(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して、実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0010】
(第1実施形態)
図1に、第1実施形態の充電共用インバータ1の構成例を示す。充電共用インバータ1は、例えば三相永久磁石型同期電動機(以降、モータ)60に供給するモータ電流によって、モータ60の発生する駆動トルクを制御すると共に、外部電源80の電力をバッテリ70に充電する制御を行う。
【0011】
充電共用インバータ1は、第1コンデンサ10、第2コンデンサ11、第1ダイオード12、第2ダイオード13、上アームのスイッチング素子21,31,41、及び下アームのスイッチング素子22,32,42を具備する。この例は、上アームと下アームとが接続されるアーム回路(U相、V相、W相)を複数備える。
【0012】
上アームのスイッチング素子21,31,41には、バッテリ70の正極がそれぞれ接続する。下アームのスイッチング素子22,32,42には、バッテリ70の負極がそれぞれ接続する。
【0013】
上アームのスイッチング素子21と下アームのスイッチング素子22とが接続されてU相アーム回路を構成する。上アームのスイッチング素子31と下アームのスイッチング素子32とが接続されてV相アーム回路を構成する。上アームのスイッチング素子41と下アームのスイッチング素子42とが接続されてW相アーム回路を構成する。
【0014】
第1コンデンサ10の一端は、バッテリ70の正極に接続する。第2コンデンサ11は、第1コンデンサ10の他端とバッテリ70の負極との間を接続する。
【0015】
第1ダイオード12のカソード電極は、U相上アームのスイッチング素子21とU相下アームのスイッチング素子22との接続点に接続する。第2ダイオード13のカソード電極は、第1コンデンサ10の他端に接続する。第1ダイオード12のアノード電極と第2ダイオード13のアノード電極とが接続された給電点Aに、外部電源80の整流ブリッジ81が接続する。
【0016】
整流ブリッジ81は、外部電源80の交流を整流する一般的なものである。外部電源80は、三相交流電源でもよいし、単相交流電源であってもよい。
【0017】
上アームのスイッチング素子21,31,41と下アームのスイッチング素子22,32,42とは、それぞれが例えばNMOSFETで構成される。各々のスイッチング素子21,31,41,22,32,42は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やGTO(Gate Turn Off thyristor)等で構成してもよい。各々のスイッチング素子21,22,31,32,41,42には、ダイオードD1,D2,D3,D4,D5,D6がそれぞれ逆並列の向きで接続する。
【0018】
U相上アームのスイッチング素子21のゲート電極には、スイッチング制御部50が出力する信号PUが入力される。同じU相下アームのスイッチング素子22のゲート電極には、スイッチング制御部50が出力する信号NUが入力される。
【0019】
V相上アームのスイッチング素子31のゲート電極には、スイッチング制御部50が出力する信号PVが入力される。同じV相下アームのスイッチング素子32のゲート電極には、スイッチング制御部50が出力する信号NVが入力される。
【0020】
W相上アームのスイッチング素子41のゲート電極には、スイッチング制御部50が出力する信号PWが入力される。同じW相下アームのスイッチング素子42のゲート電極には、スイッチング制御部50が出力する信号NWが入力される。
【0021】
U相アーム回路を構成するスイッチング素子21とスイッチング素子22との接続点は、モータ60のU相のモータコイル60uに接続する。V相アーム回路を構成するスイッチング素子31とスイッチング素子32との接続点は、モータ60のV相のモータコイル60vに接続する。W相アーム回路を構成するスイッチング素子41とスイッチング素子42との接続点は、モータ60のW相のモータコイル60wに接続する。
【0022】
スイッチング制御部50は、例えば電動車両の動作を制御する図示しない車両コントローラからの動作切替信号に基づいて、制御論理を切り替える。スイッチング制御部50の制御論理は、バッテリ70に蓄えた直流電力でモータ60を駆動する負荷制御論理と、外部電源80から供給される電力をバッテリ70に充電する充電制御論理との2つがある。
【0023】
スイッチング制御部50の動作を、
図2を参照して説明する。
