(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記自己組織化膜は、Perfluorodecyltrichlorosilane(FDTS)またはOctadecanetrichlorosilane(OTS)である、請求項6に記載の光吸収型偏光素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上記特許文献6に記載のAl粒子を用いた偏光素子は、Alの融点(660℃)よりも高い温度条件下における基板の延伸工程の際のAl粒子とガラスの反応を防ぐため、基板としてAlと反応しないカルシウム・アミノ硼酸塩ガラスが用いられている。しかし、この種のガラスは一般的なケイ酸塩ガラスに比べて高価で入手しにくい等の理由により、生産コストが高くなるという問題がある。
【0014】
また、上記特許文献6に記載のAl粒子を用いた偏光素子の製造方法においては、レジストパターンをマスクとしたAl膜のパターンエッチングで島状粒子を形成している。一方、プロジェクターで使用する偏光板は通常、大面積が必要で、かつ高い消光比が要求される。従って、可視光用偏光板を目的とした場合、レジストパターンサイズは可視光波長より十分に短い、例えば数十nmの大きさが必要である。また、高い消光比を得るためにはパターンを高密度に形成する必要がある。
【0015】
従って、上記特許文献6に記載されているようなリソグラフィ技術を用いて高密度微細パターンを形成する方法では、電子ビーム描画法などの微細パターン形成法を用いる必要がある。電子ビーム描画は個々のパターンを電子ビームにより描く方法であるため生産性が悪く実用的でない。
【0016】
また、Al膜を塩素プラズマによりエッチング除去する場合、Alパターンの側壁に塩化物が付着するため、これを除去するための工程が別に必要となる。さらに、Al塩化物の除去はウェットエッチングで行うことができるが、Al塩化物に反応する薬液はAlにも少なからず反応するので、所望の微細パターン形状を実現することは困難である。
【0017】
更に、ワイヤグリッド型の偏光素子は、望ましくない偏光成分が反射されるという欠点がある。このことは多くの使用目的に対して、特にディスプレイに使用するときに障害となり、反射光を原因とする画質の劣化を引き起こす場合がある。
【0018】
本発明は上述の問題に鑑みてなされ、使用帯域において所望の偏光特性を得ることができる偏光素子を用いた液晶プロジェクターを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以上の課題を解決するに当たり、本発明の偏光素子は、使用帯域の光に透明な基板と、前記基板上で一方向に延びた帯状薄膜が前記使用帯域の光の波長よりも小さいピッチで一次元格子状に配列された反射層と、前記反射層上に形成された誘電体層と、前記帯状薄膜に対応する位置であって前記誘電体層上に無機微粒子が一次格子状に配列されてなり光吸収作用をもつ無機微粒子層と、を備えている。無機微粒子は、金属、半導体など光学定数の消衰定数が零でない、すなわち光吸収作用をもつ物質である。
【0020】
上記構成の偏光素子は、透過、反射、干渉、光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、反射層の格子に平行な電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、格子に垂直な電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0021】
すなわち、TE波は、形状異方性を有する無機微粒子からなる無機微粒子層の光学異方性による偏光波の選択的光吸収作用によって減衰される。一次元格子状の反射層はワイヤグリッドとして機能し、無機微粒子層及び誘電体層を透過したTE波を反射する。誘電体層の厚さ、屈折率を適宜調整することによって、反射層で反射したTE波は無機微粒子層を通過し透過する際に一部は吸収され、一部は反射し、反射層に戻る。また、無機微粒子層を通過した光は干渉して減衰される。以上のようにしてTE波の選択的減衰を行うことにより、所望の偏光特性を得ることができる。
なお、出射側で低反射が必要な場合には、逆に反射層側から光を入射すればよい。この場合も無機微粒子層の選択的吸収効果により、前記と同等の透過コントラストが得られる。
【0022】
無機微粒子層は、適用される光の波長範囲によって設定される。即ち、無機微粒子層にアルミニウム系材料(アルミニウム又はその合金からなる金属微粒子)、半導体材料(シリコン、ベータ鉄シリサイド、ゲルマニウム、テルルを含む半導体微粒子)を用いることで、可視光域に対して高い消光比を備えた偏光素子を得ることができる。例えば前記無機微粒子は、Al,Ag,Cu,Au,Mo,Cr,Ti,W,Ni,Fe,Si,Ge,Te,Snの単体もしくはこれらを含む合金、またはシリサイド系半導体材料からなるものであるとよい。
【0023】
基板は、使用帯域の光に対して透明であれば特に制限されず、汎用されているガラス材料を好適に用いることができる。なお、サファイアや水晶等で基板を構成することも可能である。また、反射層は、使用帯域の光に対して反射性を有する材料であれば特に制限されず、好適には、アルミニウム等の金属膜が挙げられる。
【0024】
無機微粒子層における無機微粒子は、上記反射層の格子方向に平行な方向に長軸、格子方向に垂直な方向に短軸をもつ長楕円形状に構成されるのが好ましい。このような形状になっていると、光学的な異方性が強まるからである。このような形状異方性を有する無機微粒子層は、反射層の格子方向とは垂直な方向からの斜め成膜、特に蒸着あるいはイオンビームスパッタ等が好適である。また、無機微粒子は使用帯域の波長以下のサイズであって、個々の粒子が完全に孤立化していることが望ましい。
【0025】
また前記誘電体層は、前記帯状薄膜の直上で凸部、前記帯状薄膜間で凹部となる凹凸形状を有し、前記無機微粒子層は、前記誘電体層の凸部の頂部又はその少なくとも一側面部に形成されていることが好適である。
【0026】
また前記基板の他方の面には、前記反射層の帯状薄膜が延びる方向と平行に形成された一次元格子状の凹凸部と、前記凹凸部の頂部又は少なくとも一側面部に無機微粒子が一次格子状に配列されてなる第2の無機微粒子層とからなる光吸収層が設けられているとよい。
【0027】
さらに前記反射層と前記基板との間には反射防止層が形成されていることが好ましい。
また、前記反射防止層は、前記基板の表面が前記無機微粒子の配列方向に対応するようにラビング処理され、該ラビング処理後の表面に前記無機微粒子の配列方向に対応するように形状異方性を有する無機微粒子が付着されてなることが好適である。
