1アームを伝搬する光子と第2アームを伝搬する光子との単一光子間干渉を回避することが可能な遅延時間差を発生させるに十分である程度に設定すれば、時間軸上で隣接して現れる光子間で、明瞭に両2光子を分離して単一光子検出器で検出することが可能となる。また、第1アームと当該第2アームとの光路長差によって生み出される遅延時間差を、単一光子検出器が追随可能な動作速度に設定することによって、確実に一つ一つの光子を時間的に分離して検出することができる。ここで必要とされる遅延時間差は、主に単一光子検出器の動作速度に依存して決定される。InP系半導体アバランシェフォトダイオードを利用する単一光子検出器は、小型堅牢であり、産業上有望視されている素子であるが、その動作速度は速くて数GHz程度である。すなわち、非対称マッハ・ツェンダ干渉計の二つのアーム間には、1 ns程度の長い遅延時間差を設けることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】従来の位相コーディング方式の量子鍵配送システムにおける受信装置の構成例を示す概略的構成図である。
図2】複合型マッハ・ツェンダ干渉計の実施形態の構成についての説明に供する図である。
図3】第1の量子鍵配送用受信装置の構造及びその動作の説明に供する図である。
図4】第2の量子鍵配送用受信装置の構造及びその動作の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、図面を参照して、本願発明の実施形態につき説明するが、発明を図示例に限定するものではない。各図面間において同様の構成要素については、同一の番号を付して示し、その重複する説明を省略することもある。また、以下の説明において、特定の条件等を用いることがあるが、これらの条件等は好適例の一つに過ぎず本願発明はこれらに限定されない。
【0039】
≪量子鍵配送システム≫
量子暗号技術の一つの手法である量子鍵配送では、量子力学の原理を応用した盗聴を探知可能とする通信チャンネル(量子チャンネルともいわれる)が形成され、このチャンネルを介して量子鍵が送受信される。量子鍵を送受信するための量子鍵配送システムとして、偏光コーディング方式と位相コーディング方式の量子鍵配送システムが知られているが、まず、本願発明の理解に資するため、この両方式について説明する。
【0040】
<偏光コーディング方式>
光子の偏光状態を利用した偏光コーディング方式の量子鍵配送システムにおいては、送信者は、光子の偏光状態を変調して、横(H: Horizontal)偏光、縦(V: Vertical)偏光、右斜め45度(D(+))偏光、左斜め45度(D(-))偏光のいずれかをランダムに選んで送信する。D(+)偏光、D(-)偏光の代わりに左右周り円偏光としてもよい。横偏光と縦偏光、あるいは右斜め45度偏光と左斜め45度偏光のように、互いに共役な組となる直交状態は基底と呼ばれる。送信者が、H偏光あるいはV偏光を選んで送信した場合をH/V送信基底(直線送信基底)、D(+)偏光あるいはD(-)偏光を選んで送信した場合をDiagonal送信基底(対角送信基底)という。
【0041】
そして、受信者は、送信された光子が横偏光あるいは縦偏光のいずれであるかを測定するH/V測定系(直線測定系)か、D(+)偏光あるいはD(-)偏光のいずれであるかを測定するDiagonal測定系(対角測定系)を選択して到来してきた光子の偏光を測定する。受信者が、H偏光あるいはV偏光を選んで受信した場合をH/V受信基底(直線受信基底)、D(+)偏光あるいはD(-)偏光を選んで受信した場合をDiagonal受信基底(対角受信基底)という。
【0042】
以下、直線送信基底と直線受信基底のいずれも意味する場合は直線基底と記載し、対角送信基底と対角受信基底のいずれも意味する場合は対角基底と記載する。
【0043】
送信されてきた光子の測定を行う測定系は、偏光ビームスプリッタと波長板で構成される光学系として形成できる。直線基底と対角基底とは非直交である。すなわち、縦偏光あるいは横偏光の光子を直線測定系で測定すれば、100%の確率で縦偏光あるいは横偏光であるという測定結果が確定的に得られる。しかしながら、対角測定系で測定すれば、測定結果はD(+)偏光であるか(D(-)偏光であるかのどちらかであるために、到来した光子が縦偏光であったか横偏光であったかは、50%の確率でしか知ることができず、確定的な結果は得られない。
【0044】
ここで、受信者が直線受信基底あるいは対角受信基底をランダムに選んで到来してきた光子の偏光測定を行うものとする。仮に送信者が送った光子が直線送信基底(あるいは対角送信基底)であり、受信者が選択した基底が直線受信基底(あるいは対角受信基底)であれば、受信者は送信者が送信した光子の偏光状態を確定的に知ることができる。すなわち、縦偏光状態で受信した光子は、100%の確率で縦偏光として測定される。このとき縦偏光状態をビット「1」、横偏光状態をビット「0」とすれば、送受信者間でランダムなビット列を共有できる。一方、送信者が送った光子が直線送信基底(あるいは対角送信基底)であり、受信者が選択した基底が対角受信基底(あるいは直線受信基底)であるとき、受信者は送信者が送信した光子の偏光状態を確率的にしか知ることができない。すなわち、ランダムなビット列を共有できない。
【0045】
直線基底あるいは対角基底を利用する仕組みを使って、送受信者間では必要なだけのビット数の測定結果を得た後で互いに選んだ基底を教えあい、基底が一致した場合のビット値のみを使用することで、送受信者間で互いに通知し合わなくとも、ランダムな同一ビット列を共有できる。このビット列を暗号化のための共通鍵として利用するのが量子鍵配送システムである。
【0046】
盗聴を許さないためには、各ビットに一個以下の光子を用いる必要があり、それゆえに光子を用いた量子鍵配送システムを実現するためには、単一光子レベルの光子を検出できる単一光子検出器が必要となる。このような単一光子検出器としては、半導体アバランシェフォトダイオードや超伝導体を利用した検出器など、様々な検出器が知られている。
【0047】
<位相コーディング方式>