図2は、スイッチング制御部50を、例えばマイクロコンピュータで実現した場合の論理構成を示したものである。マイクロコンピュータの演算処理装置で構成されるスイッチング制御部50は、負荷制御論理部51、充電制御論理部52、及び論理切替部53を具備する。
【0024】
負荷制御論理部51は、モータ60の各相に流れる負荷電流を観測し、図示を省略した車両コントローラからの電流指令に対応する負荷電流が流れるように、各相の駆動電圧を制御するPWM(Pulse Width Modulation)信号を生成する。PWM信号とは、上記の信号PU,NU、信号PV,NV、及び信号PW,NWのことである。
【0025】
また、充電制御論理部52は、外部電源80の交流を整流する整流ブリッジ81の出力電圧に対応させて、外部電源からの電力をバッテリ70に充電するPWM信号を生成する。充電は、モータ60の各モータコイル60u,60v,60wを用いて整流ブリッジ81の出力電圧を昇圧して行う。
【0026】
論理切替部53は、動作切替信号がモータ60の駆動状態の場合に、負荷制御論理部51が生成するPWM信号を選択する。なお、負荷制御論理部51が生成するPWM信号は、従来のインバータがモータを駆動する際のPWM信号と同じである。
【0027】
図3を参照して、充電制御論理部52が出力するPWM信号について説明する。
図3の上から、充電制御論理部52(スイッチング制御部50)が出力するPWM信号の信号NW、同じくPWM信号である信号PU、第1ダイオード12のカソード電極が接続されたU相電圧、第1ダイオード12の動作状態、及び充電制御論理の充電モードを表す。
図3の横方向は時間である。縦方向の振幅は、高い区間(High:「1」)が各スイッチング素子をオンする区間を表し、低い区間(Low:「0」)が各スイッチング素子をオフする区間を表す。なお、図中のVdc/nとVdcは電圧値を表す。Vdcはバッテリ70の正極の電圧である。
【0028】
信号NWが「1」の区間t
1は、W相下アームのスイッチング素子42(
図1)のみがオンであり、他のスイッチング素子は全てオフである。この区間t
1のU相電圧はVdc/nとなる。Vdc/nは、この例ではVdcを、第1コンデンサ10と第2コンデンサ11とで分圧した電圧である。第1コンデンサ10と第2コンデンサ11の容量が同じであればその電圧はVdc/2である。
【0029】
区間t
1において、U相電圧がVdc/2になる理由を説明する。整流ブリッジ81の出力は、整流ダイオード82を介して給電点Aである第1ダイオード12と第2ダイオード13のアノード電極に接続している。
【0030】
この構成において、整流ブリッジ81の出力電圧がVdc/2よりも高い場合は、整流ダイオード82と第2ダイオード13と第2コンデンサ11とに電流が流れる。その結果、第2ダイオード13の電圧クランプ作用によって、第2ダイオード13のアノード電極の電圧はVdc/2にクランプ(clamp)される。
【0031】
また、この場合(区間t
1において整流ブリッジ81の出力電圧がVdc/2よりも高い場合)は、整流ダイオード82、第1ダイオード12、モータコイル60u、モータコイル60w、及びスイッチング素子42を経由して電流が流れる。この場合の第1ダイオード12の動作状態は、外部電源80からモータ60に電流が流れる通流状態である。よって区間t
1における充電制御論理の充電モードは、「通流モード」と称する。この「通流モード」の電流による磁気エネルギーは、モータコイル60u,60wに蓄えられる。
【0032】
また、整流ブリッジ81の出力電圧がVdc/2よりも低い場合は、整流ダイオード82と第2ダイオード13とは逆バイアスになる。よって、整流ダイオード82は逆流防止ダイオードとして作用する。その結果、整流ブリッジ81の出力と第2コンデンサ11とは絶縁され、第2ダイオード13のアノード電極の電圧は、第2ダイオード13でクランプされたVdc/2に維持される。
【0033】
つまり、本実施形態の充電共用インバータ1によれば、整流ブリッジ81の出力電圧が変化しても第2ダイオード13のアノード電極の電圧を、Vdc/2に安定化することができる。第2ダイオード13のアノード電極の電圧は、実際にはVdc/2+VF(第2ダイオード13の順電圧)である。したがって、U相電圧は、第1ダイオード12の順電圧VF分降下したVdc/2となる。
【0034】
このように本実施形態の充電共用インバータ1は、外部電源80の電力が供給される給電点Aの電位を、大型のリアクタンスを使用せずに安定化することができる。
【0035】
区間t
2において、信号NWが「1」から「0」に変化するとW相下アームのスイッチング素子42がオフになる。スイッチング素子42がオフになると、区間t
1で、整流ダイオード82、第1ダイオード12、モータコイル60u、モータコイル60w、及びスイッチング素子42を経由して流れていた電流は、スイッチング素子42で遮断される。
