(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の電力変換装置の異常検出方法を実現する最良の形態を、図面に示す実施の形態に基づいて説明する。
(実施の形態1)
以下、実施の形態1の電力変換装置の温度異常検出方法および電力変換装置について説明する。
(インバータ装置を備えた駆動系の全体構成)
まず、実施の形態1の温度異常検出方法を適用した電力変換装置Aの構成を
図1に基づいて説明する。
【0010】
図1に示す電力変換装置Aは、第1発電電機1を駆動させる第1インバータ装置(電力変換部)10および第2発電電機2を駆動させる第2インバータ装置(電力変換部)20を備える。
【0011】
第1発電電機1および第2発電電機2は、図示を省略した電気自動車やハイブリッド車両などに搭載されている。
なお、両発電電機1,2の用途は、特に限定されるものではない。例えば、両発電電機1,2を、図示を省略した駆動輪に駆動力を与える駆動源として用いてもよい。あるいは、両発電電機1,2の一方を前記駆動源として用い、もう一方を、図示を省略したエンジンなどの駆動源により駆動して発電を行う発電機として用いてもよい。
【0012】
両インバータ装置10,20は、電力変換装置Aを収容するケーシングCAに搭載されている。
第1インバータ装置10は、バッテリ3からの電力である直流電流を交流電流に変換して第1発電電機1に供給し第1発電電機1を駆動し、また、第1発電電機1が発電した交流電流を直流電流に変換してバッテリ3に供給し充電する。
【0013】
なお、第1インバータ装置10は、図示を省略するが、IGBTモジュールなどのパワーモジュールや平滑コンデンサを内部に備える。また、バッテリ3として、電圧制御範囲が数百ボルト程度の二次電池(リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池等)を採用している。
【0014】
第2インバータ装置20も、第1インバータ装置10と同様に、バッテリ3からの直流電流を交流電流に変換して第2発電電機2に供給可能であり、また、第2発電電機2が発電した交流電流を直流電流に変換しバッテリ3に充電可能とするものである。この第2インバータ装置20も、図示を省略するが、パワーモジュールや平滑コンデンサを内部に備える。
【0015】
さらに、第1インバータ装置10、第2インバータ装置20は、それぞれ、内部のパワーモジュールなどの発熱部の温度を検出する第1インバータ温度センサ11、第2インバータ温度センサ12を内蔵している。
【0016】
さらに、電力変換装置Aは、冷却装置30を備える。
この冷却装置30は、冷却水路31と放熱器32とポンプ33と循環路34とを備え、冷却水Wを循環させ両インバータ装置10,20を冷却する。
【0017】
冷却水路31は、ケーシングCAに形成され、第1の端部の流入口31aから、第1インバータ装置10(前段の電力変換部)、第2インバータ装置20(前段の電力変換部)、を順に通り、第2の端部の流出口31bに至る流路である。
【0018】
冷却水路31には、流出口31bから流入口31aに至る流路であって、途中に放熱器32とポンプ33とを備えた循環路34が接続されている。ポンプ33は、流出口31bから冷却水Wを吸入し、流入口31aに圧送し、冷却水Wを循環させる。放熱器32は、冷却水Wの熱を外気に放熱して冷却水Wを冷却する。
【0019】
さらに、冷却水路31において第1インバータ装置10よりも上流の流入口31aの付近に水温センサ40が設けられている。
そして、この水温センサ40と、前述の第1インバータ温度センサ11および第2インバータ温度センサ12の検出信号が、第1コントローラ51および第2コントローラ52に入力される。
【0020】
第1コントローラ51は、第1インバータ装置10の温度異常を検出し、第2コントローラ52は、第2インバータ装置20の温度異常を検出する。
【0021】
次に、第1コントローラ51と第2コントローラ52の構成について説明する。
第1コントローラ51は、第1温度差演算部51aと第1異常検出部51bとを備える。