上述の偏光コーディング方式の量子鍵配送システムと同様の量子鍵配送システムの仕組みは、位相変調を利用しても実現でき、この方式は位相コーディング方式の量子鍵配送システムと呼ばれている。長距離の光ファイバ伝送路などを伝搬した後の光子の偏光状態は、光ファイバ伝送路の複屈折等のために一般的に不定である。したがって、偏光コーディング方式においては、光ファイバ伝送路において生じる偏光状態の変化を補償するための偏波面コントローラを必要とする。これに対して、位相コーディング方式の量子鍵配送システムは偏光状態を利用しないため、長距離光ファイバ通信網における量子鍵配送のための方式として有望視されている。
【0048】
位相コーディング方式においては、量子鍵配送に用いる光子は、送信端において非対称マッハ・ツェンダ干渉計に光子を通過させることで発生させる。ここで、非対称マッハ・ツェンダ干渉計においては、干渉計を形成する二本のアームの光路長が異なっている。その結果、非対称マッハ・ツェンダ干渉計から出力される光子の状態は、短いアームを通過してきた状態と長いアームを通過してきた状態との重ね合わせ状態となっている。また、長いアームと短いアームとの間には{0、π/2、π、3π/2}のいずれかの光位相差がランダムに与えられる。この4種類の光位相差が、偏光コーディング方式における、H偏光、V偏光、D(+)偏光、D(-)偏光に相当する。
【0049】
位相コーディング方式の量子鍵配送システムの受信者側では、送信者側と同様な構成の非対称マッハ・ツェンダ干渉計に到来した光子を通過させ、その非対称マッハ・ツェンダ干渉計の二つの出力端の両方に単一光子検出器を配置する。そして、長いアームと短いアームとの間には、0あるいはπ/2のいずれかの光位相差を与えておいて、それぞれの出力端に配置された単一光子検出器によって光子の検出を行う。これが位相コーディング方式における基底の選択に相当する。
【0050】
送信者側の非対称マッハ・ツェンダ干渉計で与えた光位相差が{0、π}のいずれかであって、受信者側の非対称マッハ・ツェンダ干渉計で与えた光位相差が0であったなら、送信基底と受信基底が一致したことになり、受信者は確定的な結果を得ることができ、送受信者双方において暗号化鍵の共有が可能となる。同様に、送信者側の非対称マッハ・ツェンダ干渉計で与えた光位相差が{π/2、3π/2}のいずれかであって、受信者側の非対称マッハ・ツェンダ干渉計で与えた光位相差がπ/2であったならば、送信基底と受信基底とが一致したことになり、受信者は確定的な結果を得ることができ、送受信者双方は暗号化鍵の共有が可能となる。
【0051】
<量子鍵配送システムにおける従来の受信装置>
図1(A)及び(B)を参照して、従来の位相コーディング方式の量子鍵配送システムにおける受信装置の構成例について説明する。図1(A)にアクティブモジュレーション方式の量子鍵配送システムに用いられる量子鍵配送用受信装置を示してある。この量子鍵配送用受信装置は、非対称マッハ・ツェンダ干渉計501と乱数発生器304と、単一光子検出器305、306を備えている。
【0052】
図1(A)に示す受信装置では、二つの合分波器301、302を用いて非対称マッハ・ツェンダ干渉計501を構成している。ここでは、合分波器301、302として、半透鏡が用いられている。
【0053】
合分波器301は第1〜第4入出力端301-1〜301-4を備え、合分波器302は第1〜第4入出力端302-1〜302-4を備えている。合分波器302の第1入出力端302-1からの出力は単一光子検出306で受光され、第4入出力端302-4からの出力は単一光子検出305で受光される。
【0054】
ここで、一方のアームは合分波器301の第2入出力端301-2と合分波器302の第2入出力端302-2を接続して形成されている。他方のアームは合分波器301の第3入出力端301-3と合分波器302の第3入出力端302-3を接続して形成されており、第3入出力端301-3と第3入出力端302-3とを結ぶ光路中には位相変調器303が挿入されている。
【0055】
いずれか一方のアームに位相変調器303を挿入し、乱数発生器304を用いて位相変調器303で光位相差として0又はπ/2のいずれかをランダムに選択して、アーム間に0又はπ/2の光位相差を発生させることによって受信基底の選択が行われる。合分波器301の第1入出力端301-1から入力された光は、アーム間の光位相差が0の場合、光は合分波器302の第4入出力端302-4からのみ出力し、第1入出力端302-1からは出力されない。また、アーム間の光位相差がπの場合、光は合分波器302の第1入出力端302-1からのみ出力し、第4入出力端302-4からは出力されない。また、アーム間の光位相差がπ/2の場合、光は合分波器302の第1入出力端302-1および第4入出力端302-4に等分に出力される。
【0056】
上述のアクティブモジュレーション方式に対してパッシブモジュレーション方式も知られている。図1(B)にパッシブモジュレーション方式の量子鍵配送システムに用いられる量子鍵配送用受信装置を示してある。この量子鍵配送用受信装置は、分波器411と、第1及び第2非対称マッハ・ツェンダ干渉計502及び503と、単一光子検出器407、408、409、及び410を備えている。
【0057】
第1非対称マッハ・ツェンダ干渉計502は、二つの合分波器401、402を用いて構成されている。合分波器401は第1〜第4入出力端401-1〜401-4を備え、合分波器402は第1〜第4入出力端402-1〜402-4を備えている。合分波器402の第1入出力端402-1からの出力は単一光子検出408で受光され、第4入出力端402-4からの出力は単一光子検出407で受光される。
【0058】
ここで、一方のアームは合分波器401の第2入出力端401-2と合分波器402の第2入出力端402-2を接続して形成されている。他方のアームは合分波器401の第3入出力端401-3と合分波器402の第3入出力端402-3を接続して形成されており、第3入出力端401-3と第3入出力端402-3とを結ぶ光路中には光位相回路403が挿入されている。
【0059】
また、第2非対称マッハ・ツェンダ干渉計503は、二つの合分波器404、405を用いて構成されている。合分波器404は第1〜第4入出力端404-1〜404-4を備え、合分波器405は第1〜第4入出力端405-1〜405-4を備えている。合分波器405の第1入出力端405-1からの出力は単一光子検出410で受光され、第4入出力端405-4からの出力は単一光子検出409で受光される。