【0036】
この時、区間t
1においてモータコイル60u,60wに蓄えた磁気エネルギーは、自己誘導作用による自己誘導起電力として回収することができる。モータコイル60u,60wに蓄えた磁気エネルギーは、区間t
2になった瞬間に、そのエネルギーに相当する昇圧電圧波形(自己誘導起電力)を、U相電圧に生じさせる。
【0037】
U相に生じた昇圧電圧波形(自己誘導起電力)は、ダイオードD1を介してバッテリ70を充電する。この昇圧電圧波形に対して第1ダイオード12は、逆流防止ダイオードとして作用する。したがって、その昇圧電圧波形によって流れる充電電流は、ダイオードD1を介してバッテリ70のみに流れる。
【0038】
区間t
2における第1ダイオード12の動作状態は、昇圧電圧波形に対して逆流防止ダイオードとして作用するので、阻止状態である。なお、区間t
2における充電制御論理の充電モードは、昇圧電圧波形が生じるので「昇圧モード」と称する。なお、区間t
2の時間幅は、区間t
1の時間幅に対して短い時間幅でよい。
【0039】
次に、信号NWが「0」で信号PUが「1」になる区間t
3は、U相上アームのスイッチング素子21がオンする。U相上アームのスイッチング素子21がオンすると、昇圧電圧波形はスイッチング素子21を介してバッテリ70を充電する。また、スイッチング素子21がオンすると、U相電圧はバッテリ70の正極の電圧であるVdcになる。
【0040】
U相上アームのスイッチング素子21をオンにすることで、U相電圧をVdcでリセットする。つまり、区間t
3において、スイッチング素子21をオンにすることで、U相電圧が昇圧電圧波形で不安定になることを防止する。よって区間t
3における信号PUは、リセットパルスと称してもよい。
【0041】
このように充電共用インバータ1によれば、W相下アームのスイッチング素子42をオンにした後に、U相上アームのスイッチング素子21をオンにするまでの位相差を制御することで昇圧電圧を制御することができる。ここで、W相下アームをオンにしてから、U相上アームをオンにするまでの位相差としているのは、上記のように区間t
2の時間幅が短くて良いからである。この位相差を大きくすることで昇圧電圧波形(自己誘導起電力)を大きくすることができる。
【0042】
区間t
3における第1ダイオード12の動作状態は、スイッチング素子21がオンしてU相電圧をVdcにリセットするので逆流防止ダイオードとして作用する阻止状態である。なお、区間t
3における充電制御論理の充電モードは、区間t
2で生じた昇圧電圧波形(自己誘導起電力)をバッテリ70に還流するので、「還流モード」と称する。
【0043】
充電制御論理部52は、上記の区間t
1〜t
3を繰り返すPWM信号を生成する。区間t
4は区間t
1と同じである。区間t
5は区間t
2と同じである。区間t
6は区間t
3と同じである。充電制御論理部52は、t
7以降も区間t
1〜t
3を繰り返す。
【0044】
以上説明したように本実施形態の充電共用インバータ1によれば、大型のリアクタンスを用いずに給電点Aの電位を安定化できる。よって、充電共用インバータ1を小型にすることができる。
【0045】
なお、
図1では、W相下アームのスイッチング素子42とU相上アームのスイッチング素子21とを所定周期でオンオフしたが、この例に限定されない。V相下アームのスイッチング素子32とU相上アームのスイッチング素子21とをオンオフしてもよい。
【0046】
また、第1ダイオード12のカソード電極は、V相上アームのスイッチング素子31とV相下アームのスイッチング素子32との接続点に接続してもよい。この場合は、V相上アームのスイッチング素子31と、例えばU相下アームのスイッチング素子22とをオンオフする。
【0047】
また、第1ダイオード12のカソード電極は、W相上アームのスイッチング素子41とW相下アームのスイッチング素子42との接続点に接続してもよい。この場合は、W相上アームのスイッチング素子41と、例えばV相下アームのスイッチング素子32とをオンオフする。このように、オンオフする上アームと下アームとが異なっていればよい。
【0048】
要するに、充電共用インバータ1は、第1ダイオード12が接続していない相の下アームのスイッチング素子と、第1ダイオード12が接続した相の上アームのスイッチング素子とをオンにする位相差を制御することで、バッテリ70を充電することができる。また、充電共用インバータ1は、大型のリアクタンスを使用しなくても給電点Aの電位が安定するので、大型のリアクタンスが不要になり、充電共用インバータ1を小型にできる。また、給電点Aの電位が安定するので、充電共用インバータ1は、バッテリ70の信頼性や寿命に悪影響を及ぼさない。
