(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ブレーキトルク推定手段は、車両へのブレーキ制動量の入力とモータの回転速度の伝達特性のモデルGb(s)を含むフィルタを用いて前記ブレーキトルク推定値を算出する、
請求項1から5のいずれかに記載の電動車両の制御装置。
前記ブレーキトルク推定手段は、ローパスフィルタH(s)と、車両へのトルク入力とモータの回転速度の伝達特性のモデルGp(s)の逆系とから構成されるH(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタをさらに用いて前記ブレーキトルク推定値を算出する、
請求項6に記載の電動車両の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態における電動車両の制御装置を備えた電気自動車の主要構成を示すブロック図である。本発明の電動車両の制御装置は、車両の駆動源の一部または全部として電動モータ4を備え、電動モータの駆動力により走行可能な電動車両に適用可能である。電動車両には、電気自動車だけでなく、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車も含まれる。特に、本実施形態における電動車両の制御装置は、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御することができる車両に適用することができる。この車両ではドライバは、加速時にアクセルペダルを踏み込み、減速時や停止時には、踏み込んでいるアクセルペダルの踏み込み量を減らすか、または、アクセルペダルの踏み込み量をゼロとする。なお、登坂路においては、車両の後退を防ぐためにアクセルペダルを踏み込みつつ停止状態に近づく場合もある。
【0009】
モータコントローラ2は、車速V、アクセル開度AP,電動モータ(三相交流モータ)4の回転子位相α、電動モータ4の電流iu、iv、iw等の車両状態を示す信号をデジタル信号として入力し、入力された信号に基づいて、電動モータ4を制御するためのPWM信号を生成する。また、モータコントローラ2は、生成したPWM信号により、インバータ3のスイッチング素子を開閉制御する。また、モータコントローラ2は、後述する外乱トルクを推定する外乱トルク推定手段と、後述するモータトルク指令値を算出するモータトルク指令値算出手段と、モータトルク指令値に基づいて電動モータ4を制御するモータ制御手段と、後述するブレーキトルク推定値を算出するブレーキトルク推定手段としての機能を有する。
【0010】
インバータ3は、例えば、各相毎に2個のスイッチング素子(例えば、IGBTやMOS−FET等のパワー半導体素子)をオン/オフすることにより、バッテリ1から供給される直流の電流を交流に変換し、電動モータ4に所望の電流を流す。
【0011】
電動モータ4は、インバータ3から供給される交流電流により駆動力を発生し、減速機5およびドライブシャフト8を介して、左右の駆動輪9a、9bに駆動力を伝達する。また、電動モータ4は、車両の走行時に駆動輪9a、9bに連れ回されて回転するときに、回生駆動力を発生させることで、車両の運動エネルギーを電気エネルギーとして回収する。この場合、インバータ3は、電動モータ4の回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリ1に供給する。
【0012】
電流センサ7は、電動モータ4に流れる3相交流電流iu、iv、iwを検出する。ただし、3相交流電流iu、iv、iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。
【0013】
回転センサ6は、例えば、レゾルバやエンコーダであり、電動モータ4の回転子位相αを検出する。
【0014】
ブレーキコントローラ11は、ブレーキペダル10の踏み込み量に応じてブレーキ制動量Bを設定し、ブレーキ制動量Bに応じてブレーキ液圧を制御する。
【0015】
液圧センサ12は、ブレーキ操作量検出手段として機能し、ブレーキ液圧を検出することでブレーキ制動量Bを取得して、取得したブレーキ制動量Bをモータコントローラ2へ出力する。
【0016】
摩擦ブレーキ13は、ブレーキ液圧に応じて、ブレーキパッドをロータに押し当て、車両に制動力を発生させる。
【0017】
図2は、モータコントローラ2によって行われるモータ電流制御の処理の流れを示すフローチャートである。
【0018】
