(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
開閉可能な成形型内のキャビティに強化基材を配置し、前記成形型に型締圧力を負荷した状態において前記キャビティ内に樹脂を注入し、前記樹脂を硬化させて複合材料を成形する成形方法であって、
前記キャビティ内の圧力のしきい値を前記型締圧力より低く設定し、
前記キャビティ内に前記樹脂を注入するときには、前記キャビティ内の圧力が前記しきい値に達するまでは前記型締圧力以上の注入圧力を前記樹脂に負荷して前記樹脂を注入し、前記キャビティ内の圧力が前記しきい値に達した後は前記樹脂に注入圧力を負荷することなく前記キャビティ内を吸引することによって前記樹脂を前記キャビティ内に注入する、複合材料の成形方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0010】
図1は、複合材料200の成形装置100の概略図である。
図2は、樹脂注入部30の構成を示す概略図である。
図3(A)、
図3(B)は、成形型10の斜視図、平面図である。
図4(A)は
図3(B)の4A−4A線に沿う断面図、
図4(B)は
図3(B)の4B−4B線に沿う断面図である。
図5(A)、
図5(B)は、ラインゲート18の作用を説明する説明図であって、それぞれ、樹脂220を注入しているときの様子を説明する図、キャビティ15内を吸引しているときの様子を説明する図である。
図5(A)、
図5(B)では、強化基材210は省略して示している。
図6(A)、
図6(B)は、キャビティ15内に樹脂220を注入するときのキャビティ15内の様子を説明する説明図であって、
図4(A)、
図4(B)に対応する断面図である。
図7は、複合材料200の成形方法を示すフローチャートである。
図8(A)は、本実施形態に係るキャビティ15内の圧力Prの時間推移を表すグラフ図であり、
図8(B)は、本実施形態に係る樹脂220の注入圧力Piの時間推移を表すグラフ図である。
図9(A)は、複合材料200を使用した自動車部品301〜303を示す図であり、
図9(B)は、部品を接合した車体300を示す図である。
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0012】
本実施形態に係る成形方法および成形装置100によって得られる複合材料200は、強化基材210と、樹脂220と、によって構成されている。強化基材210と組み合わせることによって樹脂220単体に比べて高い強度および剛性を備える複合材料200となる。また、
図9に示すように、自動車の車体300(
図9(B)を参照)に使用される部品であるフロントサイドメンバー301やピラー302等の骨格部品、ルーフ303等の外板部品に複合材料200を使用することによって、鉄鋼材料を使用した場合に比べて車体の軽量化が可能となる。
【0013】
強化基材210は、炭素繊維、ガラス繊維、有機繊維等の織物シートによって形成され、積層された状態において成形型10に形成されたキャビティ15内に配置してプリフォームする。本実施形態においては、熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れ、高温下においても機械的特性の低下が少ない炭素繊維を用いる。なお、プリフォームは成形型10以外の別型により行ってもよい。
【0014】
樹脂220は、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂、フェノール樹脂等が用いられる。本実施形態においては、機械的特性、寸法安定性に優れたエポキシ樹脂を用いる。エポキシ樹脂は2液タイプが主流であり、主剤および硬化剤を混合して使用する。主剤はビスフェノールA型のエポキシ樹脂、硬化剤はアミン系のものが一般的に用いられるが、特にこれに限定されるものではなく、所望の材料特性に合わせて適宜選択できる。
【0015】
図1を参照して、本実施形態に係る成形装置100は、概説すると、炭素繊維210(強化基材に相当)を配置するキャビティ15が形成された開閉可能な成形型10と、成形型10に型締圧力Pmを負荷するプレス部20と、キャビティ15内に樹脂220を注入する樹脂注入部30と、を有する。成形装置100は、樹脂注入部30に備えられ樹脂220の注入圧力Piを調整自在な注入バルブ40と、キャビティ15内の圧力Prを測定する圧力計50と、キャビティ15内を吸引する吸引部60と、成形型10の温度を調整する成形型温度調整部70と、成形装置100全体の作動を制御する制御部80と、をさらに有する。以下、成形装置100について詳述する。