【0060】
ここで、一方のアームは合分波器404の第2入出力端404-2と合分波器405の第2入出力端405-2を接続して形成されている。他方のアームは合分波器404の第3入出力端404-3と合分波器405の第3入出力端405-3を接続して形成されており、第3入出力端404-3と第3入出力端405-3とを結ぶ光路中には光位相回路406が挿入されている。
【0061】
パッシブモジュレーション方式では、分波器411を用いて受信基底がランダムに選択される。
【0062】
分波器411からの出力光は、それぞれ第1及び第2非対称マッハ・ツェンダ干渉計502、503に入力される。分波器411の入力端411-1に入力された光子は、第1、第2出力端411-2、411-3のいずれか一方からしか出力されないので、光子は第1及び第2非対称マッハ・ツェンダ干渉計502、503のいずれか一方にのみ入力され、どちらの非対称マッハ・ツェンダ干渉計に入力されたか、より正確に言うと第1〜第4の単一光子検出器407〜410のうちのどれが光子を検出したかによって、受信基底が選択される。この場合、アクティブモジュレーション方式とは異なり、アーム間の光位相差は一方の非対称マッハ・ツェンダ干渉計を0で固定、他方の非対称マッハ・ツェンダ干渉計をπ/2で固定すればよく、位相変調器と乱数発生器は不要である。例えば、受信基底の選択は、第1非対称マッハ・ツェンダ干渉計502の光位相回路403で光位相差が0となるように設定し、第2非対称マッハ・ツェンダ干渉計503の光位相回路406で光位相差がπ/2となるように設定することで実現される。
【0063】
≪本願発明の複合型マッハ・ツェンダ干渉計及び量子鍵配送用受信装置≫
<複合型マッハ・ツェンダ干渉計の構成>
図2を参照して、本願発明の複合型マッハ・ツェンダ干渉計の実施形態の構成について説明する。複合型マッハ・ツェンダ干渉計は、入力系42、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40、第1出力系44、及び第2出力系46を備えている。
【0064】
入力系42は、入力光を互いに直交する2偏波成分に分離し、分離された一方の偏波成分を第1偏波成分b1として出力し、分離された他方の偏波成分の偏波面を90度回転させて第2偏波成分b2として出力する。
【0065】
双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40は、入力端及び出力端のいずれとしても機能する第1合分波器11、第2合分波器12及び位相変調器21を備え、第1合分波器11と第2合分波器12とを接続する第1アームX1及び第2アームX2の2つの光路が形成され、かつ第2アームX2には位相変調器21が挿入されている。この位相変調器21は、後述する第1及び第2の量子鍵配送用受信装置を構成する際に重要な構成要素となる。
【0066】
入力系42から出力される第1偏波成分b1が第1合分波器11から双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40に入力される。また、入力系42から出力される第2偏波成分b2が第2合分波器12から双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40に入力される。双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40から出力される第1出力光d1は、第1出力系44を介して出力される。また、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40から出力される第2出力光d2は、第2出力系46を介して出力される。
【0067】
入力系42は、第1偏光ビームスプリッタ13及び第1偏波面回転部18を含んでいる。また、第1出力系44は、第2偏光ビームスプリッタ14、及び第2偏波面回転部19を含んでいる。また、第2出力系46は、第3偏光ビームスプリッタ15、第1光サーキュレータ16、第2光サーキュレータ17、及び第3偏波面回転部20を含んでいる。
【0068】
第1合分波器11は、第1入出力端11-1、第2入出力端11-2、第3入出力端11-3、第4入出力端11-4を備えている。また、第2合分波器12は、第1入出力端12-1、第2入出力端12-2、第3入出力端12-3、第4入出力端12-4を備えている。第1合分波器11及び第2合分波器12として、半透鏡を利用するのが好適である。
【0069】
第1合分波器11及び第2合分波器12は、第1入出力端(11-1、12-1)から入力された光を1対1に分岐して第2入出力端(11-2、12-2)及び第3入出力端(11-3、12-3)から出力する。半透鏡の性質として、第1合分波器11の第1入出力端11-1から入力される光について、第3入出力端11-3から出力される光の位相は、第2入出力端11-2から出力される光の位相よりも90度進んでいる。同様に第2入出力端11-2から入力された光は、第1入出力端11-1と第4入出力端11-4に1対1の強度比で分岐され、第4入出力端11-4から出力される光の位相は第1入出力端11-1から出力される光の位相よりも90度進んでいる。同様に、第3入出力端11-3から入力された光は、第1入出力端11-1と第4入出力端11-4に1対1の強度比で分岐され、第1入出力端11-1から出力される光の位相は、第4入出力端11-4から出力される光の位相よりも90度進んでいる。第2合分波器12についても同様である。
【0070】
第1偏光ビームスプリッタ13は、第1入出力端13-1、第2入出力端13-2、第3入出力端13-3を備え、第2偏光ビームスプリッタ14は、第1入出力端14-1、第2入出力端14-2、第3入出力端14-3を備え、第3偏光ビームスプリッタ15は、第1入出力端15-1、第2入出力端15-2、第3入出力端15-3を備えている。
【0071】
第1偏光ビームスプリッタ13において、第1入出力端13-1から入力された光は、互いに直交する直線偏波成分に分岐されて、一方の偏波(例えばV偏光)成分が第2入出力端13-2から出力され、他方の偏波(例えばH偏光)成分が第3入出力端13-3から出力される。第2入出力端13-2及び第3入出力端13-3から光を入力しても、同様に入力端(この場合、第2入出力端13-2、第3入出力端13-3)とは異なる2つの入出力端から、互いに直交する直交偏波成分が出力される。