ステップS201では、車両状態を示す信号を入力する。ここでは、車速V(km/h)、アクセル開度AP(%)、電動モータ4の回転子位相α(rad)、電動モータ4の回転速度Nm(rpm)、電動モータ4に流れる三相交流電流iu、iv、iw、バッテリ1とインバータ3間の直流電圧値Vdc(V)、ブレーキ制動量Bを入力する。
【0019】
車速V(km/h)は、図示しない車速センサや、他のコントローラより通信にて取得する。または、回転子機械角速度ωmにタイヤ動半径Rを乗算し、ファイナルギアのギア比で除算することにより車速v(m/s)を求め、3600/1000を乗算することにより単位変換して、車速V(km/h)を求める。
【0020】
アクセル開度AP(%)は、図示しないアクセル開度から取得するか、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから通信にて取得する。
【0021】
電動モータ4の回転子位相α(rad)は、回転センサ6から取得する。電動モータ4の回転速度Nm(rpm)は、回転子角速度ω(電気角)を電動モータ4の極対数pで除算して、電動モータ4の機械的な角速度であるモータ回転速度ωm(rad/s)を求め、求めたモータ回転速度ωmに60/(2π)を乗算することによって求める。回転子角速度ωは、回転子位相αを微分することによって求める。
【0022】
電動モータ4に流れる電流iu、iv、iw(A)は、電流センサ7から取得する。
【0023】
直流電圧値Vdc(V)は、バッテリ1とインバータ3間の直流電源ラインに設けられた電圧センサ(不図示)、または、バッテリコントローラ(不図示)から送信される電源電圧値から求める。
【0024】
ブレーキ制動量Bは、ブレーキ液圧を検出する液圧センサ12より取得する。ドライバのブレーキ操作量を検出するストロークセンサ等(不図示)の値を使用してもよい。また、図示しない車両コントローラや他のコントローラから通信にてブレーキ指令値を取得して、ブレーキ制動量Bとしてもよい。センサ値もしくは指令値からブレーキ制動量Bを設定する際、ブレーキ制動量Bを車両に入力してから実際に車両に制動力が作用するまでの応答性を考慮する。
【0025】
ステップS202では、第1のトルク目標値Tm1
*を設定する。具体的には、ステップS201で入力されたアクセル開度APおよびモータ回転速度ωmに基づいて、
図3に示すアクセル開度−トルクテーブルを参照することにより、第1のトルク目標値Tm1
*を設定する。上述したように、本実施形態における電動車両の制御装置は、アクセルペダルの操作のみで車両の加減速や停止を制御することができる車両に適用可能であり、少なくともアクセルペダルの全閉によって車両を停止させることを可能とするために、
図3に示すアクセル開度−トルクテーブルでは、アクセル開度が0(全閉)の時のモータ回生量が大きくなるように、モータトルクが設定されている。すなわち、モータ回転数が正の時であって、少なくともアクセル開度が0(全閉)の時には、回生制動力が働くように、負のモータトルクが設定されている。ただし、アクセル開度−トルクテーブルは、
図3に示すものに限定されない。
【0026】
ステップS203では、停止制御処理を行う。具体的には、電動車両の停車間際を判断し、停車間際以前は、ステップS202で算出した第1のトルク目標値Tm1
*をモータトルク指令値Tm
*に設定し、停車間際以降は、モータ回転速度の低下とともに外乱トルク指令値Tdに収束する第2のトルク目標値Tm2
*をモータトルク指令値Tm
*に設定する。この第2のトルク目標値Tm2
*は、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロである。これにより、後述するように、路面の勾配に関わらず、停車状態を維持することができる。停止制御処理の詳細については、後述する。
【0027】
ステップS204では、ステップS203で算出したモータトルク目標値Tm
*、モータ回転速度ωmおよび直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流目標値id
*、q軸電流目標値iq
*を求める。例えば、トルク指令値、モータ回転速度、および直流電圧値と、d軸電流目標値およびq軸電流目標値との関係を求めたテーブルを予め用意しておいて、このテーブルを参照することにより、d軸電流目標値id
*およびq軸電流目標値iq
*を求める。
【0028】