【0049】
(第2実施形態)
図4に、第2実施形態の充電共用インバータ2の構成例を示す。本実施形態の充電共用インバータ2は、第1ダイオード12に並列に接続される第1スイッチング素子20を具備する点で充電共用インバータ1(
図1)と異なる。
【0050】
図5を参照して第1スイッチング素子20の作用効果を説明する。
図5の横軸は電圧V、縦軸は電流Iである。太い実線で第1ダイオード12のV-I特性を示す。細い実線で第1スイッチング素子20のV-I特性を示す。
【0051】
第1ダイオード12に、電流I
1を流すのに要する電圧はV
2である。第1スイッチング素子20に同じ電流I
1を流すのに要する電圧はV
1である。第1ダイオード12は、0.7V程度の順電圧VFを持つので、必ずV
2>V
1の関係になる。
【0052】
この電圧差による電力(I
1×(V
2−V
1))は、損失となる。この損失を無くすためには、第1ダイオード12が逆流防止ダイオードとして作用しない区間t
1(通流モード)において、第1スイッチング素子20を導通(オン)させればよい。
【0053】
充電制御論理の充電モードが「通流モード」の時に、第1スイッチング素子20をオンにする。第1スイッチング素子20をオンにすることで、第1ダイオード12の順電圧VF分の電圧降下を充電電流の経路から排除できる。充電共用インバータ2は、その排除した電圧降下分、充電効率を向上させることができる。
【0054】
図6に、W相下アームのスイッチング素子42と、第1スイッチング素子20とをオンさせるタイミングを示す。
図6の横方向は時間、縦方向は信号の振幅である。振幅「1」で、W相下アームのスイッチング素子42と第1スイッチング素子20とをオンにする。
【0055】
W相下アームのスイッチング素子42と第1スイッチング素子20とを同時にオンさせるには、第1スイッチング素子20のゲート電極に入力する信号を信号NWと同じにする。信号NWの振幅が「0」(区間t
2)になると、U相電圧に昇圧電圧波形(自己誘導起電力)が発生し、バッテリ70を充電する。
【0056】
なお、第1スイッチング素子20のオン時間を、W相下アームのスイッチング素子42のオン時間よりも長くすることで、自己誘導起電力の発生を安定化することができる。自己誘導起電力は、スイッチング素子42をオフにした瞬間の電流の変化量が大きい程大きくなる。
【0057】
信号NWと、第1スイッチング素子20のオンオフを制御する信号とを同じ信号にすると、微妙な信号の遅延によって電流の変化量が小さくなってしまう場合がある。例えば、第1スイッチング素子20が早くオフしてしまうと、W相下アームのスイッチング素子42に流れる電流は、第1ダイオード12の順電圧VF分、減少してしまう。その結果、スイッチング素子42をオフした瞬間の電流の変化量も減少するので自己誘導起電力も減少する。
【0058】
自己誘導起電力の減少を防止するためには、スイッチング素子42がオフする時に、第1スイッチング素子20を確実に導通(オン)させておけばよい。
図6に、自己誘導起電力の発生を安定化する信号を、安定化信号として示す。安定化信号は、第1スイッチング素子20のオン時間を、W相下アームのスイッチング素子42のオン時間よりもα時間長くしたものである。
【0059】
このように、第1スイッチング素子20をオフにするタイミングを、下アームのスイッチング素子42をオフにするタイミングよりも遅らせることで、安定した昇圧電圧波形(自己誘導起電力)を得ることができる。なお、U相下アームのスイッチング素子22をオンオフする場合、また、V相下アームのスイッチング素子32をオンオフする場合も、それらのスイッチング素子のオン時間よりも第1スイッチング素子20のオン時間を長くすれば、同様の効果が得られる。
【0060】
なお、第1スイッチング素子20には各種のデバイスを用いることができる。例えばIGBTやMOSFETを用いることができる。また、接点を持つリレーを用いてもよい。第1スイッチング素子20を、NMOSFETで構成した場合は、第1ダイオード12を削減することができる。そのことについては次の実施形態で説明する。
【0061】
(第3実施形態)
図7に、第3実施形態の充電共用インバータ3の構成例を示す。本実施形態の充電共用インバータ3は、第1ダイオード12と第1スイッチング素子20とを、一つのデバイス30で構成した点で充電共用インバータ2(
図4)と異なる。
【0062】
デバイス30は、NMOSFETである。デバイス30は、NMOSFET30aと、第1寄生ダイオード30bとを具備する。第1寄生ダイオード30bは、NMOSFETの半導体構造によって必然的に具備することになるダイ