【0072】
第1偏光ビームスプリッタ13は、第1入出力端13-1から入力された光を互いに直交する偏波成分に分岐して、一方の偏波成分を第2入出力端13-2から出力し、他方の偏波成分を第3入出力端13-3から出力する。第2偏光ビームスプリッタ14は、第2入出力端14-2あるいは第3入出力端14-3から入力された光を第1入出力端14-1から出力する。第3偏光ビームスプリッタ15は、第2入出力端15-2あるいは第3入出力端15-3から入力された光を第1入出力端15-1から出力する。第1偏光ビームスプリッタ13において、第1〜第3入出力端のいずれも入力端とすることが可能であり、また第1〜第3入出力端のいずれも出力端とすることも可能であり、動作は光の伝播方向に対して可逆的である。例えば、V偏光の光が第2入出力端13-2から入力されると第1入出力端13-1に出力され、H偏光の光が第3入出力端13-3から入力されると第1入出力端13-1に出力される。
【0073】
第2偏光ビームスプリッタ14及び第3偏光ビームスプリッタ15も同様な動作をする。偏光ビームスプリッタは、誘電体多層膜フィルタなどを利用して実現でき、市販もされている。
【0074】
第1光サーキュレータ16は、入力端16-1と入出力端16-2と出力端16-3を備え、第2光サーキュレータ17は、入力端17-1と入出力端17-2と出力端17-3を備えている。第1光サーキュレータ16において、入力端16-1から入力された光は入出力端16-2に出力され、入出力端16-2から入力された光は出力端16-3から出力される。第2光サーキュレータ17も同様の動作をする。すなわち、第1及び第2光サーキュレータ(16、17)は、入力端(16-1、17-1)から入力された光を入出力端(16-2、17-2)から出力し、入出力端(16-2、17-2)から入力された光を出力端(16-3、17-3)から出力する。
【0075】
第1偏波面回転部18、第2偏波面回転部19、第3偏波面回転部20は、それぞれ入力端と出力端を備えている。そして、第1〜第3偏波面回転部18〜20は、直線偏光である入力光の偏波方向を90度回転させる機能を果たす。すなわち、H偏光の光をV偏光に、V偏光の光をH偏光の光に変換する。すなわち、第1〜第3偏波面回転部(18、19、20)は、入力された光の偏光方向を90度回転させて出力する。このような動作は、例えば、1/2波長板を用いて実現できる。また、光学系を偏波保存光ファイバで構成した場合は、対向する偏波保存光ファイバの光学軸を互いに90度直交させて融着接続することで実現できる。
【0076】
第1偏光ビームスプリッタ13の第2入出力端13-2と第1光サーキュレータ16の入力端16-1が第1光路L1を介して接続され、第1偏光ビームスプリッタ13の第3入出力端13-3と第1偏波面回転部18の入力端とが第2光路L2を介して接続され、第1偏波面回転部18の出力端と第2光サーキュレータ17の入力端17-1とが第3光路L3を介して接続されている。
【0077】
第1光サーキュレータ16の入出力端16-2と第1合分波器11の第1入出力端11-1とが第4光路L4を介して接続され、第2光サーキュレータ17の入出力端17-2と第2合分波器12の第1入出力端12-1とが第5光路L5を介して接続されている。
【0078】
第2合分波器12の第4入出力端12-4と第2偏波面回転部19の入力端とが第6光路L6を介して接続され、第2偏波面回転部19の出力端と第2偏光ビームスプリッタ14の第3入出力端14-3とが第7光路L7を介して接続されている。
【0079】
第2光サーキュレータ17の出力端17-3と第3偏波面回転部20の入力端とが第8光路L8を介して接続され、第3偏波面回転部20の出力端と第3偏光ビームスプリッタ15の第3入出力端15-3とが第9光路L9を介して接続されている。
【0080】
第1光サーキュレータ16の出力端16-3と第3偏光ビームスプリッタ15の第2入出力端15-2とが第10光路L10を介して接続され、第1合分波器11の第4入出力端11-4と第2偏光ビームスプリッタ14の第2入出力端14-2とが第11光路L11を介して接続されている。
【0081】
第1合分波器11の第2入出力端11-2と、第2合分波器12の第2入出力端12-2とを接続する光路X1が第1アームであり、第1合分波器11の第3入出力端11-3と、第2合分波器12の第3入出力端12-3とを接続する光路X2が第2アームである。
【0082】
以後の説明において、L1〜L11、及びX1、X2は、光路を識別する名称として使用するほか、当該名称が付された光路の光路長を示す意味でも使用する。光路L1〜L11、及び光路X1、X2は、光ファイバやPLC(Planar Lightwave Circuit)等のガラス導波路(光導波路)を利用して形成される光路とすることができる。また、空間光学系を使って各部品を結合させた光路であっても、あるいはその両者を併用した光路であってもよい。
【0083】
光路L1〜L11、及び光路X1、X2については、偏波保存系の光路であることが望ましいが、適宜、偏波面コントローラ等を適切な個所に配置した光学系を採用しても、本願発明の複合型マッハ・ツェンダ干渉計は構成可能である。
【0084】
<第1の量子鍵配送用受信装置の構成>
図3を参照して、本願発明の第1の量子鍵配送用受信装置の構成について説明する。第1の量子鍵配送用受信装置は、図2に示す複合型マッハ・ツェンダ干渉計に更に、第1単一光子検出器31、第2単一光子検出器32、及び乱数発生器22を備えている。
【0085】
乱数発生器22は、位相変調器21を制御して位相変調器21に0又はπ/2の光位相差を発生させる。第1単一光子検出器31は、第1出力系44に設置されて、第1出力系44から出力される光子を検出する。第2単一光子検出器32は、第2出力系46に設置されて、第2出力系46から出力される光子を検出する。
【0086】
これ以外の構成部分は、上述した複合型マッハ・ツェンダ干渉計と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0087】
<第1の量子鍵配送用受信装置の動作>