ステップS205では、d軸電流idおよびq軸電流iqをそれぞれ、ステップS204で求めたd軸電流目標値id
*およびq軸電流目標値iq
*と一致させるための電流制御を行う。このため、まず初めに、ステップS201で入力された三相交流電流値iu、iv、iwと、電動モータ4の回転子位相αとに基づいて、d軸電流idおよびq軸電流iqを求める。続いて、d軸、q軸電流指令値id
*、iq
*と、d軸、q軸電流id、iqとの偏差から、d軸、q軸電圧指令値vd、vqを算出する。なお、算出したd軸、q軸電圧指令値vd、vqに対して、d−q直交座標軸間の干渉電圧を相殺するために必要な非干渉電圧を加算するようにしてもよい。
【0029】
次に、d軸、q軸電圧指令値vd、vqと、電動モータ4の回転子位相αから、三相交流電圧指令値vu、vv、vwと電流電圧値Vdcから、PWM信号tu(%)、tv(%)、tw(%)を求める。このようにして求めたPWM信号tu、tv、twにより、インバータ3のスイッチング素子を開閉することによって、電動モータ4をトルク指令値Tm
*で指示された所望のトルクで駆動することができる。
【0030】
ここで、ステップS203で行われる停止制御処理について説明する前に、本実施形態における電動車両の制御装置において、モータトルクTmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gp(s)について説明する。
【0031】
図4、
図5は、車両の駆動力伝達系をモデル化した図であり、同図における各パラメータは、以下に示すとおりである。
Jm:電動モータのイナーシャ
Jw:駆動輪のイナーシャ
M:車両の質量
KD:駆動系の捻り剛性
Kt:タイヤと路面の摩擦に関する係数
N:オーバーオールギヤ比
r:タイヤの過重半径
ωm:電動モータの角速度
Tm:トルク目標値Tm
*
TD:駆動輪のトルク
F:車両に加えられる力
V:車両の速度
ωw:駆動輪の角速度
そして、
図4、
図5より、以下の運動方程式を導くことができる。ただし、次式(1)〜(3)中の符号の右上に付されているアスタリスク(
*)は、時間微分を表している。
【0037】
式(1)〜(5)で示す運動方程式に基づいて、電動モータ4のトルク目標値Tmからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gp(s)を求めると、次式(6)で表される。
【0039】
ただし、式(6)中に各パラメータは、次式(7)で表される。
【0041】
式(6)に示す伝達関数の極と零点を調べると、次式(8)の伝達関数に近似することができ、1つの極と1つの零点は極めて近い値を示す。これは、次式(8)のαとβが極めて近い値を示すことに相当する。
【0043】
従って、式(8)における極零相殺(α=βと近似する)を行うことにより、次式(9)に示すように、Gp(s)は、(2次)/(3次)の伝達特性を構成する。
【0045】
次に、ブレーキ制動量Bからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gb(s)について説明する。
【0046】
図6は、車輪の制動力伝達系をモデル化した図であり、同図における各パラメータは、以下に示すとおりである。
rb:摩擦ブレーキ力が作用する作用点までの半径
F/B:摩擦ブレーキの作用点におけるブレーキ制動量
B:ブレーキ制動量
そして、
図6より、以下の運動方程式を導くことができる。
【0048】
ただし、式(10)中のF/Bは以下とする。
ωw>0 : F/B >0
ωw=0 : F/B =0
ωw<0 : F/B <0
そして、
図4、
図5、
図6より、以下の運動方程式を導くことができる。
【0050】
式(1)、(3)、(4)、(5)、(11)で示す運動方程式に基づいて、ブレーキ制動量Bからモータ回転速度ωmまでの伝達特性Gb(s)を求めると、次式(12)で表される。
【0052】
ただし、式(12)中の各パラメータは、次式(13)で表される。
【0054】
続いて、
図2のステップS203で行われる停止制御処理の詳細について説明する。
図7は、停止制御処理を実現するためのブロック図である。
【0055】
モータ回転速度F/Bトルク設定器501は、検出されたモータ回転速度ωmに基づいて、電動車両を電動モータ4の回生制動力によって停止させるためのモータ回転速度フィードバックトルクTω(以下、モータ回転速度F/BトルクTωと呼ぶ)を算出する。
【0056】
