(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2熱処理工程を行う前に、前記第2熱処理工程で熱処理される原料成形体を昇温させる第2昇温工程を更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の非鉛圧電組成物の製造方法。
前記第1冷却工程と、前記第2昇温工程との間に、前記第1冷却工程で冷却された原料成形体を加工する加工工程を更に含む請求項3に記載の非鉛圧電組成物の製造方法。
前記非鉛圧電組成物が、Mn、Co、Ni、V、Nb、Ta、W、Si、Ge、Ca及びSrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を2重量%以下の割合で更に含む1〜23のいずれか一項に記載の非鉛圧電組成物の製造方法。
請求項4に記載の非鉛圧電組成物の製造方法と、前記加工工程の後に行われ、前記非鉛圧電組成物に電圧を印加するための電極を作製する電極作製工程とを含む非鉛圧電素子の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[本発明1]
以下、本発明1について説明する。
【0023】
(実施形態1−1)
先ず、本発明1の圧電組成物について説明する。
【0024】
本発明1の圧電組成物は、一般式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有し、組成式x(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−yBi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−zBiFeO
3で表され、上記組成式において、x+y+z=1である。また、上記組成式中のx、y及びzを用いた三角座標において、点A(1,0,0)、点B(0.7,0.3,0)、点C(0.1,0.3,0.6)、点D(0.1,0.1,0.8)、点E(0.2,0,0.8)を頂点とする5角形ABCDEで囲まれ、かつ点A(1,0,0)と点E(0.2,0,0.8)とを結ぶ線分AE上を含まない領域で表される組成を有している。
【0025】
上記BKT−BMT−BFOの複合組成とすることにより、BKT単体、BMT単体及びBFO単体のそれぞれよりも大きな圧電定数を有した圧電組成物を得ることが可能となるとともに、その製造が簡便となる。
【0026】
図1は、上記組成式中のx、y及びzを用いた三角座標において、点A(1,0,0)、点B(0.7,0.3,0)、点C(0.1,0.3,0.6)、点D(0.1,0.1,0.8)、点E(0.2,0,0.8)を頂点とする5角形ABCDEで囲まれる組成領域1を示したものである。但し、本発明1では、点A(1,0,0)と点E(0.2,0,0.8)とを結ぶ線分AE上の組成領域は含まれない。
【0027】
上記組成領域1にある圧電組成物は、原料成分の焼結が比較的容易であり、また電界−歪み特性の傾きの最大値から求めた圧電定数d33
*が大きくなる。
【0028】
一方、BFOの量が0.8を超える組成(z>0.8の組成)においては、リーク電流が大きくなったり、ドメインの動きがピンニングされたりする現象が顕著となり、大きな圧電特性を示さなくなるので好ましくない。
【0029】
また、z=0の場合は、点A(1,0,0)と点B(0.7,0.3,0)とを結ぶ線分AB上であって、点A(1,0,0)を除く組成が本発明1の組成となる。点A(1,0,0)の組成を含まないのは、点Aではy=z=0となり、その組成ではBKT単独の組成となり、d33
*としてあまり大きな値を得ることができず、更に製造時の焼結条件が著しく厳しくなるからである。例えば、BKT単体では、1060℃程度で焼結できるが、その温度より数度低い温度では焼結密度が上がらず、それより数度高い温度では、原料が部分的に溶解してしまう。従って、圧電組成物を製造するための焼結最適温度が非常に狭くなり、焼結が難しくなる。本発明者らは、BKTにBMTやBMT−BFOを固溶すると著しく焼結が容易になることを見出した。
【0030】
更に、BMTの量が0.3を超える組成(y>0.3の組成)では、しばしばペロブスカイト構造以外の異相が発生したり、圧電定数d33
*が小さくなってしまう。また、BMTの量が0.02未満の組成(y<0.02の組成)では、BKT−BFOにあまりに近いので、BKT−BFO同様に焼結が困難であるという不都合ある。
【0031】
次に、本発明1の圧電組成物の更に好ましい形態について説明する。
【0032】
BKTは正方晶であり、BFOは菱面体晶である。従って、この間には相境界が存在する。ここで、相境界とは、少なくとも2種類以上の結晶構造が共存する組成領域をいう。従来、BMTは高温・高圧の条件のみでしか製造できないため、固溶体として製造することも困難であると考えられ、BKT−BMT又はBKT−BMT−BFOの組み合わせは全く検討されておらず、相境界もまったく不明であった。本発明者らは、BKT−BMT−BFOの固溶体組成においても、正方晶と疑立方晶との相境界及び菱面体晶と疑立法晶との相境界が存在することを初めて明らかにした。更に、相境界の近傍では、後述する本発明1の圧電組成物の製造方法に示すように、アニール処理や比較的速い空冷を行うことにより、通常の方法で圧電組成物を製造した場合に比べて飛躍的に大きな圧電特性を有する圧電組成物が実現できることを初めて見出した。
【0033】
具体的には、本発明1の圧電組成物は、上記三角座標において、点A(1,0,0)、点F(0.8,0.2,0)、点G(0.7,0.2,0.1)、点H(0.7,0.1,0.2)、点I(0.8,0,0.2)を頂点とする5角形AFGHIで囲まれ、かつ点A(1,0,0)と点I(0.8,0,0.2)とを結ぶ線分AI上を含まない領域で表される組成が好ましく、更に、正方晶と疑立方晶との相境界を含む組成、又は相境界の近傍の組成がより好ましい。
【0034】
また、本発明1の圧電組成物は、上記三角座標において、点J(0.6,0,0.4)、点K(0.5,0.2,0.3)、点L(0.2,0.2,0.6)、点M(0.2,0.1,0.7)、点N(0.3,0,0.7)を頂点とする5角形JKLMNで囲まれ、かつ点J(0.6,0,0.4)と点N(0.3,0,0.7)とを結ぶ線分JN上を含まない領域で表される組成が好ましく、更に、菱面体晶と疑立方晶との相境界を含む組成、又は相境界の近傍の組成がより好ましい。
【0035】
図2は、上記三角座標において、点A(1,0,0)、点F(0.8,0.2,0)、点G(0.7,0.2,0.1)、点H(0.7,0.1,0.2)、点I(0.8,0,0.2)を頂点とする5角形AFGHIで囲まれる組成領域2、及び、点J(0.6,0,0.4)、点K(0.5,0.2,0.3)、点L(0.2,0.2,0.6)、点M(0.2,0.1,0.7)、点N(0.3,0,0.7)を頂点とする5角形JKLMNで囲まれる組成領域3を示したものである。但し、本発明1の組成領域2では点A(1,0,0)と点I(0.8,0,0.2)とを結ぶ線分AI上の組成領域、及び、本発明1の組成領域3では点J(0.6,0,0.4)と点N(0.3,0,0.7)とを結ぶ線分JN上の組成領域は含まれない。
【0036】
本発明1の圧電組成物は、ペロブスカイト構造を有し、一般組成式ABO
3で表され、Aサイト元素とBサイト元素と酸素との標準モル比は1:1:3であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で標準モル比から外れていてもよい。
【0037】
また、本発明1の圧電組成物は、上記組成式中のMgの一部をZnに置換することが好ましく、上記組成式中のBiの一部をLa、Sm、Ndの少なくとも一種類で置換することが好ましい。更に、上記組成式中のTiの一部をZrで置換することが好ましい。これらの元素の置換により、キュリー温度(Tc)又は誘電率の極大温度(Tm)を下げることができ、更にリラクサー特性を示す本発明1の圧電組成物において、Tc(又はTm)の低下により大きな圧電定数と大きな誘電率が期待できる。
【0038】
更に、本発明1の圧電組成物は、Mn、Co、Ni、V、Nb、Ta、W、Si、Ge、Ca及びSrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を2重量%以下の割合で含有することが好ましい。Mn、Co、Ni又はVを含むことにより、Feの価数のずれを3価に戻すことが可能となり、リーク電流の低減が期待できる。また、Nb、Ta、V、Wはドナーとして寄与するために、これらを含むことにより材料をソフト化することが期待できる。Si又はGeを含むことにより、焼結密度の向上と電気機械結合係数の向上が期待できる。Sr又はCaを含むことにより、BiやKの蒸発の低減が期待でき、その結果、特性向上や信頼性向上が可能となる。
【0039】
上記Mn、Co、Ni、V、Nb、Ta、W、Si、Ge、Ca及びSrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素は、圧電組成物の結晶中に固溶している必要はなく、結晶粒内や粒界に析出していてもよいし、偏析していてもよい。
【0040】
(実施形態1−2)
次に、本発明1の圧電組成物の製造方法について図面に基づき説明する。下記製造方法とすることにより、上記実施形態1−1で説明した圧電組成物を簡便に得ることが可能となる。
【0041】
〔第1の製造方法〕
図3は、原料準備工程を除いた本発明1の第1の圧電組成物の製造方法を示す概略図である。本発明1の第1の圧電組成物の製造方法は、原料準備工程と、昇温工程と、熱処理工程と、冷却工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0042】
<原料準備工程>
先ず、本発明1の圧電組成物を構成する元素の酸化物や炭酸塩、炭酸水素塩、各種酸塩などを出発原料として準備する。例えば、酸化物としては、Bi
2O
3、Fe
2O
3、TiO
2、MgOなど、また、炭酸塩としては、K
2CO
3やKHCO
3を用いることができる。
【0043】
本発明1の圧電組成物のカリウム原料としては、上記のとおりK
2CO
3やKHCO
3を用いることができるが、KHCO
3を用いことが好ましい。これは、KHCO
3の吸湿性がK
2CO
3に比べて特に小さいため、原料としての秤量誤差を小さくできるためである。
【0044】
次に、必要量を秤量した出発原料を用いて、原料粉の混合物を作製する。混合物を作製する方法としては、乾式法、湿式法のいずれでもよく、例えばボールミルやジェットミルなどによる湿式粉砕が適宜利用できる。湿式粉砕をボールミルによって行う場合には、上記原料を分散媒と混合し、粉砕装置に投入する。分散媒としては、メタノール、エタノールなどの各種アルコール系材料や各種有機液体や純水を用いることができるが、水溶性のK
2CO
3やKHCO
3を原料に用いるので、廃液処理や水を含まない観点よりアルコール系材料が望ましい。更に、粉砕装置に、ジルコニアボールやアルミナボールなどの粉砕メディアを加えて、出発原料の粒度が微細で、均一となるまで混合・粉砕を行う。次に、粉砕メディアを取り除き、吸引ろ過や乾燥器を利用して分散媒を除去する。次に、得られた原料粉を坩堝などの容器に入れて仮焼成を行う。仮焼成の温度は、例えば、600〜1000℃の温度で行うことができる。これによって、混合物の組成の均一化や、焼結後の焼結密度の向上を図ることができる。但し、上記仮焼成は、必ずしも必須ではなく、分散媒を乾燥除去した原料粉を用いて以下の成形体作製工程を行ってもよい。一方、均一性や焼結密度の向上のために仮焼成を2回以上行ってもよい。
【0045】
仮焼成を行う場合は、粉砕装置を用いて原料粉を粉砕した場合と同様に、仮焼成後に仮焼成粉を再度粉砕する。仮焼成後の粉砕工程では、その工程の最初、途中又は最終のいずれかの段階で、バインダーなどを加えてから、再度乾燥して原料粉を作製する。バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)や、ポリビニルブチラール(PVB)などを用いることができる。
【0046】
次に、得られた有機成分とセラミックスとの混合粉末を、例えば、プレス機械を用いて、直径10mm、厚み1mm程度から直径50mm、厚み5mm程度の円柱状のペレットに成形する。最後に、得られた成形体を電気炉に入れて、500〜750℃で数時間から20時間程度加熱することにより、脱バインダー処理を行い、原料成形体を得る。
【0047】
上記原料準備工程では通常の固相法の場合を示したが、原料準備工程は固相法に限定されず、例えば、水熱合成法や、アルコキシドを出発原料として用いる方法でもよい。