第1温度差演算部51aは、第1インバータ温度センサ11が検出する第1インバータ温度tin1と水温センサ40が検出する冷却水温twとを入力し、両者の差である第1温度差Δt1(tin1=tw)を演算する。
【0022】
第1異常検出部51bは、第1温度差Δt1が予め設定された第1異常判定温度tlim1よりも大きい場合に異常と判定し、第1温度差Δt1が第1異常判定温度tlim1以下の場合は、異常ではないと判定する。すなわち、冷却装置30に異常が生じたり、第1インバータ装置10に異常が生じて異常発熱したりした場合は、第1インバータ温度tin1と冷却水温twとの差である第1温度差Δt1が大きくなる。そこで、第1異常判定温度tlim1は、異常発生時の実測やシミュレーションなどに基づいて、異常発生を判定することができる値に設定されている。
【0023】
第2コントローラ52は、第2温度差演算部52aと第2異常検出部52bと温度加算部52cとを備える。
温度加算部52cは、第1インバータ装置10の動作時の損失を冷却水温twの上昇温度に換算した値を加算値Tadとし、これを水温センサ40が検出する冷却水温twに加算した加算温度twaを求める。この損失による上昇温度として、実施の形態1では、第1インバータ装置10において想定される最大損失時の第1インバータ装置10の発熱により冷却水温twが上昇する温度に設定している。なお、最大損失時として、例えば、第1発電電機1のロック時を挙げることができる。このロック時とは、例えば、車両を前進させようとしているのに、車輪が車止めに当たるなどして前進できない場合であって、すなわち、第1発電電機1に通電し駆動させているのに第1発電電機1に回転が生じない場合である。
【0024】
このようなロック時に、第1発電電機1の損失エネルギーは最大となり、熱エネルギーとして損失される。そして、冷却水温twに加算する加算値Tadは、実際にこのようなロック状態を再現し、その際の、冷却水温twと第1発電電機1に対する指令値と、その際の冷却水温twの上昇温度(加算値Tad)との関係を、例えば、マップや演算式の形で第1コントローラ51に記憶しておく。したがって、温度加算部52cは、加算時の冷却水温twと指令値とから加算値Tadを求め、これを冷却水温twに加算し、加算温度twaを求める。
【0025】
第2温度差演算部52aは、第2インバータ温度tin2と加算温度twaとを入力し、両者の差である第2温度差Δt2を演算する。
第2異常検出部52bは、第2温度差Δt2が予め設定された第2異常判定温度tlim2よりも大きい場合に異常と判定し、第2温度差Δt2が第2異常判定温度tlim2以下の場合は、異常ではないと判定する。なお、この第2異常判定温度tlim2は、第2発電電機2および第2インバータ装置20に応じて設定されており、第1異常判定温度tlim1とは、必ずしも同じ値ではない。
【0026】
次に、第1コントローラ51および第2コントローラ52による異常判定処理の流れを
図2のフローチャートに基づいて説明する。なお、この異常判定処理は、予め設定された制御周期毎に繰り返し行われる。
【0027】
最初のステップS1では、両コントローラ51,52において、第1インバータ温度センサ11、第2インバータ温度センサ12、水温センサ40から、それぞれ、検出温度である第1インバータ温度tin1、第2インバータ温度tin2、冷却水温twを読み込む。
【0028】
次のステップS2では、第1温度差演算部51aにおいて第1インバータ温度tin1と冷却水温twとの差分である第1温度差Δt1を演算し、ステップS3に進む。
【0029】
ステップS3では、第1異常検出部51bにおいて、第1温度差Δt1が第1異常判定温度tlim1よりも大きいか否かにより第1インバータ装置10と冷却系統とのいずれかの異常の有無を判定する。そして、Δt1>tlim1により異常と判定した時には、ステップS7に進み、Δt1≦tlim1により非異常(正常)と判定した時は、ステップS4に進む。
【0030】