【0016】
成形型10は、開閉可能な一対の上型11(雄型)と、下型12(雌型)と、注入口13a、13bと、吸引口14と、キャビティ15と、流路16a、16b、17と、ラインゲート18と、を有する。炭素繊維210は、積層してプリフォームした状態において予めキャビティ15内に配置する。
【0017】
注入口13a、13bは、下型12の下方部に設けられる。注入口13a、13bは樹脂注入部30に連結される。
【0018】
吸引口14は、下型12の下方部中央に設けられる。吸引口14は吸引部60に連結される。
【0019】
キャビティ15は、
図4(A)、
図4(B)に示すように、上型11の内面S1と下型12の内面S2とによって密閉自在に形成される。キャビティ15内を密閉状態にするために、上型11と下型12の合わせ面にシール部材等を設けてもよい。
【0020】
流路16a(16b)は、注入口13a(13b)と流体的に連通している。樹脂注入部30から注入口13a(13b)に注入された樹脂220は、流路16a(16b)を通ってキャビティ15内に導かれる。
【0021】
流路17は、吸引口14と流体的に連通している。流路17および吸引口14を介して、吸引部60によりキャビティ15内が吸引される。
【0022】
本実施形態において、ラインゲート18は、
図3および
図4に示すように下型12の内面S2に矩形状に設けられる。ラインゲート18を成形型10に設けることにより、注入口13a、13bから注入された樹脂220がキャビティ15内に効率的に広がりやすくなる。これにより、炭素繊維210への樹脂220の含浸が促進される。具体的には、
図5(A)を参照して、注入口13a(13b)から注入された樹脂220は、流路16a(16b)を通ってキャビティ15に導かれる。キャビティ15内に導かれた樹脂220は、矢印で示したようにラインゲート18に沿って広がりながら、炭素繊維210の下面から内部に含浸していく。ラインゲート18に沿って広がりながら炭素繊維210に含浸されるため、樹脂220の含浸が効率的になされる。また、ラインゲート18内が樹脂220によって満たされると、
図6(A)、
図6(B)に示すように、樹脂220の一部は、矢印で示したように炭素繊維210と上型11および下型12との間を通って炭素繊維210の側面側および上面側にも広がっていく。そして、炭素繊維210の側面および上面からも樹脂220が内部に含浸していく。
【0023】
プレス部20は、成形型10の上型11に型締圧力Pmを負荷する。プレス部20は、油圧等の流体圧を用いたシリンダー21を有し、油圧等を制御することによって型締圧力Pmを調整する。
【0024】
樹脂注入部30は、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達するまでは、注入圧力Piを負荷して樹脂220をキャビティ15内に注入する。一方、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達した後は、注入圧力Piを負荷することなくキャビティ15内に樹脂220を注入する。
【0025】
図1および
図2を参照して、樹脂注入部30は、主剤タンク31と、硬化剤タンク32と、チューブ33a、33b、36、37a、37bと、圧力計34a、34bと、ポンプ35a、35bと、バッファ38a、38bと、注入バルブ40と、を有する。
【0026】
主剤タンク31には主剤が充填され、硬化剤タンク32には硬化剤が充填される。
【0027】
圧力計34a、34bは、樹脂220の注入圧力Piを測定するため、注入口13a、13b付近のチューブ37a、37bにそれぞれ配置する。
【0028】
図2を参照して、ポンプ35a、35bは、主剤タンク31および硬化剤タンク32に連結されるチューブ33a、33bにそれぞれ配置する。ポンプ35a、35bは、主剤および硬化剤を一定圧力において注入バルブ40に向けて吐出する。
【0029】
チューブ36は後述する注入バルブ40とバッファ38a、38bとを接続し、チューブ37a(37b)はバッファ38a(38b)と注入口13a(13b)とを接続する。注入バルブ40から吐出された樹脂220は、チューブ36、バッファ38a(38b)、チューブ37a(37b)の順に経由して注入口13a(13b)へと導かれる。