【0048】
<昇温工程>
次に、
図3に示すように、得られた原料成形体を再度坩堝などに入れ、熱処理工程の温度まで昇温する。昇温速度は、原料成形体のサイズにもよるが、通常50〜300℃/hrとする。なお、例えば水分を除去する目的で100〜200℃で一定時間保持したり、昇温速度を遅くすることも本発明1の昇温工程に含めるものとする。
【0049】
<熱処理工程>
次に、
図3に示すように、原料成形体を900〜1080℃で、5分〜4時間熱処理する。
【0050】
<冷却工程>
最後に、
図3に示すように、熱処理後の成形体を室温まで冷却する。この冷却工程は、圧電組成物の各種欠陥がドメイン壁に集合してくることを避けるために行う。冷却速度は、0.01〜200℃/秒が好ましく、より好ましくは、5〜100℃/秒である。冷却速度を200℃/秒以下とすることにより、例えば温度800℃から70℃のお湯に浸漬するような超高速クエンチの場合の冷却速度の1/10〜1/100程度以下とすることが可能となり、圧電組成物の破壊を避けることができる。
【0051】
〔第2の製造方法〕
図4は、原料準備工程を除いた本発明1の第2の圧電組成物の製造方法を示す概略図である。本発明1の第2の圧電組成物の製造方法は、原料準備工程と、昇温工程と、第1熱処理工程と、降温工程と、第2熱処理工程と、冷却工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0052】
<原料準備工程>
第2の製造方法の原料準備工程は、上記第1の製造方法の原料準備工程と同様に行う。
【0053】
<昇温工程>
第2の製造方法の昇温工程は、
図4に示すように、上記第1の製造方法の昇温工程と同様に行う。
【0054】
<第1熱処理工程>
次に、
図4に示すように、原料成形体を900〜1080℃で熱処理する。熱処理時間は、目的とする圧電組成物がセラミックスの場合には、2〜300時間であり、より好ましくは6〜200時間である。圧電組成物としてセラミックスを得る場合、この第1熱処理工程は原料成形体の焼結工程となり、この熱処理時間を制御することにより、セラミックスの粒径を制御することができる。圧電組成物がセラミックスの場合の粒径は、0.5〜200μmが好ましく、より好ましくは1〜100μmである。これらの好ましい圧電組成物の粒径は、上記熱処理時間(焼結時間)を6〜300時間とすることにより実現できる。
【0055】
また、目的とする圧電組成物が単結晶の場合には、熱処理温度は、6〜3000時間である。圧電組成物として単結晶を得る場合、この第1熱処理工程は原料成形体の結晶成長工程となる。
【0056】
<降温工程>
後述するように第2熱処理工程はアニール工程となるため、第1熱処理工程と第2熱処理工程との間は、
図4に示すように、降温工程となる。降温速度は特に限定されないが、セラミックスの場合は50〜1000℃/hr、単結晶の場合は0.1〜200℃/hrとすればよい。
【0057】
<第2熱処理工程>
次に、
図4に示すように、原料成形体に対して第2熱処理工程を行う。この第2熱処理工程はアニール工程であり、アニール温度は300〜900℃、より好ましくは400〜800℃とし、アニール時間は5分〜100時間とする。このアニール工程は、圧電組成物の各種欠陥を除去するために行う。
【0058】
また、上記アニール工程は、それぞれ異なる温度で2回以上に分けて行うことが好ましい。これは、各種欠陥の除去温度が同一温度ではないためである。
【0059】
<冷却工程>
第2の製造方法の冷却工程は、
図4に示すように、上記第1の製造方法の冷却工程と同様に行う。
【0060】
〔第3の製造方法〕
図5は、原料準備工程を除いた本発明1の第3の圧電組成物の製造方法を示す概略図である。本発明1の第3の圧電組成物の製造方法は、原料準備工程と、第1昇温工程と、第1熱処理工程と、第1冷却工程と、第2昇温工程と、第2熱処理工程と、第2冷却工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0061】
<原料準備工程>
第3の製造方法の原料準備工程は、上記第1の製造方法の原料準備工程と同様に行う。
【0062】
<第1昇温工程>
第3の製造方法の第1昇温工程は、
図5に示すように、上記第1の製造方法の昇温工程と同様に行う。
【0063】
<第1熱処理工程>
第3の製造方法の第1熱処理工程は、
図5に示すように、上記第2の製造方法の第1熱処理工程と同様に行う。
【0064】
<第1冷却工程>
次に、
図5に示すように、熱処理後の成形体を室温まで冷却する。冷却速度は、上記第1の製造方法の冷却工程の冷却速度とほぼ同様の冷却速度で行うことができる。更に、
図5には示していないが、第1冷却工程後の成形体をより小さい形状の成形体に加工する工程を加えてもよい。これにより、後述する第2熱処理工程(アニール工程)を小さい形状の成形体に対して実施できるため、その結果、後述する第2冷却工程において圧電組成物の熱衝撃による破壊をより確実に防止することができる。
【0065】
<第2昇温工程>
後述するように第2熱処理工程はアニール工程となるため、第1冷却工程後は、
図5に示すように、昇温工程を行う。昇温速度は特に限定されないが、50〜1000℃/hrとすればよい。
【0066】
<第2熱処理工程>
第3の製造方法の第2熱処理工程は、
図5に示すように、上記第2の製造方法の第2熱処理工程と同様に行う。
【0067】
<第2冷却工程>
第3の製造方法の第2冷却工程は、
図5に示すように、上記第2の製造方法の冷却工程と同様に行う。
【0068】
(実施形態1−3)
次に、本発明1の圧電素子について図面に基づき説明する。
図6は、本発明1の圧電素子の一例を示す斜視図である。本発明1の圧電素子は、上記実施形態1−1で説明した圧電組成物と、上記圧電組成物に電圧を印加するための電極とを備えている。具体的には、
図6において、本発明1の圧電素子10は、圧電組成物11と、圧電組成物11に電圧を印加するための電極12とを備えている。
【0069】
本発明1の圧電素子の電界−歪曲線より求めた圧電定数d33
*は、140pm/V以上が好ましく、200pm/V以上がより好ましく、250pm/V以上が最も好ましい。
【0070】
以下、本発明1を実施例に基づき説明する。下記実施例では、圧電組成物としてバルクセラミックスを用いた例を示したが、本発明1の圧電組成物の形態としてセラミックスに限定されるものではなく、本発明1の圧電組成物は、配向セラミックス、厚膜、単結晶の形態でもよい。
【0071】
先ず、本発明1の第1の圧電組成物の製造方法に基づく実施例について説明する。
【0072】
(実施例1−1)
<原料準備工程>
圧電組成物の組成が、組成式0.95(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.05Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3〔x=0.95、y=0.05、z=0〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgOを秤量し、合計30gの原料を準備した。次に、秤量した原料を、エタノール及びジルコニアボールと共にポットに入れ、ボールミルで16時間粉砕した。その後、原料を乾燥して、更に原料粉を800℃で6時間仮焼成した。得られた原料粉を再びエタノール及びジルコニアボールと共にポットに入れ、ボールミルで再度16時間粉砕した後、バインダーとしてPVBを添加して乾燥した。次に、得られた原料粉を1軸プレス装置で約200〜250MPaの圧力を加えて、直径10mm、厚さ1.5mmのペレットを作製した。得られたペレットを700℃で10時間加熱してバインダーを除去して、原料成形体を得た。
【0073】
<昇温工程>
次に、得られた原料成形体を昇温速度300℃/hrで1060℃まで昇温した。
【0074】
<熱処理工程>
続いて、原料成形体を1060℃で2時間焼結した。
【0075】
<冷却工程>
最後に、焼結後の成形体を1060℃/5時間(0.058℃/秒)の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0076】
次に、得られた圧電組成物を研磨して、約0.4mmの厚みに加工した後、圧電組成物の両面に金電極をスパッタリングにより形成して、圧電素子を得た。
【0077】
(実施例1−2)
圧電組成物の組成が、組成式0.9(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3〔x=0.9、y=0.1、z=0〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgOを秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1070℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0078】
(実施例1−3)
圧電組成物の組成が、組成式0.85(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.15Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3〔x=0.85、y=0.15、z=0〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgOを秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1080℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0079】
(実施例1−4)
圧電組成物の組成が、組成式0.8(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.2Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3〔x=0.8、y=0.2、z=0〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgOを秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1080℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0080】
(実施例1−5)
圧電組成物の組成が、組成式0.7(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.3Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3〔x=0.7、y=0.3、z=0〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgOを秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1070℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0081】
(実施例1−6)
圧電組成物の組成が、組成式0.98(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.02Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3〔x=0.98、y=0.02、z=0〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgOを秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1063℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0082】
(比較例1−1)
圧電組成物の組成が、組成式(Bi
0.5K
0.5)TiO
3〔x=1、y=0、z=0〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1060±5℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0083】
(比較例1−2)