第1異常検出部51bにおいて非異常(正常)と判定した場合に進むステップS4では、温度加算部52cにおいて、冷却水温twに、第1インバータ装置10の動作時の損失分の加算値Tadを加算して加算温度twaを求め、ステップS5に進む。
【0031】
ステップS5では、第2温度差演算部52aにおいて、第2インバータ温度tin2と加算温度twaとの差分である第2温度差Δt2を演算し、ステップS6に進む。
【0032】
ステップS6では、第2異常検出部52bにおいて、第2温度差Δt2が第2異常判定温度tlim2よりも大きいか否かにより第2インバータ装置20と冷却系統とのいずれかの異常の有無を判定する。そして、Δt2>tlim2により異常と判定した時には、ステップS7に進み、Δt2≦tlim2により非異常(正常)と判定した時は、1回の異常判定処理を終える。
【0033】
ステップS3、ステップS6のいずれかで異常と判定された場合に進むステップS7では、予め設定されたフェール処理を実行する。このフェール処理としては、両発電電機1,2の発熱を抑える処理であればどのような処理であってもよいが、例えば、両発電電機1,2いずれかの出力を所定量だけ抑えたり、停止させたりする処理とすることができる。
【0034】
(実施の形態1の作用)
次に、実施の形態1の作用について説明する。
各インバータ装置10,20を駆動させると、図示を省略したパワーモジュールやスイッチング素子に損失が生じ、その損失分の熱が発生し、各インバータ温度tin1,tin2が上昇する。また、その各インバータ装置10,20は、冷却装置30により冷却され、これに伴い、冷却水路31では、第1インバータ装置10の発熱により冷却水温twが上昇し、この上昇した冷却水温twは、さらに第2インバータ装置20の発熱により上昇する。この温度が上昇した冷却水は、放熱器32で放熱を行って冷却された後、再び、冷却水路31に供給される。
【0035】
ここで、冷却装置30に異常が生じた場合や、各インバータ装置10,20のパワーモジュールやスイッチング素子が異常発熱した場合、冷却水路31の冷却水温twと各インバータ温度tin1、tin2との温度差が大きくなる。
【0036】
そこで、各インバータ温度tin1、tin2と冷却水温twとの温度差を正確に検出するには、第1インバータ装置10の発熱により上昇した冷却水温を検出する水温センサを追加する必要がある。
【0037】
しかしながら、その場合、水温センサの数が増加し、コストアップを招く。加えて、水温センサを、電力変換装置AのケーシングCAに形成した冷却水路31内に設ける必要があり、設置に手間を要する。特に、この冷却水路31が、ケーシングCAとは独立した管路等であれば、設置も比較的楽ではあるが、ケーシングCAに一体に形成されている場合、正確に冷却水温twを検出可能であり、かつ、高いシール性を確保して設置するのが難しい。
【0038】
一方、第2インバータ装置20の異常判定を、第2インバータ温度tin2と、実際の第2インバータ装置20の冷却水温よりも低い水温センサ40が検出する冷却水温twとの差分に基づいて行った場合、この差分は実際の差分よりも大きな値となる。このため、異常判定精度が低下し、かつ、異常と誤判定されてフューエル処理が実行される可能性が高くなる。すなわち、異常検出精度が低下するとともに、電力変換装置Aの動作範囲が狭くなるおそれが生じる。
【0039】
それに対し、本実施の形態1では、第2インバータ装置20の異常判定には、水温センサ40が検出する冷却水温twに、第1インバータ装置10の損失分を換算した加算値Tadを用いる。このため、第2インバータ装置20における第2インバータ温度tin2と冷却水温との第2温度差(Δt2)が、水温センサ40が検出する冷却水温twをそのまま用いる場合よりも正確になり、異常検出精度が向上する。また、水温の検出は、冷却水路31の上流の水温センサ40のみにより行うため、別途、電力変換装置A内に水温センサを追加するものと比較して、コストを抑えることができる。
【0040】