【0030】
バッファ38a(38b)は、チューブ36およびチューブ37a(37b)と流体的に連通した状態で接続される。樹脂220がバッファ38a、38bを通るとき、バッファ38a、38b内には一定量の樹脂220が蓄えられる。バッファ38a、38b内に一定量の樹脂220が蓄えられることにより、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達した後において、注入圧力Piを負荷することなくキャビティ15内に樹脂220が注入される。
【0031】
具体的には、注入圧力Piを負荷して樹脂220を注入しているとき、キャビティ15内の圧力Prとバッファ38a、38b内の圧力は、ほぼ等しい圧力となっている。そして、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達した後、キャビティ15内は後述する吸引部60により吸引される。吸引部60がキャビティ15内を吸引することにより、キャビティ15内の圧力Prは、バッファ38a、38b内の圧力よりも相対的に低い圧力となる。当該圧力差によって、バッファ38a、38b内に蓄えられていた樹脂220がキャビティ15内へと当該圧力差がなくなるまで注入される。
【0032】
注入バルブ40は、シリンダー41と、ピストン42と、を有する。シリンダー41は、ピストン42の基端部42aによって区画された2つのチャンバ41u、41dを有する。2つのチャンバ41u、41dに供給する空圧または油圧などの流体圧を調整することによって、ピストン42は図において上下方向に移動する。ピストン42がシリンダー41内を移動することによって、主剤および硬化剤の流通経路の開度を調整する。この注入バルブ40の開度によって、樹脂220のキャビティ15内への注入量Qiを調整し、成形型10に搬送される樹脂220の注入圧力Piを調整する。なお、樹脂220が硬化する前の状態において粘度が200[mPa・s]以下のとき、キャビティ15内への樹脂220の注入量Qiと注入圧力Piは、Qi
2=A×Pi(Aは、流出係数、流路面積および流体密度によって決まる値)の式によって表される相関関係にあることが知られている。
【0033】
シリンダー41は、上側吸入口44と、下側吐出口45と、を有する。ピストン42が図において上方に移動すると、下側吐出口45が開く。下側吐出口45のそれぞれから吐出した主剤および硬化剤は、混合されて樹脂220となる。樹脂220は、チューブ36、バッファ38a(38b)、チューブ37a(37b)を順に経由して注入口13a(13b)に吐出される。ピストン42が図において下方に移動すると、上側吸入口44と下側吐出口45とが、ピストン42に形成した凹部43を介して連通する。主剤および硬化剤は、下側吐出口45から凹部43を通り、上側吸入口44から主剤タンク31および硬化剤タンク32に再び戻される。この動作によって、主剤および硬化剤は、一定の圧力においてチューブ33内を循環する。
【0034】
図1を再び参照して、圧力計50は、ひずみゲージ等を備え、キャビティ15内の圧力Prを測定するために成形型10に配置される。
【0035】
吸引部60は、キャビティ15内を吸引する。具体的には、吸引部60は、キャビティ15内の空気、およびキャビティ15内に注入された樹脂220の一部を吸引する。より具体的には、吸引部60は、キャビティ15内を吸引するときに、キャビティ15内の圧力Prを徐々に降下させる。
【0036】
図1を参照して、吸引部60は、ポンプ61と、配管62、64と、吸引バルブ63と、を有する。ポンプ61は、気体と液体の混合移送が可能な真空ポンプである。吸引バルブ63は、キャビティ15内の吸引の開始や停止の操作、および吸引圧の調節に使用される。吸引バルブ63を操作することにより、キャビティ15内の圧力Prが徐々に降下するようにキャビティ15内を吸引することができる。本実施形態において、吸引バルブ63は、後述する制御部80により操作される。ポンプ61を作動させた状態で吸引バルブ63を開くことにより、キャビティ15内の空気、およびキャビティ15内に注入された樹脂220の一部が配管62、64を介してポンプ61に吸引される。
【0037】
吸引部60がキャビティ15内に注入された樹脂220の一部を吸引することにより、キャビティ15内に樹脂220の注入スペースが確保される。そのため、注入圧力Piを負荷することなく樹脂220をキャビティ15内に注入し易くなる。