圧電組成物の組成が、組成式0.6(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.4Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3〔x=0.6、y=0.4、z=0〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgOを秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1080℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0084】
次に、実施例1−1〜1−6及び比較例1−1〜1−2の圧電組成物と圧電素子とを用いて、下記の測定を行った。
【0085】
<圧電組成物の結晶構造の解析>
得られた圧電組成物の結晶構造を粉末X線回折により解析した。
【0086】
<圧電素子の圧電定数d33
*の測定>
得られた圧電素子の電界−歪曲線は、東陽テクニカ(株)製の強誘電体特性評価システム“FCE−3”又は接触式変位計を用いた自作の評価システムを用いて作成し、この電界−歪曲線から圧電定数d33
*を測定した。この測定は、圧電定数d33
*が既知のPZTの値で校正してから行った。
【0087】
以上の結果を表1、
図7及び
図8に示す。また、表1では、圧電組成物の組成式のx、y、zを用いた三角座標も示した。
【0089】
上記圧電素子の圧電定数は、
図7及び
図8に示す矢印30に沿って測定した。表1から、実施例1−1〜1−6の圧電素子は、比較例1−1〜1−2の圧電素子に比べて大きな圧電定数を実現できていることが分かる。また、表1及び
図8から、圧電組成物の三角座標のyが0.05≦y≦0.15の範囲にある実施例1−1、1−2及び1−3の圧電素子の圧電定数d33
*が特に大きいことが分かる。これは、
図7において、実施例1−1、1−2及び1−3の圧電組成物の組成が、正方晶と疑立方晶との相境界35を含む組成、又は相境界35の近傍の組成であるためと考えられる。
【0090】
(実施例1−7)
圧電組成物の組成が、組成式0.85(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.05BiFeO
3〔x=0.85、y=0.1、z=0.05〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1070℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0091】
(実施例1−8)
圧電組成物の組成が、組成式0.8(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.1BiFeO
3〔x=0.8、y=0.1、z=0.1〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1055℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0092】
(実施例1−9)
圧電組成物の組成が、組成式0.7(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.2BiFeO
3〔x=0.7、y=0.1、z=0.2〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1030℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0093】
(実施例1−10)
圧電組成物の組成が、組成式0.6(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.3BiFeO
3〔x=0.6、y=0.1、z=0.3〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0094】
(実施例1−11)
圧電組成物の組成が、組成式0.5(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.4BiFeO
3〔x=0.5、y=0.1、z=0.4〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0095】
(実施例1−12)
圧電組成物の組成が、組成式0.45(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.45BiFeO
3〔x=0.45、y=0.1、z=0.45〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0096】
(実施例1−13)
圧電組成物の組成が、組成式0.4(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.5BiFeO
3〔x=0.4、y=0.1、z=0.5〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0097】
(実施例1−14)
圧電組成物の組成が、組成式0.3(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.6BiFeO
3〔x=0.3、y=0.1、z=0.6〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0098】
(実施例1−15)
圧電組成物の組成が、組成式0.2(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.7BiFeO
3〔x=0.2、y=0.1、z=0.7〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を950℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0099】
(実施例1−16)
圧電組成物の組成が、組成式0.1(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.8BiFeO
3〔x=0.1、y=0.1、z=0.8〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を950℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0100】
(比較例1−3)
圧電組成物の組成が、組成式0.05(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.85BiFeO
3〔x=0.05、y=0.1、z=0.85〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を900℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0101】
(比較例1−4)
圧電組成物の組成が、組成式0.2(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.4Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.4BiFeO
3〔x=0.2、y=0.4、z=0.4〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0102】
(比較例1−5)
圧電組成物の組成が、組成式0.1(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.4Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.5BiFeO
3〔x=0.1、y=0.4、z=0.5〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0103】
次に、実施例1−7〜1−16及び比較例1−3〜1−5の圧電組成物と圧電素子とを用いて、実施例1−1と同様にして、圧電組成物の結晶構造の解析及び圧電素子の圧電定数d33
*の測定を行った。その結果を表2、
図9及び
図10(アニール工程なしが該当)に示す。また、表2では、圧電組成物の組成式のx、y、zを用いた三角座標も示した。
【0105】
上記圧電素子の圧電定数は、
図9及び
図10に示す矢印40に沿って測定した。表2から、実施例1−7〜1−16の圧電素子は、比較例1−3〜1−5の圧電素子に比べて大きな圧電定数を実現できていることが分かる。
【0106】
次に、本発明1の第2の圧電組成物の製造方法に基づく実施例について説明する。
【0107】
(実施例1−17)
<原料準備工程>
圧電組成物の組成が、組成式0.85(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.05BiFeO
3〔x=0.85、y=0.1、z=0.05〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用いた以外は、実施例1−1と同様にして、原料成形体を得た。
【0108】
<昇温工程>
次に、得られた原料成形体を昇温速度300℃/hrで1070℃まで昇温した。
【0109】
<第1熱処理工程>
次に、原料成形体を1070℃で2時間焼結した。
【0110】
<降温工程>
次に、焼結後の成形体を800℃まで300℃/hrで降温した。
【0111】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
続いて、降温した成形体を800℃で20時間アニールを行った。
【0112】
<冷却工程>
最後に、アニール後の成形体を40〜100℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0113】
次に、得られた圧電組成物を研磨して、約0.4mmの厚みに加工した後、圧電組成物の両面に金電極をスパッタリングにより形成して、圧電素子を得た。
【0114】
(実施例1−18)
圧電組成物の組成が、組成式0.8(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.1BiFeO
3〔x=0.8、y=0.1、z=0.1〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1055℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0115】
(実施例1−19)
圧電組成物の組成が、組成式0.7(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.2BiFeO
3〔x=0.7、y=0.1、z=0.2〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1030℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0116】
(実施例1−20)
圧電組成物の組成が、組成式0.6(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.3BiFeO
3〔x=0.6、y=0.1、z=0.3〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0117】
(実施例1−21)
圧電組成物の組成が、組成式0.5(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.4BiFeO
3〔x=0.5、y=0.1、z=0.4〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0118】
(実施例1−22)
圧電組成物の組成が、組成式0.45(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.45BiFeO
3〔x=0.45、y=0.1、z=0.45〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0119】
(実施例1−23)
圧電組成物の組成が、組成式0.4(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.5BiFeO
3〔x=0.4、y=0.1、z=0.5〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0120】
(実施例1−24)
圧電組成物の組成が、組成式0.3(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.6BiFeO