加えて、温度加算部52cでは、実測値を元に予め設定された加算値Tadを用いるため、第2コントローラ52の温度加算部52cの構成の簡略化を図り、コストを抑えることができる。また、加算値Tadとして第1インバータ装置10で想定される最大損失による温度に基づいて設定した値を使用する。このため、実際の第1インバータ装置10の発熱による冷却水Wの上昇温度が、加算値Tadを上回ることもなく、異常が発生しているのに、正常と判定する誤判定を抑えることができる。
【0041】
(実施の形態1の効果)
以下に、実施の形態1の効果を列挙する。
1)実施の形態1の電力変換装置Aの温度異常検出方法は、
電力を変換して伝送する複数の電力変換部としての第1インバータ装置10、第2インバータ装置20と、両インバータ装置10,20を通り各インバータ装置10,20の冷却を行う冷却水路31と、を備えた電力変換装置Aの温度異常検出方法であって、
両インバータ装置10,20の温度(第1インバータ温度tin1、第2インバータ温度tin2)を検出するとともに、両インバータ装置10,20よりも上流の冷却水路31の冷却水の温度(冷却水温tw)を検出してこれらを読み込むステップ(S1)と、
両インバータ装置10,20のうち、冷却水路31の上流側に配置された前段の電力変換部としての第1インバータ装置10については、第1インバータ温度tin1と冷却水温twとの第1温度差Δt1に基づいて異常の有無を判定するステップ(S3)と、
第1インバータ装置10よりも下流に配置された後段の電力変換部としての第2インバータ装置20については、冷却水温twに第1インバータ装置10の損失分を換算した温度(加算値Tad)を加算した加算温度twaを求め(ステップS4)、この加算温度twaと第2インバータ温度tin2との第2温度差Δt2を求め(ステップS5)、この第2温度差Δt2に基づいて異常の有無を判定するステップ(S6)と、
を備えることを特徴とする。
したがって、電力変換部として第1、第2インバータ装置10,20を搭載した電力変換装置Aにおいて、水温センサ40の数を「1」としてコストを抑えつつ、両インバータ装置10,20および冷却系統の異常検出を高精度で行うことが可能となる。
【0042】
2)実施の形態1の電力変換装置Aの温度異常検出方法において、
損失分を換算した温度(加算値Tad)として、第1インバータ装置10で想定される最大損失による温度に基づいて設定した値を使用することを特徴とする。
したがって、温度加算部52cにおける演算を簡略化してコストを抑えることができ、かつ、異常が発生しているのに、正常と判定する誤検出を抑えることができ、高い検出精度を得ることができる。
【0043】
3)実施の形態1の電力変換装置Aの温度異常検出装置は、
電力を変換して伝送する複数の電力変換部としての第1インバータ装置10および第2インバータ装置20と、
両インバータ装置10,20を通り各インバータ装置10,20の冷却を行う冷却水路31と、
各インバータ装置10,20の温度を検出する電力変換部温度センサとしての第1インバータ温度センサ11および第2インバータ温度センサ12と、
両インバータ装置10,20よりも上流の冷却水路31の冷却水の温度を検出する水温センサ40と、
冷却水温twと、第1インバータ装置10の温度である第1インバータ温度tin1との差分である第1温度差Δt1を求める前段温度差演算部としての第1温度差演算部51aと、
第1温度差演算部51aが求めた第1温度差Δt1分に基づいて異常判定を行う前段電力変換部異常検出部としての第1異常検出部51bと、
第1インバータ装置10の損失分を温度に換算して冷却水温twに加算する温度加算部52cと、
温度加算部52cが算出した加算温度twaと、第2インバータ温度tin2との差分である第2温度差Δt2を求める後段温度差演算部としての第2温度差演算部52aと、
第2温度差演算部52aが演算した第2温度差Δt2に基づいて異常判定を行う後段電力変換部異常検出部としての第2異常検出部52bと、
を備えることを特徴とする。
したがって、電力変換部として第1、第2インバータ装置10,20を搭載した電力変換装置Aにおいて、水温センサ40の数を「1」としてコストを抑えつつ、両インバータ装置10,20および冷却系統の異常検出を高精度で行うことが可能となる。