【0038】
具体的には、吸引部60が樹脂220の一部を吸引することにより、
図5(B)において矢印で示すように、キャビティ15内において樹脂220の流れが生じる。樹脂220の流れが生じることによってキャビティ15内に樹脂220が拡散される。そのため、高い注入圧力Piを負荷して注入しなければ到達させるのが難しい箇所に、注入圧力Piを負荷することなく樹脂220を到達させることができる。樹脂220の流れは、キャビティ15内の大部分を樹脂220が満たしている状態の方が生じやすい。
【0039】
成形型温度調整部70は、加熱部材を有し、成形型10を樹脂220の硬化温度まで加熱し、キャビティ15内に注入された樹脂220を硬化させる。加熱部材は、電気ヒーターであり、直接的に成形型10を加熱する。なお、加熱部材はこれに限定されず、たとえば、油などの熱媒体を電気ヒーターによって加熱し、成形型10内に熱媒体を循環させることによって、成形型10の温度を調整してもよい。
【0040】
制御部80は、成形装置100全体の動作を制御する。制御部80は、記憶部81と、演算部82と、入出力部83と、を有する。入出力部83は、圧力計34a、34b、50と、注入バルブ40と、吸引部60と、成形型温度調整部70とに接続される。記憶部81は、ROMやRAMから構成され、キャビティ15内の圧力Prのしきい値Pc等のデータを予め記憶する。演算部82は、CPUを主体に構成され、入出力部83を介して圧力計34a、34b、50からの樹脂220の注入圧力Piおよびキャビティ15内の圧力Prのデータを受信する。演算部82は、記憶部81から読み出したデータおよび入出力部83から受信したデータを基に注入バルブ40のピストン42位置、吸引部60の吸入圧および成形型温度調整部70による成形型10の加熱温度を算出する。算出データを基にした制御信号は、入出力部83を介して注入バルブ40、吸引部60および成形型温度調整部70に送信する。このようにして、制御部80は、樹脂220の注入圧力Pi、真空引き時のキャビティ15内の圧力Pr、成形型温度等を制御する。
【0041】
また、制御部80は、吸引部60の吸引タイミングを制御する。具体的には、制御部80は、樹脂220を注入する前に、成形型15内を真空引きするように吸引部60を制御する。さらに、制御部80は、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達した後、キャビティ15内を吸引するように吸引部60を制御する。このとき、制御部80は、キャビティ15内の圧力Prが徐々に降下するように吸引部60を制御する。キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達したか否かは、圧力計50による計測値に基づいて判断する。
【0042】
以下、
図7を参照して複合材料200の成形方法の手順について説明する。
【0043】
図7に示すように、複合材料200の成形方法は、炭素繊維210を配置する工程(ステップS1)と、成形型10を型閉じする工程(ステップS2)と、真空吸引を行う工程(ステップS3)と、樹脂220を注入する工程(ステップS4〜S9)と、樹脂220を硬化させる工程(ステップS10)と、脱型する工程(ステップS11)と、を有する。以下、各工程について詳述する。なお、ステップS1、S10、S11の操作を除き、制御部80が各ステップの処理を実行する。
【0044】
まず、炭素繊維210を積層し、成形型10のキャビティ15内に配置してプリフォームする(ステップS1)。このとき、キャビティ15に臨む型内面を、所定の有機溶剤を用いて脱脂処理し、離型剤を用いて離型処理を施しておく。
【0045】
次に、成形型10を型閉じする(ステップS2)。本実施形態では、プレス部20により成形型10に型締圧力Pmを負荷することにより成形型10の上型11と下型12が接近して型閉じが進行する。成形型10の上型11が下型12に接触すると成形型10の型閉じが完了となる。このとき、上型11と下型12の間に、密閉されたキャビティ15が形成される。
【0046】
次に、吸引部60によって吸引口14から空気を吸引し、真空引きを行い、キャビティ15内を真空状態にする(ステップS3)。このとき、圧力が負圧となるように圧力計50のデータを基に制御部80によって調整する。真空引きを行うことによって、表面に発生する気泡を防止し、成形品である複合材料200のボイドやピットを減らすことができ、複合材料200の機械的特性や意匠性を向上させることができる。