3〔x=0.3、y=0.1、z=0.6〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0121】
(実施例1−25)
圧電組成物の組成が、組成式0.2(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.7BiFeO
3〔x=0.2、y=0.1、z=0.7〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0122】
(実施例1−26)
圧電組成物の組成が、組成式0.1(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.8BiFeO
3〔x=0.1、y=0.1、z=0.8〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を950℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0123】
(比較例1−6)
圧電組成物の組成が、組成式0.05(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.85BiFeO
3〔x=0.05、y=0.1、z=0.85〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を900℃とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0124】
次に、実施例1−17〜1−26及び比較例1−6の圧電組成物と圧電素子とを用いて、実施例1−1と同様にして、圧電組成物の結晶構造の解析及び圧電素子の圧電定数d33
*の測定を行った。その結果を表3、
図9及び
図10(アニール工程ありが該当)に示す。また、表3では、圧電組成物の組成式のx、y、zを用いた三角座標も示した。
【0126】
上記圧電素子の圧電定数は、
図9及び
図10に示す矢印40に沿って測定した。表3から、実施例1−17〜1−26の圧電素子は、比較例1−6の圧電素子に比べて大きな圧電定数を実現できていることが分かる。また、表3及び
図10から、圧電組成物の三角座標のzが0.4≦y≦0.45の範囲にある実施例1−21及び1−22の圧電素子の圧電定数が特に大きいことが分かる。これは、
図9において、実施例1−21及び1−22の圧電組成物の組成が、疑立方晶と菱面体晶との相境界45を含む組成、又は相境界45の近傍の組成であるためと考えられる。
【0127】
なお、実施例1−22で更に第1熱処理工程である焼結時間を20〜300時間に増加させた場合、d33
*が378〜410pm/Vのより大きな圧電特性を得ることができた。
【0128】
次に、本発明1の圧電組成物に対する添加物の影響について検討する。
【0129】
(実施例1−27)
圧電組成物の組成が、組成式0.45(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.1Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.45BiFeO
3〔x=0.45、y=0.1、z=0.45〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、更にこの原料30gに対して0.2重量%(0.06g)のMnCO
3を添加して、焼結温度を1000℃、焼結時間を20時間とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0130】
また、MnCO
3の添加量を0.05〜0.5重量%に変更した以外は、上記と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0131】
次に、製造した圧電素子を用いて、実施例1−1と同様にして、圧電素子の圧電定数d33
*の測定を行った。その結果を
図11に示す。また、製造した圧電素子の誘電損失(tanδ)をWayne Kerr社製のLCRメータ(型番6440B)を用いて、周波数100Hz、温度150℃で測定した。その結果を
図12に示す。
【0132】
図11より、圧電定数d33
*の値は、MnCO
3の添加量が0.3重量%までほとんど低下しないことが分かる。また、
図12より、誘電損失(tanδ)は、MnCO
3を添加すると急激に低下することが分かる。これは、高電圧印加時にリーク電流が低減することを意味する。この結果、MnCO
3の添加は高電圧印加時のリーク電流を低減し、更に添加量が少ない場合にも圧電定数d33
*をほとんど低下させないので、分極処理に非常に有利であることが判明した。また、本実施例では、Mn添加物としてMnCO
3を用いたが、MnO、Mn
2O
3、MnO
2、Mn
3O
4などを用いても、150℃での低周波の誘電損失(tanδ)を同様に低減することができる。
【0133】
(実施例1−28)
圧電組成物の組成が、組成式0.427(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.05Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.523BiFeO
3〔x=0.427、y=0.05、z=0.523〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃、焼結時間を20時間とした以外は、実施例1−1と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0134】
(実施例1−29)
圧電組成物の組成が、組成式0.427(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−0.05Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−0.523BiFeO
3〔x=0.427、y=0.05、z=0.523〕を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量して合計30gの原料を用い、焼結温度を1000℃、焼結時間を20時間とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0135】
次に、実施例1−28〜1−29の圧電組成物と圧電素子とを用いて、実施例1−1と同様にして、圧電組成物の結晶構造の解析及び圧電素子の圧電定数d33
*の測定を行った。その結果を表4に示す。また、表4では、圧電組成物の組成式のx、y、zを用いた三角座標も示した。
【0137】
表4から、実施例1−28〜1−29の圧電素子は、比較例1−3〜1−5及び比較例1−6に比べて、焼結時間を長時間に変更したのみであり、第2熱処理工程がない場合でも、大きな圧電定数を実現できていることが分かる。これは、後述する
図13及び
図14に示すように、実施例1−28及び1−29の組成が、疑立方晶と菱面体晶との相境界45を含む組成であるためと考えられる。
【0138】
(実施例1−30)
圧電組成物の組成が、組成式0.427(Bi0.5K0.5)TiO3−0.05Bi(Mg0.5Ti0.5)O3−0.523BiFeO3〔x=0.427、y=0.05、z=0.523〕を満たすように、原料として、Bi2O3、KHCO3、TiO2、MgO、Fe2O3を秤量して合計30gの原料を用い、更にこの原料30gに対して0.1重量%(0.03g)のNb2O5を添加して、焼結温度を1000℃、焼結時間を20時間とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0139】
(実施例1−31)
圧電組成物の組成が、組成式0.427(Bi0.5K0.5)TiO3−0.05Bi(Mg0.5Ti0.5)O3−0.523BiFeO3〔x=0.427、y=0.05、z=0.523〕を満たすように、原料として、Bi2O3、KHCO3、TiO2、MgO、Fe2O3を秤量して合計30gの原料を用い、更にこの原料30gに対して0.1重量%(0.03g)のWO3を添加して、焼結温度を1000℃、焼結時間を20時間とした以外は、実施例1−17と同様にして圧電組成物と圧電素子を製造した。
【0140】
次に、実施例1−30〜1−31の圧電素子を用いて、実施例1−1と同様にして、圧電定数d33*の測定を行った。その結果を表5に示す。また、表5では、圧電組成物の組成式のx、y、zを用いた三角座標も示した。
【0142】
表5から、実施例1−30〜1−31の圧電素子は、実施例1−29の圧電組成物に添加物を加えたのみで、大きな圧電定数を実現できていることが分かる。また、実施例1−27〜1−31では、添加物としてMnCO3、Nb2O5、WO3をそれぞれ別々に添加して用いたが、これらを同時に添加することにより、絶縁性が高くかつ圧電性の高い圧電組成物及び圧電素子を実現できる。
【0143】
最後に、
図13及び
図14に、上記実施例1−1〜1−31及び比較例1−1〜1−6の組成領域をまとめて示す。
図13において5角形ABCDEで囲まれる組成領域1(線分AE上の組成領域を除く。)にある圧電組成物の圧電定数d33
*が大きく、
図14において5角形AFGHIで囲まれる組成領域2(線分AI上の組成領域は除く。)及び5角形JKLMNで囲まれる組成領域3(線分JN上の組成領域は除く。)にある圧電組成物の圧電定数d33
*が特に大きい。
【0144】
以上のように本発明1の圧電組成物は、圧電定数が大きく、簡便な方法で再現性よく製造可能な非鉛系の圧電組成物であり、鉛を含まない環境対応型の圧電組成物として、超音波プローブ、トランスデューサ、センサなどへの適用が期待できる。
【0145】
[本発明2]
以下、本発明2について説明する。
【0146】
(実施形態2−1)
先ず、本発明2の非鉛圧電素子について説明する。
【0147】
本発明2の非鉛圧電素子は、圧電組成物と、上記圧電組成物に電圧を印加するための電極とを備えている。また、上記圧電組成物は、一般組成式ABO
3で表されるペロブスカイト構造を有し、上記圧電組成物は、BiFeO
3と、Bi複合酸化物とを含み、上記BiFeO
3の含有量が、上記圧電組成物の全体に対して3〜80mol%であり、上記Bi複合酸化物は、上記一般組成式において、AサイトがBiであり、Bサイトが異なる価数の複数元素からなり、25℃(室温)での比誘電率εrが400以上であり、かつ誘電損失tanδが0.2以下であり、電界−歪曲線から求めた圧電定数d33
*が、250pm/V以上であること特徴とする。
【0148】
上記圧電組成物を用いることにより、自発分極や残留分極が大きくかつリーク電流が少なく、高い圧電特性を有する非鉛圧電素子を提供できる。
【0149】
上記圧電組成物は、ペロブスカイト構造を有し、一般組成式ABO
3で表され、Aサイト元素とBサイト元素と酸素との標準モル比は1:1:3であるが、これらのモル比はペロブスカイト構造を取り得る範囲内で標準モル比から外れていてもよい。また、本発明2ではBサイトが異なる価数の複数元素からなるが、Bサイトの元素としては、例えば、Mg、Zn、Ti、Zr、Fe、Mn、Co、Ni、Nb、Ta、Wなどが挙げられる。
【0150】
また、上記圧電組成物は、少なくとも2種類の結晶構造の相境界を含む組成、又は相境界近傍の組成を有することが好ましい。これにより、更に非鉛圧電素子の圧電特性を向上できる。ここで、相境界とは、少なくとも2種類の結晶構造が共存する組成領域であり、更に本発明2の相境界近傍の組成とは、所定の組成から15mol%以内の範囲で、少なくとも相境界を含み更に電界−歪み曲線より求めた圧電定数d33
*の極大値が存在する組成領域、と定義する。具体的には、上記相境界は、菱面体晶と、疑立方晶、正方晶、斜方晶及び単斜晶からなる群から選ばれるいずれか一つの結晶構造とが共存する組成領域であってもよく、また、正方晶と疑立方晶とが共存する組成領域であってもよい。
【0151】
また、上記圧電定数d33
*は、330pm/V以上であることが好ましく、上記BiFeO
3の含有量は、上記圧電組成物の全体に対して30〜80mol%であることが好ましい。これにより、更に非鉛圧電素子の圧電特性を向上できる。
【0152】
また、上記圧電組成物は、リラクサー材料からなることが好ましい。本発明2のリラクサーとは、一般組成式ABO