【0028】
また前記無機微粒子層上に、前記誘電体層/前記無機微粒子層の積層構造が1または複数積み重ねられてなることが好ましい。
【0029】
また以上の課題を解決するに当たり、本発明の偏光素子は、請求項1に記載の偏光素子と、別の基板表面に形成された一次元格子状の凹凸部の頂部又は少なくとも一側面部に無機微粒子が一次元格子状に配列されてなる第2の無機微粒子層を有する偏光素子とが、前記反射層の帯状薄膜が延びる方向と前記凹凸部の格子長手方向とが揃うようにお互いの基板の裏面同士で貼り合わされてなることを特徴とする。
【0030】
また、当該偏光素子の最表面に、使用帯域の光に対して透明な保護層が形成されていることが好ましい。
【0031】
以上の課題を解決するに当たり、本発明の液晶プロジェクターは、ランプと、液晶パネルと、上記の偏光素子とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
以上述べたように、本発明によれば、偏光特性の向上を図ることができ、特に、可視光域において所望の偏光特性(消光比または透過軸透過率/吸収軸透過率から求められるコントラスト)を備えつつ、従来の偏光素子よりも耐久性の高い無機偏光素子を提供することができる。さらに前記誘電体層/前記無機微粒子層の積層構造を積み重ねることにより単層の場合よりも薄い膜厚で高コントラストでかつ低反射を実現できるので製作工程短縮、材料費軽減などが可能となり、無機偏光素子の生産上も大きなメリットがある。
また本発明の液晶プロジェクターによれば、強い光に対して優れた耐光特性をもつ偏光素子を備えるので、信頼性の高い液晶プロジェクターを実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は以下の各実施形態に限定されることはなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0035】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態による偏光素子10の概略構成図であり、Aは側断面図、Bは平面図である。
【0036】
本実施態の偏光素子10は、基板11と、基板11の一方の面に基板11の主面と平行な一方向に延びた帯状薄膜12aが一次元格子状に形成された反射層12と、反射層12の上に形成された誘電体層13と、誘電体層の上に形成された無機微粒子層14とを備えている。
【0037】
基板11は、使用帯域の光(本実施形態では可視光域)に対して透明な材料、例えば、ガラス、サファイア、水晶などで構成されている。本実施形態では、ガラス、特に、石英(屈折率1.46)やソーダ石灰ガラス(屈折率1.51)が用いられている。ガラス材料の成分組成は特に制限されず、例えば光学ガラスとして広く流通しているケイ酸塩ガラスなどの安価なガラス材料を用いることができ、製造コストの低減を図ることができる。
【0038】
なお、基板11の構成材料として、熱伝導性の高い水晶やサファイア基板を用いることにより、発熱量の多いプロジェクターの光学エンジン用偏光素子として有利に用いることができる。
【0039】
反射層12の構成材料には、通常のワイヤグリッド型偏光子の格子材料を用いることができ、本例ではアルミニウムが用いられているが、これ以外にも、銀、金、銅、モリブデン、クロム、チタン、ニッケル、タングステン、鉄、シリコン、ゲルマニウム、テルルなどの金属あるいは半導体材料を用いることができる。なお、金属材料以外にも、例えば着色等により表面の反射率が高く形成された金属以外の無機膜や樹脂膜で構成されていてもよい。
【0040】
反射層12における帯状薄膜12aは、可視光域の波長よりも小さいピッチで基板11の表面に一次元格子状に配列され、例えば、フォトリソグラフィ技術を用いた上記金属膜のパターン加工によって形成される。反射層12は、ワイヤグリッド偏光子としての機能を有し、基板11の表面に入射した光のうち、格子に平行な方向(格子軸方向、Y軸方向)に電界成分をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させ、格子に垂直な方向(格子直角方向、X軸方向)に電界成分をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0041】
なお、反射層12を構成する金属格子(帯状薄膜12aの一次元格子パターン)のピッチ、ライン幅/ピッチ、格子深さ、格子長さは、それぞれ以下の範囲とするのが好ましい。
0.05μm<ピッチ<0.8μm
0.1<(ライン幅/ピッチ)<0.9
0.01μm<格子深さ<1μm
0.05μm<格子長さ
【0042】
また、反射層12の非形成領域における基板表面の反射を軽減するために、基板11の表面にあらかじめ無反射コートを施し、その後、反射膜12、誘電体層13、無機微粒子層14の形成を行うようにしてもよい。無反射コートとしては、一般的な高屈折率膜と低屈折率膜の積層膜で構成できる。基板11の裏面に対しても同様な無反射コートをすることで、基板面の反射を軽減することができる。
【0043】
誘電体層13は、基板11の表面にスパッタ法あるいはゾルゲル法(例えばスピンコート法によりゾルをコートし熱硬化によりゲル化させる方法)により成膜されたSiO2などの可視光に対して透明な光学材料で形成されている。誘電体層13は、無機微粒子層14の下地層を形成するとともに、後述するように、無機微粒子層14を反射した偏光に対して、無機微粒子層14を透過し反射層12で反射した当該偏光の位相を調整し干渉効果を高める目的で形成され、半波長ずれる膜厚が望ましいが、無機微粒子層が吸収効果を有するので反射した光を吸収する事ができ、膜厚が最適化されていなくてもコントラストの向上は実現でき、実用上は、所望の偏光特性と実際の作製工程の兼ね合いで決定してかまわない。実用上の膜厚範囲は1〜500nm、より好ましくは300nm以下である。
【0044】
誘電体層13を構成する材料は、SiO2、Al2O3、MgF2などの一般的な材料を用いることができる。これらは、スパッタ、気相成長法、蒸着法などの一般的な真空成膜やゾル状の物質を基板上にコートし熱硬化させることで薄膜化が可能である。また、誘電体層13の屈折率は1より大、2.5以下とすることが好ましい。また、無機微粒子層14の光学特性は、周囲の屈折率によっても影響を受けるため、誘電層材料により偏光素子特性を制御する事も可能である。
【0045】
無機微粒子層14は、