図8は、モータ回転速度ωmに基づいて、モータ回転速度F/Bトルクωmを算出する方法を説明するための図である。モータ回転速度F/Bトルク設定器501は、乗算器601を備え、モータ回転速度ωmにゲインKvrefを乗算することにより、モータ回転速度F/BトルクTωを算出する。ただし、Kvrefは、電動車両の停止間際に電動車両を停止させるのに必要な負(マイナス)の値であり、例えば、実験データ等により適宜設定される。すなわち、モータ回転速度F/BトルクTωは、モータ回転速度ωmが大きいほど、大きい回生制動力が得られるトルクとして設定される。
【0057】
なお、モータ回転速度F/Bトルク設定器501は、モータ回転速度ωmにゲインKvrefを乗算することにより、モータ回転速度F/BトルクTωを算出するものとして説明したが、モータ回転速度ωmに対する回生トルクを定めた回生トルクテーブルや、モータ回転速度ωmの減衰率を予め記憶した減衰率テーブルを用いて、モータ回転速度F/BトルクTωを算出してもよい。
【0058】
外乱トルク推定器502は、検出されたモータ回転速度ωmと、ブレーキ制動量Bと、モータトルク指令値Tm
*に基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出する。
【0059】
図9は、モータ回転速度ωmと、ブレーキ制動量Bと、モータトルク指令値Tm
*に基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出する方法を説明するための図である。
【0060】
制御ブロック801は、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、モータ回転速度ωmを入力してフィルタリング処理を行う事により、第1のモータトルク推定値を算出する。Gp(s)は、車両へのトルク入力とモータの回転速度の伝達特性のモデルであり、式(9)で表される。H(s)は、分母次数と分子次数との差分が、モデルGp(s)の分母次数と分子次数との差分以上となる伝達特性を有するローパスフィルタである。
【0061】
制御ブロック802は、H(s)なる伝達特性を有するローパスフィルタとしての機能を担っており、モータトルク指令値Tm
*を入力してフィルタリング処理を行うことにより、第2のモータトルク推定値を算出する。
【0062】
ブレーキトルク推定器803では、ブレーキ制動量Bと車輪速ωwを入力して、後述するブレーキトルク推定方法にて、ブレーキトルク推定値を算出する。ここで、ブレーキによる制動力は、車両の前進時、後退時ともに減速方向に作用するので、車両前後速度(車体速度、車輪速度、モータ回転速度、ドライブシャフト回転数等)の符号に応じてブレーキトルク推定値の符号を反転させる必要がある。従って、ブレーキトルク推定値は、車輪速ωwに応じて、車両が前進なら負に、車両が後退なら正に設定する。
【0063】
続いて、ブレーキトルク推定器803の詳細を、
図10を用いて説明する。
図10は、ブレーキ制動量Bと車輪速ωwに基づいて、ブレーキトルク推定値を算出する方法を説明するためのブロック図である。
【0064】
制御ブロック901は、上述した伝達特性Gb(s)にて、ブレーキ制動量Bをフィルタリング処理して、ブレーキ回転数推定値を算出する。
【0065】
制御ブロック902は、ローパスフィルタH(s)を用いた、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、ブレーキ回転数推定値を入力してフィルタリング処理を行う事により、ブレーキトルク推定値を算出する。算出したブレーキトルク推定値は、加減算器804へ出力される。
【0066】
図9に戻って説明を続ける。加減算器804は、第2のモータトルク推定値から第1のモータトルク推定値を減算し、ブレーキトルク推定値を加算する。ここでブレーキトルク推定値を加算することで、後段において、ブレーキ制動量Bに起因するブレーキトルクがキャンセルされた外乱トルク推定値Tdを算出することができる。算出した値は、制御ブロック805へ出力される。
【0067】
制御ブロック805は、後述するHz(s)なる伝達特性を有するフィルタであり、加減算器804の出力を入力してフィルタリング処理を行う事により、外乱トルク推定値Tdを算出する。
【0068】
ここで、伝達特性Hz(s)について説明する。式(9)を書き換えると、次式(14)が得られる。ただし、式(14)中のζz、ωz、ζp、ωpはそれぞれ、式(15)で表される。
【0071】