【0047】
次に、樹脂220の注入圧力Piが型締圧力Pmよりも高い圧力P1(
図8(B)を参照)となるように調整し、注入口13a、13bから樹脂220の注入を開始する(ステップS4)。樹脂220は、注入バルブ40から吐出され、バッファ38a、38bを経由してキャビティ15内に注入される。このとき、バッファ38a、38bは、一定量の樹脂220を蓄える。キャビティ15内に注入された樹脂220は、
図5(A)および
図6(A)、
図6(B)を参照して上述したように、ラインゲート18を介してキャビティ15内に広がりながら炭素繊維210に含浸されていく。
【0048】
樹脂220の注入開始後、所定時間内に圧力計50によってキャビティ15内の圧力Prを測定する(ステップS5)。キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達するまで、注入圧力Piを負荷して樹脂220を注入するとともに、キャビティ15内の圧力Prの測定を継続する(ステップS5:「No」、ステップS4)。キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達したら(ステップS5:「Yes」)、樹脂220への注入圧力Piの負荷を停止する。このとき、キャビティ15内の圧力Prと、バッファ38a、38b内の圧力はほぼ等しい状態にある。
【0049】
次に、吸引部60によりキャビティ15内の吸引を開始する(ステップS6)。吸引部60によりキャビティ15内を吸引することにより、キャビティ15内の圧力Prは、バッファ38a、38b内の圧力よりも相対的に低い圧力となる。当該圧力差によって、バッファ38a、38b内に蓄えられていた樹脂220がキャビティ15内へと当該圧力差がなくなるまで注入される。すなわち、注入圧力Piを負荷せずに樹脂220がキャビティ15内に注入される(ステップS7)。キャビティ15内の吸引は、キャビティ15内の圧力Prが徐々に降下するように行う。
【0050】
キャビティ15内に樹脂220が完全に充填されるまでステップS7の動作を繰り返す(ステップS8:「No」、ステップS7)。
【0051】
キャビティ15内に樹脂220を規定量注入し終えると(ステップS8:「Yes」)、キャビティ15内の吸引を停止する(ステップS9)。
【0052】
次に、キャビティ15内の樹脂220が十分硬化するまで放置する(ステップS10)。なお、成形型10全体は、成形型温度調整部70によって樹脂220の硬化温度に予め温度調節してある。
【0053】
成形型10を開き、成形された複合材料200を脱型すると、成形が完了する(ステップS11)。
【0054】
次に、
図8(A)および(B)を参照して、本実施形態に係る成形装置および成形方法の作用効果について詳述する。
【0055】
図8(A)および(B)において実線によって示されるグラフは、
図1および
図7に示す本実施形態に係る成形装置および成形方法によるキャビティ15内の圧力Prおよび樹脂220の注入圧力Piの時間推移を示す。破線によって示されるグラフは、対比例であり、型締圧力Pmを超える注入圧力P1を注入完了まで一定に負荷してキャビティ15内に樹脂220を注入した場合のキャビティ15内の圧力Prおよび樹脂220の注入圧力Piの時間推移を示す。対比例に係る成形装置および成形方法は、型締圧力Pmを超える注入圧力P1を注入完了まで一定に負荷してキャビティ15内に樹脂220を注入する点を除いて、本実施形態に係る成形装置および成形方法と同じである。
【0056】
時間0[sec]〜t1は型締工程、時間t1〜t2は真空引き工程、時間t2〜t3は樹脂220の注入工程、t3以降は樹脂220の硬化工程である。ここで、
図8(A)および(B)に示すように、樹脂220を注入圧力Piで注入後、キャビティ15内の圧力Prは直ぐには上昇せず、注入圧力Piより遅れて徐々に上昇する。
【0057】
図8(A)に破線によって示す対比例のように注入圧力Piを注入完了まで一定に負荷してキャビティ15内に樹脂220を注入する場合、成形時間と型締圧力とはトレードオフの関係にある。具体的には、注入工程に要する時間を短縮するためには型締圧力を大きくする必要があり、型締圧力を小さくするためには注入工程に要する時間を長くとらなければならない。
【0058】