図2及び図3を参照して、本願発明の複合型マッハ・ツェンダ干渉計、及び複合型マッハ・ツェンダ干渉計を用いた第1の量子鍵配送用受信装置の実施形態の動作について説明する。
【0088】
複合型マッハ・ツェンダ干渉計において、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の主要構成要素は、第1合分波器11、第2合分波器12、光路X1、光路X2である。そして、位相変調器21と乱数発生器22を用いて、光路X1と光路X2間の光位相差が0あるいはπ/2になるようにランダムに選択して動作させる。この動作は、図1(A)を参照して説明した、従来の位相コーディング方式の量子鍵受信装置と同様である。
【0089】
ここで、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40は、ある一定の偏光状態(例えば、V偏光あるいはH偏光)に対してだけ動作すればよく、任意の偏光状態について動作する必要はない。すなわち、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40がV偏光に対して動作するものとした場合、H偏光に対してはその動作を保証する必要はなく、更にいえば、H偏光の光が双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40を通過できなくともよい。
【0090】
ここでは、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40がV偏光に対して動作するものとして説明するが、H偏光に対して動作するものとして説明することも可能である。そして、この場合は、ここでのV偏光に対する説明において、第1〜第3偏波面回転部等の各構成要素、及び光路L1〜L11において、H偏光とあるところをV偏光と読み替え、V偏光とあるところをH偏光と適宜読み替えればよい。
【0091】
複合型マッハ・ツェンダ干渉計に入力される光(光子)は、まず、第1偏光ビームスプリッタ13の第1入出力端13-1に入力される。すると、光子は第2入出力端13-2又は第3入出力端13-3から出力される。入力される光子の偏光状態は一般に不定であるから、第2入出力端13-2、第3入出力端13-3のどちらから出力されるかは確率的な現象である。いま、光子が第2入出力端13-2から出力されたとする。この時、光子の偏光状態はV偏光に確定される。
【0092】
第2入出力端13-2から出力された光子は、光路L1を伝搬して、第1光サーキュレータ16の第1入出力端16-1に入力され、第2入出力端16-2から出力されて光路L4を伝搬して、V偏光の状態で双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の第1合分波器11の第1入出力端11-1へ入力される。その後入力された光子は、第2入出力端11-2から出力されて、光路X1を伝搬して第2合分波器12の第2入出力端12-2に入力されるか、第3入出力端11-3から出力されて、光路X2ならびに位相変調器21を伝搬して第2合分波器12の第3入出力端12-3に入力される。その結果、入力された光子は第2合分波器12において干渉が生じ、光子は反射されて第4入出力端12-4から出力されるか、あるいは透過されて第1入出力端12-1から出力される。これら一連の動作において、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の入出力は、常にV偏光の状態である。
【0093】
第2合分波器12の第4入出力端12-4から出力された光子は、光路L6を伝搬し、第2偏波面回転部19でH偏光に変換され、光路L7を伝搬して第2偏光ビームスプリッタ14の第3入出力端14-3に入力され、H偏光であるために第1入出力端14-1から出力されて、第1単一光子検出器31で検出される。一方、第2合分波器12の第1入出力端12-1から出力された光子は、光路L5を伝搬し、第2光サーキュレータ17の入出力端17-2に入力されて出力端17-3から出力されて、光路L8を伝搬して、第3偏波面回転部20でH偏光に変換されて光路L9を伝搬し、第3偏光ビームスプリッタ15の第3入出力端15-3に入力され、H偏光であるために第1入出力端15-1から出力されて第2単一光子検出器32で検出される。
【0094】
一方、第1偏光ビームスプリッタ13の第1入出力端13-1に入力された光子が第3入出力端13-3から出力されたとする。この時、光子の偏光状態はH偏光に確定される。
【0095】
第3入出力端13-3から出力された光子は、光路L2を伝搬し、第1偏波面回転部18でV偏光に変換されて、光路L3 を経過し、第2光サーキュレータ17の入力端17-1に入力されて、入出力端17-2から出力されて、光路L5を伝搬して、V偏光の状態で双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の第2合分波器12の第1入出力端12-1に入力される。その後入力された光子は、第2入出力端12-2から出力されて、光路X1を伝搬して第1合分波器11の第2入出力端11-2に入力されるか、第3入出力端12-3から出力されて、光路X2ならびに位相変調器21を伝搬して第1合分波器11の第3入出力端11-3に入力される。その結果、入力された光子は第1合分波器11において干渉が生じ、光子は反射されて第4入出力端11-4から出力されるか、あるいは透過されて第1入出力端11-1から出力される。これら一連の動作において、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の入出力は、常にV偏光の状態である。
【0096】
第1合分波器11の第4入出力端11-4から出力された光子は、光路L11を伝搬し、第2偏光ビームスプリッタ14の第2入出力端14-2に入力され、V偏光であるために第1入出力端14-1から出力されて第1単一光子検出器31で検出される。一方、第1合分波器11の第1入出力端から出力された光子は、光路L4を伝搬し、第1光サーキュレータ16の入出力端16-2から入力されて出力端16-3から出力されて光路L10を伝搬して、第3偏光ビームスプリッタ15の第2入出力端15-2から入力されて、V偏光であるために第1入出力端15-1から出力されて、第2単一光子検出器32で検出される。