【0044】
(他の実施の形態)
次に、他の実施の形態の電力変換装置の温度異常検出方法および温度異常検出装置について説明する。
なお、他の実施の形態の説明において、他の実施の形態と共通する構成には当該実施の形態と同じ符号を付して説明を省略し、当該実施の形態との相違点のみ説明する。
【0045】
(実施の形態2)
実施の形態2は、第1インバータ装置10の損失分を温度に換算して冷却水温twに加算する加算値の求め方を実施の形態1と異ならせた例である。
すなわち、実施の形態2では、第1インバータ装置10の損失分を換算した温度として、第1インバータ装置10に供給される電流、キャリア周波数、半導体特性を含む損失演算情報に基づいて演算した値を使用するようにした。
【0046】
図3は、実施の形態2の温度異常検出方法を適用した電力変換装置Bの概略を示す全体図である。
図3に示す第2コントローラ252の温度加算部252cは、損失分の温度である加算値として、第1コントローラ251に設けられた損失演算部200により演算された加算値を用いる。
【0047】
また、損失演算部200は、加算値Tadを、第1インバータ装置10における電流I、キャリア周波数f、半導体特性を含む損失演算情報に基づいて演算する。
なお、第1インバータ装置10は、周知のブリッジ接続した絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(Insulated Gate Bipolar Transistor、以下、IGBTと称する)、ならびに、ダイオード(Free Wheeling Diode、以下、FWDと称する)を備える。
【0048】
そこで、第1インバータ装置10のIGBTにおける定常損失を、下記の式(1)により求め、IGBTのスイッチング損失を下記の式(2)により求める。
また、第1インバータ装置10のFWDにおける定常損失を、下記の式(3)により求め、FWDにおけるスイッチング損失を下記の式(4)により求める。
そして、これらの値から第1インバータ装置10のパワーモジュール損失を、下記の式(5)により求める。
[式1]
[式2]
[式3]
[式4]
[式5]
Ic;IGBTのスイッチング素子電流(第1発電電機電流)
Vce(sat);IGBTのスイッチング素子のON電圧
D;PWM変調率
Esw;IGBTの1pulseあたりのスイッチング損失
f;PWMキャリア周波数
N(I);IGBTチップ数
N(F);FWDチップ数
Vf: FWDのスイッチング素子のON電圧
Err;FWDの1pulseあたりのスイッチング損失
【0049】
さらに、上述の式から得られた第1インバータ装置10の損失(パワーモジュール損失P(PM))を温度に換算し、さらに冷却水の上昇温度に相当する加算値Tadを演算する。
なお、この加算値Tadは、予め繰り返し実験を行って、パワーモジュール損失P(PM)と冷却水温twとに応じて得られるように設定したテーブルあるいは演算式を用いて求める。
【0050】
また、温度加算部252cでは、水温センサ40が検出する冷却水温twに、加算値Tadを加算するもので、その演算自体は実施の形態1で示した温度加算部52cと同様である。
【0051】
したがって、実施の形態2では、第1インバータ装置10の実際の損失による発熱により冷却水Wの温度上昇により近い値を加算値Tadとすることができ、これにより、異常検出精度がより高いものとなる。
【0052】
(実施の形態2の効果)
2-1)実施の形態2の電力変換装置Bの温度異常検出方法は、
温度加算部252cは、冷却水温twに加算する損失分を換算した温度である加算値Tadとして、第1インバータ装置10のパワーモジュールにおける電流Icや電圧Vce(sat)、キャリア周波数f、半導体特性としてのPWM変調率D, IGBTチップ数N(I)、FWDチップ数N(F) を含む損失演算情報に基づいて演算した値を使用することを特徴とする。
したがって、第1インバータ装置10の動作状態に応じた最適の加算値Tadを求めることができ、より精度の高い異常検出を行うことができる。