オードである。第1寄生ダイオード30bは、第1ダイオード12と同じように作用する。
【0063】
第1寄生ダイオード30bのアノード電極は、NMOSFET30aのソース電極と同電位にバイアスされる半導体基板(p型)である。また、そのカソード電極は、n型半導体のドレイン電極である。
【0064】
充電共用インバータ3は、ディスクリート部品である第1ダイオード12(
図4)を削減できるので、充電共用インバータ2を小型化、低コスト化する効果を奏する。なお、充電共用インバータ3は、充電共用インバータ2と同じ作用効果を奏する。
【0065】
つまり、NMOSFET30aを、充電共用インバータ2で説明した第1スイッチング素子20と同様にオンにすることで、第1寄生ダイオード30bのビルトイン電圧を充電電流の経路から排除できる。ビルトイン電圧とは、pn接合の空乏層領域内の電界によって発生する電位差のことであり、上記の順電圧VFと等価な電圧である。
【0066】
(第4実施形態)
図8に、第4実施形態の充電共用インバータ4の構成例を示す。本実施形態の充電共用インバータ4は、外部電源80から電力が供給される給電点を複数具備する点と、スイッチング制御部54とを具備する点で、充電共用インバータ1(
図1)と異なる。
【0067】
充電共用インバータ4は、第3ダイオード33と第4ダイオード34とを具備する。第3ダイオード33は、第1ダイオード12が接続される接続点と異なるアーム回路(相)の接続点にカソード電極を接続する。この例では、V相アーム回路の接続点に、第3ダイオード33のカソード電極を接続する。
【0068】
第4ダイオード34は、第1コンデンサ10と第3ダイオード33との間に接続される。第4ダイオード34のアノード電極は、第3ダイオード33のアノード電極に接続され、外部電源80から電力が供給される給電点Bを構成する。第4ダイオード34のカソード電極は、第1コンデンサ10の他端のVdc/2の電圧に接続される。
【0069】
給電点Bには、給電点Aと同じ外部電源80の整流ブリッジ81の出力信号が、整流ダイオード82を介して接続される。よって給電点Aと同様に、給電点Bの電圧を、大型のリアクタンスを使用せずに安定化することができる。
【0070】
給電点A,Bに外部電源80から給電した場合の充電動作を、
図9を参照して説明する。
図9に示す信号NW〜充電モードまでのタイムチャートの記載は、説明済みの
図3と同じである。充電共用インバータ4においては、第1ダイオード12と第3ダイオード33とが同じ充電モードで動作する。
【0071】
給電点Bに給電された電力は、W相下アームのスイッチング素子42と、V相上アームのスイッチング素子31とをオンオフすることで、バッテリ70を充電する。この場合、V相上アームのスイッチング素子31をオンオフする信号PVは、上記のリセットパルスである。
【0072】
給電点Bからの電流の経路を説明する。区間t
1において整流ブリッジ81の出力電圧がVdc/2よりも高い場合は、整流ダイオード82、第3ダイオード33、モータコイル60v、モータコイル60w、及びスイッチング素子42を経由して電流が流れる。
【0073】
このように充電共用インバータ4の第1ダイオード12と第3ダイオード33とは、区間t
1においてそれぞれが「通流モード」で動作する。第1ダイオード12と第3ダイオード33とが「通流モード」で動作するので、外部電源80からモータ60に流れる電流が増加する。
【0074】
この「通流モード」の電流による磁気エネルギーは、モータコイル60uと60w、及びモータコイル60vと60wに蓄えられる。この蓄えられるエネルギーは、電流が増加した分、充電共用インバータ1よりも増加する。この磁気エネルギーは、区間t
2になった瞬間に、U相電圧とV相電圧とにそれぞれのエネルギーに相当する昇圧電圧波形(自己誘導起電力)を生じさせる。以降の動作は充電共用インバータ1と同じである。
【0075】
以上説明したように、給電点を複数具備する充電共用インバータ4は、給電点が1個の充電共用インバータ1に対して充電電力を増やすことができる。なお、給電点A,Bの組合せ以外の構成も考えられる。次に、充電共用インバータ4の変形例を説明する。
【0076】
(変形例)
図10に、充電共用インバータ4を変形した充電共用インバータ5の構成例を示す。本実施形態の充電共用インバータ5は、充電共用インバータ4の給電点Aの替りに給電点Cを具備する点で異なる。また、スイッチング制御部55を具備する点で充電共用インバータ4と異なる。
【0077】
給電点Cは、カソード電極をW相アーム回路の接続点に接続した第5ダイオード43のアノード電極と、カソード電極を第1コンデンサ10の他端に接続した第6ダイオード44のアノード電極とが接続されて構成される。外部電源80から給電点Cに供給される電流は、第5ダイオード43、モータコイル60w、モータコイル60u、及びU相下アームのスイッチング素子22を経由して流れる。