【0097】
以上説明したように、第1の量子鍵配送用受信装置によれば、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40を入出力するときの光子の偏光状態は、入力光子の偏光状態によらず常にV偏光である。したがってここで利用する双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40は、V偏光での動作が保証されていればよく、H偏光での動作が保証される必要がない。またV偏光でのみ入出力するのでH偏光に対しては光が通過しないような状態でもよい。同様に、位相変調器21を通過するときの光の偏光状態は常にV偏光なので、ここで用いる位相変調器21も偏光状態無依存で動作するものである必要はない。
【0098】
また以上説明したように、第1の量子鍵配送用受信装置によれば、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の第1合分波器11の第4入出力端11-4、または第2合分波器12の第4入出力端12-4から出力された光子は、ともに第1出力系44を介して出力されて第1単一光子検出器31で検出される。これら二つの出力をまとめて第1出力光d1と呼んでいる。一方、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の第1合分波器11の第1入出力端11-1、または第2合分波器12の第1入出力端12-1から出力された光子は、ともに第2出力系46を介して出力されて第2単一光子検出器32で検出される。これら二つの出力をまとめて第2出力光d2と呼んでいる。
【0099】
双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の動作は、第1合分波器11あるいは第2合分波器12のどちらを入出力端に用いても同じ動作をする、すなわち、第1合分波器11を入力側、第2合分波器12を出力側にしても、第2合分波器12を入力側、第1合分波器11を出力側にしても、同じ干渉特性が得られるならば、第1の量子鍵配送用受信装置で利用する双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40は、入力する光子の偏光状態によらず常に同じ干渉動作をすることになる。
【0100】
第1の量子鍵配送用受信装置によれば、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40から出力される成分は常に第1単一光子検出器31、又は常に第2単一光子検出器32で検出される。すなわち、第1の量子鍵配送用受信装置に入力される光子の偏光状態によらず、検出結果のビット値は第1単一光子検出器31又は第2単一光子検出器32のどちらが光子を検出したかで一意に決まる。
【0101】
また、光子検出の同時性を担保するには、第1偏光ビームスプリッタ13の第2入出力端13-2、又は第3入出力端13-3から出力された光子が、同じ遅延時間をもって第1単一光子検出器31と第2単一光子検出器32に到達する必要がある。
【0102】
双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の光路X1とX2間で生じる遅延時間は、光子がこの干渉計を常にV偏光で通過するため、第1偏光ビームスプリッタ13の第2入出力端13-2 から出力されたか、第3入出力端13-3 から出力されたかに関係なく常に一定である。したがって双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の光路X1とX2間で生じる遅延時間については、以下の考察では説明を省略する。
【0103】
まず、光子が第1の偏光ビームスプリッタ13の第2入出力端13-2から出力されて第1単一光子検出器31で検出されるまでの遅延時間は光路長L1+L4+L6+L7で決まる。また、光子が第1偏光ビームスプリッタ13の第3入出力端13-3から出力されて第1単一光子検出器31で検出されるまでの遅延時間は光路長L2+L3+L5+L11で決まる。これら二つの検出信号は、第1の単一光子検出器31に同時に到達しなければならない。それには光路長が次式(1)
L1+L4+L6+L7=L2+L3+L5+L11 (1)
で与えられる関係を満足しなければならない。
【0104】
同様に、光子が第1偏光ビームスプリッタ13の第2入出力端13-2から出力されて第2単一光子検出器32で検出されるまでの遅延時間は光路長L1+L4+L5+L8+L9で決まる。また、光子が第1偏光ビームスプリッタ13の第3入出力端13-3から出力されて第2単一光子検出器32で検出されるまでの遅延時間は光路長L2+L3+L5+L4+L10で決まる。これら二つの検出信号も、第2単一光子検出器32に同時に到達しなければならない。それには光路長が次式(2)
L1+L8+L9=L2+L3+L10 (2)
で与えられる関係を満足しなければならない。
【0105】
また、双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計40の光路X1又はX2の一方に光路で生じる光位相を変化させることのできる位相変調器21を挿入する。図2では光路X2に挿入しているが、光路X1に挿入してもよい。そして乱数発生器22の出力に応じて、位相変調器21を用いて光路X1、X2間の光位相差が0 もしくはπ/2の一方をランダムにとるようにすれば、図1(A)に示した従来の位相コーディング方式の量子鍵配送システムに用いられる位相コーディング方式用量子鍵受信装置と同様に機能する、アクティブモジュレーション方式で動作する位相コーディング方式用量子鍵受信装置を構成できる。
【0106】
第1の量子鍵配送用受信装置によれば、受信者が直線受信基底あるいは対角受信基底をランダムに選んで到来してきた光子の偏光測定を行うことができる。そして、送信者が送った光子の送信基底と、受信者が選択した受信基底の組み合わせによって、受信者は送信者が送信した光子の偏光状態を確定的に知ることができる。
【0107】