なお、加算値Tadは、電流Ic、電圧Vce(sat)、半導体特性(キャリア周波数f、PWM変調率D,IGBTチップ数N(I)、FWDチップ数N(F))のいずれかに基づいて求めることができる。
【0053】
(実施の形態3)
実施の形態3は、第1インバータ装置10の損失分を温度に換算して冷却水温twに加算する加算値Tadの求め方を実施の形態1、2と異ならせた例である。
【0054】
すなわち、実施の形態3では、第1インバータ装置10の損失分を温度に換算して加算する加算値Tadとして、第1インバータ装置10の温度と、冷却水温twとの第1温度差Δt1に基づいて推定した値を使用するようにした。
【0055】
図4は、実施の形態3の温度異常検出方法を適用した電力変換装置Cの概略を示す全体図である。
図4に示す第2コントローラ352の第2温度差演算部352aは、損失推定部300が推定した加算温度twa3と第2インバータ温度tin2との第2温度差Δt2を演算する。
【0056】
ここで損失推定部300は、第1温度差演算部51aが演算した第1温度差Δt1を入力し、この第1温度差Δt1から第1インバータ装置10の損失を逆算する。さらに、損失推定部300は、この損失分による冷却水の温度上昇分に相当する加算値を推定し、これを冷却水温twに加算した加算温度twa3を演算する。なお、この加算値の推定は、予め第1温度差Δt1およびその時の第1発電電機1の駆動状態(例えば、力行、回生、ロックなど)に応じた値が、マップの状態で第1コントローラ51に記憶されている。
なお、第2温度差演算部352aは、この加算温度twa3と第2インバータ温度tin2との第2温度差Δt2を演算する。
【0057】
このように、実施の形態3では、第1温度差Δt1に基づいて、推定した第1インバータ装置10の損失分に応じた冷却水の温度上昇を推定する。
したがって、加算温度twa3として、実際の第2インバータ装置20における冷却水温を求めることができ、これにより、異常検出精度がより高いものとなる。
【0058】
(実施の形態3の効果)
3-1)実施の形態3の電力変換装置Cの温度異常検出方法は、
第2温度差演算部352aにおいて加算する損失分の温度として、第1インバータ装置10の温度である第1インバータ温度tin1と冷却水温twとの差分である第1温度差Δt1に基づいて推定した値を使用することを特徴とする。
すなわち、第1インバータ温度tin1と冷却水温twとの差分により第1インバータ装置10の発熱状態を推定し、これにより、高い精度で加算値を求めることができる。よって、この高精度の加算値に基づいて、第2インバータ装置20における冷却水温を高精度で推定し、これに基づいて高精度で異常検出を行うことができる。
【0059】
(実施の形態4)
実施の形態4の電力変換装置Dは、実施の形態1の変形例であり、
図5に示すように、冷却水路31の後段に第3発電電機(図示省略)を駆動させる第3インバータ装置430を追加した例である。
【0060】
この第3インバータ装置430の異常判定を行う第3コントローラ453は、第3温度差演算部453a、第3異常検出部453b、温度加算部453cを備える。
温度加算部453cは、第1インバータ装置10の動作時の損失および第2インバータ装置20の動作時の損失を冷却水温twの上昇温度に換算した値を加算値Tadとし、これを水温センサ40が検出する冷却水温twに加算した加算温度twbを求める。この損失による上昇温度は、実施の形態1と同様に、両インバータ装置10,20において想定される最大損失時の発熱により冷却水温twが上昇する温度に設定している。
【0061】
そして、第3温度差演算部453aは、第3インバータ温度センサ413が検出した第3インバータ温度tin3と加算温度twbとを入力し、両者の差である第3温度差Δt3を演算する。
【0062】
第3異常検出部453bは、第3温度差Δt3が予め設定された第3異常判定温度(tlim3)よりも大きい場合に異常と判定し、第3温度差Δt3が第3異常判定温度(tlim3)以下の場合は、異常ではないと判定する。なお、この第3異常判定温度tlim3は、第3回転電機(図示省略)および第3インバータ装置430に応じて設定されている。