以上より、Hz(s)を次式(16)で表す。
【0073】
なお、本実施形態では、外乱トルクは、
図9に示す通り外乱オブザーバにより推定する。
【0074】
ここで、外乱としては、空気抵抗、乗員数や積載量に起因する車両質量の変動によるモデル化誤差、タイヤの転がり抵抗、路面の勾配抵抗等が考えられるが、停車間際で支配的となる外乱要因は勾配抵抗である。外乱要因は運転条件により異なるが、外乱トルク推定器502は、モータトルク指令値Tm
*とモータ回転速度ωmと勾配に関連しない抵抗成分であるブレーキ制動量Bと、車両モデルGp(s)に基づいて、外乱トルク推定値Tdを算出するので、ドライバのブレーキ操作量に関わらず、上述した外乱要因を一括して推定することができる。これにより、いかなる運転条件においても、減速からの滑らかな停車を実現することができる。
【0075】
図7に戻って説明を続ける。加算器503は、モータ回転速度F/Bトルク設定器501によって算出されたモータ回転速度F/BトルクTωと、外乱トルク推定器502によって算出された外乱トルク推定値Tdとを加算することによって、第2のトルク目標値Tm2
*を算出する。
【0076】
トルク比較器504は、第1のトルク目標値Tm1
*と第2のトルク目標値Tm2
*の大きさを比較し、値が大きい方のトルク目標値をモータトルク指令値Tm
*に設定する。車両の走行中、第2のトルク目標値Tm2
*は第1のトルク目標値Tm1
*よりも小さく、車両が減速して停車間際(車速が所定車速以下)になると、第1のトルク目標値Tm1
*よりも大きくなる。従って、トルク比較器504は、第1のトルク目標値Tm1
*が第2のトルク目標値Tm2
*より大きければ、停車間際以前と判断して、モータトルク指令値Tm
*を第1のトルク目標値Tm1
*に設定する。また、トルク比較器504は、第2のトルク目標値Tm2
*が第1のトルク目標値Tm1
*より大きくなると、車両が停車間際と判断して、モータトルク指令値Tm
*を第1のトルク目標値Tm1
*から第2のトルク目標値Tm2
*に切り替える。なお、停車状態を維持するため、第2のトルク目標値Tm2
*は、登坂路では正トルク、降坂路では負トルク、平坦路では概ねゼロに収束する。
【0077】
以下、本実施形態における電動車両の制御装置を電気自動車に適用した際の効果について、
図11、
図12を参照して、特にブレーキ制動時の制御について説明する。
【0078】
図11は、本実施形態における電動車両の制御装置による制御結果の一例を示す図である。
図11は、一定勾配の登坂路で停車する場合の制御結果であり、上から順にブレーキ制動量、モータ回転速度、モータトルク指令値、車両前後加速度を表している。また、モータトルク指令値を表した図中に示す点線は外乱トルク推定値を、一点鎖線は勾配外乱を表している。
【0079】
時刻t0では、
図2のステップ202で算出される第1のトルク目標値Tm1
*に基づいて、電動モータ4の減速が行われる。外乱トルク推定値は、勾配外乱と一致しており、登坂路の勾配外乱を正確に推定できていることが分かる。
【0080】
時刻t1において、ドライバがブレーキペダルを踏み込むことにより、ブレーキ制動量Bが増加している。この時、第1のトルク目標値Tm1
*とブレーキ制動量Bの併用により、車両前後加速度が制動側、即ちマイナス方向に増加していることが分かる。
【0081】
時刻t2では、
図2のステップS203で算出される第2のトルク目標値Tm2
*に基づいて、電動モータ4の減速が行われる。この時、第2のトルク目標値Tm2
*を構成する外乱トルク推定値は、
図7の制御ブロック502の処理にてブレーキ制動量Bを考慮しているため、ブレーキ制動量Bの増加に関わらず勾配外乱と一致している。
【0082】
時刻t3では、車両前後加速度およびモータ回転速度が0に収束しており、外乱トルク推定値と勾配外乱が一致した状態で車両が停車していることが分かる。
【0083】
時刻t4では、ドライバのブレーキ操作によりブレーキ制動量Bが解除されているが、外乱トルク推定値からブレーキ制動量Bはキャンセルされているため、外乱トルク推定値と勾配外乱が一致した状態を維持できていることが分かる。また、時刻t4以降も車両前後加速度およびモータ回転速度は0に収束したままであり、停車状態を保持できていることが分かる。
【0084】
次に、比較例として、外乱トルク推定値の算出にブレーキ制動量Bを考慮していない場合の制御結果を、
図12を参照して説明する。
【0085】
時刻t0では、