図1Bに示すように、反射層12の一次元格子方向(Y軸方向)に平行に長軸方向を有するとともに格子方向に垂直(X軸方向)に短軸方向を有する長楕円形状の島状の無機微粒子14aが基板11の主面と平行な一方向(一次元格子方向)に線状に配列されて構成されている。また、無機微粒子層14は反射層12を構成する金属格子(帯状薄膜12a)上方であって誘電体層13上にそれぞれ設けられている。したがって、無機微粒子層14は基板11上に反射層12の一次元格子と同様のパターンのワイヤグリッド構造となる。
【0046】
無機微粒子層14を構成する無機微粒子14aをX軸方向とY軸方向との間で形状的な異方性を持たせると、長軸方向と短軸方向とで光学定数を異ならせることができる。その結果、長軸と平行な偏光成分を吸収し短軸と平行な偏光成分を透過させるという所定の偏光特性が得られる。なお、無機微粒子14aが形状異方性を有さない場合(例えば円形など)、TE波の吸収帯でTM波の吸収も発生してしまうため好ましくない。
【0047】
無機微粒子層14の形状異方性の制御のためには、反射層12を構成する金属格子(帯状薄膜12a)の配列ピッチを小さくして無機微粒子14aが誘電体層13の頂部にのみ堆積されるようにすることが有効である。これにより、金属微粒子14aの孤立化が図れる。また、金属微粒子14aの成膜方法としては、斜めスパッタ成膜、例えば基板11の表面に対して斜め方向から成膜するイオンビームスパッタ法等が有効である。なお、金属微粒子14aは完全な島状に形成されている必要はなく、粒界が形成されていればよい。
【0048】
本発明の無機微粒子層14を形成するための斜めスパッタ成膜の様子を
図2に示す。なお、ここではイオンビームスパッタの例を示しているが、これに限定されるものではなく、スパッタリング法であればいずれの方式のものでもよい。
【0049】
図2において、1は基板11を支持するステージ、2はターゲット、3はビームソース(イオン源)、4は制御板である。ステージ1は、ターゲット2の法線方向に対して所定角度θ傾斜しており、基板11は凹凸部14の凸部14aの長手方向がターゲット2からの無機微粒子の入射方向に対して直交する向きに配置されている。角度θは、例えば0°から20°である。ビームソース3から引き出されたイオンは、ターゲット2へ照射される。イオンビームの照射によりターゲット2から叩き出された無機微粒子は、基板11の表面に斜め方向から入射して付着する。このとき、基板11上に一定間隔(例えば50mm)で平板状の制御板4を配置すれば基板11表面への入射粒子の方向を制御し、凹凸部14の側壁部にのみ粒子を堆積させることができる。このときの無機微粒子層14の膜厚は、200nm以下であることが好ましい。
【0050】
また無機微粒子層14は、無機微粒子14aの配列方向と、無機微粒子14aの配列方向と直交する方向とで光学異方性を有する。なお、無機微粒子層14が上記のような長楕円形状の集合体とならず一様な膜の状態になっていたとしても、斜め方向からのイオンビームスパッタ等の方法で成膜した場合には層としての光学異方性を強めることができるので、本発明の無機微粒子層としては有効である。
【0051】
図3にこのような斜めイオンビームスパッタによる光学異方性増強効果の実験結果を示す。
図3Aに示すように、イオンビームスパッタ法によりガラス基板41の表面に対して10°方向で、基板41を静止状態でゲルマニウムスパッタ粒子を入射、堆積させてゲルマニウム粒子膜44を作製した。
図3Bは、作製したゲルマニウム粒子膜44の光学定数(屈折率、消衰定数)の測定結果を示している。測定は分光エリプソメーターにより行った。この時の膜厚は10nmである。光学異方性が生じたことにより、面内で屈折率n及び消衰定数kに違いがある。これは、波長により、軸方向で光吸収特性が異なることを意味しており、本発明の偏光素子の無機微粒子層としてこの膜を使うことで、高い偏光コントラストが得られるようになる。
【0052】
図3Cにこの粒子膜の表面形状を電子顕微鏡で観察した結果を示す。ガラス表面の粗さの影響を避けるため、基板には単結晶Si基板を用い、
図3Aと同じ条件で斜めスパッタ成膜を行った。ゲルマニウム微粒子が粒界をもち、かつy軸方向に縦長の形状をしており、その大きさは測定波長以下である。原理的には、このような粒子の孤立化、異方化が生じるのは、斜め成膜におけるステアリング効果による。その結果、膜として見ると光学異方性を生じることになる。このように、本発明における無機微粒子層は一般的な薄膜とは表面状態が異なる。
【0053】
なお、比較のため、
図4Aに示すように、基板41の垂直方向から基板41を回転させながらゲルマニウムスパッタ粒子を成膜し、得られたゲルマニウム粒子膜44の光学定数の測定値を
図4Bに示す。屈折率n及び消衰定数kの光学異方性は生じておらず、各光学定数は文献値に近い値であった。すなわち、この場合は通常の薄膜状態である。表面状態を
図3Cと同様の方法で測定したが同じ倍率では粒界は見えなかった。これはこの膜が均質な薄膜状態であることを示唆している。
【0054】
無機微粒子14aの光学異方性による吸収波長は、材料の特性、微粒子の形状異方性、周囲の誘電率等に依存する。本実施形態では、可視光域に対して偏光特性が得られるように無機微粒子層14が形成されている。ここで、無機微粒子14aを構成する材料としては、偏光素子10として使用帯域に応じて適切な材料が選択される必要がある。すなわち、金属材料や半導体材料がこれを満たす材料であり、具体的には金属材料として、Al,Ag,Cu,Au,Mo,Cr,Ti,W,Ni,Fe,Si,Ge,Te,Sn単体もしくはこれらを含む合金が挙げられる。また半導体材料としては、Si,Ge,Teが挙げられる。さらに、FeSi2(特にβ−FeSi2),MgSi2,NiSi2,BaSi2,CrSi2,CoSi2などのシリサイド系材料が適している。特に、無機微粒子14aの材料として、アルミニウム又はその合金からなるアルミニウム系の金属微粒子、あるいは、ベータ鉄シリサイドやゲルマニウム、テルルを含む半導体微粒子を用いることで、可視光域で高コントラスト(高消光比)を得ることができる。
【0055】
なお、可視光以外の波長帯域、例えば赤外域に偏光特性をもたせるためには、無機微粒子層を構成する無機微粒子としてAg(銀)、Cu(銅)、Au(金)の微粒子などを用いるのが好適である。これは、これらの金属の長軸方向の共鳴波長が赤外域近辺にあるからである。これ以外にも、使用帯域に合わせて、モリブデン、クロム、チタン、タングステン、ニッケル、鉄、シリコンなどの材料を用いることができる。
【0056】
なお、反射層12の格子配列は、図示するようなX軸方向の一次元的な周期配列に限らず、X,Y軸方向の二次元的な周期配列としてもよい。この場合、無機微粒子層14の形状異方性は、当該反射層の2次元周期構造で発現させることが可能である。