3で表わされるペロブスカイト構造を有する複合酸化物であり、Aサイト又はBサイトが複数の元素で構成され、温度変化に対して誘電率がブロードなピークを有するものをいう。上記非鉛圧電素子がリラクサー特性であるブロードな誘電率のピークを有することにより、ピーク温度から離れた温度においても高い誘電率を示す。リラクサー特性を示す圧電素子は、超音波プローブのように高い誘電率が必要とされるデバイスにおいて有用となる。
【0153】
上記圧電組成物は、粒径が0.5μm以上200μm以下のセラミックスからなることが好ましく、粒径が1μm以上100μm以下のセラミックスからなることがより好ましい。上記粒径を0.5μm以上とすることにより、極大温度Tmでの比誘電率の大きさεmを大きくでき、これにより、室温での誘電率や残留分極を大きくするのに有利となる。また、上記粒径の上限は圧電組成物の加工性に基づくものであり、上記粒径が200μm以下であるとセラミックスの割れを防止することができる。
【0154】
また、上記圧電組成物は、単結晶から形成されていてもよい。単結晶の場合は、粒径は問題とならず、圧電材料として加工される際に、その加工に耐えるだけの強度を有していることが必要である。
【0155】
上記圧電組成物は、(Bi
0.5K
0.5)TiO
3及びBi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3を更に含むことが好ましい。より具体的には、上記圧電組成物は、組成式x(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−yBi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−zBiFeO
3で表され、上記組成式においてx+y+z=1であることが好ましい。上記圧電組成物をBKT−BMT−BFOの複合組成とすることにより、BKT単体、BMT単体及びBFO単体のそれぞれよりも大きな圧電定数とすることができる。
【0156】
また、上記圧電組成物は、上記組成式中のMgの一部をZnに置換することが好ましく、上記組成式中のBiの一部をLa、Sm、Ndの少なくとも一種類で置換することが好ましい。更に、上記組成式中のTiの一部をZrで置換することが好ましい。これらの元素の置換により、キュリー温度(Tc)又は誘電率の極大温度(Tm)を下げることができ、更にリラクサー特性を示す本発明2の圧電組成物において、Tc(又はTm)の低下により大きな圧電定数と大きな誘電率が期待できる。
【0157】
更に、上記圧電組成物は、Mn、Co、Ni、V、Nb、Ta、W、Si、Ge、Ca及びSrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を2重量%以下の割合で更に含有することが好ましい。Mn、Co、Ni又はVを含むことにより絶縁性を高くすることが可能となり、リーク電流の低減が期待できる。ここでMn源としては、MnCO
3、MnO、Mn
2O
3、Mn
3O
4、MnO
2などを用いることが可能である。V、Nb、Ta、Wは圧電組成物をソフト化するのに有利なドーパントとして好ましい。Si又はGeを含むことにより、焼結密度の向上と電気機械結合係数の向上に有利である。Ca又はSrを含むことにより、BiやKの蒸発の低減が期待でき、その結果、特性向上や信頼性向上が可能となる。
【0158】
上記Mn、Co、Ni、V、Nb、Ta、W、Si、Ge、Ca及びSrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素は、圧電組成物の結晶中に固溶している必要はなく、結晶粒内や粒界に析出していてもよいし、偏析していてもよい。
【0159】
本発明2の非鉛圧電素子は、極大温度Tmでの比誘電率εmが7000以上であることが好ましく、13000以上であることがより好ましい。ここで、極大温度Tmとは、比誘電率が最大を示す温度をいう。また、本発明2の非鉛圧電素子の誘電損失tanδは0.2以下が好ましい。更に、本発明2の非鉛圧電素子においては、極大温度Tmは、130℃以上400℃以下であることが好ましい。これにより、実用的な温度範囲で使用が可能となり、更に、BFOに比べて極大温度Tm又はキュリー温度Tcが低くなり、室温での非誘電率εrを大きくしやすくなる。本発明2の比誘電率は、特に断らない限り、測定周波数1MHzでの値とする。また、本発明2の非鉛圧電素子の残留分極Prは、20μC/cm
2以上であることが好ましい。
【0160】
次に、本発明2の非鉛圧電素子を図面に基づき説明する。
【0161】
図15は、本発明2の非鉛圧電素子の一例を示す斜視図である。
図15において、本発明2の圧電素子10は、圧電組成物11と、圧電組成物11に電圧を印加するための電極12とを備えている。また、
図16は、本発明2の非鉛圧電素子の他の例を示す斜視図である。
図16において、本発明2の圧電素子20は、圧電組成物21と、圧電組成物21に電圧を印加するための電極22とを備えている。圧電組成物11、21としては、本実施形態で説明した圧電組成物を用いる。電極12、22は、圧電組成物11、21に電圧を印加するためのものである。電極12、22の材質、製法などは特に限定されないが、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、銅、各種貴金属の合金などの金属をスパッタリング、蒸着、印刷などすることにより形成することができる。
【0162】
上記非鉛圧電素子の形状は特に限定されず、
図15及び
図16に示した形状以外であってもよく、例えば、ドーナッツ型、円柱型、角柱型などの形状を非鉛圧電素子の用途によって適宜使用できる。
【0163】
(実施形態2−2)
次に、本発明2の非鉛圧電素子の製造方法について説明する。下記製造方法とすることにより、上記実施形態2−1で説明した非鉛圧電素子を簡便に得ることが可能となる。
【0164】
本発明2の第1の非鉛圧電素子の製造方法は、上記非鉛圧電素子に含まれる圧電組成物の製造工程として、原料準備工程と、昇温工程と、第1熱処理工程と、降温工程と、第2熱処理工程と、冷却工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0165】
また、本発明2の第2の非鉛圧電素子の製造方法は、上記非鉛圧電素子に含まれる圧電組成物の製造工程として、原料準備工程と、第1昇温工程と、第1熱処理工程と、第1冷却工程と、第2昇温工程と、第2熱処理工程と、第2冷却工程とをこの順番で含むことを特徴とする。
【0166】
本発明2の第1及び第2の非鉛圧電素子の製造方法によれば、自発分極や残留分極が大きくかつリーク電流が少なく、高い圧電特性を有する非鉛圧電素子を提供できる。これは、従来の圧電組成物の製造工程は、原料準備工程と、昇温工程と、熱処理工程と、冷却工程とを備えるのみであったのに対し、本発明2における圧電組成物の製造工程は、第1熱処理工程及び第2熱処理工程を備えているためと考えられる。これについて、以下図面に基づき説明する。
【0167】
図17A、Bは、BiFeO
3を含む圧電組成物を用いた非鉛圧電素子(以下、BFO系非鉛圧電素子ともいう。)のドメインピンニングとその回避状態を説明する模式図である。
図17A、Bにおいて、ドメイン壁31により区切られたドメイン32の内部やドメイン壁に接して欠陥33(欠陥対を含む。)が存在する。
【0168】
通常、BFO系非鉛圧電素子においては、
図17Aに示すように、Bi空孔、酸素空孔、Fe
2+などの欠陥33によって、ドメイン32やドメイン壁31がピンニングされている。更に、本来Fe
3+であるべき鉄の価数が、例えば酸素空孔などが生じることによりFe
2+となると、圧電組成物の絶縁性が劣化する。上記ピンニングと上記圧電組成物の絶縁性の劣化を防止するには、上記第1熱処理工程と上記第2熱処理工程とが重要となる。
【0169】
先ず、主として焼結工程となる第1熱処理工程において、焼結時間を長くすることにより圧電組成物の粒径を大きくし、更に結晶粒内の結晶性を向上させることができるので、ドメイン壁の移動度を大きくすると考えられる。また、圧電組成物の粒径を大きくする時に、結晶粒外に不純物を排出するので、特に低周波側の絶縁抵抗を向上させる作用があり、分極処理や誘電損失tanδを低減するのに有効である。
【0170】
次に、アニール工程となる第2熱処理工程においては、酸素空孔やFe
2+などの欠陥の量を減らすことができ、欠陥密度を低減することが可能となる。また、焼結温度よりも低いアニール温度から次の冷却工程を開始できるので、完全になくすことのできない欠陥や欠陥対をドメイン壁に集まる前に固定化できると考えられる。その結果、
図17Bに示すように、各種欠陥や欠陥対がドメイン及びドメイン壁をピンニングすることを抑えることができる。また、アニール温度は焼結温度よりも低いので、比較的早い速度で冷却しても、室温との温度差が小さくなり、熱衝撃を小さくでき、冷却工程中に圧電組成物が破壊されることを防止できる。
【0171】
また、上記圧電組成物が2種類の結晶構造の相境界を含む場合、リークやドメイン壁のピンニングがなくなれば、従来課題であった再現性の問題も解決可能となる。その結果、圧電素子が本来持っている圧電性能を再現性よく発現することが可能となる。これにより、室温での誘電率や残留分極を大きくすることが可能となり、25℃での比誘電率εrが400以上でかつ誘電損失tanδが0.2以下であり、電界−歪曲線より求めた圧電定数d33
*が250pm/V以上の非鉛圧電素子を実現することができる。
【0172】
上記圧電組成物は、実施形態2−1で説明したとおり、BiFeO
3を3〜80mol%含むものであり、より好ましくは30〜80mol%含むものである。これはリークやドメイン壁のピンニングがなくなれば、本来圧電特性の高いBFO系圧電組成物の性能を発揮しやすいためである。
【0173】
また、実施形態2−1で説明したとおり、上記圧電組成物はリラクサー材料からなることが好ましい。これは、誘電率の温度に対するピークがブロードであり、室温での誘電率を向上しやすいためである。特に、圧電素子としては比較的駆動周波数の高い1MHzから100MHz程度で駆動する超音波デバイスの場合、信号処理回路を50オーム系で構成しやすく、信号元・伝送路及び圧電素子とのインピーダンス整合がとりやすいという特徴がある。
【0174】
続いて、本発明2の非鉛圧電素子の製造方法について更に図面に基づき説明する。なお、説明の都合上、(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−Bi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−BiFeO
3系の場合について主に説明するが、本発明2の製造方法は特にこの系に限られるのもではなく、他の本発明2の非鉛圧電素子に用いられる系にも適用可能である。
【0175】
〔第1の製造方法〕
図18は、原料準備工程を除いた本発明2の第1の非鉛圧電素子の製造方法を示す概略図である。本発明2の第1の非鉛圧電素子の製造方法は、非鉛圧電素子に含まれる圧電組成物の製造工程として、原料準備工程と、昇温工程と、第1熱処理工程と、降温工程と、第2熱処理工程と、冷却工程とをこの順番で含むことを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0176】
<原料準備工程>
先ず、圧電組成物を構成する元素の酸化物や炭酸塩、炭酸水素塩、各種酸塩などを出発原料として準備する。例えば、酸化物としては、Bi
2O
3、Fe
2O
3、TiO
2、MgOなど、また、炭酸塩としては、K
2CO
3やKHCO
3を用いることができる。
【0177】
本発明2の圧電組成物のカリウム原料としては、上記のとおりK
2CO
3やKHCO
3を用いることができるが、KHCO
3を用いことが好ましい。これは、KHCO
3の吸湿性がK
2CO
3に比べて特に小さいため、原料としての秤量誤差を小さくできるためである。
【0178】
次に、必要量を秤量した出発原料を用いて、原料粉の混合物を作製する。混合物を作製する方法としては、乾式法、湿式法のいずれでもよく、例えばボールミルやジェットミルなどによる湿式粉砕が適宜利用できる。湿式粉砕をボールミルによって行う場合には、上記原料を分散媒と混合し、粉砕装置に投入する。分散媒としては、純水;メタノール、エタノールなどの各種アルコール系材料、各種有機液体などを用いることができる。更に、粉砕装置に、ジルコニアボールやアルミナボールなどの粉砕メディアを加えて、出発原料の粒度が微細で、均一となるまで混合・粉砕を行う。次に、ジルコニアボールやアルミナボールなどの粉砕メディアを取り除き、吸引ろ過や乾燥器を利用して分散媒を除去する。次に、得られた原料粉を坩堝などの容器に入れて仮焼成を行う。仮焼成の温度は、例えば、600〜1000℃の温度で行うことができる。これによって、混合物の組成の均一化や、焼結後の焼結密度の向上を図ることができる。但し、上記仮焼成は、必ずしも必須ではなく、分散媒を乾燥除去した原料粉を用いて以下の成形体作製工程を行ってもよい。一方、均一性や焼結密度の向上のために仮焼成を2回以上行ってもよい。