図2のステップS202で算出される第1のトルク目標値Tm1
*に基づいて、電動モータ4の減速が行われる。この時点では、外乱トルク推定値は勾配外乱と一致しており、登坂路の勾配外乱を正確に推定できていることが分かる。
【0086】
時刻t1において、ドライバのブレーキ操作によりブレーキ制動量Bが増加している。この時、第1のトルク目標値Tm1
*とブレーキ制動量Bの併用により、車両前後加速度が制動側に増加していることが分かる。
【0087】
時刻t2では、
図2のステップS203で算出される第2のトルク目標値Tm2
*に基づいて、電動モータ4の減速が行われる。本比較例においては、
図7の制御ブロック502において、ブレーキ制動量Bを考慮していないため、ブレーキ制動量Bによる制動力を勾配による外乱と誤認してしまう。このため、外乱トルク推定値が、実際の勾配外乱に対してより大きな値を示しており、実際の勾配よりも急峻な登坂路と誤推定していることが分かる。
【0088】
時刻t3では、車両前後加速度およびモータ回転速度が0に収束しており、外乱トルク推定値とブレーキ制動量Bを併用することで停車状態を保持していることが分かる。
【0089】
時刻t4において、ドライバのブレーキ操作によりブレーキ制動量Bが解除されている。この時、外乱トルク推定値は、実際の勾配より急峻な登坂路と誤推定している為、ブレーキ制動量Bを解除した際、車両前後加速度が駆動側に増加している。以降、車両が前進しており、停車状態を保持できていないことが分かる。
【0090】
以上、第1の実施形態によれば、モータを走行駆動源とし、モータの回転制動力により減速する電動車両の制御装置であって、アクセル操作量を検出するとともに、外乱トルク推定値を算出し、勾配に関連しない抵抗成分を車両状態から検出または推定する。そして、検出または推定した勾配に関連しない抵抗成分に応じて外乱トルク推定値を補正する。モータは、モータトルク指令値に基づいて制御される。モータトルク指令値は、アクセル操作量が所定値以下であり、かつ、電動車両が停車間際になると、モータの回転速度の低下とともに補正後の外乱トルク推定値に収束する。これにより、前後方向における加速度振動のない滑らかな減速を停車間際で実現することができる。また、車両状態から勾配に関連しない抵抗(ブレーキ制動量、空気抵抗、転がり抵抗、旋回抵抗等)を検出または推定し、外乱トルク推定値を補正する事で、外乱トルク推定値と勾配外乱とを一致させることができるので、坂路において停車状態を維持することができる。
【0091】
なお、アクセル操作量が所定値以下とは、車両が、回生制動とは別に、制動装置が介入することなく十分に低速(例えば15km/h以下の速度)で走行しているときのアクセル操作量を意図している。なお、例に挙げた車速は一例であることは言うまでもない。
【0092】
また、第1の実施形態によれば、ブレーキ制動量からブレーキトルク推定値を算出し、ブレーキトルク推定値に基づいて、外乱トルク推定値を補正する。これにより、モータによる回生制動以外の制動力が車両に加えられた際も、外乱トルク推定値からブレーキ制動量をキャンセルすることができるので、車両停車後にブレーキ制動量を解除しても停車状態を保持することができる。
【0093】
また、第1の実施形態によれば、運転者のブレーキ操作量を検出し、検出したブレーキ操作量に基づいてブレーキ制動量を決定する。これにより、例えばブレーキ液圧センサ、ブレーキペダルストロークセンサ等により検出したセンサ値に基づいて外乱トルク推定値を補正することができるので、車両の実際の計測値に基づいて外乱トルクを推定することができる。
【0094】
また、ブレーキの操作に関わる指令値(ブレーキ制動量指令値等)に基づいてブレーキ制動量を決定してもよい。これにより、センサ検出遅れなどの無駄時間を生じることなく、外乱トルク推定値を推定することができる。
【0095】
また、第1の実施形態によれば、ブレーキ制動量は、車両へのブレーキ制動量の入力から車両に制動力が作用するまでの応答性を考慮して決定される。これにより、例えば、摩擦ブレーキへの指令値入力から液圧の応答や、液圧から車両の制動力に作用するまでの応答等の応答性を考慮してブレーキ制動量を算出することで、車両モデルと実際の車両とのモデル誤差を抑止することができる。
【0096】
また、第1の実施形態によれば、ブレーキトルク推定値の符号が、車両の進行方向に応じて異なる。これにより、ブレーキトルク推定値を、車両の前進時、後退時共に、適切に推定することができる。
【0097】