【0063】
したがって、実施の形態4では、インバータ装置の数が増加した場合でも、実施の形態1で説明した1)〜3)の効果を得ることができる。
【0064】
(実施の形態5)
実施の形態5の電力変換装置Eは、実施の形態2の変形例であり、
図6に示すように、上記の実施の形態4と同様に冷却水路31の後段に第3インバータ装置530を追加した例である。
図6に示す第3コントローラ553の温度加算部553cは、損失分の温度である加算値として、第1コントローラ251に設けられた損失演算部500により演算された加算値Tad2を用いる。
【0065】
また、損失演算部500は、実施の形態2と同様に、第1インバータ装置10における電流I、キャリア周波数f、半導体特性を含む損失演算情報に基づいて加算値Tadを、演算する。さらに、損失演算部500は、第2インバータ装置20における電流I、キャリア周波数f、半導体特性を含む損失演算情報に基づいて加算値Tad2を、演算する。
なお、この加算値Tad2の演算は、実施の形態2と同様のテーブルまたは演算式を用いて求めることができる。また、電流I、キャリア周波数f、半導体特性のいずれかに基づいて加算値Tad,Tad2を求めることも可能である。
【0066】
そして、第3温度差演算部553aは、第3インバータ温度センサ513が検出した第3インバータ温度tin3と加算値Tad2を用いて演算した加算温度twbとを入力し、両者の差である第3温度差Δt3を演算する。
【0067】
第3異常検出部553bは、第3温度差Δt3が予め設定された第3異常判定温度(tlim3)よりも大きい場合に異常と判定し、第3温度差Δt3が第3異常判定温度(tlim3)以下の場合は、異常ではないと判定する。
【0068】
したがって、実施の形態5では、インバータ装置の数が増加した場合でも、上記2-1)に記載した効果が得られる。
また、このようにインバータ装置の数が増加した場合に、図示は省略するが、第3インバータ装置の異常を検出するのにあたり、実施の形態3と同様の手法を用い、その加算温度twbを演算することもできる。すなわち、この場合、第2インバータ装置20における第2温度差Δt2に基づいて推定した値を第3温度差演算部において加算する損失分の温度として用いる。
【0069】
以上、本発明の電力変換装置の温度異常検出方法および電力変換装置の温度異常検出装置を実施の形態に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施の形態に限られるものではなく、請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0070】
例えば、実施の形態では、電力を変換して伝送する複数の電力変換部としてインバータ装置を示したが、電力変換部としてはインバータ装置に限らず、コンバータなどの他の電力変換部を用いることもできる。したがって、電力変換部の出力対象としても、実施の形態では、発電電機を示したが、出力対象としては、これに限定されず、例えば、バッテリなど、他のものを用いることができる。
【0071】
また、冷却流路を流れる冷媒として冷却水を示したが、冷媒としてはこれに限定されず、水以外の液体あるいは気体を用いることができる。
【0072】
さらに、実施の形態1では、前段の電力変換部の損失分の温度を加算した温度として、第1インバータ装置において想定される最大損失時の水温の上昇温度に設定したが、これに限定されない。例えば、第1発電電機の駆動状態に応じ、その駆動状態での最大損失時の水温の上昇温度としてもよい。すなわち、力行、回生、ロックなどの駆動状態別の最大損失時の上昇温度としてもよい。
【0073】
また、損失分の上昇温度として、実施の形態2では、各式(1)〜(5)に基づいて求める例を示したが、電力変換部に供給される電流、キャリア周波数、半導体特性を含む損失演算情報に基づいて演算した値であれば、各式(1)〜(5)に限定されるものではない。
また、電力変換部の数は、実施の形態において示した「2」「3」に限らず、4以上設けることもできる。