【0057】
以上のように構成される本実施形態の偏光素子10は、基板11の表面側、即ち、格子状の反射層12、誘電体層13及び無機微粒子層14の形成面側が光入射面とされる。そして、偏光素子10は、光の透過、反射、干渉、光学異方性による偏光波の選択的光吸収の4つの作用を利用することで、反射層12の格子に平行な電界成分(格子軸方向、Y軸方向)をもつ偏光波(TE波(S波))を減衰させるとともに、格子に垂直な電界成分(格子直角方向、X軸方向)をもつ偏光波(TM波(P波))を透過させる。
【0058】
すなわち、
図5Aに示すように、TE波は、形状異方性を有する無機微粒子層14の光学異方性による偏光波の選択的光吸収作用によって減衰される。格子状の反射層12はワイヤグリッドとして機能し、
図5Bに示すように、無機微粒子層14及び誘電体層13を透過したTE波を反射する。このとき、無機微粒子層14を透過し反射層12で反射したTE波の位相が半波長ずれるように誘電体層13を構成することによって、反射層12で反射したTE波は無機微粒子層14で反射したTE波と干渉により打ち消し合って減衰される。以上のようにしてTE波の選択的減衰を行うことができる。前記のように半波長ずれる膜厚が望ましいが、無機微粒子層が吸収効果を有するので、誘電層の膜厚が最適化されていなくてもコントラストの向上は実現でき、実用上は、所望の偏光特性と実際の作製工程の兼ね合いで決定してかまわない。
【0059】
また、出射側で低反射が必要な場合には、逆に反射層側から光を入射すればよい。この場合も無機微粒子層の選択的吸収効果により、前記と同等の透過コントラストが得られる。後記のように、透過コントラストの大きさは反射層厚に依存するからである。これを実際の使用について当てはめると、例えば後述する本発明の液晶プロジェクターの光学エンジン部分(
図16)において、液晶パネルへの望ましくない反射光を避ける目的で入射偏光板10Aに本発明の偏光板を使用する場合には、本偏光板の膜面(
図5の無機微粒子層14側)を液晶パネル側に向くように配置する。そうする事により、望ましくない反射は、光源側に戻る事となる。出射偏光板10Bもしくは10Cとして本発明の偏光板を使用する場合にも同様に本偏光板の膜面(
図5の無機微粒子層14側)を液晶パネル側に向けるとよい。入射偏光板と出射偏光板に使用する場合とでは本偏光板への光の入射方向が逆になるが、前記のようにどちら側から光を入射させても同等の透過コントラストが得られるので実用上問題ない。
【0060】
図6は、ガラス(コーニング1737)製の基板11上に、反射層12としてピッチ約160nm(ライン幅約55nm)、格子深さ160nmのアルミニウム格子を作製し、その上に誘電体層13としてSiO2 を30nm、無機微粒子層14としてゲルマニウム微粒子層をイオンビームスパッタによる斜め成膜により10nm積層してなる偏光素子の偏光特性を示している。吸収軸の透過率がほぼゼロとなり、また反射率も低い値になっている。この場合のコントラストは波長550nmにおいて約500であり、良好な特性をもつ偏光板となっている。ピッチや膜厚などのパラメータを最適化することで、更にコントラストを向上させることができる。
【0061】
また、必要に応じて、基板表面、裏面に反射防止膜をコートすることで、空気と基板面からの反射を防止し、透過軸透過率を向上させることができる。反射防止膜としては、一般的に用いられるMgF2などの低屈折率膜や、低屈折率膜と高屈折率膜で構成される多層膜などで構わない。更に、この偏光素子の最表面にSiO2などの使用帯域で透明な物質を保護膜として偏光特性に影響を与えない範囲の膜厚でコートすることは、耐湿性の向上など信頼性向上に有効である。但し、無機微粒子の光学的特性は周囲の屈折率によっても影響を受けるため、保護膜の形成により偏光特性の変化が生じる場合がある。また入射光に対する反射率は保護膜の光学厚さ(屈折率×保護膜の膜厚)によっても変化するので、保護膜材料とその膜厚は、これらを考慮して選択されるべきである。材料としては屈折率が2以下、消衰係数が零に近い物質が望ましい。このような物質としてSiO2、Al2O3などがある。これらは一般的な真空成膜法(気相成膜法、スパッタ法、蒸着法など)や、これらが液体中に分散された状態のゾルを、スピンコート法、ディッピング法などで成膜可能である。さらに非特許文献4に記載されているような自己組織化膜も使用可能である。耐湿性向上の目的では撥水性の自己組織化膜が好ましい。Perfluorodecyltrichlorosilane(FDTS)、Octadecanetrichlorosilane(OTS)などがその一例で、撥水性を有するので、防汚対策の面からも有効である。また、シラン系の自己組織化膜の場合には、密着性を向上する目的で偏光素子上に密着層としてSiO2を上記方法でコートした後に自己組織化膜を堆積させてもよい。
【0062】
図7は、基板上に反射層のみを形成したワイヤグリッド構造の偏光素子の偏光特性の一例を示す。吸収軸(TE波、S波)の反射率が80%前後ときわめて高いことがわかる。また、透過方向のコントラストは約200であった。
図6と
図7とを比較すると、本実施形態によれば、吸収軸の反射率を大幅に低減できることが明らかであり、TE波あるいはS波の透過及び反射を抑えて、かつ透過方向の消光比の大幅な向上を図ることができる。
【0063】
偏光素子10は、例えば以下のようにして製造することができる。即ち、基板11に金属膜及び誘電膜を積層し、フォトリソグラフィなどにより金属膜及び誘電膜の格子パターンを形成した後、斜めスパッタ成膜法により無機微粒子層14を形成する。斜めスパッタ成膜時の入射角度を調節することで、帯状薄膜12a及び誘電体層13からなる凸部の頂点付近に集中的に微粒子を堆積させることが可能となる。
【0064】
上記以外にも、透明基板上に透明材料を一次元格子状に形成し、この格子の凸部上に金属層、誘電体層及び無機微粒子層を順次斜め成膜により積層する方法も適用可能である。更には、基板上に金属膜、誘電膜、微粒子膜を順次積層した後、これらを一括して一次元格子状にエッチングする方法を用いてもよい。
【0065】
更に、
図8に示すように、基板11上に反射層12を一次元格子状に形成した後、誘電体層13を基板11の表面全域に形成する。これにより、誘電体層13は、反射層12の帯状薄膜12aの直上で凸部、帯状薄膜12a間で凹部となる凹凸形状を有する。その後、斜めスパッタ成膜法により、誘電体層13の凸部の頂部の側面部に無機微粒子層14を形成することで、