【0078】
外部電源80から給電点Bに供給される電流は、第3ダイオード33、モータコイル60v、モータコイル60u、及びU相下アームのスイッチング素子22を経由して流れる。このように、充電共用インバータ5は、電流を流す下アームのスイッチング素子が、U相下アームのスイッチング素子22で有る点で充電共用インバータ4と異なる。充電共用インバータ4では、W相下アームのスイッチング素子42をオンオフする。
【0079】
充電共用インバータ5は、U相下アームのスイッチング素子22のゲート電極に入力する信号を、
図9のU信号NWと同じにする。また、V相上アームのスイッチング素子31とW相上アームのスイッチング素子41のゲート電極に入力する信号を、
図9の信号PUと同じにする。U相下アームのスイッチング素子22と、V相上アームのスイッチング素子31と、W相上アームのスイッチング素子41とをそれぞれオンオフする制御方法は、充電共用インバータ4と同じである。
【0080】
給電点を複数具備する充電共用インバータ4,5のスイッチング制御部54,55は、給電しないアーム回路の下アームのスイッチング素子と、給電するアーム回路の上アームのスイッチング素子とのオンタイミングの位相差を制御してバッテリ70を充電する。なお、U相アーム回路に給電する給電点Aと、W相アーム回路に給電する給電点Cとを組み合わせ
た構成でも同様の作用効果を奏する。なお、給電点Aと給電点Cとを組み合わせた充電共用インバータの機能構成例の表記は省略する。
【0081】
(第5実施形態)
図11に、第5実施形態の充電共用インバータ6の構成例を示す。本実施形態の充電共用インバータ6は、U相とV相とW相とに、外部電源80から電力が供給される給電点A,B,Cをそれぞれ具備する点と、スイッチング制御部56とを具備する点で、充電共用インバータ1(
図1)と異なる。
【0082】
スイッチング制御部56は、第1ダイオード12が接続されたU相下アームのスイッチング素子22と、第3ダイオード33が接続されたV相下アームのスイッチング素子32と、第5ダイオード43が接続されたW相下アームのスイッチング素子42とをオンオフする。スイッチング制御部56は、各々のスイッチング素子22,32,42に流れる電流が短絡しない時間幅のオン時間で、スイッチング素子22,32,42をオンオフする。
【0083】
ここで短絡しない時間幅とは、外部電源80から各給電点A,B,Cに電力を供給する給電線のインダクタンス成分によって、スイッチング素子22,32,42がオンしても短絡電流が流れない時間幅のことである。そのインダクタンス成分は、寄生インダクタンスであってもよいし、有限のインダクタンス成分であってもよい。有限のインダクタンス成分は、ディスクリート部品のインダクタンスを、各給電点A,B,Cと整流ダイオード82との間に挿入して付加する。
【0084】
図12に、スイッチング制御部56がスイッチング素子22,32,42に出力する信号の波形例である信号NU、信号NV、及び信号NWを示す。
図12(a)は、横方向の時間が長い(長時間の)波形を示す。
図12(b)は、横方向の時間が短い(短時間の)波形を示す。
【0085】
図12(a)は、上から、U相下アームのスイッチング素子22のゲート電極に入力される信号NU、V相下アームのスイッチング素子32のゲート電極に入力される信号NV、及びW相下アームのスイッチング素子42のゲート電極に入力される信号NWである。このように、スイッチング制御部56は、各相の下アームのスイッチング素子を、各スイッチング素子に流れる電流が短絡電流にならない短い時間幅のデッドタイムを設けた上でオンオフする。尚、
図12においては、それぞれの相の位相を揃えて記載しているが、必ずしもこれに限らず、位相差を設けたものとしても良い。
【0086】
各相の下アームのスイッチング素子22,32,42をオフにした瞬間に、各相電圧に昇圧電圧波形(自己誘導起電力)が発生する。この各相に生じた昇圧電圧波形は、ダイオード
D1,D3,D5を介してバッテリ70を充電する。
【0087】
なお、各相の下アームのスイッチング素子22,32,42をオフにした時に、各相の上アームのスイッチング素子21,31,41を導通(オン)させてもよい。その場合のタイムチャートを
図12(b)に示す。
【0088】
図12(b)は、上から、信号NU,PU、信号NV,PV、及び信号NW,PWである。信号PU,PV,PWは、信号NU,NV,NWを反転させた信号である。
【0089】