さらに、第1の実施形態によれば、車両へのブレーキ制動量の入力とモータ回転速度の伝達特性のモデルGb(s)を含むフィルタを用いてブレーキトルク推定値を算出する。これにより、外乱トルク推定値からブレーキ制動量を精度よくキャンセルすることができる。
【0098】
そして、第1の実施形態によれば、ローパスフィルタH(s)と、車両へのトルク入力とモータの回転速度の伝達特性のモデルGp(s)の逆系とから構成されるH(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタをさらに用いてブレーキトルク推定値を算出する。これにより、外乱トルク推定値からブレーキ制動量をさらに精度よくキャンセルすることができる。
【0099】
(第2の実施形態)
第2の実施形態の電動車両の制御装置は、これまで説明した第1の実施形態に加えて、制振制御を併用する。以下、本実施形態における電動車両の制御装置について、特に、制振制御併用の態様について説明する。
【0100】
図13は、第2の実施形態の電動車両の制御装置のモータコントローラ2によって行われる制御フローチャート図である。
図2で示す第1の実施形態における制御フローに加えて、ステップS203aにて、制振制御処理を行う。
【0101】
ステップS203aの処理は、
図13で示すとおり、ステップS203(停止制御処理)の後段で行う。本実施形態では、上述の第1の実施形態におけるステップS203で算出したモータトルク指令値Tm
*、すなわちトルク比較器504の出力であるモータトルク指令値Tm
*(
図7参照)を、第3のトルク目標値Tm3
*とする(
図14参照)。そして、第3のトルク目標値Tm3
*に対して制振制御処理を行うことでモータトルク指令値Tm
*を得る。
【0102】
より具体的には、ステップS203aにおいて、ステップS203で算出したモータトルク指令値Tm3
*とモータ回転速度ωmを制振制御ブロック1501に入力する(
図15参照)。そして、制振制御ブロック1501にて、駆動軸トルクの応答を犠牲にすることなくトルク伝達系振動(ドライブシャフトの捩じり振動等)を抑制した制振制御後のモータトルク指令値Tm
*を算出する。以下、
図16を参照して、制振制御ブロック1501にて行う制振制御処理の一例を説明する。
【0103】
図16は、本実施形態において用いる制振制御処理のブロック図である。フィードフォワード補償器1601(以下、F/F補償器という)は、伝達特性Gr(s)と、車両へのトルク入力とモータの回転速度の伝達特性のモデルGp(s)の逆系から構成されるGr(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタとしての機能を担っており、第3のトルク目標値Tm3
*を入力してフィルタリング処理を行うことにより、フィードフォワード補償による制振制御処理を行う。使用する伝達特性Gr(s)は、次(17)式で表すことができる。
【0105】
なお、F/F補償器1601にて行う制振制御F/Fは、特開2001−45613号公報に記載されている制振制御でもよいし、特開2002−152916号公報に記載されている制振制御でもよい。
【0106】
制御ブロック1603、1604は、フィードバック制御(以下、フィードバックのことをF/Bという)にて用いられるフィルタである。制御ブロック1603は上述したGp(s)なる伝達特性を有するフィルタであり、加算器1605から出力される、F/F補償器1601の出力と後述する制御ブロック1604の出力とを加算して得た値を入力してフィルタリング処理を行う。そして、減算器1606において制御ブロック1603から出力された値からモータ回転速度ωmが減算される。減算された値は制御ブロック1604に入力される。制御ブロック1604は、ローパスフィルタH(s)と、車両へのトルク入力とモータの回転速度の伝達特性のモデルGp(s)の逆系とから構成されるH(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタであり、減算器1606からの出力を入力してフィルタリング処理を行い、F/B補償トルクとして算出した値を加算器1605へ出力する。
【0107】
そして、加算器1605において、F/F補償による制振制御処理がなされた第3のトルク目標値Tm3
*と、前述のF/B補償トルクとして算出した値とが加算されることで、車両のトルク伝達系の振動を抑制するモータトルク指令値Tm
*が算出される。
【0108】