図1の例と同様な作用効果を有する偏光素子を作製することができる。無機微粒子層14の形成領域は図示する誘電体層13の頂部の一側面部に限らず、両側面部であってもよい。
【0066】
(第2の実施形態)
図9は本発明の第2の実施形態による偏光素子20の概略構成を示す側断面図である。なお、図において上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0067】
本実施形態の偏光素子20は、基板11の表面(一方の面)に、一次元格子状の反射層12が形成されており、この反射層12の上に誘電体層13及び無機微粒子層14が順次形成されている。そして、基板11の裏面(他方の面)には、誘電材料からなる凹凸部15と、この凹凸部15の頂部又は少なくとも一側面部に形成された第2の第2の無機微粒子層16とからなる光学異方性による偏光波の選択的光吸収層17が設けられている。
【0068】
この光学異方性による偏光波の選択的光吸収層17が設けられていない第1の実施形態の偏光素子10においては、基板11の裏面側が反射層12による鏡面を呈するため、偏光素子を透過し当該偏光素子の次段に配置されたレンズ等の他の光学素子で反射して戻った光は、上記鏡面で再び反射されることになる。このような迷光は、液晶プロジェクターにおいてゴースト等の画質の劣化を引き起こす。
【0069】
本実施形態では、基板11の裏面側に上記構成の光学異方性による偏光波の選択的光吸収層17を設けることにより、上記迷光を吸収し反射層12における反射を防止する。光学異方性による偏光波の選択的光吸収層17を構成する凹凸部15は、誘電体層13と同様な材料からなるとともに、反射層12の帯状薄膜12aが延びる方向に平行に形成された一次元格子状に形成されている。第2の無機微粒子層16は、凹凸部15の凸部の頂部又は側面部に無機微粒子が線状に配列されて形成されており、基板11表面側の無機微粒子層14と同様な材料で構成されることにより、光学異方性を示し基板11裏面からの入射光に対する吸収効果を出現させる。
【0070】
凹凸部15の形成方法としては、誘電体層13の形成方法と同様にスパッタ法やゾルゲル法等によって形成される。凹凸形状の付与は、フォトリソグラフィ技術を用いたパターン加工やナノインプリント法によるプレス形成が好適である。第2の無機微粒子層16の形成方法としては、基板11表面側の無機微粒子層14の形成方法と同様な斜め成膜が好適である。第2の無機微粒子層16は、凹凸部15の頂部又は一側面部あるいは両側面部に形成される。
【0071】
あるいは、偏光素子20の別の作製方法として、
図1に示す偏光素子10と、別の基板上に誘電材料からなる凹凸部15と、この凹凸部15の頂部又は少なくとも一側面部に形成された第2の第2の無機微粒子層16とからなる光学異方性による偏光波の選択的光吸収層17を設けた偏光素子とを用いて、お互いの基板の裏面同士を透明接着剤により貼り合わせて偏光素子20としてもよい。この場合、無機微粒子層15、25の無機微粒子の配列方向が揃うようにするとよい。
【0072】
(第3の実施形態)
図10は本発明の第3の実施形態による偏光素子30の概略構成を示す側断面図である。なお、図において上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0073】
本実施形態の偏光素子30は、上述の第2の実施形態と同様な目的で構成されている。即ち、本実施形態の偏光素子30は、基板11と反射層12との間に、反射防止層18が形成されている。このように一次元格子状の反射層12の直下に反射防止層18を設けることにより、基板11の裏面からの入射光の反射を防止するようにしている。
【0074】
反射防止層18は、例えばカーボンブラック膜等の黒色層が好適である。これにより、基板11裏面からの入射光を効率よく吸収することができる。また、カーボンのほか、酸素欠損したシリコン酸化物層や、反射層12よりも反射率の低い低反射材料が適用可能である。あるいは無機微粒子層14と同様のものを反射防止層18としてもよい。なお、図示の例では、反射層12と反射防止層18との間で干渉効果を得る事により反射率軽減を図る事を目的として誘電体層19が設けられている。この誘電体層19及び反射防止層18の格子形状への加工は、例えば反射層12のパターン加工で同時に行うことができる。
【0075】
本実施形態の変形例として、つぎの方法がある。すなわち基板11について、その表面をラビング処理して、該表面にその後形成される無機微粒子層14の無機微粒子14aの配列方向に対応するように微細なすじが一方向に揃った状態の凹凸からなるテクスチャー構造を形成し、ついで、該ラビング処理後の表面に無機微粒子14aの配列方向に対応するように前述した斜めスパッタ法により形状異方性を有する無機微粒子からなる薄膜(反射防止層)を形成するとよい。前記テクスチャー構造により無機微粒子の長軸方向がすじの長手方向となるように無機微粒子の配列性が向上して薄膜の偏光特性が改善され、ゴースト対策効果を高めることができる。同時に偏光素子としての透過コントラスト特性の増大も期待できる。
【0076】
(第4の実施の形態)
図11は本発明の第4の実施形態による偏光素子40の概略構成を示す側断面図である。なお、図において上述の第1の実施形態と対応する部分については同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0077】
本実施形態の偏光素子40は、第1の実施形態の偏光素子10の無機微粒子層14上に、誘電体層13/無機微粒子層14の積層構造が1または複数積み重ねられてなることを特徴としている。すなわち、
図11において、偏光素子40は、基板11上に反射層12を構成する帯状薄膜12a、誘電体層13、無機微粒子層14がこの順番で積層されており、該無機微粒子層14上に誘電体層13/無機微粒子層14の積層構造1aがさらに積み重ねられたワイヤグリッド構造となっている。また、この積層構造1aの上にさらに積層構造1aを積み重ねていってもよい。これにより各層間の干渉効果を高めて所望の波長での透過軸方向コントラストを増大させると同時に、透過型液晶表示装置において好ましくない偏光素子からの反射成分を広範囲に渡り低下させることができる。
【0078】
本実施形態における積層構造1aを積み重ねる効果を確認するために、
図1に示した積層構造1aのない構成の偏光素子10と