より具体的には、注入工程に要する時間を短縮するためには、キャビティ15内に樹脂220を注入するときの注入量Qiを大きくする必要がある。そして、注入量Qiを大きくするためには注入圧力Piを高める必要がある。上述したように、キャビティ15内の圧力Prは注入圧力Piより遅れて徐々に上昇していく。そして、キャビティ15内が樹脂220でほぼ満たされたとき、キャビティ15内の圧力Prは最大値をとる。このとき、成形型10が開かないようにするためには、キャビティ15内の圧力Prの最大値よりも大きな型締圧力を成形型10に加える必要がある。
【0059】
ここで、キャビティ15内の圧力Prの最大値は注入圧力Piが高いほど大きくなる。そのため、注入圧力Piを高めると、より大きな型締圧力を成形型10に加える必要がある。例えば、対比例の場合、
図8(A)に示すようにキャビティ15内の圧力Prの最大値はP2である。P2は本実施形態の型締圧力Pmよりも高いから、対比例において成形型10が開かないようにするためには、本実施形態の型締圧力Pmよりも大きな型締圧力を負荷する必要がある。
【0060】
逆に、型締圧力を小さくするためには、注入工程におけるキャビティ15内の圧力Prの最大値を小さくする必要がある。キャビティ15内の圧力Prの最大値は注入圧力Piが高いほど大きくなるから、キャビティ15内の圧力Prの最大値を小さくするためには注入圧力Piを低くしなければならない。注入圧力Piを低くすると注入量Qiが小さくなるから注入工程に要する時間が長くなる。
【0061】
一方、本実施形態にあっては、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達するまでは、型締圧力Pm以上の注入圧力Piを樹脂220に負荷してキャビティ15内に樹脂220を注入する。
図8(B)に示す例では、本実施形態における注入圧力Pi=P1であるから、時間t2〜tcにおける注入量Qiは対比例の場合と同じである。そして、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達した後は、キャビティ15内を吸引することにより注入圧力Piを負荷することなく樹脂220を注入する。これにより、型締圧力Pm以上の注入圧力Piを樹脂220の注入完了まで負荷したときと同じ注入量Qiを維持するように樹脂220を注入できる。
【0062】
図8(A)および(B)に示す例では、型締圧力Pm以上の注入圧力P1を樹脂220の注入完了まで負荷した対比例の場合と同じ注入量を維持するように樹脂220を注入できる。このとき、キャビティ15内の圧力Prが型締圧力Pmを超えることはない。上述したように、本実施形態における型締圧力Pmは、対比例の場合において必要な型締圧力よりも小さい。従って、本実施形態に係る成形装置および成形方法は、対比例の場合と同じ注入量を維持しつつ型締圧力を小さくすることができる。そのため、本実施形態に係る成形装置および成形方法は、成形時間の短縮と型締圧力Pmの抑制を同時に達成できる。型締圧力Pmの抑制は、プレス機の小型化を可能とし、設備費用の低減に寄与する。
【0063】
しきい値Pcは、樹脂220の材料特性、注入量、注入速度等に基づいて予め設定する。本実施形態においては、しきい値Pcを型締圧力Pmの90%に設定している。圧力測定の誤差を考慮して、しきい値Pcは例えば型締圧力Pmの85%〜95%の範囲の値を選択することができる。型締圧力Pmに達する直前にしきい値Pcが設定されるから、キャビティ15内の圧力Prが型締圧力Pmに達する直前まで、型締圧力Pmを超える注入圧力Piを負荷して樹脂220を注入できる。
【0064】
しきい値Pcを高い値に設定することにより、注入工程におけるキャビティ15内の圧力Prも高まる。キャビティ15内の圧力Prが高い状態になることによって、炭素繊維210への樹脂220の含浸性を向上させることができる。ただし、樹脂220への注入圧力Piの負荷を停止する操作においてキャビティ15内の圧力Prが型締圧力Pmを超えるオーバーシュートが生じないように、しきい値Pcを設定することが好ましい。
【0065】
また、しきい値Pcは、総注入量の90%の樹脂220がキャビティ15内に注入されたときのキャビティ15内の圧力を選択してもよい。このとき、圧力測定の誤差を考慮して、しきい値Pcは、総注入量の85%〜95%の樹脂220がキャビティ15内に注入されたときのキャビティ15内の圧力を選択できる。