【0179】
仮焼成を行う場合は、粉砕装置を用いて原料粉を粉砕した場合と同様に、仮焼成後に仮焼成粉を再度粉砕する。仮焼成後の粉砕工程では、その工程の最初、途中又は最終のいずれかの段階で、バインダーなどを加えてから、再度乾燥して原料粉を作製する。バインダーとしては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)や、ポリビニルブチラール(PVB)などを用いることができる。
【0180】
次に、得られた有機成分とセラミックスとの混合粉末を、例えば、プレス機械を用いて、直径10mm、厚み1mm程度から直径50mm、厚み5mm程度の円柱状のペレットに成形する。最後に、得られた成形体を電気炉に入れて、500〜750℃で数時間から20時間程度加熱することにより、脱バインダー処理を行い、原料成形体を得る。
【0181】
上記原料準備工程では通常の固相法の場合を示したが、原料準備工程は固相法に限定されず、例えば、水熱合成法や、アルコキシドを出発原料として用いる方法でもよい。
【0182】
<昇温工程>
次に、
図18に示すように、得られた原料成形体を再度坩堝などに入れ、第1熱処理工程の温度まで昇温する。昇温速度は特に限定されないが、原料成形体のサイズと加熱装置の容量などにもよるが、通常50〜1000℃/hrとする。なお、例えば水分を除去する目的で100〜200℃で一定時間保持したり、昇温速度を遅くすることも本発明2の昇温工程に含めるものとする。
【0183】
<第1熱処理工程>
次に、
図18に示すように、原料成形体を800〜1150℃で熱処理する。熱処理時間は、目的とする圧電組成物がセラミックスの場合には、2〜300時間であり、より好ましくは6〜200時間である。圧電組成物としてセラミックスを得る場合、この第1熱処理工程は原料成形体の焼結工程となり、この熱処理時間を制御することにより、セラミックスの粒径を制御することができる。前述のとおり、圧電組成物がセラミックスの場合の粒径は、0.5〜200μmが好ましく、より好ましくは1〜100μmである。これらの好ましい圧電組成物の粒径は、上記熱処理時間(焼結時間)を6〜300時間とすることにより実現できる。第1熱処理工程は、空気中で行ってもよく、酸素雰囲気や還元雰囲気やあるいは同じ組成の雰囲気(即ち、同一組成の仮焼成粉で成形体を覆うなどの雰囲気)で行ってもよい。
【0184】
また、目的とする圧電組成物が単結晶の場合には、熱処理温度は、2〜3000時間であり、より好ましくは6〜3000時間である。圧電組成物として単結晶を得る場合、この第1熱処理工程は原料成形体の結晶成長工程となる。
【0185】
<降温工程>
後述するように第2熱処理工程はアニール工程となるため、第1熱処理工程と第2熱処理工程との間は、
図18に示すように、降温工程となる。降温速度は特に限定されないが、原料成形体のサイズと加熱装置の降温性能などにもよるが、通常50〜1000℃/hrとする。
【0186】
<第2熱処理工程>
次に、
図18に示すように、原料成形体に対して第2熱処理工程を行う。この第2熱処理工程はアニール工程であり、アニール温度は300〜900℃、より好ましくは400〜800℃とし、アニール時間は5分〜100時間とする。このアニール工程は、圧電組成物の各種欠陥を除去するために行う。なお、第2熱処理工程の温度は第1熱処理工程の温度より低く設定する。第2熱処理温度が第1熱処理温度より高いと焼結が更に進んだり、原料成形体が溶解してしまうためである。アニール工程は、空気中で行ってもよく、酸素雰囲気、酸素−窒素混合ガス雰囲気等の酸化雰囲気、又は還元雰囲気、又は同じ組成の雰囲気(即ち、同一組成の仮焼成粉で成形体を覆うなどの雰囲気)で行ってもよい。還元雰囲気に用いる還元ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス、窒素−水素混合ガス等を用いることができる。
【0187】
また、上記アニール工程は、連続して行ってもよく、それぞれ異なる温度で2回以上に分けて行ってもよい。具体的には、上記アニール工程は、高温側の第1アニール温度で加熱した後、一度室温まで冷却し、再度低温側の第2アニール温度まで昇温して加熱することが好ましい。これは、各種欠陥の除去温度が同一温度ではないためである。上記アニール工程をそれぞれ異なる温度で2回行う場合、異なる温度が、高温側で600〜900℃であり、低温側で300〜600℃であることが好ましく、異なる温度が、高温側で700〜900℃であり、低温側で400〜600℃であることがより好ましい。
【0188】
<冷却工程>
最後に、
図18に示すように、熱処理後の成形体を室温まで冷却する。この冷却工程は、圧電組成物の各種欠陥がドメイン壁に集合してくることを避けるために行う。冷却速度は、0.01〜200℃/秒が好ましく、より好ましくは、5〜100℃/秒である。冷却速度を200℃/秒以下とすることにより、例えば温度900℃の成形体を70℃のお湯に浸漬するような超高速クエンチの場合の冷却速度の1/10〜1/100程度以下とすることが可能となり、圧電組成物の破壊を避けることができる。
【0189】
〔第2の製造方法〕
図19は、原料準備工程を除いた本発明2の第2の非鉛圧電素子の製造方法を示す概略図である。本発明2の第2の非鉛圧電素子の製造方法は、非鉛圧電素子に含まれる圧電組成物の製造工程として、原料準備工程と、第1昇温工程と、第1熱処理工程と、第1冷却工程と、第2昇温工程と、第2熱処理工程と、第2冷却工程とをこの順番で含むことを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0190】
<原料準備工程>
第2の製造方法の原料準備工程は、上記第1の製造方法の原料準備工程と同様に行う。
【0191】
<第1昇温工程>
第2の製造方法の第1昇温工程は、
図19に示すように、上記第1の製造方法の昇温工程と同様に行う。
【0192】
<第1熱処理工程>
第2の製造方法の第1熱処理工程は、
図19に示すように、上記第1の製造方法の第1熱処理工程と同様に行う。
【0193】
<第1冷却工程>
次に、
図19に示すように、熱処理後の成形体を室温まで冷却する。冷却速度は、上記第1の製造方法の冷却工程の冷却速度とほぼ同様の冷却速度で行うことができる。更に、
図19には示していないが、第1冷却工程後の成形体をより小さい形状の成形体に加工する工程を加えてもよい。これにより、後述する第2熱処理工程(アニール工程)を小さい形状の成形体に対して実施できるため、後述する第2冷却工程において圧電組成物の熱衝撃による破壊をより確実に防止することができる。更に、上記加工工程の後に、電極作製工程を行うこともできる。
【0194】
<第2昇温工程>
後述するように第2熱処理工程はアニール工程となるため、第1冷却工程後は、
図19に示すように、昇温工程を行う。昇温速度は特に限定されないが、例えば50〜1000℃/hrとすればよい。
【0195】
<第2熱処理工程>
第2の製造方法の第2熱処理工程は、アニール工程であり、
図19に示すように、上記第1の製造方法の第2熱処理工程と同様に行う。また、上記アニール工程は、上記第1の製造方法の第2熱処理工程と同様に連続して行ってもよく、後述する実施例2−9のように、それぞれ異なる温度で2回以上に分けて行ってもよい。
【0196】
<第2冷却工程>
第2の製造方法の第2冷却工程は、
図19に示すように、上記第1の製造方法の冷却工程と同様に行う。
【0197】
(実施形態2−3)
次に、本発明2の超音波プローブについて説明する。本発明2の超音波プローブは、実施形態2−1で説明した非鉛圧電素子を備えている。
【0198】
図20は、本発明2の超音波プローブの概略断面図である。本発明2の超音波プローブの製造は次のようにして行うことができる。先ず、圧電素子202を所望の分極条件で一度分極する。分極条件としては、一般的な圧電素子の分極条件を用いることができるが、例えばオイルバス中で、圧電素子202を100〜150℃に加熱して、10〜80kV/cmの条件で5分から1時間程度保持した後、圧電素子202の温度を室温まで降下させて分極を完成させる。次に、分極処理を完了した圧電素子202(切断前)を、背面負荷材220に固定した下側リード電極206の上に導電性接着剤などで固定する。次に、同じく導電性接着剤などを用いて上側リード電極204を接着する。更に、その上に第1整合層230及び第2整合層232を接着して固定する。次に、この状態で、ダイシング装置を用いて、圧電素子を分割する。例えば、幅200〜400μmピッチに切断する。更に、音響レンズ240を接着して、必要なケーシング(図示せず。)をして、超音波プローブ200を製造することができる。
【0199】
上記では、圧電素子を分割するタイプの超音波プローブについて説明したが、もちろん単板式の超音波プローブであってもよい。
【0200】
(実施形態2−4)
次に、本発明2の画像診断装置について説明する。本発明2の画像診断装置は、実施形態2−3で説明した超音波プローブを備えている。
【0201】
図21は、本発明2の画像診断装置の概略斜視図である。
図21において、超音波画像診断装置300は、超音波プローブ302、超音波画像診断装置本体304及びディスプレイ306を備えている。超音波プローブ302を除けば、超音波画像診断装置本体304としては従来の超音波診断装置本体を用いることが可能である。また、非鉛圧電素子を用いた超音波プローブ302に超音波画像診断装置本体304の特性を合わせるためには、超音波画像診断装置本体304の信号処理回路と、超音波プローブ302の電気的インピーダンス整合回路とを、超音波プローブ302用に調整することができる。また、超音波プローブ302の電気的なインピーダンスを、従来の鉛系圧電素子を備えた超音波プローブのインピーダンスにみかけ上近づけるために、超音波プローブ302の中にインピーダンス微調整回路を含むことも可能である。画像診断装置300は、特定疾患用の画像診断装置、例えば、血管内の内膜厚を測定する超音波診断装置や他用途の超音波画像診断装置として使用することが可能である。
【0202】
以下、本発明2を実施例に基づき説明する。但し、本発明2は下記実施例に限定されるものではない。
【0203】
(実施例2−1)
以下のとおり圧電素子を作製した。
【0204】
<原料準備工程>
圧電組成物の組成が、組成式x(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−yBi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−zBiFeO
3においてz=0.45(x=0.45、y=0.1)を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量し、合計30gの原料を準備した。上記原料は、純度99.9〜99.99%の試薬を用いた。次に、秤量した原料を、エタノール及びジルコニアボールと共にポットに入れ、ボールミルで16時間粉砕した。その後、原料を乾燥して、更に原料粉を800℃で6時間仮焼成した。得られた原料粉を再びエタノール及びジルコニアボールと共にポットに入れ、ボールミルで再度16時間粉砕した後、バインダーとしてPVBを添加して乾燥した。次に、得られた原料粉を1軸プレス装置で約200〜250MPaの圧力を加えて、直径10mm、厚さ1.5mmのペレットを作製した。得られたペレットを700℃で10時間加熱してバインダーを除去して、原料成形体を得た。
【0205】
<昇温工程>
次に、得られた原料成形体を昇温速度300℃/hrで1000℃まで昇温した。
【0206】
<第1熱処理工程>
次に、原料成形体を1000℃で2時間焼結した。
【0207】
<降温工程>
次に、焼結後の成形体を800℃まで300℃/hrで降温した。
【0208】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
続いて、降温した成形体を800℃で20時間アニールを行った。
【0209】
<冷却工程>
最後に、アニール後の成形体を40〜100℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0210】