図11に示した積層構造1aを1つ有する構成の偏光素子40における波長に対する偏光光学特性を波長厳密結合波解析(RCWA)によりシミュレーション計算を行った。ここでは、反射層12をAlからなる層(表記Al)、誘電体層13をSiO2からなる層(表記SiO2)、無機微粒子層14を斜めスパッタ成膜により形成したGeからなる層(表記Ge)とし、液晶表示装置で実用上重要である緑色光域(波長550nm近辺)において透過軸X方向、吸収軸Y方向の透過率の比として求められるコントラストが4000〜5000程度となり、反射率が最低となるように、反射層12の膜厚、誘電体層13の膜厚、無機微粒子層14の膜厚をパラメータとして最適化計算を行った。また、反射層12の一次元格子ピッチは150nmで、格子幅(帯状薄膜12aの幅):スペース(帯状薄膜12aの間隔)=0.275:0.725とした。さらに、偏光素子出射面への戻り光の再反射による迷光の影響を抑えるために偏光素子出射面(反射層12と基板11との間)には膜厚15nmのGe層を付加する構成とした。
【0079】
前記条件設定の結果、コントラスト4000〜5000で最適化された層構造は次のとおりとなった。なお、カッコ内は各層の膜厚であり、総膜厚として偏光素子40の方が偏光素子10よりも薄くなっている。このことは薄膜堆積時間及びエッチング時間の減少に寄与し製作上有利である。
・偏光素子10;基板11面からGe(15nm)/Al(240nm)/SiO2(205nm)/Ge(90nm)
・偏光素子40;基板11面からGe(15nm)/Al(220nm)/SiO2(90nm)/Ge(45nm)/SiO2(90nm)/Ge(45nm)
【0080】
以上の結果、
図12に、得られた偏光光学特性を示す。また
図13にその場合のコントラスト結果を示す。
図12において、波長550nm近辺での吸収軸反射率は偏光素子40(2層と記載の実線のデータ)の方が偏光素子10(単層と記載の点線のデータ)よりも小さくなっている。これに対応して、
図13において波長550nm近辺におけるコントラストは偏光素子40(2層)の方が偏光素子10(単層)よりも大きくなっている。
【0081】
なお、ここでは緑色光域(波長550nm)用でかつ積層構造1aを1つ積み重ねた構成(2層)を前提に計算を行ったが、他の波長域においても各層の膜厚を最適化することで同様の効果を得ることができる。また積層構造1aを複数積み重ねた構成(2層以上)でも同様の効果を得ることができる。
【0082】
本発明の偏光素子40の製作方法としては例えばつぎの3つの方法がある。すなわち、第一の方法としては、基板11に反射層材料(金属格子材料)、誘電体膜を積層し、ナノインプリントやフォトリソグラフィなどの手法により一次元格子パターンを形成あるいはエッチングした後、斜めスパッタ成膜法により微粒子を成膜するものである。これによれば斜めスパッタ成膜時の入射角度を調節することで、凸部となった誘電体層13の頂点付近に集中的に無機微粒子を堆積させることが可能である。また第二の方法としては、透明基板上に透明材料を用いて一次元格子形状の凹凸部を形成し、反射層材料、誘電体膜、無機微粒子材料を順次積層数分斜め成膜により積層するものである。また第三の方法としては、反射層の薄膜(金属格子膜)の上に(誘電体膜/無機微粒子薄膜)の積層構造を積層数分だけ順次積層した後にエッチングするものである。なお無機微粒子材料は完全な島状になっている必要はなく、粒界が形成されていればよい。また誘電体層13と無機微粒子層14はスパッタ成膜及びエッチングによる形成方法と斜めスパッタ成膜による形成方法とを組み合わせて製作してもよい。なお、上記の製造プロセスを実行する上で基板材料の種類に限定は無いが、発熱量の多いプロジェクターに応用する場合には、熱伝導性の高い水晶やサファイア基板が適している。
【0083】
また、第1の実施の形態と同様に、光学特性の変化が応用上影響を与えない範囲で偏光素子40の最上部に耐湿性などの信頼性改善の目的でSiO2などからなる保護膜を堆積してもよい。また、基板11の反射を軽減する目的で、あらかじめ無反射コート(一般的な高屈折膜と低屈折膜の積層膜など)を行い、その後前記製造プロセスにより偏光素子40を製作することで白黒コントラストを向上させることができる。
【0084】
ところで、これまで述べた構造の偏光素子40のままでは、光の出射面(反射層12)が金属でできているために戻り光がある場合には反射率が高くなってしまう。そこで、本実施の形態においても第2の実施の形態や第2の実施の形態に示したような出射面迷光対策をとるとよい。
図14、
図15に本実施の形態における出射面迷光対策例を示す。
【0085】
図14は、
図9の構成を本実施の形態に適用した例である。
偏光素子40Aは、偏光素子40において、基板11の反射層12形成面とは反対面(裏面)に誘電材料からなる凹凸部15と、この凹凸部15の頂部又は少なくとも一側面部に形成された第2の第2の無機微粒子層16とからなる光学異方性による偏光波の選択的光吸収層17が設けられてなるものである。
【0086】
図15は、
図10の構成を本実施の形態に適用した例である。
偏光素子40Bは、偏光素子40において、一次元格子状の反射層12の直下に反射防止層18が設けられ、さらに反射層12と反射防止層18との間で干渉効果を得る目的で誘電体層19が設けられている。なお、
図15において反射層12下の誘電体層19は無くてもよく、単に反射層12の下に反射防止層18が形成されていてもよい。また、反射防止層18が無機微粒子層14と同じものである場合はコントラストの向上にも寄与するものとなるが、単に戻り光の反射防止をする目的であれば反射層12の下に反射防止層18として該反射層12よりも反射率が低い層(低反射層)を設けるとよい。低反射材料としては反射層12よりも反射率が低ければ効果があり、カーボンや酸素欠損SiOxなどの酸化膜を使用したり、あるいは金属または半導体微粒子などを用いたりすることも可能である。
【0087】
反射層12の下に反射防止層18及び誘電体層19を付加する場合、あるいは反射防止層18を反射層12直下に作製する場合、これらの膜を反射層用の膜の成膜前に成膜し反射層12形成のためのエッチングの際に同時にエッチングすると、反射層12の帯状薄膜12a直下にのみこれらの層を形成できるので透過特性に影響を与えないことが可能である。
【0088】
つぎに、本発明に係る液晶プロジェクターについて説明する。
本発明の液晶プロジェクターは、光源となるランプと、液晶パネルと、前述した本発明の偏光素子10,20,30,40とを備えるものである。
【0089】
図16に、本発明に係る液晶プロジェクターの光学エンジン部分の構成例を示す。ここでは、偏光素子10を用いる前提で説明する。