図5(B)を参照して上述したように、キャビティ15内の大部分を樹脂220が満たした状態でキャビティ15内を吸引することにより、キャビティ15内において樹脂220の流れが生じやすくなる。そのため、注入圧力Piを樹脂220に負荷することなく、キャビティ15内に樹脂220を行き渡らせることが容易になる。
【0066】
吸引部60は、
図8(A)に示すように、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達した後においてキャビティ15内を吸引するときに、キャビティ15内の圧力Prを徐々に降下させる。これにより、硬化時の樹脂220の収縮率を低下させることができる。そのため、成形品である複合材料200の成形収縮率を低下させ、設計通りの形状を安定して得ることができる。
【0067】
以上説明したように、本実施形態に係る成形装置100および成形方法では、キャビティ15内の圧力Prのしきい値Pcを型締圧力Pm以下に設定する。そして、キャビティ15内に樹脂220を注入するときには、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達するまでは型締圧力Pm以上の注入圧力Piを負荷して樹脂220を注入する。さらに、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達した後は、キャビティ15内を吸引することにより注入圧力Piを負荷することなく樹脂220を注入する。
【0068】
このように構成した成形装置100および成形装置100を使用する成形方法によれば、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達するまでは、型締圧力Pm以上の注入圧力Piを樹脂220に負荷してキャビティ15内に樹脂220を注入できる。そして、キャビティ15内の圧力Prがしきい値Pcに達した後は、キャビティ15内を吸引することにより注入圧力Piを負荷することなく樹脂220を注入できる。これにより、キャビティ15内の圧力Prが型締圧力Pmを超えることなく、型締圧力Pm以上の注入圧力Piを樹脂220の注入完了まで負荷したときと同じ注入量Qiを維持するように樹脂220を注入できる。従って、本発明によれば、成形時間を短縮しつつ、型締圧力Pmを抑えることによってプレス機を小型化することが可能となる。
【0069】
また、本実施形態に係る成形装置100および成形装置100を使用する成形方法では、キャビティ15内を吸引するときに、キャビティ15内に注入された樹脂220の一部を吸引する。
【0070】
このように構成した成形装置100および成形装置100を使用する成形方法によれば、キャビティ15内に樹脂220の注入スペースが確保されるため、注入圧力Piを負荷することなく樹脂220をキャビティ15内に注入し易くなる。従って、成形時間を短縮しつつ型締圧力を抑えることがより容易になる。
【0071】
また、本実施形態に係る成形装置100および成形方法では、しきい値Pcは、型締圧力Pmの85%〜95%の範囲の値を選択できる。
【0072】
このように構成した成形装置100および成形装置100を使用する成形方法によれば、型締圧力Pmに達する直前にしきい値Pcが設定されるから、キャビティ15内の圧力Prが型締圧力Pmに達する直前まで、型締圧力Pmを超える注入圧力Piを負荷して樹脂220を注入できる。従って、成形時間をより短縮しつつ、型締圧力を抑えることが可能となる。
【0073】
また、本実施形態に係る成形装置100および成形方法では、しきい値Pcは、総注入量の85%〜95%の樹脂220がキャビティ15内に注入されたときのキャビティ15内の圧力を選択できる。
【0074】
このように構成した成形装置100および成形装置100を使用する成形方法によれば、キャビティ15内の大部分を樹脂220が満たした状態でキャビティ15内を吸引することにより、キャビティ15内において樹脂220の流れが生じやすい。そのため、注入圧力Piを樹脂220に負荷することなく、キャビティ15内に樹脂220を行き渡らせることが容易になる。従って、成形時間の短縮がより容易になる。
【0075】
また、本実施形態に係る成形装置100および成形方法では、キャビティ15内を吸引するときに、キャビティ15内の圧力を徐々に降下させる。
【0076】
このように構成した成形装置100および成形装置100を使用する成形方法によれば、成形品である複合材料200の成形収縮率を低下させ、設計通りの形状を安定して得ることができる。従って、寸法安定性の高い良品質な複合材料200の成形品を得ることができる。