送信者と受信者は、直線基底あるいは対角基底を利用する仕組みを使って、基底が一致した場合のビット値のみを使用することで、ランダムな同一ビット列を共有できる。このビット列を暗号化のための共通鍵として利用することができる。すなわち、第1の量子鍵配送用受信装置によって、図1(A)に示す従来の位相コーディング方式の量子鍵配送システムにおける受信装置と同様にアクティブモジュレーション方式による量子鍵配送が実現される。
【0108】
<第2の量子鍵配送用受信装置の構成>
図4を参照して、本願発明の第2の量子鍵配送用受信装置の構成について説明する。第2の量子鍵配送用受信装置は、上述した複合型マッハ・ツェンダ干渉計を2台と、分波器411と、第1単一光子検出器33、第2単一光子検出器34、第3単一光子検出器35、第4単一光子検出器36を備えている。2台の複合型マッハ・ツェンダ干渉計とは、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506と第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の2台である。分波器411は入力端411-1と、第1出力端411-2、第2出力端411-3を備えている。
【0109】
第1と第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計506、507は、図2に示す複合型マッハ・ツェンダ干渉計であり、両者同一の構成であるから、以下の説明において、第1と第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計において同一の構成要素は同一の符号で示す。例えば、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の入力系42、及び第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の入力系42と示すことによって、どちらの干渉計に配置された入力系であるかを識別できるようにした。
【0110】
そして、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の位相変調器21は、光位相差が0となるように固定されており、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の位相変調器21は、光位相差がπ/2となるように固定されている。なお、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の位相変調器21は、光位相差がπ/2となるように設定された光位相回路を用いてもよく、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の位相変調器21は、光位相差が0となるように設定された光位相回路を用いてもよい。
【0111】
分波器411の第1出力端411-2は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の入力系42に接続され、第2出力端411-3は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の入力系42に接続されている。
【0112】
第1単一光子検出器33は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の第1出力系44に設置されて第1出力系44から出力される光子を検出し、第2単一光子検出器34は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の第2出力系46に設置されて第2出力系46から出力される光子を検出し、第3単一光子検出器35は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の第1出力系44に設置されて第1出力系44から出力される光子を検出し、第4単一光子検出器36は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の第2出力系46に設置されて第2出力系46から出力される光子を検出する。
【0113】
第2の量子鍵配送用受信装置の第1及び第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計506、507においては、第2アームである光路X2に位相変調器21が挿入されているが、上述の第1の量子鍵配送用受信装置の複合型マッハ・ツェンダ干渉計に挿入されている乱数発生器22は取り外されている。
【0114】
第1及び第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計のこれ以外の構成部分は、図3を参照して説明した第1の量子鍵配送用受信装置と同様であるので、重複する説明を省略する。
【0115】
<第2の量子鍵配送用受信装置の動作>
図4を参照して、第2の量子鍵配送用受信装置の実施形態の動作について説明する。第2の量子鍵配送用受信装置は、パッシブモジュレーション方式で動作する位相コーディング方式の量子鍵受信装置として機能する。
【0116】
第2の量子鍵配送用受信装置は、上述したように、第1の量子鍵配送用受信装置から乱数発生器22を取り外した構成の、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506と第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507、及びこの第1及び第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計にそれぞれ入力光子を供給する分波器411を備えている。そして、分波器411の一方の出力端である第1出力端411-2は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の入力系42に接続され、他方の出力端である第2出力端411-3は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の入力系42に接続されている。
【0117】