液晶プロジェクター100の光学エンジン部分は、赤色光LRに対する入射側偏光素子10A、液晶パネル50、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cと、緑色光LGに対する入射側偏光素子10A、液晶パネル50、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cと、青色光LBに対する入射側偏光素子10A、液晶パネル50、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cと、それぞれの出射メイン偏光素子10Cから出てくる光を合成し投射レンズに出射するクロスダイクロプリズム60とを備えている。ここで、本発明の偏光素子10,20,30は、入射側偏光素子10A、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cそれぞれに適用されている。
【0090】
本発明の液晶プロジェクター100では、光源ランプ(不図示)から出射される光をダイクロイックミラー(不図示)により赤色光LR、緑色光LG、青色光LBに分離し、それぞれの光に対応する入射側偏光素子10Aに入射させ、ついでそれぞれの入射側偏光素子10Aで偏光された光LR、LG、LBは液晶パネル50にて空間変調されて出射され、出射プリ偏光素子10B、出射メイン偏光素子10Cを通過した後、クロスダイクロプリズム60にて合成されて投射レンズ(不図示)から投射される構成となっている。光源ランプは高出力のものであっても、強い光に対して優れた耐光特性をもつ本発明の偏光素子10(20,30,40)を用いているため、信頼性の高い液晶プロジェクターを実現することができる。
【0091】
なお、本発明の偏光素子は、前記液晶プロジェクターへの適用に限定されるわけではなく、使用環境として熱を受ける偏光素子として好適である。例えば、自動車のカーナビやインパネの液晶ディスプレイの偏光素子として適用することができる。
【実施例】
【0092】
以下に、本発明に係る偏光素子における偏光特性を検証した結果を示す。
(実施例1)
図1の偏光素子10において、斜めスパッタ成膜法により無機微粒子層14を形成する方法は偏光特性の向上の観点からも有利である。この理由について
図17に基づいて説明する。すなわち、
図3Cに示したように、無機微粒子は、基板面内で斜め成膜の粒子入射方向と直交する方向に縦長の形状となる。しかし、Siやガラスのようなフラットな面に成膜する場合(
図17(a))には、粒子の孤立化及び形状は入射粒子方向の分布とステアリング効果による自己組織化作用に依存するので、各粒子の長軸方向を
図3Aのy軸方向に完全に一致させる事はできない。これにより偏光軸の乱れを生じることとなる。一方、反射層(金属格子)と誘電層が形成されることにより基板表面の凸部が一次元格子状となった状態で、一次元格子長手方向に直交する方向から斜め成膜すれば(
図17(b))、必然的に微粒子は格子方向に倣う事になり微粒子層の偏光軸の乱れは大幅に解消される。よって、格子上に成膜された無機微粒子は、フラットな基板に成膜した場合に比べてより大きな光学異方性を有していると考えられる。なお、Alからなる反射層を一次元格子状に設けた基板上にGeからなる無機微粒子層を形成する場合には、Ge微粒子の光学定数を単独で測定する事は難しいが、
図3Aよりも大きな光学特性を有すると考えられる。
【0093】
そこで、Alからなる反射層を一次元格子状に設けた基板を模した格子基板として
図18に示すような格子ピッチ150nmで表面に一次元格子状の凹凸が形成された水晶基板を用いて光学特性を評価した。また、比較のためのフラット基板としてコーニング1737ガラスを用いたものも評価した。ここでは、
図3Aで示した斜めスパッタ成膜の方法でそれぞれの基板上に、Geを約30nmをイオンビームスパッタにより斜め成膜したところ、波長550nmの透過軸コントラストはそれぞれ1.3(フラット基板),2.7(格子基板)となり、格子形状上へ成膜した場合の方がコントラストが約2倍高くなっていた。これは上記の効果を裏付けるものである。
【0094】
なお、斜め成膜では、
図19に示すように、膜厚(無機微粒子の成長方向の厚さ)とともに成膜粒子の形状が変化し、光学異方性に影響する。すなわち、無機微粒子の膜厚bが粒子の長径aよりも小さい場合(
図19A)、基板面上の2方向(X,Y方向)で光学異方性を持ち、粒子長径aの方向が吸収軸となる。これに対して、無機微粒子の膜厚bが粒子の長径aよりも大きい場合(
図19B)、無機微粒子の厚み方向と面内の軸方向で光学異方性を持ち、粒子膜厚bの方向が吸収軸となることから、
図19Aと
図19Bとでは光学異方性の方向が実質的に逆転することになる。本発明では、格子方向を吸収軸として使用するので、膜厚が厚いと偏光特性が低下する事を意味する。よって、
図19Aのように(粒子長径a)>(粒子膜厚b)の関係となる領域で使用する事が望ましい。
【0095】
ところで、光学異方性をもたない薄膜(例えばゲルマニウム薄膜)を無機微粒子層14の代わりに誘電層13上に形成しても、その膜厚を最適化することにより吸収軸方向の反射率の抑制は可能である。しかしこの場合には、抑制は干渉効果が支配的なために、波長帯域が狭く、透過軸方向の吸収があるために透過軸透過率が減少するという問題がある。さらに干渉効果は膜厚に敏感なので、所望の特性を得るためには、厳密な誘電体層13の膜厚、ゲルマニウム薄膜の膜厚の制御が必要である。これに対し本発明では、光学異方性をもったゲルマニウム微粒子を用いるので、設計範囲が広く、製造も容易である。
【0096】
そこで、波長厳密結合波解析(RCWA)法により、偏光素子10における無機微粒子層14が薄膜である場合と微粒子である場合とによる光学特性の違いをシミュレーションした。ここでは、反射層12について膜厚(アルミ厚):200nm,格子ピッチ:150nm,アルミ幅:45nmとし、誘電体層13について膜厚(SiO2):30nmとして、Ge薄膜とGe微粒子の膜厚に対する波長450nmにおける吸収軸反射率、透過軸透過率、透過コントラストの依存性を計算した。またGe薄膜の光学定数は、
図4Bの値を使い、Ge微粒子の光学定数は、格子に成膜された場合の異方性増大を考慮するため、
図20に示すモデルにて、入射光の波長よりも十分に小さい微粒子が誘電体層中に軸方向をそろえて分布していると仮定して計算で求めた。さらに誘電体層13中のGeの体積率は0.4、アスペクト比は20として計算した。
その結果を
図21に示す。
図21(a)が吸収軸反射率、
図21(b)が透過軸透過率、
図21(c)が透過コントラストの結果である。Ge微粒子の場合の方がGe薄膜の場合よりも、コントラストが同程度で、さらに透過率が高く、かつ反射率を軽減できる膜厚範囲が広いことがわかる。
【0097】
(実施例2)