次に、得られた圧電組成物を研磨して、約0.4mmの厚みに加工した後、圧電組成物の両面に金電極をスパッタリングにより形成して、圧電素子を得た。作製した圧電素子の電極の表面抵抗を端子間2mmで測定したところ、数オーム以下と良好であった。
【0211】
続いて、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を測定した。
【0212】
先ず、誘電特性として、作製した圧電素子の比誘電率及び誘電損失をWayne Kerr社製のLCRメータ(型番6440B)を用いて測定した。
図22に圧電素子の比誘電率の温度特性を示し、
図23に圧電素子の誘電損失の温度特性を示す。低周波では、温度を500℃まで上げた場合に誘電損失(tanδ)が1以上と大きくなってしまうので、ここでは1MHzの値で、比誘電率及び誘電損失を評価する。その結果、25℃において、比誘電率εrは430であり、誘電損失tanδは0.12であった。また、極大温度Tm(376℃)において、比誘電率εmは7700であり、誘電損失tanδは0.09であった。
【0213】
次に、圧電特性として、作製した圧電素子の電界−歪み特性及び電界−分極特性を、東洋テクニカ(株)製の強誘電体評価システム“FCE−3”又は接触型変位計及び積分器を用いた自作の測定システムを用いて、測定した。この圧電特性の測定は、圧電定数d33
*及び残留分極が既知の市販のPZTの値で校正してから行った。
図24に圧電素子の電界−歪み特性を示し、
図25に圧電素子の電界−分極特性を示す。
図24より求めた圧電定数d33
*は331pm/Vであり、
図25より求めた残留分極Prは13.6μC/cm
2であり、電界−歪特性に非対称性はあるものの、非鉛圧電素子としては大きな圧電特性を示した。
【0214】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて圧電素子の圧電組成物を観察したところ、圧電組成物(セラミックス)の粒径は0.5〜1.5μmであった。
【0215】
(実施例2−2)
以下のとおり圧電素子を作製した。
【0216】
<原料準備工程>
実施例2−1と同様にして原料成形体を作製した。
【0217】
<昇温工程>
次に、得られた原料成形体を昇温速度100℃/hrで1000℃まで昇温した。
【0218】
<第1熱処理工程>
次に、原料成形体を1000℃で20時間焼結した。
【0219】
<降温工程>
次に、焼結後の成形体を800℃まで100℃/hrで降温した。
【0220】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
続いて、降温した成形体を800℃で20時間アニールを行った。
【0221】
<冷却工程>
最後に、アニール後の成形体を40〜100℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0222】
次に、得られた圧電組成物を研磨して、約0.4mmの厚みに加工した後、圧電組成物の両面に金電極をスパッタリングにより形成して、圧電素子を得た。作製した圧電素子の電極の表面抵抗を端子間2mmで測定したところ、数オーム以下と良好であった。
【0223】
続いて、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を実施例2−1と同様にして測定した。
図26に圧電素子の比誘電率の温度特性を示し、
図27に圧電素子の誘電損失の温度特性を示す。その結果、25℃において、比誘電率εrは491であり、誘電損失tanδは0.11であった。また、極大温度Tm(371℃)において、比誘電率εmは13500であり、誘電損失tanδは0.12であった。
【0224】
また、
図28に圧電素子の電界−歪み特性を示し、
図29に圧電素子の電界−分極特性を示す。
図28より求めた圧電定数d33
*は378pm/Vであり、
図29より求めた残留分極Prは27μC/cm
2であり、非鉛圧電素子としては大きな圧電特性を示した。
【0225】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて圧電素子の圧電組成物を観察したところ、圧電組成物(セラミックス)の粒径は2〜5μmであった。
【0226】
本実施例では、実施例2−1に比べて焼結時間を延ばしたことにより、実施例2−1に比べて比誘電率εr及び残留分極Prを共に大きくすることができた。
【0227】
(実施例2−3)
第1熱処理工程の焼結時間を200時間とした以外は、実施例2−2と同様にして圧電素子を作製した。次に、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を実施例2−1と同様にして測定した。その結果、25℃において、比誘電率εrは490であり、誘電損失tanδは0.08であり、極大温度Tm(370℃)において、比誘電率εmは14000であり、誘電損失tanδは0.12であった。また、圧電定数d33
*は410pm/Vであり、残留分極Prは27μC/cm
2であった。
【0228】
また、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて圧電素子の圧電組成物を観察したところ、圧電組成物(セラミックス)の粒径は3〜10μmであった。
【0229】
(実施例2−4)
第1熱処理工程の焼結時間を300時間とした以外は、実施例2−2と同様にして圧電素子を作製した。次に、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を実施例2−1と同様にして測定したところ、実施例2−3とほぼ同様の結果となった。
【0230】
(比較例2−1)
以下のとおり圧電素子を作製した。
【0231】
<原料準備工程>
実施例2−1と同様にして原料成形体を作製した。
【0232】
<昇温工程>
次に、得られた原料成形体を昇温速度300℃/hrで1000℃まで昇温した。
【0233】
<第1熱処理工程>
続いて、原料成形体を1000℃で2時間焼結した。
【0234】
<降温工程>
降温工程は行わなかった。
【0235】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
第2熱処理工程は行わなかった。
【0236】
<冷却工程>
最後に、焼結後の成形体を0.055℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0237】
次に、得られた圧電組成物を研磨して、約0.4mmの厚みに加工した後、圧電組成物の両面に金電極をスパッタリングにより形成して、圧電素子を得た。
【0238】
続いて、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を実施例2−1と同様にして測定した。
図30に圧電素子の比誘電率の温度特性を示し、
図31に圧電素子の誘電損失の温度特性を示す。その結果、25℃において、比誘電率εrは440であり、誘電損失tanδは0.14であった。また、極大温度Tm(305℃)において、比誘電率εmは3590であり、誘電損失tanδは0.13であった。
【0239】
また、
図32に圧電素子の電界−歪み特性を示し、
図33に圧電素子の電界−分極特性を示す。
図32より求めた圧電定数d33
*は84pm/Vであり、
図33より求めた残留分極Prはリーク電流のため正確な測定はできなかった。
【0240】
(実施例2−5)
以下のとおり圧電組成物を作製した。
【0241】
<原料準備工程>
原料成形体の大きさを直径50mm、厚さ5mmとした以外は、実施例2−1と同様にして原料成形体を作製した。
【0242】
<第1昇温工程>
次に、得られた原料成形体を昇温速度100℃/hrで1000℃まで昇温した。
【0243】
<第1熱処理工程>
次に、原料成形体を1000℃で20時間焼結した。
【0244】
<第1冷却工程>
次に、焼結後の成形体を1000℃から12時間かけて室温まで冷却した。
【0245】
<加工工程>
次に、降温した成形体を研削により切り出して、直径15mm、厚さ3mmの成形体に加工した。
【0246】
<第2昇温工程>
次に、加工した成形体を800℃まで2時間40分かけて昇温した。
【0247】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
次に、昇温した成形体を800℃で20時間アニールを行った。
【0248】
<第2冷却工程>
最後に、アニール後の成形体を40〜100℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0249】
次に、得られた圧電組成物を研磨して、直径13mm、厚さ1mmに加工した後、圧電組成物の両面に金電極をスパッタリングにより形成して、圧電素子を得た。
【0250】
次に、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を実施例2−1と同様にして測定した。その結果、25℃において、比誘電率εrは460であり、誘電損失tanδは0.11であり、極大温度Tm(371℃)において、比誘電率εmは12500であり、誘電損失tanδは0.12であった。また、圧電定数d33
*は360pm/Vであり、残留分極Prは24μC/cm
2であった。
【0251】
(実施例2−6)
以下のとおり圧電組成物を作製した。
【0252】
<原料準備工程>
圧電組成物の組成が、組成式x(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−yBi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−zBiFeO
3においてz=0.4(x=0.5、y=0.1)を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量し、合計30gの原料を準備した以外は、実施例2−1の原料準備工程と同様にして、原料成形体を得た。
【0253】
<昇温工程>
次に、得られた原料成形体を昇温速度300℃/hrで1000℃まで昇温した。
【0254】
<第1熱処理工程>
次に、原料成形体を1000℃で2時間焼結した。
【0255】
<降温工程>
次に、焼結後の成形体を800℃まで100℃/hrで降温した。
【0256】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
続いて、降温した成形体を800℃で20時間アニールを行った。
【0257】
<冷却工程>
最後に、アニール後の成形体を40〜100℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0258】
次に、実施例2−1と同様にして圧電素子を作製し、実施例2−1と同様にして、作製した圧電素子の圧電定数d33
*を測定した。また、上記組成式のBFOの量(モル比)zを0.1〜0.85(この時x=0.9−z、y=0.1)で変化させ、第1熱処理工程の焼結温度を焼結密度が最大になるように900〜1065℃に変更し、冷却工程の冷却速度を40〜100℃/秒に変更した以外は、上記と同様にして圧電素子を作製し、実施例2−1と同様にして、作製した圧電素子の圧電定数d33
*を測定した。以上の結果を
図34の●印で示す。
【0259】
(実施例2−7)
第1熱処理工程の焼結時間を20時間にした以外は、実施例2−6と同様にして圧電組成物を作製した。次に、実施例2−1と同様にして圧電素子を作製し、実施例2−1と同様にして、作製した圧電素子の圧電定数d33
*を測定した。また、実施例2−6の原料準備工程で示した組成式のBFOの量(モル比)zを0.4〜0.5(この時x=0.9−z、y=0.1)に変化させた以外は、上記と同様にして圧電素子を作製し、実施例2−1と同様にして、作製した圧電素子の圧電定数d33
*を測定した。以上の結果を
図34の□印で示す。
【0260】
(比較例2−2)
降温工程及び第2熱処理工程(アニール工程)を行わず、冷却工程で焼結後の成形体を5時間かけて冷却した以外は、実施例2−6と同様にして圧電組成物を作製した。次に、実施例2−1と同様にして圧電素子を作製し、実施例2−1と同様にして、作製した圧電素子の圧電定数d33
*を測定した。また、実施例2−6の原料準備工程で示した組成式のBFOの量(モル比)zを0.05〜0.85(この時x=0.9−z、y=0.1)に変化させた以外は、上記と同様にして圧電素子を作製し、実施例2−1と同様にして、作製した圧電素子の圧電定数d33
*を測定した。以上の結果を
図34の◆印で示す。
【0261】
(比較例2−3)