第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の位相変調器21は、光位相差が0となるように固定されており、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の位相変調器21は、光位相差がπ/2となるように固定されている。
【0118】
第1単一光子検出器33は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の第1出力系44に設置されて第1出力系44から出力される光子を検出し、第2単一光子検出器34は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の第2出力系46に設置されて第2出力系46から出力される光子を検出し、第3単一光子検出器35は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の第1出力系44に設置されて第1出力系44から出力される光子を検出し、第4単一光子検出器36は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の第2出力系46に設置されて第2出力系46から出力される光子を検出するように、それぞれ配置されている。
【0119】
第2の量子鍵配送用受信装置では、分波器411を用いて受信基底がランダムに選択される。
【0120】
分波器411の第1出力端411-2から出力される出力光は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506に入力され、分波器411の第2出力端411-3から出力される出力光は、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507に入力される。
【0121】
分波器411の第1入力端411-1に入力された光子は、第2、第3出力端411-2、411-3のいずれか一方からしか出力されないので、光子は第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506及び第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507のいずれか一方にのみ入力され、どちらの複合型マッハ・ツェンダ干渉計に入力されたか、より正確に言うと第1〜第4の単一光子検出器33〜36のうちのどれが光子を検出したかによって、受信基底が選択される。この場合、アクティブモジュレーション方式とは異なり、第1及び第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計506、507において、アーム間の光位相差は一方の複合型マッハ・ツェンダ干渉計で0に固定、他方の複合型マッハ・ツェンダ干渉計でπ/2に固定すればよく、乱数発生器は不要である。
【0122】
例えば、受信基底の選択は、第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の位相変調器21を用いて光路X1、X2間の光位相差が0となるように固定し、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の位相変調器21を用いて光路X1、X2間の光位相差がπ/2となるように固定することで実現される。あるいは、これとは逆に第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計506の位相変調器21を用いて光路X1、X2間の光位相差がπ/2となるように固定し、第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計507の位相変調器21を用いて光路X1、X2間の光位相差が0となるように固定してもよい。
【0123】
このように第1及び第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計506、507の位相変調器21を用いて光路X1、X2間の光位相差を固定すれば、第1〜第4の単一光子検出器(33〜36)のうちのどれが光子を検出したかによって、受信基底が選択される。
【0124】
すなわち、第2の量子鍵配送用受信装置によって、図1(B)に示す従来の位相コーディング方式の量子鍵配送システムにおける受信装置と同様にパッシブモジュレーション方式による量子鍵配送が実現される。
【符号の説明】
【0125】
11:第1合分波器
12:第2合分波器
11-1、12-1:第1入出力端
11-2、12-2:第2入出力端
11-3、12-3:第3入出力端
11-4、12-4:第4入出力端
13:第1偏光ビームスプリッタ
14:第2偏光ビームスプリッタ
15:第3偏光ビームスプリッタ
13-1、14-1、15-1:第1入出力端
13-2、14-2、15-2:第2入出力端
13-3、14-3、15-3:第3入出力端
16:第1光サーキュレータ
17:第2光サーキュレータ
16-1、17-1:入力端
16-2、17-2:入出力端
16-3、17-3:出力端
18:第1偏波面回転部
19:第2偏波面回転部
20:第3偏波面回転部
21:位相変調器
22:乱数発生器
31、33:第1単一光子検出器
32、34:第2単一光子検出器
35:第3単一光子検出器
36:第4単一光子検出器
40:双方向型非対称マッハ・ツェンダ干渉計
42:入力系
44:第1出力系
46:第2出力系
301、302、401、402、404、405:合分波器
301-1、302-1、401-1、402-1、404-1、405-1:第1入出力端
301-2、302-2、401-2、402-2、404-2、405-2:第2入出力端
301-3、302-3、401-3、402-3、404-3、405-3:第3入出力端
301-4、302-4、401-4、402-4、404-4、405-4:第4入出力端
303:位相変調器
304:乱数発生器
305、306、407、408、409、410:単一光子検出器
403、406:光位相回路
411:分波器
411-1:入力端
411-2:第1出力端
411-3:第2出力端
501:非対称マッハ・ツェンダ干渉計
502:第1非対称マッハ・ツェンダ干渉計
503:第2非対称マッハ・ツェンダ干渉計
506:第1複合型マッハ・ツェンダ干渉計
507:第2複合型マッハ・ツェンダ干渉計
図1
図2
図3
図4