信号PUが「1」から「0」に変化した瞬間(β)に、U相アーム回路に昇圧電圧波形(自己誘導起電力)が発生する。この昇圧電圧波形が発生するのと同時に、信号PUが「0」から「1」に変化するので、U相上アームのスイッチング素子21がオンになる。その結果、昇圧電圧波形は、ダイオードD1の順電圧VFによる損失を生じさせずにバッテリ70を充電することができる。他相(V相、W相)においても同様に動作する。
【0090】
このように3相の全てのアーム回路に給電点A,B,Cを設けた構成においては、各相の下アームのスイッチング素子22,32,42を短い時間幅でオンオフする。短い時間幅で下アームのスイッチング素子22,32,42をオンオフすることで、外部電源80から3相の全てに給電してもバッテリ70の充電が可能である。
【0091】
(第6実施形態)
図13に、第6実施形態の充電共用インバータ7の構成例を示す。本実施形態の充電共用インバータ7は、スイッチング制御部57を具備する点と、三相交流電源の交流を位相毎に整流して出力する外部電源90を具備する点で、充電共用インバータ6(
図11)と異なる。
【0092】
外部電源90は、整流部91を具備する。整流部91は、三相交流電源の各相を整流した出力電圧を出力する。ダイオード92は、U相の交流を整流した出力電圧を給電点Aに供給する。ダイオード93は、V相の交流を整流した出力電圧を給電点Bに供給する。ダイオード94は、W相の交流を整流した出力電圧を給電点Cに供給する。
【0093】
整流部91が出力する出力電圧は、各相が独立した状態で出力される。つまり、U相の整流波形が出力されている時は、V相とW相の出力電圧は0である。V相の整流波形が出力されている時は、U相とW相の出力電圧は0である。W相の整流波形が出力されている時は、U相とV相の出力電圧は0である。
【0094】
スイッチング制御部57は、U相の出力電圧に対応させてアーム回路のスイッチング素子をオンオフするU相制御部570、V相の出力電圧に対応するV相制御部571、及びW相の出力電圧に対応するW相制御部572を具備する。U相制御部570は、第1ダイオード12からモータ60に電流を供給可能な位相において、U相上アームのスイッチング素子21と、例えばW相下アームのスイッチング素子42とのオンタイミングの位相差を制御する。また、U相上アームとV相下アームとをオンオフしてもよい。
【0095】
V相制御部571は、第3ダイオード33からモータ60に電流を供給可能な位相において、V相上アームのスイッチング素子
31と例えばU相下アームのスイッチング素子22とのオンタイミングの位相差を制御する。また、V相上アームとW相下アームとをオンオフしてもよい。
【0096】
W相制御部572は、第5ダイオード43からモータ60に電流を供給可能な位相において、W相上アームのスイッチング素子41と例えばV相下アームのスイッチング素子32とのオンタイミングの位相差を制御する。また、W相上アームとU相下アームとをオンオフしてもよい。
【0097】
このように各相の整流波形の位相に対応して各アーム回路のスイッチング素子をオンオフすることで、充電時に生じる電源高周波成分を低減することができる。その結果、充電時にバッテリ70に与えるノーマルモードノイズを低減することができる。
【0098】
また、充電共用インバータ7は、モータ60のロータが回転しないように制御することも可能である。例えば、U相制御部570とV相制御部571を組み合わせることで、昇圧電圧波形を相殺する制御が行えるので、充電時にロータを機械的に固定しなくてよい。
【0099】
(第7実施形態)
図14に、第7実施形態の充電共用インバータ8の構成例を示す。充電共用インバータ8は、3レベルのPWM制御が行えるインバータである。本実施形態の充電共用インバータ8は、各給電点A,B,Cを構成するダイオードに、それぞれ並列に接続されるスイッチング素子を具備する点で、充電共用インバータ6(
図11)と異なる。
【0100】
第1ダイオード12に並列に第1スイッチング素子20が接続される。第2ダイオード13に並列に第2スイッチング素子92が接続される。第3ダイオード33に並列に第3スイッチング素子93が接続される。第4ダイオード34に並列に第4スイッチング素子94が接続される。第5ダイオード43に並列に第5スイッチング素子95が接続される。第6ダイオード44に並列に第6スイッチング素子96が接続される。
【0101】
第1ダイオード12に並列に接続される第1スイッチング素子20と、第2ダイオード13に並列に接続される第2スイッチング素子92とを同時に導通(オン)することで、充電共用インバータ8のU相に、第2コンデンサ11の両端電圧であるVdc/2の電圧を供給することができる。他相についても同様である。
【0102】