降温工程及び第2熱処理工程(アニール工程)を行わず、比較例2−1と同様にしてz=0.4〜0.6(この時x=0.9−z、y=0.1)の圧電組成物を作製した。更に、この圧電組成物を公知例のように900℃で5分アニールした後、70℃の水に浸漬した(この時の冷却速度は約830℃/秒以上)以外は、比較例2−1と同様にして圧電組成物を作製した。この時、圧電組成物はしばしば破壊した。破壊のなかった圧電組成物から、実施例2−1と同様にして圧電素子を作製した。次に、実施例2−1と同様にして、作製した圧電素子の圧電定数d33
*を測定した。以上の結果を
図34の△印で示す。
【0262】
図34から、アニール工程を行った実施例2−6及び2−7の圧電定数d33
*は、BFOの量(モル比)zが0.45でピークに達していることが分かる。また、実施例2−6の圧電定数d33
*は、BFOの量(モル比)zが0.1でも増大していることが分かる。実施例2−6の圧電組成物の結晶構造を粉末X線回折により解析したところ、z=0.1の組成では、正方晶と疑立方晶との相境界近傍であることが認められた。また、別に作製した圧電組成物のX線回折の結果及び、その圧電組成物を用いた圧電素子の結果より、例えばx=0.92、y=0.04、z=0.04に正方晶と疑立方晶との相境界が存在することが確認された。更に、z=0.45の組成では、菱面体晶と疑立方晶との相境界を含むことが認められた。
【0263】
次に、本発明2の圧電素子に対する添加物の影響について説明する。
【0264】
(実施例2−8)
以下のとおり圧電素子を作製した。
【0265】
<原料準備工程>
圧電組成物の組成が、組成式x(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−yBi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−zBiFeO
3においてz=0.45(x=0.45、y=0.1)を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量し、合計30gの原料を用い、更にこの原料30gに対して0.1重量%(0.03g)のMnCO
3を添加して原料を準備した以外は、実施例2−1の原料準備工程と同様にして、原料成形体を作製した。
【0266】
<第1昇温工程>
次に、得られた原料成形体を昇温速度300℃/hrで1000℃まで昇温した。
【0267】
<第1熱処理工程>
次に、原料成形体を1000℃で20時間焼結した。
【0268】
<第1冷却工程>
次に、焼結後の成形体を300℃/hrの冷却速度で室温まで冷却した。
【0269】
<第2昇温工程>
次に、冷却した成形体を昇温速度300℃/hrで800℃まで昇温した。
【0270】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
次に、昇温した成形体を800℃で20時間アニールを行った。
【0271】
<第2冷却工程>
最後に、アニール後の成形体を40〜100℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0272】
次に、得られた圧電組成物を研磨して、約0.4mmの厚みに加工した後、縦4mm、横1.5mmの大きさに切断し、圧電素子の両面に金電極をスパッタリングにより形成して、
図16に示すような圧電素子を得た。
【0273】
続いて、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を実施例2−1と同様にして測定した。
図35に圧電素子の比誘電率の温度特性を示し、
図36に圧電素子の誘電損失の温度特性を示す。その結果、25℃において、比誘電率εrは483であり、誘電損失tanδは0.12であった。また、極大温度Tm(367℃)において、比誘電率εmは12000であり、誘電損失tanδは0.09であった。また、圧電定数d33
*は372pm/Vであり、残留分極Prは24μC/cm
2であり、非鉛圧電素子としては大きな圧電特性を示した。また、分極処理時に大きな影響を与える高温時の絶縁性の評価として、温度150℃、100Hzでの誘電損失tanδを測定したところ0.13と比較的低損失であった。
【0274】
(実施例2−9)
第2熱処理工程と第2冷却工程とを以下のように変更した以外は、実施例2−8と同様にして圧電素子を作製した。
図37に原料準備工程を除いた本実施例の圧電素子の製造方法の概略図を示す。
【0275】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
本実施例では、下記のとおりアニール工程を第1アニール工程と第2アニール工程との2段階で行った。
【0276】
(第1アニール工程:
図37では、2−A工程と表示)
第2昇温工程後の成形体を800℃で20時間アニールを行った。
【0277】
(冷却工程:
図37では、2−B工程と表示)
次に、第1アニール工程後の成形体を40〜100℃/秒の冷却速度で室温まで冷却した。
【0278】
(昇温工程:
図37では、2−C工程と表示)
次に、冷却後の成形体を500℃まで昇温速度250℃/hrで昇温した。
【0279】
(第2アニール工程:
図37では、2−D工程と表示)
次に、昇温した成形体を500℃で10分アニールを行った。
【0280】
<第2冷却工程>
最後に、第2アニール後の成形体を200〜300℃/hr(0.06〜0.08℃/秒)の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0281】
次に、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を実施例2−1と同様にして測定した。
図38に圧電素子の比誘電率の温度特性を示し、
図39に圧電素子の誘電損失の温度特性を示す。その結果、25℃において、比誘電率εrは493であり、誘電損失tanδは0.12であった。また、極大温度Tm(367℃)において、比誘電率εmは11400であり、誘電損失tanδは0.08であった。また、圧電定数d33
*は370pm/Vであり、残留分極Prは21μC/cm
2であり、非鉛圧電素子としては大きな圧電特性を示した。また、分極処理時に大きな影響を与える高温時の絶縁性の評価として、温度150℃、100Hzでの誘電損失tanδを測定したところ、0.06と実施例2−8の半分以下であり非常に低損失であった。
【0282】
表6に実施例2−8及び実施例2−9の圧電素子の代表的な特性値を示す。
【0284】
以上の結果より、詳細は不明であるが、Mnの微量添加と2段階の第2熱処理工程(アニール工程)とが、単純にMnを添加して焼結しただけでは得られない圧電素子の低損失化に特に有効であることが分かる。
【0285】
上記のように本発明2の圧電素子に対する添加物の影響については、MnCO
3の添加量として0.1重量%を用いた例を示したが、添加量が0.05〜0.3重量%程度であればほぼ同様の効果が得られた。また、実施例2−8及び実施例2−9では、Mn添加物としてMnCO
3を用いたが、MnO、Mn
2O
3、Mn
3O
4、MnO
2などの他のMn添加物も同様に有効である。
【0286】
次に、本発明2の圧電素子に対する還元雰囲気中における熱処理の影響について説明する。
【0287】
(実施例2−10)
以下のとおり圧電素子を作製した。
【0288】
<原料準備工程>
圧電組成物の組成が、組成式x(Bi
0.5K
0.5)TiO
3−yBi(Mg
0.5Ti
0.5)O
3−zBiFeO
3においてz=0.523(x=0.427、y=0.05)を満たすように、原料として、Bi
2O
3、KHCO
3、TiO
2、MgO、Fe
2O
3を秤量し、合計30gの原料を用い、更にこの原料30gに対して0.1重量%(0.03g)のMnCO
3を添加して原料を準備した以外は、実施例2−1の原料準備工程と同様にして、原料成形体を作製した。
【0289】
<第1昇温工程>
次に、得られた原料成形体を昇温速度300℃/hrで1000℃まで昇温した。
【0290】
<第1熱処理工程>
次に、原料成形体を1000℃で20時間焼結した。
【0291】
<第1冷却工程>
次に、焼結後の成形体を300℃/hrの冷却速度で室温まで冷却した。
【0292】
<第2昇温工程>
次に、冷却した成形体を窒素雰囲気中で昇温速度300℃/hrで800℃まで昇温した。
【0293】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
次に、昇温した成形体を窒素雰囲気中で800℃で20時間アニールを行った。
【0294】
<第2冷却工程>
最後に、アニール後の成形体を窒素雰囲気中で0.01〜0.05℃/秒の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0295】
次に、得られた圧電組成物を研磨して、約0.4mmの厚みに加工した後、縦4mm、横1.5mmの大きさに切断し、圧電素子の両面に金電極をスパッタリングにより形成して、
図16に示すような圧電素子を得た。
【0296】
続いて、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を実施例2−1と同様にして測定した。その結果、25℃において、比誘電率εrは460であり、誘電損失tanδは0.11であった。また、極大温度Tm(373℃)において、比誘電率εmは11400であり、誘電損失tanδは0.1であった。また、圧電定数d33
*は293pm/Vであり、残留分極Prは27μC/cm
2であり、非鉛圧電素子としては大きな圧電特性を示した。また、分極処理時に大きな影響を与えるリーク電流の目安として、温度150℃、100Hzでの誘電損失tanδを測定したところ0.36と比較的低損失であった。
【0297】
(実施例2−11)
第2熱処理工程と第2冷却工程とを以下のように変更した以外は、実施例2−10と同様にして圧電素子を作製した。
【0298】
<第2熱処理工程(アニール工程)>
本実施例では、下記のとおりアニール工程を第1アニール工程と第2アニール工程との2段階で行った。
【0299】
(第1アニール工程)
第2昇温工程後の成形体を窒素雰囲気中で800℃で20時間アニールを行った。
【0300】
(冷却工程)
次に、第1アニール工程後の成形体を窒素雰囲気中で0.01〜0.05℃/秒の冷却速度で室温まで冷却した。
【0301】
(昇温工程)
次に、冷却後の成形体を空気中で500℃まで昇温速度200℃/hrで昇温した。
【0302】
(第2アニール工程)
次に、昇温した成形体を空気中で500℃で30分アニールを行った。
【0303】
<第2冷却工程>
最後に、第2アニール後の成形体を200〜300℃/hr(0.06〜0.08℃/秒)の冷却速度で室温まで冷却して圧電組成物を得た。
【0304】
次に、得られた圧電組成物を研磨して、約0.4mmの厚みに加工した後、縦4mm、横1.5mmの大きさに切断し、圧電素子の両面に金電極をスパッタリングにより形成して、
図16に示すような圧電素子を得た。
【0305】
続いて、作製した圧電素子の誘電特性及び圧電特性を実施例2−1と同様にして測定した。その結果、25℃において、比誘電率εrは470であり、誘電損失tanδは0.12であった。また、極大温度Tm(376℃)において、比誘電率εmは11100であり、誘電損失tanδは0.09であった。また、圧電定数d33
*は309pm/Vであり、残留分極Prは26μC/cm
2であり、非鉛圧電素子としては大きな圧電特性を示した。また、分極処理時に大きな影響を与えるリーク電流の目安として、温度150℃、100Hzでの誘電損失tanδを測定したところ0.08と、実施例2−10に比べて1/4以下に低減でき、分極に有利な圧電素子を実現できることが分かった。
【0306】
上記本実施例では還元雰囲気用ガスとして窒素ガスを用いたが、アルゴンガス、窒素−水素混合ガス等を用いてもよい。
【0307】
以上より、
図18、
図19、
図37に示す熱処理工程を経る本発明2の製造方法を用いて作製した圧電素子は、従来の方法により作製した圧電素子に比べて、高い圧電特性や強誘電特性を有することが確認でき、本発明2の製造方法は、再現性よく高い圧電特性や強誘電特性を有する圧電素子を提供するのにきわめて有効な方法であることが分かる。
【0308】
以上のように本発明2の非鉛圧電素子は圧電特性が高く、また、本発明2の非鉛圧電素子の製造方法は、圧電特性が高く、鉛を含まない環境対応型の非鉛圧電素子を簡便な方法で再現性よく製造可能であり、超音波プローブ、トランスデューサ、センサなどへの適用が期待でき、更に非鉛圧電素子を用いた超音波画像診断装置に適応可能である。