図1に示す構成の偏光素子10において、反射層12の高さ(膜厚)を変えることでその透過コントラストを容易に制御することができる。その一例として
図22に、Alからなる一次格子状の反射層12としてピッチ150nm、アルミ幅37.5nmの場合の反射層膜厚(アルミ高さ)と波長550nmでの透過コントラストの波長厳密結合波解析(RCWA)による計算結果を示す。
【0098】
また
図1に示す構成の偏光素子10において、誘電体層13の高さ(膜厚)を変えることでその光学特性を容易に制御することができる。ここでは、ガラス(コーニング1737)製の基板11上に、Alからなる一次格子状の反射層12としてその膜厚(アルミ高さ)を200nm、そのピッチを150nm、格子幅を50nmとし、RFスパッタ成膜によるSiO2からなる誘電体層13としてその膜厚を0,19,37,56,74nmと変化させ、Ge微粒子からなる無機微粒子層14としてその膜厚を30nmとして、本発明の偏光素子10のサンプルを作製し、得られたサンプルの波長450,550,650nmにおける誘電層膜厚と透過軸透過率、コントラスト、吸収軸反射率の関係を求めた。その結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
得られた結果より、例えば吸収軸反射率を軽減したい場合には誘電体層13の膜厚を19〜37nmの範囲とすればよい。また、反射の影響が少ない用途に用いる場合には誘電体層13の膜厚を0として使用することも可能である。これは、製作工程の減少を意味し、生産性の向上につながる。また、波長450〜650nmで高いコントラストを実現しており、使用波長範囲が広いプロジェクター用途に適している。
一方、透過率に関しては、波長450nmでは70%以上、波長550,650nmでは80%以上の高い透過率を示している。格子のピッチをより狭める事で透過率のさらなる向上も可能である。
また、コントラストに関しては、金属格子の高さにより調整することが可能である。より高いコントラストが必要な場合はアルミ格子を高くすればよく、下げたい場合は低くすればよい。
【0101】
つぎに、
図1に示す構成の偏光素子のサンプルを作製した。ここでは、ガラス(コーニング1737)製の基板11上に、反射層12としてピッチ150nm、格子深さ30nmのアルミニウム格子を作製し、その上に誘電体層13としてSiO2 を30nmを形成し、ついで、
図2のイオンビームスパッタ装置により、常温の基板11に基板傾斜角θ=5°として斜めスパッタ成膜を行って無機微粒子層14としてGe微粒子層を30nm積層し、最表層に保護膜として膜厚30nmのSiO2 を形成して、
図1に示す偏光素子サンプルを作製した。
図23に、偏光素子サンプルの偏光特性を示す。この場合、反射層の膜厚が薄い(アルミ高さが低い)ので、コントラストは青域で3程度になっているが、反射率はGe微粒子の効果が2%以下に抑えられている。このような性能を有する偏光素子の場合、Ge微粒子は、反射層/誘電体層からなる凸部の側壁に堆積し、異方性光学吸収素子として良好な形状をしている。
【0102】
本発明の偏光素子10では、格子形状(
図1における反射層12/誘電体層13の形状や高さ、一次格子のピッチなど)とステアリング効果(無機微粒子14aのサイズ、アスペクト比、配列性など)とを組み合わせることで、吸収型偏光素子として好適な微粒子形状を実現することができる。
【0103】
(実施例3)
図1に示す偏光素子10において、出射面迷光対策(ゴースト対策)として、基板11についてその表面を後に形成される無機微粒子14aの配列方向に対応するように細かいスジが一方向に揃った状態であるテクスチャー構造となるようにラビング処理し、該ラビング処理後の表面に無機微粒子14aの配列方向に対応するように形状異方性を有する無機微粒子からなる薄膜(反射防止層18となる薄膜(以下、反射防止膜))を形成するとよい。具体的には、研磨テープなどの研磨材により機械的にテクスチャー構造を基板11の表面に形成し、その後無機微粒子からなる反射防止膜を斜めスパッタ成膜法により形成することで、格子上に成膜される無機微粒子層14と同様にステアリング効果による形状異方性を有する無機微粒子とすることができるので、無機微粒子の偏光効果が高まり、結果としてゴースト抑制効果を高めることが可能となる。以下、具体的に実施した例を説明する。
【0104】
ここでは、研磨材として日本ミクロコーティング製D20000を用いて効果の検証を行った。基板にはコーニング1737ガラスを用い、D20000で表面を一方向に擦る事によってテクスチャーを形成した。
図24に、AFM(原子間力顕微鏡)によりテクスチャー形成後の基板表面を測定した結果を示す。横軸は基板上の位置、縦軸は表面の凹凸高さである。基板表面の凹凸の平均ピッチは160nmであった。また、テクスチャー形成前後での基板の透過率を調べたところ、
図25に示すように、テクスチャー形成前後(研磨前後)で透過率が変化していないことがわかった。すなわち本方法により、基板の透過特性を悪化させずにかつ簡単にナノレベルの精密加工をすることが可能である。
【0105】
つぎに、前記テクスチャー形成後の基板に、
図2のイオンビームスパッタ装置により、基板傾斜角θ=5°として斜めスパッタ成膜を行ってGe微粒子からなる膜厚10nmの反射防止膜を形成したが、このときGe入射方向と基板との関係を、
図3Aにおいてy方向がテクスチャー長手方向となるように基板を配置してスパッタ成膜した。得られたサンプルについて、AFM(原子間力顕微鏡)により該反射防止膜におけるGe微粒子の形状を観察したところ、
図26に示すように、テクスチャーに沿ってGe微粒子が整列している状態が観察された。
【0106】
図27に、このサンプルの透過特性を示す。比較として、基板をラビング処理していない1737ガラス基板ままのものとし、それ以外は同一条件で反射防止層を形成したサンプルについても透過特性を調べた。
図27では本実施例サンプルを「テクスチャー基板」、比較サンプルを「基板まま」と表記している。その結果、両者ともにステアリング効果により偏光特性が見られるが、テクスチャーを形成した方が、x方向の透過率がより高く、y方向の透過率との差が大きく、良好な偏光特性を示していた。
本発明では、本実施例サンプル(テクスチャー構造を有する基板上に反射防止膜を形成したもの)を用いて、その上に
図1における偏光素子10の層構造を形成するが、反射層12あるいは誘電体層13をパターン加工すると同時に前記反射防止膜も格子状に加工して反射防止層18とする。これにより、ゴースト対策効果を高めることができると同時に偏光素子としての透過コントラスト特性の増大も期待できる。