V相には、第3スイッチング素子93と第4スイッチング素子94とを同時に導通することでVdc/2の電位を供給することができる。また、W相にVdc/2の電位を供給するには、第5スイッチング素子95と第6スイッチング素子96とを同時に導通すればよい。
【0103】
このように、充電共用インバータ8によればインバータの交流側に、バッテリ70の正極の電圧(Vdc)と負極の電圧との2つに加え、3つ目の電圧であるVdc/2を供給することができる。よって、充電共用インバータ8は3レベルのPWM制御を可能にする。
【0104】
第1スイッチング素子20、及び第2スイッチング素子92〜第6スイッチング素子96のオンオフの制御は、スイッチング制御部58内の負荷制御論理部(
図2に示す負荷制御論理部51に相当)が行う。その制御方法には、従来の3レベルインバータの方法を用いることができる。
【0105】
充電共用インバータ8は、3レベルの直流電圧を用いて交流波形を生成するので、より滑らかな交流波形を生成することができる。その結果、モータ60の振動を低減させ騒音も低減させる。また、充電共用インバータ8は、充電共用インバータ6(
図11)と同様に、給電点の電位を安定化する目的の大型のリアクタンスを不要にする作用効果も奏する。
【0106】
以上説明したように、実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
【0107】
第1実施形態の充電共用インバータ1(
図1)によれば、従来使用した大型のリアクタンスを用いずに給電点Aの電位を安定化することができる。よって、充電共用インバータを小型にすることができる。
【0108】
第2実施形態の充電共用インバータ2(
図4)によれば、充電モードが「通流モード」の時に、第1スイッチング素子20をオンにすることで、第1ダイオード12の順電圧VF分の電圧降下を充電電流の経路から排除し、充電効率を向上させることができる。
【0109】
第3実施形態の充電共用インバータ3(
図7)によれば、第1ダイオード12と第1スイッチング素子20とを、一つのデバイス30(NMOSFET)で構成することができる。よって、充電共用インバータ3は、充電共用インバータ2に対して小型化する効果を奏する。
【0110】
第4実施形態の充電共用インバータ4,5(
図8、
図10)によれば、給電点を複数具備するので、給電点が1個の充電共用インバータ1乃至3の何れかよりも、外部電源80からバッテリ70へ充電する充電電力を増やすことができる。なお、充電共用インバータ4に第2実施形態、又は第3実施形態を組み合わせることも可能である。
【0111】
第5実施形態の充電共用インバータ6(
図11)によれば、外部電源80から複数の相の全てに給電し、各相の下アームのスイッチング素子22,32,42を短い時間幅でオンオフする。短い時間幅でオンオフすることで、3相の全てに外部電源80から給電しても、スイッチング素子22,32,42に流れる電流が短絡電流にならず、バッテリ70の充電が可能になる。
【0112】
第6実施形態の充電共用インバータ7(
図13)によれば、スイッチング制御部57が、交流電源の各相の出力電圧に対応させてアーム回路のスイッチング素子をオンオフさせるU相制御部570、V相制御部571、及びW相制御部572を具備する。U相制御部570、V相制御部571、及びW相制御部572が、それぞれ独立してスイッチング素子をオンオフするので、充電時に生じる電源高周波成分を低減することができ、バッテリ70に与えるノーマルモードノイズを低減することができる。
【0113】
第7実施形態の充電共用インバータ8(
図14)によれば、上記の実施形態が奏する大型のリアクタンスを不要にする作用効果に加えて、3レベルのPWM制御を可能にする。3レベルのPWM制御は、モータ60の振動を低減させ騒音も低減させることができる。
【0114】
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【0115】
例えば、第4実施形態の充電共用インバータ4の変形例として、V相とW相に充電共用インバータ5のみを示して説明を行ったが、U相とW相に給電してもよい。また、Vdc/nの具体例としてVdc/2の例を示したが、nは2以上の整数で有ってもよい。
【0116】
また、上アームのスイッチング素子21,31,41、及び下アームのスイッチング素子22,32,42のNMOSFETに逆並列の向きで接続されるダイオードD1〜D6は、上記の寄生ダイオードで有ってもよい。また、他の第1ダイオード12〜第6ダイオード44についても同様である。
【0117】
以上説明したこの発明の実施例は、負荷制御と充電制御の両方を行う充電共用インバータに広く適用することが可能である。