【0077】
また、本実施形態に係る成形装置100および成形方法では、樹脂220を注入する前に、成形型10内を真空引きする。
【0078】
このように構成した成形装置100および成形装置100を使用する成形方法によれば、樹脂220の注入前にキャビティ15内を真空状態にすることによって、樹脂220注入後に樹脂220内および表面に発生する気泡を防止し、成形品である複合材料200のボイドやピットを減らすことができる。これによって、複合材料200の機械的特性や意匠性を向上させることができる。
【0079】
また、本実施形態に係る成形装置100および成形方法では、強化基材210は炭素繊維から形成されてなる。
【0080】
このように構成した成形装置100および成形装置100を使用する成形方法によれば、炭素繊維を強化基材に使用することによって、熱膨張係数が小さく寸法安定性に優れ、高温下においても機械的特性の低下が少ない複合材料200を成形することができる。
【0081】
また、本実施形態に係る成形装置100および成形方法では、複合材料200は、自動車部品に使用される。
【0082】
このように構成した成形装置100および成形装置100を使用する成形方法によれば、量産に適した複合材料200の自動車部品を成形することができ、車体の軽量化が可能となる。
【0083】
(その他の改変例)
上述した実施形態において、流路16a、16b、17、およびラインゲート18は、
図3および
図4に示すように成形型10に配置された。当該構成に限らず、流路16a、16b、17、およびラインゲート18は、注入口13a、13bから注入された樹脂220をキャビティ内に効率的に広がりやすくする限りにおいて限定されない。
【0084】
例えば、流路416、417、およびラインゲート418を、
図10(A)、
図10(B)に示すように配置してもよい。流路416、417、およびラインゲート418は、それぞれ、上述した実施形態の場合と同様に成形型の下型に設けられる。また、樹脂220の注入口413(不図示)、吸引口414(不図示)は、それぞれ、流路416、417の下方側に流路416、417と流体的に連通して設けられる。
図10(A)、
図10(B)に示される矢印は、それぞれ、樹脂220を注入しているときの樹脂220の流れ、キャビティ内を吸引しているときの樹脂220の流れを示す。
【0085】
また、流路516、517a〜d、およびラインゲート518を、
図11(A)、
図11(B)に示すように配置してもよい。流路516、517a〜d、およびラインゲート518は、それぞれ、上述した実施形態の場合と同様に成形型の下型に設けられる。また、樹脂220の注入口513(不図示)、吸引口514a〜d(不図示)は、それぞれ、流路516、517a〜dの鉛直方向下方側に流路516、517a〜dと流体的に連通して設けられる。
図11(A)、
図11(B)に示される矢印は、それぞれ、樹脂220を注入しているときの樹脂220の流れ、キャビティ内を吸引しているときの樹脂220の流れを示す。
【0086】
図10および
図11に示すように、流路およびラインゲートの配置を変えることによって、樹脂220を注入しているときの樹脂220の流れおよびキャビティ内を吸引しているときの樹脂220の流れを変えることができる。これにより、樹脂220の到達しにくい箇所に樹脂220が効率的に行き渡るように樹脂220の流れを調節することが可能である。また、キャビティ内において樹脂220をより多く含浸させたい箇所に樹脂220がより多く行き渡るように調節することも可能である。これにより、より低い注入圧力であっても、樹脂220をキャビティ内に効率よく行き渡らせることができる。そのため、型締圧力Pmをさらに抑えることが可能となる。
【0087】
以上、実施形態を通じて複合材料200の成形方法および成形装置100を説明したが、本発明は実施形態において説明した構成のみに限定されることはなく、特許請求の範囲の記載に基づいて適宜変更することが可能である。
【0088】
たとえば、上述した実施形態および改変例において、制御部80が吸引バルブ63を操作することにより吸引部60がキャビティ15内を吸引するタイミングを操作したが、これに限定されない。例えば、吸引バルブ63の代わりに、キャビティ15内の圧力がしきい値Pcに達したときに開く弁を使用してもよい。また、注入口13a、13b、および吸引口14はともに下型に設けられたが、一方または両方を上型に設けてもよい。