なお、制振制御ブロック1501にて行う制振制御は、特開2003−9566号公報に記載されている制振制御でもよいし、特開2010−288332号公報に記載されている制振制御でもよい。
【0109】
また、制振制御(F/F補償器)を併用する際は、制振制御のアルゴリズムにより、第1の実施形態において式(14)で表した車両モデルGp(s)を、上記(17)式に示した伝達特性Gr(s)と見なすことができる。具体的には、
図9の制御ブロック801で示したH(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタは、
図17の制御ブロック1701で示す通り、H(s)/Gr(s)なる伝達特性を有するフィルタと見なすことができる。
【0110】
続いて、制振制御(F/B補償器)を併用する場合のブレーキトルク推定値の算出方法について説明する。
【0111】
図18は、制振制御併用時のブレーキトルク推定値の算出を説明するためのブロック図である。
【0112】
制御ブロック1001は、無駄時間を考慮したブレーキ回転数推定値の過去値を設定する。なお、ここでの無駄時間は、車両のセンサ検出遅れ等である。
【0113】
制御ブロック1002は、制御ブロック1001で設定したブレーキ回転数推定値の過去値に応じて、制振制御(F/B補償器)処理G
FB(s)を施し、制振制御トルク推定値T
FBを算出する。より詳細を、
図19を参照して説明する。
【0114】
図19は、制御ブロック1002における制振制御(F/B補償器)処理G
FB(s)の詳細を説明するための図である。制御ブロック1901は、H(s)/Gp(s)なる伝達特性を有するフィルタである。上述の通り、Gp(s)は、車両へのトルク入力とモータの回転速度の伝達特性のモデルであり、H(s)は、分母次数と分子次数との差分が、モデルGp(s)の分母次数と分子次数との差分以上となる伝達特性を有するローパスフィルタである。制御ブロック1902は、伝達特性Gp(s)を有するフィルタであり、制御ブロック1901の出力を入力として、フィルタリング処理を施して得た値を減算器1900へ出力する。減算器1900は、制御ブロック1902から出力される値から、ブレーキ回転数推定値の過去値を減算して、減算して得た値を制御ブロック1901へ出力する。これにより、ブレーキ回転数推定値から、制振制御(F/B補償器)処理が施された制振制御トルク推定値T
FBを算出することができる。
【0115】
なお、制振制御(F/B補償器)は、
図13のステップ203aの制振制御処理と同様に、特開2003−9566号公報に記載されている制振制御でもよいし、特開2010−288332号公報に記載されている制振制御でもよい。
【0116】
図18に戻って説明を続ける。制御ブロック1003では、ブレーキ制動量Bと制振制御トルク指令値T
FBと車輪速ωwに応じて、式(12)で示す伝達特性Gb(s)の処理を施すことで、制振制御後のブレーキ回転数推定値を算出する。
【0117】
制御ブロック1004は、制振制御後のブレーキ回転数推定値に、ローパスフィルタH(s)と上述したGr(s)の逆系とからなる伝達特性H(s)/Gr(s)を有するフィルタによるフィルタリング処理を施し、ブレーキトルク推定値を算出する。算出されたブレーキトルク推定値は、第1の実施形態と同様に
図17の加減算器804に出力され、第2のモータトルク推定値から第1のモータトルク推定値を減算した値に加算される。
【0118】
以上、第2の実施形態によれば、ドライブシャフトの捩じり振動を抑制する制振技術を使用する場合に、制振制御を考慮した伝達特性のモデルを用いて、ブレーキトルク推定値を算出する。これにより、制振制御を使用した際も、外乱トルク推定値からブレーキ制動量を精度よくキャンセルすることができる。
【0119】
本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、様々な変形や応用が可能である。例えば、上述した説明では、アクセル操作量が所定値以下であり、かつ、電動車両が停車間際になると、電動モータ4の回転速度の低下とともにモータトルク指令値Tm
*を補正後の外乱トルク指令値Tdに収束させるものとして説明した。しかし、車輪速や車体速度、ドライブシャフトの回転速度などの速度パラメータは、電動モータ4の回転速度と比例関係にあるため、電動モータ4の回転速度に比例する速度パラメータの低下とともにモータトルク指令値Tm
*を外乱トルク推定値Tdに収束させるようにしてもよい。